(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134208
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】セルロースナノファイバー、及びその複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08B 16/00 20060101AFI20240926BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20240926BHJP
C08L 1/02 20060101ALI20240926BHJP
B29B 17/04 20060101ALI20240926BHJP
D01F 2/00 20060101ALI20240926BHJP
C08B 15/00 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
C08B16/00
C08L63/00 A
C08L1/02
B29B17/04
D01F2/00 Z
C08B15/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044402
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阪本 浩規
(72)【発明者】
【氏名】山口 直樹
【テーマコード(参考)】
4C090
4F401
4J002
4L035
【Fターム(参考)】
4C090AA03
4C090BA24
4C090BA34
4C090BB99
4C090BC10
4C090BD04
4C090BD05
4C090BD11
4C090BD19
4C090BD24
4C090CA01
4C090CA04
4C090CA05
4C090CA07
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4C090DA08
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4F401AA02
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4F401BB10
4F401CA14
4F401CA18
4F401EA46
4F401FA08
4J002AB01W
4J002CD03X
4J002FA04W
4J002FB02W
4J002FD01W
4L035AA04
4L035BB46
4L035DD13
4L035DD20
4L035FF05
(57)【要約】
【課題】本発明は、解繊し難いコットンを、解繊して、低コストで、高強度のセルロースナノファイバー(CNF)を製造する事を目的とする。本発明は、セルロースの水酸基を疎水性置換基に置換する方法に替えて、セルロースの疎水化を行う事に依り、樹脂組成物の強度を向上させる事が可能な複合体を提供する事を目的とする。
【解決手段】CNFの製造方法であって、(1)コットン製織物の粉砕物、及び水を混合し、混合物全体の重量に対して、コットン製織物の粉砕物の含有比率を、0.1重量%~4重量%に調整する工程、及び、(2)工程(1)で得られた混合物をグラインダー処理する工程、を含み、前記コットン製織物の粉砕物のサイズは、400メッシュ~5mmメッシュ以下であり、前記グラインダーのクリアランスは、100μm以下である、製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースナノファイバーの製造方法であって、
(1)コットン製織物の粉砕物、及び水を混合し、混合物全体の重量に対して、コットン製織物の粉砕物の含有比率を、0.1重量%~4重量%に調整する工程、及び、
(2)工程(1)で得られた混合物をグラインダー処理する工程、、を含み、
前記コットン製織物の粉砕物のサイズは、400メッシュ~5mmメッシュ以下であり、
前記グラインダーのクリアランスは、100μm以下である、製造方法。
【請求項2】
前記混合物は、水を90重量%以上含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記コットン製織物は、コットン製造時の端材のリサイクル品、若しくは使用済み衣料のリサイクル品である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
セルロースナノファイバーの製造方法であって、
(1)コットン製織物の粉砕物、及び水を混合し、当該混合物をグラインダー処理する工程、及び、
(2)工程(1)の後、グラインダー処理した混合物を、ろ過処理し、混合物全体の重量に対して、セルロースナノファイバーを6重量%以上含むスラリーを製造する工程、を含む、製造方法。
【請求項5】
セルロースナノファイバーの製造方法であって、
(1)コットン製織物の粉砕物、及び水を混合し、当該混合物をグラインダー処理する工程、及び、
(3)工程(1)の後、グラインダー処理した混合物を、遠心分離し、若しくは加圧処理し、混合物全体の重量に対して、セルロースナノファイバーを10重量%以上含むスラリーを製造する工程、を含む、製造方法。
【請求項6】
セルロースナノファイバーの製造方法であって、
(1)コットン製織物の粉砕物、及び水を混合し、当該混合物をグラインダー処理する工程、
(2)工程(1)の後、グラインダー処理した混合物を、ろ過処理し、混合物全体の重量に対して、セルロースナノファイバーを6重量%以上含むスラリーを製造する工程、及び、
(3)工程(2)の後、ろ過処理したスラリーを、遠心分離し、若しくは加圧処理し、混合物全体の重量に対して、セルロースナノファイバーを10重量%以上含むスラリーを製造する工程、を含む、製造方法。
【請求項7】
セルロースナノファイバーと非水溶性物質との複合体の製造方法であって、
(1)コットン製織物の粉砕物、及び水を混合し、当該混合物をグラインダー処理する工程、
(2)工程(1)の後、グラインダー処理した混合物から水を除去し、混合物中の固形分を10重量%以上に調整する工程、及び、
(3)工程(2)の後、固形分を10重量%以上に調整した混合物に、非水溶性物質、及び水溶性有機溶媒を加える工程、を含む、製造方法。
【請求項8】
更に、
(4)工程(3)の後、非水溶性物質、及び水溶性有機溶媒を加えた混合物を加熱減圧処理し、混合物から水を除去し、混合物全体の重量に対して、セルロースナノファイバーの含有比率を20重量%以上に調整する工程、を含む、請求項9に記載の製造方法。
【請求項9】
前記水溶性有機溶媒の沸点は、110℃以上である、請求項7又は8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記非水溶性物質は、エポキシ化合物である、請求項7又は8に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースナノファイバー、及びその複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースは、植物細胞の細胞壁、及び植物繊維の主成分であり、多数のβ-グルコース分子がグリコシド結合に依り直鎖状に重合した天然高分子であり、環境負荷が小さい成分である。セルロース繊維は、基本単位の幅3nm~4nmのシングルセルロースナノファイバー(シングルCNF)が束と成って、細胞壁中での基本単位の幅10nm~20nmのセルロースナノファイバー(CNF)を構成し、それが更に太さ数10μmの束と成った構造である(非特許文献1)。
