IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ TDK株式会社の特許一覧

特開2024-134235正極、及び、リチウムイオン二次電池
<>
  • 特開-正極、及び、リチウムイオン二次電池 図1
  • 特開-正極、及び、リチウムイオン二次電池 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134235
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】正極、及び、リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20240926BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/62 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044434
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】山下 保英
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 耕太郎
(72)【発明者】
【氏名】毛利 敬史
(72)【発明者】
【氏名】苅宿 洋
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA02
5H050AA08
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050DA02
5H050DA10
5H050DA11
(57)【要約】
【課題】容量及び急速放電特性を両立できる、正極およびリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】正極活物質層14は、複数の正極活物質粒子14Pと、複数の正極活物質粒子14P間に形成される粒子間領域14Zと、を備える。粒子間領域14Zは、固体部14S、及び、固体部14S内に分散した複数の細孔14Vを有する。正極活物質層14の断面画像において、細孔14Vの面積円相当径の面積基準の分布のD50が0.82μm以下であり、細孔14Vの面積円相当径の面積基準の分布のD90が1.37μm以下である。正極活物質層の断面画像において、粒子間領域14Zを2次元正方格子GRに分割し、各2次元正方格子GR内の細孔の面積割合を取得した場合に、細孔14Vの面積割合の変動係数CV1が0.610以下である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、前記集電体の少なくとも一方の主面に接する正極活物質層と、を有する正極であって、
前記正極活物質層は、複数の正極活物質粒子と、前記複数の正極活物質粒子間に形成される粒子間領域と、を備え、
前記粒子間領域は、固体部、及び、前記固体部内に分散した複数の細孔を有し、
前記正極活物質層の断面画像において、前記細孔の面積円相当径の面積基準の分布のD50が0.82μm以下であり、前記細孔の面積円相当径の面積基準の分布のD90が1.37μm以下であり、
前記正極活物質層の断面画像において、前記粒子間領域を2次元正方格子に分割し、各2次元正方格子内の細孔の面積割合を取得した場合に、前記細孔の面積割合の変動係数CV1が0.610以下である、正極。
【請求項2】
前記固体部は、バインダー及び導電助剤を含む、請求項1に記載の正極。
【請求項3】
前記固体部は、Co粉、LiCoO粉、又は、これらの組み合わせからなる添加剤粒子を含む、請求項1に記載の正極。
【請求項4】
各2次元正方格子内の前記添加剤粒子の面積割合を取得した場合に、前記添加剤粒子の面積割合の変動係数CV2が0.601以下である、請求項3に記載の正極。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の正極と、負極と、を備える、リチウムイオン二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極、及び、リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、携帯電話、ノートパソコン等のモバイル機器の他、工具やハイブリットカー等の動力源としても広く用いられている。近年、エネルギー密度が高く、出力特性に優れるリチウムイオン二次電池が求められている。例えば、特許文献1には、高出力条件下での充放電時における電池の内部抵抗の増加を抑制できるリチウムイオン二次電池が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-109636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、容量と急速放電特性により優れたリチウムイオン二次電池が求められている。
