(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013421
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】電磁弁の制御装置
(51)【国際特許分類】
F02B 33/00 20060101AFI20240125BHJP
F16K 31/06 20060101ALI20240125BHJP
F02B 39/16 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
F02B33/00 E
F16K31/06 385A
F02B39/16 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022115488
(22)【出願日】2022-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154380
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100081972
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 豊
(72)【発明者】
【氏名】石神 佳治
【テーマコード(参考)】
3G005
3H106
【Fターム(参考)】
3G005FA04
3G005GA02
3G005GB18
3G005JA12
3H106DA13
3H106DA23
3H106DB02
3H106DB12
3H106DB23
3H106DB32
3H106DC02
3H106DC17
3H106DD03
3H106EE04
3H106KK17
(57)【要約】
【課題】電磁弁の作動応答性を向上する。
【解決手段】電磁石と電磁石に対し電磁力によって移動する弁体とを有する電磁弁1の開閉を制御する電磁弁の制御装置100は、電磁弁1の温度を検出する水温センサ19および温度判定部31と、弁体を移動させるとき、水温センサ19および温度判定部31により検出された温度が所定温度以下の場合、PWM制御により電磁弁1に断続的に電流を流す一方、水温センサ19および温度判定部31により検出された温度が所定温度より高い場合、電磁弁1に連続的に電流を流すように電磁弁1を制御する通電制御部32とを備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁石と該電磁石に対し電磁力によって移動する弁体とを有する電磁弁の開閉を制御する電磁弁の制御装置であって、
前記電磁弁の温度を検出する温度検出部と、
前記弁体を移動させるとき、前記温度検出部により検出された温度が所定温度以下の場合、PWM制御により前記電磁弁に断続的に電流を流す一方、前記温度検出部により検出された温度が前記所定温度より高い場合、前記電磁弁に連続的に電流を流すように前記電磁弁を制御する制御部と、を備えることを特徴とする電磁弁の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電磁弁の制御装置において、
前記電磁弁は、過給機を有するエンジンの吸気通路における圧縮機の上流側と下流側とを接続するバイパス通路に設けられ、非通電時に前記バイパス通路を閉鎖し、通電時に前記バイパス通路を開放することを特徴とする電磁弁の制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電磁弁の制御装置において、
前記電磁弁は、過給機を有するエンジンの吸気通路における圧縮機の上流側と下流側とを接続するバイパス通路に設けられ、非通電時に前記バイパス通路を閉鎖し、通電時に前記バイパス通路を開放し、
前記温度検出部は、前記エンジンを冷却する冷却水の水温に基づいて前記電磁弁の温度を検出し、
前記制御部は、前記弁体を移動させるとき、前記水温が所定水温に達した後、所定時間が経過したことを条件として、前記電磁弁に連続的に電流を流すように前記電磁弁を制御することを特徴とする電磁弁の制御装置。
【請求項4】
エンジンの吸気通路に設けられ、電磁石と該電磁石に対し電磁力によって移動する弁体とを有する電磁弁の開閉を制御する電磁弁の制御装置であって、
前記エンジンを冷却する冷却水の水温を検出する水温検出部と、
