IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ブラザー工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-液体吐出ヘッド 図1
  • 特開-液体吐出ヘッド 図2
  • 特開-液体吐出ヘッド 図3
  • 特開-液体吐出ヘッド 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134207
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20240926BHJP
   B41J 2/18 20060101ALI20240926BHJP
   B41J 2/16 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
B41J2/14 605
B41J2/18
B41J2/14 305
B41J2/16 503
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044400
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神▲崎▼ 章太郎
【テーマコード(参考)】
2C056
2C057
【Fターム(参考)】
2C056EA24
2C056EA26
2C056FA04
2C056FA10
2C056FA13
2C056HA05
2C056KB16
2C056KC02
2C057AF93
2C057AG30
2C057AG32
2C057AG33
2C057AN01
2C057AN05
2C057AP25
2C057AP31
2C057BA04
2C057BA14
(57)【要約】
【課題】 絞り路の通流抵抗について設定値からのズレを抑制すると共に、使用プレート数を削減して製造コストが高くなることを抑制できる液体吐出ヘッドを提供する。
【解決手段】 液体吐出ヘッドが備える個別流路は、上流端が供給マニホールドに接続される供給絞り路、および、下流端が帰還マニホールドに接続される帰還絞り路を有し、1枚の帰還絞りプレートと、少なくとも1枚の帰還マニホールドプレートとを含み、帰還絞りプレートには帰還絞り路を構成する貫通溝が形成され、帰還マニホールドプレートには帰還マニホールドを構成する貫通口が形成されており、帰還絞りプレートと帰還マニホールドプレートとが直接貼りあわされて貫通溝と貫通口とが連通している。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のプレートが積層された積層体を成し、
前記積層体の内部に、ノズルを有する複数の個別流路と、前記個別流路に液体を供給する供給マニホールドと、前記ノズルから吐出されなかった液体が前記個別流路から戻される帰還マニホールドと、を備え、
前記個別流路は、上流端が前記供給マニホールドに接続される供給絞り路、および、下流端が前記帰還マニホールドに接続される帰還絞り路を有し、
前記複数のプレートは、1枚の帰還絞りプレートと、少なくとも1枚の帰還マニホールドプレートとを含み、
前記帰還絞りプレートには前記帰還絞り路を構成する貫通溝が形成され、前記帰還マニホールドプレートには前記帰還マニホールドを構成する貫通口が形成されており、
前記帰還絞りプレートと前記帰還マニホールドプレートとが直接貼りあわされて前記貫通溝と前記貫通口とが連通している、
液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記複数のプレートは、1枚の供給絞りプレートと、少なくとも1枚の供給マニホールドプレートとを含み、
前記供給絞りプレートには前記供給絞り路を構成する貫通溝が形成され、前記供給マニホールドプレートには前記供給マニホールドを構成する貫通口が形成されており、
前記供給絞りプレートと前記供給マニホールドプレートとが直接貼りあわされて前記貫通溝と前記貫通口とが連通している、
請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記帰還絞り路は、上流端および下流端に、前記上流端と前記下流端との間の中間部分よりも前記プレートの積層方向から見て流路幅の寸法が大きい拡大部を有し、前記帰還絞り路は前記拡大部にて前記帰還マニホールドと連通している、
請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記帰還絞りプレートの一方の面および他方の面における前記帰還絞り路の前記中間部分に対応する開口の全面が、前記帰還絞りプレートの前記一方の面および前記他方の面に貼り合わせられる前記プレートにより塞がれている、
