(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134181
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】がんの有機アニオン系輸送体機能画像診断薬
(51)【国際特許分類】
A61K 49/04 20060101AFI20240926BHJP
A61K 31/343 20060101ALI20240926BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
A61K49/04 210
A61K31/343
A61P35/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044359
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【弁理士】
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】川井 恵一
(72)【発明者】
【氏名】玉井 郁巳
(72)【発明者】
【氏名】小林 正和
(72)【発明者】
【氏名】水谷 明日香
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 翔
【テーマコード(参考)】
4C085
4C086
【Fターム(参考)】
4C085HH03
4C085KB18
4C085KB55
4C085LL18
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA06
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA20
4C086ZB26
(57)【要約】 (修正有)
【課題】大腸がん等の早期発見を目的とした新規ながん診断薬等を提供すること。
【解決手段】放射性同位体ヨウ素で標識された2-エチル-3-(4-ヒドロキシベンゾイル)ベンゾフランまたはその薬学的に許容される塩を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】
(式中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
6、R
7、R
8およびR
9は、同一または異なって、低級アルキル、低級アルコキシ、ヒドロキシ、ハロゲンまたはニトロを表し、R
5は、低級アルキルまたはヒドロキシ低級アルキルを表し、R
10は、水素、または置換若しくは非置換の低級アルキルを表す)で表される3-ベンゾイルベンゾフラン誘導体の同位体標識化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する、がん診断薬。
【請求項2】
R5が低級アルキルであり、R10が水素である、請求項1に記載の診断薬。
【請求項3】
同位体が放射性同位体である、請求項1に記載の診断薬。
【請求項4】
放射性同位体が放射性同位体ヨウ素である、請求項3に記載の診断薬。
【請求項5】
同位体標識化合物が、放射性同位体ヨウ素で標識された2-エチル-3-(4-ヒドロキシベンゾイル)ベンゾフランである、請求項1に記載の診断薬。
【請求項6】
同位体標識化合物が、2-エチル-3-(4-ヒドロキシベンゾイル)ベンゾフランの構造中のヒドロキシ部分以外における1つの水素原子が放射性同位体ヨウ素で標識された化合物である、請求項5に記載の診断薬。
【請求項7】
放射性同位体ヨウ素が125Iである、請求項6に記載の診断薬。
【請求項8】
がんが有機アニオントランスポーター(OAT)1(OAT1)を発現するがんである、請求項1~7のいずれか一項に記載の診断薬。
【請求項9】
がんが大腸がんまたは肺腺がんである、請求項1~7のいずれか一項に記載の診断薬。
【請求項10】
放射性同位体ヨウ素で標識された2-エチル-3-(4-ヒドロキシベンゾイル)ベンゾフランまたはその薬学的に許容される塩。
【請求項11】
2-エチル-3-(4-ヒドロキシベンゾイル)ベンゾフラン構造中のヒドロキシ部分以外における1つの水素原子が放射性同位体ヨウ素で標識された化合物またはその薬学的に許容される塩。
【請求項12】
放射性同位体ヨウ素が125Iである、請求項10または11に記載の2-エチル-3-(4-ヒドロキシベンゾイル)ベンゾフランまたはその薬学的に許容される塩。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がん診断薬等に関する。
【背景技術】
【0002】
日本での死因の第1位は悪性新生物(がん)であり、その中で、大腸がんは症状が現れてからではなく、そのはるか前に早期発見することが重要である。大腸がんの早期発見手段としては、便潜血検査を用いた大腸がん検診が主流であるが、便潜血検査では偽陰性となることもあり、大腸がんの早期発見を目的とした新規診断薬の開発は急務である。
【0003】
例えば、陽電子放射断層撮影(Positron Emission Tomography(PET))による画像診断用の診断薬として、[メチル-11C]メチオニン(Met)、[18F]フルオロデオキシグルコース(FDG)、2-アミノ-[3-11C]イソ酪酸等が知られており(特許文献1)、Met、FDG等は、臨床用腫瘍核医学画像診断薬としても使用されている(非特許文献1)。
【0004】
2-エチル-3-(4-ヒドロキシベンゾイル)ベンゾフラン(ベンザロン)は、かつて血管障害治療薬として販売されていたが、服用患者において劇症肝炎が発現したことにより販売中止となった。一方で、近年の研究ではベンザロンが大腸がんの治療に利用できるという報告がある。非特許文献2では、大腸がんに取り込まれたベンザロンが、複数のがんにおいて腫瘍形成および進行に関与しているeyes absent homologs and sine oculis homeobox homologs(EYA-SIX)を破壊することを確認している。
