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特開2024-134216化合物、樹脂組成物、硬化物、成形体および光学材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134216
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】化合物、樹脂組成物、硬化物、成形体および光学材料
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/08 20060101AFI20240926BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240926BHJP
   C08K 5/54 20060101ALI20240926BHJP
   C08K 5/56 20060101ALI20240926BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
C07F7/08 Z CSP
C08L101/00
C08K5/54
C08K5/56
G02B1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044413
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】榎 俊昭
(72)【発明者】
【氏名】玉井 宏紀
【テーマコード(参考)】
4H049
4J002
【Fターム(参考)】
4H049VN01
4H049VP04
4H049VQ02
4H049VQ03
4H049VQ07
4H049VQ82
4H049VR21
4H049VR63
4H049VU16
4H049VU20
4H049VU25
4H049VW01
4H049VW02
4J002AA001
4J002BC021
4J002BG041
4J002BG051
4J002BK001
4J002CD001
4J002CE001
4J002CF001
4J002CF211
4J002CG011
4J002CH071
4J002CK021
4J002CL001
4J002EX006
4J002EZ006
4J002EZ016
4J002FD016
4J002GP01
(57)【要約】
【課題】屈折率が向上した新規化合物、並びに、屈折率が向上した新規化合物を用いた、樹脂組成物、硬化物、成形体および光学材料を提供する。
【解決手段】[1]下記一般式(1)で表される化合物(A)、[2]前記[1]に記載の化合物(A)を含む樹脂組成物、[3]前記[2]に記載の樹脂組成物を硬化させてなる硬化物、[4]前記[3]に記載の硬化物を含む成形体、および[5]前記[4]に記載の成形体を含む光学材料である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物(A)。
【化1】
(一般式(1)中、R~Rは、それぞれ独立して、不飽和結合を含んでもよい炭素数2以上12以下の炭化水素基を示し、MはSi、GeまたはSnを示し、EはSまたはSeを示す。)
【請求項2】
前記一般式(1)中のR~Rのうち少なくとも1つが不飽和結合を含む炭化水素基である、請求項1に記載の化合物(A)。
【請求項3】
前記一般式(1)中のR~Rが、それぞれ独立して、エチル基、ビニル基、アリル基またはフェニル基である、請求項1または2に記載の化合物(A)。
【請求項4】
前記一般式(1)中のR~Rがアリル基である、請求項1~3のいずれかに記載の化合物(A)。
【請求項5】
前記一般式(1)中のMがSiである、請求項1~4のいずれかに記載の化合物(A)。
【請求項6】
前記一般式(1)中のEがSである、請求項1~5のいずれかに記載の化合物(A)。
【請求項7】
25℃におけるナトリウムD線の屈折率(nD)が1.60以上である、請求項1~6のいずれかに記載の化合物(A)。
【請求項8】
光学材料として使用可能な、請求項1~7のいずれかに記載の化合物(A)。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の化合物(A)を含む樹脂組成物。
【請求項10】
樹脂(B)をさらに含む、請求項9に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
