(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134204
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】無電解めっき用塗料組成物、及び無電解めっきを形成する方法
(51)【国際特許分類】
C09D 177/10 20060101AFI20240926BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240926BHJP
C09D 163/00 20060101ALI20240926BHJP
C23C 18/18 20060101ALI20240926BHJP
H01B 1/22 20060101ALI20240926BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
C09D177/10
C09D7/61
C09D163/00
C23C18/18
H01B1/22 A
H01B13/00 503Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044395
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】591074736
【氏名又は名称】宮城県
(71)【出願人】
【識別番号】591161623
【氏名又は名称】株式会社コバヤシ
(71)【出願人】
【識別番号】504137554
【氏名又は名称】株式会社イオックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 勲征
(72)【発明者】
【氏名】今野 奈穂
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 鋭二
(72)【発明者】
【氏名】坂上 哲也
(72)【発明者】
【氏名】中辻 達也
(72)【発明者】
【氏名】中澤 悠人
【テーマコード(参考)】
4J038
4K022
5G301
5G323
【Fターム(参考)】
4J038DB002
4J038DH001
4J038HA446
4J038KA06
4J038KA08
4J038KA09
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4K022AA02
4K022AA03
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4K022DA01
5G301DA11
5G301DA33
5G301DA42
5G301DA51
5G301DA57
5G301DD02
5G301DE01
5G323AA01
(57)【要約】
【課題】本発明は、新たに、無電解めっき用塗料組成物を提供する事を目的とする。
【解決手段】(1)パラジウム粒子と分散剤との複合体、(2)溶媒、及び(3)バインダー樹脂を含有し、前記(3)バインダー樹脂は、ポリアミド樹脂、及びエポキシ樹脂を含み、前記バインダー樹脂100質量部の前記エポキシ樹脂の添加量は、0より多く、20重量部以下である、無電解めっき用塗料組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無電解めっき用塗料組成物であって、
(1)パラジウム粒子と分散剤との複合体、
(2)溶媒、及び
(3)バインダー樹脂
を含有し、
前記(3)バインダー樹脂は、ポリアミド樹脂、及びエポキシ樹脂を含み、前記バインダー樹脂100重量部の前記エポキシ樹脂の添加量は、0より多く、20重量部以下である、無電解めっき用塗料組成物。
【請求項2】
更に、(4)ナノ粒子を含有し、
前記(4)ナノ粒子は、表面処理されており、
前記(4)ナノ粒子の添加量は、前記(3)バインダー樹脂1重量部に対して、0.01重量部~100重量部である、請求項1に記載の無電解めっき用塗料組成物。
【請求項3】
前記(4)ナノ粒子は、無機系酸化物である、請求項2に記載の無電解めっき用塗料組成物。
【請求項4】
前記(4)ナノ粒子は、平均粒子径が10nm~1,000nmである、請求項2又は3に記載の無電解めっき用塗料組成物。
【請求項5】
前記(4)ナノ粒子は、二酸化ケイ素である、請求項2又は3に記載の無電解めっき用塗料組成物。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の無電解めっき用塗料組成物を用い、塗布処理、硬化処理、アルカリ処理、及び無電解めっき処理を行う事に依り、基材上に無電解めっきを形成する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解めっき用塗料組成物、及び無電解めっきを形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、(1)パラジウム粒子と分散剤との複合体、(2)溶媒、及び(3)バインダー、を含有する無電解めっき用塗料組成物を開示する。この無電解めっき用塗料組成物を用いて、塗布処理、硬化処理、次いで無電解めっき処理を行うと、無電解めっきの反応性が高く、優れた密着性を発現できる皮膜を形成する事を可能とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、新たに、無電解めっき用塗料組成物を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、鋭意検討した結果、無電解めっき用塗料組成物において、(1)パラジウム粒子と分散剤との複合体、(2)溶媒、及び(3)バインダー樹脂を含有させて、(3)バインダー樹脂について、特定の樹脂を、特定の含有量に調整する事に依り、配合後のポットライフを向上させる事が出来、この無電解めっき用塗料組成物を用いて、無電解めっきを行うと、めっきの乾燥時間を短縮させる事が出来るという技術を開発した。
【0006】
即ち、本発明は、次の無電解めっき用塗料組成物、及び無電解めっきを形成する方法を包含する。
【0007】
項1.
無電解めっき用塗料組成物であって、
(1)パラジウム粒子と分散剤との複合体、
(2)溶媒、及び
(3)バインダー樹脂
を含有し、
前記(3)バインダー樹脂は、ポリアミド樹脂、及びエポキシ樹脂を含み、前記バインダー樹脂100質量部(総量)中の前記エポキシ樹脂の添加量は、0より多く、20質量部(20重量%)以下である、無電解めっき用塗料組成物。
【0008】
項2.
更に、(4)ナノ粒子を含有し、
前記(4)ナノ粒子は、表面処理されており、
前記(4)ナノ粒子の添加量は、前記(3)バインダー樹脂1重量部に対して、0.01質量部~100質量部である、前記項1に記載の無電解めっき用塗料組成物。
【0009】
項3.
前記(4)ナノ粒子は、無機系酸化物である、前記項2に記載の無電解めっき用塗料組成物。
【0010】
項4.
前記(4)ナノ粒子は、平均粒子径が10nm~1,000nmである、前記項2又は3に記載の無電解めっき用塗料組成物。
【0011】
項5.
前記(4)ナノ粒子は、二酸化ケイ素である、前記項2又は3に記載の無電解めっき用塗料組成物。
【0012】
項6.
前記項1又は2に記載の無電解めっき用塗料組成物を用い、塗布処理、硬化処理、アルカリ処理、及び無電解めっき処理を行う事に依り、基材上に無電解めっきを形成する方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、新たに、無電解めっき用塗料組成物を提供する事が出来る。
【0014】
本発明の無電解めっき用塗料組成物は、配合後のポットライフを向上させる事が出来、この無電解めっき用塗料組成物を用いて、無電解めっきを行うと、めっきの乾燥時間を短縮させる事が出来る。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明を表す実施の形態は、発明の趣旨がより良く理解出来る説明であり、特に指定のない限り、発明内容を限定するものではない。
【0017】
本明細書において、「含む」及び「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。
【0018】
本明細書において、数値範囲を「A~B」で示す場合、A以上B以下を意味する。
【0019】
[1]無電解めっき用塗料組成物
