(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134191
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】磁気粘性流体装置
(51)【国際特許分類】
F16F 9/53 20060101AFI20240926BHJP
F16F 9/12 20060101ALI20240926BHJP
F16D 37/02 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
F16F9/53
F16F9/12
F16D37/02 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044376
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】110003801
【氏名又は名称】KEY弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】辻 仁志
(72)【発明者】
【氏名】上嶋 優矢
(72)【発明者】
【氏名】榮 淳
(72)【発明者】
【氏名】末廣 隆史
(72)【発明者】
【氏名】梶本 泰生
【テーマコード(参考)】
3J069
【Fターム(参考)】
3J069AA41
3J069DD25
3J069EE73
(57)【要約】
【課題】磁気粘性流体の充填空間に磁気粘性流体とともに封入された気体の膨張に起因する圧力上昇を抑制すること。
【解決手段】第1部100と、第1部100に対して相対動作可能に設けられた第2部200と、第1部100と第2部200との間に介在する磁気粘性流体303と、磁気粘性流体300に磁場を付与するための磁場発生部201と、磁気粘性流体303を封入する封入空間307を形成する封入空間形成部308と、を備え、封入空間形成部308の一部が、磁気粘性流体303に含まれる液体を透過させることなく気体を前記封入空間形成部外へ透過させる防油通気手段202を用いて構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部と、
前記第1部に対して相対動作可能に設けられた第2部と、
前記第1部と前記第2部との間に介在する磁気粘性流体と、
前記磁気粘性流体に磁場を付与するための磁場発生部と、
前記磁気粘性流体を封入する封入空間を形成する封入空間形成部と、
を備え、
前記封入空間形成部の一部が、前記磁気粘性流体に含まれる液体を透過させることなく気体を前記封入空間形成部外へ透過させる防油通気手段を用いて構成されている、
ことを特徴とする磁気粘性流体装置。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気粘性流体装置であって、
前記防油通気手段は、仮に、前記防油通気手段を取り除き、前記防油通気手段が取り除かれた部分に前記防油通気手段が設けられていた部分の周囲の封入空間形成部と同じ材料を充填して前記磁気粘性流体が磁場を付与されたとした場合に、クラスターが形成されない位置を含むように設けられている、
ことを特徴とする磁気粘性流体装置。
【請求項3】
請求項2に記載の磁気粘性流体装置であって、
前記第1部は、
前記第2部に対して相対回転自在に設けられたシャフトと、
前記シャフトと回転一体に設けられ、前記シャフトから前記シャフトの半径方向外方に張り出した張出部と、
を有し、
前記張出部は、前記磁気粘性流体に全体が覆われるように、前記封入空間内に配置されており、
前記磁場発生部は、前記シャフトの軸線方向から視て環状となる前記張出部の内側環状領域と、この内側環状領域よりも間隔をあけて外側となる前記張出部の外側環状領域とを貫通する磁束をそれぞれ形成し、
前記防油通気手段は、前記封入空間形成部において前記軸線方向から視て前記内側環状領域よりも内側となる部分に設けられている、
ことを特徴とする磁気粘性流体装置。
【請求項4】
請求項2に記載の磁気粘性流体装置であって、
前記第1部は、
前記第2部に対して相対回転自在に設けられたシャフトと、
前記シャフトと回転一体に設けられ、前記シャフトから前記シャフトの半径方向外方に張り出した張出部と、
を有し、
前記張出部は、前記磁気粘性流体に全体が覆われるように、前記封入空間内に配置されており、
前記磁場発生部は、前記シャフトの軸線方向から視て環状となる前記張出部の内側環状領域と、この内側環状領域よりも間隔をあけて外側となる前記張出部の外側環状領域とを貫通する磁束をそれぞれ形成し、