【0005】
また、ベンザロン誘導体でもある3-(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシベンゾイル)-2-エチルベンゾフラン(ベンズブロマロン)は、有機アニオントランスポーター(OAT)として知られている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Ji Hoon Jung, Byeong Cheol Ahn, “Current Radiopharmaceuticals for Positron Emission Tomography of Brain Tumors”, Brain Tumor Res Treat, 2018 Oct; 6(2): 47-53
【非特許文献2】Yang C, Liu H., “Both a hypoxia-inducible EYA3 and a histone acetyltransferase p300 function as coactivators of SIX5 to mediate tumorigenesis and cancer progression”, Ann Transl Med, 2022 July; 10(13): 752
【非特許文献3】Tan HL, Tang LWT, Chin SY, et al., “Investigation of the arcane inhibition of human organic anion transporter 3 by benzofuran antiarrhythmic agents”, Drug Metab Pharmacokinet, 2021 June; 38: 100390
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、大腸がん等の早期発見等を目的とした新規ながん診断薬等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討した結果、2-エチル-3-(4-ヒドロキシベンゾイル)ベンゾフランを用いることにより、大腸がんおよび肺腺がんを簡便に診断し得ることを見出し、かかる知見に基づいてさらに研究を進めることによって、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
【0010】
[1] 式(I)
【0011】
【0012】
(式中、R1、R2、R3、R4、R6、R7、R8およびR9は、同一または異なって、低級アルキル、低級アルコキシ、ヒドロキシ、ハロゲンまたはニトロを表し、R5は、低級アルキルまたはヒドロキシ低級アルキルを表し、R10は、水素、または置換若しくは非置換の低級アルキルを表す)で表される3-ベンゾイルベンゾフラン誘導体の同位体標識化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する、がん診断薬。
[2] R5が低級アルキルであり、R10が水素である、上記[1]に記載の診断薬。
[3] 同位体が放射性同位体である、上記[1]または[2]に記載の診断薬。
[4] 放射性同位体が放射性同位体ヨウ素である、上記[3]に記載の診断薬。
[5] 同位体標識化合物が、放射性同位体ヨウ素で標識された2-エチル-3-(4-ヒドロキシベンゾイル)ベンゾフランである、上記[1]に記載の診断薬。
[6] 同位体標識化合物が、2-エチル-3-(4-ヒドロキシベンゾイル)ベンゾフランの構造中のヒドロキシ部分以外における1つの水素原子が放射性同位体ヨウ素で標識された化合物である、上記[5]に記載の診断薬。
[7] 放射性同位体ヨウ素が125Iである、上記[4]~[6]のいずれかに記載の診断薬。
[8] がんが有機アニオントランスポーター(OAT)1(OAT1)を発現するがんである、上記[1]~[7]のいずれかに記載の診断薬。
[9] がんが大腸がんまたは肺腺がんである、上記[1]~[7]のいずれかに記載の診断薬。
[10] 放射性同位体ヨウ素で標識された2-エチル-3-(4-ヒドロキシベンゾイル)ベンゾフランまたはその薬学的に許容される塩。
[11] 2-エチル-3-(4-ヒドロキシベンゾイル)ベンゾフランの構造中のヒドロキシ部分以外における1つの水素原子が放射性同位体ヨウ素で標識された化合物またはその薬学的に許容される塩。
[12] 放射性同位体ヨウ素が125Iである、上記[10]または[11]に記載の2-エチル-3-(4-ヒドロキシベンゾイル)ベンゾフランまたはその薬学的に許容される塩。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、3-ベンゾイルベンゾフラン誘導体の同位体標識化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する、がん診断薬等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、
125I-ベンザロンを7日間冷凍保存したときの放射化学的純度の変化を示すグラフである。縦軸は、放射化学的純度(%)を表し、横軸は、経過日数(日)を表す。エラーバーは、標準偏差を示す。
【
図2】
図2は、各SLC(solute carrier)トランスポーター高発現細胞における
125I-ベンザロンの取り込み量を示す棒グラフである。縦軸は、細胞の蛋白量1mgあたりに換算した
125I-ベンザロンの集積(%ID(