従来、無電解めっき用塗料組成物は、ポリアミド樹脂、及びエポキシ硬化剤を基本成分として含有し、この無電解めっき用塗料組成物は、配合後のポットライフが短いという課題、或はこの無電解めっき用塗料組成物を用いて、無電解めっきを行うと、めっきの乾燥時間が長いという課題が有った。
【0020】
本発明の無電解めっき用塗料組成物は、
(1)パラジウム粒子(Pd粒子)と分散剤との複合体(Pd複合体)、
(2)溶媒、及び
(3)バインダー樹脂
を含有し、
前記(3)バインダー樹脂は、ポリアミド樹脂、及びエポキシ樹脂を含み、前記バインダー樹脂100重量部(総量)中の前記エポキシ樹脂の添加量は、0より多く、20重量部(20重量%)以下である。
【0021】
本発明の無電解めっき用塗料組成物は、好ましくは、更に、(4)ナノ粒子を含有し、この(4)ナノ粒子は、表面処理されており、その添加量は、(3)バインダー樹脂1重量部に対して、0.01重量部~100重量部である。
【0022】
本発明の無電解めっき用塗料組成物では、(4)ナノ粒子は、好ましくは、無機系酸化物であり、平均粒子径が10nm~1,000nmであり、二酸化ケイ素である。
【0023】
本発明は、更に、本発明の無電解めっき用塗料組成物を用い、塗布処理、硬化処理、アルカリ処理、及び無電解めっき処理を行う事に依り、基材上に無電解めっきを形成する方法を包含する。
【0024】
本発明の無電解めっき用塗料組成物は、従来の無電解めっき用塗料組成物に比べて、配合後のポットライフを向上させる事が出来る。
【0025】
本発明の無電解めっき用塗料組成物を用いて、無電解めっきを行うと、従来の無電解めっき用塗料組成物に比べて、めっきの乾燥時間を短縮させる事が出来る。
【0026】
(1)パラジウム粒子と分散剤との複合体(Pd複合体)
本発明の無電解めっき用塗料組成物は、パラジウム粒子(以下「Pd粒子」とも記す)と分散剤との複合体(以下「パラジウム複合体」、「Pd複合体」とも記す)を含む。
【0027】
Pd複合体は、次の方法で調製する事が出来る。
【0028】
ポリカルボン酸系高分子等の分散剤の存在下、塩化パラジウム等のパラジウム化合物(以下「Pd化合物」とも記す)から供給されるパラジウムイオン(以下「Pdイオン」とも記す)を、ヒドラジンヒドラート等の2級又は3級アミン類で還元する事に依って調製する事が出来る。
【0029】
分散剤
分散剤は、好ましくは、ポリカルボン酸系分散剤、ヒドロキシル基を有するブロック共重合体型高分子分散剤、及び/又はカルボキシル基を有するブロック共重合体型高分子分散剤等を用いる。分散剤は、市販品を用いても良い。
【0030】
ポリカルボン酸系高分子分散剤は、好ましくは、ポリカルボン酸アンモニウム塩、ポリカルボン酸ナトリウム塩、ポリカルボン酸トリエチルアミン塩、ポリカルボン酸トリエタノールアミン塩等を用いる。ポリカルボン酸系高分子分散剤は、例えば、サンノプコ(株)製のノプコサントK, R, RFA、ノプコスパース44-C、SNディスパーサント5020, 5027, 5029, 5034, 5045, 5468、花王(株)製のデモールP, EP, ポイズ520, 521, 530, 532A等を用いても良い。
【0031】
ヒドロキシル基を有するブロック共重合体型高分子分散剤は、好ましくは、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、アルキルヒドロキシエーテルカルボン酸塩等を使用することが好ましい。ヒドロキシル基を有するブロック共重合体型高分子分散剤は、例えば、ビックケミー・ジャパン(株)製のDISPERBYK190, 2010等を用いても良い。
【0032】
カルボキシル基を有するブロック共重合体型高分子分散剤は、好ましくは、アクリル酸-マレイン酸共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体、アクリル酸-スルホン酸共重合体等を用いる。カルボキシル基を有するブロック共重合体型高分子分散剤は、例えば、ビックケミー・ジャパン(株)製のDISPERBYK180, 187, 191, 194、(株)日本触媒製のアクアリックTL, GL, LSを用いても良い。
【0033】
分散剤は、これらの分散剤を1種単独で用いても良く、或は2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0034】
分散剤の中でも、より好ましくは、カルボキシル基を有するブロック共重合体型高分子分散剤を用いる。
【0035】
パラジウム粒子(Pd粒子)
Pd粒子は、分散剤の存在下、Pd化合物から供給されるPdイオンを、還元剤を用いて還元する事に依って調製する事が出来る。
【0036】
Pdイオンを供給するPd化合物は、好ましくは、塩化パラジウム、硫酸パラジウム、硝酸パラジウム、酢酸パラジウム、安息香酸パラジウム、サリチル酸パラジウム、パラトルエンスルホン酸パラジウム、過塩素酸パラジウム、ベンゼンスルホン酸パラジウム等を用いる。
【0037】
Pd化合物は、これらのPd化合物を1種単独で用いても良く、或は2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0038】
還元剤は、好ましくは、ヒドラジンヒドラート(ヒドラジン1水和物)、水素化ホウ素ナトリウム、N,Nジメチルエタノールアミン、ジエタノールアミン等の2級又は3級アミン類を用いる。
【0039】
還元する際に使用される溶媒(分散剤及びPdイオンを存在させる為の溶媒)は、好ましくは、次の(2)溶媒を使用する。
【0040】
溶媒は、これらの溶媒を1種単独で用いても良く、或は2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0041】
Pdイオンを還元する方法は、好ましくは、溶媒中に分散剤及びPdイオンを存在させた後、還元剤をその溶媒中に加える方法である。これによりPdイオンと還元剤とが接触し、Pdイオンを還元する事が出来る。
【0042】
Pd粒子の多くは、分散剤の外側に付着していると考えられる。例えば、Pd複合体の形状(分散剤全体の形状)が密集した球状である場合、Pd粒子の多くは、その球状の表面側(外側)に付着していると考えられる。
【0043】
Pd複合体中のPd粒子と分散剤との重量比は、好ましくは、Pd粒子:分散剤=35:65~85:15程度であり、より好ましくは、Pd粒子:分散剤=50:50~75:25程度である。
【0044】
Pd粒子単独の平均粒子径は、好ましくは、2nm~10nm程度である。
【0045】
Pd粒子の粒子径は、例えば、透過型電子顕微鏡を用いて測定する。Pd粒子単独の平均粒子径は、Pd粒子をランダムに10点選択し、そのPd粒子の粒子径を透過型電子顕微鏡で測定して、個数平均して、算出する(個数基準平均径)。
【0046】
Pd複合体の構造は、好ましくは、球形状の構造である。
【0047】
Pd複合体の平均粒子径は、好ましくは、10nm~300nm程度であり、より好ましくは、10 nm~100nm程度である。
【0048】
Pd複合体の平均粒子径は、例えば、粒径アナライザー(大塚電子株式会社、FPAR-1000)で測定する(重量基準平均径)。
【0049】
(2)溶媒
本発明の無電解めっき用塗料組成物は、溶媒を含む。
【0050】
溶媒(分散溶媒)は、Pd複合体を分散させる事が出来る。
【0051】
溶媒は、次の(3)バインダー樹脂との親和性に優れている。
【0052】
溶媒は、無電解めっき用塗料組成物中のPd複合体の分散性を付与する事が出来るという観点から、好ましくは、水、及びN-メチルピロリドン等の非プロトン性極性溶媒からなる群から選ばれた少なくとも1種の溶媒を用いる。
【0053】
非プロトン性極性溶媒は、好ましくは、N-メチルピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)等の非プロトン性極性溶媒;ジメチルスルホキシド(DMSO);γ-ブチロラクトン(GBL)等を用いる。
【0054】
非プロトン性極性溶媒は、好ましくは、NMP、DMF及びDMAcからなる群から選ばれた少なくとも1種の非プロトン性極性溶媒を用いる。
【0055】
溶媒は、Pdイオンの還元反応後に変換する事が可能である。溶媒を、例えば、水からNMPに変換する事が可能である。
【0056】
