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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134263
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】ワイヤーハーネス
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/00 20060101AFI20240926BHJP
   H01B 7/08 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
H01B7/00 301
H01B7/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044473
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】弁理士法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 芳隆
(72)【発明者】
【氏名】大井 勇人
(72)【発明者】
【氏名】古川 豊貴
【テーマコード(参考)】
5G309
5G311
【Fターム(参考)】
5G309AA01
5G311CA04
5G311CB02
5G311CC07
(57)【要約】
【課題】扁平部と低扁平部を有する絶縁電線を含む複数の電線を用いて、低扁平部において、隣接する電線との間隔を確保しながら、扁平部の箇所で、電線の集合体が占める幅を小さく抑えることができるワイヤーハーネスを提供する。
【解決手段】重心ずれ電線1Bを含む複数の電線を備え、前記重心ずれ電線1Bは、扁平部と、低扁平部と、を軸線方向に沿って有し、軸線方向に直交する断面が、前記扁平部において、幅方向に長い扁平形状をとり、かつ前記低扁平部において、前記扁平部よりも扁平度の低い形状をとり、前記低扁平部における前記断面の重心31の位置が、前記扁平部における前記断面の重心21の位置に対して、前記扁平形状の前記幅方向に沿った第一方向にずれている、絶縁電線として構成され、前記重心ずれ電線1Bは、前記第一方向と反対の方向である第二方向において、他の電線と隣り合っている、ワイヤーハーネス5,5Aとする。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重心ずれ電線を含む複数の電線を備え、
前記重心ずれ電線は、
複数の素線が撚り合わせられた導体と、
前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有し、
前記導体を構成する前記素線のそれぞれ、および前記絶縁被覆を相互に連続させて、扁平部と、低扁平部と、を軸線方向に沿って有し、
軸線方向に直交する断面が、前記扁平部において、幅方向に長い扁平形状をとり、かつ前記低扁平部において、前記扁平部よりも扁平度の低い形状をとり、
前記低扁平部における前記断面の重心の位置が、前記扁平部における前記断面の重心の位置に対して、前記扁平形状の前記幅方向に沿った第一方向にずれている、絶縁電線として構成され、
前記重心ずれ電線は、前記第一方向と反対の方向である第二方向において、他の電線と隣り合っている、ワイヤーハーネス。
【請求項2】
前記重心ずれ電線は、前記第二方向において隣り合う前記他の電線と、前記扁平部にて接触している、請求項1に記載のワイヤーハーネス。
【請求項3】
前記重心ずれ電線は、端末部に前記低扁平部を有し、前記低扁平部において、前記他の電線と共通のコネクタに接続されている、請求項1または請求項2に記載のワイヤーハーネス。
【請求項4】
前記ワイヤーハーネスは、前記重心ずれ電線を少なくとも2本含み、
2本の前記重心ずれ電線は、それぞれの前記第二方向の外縁を、直接対向させて、あるいは間に他の電線を挟んで対向させて、前記扁平形状の幅方向に並べられている、請求項1または請求項2に記載のワイヤーハーネス。
【請求項5】
前記重心ずれ電線は、前記扁平部と前記低扁平部の間に遷移部を有し、
前記遷移部の前記幅方向外側の外縁は、少なくとも、前記第二方向において、前記軸線方向に対して角度を有している、請求項1または請求項2に記載のワイヤーハーネス。
【請求項6】
前記遷移部の前記外縁は、少なくとも前記第二方向において、前記軸線方向に対して傾斜している、請求項5に記載のワイヤーハーネス。
【請求項7】
前記遷移部の前記外縁は、前記第一方向と前記第二方向の両方において、前記軸線方向に対して傾斜を有しており、
前記傾斜は、前記第一方向において、前記第二方向よりも小さくなっている、請求項6に記載のワイヤーハーネス。
【請求項8】
前記遷移部の前記外縁は、
前記第一方向において、前記軸線方向に沿って延びており、
前記第二方向において、前記軸線方向に対して角度を有している、請求項6に記載のワイヤーハーネス。
【請求項9】
前記重心ずれ電線において、
前記低扁平部は、幅方向の全域が、前記扁平部の幅の範囲内に収まっている、請求項1または請求項2に記載のワイヤーハーネス。
【請求項10】
前記重心ずれ電線において、
前記低扁平部の幅方向の少なくとも一部の領域は、前記扁平部に対して、前記扁平部の幅の範囲を超えて、前記第一方向にずれている、請求項1または請求項2に記載のワイヤーハーネス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ワイヤーハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁電線において、軸線方向に沿って、扁平部と低扁平部とを設ける形態が提案されている。断面における導体の外形が、扁平部においては扁平形状とされ、低扁平部においては扁平部よりも扁平度の低い形状、典型的には略円形とされる。この種の扁平部と低扁平部を備えた絶縁電線は、例えば特許文献1および特許文献2に開示されている。特許文献1では、全体が扁平形状よりなる原料扁平電線を変形させることで低扁平部を形成しているのに対し、特許文献2では、断面円状等の電線を圧潰して扁平部を形成しており、製法の差異に起因して、扁平部および低扁平部における導体素線の形状の分布等、絶縁電線の詳細な構造に差異を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-156581号公報
【特許文献2】特開2020-77499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1,2に開示されるような、扁平部および低扁平部を備えた絶縁電線は、扁平部および低扁平部のそれぞれが有する形状や特性を活用して、それぞれの部位を適した用途に用いることができる。例えば、扁平部は扁平形状の高さ方向に、高い省スペース性を有するうえ、高い曲げ柔軟性を有するため、絶縁電線を曲げながら所定の経路に配策するのに、好適に利用することができる。一方で、低扁平部は、円形等、扁平度の低い断面形状を有することを利用して、絶縁電線に他の部材を取り付けるのに、好適に用いることができる。例えば、絶縁電線にコネクタを取り付ける場合の端末部等、他の部材を取り付ける箇所において、絶縁電線に低扁平部を設けておけばよい。そうすれば、端子やコネクタ、結束部材等、絶縁電線に取り付ける部材として、断面扁平形状の絶縁電線に取り付け可能な構造に設計した特殊なものを準備しなくても、断面略円形の丸電線をはじめとして、扁平度の低い従来一般の絶縁電線に用いられる汎用的な部材を、そのまま適用することが可能となる。それらの部材を取り付けるための工具としても、断面扁平形状の絶縁電線を加工するのに特化したものを用いなくても、丸電線等、従来一般の扁平度の低い絶縁電線の加工に用いられるものを利用することができる。