【0003】
近年、これらのCNFは、高弾性率、高強度、低線膨張係数、ガスバリア性等、優れた特性を有する事が解り、且つ、ガラス繊維、炭素繊維、無機フィラー等と比較して軽量である事から、樹脂強化材、塗料添加剤、フィルム、増粘剤等、様々な用途の研究開発が成されている。
【0004】
CNFの原料は、一般に、ヘミセルロース含有量が多く、解繊し易い広葉樹、及び針葉樹由来のパルプである(非特許文献2)。CNFの原料は、成長の早いケナフ、サトウキビの残渣であるバガス、低コストな稲わら、繊維が長く高強度な紙が作れるアバカ等、夫々、特徴の有る非木材パルプである。
【0005】
コットンリンターパルプは、ヘミセルロース、リグニンが少なく、良質のCNFを製造する事が出来る。コットンリンターパルプは、一般に、高コストであり、解繊して、CNFを作り難いという課題がある。
【0006】
コットンは、コットンリンターに比べて、繊維が長く、高強度が期待出来る材料である。コットンは、一般に、コットンリンターパルプに比べて、解繊し難いという課題がある。
【0007】
しかし、コットンを、再現性良く、解繊する事が出来れば、例えば、製造時の切れ端やリサイクル材を使用して、低コストで、高強度のCNFを製造する事に繋がる。
【0008】
CNFの製造方法は、(i)高圧分散装置、グラインダーを用いて、機械的に解繊する方法、(ii)パルプをカチオン化剤で化学的に親水化した後、混練機等を用いて、機械的に解繊する方法、(iii)TEMPO触媒等を用いて、部分的に酸化させて化学的に解繊し易くする方法等である。CNFの製造方法は、中でも、グラインダーを用いる機械的な解繊処理は、原料の選択性とコストの観点で量産化に適している。
【0009】
ところで、CNFは、単独で使用する事は少なく、一般に、有機成分、有機溶媒等と組み合わせて使用する。
【0010】
CNFを構成するセルロースは、グルコース分子の水酸基を多数有している為、水酸基同士の水素結合が起こり易く、その結果、CNF同士の凝集が起き易いという問題点がある。セルロースは、その表面に水酸基を多数有している為、親水性が極めて高く、疎水性の有機溶媒との親和性に欠けるという問題点も有る。
【0011】
つまり、CNFは、水中では安定に存在するが、一般に、水を多く含んだ状態では、疎水性の高分子、加水分解性の高分子等との複合(特に溶融混練)が行い難い。一方、CNFは、乾燥すると、凝集して高分子中で遺物と成り、CNFの特性を低下させる為、高分子中でCNFが有する特性を発揮させる事が難しいという問題点がある(非特許文献3)。
【0012】
かかる問題点を解消すべく、CNFを疎水化する方法が検討されている。CNFを疎水化する方法は、一般に、化学的な手法に依り、CNFの水酸基を疎水性置換基に置換させる方法である。この手法は、一般に、コストが掛かり、水酸基の一部が置換されるに止まる為、水素結合に因る凝集を抑えきれないという問題点を抱えている。
【0013】
これら問題点は、通常のセルロース繊維と比べると、CNFは、固体重量に対して、多くの水酸基が表面に露出しており、顕著に現れる課題であると言える。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】矢野浩之. "セルロースナノファイバーの製造と利用." 機能紙研究会誌 49 , 15-20 (2010)
【非特許文献2】磯貝明. "セルロースナノファイバー." 表面技術71.6, 389-395 (2020)
【非特許文献3】長谷朝博. "セルロースナノファイバー強化ゴム材料の特徴とその応用." 日本ゴム協会誌 90.2, 30-35 (2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、解繊し難いコットンを、解繊して、低コストで、高強度のセルロースナノファイバー(CNF)を製造する事を目的とする。
【0016】
本発明は、セルロースの水酸基を疎水性置換基に置換する方法に替えて、セルロースの疎水化を行う事に依り、樹脂組成物の強度を向上させる事が可能な複合体を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者等は、一定のサイズに粉砕されたコットンを、一定濃度、且つ一定の範囲のクリアランスのグラインダーを用いて、処理する事に依り、高強度のセルロースナノファイバー(CNF)を製造できる事を見出した。
【0018】
本発明者等は、また、セルロース表面上に、エポキシ系樹脂層を設ける事に依り、セルロースの化学的修飾を行わずに、従来の樹脂強化用の複合体と同等以上の性能を有する複合体を製造できる事を見出した。
【0019】
本発明者らは、係る知見に基づき、更に研究を重ね、本発明を完成するに至った。
【0020】
即ち、本発明は、以下の複合体を提供する。
【0021】
本発明は、次のセルロースナノファイバー(CNF)、及びCNFと非水溶性物質との複合体を包含する。
【0022】
項1.
セルロースナノファイバーの製造方法であって、
(1)コットン製織物の粉砕物、及び水を混合し、混合物全体の重量に対して、コットン製織物の粉砕物の含有比率を、0.1重量%~4重量%に調整する工程、及び、
(2)工程(1)で得られた混合物をグラインダー処理する工程、を含み、
前記コットン製織物の粉砕物のサイズは、400メッシュ~5mmメッシュ以下であり、
前記グラインダーのクリアランスは、100μm以下である、製造方法。
【0023】
項2.
前記混合物は、水を90重量%以上含む、前記項1に記載の製造方法。
【0024】
前記項1に記載の製造方法。
【0025】
項3.
前記コットン製織物は、コットン製造時の端材のリサイクル品、若しくは使用済み衣料のリサイクル品である、前記項1に記載の製造方法。
【0026】
項4.
セルロースナノファイバーの製造方法であって、
(1)コットン製織物の粉砕物、及び水を混合し、当該混合物をグラインダー処理する工程、及び、
(2)工程(1)の後、グラインダー処理した混合物を、ろ過処理し、混合物全体の重量に対して、セルロースナノファイバーを6重量%以上含むスラリーを製造する工程、を含む、製造方法。
【0027】
項5.
セルロースナノファイバーの製造方法であって、
(1)コットン製織物の粉砕物、及び水を混合し、当該混合物をグラインダー処理する工程、及び、
(3)工程(1)の後、グラインダー処理した混合物を、遠心分離し、若しくは加圧処理し、混合物全体の重量に対して、セルロースナノファイバーを10重量%以上含むスラリーを製造する工程、を含む、製造方法。
【0028】
項6.
セルロースナノファイバーの製造方法であって、
(1)コットン製織物の粉砕物、及び水を混合し、当該混合物をグラインダー処理する工程、
(2)工程(1)の後、グラインダー処理した混合物を、ろ過処理し、混合物全体の重量に対して、セルロースナノファイバーを6重量%以上含むスラリーを製造する工程、及び、
(3)工程(2)の後、ろ過処理したスラリーを、遠心分離し、若しくは加圧処理し、混合物全体の重量に対して、セルロースナノファイバーを10重量%以上含むスラリーを製造する工程、を含む、製造方法。
【0029】
項7.