請求項3に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記帰還絞り路が有する前記拡大部は、前記帰還絞りプレートを貫通して形成されている、
請求項3に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記帰還絞りプレートおよび前記供給絞りプレートのうち少なくとも一方は、厚み寸法が50μm以下である、
請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記帰還マニホールドは第1方向に沿って長寸を成し、前記帰還絞り路は前記第1方向に直交する第2方向に対して傾斜して延びている、
請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記供給マニホールドは第1方向に沿って長寸を成し、前記供給絞り路は前記第1方向に直交する第2方向に対して傾斜して延びている、
請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
前記帰還絞りプレートの一方の面および他方の面に貼り合わせられる前記プレートにおいて、前記帰還絞り路が有する前記貫通溝の開口に対応する部分には、前記開口を幅方向に横断するような接着剤がない、
請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項10】
前記供給絞りプレートの一方の面および他方の面に貼り合わせられる前記プレートにおいて、前記供給絞り路が有する前記貫通溝の開口に対応する部分には、前記開口を幅方向に横断するような接着剤がない、
請求項2に記載の液体吐出ヘッド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、インクなどの液体を媒体に向けて吐出する液体吐出ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出ヘッドとして、内部の液体を循環させる構成を備えたものが知られている。例えば特許文献1,2の液体吐出ヘッドは、液体を循環させる構成として、供給マニホールド、供給絞り路、ノズル、帰還絞り路、および帰還マニホールドを含む流路を備えている。このうち供給絞り路および帰還絞り路は、流路の他の部分よりも断面積が小さくて通流抵抗が高くなっている。従って、この通流抵抗を適宜設定することで、ノズル近傍の液体を所望の圧力とすることができ、液体の吐出の安定化を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2023-014744号公報
【特許文献2】特開2021-088117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の場合、供給絞り路(42)および帰還絞り路(45)は何れも、プレート(29,21)に形成された有底の溝により実現されている。一般的に、特許文献1のように複数のプレートの積層体から成る液体吐出ヘッドの場合、各プレートにおける溝の形成にはエッチングが用いられ、特許文献1の絞り路のように有底の溝にはハーフエッチングが用いられる。しかしながら、ハーフエッチングは、エッチング条件のぶれが、溝の幅方向および深さ方向の誤差を招来する。従って、絞り路における通流抵抗が設定値から大きく異なってしまう可能性がある。
【0005】
また、特許文献2の場合、供給絞り路はハーフエッチングにより形成されているため、特許文献1と同様の課題が生じる。一方、帰還絞り路はプレートを貫通するフルエッチングで形成されているが、その場合、帰還絞り路の開口面を覆うべく、帰還絞り路と帰還マニホールドとの間に1枚のプレート(109)が介在する構成となっている。そのため、液体吐出ヘッドの製造コストが高くなってしまう。
【0006】
そこで本開示は、絞り路の通流抵抗について設定値からのズレを抑制すると共に、使用プレート数を削減して製造コストが高くなることを抑制できる液体吐出ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1の態様に係る液体吐出ヘッドは、複数のプレートが積層された積層体を成し、前記積層体の内部に、ノズルを有する複数の個別流路と、前記個別流路に液体を供給する供給マニホールドと、前記ノズルから吐出されなかった液体が前記個別流路から戻される帰還マニホールドと、を備え、前記個別流路は、上流端が前記供給マニホールドに接続される供給絞り路、および、下流端が前記帰還マニホールドに接続される帰還絞り路を有し、前記複数のプレートは、1枚の帰還絞りプレートと、少なくとも1枚の帰還マニホールドプレートとを含み、前記帰還絞りプレートには前記帰還絞り路を構成する貫通溝が形成され、前記帰還マニホールドプレートには前記帰還マニホールドを構成する貫通口が形成されており、前記帰還絞りプレートと前記帰還マニホールドプレートとが直接貼りあわされて前記貫通溝と前記貫通口とが連通している。