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  • 特開-二次電池用の電解質複合体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134281
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】二次電池用の電解質複合体
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0566 20100101AFI20240926BHJP
   H01G 11/56 20130101ALI20240926BHJP
   H01G 11/58 20130101ALI20240926BHJP
   H01M 10/0565 20100101ALI20240926BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20240926BHJP
【FI】
H01M10/0566
H01G11/56
H01G11/58
H01M10/0565
H01M10/0568
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044503
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】孫 仁徳
(72)【発明者】
【氏名】生駒 篤
(72)【発明者】
【氏名】南里 佳寿
【テーマコード(参考)】
5E078
5H029
【Fターム(参考)】
5E078AB02
5E078AB06
5H029AJ06
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029AM16
5H029HJ01
5H029HJ06
5H029HJ07
5H029HJ12
5H029HJ14
5H029HJ18
(57)【要約】
【課題】二次電池用の電解質複合体の改良により、二次電池の性能をより高める。
【解決手段】多孔質構造体と、電解質と、を有し、前記電解質の一部又は全部は、前記多孔質構造体の細孔中に位置し、下記測定方法Aにより測定される前記細孔の開口径Rは、前記電解質を構成する物質の最大長さLと同等以上である、二次電池用の電解質複合体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質構造体と、電解質と、を有し、
前記電解質の一部又は全部は、前記多孔質構造体の細孔中に位置し、
下記測定方法Aにより測定される前記細孔の開口径Rは、前記電解質を構成する物質の最大長さLと同等以上である、二次電池用の電解質複合体。
≪測定方法A≫
原子分解能分析電子顕微鏡を用いて、加速電圧200KVで観察する。観察した画像の任意の点から直線の仮想線を1本引く。仮想線は、無作為の10個の開口部を通るようにする。仮想線上の10個の開口部の開口径を測定し、その平均値を開口径R1とする。
【請求項2】
前記多孔質構造体は、金属有機構造体である、請求項1に記載の二次電池用の電解質複合体。
【請求項3】
前記多孔質構造体に対して、前記細孔の体積占有率は20体積%以上である、請求項1又は2に記載の二次電池用の電解質複合体。
【請求項4】
下記測定方法Bで測定される前記細孔の直径Dは、前記開口径Rと同等以上である、請求項1又は2に記載の二次電池用の電解質複合体。
≪測定方法B≫
比表面積・細孔径分布測定装置を用いて細孔の直径を測定し、Barrett-Joyner-Halenda法で平均値を求めて、細孔の直径Dとする。
【請求項5】
前記多孔質構造体のBET比表面積は、100~5000m/gである、請求項1又は2に記載の二次電池用の電解質複合体。
【請求項6】
空気中での熱分解温度は、250℃以上である、請求項1又は2に記載の二次電池用の電解質複合体。
【請求項7】
前記電解質は、電子の受け渡しを行う金属イオンを含む金属塩を含み、
前記金属塩の含有量は、前記多孔質構造体100質量部に対して、1~400質量部である、請求項1又は2に記載の二次電池用の電解質複合体。
【請求項8】
前記電解質は、電子の受け渡しを行う金属イオンを含む金属塩と、陰イオンとを含む、請求項1又は2に記載の二次電池用の電解質複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用の電解質複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンニュートラル実現に向けて、各国における自動車排ガスへの規制が一段と厳しくなっており、自動車の電動化が世界的な潮流になっている。電気自動車のさらなる普及を図るには、航続距離アップ、安全性アップ、低コスト化、快速充電が課題である。これらの課題の解決策として、二次電池の性能向上が挙げられる。