【0005】
本発明は上記課題に鑑みて成されたものであり、高容量及び急速放電特性を両立できる、正極およびリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]集電体と、前記集電体の少なくとも一方の主面に接する正極活物質層と、を有する正極であって、
前記正極活物質層は、複数の正極活物質粒子と、前記複数の正極活物質粒子間に形成される粒子間領域と、を備え、
前記粒子間領域は、固体部、及び、前記固体部内に分散した複数の細孔を有し、
前記正極活物質層の断面画像において、前記細孔の面積円相当径の面積基準の分布のD50が0.82μm以下であり、前記細孔の面積円相当径の面積基準の分布のD90が1.37μm以下であり、
前記正極活物質層の断面画像において、前記粒子間領域を2次元正方格子に分割し、各2次元正方格子内の細孔の面積割合を取得した場合に、前記細孔の面積割合の変動係数CV1が0.610以下である、正極。
【0007】
[2]前記固体部は、バインダー及び導電助剤を含む、[1]に記載の正極。
【0008】
[3]前記固体部は、Co粉、LiCoO粉、又は、これらの組み合わせからなる添加剤粒子を含む、[1]又は[2]に記載の正極。
【0009】
[4]各2次元正方格子内の前記添加剤粒子の面積割合を取得した場合に、前記添加剤粒子の面積割合の変動係数CV2が0.601以下である、[3]に記載の正極。
【0010】
[5][1]~[4]のいずれか一項に記載の正極と、負極と、を備える、リチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0011】
高容量及び急速放電特性を両立できる、正極およびリチウムイオン二次電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態の一例に係るリチウムイオン二次電池を示す模式断面図である。
図2図1の正極活物質層の断面の拡大模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(リチウムイオン二次電池)
図1は、本実施形態の一例に係るリチウムイオン二次電池を示す模式断面図である。図1に示すように、リチウムイオン二次電池100は、主として、積層体30、積層体30を密閉した状態で収容するケース50、及び積層体30に接続された一対のリード60、62を備えている。
【0014】
積層体30は、1又は複数の正極10及び1又は複数の負極20を備え、正極10及び負極20が、間にセパレータ18を挟んで対向配置されたものである。正極10は、板状(膜状)の正極集電体12の一方主面又は両方主面上に正極活物質層14が設けられたものである。
【0015】
負極20は、板状(膜状)の負極集電体22の一方主面又は両方主面上に負極活物質層24が設けられたものである。正極活物質層14の主面及び負極活物質層24の主面が、セパレータ18の主面にそれぞれ接触している。正極集電体12及び負極集電体22の端部には、それぞれリード60、62が接続されており、リード60、62の端部はケース50の外部にまで延びている。まず、正極10について具体的に説明する。
【0016】
(正極10)
(正極集電体12)
正極集電体12は、導電性の板材であればよく、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル又はそれらの合金の金属薄板(金属箔)を用いることができる。
【0017】
(正極活物質層14)
図2に正極活物質層14の拡大断面図を示す。正極活物質層14は、複数の正極活物質粒子14Pと、複数の正極活物質粒子14P間に形成される粒子間領域14Zと、を備える。粒子間領域14Zは、固体部14S、及び、固体部14S内に分散した複数の細孔14Vを有する。
【0018】
