(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134295
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】核酸増幅方法、一本鎖核酸定量法、核酸定量キット及び核酸増幅装置
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6844 20180101AFI20240926BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240926BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20240926BHJP
【FI】
C12Q1/6844 Z
C12M1/00 A
C12N15/09 Z ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044523
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥村 周
(72)【発明者】
【氏名】石原 美津子
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB20
4B029FA10
4B029FA12
4B029FA15
4B063QA01
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4B063QS24
4B063QS28
4B063QS34
4B063QS36
4B063QS38
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】核酸変換連鎖増幅方法、一本鎖核酸定量法、核酸定量キット及び核酸増幅装置を提供する。
【解決手段】実施形態の核酸変換連鎖増幅方法は、試料中の一本鎖の標的核酸の配列を、置換配列に変換し増幅するための方法である。ニッカーゼ認識部位を3’側に接続した人工的な核酸配列を2種類以上連続して接続し、その3’側に標的核酸が接続している変換用テンプレートと、標的核酸とをハイブリダイズさせ、ポリメラーゼによる伸長と、ニッカーゼによる切断とにより、変換用テンプレート上のニッカーゼ認識部位とそれに続く当該人工的な核酸配列を連続的に複製する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の標的核酸の配列を増幅するために、
ニッカーゼ認識部位を3’側に接続した人工的な核酸配列の相補配列を2種類以上連続して接続し、さらにその3’側に直列に前記標的核酸の相補的配列が接続している変換用テンプレートと、当該標的核酸とをハイブリダイズさせることと、
ポリメラーゼによって、当該変換用テンプレート上の当該ニッカーゼ認識部位とそれに続く当該人工的な核酸配列を連続的に複製することと、
複製された配列中のニッカーゼ認識部位をニッカーゼで切断しニッカーゼ切断部位を生成させること、
当該ポリメラーゼによって、当該ニッカーゼ切断部位からの伸長によって、当該ニッカーゼ認識部位と続く人工的な核酸配列を遊離させながら、更なる当該ニッカーゼ認識部位と続く人工的な核酸配列を連続的に複製すること
当該遊離したニッカーゼ認識部位と続く人工的な核酸配列を、当該変換用テンプレートにハイブリダイズさせることと、
当該ポリメラーゼによって、当該変換用テンプレート上の当該ニッカーゼ認識部位とそれに続く当該人工的な核酸配列を連続的に複製することと
を備える核酸増幅方法。
【請求項2】
(a)試料に含まれる標的核酸上に標的配列xを設定することと、
(b)前記試料中に存在しない配列であり、且つ互いに異なる配列で示されるC種類の人工配列α~人工配列n(ここでCは2~10の整数であり、nはC番目のギリシャ文字である)を設計することと、
(c)変換用テンプレートを準備することと;
ここで、変換用テンプレートは、3’から5’の向きで、前記標的配列xの相補配列x’と、C種類の前記人工配列の相補配列α’~n’とを含み、更に、これらの当該相補配列x’、α’~n’間にそれぞれ介在しているC個のニッカーゼ認識部位を含む、
(d)反応場に、当該試料、前記変換用テンプレート、ニッカーゼ及びポリメラーゼを持ち込み、以下の(i)~(v)を含む反応を進行させることにより、所望の時間に亘り連続的に当該C種類の人工配列α~nを複製することと;
(i)当該標的配列xを前記変換用テンプレートに沿って伸長させ、第1の伸長鎖を得ること、
(ii)当該第1の伸長鎖に含まれる当該ニッカーゼ認識部位を当該ニッカーゼで切断すること、及び
(iii)切断された第1の伸長鎖に由来する当該標的配列を、当該ポリメラーゼの鎖置換反応によって、当該変換用テンプレートに沿って伸長させること;並びに
(iv)前記切断された第1の伸長鎖に由来する人工配列α~人工配列nをそれぞれ前記変換用テンプレートに沿って伸長させ、第2の伸長鎖~第nの伸長鎖を得ること、
(v)前記第2の伸長鎖~第nの伸長鎖にそれぞれ含まれる当該ニッカーゼ認識部位を当該ニッカーゼで切断すること、
(vi)切断された第2の伸長鎖~第nの伸長鎖にそれぞれ由来する人工配列α~人工配列nを当該ポリメラーゼの鎖置換反応によって、当該変換用テンプレートに沿って伸長させること、
(e)当該変換用テンプレートによって変換された当該標的核酸についての情報を得ることと、
(d)得られた情報に基づいて、当該試料中の当該標的核酸量を算出することと、