性能向上を図った二次電池として、固体電池がある。固体電池の性能は、固体電解質に大きく影響を受ける。
例えば、特許文献1には、一次粒子の平均粒径が特定の範囲である多孔質性高分子の結晶粒子と、多孔質性高分子の細孔内に保持された第一のイオン液体とを有するイオン伝導性複合体が提案されている。特許文献1の発明によれば、イオン導電性の向上が図られている。
特許文献2には、複数の多孔性配位高分子で構成された絶縁性の構造体と、多孔性配位高分子の細孔内に保持されたイオン液体とを有し、構造体の粒子間の空隙の一部にイオン導電性物質を有する多孔性配位高分子-イオン複合体が提案されている。特許文献2の発明によれば、電気化学デバイスを安全かつ広い温度域で動作可能とすることが図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6369940号公報
【特許文献2】特許第5924627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、二次電池には、性能の向上が求められている。
本発明は、二次電池の性能をより高められる二次電池用の電解質複合体を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の態様を有する。
<1>
多孔質構造体と、電解質と、を有し、
前記電解質の一部又は全部は、前記多孔質構造体の細孔中に位置し、
下記測定方法Aにより測定される前記細孔の開口径Rは、前記電解質を構成する物質の最大長さLと同等以上である、二次電池用の電解質複合体。
≪測定方法A≫
原子分解能分析電子顕微鏡を用いて、加速電圧200KVで観察する。観察した画像の任意の点から直線の仮想線を1本引く。仮想線は、無作為の10個の開口部を通るようにする。仮想線上の10個の開口部の開口径を測定し、その平均値を開口径R1とする。
<2>
前記多孔質構造体は、金属有機構造体である、<1>に記載の二次電池用の電解質複合体。
<3>
前記多孔質構造体に対して、前記細孔の体積占有率は30体積%以上である、<1>又は<2>に記載の二次電池用の電解質複合体。
<4>
下記測定方法Bで測定される前記細孔の直径Dは、前記開口径Rと同等以上である、<>~<3>のいずれかに記載の二次電池用の電解質複合体。
≪測定方法B≫
比表面積・細孔径分布測定装置を用いて細孔の直径を測定し、Barrett-Joyner-Halenda法で平均値を求めて、細孔の直径Dとする。
<5>
前記多孔質構造体のBET比表面積は、100~5000m/gである、<1>~<4>のいずれかに記載の二次電池用の電解質複合体。
<6>
空気中での熱分解温度は、250℃以上である、<1>~<5>のいずれかに記載の二次電池用の電解質複合体。
<7>
前記電解質は、電子の受け渡しを行う金属イオンを含む金属塩を含み、
前記金属塩の含有量は、前記多孔質構造体100質量部に対して、1~400質量部である、<1>~<6>のいずれかに記載の二次電池用の電解質複合体。
<8>
前記電解質は、電子の受け渡しを行う金属イオンを含む金属塩と、陰イオンとを含む、<1>~<7>のいずれかに記載の二次電池用の電解質複合体。
【発明の効果】
【0006】
本発明の二次電池用の電解質複合体によれば、二次電池の性能をより高められる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】多孔質構造体2の結晶構造を粉末X線回折法で解析した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書及び特許請求の範囲において、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載した数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0009】
(電解質複合体)
本発明の二次電池用の電解質複合体(以下、単に「電解質複合体」ということがある)は、多孔質構造体と電解質とを有する。電解質の一部又は全部は、多孔質構造体の細孔中に位置している。
電解質複合体は、例えば、二次電池の電極層、電解質層等に適用される。
電解質は、液体でもよいし、溶液でもよい。溶液は、溶質が溶媒に溶解した液体である。なお、液体又は溶液には、ゲルも含まれるものとする。