前記弁体を移動させるとき、前記水温検出部により検出された水温が所定水温以下の場合、PWM制御により前記電磁弁に断続的に電流を流す一方、前記水温検出部により検出された水温が前記所定水温より高い場合、前記電磁弁に連続的に電流を流すように前記電磁弁を制御する制御部と、を備えることを特徴とする電磁弁の制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の電磁弁の制御装置において、
前記エンジンは、過給機を有し、
前記電磁弁は、前記吸気通路における圧縮機の上流側と下流側とを接続するバイパス通路に設けられ、非通電時に前記バイパス通路を閉鎖し、通電時に前記バイパス通路を開放することを特徴とする電磁弁の制御装置。
【請求項6】
請求項4に記載の電磁弁の制御装置において、
前記制御部は、前記弁体を移動させるとき、前記水温が前記所定水温に達した後、所定時間が経過したことを条件として、前記電磁弁に連続的に電流を流すように前記電磁弁を制御することを特徴とする電磁弁の制御装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の電磁弁の制御装置において、
前記電磁弁は、
前記電磁石の電磁力による移動の方向とは反対の方向に前記弁体を付勢する付勢部材と、
前記電磁石と前記付勢部材とを収容するとともに、前記弁体が挿抜される開口部が形成された筐体と、
前記筐体と前記弁体との間の隙間を封止する封止部材と、有し、
前記弁体には、前記筐体の内部空間と外部空間とを連通する連通孔が形成され、
前記封止部材には、前記内部空間に面する凹部が形成されることを特徴とする電磁弁の制御装置。
【請求項8】
請求項7に記載の電磁弁の制御装置において、
前記封止部材は、樹脂材料によりU字形状ないしV字形状に形成されることを特徴とする電磁弁の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁弁の開閉を制御する電磁弁の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電磁力により弁体を移動させることで流路を開閉するようにした電磁弁が知られている(例えば特許文献1参照)。特許文献1記載の電磁弁は、弁体を閉弁方向に付勢するスプリングや電磁石等を収容するケースと、電磁石の励磁に応じて開弁方向に移動する弁体と、ケースと弁体との間の隙間を封止する可撓性のシールリングとを有する。この弁体には連通孔が形成され、閉弁時において高圧側の流体が連通孔を介してケース内に流入し、シールリングを押し広げることで、シールリングがケースと弁体とに隙間なく接触し、封止性が高められる。
【0003】
電磁弁は、エアバイパスバルブ等の車両部品に適用することができる。車両部品としての電磁弁の作動応答性を確保することで、車両の安全性を向上し、持続可能な輸送システムの発展に寄与することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1記載の電磁弁では、低温環境下でシールリングの可撓性が低下すると作動応答性が低下するおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、電磁石と電磁石に対し電磁力によって移動する弁体とを有する電磁弁の開閉を制御する電磁弁の制御装置であって、電磁弁の温度を検出する温度検出部と、弁体を移動させるとき、温度検出部により検出された温度が所定温度以下の場合、PWM制御により電磁弁に断続的に電流を流す一方、温度検出部により検出された温度が所定温度より高い場合、電磁弁に連続的に電流を流すように電磁弁を制御する制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電磁弁の作動応答性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1A】流路を閉鎖するときの、本発明の実施形態に係る電磁弁の制御装置が適用される電磁弁およびその周辺の構成の一例を概略的に示す断面図。
【
図1B】流路を開放するときの、本発明の実施形態に係る電磁弁の制御装置が適用される電磁弁およびその周辺の構成の一例を概略的に示す断面図。
【
図3】本発明の実施形態に係る電磁弁の制御装置の要部構成を概略的に示すブロック図。
【
図4】
図1Aおよび
図1Bの電磁弁への通電方法を切り替えたときのバルブ開度について説明するための図。
【
図5】本発明の実施形態に係る電磁弁の制御装置により実行される処理の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、