125I-ベンザロンの取り込み放射能量÷細胞に添加した
125I-ベンザロンの放射能量×100)/mg蛋白質で補正)を表す。横軸は、各SLCトランスポーターを高発現する細胞を表し、HEK-mockおよびFlp-mockは、それぞれ遺伝子操作をしていないコントロール細胞を表す。**は、Flp-mock細胞の場合と比較して有意差(n=6,p<0.05 Welch’s t test)があったことを示す。エラーバーは、標準偏差を示す。
【
図3】
図3は、OAT1高発現細胞における
125I-ベンザロンの取り込み量をプロベネシドの非存在下および存在下で比較した棒グラフである。縦軸は、細胞の蛋白量1mgあたりに換算した
125I-ベンザロンの集積(%ID/mg蛋白質で補正)を表す。横軸のFlp-mockは、遺伝子操作をしていないコントロール細胞を表し、OAT1は、OAT1高発現する細胞を表す。また、controlは、プロベネシド非存在下を表し、inhibitionは、プロベネシド存在下を表す。エラーバーは、標準偏差を示す。
【
図4】
図4は、各ヒト由来がん細胞への
125I-ベンザロン経時的集積を示すグラフである。縦軸は、生細胞数で補正した放射能の集積(%ID/cell×10
-6で補正)を表し、横軸は、経過時間(分)を表す。エラーバーは、標準誤差を示す。
【
図5】
図5(A)~(D)は、各ヒト由来がん細胞への
125I-ベンザロンの経時的集積を、
3H-L-Met、または
3H-L-Metおよび
18F-FDGの経時的集積と比較したグラフである。縦軸は、生細胞数で補正した放射能の集積(%ID/cell×10
-6で補正)を表し、横軸は、経過時間(分)を表す。エラーバーは、標準誤差を示す。
【
図6】
図6は、各ヒト由来がん細胞への
125I-ベンザロンの集積に対するプロベネシドの影響を示す棒グラフである。縦軸は、生細胞数で補正した放射能の集積(%ID/cell×10
-6で補正)を表し、横軸は、各ヒト由来がん細胞を表す。また、controlは、プロベネシド非存在下を表し、inhibitionは、プロベネシド存在下を表す。エラーバーは、標準誤差を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.がん診断薬
本発明は、式(I)
【0016】
【0017】
(式中、R1、R2、R3、R4、R6、R7、R8およびR9は、同一または異なって、低級アルキル、低級アルコキシ、ヒドロキシ、ハロゲンまたはニトロを表し、R5は、低級アルキルまたはヒドロキシ低級アルキルを表し、R10は、水素、または置換若しくは非置換の低級アルキルを表す)で表される3-ベンゾイルベンゾフラン誘導体の同位体標識化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する、がん診断薬(以下、「本発明の診断薬」ともいう)を提供する。
【0018】
以下、式(I)表される化合物を化合物(I)という。
式(I)の各基の定義において、
低級アルキルとしては、例えば直鎖または分枝状の炭素数1~6のアルキルがあげられ、具体的にはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル等があげられる。
【0019】
低級アルコキシおよびヒドロキシ低級アルキルにおける低級アルキル部分は、前記低級アルキルと同義である。ヒドロキシ低級アルキルにおけるヒドロキシの置換位置は、特に限定されない。
【0020】
ハロゲンは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素の各原子を意味する。
【0021】
置換低級アルキルにおける置換基としては、同一または異なって、例えば置換数1~3のヒドロキシ、カルボキシ、低級アルコキシ、低級アルカノイル、低級アルコキシカルボニル等があげられる。置換基の置換位置は、特に限定されない。ここで、低級アルコキシ、低級アルカノイルおよび低級アルコキシカルボニルにおける低級アルキルは、前記低級アルキルと同義である。
【0022】
化合物(I)の中でも、R5が低級アルキルであり、R10が水素である化合物が好ましく、中でもR1、R2、R3、R4、R6およびR9が水素であり、R7およびR8が同一または異なって水素またはハロゲンである化合物がより好ましく、ベンザロンとしても知られる2-エチル-3-(4-ヒドロキシベンゾイル)ベンゾフラン(CAS番号:1477-19-6;以下、「ベンザロン」ということもある)またはベンズブロマロンとしても知られる3-(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシベンゾイル)-2-エチルベンゾフランがさらに好ましく、ベンザロンが特に好ましい。
【0023】
なお、当業者であれば、本発明の目的が達せられる範囲内で、化合物(I)における各置換基を適宜変更し得ることが、容易に理解できる。
【0024】
同位体標識化合物における同位体としては、特に限定されないが、例えば、各核種の安定同位体および各核種の放射性同位体があげられる。診断がコンピュータ断層撮影(Computed Tomography(CT))等による画像診断の場合は、各核種の安定同位体が好ましく、診断が単一光子放射断層撮影(Single Photon Emission Computed Tomography(SPECT))、陽電子放射断層撮影(Positron Emission Tomography(PET))等による画像診断の場合は、各核種の放射性同位体が好ましい。また、同位体標識化合物における同位体が安定同位体の場合には、化合物(I)またはその薬学的に許容される塩は、がん治療剤としても使用し得、同位体標識化合物における同位体が放射性同位体の場合には、化合物(I)またはその薬学的に許容される塩は、核医学治療薬としても使用し得る。