二次電池の種類は特に限定されず、例えば、リチウムイオンバッテリー、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ等が例示される。
【0010】
<多孔質構造体>
多孔質構造体は、2以上の細孔を有する。多孔質構造体の細孔は、ケージ型でもよいし、チャンネル型でもよい。
多孔質構造体の細孔の開口径Rは、電解質を構成する物質の最大長さLと同等以上である。開口径Rが最大長さLと同等以上であると、細孔への電解質の出入りが円滑となり、電解質がより早く拡散する。このため、プロトンのやり取りが円滑になり、二次電池の性能をより高められる。「最大長さ」は、対象物質における最も長い距離である。
多孔質構造体の開口径Rは、下記測定方法Aにより測定される。
【0011】
≪測定方法A≫
原子分解能分析電子顕微鏡を用いて、加速電圧200KVで観察する。観察した画像の任意の点から直線の仮想線を1本引く。仮想線は、無作為の10個の開口部を通るようにする。仮想線上の10個の開口部の開口径を測定し、その平均値を開口径R1とする。
【0012】
原子分解能分析電子顕微鏡としては、JEM-ARM200F(日本電子株式会社製)を例示できる。
【0013】
開口径Rは、例えば、0.3nm以上が好ましく、0.5~1.0nmがより好ましく、1.0~3.0nmがさらに好ましい。開口径Rが上記下限値以上であると、細孔への電解質の出入りがより円滑となり、二次電池の性能をより高められる。開口径Rが上記上限値以下であると、細孔における電解質の保持力をより高められる。
開口径Rは、多孔質構造体の素材、多孔質構造体の出発原料及びその製造方法の組み合わせ等により調節される。
【0014】
多孔質構造体の体積に対する細孔の体積の割合(体積占有率)は、20体積%以上が好ましく、30体積%以上がより好ましく、40体積%以上がさらに好ましい。体積占有率が上記下限値以上であると、電解質の担持量を高めて、二次電池の性能のさらなる向上を図れる。体積占有率の上限値は、実質的に70体積%以下である。
体積占有率は、多孔質構造体の素材、多孔質構造体の出発原料及びその製造方法の組み合わせ等により調節される。
【0015】
多孔質構造体における細孔の体積の総和(全細孔容積)は、0.5~5.0cm/gが好ましく、1.0~5.0cm/gがより好ましく、1.1~5.0cm/gがさらに好ましい。全細孔容積が上記下限値以上であると、電解質の拡散性がより高まり、二次電池の性能のさらなる向上を図れる。全細孔容積が上記上限値以下であると、比表面積をより高められる。
全細孔容積は、多孔質構造体の素材、多孔質構造体の出発原料及びその製造方法の組み合わせ等により調節される。
【0016】
多孔質構造体のBET比表面積は、100~5000m/gが好ましく、200~5000m/g以上が好ましく、300~5000m/g以上がより好ましい。BET比表面積が上記下限値以上であると、二次電池の性能のさらなる向上を図れる。
BET比表面積は、例えば、BELSORP II(MICROTRAC社製)で測定される値である。
【0017】
多孔質構造体の細孔の直径Dは、開口径Rと同等以上である。直径Dが開口径Rと同等以上であると、電解質の担持量をより高めて、二次電池の性能のさらなる向上を図れる。
直径Dは、下記測定方法Bにより測定される。直径Dは、いわゆる平均細孔径である。
直径Dは、多孔質構造体の素材、多孔質構造体の出発原料及びその製造方法の組み合わせ等により調節される。
なお、細孔がケージ型である場合、開口径R≦直径Dとなる。細孔がチャンネル型である場合、開口径R=直径Dとなる。
【0018】
≪測定方法B≫
比表面積・細孔径分布測定装置を用いて細孔の直径を測定し、Barrett-Joyner-Halenda法で平均値を求めて、細孔の直径Dとする。
【0019】
比表面積・細孔径分布測定装置としては、BELSORP-max-12-N-VP-CM(マイクロトラック・ベル株式会社製)を例示できる。
【0020】
比表面積・細孔径分布測定装置による測定条件の一例を以下に示す。
・前処理条件:真空(0.1Pa以下)、200℃、5時間。
・測定圧範囲:3×10-8~0.995P/P0(相対圧)。
【0021】
直径Dは、0.35~5nmが好ましく、0.5~1nmがより好ましく、1~5nmがさらに好ましい。直径Dが上記下限値以上であると、細孔内での電解質の担持量がより高まり、二次電池の性能のさらなる向上を図れる。直径Dが上記上限値以下であると、細孔外への電解質の流出をより抑制できる。
直径Dは、多多孔質構造体の素材、多孔質構造体の出発原料及びその製造方法の組み合わせ等により調節される。