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、帰還絞り路を例えばフルエッチングにより貫通溝として形成するので、少なくとも深さ方向の寸法誤差が生じず、設定値に対する通流抵抗の誤差を抑制することができる。また、帰還絞りプレートと帰還マニホールドプレートとを直接貼り合わせるため、帰還絞り路と帰還マニホールドとの間に別のプレートが介在することがなく、プレート数を少なくして製造コストの向上を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本開示に係る液体吐出ヘッドを備える液体吐出装置の概略構成を示す平面図である。
図2図2は、液体吐出ヘッドの断面図である。
図3図3は、帰還絞り路の詳細構成を説明するための模式図である。
図4図4は、帰還絞り路の変形例を説明するための図面である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示に係る実施の形態を、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下では、全ての図面を通じて同一又は対応する要素には同一の参照符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、本開示は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で追加、削除、および、変更が可能である。
【0011】
(液体吐出装置の構成)
図1は、本開示に係る液体吐出ヘッド10を備える液体吐出装置1の平面図である。この液体吐出装置1は、例えばインク等の液体を液体吐出ヘッド10から吐出して、被記録媒体上に文字や画像などを形成(印刷)するものである。以下では、このような液体吐出装置1として、インクジェットプリンタを例にした場合について述べるが、液体吐出装置1の取りうる態様はこれに限定されない。
【0012】
図1に示すように、液体吐出装置1はラインヘッド方式を採用しており、搬送方向に搬送される用紙等の被記録媒体M上に、固定的に設けられたヘッドユニット11からインクを吐出して画像を形成する。このような液体吐出装置1は、ヘッドユニット11に加え、プラテン12、搬送装置13、タンク14、および、制御装置15を備えている。なお、液体吐出装置1は、ラインヘッド方式ではなくシリアルヘッド方式を採用してもよい。
【0013】
ヘッドユニット11は、搬送方向に直交する直交方向に長寸のヘッドホルダ20を有し、このヘッドホルダ20に複数の液体吐出ヘッド10が搭載されている。例えば、複数の液体吐出ヘッド10は、1つずつ、搬送方向の上流側と下流側とにずらして、直交方向に並べられており、換言すれば、いわゆる千鳥状に配置されている。
【0014】
プラテン12は、例えば平坦な矩形の板状部材であり、ヘッドユニット11に対向して位置している。また、プラテン12はヘッドユニット11よりも直交方向の寸法が長く、ヘッドユニット11からの吐出インクの全着弾領域はプラテン12の上面領域内に位置している。このプラテン12は、所定の搬送方向に沿って搬送されてくる被記録媒体Mをその上面で支持する。これにより、ヘッドユニット11と被記録媒体Mとの距離が規定される。
【0015】
搬送装置13は、2対の搬送ローラ対21,22および搬送モータを有している。一方の搬送ローラ対21は、プラテン12に対して搬送方向の上流側に位置し、上下に対を成す駆動ローラおよび従動ローラで構成されている。駆動ローラは搬送モータにより駆動され、従動ローラとの間で被記録媒体Mを挟持すると共に、プラテン12上へ向かって被記録媒体Mを搬送方向の下流側へ搬送する。他方の搬送ローラ対22は、プラテン12に対して搬送方向の下流側に位置し、上下に対を成す駆動ローラおよび従動ローラで構成されている。駆動ローラは搬送モータにより駆動され、従動ローラとの間で被記録媒体Mを挟持すると共に、プラテン12上から被記録媒体Mを搬送方向の下流側へ搬送する。
【0016】