を備える、一本鎖核酸定量法。
【請求項3】
前記標的核酸の長さが、5塩基~30塩基である短鎖核酸である請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記標的核酸が、RNA又はDNAである請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記標的核酸が、miRNA、siRNA又はoligoDNAである請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項6】
当該反応温度が、30~60℃の間の等温である請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項7】
試料中の標的核酸を増幅又は定量を行うための核酸反応キットであって、
変換用テンプレート、ニッカーゼ試薬及び鎖置換ポリメラーゼ試薬を含み、
前記標的核酸が標的配列xを有するとき、
前記変換用テンプレートは、3’から5’の向きで、前記標的配列xの相補配列x’と、C種類の人工配列の相補配列α’~n’とを含み、更に、これらの当該相補配列x’、α’~n’の配列間にあるC個のニッカーゼ認識部位を含み、
ここで、人工配列α~n(ここでCは2~10の整数であり、nはC-1の整数である)は、前記試料中に存在しない配列であり、且つ互いに異なる配列で示される、
核酸反応キット。
【請求項8】
検出対象としての試料と、請求項7に記載の核酸反応キットとを持ち込むための入力部と、
前記入力部から持ち込まれた試料及び当該核酸反応キットを受け取り、請求項1又は2に記載の核酸変換連鎖増幅に従って前記人工配列α~nを複製することにより、前記試料中の標的配列の情報を変換増幅する核酸増幅ユニットと、
前記核酸増幅ユニットにおいて増幅された人工的な核酸配列nを有する核酸断片の核酸量を定量する核酸測定ユニットと
を備える核酸定量検出装置。
【請求項9】
前記核酸増幅ユニットが、そこにおいて核酸反応を行うように構成された反応部と、前記反応部の温度を制御する温度管理部とを備え、前記核酸測定ユニットが、核酸からの信号を検知する測定部と得られた信号に基づいて核酸量を決定する計算部とを備える、請求項8に記載の核酸定量検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、核酸増幅方法、一本鎖核酸定量法、核酸定量キット及び核酸増幅装置に関する。
【背景技術】
【0002】
癌をはじめとする疾患の早期発見において、体液中のバイオマーカーを検出するリキッドバイオプシーは、侵襲性の低さ、判定の速さから注目されている。
【0003】
例えば、miRNAやctDNAなどの腫瘍に由来する短い核酸は、早期診断のほか、分子標的薬の選択や、病態モニタリングなど、幅広い用途へのバイオマーカーとしての適用が期待されている。一般的に、このようなmiRNAやctDNAは、検体中の含有量が少なく、その検出には増幅が必要とされる。
【0004】
一方、核酸の増幅は、ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR法)などの温度変化サイクルを利用する方法や、LAMP法、RPA法、SDA法、HDA法及びEXPR法などの等温核酸増幅方法を利用する方法などが利用されている。短い核酸は、これらの増幅法に必要とされるプライマーセットの全ての要素を十分に設計することが難しい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、核酸増幅方法、一本鎖核酸定量法、核酸定量キット及び核酸増幅装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の核酸増幅方法は、試料中の一本鎖の標的核酸の配列を、置換配列に変換し増幅するための方法である。
当該方法は、
ニッカーゼ認識部位を3’側に接続した人工的な核酸配列の相補配列を2種類以上連続して接続し、さらにその3’側に直列に前記標的核酸の相補的配列が接続している変換用テンプレートと、当該標的核酸とをハイブリダイズさせることと、
ポリメラーゼによって、当該変換用テンプレート上の当該ニッカーゼ認識部位とそれに続く当該人工的な核酸配列を連続的に複製することと、
複製された配列中のニッカーゼ認識部位をニッカーゼで切断してニッカーゼ切断部位を生成させること、
当該ポリメラーゼによるニッカーゼ切断部位からの伸長によって、当該ニッカーゼ認識部位と続く人工的な核酸配列を遊離させながら、更なる当該ニッカーゼ認識部位と続く人工的な核酸配列を連続的に複製すること
当該遊離したニッカーゼ認識部位と続く人工的な核酸配列を、当該変換用テンプレートにハイブリダイズさせることと、
当該ポリメラーゼによって、当該変換用テンプレート上の当該ニッカーゼ認識部位とそれに続く当該人工的な核酸配列を連続的に複製することと
を備える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1の実施形態の核酸変換連鎖増幅方法の一例を示すスキームである。
【
図2】第1の実施形態の核酸変換連鎖増幅方法の一例を示す模式図である。
【
図3A】第2の実施形態の一例を示すワークフローである。
【
図3B】第2の実施形態の一例を示すワークフローである。
【
図4】第2及び第3の実施形態の一例を示す模式図である。
【