【0022】
多孔質構造体における空気(大気)中での熱分解温度は、250℃以上が好ましく、280℃以上がより好ましく、300℃以上がさらに好ましい。熱分解温度が上記下限値以上であると、電池の部材に用いた際に、電池の過熱を抑制して二次電池の性能をより安定させ、寿命をより長くできる。熱分解温度の上限値は、特に限定されないが、実質的に600℃以下である。
熱分解温度は、多孔質構造体の素材、多孔質構造体の出発原料及びその製造方法の組み合わせ等により調節される。
【0023】
熱分解温度の測定方法としては、例えば、熱重量分析法が挙げられる。熱重量分析法は、例えば、熱重量示差熱分析装置STA7200(株式会社日立ハイテクサイエンス製)を用い、空気流量100mL/分、昇温速度10℃/分、室温から1000℃まで加熱し、その重量減少が始まる温度から熱分解温度を求める。
【0024】
多孔質構造体の素材は特に限定されない。多孔質構造体の素材としては、例えば、金属有機構造体(Metal-Organic Framework;以下、「MOF」ということがある)、金属酸化物(シリカ系、アルミナ、チタニア、マグネシア又はこれらの複合系等)、セラミックス、共有結合性有機構造体(Covalent organic framework=COF)等を例示できる。中でも、多孔質構造体の素材としては、MOFが好ましい。MOFであれば、所望の開口径の細孔を容易に形成できる。
【0025】
MOFは、金属イオンと有機架橋配位子(2以上の配位性官能基を有する多座配位子)とが連続的に結合した構造体であり、内部に複数の空孔を有する多孔質体である。
MOFとしては、MOFの定義に従ったものであれば特に限定されない。MOFには、複数の金属、金属酸化物、金属クラスタ又は金属酸化物クラスタ構造単位を備えたMOFが知られているが、これらに限定されるものではない。
【0026】
MOFを構成する金属原子としては、亜鉛、コバルト、ニオブ、ジルコニウム、カドミウム、銅、ニッケル、クロム、バナジウム、チタン、モリブデン、マグネシウム、鉄、アルミニウム、ジルコニウム等が挙げられる。ただし、MOFを構成する金属原子はこれらに限定されるものではない。MOFを構成する金属原子は、1種単独でもよいし、2種以上の組み合わせでもよい。
MOFの金属原料としては、Zr4+、Zn2+、Cu2+、Ni2+、Co2+等の金属イオンを有する錯体や金属含有二次構造単位(SBU)が好適である。
【0027】
有機架橋配位子の配位性官能基は、金属原子に配位可能な官能基であればよく、カルボキシル基、イミダゾール基、水酸基、スルホン酸基、ピリジン基、三級アミン基、アミド基、チオアミド基等が挙げられる。これらの中でも、カルボキシ基が好ましい。有機架橋配位子が有する2以上の配位性官能基は互いに同じでもよいし、異なってもよい。
有機架橋配位子としては、典型的には、2以上の配位性官能基が、剛直構造を有する骨格(例えば芳香族環、不飽和結合等)に置換したものが用いられる。
有機架橋配位子の具体例を以下に挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。
1,3,5-トリス(4-カルボキシフェニル)ベンゼン(BTB)、1,4-ベンゼンジカルボン酸(BDC)、2,5-ジヒドロキシ-1,4-ベンゼンジカルボン酸(DOBDC)、シクロブチル-1,4-ベンゼンジカルボン酸(CB BDC)、2-アミノ-1,4-ベンゼンジカルボン酸(H2N BDC)、テトラヒドロピレン-2,7-ジカルボン酸(HPDC)、テルフェニルジカルボン酸(TPDC)、2,6-ナフタレンジカルボン酸(2,6-NDC)、ピレン-2,7-ジカルボン酸(PDC)、ビフェニルジカルボン酸(BPDC)、フェニール化合物を有する任意のジカルボン酸、3,3’,5,5’-ビフェニルテトラカルボン酸、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、ベンズイミダゾール、2-ニトロイミダゾール、シクロベンズイミダゾール、イミダゾール-2-カルボキシアルデヒド、4-シアノイミダゾール、6-メチルベンズイミダゾール、6-ブロモベンズイミダゾール等。
MOFを構成する有機架橋配位子は、1種単独でもよいし、2種以上の組み合わせでもよい。
【0028】
MOFの具体例を以下に挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。