タンク14は、インクの種類の応じた数が備えられている。例えば、液体吐出装置1がカラー画像を形成するプリンタである場合、シアン、マゼンダ、イエロー、および、ブラックの各色のインクを貯留する計4以上のタンクが備えられている。各タンク14は供給チューブ23によりヘッドユニット11に接続されており、供給チューブ23を介してタンク14から液体吐出ヘッド10へインクが送られる。
【0017】
制御装置15は、液体吐出装置1が備える各部の駆動要素の動作を制御する。例えば、制御装置15は、外部から印刷ジョブの実行指令を受け付けると、搬送装置13によってプラテン12上に被記録媒体Mを搬送する。被記録媒体Mがプラテン12上の所定位置に到達すると、ジョブ中の画像データに基づいて液体吐出ヘッド10からインクを吐出し、被記録媒体M上に画像を形成する。画像が形成された被記録媒体Mは、搬送装置13により搬送されて、液体吐出装置1から排出される。
【0018】
(液体吐出ヘッドの構成)
図2は、液体吐出ヘッド10の構成を示す断面図である液体吐出ヘッド10は、流路部30とこれに積層された駆動部50とを有している。以下で説明するように、流路部30には、長寸の供給マニホールド34および帰還マニホールド36が形成され、両者間が個別流路40によって接続されている。なお、以下の説明では、マニホールド34,36が延びる方向を第1方向という。また、第1方向に直交する方向を第2方向、第1方向および第2方向の両方に直交する方向を第3方向といい、第3方向は、流路部30および駆動部50の積層方向に一致する。そして、第3方向において、流路部30に対して駆動部50が位置する方向を上方、その反対を下方とする。
【0019】
流路部30は、複数のプレート3a~3jがこの順で上から下へ第3方向に積層された積層体を成している。このうちプレート3aは、駆動部50の下面に接続される圧力室プレートを成し、圧力室31を形成する貫通口が形成されている。この貫通口は、プレート3aを上下方向からエッチングするフルエッチングにより形成している。
【0020】
プレート3bは供給絞りプレートを成し、供給絞り路32を形成する貫通溝が形成されている。また、このプレート3bには、ディセンダ33を形成する貫通孔も形成されている。これらの貫通溝および貫通孔は、プレート3bを上下方向からエッチングするフルエッチングにより形成している。
【0021】
プレート3c,3dは供給マニホールドプレートを成し、供給マニホールド34を形成する貫通口が形成されている。この貫通口は、第1方向に長寸の大開口を成している。また、これらのプレート3c,3dには、ディセンダ33を形成する貫通孔も形成されている。これらの貫通口および貫通孔は、プレート3c,3dを上下方向からエッチングするフルエッチングにより形成している。
【0022】
プレート3e,3fはダンパプレートを成している。プレート3eにおいて、第3方向から見て供給マニホールド34に対応する部分は、下面側がハーフエッチングされることでその他の部分よりも肉厚寸法が小さい薄肉部分となっており、可撓性が高くなっている。また、プレート3fにおいて、第3方向から見て後述の帰還マニホールド36に対応する部分は、下面側がハーフエッチングされることでその他の部分よりも肉厚寸法が小さい薄肉部分となっており、可撓性が高くなっている。なお、プレート3eの薄肉部分とプレート3fの薄肉部分との間の空間は、ダンパ空間35を成している。また、これらのプレート3e,3fには、ディセンダ33を形成する貫通孔も形成されている。これらの貫通孔は、プレート3e,3fを上下方向からエッチングするフルエッチングにより形成している。一方で、上記薄肉部分は、プレート3e,3fを下方から途中まで(貫通させないように)エッチングするハーフエッチングにより形成している。
【0023】
プレート3g,3hは帰還マニホールドプレートを成し、帰還マニホールド36を形成する貫通口が形成されている。この貫通口は、供給マニホールド34を形成する貫通口と同様に、第1方向に長寸の大開口を成している。また、これらのプレート3g,3hには、ディセンダ33を形成する貫通孔も形成されている。これらの貫通口および貫通孔は、プレート3g,3hを上下方向からエッチングするフルエッチングにより形成している。
【0024】
プレート3iは帰還絞りプレートを成し、帰還絞り路37を形成する貫通溝が形成されている。また、このプレート3iには、ディセンダ33を形成する貫通孔も形成されている。これらの貫通溝および貫通孔は、プレート3iを上下方向からエッチングするフルエッチングにより形成している。
【0025】
プレート3jはノズルプレートを成し、ノズル38を形成する貫通孔が形成されている。この貫通孔は、プレート3jを上方から下方へ向けてエッチングするフルエッチングにより形成している。
【0026】