【0025】
安定同位体としては、ヨウ素の安定同位体(127I)が好ましい。放射性同位体としては、ヨウ素の放射性同位体(123I、124I、125I、131I等)、アスタチンの放射性同位体(211At等)、炭素の放射性同位体(14C)、硫黄の放射性同位体(35S)、水素の放射性同位体(トリチウム;3H)等が好ましく、ヨウ素の放射性同位体(123I、124I、125Iまたは131I)またはアスタチンの放射性同位体(211At)がより好ましい。
【0026】
ベンザロンの同位体標識化合物としては、放射性同位体ヨウ素で標識されたベンザロンが好ましく、ベンザロンの構造中のヒドロキシ部分以外における1つの水素原子が放射性同位体ヨウ素で標識された化合物がより好ましく、ベンザロンの構造中のベンゾイル基の3位が放射性同位体ヨウ素で標識された化合物がさらに好ましい。また、一態様においては、ベンザロンの構造中のヒドロキシ部分以外における1つの水素原子が125Iで標識された化合物(以下、「125I-ベンザロン」ともいう)が好ましく、ベンザロンのベンゾイル基の3位が125Iで標識された化合物2-エチル-3-(4-ヒドロキシ[3-125I]ベンゾイル)ベンゾフランがより好ましい。
【0027】
薬学的に許容される塩は、薬学的に許容される金属塩、薬学的に許容されるアンモニウム塩、薬学的に許容される有機アミン付加塩等を包含する。
【0028】
薬学的に許容される金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、亜鉛塩等があげられ、薬学的に許容されるアンモニウム塩としては、アンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩等の塩があげられ、薬学的に許容される有機アミン付加塩としては、モルホリン、ピペリジン等の付加塩があげられる。
【0029】
次に、化合物(I)の同位体標識化合物またはその薬学的に許容される塩の製造方法について説明する。
【0030】
化合物(I)の同位体標識化合物を製造する方法は、特に限定されないが、(1)化合物(I)を製造した後、当該化合物(I)中の特定の原子(例えば、水素原子)を同位体で交換する方法、(2)適切な同位体標識原料を使用して化合物(I)を製造する方法またはそれに準じて得る方法等の、同位体標識化合物を製造する公知の方法を使用することができる。同位体の半減期が短い場合は、上記方法(1)が好ましい。
【0031】
上記方法(1)は、例えば、以下のように実施することができる。
【0032】
化合物(I)を製造する方法は、特に限定されないが、例えば、特開昭59-73579号公報、特開平1-216984号公報、特開平3-261778号公報等に記載の方法、またはそれらに準じて実施することができる。
【0033】
次いで、得られた化合物(I)中の特定の原子(例えば、水素原子)を、自体公知の方法またはそれに準じて目的の同位体で交換することにより、化合物(I)の同位体標識化合物を得ることができる。
【0034】
より具体的には、例えば化合物(I)の同位体標識化合物が放射性同位体ヨウ素で標識されたベンザロンの場合、放射性同位体ヨウ素で標識されたベンザロンは、ベンザロンの構造中のヒドロキシ部分以外における1つの水素原子を放射性同位体ヨウ素で交換することにより、得ることができる。
【0035】
ベンザロンの製造方法は、公知であり、特に限定されないが、例えば、特開昭59-73579号公報等に記載の方法またはそれらに準じた方法によりベンザロンを得ることができる。また、東京化成工業(株)等、各社からの市販品として入手することもできる。
【0036】
ベンザロンの構造中のヒドロキシ部分以外における1つの水素原子を放射性同位体ヨウ素で交換する方法は、特に限定されないが、例えば、以下の方法があげられる。
【0037】
ベンザロンを溶媒に溶解し、得られた溶液に、放射性同位体ヨウ素標識化剤および酸化剤を溶媒に溶解した溶液を加え、反応させる。次いで、反応後の溶液から高速液体クロマトグラフィー等により分離精製して、放射性同位体ヨウ素で標識されたベンザロンを得る。
【0038】
ベンザロンを溶解する溶液としては、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール、アセトニトリル等があげられ、中でも、アセトニトリルが好ましい。放射性同位体ヨウ素標識化剤および酸化剤を溶解する溶液としては、例えば、水、塩酸水溶液等があげられ、中でも、水が好ましく、超純水がより好ましい。
【0039】
放射性同位体ヨウ素標識化剤としては、例えば、放射性同位体ヨウ素で標識されたNaI(125I-NaI等)があげられる。酸化剤としては、例えば、過酸化水素、クロラミンT等があげられ、中でも、クロラミンTが好ましい。
【0040】
反応温度は、特に限定されないが、例えば10℃~50℃があげられ、20℃~45℃がより好ましく、30℃~40℃がさらに好ましい。反応時間は、特に限定されないが、例えば、1分~12時間があげられ、10分~6時間がより好ましく、30分~4時間がさらに好ましく、1時間~3時間がさらにより好ましい。
【0041】
上記方法(2)は、例えば、以下のように実施することができる。
【0042】
適切な同位体標識原料を用いて、例えば、特開昭59-73579号公報、特開平1-216984号公報、特開平3-261778号公報等に記載の化合物(I)を製造する方法またはそれに準じる方法で、化合物(I)の同位体標識化合物を得ることができる。
【0043】