前記樹脂(B)は、エポキシ樹脂、硬化性アクリル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、スチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリチオウレタン樹脂、シクロオレフィンコポリマーおよび(メタ)アクリル樹脂からなる群より選択される一種または二種以上を含む、請求項10に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
重合開始剤をさらに含む、請求項9~11のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項13】
前記化合物(A)の含有量が、前記樹脂組成物の全量を100質量部としたときに、0.1質量部以上50質量部以下である、請求項9~12のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項14】
光学材料として使用可能な、請求項9~13のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項15】
請求項9~14のいずれかに記載の樹脂組成物を硬化させてなる硬化物。
【請求項16】
請求項9~14のいずれかに記載の樹脂組成物または請求項15に記載の硬化物を含む成形体。
【請求項17】
請求項1~8のいずれかに記載の化合物(A)または請求項16に記載の成形体を含む光学材料。
【請求項18】
光学レンズである、請求項17に記載の光学材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物、樹脂組成物、硬化物、成形体および光学材料に関する。
【背景技術】
【0002】
無機ガラスは、例えば全光線透過率、耐候性、耐薬品性等に優れ、光学材料として広く用いられている。しかしながら、重く脆いといった性質や、加工プロセスに制限があることから、光学材料として樹脂材料も用いられている。これらの樹脂材料を光学材料として応用する場合、高い屈折率を有することが求められる。
【0003】
高屈折率の化合物としては、ヘキサチアアダマンタン化合物が知られている。
このようなヘキサチアアダマンタン化合物に関する技術としては、例えば、特許文献1に記載の技術がある。
【0004】
特許文献1には、工業的に容易に実施可能な方法によって、高収率でヘキサチアアダマンタン化合物を製造する方法を提供することを目的として、特定の化学式で表されるチオカルボン酸化合物を、ヨウ素および溶媒の存在下で縮合させることを特徴とするヘキサチアアダマンタン化合物の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-209005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、屈折率が向上した新規化合物、並びに、屈折率が向上した新規化合物を用いた、樹脂組成物、硬化物、成形体および光学材料を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた。その結果、特定の構造を有する化合物が高屈折率を示すことを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明によれば、以下に示す化合物、樹脂組成物、硬化物、成形体および光学材料が提供される。
【0009】
[1]
下記一般式(1)で表される化合物(A)。
【化1】
(一般式(1)中、R~Rは、それぞれ独立して、不飽和結合を含んでもよい炭素数2以上12以下の炭化水素基を示し、MはSi、GeまたはSnを示し、EはSまたはSeを示す。)
[2]
前記一般式(1)中のR~Rのうち少なくとも1つが不飽和結合を含む炭化水素基である、前記[1]に記載の化合物(A)。
[3]
前記一般式(1)中のR~Rが、それぞれ独立して、エチル基、ビニル基、アリル基またはフェニル基である、前記[1]または[2]に記載の化合物(A)。
[4]
前記一般式(1)中のR~Rがアリル基である、前記[1]~[3]のいずれかに記載の化合物(A)。
[5]
前記一般式(1)中のMがSiである、前記[1]~[4]のいずれかに記載の化合物(A)。
[6]
前記一般式(1)中のEがSである、前記[1]~[5]のいずれかに記載の化合物(A)。
[7]
