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  • 特開-燃焼システム、及び燃焼方法 図1
  • 特開-燃焼システム、及び燃焼方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134223
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】燃焼システム、及び燃焼方法
(51)【国際特許分類】
   F23C 10/00 20060101AFI20240926BHJP
【FI】
F23C10/00 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044422
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】多田 光宏
(72)【発明者】
【氏名】中山 剛
(72)【発明者】
【氏名】榎本 聖
【テーマコード(参考)】
3K064
【Fターム(参考)】
3K064AB03
3K064AC06
3K064BA05
3K064BB09
(57)【要約】
【課題】燃焼炉内で流動層を形成する流動媒体においてアグロメレーションによる流動不良を抑える。
【解決手段】燃焼システムは、炉内で流動媒体により流動層を形成し、アルカリ金属を含む燃料を前記流動層で燃焼する燃焼炉を用いる燃焼システムであって、前記流動媒体は、表面がアルカリ土類金属を含む化合物でコーティングされている珪砂である。この珪砂の表面をコーティングしているアルカリ土類金属を含む化合物は、水酸化カルシウムである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉内で流動媒体により流動層を形成し、アルカリ金属を含む燃料を前記流動層で燃焼する燃焼炉を用いる燃焼システムであって、
前記流動媒体は、表面がアルカリ土類金属を含む化合物でコーティングされている珪砂である燃焼システム。
【請求項2】
前記化合物は、水酸化カルシウムである
請求項1に記載の燃焼システム。
【請求項3】
炉内で流動媒体により流動層を形成し、アルカリ金属を含む燃料を前記流動層で燃焼する燃焼炉を用いる燃焼方法であって、
前記流動媒体は、表面がアルカリ土類金属を含む化合物でコーティングされている珪砂である燃焼方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼システム、及び燃焼方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオマスを燃料として発電を行なう方法として流動層炉を用いた方法がある。流動層炉は、吹き上がる流動化空気によって高温の流動媒体を流動させた流動層を形成し、炉内に供給された燃料を流動層の中で燃焼するものである。燃料となるバイオマスとしては、例えば、パーム椰子空果房(EFB:Empty Fruit Bunch)のように植物由来で安価なバイオマスが注目されているが、パーム椰子空果房を流動層炉で燃焼させて発電を行なう際には、以下のような問題が生じる。
【0003】
パーム椰子空果房には、アルカリ金属であるカリウムが多く含まれている。流動層炉の流動媒体としては珪砂が用いられるが、流動層炉内でパーム椰子空果房から放出されたガス状のカリウムと珪砂粒子の酸化ケイ素が反応し、珪砂粒子の表面にSiO-KO化合物が生成される。このSiO-KO化合物の溶融温度は、流動層炉内の温度より低いため、溶融して珪砂粒子の表面に粘着層が形成される。この粘着層が形成されると、数粒の珪砂粒子同士が融着し、珪砂の凝集と塊化(アグロメレーション)が生じると珪砂が流動しなくなり、流動層炉の正常な運転が妨げられることとなる。そこで、このような問題を解決する発明として、例えば特許文献1、2に開示された発明がある。
【0004】
特許文献1に開示された発明は、流動媒体が粒子状鉱物及び/又は粒子状スラグからなり、石英の含有量を14質量%以下としている。流動媒体が含有する石英の量が14質量%以下であるため、流動媒体中の石英と燃料中のアルカリ金属成分とが反応して粒子表面に粘着層が形成されても流動媒体の凝集や塊化が生じない又は生じても僅かであり、流動層は良好な流動を維持することができる。
【0005】