より具体的には、例えば化合物(I)の同位体標識化合物が放射性同位体ヨウ素で標識されたベンザロンの場合、放射性同位体ヨウ素で標識されたベンザロンは、放射性同位体ヨウ素で標識された適切な原料、例えば放射性同位体ヨウ素で標識された4-メトキシベンゾイルクロライド等を用いて、例えば、特開昭59-73579号公報等に記載の方法またはそれらに準じた方法により、得ることができる。
【0044】
化合物(I)の同位体標識化合物の塩を取得したいとき、化合物(I)の同位体標識化合物が塩の形で得られるときはそのまま精製すればよく、また、遊離の形で得られるときは、化合物(I)の同位体標識化合物を適当な溶媒に溶解または懸濁し、塩基を加えて単離、精製すればよい。
【0045】
また、化合物(I)の同位体標識化合物およびその薬学的に許容される塩は、水または各種溶媒との付加物の形で存在することもあるが、これらの付加物も本発明の診断薬等に使用することができる。
【0046】
「がん」は、特に限定されないが、有機アニオントランスポーター(OAT)1(OAT1)を発現するがんであるのが好ましく、例えば、大腸がん、肺がん等であるのが好ましい。
【0047】
本発明の診断薬は、化合物(I)の同位体標識化合物またはその薬学的に許容される塩の他に、薬学的に許容される希釈剤、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、界面活性剤、水、生理食塩水、植物油可溶化剤、等張化剤、保存剤、抗酸化剤等のその他の成分を適宜用いて常法により調製することができる。
【0048】
錠剤の調製にあたっては、例えば乳糖等の賦形剤、澱粉等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤、ヒドロキシプロピルセルロース等の結合剤、脂肪酸エステル等の界面活性剤、グリセリン等の可塑剤等を常法に従って用いればよい。
【0049】
注射剤の調製にあたっては、水、生理食塩水、大豆油等の植物油、各種の溶剤、可溶化剤、等張化剤、保存剤、抗酸化剤等を常法に従って用いればよい。
【0050】
本発明の診断薬を投与する対象は、特に限定されないが、例えば、ヒト、サル、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、ウサギ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター等の哺乳動物等があげられ、好ましくはヒトである。
【0051】
本発明の診断薬を、経口的に、例えば錠剤としてヒトに投与する場合、化合物(I)の同位体標識化合物またはその薬学的に許容される塩を、例えば、成人一人当たり、0.01~1000mg、好ましくは0.05~500mg、さらに好ましくは0.1~200mg投与する。
【0052】
本発明の診断薬を、非経口的に、例えば注射剤としてヒトに投与する場合、化合物(I)の同位体標識化合物またはその薬学的に許容される塩を、例えば、成人一人当たり、0.001~1000mg、好ましくは0.005~500mg、さらに好ましくは0.01~200mg投与する。
【0053】
また、同位体が放射性同位体である本発明の診断薬を投与する際の放射能濃度は、放射性同位体の種類、投与する対象、投与の形態・経路、目的等により適宜調整することができるが、例えば同位体が123Iまたは131Iである本発明の診断薬をヒトに投与する場合は、放射能濃度が37MBq/ヒト~740MBq/ヒトとなるように投与することが好ましく、185MBq/ヒト~370MBq/ヒトとなるように投与することがより好ましい。
【0054】
本発明の診断薬の投与後、同位体標識化合物における同位体が安定同位体の場合は、公知の方法(例えば、Peng Zhang, Xinyu Ma, et al. “Organic Nanoplatforms for Iodinated Contrast Media in CT Imaging”, Molecules, 2021; 26(23): 7063等)により例えば本発明の診断薬をX線造影剤として用いるCT等による診断を行うことができ、同位体標識化合物における同位体が放射性同位体の場合は、公知の方法(例えば、George Crisan, Nastasia Sanda Moldovean-Cioroianu, et al. “Radiopharmaceuticals for PET and SPECT Imaging: A Literature Review over the Last Decade” Int J Mol Sci, 2022; 23(9): 5023等)により例えば本発明の診断薬を診断用放射性医薬品として用いるSPECT、PET等による画像診断等を行うことができる。
【0055】
本発明の診断薬はまた、化合物(I)の同位体標識化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する、がん診断用キットとして提供することもできる。
【0056】
キットは、例えば保存する際に外部の温度や光による内容物である成分の変性、容器からの化学成分の溶出等がみられない容器であれば材質、形状等は特に限定されない2つ以上の容器(例えばバイアル、バッグ等)と内容物とからなり、内容物である化合物(I)の同位体標識化合物またはその薬学的に許容される塩およびその他の成分の一部とその他の成分の残りとが別々の容器中に格納されたな形態を有するものである。具体的には、錠剤、注射剤等のキットがあげられる。
【0057】
次に、本発明を実施例等により具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【実施例0058】
後述する試験例で用いる細胞株としては、各試験例等において特に断りのない限り、以下を使用した。