25℃におけるナトリウムD線の屈折率(nD)が1.60以上である、前記[1]~[6]のいずれかに記載の化合物(A)。
[8]
光学材料として使用可能な、前記[1]~[7]のいずれかに記載の化合物(A)。
[9]
前記[1]~[8]のいずれかに記載の化合物(A)を含む樹脂組成物。
[10]
樹脂(B)をさらに含む、前記[9]に記載の樹脂組成物。
[11]
前記樹脂(B)は、エポキシ樹脂、硬化性アクリル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、スチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリチオウレタン樹脂、シクロオレフィンコポリマーおよび(メタ)アクリル樹脂からなる群より選択される一種または二種以上を含む、前記[10]に記載の樹脂組成物。
[12]
重合開始剤をさらに含む、前記[9]~[11]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[13]
前記化合物(A)の含有量が、前記樹脂組成物の全量を100質量部としたときに、0.1質量部以上50質量部以下である、前記[9]~[12]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[14]
光学材料として使用可能な、前記[9]~[13]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[15]
前記[9]~[14]のいずれかに記載の樹脂組成物を硬化させてなる硬化物。
[16]
前記[9]~[14]のいずれかに記載の樹脂組成物または前記[15]に記載の硬化物を含む成形体。
[17]
前記[1]~[8]のいずれかに記載の化合物(A)または前記[16]に記載の成形体を含む光学材料。
[18]
光学レンズである、前記[17]に記載の光学材料。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、屈折率が向上した新規化合物、並びに、屈折率が向上した新規化合物を用いた、樹脂組成物、硬化物、成形体および光学材料を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施形態に基づいて説明する。
【0012】
本実施形態では、数値範囲を示す「A~B」は、特に断りがなければ、A以上B以下を表す。
【0013】
<化合物(A)>
本実施形態の化合物(A)は、下記一般式(1)で表される。
【0014】
【化2】
【0015】
一般式(1)中、R~Rは、それぞれ独立して、不飽和結合を含んでもよい炭素数2以上12以下の炭化水素基を示し、MはSi、GeまたはSnを示し、EはSまたはSeを示す。
~Rにおける炭化水素基は、水素原子の一部が置換基で置換された炭化水素基であってもよいし、無置換の炭化水素基であってもよいが、好ましくは無置換の炭化水素基である。
【0016】
一般式(1)中、R~Rは、それぞれ独立して、不飽和結合を含んでもよく、化合物(A)を含む樹脂組成物の硬化性をより向上させる観点から、好ましくはR~Rのうち少なくとも1つが不飽和結合を含み、より好ましくはR~Rのうち少なくとも2つが不飽和結合を含み、さらに好ましくはR~Rのうち少なくとも3つが不飽和結合を含み、さらに好ましくはR~Rのすべてが不飽和結合を含む。
【0017】
一般式(1)中、R~Rは、化合物(A)の屈折率をより向上させる観点から、それぞれ独立して、炭素数2以上12以下の炭化水素基を示し、好ましくは炭素数2以上8以下の炭化水素基を示し、より好ましくは炭素数2以上6以下の炭化水素基を示し、さらに好ましくはエチル基、ビニル基、アリル基またはフェニル基を示し、さらに好ましくはフェニル基を示す。
一般式(1)中、R~Rのうち、少なくとも2つが同じ炭化水素基を示すことが好ましく、少なくとも3つが同じ炭化水素基を示すことがより好ましく、すべて同じ炭化水素基を示すことがさらに好ましい。
また、一般式(1)中、R~Rは、化合物(A)を含む樹脂組成物の硬化性をより向上させる観点から、好ましくはビニル基またはアリル基を示し、より好ましくはアリル基を示す。
【0018】
一般式(1)中、Mは、Si、GeまたはSnを示し、化合物(A)の屈折率をより向上させる観点から、好ましくはSiを示す。
一般式(1)中、Eは、SまたはSeを示し、化合物(A)の屈折率および溶解性をより向上させる観点から、好ましくはSを示す。