固体部14Sは、正極活物質粒子14P同士、及び、正極活物質粒子14Pと正極集電体12とを結着するバインダー部14Bを有し、固体部14Sはさらに添加剤粒子14Aを有してもよい。バインダー部14Bは、バインダーを含み、さらに、導電助剤を含んでいてもよい。
【0019】
(正極活物質粒子14P)
正極活物質としては、リチウムイオンの吸蔵及び放出、リチウムイオンの脱離及び挿入(インターカレーション)、又は、リチウムイオンと該リチウムイオンのカウンターアニオン(例えば、ClO )とのドープ及び脱ドープを可逆的に進行させることが可能であれば特に限定されず、公知の活物質を使用できる。例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、リチウムマンガンスピネル(LiMn)、及び、一般式:LiNiCoMn(x+y+z+a=1、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、0≦a≦1、MはAl、Mg、Nb、Ti、Cu、Zn、Crより選ばれる1種類以上の元素)で表される複合金属酸化物、リチウムバナジウム化合物(LiV)、オリビン型LiMPO(ただし、Mは、Co、Ni、Mn、Fe、Mg、Nb、Ti、Al、Zrより選ばれる1種類以上の元素又はVOを示す)、チタン酸リチウム(LiTi12)、LiNiCoAl(0.9<x+y+z<1.1)等の複合金属酸化物が挙げられる。
【0020】
正極活物質粒子の粒径に特に限定はないが、正極活物質層の断面写真における正極活物質粒子の面積円相当径の面積基準の分布のD50において、0.1~30μmであることができる。
【0021】
(バインダー部14B)
バインダー部14Bは、正極活物質粒子14P同士を結合すると共に、正極活物質粒子14Pと正極集電体12とを結合している。バインダー部に含まれるバインダーは、上述の結合が可能なものであればよく、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂が挙げられる。更に、上記の他に、バインダーとして、例えば、セルロース、スチレン・ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等を用いてもよい。また、バインダーとして電子伝導性の導電性高分子やイオン伝導性の導電性高分子を用いてもよい。電子伝導性の導電性高分子としては、例えば、ポリアセチレン等が挙げられる。この場合は、バインダーが導電助剤粒子の機能も発揮するので導電助剤を添加しなくてもよい。イオン伝導性の導電性高分子としては、例えば、リチウムイオン等のイオンの伝導性を有するものを使用することができ、例えば、高分子化合物(ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル系高分子化合物、ポリフォスファゼン等)のモノマーと、LiClO、LiBF、LiPF等のリチウム塩又はリチウムを主体とするアルカリ金属塩と、を複合化させたもの等が挙げられる。複合化に使用する重合開始剤としては、例えば、上記のモノマーに適合する光重合開始剤または熱重合開始剤が挙げられる。
【0022】
正極活物質層14中のバインダーの含有量は特に限定されないが、活物質、導電助剤及びバインダーの質量の和を基準にして、1~10質量%であることが好ましい。活物質とバインダーの含有量を上記範囲とすることにより、得られた正極活物質層14において、バインダーの量が少なすぎて強固な活物質層を形成できなくなる傾向を抑制できる。また、電気容量に寄与しないバインダーの量が多くなり、十分な体積エネルギー密度を得ることが困難となる傾向も抑制できる。
【0023】
(導電助剤)
バインダー部14Bに含まれる導電助剤は、正極活物質層14の導電性を良好にするものであれば特に限定されず、公知の導電助剤を使用できる。例えば、黒鉛、カーボンブラック等の炭素系材料や、銅、ニッケル、ステンレス、鉄等の金属微粉、炭素材料及び金属微粉の混合物、ITO等の導電性酸化物が挙げられる。
【0024】
正極活物質層14中の導電助剤の含有量も特に限定されないが、添加する場合には活物質の質量に対して0.5~5質量%であることが好ましい。
【0025】
(添加剤粒子14A)