図1A~
図5を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1Aおよび
図1Bは、本発明の実施形態に係る電磁弁の制御装置が適用される電磁弁1およびその周辺の構成の一例を概略的に示す断面図である。
図1Aは、電磁弁1が流路10を閉鎖するときの状態を示し、
図1Bは、電磁弁1が流路10を開放するときの状態を示す。
【0010】
図1Aおよび
図1Bに示すように、電磁弁1は、固定コア2と、固定コア2の周囲に巻回されたコイル3とを有する。固定コア2とコイル3とは電磁石を構成し、コイル3への通電に応じて電磁力を生じる。電磁弁1は、さらに、コイル3への通電により生じた電磁力に応じて固定コア2側に吸引される可動コア4と、可動コア4と一体に取り付けられた弁体5と、電磁力による吸引の方向とは反対の方向に弁体5を付勢するスプリング6とを有する。
【0011】
図1Aに示すように、電磁弁1(コイル3)の非通電時には、スプリング6の付勢力により弁体5が流路10に形成された着座面10aに着座することで流路10が閉鎖される。一方、
図1Bに示すように、電磁弁1の通電時には、電磁石(固定コア2、コイル3)の電磁力により可動コア4と弁体5とが固定コア2側に吸引され、弁体5がスプリング6の付勢力に抗して着座面10aから離間する方向に移動することで流路10が開放される。
【0012】
図1Aおよび
図1Bに示すように、電磁弁1は、さらに、弁体5が挿抜される開口部7aが形成された筐体7と、筐体7と弁体5との間の隙間を封止するシールリング8と、シールリング8を保持するホルダ9とを有する。筐体7は、固定コア2、コイル3、コイル3が巻回されるボビン3a、可動コア4、可動コア4を案内するガイド4a、スプリング6、シールリング8、およびホルダ9を収容する。
【0013】
シールリング8は、フッ素樹脂(例えば、PTFE(Poly Tetra Fluoro Ethylene))などの可撓性(柔軟性)を有する樹脂材料により構成され、断面がU字形状ないしV字形状に形成される。シールリング8は、断面の凹部8aが筐体7の内部空間SP1に面するように筐体7に載置され、ホルダ9により保持される。
【0014】
弁体5には、筐体7の内部空間SP1と外部空間SP2とを連通する連通孔5aが形成される。電磁弁1の閉弁時(
図1A)に内部空間SP1と連通する外部空間SP2の圧力が高い場合、連通孔5aを介して流入する高圧の流体により凹部8aが押し広げられるようにシールリング8が撓み、筐体7と弁体5とに隙間なく接触する。これにより、閉弁状態における電磁弁1の封止性が高められる半面、シールリング8を構成する樹脂材料の柔軟性が低下(硬度が増大)する低温環境下(例えば、-30℃程度)では、閉弁状態から開弁するときの作動応答性が低下する。すなわち、シールリング8を構成する樹脂材料の柔軟性が低下する低温環境下では、弁体5とシールリング8との接触、摺動によるフリクションが増大することで、作動応答性が低下しやすくなる。
【0015】
図2は、電磁弁1の適用例について説明するための図であり、電磁弁1が、過給機を有するエンジン11のエアバイパスバルブとして用いられる例を示す。
図2に示すように、エンジン11は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関により構成され、一例として車両20に搭載される車載エンジンとして構成される。エンジン11には、エンジン11の冷却水の温度(エンジン水温)TWを検出する水温センサ19が設けられる。エンジン11には、エンジン11に吸い込まれる吸入空気(吸気)が通過する吸気通路12と、エンジン11で燃焼した排気ガス(排気)が通過する排気通路13とが接続される。
【0016】
排気通路13には、排気により回転駆動するタービン14aが設けられる。吸気通路12には、タービン14aと同軸に設けられて、不図示のエアクリーナを介して吸入された大気圧P1の吸気を過給圧P2まで圧縮するコンプレッサ14bが設けられる。すなわち、タービン14aとコンプレッサ14bとにより吸気を過給する過給機14が構成される。
【0017】
タービン14aの上流および下流の排気通路13には、タービン14aの上流側から下流側へ排気を迂回させるバイパス通路15が設けられ、バイパス通路15には、バイパス通路15を開閉するウェイストゲートバルブ16が設けられる。ウェイストゲートバルブ16の開度を調整することで、タービン14aを通過する排気の流量を調整し、タービン14aおよびコンプレッサ14bの回転数を調整し、過給機14による過給圧P2を調整することができる。