特許文献2に開示された発明は、流動層炉内部における流動化ガス速度を4m/sの近傍になるように制御しながら流動層炉の出口近傍における流動媒体の吹き上げ状況をレーザ監視装置にて検知し、吹き上げ状態に応じた焼却用空気量を燃焼用空気の供給側にフィードバックしている。流動層炉内の流動化ガス速度を4m/s程度まで増大させることにより、流動媒体中の限界塩蓄積量を増大させることができ、これによって流動層での流動不良を起こすことなく処理可能な廃棄物の量を増加させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-106244号公報
【特許文献2】特許第3294172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示された発明では、流動媒体としてガーネット、イルメナイト、かんらん石、フェロニッケルスラグ等が挙げられている。しかしながら、特許文献1の表2に記載されているように、これらは安価で汎用的な珪砂より価格が高く、流動媒体の入れ替えにコストが掛かる。特許文献2の発明では、流動媒体中の限界塩蓄積量を増大させることができるものの、アグロメレーションはアルカリ金属のわずかな変化で発生するため、限界塩蓄積量を超えた場合には急激にアグロメレーションが発生して流動不良に至る虞がある。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、燃焼炉内で流動層を形成する流動媒体においてアグロメレーションによる流動不良を抑えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面に係る燃焼システムは、炉内で流動媒体により流動層を形成し、アルカリ金属を含む燃料を前記流動層で燃焼する燃焼炉を用いる燃焼システムであって、前記流動媒体は、表面がアルカリ土類金属を含む化合物でコーティングされている珪砂である。
【0010】
本発明に係る燃焼システムにおいては、前記化合物は、水酸化カルシウムとしてもよい。
【0011】
また、本発明の一側面に係る燃焼方法は、炉内で流動媒体により流動層を形成し、アルカリ金属を含む燃料を前記流動層で燃焼する燃焼炉を用いる燃焼方法であって、前記流動媒体は、表面がアルカリ土類金属を含む化合物でコーティングされている珪砂である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、燃焼炉内で流動層を形成する流動媒体においてアグロメレーションによる流動不良を抑えることができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施形態に係る燃焼システムの構成を示す図である。
図2図2は、流動媒体の流動停止温度を調べる実験で小型流動層の実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0015】
[実施形態]
図1は、本発明の実施形態に係る燃焼システム1000の構成を示す図である。燃焼炉1は、循環流動層式(CFB:Circulating Fluidized Bed)の炉である。燃焼炉1は、内部で流動媒体81を流動させて流動層を形成し、燃焼炉1内へ供給される燃料73を流動層中で燃焼させる炉である。燃焼炉1は、主に炉本体としての燃焼室10と、流動媒体81の一部を捕集して燃焼室10へ戻す外部循環系統20とで構成されている。
【0016】
燃焼室10は、送風機91から供給される一次空気を上方へ向けて吹き込むための分散板11を下部に備えている。また、燃焼室10の下部の側壁には、分散板11の上方で流動媒体81を燃焼炉1内に供給する流動媒体供給口12と、燃料貯留槽61から送られてくる燃料73を燃焼炉1内に供給するための燃料供給口13と、送風機92から供給される二次空気を燃焼室10内に吹き込むための二次空気吹き込み口14とが下方から順番に設けられている。また、燃焼炉1の底部には、燃焼炉1内部の流動媒体81を排出する炉底灰排出部15が設けられている。
【0017】
第1貯留槽62は、第1燃料71を貯留する。第1燃料71は、単位量あたりのアルカリ金属成分の含有量が多い燃料であり、例えばパーム椰子空果房である。第1燃料71は、燃料貯留槽61へ供給される。第2貯留槽63は、第2燃料72を貯留する。第2燃料72は、第1燃料71と比較して単位量あたりのアルカリ金属成分の含有量が少ない燃料であり、例えば木質チップである。第2燃料72は、燃料貯留槽61へ供給される。燃料貯留槽61は、燃焼炉1内で燃焼させる燃料73を貯留する。燃料貯留槽61は、第1燃料71と第2燃料72を混合した燃料73を生成する。燃料73は、燃料貯留槽61から燃料供給口13へ送られる。
【0018】