固体部14Sは、Co粉、LiCoO粉、又は、これらの組み合わせからなる添加剤粒子14Aを含んでもよい。添加剤粒子14Aの平均粒径に特に限定はないが、正極活物質層の断面写真における添加剤粒子14Aの面積円相当径の面積基準の分布のD50において、5~150nmであることができる。これらの添加剤粒子は、電池を製造する際に、初回充放電前の正極活物質層中に含まれる炭酸リチウムナノ粒子の分解触媒として機能する。また、初回充放電後には、正極活物質層の静電特性を改善してリチウムイオンの移動ポテンシャルがより高くなり、容量及び又は急速放電特性がさらに良くなる。
【0026】
(細孔14V)
上述のように、複数の正極活物質粒子14P間に形成される粒子間領域14Zは、固体部14S、及び、固体部14S内に分散した複数の細孔14Vを有し、スポンジ状を呈する。
【0027】
正極活物質層の断面画像において、細孔14Vの面積円相当径の面積基準の分布のD50が0.82μm以下である。当該D50は、0.70μm以下でもよく、0.60μm以下でもよい。D50とは、これ以下の粒子の個数比率が50%である粒径である。
【0028】
正極活物質層の断面画像において、細孔14Vの面積円相当径の面積基準の分布のD90が1.37μm以下である。当該D90は、1.30μm以下でもよく、1.20μm以下でもよい。D90とは、これ以下の粒子の個数比率が90%である粒径である。
【0029】
これらの粒度分布を取得するに当たり、細孔14Vの個数は例えば200~700個程度とすることが好適である。
【0030】
さらに、本実施形態では、図2に示すように、正極活物質層の断面画像において、粒子間領域14Zを2次元正方格子GRに分割し、各2次元正方格子GR内の細孔14Vの面積割合を取得した場合に、細孔14Vの面積割合の変動係数CV1が0.610以下である。変動係数とは、標準偏差/平均値である。
【0031】
粒子間領域14Zが添加剤粒子14Aを含む場合、粒子間領域14Zを2次元正方格子GRに分割し、各2次元正方格子GR内の添加剤粒子14Aの面積割合を取得した場合に、添加剤粒子の面積割合の変動係数CV2が0.601以下であることが好適である。
【0032】
正極活物質層の断面画像の方向に特に限定はなく、集電体の主面に対して垂直な断面でもよく、集電体の主面に対して水平な断面でもよいが、集電体の主面に対して垂直な断面が好適である。断面画像中の各領域は、画像の明るさ、表面状態、元素マッピング等により特定できる。
【0033】
2次元正方格子GRのサイズは、一辺が0.5~4.0μmとすることが好適である。また、細孔及び添加剤粒子の面積割合を測定する対象となる格子は、正極活物質粒子14Pの面積割合が50%以下である格子に限定する。さらに、正極活物質粒子14P内の閉鎖気孔は、粒子間領域14Zには含まない。面積割合を取得する2次元正方格子の数は90~360とすることが好適である。
【0034】
(作用)
このような正極においては、従来よりも、細孔14Vの径が小さく、かつ、径の小さい細孔14Vが空間的に均一に分散している。従って、電解液が正極活物質層14にしみ込みやすくなり、電解液及び塩と、正極活物質との接触を迅速に行うことができ、Liイオンの挿入及び脱離が効率よく行われると考えられる。具体的には、正極と負極との間で移動するLiイオンの量が増えることにより容量が増加しうる。また、正極と負極との間でLiイオンの移動速度が速くなることにより、急速放電特性が向上しうる。したがって、特に、工具や電気自動車などに有効なリチウムイオン二次電池を実現できる。
【0035】
また、正極活物質層の固体部が添加剤粒子を有すると、静電特性が改善されてイオンの移動ポテンシャルがより高くなり、容量及び又は急速放電特性がさらに良くなる。
【0036】
さらに、添加剤粒子が空間的に均一に分散していることで、静電特性がより改善されるため、誘電材料バランスが最適化されて、イオンの移動ポテンシャルが特に高くなり、上記の特性がさらに良くなる。
【0037】
(正極の製造方法)
このような正極の製造方法の一例を以下に示す。
【0038】
(炭酸リチウムナノ粒子又は、これを含む複合粒子の準備)
まず、大粒径(例えば数μm)の炭酸リチウム粉を水に溶解させる。炭酸リチウム水溶液の炭酸リチウム濃度が低いほど、後に析出する炭酸リチウムナノ粒子の粒子径が小さくなる。次に炭酸リチウム水溶液に貧溶媒1を加えると炭酸リチウムナノ粒子、例えば、レーザ回折による体積基準の粒度分布の粒径D50が1~1000nmの粒子が析出してスラリーが得られる(析出工程)。貧溶媒1の添加量は水に対して70wt%以上であることが望ましい。貧溶媒1の添加量が多い程、析出する炭酸リチウムナノ粒子の粒子径が小さくなる。貧溶媒1は水に可溶かつ炭酸リチウムを不溶であるものから適宜選択できる。また、貧溶媒1は、水よりも沸点が高いことが望ましい。スラリーから炭酸リチウムナノ粒子を取り出す次工程において、熱乾燥をする場合に水よりも貧溶媒1が先に蒸発してしまうと析出した炭酸リチウムが水に再溶解してしまうからである。貧溶媒1の例は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)である。