セルロースナノファイバーと非水溶性物質との複合体の製造方法であって、
(1)コットン製織物の粉砕物、及び水を混合し、当該混合物をグラインダー処理する工程、
(2)工程(1)の後、グラインダー処理した混合物から水を除去し、混合物中の固形分を10重量%以上に調整する工程、及び、
(3)工程(2)の後、固形分を10重量%以上に調整した混合物に、非水溶性物質、及び水溶性有機溶媒を加える工程、を含む、製造方法。
【0030】
項8.
更に、
(4)工程(3)の後、非水溶性物質、及び水溶性有機溶媒を加えた混合物を加熱減圧処理し、混合物から水を除去し、混合物全体の重量に対して、セルロースナノファイバーの含有比率を20重量%以上に調整する工程、を含む、前記項9に記載の製造方法。
【0031】
項9.
前記水溶性有機溶媒の沸点は、110℃以上である、前記項7又は8に記載の製造方法。
【0032】
項10.
前記非水溶性物質は、エポキシ化合物である、前記項7又は8に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0033】
本発明は、一定のサイズに粉砕されたコットンを、一定濃度、且つ一定の範囲のクリアランスのグラインダーを用いて、処理する事に依り、高強度のセルロースナノファイバー(CNF)を製造する事が出来る。
【0034】
本発明は、また、セルロース表面の化学的修飾を行わずに、樹脂組成物の強度を向上させる事が可能な複合体を提供する事が出来る。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0036】
本発明を表す実施の形態は、発明の趣旨がより良く理解出来る説明であり、特に指定のない限り、発明内容を限定するものではない。
【0037】
本明細書において、「含む」及び「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみから成る(consist essentially of)」、及び「のみから成る(consist of)」の何れも包含する概念である。
【0038】
本明細書において、数値範囲を「A~B」で示す場合、「A以上、B以下」を意味する。
【0039】
本明細書において、一般に、部、%等の表示を使用する。
【0040】
本明細書において、特に断りがない限り、質量部又は質量%(wt%)を表す。
【0041】
[1]セルロースナノファイバー(CNF)の製造方法
本発明のセルロースナノファイバー(CNF)の製造方法は、
(1)コットン製織物の粉砕物、及び水を混合し、混合物全体の重量に対して、コットン製織物の粉砕物の含有比率を、0.1重量%~4重量%に調整する工程、及び、
(2)工程(1)で得られた混合物をグラインダー処理する工程、を含む。
【0042】
CNFの製造方法では、混合物は、好ましくは、水を90重量%以上含む。
【0043】
CNFの製造方法では、コットン製織物の粉砕物のサイズは、好ましくは、400メッシュ~5mmメッシュ以下である。
【0044】
CNFの製造方法では、コットン製織物は、好ましくは、コットン製造時の端材のリサイクル品、若しくは使用済み衣料のリサイクル品である。
【0045】
CNFの製造方法では、グラインダーのクリアランスは、100μm以下であり、好ましくは、80μm以下である。
【0046】
本発明のCNFの製造方法に依り、一定のサイズに粉砕されたコットンを、一定濃度、且つ一定の範囲のクリアランスのグラインダーを用いて、処理する事に依り、高強度のCNFを製造する事が出来る。
【0047】
本発明のセルロースナノファイバー(CNF)の製造方法は、
(1)コットン製織物の粉砕物、及び水を混合し、前記混合物をグラインダー処理する工程、及び、
(2)工程(1)の後、グラインダー処理した混合物を、ろ過処理し、混合物全体の重量に対して、CNFを6重量%以上含むスラリーを製造する工程、を含む。
【0048】
本発明のセルロースナノファイバー(CNF)の製造方法は、
(1)コットン製織物の粉砕物、及び水を混合し、前記混合物をグラインダー処理する工程、及び、
(3)工程(1)の後、グラインダー処理した混合物を、遠心分離し、若しくは加圧処理し、混合物全体の重量に対して、CNFを10重量%以上含むスラリーを製造する工程、を含む。
【0049】
本発明のセルロースナノファイバー(CNF)の製造方法は、
(1)コットン製織物の粉砕物、及び水を混合し、前記混合物をグラインダー処理する工程、
(2)工程(1)の後、グラインダー処理した混合物を、ろ過処理し、混合物全体の重量に対して、CNFを6重量%以上含むスラリーを製造する工程、及び、
(3)工程(2)の後、ろ過処理したスラリーを、遠心分離し、若しくは加圧処理し、混合物全体の重量に対して、CNFを10重量%以上含むスラリーを製造する工程、を含む。
【0050】
本発明のCNFの製造方法に依り、一定のサイズに粉砕されたコットンを、一定濃度、且つ一定の範囲のクリアランスのグラインダーを用いて、処理する事に依り、高強度のCNFを製造する事が出来る。
【0051】
[1-1]セルロース
セルロースは、広葉樹(ユーカリ、ポプラ等)、針葉樹(マツ、モミ、スギ、ヒノキ等)、草本類(ワラ、バガス、ヨシ、ケナフ、アバカ、サイザル等)を上回る強度が期待できる観点から、好ましくは、コットン(綿)を用いる。
【0052】
セルロースは、コットンリンターパルプを下回るコストの観点から、好ましくは、コットン製造時の端材のリサイクル品、リサイクルの衣料由来のコットンを用いる。
【0053】
セルロースは、前記セルロース(広葉樹、針葉樹、草本類等)から成る群から選ばれる少なくとも1種のセルロースを用いて良く、これらのセルロースを1種単独で用いても良く、或は目的に応じて2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0054】
コットンと混合する原料のセルロースは、セルロース中のヘミセルロース、及びリグニンの含有量を基準とする。
【0055】
ヘミセルロースは、セルロース中の含有量が多い程、セルロースナノファイバー(CNF)製造時に解繊され易い。ヘミセルロースは、セルロース中の含有量が多い程、複合体の製造時に、得られる樹脂組成物の弾性率が下がる傾向が有る。
【0056】