【0018】
コンプレッサ14bの下流側の吸気通路12には、コンプレッサ14bにより圧縮された吸気(過給気)を冷却するインタクーラ17と、吸気量を調整するスロットルバルブ18とが設けられる。スロットルバルブ18の開度を調整することで、エンジン11への吸入空気量を調整し、エンジン11の負荷(出力)を調整することができる。
【0019】
コンプレッサ14bの上流、およびインタクーラ17の下流かつスロットルバルブ18の上流の吸気通路12には、コンプレッサ14bにより圧縮された過給気をコンプレッサ14b上流に還流するエアバイパス通路としての流路10が設けられる。流路10には、流路10を開閉するエアバイパスバルブとしての電磁弁1が設けられ、流路10の内壁には、電磁弁1の弁体5が着座する着座面10a(
図1A、
図1B)が形成される。
【0020】
車両20の走行時、アクセルがオンのときは、スロットルバルブ18がエンジン負荷に応じた適宜な開度で開放され、コンプレッサ14bおよびインタクーラ17を通過した吸気がエンジン11に供給される。より具体的には、エンジン負荷が低い自然吸気領域では、大気圧P1の吸気がエンジン11に吸い込まれ、エンジン負荷が高い過給領域では、過給機14により圧縮された過給圧P2の吸気(過給気)がエンジン11に圧送される。このとき、電磁弁1には通電がされず、電磁弁1は、スプリング6の付勢力により弁体5が流路10内壁の着座面10aに着座した閉弁状態(
図1A)を維持し、これにより流路10が閉鎖状態に維持される。
【0021】
過給領域では、
図1Aおよび
図2に示すように、コンプレッサ14b下流の吸気通路12に連通する外部空間SP2からの過給気が、連通孔5aを介して電磁弁1の内部空間SP1に流入し、凹部8aを押し広げるようにシールリング8を撓ませる。これによりシールリング8が筐体7と弁体5とに隙間なく接触し、コンプレッサ14b下流の吸気通路12からコンプレッサ14b上流の吸気通路12への過給気の漏出が確実に阻止され、過給圧P2が適切に維持される。
【0022】
一方、車両20の減速時、アクセルがオフされると、直ちにスロットルバルブ18が閉鎖されるとともに電磁弁1に通電がされ、電磁弁1が開弁状態(
図1B)に移行する。このとき、コイル3への通電により生じた電磁力が可動コア4および弁体5を固定コア2に向けて吸引し、弁体5がスプリング6の付勢力に抗して流路10内壁の着座面10aから離間する方向に移動することで、流路10が開放される。流路10が開放されると、コンプレッサ14b下流の過給気が流路10を介してコンプレッサ14b上流に還流され、これにより過給圧P2が解放される。
【0023】
しかしながら、シールリング8を構成する樹脂材料の柔軟性が低下する低温環境下では、弁体5とシールリング8との接触、摺動によるフリクションが増大し、コイル3への通電により生じる電磁力が相対的に不足し、弁体5が移動するときの作動応答性が低下する。この場合、スロットルバルブ18が閉鎖されてから流路10が開放されて過給圧P2が解放されるまでに遅延が生じ、コンプレッサ14b下流の吸気通路12に過剰な過給気が滞留することで、過給機14のサージングが発生するおそれがある。
【0024】
過給機14のサージングが発生すると、サージングによる異音が生じ、エンジン11の音響商品性を損なうおそれがある。また、タービン14aのブレードなどの構成部品が損傷する可能性があるため、エンジン11の高い耐久性が必要とされ、コストが増大する。そこで、本実施形態では、低温環境下で電磁弁1への通電方法を切り替えることで、弁体5を移動させるときの作動応答性を確保することができるよう、以下のように電磁弁の制御装置を構成する。
【0025】
図3は、本発明の実施形態に係る電磁弁の制御装置(以下、装置)100の要部構成を概略的に示すブロック図である。
図3に示すように、装置100は、コントローラ30と、コントローラ30にそれぞれ通信可能に接続された電磁弁1と水温センサ19とを主に有する。コントローラ30は、CPU,ROM,RAM、その他の周辺回路などを有するコンピュータを含んで構成される電子制御ユニットにより構成される。コントローラ30は、温度判定部31と通電制御部32として機能する。
【0026】