【0005】
しかし、複数の絶縁電線を共通のコネクタに接続してワイヤーハーネスを構成する場合等、扁平部と低扁平部を有する絶縁電線を、幅方向に複数並べて配置する場合には、低扁平部と扁平部の幅の違いに起因して、低扁平部の集合体が占める領域よりも、扁平部が占める領域の方が、幅が広くなる場合がある。図5Aに示すように、特許文献1,2に開示されているような絶縁電線9においては、扁平部2の重心の位置21と、低扁平部3の重心の位置31が揃っている。この絶縁電線9を幅方向に複数並べる際に、図5Bに示すように、隣接する絶縁電線21において、低扁平部3の重心31の間に、扁平部2の幅wよりも大きな間隔pを設けて、絶縁電線9を配置する必要が生じる場合がある。このような場合には、隣接する絶縁電線9の扁平部2を相互に接触させて並べることができず、隣り合う扁平部2の間に空隙gが生じてしまう。すると、隣り合う絶縁電線9を扁平部2にて相互に接触させて並べる場合と比較して、複数の絶縁電線9の集合体が扁平部2の箇所で占める幅A’が、大きくなってしまう。隣り合う低扁平部3の重心31の間に、扁平部2の幅wよりも大きな間隔pのように、比較的大きな間隔を設ける必要性は、例えば、絶縁電線9の外周に嵌め込む防水栓6や、絶縁電線9の端末に接続する端子として、大型のものを用いる場合などに、生じうる。
【0006】
このように、低扁平部3の間に所定の間隔pを設けることで、複数の絶縁電線9の集合体が扁平部2の箇所において占める幅A’が大きくなると、ワイヤーハーネスが幅方向に大きな空間を占めることになり、幅方向におけるワイヤーハーネスの省スペース化が難しくなる。また、ワイヤーハーネスの外周に、金属編組等のシールド材や、コルゲートチューブやツイストチューブ等の保護用の外装材等の部材を設ける場合に、それらの部材としても径の大きいものを用いる必要が生じ、材料コストの上昇につながりうる。
【0007】
以上に鑑み、扁平部と低扁平部を有する絶縁電線を含む複数の電線を用いて、低扁平部において、隣接する電線との間隔を確保しながら、扁平部の箇所で、電線の集合体が占める幅を小さく抑えることができるワイヤーハーネスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示のワイヤーハーネスは、重心ずれ電線を含む複数の電線を備え、前記重心ずれ電線は、複数の素線が撚り合わせられた導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有し、前記導体を構成する前記素線のそれぞれ、および前記絶縁被覆を相互に連続させて、扁平部と、低扁平部と、を軸線方向に沿って有し、軸線方向に直交する断面が、前記扁平部において、幅方向に長い扁平形状をとり、かつ前記低扁平部において、前記扁平部よりも扁平度の低い形状をとり、前記低扁平部における前記断面の重心の位置が、前記扁平部における前記断面の重心の位置に対して、前記扁平形状の前記幅方向に沿った第一方向にずれている、絶縁電線として構成され、前記重心ずれ電線は、前記第一方向と反対の方向である第二方向において、他の電線と隣り合っている。
【発明の効果】
【0009】
本開示のワイヤーハーネスは、扁平部と低扁平部を有する絶縁電線を含む複数の電線を用いて、低扁平部において、隣接する電線との間隔を確保しながら、扁平部の箇所で、電線の集合体が占める幅を小さく抑えることができるワイヤーハーネスとなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1A~1Cは、本開示の実施形態にかかるワイヤーハーネスを構成する重心ずれ電線の一例を示す概略図である。図1Aは斜視図である。図1B図1A中のA-A断面に相当する扁平部、図1C図1A中のB-B断面に相当する低扁平部を表示する断面図である。各図において、導体を構成する素線は省略している。
図2図2Aは、図1の重心ずれ電線を示す平面図である。図2B~2Dは、他の形態の重心ずれ電線を示す平面図である。
図3図3A,3Bは、本開示の実施形態にかかるワイヤーハーネスについて、電線とコネクタの接合部を模式的に示す平面図である。それぞれ、ワイヤーハーネスを構成する電線が2本の場合、および3本の場合の例を示している。
図4図4A,4Bは、本開示の実施形態にかかるワイヤーハーネスについて、電線とコネクタの接合部を模式的に示す平面図である。いずれもワイヤーハーネスを構成する電線が4本の場合の例を示しているが、用いている電線の種類が異なっている。
図5図5Aは、重心のずれのない絶縁電線を示す平面図である。図5Bは、図5Aの重心のずれのない絶縁電線のみを用いたワイヤーハーネスを示している。
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態を列記して説明する。
本開示のワイヤーハーネスは、以下の構成を有している。
【0012】
[1]本開示のワイヤーハーネスは、重心ずれ電線を含む複数の電線を備え、前記重心ずれ電線は、複数の素線が撚り合わせられた導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有し、前記導体を構成する前記素線のそれぞれ、および前記絶縁被覆を相互に連続させて、扁平部と、低扁平部と、を軸線方向に沿って有し、軸線方向に直交する断面が、前記扁平部において、幅方向に長い扁平形状をとり、かつ前記低扁平部において、前記扁平部よりも扁平度の低い形状をとり、前記低扁平部における前記断面の重心の位置が、前記扁平部における前記断面の重心の位置に対して、前記扁平形状の前記幅方向に沿った第一方向にずれている、絶縁電線として構成され、前記重心ずれ電線は、前記第一方向と反対の方向である第二方向において、他の電線と隣り合っている。
【0013】
上記ワイヤーハーネスは重心ずれ電線を含んでおり、その重心ずれ電線は、低扁平部の重心が、扁平部の重心に対して、扁平部の扁平形状の幅方向に沿った第一方向にずれている。この重心ずれ電線を扁平形状の幅方向に沿って、他の電線とともに並べてワイヤーハーネスを構成する際に、隣に配置された電線の方に、第一方向とは逆の第二方向が向くように配置すれば、上記重心のずれを利用して、低扁平部を、隣り合う他の電線から離して配置することができる。そのため、重心ずれ電線と、隣り合う電線との間における重心間の距離が、低扁平部において、扁平部よりも大きくなる。扁平部の箇所においては、重心間の距離が小さいことに対応して、重心ずれ電線および隣り合う電線が集合体として占める領域の幅が小さくなる。このように、重心ずれ電線における低扁平部と扁平部の間の重心のずれを利用することで、低扁平部において、隣り合う他の電線との間に大きな間隔を確保しながら、扁平部の箇所で、電線の集合体が占める幅を小さく抑えることができる。ここで、他の電線とは、重心ずれ電線であっても、他種の電線であってもよいが、特に重心ずれ電線を複数並べて配置する場合には、それら複数の重心ずれ電線において、低扁平部の重心の間の距離を、扁平部の幅よりも大きく確保することができる。