【0019】
本実施形態の化合物(A)の分子量は、化合物(A)の屈折率をより向上させる観点から、好ましくは300以上、より好ましくは400以上、さらに好ましくは450以上であり、そして、好ましくは1200以下、より好ましくは1000以下、さらに好ましくは800以下、さらに好ましくは700以下である。
【0020】
本実施形態の化合物(A)は、化合物(A)の屈折率をより向上させるとともに、化合物(A)を含む樹脂組成物の硬化性をより向上させる観点から、下記式(2)で表される化合物を含むことが好ましい。
【0021】
【化3】
【0022】
本実施形態の化合物(A)は、25℃におけるナトリウムD線の屈折率(nD)が好ましくは1.60以上、より好ましくは1.63以上、さらに好ましくは1.66以上、さらに好ましくは1.68以上、さらに好ましくは1.70以上、さらに好ましくは1.73以上である。前記屈折率の上限値は特に限定されないが、例えば、3.00以下であってもよく、2.50以下であってもよく、2.00以下であってもよく、1.76以下であってもよい。
本実施形態において、化合物(A)をTHFに溶解し、所定の濃度の溶液をそれぞれ調製し、各濃度の溶液について25℃におけるナトリウムD線の屈折率をそれぞれ測定し、そして、各濃度の測定結果から濃度100%に外挿した値を、化合物(A)の25℃におけるナトリウムD線の屈折率(nD)とする。
【0023】
本実施形態の化合物(A)は、屈折率が向上しているため、光学材料に好適に用いることができる。
また、本実施形態の化合物(A)は、有機溶剤に対して良好な溶解性を有するため、光学材料に用いたときに、有機溶剤への不溶に起因する光散乱やヘーズの発生を抑制することができる。
【0024】
<樹脂組成物>
本実施形態の樹脂組成物は、上述した化合物(A)を含む。
【0025】
本実施形態の樹脂組成物中の化合物(A)の含有量は、得られる樹脂組成物や硬化物の屈折率をより向上させる観点から、樹脂組成物の全量を100質量部としたときに、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは1.0質量部以上、さらに好ましくは5.0質量部以上、さらに好ましくは10質量部以上、さらに好ましくは15質量部以上、さらに好ましくは20質量部以上であり、そして、好ましくは50質量部以下、より好ましくは45質量部以下、さらに好ましくは40質量部以下、さらに好ましくは35質量部以下、さらに好ましくは30質量部以下である。
【0026】
本実施形態の樹脂組成物は、本実施形態の化合物(A)を含むことによって屈折率が向上しているため、光学材料に好適に用いることができる。
【0027】
本実施形態の樹脂組成物は、樹脂(B)をさらに含んでもよい。
【0028】
樹脂(B)は特に限定されないが、得られる樹脂組成物や硬化物の屈折率をより向上させる観点から、エポキシ樹脂、硬化性アクリル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、スチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリチオウレタン樹脂、シクロオレフィンコポリマーおよび(メタ)アクリル樹脂からなる群より選択される一種または二種以上を含むことが好ましい。
【0029】
本実施形態の樹脂組成物中の樹脂(B)の含有量は、得られる樹脂組成物や硬化物の屈折率をより向上させる観点から、樹脂組成物の全量を100質量部としたときに、好ましくは50質量部以上、より好ましくは55質量部以上、さらに好ましくは60質量部以上、さらに好ましくは65質量部以上、さらに好ましくは70質量部以上であり、そして、好ましくは99.9質量部以下、より好ましくは99.0質量部以下、さらに好ましくは95.0質量部以下、さらに好ましくは90質量部以下、さらに好ましくは85質量部以下、さらに好ましくは80質量部以下である。
【0030】
本実施形態の樹脂組成物は、重合開始剤をさらに含んでもよい。重合開始剤は、例えば、熱ラジカル重合開始剤および光ラジカル重合開始剤からなる群より選択される一種または二種以上を含む。
【0031】