温度判定部31は、水温センサ19により検出されたエンジン水温TWに基づいて、電磁弁1が、シールリング8を構成する樹脂材料の柔軟性が低下する所定の低温環境下にあるか否かを判定する。すなわち、水温センサ19と温度判定部31とは、電磁弁1の温度を代表するエンジン水温TWを検出し、検出されたエンジン水温TWに基づいて電磁弁1の温度が低温か否かを推定することで電磁弁1の温度を検出する温度検出部を構成する。
【0027】
より具体的には、温度判定部31は、水温センサ19により検出されたエンジン水温TWが所定水温TW0に達した後、所定時間が経過するまでは、電磁弁1が所定の低温環境下にあると判定する。また、エンジン水温TWが所定水温TW0に達した後、所定時間が経過すると、電磁弁1が所定の低温環境下にないと判定する。
【0028】
このように、電磁弁1に温度センサを設けることなく、水温センサ19により検出されたエンジン水温TWに基づいて電磁弁1が所定の低温環境下にあるか否かを判定するため、電磁弁1の構成を簡易にすることができる。また、エンジン水温TWが所定水温TW0に達した後も所定時間が経過するまでは電磁弁1が所定の低温環境下にあると判定することで、電磁弁1の低温状態を保守的に推定することができる。
【0029】
通電制御部32は、車両20のアクセル開度等に応じて発せられるエアバイパスバルブとしての電磁弁1の作動指令に応じて電磁弁1の開閉を制御する。より具体的には、通電制御部32は、温度判定部31により電磁弁1が所定の低温環境下にあると判定されると、電磁弁1の作動指令に応じてPWM(Pulse Width Modulation)制御により電磁弁1に断続的に電流を流すように電磁弁1を制御する。一方、通電制御部32は、温度判定部31により電磁弁1が所定の低温環境下にないと判定されると、電磁弁1の作動指令に応じて電磁弁1に連続的に電流を流すように電磁弁1を制御する。
【0030】
図4は、電磁弁1への通電方法を切り替えたときのバルブ開度について説明するための図である。エンジン11の暖機後など電磁弁1が所定の低温環境下にない場合は、
図4に実線で示すように、時刻t1に電磁弁1の作動指令が入力されると、直ちに電磁弁1に一定の電源電圧が印加され、連続的に電流を流すように電磁弁1が制御される(通常制御)。電磁弁1には、車両20に搭載されたバッテリなどから電源が供給され、一定の電源電圧が連続的に印加されることで、電磁弁1のコイル3に連続的に電流が流れる。
【0031】
エンジン11の暖機後など電磁弁1が所定の低温環境下にない場合は、コイル3への通電により生じる電磁力に応じて、弁体5が着座面10aに着座する全閉位置(
図1A)から速やかに離間し、時刻t3には全開位置(
図1B)まで到達する。これにより、
図2の流路10が開放され、過給気がコンプレッサ14b下流からコンプレッサ14b上流に還流されることで、過給圧P2が速やかに解放される。
【0032】
一方、電磁弁1が所定の低温環境下にある場合は、弁体5とシールリング8との接触、摺動によるフリクションが増大するため、コイル3への通電により生じる電磁力が相対的に不足する。このような場合に通常制御を行うと、電磁弁1が所定の低温環境下にない場合よりも弁体5とシールリング8との接触によるフリクションが増大しているため、
図4に破線で示すように、時刻t2までシールリング8に対する弁体5の移動が阻害される。
【0033】
また、電磁弁1が所定の低温環境下にない場合よりも弁体5とシールリング8との摺動によるフリクションが増大しているため、弁体5の移動速度が低下し、全閉位置(
図1A)から全開位置(
図1B)に到達するまでの所要時間が長くなる(時刻t2~t6)。この場合、
図2のスロットルバルブ18が閉鎖されてから流路10が開放されて過給圧P2が解放されるまでの所要時間が長くなるため、コンプレッサ14b下流の吸気通路12に過剰な過給気が滞留し、過給機14のサージングが発生するおそれがある。なお、弁体5が移動し始めると、弁体5とシールリング8との摺動により摩擦熱が発生することで摺動面のフリクションが低下し、弁体5の移動速度が上昇する(時刻t5)。
【0034】
通電制御部32は、温度判定部31により電磁弁1が所定の低温環境下にあると判定されると、
図4に点線で示すように、PWM制御により電磁弁1に断続的に電流を流すように電磁弁1を制御する。PWM制御では、電流の通電と非通電の時間比(デューティ比)を制御するPWM信号により、車両20に搭載されたバッテリなどの電源と電磁弁1との間に設けられたトランジスタなどのスイッチング素子のオンとオフを一定周期(周波数)で切り替える。