リグニンは、セルロース中の含有量が多い程、CNF製造時に解繊され難く成り、加熱に因る着色が多く成る。リグニンは、セルロース中の含有量が多い程、フェノール性水酸基を持っているため、複合体の製造時に、芳香族エポキシ等と反応して、望ましい架橋反応を起こし易い。
【0057】
コットンと混合する原料のセルロースは、セルロース中の純粋なセルロース成分比率を、用途に応じて、適宜設定する。
【0058】
CNFを樹脂強化の目的で使用する場合、純粋なセルロース成分比率は、セルロース成分の有する強度特性を効果的に利用する為に、セルロース100質量%中に、好ましくは、70質量%以上であり、より好ましくは、80質量%以上である。純粋なセルロース成分比率の上限は、好ましくは、セルロース100質量%とする事が出来る。
【0059】
セルロース比率は、セルロース全体の質量100質量%に対して、βグルコース分子がグリコシド結合に依り直鎖状に重合した純粋なセルロース成分の比率である。
【0060】
コットンと混合する原料のセルロースは、セルロースに含まれる純粋なセルロース成分の重合度は、複合体の用途に応じ、適宜設定する。
【0061】
セルロースは、セルロース成分の重合度が低い方が、セルロースが解繊され易い傾向に有る。セルロースは、一方で、セルロースに含まれるセルロース成分の重合度が高い程、弾性率の高い複合体、及び組成物を得る事が出来る。
【0062】
セルロースは、高強度な樹脂組成物を得る為に、好ましくは、重合度500以上のセルロース成分を使用し、より好ましくは、重合度600以上のセルロース成分を使用する。セルロースは、セルロース成分の重合度の上限値は、特に限定されず、好ましくは、10万程度である。
【0063】
コットンと混合する原料のセルロースは、セルロースに含まれる純粋なセルロース成分の結晶化度は、低い方が、セルロースが解繊され易い傾向にある。セルロースに含まれる純粋なセルロース成分の結晶化度は、高い方が弾性率の高い複合体、及び組成物を得る事が出来る。
【0064】
セルロースは、高強度の組成物を得る為に、セルロースに含まれる純粋なセルロース成分の結晶化度は、好ましくは、60%以上であり、より好ましくは、70%以上である。セルロースは、セルロースの結晶化度の上限は、特に限定されず、好ましくは、99%であり、より好ましくは、98%である。
【0065】
セルロース成分の結晶構造は、I型、II型、III型、及びIV型が有る。セルロース成分の結晶構造は、中でも、樹脂の補強という観点から、好ましくは、弾性率等の高いI型結晶構造のセルロース成分である。
【0066】
コットン製織物の粉砕物のサイズ
コットン製織物の粉砕物は、好ましくは、400メッシュ以上、5mmメッシュ以下の間のものを用いる。
【0067】
コットン製織物の粉砕物は、メッシュサイズが粗い場合、解繊時に原料がグラインダー内で閉塞し、解繊が十分に行われない恐れがある。コットンは、メッシュサイズが細かいものの場合、原料の粉砕にコストがかかることに加え、ファイバーが短すぎて樹脂・ゴムと複合化した時に強化特性が弱まる恐れがある。また、グラインダー内での滞留時間が短いまま吐出されてしまい、解繊が十分に行われない恐れがある。
【0068】
コットン製織物の粉砕物のメッシュサイズは、400メッシュ(1インチ当たり目開きが400ある細かい篩)以上、5mmメッシュ(目開きが5mm)以下であり、好ましくは、100メッシュ以上、2mmメッシュ以下であり、より好ましくは、80メッシュ以上、2mmメッシュ以下である。
【0069】
[1-2]セルロースの微細化方法
セルロースを微細化する方法は、原料の成分やサイズ、形状の選択肢の幅が広く、解繊効率が良い、物理的解繊方法であるグラインダーを用いる。
【0070】
物理的解繊方法では、一般に、ナノファイバーの直径は、10nm~1,000nmと成る。
【0071】
グラインダーに加えて、他の解繊法を併用しても良い。
【0072】
併用する他の解繊法は、好ましくは、高圧ホモジナイザー法、水中対抗衝突法、グラインダー法、ボールミル法、二軸混練法等の物理的方法である。他の物理的解繊方法を併用する事に依り、解繊の均一性を増す事が出来る。
【0073】
併用する他の解繊法は、好ましくは、TEMPO触媒、リン酸、二塩基酸、硫酸、塩酸等を用いる化学的解繊方法である。化学的方法を併用する事に依り、更に細い3nm~10nmの直径のセルロースナノファイバー(CNF)を得る事が出来る。
【0074】
CNFは、直径が細く、アスペクト比が大きい程、複合体の製造時に、得られる樹脂組成物の高い強度等の物性を期待出来る。CNFは、直径が細く、アスペクト比が大きい程、複合体の製造時に、高粘度化して生産効率が低下したり、凝集したりして、高強度が発揮できない可能性もある。
【0075】
セルロースの解繊時の溶媒は、好ましくは、水を主成分とする。セルロースが親水性であり、水酸基を多く含む為、セルロースの解繊時の溶媒として、水を用いた場合に、解繊効率は高い。セルロースの解繊時の溶媒中、水の含有比率は、好ましくは、溶媒中80重量%以上であり、より好ましくは、90重量%以上である。
【0076】
セルロースの解繊時の溶媒は、解繊時のセルロースの乾燥を防ぐ為、好ましくは、グリセリン系、グリコール系等の親水性、且つ水酸基を含み、沸点が100℃より高い溶媒、より好ましくは、沸点が110℃以上の溶媒を加える。
【0077】
セルロースの解繊時の溶媒は、解繊後の溶媒の除去を容易にする為、好ましくは、アルコール、アセトン等、水溶性、且つ沸点が100℃以下の溶媒を加える。
【0078】
セルロースの解繊時の溶媒は、解繊中、若しくは解繊後に、純粋な水に溶解しない有機物と複合する事を目的として、好ましくは、水溶性の溶媒を加える。水溶性の溶媒の沸点は、特に限定されない。水溶性の溶媒の沸点は、複合後に、水を除去する場合、好ましくは、沸点は100℃より高い水溶性の溶媒を用いる。水溶性の溶媒の沸点は、複合後に、溶媒を速やかに除去する場、好ましくは、沸点が100℃以下水溶性の溶媒を用いる。
【0079】
セルロースの濃度(コットン製織物の粉砕物の含有比率)は、全体重量(コットン製織物の粉砕物、及び水を混合した混合物全体)の重量に対して、0.1重量%から4.0重量%(4重量%)以下に調整し、好ましくは、0.5重量%以上、3.6重量%以下、より好ましくは、1.0重量%、以上3.4重量%以下に調整する。
【0080】