【0039】
析出した炭酸リチウムナノ粒子をスラリーから分離して乾燥粉体として得るためにスラリーを加熱乾燥することができるが、乾燥時に炭酸リチウムナノ粒子同士が液架橋し凝集してしまう可能性がある。そこで、ナノ粒子が析出した炭酸リチウム及び貧溶媒1を含むスラリーにさらに貧溶媒2を加えることで、液中でナノ粒子を軽く凝集させ、凝集したナノ粒子を沈降させた後に上澄み液を除去し、さらに貧溶媒2を添加し、同様の手順を繰り返すことで、貧溶媒2に分散した炭酸リチウムナノ粒子、例えば、粒径D50が1~1000nmを容易に得ることができる。貧溶媒2は水及びNMPに溶解し、炭酸リチウムを溶解しないものであれば限定はないが、アセトンやエタノール等が望ましい。
【0040】
得られる炭酸リチウムナノ粒子は、SEM観察による面積円相当径の面積基準の分布のD50が500nm以下が好適であり、200nm以下であることがより好適である。
【0041】
さらに、正極活物質層に添加剤粒子を添加する場合には、貧溶媒1を添加する前に炭酸リチウム水溶液に対して、添加剤ナノ粒子、例えば、粒径D50が1~1000nmの粒子を添加して分散させ、その後、貧溶媒1を添加することにより、炭酸リチウムナノ粒子と添加剤ナノ粒子との複合粒子が得られる。
【0042】
続いて、正極活物質、バインダー、溶媒、導電助剤、及び、炭酸リチウムナノ粒子及び/又は上記複合粒子を含む塗料を正極集電体上に塗布し、正極集電体上に塗布された塗料中の溶媒を除去する。
【0043】
溶媒としては、例えば、水、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド等を用いることができる。
【0044】
塗布方法としては、特に制限はなく、通常正極を作製する場合に採用される方法を用いることができる。例えば、スリットダイコート法、ドクターブレード法が挙げられる。
【0045】
正極集電体12上に塗布された塗料中の溶媒を除去する方法は特に限定されず、塗料が塗布された正極集電体12を、例えば80℃~150℃の雰囲気下で乾燥させればよい。
【0046】
そして、このようにして正極活物質層14が形成された正極を、その後、必要に応じて例えば、ロールプレス装置等によりプレス処理すればよい。ロールプレスの線圧は例えば、10~50kgf/cmとすることができる。
【0047】
その後、炭酸リチウムナノ粒子を含む正極活物質層14を、初回の充電工程に曝すと、炭酸リチウムが分解して、リチウムイオンが生じて負極に移動する。すなわち、炭酸リチウムはリチウムのプレドープ材として機能する。炭酸リチウムを十分に分解させる観点から、初期充電電圧は4.3V以上であることが好適である。初期充電を経ると、炭酸リチウムの分解及びリチウムイオンの移動により、炭酸リチウムナノ粒子が存在した場所は細孔14Vとなる。上記の方法では、炭酸リチウムナノ粒子をプレドープ剤として用いているので、初回充放電を経た正極に対して微細な細孔14Vを空間的に均一に配置することが出来る。添加剤粒子を併用する場合には、添加剤粒子存在下で炭酸リチウムナノ粒子を析出させると、細孔14Vの径を小さくし、かつ、空間的に均一に分布させやすく、さらに、添加剤粒子14Aも空間的に均一に分布させやすい。
【0048】
(負極)
(負極集電体)
負極集電体22は、導電性の板材であればよく、例えば、銅、ニッケル、ステンレス又はそれらの合金の金属薄板(金属箔)を用いることができる。導電率の観点から銅箔であることが好ましい。銅箔は、圧延銅箔であってもよいし、他の銅箔であってもよい。負極集電体の厚みに限定はないが、例えば、5~20μmとすることができる。
【0049】
(負極活物質層)
負極活物質層24は、負極活物質、バインダー、及び、必要に応じた量の導電助剤から主に構成されるものである。
【0050】
(負極活物質)