前記防油通気手段は、前記軸線方向から視て前記外側環状領域よりも外側にある前記封入空間形成部の最大径部に設けられている、
ことを特徴とする磁気粘性流体装置。
【請求項5】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の磁気粘性流体装置であって、
前記防油通気手段と外部とを連通する連通路が形成されており、
前記連通路に前記防油通気手段とは別の防油通気手段が1又は複数設けられている、
ことを特徴とする磁気粘性流体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部材間に磁気粘性流体を介在させ、磁気粘性流体に付与する磁場の強さを変えることにより、上記部材間で伝達される力を変化させる磁気粘性流体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の磁気粘性流体装置は、例えば特許文献1に開示されている。同文献に開示された磁気粘性流体装置は、第1部(100)と第2部(200)との間に磁気粘性流体を介在させ、磁気粘性流体に付与する磁場の強さを変えることにより、第1部(100)と第2部(200)との間で伝達されるトルクを変化させる。この磁気粘性流体装置では、装置内に封入された磁気粘性流体が外部へ漏れ出さないように各隙間にシール材が使用されている。
【0003】
同文献に開示された磁気粘性流体では、装置内に封入された磁気粘性流体が温度上昇により体積膨張し、シール材が塞いでいる隙間から磁気粘性流体が漏れ出すことを防止するために、磁気粘性流体の体積の膨張収縮に追従して、磁気粘性流体が封入された空間(307)の容積を拡大縮小するように動作するダイヤフラム(202)が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、磁気粘性流体装置内に磁気粘性流体を充填する場合、磁気粘性流体を充填する空間から空気等の気体を排除しながら磁気粘性流体を充填する必要がある。しかし、磁気粘性流体を充填する空間が気体を排除し難い形状である場合、空間に気体が残存することがある。また、磁気粘性流体を充填する際に、磁気粘性流体の磁性粒子の間に微細な空気が混入したり、磁気粘性流体に空気が溶存してしまうこともある。
【0006】
このようにして、磁気粘性流体を封入する空間に気体が残存または混入し、磁気粘性流体の温度が上昇すると、磁気粘性流体自体が体積膨張するとともに、空間内の気体も体積膨張し、ダイヤフラムでの減圧許容限度を超えたり、シールの耐圧限度を超えるおそれがある。そうなった場合には、磁気粘性流体が外部に漏れ出す可能性が高まる。
【0007】
そこで、本発明は、磁気粘性流体の充填空間に磁気粘性流体とともに封入された気体の膨張に起因する圧力上昇を抑制することが可能な磁気粘性流体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1態様に係る磁気粘性流体装置は、第1部と、前記第1部に対して相対動作可能に設けられた第2部と、前記第1部と前記第2部との間に介在する磁気粘性流体と、前記磁気粘性流体に磁場を付与するための磁場発生部と、前記磁気粘性流体を封入する封入空間を形成する封入空間形成部と、を備える。前記封入空間形成部の一部が、前記磁気粘性流体に含まれる液体を透過させることなく気体を前記封入空間形成部外へ透過させる防油通気手段を用いて構成されている。
【0009】
本発明の第2態様に係る磁気粘性流体装置は、前記構成を備える磁気粘性流体装置において、前記防油通気手段は、仮に、前記防油通気手段を取り除き、前記防油通気手段が取り除かれた部分に前記防油通気手段が設けられていた部分の周囲の封入空間形成部と同じ材料を充填して前記磁気粘性流体が磁場を付与されたとした場合に、クラスターが形成されない位置を含むように設けられている。
【0010】
本発明の第3態様に係る磁気粘性流体装置は、第2態様に係る磁気粘性流体装置において、前記第1部は、前記第2部に対して相対回転自在に設けられたシャフトと、前記シャフトと回転一体に設けられ、前記シャフトから前記シャフトの半径方向外方に張り出した張出部と、を有する。前記張出部は、前記磁気粘性流体に全体が覆われるように、前記封入空間内に配置されている。前記磁場発生部は、前記シャフトの軸線方向から視て環状となる前記張出部の内側環状領域と、この内側環状領域よりも間隔をあけて外側となる前記張出部の外側環状領域とを貫通する磁束をそれぞれ形成している。前記防油通気手段は、前記封入空間形成部において前記軸線方向から視て前記内側環状領域よりも内側となる部分に設けられている。