・HEK細胞:ヒト胎児腎細胞(human embryonic kidney cell)HEK293株(ATCC(American Type Culture Collection)から購入)
・Flp細胞:Flp-in-293細胞(HEK293株の遺伝子を改変した細胞;サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)から購入)
【0059】
・各SLCトランスポーターを高発現させたHEK細胞:上記HEK細胞に各SLCトランスポーターのプラスミドを導入した強制発現系細胞
当該細胞の作製方法は、以下のとおりである。
1.pcDNA3.1ベクターを制限酵素処理し、目的遺伝子を組み込んだ。
2.目的遺伝子を組み込んだpcDNA3.1ベクターを、Lipofectamine(商標)3000 Transfection Kit(サーモフィッシャーサイエンティフィック(株))を用いてHEK293細胞にトランスフェクトした。
3.HEK293細胞は、10% FBS、1×105U/LペニシリンG、100mg/Lストレプトマイシンを含むDMEMで1mg/mL G418の存在下で約2週間培養し、単一のコロニーを単離した。
【0060】
<遺伝子情報>
OATP1B1:NM_006446.5
OATP2B1:NM_007256.5
OATP1B3:NM_019844.4
OAT2:NM_153320.2
OCT1:NM_003057.3
OCT2:NM_003058.4
OCTN2:NM_003060.4
【0061】
・各SLCトランスポーターを高発現させたFlp細胞:上記Flp細胞に各SLCトランスポーターのプラスミドを導入した強制発現系細胞
当該細胞の作製方法は、以下のとおりである。
1.cDNA libraryを鋳型として、目的遺伝子をPCRにより増幅した。
2.増幅したインサートを、pcDNA3.1ベクターにライゲーションした。
3.pcDNA3.1ベクター中の目的遺伝子のcDNAを制限酵素処理し、pcDNA5/FRTベクターにライゲーションした。
4.得られた目的遺伝子を組み込んだpcDNA5/FRTベクターを、Lipofectaminを用いてFlp-in 293細胞にpOG44と共トランスフェクトした。
5.Flp-in 293細胞は、10% FBS、1×105U/LペニシリンG、100mg/Lストレプトマイシン、200mg/LハイグロマイシンBを含むDMEMで1mg/mL G418の存在下で約2週間培養し、単一のコロニーを単離した。
【0062】
<遺伝子情報>
OAT1:NM_153276.3
OAT3:NM_004254.4
【0063】
合成例1:125I-ベンザロンの合成
ベンザロン(東京化成工業(株))2.6×10-4g(1.0×10-6mol)をアセトニトリル(ナカライテスク(株))100μLに溶解し、得られた溶液に125I-NaI(3.7MBq)(PerkinElmer社)およびと酸化剤としてのクロラミンT(ナカライテスク(株))2.8×10-5g(1.0×10-7mol)を超純水100μLに溶解した溶液を加え、37.0℃で30分間反応させた。また、反応時間を60分間若しくは120分とし、またはクロラミンTの添加量を1.0×10-8mol若しくは1.0×10-6molに変化させ、同様に反応させた。
【0064】
次いで、上記で得られた各反応溶液から、以下の条件の高速液体クロマトグラフィ(HPLC)を用いて、125I-ベンザロンを分離精製した。なお、HPLCのクロマトグラムは、PowerChrom(eDAQ社)を用いて解析した。また、以降の実験においては、分離精製後に窒素還流してアセトニトリルを除去したものを使用した。
【0065】
HPLC条件
カラム:5C18-AR-II 10mm I.D.-250mm(ナカライテスク(株))
溶出液:20%リン酸緩衝生理食塩水(pH6.0):80%アセトニトリル
流速:1.0mL/分
検出:UV(256nm)
【0066】
上記各条件下での125I-ベンザロン標識率を表1に示す。
【0067】
【0068】
表1に示すように、反応時間120分、クロラミンTの添加量1.0×10-7molで、62.1±1.6%の最も良い標識率が得られた。
【0069】
試験例1:125I-ベンザロンの放射化学的純度検定および安定性試験
合成例1において反応時間120分、クロラミンTの添加量1.0×10-7molの条件で調製した125I-ベンザロンについて、その放射化学的純度を薄層クロマトグラフィ(TLC)(固定相:シリカゲル薄層板(Silica gel 60 F256(Merck社))移動相:クロロホルム:ジエチルエーテル=1:1)にて分析した。その結果、放射化学的純度は、97.3±0.5%であった。
【0070】
また、上記
125I-ベンザロンを7日間冷凍保存したときの放射化学的純度の変化を、
図1に示す。
【0071】
図1に示すように、、上記
125I-ベンザロンの放射化学的純度は、精製後7日目の時点でも96.9±0.5%であり、安定していることがわかった。
【0072】
試験例2:125I-ベンザロンの各SLC(solute carrier)トランスポーターへの親和性検討
OAT1またはOAT3を強制的に高発現させたFlp細胞、遺伝子操作をしていないコントロール細胞であるFlp-mock細胞、OATP1B1、OATP1B3、OATP2B1、OAT2、OCT1、OCT2またはOCTN2をそれぞれ強制的に高発現させたHEK細胞、および遺伝子操作をしていないコントロール細胞であるHEK-mock細胞のそれぞれを、D-MEM培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium、富士フイルム和光純薬(株))中、37℃、5%CO2で培養した。得られた細胞をコラーゲンコーティングされた12well細胞培養用マルチwellプレートに1wellあたり5.0×105cells/mL播き、約24時間培養後に実験を行った。
