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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134178
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】円錐ハブユニット軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/78 20060101AFI20240926BHJP
   F16C 19/38 20060101ALI20240926BHJP
   F16J 15/3232 20160101ALI20240926BHJP
   B60B 35/14 20060101ALI20240926BHJP
   B60B 35/18 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
F16C33/78 E
F16C19/38
F16J15/3232 201
B60B35/14 V
B60B35/18 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044353
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】小宮山 洋一郎
(72)【発明者】
【氏名】榎本 竜也
【テーマコード(参考)】
3J006
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J006AE12
3J006AE24
3J006AE30
3J006AE34
3J006AE40
3J006AE42
3J006CA01
3J216AA03
3J216AA14
3J216AB03
3J216BA12
3J216BA30
3J216CA01
3J216CA02
3J216CA04
3J216CB03
3J216CB04
3J216CB07
3J216CB13
3J216CB18
3J216CC03
3J216CC14
3J216CC15
3J216CC16
3J216CC33
3J216CC41
3J216DA01
3J216DA11
3J216GA03
3J701AA16
3J701AA25
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701AA72
3J701BA73
3J701BA78
3J701DA03
3J701DA11
3J701FA35
3J701FA44
3J701GA03
3J701XB03
3J701XB12
3J701XB26
(57)【要約】
【課題】外輪の硬化層の靭性を向上させると共に、シール部材の芯金をシール嵌合面に圧入する際に発生する虞がある縦疵を抑制し、かつ良好なシール性を確保可能とした円錐ハブユニット軸受を提供する。
【解決手段】外輪20の内周面には、シール部材12A、12Bが嵌合するシール嵌合面23a、23bと、外輪軌道22a、22bとシール嵌合面23a、23bとの間に設けられる逃げ部24a、24bが設けられている。逃げ部24a、24bは、円筒部25a、25bと、円筒部25a、25bと外輪軌道22a、22bとを湾曲又は傾斜して接続する一方の接続部26a、26bと、円筒部25a、25bとシール嵌合面23a、23bとを湾曲又は傾斜して接続する他方の接続部27a、27bと、を有する。外輪軌道22a、22bは、硬化層によって構成され、逃げ部24a、24bの少なくとも他方の接続部27a、27b及びシール嵌合面29a、29bは、非硬化層によって構成される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に複列の円錐面形状の外輪軌道を有する外輪と、
アウトボード側にホイール及び制動用回転部材が取り付けられる回転フランジを有し、前記回転フランジよりもインボード側に小径段部が形成されたハブ軸、及び前記ハブ軸の前記小径段部に圧入固定される少なくとも一つの内輪を備え、外周面に前記複列の外輪軌道と対向する複列の円錐面形状の内輪軌道を有するハブと、