溶媒(分散溶媒)の使用量は、Pd複合体100質量部に対して、好ましくは、1×102質量部~1×106質量部程度と成る様に調整する。
【0057】
溶媒として水を用いる場合、溶媒の使用量は、Pd複合体100質量部に対して、好ましくは、5×103質量部~3×105質量部程度、より好ましくは、1×104質量部~2×105質量部程度と成る様に調整する。
【0058】
溶媒として非プロトン性極性溶媒を用いる場合、溶媒の使用量は、Pd複合体100質量部に対して、好ましくは、5×102質量部~5×103質量部程度、より好ましくは、1×103質量部~3×103質量部程度と成る様に調整する。
【0059】
溶媒は、これらの溶媒を1種単独で用いても良く、或は2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0060】
溶媒は、好ましくは、無電解めっき用塗料組成物に含まれる(1)Pd複合体の分散性、次の(3)バインダー樹脂の溶解性、(4)ナノ粒子の分散性等の観点、無電解めっき用塗料組成物の粘度、蒸発速度等の観点、無電解めっき用塗料組成物と基材(ABS樹脂、ガラス板等)との密着性の観点で、良好に無電解めっきを施せる溶媒を選択する。
【0061】
Pd複合体の分散を目的として使用した溶媒の他に、更に、別種の溶媒(追加溶媒)を用いても良い。
【0062】
追加溶媒は、好ましくは、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、1-ブチルアルコール、イソブチルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン、ジアセトンアルコール(4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン)、シクロヘキサノン等のケトン類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル類;安息香酸メチル、安息香酸エチル、サリチル酸メチル等の芳香族カルボン酸エステル類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;n-へキサン、n-へプタン、ミネラルスピリット等の脂肪族炭化水素類;メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、メチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート等のグリコールエーテルエステル類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のアルカノールエステル類;2-フェノキシエタノール(エチレングリコールフェニルエーテル)等を用いる。
【0063】
追加溶媒は、印刷性及び塗装性、印刷及び塗装後のレベリング過程の観点で、好ましくは、蒸発速度が遅い溶媒の用いる。蒸発速度が遅い溶媒は、好ましくは、ジアセトンアルコール、シクロヘキサノン、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、メチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、2-フェノキシエタノール等を用いる。追加溶媒は、希釈溶媒として用いても良い。
【0064】
追加溶媒は、これらの追加溶媒を1種単独で用いても良く、或は2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0065】
(3)バインダー樹脂
本発明の無電解めっき用塗料組成物は、バインダー樹脂を含む。
【0066】
本発明の無電解めっき用塗料組成物は、バインダー樹脂を含み、バインダー樹脂は、ポリアミド樹脂、及びエポキシ樹脂を含み、バインダー樹脂100質量部(総量)中のエポキシ樹脂の添加量は、好ましくは、0質量部より多く、25質量部(25質量%)以下であり、より好ましくは、1質量部~20質量部であり、更に好ましくは、5質量部~15質量部である。
【0067】
バインダー樹脂は、無電解めっき用塗料組成物の粘度、無電解めっき用塗料組成物と基材(ABS樹脂、ガラス板等)との密着性、硬化条件等の観点で、良好に無電解めっきを施せるバインダー樹脂を選択する。
【0068】
本発明の無電解めっき用塗料組成物は、バインダー樹脂について、この様に、特定の樹脂を、特定の含有量に調整する事に依り、従来の無電解めっき用塗料組成物に比べて、配合後のポットライフを向上させる事が出来る。
【0069】
本発明の無電解めっき用塗料組成物は、バインダー樹脂について、この様に、特定の樹脂を、特定の含有量に調整する事に依り、この無電解めっき用塗料組成物を用いて、無電解めっきを行うと、従来の無電解めっき用塗料組成物に比べて、めっきの乾燥時間を短縮させる事が出来る。
【0070】
バインダー樹脂は、前記(2)溶媒に分散又は溶解するものである。
【0071】
バインダー樹脂は、ポリアミド(樹脂)を用いる。
【0072】
ポリアミド
ポリアミドは、好ましくは、ポリエーテルエステルポリアミドである。
【0073】
ポリエーテルエステルポリアミドは、ポリアミド成分と、ポリオキシアルキレングリコ―ル及びジカルボン酸から成るポリエーテルエステル成分との反応で得られ、分子鎖中にアミド結合、エーテル結合、及びエステル結合を有するブロック共重合体である。
【0074】
ポリアミド成分は、好ましくは、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸から製造されるポリアミド、ヘキサメチレンジアミンと重合脂肪酸とアゼライン酸、又はセバシン酸から製造されるポリアミド、又は12-アミノドデカン酸、カプロラクタムから製造されるポリアミドである。
【0075】
ポリアミドの重合脂肪酸は、好ましくは、オレイン酸、リノール酸およびエルカ酸等の二量体である。
【0076】
市販の重合脂肪酸を用いる時は、二量体化脂肪酸を主成分とし、他に原料の脂肪酸や三量体化脂肪酸を含有するが、好ましくは、二量体化脂肪酸含有量が70重量%以上のものであり、より好ましくは、95重量%以上のものである。
【0077】
ポリエーテルエステルアミドのポリエーテルエステル成分において、ポリオキシアルキレングリコールは、好ましくは、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとのブロック又はランダム共重合体、エチレンオキサイドとテトラヒドロフランとのブロック又はランダム共重合体、2価フェノール化合物とポリオキシアルキレングリコールとの共重合体等である。
【0078】
ポリエーテルエステルアミドのジカルボン酸は、好ましくは、炭素数6~20のジカルボン酸である。炭素数6~20のジカルボン酸は、好ましくは、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、イソフタル酸等である。
【0079】
ポリエーテルエステルアミドの重量比(ポリアミドブロック/ポリエーテルエステルブロック)は、好ましくは、95/5~20/80である。
【0080】
ポリエーテルエステルアミドの末端は、好ましくは、アミノ基又はヒドロキシル基である。
【0081】
バインダー樹脂は、エポキシ樹脂を用いる。
【0082】
エポキシ樹脂は、好ましくは、固形タイプのビスフェノールA型エポキシ、エポキシ当量440~4,100のものを用いる。
【0083】
エポキシ樹脂の硬化剤は、好ましくは、フェノール系硬化剤又はアミン系硬化剤を使用する。フェノール系硬化剤を使用する場合、好ましくは、触媒として液状アミンを使用する。
【0084】
バインダー樹脂100質量部(総量)中のエポキシ樹脂の添加量は、0より多く、20質量部(20質量%)以下であり、好ましくは、1質量部~15質量部(1質量%~15質量%)であり、より好ましくは、5質量部~10質量部(5質量%~10質量%)である。
【0085】
バインダー樹脂は、追加的に、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂(PAI)、シェラック樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリオレフィン樹脂、酢酸ビニル塩化ビニル共重合樹脂、ブチラール樹脂等を用いても良い。