【0014】
重心ずれ電線において、扁平部の箇所で、電線の集合体が占める幅を小さく抑えながら、低扁平部と隣り合う他の電線との間隔を大きくとることで、扁平部の箇所においてワイヤーハーネスの幅が過剰に大きくなるのを避けながら、防水栓や端子等、低扁平部に取り付ける部材として、大型のものを用いる必要性などに基づき、低扁平部において要求される電線間隔を、十分に確保することができる。また、扁平部の箇所で、電線の集合体が占める幅を小さく抑えることで、シールド材や外装材など、扁平部の外周に配置する部材が大型化するのを抑制することができる。
【0015】
[2]上記[1]の態様において、前記重心ずれ電線は、前記第二方向において隣り合う前記他の電線と、前記扁平部にて接触しているとよい。この場合には重心ずれ電線の扁平部と隣り合う他の電線との間隔が最小となり、扁平部の箇所において電線の集合体が占める幅を、特に小さく抑えることができる。
【0016】
[3]上記[1]または[2]の態様において、前記重心ずれ電線は、端末部に前記低扁平部を有し、前記低扁平部において、前記他の電線と共通のコネクタに接続されているとよい。すると、重心ずれ電線における重心のずれを利用して、ワイヤーハーネスの端末部以外の箇所において、電線の集合体が占める幅を小さく抑えながら、端末部において、電線間に十分に大きな間隔を確保することができる。端末部において電線の間隔を大きく確保することで、防水ゴムや端子など、各電線の端末部に取り付ける部材として、大型のものを用いることや、極間隔の大きい共通のコネクタを電線群の端末に取り付けることが可能となる。端末部の低扁平部に防水栓や端子、コネクタ等の部材を接続する際には、低扁平部が扁平度の低い断面形状を有することを利用して、従来一般の丸電線用に用いられているそれらの部材、また取り付け用工具を利用することができる。
【0017】
[4]上記[1]から[3]のいずれか1つの態様において、前記ワイヤーハーネスは、前記重心ずれ電線を少なくとも2本含み、2本の前記重心ずれ電線は、それぞれの前記第二方向の外縁を、直接対向させて、あるいは間に他の電線を挟んで対向させて、前記扁平形状の幅方向に並べられているとよい。すると、重心のずれにより、2本の重心ずれ電線の低扁平部が、互いから離れて配置されることになるので、低扁平部の間に大きな間隔を確保しながら、扁平部の箇所で電線の集合体が占める幅を小さく抑えるのに、高い効果が得られる。ワイヤーハーネスを構成する電線が、重心ずれ電線2本のみである場合には、その効果が特に高くなるが、それら2本の重心ずれ電線の間に、重心をずらさずに扁平部と低扁平部を形成した電線等、他種の電線を介在させる場合にも、その効果を享受することができる。
【0018】
[5]上記[1]から[4]のいずれか1つの態様において、前記重心ずれ電線は、前記扁平部と前記低扁平部の間に遷移部を有し、前記遷移部の前記幅方向外側の外縁は、少なくとも、前記第二方向において、前記軸線方向に対して角度を有しているとよい。この場合には、遷移部の外縁が軸線方向に対してなす角度を利用して、扁平部と低扁平部の間で、重心の位置のずれを簡便に形成することができる。また、第二方向および第一方向において外縁が軸線方向に対してなす角度を選択することで、下記の[6]~[8]の形態をはじめとして、重心ずれ電線における低扁平部と扁平部の位置関係を様々に設定することができる。
【0019】
[6]上記[5]の態様において、前記遷移部の前記外縁は、少なくとも前記第二方向において、前記軸線方向に対して傾斜しているとよい。この場合には、重心ずれ電線において、傾斜を利用して、扁平部と低扁平部の間で重心の位置を徐々にずらすことで、導体や絶縁被覆に印加される負荷を小さく抑えながら、扁平部と低扁平部の間で、重心の位置のずれを形成することができる。
【0020】
[7]上記[6]の態様において、前記遷移部の前記外縁は、前記第一方向と前記第二方向の両方において、前記軸線方向に対して傾斜を有しており、前記傾斜は、前記第一方向において、前記第二方向よりも小さくなっていとよい。すると、重心ずれ電線において、遷移部の両側の外縁における傾斜の差を利用して、扁平部と低扁平部の間で、重心の位置のずれを簡便に形成することができる。
【0021】
[8]あるいは上記[6]の態様において、前記遷移部の前記外縁は、前記第一方向において、前記軸線方向に沿って延びており、前記第二方向において、前記軸線方向に対して角度を有しているとよい。この場合には、重心ずれ電線において、扁平部の重心と低扁平部の重心の間のずれを、大きく形成することができる。これにより、低扁平部において、重心ずれ電線と隣り合う電線との間隔を広げやすくなる。この際、第二方向の外縁に傾斜を設ければ、導体や絶縁被覆に印加される負荷を小さく抑えながら、扁平部と低扁平部の間に重心のずれを形成することができる。一方、第二方向の外縁に実質的に傾斜を設けず、第二方向の外縁が軸線方向に対してなす角度を直角またはそれに近い角度とすれば、遷移部の長さを小さく抑えながら、扁平部と低扁平部の間に、大きな重心のずれを形成することができる。それにより、低扁平部のすぐ近傍まで扁平部が延びることになり、扁平部を長く確保することで、重心ずれ電線において、省スペース性や曲げ柔軟性等、扁平部が有する特性を効果的に利用することができる。
【0022】
[9]上記[1]から[8]のいずれか1つの態様で、前記重心ずれ電線において、前記低扁平部は、幅方向の全域が、前記扁平部の幅の範囲内に収まっているとよい。この場合には、重心ずれ電線を構成する導体や絶縁被覆に印加される負荷を特に小さく抑えながら、扁平部と低扁平部の間で、重心の位置にずれを形成することができる。また、低扁平部および扁平部を含む重心ずれ電線全体として幅方向に占める領域を、扁平部の幅の範囲内の狭い領域に収めることができる。
【0023】
[10]あるいは、上記[1]から[8]のいずれか1つの態様で、前記重心ずれ電線において、前記低扁平部の幅方向の少なくとも一部の領域は、前記扁平部に対して、前記扁平部の幅の範囲を超えて、前記第一方向にずれているとよい。この場合には、重心ずれ電線において、扁平部と低扁平部の間に、大きな重心のずれを形成することができる。その大きな重心のずれを利用して、多様な配置において、低扁平部の箇所における電線の間隔を大きく確保しながら、複数の電線が並んだ集合体の幅を、扁平部の箇所で小さく抑えることができる。
【0024】
[本開示の実施形態の詳細]
以下に、本開示の実施形態にかかるワイヤーハーネス、およびそのようなワイヤーハーネスに含まれる位置ずれ電線について、図面を用いて詳細に説明する。本明細書において、ワイヤーハーネスおよび電線の各部の形状や配置に関して、直線、平行、垂直等、部材の形状や配置を示す概念には、長さにして概ね±15%程度、また角度にして概ね±15°程度のずれ等、この種のワイヤーハーネスおよび電線において許容される範囲で、幾何的な概念からの誤差を含むものとする。本明細書において、電線の断面とは、特記しない限り、軸線方向(長手方向)に垂直に切断した断面を示すものとする。
【0025】