【0035】
これにより、電磁弁1には、一定の電源電圧が断続的に印加され、電磁弁1のコイル3に断続的に電流が流れる(時刻t1~時刻t4)。より具体的には、スイッチング素子がオンされると電磁弁1のコイル3に流れる電流が増加し、スイッチング素子がオフされると電磁弁1のコイル3に流れる電流が減少する。なお、
図4の例では、デューティ比を0%から100%まで変化させることで、電磁弁1に入力される電圧の平均値を電源電圧の0%から100%まで連続的に変化させている。
【0036】
この場合、時刻t1に電磁弁1の作動指令が入力されると直ちにPWM制御が開始され、コイル3を流れる電流の増減に応じて通電により生じる電磁力が増減し、これにより弁体5がシールリング8に対して一定周期で微小な移動を繰り返す。すなわち、電磁力が増加すると弁体5が着座面10aから離間する方向に微小に移動し、電磁力が減少すると弁体5が着座面10aに接近する方向に微小に移動し、このような微小な移動が一定周期で繰り返される。弁体5がシールリング8に対して一定周期で微小な移動を繰り返すと、弁体5とシールリング8との摺動による摩擦熱が発生し、シールリング8を構成する樹脂材料の柔軟性が向上(硬度が低下)することで摺動面のフリクションが低下する(時刻t1~t2)。
【0037】
時刻t2に電磁力がスプリング6の付勢力を上回ると、弁体5がシールリング8に対して小刻みに移動し始める。すなわち、電磁力が増加してスプリング6の付勢力を上回ると弁体5が着座面10aから離間する方向に移動し、電磁力が減少してスプリング6の付勢力を下回ると弁体5が着座面10aに接近する方向に移動する。弁体5がシールリング8に対して一定周期で小刻みに移動すると、弁体5とシールリング8との摺動による摩擦熱が発生し、シールリング8を構成する樹脂材料の柔軟性が向上(硬度が低下)することで摺動面のフリクションが低下する(時刻t2~t4)。
【0038】
このように、PWM制御では、弁体5がシールリング8に対して一定周期で微小な移動または小刻みな移動を繰り返すことで、弁体5とシールリング8との摺動面のフリクションが低下する。これにより、通常制御の場合よりも弁体5の移動速度が向上し、電磁弁1の作動応答性を向上することができる。この場合、所定の低温環境下であっても、通常制御の場合より、弁体5が全閉位置(
図1A)から全開位置(
図1B)に到達するまでの所要時間が短くなり、過給圧P2が解放されるまでの所要時間が短くなるため、過給機14のサージングを防止することができる。
【0039】
図5は、予めメモリに記憶されたプログラムに従いコントローラ30により実行される処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートに示す処理は、例えばコントローラ30に電源が供給されると開始され、所定時間毎に繰り返される。
【0040】
先ずステップS1で、電磁弁1の作動指令が入力されたか否かを判定する。ステップS1で否定されると、ステップS2に進み、電磁弁1に通電することなく処理を終了する。ステップS1で肯定されると、ステップS3に進み、水温センサ19により検出されたエンジン水温TWが所定水温TW0を超えているか否かを判定する。ステップS3で肯定されると、ステップS4に進み、エンジン水温TWが所定水温TW0に達してから所定時間が経過しているか否かを判定する。
【0041】
ステップS4で肯定されると、電磁弁1が所定の低温環境下にないと判定してステップS5に進み、通常制御により電磁弁1に連続的に電流を流すように電磁弁1を制御し、処理を終了する。一方、ステップS3またはS4で否定されると、電磁弁1が所定の低温環境下にあると判定してステップS6に進み、PWM制御により電磁弁1に断続的に電流を流すように電磁弁1を制御し、処理を終了する。
【0042】
エンジン11の暖機後など電磁弁1が所定の低温環境下にない場合は、通常制御により電磁弁1に連続的に通電することで(ステップS1~S5)、早期に電磁弁1を開放し、過給圧P2を解放することができる(
図4の時刻t1~t3)。エンジン11の始動直後など電磁弁1が所定の低温環境下にある場合は、PWM制御により電磁弁1に断続的に通電することで(ステップS1~S4,S6)、通常制御の場合よりも早期に電磁弁1を開放し、過給圧P2を解放することができる(
図4の時刻t1~t4)。
【0043】