【0086】
アクリル樹脂は、アクリル酸エステルの重合体若しくはメタクリル酸エステルの重合体又はこれらをコモノマーとする共重合体である。アクリル樹脂は、好ましくは、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリアクリル酸メチル樹脂、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体等を用いる。
【0087】
ポリアミドイミド樹脂は、ポリイミド主鎖にアミド結合を導入した樹脂である。ポリアミドイミド樹脂は、好ましくは、無水トリメリット酸とジイソシアネートとの反応や無水トリメリット酸クロライドとジアミンとの反応等で得られる樹脂を用いる。
【0088】
追加のバインダー樹脂は、好ましくは、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂等を用い、より好ましくは、ポリオレフィン樹脂等を用いる。
【0089】
追加のバインダー樹脂は、これらの追加のバインダー樹脂を1種単独で用いても良く、或は2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0090】
バインダー樹脂の使用量(総使用量)は、Pd複合体100質量部に対して、好ましくは、1質量部~1×105質量部程度、より好ましくは、50質量部~5×104質量部程度と成る様に調整する。
【0091】
本発明の無電解めっき用塗料組成物は、バインダー樹脂について、この様に、特定の樹脂を、特定の含有量に調整する事に依り、配合後のポットライフを向上させる事が出来、併せて、この無電解めっき用塗料組成物を用いて、無電解めっきを行うと、めっきの乾燥時間を短縮させる事が出来る。
【0092】
(4)ナノ粒子
本発明の無電解めっき用塗料組成物は、好ましくは、更に、ナノ粒子を含有し、ナノ粒子は、表面処理されており、ナノ粒子の添加量は、バインダー樹脂1重量部に対して、0.01重量部~100重量部である。
【0093】
ナノ粒子は、好ましくは、無機系酸化物であり、より好ましくは、二酸化ケイ素である。ナノ粒子は、好ましくは、平均粒子径が10nm~1,000nmである。
【0094】
ナノ粒子は、好ましくは、無機系酸化物を用いる。無機系酸化物、好ましくは、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム等を用いる。
【0095】
ナノ粒子は、これらのナノ粒子を1種単独で用いても良く、或は2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0096】
無機系酸化物は、より好ましくは、二酸化ケイ素を主成分とするナノ粒子を用いる。二酸化ケイ素(SiO2)を主成分とするナノ粒子としてシリカがある。シリカは、二酸化ケイ素の他に無水ケイ酸、ケイ酸、酸化シリコンと呼ばれる。二酸化ケイ素を主成分とするナノ粒子は、ナノ粒子自体がアルカリ処理にて、溶解する点で、無電解めっきの反応性及び密着性が高い。
【0097】
ナノ粒子は、アルカリ処理にて溶解しないナノ粒子であっても、バインダー樹脂を用いる事に依り、バインダー樹脂がアルカリ処理にて膨潤し、溶解する結果、そのナノ粒子とバインダーとの間に隙間が生じ、またナノ粒子が脱落する事から、アルカリ処理にて溶解するナノ粒子と同程度の効果を得る事が出来る。
【0098】
ナノ粒子の形状は、好ましくは、球形、多角形等であることが好ましい。
【0099】
ナノ粒子の使用量は、バインダー樹脂1重量部に対して、好ましくは、0.01重量部~100重量部程度であり、より好ましくは、0.05重量部~20重量部程度であり、更に好ましくは、0.1重量部~3重量部程度程度と成る様に調整する。
【0100】
無電解めっき用塗料組成物において、ナノ粒子の使用量を調整する事に依り、無電解めっき用塗料組成物の粘度が良好に維持され、塗布し易い無電解めっき用塗料組成物となる。無電解めっき用塗料組成物において、ナノ粒子の使用量を調整する事に依り、無電解めっき用塗料組成物と基材との密着性が良好であり、無電解めっき膜が容易に剥離されない。
【0101】
ナノ粒子の平均粒子径は、好ましくは、10nm~1,000nm程度であり、より好ましくは、10nm~500nm程度であり、更に好ましくは、10nm~250nm程度である。ナノ粒子は、本発明の効果を損なわない範囲内で、前記平均粒子径の範囲を満たさないナノ粒子が含まれていても良い。
【0102】
本発明で、ナノ粒子の平均粒子径は、ナノ粒子の一次粒子の粒子径を意味する。
【0103】
ナノ粒子の粒子径は、その粒子径範囲に依り、およそ0.1μm以下であれば、例えば、動的光散乱法や電子顕微鏡観察に依り測定する。ナノ粒子の平均粒子径は、動的光散乱法で測定したものは、散乱光強度基準による調和平均粒子径(直径)とする。
【0104】
ナノ粒子の粒子径は、その粒子径範囲に依り、およそ0.1μm以上であれば、例えば、レーザー回折・散乱法に依り測定する。
【0105】
ナノ粒子の平均粒子径は、粒径アナライザー(例えば、大塚電子株式会社製のFPAR-1000)を用いて、重量換算分布に従って、測定する値である。
【0106】
ナノ粒子の平均粒子径は、10nm~1,000nm程度の範囲である事に依り、粒子は凝集され難く、分散性が良好で、無電解めっき用塗料組成物の扱い性が良い。ナノ粒子を含む無電解めっき用塗料組成物を使用した場合に、めっき後の外観が良好である。
【0107】
ナノ粒子の表面処理
ナノ粒子は、表面処理されている(表面処理されたナノ粒子である、表面処理ナノ粒子)。
【0108】
ナノ粒子が表面処理されている事に依り、ナノ粒子同士が良好に分散し、再凝集が引き起こさず、無電解めっき用塗料組成物を用いて均一なめっきを得る事が出来る。
【0109】
ナノ粒子の表面処理は、好ましくは、親水性処理、及び/又は疎水性処理を共に利用する。ナノ粒子の表面処理は、インキ組成物に含まれる前記溶媒及びバインダーの種類に依り、適宜選択する。
【0110】
ナノ粒子の表面処理は、バインダー樹脂及び溶媒が疎水性を持つものが多い事から、好ましくは、疎水性処理である。疎水性処理は、好ましくは、シランカップリング剤を用いた表面処理である。
【0111】
表面処理に使用されるシランカップリング剤は、好ましくは、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等を用いる。
【0112】
表面処理として分散安定性の観点から、より好ましくは、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等を用いる。
【0113】
シランカップリング剤は、これらのシランカップリング剤を1種単独で用いても良く、或は2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0114】
ナノ粒子(無機系酸化物)の表面処理は、例えば、未処理の無機充填材を混合機で常温にて攪拌分散させながら、シランカップリング剤を添加噴霧して5分間~15分間攪拌する事に依って行う。
【0115】
混合機は、公知の混合機を使用する事が出来、好ましくは、Vブレンダー、リボンブレンダー、バブルコーンブレンダー等のブレンダー、ヘンシェルミキサー、コンクリートミキサー等のミキサー、ボールミル等を用い、より好ましくは、ミキサーを用いる。
【0116】
シランカップリング剤として、例えば、フェニルトリメトキシシラン((CH3O)3SiC6H5)、フェニルトリエトキシシラン((C2H5O)3SiC6H5)等を用いると、ナノ粒子の表面をフェニルシラン処理する事が可能である。
【0117】
本発明の無電解めっき用塗料組成物は、表面がフェニルシラン処理されたナノ粒子、言い換えると、表面がフェニルシラン基で表面改質されたナノ粒子(フェニルシラン表面処理ナノ粒子)を含むことが好ましい。
【0118】
シランカップリング剤の処理量(使用量)は、ナノ粒子100重量部当たり、好ましくは、0.5重量部~2重量部程度と成る様に調整する。
【0119】
ナノ粒子は、好ましくは、平均粒子径が10nm~1,000nm程度の球状シリカであり、シリカはシランカップリング剤で表面処理(疎水性処理)されている事が好ましい。
【0120】