【0011】
本発明の第4態様に係る磁気粘性流体装置は、第2態様に係る磁気粘性流体装置において、前記第1部は、前記第2部に対して相対回転自在に設けられたシャフトと、前記シャフトと回転一体に設けられ、前記シャフトから前記シャフトの半径方向外方に張り出した張出部と、を有する。前記張出部は、前記磁気粘性流体に全体が覆われるように、前記封入空間内に配置されている。前記磁場発生部は、前記シャフトの軸線方向から視て環状となる前記張出部の内側環状領域と、この内側環状領域よりも間隔をあけて外側となる前記張出部の外側環状領域とを貫通する磁束をそれぞれ形成する。前記防油通気手段は、前記軸線方向から視て前記外側環状領域よりも外側にある前記封入空間形成部の最大径部に設けられている。
【0012】
本発明の第5態様に係る磁気粘性流体装置は、第1乃至3の何れか1態様に係る磁気粘性流体装置において、前記防油通気手段と外部とを連通する連通路が形成されており、
前記連通路に前記防油通気手段とは別の防油通気手段が1又は複数設けられている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、磁気粘性流体の充填空間に磁気粘性流体とともに封入された気体の膨張に起因する圧力上昇を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態に係る磁気粘性流体装置の断面図である。
【
図2】本実施形態に係る磁気粘性流体装置が備える円板をシャフトの軸線方向から視た図である。
【
図4】本実施形態の変形例に係る磁気粘性流体装置の断面図である。
【
図5】本実施形態の別の変形例に係る磁気粘性流体装置の断面図であって、
図6のV-V断面図である。
【
図6】本実施形態の別の変形例に係る磁気粘性流体装置の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態に係る磁気粘性流体装置について、図面を参照しつつ説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る磁気粘性流体装置1は、互いに相対回転自在に設けられた第1部100および第2部200と、これらの間に介在するベアリング301、シール材302、磁気粘性流体303等を備えている。
【0016】
第1部100は、シャフト101、円板102等で構成されている。
【0017】
シャフト101は、後述するケーシング203に形成された軸穴にベアリング301を介して回転自在に支持されている。シャフト101には非磁性体が用いられることが望ましい。なお、
図1に例示するシャフト101には、ベアリング301が支持する部分の直径よりも大きな直径を有する大径部が4カ所に設けれている。
【0018】
円板102は、シャフト101からシャフト101の半径方向外方に張り出した張出部である。円板102は、シャフト101と回転一体にシャフト101に固定されている。本実施形態では、円板102は、シャフト101の端部に固定されている。円板102には磁性体が用いられることが望ましい。
【0019】
第2部200は、磁場発生部201、防油通気手段202等で構成されている。
【0020】
磁場発生部201は、円板102とケーシング203との間に介在する磁気粘性流体303に磁場を付与するものである。本実施形態では、磁場発生部201は、ケーシング203、コイル204等で構成されている。
【0021】
ケーシング203は、磁性体からなる第1ケーシング部203Aおよび第2ケーシング部203B部材と、非磁性体からなるカバー部203Cとで構成されている。第1ケーシング部203Aおよび第2ケーシング部203Bは、磁場発生部201のヨークとしても機能する。第1ケーシング部203Aおよび第2ケーシング部203Bは、略円柱状の外観形状を有する。第1ケーシング部203Aおよび第2ケーシング部203Bは、それらの外周縁部の間に、非磁性体からなる環状部材205を介在させて対向し、円筒状のカバー部203Cに嵌め込まれている。環状部材205は、カバー部203Cの内周面に対して全周に亘って内接している。第2ケーシング部203Bの外周面とカバー部203Cの内周面との間には、これらの隙間をシールするシール材211が設けられている。このシール材211によって第2ケーシング部203Bの外周面とカバー部203Cの内周面との隙間がシールされ、当該隙間から磁気粘性流体303が漏出しないようになっている。