前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に設けられた複数の円錐ころと、
前記外輪と前記ハブとの間を封止するシール部材と、
を備える円錐ハブユニット軸受であって、
前記外輪の内周面には、前記シール部材が嵌合するシール嵌合面と、前記外輪軌道と前記シール嵌合面との間に設けられ、前記外輪軌道の大径側端部及び前記シール嵌合面の各直径より大きな直径を有する逃げ部とが設けられ、
前記逃げ部は、前記直径を有する円筒部と、前記円筒部と前記外輪軌道とを湾曲又は傾斜して接続する一方の接続部と、前記円筒部と前記シール嵌合面とを湾曲又は傾斜して接続する他方の接続部と、を有し、
前記外輪軌道は、硬化層によって構成され、前記逃げ部の少なくとも前記他方の接続部及び前記シール嵌合面は、非硬化層によって構成される、
円錐ハブユニット軸受。
【請求項2】
前記シール部材は、前記シール嵌合面に嵌合する芯金嵌合部を有する芯金と、前記芯金に取り付けられたシール部とを有するシールリングを備え、
前記シール嵌合面の軸方向幅は、前記芯金の芯金嵌合部の軸方向幅より大きい、
請求項1に記載の円錐ハブユニット軸受。
【請求項3】
前記逃げ部の軸方向寸法は、3mm以上、6mm以下である、
請求項1又は2に記載の円錐ハブユニット軸受。
【請求項4】
前記逃げ部の軸方向寸法は、4mm以上、5mm以下である、
請求項3に記載の円錐ハブユニット軸受。
【請求項5】
前記逃げ部の前記円筒部と前記外輪軌道の大径側端部との半径寸法の差は、前記円錐ころの頭部側面取りの径方向寸法以下である、
請求項1又は2に記載の円錐ハブユニット軸受。
【請求項6】
前記逃げ部の前記円筒部と前記外輪軌道の大径側端部との半径寸法の差は、0.35mm以上、0.5mm以下である、
請求項1又は2に記載の円錐ハブユニット軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持するために使用される円錐ハブユニット軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
小型トラック、大型乗用車等、比較的重量が嵩む自動車のハブユニット軸受では、従来、転動体として円錐ころを複列で備えるものが使用されている。
また、ハブユニット軸受としては、内輪軌道をそれぞれ有する一対の内輪がハブに組み込まれる、いわゆる第一世代や第二世代のハブユニット軸受のほか、近年、信頼性向上と自動車への取り付けの容易化などを目的として、片側の内輪軌道をハブ軸の外周面に直接形成した、いわゆる第三世代と呼ばれるハブユニット軸受が使用されている。
【0003】
特許文献1には、図8に示すように、外輪120の内周面のうち、軸方向外側の外輪軌道(図示せず)部分から軸方向内側の外輪軌道122部分に亙り、高周波焼入れにより全周に熱処理硬化層129を形成し、外輪軌道122に加わるモーメント荷重、或いは衝撃荷重により、外輪軌道122に圧痕が発生することを抑制した車輪支持用転がり軸受ユニット110が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-124847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の車輪支持用転がり軸受ユニット110は、外輪120の肉厚が軸方向両端部に向かう程、薄肉になり熱容量が減少するので、外輪軌道122に高周波焼き入れによる硬化層129が設けられた場合、外輪軌道122両端部側の硬化層129が厚くなり、外径面側の非硬化層の部分が薄くなる。このため、硬化層129に非硬化層からの圧縮応力が作用し難くなり、硬化層129が脆くなる傾向がある。
【0006】
また、この硬化層129が外輪軌道122の側方に設けられる、非硬化層のシール嵌合面123の一部まで到達すると、硬化層129と非硬化層との境界部に研削加工による段差が発生する場合があり、シール芯金をシール嵌合面123に圧入すると該段差によってシール芯金に縦疵が発生してシール性に悪影響を及ぼす虞がある。
【0007】