本開示の実施形態にかかるワイヤーハーネスは、複数の電線を備えている。そして、それら複数の電線は、所定の構成を有する重心ずれ電線を含んでいる。以下においては、まずワイヤーハーネスに含まれる重心ずれ電線の構成について説明し、次にワイヤーハーネスの構成について説明する。
【0026】
<重心ずれ電線の構成>
図1Aに、本開示の一施形態にかかるワイヤーハーネスを構成する重心ずれ電線1の一例を、斜視図にて表示する。また、図1B,1Cに、それぞれ図1A中のA-A線およびB-B線にて切断した断面図を示す。さらに、図2Aに、重心ずれ電線1の平面図を示す。
【0027】
本形態にかかる重心ずれ電線1は、導体11と、絶縁被覆13とを有する絶縁電線として構成されている。導体11は、複数の素線(図略)を撚り合わせた撚線として構成されている。絶縁被覆13は、導体11の外周を、全周にわたって被覆している。重心ずれ電線1は、軸線方向(x方向)に沿って、扁平部2と低扁平部3を有している。扁平部2と低扁平部3は、重心ずれ電線1の軸線方向に沿って一体に連続している。つまり、扁平部2と低扁平部3の間で相互に、導体11を構成する各素線が、一体に連続している。また、扁平部2と低扁平部3の間で相互に、導体11を被覆する絶縁被覆13も、一体に連続している。
【0028】
扁平部2においては、断面が扁平形状をとっている。ここで、断面が扁平形状をとっているとは、断面を構成する辺または径と平行に断面を横切り、断面全体を範囲に含む直線のうち、最長の直線の長さである幅wが、その直線に直交し、断面全体を範囲に含む直線の長さである高さhよりも、大きい状態を指す。扁平部2の断面は、扁平形状であれば、どのような具体的形状よりなってもよいが、本形態においては、扁平部2の断面は、長方形に近似できる形状を有している。長方形以外の扁平形状としては、例えば、楕円形、長円形、小判型(長方形の両端に円弧を接合した形状)を挙げることができる。省スペース性を高める、また低扁平部3との連続性を高める等の観点から、扁平部2における縦横比w/hは、例えば、2以上、6以下程度としておくとよい。扁平部2においては、断面全体の外形だけでなく、導体11の外形も、扁平形状をとっている。以降、低扁平部3を含め、重心ずれ電線1の全域において、扁平部2の扁平形状の幅および高さに対応する方向を、それぞれ、幅方向(y方向)および高さ方向(z方向)と称する。図2Aの平面図は、高さ方向(+z方向)から重心ずれ電線1を見た平面図であり、軸線方向と幅方向とを含む平面(xy平面)にて重心ずれ電線1の状態を表示している。
【0029】
低扁平部3は、断面が扁平部2よりも扁平度の低い形状をとっている。ここで、扁平度が低いとは、断面における縦横比(低扁平部3の断面の幅をw’、高さをh’としてw’/h’)が小さく、断面形状が扁平である程度が低いことを示す。低扁平部3の具体的な形状は特に限定されるものではなく、正方形や円形、六角形等、異方性がない、あるいは異方性が低い図形に近似できる形状の他、扁平部2よりも縦横比の小さい長方形、楕円形、長円形等に近似できる形状を例示することができる。低扁平部3の扁平度は低いほど良く、縦横比w’/h’が1となる、円形または正方形に近似できる形状を断面として有する形態が、特に好ましい。さらに、断面を円形に近似できる形態が、最も好ましい。ただし、低扁平部3における縦横比w’/h’を、例えば2以下としておけば、後述する低扁平部3を形成することによる効果を、十分に得ることができる。また、低扁平部3における縦横比w’/h’を、扁平部2における縦横比w/hに対して、おおむね20%以上、また70%以下としておけばよい。低扁平部3においては、断面全体の外形だけでなく、導体11の外形も、扁平部2よりも扁平度の低い形状をとっている。なお、低扁平部3においては、幅方向の寸法w’を、高さ方向の寸法h’よりも小さくしないことが好ましい(w’/h’≧1とするとよい)。つまり、低扁平部3を縦長の断面形状としないことが好ましい。ただし、低扁平部3を縦長の断面形状とすることを妨げるものではなく、その場合には、低扁平部3における横縦比h’/w’を、扁平部2における縦横比w/hよりも小さくしておくことが好ましい。さらには、低扁平部3の横縦比h’/w’を、上に挙げた横長形状の場合の縦横比w/hと同様、2以下としておけばよい。また、低扁平部3における横縦比h’/w’を、扁平部2における縦横比w/hに対して、おおむね20%以上、また70%以下としておけばよい。
【0030】
本形態にかかる重心ずれ電線1においては、低扁平部3における断面の重心31の位置が、扁平部2における断面の重心21の位置との間にずれを有している。具体的には、幅方向に沿った一方の方向(図示した例では-y方向)を偏心方向(第一方向)D1として、低扁平部3の重心31の位置が、扁平部2の重心21の位置に対して、偏心方向D1にずれている。ここで、扁平部2および低扁平部3の重心21,31の位置とは、構成材料の質量を考慮しない、図形としての断面外形における重心の位置を指すものである。図2Aの平面図では、軸線方向に沿った各位置の断面における重心をつないだ直線として、重心21,31をそれぞれ表示している。
【0031】
扁平部2と低扁平部3の間には、遷移部4が設けられている。遷移部4においては、断面の重心の位置が、扁平部2における重心位置21と低扁平部3における重心位置31との間で変化している。そのため、図2Aに示したxy平面において、遷移部4の幅方向外側の外縁が、重心ずれ電線1の軸線方向に対して角度を有している。本形態にかかる重心ずれ電線1においては、偏心方向D1においても、偏心方向D1と反対の方向である反偏心方向(第二方向)D2においても、低扁平部3の外縁と扁平部2の外縁との間に、ずれが存在しており、偏心方向D1と反偏心方向D2の両側において、遷移部4の外縁が、軸線方向に対して傾斜を有している。遷移部4の外縁の傾斜は、幅方向両側で、低扁平部3側(先端側)が幅方向内側に向かう方向となっているが、傾斜の程度は、相互に異なっている。具体的には、遷移部4の外縁の傾斜は、偏心方向D1において、反偏心方向D2よりも小さくなっており、偏心方向D1の外縁の方が反偏心方向D2の外縁よりも、軸線方向に近い方向に延びている。換言すると、遷移部4の外縁が、軸線方向に沿った低扁平部3の外縁との間になす角度を想定した際に、偏心方向D1における角度θ1と反偏心方向D2における角度θ2の間に差があり、偏心方向D1における角度θ1の方が大きくなっている。図示した形態では、角度θ1,θ2は鈍角であり、90°<θ2<θ1<180°となっている。このように、遷移部4を軸線方向に沿って長さを有する領域として設け、その遷移部4の中で重心の位置が緩やかに変化する構成とすれば、重心ずれ電線1を構成する導体11や絶縁被覆13に過剰な負荷を印加することなく、扁平部2の重心21と低扁平部3の重心31との間にずれを設けることができる。
【0032】