セルロースの濃度は、0.1重量%未満の場合、CNFの生産効率に劣る傾向が有る。セルロースの濃度は、4.0重量%より大きい場合、グラインダー内で原料が閉塞し、主に水だけが排出されてセルロース濃度が更に高まり、セルロースの解繊が進まなくなる恐れが有る。
【0081】
グラインダー
CNFの製造方法では、グラインダーのクリアランスは、100μm以下であり、好ましくは、80μm以下であり、より好ましくは、1μm以上、70μm以下とする。グラインダーのクリアランスは、100μmより大きい場合、一般に解繊し難いコットンが十分に解繊されない傾向が有る。
【0082】
セルロースを、少ない回数で解繊する為に、好ましくは、グラインダーのクリアランスを狭くする。グラインダーのクリアランスは、狭くすると解繊が十分に行われるが、狭過ぎる場合、時間当たりの吐出量は小さくなり、グラインダーが閉塞して装置が停止したり、水だけが排出されたりする恐れが有る。グラインダーのクリアランスを広くすると、時間当たりの吐出量が大きくなるが、広過ぎる場合は解繊が十分に行われない可能性が有る。
【0083】
グラインダーのクリアランスは、より好ましくは、5μm~50μmであり、更に好ましくは、10μm~40μmである。
【0084】
[1-3]微細化後の処理
微細化したセルロースは、水分散液として、そのまま用いる事が出来る。
【0085】
微細化したセルロースは、他の材料、特に非水溶性物質と複合化する場合、好ましくは、水等の溶媒を除去する。
【0086】
CNFの製造方法では、グラインダー処理した混合物(コットン製織物の粉砕物、及び水を混合した混合物)を、例えば、ろ過処理する事に依り、容易に水を除去する事が出来る。グラインダー処理した混合物を、その自重で、ろ過するだけで、エネルギーを使う事無く、CNFの濃度を6重量%以上に上げる(つまり、6重量%以上含むスラリーを製造する)事が出来る。
【0087】
CNFの製造方法では、グラインダー処理した混合物を、遠心分離処理、若しくは加圧処理に依り、CNFの濃度を10重量%以上に上げる(つまり、CNFを10重量%以上含むスラリーを製造する)事が出来る。
【0088】
グラインダー処理した混合物が含む溶媒を除去する場合、溶媒を除去する為の労力、複合化時に解す労力等は増す。グラインダー処理した混合物が含む溶媒を除去する程、非水溶性物質との複合化が容易に成る。
【0089】
グラインダー処理した混合物は、溶媒の除去後、CNFの濃度は、好ましくは、6重量%~40重量%であり、より好ましくは、10重量%~30重量%である。
【0090】
本発明のCNFの製造方法は、一定のサイズに粉砕されたコットンを、一定濃度、且つ一定の範囲のクリアランスのグラインダーを用いて、処理する事に依り、高強度のCNFを製造する事が出来る。
【0091】
[2]セルロースナノファイバー(CNF)と非水溶性物質との複合体の製造方法
本発明のセルロースナノファイバー(CNF)と非水溶性物質との複合体の製造方法は、
(1)コットン製織物の粉砕物、及び水を混合し、前記混合物をグラインダー処理する工程、
(2)工程(1)の後、グラインダー処理した混合物から水を除去し、混合物中の固形分を10重量%以上に調整する工程、及び、
(3)工程(2)の後、固形分を10重量%以上に調整した混合物に、非水溶性物質、及び水溶性有機溶媒を加える工程、を含む。
【0092】
CNFと非水溶性物質との複合体の製造方法では、
好ましくは、更に、
(4)工程(3)の後、非水溶性物質、及び水溶性有機溶媒を加えた混合物を加熱減圧処理し、混合物から水を除去し、混合物全体の重量に対して、CNFの含有比率を20重量%以上に調整する工程、を含む。
【0093】
CNFと非水溶性物質との複合体の製造方法では、水溶性有機溶媒の沸点は、好ましくは、110℃以上である。
【0094】
CNFと非水溶性物質との複合体の製造方法では、非水溶性物質は、好ましくは、エポキシ化合物である。
【0095】
本発明のCNFと非水溶性物質との複合体の製造方法に依り、セルロース表面の化学的修飾を行わずに、樹脂組成物の強度を向上させる事が可能な複合体を提供する事が出来る。
【0096】
[2-1]非水溶性物質との複合化
セルロースナノファイバー(CNF)の製造方法では、グラインダー処理した混合物(コットン製織物の粉砕物、及び水を混合した混合物)において、CNFの凝集を防ぐという目的、及び疎水性を付与するという目的で、非水溶性物質でセルロース表面の一部又は全体を被覆し、複合体を製造する事が出来る。
【0097】
非水溶性物質
被覆する非水溶性物質は、混練時にセルロース、及び樹脂の双方と反応して架橋構造を構成するという目的から、好ましくは、1分子当たり、2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物が選択する。被覆する非水溶性物質は、架橋構造を避けて疎水化するという目的から、好ましくは、1分子当たり1つのエポキシ基を有するエポキシ化合物が選択する。
【0098】
エポキシ化合物は、好ましくは、脂肪族構造を有するもの、芳香族構造を有するものを選択する。エポキシ化合物は、得られる樹脂組成物の弾性率、及び耐熱性を良好なものとする為に、好ましくは、分子量が350以下のエポキシ化合物を採用し、より好ましくは、分子量が300以下のエポキシ化合物を採用する。エポキシ化合物は、分子量の下限値は、特に限定されず、好ましくは、分子量が100以上のエポキシ化合物を採用する。
【0099】
複合体を、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等、エポキシとの反応基を持たないポリオレフィン樹脂と組み合わせて使用する場合、より疎水化するという観点で、好ましくは、芳香環構造を有するエポキシ化合物、若しくはグリシジルエーテル基以外のエーテル構造を有さないエポキシ化合物を使用する。
【0100】
複合体に、芳香環が脂肪族置換基を有するエポキシ化合物を採用する事で、複合体に、更に疎水性を上げる、若しくは柔軟性を付与するという効果を得る事が出来る。エポキシ化合物は、好ましくは、o-クレジルグリシジルエーテル(o-クレゾールのグリシジルエーテル)、p-トリルグリシジルエーテル、m、p-クレジルグリシジルエーテル、p-tert-ブチルフェニルグリシジルエーテル等を使用する。
【0101】
複合体に、エポキシ化合物は、好ましくは、下記一般式(1)、及び(2)で表わされる基の双方を有するものを採用する事に依り、複合体に、疎水性と柔軟性の制御という効果を得る事が出来る。エポキシ化合物は、好ましくは、グリシジルエーテル構造を有するエポキシ化合物を使用する。