さらに、車輪支持用転がり軸受ユニット110に大きな旋回荷重が負荷された場合、外輪軌道122の両端部側に大きな面圧が掛かり、これにより、外輪120の両端部は、肉厚の薄さも相まって鉛直方向が長径の楕円変形を起こしやすい。この変形が外輪両端部のシール嵌合面123に伝播すると、シール嵌合面123に嵌合するシール部材にクリープが発生しやすくなり、シール性に悪影響を及ぼす要因となる。
【0008】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、外輪の硬化層の靭性を向上させると共に、シール部材の芯金をシール嵌合面に圧入する際に発生する虞がある縦疵を抑制し、良好なシール性を確保可能とした円錐ハブユニット軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、本発明の上記目的は、円錐ハブユニット軸受に係る下記[1]の構成により達成される。
[1] 内周面に複列の円錐面形状の外輪軌道を有する外輪と、
アウトボード側にホイール及び制動用回転部材が取り付けられる回転フランジを有し、前記回転フランジよりもインボード側に小径段部が形成されたハブ軸、及び前記ハブ軸の前記小径段部に圧入固定される少なくとも一つの内輪を備え、外周面に前記複列の外輪軌道と対向する複列の円錐面形状の内輪軌道を有するハブと、
前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に設けられた複数の円錐ころと、
前記外輪と前記ハブとの間を封止するシール部材と、
を備える円錐ハブユニット軸受であって、
前記外輪の内周面には、前記シール部材が嵌合するシール嵌合面と、前記外輪軌道と前記シール嵌合面との間に設けられ、前記外輪軌道の大径側端部及び前記シール嵌合面の各直径より大きな直径を有する逃げ部とが設けられ、
前記逃げ部は、前記直径を有する円筒部と、前記円筒部と前記外輪軌道とを湾曲又は傾斜して接続する一方の接続部と、前記円筒部と前記シール嵌合面とを湾曲又は傾斜して接続する他方の接続部と、を有し、
前記外輪軌道は、硬化層によって構成され、前記逃げ部の少なくとも前記他方の接続部及び前記シール嵌合面は、非硬化層によって構成される、
円錐ハブユニット軸受。
【発明の効果】
【0010】
本発明の円錐ハブユニット軸受によれば、逃げ部の少なくとも他方の接続部に構成された非硬化層によって、外輪の硬化層部分の圧縮応力の不足を補って硬化層の靭性を向上させることができる。また、シール嵌合面が非硬化層によって構成されることで、シール部材の芯金をシール嵌合面に圧入する際に発生する虞がある縦疵が抑制される。さらに、逃げ部によって、外輪の端部の楕円変形を抑制し、良好なシール性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る円錐ハブユニット軸受の断面図である。
図2図1の円Aで囲む部分の拡大図である。
図3図1の円Bで囲む部分の拡大図である。
図4図1に示す外輪の断面図である。
図5図4の破線Cで囲む部分の拡大図である。
図6図4の破線Dで囲む部分の拡大図である。
図7】外輪軌道に円錐ころが組み込まれた円錐ハブユニット軸受の分解断面図である。
図8】従来の外輪軌道の焼入れ硬化層を示す要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態に係るハブユニット軸受10について、図1を用いて詳細に説明する。尚、本明細書及び特許請求の範囲の全体で、軸方向に関して「外」とは、自動車への組み付け状態で車体の幅方向外側となる、図1の左側を言い、「アウトボード側」とも称す。また、反対に車体の幅方向中央側となる、図1の右側を、軸方向に関して「内」と言い、「インボード側」とも称す。
【0013】
本実施形態の円錐ハブユニット軸受10は、駆動輪用であり、外輪20と、ハブ30と、複数の円錐ころ11a、11bと、一対のシール部材12A、12Bと、を主に備える。
【0014】