扁平部2の重心21に対する低扁平部3の重心31のずれ量L、つまり幅方向に沿った両重心21,31の間の距離は、特に限定されるものではないが、本形態においては、そのずれ量Lは、扁平部2の幅wよりも小さくなっている。さらに、重心31のずれ量Lは、低扁平部3の幅方向の全域が、扁平部2の幅wの範囲内に収まる長さに抑えられており、低扁平部3の外縁が、偏心方向D1、反偏心方向D2の両側において、扁平部2の外縁よりも幅方向内側に位置している。重心31のずれ量Lの下限は特に定められるものではないが、後に説明するような、扁平部2と低扁平部3の間に重心のずれを設けることの効果を十分に得る観点から、重心31のずれ量Lを、扁平部2の幅wに対して、1%以上、さらには3%以上とするとよい。一方、重心31のずれ量Lは、扁平部2の幅wに対して、100%以下であればよいが、導体11や絶縁被覆13への負荷を小さく抑える観点からは、25%以下に抑えておくとよい。
【0033】
重心ずれ電線1は、扁平な断面形状を有する扁平部2を備えることで、高い省スペース性を発揮するものとなる。また、扁平部2は、高さ方向に高い柔軟性を有する。それら高い省スペース性や柔軟性を利用して、扁平部2を、狭い空間への配策や、他の部材と接近した状態での配策をはじめとして、所定の経路への配策に好適に用いることができる。一方で、低扁平部3は、扁平度の低い断面形状を有し、従来一般の丸電線に近い断面形状となっていることから、端子やコネクタ等、重心ずれ電線1に取り付ける外部の部材として、扁平形状に合わせた特殊な形状のものを準備することなく、従来の丸電線用のものを適用しやすい。それらの部材の取り付けを行うための工具についても、丸電線用のものを適用することができる。さらに、後のワイヤーハーネスの項で詳細に説明するように、本形態にかかる重心ずれ電線1においては、低扁平部3の重心31の位置が扁平部2の重心21の位置に対してずれを有することで、重心ずれ電線1を他の電線とともに幅方向に並べた際に、低扁平部2において、隣接する電線との間に間隔を確保しながら、扁平部3の箇所で、電線の集合体が占める幅を小さく抑えることができる。重心ずれ電線1においては、扁平部2および低扁平部3がそれぞれ上記の特性を有し、共存していることにより、重心ずれ電線1を、自動車内等、配策できるスペースが限られ、かつ、複数の電線を集合させる必要がある用途に、好適に適用することができる。
【0034】
重心ずれ電線1の軸線方向において、低扁平部3を設ける位置や数は、特に限定されるものではなく、コネクタ等の他の部材の取り付け等のために必要とされる箇所に、低扁平部3を設ければよい。好適な形態として、重心ずれ電線1の軸線方向に沿って、扁平部2の少なくとも片側、あるいは両側に、低扁平部3をそれぞれ設ける形態を挙げることができる。例えば、重心ずれ電線1の一方または両方の端末部に低扁平部3を設け、それら低扁平部3に挟まれた領域を扁平部2としておけばよい。この場合には、ワイヤーハーネスの項で詳しく説明するように、複数の電線の端末に共通のコネクタを接続する際に、コネクタへの接続に低扁平部3を好適に利用することができる。一方で、扁平部2は、重心ずれ電線1を配策する際に、中途域等における取り回しに好適に用いることができる。別の形態として、重心ずれ電線1の軸線方向の中途部に低扁平部3を設けてもよく、そのような形態は、例えば、幅方向に沿って並べた複数の電線を中途部にて、テープやチューブ等の結束部材を用いて結束する場合に、好適に用いることができる。
【0035】
ある扁平部2に対して軸線方向の両側に低扁平部3が設けられる場合には、それら2つの低扁平部3において、間の扁平部2に対して重心31がずれる方向、つまり偏心方向D1は、2つの低扁平部3の間で相互に同方向であっても、反対方向であってもよい。また、ある低扁平部3に対して軸線方向の両側に扁平部2が設けられる場合には、両側の扁平部2のそれぞれに対して間の低扁平部3の重心31がずれる方向は、両側の扁平部2に対して同方向であっても、反対方向であってもよい。また、重心ずれ電線1に扁平部2および/または低扁平部3がそれぞれ複数設けられる場合に、複数の扁平部2の間、また複数の低扁平部3の間で、断面の具体的な形状や縦横比、扁平形状が延びる方向等、具体的な構成は、同じになっていても異なっていてもよい。
【0036】
本形態にかかる重心ずれ電線1において、導体11を構成する素線の材質や線径、また導体断面積は、特に限定されるものではない。導体11の材質としては、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金等を例示することができる。導体断面積については、扁平部2を設けることによる省スペース性および曲げ柔軟性向上の効果や、重心31のずれた低扁平部3を設けることによる効果を高める観点から、ある程度大きくしておくことが好ましい。例えば、導体断面積が、10mm以上、さらには30mm以上であることが好ましい。導体11を構成する素線の外径としては、0.3mm以上、1.0mm以下の範囲を例示することができる。
【0037】
<重心ずれ電線の製造方法>
扁平部2と低扁平部3を一体に有する重心ずれ電線1は、特許文献1に記載されているのと同様に、導体11を扁平形状に変形させた原料扁平電線から製造することができる。原料扁平電線は、複数の素線が撚り合わせられた断面円形の導体11を扁平形状に圧縮し、その導体11の外周を絶縁被覆13で被覆することで、製造できる。そして、原料扁平電線のうち、軸線方向に沿って一部の領域、具体的には低扁平部3とすべき領域において、原料扁平電線の外から、幅方向に沿って外側から内側に向かって、力を印加し、導体11を変形させる。この力の印加によって、導体11の幅方向の寸法が小さくなり、導体11の扁平度が低下し、低扁平部3を形成することができる。この際、金型等を用いて、偏心方向D1とする方向の外側から印加する力よりも、反偏心方向D2とする方向の外側から印加する力を大きく設定することで、形成する低扁平部3の重心31を、扁平部2の重心21に対して、偏心方向D1にずらすことができる。
【0038】
あるいは、重心ずれ電線1は、特許文献2に記載されているのと同様に、複数の素線が撚り合わせられた断面円形の導体11の外周に絶縁被覆13を形成した、原料丸電線を用いて製造することもできる。この場合には、原料丸電線において、軸線方向に沿って一部の領域、具体的には扁平部2とすべき領域に、扁平形状の高さ方向とする方向の外側から内側に向かって、力を印加し、導体11を変形させる。この力の印加によって、導体11の高さ方向の寸法が小さくなり、導体11の扁平度が上昇し、扁平部2を形成することができる。この際、金型等を用いて、扁平形状の高さ方向となる方向に加えるとともに、幅方向となる方向にも力を加え、反偏心方向D2となる方向に偏って扁平部2が形成されるようにすれば、得られる重心ずれ電線1において、低扁平部3の重心31が扁平部2の重心21に対して偏心方向D1にずれた状態を、形成することができる。
【0039】
このように、本形態にかかる重心ずれ電線1は、原料扁平電線より形成しても、原料丸電線より形成しても、いずれでもよいが、原料扁平電線より形成する方が好ましい。原料扁平電線に対して、低扁平部3を所定の箇所に形成する場合に、印加する力の調整等により、形成する低扁平部3に対して、所望の方向およびずれ量Lを有して、重心31のずれを形成しやすいからである。また、断面形状の変化に伴って導体11や絶縁被覆13に印加される負荷を小さく抑えられるからである。特に、重心ずれ電線1の端末部の一部の領域にのみ低扁平部3を設ける場合等、扁平部2が占める領域よりも低扁平部3が占める領域の方が短い重心ずれ電線1を製造する場合には、原料扁平電線を用いる方法を好適に採用することができる。