本発明の実施形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)装置100は、電磁石(固定コア2およびコイル3)と、電磁石に対し電磁力によって移動する弁体5とを有する電磁弁1の開閉を制御する。装置100は、電磁弁1の温度を検出する水温センサ19および温度判定部31と、通電制御部32とを備える(
図1A、
図1B、
図3)。
【0044】
通電制御部32は、弁体5を移動させるとき、水温センサ19および温度判定部31により検出された温度が所定温度以下の場合、すなわち所定の低温環境下にある場合、PWM制御により電磁弁1に断続的に電流を流す。一方、通電制御部32は、水温センサ19および温度判定部31により検出された温度が所定温度より高い場合、すなわち所定の低温環境下にない場合、電磁弁1に連続的に電流を流すように電磁弁1を制御する。
【0045】
このように、PWM制御による通電を行い、弁体5をシールリング8に対して小刻みに動かすことで、低温環境下で弁体5とシールリング8との接触、摺動によるフリクションが増大するときも、電磁弁1の作動応答性を向上することができる。
【0046】
(2)電磁弁1は、過給機14を有するエンジン11の吸気通路12におけるコンプレッサ14bの上流側と下流側とを接続する流路10に設けられ、非通電時に流路10を閉鎖し、通電時に流路10を開放する(
図1A、
図1B、
図2)。過給圧P2の解放を担う電磁弁1の作動応答性を向上することで、過給圧P2の適時な解放を確実にし、過給機14のサージングを防ぎ、エンジン11の耐久信頼性や音響商品性を向上することができる。
【0047】
(3)電磁弁1は、過給機14を有するエンジン11の吸気通路12におけるコンプレッサ14bの上流側と下流側とを接続する流路10に設けられ、非通電時に流路10を閉鎖し、通電時に流路10を開放する(
図1A、
図1B、
図2)。水温センサ19および温度判定部31は、エンジン水温TWに基づいて電磁弁1の温度を検出する。通電制御部32は、弁体5を移動させるとき、エンジン水温TWが所定水温TW0に達した後、所定時間が経過したことを条件として、電磁弁1に連続的に電流を流すように電磁弁1を制御する(
図5のステップS1~S5)。
【0048】
電磁弁1に温度センサを設けることなく、電磁弁1の温度を代表するエンジン水温TWを検出し、検出されたエンジン水温TWに基づいて電磁弁1の温度が低温か否かを推定することで電磁弁1の温度を検出するため、電磁弁1の構成を簡易にすることができる。また、電磁弁1の温度を代表する物理値としてエンジン水温TWを用いる場合でも、エンジン水温TWが所定水温TW0に達した後、所定時間が経過するまではPWM制御による通電を継続することで、電磁弁1の作動応答性を確実に向上することができる。
【0049】
(4)装置100は、エンジン11の吸気通路12に設けられ、電磁石(固定コア2およびコイル3)と、電磁石に対し電磁力によって移動する弁体5とを有する電磁弁1の開閉を制御する。装置100は、エンジン11を冷却する冷却水の水温(エンジン水温)TWを検出する水温センサ19と、通電制御部32とを備える(
図1A~
図3)。通電制御部32は、弁体5を移動させるとき、水温センサ19により検出されたエンジン水温TWが所定水温TW0以下の場合、すなわち所定の低温環境下にある場合、PWM制御により電磁弁1に断続的に電流を流す。一方、通電制御部32は、水温センサ19により検出されたエンジン水温TWが所定水温TW0より高い場合、すなわち所定の低温環境下にない場合、電磁弁1に連続的に電流を流すように電磁弁1を制御する。このように、PWM制御による通電を行い、弁体5をシールリング8に対して小刻みに動かすことで、低温環境下で弁体5とシールリング8との接触、摺動によるフリクションが増大するときも、電磁弁1の作動応答性を向上することができる。
【0050】
(5)電磁弁1は、電磁石(固定コア2およびコイル3)の電磁力による移動の方向とは反対の方向に弁体5を付勢するスプリング6と、電磁石とスプリング6とを収容するとともに、弁体5が挿抜される開口部7aが形成された筐体7と、筐体7と弁体5との間の隙間を封止するシールリング8とを有する(
図1A、
図1B)。弁体5には、筐体7の内部空間SP1と外部空間SP2とを連通する連通孔5aが形成される。シールリング8には、内部空間SP1に面する凹部8aが形成される。
【0051】