熱ラジカル重合開始剤として、例えば、ジクミルパーオキシド、t-ブチルクミルパーオキシド、2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)2,5-ジメチルヘキサン、2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)2,5-ジメチルヘキシン-3、ジ-t-ブチルパーオキシド、イソプロピルクミル-t-ブチルパーオキシド、ビス(α-t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン等のジアルキルパーオキシド類;1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロドデカン、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルパーオキシ)バレレート、エチル-3,3-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブチレート、3,3,6,6,9,9-ヘキサメチル-1,2,4,5-テトラオキシシクロノナン等のパーオキシケタール類;ビス(t-ブチルパーオキシ)イソフタレート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシアセテート等のパーオキシエステル類;t-ブチルハイドロパーオキシド、t-ヘキシルハイドロパーオキシド、クミンハイドロパーオキシド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキシド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキシド、p-メンタンハイドロパーオキシド等のハイドロパーオキシド類;2,3-ジメチル-2,3-ジフェニルブタン等のビベンジル化合物類;3,3,5,7,7-ペンタメチル-1,2,4-トリオキセパン等が挙げられる。
【0032】
光ラジカル重合開始剤としては、例えば、ベンゾインアルキルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、ベンゾフェノン、メチルベンゾイルフォーメート、イソプロピルチオキサントンおよびこれらの二種以上の混合物等が挙げられる。また、これらの光ラジカル重合開始剤とともに増感剤を使用することもできる。増感剤としては、例えば、アントラキノン、1,2-ナフトキノン、1,4-ナフトキノン、ベンズアントロン、p,p'-テトラメチルジアミノベンゾフェノン、クロラニル等のカルボニル化合物;ニトロベンゼン、p-ジニトロベンゼン、2-ニトロフルオレン等のニトロ化合物;アントラセン、クリセン等の芳香族炭化水素;ジフェニルジスルフィド等の硫黄化合物;ニトロアニリン、2-クロロ-4-ニトロアニリン、5-ニトロ-2-アミノトルエン、テトラシアノエチレン等の窒素化合物等が挙げられる。
【0033】
本実施形態の樹脂組成物中の重合開始剤の含有量は、得られる樹脂組成物や硬化物の屈折率をより向上させる観点から、樹脂組成物中の化合物(A)の含有量を100質量部としたときに、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、さらに好ましくは1.0質量部以上、さらに好ましくは1.5質量部以上、さらに好ましくは2.0質量部以上、さらに好ましくは2.5質量部以上であり、そして、好ましくは10質量部以下、より好ましくは8.0質量部以下、さらに好ましくは5.0質量部以下、さらに好ましくは4.0質量部以下である。
【0034】
<樹脂組成物の製造方法>
本実施形態の樹脂組成物は、化合物(A)に対し、必要に応じて、樹脂(B)、重合開始剤やその他の成分を、従来公知の方法で混合することにより得ることができる。
【0035】
本実施形態の樹脂組成物中の、化合物(A)の含有量および樹脂(B)の含有量の合計は、得られる硬化物の屈折率をより向上させる観点から、樹脂組成物の全量を100質量部としたときに、好ましくは80質量部以上、より好ましくは90質量部以上、さらに好ましくは95質量部以上であり、そして、好ましくは99.5質量部以下、より好ましくは99質量部以下、さらに好ましくは98質量部以下である。
【0036】
<硬化物>
本実施形態の硬化物は、本実施形態の樹脂組成物を硬化させてなるものである。本実施形態の硬化物は、屈折率が向上しているため、光学材料に好適に用いることができる。
【0037】
<成形体>
本実施形態の成形体は、本実施形態の硬化物を含む成形体であり、例えば、本実施形態の樹脂組成物を硬化させながら、所定の形状に成形することにより得ることができる。