負極活物質としては、例えば、リチウムイオンを吸蔵・放出(インターカレート・デインターカレート、或いはドーピング・脱ドーピング)可能な黒鉛、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、低温度焼成炭素等の炭素材料、Al、Si、Sn等のリチウムと化合することのできる金属や合金、SiO(0<x<2)、TiO、SnO等の酸化物を主体とする結晶質・非晶質の化合物、チタン酸リチウム(LiTi12)等を含む粒子が挙げられる。
【0051】
(負極バインダー及び負極導電助剤)
バインダー及び導電助剤には、上述した正極10に用いる材料と同様の材料を用いることができる。また、バインダー及び導電助剤の含有量も、負極活物質の体積変化の大きさや箔との密着性を加味しなければならない場合は適宜調整し、上述した正極10における含有量と同様の含有量を採用すればよい。添加する場合にはバインダーの添加量は、活物質の質量に対して2~20質量%であることが好ましい。導電助剤の添加量は、活物質の質量に対して0.5~5質量%であることが好ましい。また、熱硬化型のバインダー等、種類によっては200℃以上の任意の温度での熱処理が必要となる。
【0052】
(負極の製造方法)
負極の製造方法は公知で有り、例えば、負極活物質、バインダー、溶媒、及び、導電助剤を含む塗料を負極集電体上に塗布し、集電体上に塗布された塗料中の溶媒を除去すればよい。
【0053】
(セパレータ)
セパレータは、電解液に対して安定であり、保液性に優れていれば特に制限はないが、一般的にはポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンの多孔質シート、又は不織布が挙げられる。
【0054】
(電解質)
電解質は、正極活物質層14、負極活物質層24、及び、セパレータ18の内部に含有させるものである。電解質としては、特に限定されず、例えば、本実施形態では、リチウム塩を含む電解液(電解質水溶液、有機溶媒を使用する電解質溶液)を使用することができる。ただし、電解質水溶液は電気化学的に分解電圧が低いことにより、充電時の耐用電圧が低く制限されるので、有機溶媒を使用する電解液(非水電解質溶液)であることが好ましい。電解液としては、リチウム塩を非水溶媒(有機溶媒)に溶解したものが好適に使用される。リチウム塩としては特に限定されず、リチウムイオン二次電池の電解質として用いられるリチウム塩を用いることができる。例えば、リチウム塩としては、LiPF、LiBF、等の無機酸陰イオン塩、LiCFSO、(CFSONLi等の有機酸陰イオン塩等を用いることができる。
【0055】
また、有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、等の非プロトン性高誘電率溶媒や、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、等の酢酸エステル類あるいはプロピオン酸エステル類等の非プロトン性低粘度溶媒が挙げられる。これらの非プロトン性高誘電率溶媒と非プロトン性低粘度溶媒を適当な混合比で併用することが望ましい。更には、イミダゾリウム、アンモニウム、及びピリジニウム型のカチオンを用いたイオン性液体を使用することができる。対アニオンは特に限定されるものではないが、BF 、PF 、(CFSO等が挙げられる。イオン性液体は前述の有機溶媒と混合して使用することが可能である。
【0056】
電解液のリチウム塩の濃度は、電気伝導性の点から、0.5~2.0Mが好ましい。なお、この電解質の温度25℃における導電率は0.01S/m以上であることが好ましく、電解質塩の種類あるいはその濃度により調整される。
【0057】
電解質を固体電解質やゲル電解質とする場合には、シリコーンゲル、ポリ(ビニリデンフルオライド)等を高分子材料として含有することが可能である。
【0058】
更に、本実施形態の電解液中には、必要に応じて各種添加剤を添加してもよい。添加剤としては、例えば、サイクル寿命向上を目的としたビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート等や、過充電防止を目的としたビフェニル、アルキルビフェニル等や、脱酸や脱水を目的とした各種カーボネート化合物、各種カルボン酸無水物、各種含窒素及び含硫黄化合物が挙げられる。
【0059】
(ケース)