流路部30は、上記のようなプレート3a~3jが積層されて構成されている。すなわち、隣接するプレート同士は接着剤により互いに直接的に接続されている。例えば、プレート3b(供給絞りプレート)の下面と、プレート3c(上側に供給マニホールドプレート)の上面とは、接着剤を介して直接的に貼りあわされている。これにより、供給絞り路32を形成する貫通溝と、供給マニホールド34を形成する貫通口とが連通している。同様に、プレート3h(下側に帰還マニホールドプレート)の下面と、プレート3i(帰還絞りプレート)の上面とは、接着剤を介して直接的に貼りあわされている。これにより、帰還絞り路37を形成する貫通溝と、帰還マニホールド36を形成する貫通口とが連通している。
【0027】
流路部30を成す積層体の内部には、供給マニホールド34、帰還マニホールド36、および、個別流路40が形成される。個別流路40は、インクの流れる方向に沿って、供給絞り路32、圧力室31、ディセンダ33、ノズル38、および、帰還絞り路37の各部分流路を有し、供給マニホールド34と帰還マニホールド36との間をつないでいる。
【0028】
すなわち、供給絞り路32は、その上流端が供給マニホールド34に接続され、下流端が圧力室31の上流端に接続される。圧力室31の下流端は第1方向へ延びるディセンダ33の上流端に接続され、ディセンダ33の下流端はノズル38に接続されると共に、帰還絞り路37の上流端にも接続される。そして、帰還絞り路37の下流端は帰還マニホールド36に接続される。そして、供給マニホールド34内のインクは、供給絞り路32から個別流路40へインクが供給され、個別流路40内のインクはノズル38から吐出される。また、ノズル38から吐出されなかったインクは、帰還絞り路37から帰還マニホールド36へ戻される。
【0029】
なお、供給マニホールド34および帰還マニホールド36に対し、個別流路40は複数設けられている。そして、各個別流路40が有するノズル38は、供給マニホールド34および帰還マニホールド36が延びる第1方向に沿って列状に配置されてノズル列を形成している。本実施の形態では、このノズル列が延びる第1方向は、図1における直交方向と一致している。
【0030】
また、上述した各プレート3a~3jの素材および厚み寸法は特に限定されない。例えば本実施の形態では、各プレート3a~3jの素材として、アルミニウム合金やステンレス鋼など、ウェットエッチングにより開口や凹部を形成可能なものを用いることができる。また、厚み寸法も適宜設定可能であって、例えば、供給絞りプレートを成すプレート3bおよび帰還絞りプレートを成すプレート3iのうち少なくとも一方は、50μm以下の厚みとすることができる。他のプレートについても、必要とされる剛性や形成する開口または凹部の容量等を考慮して、適宜寸法を選択できる。
【0031】
一方、駆動部50は、流路部30の圧力室31内のインクに、ノズル38から吐出するための吐出圧力を付与するアクチュエータである。この駆動部50は、図2に示すように、圧電セラミックス層5a、共通電極5b、圧電セラミックス層5c、および、個別電極5dが、この順で第3方向の下方から上方へ積層された構成となっている。このうち最も下に位置する圧電セラミックス層5aは、流路部30のプレート3aの上面に接続されている。
【0032】
圧電セラミックス層5a、共通電極5b、および、圧電セラミックス層5bは、流路部30の上面における全ての圧力室31を含む範囲をまとめて覆う面積を有している。一方、個別電極5dは、個別流路40ごとに設けられており、より具体的には、各個別流路40を構成する圧力室31に対応する位置に配置されている。
【0033】
このような駆動部50では、個々の圧力室31の上方に位置する部分、すなわち、圧電セラミックス層5a、共通電極5b、および、圧電セラミックス層5bの各部分、並びに、対応する1つの個別電極5dによって、変位部51が形成されている。そして、共通電極5bと個別電極5dとの間に所定の駆動電圧が付与されると、変位部51内の圧電セラミックス層5a,5cが変形して、圧力室31内のインクに吐出圧力が付与される。
【0034】
(帰還絞り路の詳細構成)
図3は、帰還絞り路37の詳細構成を説明するための模式図であり、紙面の上から順にプレート3h,3i,3jの互いに対応する部分領域を、第3方向から見たときの構成を示している。
【0035】
図3に示すように、帰還マニホールドプレートを成すプレート3hには、ディセンダ33を成す貫通孔である開口33hと、帰還マニホールド36を成す貫通口である開口36hとが形成されている。帰還絞りプレートを成すプレート3iには、ディセンダ33を成す貫通孔である開口33iと、帰還絞り路37を成す貫通溝である開口37iとが形成されている。また、ノズルプレートを成すプレート3jには、ノズル38を成す貫通孔である開口38jが形成されている。なお、図3では、プレート3h,3jに、プレート3h~3jが貼り合わせられたときの帰還絞り路37の位置を二点鎖線で示している。