図6】例1のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図11】第4の実施形態の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、図面を参照しながら、種々の実施形態について説明する。なお、実施形態を通して共通の構成には同一の符号を付すものとし、重複する説明は省略する。また、各図は実施形態とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術を参酌して適宜、設計変更することができる。
【0009】
(第1の実施形態)
第1の実施形態の核酸増幅方法は、詳しくは、核酸変換連鎖増幅方法とも称する。第1の実施形態の1例について
図1用いて説明する。
図1に示すように、第1の実施形態に従う当該方法は、以下のような4つの工程を備える。即ち、ニッカーゼ認識部位を3’側に接続した人工的な核酸配列を2種類以上連続して接続し、さらにその3’側に直列に前記標的核酸の相補的配列が接続している変換用テンプレートと、標的核酸とをハイブリダイズすること(S11)、ポリメラーゼによって、変換用テンプレート上の当該ニッカーゼ認識部位とそれに接続する人工的な核酸配列を連続的に複製すること(S12)、複製された配列を、ニッカーゼ認識部位でニッカーゼにより切断すること(S13)及びポリメラーゼの鎖置換反応によって、所望の時間に亘り、人工的な核酸配列が複製されること(S14)。
【0010】
詳しくは、当該方法は、
図2に示すように、
ニッカーゼ認識部位を3’側に接続した人工的な核酸配列の相補配列を2種類以上連続して接続し、さらにその3’側に直列に前記標的核酸の相補的配列が接続している変換用テンプレートと、当該標的核酸とをハイブリダイズさせることと(a)及び(b)、
ポリメラーゼによって、当該変換用テンプレート上の当該ニッカーゼ認識部位とそれに続く当該人工的な核酸配列を連続的に複製することと(b)、
複製された配列中のニッカーゼ認識部位をニッカーゼで切断すること(c)、
当該ポリメラーゼの鎖置換反応による、ニッカーゼ切断部位からの伸長によって(d)、当該ニッカーゼ認識部位と続く人工的な核酸配列を遊離させながら(f)、更なる当該ニッカーゼ認識部位と続く人工的な核酸配列を連続的(c~e、f)に複製することと(e)、
当該遊離したニッカーゼ認識部位と続く人工的な核酸配列を、当該変換用テンプレートにハイブリダイズさせることと(g)、
当該ポリメラーゼによって、当該変換用テンプレート上の当該ニッカーゼ認識部位とそれに続く当該人工的な核酸配列を連続的に複製することと(h~j、k)
を含む。
【0011】
このような方法は、更に
図2を参照しながら言い換えれば、
ニッカーゼ認識部位を3’側に接続した人工的な核酸配列の相補配列を2種類以上連続して接続し、さらにその3’側に直列に前記標的核酸の相補配列が接続している当該置換配列を有する変換用テンプレート2(2a、2b)と、当該標的核酸1とをハイブリダイズさせることと(b)、
前記ハイブリダイズした標的核酸をポリメラーゼ3によって伸長させ(b)、当該ニッカーゼ認識部位とそれに続く前記人工的な核酸配列を連続して複製させることと(c~e、f)、
前記複製された配列に含まれる当該ニッカーゼ認識部位を対応するニッカーゼ5で切断することと(c)、
前記切断されたニッカーゼ切断部位に当該ポリメラーゼ3を結合させ、鎖置換反応によって、当該ニッカーゼ認識部位とそれに続く当該人工的な核酸配列を複製する(d)のと同時に、当該ニッカーゼ認識部位とそれに続く当該人工的な核酸配列111a、112aを当該変換用テンプレートから遊離させることと(f)、
当該遊離された人工的な核酸配列111aと当該変換用テンプレート2bとをハイブリダイズさせることと(g)、
前記ハイブリダイズした当該人工的な核酸配列111aをポリメラーゼ3によって伸長させ(h)、当該ニッカーゼ認識部位とそれに接続する前記人工的な核酸配列を連続して複製させることと(h~j、k)、
を備える。
【0012】
このような核酸増幅方法、即ち、核酸変換連鎖増幅方法について、
図2を参照しながら説明する。このような方法は、試料中の一本鎖の標的核酸x1の配列を、異なる核酸配列に変換し増幅するための方法である。ここで、変換されるべき異なる核酸配列とは、変換連鎖増幅テンプレート2に相補配列として含まれる人工的な核酸配列α及びβである。「変換連鎖増幅テンプレート」は、「変換用テンプレート」及び「CCAテンプレート(Conversion Chain Amplification template)」とも称し、これらの名称は交換可能に使用される。変換連鎖増幅テンプレート2は、ニッカーゼ認識部位を3’側に接続した人工的な核酸配列を2種類以上連続して接続し、さらにその3’側に直列に標的核酸xの相補的配列x’が接続している。言い換えれば、変換連鎖増幅テンプレートは、3’端から5’側に向けて、標的核酸xの相補的配列x’、ニッカーゼ認識部位、第1の人工的な配列の相補配列α’、ニッカーゼ認識部位、第2の人工的な配列の相補配列β’を有する(a)。この変換連鎖増幅テンプレート2aに対して、標的核酸x1がハイブリダイズすると、ポリメラーゼ3によって伸長4aが始まる(b)。その結果得られた伸長鎖101aは、続いて、ニッカーゼ認識部位、この場合、2か所の認識部位がニッカーゼ5によって切断される(c)。切断によって露出した標的核酸x1の3’末端にポリメラーゼ3が結合し(d)、当該ポリメラーゼの鎖置換反応4bが生じる。