ZnO(1,3,5-ベンゼントリベンゾエート)で表されるMOF-177;IRMOF-Iとしても知られる、ZnO(1,4-ベンゼンジカルボキシレート)で表されるMOF-5;Mg(2,5-ジヒドロキシ-1,4-ベンゼンジカルボキシレート)で表されるMOF-74(Mg);Zn(2,5-ジヒドロキシ-1,4-ベンゼンジカルボキシレート)で表されるMOF-74(Zn);Cu(3,3’,5,5’-ビフェニルテトラカルボキシレート)で表されるMOF-505;ZnO(シクロブチル-1,4-ベンゼンジカルボキシレート)で表されるIRMOF-6;ZnO(2-アミノ-1,4-ベンゼンジカルボキシレート)で表されるIRMOF-3;ZnO(テルフェニルジカルボキシレート)又はZnO(テトラヒドロピレン-2,7-ジカルボキシレート)で表されるIRMOF-11;ZnO(テトラヒドロピレン-2,7-ジカルボキシレート)で表されるIRMOF-8;Zn(2-メチルイミダゾレート)で表されるZIF-8;Zn(ベンズイミダゾレート)(2-ニトロイミダゾレート)で表されるZIF-68;Zn(シクロベンズイミダゾレート)(2-ニトロイミダゾレート)で表されるZIF-69;Zn(ベンズイミダゾレート)で表されるZIF-7;Co(ベンズイミダゾレート)で表されるZIF-9;Zn(ベンズイミダゾレート)で表されるZIF-11;Zn(イミダゾレート-2-カルボキシアルデヒド)で表されるZIF-90;Zn(4-シアノイミダゾレート)(2-ニトロイミダゾレート)でZIF-82;Zn(イミダゾレート)(2-ニトロイミダゾレート)で表されるZIF-70;Zn(6-メチルベンズイミダゾレート)(2-ニトロイミダゾレート)で表されるZIF-79;Zn(6-ブロモベンズイミダゾレート)(2-ニトロイミダゾレート)で表されるZIF-81;Zr(OH)(TBAPy)、Zr(OH)(bdc)(UiO-66)等。
【0029】
MOFとしては、亜鉛系のMOF(例えば、ZIF-8)、ジルコニア系のMOF(例えば、Zr(OH)(TBAPy)等が好ましい。ZIFは、金属として亜鉛又はコバルトを含み、有機架橋配位子としてイミダゾール系の有機架橋配位子(イミダゾール、ベンズイミダゾール、2-ニトロイミダゾール、2-メチルイミダゾール、シクロベンズイミダゾール、イミダゾール-2-カルボキシアルデヒド、4-シアノイミダゾール、6-メチルベンズイミダゾール、6-ブロモベンズイミダゾール等)を含む、ゼオライト様トポロジーを有する材料である。
【0030】
MOFは、典型的には、結晶構造を有する。MOFは規則構造を有するために結晶しやすく、単結晶又は多結晶として得られやすい。結晶は単結晶であってもよく多結晶であってもよい。
結晶構造の大きさは、中央値として、10nm~1000μmが好ましく、30nm~100μmがより好ましい。結晶構造の大きさの中央値が上記下限値以上であれば、比表面積がより優れ、上記上限値以下であれば、物質の拡散性や結晶の分散性がより優れる。
【0031】
MOFの結晶構造の大きさの中央値は、以下の方法により測定される。
走査型電子顕微鏡又は光学顕微鏡を用いて、試料の表面の画像を得る。このときの倍率は、画像中に存在する結晶(MOF)の数が100~200個になる倍率とする。得られた画像中に存在する全ての結晶の最大径を測定し、それらの中央値(最小値と最大値との平均値)を算出し、その値をMOFの結晶構造の大きさの中央値とする。
【0032】
MOFは、市販のものを用いてもよく、公知の製造方法により製造したものを用いてもよい。MOFの製造方法としては、例えば、国際公開第2019/039509号等に記載の方法が挙げられる。
MOFの出発原料(金属、有機配位子)の種類や組成、製造方法や製造条件によって、生成するMOFの結晶構造の大きさや含まれる金属酸化物の量に差が生じ、MOFの細孔分布、細孔径、開口径等に違いが生じる。
国際公開第2019/039509号に記載の方法を例に挙げて説明すると、この方法では、MOFを構成する金属原子を含む物質(A)(ただし、MOFを除く。)と、前記金属原子に配位して結晶体を生成可能な金属配位部を2つ以上有する有機物(B)と、刺激により反応又は相転移し、前記物質(A)の金属原子への前記有機物(B)の金属配位部の配位を促進可能となる配位促進剤(C)とを含む組成物に刺激を与えてMOFを生成させる。上記方法においては、配位促進剤(C)の種類と当量が、生成するMOFの細孔分布に影響する。例えば、配位促進剤(C)としての塩基の種類(例えば、アミン-ボラン錯体、ジシアンジアミド、ヒドラジド、イミン、オキサゾリジン、ピリジン、三級アミン、ケトプロフェンアミン塩、2級アミン、1級アミン、又はその混合物等)を変えると、開口径R、細孔径の異なるMOFが得られる。
【0033】