【0073】
培養用培地を除去した後、pH7.4のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を450μL加えて約10分間プレインキュベーションを行った。その後、37kBqの125I-ベンザロン溶液50μLを投与し、5分間インキュベーションを行った。インキュベーション後に、125I-ベンザロンを含むPBSを除去し、細胞が入ったwellをPBS600μLで2回洗浄した。細胞を0.1M NaOH500μLで溶解させ、放射能をオートウェルγカウンタ(AccuFLEX 7000(Aloka medical社))で測定した。
【0074】
また、解析結果を各細胞の蛋白量1mgあたりに換算した
125I-ベンザロンの集積量で表すため、TaKaRa BCA protein Assay Kit(タカラバイオ(株))を用いて、蛋白定量を行った。キットに付属しているウシ血清アルブミン(BSA)100μLおよび0.1M NaOH100μLを加えてよく撹拌し、BSA 1.0mg/mL溶液を調製した。その後、調製したBSA溶液を希釈して検量線用BSA溶液を作成した。検量線用BSAおよび細胞溶解液を96wellマルチウェルプレートに1wellあたり25μLずつ加え、次いでキットに付属しているreagent Aおよびreagent Bをreagent A:reagent B=100:1で調製したworking reagentを1wellあたり200μLずつ加えた後、37℃で30分間インキュベーションを行った。プレートを室温で10分間放置した後、Multiskan FC 吸光マイクロプレートリーダ(Thermo Scientific社)で吸光度を測定し、SkanIt(商標) Software 2.5.1(Thermo Scientific社)で解析を行い、蛋白量を算出した。検量線の直線相関率は、0.990以上のデータを用いた。統計解析は、Graph pad Prismを用いてWelch-t検定を行い、有意差の判定は、P<0.05(n=6,Welch’s t test)とした。
その結果を、
図2に示す。
【0075】
図2に示すように、5分間のインキュベーション後において、特定のSLCトランスポーターを高発現させていないMock細胞と比較して、OAT1高発現細胞においてのみ有意に
125I-ベンザロンの取り込み量が高いことが確認された。このことから、
125I-ベンザロンの取り込みにはOAT1が関与している可能性が示された。
【0076】
試験例3:125I-ベンザロンのOAT1への親和性に対するOAT阻害剤の影響の検討
OAT1を強制発現させたFlp細胞を、D-MEM培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium、富士フイルム和光純薬(株))中、37℃、5%CO2で培養した。得られた細胞をコラーゲンコーティングされた12well細胞培養用マルチwellプレートに1wellあたり5.0×105cells/mL播き、約24時間培養後に実験を行った。
【0077】
培養用培地を除去した後、pH7.4のPBS400μLを加えて約10分間プレインキュベーションを行った。その後、OAT阻害剤であるプロベネシド(東京化成工業(株))溶液50μLを加え、その30秒後に37kBqの125I-ベンザロン溶液50μLを投与し、5分間インキュベーションを行った。なお、プロベネシド溶液としては、プロベネシドをPBSに溶解し、培養細胞に加えた後、最終濃度1.0mMになるように調整したものを用いた。インキュベーション後に、プロベネシドおよび125I-ベンザロンを含むPBSを除去し、細胞が入ったwellをPBS600μLで2回洗浄した。細胞を0.1M NaOH500μLで溶解させ、放射能をオートウェルγカウンタ(AccuFLEX 7000(Aloka medical社))で測定した。
【0078】
また、蛋白定量および統計解析は、試験例2と同様にして行った。
その結果を、
図3に示す。
【0079】
図3に示すように、OAT1を高発現させたFlp細胞にOAT阻害剤であるプロベネシドを加えた場合、Flp-mock細胞と比較して、
125I-ベンザロンの取り込み量における有意差は確認できなかった。すなわち、試験例2および3の結果から、
125I-ベンザロンの取り込みに関与しているSLCトランスポーターはOAT1であることが、確認された。
【0080】
試験例4:ヒト由来がん細胞への125I-ベンザロンの集積検討
(ヒト由来がん細胞の培養)
ヒト由来がん細胞としては、OAT1が高発現しているヒト由来結腸腺がん培養細胞株DLD-1(American type culture collection(ATCC))、ヒト由来肺腺がん培養細胞株H441(ATCC)、ヒト由来肺腺がん培養細胞株PC-14(理化学研究所)、および比較対象としてOAT1低発現のヒト由来結腸腺がん培養細胞株LS180(ATCC)を用いた。DLD-1、PC-14およびLS180は、ウシ胎児血清(FBS(Gibco社))10%を混合したダルベッコ改変イーグル培地(D-MEM(富士フイルム和光純薬(株))、H441は、FBS 10%およびピルビン酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬(株))1%を混合したロズウェルパーク記念研究所培地(RPMI)-1640(富士フイルム和光純薬(株))の培地を用いて培養した。
【0081】