標的核酸x1が変換連鎖増幅テンプレート2aに沿って伸長4bされ、伸長鎖101bが生じる(d)。同時に、鎖置換反応によって(d)、第1の人工的な配列断片α111aと第2の人工的な配列断片β112aがテンプレート2aから遊離される(f)。生じた伸長鎖101b(e)は、ニッカーゼ5により切断される(c)。(c)~(e)及び(f)は反応場における反応が続く限り繰り返す。一方、遊離された第1の人工的な配列断片α111aは、別途テンプレート2bにハイブリダイズし、ポリメラーゼ3によって伸長4aされる(g)。得られた伸長鎖102aの認識部位は、ニッカーゼ5によって切断される(h)。切断により3’末端が切り出された人工的な配列αの3’末端にポリメラーゼ3が結合し、鎖置換反応によって伸長4bされ、伸長鎖102bが形成される(i)。この鎖置換反応は、伸長4bと同時に第2の人工的な配列β断片112bを遊離する(k)。伸長4bにより得られた伸長鎖102bは(j)、ニッカーゼ5によって切断される(h)。ポリメラーゼによる伸長とニッカーゼによる切断(h~j及びk)は、反応を停止するまで、或いは酵素又は基質などによる至適条件が失われるまで繰り返す。このような変換連鎖増幅法(Conversion Chain Amplification、CCA)は、大きな温度変化やサーマルサイクラーを必要としない、等温増幅反応を含む等温増幅方法である。反応温度の例は、30℃~60℃の間の等温である。
【0013】
第1の実施形態の核酸変換連鎖増幅方法によれば、標的核酸に関する情報を、べき乗的に増幅することが可能である。その結果、pM単位で少量で試料に存在する標的核酸に関する情報が、例えば、より容易に測定可能な大きさの情報に変換することが可能である。また、標的核酸の長さが、一般的な増幅反応に必要なプライマー結合部位を設計するには短すぎるような場合であっても、その情報をテンプレート上に変換することによって増幅することが可能である。
【0014】
(第2の実施形態)
第1の実施形態の核酸変換連鎖増幅方法を利用して、標的核酸を検出又は定量することが可能である。第2の実施形態として、そのような標的核酸の定量方法の1例である一本鎖核酸定量法を
図3A及び
図3Bを参照しながら説明する。
【0015】
まず、一本鎖核酸定量法において定量されるべき1本鎖の標的核酸を決定する。その標的核酸上の標的配列xを設定する(S21)。標的配列xの長さは、変換用テンプレートへのハイブリダイズが可能な長さであればよく、標的核酸の全長であっても、標的核酸の一部分であってもよい。標的配列xの長さは、例えば、約5塩基長~約100塩基長、或いは例えば、約15塩基長~約25塩基長の範囲であってもよい。また、標的核酸は、RNA、例えば、miRNA及び/又はsiRNAであっても、DNA、例えば、oligoDNAなどであってもよいが、これに限定されるものではない。実施形態によれば、標的核酸の種類に関係なく、変換用テンプレートとのハイブリダイズから始まる反応に持ち込むことが可能である。即ち、例えば、標的核酸がRNAであっても逆転写することなく当該反応に供される。その点においても、実施形態は、簡便且つ有用性に優れる。
【0016】
続いて、試料中に存在しない配列であり、且つ互いに異なる配列で示されるC種類の人工配列α~n(ここでCは、2以上の整数、例えば、2~10の整数であり、nはC番目のギリシャ文字である)を設計する(S22)。この人工配列α~nは、変換用テンプレートに使用するための人工配列である。ここにおいて「人工配列」又は「人工的な配列」とは、少なくとも試験の対象となる試料中に存在しない配列であればよい。従って、天然に存在しない全くの人工的な配列を設計してもよく、或いは天然に存在する配列のうち、試料中に存在しない配列を選択してもよい。また例えば、C=2の場合には、
図2(b)に示すように2種類の人工配列、即ち、人工配列α、人工配列βが設計される。ここにおいて同じアルファベット又はギリシャ文字に対して付与される「’」は、互いの配列が相補的であることを示す。従って、配列xと配列x’は互いに相補的であり、配列αと配列α’も互いに相補的関係にあると理解されればよい。最小単位としての人工配列の長さは、例えば、50塩基長未満、或いは例えば、約25塩基長未満、或いは例えば、約12塩基長未満範囲であってよく、1つの変換用テンプレートに含まれる複数種類の人工配列の長さは、全て同塩基長であっても、異なる長さであってもよい。1つの変換用テンプレートに含まれる「複数種類の」又は「複数部位に存在する」人工配列の塩基配列を総称して、「複数ユニット」とも解され得る。
【0017】
続くS23では、変換用テンプレートを準備する。変換用テンプレートは、3’から5’の向きで、前記標的配列xの相補配列x’と、C種類の前記人工配列の相補配列α’~n’とを含み、更に、これらの当該相補配列x’、α’~n’間にそれぞれ介在しているC個のニッカーゼ認識部位を含む。例えば、C=2の場合の例は、
図2(b)に示し、上述した通りである。C=4の例は、後述する