【0036】
ここで、帰還絞り路37を成す開口37iは、帰還マニホールド36の延びる第1方向に直交する第2方向に沿ってほぼ平行に延びている。そして、図3に示すように、帰還絞り路37は、インクの流れる方向の上流端部分37aと、下流端部分37cと、これらの間の中間部分37bとを有している。このうち上流端部分37aおよび下流端部分37cは、積層方向である第3方向に沿って見たときに、中間部分37bよりも流路幅の寸法(すなわち、帰還絞り路37の延びる方向に直交する方向の寸法)が大きくなっている。
【0037】
このように、帰還絞り路37において、上流端部分37aおよび下流端部分37cは流路断面積が大きい拡大部を成し、中間部分37bは上流端部分37aおよび下流端部分37cより流路断面積が小さい狭小部を成している。なお、これらの拡大部および狭小部は、フルエッチングによりプレート3iを貫通して形成されている。
【0038】
そして、帰還絞り路37は、一方の拡大部である上流端部分37aを介してディセンダ33と連通する。すなわち、プレート3iにおいて、ディセンダ33を成す開口33iと、帰還絞り路37を成す開口37iとは、帰還絞り路37の拡大部である上流端部分37aを介して接続されている。なお、図3の例では、上流端部分37aとディセンダ33を成す開口33iとは、第1方向の寸法が同一になっている。また、帰還絞り路37は、他方の拡大部を成す下流側端部37cにおいて帰還マニホールド36と連通する。すなわち、プレート3h,3iが貼り合わされると、帰還絞り路37の下流端部分37cの少なくとも一部が、帰還マニホールド36を成す開口36hの範囲に重複する。
【0039】
また、帰還絞り路37の狭小部である中間部分37bの上下の開口は、プレート3iに貼り合わせられるプレート3h,3jにより、その開口の全面が塞がれる。具体的に説明すると、図3のプレート3hに二点鎖線で示すように、プレート3h,3iを貼り合わせたとき、プレート3hにおいて中間部分37bに対応する位置には開口が形成されておらず、プレート3hの下面により、中間部分37bの上側の開口は全面的に塞がれる。
【0040】
同様に、図3のプレート3jに二点鎖線で示すように、プレート3i,3jを貼り合わせたとき、プレート3jにおいて中間部分37bに対応する位置には開口が形成されていない。従って、プレート3jの上面により、中間部分37bの下側の開口は全面的に塞がれる。
【0041】
(作用および効果)
以上に説明したように、液体吐出ヘッド10は、帰還絞りプレートを成す1枚のプレート3iと、帰還マニホールドプレートを成す少なくとも1枚(ここでは、2枚)のプレート3g,3hとを含む。そして、プレート3iには帰還絞り路37を構成する貫通溝(開口37i)が形成され、プレート3hには帰還マニホールド36を構成する貫通口(36h)が形成されており、プレート3iとプレート3hとが直接貼りあわされて貫通溝と前記貫通口とが連通している。
【0042】
この場合、帰還絞り路37を例えばフルエッチングにより貫通溝として形成するので、少なくとも深さ方向の寸法誤差が生じず、設定値に対する通流抵抗の誤差を抑制することができる。また、プレート3h,3iを直接貼り合わせるため、帰還絞り路37と帰還マニホールド36との間に別のプレートが介在しない。従って、プレート数を少なくして製造コストの向上を抑制することができる。
【0043】
上記では帰還絞り路37について詳述したが、絞り路とマニホールドとの連通態様は、供給絞り路32についても同様に構成されている。すなわち、上述したように液体吐出ヘッド10の流路部30は、供給絞りプレート3bを成す1枚の供給絞りプレートと、供給マニホールドプレートを成す少なくとも1枚(ここでは、2枚)のプレート3c,3dとを含み、プレート3bには供給絞り路32を構成する貫通溝が形成され、プレート3c,3dには供給マニホールド34を構成する貫通口が形成されている。そして、プレート3b,3cを直接貼りあわせて貫通溝と貫通口とが連通されている。
【0044】
従って、供給絞り路32をフルエッチングにより貫通溝として形成することで、少なくとも深さ方向の寸法誤差が生じず、設定値に対する通流抵抗の誤差を抑制することができる。また、プレート3b,3cを直接貼り合わせるため、供給絞り路32と供給マニホールド34との間に別のプレートが介在しない。従って、プレート数を少なくして製造コストの向上を抑制することができる。