外輪20は、外周面の軸方向中間部に懸架装置のナックルに結合される静止側フランジ21が設けられ、外輪20の内周面に複列(2列)の外輪軌道22a、22bが設けられている。複列の外輪軌道22a、22bは、それぞれ円錐面形状を有しており、傾斜方向が互いに逆向きである。即ち、軸方向外側に位置する外側列の外輪軌道22aは、軸方向外側に向かうほど内径が大きくなり、軸方向内側に位置する内側列の外輪軌道22bは、軸方向内側に向かうほど内径が大きくなる。外輪20は、使用時に、静止側フランジ21を、懸架装置のナックルに結合固定する事により、この懸架装置に支持された状態で回転しない。
【0015】
図2図6も参照して、外輪軌道22aの軸方向外側端部、及び外輪軌道22bの軸方向内側端部には、それぞれシール嵌合面23a、23bが設けられている。そして、外輪軌道22aとシール嵌合面23aとの間、及び外輪軌道22bとシール嵌合面23bとの間には、それぞれ逃げ部24a、24bが設けられている。
【0016】
従って、外輪20の内周面には、アウトボード側からインボード側に順に、アウトボード側のシール嵌合面23a、アウトボード側の逃げ部24a、複列の外輪軌道22a、22b、インボード側の逃げ部24b、及びインボード側のシール嵌合面23bが形成される。また、外輪20の内周面のうち、少なくともアウトボード側の逃げ部24a及びインボード側の逃げ部24bは、総形砥石を用いて研削加工により形成されている。
【0017】
アウトボード側の逃げ部24aは、図5に示すように、円筒状の円筒部25aと、該円筒部25aと外輪軌道22aとを湾曲して接続する一方の接続部26aと、円筒部25aとシール嵌合面23aとを湾曲して接続する他方の接続部27aと、を有する。
【0018】
また、インボード側の逃げ部24bは、図6に示すように、円筒状の円筒部25bと、該円筒部25bと外輪軌道22bとを湾曲して接続する一方の接続部26bと、円筒部25bとシール嵌合面23bとを湾曲して接続する他方の接続部27bと、を有する。
なお、一方の接続部26a,26b及び他方の接続部27a,27bは、いずれも湾曲形状としているが、代わりに、傾斜したテーパ形状であってもよい。ただし、湾曲形状やテーパ形状のいずれにおいても、一方の接続部26a,26bと外輪軌道22a,22bとの間に稜部28a,28bが形成されている。
【0019】
図5及び図6に示すように、円筒部25a、25bの直径D1は、外輪軌道22a、22bの大径側端部の直径D2及びシール嵌合面23a、23bの直径D3より大きくなっている。
なお、逃げ部24a、24bは、比較的高精度な加工する必要があるため、逃げ部24a、24bの中央は寸法が測りやすい円筒形状の円筒部25a、25bとしている。
【0020】
図1に戻り、ハブ30は、外輪20の内径側に外輪20と同軸に配置されており、ハブ30の外周面には複列の内輪軌道33a、33bが設けられている。複列の内輪軌道33a、33bは、それぞれ円錐面形状を有しており、傾斜方向が互いに逆向きである。即ち、外側列の外輪軌道22aに対向して軸方向外側に位置する外側列の内輪軌道33aは、軸方向外側に向かうほど外径が大きくなり、内側列の外輪軌道22bに対向して軸方向内側に位置する内側列の内輪軌道33bは、軸方向内側に向かうほど外径が大きくなる。
【0021】
具体的には、ハブ30は、ハブ軸31と内輪41とにより構成されている。ハブ軸31には、外輪20の軸方向外側開口から軸方向外方に突出した部分に、外径側に延出して、車輪(駆動輪)及びディスクロータ等の制動用回転部材を支持固定する為の円輪状の回転フランジ32が設けられている。回転フランジ32には複数の挿通孔32aが設けられ、各挿通孔32aが雌ねじの場合には、それぞれ図示しないハブボルトが螺合されており、各挿通孔32aが円筒孔の場合には、スタッドボルト13がセレーション嵌合されている。
【0022】
また、ハブ軸31の外周面には、軸方向中間部分に、外輪軌道22aに対向して軸方向外側列の内輪軌道33aが設けられ、軸方向内端部には、小径段部36が設けられている。従って、ハブ軸31は、アウトボード側からインボード側に向かって、回転フランジ32、軸方向外側列の内輪軌道33a、及び小径段部36を有する。
【0023】
内輪41の外周面には、軸方向内側列の内輪軌道33bが設けられている。内輪41は、そのアウトボード側端面41aを小径段部36の段差面36aに突き当てた状態で、ハブ軸31の小径段部36の外周面に締め代を持って圧入により外嵌され、ハブ軸31に固定されている。