本発明の無電解めっき用塗料組成物は、好ましくは、ナノ粒子(二酸化ケイ素等)、及び/又は表面処理されたナノ粒子(フェニルシラン処理されたシリカ等)を含む。
【0121】
本発明の無電解めっき用塗料組成物を用いて、所定の方法にて、塗布処理、硬化処理、アルカリ処理、次いで無電解めっき処理を行う事に依り、無電解めっきの反応性が高く、クロムめっきに耐え得る優れた密着性と、装飾用めっきに耐え得る優れた平滑性を発現できる皮膜を形成する事が可能である。前記インキ組成物を用いると、更に、基材上にパターンの拡がりを抑えつつ、部分めっきを形成することが可能である。
【0122】
本発明の無電解めっき用塗料組成物は、ナノ粒子)、及び/又は表面処理されたナノ粒子を含む事から、この無電解めっき用塗料組成物を用いて形成させた皮膜は、温度差による基材とめっき皮膜の間に生じる応力を緩和する効果に優れる。その皮膜は、基材とめっき皮膜との間に存在する事で、その応力を緩和し、密着力の低下を防ぐ事が可能になる。
【0123】
本発明の無電解めっき用塗料組成物を用いて形成させためっき皮膜は、温度差の大きい環境に長時間曝されても、高い密着性を維持する事が出来る。
【0124】
[2]無電解めっき用塗料組成物の製造方法
本発明の無電解めっき用塗料組成物は、次の方法で製造する事が出来る。
【0125】
Pd粒子は、前述の通り、分散剤の存在下、Pd化合物から供給されるPdイオンを、還元剤を用いて還元する事に依って調製する事とが出来る。
【0126】
本発明の無電解めっき用塗料組成物は、好ましくは、
(i)(2)溶媒中に、Pdイオンと分散剤とを存在させ、還元剤を用いてそのPdイオンを還元し、(1)Pd粒子と分散剤との複合体を作製する工程、
(ii)(2)溶媒中に、追加的に、(4)ナノ粒子を分散させ、次いで(3)バインダー樹脂を混合して、混合物を作製する工程、及びに、
(iii)前記工程(i)で得られた(2)溶媒、及び(1)Pd粒子と分散剤との複合体の混合物に、前記工程(ii)で得られた(2)溶媒、追加的に、(4)ナノ粒子、及び(3)バインダー樹脂の混合物を混合する工程、
を含む製造方法に依り製造する。
【0127】
工程(i)及び工程(ii)は、どちらが先の工程であっても良い。
【0128】
製造方法に依り、めっき処理をする為に、無電解めっきの前処理で使用する無電解めっき用塗料組成物を製造する事が出来る。
【0129】
本発明の無電解めっき用塗料組成物を用いると、無電解めっきの反応性が高く、クロムめっきに耐え得る優れた密着性と、装飾用めっきに耐え得る優れた平滑性を発現できる皮膜形成する事が可能である。本発明の無電解めっき用塗料組成物を用いると、基材上にパターンの拡がりを抑えつつ、部分めっきを形成する事が可能である。本発明の無電解めっき用塗料組成物を用いると、無電解めっきの反応性を向上させる目的で、無電解めっきの還元剤濃度を高めたり、反応温度を上げたりする等の処理を必要としない。本発明の無電解めっき用塗料組成物を用いると、更に、有害な物質によるエッチング工程、煩雑な触媒付与工程等を必要としない。
【0130】
本発明の無電解めっき用塗料組成物は、配合後のポットライフが向上しており、併せて、この無電解めっき用塗料組成物を用いて、無電解めっきを行うと、めっきの乾燥時間を短縮させる事が出来る。
【0131】
工程(i)
(2)溶媒中に、Pdイオンと分散剤とを存在させ、還元剤を用いてそのPdイオンを還元し、(1)Pd粒子と分散剤との複合体(Pd複合体)を作製する。
【0132】
先ず、Pdイオンと分散剤とを溶媒(分散媒)中に存在させる。Pdイオンとして、供給源として前記Pdイオンを供給するPd化合物を使用する。
【0133】
各成分の使用量(重量部)は「Pd化合物」基準とする。
【0134】
分散剤として、前記分散剤を使用する。Pdイオンと分散剤との使用比率(重量比)は、Pd化合物100重量部に対して、分散剤を、好ましくは、10重量部~200重量部程度であり、より好ましくは、30重量部~150重量部程度を使用する。
【0135】
溶媒として、前記水等の(2)溶媒を使用する。溶媒の使用量は、Pdイオンと分散剤を均一に存在させる範囲に調整し、Pd化合物100重量部に対して、好ましくは、1×104重量部~3×105重量部程度であり、より好ましくは、1×104~1×105重量部程度を使用する。
【0136】
次に、Pdイオンと還元剤とを反応させる事に依り、Pdイオンが還元剤に依って還元される。即ち、Pdイオンの還元反応が生じ、結果として前記(1)Pd粒子と分散剤との複合体(Pd複合体)を得る事が出来る。還元剤は、前記Pd複合体を作製するために使用される還元剤を使用する。還元剤の使用量は、Pd化合物100重量部に対して、好ましくは、100重量部~800重量部程度であり、より好ましくは、200重量部~600重量部程度を使用する。
【0137】
還元剤を用いる反応の反応温度は、好ましくは、35℃~45℃程度の温度で反応を行い、50℃~60℃程度まで昇温する。
【0138】
還元剤を用いる反応の反応時間は、好ましくは、1時間~5時間程度の時間で反応を行う。
【0139】
還元剤を用いる反応の際の圧力及び雰囲気は、好ましくは、大気圧下又は大気(空気)雰囲気下で行う。反応は、好ましくは、ビーカー等の開放系で行う。反応は、好ましくは、Pdイオン(Pd化合物)、分散剤及び還元剤を含有する溶液を、羽根付き撹拌棒で撹拌する。
【0140】
次に、溶媒及びPd複合体を含む混合物(Pd複合体含有液)を限外濾過し、Pd粒子と分散剤との複合体を分離する。この操作に依り、Pd複合体含有液に含まれる無機塩、過剰の分散剤等を除去する事が出来る。例えば、Pd複合体含有液に対して、濾過処理を行い、水、NMP等の溶媒を補填することが可能である。この処理は、操作を繰り返す事が出来る。
【0141】
Pdイオンの還元反応後に、溶媒を変換する事が可能である。例えば、溶媒は、好ましくは、水を使用し、その後、水をNMP等(溶媒、分散媒)に変換する事に依り、NMP((2)溶媒)及び(1)Pd複合体の混合物を作製する事が可能である。
【0142】
工程(ii)
(2)溶媒中に、追加的に、(4)ナノ粒子を分散させ、次いで(3)バインダー樹脂を混合して混合物を作製する。
【0143】
ナノ粒子を溶媒(分散媒)中に分散させる。ナノ粒子は、前記ナノ粒子を使用し、好ましくは、表面処理されたナノ粒子を用いる。ナノ粒子は、好ましくは、平均粒子径が10nm~1,000nm程度の球状シリカを用い、より好ましくは、シリカはシランカップリング剤で表面処理(疎水性処理)されていシリカを用いる。
【0144】
溶媒として、好ましくは、2-フェノキシエタノール、ジアセトンアルコール、シクロヘキサノン等の前記(2)溶媒を使用する。溶媒の使用量は、ナノ粒子を均一に存在させる範囲で調整し、ナノ粒子100重量部に対して、好ましくは、100重量部~10,000重量部程度であり、より好ましくは、200重量部~5,000重量部程度を使用する。
【0145】
バインダーは、前記(3)バインダー樹脂を使用する。バインダーの使用量は、無電解めっき用塗料組成物の粘度、無電解めっき用塗料組成物と基材(ABS樹脂、ガラス板等)との密着性、硬化条件等の観点から、ナノ粒子100重量部に対して、好ましくは、1重量部~10,000重量部程度であり、より好ましくは、5重量部~2,000重量部程度であり、更に好ましくは、33重量部~1000重量部程度を使用する。
【0146】
混合は、特に限定されず、好ましくは、大気圧下又は大気(空気)雰囲気下で行う。混合は、好ましくは、ビーカー等の開放系で行う。混合は、好ましくは、溶媒、ナノ粒子及びバインダーを含有する混合物を、羽根付き撹拌棒で撹拌する。
【0147】
工程(iii)
前記工程(i)で得られた(2)溶媒及び(1)Pd複合体の混合物に、前記工程(ii)で得られた(2)溶媒、追加的に、(4)ナノ粒子及び(3)バインダー樹脂の混合物を混合する。
【0148】
[3]めっきを形成する方法
本発明の無電解めっき用塗料組成物を用い、塗布処理、硬化処理、アルカリ処理、及び無電解めっき処理を行う事に依り、基材上にめっきを形成する事が出来る。本発明の無電解めっき用塗料組成物を用い、(i)基材上に無電解めっき用塗料組成物を塗布し、(ii)その無電解めっき用塗料組成物に含まれる(2)溶媒を揮発、及び/又は乾燥させ、(iii)その無電解めっき用塗料組成物に含まれる(3)バインダー樹脂を硬化させ、(iv)無電解めっき用塗料組成物が塗布された基材をアルカリ処理し、(v)その基材を無電解めっきする。