【0040】
<他の形態の重心ずれ電線>
本開示の実施形態にかかるワイヤーハーネスを構成する重心ずれ電線は、扁平部2と低扁平部3を有し、低扁平部3の重心31の位置が扁平部2の重心21の位置に対して、扁平形状の幅方向に沿った偏心方向D1にずれたものである限りにおいて、上記で詳細に説明した重心ずれ電線1の形態に限定されるものではない。以下、他の形態の主要な例にかかる重心ずれ電線について簡単に説明する。上記重心ずれ電線1と共通する構成については説明を省略する。
【0041】
上記の形態にかかる重心ずれ電線1においては、遷移部4の外縁が、偏心方向D1および反偏心方向D2の両方において、軸線方向に対して傾斜を有しているが、遷移部4の幅方向外側の外縁が、少なくとも反偏心方向D2において、重心ずれ電線の軸線方向に対して角度を有していれば、遷移部4の形態は上記のようなものに限られない。例えば、図2Bおよび図2Cに示す重心ずれ電線1A,1Bのように、遷移部4の外縁が、反偏心方向D2においては軸線方向に対して角度θ2を有する一方、偏心方向D1においては実質的に角度を有さず、軸線方向に沿って直線状に延びている形態としてもよい。この場合には、重心ずれ電線1A,1Bの偏心方向D1側の外縁が、低扁平部4において、扁平部2の外縁と同じ幅方向位置において軸線方向に延びた状態となるので、図2Aの重心ずれ電線1のように、低扁平部3の偏心方向D1側の外縁が扁平部2の外縁よりも幅方向内側に配置されている場合よりも、扁平部2の重心21に対する低扁平部3の重心31のずれ量Lを大きくすることができる。すると、後述する重心31のずれによる効果を大きく得ることができる。
【0042】
このように遷移部4の偏心方向D1の外縁を、軸線方向に沿って延びたものとする形態として、反偏心方向D2の外縁の状態によって、図2Bの重心ずれ電線1Aと、図2Cの重心ずれ電線1Bの両方の形態がありうる。図2Bの重心ずれ電線1Aでは、遷移部4において、反偏心方向D2側の外縁が、軸線方向に対して傾斜して延びている。つまり、反偏心方向D2において、遷移部4の外縁が、軸線方向に沿った低扁平部3の外縁との間になす角度θ2が、鈍角となっている。この場合には、図2Aの重心ずれ電線1と同様に、遷移部4において重心の位置が徐々に変化するため、重心ずれ電線1Aを構成する導体11や絶縁被覆13に過剰な負荷を印加することなく、扁平部2の重心21に対する低扁平部3の重心31のずれ量Lを大きく確保することができる。
【0043】
一方、図2Cの重心ずれ電線1Bでは、遷移部4において、反偏心方向D2の外縁が、軸線方向に対して直角、あるいはそれに近い角度に向いている。つまり、反偏心方向D2において、遷移部4の外縁が、軸線方向に沿った低扁平部3の外縁との間になす角度θ2が、90°またはそれに近い角度(おおむね90°±10°)となっている。この場合には、遷移部4が重心ずれ電線1Bの軸線方向に沿って占める領域の長さが、ゼロまたはそれに近い短いものとなり、低扁平部3と扁平部2を近づけて配置することができる。すると、所定の長さの重心ずれ電線1Bにおいて、扁平部2を長く形成することができ、高さ方向の省スペース性や柔軟性など、扁平部2が有する特性を、重心ずれ電線1Bの配策に有効に活用することができる。
【0044】
以上に説明した図2A,2B,2Cの重心ずれ電線1,1A,1Bにおいては、低扁平部3の幅方向の全域が、扁平部2の幅wの範囲内に収まっていた。つまり、低扁平部3の幅方向両側の外縁が、扁平部2の外縁よりも外側には配置されておらず、遷移部4も、幅方向の全域が、扁平部2の幅wの範囲内に収まっていた。このように構成することで、導体11や絶縁被覆13に印加される負荷を小さく抑えながら、扁平部2と低扁平部3の間で、重心21,31の位置にずれを形成することができる。また、重心ずれ電線全体として占める幅方向の寸法を小さく抑えることができる。一方で、図2Dに示す重心ずれ電線1Cのように、低扁平部3の幅方向の少なくとも一部の領域が、扁平部2に対して、扁平部2の幅wの範囲を超えて、偏心方向D1にずれていてもよい。図示した形態においては、低扁平部3の幅方向のうち偏心方向D1側の一部の領域が、扁平部2の幅wの範囲を超えて、偏心方向D1へとずれており、偏心方向D1と反偏心方向D2の両側において、低扁平部3の幅方向の外縁が、扁平部2の外縁よりも偏心方向D1側にずれている。遷移部4の外縁は、幅方向の両側で、低扁平部3側(先端側)が偏心方向D1に向かう方向に傾斜しており、遷移部4の幅方向の一部の領域も、扁平部2の幅wの範囲を超えて、偏心方向D1へとずれている。この場合にも、図2Aの重心ずれ電線1と同様に、遷移部4の外縁の傾斜は、偏心方向D1において反偏心方向D2よりも小さくなっている。
【0045】
この重心ずれ電線1Cにおいては、扁平部2の重心21に対する低扁平部3の重心31のずれ量Lが大きくなるため、例えば後に示す図4Bに示す形態など、多様な形態のワイヤーハーネスを構成するのに用い、重心31のずれによる効果を利用することができる。図2Dに示した形態においては、低扁平部3の重心31の位置は、扁平部2の幅wの範囲内に収まっているが、さらにずれ量Lを大きくして、低扁平部3の重心31の位置が、扁平部2の幅wの範囲を超えて偏心方向D1にずれるように構成してもよい。さらには、低扁平部3の偏心方向D1と反偏心方向D2の両側の外縁が、扁平部2の偏心方向D1側の外縁を超えて、偏心方向D1へとずれて配置されるように構成してもよい。
【0046】
<ワイヤーハーネスの構成>
次に、本開示の実施形態にかかるワイヤーハーネスについて説明する。本開示の実施形態にかかるワイヤーハーネスは、上記で説明した、扁平部2と、その扁平部2に対して重心31のずれた低扁平部3を有する重心ずれ電線(例えば重心ずれ電線1,1A,1B,1C)を含む、複数の電線を備えている。そして、ワイヤーハーネスにおいて、重心ずれ電線は、反偏心方向D2において、他の電線と隣り合って配置されている。
【0047】
ここで、他の電線とは、扁平部2と、その扁平部2に対して重心31のずれた低扁平部3を有する重心ずれ電線であっても、他種の電線であってもよい。ただし、ワイヤーハーネスは、重心ずれ電線を少なくとも2本含んでいることが好ましい。この場合に、ワイヤーハーネスに含まれる複数の重心ずれ電線は、相互に同一形態のものであっても、重心ずれ電線1,1A~1Cのように、複数の形態のものが混在していてもよい。また、重心ずれ電線と共存する他種の電線の種類は特に限定されるものではなく、扁平電線、丸電線等、任意の電線を用いることができるが、図5Aに示すような、扁平部2と低扁平部3を有するが、低扁平部3の重心31と扁平部2の重心21の間にずれのない絶縁電線(ずれなし電線)9を好適に採用することができる。
【0048】
図3Aに、本開示の一実施形態にかかるワイヤーハーネス5について、複数の電線とコネクタ51との間の接続部を、簡略化した平面図にて示す。このワイヤーハーネス5は、端末部に低扁平部3を有する重心ずれ電線1Bを2本含んでいる。2本の重心ずれ電線1Bは、それぞれの反偏心方向D2の外縁を対向させて、幅方向に並べて配置されている。そして、2本の重心ずれ電線1Bは、任意ではあるが、低扁平部3において、共通のコネクタ51に接続され、多極コネクタを備えたワイヤーハーネス5を構成している。実際のワイヤーハーネス5においては、各重心ずれ電線1Bの先端に端子が接続され、その端子を接続した重心ずれ電線1Bの先端部が、コネクタハウジングに収容されるが、図では、端子を省略し、コネクタハウジングにおいて重心ずれ電線1Bが収容される位置を、極位置52として表示している。さらに、各重心ずれ電線1Bには、任意ではあるが、コネクタ51への接続箇所の近傍に、防水栓(ゴム栓)6が、低扁平部3の外周に嵌め込んで取り付けられている。