ケース50は、その内部に積層体30及び電解液を密封するものである。ケース50は、電解液の外部への漏出や、外部からのリチウムイオン二次電池100内部への水分等の侵入等を抑止できる物であれば特に限定されない。例えば、ケース50として、図1に示すように、金属箔52を高分子膜54で両側からコーティングした金属ラミネートフィルムを利用できる。金属箔52としては例えばアルミ箔を、高分子膜54としてはポリプロピレン等の膜を利用できる。例えば、外側の高分子膜54の材料としては融点の高い高分子、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド等が好ましく、内側の高分子膜54の材料としてはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等が好ましい。
【0060】
(リード)
リード60、62は、アルミ等の導電材料から形成されている。
【0061】
そして、公知の方法により、リード60、62を正極集電体12、負極集電体22にそれぞれ溶接し、正極10の正極活物質層14と負極20の負極活物質層24との間にセパレータ18を挟んだ状態で、電解液と共にケース50内に挿入し、ケース50の入り口をシールすればよい。
【0062】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、リチウムイオン二次電池は図1に示した形状のものに限定されず、コイン形状に打ち抜いた電極とセパレータとを積層したコインタイプや、電極シートとセパレータとをスパイラル状に巻回したシリンダータイプ等であってもよい。
【実施例0063】
[実施例1]
(炭酸リチウム粒子の作製)
濃度0.4wt%の炭酸リチウム水溶液200mL中に、NMPを600mL加え、炭酸リチウムナノ粒子を析出させた。SEM観察による炭酸リチウムナノ粒子の面積円相当径の面積基準の分布のD50は200nmであった。
【0064】
(正極の作製)
加熱乾燥した炭酸リチウムナノ粒子と、正極活物質であるリチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物粒子と、導電助剤であるアセチレンブラックと、バインダーであるポリフッ化ビニリデンとを、溶媒であるN-メチル-2-ピロリドン(NMP)中に分散させてスラリーを調製した。スラリーにおいてニッケルコバルトマンガン複合酸化物粒子と、アセチレンブラックと、ポリフッ化ビニリデンとの重量比が97:1.5:1.5となるように、スラリーを調製した。このスラリーを集電体であるアルミ箔上に塗布し、乾燥させた後、圧延を行い、実施例1の正極活物質層が形成された正極を作製した。
【0065】
(負極の作製)
[評価用負極セルの作製]
ケイ素を含んだ粒子と、バインダーであるポリイミド(PI)と、アセチレンブラックを混合したものを、溶媒であるN-メチル-2-ピロリドン(NMP)中に分散させてスラリーを調製した。スラリーにおいてケイ素粒子とアセチレンブラックとポリイミドとの重量比が80:10:10となるように、スラリーを調製した。このスラリーを負極集電体である銅箔上に塗布し、乾燥させた後、圧延を行い、負極を作製した。
【0066】
(電池の作製)
次に、電池の容量が1000mAhになるように、作製した負極と負極を打ち抜いたのち、ポリエチレン微多孔膜からなるセパレータを、作製した負極及び正極で挟み、積層体(発電素子)を得た。この積層体を、アルミラミネーターパックに入れ、このアルミラミネートパックに、電解液として体積比でフルオロエチレンカーボネート(FEC):ビニレンカーボネート(VC):エチルメチルカーボネート(EMC)=1:1:8となるように混合し、これに1.3mol/Lの濃度となるようにLiPFを溶解させたものを注入した後、真空シールし、実施例1のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0067】
(初期充放電)
25℃の恒温槽の中で、上限電圧4.48V、充電レート0.1C(定電流充電を行ったときに10時間で充電終了となる電流値)の条件でリチウムイオン二次電池の初期充電を行った。その後、25℃の恒温槽の中で、下限電圧2.5V、放電レート0.1Cの条件でリチウムイオン二次電池の初期放電を行った。
【0068】
(電池特性の評価)
次いで、リチウムイオン二次電池の放電容量及び放電レート特性(急速放電特性)を求めた。充電レートを0.1C(定電流充電を行ったときに10時間で充電終了となる電流値)とした場合の充電容量を25℃の恒温槽の中で測定し、続いて放電レートを0.2Cとした場合の初回放電容量を25℃の恒温槽の中で測定し放電容量を求めた。