本実施形態の成形体は、本実施形態の硬化物を含むことによって屈折率が向上しているため、光学材料に好適に用いることができる。
【0038】
本実施形態の成形体中の本実施形態の硬化物の含有量は、成形体の屈折率をより向上させる観点から、当該成形体の全体を100質量部としたとき、好ましくは50質量部以上、より好ましくは70質量部以上、さらに好ましくは80質量部以上、さらに好ましくは90質量部以上、さらに好ましくは95質量部以上、さらに好ましくは97質量部以上であり、そして、好ましくは100質量部以下である。
【0039】
<光学材料>
本実施形態の光学材料は、本実施形態の成形体を含むものであり、例えば、本実施形態の樹脂組成物を硬化させながら、所定の形状に成形することにより得ることができる。
本実施形態の光学材料は、本実施形態の硬化物や成形体を含むことによって屈折率が向上しているため、例えば、各種センサー用レンズ、ピックアップレンズ、プロジェクタ用レンズ、プリズム、fθレンズ、撮像用レンズ、カメラレンズ、導光板、ヘッドマウントディスプレイ用レンズ、プラスチック眼鏡レンズ、ゴーグル、視力矯正用眼鏡レンズ、撮像機器用レンズ、液晶プロジェクター用フレネルレンズ、レンチキュラーレンズ、コンタクトレンズ等の各種光学レンズ、発光ダイオード(LED)用封止材、光導波路、ウェハレベル光学部品(WLO)や光導波路の接合に用いる光学用接着剤、光学レンズ等に用いる反射防止膜、液晶表示装置部材(基板、導光板、フィルム、シート等)に用いる透明性コーティング、車のフロントガラスやバイクのヘルメットに貼り付けるシートやフィルム、透明性基板等に用いることができる。
本実施形態の光学材料は、屈折率が向上しているため、各種光学レンズとして、より好適に用いることができる。
【0040】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
また、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【実施例0041】
<実施例1:1,3,5,7-テトラエチル-2,4,6,8,9,10-ヘキサチア-1,3,5,7-テトラシラアダマンタンの合成>
窒素雰囲気下において、THF50mLに無水硫化リチウム3.3g(0.072mol:Sigma-Aldrich社製)を分散させ、0℃に冷却した。続いて、エチルトリクロロシラン7.7g(0.048mol:東京化成工業株式会社製)をTHF150mLで希釈し、120分かけて滴下装入した。滴下終了後、0℃で30分間撹拌し、室温でさらに9時間撹拌した。得られた溶液を濃縮し、得られた淡黄色の固体をトルエン120mLで抽出し、沈殿を濾別した。濾液を濃縮し、目的とする1,3,5,7-テトラエチル-2,4,6,8,9,10-ヘキサチア-1,3,5,7-テトラシラアダマンタンの白色固体を3.5g得た。収率は70%であった。得られた固体は、トルエン・テトラヒドロフラン・ジクロロメタン・クロロホルムなどの汎用有機溶媒に可溶であり、沈殿物の生成が無いことを確認した。以下に、得られた化合物の同定データを示す。
H-NMR(溶媒:CDCl、内部標準物質:TMS)δ:1.19(t,12H),1.38(q,8H)
【0042】
<実施例2:1,3,5,7-テトラビニル-2,4,6,8,9,10-ヘキサチア-1,3,5,7-テトラシラアダマンタンの合成>
窒素雰囲気下において、THF90mLに無水硫化リチウム2.8g(0.060mol:Sigma-Aldrich社製)を分散させ、0℃に冷却した。続いて、ビニルトリクロロシラン6.3g(0.040mol:東京化成工業株式会社製)をTHF50mLで希釈し、120分かけて滴下装入した。滴下終了後、0℃で30分間撹拌し、室温でさらに9時間撹拌した。得られた溶液を濃縮し、得られた淡黄色の固体をトルエン100mLで抽出し、沈殿を濾別した。濾液を濃縮し、目的とする1,3,5,7-テトラビニル-2,4,6,8,9,10-ヘキサチア-1,3,5,7-テトラシラアダマンタンの白色固体を2.8g得た。収率は69%であった。得られた固体は、トルエン・テトラヒドロフラン・ジクロロメタン・クロロホルムなどの汎用有機溶媒に可溶であり、沈殿物の生成が無いことを確認した。以下に、得られた化合物の同定データを示す。