【0049】
ここで、図5Bに示すように、低扁平部3の重心31と扁平部2の重心21の間にずれのない、ずれなし電線9のみを電線として用いてワイヤーハーネス95を構成する場合を考える。この場合には、幅方向に2本のずれなし電線9を並べた集合体においてに、2本のずれなし電線9の間で、低扁平部3の重心31の間の距離は、扁平部2の重心21の間の距離と等しくなる。低扁平部3に、大型の防水栓6や端子を取り付ける必要性などから、隣り合う極位置52の間の極間隔p、すなわち隣り合う重心ずれ電線1Bの低扁平部3の重心31の間の距離を、扁平部2の幅wよりも大きくしなければならないとすれば、扁平部2も、自らの幅wより大きな距離を、重心21の間に設けて並ぶことになる。つまり、隣接するずれなし電線9の扁平部2を、反偏心方向D2の外縁を相互に接触させた状態で並べることはできず、それら扁平部2の間に空隙gが生じてしまう。すると、2本のずれなし電線9の集合体において、低扁平部3に設けるべき極間隔pに応じて、扁平部2の箇所が占める幅A’が大きくなってしまう。扁平部2の箇所で電線群が占める領域の幅が広くなってしまうと、幅方向におけるワイヤーハーネス95の省スペース化が難しくなる。また、金属編組等のシールド材や、コルゲートチューブやツイストチューブ等の保護用の外装材など、電線群の外周に配置する部材として、径の大きいものを用いる必要が生じ、それらの部材に要するコストが高くなってしまう。
【0050】
これに対し、図3Aに示す本開示の実施形態にかかるワイヤーハーネス5においては、低扁平部3の重心31の位置が扁平部2の重心21の位置に対してずれた重心ずれ電線1Bを用いていることにより、隣接する重心ずれ電線1Bにおいて、低扁平部3の間の距離を大きく確保しながら、扁平部2の間の距離を小さく抑えることができる。本実施形態にかかるワイヤーハーネス5においては、複数の重心ずれ電線1Bを、隣接する低扁平部3を、それぞれの反偏心方向D2にて相互に対向させて並べているため、隣り合う重心ずれ電線1Bにおいて、低扁平部3の重心31の間の距離(極間隔p)が、扁平部2の重心21の間の距離よりも大きくなる。つまり、扁平部2の重心21の間の距離を小さくしても、低扁平部3の重心31の間には、扁平部2の重心21の間よりも、大きな距離が確保される。よって、図5Bのワイヤーハーネス95のように、ずれなし電線9を用いる形態と比較した場合に、扁平部2および低扁平部3の幅w,w’がそれぞれずれなし電線9のものと同じであったとしても、低扁平部3の重心31の間の距離、つまりコネクタ51における極間隔として、所定の同じ距離pを確保しながら、扁平部2の重心21の間の距離を小さく抑え、2本の重心ずれ電線1Bの集合体が扁平部2の箇所で占める幅Aを小さく抑えることができる(A<A’)。扁平部2の重心21の間の距離は、隣接する重心ずれ電線1Bを、扁平部2の反偏心方向D2側の外縁で相互に接触させた場合、つまり空隙gを実質的に設けない場合に、最も小さくなり、扁平部2の幅wに等しくなる。
【0051】
このように、重心ずれ電線1Bを用いることで、ずれなし電線9を用いる場合と比較して、複数の電線の低扁平部3の間の距離を大きく確保しながら、扁平部2の箇所で、電線の間隔を小さく抑え、電線の集合体が占める幅Aを小さく抑えることができる。防水栓6や端子等の部材として大型のものを取り付ける必要性などから、極間隔pが扁平部2の幅wよりも大きい共通のコネクタ51に、複数の重心ずれ電線1Bを接続する場合でも、扁平部2の重心21の間隔を極間隔pよりも小さくすることで、それら複数の重心ずれ電線1Bの集合体が扁平部2の箇所において占める幅Aを、小さく保つことができる。それにより、ワイヤーハーネス5の幅方向における省スペース性が高められるとともに、各種シールド材や外装材等、重心ずれ電線1Bの集合体の外周に配置する部材として、過剰に径の大きいものを用いる必要がなくなり、それらの部材に要するコストを低く抑えることができる。なお、図示した形態では、低扁平部3において必要な極間隔pを確保しながら、扁平部2の集合体が占める幅Aをなるべく小さく抑える等の観点から、遷移部4の外縁が、偏心方向D1において軸線方向に沿って延び、反偏心方向D2において軸線方向に対して直角となった形態の重心ずれ電線1Bを用いてワイヤーハーネス5を構成しているが、上に説明した重心ずれ電線1,1A,1Cをはじめとして、他の形態の重心ずれ電線を用いてもよい。
【0052】
以上に説明した形態においては、ワイヤーハーネス5が、電線として、2本の重心ずれ電線のみを含み、それら2本の重心ずれ電線を、反偏心方向D2の外縁を直接対向させて配置しているが、3本以上の任意の本数の電線を含むワイヤーハーネスにおいても、重心ずれ電線を利用して、低扁平部3の箇所における電線の間隔を十分に確保しながら、扁平部2の箇所において電線が占める幅を小さく抑えることができる。3本以上の電線を含む場合に、2本の重心ずれ電線の反偏心方向D2の外縁を、間に他の電線を挟んで対向させるとよい。この場合に、間に挟む他の電線としては、重心ずれ電線であっても、ずれなし電線9等、他種の電線であってもよい。
【0053】
図3Bに、3本の電線を含むワイヤーハーネス5Aの例を示す。ここでは、幅方向に並べた3本の電線のうち、両端に重心ずれ電線1Bがそれぞれ配置され、それらの重心ずれ電線1Bの間に、1本のずれなし電線9が配置されている。2本の重心ずれ電線1Bは、それぞれの反偏心方向D2の外縁を、並び方向の内側に向けている。この形態においては、両側の重心ずれ電線1Bと中央のずれなし電線9の間での低扁平部3の重心31の距離(極間隔p)と同じ重心間距離で、3本のずれなし電線9を並べた場合と比較して、隣接する扁平部2の重心21の間の距離が、小さく抑えられる。それに応じて、3本の電線の集合体が扁平部2の箇所で占める幅A1を、小さく抑えることができる。幅方向の両端に配置する重心ずれ電線として、低扁平部3の幅方向の少なくとも一部の領域が扁平部2の幅wの範囲を超えて偏心方向D1にずれた形態の絶縁電線1C(以下、大ずれ電線1Cと称する)を用いれば、低扁平部3に同じ極間隔pを確保しながら、3本の電線の集合体が扁平部2の箇所で占める幅A1をさらに小さく抑えることも可能である。
【0054】