外部循環系統20は、ダクト30で燃焼室10の上部と接続されている。外部循環系統20は、燃焼炉1から排ガスとともに送られた流動媒体81を捕集するサイクロン21と、サイクロン21で捕集された流動媒体81を燃焼炉1の下部に戻すための戻り管22と、燃焼炉1からのガスがサイクロン21内を上昇するのを防止するループシール23とを有している。
【0019】
燃焼炉1の近傍には、流動媒体貯留槽44が設けられている。流動媒体貯留槽44は、流動媒体81の貯留と燃焼炉1内への流動媒体81の供給を行なう。流動媒体貯留槽44に貯留されている流動媒体81は、流動媒体供給口12へ送られ、流動媒体供給口12から燃焼炉1内へ供給される。本実施形態の流動媒体81は、例えばアルカリ土類金属を含む化合物である水酸化カルシウムで表面がコーティングされた珪砂である。水酸化カルシウムでコーティングされた珪砂の製造方法は、例えば、水に消石灰を混ぜたスラリーを生成し、このスラリーに対して珪砂を混合して撹拌する。水、消石灰、珪砂の比は、例えば3~10:1:1であるが、この比に限定されるものではなく、珪砂の表面を水酸化カルシウムでコーティングできるのであれば他の比であってもよい。次に、撹拌されてスラリーが付着した珪砂をスクリーンにかけて分離し、分離された珪砂を例えば温風で乾燥させる。これにより、消石灰でコーティングされた珪砂が得られる。燃焼炉1内へ供給された流動媒体81は、その一部が炉底灰排出部15から排出される。このため、廃棄された分を補うために新たな流動媒体81が流動媒体貯留槽44に補充され、廃棄された分が流動媒体貯留槽44から燃焼炉1内へ供給される。
【0020】
また、燃焼炉1の近傍には、炉底灰排出部15から排出された流動媒体81を再利用するための循環ライン40が設けられている。循環ライン40には、炉底灰排出部15の次に篩装置41が配設されている。
【0021】
篩装置41は、炉底灰排出部15から排出された流動媒体81を受け、所定粒径以下の流動媒体81と、アグロメレーションによって所定粒径より大径となった流動媒体81の塊と、燃料73の燃焼後に生じた不燃物を分離する。篩装置41は、分離された所定粒径以下の流動媒体81を循環ライン40へ送る。
【0022】
次に燃焼システム1000の動作について説明する。送風機91から送られる一次空気を分散板11から燃焼炉1内に吹き込み、送風機92から送られる二次空気を二次空気吹き込み口14から燃焼炉1内に吹き込むことにより、流動媒体81を流動化させた流動層が燃焼炉1内に形成される。
【0023】
また、燃焼炉1内には、燃料73が燃料供給口13から供給される。燃料供給口13から供給される燃料73においては、運用コストの観点から第1燃料71の割合が大きい方が好ましい。燃焼炉1内に供給された燃料73は、流動層で燃焼する。
【0024】
具体的には、流動媒体81は、分散板11から吹き込まれる一次空気により流動状態となり、燃焼炉1内の下部で流動媒体81が濃厚な濃厚層を形成する。この濃厚層では、高い熱容量および撹拌効果により燃料73の乾燥及び揮発分の放出が促進される。また、燃焼室10内の上部には、一次空気及び二次空気の吹き込みにより流動媒体81が吹き上げられて流動媒体81が希薄な希薄層が形成される。この希薄層では、流動媒体81が保有する熱容量および撹拌効果により燃料73の燃焼が行われる。つまり、燃焼炉1は、濃厚層と希薄層とから成る流動層を形成することで、未燃焼の炭素分であるチャーの発生を防止し、効率的にパーム椰子空果房である燃料73を燃焼させる。なお、燃焼炉1内の燃焼領域は850~900℃程度に維持される。
【0025】
燃焼室10内での燃料73の燃焼により生じた排ガスは、ダクト30を経て外部循環系統20のサイクロン21に供給される。また、流動媒体81も、その一部が燃焼室10から排ガスとともにサイクロン21へ送られる。サイクロン21では、流動媒体81や比較的粒径の大きな灰などが回収され、ループシール23及び戻り管22を通して燃焼室10の下部へ戻される。また、排ガスや比較的粒径の小さい灰などは外部循環系統20の頂部から排出されて、図示省略した過熱器を介して排ガス処理設備に送られ、過熱器で蒸気を過熱し、排ガス処理設備で除塵後に図示省略した煙突から外部へと放出される。
【0026】
本実施形態では、燃焼炉1内で燃焼した燃料73に含まれる第1燃料71(パーム椰子空果房)は、アルカリ金属成分であるガス状のカリウム分を放出する。このガス状のカリウム分と流動媒体81を形成する珪砂粒子の酸化ケイ素が反応すると、珪砂粒子の表面にSiO-KO化合物が生成される。このSiO-KO化合物は、溶融して珪砂粒子の表面に粘着層を形成する。本実施形態では、流動媒体81を形成する珪砂粒子の表面に水酸化カルシウムがコーティングされているため、カリウム分が珪砂粒子の酸化ケイ素と反応するのを抑え、アグロメレーションの発生が抑えられる。