H-NMR(溶媒:CDCl、内部標準物質:TMS)δ:6.20-6.26(dd,4H),6.32-6.37(dd,4H),6.37-6.46(dd,4H)
【0043】
<実施例3:1,3,5,7-テトラアリル-2,4,6,8,9,10-ヘキサチア-1,3,5,7-テトラシラアダマンタンの合成>
窒素雰囲気下において、THF50mLに無水硫化リチウム1.5g(0.034mol:Sigma-Aldrich社製)を分散させ、0℃に冷却した。続いて、アリルトリクロロシラン3.7g(0.021mol:Sigma-Aldrich社製)をTHF100mLで希釈し、120分かけて滴下装入した。滴下終了後、0℃で30分間撹拌し、室温でさらに9時間撹拌した。得られた溶液を濃縮し、得られた淡黄色の固体をトルエン100mLで抽出し、沈殿を濾別した。濾液を濃縮し、目的とする1,3,5,7-テトラアリル-2,4,6,8,9,10-ヘキサチア-1,3,5,7-テトラシラアダマンタンの白色固体を1.6g得た。収率は64%であった。得られた固体は、トルエン・テトラヒドロフラン・ジクロロメタン・クロロホルムなどの汎用有機溶媒に可溶であり、沈殿物の生成が無いことを確認した。以下に、得られた化合物の同定データを示す。
H-NMR(溶媒:CDCl、内部標準物質:TMS)δ:2.30-2.36(m,8H),5.12-5.19(m,8H),5.75-5.86(m,4H)
【0044】
<実施例4:1,3,5,7-テトラフェニル-2,4,6,8,9,10-ヘキサチア-1,3,5,7-テトラシラアダマンタンの合成>
窒素雰囲気下において、THF200mLに無水硫化リチウム1.5g(0.034mol:Sigma-Aldrich社製)を分散させ、0℃に冷却した。続いて、フェニルトリクロロシラン4.4g(0.021mol:Sigma-Aldrich社製)をTHF100mLで希釈し、120分かけて滴下装入した。滴下終了後、0℃で60分間撹拌し、室温でさらに9時間撹拌した。得られた溶液を濃縮し、得られた白色の固体をトルエン120mLで抽出し、沈殿を濾別した。濾液を窒素雰囲気下で徐々に濃縮し、目的とする1,3,5,7-テトラフェニル-2,4,6,8,9,10-ヘキサチア-1,3,5,7-テトラシラアダマンタンの白色結晶を0.9g得た。収率は26%であった。得られた固体はトルエン・テトラヒドロフラン・ジクロロメタン・クロロホルムなどの汎用有機溶媒に可溶であり、沈殿物の生成が無いことを確認した。以下に、得られた化合物の同定データを示す。
H-NMR(溶媒:CDCl、内部標準物質:TMS)δ:7.49-7.94(m,20H)
【0045】
<比較例1:1,3,5,7-テトラメチル-2,4,6,8,9,10-ヘキサチアアダマンタンの合成>
チオ酢酸2.1g(0.028mol:富士フィルム和光純薬株式会社製)をクロロホルム3mLに溶かし、ヨウ素を1.4g(0.006mol:Sigma-Aldrich社製)を加えて室温で1日撹拌した。反応溶液にクロロホルムを10mL加え、水で3回、チオ硫酸ナトリウム水溶液で3回洗浄した。有機層を濃縮し、得られた黄色固体をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒ジクロロメタン:ヘキサン=2:1)により精製し、目的とする1,3,5,7-テトラメチル-2,4,6,8,9,10-ヘキサチアアダマンタンの白色固体を1.1g得た。収率は53%であった。得られた固体はトルエン・テトラヒドロフラン・ジクロロメタン・クロロホルムなどの汎用有機溶媒に可溶であり、沈殿物の生成が無いことを確認した。以下に、得られた化合物の同定データを示す。
H-NMR(溶媒:CDCl、内部標準物質:TMS)δ:2.16(s,12H)
【0046】
H-NMR測定>
得られた化合物の構造は、以下に示すH-NMRスペクトルにより分析した。
測定機器:日本電子株式会社製JNM-ECZ400S
溶媒:重水素化クロロホルム
サンプル濃度:10mg/0.7mL
パルス繰り返し時間:5.5秒
積算回数:8回
測定温度:25℃
【0047】
<屈折率の測定>
実施例および比較例で得られた化合物をTHFにそれぞれ溶解させ、所定濃度の溶液をそれぞれ調製し、各濃度の溶液の、25℃におけるナトリウムD線の屈折率を、Anton Paar社製Abbemat550を用いてそれぞれ測定した。各濃度の測定結果から濃度100%に外挿した値を実施例および比較例で得られた化合物の屈折率(nD)とした。
【0048】
【表1】