上記4種類のヒト由来がん培養細胞を、細胞培養用10cm2ペトリディッシュにおいて37℃、5%CO2で培養した。細胞増殖が90%コンフルエントな状態で培地を除去し、PBS10mLで細胞表面を2回洗浄後、0.25w/v%トリプシン-EDTA 4Na溶液(富士フイルム和光純薬)3.0mLで細胞を剥離し、細胞を遠沈させてトリプシンを除去した。次いで、遠心分離機を用いて4℃、3000rpmで5分間遠心して、175cm2の細胞培養フラスコに継代した。
【0082】
(ヒト由来がん細胞への125I-ベンザロンの経時的集積実験)
上記で培養・継代した各ヒト由来がん細胞を、コラーゲンコーティングされた12well細胞培養用マルチwellプレートに1wellあたり5.0×105cells/mL播き、約24時間培養後に実験を行った。
【0083】
培養用培地を除去した後、pH7.4のPBS450μLを加えて約10分間プレインキュベーションを行った。その後、37kBqの125I-ベンザロン溶液50μLを加え、5、10、30および60分間インキュベーションを行った。インキュベーション後に、125I-ベンザロンを含むPBSを除去し、細胞が入ったwellをPBS600μLで2回洗浄した。細胞を0.1 M NaOH500μLで溶解させ、放射能をオートウェルγカウンタ(AccuFLEX 7000(Aloka medical社))で測定した。
【0084】
4種のヒト由来がん細胞株の細胞数を全自動細胞測定装置(LUNA FX7(Logo biosystems社))で測定し、算出した生細胞数を用いて得られた放射能を補正した。
その結果を、
図4に示す。
【0085】
また、別途行ったヒト由来がん細胞DLD-1、H441、PC-14およびLS180への
3H-L-メチオニン(
3H-L-Met)の集積実験、並びにH441およびPC-14への
18F-フルオロデオキシグルコース(
18F-FDG)の集積実験の結果と、上記した
125I-ベンザロンの集積実験の結果を比較した。
その結果を、
図5に示す。
【0086】
図4および
図5に示すように、4種全てのヒト由来がん細胞株において、
125I-ベンザロンの集積が確認された。4種のヒト由来がん細胞株の中で、DLD-1への集積は、他の細胞株への集積と比較して少なかった(
図4)。DLD-1においては、5分~10分間のインキュベーションの間に集積が増加し、その後、集積は低下した(
図5(A))。H441においては、5分~10分間のインキュベーションの間に集積が急増し、その後は緩やかな集積増加に変化し(
図5(B))、PC-14においては、5分~10分間のインキュベーションの間に集積が急増し、その後は一度集積が低下してから再び緩やかに集積が増加した(
図5(C))。LS180においては、5分~10分間のインキュベーションの早期における集積は少なかったが、時間経過とともに集積が増加した(
図5(D))。4種全てのヒト由来がん細胞株において、DLD-1における60分間のインキュベーション後を除き、
3H-L-Metおよび
18F-FDGの集積よりも
125I-ベンザロンの集積が顕著であることが確認された。
【0087】
試験例5:ヒト由来がん細胞への125I-ベンザロンの集積に対するOAT阻害剤の影響の検討
試験例4で培養・継代した各ヒト由来がん細胞を、コラーゲンコーティングされた12well細胞培養用マルチwellプレートに1wellあたり5.0×105cells/mL播き、約24時間培養後に実験を行った。
【0088】
培養用培地を除去した後、pH7.4のPBS400μLを加えて約10分間プレインキュベーションを行った。その後、OATの阻害剤であるプロベネシド(東京化成工業(株))溶液50μLを加え、その30秒後に37kBqの
125I-ベンザロン溶液50μLを加え、5分間インキュベーションを行った。なお、プロベネシド溶液としては、プロベネシドをPBSに溶解し、培養細胞に加えた後、最終濃度1.0mMになるように調整したものを用いた。インキュベーション後に、
125I-ベンザロンを含むPBSを除去し、細胞が入ったwellを氷冷したPBS600μLで2回洗浄した。細胞を0.1 M NaOH500μLで溶解させ、放射能をオートウェルγカウンタ(AccuFLEX 7000(Aloka medical社))で測定し、試験例4と同様にして、生細胞数を用いて補正した。
その結果を、
図6に示す。
【0089】
図6に示すように、OAT阻害剤であるプロベネシドを加え場合、全てのヒト由来がん細胞株において、
125I-ベンザロンの顕著な集積増加が確認された。
【0090】
OAT阻害剤として用いたプロベネシドは、排泄型のトランスポーターである多剤耐性関連蛋白質(MRP)の阻害剤としても報告されており(Kim HS, Min YD, Choi CH,Double-edged sword of chemosensitizer: increase of multidrug resistance protein(MRP) in leukemic cells by an MRP inhibitor probenecid. Biochem Biophys Res Commun.,2002 Apr;283(1):64-71)、
図6においてプロベネシドを加えたLS180への集積の増加が確認されたことから、
125I-ベンザロンは、MRPトランスポーターにも関与していることが示された。また、
図6において4種全てのヒト由来がん細胞株で集積増加を確認できたことから、
125I-ベンザロンの細胞集積には、取り込み型のOAT1単一でなく、排泄型のMRPトランスポーターも関与しているものと推測された。
【0091】
上記のように、125I-ベンザロンは、画像診断用放射性ヨウ素標識薬剤として有望であると考えられた。