両端の重心ずれ電線1Bの間に配置するずれなし電線9の本数をさらに増やしてもよい。その場合にも、少なくとも、両端の重心ずれ電線1Bと、それに隣接するずれなし電線9との間で、低扁平部3の重心31の間の距離(極間隔p)を十分に確保しながら、扁平部2の重心21の間の距離を小さく抑えることができ、その扁平部2の重心21の間の距離の短縮分に応じて、扁平部2の箇所において、全電線の集合体が占める幅を小さく抑える効果を得ることができる。例として、図4Aに、4本の電線を含むワイヤーハーネス5Bを示す。ここでは、幅方向に並べた4本の電線のうち、両端に重心ずれ電線1Bがそれぞれ配置され、それらの重心ずれ電線1Bの間に、2本のずれなし電線9が配置されている。低扁平部3の重心31の間の距離(極間隔)としては、3か所全てにおいて、扁平部2の幅wよりも大きい間隔pが確保されている。この場合には、4本のずれなし電線9を、同じ極間隔pで並べて配置する場合と比較して、中央の2本のずれなし電線9の間では、扁平部2の重心21の間の距離は変わらないが、両端の重心ずれ電線1Bのそれぞれと、隣接するずれなし電線9との間においては、扁平部2の重心21の間の距離を小さくすることができる。そして、4本の電線の集合体全体として、扁平部2の箇所において占める幅A2を小さく抑えることができる。
【0055】
4本以上の電線を並べて配置する場合に、大ずれ電線1Cを用いれば、低扁平部3において必要な極間隔を確保しながら、扁平部2の箇所で電線の集合体が占める幅を小さく抑えるのに、さらに高い効果が得られる。この場合には、電線群のうち少なくとも幅方向の両端に、大ずれ電線1Cを配置すればよい。図4Bに示すワイヤーハーネス5Cでは、4本の電線のうち、幅方向外側の2本として大ずれ電線1Cを配置し、間の2本として、低扁平部3の幅方向の全域が扁平部2の幅wの範囲内に収まった重心ずれ電線1Bを配置している。いずれの重心ずれ電線1B,1Cも、反偏心方向D2側の外縁を、電線群の並び方向の内側に向けて配置されている。低扁平部3の重心31の間の距離は、3か所全てにおいて、扁平部2の幅wよりも大きくなっている(極間隔p)。この場合には、4本のずれなし電線9を、同じ極間隔pで並べて配置する場合と比較して、幅方向外側に配置された大ずれ電線1Cと、その内側に配置された重心ずれ電線1Bとの間、および内側の2本の重心ずれ電線1Bの間の両方において、扁平部2の重心21の間の距離を小さく抑えることができる。そして、4本の電線の集合体全体として、扁平部2の箇所において占める幅A3を、図4Aのように幅方向内側に配置する電線としてずれなし電線9を用い、それらずれなし電線9の両側に重心ずれ電線1Bを配置している場合の幅A2よりもさらに、小さく抑えることができる。電線の本数を4本よりも多くする場合には、中央に配置する重心ずれ電線1Bに加え、低扁平部3の重心31のずれ量Lの異なる複数種の大ずれ電線1Cを準備し、ずれ量Lの大きい大ずれ電線1Cほど、並び方向の外側に配置するように構成すればよい。
【0056】
以上に説明した各形態のワイヤーハーネス5,5A~5Cでは、重心ずれ電線およびずれなし電線として、端末部に低扁平部3を有するものを用い、その端末部にコネクタ51を接続しており、複数の電線が低扁平部3において、コネクタ51によってまとめられた状態となっている。しかし、本開示のワイヤーハーネスにおいては、そのような形態に限られず、重心ずれ電線を含む複数の電線よりなる電線群を有し、その電線群において、重心ずれ電線が、反偏心方向D2において、他の電線と隣り合っていれば、低扁平部3の重心31が偏心方向D1にずれていることを利用して、低扁平部3において隣の電線との間隔を大きく確保しながら、扁平部2において隣の電線との間隔を小さく抑え、それによって、扁平部2の箇所で電線群が占める幅も小さく抑えることができる。重心ずれ電線を含む電線群をまとめる手段として、共通のコネクタ51への接続以外に、例えば、重心ずれ電線の低扁平部3に相当する箇所において、テープやチューブ等の結束部材を用いて、電線群を一括して結束する形態を挙げることができる。この場合に、低扁平部3は、重心ずれ電線の端末部に設けても、中途部に設けてもよい
【0057】
以上、本開示の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【0058】
以上においては、本開示の実施形態として扱う対象として、ワイヤーハーネスを挙げた。さらに、上記で詳細に説明した重心ずれ電線は、そのようなワイヤーハーネスを構成しうる絶縁電線として、好適に用いることができる。つまり、断面が扁平形状になった扁平部を有する絶縁電線を、他の電線とともに扁平形状の幅方向に並べてワイヤーハーネスを構成する際に、低扁平部において、隣接する電線との間隔を確保しながら、扁平部の箇所で、電線の集合体が占める幅を小さく抑えることができる絶縁電線を提供することを課題として、以下の構成を有する絶縁電線を提供することができる。
【0059】
[1’]複数の素線が撚り合わせられた導体と、
前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有する絶縁電線であって、
前記導体を構成する前記素線のそれぞれ、および前記絶縁被覆を相互に連続させて、扁平部と、低扁平部と、を軸線方向に沿って有し、
前記絶縁電線の軸線方向に直交する断面が、前記扁平部において、幅方向に長い扁平形状をとり、かつ前記低扁平部において、前記扁平部よりも扁平度の低い形状をとり、
前記低扁平部における前記断面の重心の位置が、前記扁平部における前記断面の重心の位置に対して、前記扁平形状の前記幅方向に沿った第一方向にずれている、絶縁電線。
【0060】
[2’]端末部に前記低扁平部を有する、[1’]に記載の絶縁電線。
【0061】
[3']前記絶縁電線は、前記扁平部と前記低扁平部の間に遷移部を有し、
前記遷移部の前記幅方向外側の外縁は、少なくとも、前記第一方向と反対の方向である第二方向において、前記軸線方向に対して角度を有している、[1’]または[2’]に記載の絶縁電線。
【0062】
[4’]前記遷移部の前記外縁は、少なくとも前記第二方向において、前記軸線方向に対して傾斜している、[3’]に記載の絶縁電線。
【0063】
[5’]前記遷移部の前記外縁は、前記第一方向と前記第二方向の両方において、前記軸線方向に対して傾斜を有しており、
前記傾斜は、前記第一方向において、前記第二方向よりも小さくなっている、[4’]に記載の絶縁電線。
【0064】
[6’]前記遷移部の前記外縁は、
前記第一方向において、前記軸線方向に沿って延びており、
前記第二方向において、前記軸線方向に対して角度を有している、[3’]に記載の絶縁電線。
【0065】
[7’]前記低扁平部は、幅方向の全域が、前記扁平部の幅の範囲内に収まっている、[1’]から[6’]のいずれか1つに記載の絶縁電線。
【0066】
[8’]前記低扁平部の幅方向の少なくとも一部の領域は、前記扁平部に対して、前記扁平部の幅の範囲を超えて、前記第一方向にずれている、[1’]から[5’]のいずれか1つに記載の絶縁電線。
【符号の説明】
【0067】
1,1A,1B,1C 重心ずれ電線
11 導体
13 絶縁被覆
2 扁平部
21 扁平部の重心
3 低扁平部
31 低扁平部の重心
4 遷移部
5,5A,5B,5C ワイヤーハーネス
51 コネクタ
52 極位置
6 防水栓
9 ずれなし電線
95 ワイヤーハーネス
g 空隙
h 扁平部の高さ
h’ 低扁平部の高さ
p 極間隔
w 扁平部の幅
w’ 低扁平部の幅
x 重心ずれ電線の軸線方向
y 幅方向
z 高さ方向
A,A’,A1~A3 電線の集合体が扁平部の箇所において占める幅
D1 偏心方向(第一方向)
D2 反偏心方向(第二方向)
L 扁平部の重心に対する低扁平部の重心のずれ量
θ1 偏心方向における遷移部の外縁の角度
θ2 反偏心方向における遷移部の外縁の角度
図1
図2
図3
図4
図5