【0149】
基材
基材は、好ましくは、基材として、プラスチック(樹脂)、ガラス、金属、セラミックス等を用いる。
【0150】
プラスチック(樹脂)は、好ましくは、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリブタジエン、ポリブテン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、ポリイソブチレン、ポリイソプレン、ポリメチルペンテン(TPX)等のポリオレフィン等を用いる。
【0151】
プラスチック(樹脂)は、好ましくは、ABS樹脂(アクリロニトリル、ブタジエン及びスチレンの共重合合成樹脂)、AES樹脂(アクリロニトリル、エチレン及びスチレンの共重合合成樹脂)、ASA樹脂(アクリロニトリル、アクリレート及びスチレンの共重合合成樹脂等を用いる。
【0152】
プラスチック(樹脂)は、好ましくは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリ乳酸エステル等のポリエステル;ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル樹脂;ポリカーボネート(PC);PC/ABS;ポリ塩化ビニル;ポリアミド;ポリイミド;ポリアミドイミド;ポリエーテルイミド;ポリアセタール;ポリエーテルエーテルケトン;ノルボルネン骨格を有する環状ポリオレフィン;ポリフェニレンスルファイド(PPS);液晶ポリマー(LCP);変性ポリフェニルエーテル;ポリスルホン;ポリエーテルスルホン(PES);フェノール;ポリフタルアミド(PPA);ポリアリレート等を用いる。
【0153】
プラスチック(樹脂)には、上記のものに必要に応じ、ガラス繊維やタルクなどの無機化合物やゴムを複合化したものを用いても良い
セラミックスは、好ましくは、ガラス、アルミナ等を用いる。
【0154】
基材として不織布を使用する場合、好ましくは、木質繊維、ガラス繊維、石綿、ポリエステル繊維、ビニロン繊維、レーヨン繊維、ポリオレフィン繊維等の不織布を使用する。
【0155】
基材の形状は、好ましくは、板状(又はフィルム状)、不織布状(又は織布状)、糸状、金型で成形された各種形状等の形状である。
【0156】
基材に合わせて、無電解めっき用塗料組成物に含まれる溶剤、バインダー等を適宜選択する。
【0157】
塗布処理
本発明の無電解めっき用塗料組成物を、基材に対して塗布する方法は、好ましくは、バーコーター、グラビア印刷機(グラビアオフセット)、フレキソ印刷機、インクジェット印刷機、ディスペンサー、ディッピング、スプレー、スピンコーター、ロールコーター、リバースコーター、スクリーン印刷機等を用いる塗布方法である。
【0158】
塗布方法は、マスキングレス、生産効率等の観点から、好ましくは、グラビアオフセット印刷、パッド印刷、ディスペンサーを採用する。めっきのパターンに合わせて、好ましくは、スプレー塗装を採用する。
【0159】
塗布方法に合わせて、無電解めっき用塗料組成物の粘度を調整する。
【0160】
無電解めっき用塗料組成物を、グラビアオフセット印刷、パッド印刷にて塗布する場合、無電解めっき用塗料組成物の粘度は、好ましくは、50mPa・s~1,000mPa・s程度である。
【0161】
無電解めっき用塗料組成物を、ディスペンサーで塗装する場合、マスキングを施した上で、スプレー塗装する場合、無電解めっき用塗料組成物の粘度は、好ましくは、100mPa・s程度以下である。
【0162】
乾燥及び硬化前の無電解めっき用塗料組成物の膜厚は、使用用途に依って、適宜選択し無電解めっき用塗料組成物の粘度に依存する。乾燥及び硬化前の無電解めっき用塗料組成物の膜厚は、無電解めっき用塗料組成物を良好に塗布する事が出来、無電解めっき用塗料組成物の液垂れを防止する観点から、好ましくは、1μm~120μm程度であり、より好ましくは、10μm~100μm程度である。
【0163】
硬化処理
基材に、無電解めっき用塗料組成物を塗布した後、無電解めっき用塗料組成物に含まれる溶媒(溶剤)を揮発、及び/又は乾燥させ、次いで硬化処理を行う。硬化処理に依り、バインダーが硬化される。
【0164】
基材に無電解めっき用塗料組成物を塗布した後、好ましくは、乾燥処理を行う。乾燥処理に依って、無電解めっきを行う際に不必要な溶媒を効率的に除去すると共に、塗膜と基材との密着性及び塗膜の表面強度を向上させる事が出来る。乾燥処理の温度は、好ましくは、60℃~400℃程度であり、より好ましくは、80℃~150℃程度で行う。乾燥処理の時間は、乾燥温度に合わせて、好ましくは、6秒~60分程度であり、より好ましくは、10分~30分程度で行う。
【0165】
硬化処理の温度は、無電解めっき用塗料組成物に含まれる前記(3)バインダー樹脂の種類に合わせて、適宜調整する。硬化処理の温度は、好ましくは、40℃~400℃程度でありる。基材としてプラスチックを用いる場合、プラスチック素材の軟化温度を考慮し、硬化処理の温度を、好ましくは、40℃~200℃程度に設定する。
【0166】
乾燥及び硬化後の無電解めっき用塗料組成物の膜厚は、無電解めっき用塗料組成物の固形分濃度に依存する。乾燥及び硬化後の無電解めっき用塗料組成物の膜厚は、無電解めっきを効率良く行う事(無電解めっきの反応速度が良い)が出来、めっき密着性が良好に発揮されるという観点から、好ましくは、0.05μm~20μm程度であり、より好ましくは、1μm~5μmである。
【0167】
アルカリ処理
無電解めっき用塗料組成物に含まれる溶媒を、揮発及び/又は乾燥させ、無電解めっき用塗料組成物に含まれるバインダーを硬化した後に、無電解めっき用塗料組成物が塗布された基材をアルカリ処理する。
【0168】
アルカリ処理に依り、バインダー樹脂に被覆されていない最表層のナノ粒子を溶解及び/又は脱落させる事が出来る。その結果、その最表層の次の表層(最表層の下層)の薄い膜のバインダー成分で被覆されたナノ粒子層を露出させる事が出来る。
【0169】
本発明の無電解めっき用塗料組成物を用いて、これら一連の処理を行う事に依り、基材上に無電解めっき用塗料組成物の塗膜(インキ膜)を形成する事が出来る。インキ膜には、Pd複合体が含まれる。Pd複合体は、塗膜に対して均一に分散された状態で存在する。本発明の無電解めっき用塗料組成物を用いる事に依り、インキ膜上に対して、より効率的に無電解めっきを行うことができる。
【0170】
無電解めっき処理
アルカリ処理後のインキ膜を、水洗した後、無電解めっきを行う事に依り、基材の上にめっき(パターンめっき)を形成する事が出来る。インキ膜が形成された基材は、金属を析出させる為のめっき液と接触し、これに依り無電解めっき皮膜が形成される。インキ膜は、無電解めっきの反応性が良く、むらがなく、密着性及び外観性に優れる。
【0171】
めっき液は、一般に、無電解めっきに使用されるめっき液を使用する。めっき液は、好ましくは、銅、金、銀、ニッケル、クロム等を用いる。めっき液は、より好ましくは、銅又はニッケルを含むめっき液を用いる。
【0172】
めっき条件は、常法に従う。本発明のインキ膜は、無電解めっきの反応性が非常に良好である為、めっき液の還元剤濃度やアルカリ成分濃度を高める必要がない。その為、めっき液の寿命が長持ちするだけでなく、インキのパターン通りにめっきが選択的に析出される。インキ膜(本発明の無電解めっき用塗料組成物を用いて形成させた塗膜)は、パターン形成能に優れる。
【0173】
無電解めっき処理で、無電解銅めっき浴を用いる場合、その処理温度は、好ましくは、25℃~65℃程度であり、その処理時間は、好ましくは、10分~20分程度である。この無電解めっき処理に依り、0.3μm~1.0μm程度の析出膜厚を形成する。
【0174】
無電解めっき処理で、無電解ニッケルボロン浴を用いる場合、その処理温度は55~70℃程度が好ましく、その析出速度は5μm/hr(60℃)程度が好ましい。
【0175】
無電解めっき処理で、無電解ニッケルりん浴を用いる場合、その処理温度は、好ましくは、30℃~95℃程度であり、その析出速度は、好ましくは、浴温30℃においては3μm/hr程度、90℃においては20μm/hr程度である。
【0176】
基材上に、本発明の無電解めっき用塗料組成物を用いて、めっきを形成する技術は、好ましくは、全面めっきに使用したり、パターンめっきに使用したりする。