【0069】
4C放電レート特性は、0.1C充電レート(25℃で定電流放電を行ったときに10時間で放電終了となる電流値)で充電した後、0.2C放電レートとした場合の放電容量を25℃の恒温槽の中で測定し求め、再び0.1C充電レート(25℃で定電流放電を行ったときに10時間で放電終了となる電流値)で充電した後、4C放電レートとした場合の放電容量を25℃の恒温槽の中で測定し求め、0.2Cの放電容量に対する4C放電容量の比率で求めた。
【0070】
初期充放電後の正極活物質層の集電体の主面に垂直な断面のSEM画像を得た。画像のサイズは1357×967ピクセルで、画像の大きさは12.7×9.0μmとした。複数の正極活物質粒子14P間に形成される粒子間領域14Zに、固体部14S、及び、固体部14S内に分散した複数の細孔14Vが観察された。各細孔の面積円相当径を計算し、細孔径の面積基準の分布を得て、D50及びD90を得た。計算に用いた細孔の数は261とした。
【0071】
また、得られたSEM画像を一辺1μmの2次元正方格子に分割した。正極活物質粒子14Pの面積割合が50%以下である格子を対象に、それぞれの細孔面積割合を得て、変動係数CV1を得た。格子の数は95とした。
【0072】
[実施例2]
(複合粒子の作製)
濃度0.4wt%の炭酸リチウム水溶液200ml中に、添加剤として粒径D50が30nmの酸化コバルト(Co)粒子を0.4g投入して分散させた。この分散液に対してNMPを200ml加え、表面に酸化コバルト粒子が担持された炭酸リチウムナノ粒子である複合粒子を析出させた。複合粒子を構成する炭酸リチウム粒子の大きさはD50として1000nmであった。他の手順は実施例1と同様に、リチウムイオン二次電池を得て、評価した。
【0073】
また、各2次元正方格子内の添加剤粒子の面積割合を取得した。格子の数は空隙の場合と同様の数とした。
【0074】
[実施例3]
NMPの添加量を600mlとし、複合粒子を構成する炭酸リチウム粒子の大きさをD50として200nmとした以外は、実施例2と同様の手順でリチウムイオン二次電池を得て、評価した。
【0075】
[実施例4]
NMPの添加量を800mlとし、複合粒子を構成する炭酸リチウム粒子の大きさをD50として100nmとした以外は、実施例2と同様の手順でリチウムイオン二次電池を得て評価した。
【0076】
[実施例5]
NMPの添加量を1000mlとし、複合粒子を構成する炭酸リチウム粒子の大きさをD50として80nmとした以外は、実施例2と同様の手順でリチウムイオン二次電池を得た。
【0077】
[実施例6]
NMPの添加量を600mlとして複合粒子を構成する炭酸リチウム粒子の大きさをD50として200nmとし、酸化コバルト粒子に代えて粒径30nmのコバルト酸リチウム粒子とした以外は、実施例2と同様の手順でリチウムイオン二次電池を得た。
【0078】
[実施例7]
NMPの添加量を800mlとして複合粒子を構成する炭酸リチウム粒子の大きさをD50として100nmとした以外は、実施例6と同様の手順でリチウムイオン二次電池を得た。
【0079】
[実施例8]
NMPの添加量を1000mlとして複合粒子を構成する炭酸リチウム粒子の大きさをD50として80nmとした以外は、実施例6と同様の手順でリチウムイオン二次電池を得た。
【0080】
[比較例1]
複合粒子の作製において実施例のような添加剤粒子存在下での炭酸リチウムの析出工程を用いず、粒径がD50として2000nmの炭酸リチウム粒子の表面に、粒径30nmの酸化コバルト粒子を泳動法によって担持させた複合粒子を用いた以外は、実施例2と同様の手順でリチウムイオン二次電池を得た。
【0081】
[比較例2]
複合粒子の作製において実施例のような析出工程を用いず、炭酸リチウム原料粉と粒径30nmの酸化コバルト粒子とを混合し、メカノケミカル法によって炭酸リチウム粒子の粒径がD50としての粒径が1000nmであり、かつ、表面に酸化コバルト粒子が担持された複合粒子を得た以外は、実施例2と同様の手順でリチウムイオン二次電池を得た。条件と結果を表1に示す。
【0082】
【表1】
【符号の説明】
【0083】
10…正極、12…正極集電体、14…正極活物質層、14P…正極活物質粒子、14S…固体部、14V…細孔、14Z…粒子間領域、20…負極、22…負極集電体、24…負極活物質層、100…リチウムイオン二次電池、GR…2次元正方格子。

図1
図2