【0102】
【0103】
【0104】
一般式(2)中、R1、R2、及びR3は、好ましくは、夫々独立に、任意の置換基、又は水素原子を表わす。R1、R2、及びR3は、より好ましくは、夫々独立に、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、及びそれらの誘導体から成る群より選択される置換基、又は水素原子を表わす。
【0105】
エポキシ化合物は、好ましくは、エーテル構造を有し、そのエーテル構造として、一般式(1)で表わされるエーテル構造のみを有するエポキシ化合物を用いる。一般式(1)で表わされるエーテル構造のみを有するエポキシ化合物は、複合体に、より疎水性を高める事が出来る。
【0106】
エポキシ基を1つ有する化合物は、公知のものを広く採用する事が可能である。エポキシ基を1つ有する化合物は、好ましくは、脂肪族アルコール系エポキシ化合物、エポキシ化植物油、エポキシ化ゴム、芳香族フェノール系エポキシ化合物等を用いる。
【0107】
脂肪族アルコール系エポキシ化合物は、好ましくは、ブタノール(C4)~ステアリルアルコール(C18)のグリシジルエーテルを用いる。ブタノール(C4)~ステアリルアルコール(C18)のグリシジルエーテルを用いる事に依り、エポキシ化合物の分子量であり、得られる樹脂組成物(複合体)の弾性率、及び耐熱性は良好と成り、複合体の製造時にエポキシ化合物が揮発する事を抑制する事が出来、複合体に依る優れた疎水化効果を発揮する。
【0108】
脂肪族アルコール系エポキシ化合物は、好ましくは、エチルヘキサノール(C8)のグリシジルエーテル等の分岐鎖を有する化合物を用いる。
【0109】
脂肪族アルコール系エポキシ化合物は、より好ましくは、炭素数はC4~C18のグリシジルエーテルを用いる。
【0110】
エポキシ化植物油は、一般名称は、不飽和脂肪酸を含む植物油の二重結合を酸化させたエポキシ基を有する植物油である。エポキシ化植物油は、好ましくは、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油等を用いる。
【0111】
エポキシ化ゴムは、好ましくは、好ましくは、エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化SEBS、エポキシ化SBS、エポキシ化天然ゴム等を用いる。
【0112】
芳香族フェノール系エポキシ化合物は、好ましくは、芳香族フェノール系グリシジルエーテルを用いる。芳香族フェノール系エポキシ化合物は、より好ましくは、フェノールのグリシジルエーテル、その置換体(クレゾール、t-ブチルフェノール)のグリシジルエーテル、オルトフェニルフェノールのグリシジルエーテル、ナフトールのグリシジルエーテル、フルオレン誘導体のグリシジルエーテル等を用いる。
【0113】
芳香族フェノール系エポキシ化合物は、耐熱性、樹脂との相溶性、弾性率の観点から、好ましくは、フルオレン誘導体のグリシジルエーテルを用いる。
【0114】
複合体中におけるエポキシ化合物の含有量は、セルロースナノファイバー(CNF)(固形成分換算)100質量部に対して、好ましくは、2質量部~100質量部であり、より好ましくは、5質量部~75質量部である。複合体中におけるエポキシ化合物の含有量を調整する事に依り、複合体において、CNFの凝集を防止し、CNFを疎水化するという効果を得る事が出来る。
【0115】
エポキシ系樹脂層の厚みは、特に限定されず、好ましくは、1nm~1,000nmである。
【0116】
エポキシ系樹脂層は、複合体及び樹脂組成物の使用目的に応じて、エポキシ化合物の他、好ましくは、更に、エポキシ樹脂の硬化剤、効果促進剤、無機金属酸化物、炭素材料等を含む。
【0117】
被覆する非水溶性物質は、エポキシ化合物に限らず用いることができる。
【0118】
被覆する非水溶性物質は、表面を疎水化するという目的で、特に限定されず、好ましくは、セルロースと化学反応し得る官能基を有する成分を用いる。被覆する非水溶性物質は、好ましくは、イソシアネート系化合物、酸無水物系化合物、カルボン酸を有する化合物を用いる。
【0119】
被覆する非水溶性物質は、セルロースナノファイバー(CNF)と化学反応が期待できない物質を用いる事が可能である。
【0120】
被覆する非水溶性物質は、表面を疎水性材料で被覆しながらCNFの凝集を防ぐ目的で、好ましくは、窒素原子と水素原子を有する化合物(セルロースと水素結合を形成し得るアミン系化合物)、酸素原子と水素原子を有する化合物(アルコール性水酸基、フェノール性水酸基等を有する化合物)、フッ素原子や塩素原子を有する化合物等を用いる。
【0121】
被覆する非水溶性物質は、CNFの凝集を防ぐ目的で、反応性の官能基を有している物質を用いる必要は無い。被覆する非水溶性物質は、CNFの凝集を防ぐ目的で、オイルや樹脂のエマルジョンを用いてもよい。
【0122】
非水溶性物質は、前記非水溶性物質から成る群から選ばれる少なくとも1種の非水溶性物質を用いて良く、これらの非水溶性物質を1種単独で用いても良く、或は目的に応じて2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0123】
水溶性有機溶媒
非水溶性化合物を、有機溶媒(好ましくは、水溶性有機溶媒)に溶解、若しくは分散させ、これに湿潤したセルロースナノファイバー(CNF)を混合する事に依り、複合体を得る事が出来る。
【0124】
CNF、有機溶媒(水溶性有機溶媒)、水、及び非水溶性化合物を含む混合物は、そのまま用いる事が出来る。CNF、有機溶媒(水溶性有機溶媒)、水、及び非水溶性化合物を含む混合物から、目的に応じて、好ましくは、一部、若しくは全部の溶媒を除去する。
【0125】
複合体では、CNFの熱可塑性樹脂、若しくは熱硬化性樹脂への分散性を高める為、溶媒の一部を残しても良い。複合体では、全体重量に占めるCNFの含有比率は、溶媒の除去し易さの観点から、好ましくは、10重量%以上であり、より好ましくは、20重量%以上であり、更に好ましくは、25重量%以上であり、特に好ましくは、30重量%以上である。
【0126】