【0024】
ハブ軸31の中心部には、軸方向に貫通したスプライン孔37が形成されている。スプライン孔37には、図示しないが、ハブユニット軸受を車体に組み付ける際に、等速ジョイントの外輪に結合したスプライン軸が係合され、ナットを螺合することでハブ30に固定される。
【0025】
その際、内輪41の内輪側大鍔部43のインボード側端面41bには、図示しない等速ジョイント外輪の端面、或いは図示しない駆動軸の端部に形成した段部等が突き当たり、内輪41のアウトボード側端面41aが小径段部36の段差面36aと当接することで、内輪41が、ハブ軸31に軸方向に位置決め固定される。したがって、内輪41のインボード側端面41bは、ハブ軸31のインボード側端面38よりインボード側に位置しており、内輪41はハブ軸31に加締められていない。
【0026】
円錐ころ11a、11bは、軸方向外側列の外輪軌道22aと内輪軌道33aとの間、及び軸方向内側列の外輪軌道22bと内輪軌道33bとの間に、それぞれ複数ずつ、各列の円錐ころ11a、11bの尾部11c、11cが向かい合うようにして、保持器14により保持された状態で転動自在に設けられている。
【0027】
図1図3に示すように、一対のシール部材12(12A、12B)は、アウトボード側のシール部材12Aがシールリングで構成され、インボード側のシール部材12Bが組合せシールリングで構成されている。アウトボード側のシール部材12Aは、軸方向外側列の円錐ころ11aよりもアウトボード側で、外輪20の軸方向外側端部とハブ軸31の軸方向中間部との間に配置されている。また、インボード側のシール部材12Bは、軸方向内側列の円錐ころ11bよりもインボード側で、外輪20の軸方向内側端部と内輪41の軸方向内側端部との間に配置されている。これにより、複数の円錐ころ11a、11bが設けられた内部空間15の軸方向両側を塞いでいる。
【0028】
アウトボード側のシール部材(シールリング)12Aは、断面略L字形に形成された芯金嵌合部16aを有する円環状に形成された芯金16と、芯金16に取り付けられた弾性部材からなるシール部17とを備える。また、インボード側のシール部材12B(組合せシールリング)は、芯金嵌合部16aを有する芯金16、該芯金16に固定されたシール部17、及び断面略L字形の円環状に形成されたスリンガ19が組み合わされて形成されている。
【0029】
そして、シール部材12A、12Bは、芯金嵌合部16aが外輪20のシール嵌合面23a、23bにそれぞれ圧入されて外輪20に固定される。なお、スリンガ19は、内輪41の軸方向内側端部に外嵌固定される。
【0030】
次に、外輪の逃げ部の作用について詳述する。
図4も参照して、外輪軌道22a、22bには、高周波焼入れにより硬化層29が形成される。その際、外輪軌道22a、22bとシール嵌合面23a、23bとの間には、外輪軌道22a、22bの大径側端部の直径D2より大きい直径D1を有する、即ち、焼入れする際の高周波コイルから遠くに位置する逃げ部24a、24bが設けられている。このため、本実施形態では、円筒部25a、25bと、円筒部25a、25bとシール嵌合面23a、23bとを接続する他方の接続部27a、27bは、熱処理されないので、シール嵌合面23a、23bに硬化層29が達することが防止される。換言すれば、逃げ部24a、24bの少なくとも他方の接続部27a、27b及びシール嵌合面23a、23bは、非硬化部(非硬化層)となる。
【0031】
逃げ部24a、24bの非硬化部は、隣接する外輪軌道22a、22bの硬化層29の熱処理膨張を抑える働きがあるので、外輪軌道22a、22bの大径側端部の非硬化部が薄いことによる硬化層29部分の圧縮応力不足を補い、硬化層29部分の靭性の向上に寄与する。
【0032】