<電解質>
電解質複合体は、電解質を有することで、二次電池の電解質層、電極等として、その機能を発揮できる。
電解質は、その一部又は全部が多孔質構造体の細孔中に位置している。即ち、電解質の一部は、多孔質構造体の表面に付着していてもよい。
【0034】
電解質は、電子の受け渡しを行う金属イオン(「電解質金属イオン」ということがある)を含む金属塩(「電解質金属塩」ということがある)を含むことが好ましい。電解質金属塩を含むことで、二次電池の電極間で電子の受け渡しを行い、充電と放電とを行える。
【0035】
電解質金属イオンとしては、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン等が挙げられる。アルカリ金属としては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等が好ましい。アルカリ土類金属イオンとしては、マグネシウムイオン、カルシウムイオン等が好ましい。
中でも電解質金属イオンとしては、アルカリ金属イオンが好ましく、リチウムイオンがより好ましい。
【0036】
電解質金属塩としては、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムテトラフルオロボレート(LiBF)、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、過塩素酸リチウム(LiCIO)等が挙げられる。
【0037】
電解質中の電解質金属塩の含有量は、電解質の総質量に対して、1~90質量%が好ましく、5~85質量%がより好ましく、10~80質量%がさらに好ましい。電解質金属塩の含有量が上記下限値以上であると、二次電池の性能のさらなる向上を図れる。電解質金属塩の含有量が上記下限値以上であると、二次電池の性能のさらなる向上を図れる。
【0038】
電解質複合体中の電解質金属塩の含有量は、多孔質構造体100質量部に対して、1~400質量部が好ましく、2~50質量部がより好ましく、5~50質量部がさらに好ましい。電解質金属塩の含有量が上記下限値以上であると、イオン伝導率をより高めて、二次電池の性能のさらなる向上を図れる。電解質金属塩の含有量が上記上限値以下であると、イオン伝導率を高めつつ、流動性を低減し、固体電解質としての適性を高められる。
【0039】
電解質の溶媒としては、例えば、非水系の有機溶剤、イオン液体等が挙げられる。
有機溶剤としては、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ポリエチレンカーボネート(PC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)等が挙げられる。これらの有機溶剤は、1種単独でもよいし、2種以上の組み合わせでもよい。
イオン液体としては、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(EMI-TFSI)、テトラフルオロホウ酸1-エチル-3-メチルイミダゾリウム([C2mim][PF6])、ヘキサフルオロリン酸1--ブチル-3-メチルイミダゾリウム([C4mim][BF4])等が挙げられる。これらのイオン液体は、1種単独でもよいし、2種以上の組み合わせでもよい。
【0040】
電解質中の溶媒の含有量は、電解質の総質量に対して、10~90質量%が好ましく、20~90質量%がより好ましく、30~90質量%がさらに好ましい。溶媒の含有量が上記下限値以上であると、電解質の流動性を高めて、多孔質構造体の細孔への電解質の出入りをより円滑にし、二次電池の性能のさらなる向上を図れる。
【0041】
電解質は、陰イオンを含んでもよい。電解質に含まれる陰イオンとしては、電解質塩から生じた陰イオン等が挙げられる。
【0042】
電解質は、電解質金属イオン、溶媒以外に、充放電の安定性を向上し得る添加剤等(電解質任意成分)を含んでもよい。
電解質中の電解質任意成分の含有量は、電解質の総質量に対して、0.001~30質量%が好ましく、0.01~20質量%がより好ましく、0.1~15質量%がさらに好ましい。
【0043】
電解質の最大長さLは、分子構造で規定される値である。最大長さLは、電解質の構成成分(電解質金属イオン、溶媒、電解質任意成分等)の分子の最大長さの内、最も大きい値である。例えば、電解質が電解質金属イオンと溶媒とを含む場合、電解質金属イオンの最大長さと溶媒の最大長さとの内、長い方を電解質の最大長さLとする。
【0044】
以下に電解質の構成成分の寸法と最大長さとを例示する。
・LiTFSI