【0027】
また、本実施形態では、流動媒体81の表面が水酸化カルシウムでコーティングされていることによってアグロメレーションの発生が抑えられるため、流動媒体81の流動が停止する温度が上昇し、燃料73の投入量を増加させることができる。図2は、流動媒体81の流動停止温度を調べる実験で小型流動層の実験結果を示すグラフであって、横軸は、燃料を燃焼させて生じた灰におけるカリウム濃度であり、縦軸は、流動媒体の流動が停止したときの流動媒体の温度である。
【0028】
図2のグラフにおける白の四角の点は、水酸化カルシウムのコーティングがされていない珪砂を流動媒体とし、4gの灰を実験用の炉の流動層に投入したときの灰中カリウム濃度と流動停止温度の関係を示しており、図2のグラフにおける黒の四角の点は、水酸化カルシウムのコーティングがされていない珪砂を流動媒体とし、2gの灰を実験用の炉の流動層に投入したときの灰中カリウム濃度と流動停止温度との関係を示している。また、図2のグラフにおける黒丸の点は、水酸化カルシウムのコーティングがされた珪砂を流動媒体とし、10gの灰を実験用の炉の流動層に投入したときの灰中カリウム濃度と流動停止温度との関係を示している。このグラフに示されているように、水酸化カルシウムのコーティングがされた珪砂を流動媒体とした場合、水酸化カルシウムのコーティングがされていない場合と比較すると、灰中のカリウム濃度が高い灰を多く投入しても、流動媒体が停止する温度が上昇するため、燃料73の投入量を増加させることができる。
【0029】
なお、燃焼炉1内での流動によりコーティングが剥がれた流動媒体81については、前述の粘着層により数粒の流動媒体81同士が融着し、アグロメレーションによって所定粒径より大径となって燃焼炉1の底部に落下する。融着して落下した流動媒体81は、更に融着して塊となる。この塊を含む流動媒体81と燃料73の燃焼後に残る不燃物は、単位時間あたりに所定量が炉底灰排出部15から排出されて篩装置41へ送られる。
【0030】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、他の様々な形態で実施可能である。例えば上述の実施形態を以下のように変形して本発明を実施してもよい。なお、上述した実施形態及び以下の変形例は、各々を組み合わせてもよい。上述した各実施形態及び各変形例の構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施の形態や変形例に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【0031】
上述した実施形態においては、燃焼炉1は、循環流動層式の炉であるが、バブリング流動層式(BFB:Bubbling Fluidized Bed)の炉であってもよい。
【0032】
本発明においては、新たな流動媒体81の燃焼炉1内への供給によって燃焼炉1内の温度が下がるのを抑えるため、流動媒体81の供給量に応じて燃料73の燃焼室10内への供給量を増やすようにしてもよい。この場合、アグロメレーションが発生するのを抑えるため、第2燃料72の割合を増やすようにしてもよい。また、流動媒体81の供給量の増加により燃焼炉1内の温度が下がるのを抑えるため、補助燃料として灯油又は重油を供給してもよい。
【0033】
本発明においては、燃料73にアブラヤシの実の種の殻(PKS:Palm Kernel Shell)を含めるようにしてもよい。
【0034】
本発明においては、燃焼室10内の温度を測定し、炉底灰排出部15から排出する流動媒体81の量と、流動媒体貯留槽44から燃焼室10へ供給する流動媒体81の量を測定した温度に応じて制御してもよい。
【0035】
本発明においては、流動媒体81を形成する珪砂の表面をコーティングするものは水酸化カルシウムに限定されるものではなく、他のアルカリ土類金属を含む化合物であってもよい。
【符号の説明】
【0036】
1 燃焼炉
10 燃焼室
11 分散板
12 流動媒体供給口
13 燃料供給口
14 二次空気吹き込み口
20 外部循環系統
21 サイクロン
22 戻り管
23 ループシール
30 ダクト
40 循環ライン
41 篩装置
44 流動媒体貯留槽
91、92 送風機
1000 燃焼システム
図1
図2