【0022】
第1ケーシング部203A内には、コイル204が配置された円環状の溝と、シャフト101が貫通する軸穴とが形成されている。また、第1ケーシング部203Aと第2ケーシング部203Bとの間には、環状部材205が介在することで、平たい円柱状の空間が形成されている。本実施形態では、この円柱状の空間が、磁気粘性流体303を封入する封入空間307の大部分を構成している。
【0023】
第1ケーシング部203Aに形成された軸穴には、ベアリング301が嵌め込まれており、ベアリング301よりも円板102側の位置において、シャフト101と軸穴との隙間をシールするシール材302が設けられている。このシール材302によってシャフト101と第1ケーシング部203Aに形成された軸穴との隙間がシールされ、当該隙間から磁気粘性流体303が漏出しないようになっている。
【0024】
第2ケーシング部203Bには、封入空間307を形成する封入空間形成部308の一部と外部とを連通する連通路208が形成されている。本実施形態では、この連通路208は、シャフト101の延長線上に設けられている。
【0025】
コイル204は、上述の通り、ケーシング203内に形成された環状の溝に巻設されており、リード線306により外部から電流が供給される。コイル204に電流が印加されると、例えば
図1の矢印Pが示す方向に沿って、第1ケーシング部203A、第2ケーシング部203B、円板102およびこれらの間に介在する磁気粘性流体303を通る磁気回路が形成される。
【0026】
ヨークとして機能する第1ケーシング部203Aおよび第2ケーシング部203Bは、コイル204に電流が印加されると、
図2に示すように、円板102において、シャフト101の軸線N方向から視て環状となる内側環状領域S1と、この内側環状領域S1よりも間隔をあけて外側となる外側環状領域S2とを軸線N方向に貫通する磁束をそれぞれ形成する。なお、円板102に形成された複数の貫通孔102aは、磁束が第2ケーシング部203B側に向かわず、第1ケーシング部203Aと円板102との間で主たる磁気回路が形成されてしまうことを防止するために設けられている。
【0027】
防油通気手段202は、磁気粘性流体303に含まれる液体および磁性粒子を透過させることなく気体を透過させるものである。このような防油通気手段202として、例えば、磁気粘性流体303の分散媒に対して撥油性を有する撥油剤により被覆された表面を有する多孔質膜を用いることができる。この防油通気手段202は、磁気粘性流体装置1内において、磁気粘性流体303を封入する封入空間307を形成する封入空間形成部308の一部を構成する。従って本実施形態では、封入空間形成部308は、封入空間307を囲む壁面および防油通気手段202によって構成されている。本実施形態では、防油通気手段202は、連通路208の封入空間307側の端部に当該連通路208を塞ぐように設けられている。この連通路208の封入空間307側の端部に設けられた防油通気手段202は、連通路208の当該端部に形成された環状の嵌合溝に対して接着剤(液状シール)を用いて嵌着されている。これにより、防油通気手段202の周囲から連通路208側へ液体が漏れ出さないようになっている。
【0028】
防油通気手段202は、連通路208の封入空間307側の端部のほか、連通路208の途中にもう一つ設けられている。第2ケーシング部203Bは、
図1に示すように、この円板102側に配された外側部材203Baと、この外側部材203Baに形成された円柱状の凹部に嵌め込まれた内側部材203Bbとを備えている。連通路208の途中に設けられた上記防油通気手段202は、外側部材203Baと内側部材203Bbとの間に挟み込まれている。これにより、防油通気手段202の周囲から連通路208の外側へ液体が漏れ出さないようになっている。なお、この連通路208の封入空間307側の端部に設けられた上記防油通気手段202を、連通路208の途中に設けられた防油通気手段202のように挟み込み構造により取り付けることも可能である。
【0029】
磁気粘性流体303は、磁気粘性流体装置1内の封入空間307に封入されており、
図1では、灰色に塗り潰した領域が磁気粘性流体の封入空間307を表している。この磁気粘性流体303は、第1部100に属する円板102と、第2部200に属する第1ケーシング部203Aおよび第2ケーシング部203Bとの隙間307a,307bに介在し、これらの間で粘度に応じたトルク伝達を行う。円板102は、磁気粘性流体303に全体が覆われるようにして、封入空間307内に設置されている。