図5に示すとおりであり、3’端に標的配列xの相補配列x’、そこから5’側に向けて、ニッカーゼ認識部位、人工配列αの相補配列α’、ニッカーゼ認識部位、人工配列βの相補配列β’、ニッカーゼ認識部位、人工配列γの相補配列γ’、ニッカーゼ認識部位、人工配列δの相補配列δ’が連結している。従って、変換用テンプレートの5’端の配列は、人工配列δの相補配列δ’である。これを5’→3’の方向で示すと、人工配列δの相補配列δ’、ニッカーゼ認識部位、人工配列γの相補配列γ’ニッカーゼ認識部位、人工配列βの相補配列β’ニッカーゼ認識部位、人工配列αの相補配列α’、ニッカーゼ認識部位、標的配列xの相補配列x’となる。ここで、「ニッカーゼ認識部位」とは、変換用テンプレートとその相補鎖である伸長鎖との二本鎖が形成されたときに、ニッカーゼにより認識される部位であり、その部分の配列を指す。実施形態においては、ニッカーゼにより認識される認識部位の二本鎖のうち、常に伸長鎖側のニッカーゼ認識部位が切断される。例えば、そのような切断部分は、5’端から2つ目の塩基と3つ目の塩基の間であり得るが、これに限定するものではない。変換用テンプレートと伸長鎖とに含まれるニッカーゼ認識部位に係る配列は互いに相補配列であるが、上記の事情から「ニッカーゼ認識部位」又は「ニッカーゼ認識配列」の「相補配列」とは記載しない。
【0018】
設計される変換用テンプレートは、例えばDNAなどであるが、RNAもしくは、LNAなどの人工核酸を一部含んでいてもよい。使用される反応温度が50℃前後であれば、DNA配列の長さが10~20塩基であることが望ましい。また、化学反応の干渉やリークを防ぐため、試料内に含まれる配列を避けるような配列を設定することが望ましい。また、増幅工程において、自身で二次構造体を形成したり、テンプレート同士がハイブリダイズしたりして、テンプレートの3’末端から伸長が起きることにより、非特異的に増幅が始まることがある。したがって、テンプレートの3’はポリメラーゼによる伸長を防ぐために修飾されていることが望ましい。リン酸化、蛍光色素、クエンチャ―、ビオチン、チオールなどが考えられるが、伸長が起きない効果を得られるならば、これらの形態に限定されない。変換用テンプレートに含ませる複数個所に配置されるニッカーゼ認識部位は、何れも同じ配列であればよい。
【0019】
S24において、反応場に、試料、変換用テンプレート、ニッカーゼ及びポリメラーゼを持ち込み、至適反応温度に維持し、後述する(i)~(vi)を含む反応を進行させることにより、所望の時間に亘り連続的にC種類の人工配列α~nを複製する。ここでCは2以上の整数、例えば、2~9の整数であり、nはC番目のギリシャ文字である。
【0020】
反応に使用されるマスターミックスの条件は次の通りである。dNTPの濃度域は、低濃度すぎると十分なDNA増幅が得られず、逆に高濃度すぎても、非特異的な増幅が起きやすくなる。望ましい濃度域は10μM以上500μM以下、より望ましくは100μMである。テンプレート濃度域も同様の傾向があり、望ましい濃度域は1~50nM、より望ましい濃度10nMである。
【0021】
ポリメラーゼは鎖置換性もつポリメラーゼであってもよい。また、エキソヌクレアーゼ活性を欠かせたポリメラーゼであってもよい。例として、Vent(exo-)ポリメラーゼ、Klenowフラグメント、Bstポリメラーゼ、Bcaポリメラーゼなどが挙げられる。
【0022】
ニッキング酵素は二本鎖DNAの一本鎖DNAだけを切断するものから選択できる。例えば、NB.BsmI、Nt.BstNBI、Nb.BbvCI、Nb.BsrDI、NB.BssSI、NB.BtsI、Nt.AlwI、Nt.BsmAI、Nt.BbvCI、Nt.BspQIを利用することができる。
【0023】
S24にて進行する反応について、
図3B並びに
図4を参照しながら説明する。反応場に試料及び変換用テンプレートを入力する(
図4(a))。試料中に標的核酸x1が存在するとき、反応場を至適反応条件とすることにより、次のような反応が進行する。至適反応条件は、予め定めた反応に相応しいマスターミックス、ポリメラーゼ、ニッカーゼ、pH、温度などに反応場をセットすることで達成されてよい。
【0024】
S31において、(i)標的配列x1を変換用テンプレートに沿って伸長させ、第1の伸長鎖4aを得る(
図4(b))。(ii)第1の伸長鎖4aに含まれるニッカーゼ認識部位をニッカーゼ5で切断する(S32、
図4(c))。(iii)切断された第1の伸長鎖4aに由来する標的配列を、変換用テンプレートに沿って再伸長させる(S33、(d))。ここで、S33及び
図4(d)における、ポリメラーゼによる再伸長4bと同時に、切断されたニッカーゼ認識部位を有する第1の人工配列α111a~第Cの人工配列n112aがそれぞれ核酸断片として遊離する(f)。(iv)切断された第1の伸長鎖111aに由来する人工配列α~人工配列n-1をそれぞれ変換用テンプレートに沿って伸長させ(g)、第2の伸長鎖~第C-1の伸長鎖102a~102anを得る(S34、(h))、(v)第2の伸長鎖~第C-1の伸長鎖にそれぞれ含まれるニッカーゼ認識部位をニッカーゼで切断する(S35、(h))。(vi)切断された第2の伸長鎖~第c-1の伸長鎖にそれぞれ由来する人工配列α~人工配列n-1を当該ポリメラーゼの鎖置換反応によって、当該変換用テンプレートに沿って再伸長させること(S36(i))。ここで、S36及び
図4(i)における、ポリメラーゼによる再伸長と同時に、切断されたニッカーゼ認識部位を有する第Cの人工配列n112bが核酸断片として遊離する(k)。
【0025】
このような反応によって出力されるのは、
図4(f)において遊離された、人工配列α断片~人工配列n断片、並びに同(k)の人工配列n断片である。このうちの人工配列α断片~人工配列n-1断片は、変換用テンプレートにハイブリダイズして伸長反応に利用される。従って、最終的には、標的核酸xとして入力された情報は、人工配列n断片に変換され、且つその情報量は連鎖する増幅反応によって増幅される。この増幅に関しては、