電磁弁1の閉弁時に内部空間SP1と連通する外部空間SP2の圧力が高い場合、連通孔5aを介して流入する高圧の流体によりシールリング8の凹部8aが押し広げられ、筐体7と弁体5とに隙間なく接触する。これにより、閉弁状態における電磁弁1の封止性が高められる半面、閉弁状態から開弁するときの作動応答性が低下する。PWM制御による通電を行い、弁体5をシールリング8に対して小刻みに動かすことで、弁体5とシールリング8との接触、摺動によるフリクションが増大するときも、電磁弁1の作動応答性を向上することができる。
【0052】
(6)シールリング8は、樹脂材料によりU字形状ないしV字形状に形成される(
図1A、
図1B)。PWM制御による通電を行い、弁体5をシールリング8に対して小刻みに動かすことで、樹脂材料の柔軟性が低下する低温環境下で弁体5とシールリング8との接触、摺動によるフリクションが増大するときも、電磁弁1の作動応答性を向上することができる。
【0053】
上記実施形態は種々の形態に変形することができる。以下、変形例について説明する。上記実施形態では、
図1Aおよび
図1Bなどで、ノーマルクローズタイプの電磁弁1を例示して説明したが、電磁弁の制御装置が適用される電磁弁は、このようなものに限定されない。電磁弁の制御装置は、ノーマルオープンタイプの電磁弁に適用されてもよい。シールリング8を保持するホルダ9を有する電磁弁1を例示して説明したが、電磁弁の制御装置は、ホルダ9を有さず、例えば筐体7の内壁に凹部を設けてシールリング8を保持するように構成された電磁弁に適用されてもよい。筐体7と弁体5との間の隙間を封止するシールリング8を有する電磁弁1を例示して説明したが、電磁弁の制御装置は、シールリングなどの封止部材を有しない電磁弁に適用されてもよい。他にも電磁弁1の具体的な構成を例示したが、電磁弁の構成は、このようなものに限定されない。電磁弁の制御装置は、所定の低温環境下において弁体が移動するときのフリクションが高まる電磁弁全般に対し、好適に適用することができる。
【0054】
上記実施形態では、
図2および
図3などで、エンジン11に設けられた水温センサ19がエンジン水温TWを検出し、コントローラ30の温度判定部31がエンジン水温TWに基づいて電磁弁1の温度を推定することで検出する例を説明したが、電磁弁の温度を検出する温度検出部は、このようなものに限らない。温度検出部は、エンジン始動後の時間や吸気温などエンジン水温以外の物理値を取得し、それに基づいて電磁弁の温度を推定することで検出するものでもよく、電磁弁に設けられて電磁弁の温度を検出する、あるいは電磁弁の温度を遠隔で検出するセンサでもよい。
【0055】
上記実施形態では、
図2などで、エアバイパスバルブとしての電磁弁1が過給機14を有するエンジン11の吸気通路12におけるコンプレッサ14bの上流側と下流側とを接続するエアバイパス通路としての流路10を開閉する例を説明したが、電磁弁が開閉する流路は、このようなものに限定されない。
【0056】
上記実施形態では、
図2などで、電磁弁1が適用されるエンジン11の過給機14がタービン14aを有する排気タービン式過給機(ターボチャージャ)として構成される例を説明したが、過給機は、機械式過給機(スーパーチャージャ)として構成されてもよい。
【0057】
上記実施形態では、
図2などで、内燃機関により構成されるエンジン11を含むエンジンシステムに電磁弁1および装置100を適用する例を説明したが、電磁弁および電磁弁の制御装置は、このようなものに限らず、例えば燃料電池システム等に適用してもよい。
【0058】
以上の説明はあくまで一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、上述した実施形態および変形例により本発明が限定されるものではない。上記実施形態と変形例の一つまたは複数を任意に組み合わせることも可能であり、変形例同士を組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 電磁弁、2 固定コア、3 コイル、4 可動コア、5 弁体、5a 連通孔、6 スプリング、7 筐体、7a 開口部、8 シールリング、8a 凹部、10 流路、10a 着座面、11 エンジン、12 吸気通路、13 排気通路、14 過給機、14a タービン、14b コンプレッサ、18 スロットルバルブ、19 水温センサ、20 車両、30 コントローラ、31 温度判定部、32 通電制御部、100 電磁弁の制御装置(装置)、SP1 内部空間、SP2 外部空間