【0030】
磁気粘性流体303は、磁性粒子を分散媒に分散させてなる液体であり、例えばその磁性粒子がナノサイズの金属粒子(金属ナノ粒子)からなるものが使用できる。磁性粒子は磁化可能な金属材料からなり、金属材料に特に制限はないが軟磁性材料が好ましい。軟磁性材料としては、例えば鉄、コバルト、ニッケル及びパーマロイ等の合金が挙げられる。分散媒は、特に限定されるものではないが、一例として疎水性のシリコーンオイルを挙げることができる。磁気粘性流体における磁性粒子の配合量は、例えば3~40vol%とすればよい。磁気粘性流体にはまた、所望の各種特性を得るために、各種の添加剤を添加することも可能である。
【0031】
上記構成を備える磁気粘性流体装置1において、コイル204に電流を印加すると、上述の通り、
図1の矢印Pに示す方向に沿ってケーシング203内に磁気回路が形成され、ケーシング203と円板102との隙間307a,307bに介在する磁気粘性流体303に磁場の強さに応じた粘度(ずり応力)が発現する。これにより、第1部100(シャフト101等)と第2部200(ケーシング203等)との間で、コイル204に印加される電流値の大きさに応じたトルク伝達がなされる。
【0032】
上記構成を備える磁気粘性流体装置1において、封入空間307内に存在する磁気粘性流体303および気体が温度上昇により体積膨張を生じると、磁気粘性流体303の封入空間形成部308の一部を構成する防油通気手段202から、気体のみが排出される。防油通気手段202から排出された気体は、連通路208を通じて外部に排出される。万一、気体が想定した以上に大きく体積膨張を起こし、防油通気手段202として用いている多孔質膜のポーラスが拡大して、磁気粘性流体303の分散媒が当該ポーラスから漏れ出しても、連通路208には、別の防油通気手段202が設けられているので、磁気粘性流体303の分散媒が装置の外部へ流出することは阻止されるようになっている。
【0033】
以上の説明から明らかなように、本発明の実施形態に係る磁気粘性流体装置1によれば、磁気粘性流体装置1の磁気粘性流体303が封入された封入空間307に含まれる空気等の気体は、防油通気手段202を通じて外部に排出されるため、当該気体の膨張に起因する圧力上昇を抑制することができる。
【0034】
また、防油通気手段202が設けられた領域は、軸線N方向から視て、円板102に対して磁束が通過しない内側環状領域S1よりも内側となる部分に設けられている。この部分は、コイル204に電流が印加されても、磁気粘性流体303がクラスターを形成しない位置(例えばシャフト101の軸線Nの近傍位置)を含んでいる。本実施形態では、このクラスターを形成しない位置は、仮に、防油通気手段202を取り除き、防油通気手段202が取り除かれた部分に(連通路208がある場合は連通路208にも)防油通気手段202が設けられていた部分の周囲の封入空間形成部308と同じ材料(本実施形態の場合、磁性体)を充填して磁気粘性流体303が磁場を付与されたとした場合でも磁気粘性流体303がクラスターを形成しない位置である。磁気粘性流体303に含まれる磁性粒子は、クラスターを形成する場所に集積し易いため、防油通気手段202が、封入空間形成部308において磁性粒子が集積し難い部分に設けられていることにより、防油通気手段202の目詰まりを抑制できる。
【0035】
<他の実施形態1>
既述した実施形態において、連通路208に設けられた2つの防油通気手段202の一方を省略することも可能である。また、連通路208の外部側端部に防油通気手段202を設けることも可能である。
【0036】
<他の実施形態2>
既述した実施形態において、連通路208および防油通気手段202を設ける位置を、封入空間形成部308において、軸線N方向から視てコイル204と重なる位置に変更することも可能である(
図4参照)。この場合、軸線N方向から視て、円板102に対して磁束が通過しない内側環状領域S1および外側環状領域S2から外れた部分に防油通気手段202が設けられることになる。この防油通気手段202が設けられた部分は、コイル204に電流が印加されても、磁気粘性流体303が周囲に比べてクラスターを形成し難い位置ないしはクラスターを形成しない位置を含んでいるため、上述したように、防油通気手段202の目詰まりを抑制できる。なお、連通路208は、