寸法:0.8nm×0.3nm。
最大長さ:0.8m。
・LiBF
寸法:0.45nm×0.45nm。
最大長さ:0.45nm。
・DMC
寸法:0.4nm×0.12nm。
最大長さ:0.4nm。
・EMI-TFSI
寸法:1.66nm×1.03nm。
最大長さ:1.66nm。
【0045】
電解質の調製方法は、従来公知の調製方法を採用できる。例えば、溶媒に電解質金属塩を加え、加熱しつつ撹拌する方法が挙げられる。撹拌時の温度は、例えば、0~200℃が好ましい。撹拌時は、減圧してもよい。
【0046】
電解質複合体の製造方法としては、多孔質構造体と電解質とを混合し、必要に応じて、減圧等により乾燥する方法が挙げられる。
【0047】
(二次電池用の電解質複合体組成物)
本発明の二次電池用の電解質複合体組成物(以下、単に「電解質複合体組成物」ということがある)は、上述の電解質複合体を含む。
【0048】
電解質複合体組成物は、電解質複合体のみを含んでもよいし、電解質複合体以外の成分(組成物任意成分)を含んでもよい。
【0049】
組成物任意成分は、電解質複合体組成物の用途に応じて適宜決定される。電解質複合体組成物が二次電池の電解質層形成用である場合、組成物任意成分としては、バインダ、分散媒、分散剤等が挙げられる。電解質複合体組成物が二次電池の電極形成用である場合、組成物任意成分としては、導電助剤、バインダ、添加剤等が挙げられる。
バインダとしては、例えば、ポリアクリロニトリル、セルロース系ポリマー、ポリフッ化ビニリデンが挙げられる。
分散媒としては、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ポリエチレンカーボネート(PC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)等が挙げられる。
導電助剤としては、例えば、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブが挙げられる。
添加剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロースが挙げられる。
これらの組成物任意成分は、1種単独でもよいし、2種以上の組み合わせでもよい。
【0050】
電解質複合体組成物が組成物任意成分を含む場合、電解質複合体組成物中の多孔質構造体の含有量は、電解質複合体組成物の総質量に対して、5~90質量%が好ましく、10~90質量%がより好ましく、30~90質量%がさらに好ましい。
【0051】
電解質複合体組成物の調製方法は、従来公知の調製方法を採用できる。例えば、分散媒に電解質複合体及び任意成分を添加し、撹拌する方法が挙げられる。
【0052】
電解質複合体組成物の使用方法は、例えば、基材に塗布し、これを乾燥して、膜状又は板状に成形する方法が挙げられる。あるいは、電解質複合体組成物を任意の形状の容器内でプレスして成形する方法が挙げられる。
【0053】
以上、本実施形態の電解質複合体によれば、多孔質構造体の細孔の開口径が特定の大きさであるため、細孔への電解質の出入りが円滑となる。このため、電解質複合体を用いた二次電池は、その電池性能をより高められる。
【実施例0054】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0055】
(実施例1)
<多孔質構造体1(Zr(μ3-OH)(OH)(TBAPy))の調製>
多孔質構造体1の調製は、文献(J.Am.Chem.Soc.2013,135,10294-10297)を参考に実施した。
【0056】
≪1,3,6,8-tetrakis(p-benzoic acid)pyrene(H4TBAPy)の調製≫
アルゴン雰囲気のグローブボックスの中に、4-(methoxycarbonyl)phenyl)boronic acid(1.040g)と、1,3,6,8-tetrabromopyrene(0.500g)と、tetrakis(triphenylphosphine)palladium(0)(0.030g)及びpotassium tribasic phosphate(1.100g)と、を脱水ジオキサン(dioxane)20mLに加え、130℃で72時間撹拌した。その後、反応混合物を減圧乾燥し、固形物を得た。得られた固形物を水で洗浄して、無機不純物を除去した。続いて、固形物に対して、クロロホルムで抽出、洗浄、乾燥を施し、0.58hの1,3,6,8-tetrakis(4-(methoxycarbonyl)phenyl)pyrene(TMPPy)を得た(収率80%)。