また、円錐ハブユニット軸受10に大きな旋回荷重が負荷されると、外輪軌道22a、22bの両端部側に大きな面圧が掛かり、外輪軌道22a、22bが楕円変形する場合がある。しかし、本実施形態の円錐ハブユニット軸受10は、外輪軌道22a、22bとシール嵌合面23a、23bとの間に、少なくとも一部が非硬化部である逃げ部24a、24bが設けられているので、外輪軌道22a、22bの両端部側の変形を逃げ部24a、24bで吸収し、該変形がシール嵌合面23a、23bに伝播することを防止している。シール嵌合面23a、23bの変形を防止することで、シール部材12A、12Bのクリープを抑制し、良好なシール性が維持できる。また逆に、シール部材12A、12Bの嵌合による外輪軌道22a、22bの変形やカップ角変化の防止にもつながる。
【0033】
なお、逃げ部24a、24bの軸方向幅Wを大きくするためにシール嵌合面23a、23bの軸方向幅L1を短くして、芯金嵌合部16aの軸方向幅L2より小さくなると(L1<L2)、シール部材12A、12Bをシール嵌合面23a、23bに圧入する際、芯金嵌合部16aに不可避に発生する軸方向圧入疵が芯金嵌合部16aを貫通して形成され、嵌合面での浸水が発生する虞がある。
【0034】
本実施形態の円錐ハブユニット軸受10では、シール嵌合面23a、23bの軸方向幅L1を芯金嵌合部16aの軸方向幅L2より大きくする(L1>L2)ことで、芯金嵌合部16aの軸方向幅L2の全長をシール嵌合面23a、23bに有効に嵌合させることができ、シール嵌合面23a、23bと芯金嵌合部16aとの嵌合面での浸水を確実に防止している。
【0035】
上述した硬化層29部分の靭性の向上に寄与する観点から、逃げ部24a、24bの軸方向幅Wは、3mm以上、好ましくは4mm以上とする。また、上述した寿命と嵌合面からの浸水防止の観点から、逃げ部24a、24bの軸方向幅Wは、6mm以下、好ましくは5mm以下とする。なお、逃げ部24a、24bの軸方向幅Wを広くすれば、研削幅が狭まるので、研削サイクルタイムの短縮によるコストダウン効果が期待できる。
【0036】
また、本実施形態では、外輪軌道22a、22bの大径端部と逃げ部24a、24b(円筒部25a、25b)との間の半径寸法の差(D1-D2)/2は、外輪軌道22a、22bの焼入れにより逃げ部24a、24bの少なくとも他の接続部27a、27bが熱処理されないように、0.35mm以上の距離を確保する。
ただし、一方では、外輪軌道22a、22bの硬化層29部分の圧縮応力不足を補う必要もあるため、あまり大きくできない。
【0037】
また、外輪20、シール部材12A、円錐ころ11a及び保持器14との組み立て体をハブ軸31に組み付ける際、図7に示すように、逃げ部24aが、該組み立て体の芯出しガイドとなる。その際、円錐ころ11aは、ころ頭部側面取りR(通常、面取りの径方向寸法R1<面取りの軸方向寸法R2)で逃げ部24aと接触する。
【0038】
外輪軌道22aの大径側端部と逃げ部24aとの間の半径寸法の差(D1-D2)/2が大きくなると、逃げ部24aと外輪軌道22aとの稜部28aが円錐ころ11aの転送面11dに接触し、転送面11dが稜部28aによって傷つけられてしまう虞がある。
【0039】
このため、本実施形態の円錐ハブユニット軸受10は、外輪軌道22aの大径側端部の直径D2と円筒部25aの直径D1との半径寸法の差(D1-D2)/2を、円錐ころ11aの頭部側面取りRの径方向寸法R1以下、具体的には、0.5mm以下とすることで、稜部28aにより円錐ころ11aの転送面11dが傷付くことを防止できる。
【0040】
尚、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
上記実施形態では、逃げ部24a,24bの円筒部25a,25b及び他方の接続部27a,27bが、非硬化層によって構成されているが、本発明はこれに限らず、逃げ部24a,24bの少なくとも他方の接続部27a,27bが、非硬化層によって構成されればよい。したがって、例えば、逃げ部24a,24bの円筒部25a,25bの一部が硬化層によって構成される場合も、本発明に含まれる。
【0041】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 内周面に複列の円錐面形状の外輪軌道を有する外輪と、
アウトボード側にホイール及び制動用回転部材が取り付けられる回転フランジを有し、前記回転フランジよりもインボード側に小径段部が形成されたハブ軸、及び前記ハブ軸の前記小径段部に圧入固定される少なくとも一つの内輪を備え、外周面に前記複列の外輪軌道と対向する複列の円錐面形状の内輪軌道を有するハブと、