【0045】
なお、絞り路とマニホールドとの連通態様について、供給側と帰還側とを同様の構成にした場合を説明したが、これに限られない。例えば、供給側のみ上記態様を採用してもよいし、帰還側のみ上記態様を採用してもよい。
【0046】
また、帰還絞り路37は、狭小部および拡大部を有し、拡大部を成す下流端部分37cにて帰還マニホールド36と連通している。これにより、プレート3h,3iを貼り合わせたときに位置ずれが生じても、これが帰還絞り路の流路抵抗(絞り抵抗)に与える影響を抑制できる。
【0047】
また、帰還絞り路37において狭小部を成す中間部分37bは、上側の開口および下側の開口の何れもが、上下のプレート3h,3jによって全面的に塞がれている。これにより、プレート3h~3jを貼り合わせたときに位置ずれが生じても、帰還絞り路37の狭小部(中間部分37b)の流路断面積が変化しないため、安定した絞り抵抗値を実現できる。
【0048】
また、本実施の形態では、供給絞りプレートを成すプレート3bおよび帰還絞りプレートを成すプレート3iは、何れも厚み寸法が50μm以下となっている。これにより、フルエッチングで各絞り路32,37を形成するにあたり、幅寸法の小さい貫通溝を形成することができ、大きな絞り抵抗を有する絞り路32,37を容易に作成できる。
【0049】
なお、本実施の形態に係る液体吐出ヘッド10では、帰還絞りプレートを成すプレート3iの上下の面に貼り合わせられるプレート3h,3jにおいて、帰還絞り路37を形成する開口37iに対応する部分には、この開口37iを幅方向に横断するような接着剤がない。同様に、供給絞りプレートを成すプレート3bの上下の面に貼り合わせられるプレート3a,3cにおいて、供給絞り路32の開口に対応する部分には、この開口を幅方向に横断するような接着剤がない。
【0050】
これにより、各絞り路32,37の流路断面積が、各絞り路32,37にはみ出してきたプレート間の接着用の接着剤により変化してしまうのを抑制できる。その結果、各絞り路32,37において、安定した絞り抵抗値を実現することができる。
【0051】
(変形例)
図4は、帰還絞り路の変形例を説明するための図面であり、帰還絞りプレートおよびその直上の帰還マニホールドプレートを示している。ここで、帰還マニホールドプレートを成すプレート3hは、図3に示したプレート3hと同一である。一方、図4に示す帰還絞りプレートを成すプレート3i’は、図3のプレート3iとは異なっている。
【0052】
すなわち、図4のプレート3i’の場合、帰還絞り路37’は、帰還マニホールド36が延びる第1方向に直交する第2方向に対し、傾斜して延びている。具体的には、帰還絞り路37’を成す貫通溝である開口37i’は、拡大部を成す上流端部分37a’および下流端部分37c’と、その間に位置して狭小部を成す中間部分37b’とを有している。そして、上流端部分37a’と下流端部分37c’とは第1方向に離れて位置し、その間を、第1方向および第2方向の何れに対しても傾斜する傾斜方向へ延びる中間部分37b’が接続している。
【0053】
なお、上流端部分37a’とディセンダ33との連通態様、および、下流端部分37c’と帰還マニホールド36との連通態様は、図3で説明したのと同じである。
【0054】
このような変形例に係る帰還絞り路37’の場合、狭小部を成す中間部分37b’が傾斜方向に延びている。これにより、図3の帰還絞り路37の中間部分37に比べて、中間部分37b’は長寸になる。その結果、大きい絞り抵抗値を安定的に実現することができる。また、ディセンダ33と帰還マニホールド36との第2方向の距離が短い場合であっても、帰還絞り路37’を第2方向に対して斜めに延ばした構成とすることで、帰還絞り路37’を長寸にして大きな流路抵抗を得ることができる。
【0055】
なお、上記では帰還絞り路37の変形例として帰還絞り路37’について説明したが、供給絞り路32についても、中間部分を傾斜方向の延ばした同様の態様の変形例を採用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本開示は、インクなどの液体を媒体に向けて吐出する液体吐出ヘッドに適用することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 液体吐出装置
3a~3j プレート
10 液体吐出ヘッド
32 供給絞り路
34 供給マニホールド
36 帰還マニホールド
37 帰還絞り路
37a 上流端部分(拡大部)
37b 中間部分
37c 下流端部分(拡大部)
38 ノズル
40 個別流路
図1
図2
図3
図4