図5を用いて後述する。
【0026】
以上のような
図3Bに示した反応の後、操作プロセスは、
図3AのS25へと進む。S25では、変換用テンプレートにより変換された標的核酸についての情報を得る。即ち、ここでは、例えば、出力された人工配列n断片の核酸量を測定すればよい。この測定は、人工配列nを特異的に定量する何れの方法を使用することも可能である。例えば、標識された人工配列nの相補配列n’をハイブリダイズさせることにより検出してもよい。或いは、人工配列n断片を特異的に捕捉し、定量してもよい。或いは、必要に応じて、反応場において増幅/複製された人工配列α~人工配列n、及び/又は人工配列α断片~人工配列n断片に関して、一括又は個別に核酸量を検出してもよい。
【0027】
S25において核酸量を検出した後に、S26に進み、得られた情報に基づいて、当該試料中の当該標的核酸量を得る(S26)。例えば、予め定めた演算式、対応づけを示したテーブル及び/又は検量線などを使用して、S25において得られた核酸量、即ち、測定値から標的核酸量を得る、例えば、算出して、操作手続きを終了する。
【0028】
ところで、一本鎖核酸定量法の操作手続きとしては、実行毎に、S21の設定から手続きが開始されてもよく、或いは、S21~S23の手続きは予め行っておき、実際に実行する際には、S24の反応場に試料及び変換用テンプレートを入力(
図4(a))から手続きを開始してもよい。
【0029】
図5を参照しながら、変換連鎖増幅法(Conversion Chain Amplification)における変換効率について説明する。CCAテンプレートの例を
図5に示した。これは上述した通り、4種類の人工配列α~δを用いる例である。即ち、C=4であり、n=δの例である。3’末端には、標的核酸の相補配列x’が配置され、各配列の間にはニッカーゼ認識部位が配置されている。このようなCCAテンプレートに含まれるニッカーゼ認識部位はC個、即ち、4個である。
【0030】
(第3の実施形態)
第3の実施形態は、
図5に示すようなCCAテンプレートである。上述した通り、CCAテンプレートは、「変換連鎖増幅テンプレート」は、「変換用テンプレート」とも称される。詳しい構成は、上述した通りである。このようなCCAテンプレートを使用する実施形態に従う反応における増幅効率について、以下、
図5を用いて説明する。
【0031】
反応場に存在する増幅産物濃度[P]と、基質濃度[S]の関係は、ミカエリス=メンテンの式によって表される。ここで、基質とは、標的核酸x又は各人工配列α~δである。V
maxは基質濃度が無限大のときの反応速度である。K
mは、ミカエリス・メンテン定数であり、v=V
max/2(最大速度の半分の速度)を与える基質濃度を表す。反応時間全体において基質濃度が低いとし、[S]<<K
mであり、反応速度vは濃度に比例させた。これらの式から、C=1、即ち、1種類の人工配列の場合には、[α]=[X]k
xtとなり、標的核酸の濃度がそのままの量で情報変換されることが分かる。C=2の場合には、[β]=[X]k
1t
2ととなり、C=3の場合には、[γ]=[X]k
2t
3となり、C=4の場合には、[γ]=[X]k
3t
4となり、C=nの場合には、[n]=[X]k
n-1t
nとなる。従って、標的核酸の濃度は、使用する人工配列の種類数のべき乗で増幅される。実施形態に従う、核酸変換連鎖増幅方法及び一本鎖核酸定量法においては、増幅反応は、所望の反応時間の間維持され、即ち、所望の時間に亘り連続的に複製が繰り返される。所定の時間が経過した時点で、最下流となるC番目の人工配列n、C=4のこの場合には、人工配列δに関して、即ち、出力された人工配列δ断片の濃度を測定する。即ち、エンドポイントで人工配列n断片を定量することで、増幅又は試験対象とした試料中に存在する標的核酸の濃度を、使用する人工配列の種類数のべき乗という増幅効率で観察することが可能となる。この増幅効率について以下に
図6に示すグラフを用いて、以下、例1として説明する。
【0032】
(例1)
例1として、初期濃度に対する増幅率のシミュレーション結果を
図6に示す。
図6(a)のグラフは、縦軸にDNAコピー数、横軸に増幅回数(=増幅時間)としたときの増幅産物の濃度をプロットした。人工配列の種類数が増えることで増幅効率が著しく増大することが分かる。
図6(b)には、増幅時間100をエンドポイントとしたときの、DNAコピー数を縦軸に、人工配列の種類数を横軸にプロットした。これらのグラフから、人工配列の種類数が増えることで増幅効率が著しく増大することが分かる。
図6(b)には、増幅時間100をエンドポイントとしたときの、DNAコピー数を縦軸に、人工配列の種類数を横軸にプロットした。これらの結果から任意の時間で精度よく標的核酸を定量する方法の優れた増幅効率が理解される。特に、任意の時間における人工配列α~δの濃度が、初期濃度xと比例関係にあることも注目されたい。演算等の設定において簡便性を提供できる。指数関数増幅と違い、定量にリアルタイム観察を必要とせず、エンドポイントで定量することが可能であり、また、線形増幅よりも増幅率が良好である。
【0033】
(例2)
3種類の人工配列α、β、γを使用する場合の核酸増幅について実際に実験を行った結果を
図7に示す。