溶媒除去ができない装置での混練、及び混合の観点、親水性の無い物質との混合等の配合の自由度の観点から、溶媒の全て、若しくは大半を除去してしも良い。複合体では、全体重量に占めるCNFの含有比率は、溶媒の除去し易さの観点から、好ましくは、80重量%以上であり、より好ましくは、90重量%以上であり、更に好ましくは、95重量%以上である。
【0127】
有機溶媒は、公知の有機溶媒を広く採用する事が可能である。有機溶媒は、好ましくは、水溶性有機溶媒を用いる。有機溶媒は、樹脂組成物を得る際に、セルロースの凝集を防ぎつつ、水を除く事を可能とする為に、好ましくは、沸点が110℃以上の有機溶媒を採用する。有機溶媒は、有機溶媒を容易に除く事を可能とするという観点から、好ましくは、沸点が250℃以下の有機溶媒を使用する。
【0128】
有機溶媒を含んだ状態で、加水分解性の樹脂と混練を行う場合に、アルコリシスを避けるという理由から、加水分解性樹脂との混練が想定される場合に、好ましくは、水酸基を有していない有機溶媒を採用する。
【0129】
有機溶媒は、好ましくは、水溶性有機溶媒であり、好ましくは、水及びエポキシの双方に対して、親和性を有する両アルコール系、ケトン系、グリコール系、ラクトン系、ラクタム系、アミド系、スルホキシド系、エーテル系等の両親媒性の有機溶媒を用いる。
【0130】
有機溶媒は、溶媒が残留した状態で組成物を混練する事を考慮すると、好ましくは、ケトン系、両末端がエーテル化されて水酸基を有しないグリコール系、ラクトン系、ラクタム系、アミド系、スルホキシド系等の有機溶媒を使用する。
【0131】
有機溶媒は、前記有機溶媒から成る群から選ばれる少なくとも1種の有機溶媒を用いて良く、これらの有機溶媒を1種単独で用いても良く、或は目的に応じて2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0132】
複合体
複合体は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、ゴム・エラストマー等と混合して用いる事が出来る。
【0133】
セルロースは、複合体を形成しても極性を有する。混合する樹脂は、余剰のエポキシとの相溶性を有する。混合する樹脂は、特に限定されず、好ましくは、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等の樹脂を用いる。
【0134】
複合体は、その表面にエポキシを担持し、複合体としては極性の低い状態となっている。混合する樹脂は、好ましくは、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン類、ポリスチレン(PS)、ABS樹脂、SEBS樹脂、SBS樹脂、AS樹脂等ポリスチレン系樹脂類等、極性の低い樹脂を用いる。
【0135】
混合する樹脂は、環境性の観点で、バイオマス比率を上げる方が好ましく、バイオマスプラスチック、微生物産生プラスチック等を用いる。
【0136】
樹脂は、前記樹脂から成る群から選ばれる少なくとも1種の樹脂を用いて良く、これらの樹脂を1種単独で用いても良く、或は目的に応じて2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0137】
複合体は、セルロースの高い弾性率を活用するという理由で、好ましくは、ゴム、熱可塑性エラストマー等を用いる。
【0138】
ゴムは、好ましくは、ジエン系ゴム、オレフィン系ゴム、アクリル系ゴム、ブチルゴム、エピクロロヒドリンゴム、シリコーン系ゴム、多硫化ゴム、フッ素ゴム等を用いる。ゴムは、相溶性の観点で、好ましくは、ジエン系ゴム、オレフィン系ゴム等を用いる。
【0139】
ジエン系ゴムは、好ましくは、スチレン-ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム等を用いる。
【0140】
オレフィン系ゴムは、好ましくは、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム等を用いる。
【0141】
ゴムは、前記ゴムから成る群から選ばれる少なくとも1種のゴムを用いて良く、これらのゴムを1種単独で用いても良く、或は目的に応じて2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0142】
熱可塑性エラストマーは、好ましくは、スチレン系、オレフィン系、エステル系、ウレタン系、アミド系、ポリ塩化ビニル系、フッ素系の熱可塑性エラストマーを用いる。熱可塑性エラストマーは、相溶性の観点で、好ましくは、オレフィン系、エステル系、アミド系の熱可塑性エラストマーを用いる。
【0143】
熱可塑性エラストマーとしては、ポリエチレン構造、ポリプロピレン構造、ブタジエン構造、ポリエチレンテレフタレート構造、ポリアミド6構造、ポリアミド66構造、ポリアミド11構造、ポリアミド12構造を有するものが好ましく、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体、スチレン-ブチレン-ブタジエン-スチレン共重合体のようにオレフィン構造もしくはジエン構造を有しながら、別の系統であるスチレン構造を含んでもよい。
【0144】
熱可塑性エラストマーは、前記熱可塑性エラストマーから成る群から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性エラストマーを用いて良く、これらの熱可塑性エラストマーを1種単独で用いても良く、或は目的に応じて2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0145】
複合体は、好ましくは、ポリ乳酸、ポリアミド4、ポリアミド11、ポリブチレンサクシネート、ポリヒドロキシブチレート等を用いる。複合体は、好ましくは、PE、PP、及びその構造を有する共重合体(ランダムポリマー、ブロックポリマー)を用いる。
【0146】
本発明のCNFと非水溶性物質との複合体の製造方法は、セルロース表面の化学的修飾を行わずに、樹脂組成物の強度を向上させる事が可能な複合体を製造する事が出来る。
【実施例0147】
以下に、実施例を示して本発明を具体的に説明する。
【0148】
本発明は、以下の具体的な実施例に限定されない。
【0149】
(実施例1)
衣服の端材を、5mmメッシュで粉砕したコットン製織物500gに対して、水を加えて混合し、全体重量を20kgとした。混合物全体の重量に対して、コットン製織物の粉砕物の含有比率を、2.5重量%(500g/20kg)に調整した。