【0177】
加飾を目的とする場合、無電解めっきの後、好ましくは、電解銅めっき、半光沢ニッケル、光沢ニッケル、クロムめっき等の一般的なプロセスを用いる。
【0178】
加飾処理で、電解銅めっき浴を用いる場合、その処理温度は、好ましくは、20℃~60℃程度であり、電流密度は、好ましくは、1A/m2~10A/m2程度であり、処理時間は、好ましくは、10分~60分程度である。この加飾処理に依り、5μm~40μm程度の析出膜厚を形成する。
【0179】
加飾処理で、半光沢ニッケルめっき浴を用いる場合、その処理温度は、好ましくは、45℃~55℃程度であり、電流密度は、好ましくは、1A/m2~10A/m2程度であり、処理時間は、好ましくは、10分~60分程度である。この加飾処理に依り、5μm~20μm程度の析出膜厚となる。
【0180】
加飾処理で、光沢ニッケルめっき浴を用いる場合、その処理温度は、好ましくは、45℃~55℃程度であり、電流密度は、好ましくは、1A/dm2~10A/dm2程度であり、処理時間は、好ましくは、10分~60分程度である。この加飾処理に依り、5μm~20μm程度の析出膜厚となる。
【0181】
加飾処理で、クロムめっき浴を用いる場合、その処理温度は、好ましくは、40℃~60℃程度であり、電流密度は、好ましくは、10A/m2~60A/m2程度であり、処理時間は、好ましくは、1分~5分程度である。この加飾処理に依り、0.1μm~0.3μm程度の析出膜厚となる。
【0182】
[3]無電解めっき皮膜及び皮膜を載せた成形品
本発明の無電解めっき用塗料組成物は、バインダー樹脂について、特定の樹脂を、特定の含有量に調整する事に依り、配合後のポットライフを向上させる事が出来る。
【0183】
本発明の無電解めっき用塗料組成物は、バインダー樹脂について、特定の樹脂を、特定の含有量に調整する事に依り、この無電解めっき用塗料組成物を用いて、無電解めっきを行うと、めっきの乾燥時間を短縮させる事が出来る。
【0184】
基材に、本発明の無電解めっき用塗料組成物を塗布し、インキ膜を形成し、無電解めっきを行う。無電解めっき皮膜を載せた成形品(被めっき物)は、めっき皮膜の密着性に優れる。
【0185】
無電解めっき皮膜を載せた成形品は、例えば、携帯電話、パソコン、冷蔵庫等の電化製品の筐体;エンブレム、スイッチベース、ラジエータグリル、ドアハンドル、ホイールカバー等の自動車用部品等に使用する。
【0186】
本発明の無電解めっき用塗料組成物を用いると、基材(プラスチック(樹脂)等)上に、めっきを行う無電解めっきにおいて、無電解めっきの反応性が高く、クロムめっきまでの多層めっきに耐え得る優れた密着性と装飾用めっきに耐え得る優れた平滑性を発現する事が出来る。無電解めっきでは、パターンの拡がりを抑え、良好に部分めっきをする事が可能である。
【0187】
本発明の無電解めっき用塗料組成物を用いると、無電解めっきの反応性を向上させる目的で、無電解めっきにおける還元剤の濃度を高める必要が無く、また無電解めっきの反応温度を上げる必要もない。更に、また有害な物質によるエッチング工程、煩雑な触媒付与工程等を必要としない。
【0188】
本発明の無電解めっき用塗料組成物が、無電解めっきの反応性が高く、クロムめっきまでの多層めっきに耐え得る良好な密着性を実現できる理由は、次の原理によるものと考えられる。先ず、基材(プラスチック等)とインキ組成物との密着メカニズムは次の通りである。本発明の無電解めっき用塗料組成物に含まれる溶媒(溶剤)成分に依り、基材表面が浸食され、無電解めっき用塗料組成物のバインダー樹脂が基材に入り込み、基材と相溶し混成層を形成する。例えば、ABS樹脂であれば、ABS樹脂に含まれるブタジエンゴムが溶解し、膨潤するので、無電解めっき用塗料組成物のバインダー樹脂が基材に入り込む。
【0189】
無電解めっきの反応性及び密着性向上のメカニズムは次の通りである。本発明の無電解めっき用塗料組成物が塗布された基材を、アルカリ処理する事に依り、バインダー樹脂に被覆されていない最表層のナノ粒子が溶解及び/又は脱落する。これに依り、最表層の次の表層(最表層の下層)のバインダー成分で薄く被覆されたナノ粒子層が露出する。その結果、このナノ粒子層を被覆している薄いバインダー被膜に含まれる無電解めっきの触媒作用を持つPd粒子と、無電解めっき液との接触頻度が増える。
【0190】
また、そのアルカリ処理に依り、ナノ粒子とバインダー成分との間に隙間が生じ、その隙間で毛細管現象が生じ、めっき液のインキ膜内部への浸透性が良くなり、Pd粒子と無電解めっき液との接触頻度が増える。この現象に因り、インキ膜の表面から膜内部の深い処に存在するPd粒子に依り、無電解めっき液中の金属イオンが還元され、還元された金属が根を這う様に膜内部から析出する為、インキ膜とめっき膜との高い密着性が得られる。
【実施例0191】
以下に、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。
【0192】
本発明は、以下の具体的な実施例に限定されない。
【0193】
[1]パラジウム粒子(Pd粒子)と分散剤との複合体(Pd複合体)の作製
3Lフラスコに、イオン交換水944.5gと硝酸パラジウム5.0gとを加えて撹拌し、硝酸パラジウム水溶液を作製した。この硝酸パラジウム水溶液に、カルボキシル基を有するブロック共重合体型高分子分散剤(DISPERBYK194、ビックケミー・ジャパン社製、不揮発分53wt%)3.8gを更に加えて、硝酸パラジウムを溶解させた。
【0194】
この溶液を42℃になるまで加熱した後、撹拌しながらヒドラジン1水和物10.0gを加えた。次いで、この溶液を、室温下(23℃)で1時間撹拌した。溶液の温度は、ヒドラジン1水和物の添加後に53℃まで上昇したが、1時間撹拌した後の溶液の温度は40℃であった。
【0195】
この操作に依り、水溶液中のパラジウムイオン(Pdイオン)が還元された。この溶液を限外濾過フィルターAHP-1010(旭化成株式会社製)を用いて、還元されたPd複合体含有液と、無機塩含有液とを分離し、Pd複合体(Pd粒子と分散剤との複合体)含有液を得た。
【0196】
このPd複合体含有液を遠心分離機を用いて、16時間、13,000G荷重の掛かる回転速度で回転させ、固形分を沈降させた。得られた上澄み液をデカンテーションで除去した後、この除去した上澄み液と同じ重量分のN-メチルピロリドン(NMP)を加えた。この操作を幾度と繰り返し、分散媒をNMPとしたPd粒子と分散剤との複合体(Pd複合体)を得た。
【0197】
[2]実施例の無電解めっき用塗料組成物の作製
実施例では、バインダー樹脂を、ポリアミド樹脂、及びエポキシ樹脂を含み、前記バインダー樹脂100質量部(総量)中の前記エポキシ樹脂の添加量は、0より多く、20重量部(20重量%)以下で、調製した。
【0198】
実施例1(バインダー樹脂中エポキシ樹脂10質量%)
2-フェノキシエタノール14重量部に、ナノ粒子としてフェニルシラン処理された平均粒子径50nmのシリカ(アドマテックス製アドマナノYA050C-SP3)1.9重量部を加え、薬さじ(小)でステアし分散させた。
【0199】
このナノ粒子分散溶液に、バインダー樹脂(バインダー樹脂100質量部(総量)中、ポリアミド樹脂90質量部、及びエポキシ樹脂10質量部を含むバインダー樹脂)5質量部、及び前記Pd複合体1質量部を加え、振とう撹拌させ、無電解めっき用塗料組成物を作製した。
【0200】
実施例2(バインダー樹脂中エポキシ樹脂20質量%)
このナノ粒子分散溶液に、バインダー樹脂(バインダー樹脂100質量部(総量)中、ポリアミド樹脂80質量部、及びエポキシ樹脂20質量部を含むバインダー樹脂)5質量部、及び前記Pd複合体1質量部を加え、振とう撹拌させ、無電解めっき用塗料組成物を作製した。
【0201】
実施例3(バインダー樹脂中エポキシ樹脂5質量%)
このナノ粒子分散溶液に、バインダー樹脂(バインダー樹脂100質量部(総量)中、ポリアミド樹脂95質量部、及びエポキシ樹脂5質量部を含むバインダー樹脂)5質量部、及び前記Pd複合体1質量部を加え、振とう撹拌させ、無電解めっき用塗料組成物を作製した。
【0202】
此れに依り、実施例の無電解めっき用塗料組成物塗布サンプルを得た。
【0203】
[3]比較例の無電解めっき用塗料組成物の作製