図7(a)に標的核酸と、CCAテンプレートの構成を示す。標的核酸としての入力DNAαを段階的な濃度(0、142pM、282pM、423pM)で用意した。これらの試料について増幅反応を行った。
【0034】
最終濃度が100mM NaCl、50mM Tris-HCl、10mM MgCl2、100μg/ml BSA、かつ、25℃でpH7.9のNEBuffer3.1r(New England Biolabs)を緩衝液として用いた。ポリメラーゼとして、Vent(exo-)polymerase(New England Biolabs)を使用し、最終濃度は原液の1%の濃度となるようにした。ニッキング酵素として、NB.BsmI(New England Biolabs)を使用し、最終濃度は原液の4%の濃度となるようにした。dNTPが100μM、CCAテンプレートa(表1を参照されたい)が10nM、蛍光レポーター(表1を参照されたい)が100nMの最終濃度となるように調製した。
【0035】
【0036】
反応体積10μl、反応温度48.5℃として、リアルタイムPCR装置Step one plus(Applied Biosystems)で出力DNAδ濃度の経時変化を蛍光測定した。結果を
図7に示す。その結果、例1のシミュレーションと同様の良好な結果を得られた。
図7(a)は、縦軸に蛍光強度、横軸にサイクル数、ここでは48.5℃で等温反応を行ったので、言い換えると、横軸は1サイクルを30秒とした反応時間である。標的核酸αの濃度が0の場合には、何れの時間においても蛍光強度の増加は見られず、従って、増幅産物は生じないことが明らかとなった。一方、標的核酸αの各濃度142pM、282pM、423pMの試料についての蛍光強度は、増幅回数が増えるに従って初期濃度に比例したべき乗の増幅関数で増加した。
図7(c)には、縦軸に蛍光強度、横軸に標的核酸αの濃度として50、100、150及び200サイクルの各反応サイクル時の結果をプロットした。何れの結果も理論値に近い結果であった。標的DNAαの存在に特異的な増幅産物の定量が可能であることが明らかとなった。
【0037】
従来では、短い核酸を定量的に増幅することは困難であったが、実施形態によれば、短い核酸についても定量することが可能となった。また、実施形態に従えば、単一時間測定で、短い核酸を定量可能な等温増幅法が提供されることが明らかとなった。簡便な設計により、2~3個以上直列化させて配置した人工配列について同時に増幅を進行させることで、変換反応を標的配列xから、人工配列α、人工配列β、人工配列γ、人工配列δと順に進めることが可能である。これにより、最終産物である人工配列δを出力することで簡便に短い核酸についても増幅及び/または定量することが可能となる。また、変換反応を連鎖させていくことにより、べき乗の関数で核酸を増幅することが可能となる。これにより、繰り返し配列や短鎖核酸を、低濃度の場合であっても容易にエンドポイント定量することができるようになる。また、エンドポイント定量であるので、高額な機器を導入することなく、簡便に定量することが可能である。電気消費やランニングコストも抑えることが可能である。従来のPCRの場合、例えば、繰り返し配列を検出する場合などには、標的核酸を増幅しづらく、コンタミネーションのリスクもあるが、そのようなリスクも回避することが可能である。設計されるべき配列は、CCAテンプレートであるので、従来のプライマー設定と比べて設計が簡単である。実施形態によれば、安価、低エネルギーコストで標的核酸を定量する方法が提供された。
【0038】
(例3)
続いて、異なる温度条件について検討した。標的DNAα(濃度はそれぞれ0、100pM)の存在下で、異なる温度条件で増幅反応を行った。
【0039】
最終濃度が100mM NaCl、50mM Tris-HCl、10mM MgCl2、100μg/ml BSA、かつ25℃でpH7.9のNEBuffer3.1r(New England Biolabs)を緩衝液として用いた。ポリメラーゼとして、Vent(exo-)polymerase(New England Biolabs)を使用し、最終濃度は原液の1%の濃度となるようにした。また、ニッキング酵素として、NB.BsmI(New England Biolabs)を使用し、最終濃度は原液の4%の濃度となるようにした。また、dNTPが100μM、CCAテンプレートaが10nM、蛍光レポーターが100nMの最終濃度となるように調製した。
【0040】
反応体積10μl、反応温度48.5℃,50℃,52.5℃,55℃として、リアルタイムPCR装置Step one plusで出力DNAδ濃度の経時変化を蛍光測定した。
【0041】
結果を
図8に示した。
図8(a)、(b)、(c)及び(d)は、反応温度48.5℃、52.5℃、50℃、55℃の場合にそれぞれ得られた結果について、縦軸に蛍光強度、横軸に反応サイクル数(反応時間)としてプロットした。標的DNAαの濃度が0の場合には蛍光強度の増加はみられなかった。標的DNAαの濃度が100pMの場合には、反応温度48.5℃、50℃、52.5℃、55℃の順番で測定される蛍光強度が小さい結果となった。これらの結果から、以上の条件において、標的DNAαの存在に特異的な増幅反応に温度依存性があることが明らかになった。使用した核酸配列条件では、48.5℃、50℃、52.5℃、55℃の順に蛍光強度が小さくなった。核酸配列に応じた至適温度を設定することが望ましい。
【0042】
(例4)
検出限界について検討するために、標的DNAαの濃度を変えて増幅反応を行った。最終濃度はそれぞれ次の通りである;0,1pM、10pM、100pM)。温度条件は48.5℃とした。