前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に設けられた複数の円錐ころと、
前記外輪と前記ハブとの間を封止するシール部材と、
を備える円錐ハブユニット軸受であって、
前記外輪の内周面には、前記シール部材が嵌合するシール嵌合面と、前記外輪軌道と前記シール嵌合面との間に設けられ、前記外輪軌道の大径側端部及び前記シール嵌合面の各直径より大きな直径を有する逃げ部とが設けられ、
前記逃げ部は、前記直径を有する円筒部と、前記円筒部と前記外輪軌道とを湾曲又は傾斜して接続する一方の接続部と、前記円筒部と前記シール嵌合面とを湾曲又は傾斜して接続する他方の接続部と、を有し、
前記外輪軌道は、硬化層によって構成され、前記逃げ部の少なくとも前記他方の接続部及び前記シール嵌合面は、非硬化層によって構成される、
円錐ハブユニット軸受。
この構成によれば、逃げ部の少なくとも他方の接続部に構成された非硬化層によって、外輪の硬化層部分の圧縮応力の不足を補って硬化層の靭性を向上させることができる。また、シール嵌合面が非硬化層によって構成されることで、シール部材の芯金をシール嵌合面に圧入する際に発生する虞がある縦疵が抑制される。さらに、逃げ部によって、外輪の端部の楕円変形を抑制し、良好なシール性を確保することができる。
【0042】
(2) 前記シール部材は、前記シール嵌合面に嵌合する芯金嵌合部を有する芯金と、前記芯金に取り付けられたシール部とを有するシールリングを備え、
前記シール嵌合面の軸方向幅は、前記芯金の芯金嵌合部の軸方向幅より大きい、
(1)に記載の円錐ハブユニット軸受。
この構成によれば、芯金嵌合部の軸方向幅の全長がシール嵌合面に有効に嵌合し、シール嵌合面と芯金嵌合部との嵌合面での浸水を確実に防止できる。
【0043】
(3) 前記逃げ部の軸方向寸法は、3mm以上、6mm以下である、
(1)又は(2)に記載の円錐ハブユニット軸受。
この構成によれば、硬化層部分の靭性を向上しつつ、シール嵌合面の適正な軸方向幅を確保して、シール嵌合面と芯金嵌合部との嵌合面での浸水を防止できる。
【0044】
(4) 前記逃げ部の軸方向寸法は、4mm以上、5mm以下である、
(3)に記載の円錐ハブユニット軸受。
この構成によれば、硬化層部分の靭性を向上しつつ、シール嵌合面の軸方向幅を確保して、シール嵌合面と芯金嵌合部との嵌合面での浸水を確実に防止できる。
【0045】
(5) 前記逃げ部の前記円筒部と前記外輪軌道の大径側端部との半径寸法の差は、前記円錐ころの頭部側面取りの径方向寸法以下である、
(1)~(4)のいずれかに記載の円錐ハブユニット軸受。
この構成によれば、逃げ部と外輪軌道との間の稜部による円錐ころの転送面への傷付きが防止できる。
【0046】
(6) 前記逃げ部の前記円筒部と前記外輪軌道の大径側端部との半径寸法の差は、0.35mm以上、0.5mm以下である、
(1)~(4)のいずれかに記載の円錐ハブユニット軸受。
この構成によれば、逃げ部に硬化層が形成されることが防止できると共に、円錐ころの組付け時に、逃げ部と外輪軌道との間の稜部による円錐ころの転送面への傷付きが防止できる。
【符号の説明】
【0047】
10 円錐ハブユニット軸受
11a、11b 円錐ころ
12A、12B シール部材
16 芯金
16a 芯金嵌合部
17 シール部
20 外輪
22a、22b 外輪軌道
23a、23b シール嵌合面
24a、24b 逃げ部
25a、25b 円筒部
26a、26b 一方の接続部
27a、27b 他方の接続部
30 ハブ
31 ハブ軸
32 回転フランジ
33a、33b 内輪軌道
36 小径段部
41 内輪
D1 円筒部の直径
D2 外輪軌道の大径側端部の直径
D3 シール嵌合面の直径
L1 シール嵌合面の軸方向幅
L2 芯金嵌合部の軸方向幅
R ころの頭部側面取り
R1 面取りの径方向寸法
R2 面取りの軸方向寸法
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8