【0150】
次いで、この混合物を、グラインダー(クリアランス20μm)を用いて、3パス処理して解繊し、セルロースナノファイバー(CNF)を含む水分散液を得た。
【0151】
(解繊前の衣服端材)
【0152】
【0153】
(解繊後)
【0154】
【0155】
(実施例2)
衣服の端材を、2mmメッシュで粉砕したコットン製織物を用い、パス回数を1パスに変更した以外は、実施例1と同様にして、解繊を行った。
【0156】
次いで、CNF水分散液800gを濾過し、固形分を20g(20重量%)含む水湿潤体100gを得た。次いで、この水湿潤体に、ジエチレングリコールジメチルエーテル200gとフェノキシエタノールフルオレンジグリシジルエーテル10g(CNF100質量部に対し、エポキシ化合物50質量部)を加え、撹拌した後、80℃で減圧して、ジエチレングリコールジメチルエーテルで湿潤した約100gの複合体を得た。
【0157】
その後、複合体100gとポリ乳酸(ユニチカ製 TE-2000)170gとを、二軸押出機(テクノベル製15mmφ、L/D=30)を用いて、190℃で溶融混練し、150gの樹脂組成物を得た。
【0158】
得られた樹脂組成物を、80℃で、24時間乾燥を行った後、射出成形機(新興セルビック、C,MOBILE-0813)を用いて、長さ75mm×平行部幅5mm×平行部長さ35mm×厚さ2mmのダンベル試験片に成形した。この試験片について、万能材料試験機(Instron 5567)を用いて、雰囲気温度23℃、引張速度10mm/min、n=5で引張試験を行い、引張強度を算出した。
【0159】
試験片の引張強度は、83.8MPaであった。
【0160】
【0161】
(比較例1)
原料コットン製織物を、10mmメッシュに変更した以外は、実施例2と同様にして、実験を行った。
【0162】
コットン製織物のメッシュサイズが粗く、解繊初期はCNFを含む水分散液が得られたが、グラインダー内でコットンが詰まり、安定して吐出、解繊する事が出来なかった。
【0163】
【0164】
(実施例3)
原料コットン製織物を、20メッシュに変更した以外は、実施例2と同様にして、実験を行った。
【0165】
CNFを含む水分散液が得られた。
【0166】
試験片の引張強度は、75.7MPaであった。
【0167】
【0168】
(実施例4)
原料コットン製織物を、80メッシュに変更した以外は、実施例1と同様にして、実験を行った。
【0169】
その結果、CNFを含む水分散液が得られた。一部、太さ500nm~1,000nmのファイバーも見られた。
【0170】
【0171】
(実施例5)
グラインダーのクリアランスを、80μmに変更した以外は、実施例1と同様にして、実験を行った。
【0172】
その結果、CNFを含む水分散液が得られた。太さ500nm~1,000nmのファイバーが多く、見られた。これ以上クリアランスを広くすると、1,000nm以上のファイバーが混入すると考えられる。
【0173】
【0174】
(比較例2)
グラインダーのクリアランスを、120μmに変更した以外は、実施例1と同様にして、実験を行った。
【0175】
その結果、コットンは、繊維の開裂や一部ナノファイバー化は見られたものの、殆ど解繊されなかった。
【0176】
【0177】
(比較例3)
原料コットン製織物を、脱脂綿に変更した以外は、実施例3と同様にして、実験を行った。
【0178】
その結果、グラインダー内で脱脂綿が詰まり、吐出、解繊する事が出来なかった。
【0179】
(比較例4)
原料コットン製織物の濃度を、4.1重量%で試みる以外は、実施例3と同様にして、実験を行った。
【0180】
その結果、水は排出されるが、CNFは、殆ど排出されず、コットンがグラインダー内で濃縮され、安定して解繊する事が出来なかった。
【0181】
(比較例5)
原料コットン製織物を、セルロースパウダーKCフロック50GKに変更した以外は、実施例2と同様にして、実験を行った。
【0182】
その結果、ナノ~サブミクロンサイズのナノファイバーが得られた。試験片の引張強度は、62MPaであった。試験片の引張強度は、コットン製織物を原料としたCNFを用いた場合に比べて、低かった。
【0183】
【0184】
(比較例6)
原料コットン製織物を、広葉樹パルプに変更した以外は、実施例2と同様にして、実験を行った。
【0185】
その結果、CNFが得られた。試験片の引張強度は、65MPaであった。試験片の引張強度は、コットン製織物を原料としたCNFを用いた場合に比べて、低かった。
【0186】
【0187】
(比較例7)
原料コットン製織物を、アバカパルプに変更した以外は、実施例2と同様にして、実験を行った。
【0188】
その結果、CNFが得られた。試験片の引張強度は、64MPaであった。試験片の引張強度は、コットン製織物を原料としたCNFを用いた場合に比べて、低かった。
【0189】
【0190】
(比較例8)
原料コットン製織物を、ケナフパルプに変更した以外は、実施例2と同様にして、実験を行った。
【0191】
その結果、CNFが得られた。試験片の引張強度は、63MPaであった。試験片の引張強度は、コットン製織物を原料としたCNFを用いた場合に比べて、低かった。
【0192】
【0193】
(比較例9)
原料コットン製織物を、バガスパルプに変更した以外は、実施例2と同様にして実験を行った。
【0194】
その結果、CNFが得られた。試験片の引張強度は69MPaであった。試験片の引張強度は、コットン製織物を原料としたCNFを用いた場合に比べて、低かった。
【0195】
【0196】
実施例の通り、コットン製織物を、一定濃度、一定クリアランスのグラインダー処理を行う事により、良好に解繊を行う事が出来た。実施例の通り、コットンを解繊したCNFを樹脂と複合した処、他のセルロース源のCNFに比べて、高強度の複合樹脂を得ることが出来た。
【0197】
[産業上の利用可能性]
本発明は、一定のサイズに粉砕されたコットンを、一定濃度、且つ一定の範囲のクリアランスのグラインダーで処理する事に依り、高強度のセルロースナノファイバー(CNF)を製造する事が出来る。
【0198】
本発明は、また、セルロース表面の化学的修飾を行わずに、樹脂組成物の強度を向上させる事が可能な複合体を製造する事が出来る。