250mLの丸底フラスコに、TMPPy(0.58g)と、1.5gNaOHを溶媒(テトラヒドロフラン(THF):HO(体積基準)=1:1)に溶解したNaOH溶液100mLと、を投入した。フラスコ内の混合液を還流しつつ一晩反応させた後、真空乾燥によって溶媒を除去した。得られた回収物を水に溶解し、透明な黄色い溶液を得た。次いで、その透明な黄色い溶液に塩酸を加えて、pH1.0とし、黄色い沈殿物を得た。この黄色い沈殿物をろ過して採取し、洗浄、乾燥を施して、0.49gのH4TBAPyを得た。
【0057】
≪多孔質構造体1の調製≫
70mgのZrClと2700mgの安息香酸とをジメチルホルムアミド(DMF)で溶解して、DMF溶液8mLとした。DMF溶液8mLを80℃のオーブンで1時間加熱し、その後、DMF溶液を室温まで冷却した。冷却したDMF溶液に、40mgのH4TBAPyを添加し、20分間の超音波処理を施して、黄色い懸濁液を得た。この黄色い懸濁液を120℃で48時間加熱し、精製した黄色い結晶をろ過して採取した。採取した結晶に対して、洗浄、乾燥を施して、多孔質構造体1を得た。
得られた多孔質構造体1は、BET比表面積が2200m/g、全細孔容積が1.3cm/g、細孔の直径Dが2.65nm、細孔の開口径Rが2.65nmであった。また、多孔質構造体1はチャンネル型細孔であった。
【0058】
≪電解質複合体の調製≫
1.87gのLiTFSIを7.65gのEMI-TFSIに溶解した後、更に6gのプロピレンカーボネートを添加して、電解質1とした。0.5gの多孔質構造体1に0.5gの電解質1を加え、これを2000rpmで110分間混合し、次いで、真空条件下(0.1Pa)、150℃で24時間の加熱処理を施して、本例の電解質複合体を得た。本例の電解質複合体は、固いゲル状であった。
【0059】
<評価>
電解質複合体0.1gを直径1cmのステンレス筒に入れ、上下をステンレスのロードで挟み、360MPaで1分間のプレス処理を施して、偏平円柱状のペレットをサンプルとして得た。得られたペレットのインピーダンスを測定し、得られた抵抗値から、下記式(1)を用いてイオン伝導度を求めた。その結果を表1に示す。
【0060】
σ=t/(R×S)・・・(1)
ここで、σはイオン伝導度(S/cm)、tはサンプルの厚み(cm)、Rはインピーダンス測定から得られた抵抗値(Ω)、Sはサンプルの面積(cm)である。
【0061】
(実施例2)
<多孔質構造体2(ZIF-8)の調製>
反応容器内で、19.8gアンモニア水(濃度29質量%)と37.6gの水との混合液に、56.6gの2-メチルイミダゾールを溶解した。次いで、前記反応容器内に11.88gの硝酸亜鉛水溶液60gを投入し、15分間反応させた。生成した白色沈殿をろ過して採取し、これを洗浄し、100℃、5時間の真空乾燥を施し、多孔質構造体2を得た。
得られた多孔質構造体2の結晶構造を粉末X線回折法(SmartLab Multipurpose、リガク社製、CuKα-SF塩1.54A、スキャン速度:40°/min、ステップ:0.02°)で測定したところ、ZiF-8構造であることを確認した(図1)。なお、図1は、X軸に2θ(deg.)を取り、Y軸にX線強度(相対値)を取ったグラフである。
得られた多孔質構造体2は、BET比表面積が1907.5m/g、全細孔容積が0.6923cm/g、細孔の直径Dが1.45nm、細孔の開口径Rが0.53nmであった。また、多孔質構造体2はケージ型細孔であった。
【0062】
0.9gのLiBFを10.7gのジメチルカーボネート(DMC)に溶解して電解質2とした。0.3gの多孔質構造体2に0.6gの電解質2を加え、混合物を得た。得られた混合物を室温で5時間、減圧し(0.1Pa)、次いで150℃で減圧して(0.05Pa)、粉末である本例の電解質複合体を得た。
得られた電解質複合体について、実施例1と同様にしてイオン伝導度を求め、その結果を表1に示す。
【0063】
(比較例1)
多孔質構造体1に代えて多孔質構造体2を用いた以外は、実施例1と同様にして、本例の電解質複合体を得た。得られた電解質複合体について、実施例1と同様にしてイオン伝導度を求め、その結果を表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
表1に示すように、本発明を適用した実施例1~2は、イオン伝導度が3.0×10-4~5.4×10-3S/cmであった。
開口径Rが電解質の最大長さLよりも小さい比較例1は、イオン電導度が1.0×10-7S/cmであった。
これらの結果から、本発明を適用することで、二次電池の性能の向上を図れることが確認された。
図1