図4において矢印Pの方向に沿って形成される磁気回路と直交するが、そのことによって増加する磁気抵抗は僅かである。
図4に示す連通路208には、防油通気手段202が1つのみ設けられているが、連通路208に複数の防油通気手段202を互いに間隔をおいて設けてもよい。なお、軸線N方向から視て、コイル204と封入空間形成部308が重なるドーナツ状の領域においてに複数の連通路208を形成してそれぞれに防油通気手段202を設けることも可能である。
【0037】
<他の実施形態3>
既述した実施形態において、防油通気手段202を設ける部分を、
図5~
図7に示すように、封入空間形成部308において最大径部となる部分に変更するとともに、連通路208を省略することも可能である。
図5~
図7に例示する防油通気手段202Aは、筒状であって、第1ケーシング部203Aおよび第2ケーシング部203Bの間に形成された封入空間307を形成する封入空間形成部308の外周部を形成している。封入空間形成部308において最大径部は、
図2に示した外側環状領域S2よりも外側にある。この部分は、コイル204に電流が印加されても、磁気粘性流体303がクラスターを形成しない部分であるため、上述したように、防油通気手段202Aの目詰まりを抑制できる。
【0038】
封入空間形成部308の最大径部に防油通気手段202Aを設ける場合、ケーシング203のカバー部203Cを
図5~
図7に示すようなカバー部203Dに変更する。カバー部203Dは、
図1に示したカバー部203Cにおいて円板102の半径方向外方と交差する部分に複数のスリット206を形成したものである。
【0039】
また、第1ケーシング部203Aと第2ケーシング部203Bとの間に設けられた環状部材205の代わりに、第1ケーシング部203Aと第2ケーシング部203Bとの間隔寸法より大きな幅寸法を有する環状の防油通気手段202Aを設ける。環状の防油通気手段202Aの外周面は、第1ケーシング部203Aおよび第2ケーシング部203Bの外周面と面一を成す。また、第1ケーシング部203Aと第2ケーシング部203Bの外周端部に防油通気手段202Aの両側部が嵌入する環状の凹部203Aa,203Baを形成する。そして、第1ケーシング部203Aおよび第2ケーシング部203Bに防油通気手段202Aを組み込み、これらがカバー部203D内に嵌め込まれる。また、カバー部203Cは、第1ケーシング部203Aおよび第2ケーシング部203Bに対して固定される。固定には、ビス等の固定具207が用いられる。
【0040】
<他の実施形態4>
既述した実施形態において、円板102の防油通気手段202,202Aに対する動きに連動して防油通気手段202,202A上の磁性粒子等を除去する粒子除去手段を設けてもよい。粒子除去手段として、例えば
図1に示されたシャフト101の端部に刷毛を設けることができる。この場合、刷毛は、シャフト101とともに回転しながら、シャフト101の延長上に設けられた防油通気手段202の表面に溜まった磁性粒子を排除することができる。
【0041】
<他の実施形態5>
既述した実施形態において、防油通気手段202,202Aは、磁性体からなる第1ケーシング部203Aおよび第2ケーシング部203Bに取り付けられていたが、防油通気手段202,202Aの周辺部(第1ケーシング部203A、第2ケーシング部203B等の防油通気手段202,202Aの周囲部)を非磁性体で構成することも可能である。そうすることにより、磁性粒子による目詰まりをより防止することができる。
【0042】
既述した各実施形態の構成は、特に矛盾が無い限り、部分的にまたは全体的に組み合わせることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、部材間に磁気粘性流体を介在させ、磁気粘性流体に付与する磁場の強さを変えることにより、上記部材間で伝達される力を変化させる磁気粘性流体装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0044】
N 軸線
S1 内側環状領域
S2 外側環状領域
1 磁気粘性流体装置
100 第1部
101 シャフト
102 円板(張出部)
200 第2部
201 磁場発生部
202 防油通気手段
202A 防油通気手段
203A 第1ケーシング部(ヨーク)
203B 第2ケーシング部(ヨーク)
204 コイル
206 スリット
208 連通路
303 磁気粘性流体
307 封入空間
308 封入空間形成部