比較例では、バインダー樹脂を、ポリアミド樹脂、及びエポキシ樹脂を含み、前記バインダー樹脂100質量部(総量)中の前記エポキシ樹脂の添加量は、0(添加無し)、又は、20重量部(20重量%)を超える量で、調製した。
【0204】
比較例1(バインダー樹脂中、エポキシ樹脂0質量%)
実施例1の無電解めっき用塗料組成物において、バインダー樹脂において、バインダー樹脂(バインダー樹脂100質量部(総量)中、ポリアミド樹脂100質量部、及びエポキシ樹脂0質量部を含むバインダー樹脂)5質量部を用いた事以外は、実施例1と同様に、無電解めっき用塗料組成物を作製した。
【0205】
比較例2(バインダー樹脂中、エポキシ樹脂30質量%)
実施例1の無電解めっき用塗料組成物において、バインダー樹脂において、バインダー樹脂(バインダー樹脂100質量部(総量)中、ポリアミド樹脂70質量部、及びエポキシ樹脂30質量部を含むバインダー樹脂)5質量部を用いた事以外は、実施例1と同様に、無電解めっき用塗料組成物を作製した。
【0206】
比較例3(バインダー樹脂中、エポキシ樹脂40質量%)
実施例1の無電解めっき用塗料組成物において、バインダー樹脂において、バインダー樹脂(バインダー樹脂100質量部(総量)中、ポリアミド樹脂60質量部、及びエポキシ樹脂40質量部を含むバインダー樹脂)5質量部を用いた事以外は、実施例1と同様に、無電解めっき用塗料組成物を作製した。
【0207】
比較例4(バインダー樹脂中、変性エポキシ樹脂100%)
実施例1の無電解めっき用塗料組成物において、バインダー樹脂において、市販の変性エポキシ樹脂(アロンマイティBX-60)5質量部を用いた事以外は、実施例1と同様に、無電解めっき用塗料組成物を作製した。
【0208】
[4]塗工条件
バーコーターを用いて、得られた無電解めっき用塗料組成物を塗工する事で、塗布サンプルを得た。
【0209】
塗工条件(1)
原料としてポリカーボネート樹脂(テイジン製パンライト2151)を射出成形に依り作製した平板プレートに、前記無電解めっき用塗料組成物を、バーコーター(オーエスジーシステムプロダクツ株式会社製、A-bar#6)で塗工し、120℃×10分乾燥させた。
【0210】
塗工条件(2)
原料としてポリカーボネート樹脂(テイジン製パンライト2151)を射出成形に依り作製した平板プレートに、前記無電解めっき用塗料組成物を、バーコーター(オーエスジーシステムプロダクツ株式会社製、A-bar#6)で塗工し、120℃×2分乾燥させた。
【0211】
塗工条件(3)
原料としてポリカーボネート樹脂(テイジン製パンライト2151)を射出成形に依り作製した平板プレートに、前記無電解めっき用塗料組成物を、配合後20日経過したのち、バーコーター(オーエスジーシステムプロダクツ株式会社製、A-bar#6)で塗工し、120℃×10分乾燥させた。
【0212】
塗工条件(4)
原料としてアクリル樹脂(三菱ケミカル製アクリライトL)を射出成形に依り作製した平板プレートに、前記無電解めっき用塗料組成物を、バーコーター(オーエスジーシステムプロダクツ株式会社製、A-bar#6)で塗工し、80℃×30分乾燥させた。
【0213】
[5]めっき条件
めっき条件(1)
pH11~pH14に調整され、45℃に加温されたアルカリ処理液に、塗工条件(1)、(2)、(3)で得られた無電解めっき用塗料組成物塗布サンプルを、3分間浸した。その後、市水を用いて水洗し、イオン交換水に置換した。
【0214】
次いで、無電解めっき用塗料組成物塗布サンプルを、無電解銅めっき浴に浸漬させる事に依り、めっき後の外観を評価した。
【0215】
更に、得られた無電解銅めっきサンプルに対して、電気銅めっきを行い、120℃30分乾燥させた。
【0216】
電気銅めっき浴は、硫酸銅80g/L、硫酸150g/L、株式会社JCU 社製Cu-brite 5mL/L、めっき条件は、25℃、1A/dm2×3分、4A/dm2×27分で、25μmの銅めっき皮膜を形成した。
【0217】
この電解銅めっき皮膜に、カッターナイフを用いて10mm幅の切れ込みを入れ、ピール強度試験機(デジタルフォースゲージZTA-DPU、株式会社IMADA 社製)によりピール強度(N/cm)を測定した。
【0218】
めっき条件(2)
塗工条件(4)で得られた無電解めっき用塗料組成物塗布サンプルを、pH11~pH14に調整され、45℃に加温されたアルカリ処理液に、3分間浸した。その後、市水を用いて水洗し、イオン交換水に置換した。
【0219】
次いで、無電解めっき用塗料組成物塗布サンプルを、無電解ニッケルめっき浴に浸漬させ、水洗、および80℃で30分乾燥させた。得られたサンプルのめっき後の外観、及びクロスカット試験により密着性を評価した。
【0220】
[6]評価試験
めっき後の外観
○:めっき後の外観が、金属(銅、ニッケル)色である。
×:めっき後の外観が、析出が十分でなく黒色である。
【0221】
めっき後の背面黒化
ポリカーボネート、アクリル等の透明基材に対して、ディスプレイ用途の配線形成を行う際、裏面(背面、基材側から見た面)の配線は、光沢反射を抑える為に、黒化処理がなされている必要がある。
【0222】
○:めっき後の外観が背面黒化し、黒色である。
×:めっき後の外観が背面黒化せず、銅の光沢がある。
【0223】
めっきのピール強度
無電解めっき用塗料組成物塗布サンプルを、90°剥離試験方法に依り、ピール強度を評価した。めっきされた幅10mmのめっき皮膜を引き剥がし、その一端を引張試験機(IMADA製デジタルフォースゲージZTS-50N)の引張治具に持たせた。そのめっきされためっき皮膜の剥がしていない側をもう一つの引張治具に持たせ、試験速度25mm/分で引張試験を行った。
【0224】
その最大荷重をピール強度とし、密着性を評価した。
【0225】
◎:平均ピール強度5N/cm以上である。
〇:平均ピール強度3N/cm~5N/cmである。
×:平均ピール強度3N/cm以下である。
【0226】
クロスカット試験
得られたニッケルめっき皮膜上に、JIS K 5600(クロスカット法)に基づいて、1mm間隔で25マスの切込みを入れた。その上にセロハンテープ(セロテープ(登録商標)、ニチバン株式会社製)を貼り、テープを剥離した時の剥がれなかったマス目の数を測定した。
【0227】
一例として、表中、「25/25」は、25マス全てにおいて剥離していない事を示し、「2/25」は、23マスが剥離し、残り2マスが剥離していない事を示す。
【0228】
クロスカット試験
総合評価
◎:めっき後の外観「〇」、めっき後の背面黒化「〇」、平均ピール強度5N/cm以上である。
〇:めっき後の外観「〇」、めっき後の背面黒化「〇」、平均ピール強度3N/cm以上である。
【0229】
【0230】
【0231】
表2の結果から、比較例4(変性エポキシ樹脂)は、調製後、乾燥時間を短くすると(10分→2分)、ピール強度は低かった。
【0232】
表2の結果から、実施例(本発明)の無電解めっき用塗料組成物を用いて、無電解めっきを行うと、乾燥時間を2分に短縮しても(10分→2分)、良好にめっきの密着性が得られた事から、めっきの乾燥時間を短縮させる事が出来る。
【0233】
【0234】
表3の結果から、比較例4(変性エポキシ樹脂)は、調製後の時間が経過すると(調製直後→20日経過後のインク)、ピール強度は低く、めっき後の外観は、析出が十分でなく黒色であり、背面黒化しなかった。
【0235】
表3の結果から、実施例(本発明)の無電解めっき用塗料組成物は、配合後ポットライフが長く成った事(調製直後→20日経過後のインク)から、配合後のポットライフを向上させる事が出来る。
【0236】
【0237】
表4の結果から、実施例(本発明)の無電解めっき用塗料組成物を用いて、無電解めっきを行うと、乾燥時間を80℃に下げても(120℃→80℃)、良好にめっきの密着性が得られた事から、耐熱性の低い基材に対しても、良好なめっき被膜を形成させる事が出来る。
【0238】
[7]産業上の利用可能性
本発明の無電解めっき用塗料組成物は、バインダー樹脂について、特定の樹脂を、特定の含有量に調整する事に依り、配合後のポットライフを向上させる事が出来る。
【0239】
本発明の無電解めっき用塗料組成物は、バインダー樹脂について、特定の樹脂を、特定の含有量に調整する事に依り、この無電解めっき用塗料組成物を用いて、無電解めっきを行うと、めっきの乾燥時間を短縮させる事が出来る。