【0043】
最終濃度が100mM NaCl、50mM Tris-HCl、10mM MgCl2、100μg/ml BSA、かつ25℃でpH7.9のNEBuffer3.1r(New England Biolabs)を緩衝液として用いた。ポリメラーゼとして、Vent(exo-)polymerase(New England Biolabs)を使用し、最終濃度は原液の1%の濃度となるようにした。また、ニッキング酵素として、NB.BsmI(New England Biolabs)を使用し、最終濃度は原液の4%の濃度となるようにした。また、dNTPが100μM、CCAテンプレートaが10nM、蛍光レポーターが100nMの最終濃度となるように調製した。
【0044】
反応体積10μl、反応温度48.5℃として、リアルタイムPCR装置Step one plusで出力DNAδ濃度の経時変化を蛍光測定した。
【0045】
結果を
図9に示した。この結果から、C=3の3連鎖型のCCAテンプレートの場合には、100fM、1pMの濃度では、蛍光強度の変化はほとんど見られず、増幅率が十分ではないことが考えられた。これに対して、10pM及び100pMの場合には、反応時間に依存した蛍光強度の増加を観察することが可能であった。従って、この条件においては、10pM程度までの検出が可能であることが明らかとなった。
【0046】
(例5)
異なる連鎖数による増幅効率の違いを検討した。
図10(a)に設計したCCAテンプレートを模式的に示した。実験には、C=3~9までのCCAテンプレートをそれぞれ使用した。
【0047】
1pMの標的DNAαの存在下での増幅反応を行った。最終濃度が100mM NaCl、50mM Tris-HCl、10mM MgCl2、100μg/ml BSA、かつ25℃でpH7.9のNEBuffer3.1r(New England Biolabs)を緩衝液として用いた。ポリメラーゼとして、Vent(exo-)polymerase(New England Biolabs)を使用し、最終濃度は原液の3%の濃度となるようにした。また、ニッキング酵素として、NB.BsmI(New England Biolabs)を使用し、最終濃度は原液の4%の濃度となるようにした。また、dNTPが100μM、蛍光レポーター(表2を参照されたい)が100nMの最終濃度となるように調製した。さらに、表2に記載の異なる配列を有するCCAテンプレート(C=3、4、5、6、7、9)を、最終濃度10nMになるようにそれぞれ調製した。
【0048】
【0049】
反応体積10μl、反応温度48.5℃として、リアルタイムPCR装置Step one plus(Applied Biosystems)で出力DNAδ濃度の経時変化を蛍光測定した。
【0050】
結果を
図10に記載する。
図10(a)は、蛍光強度を縦軸、反応サイクル数(反応時間)を横軸に結果をプロットした。
図10(c)は、蛍光強度を縦軸、CCAテンプレート中の人工配列の繰り返し回数(C)として結果をプロットした。
【0051】
1pMの濃度はC=3の変換数では増幅レベルが非常に低かったが、連鎖数を増やすことにより、増幅速度の増加を確認することができた。連鎖数がC=3からC=6のケースにおいては、連鎖数を増やすことで、増幅速度も増えることが示された。その一方で、C=7以上になると、増幅反応の伸びがゆるやかになった。本反応においては、変換反応にポリメラーゼやdNTPが大量に使われることが考えられる。連鎖数が多すぎる場合、これらの分子がより上流の連鎖で大量に使われてしまうため、一番下流の出力DNAの産出速度が低下してしまうのではないかと考えられた。
【0052】
(第4の実施形態)
第4の実施形態として核酸定量検出システムが提供される。
図11に示すように、核酸定量検出システム200は、入力部210と、核酸増幅ユニット220と、核酸測定ユニット230とを備える。入力部210は、検出対象である試料、変換用テンプレート、ポリメラーゼ及びニッカーゼ、並びに反応に必要な物質を反応場に持ち込むための投入口であり得る。核酸増幅ユニット220は、そこにおいて核酸反応を行うことが可能な反応場、温度調整機構、送液機構、溶液保持層、廃液層などを含んでよい(図示せず)。反応場は、これらに限定するものではないが、反応容器、反応流路、反応アレイ、平面上に形成された凹部などであり得る。温度調整機構は、ヒーターなどであってよい。核酸測定ユニット230は、核酸増幅ユニット220において得られた増幅産物を検出及び定量する測定機構を備える。測定機構は、蛍光(例えば、スペクトル選択的に)、化学発光、色彩情報(例えば、カラメトリー測定手段により)、形態変化などの光学的信号、電気化学的信号などのなどを測定することにより、目的とする増幅産物を検出するように構成され得る。そのような手段は、それ自身公知の何れかの手段を使用することが可能である。例えば、一般的に生化学分野において使用される情報の可視化手段を用いることも可能である。また、入力(検出対象)の核酸増幅ユニットで増幅する前のステップとして、検出対象を人工的に設計した塩基配列に変換するステップを設けてもよい。そのようなステップを行うための線形増幅器又は単純変換器(図示せず)を核酸増幅ユニット220が含んでいてもよい。即ち、これにより、まずは検出対象を人工DNAに変換する反応が行われる。例えば、検出対象がmRNAなどの長い塩基配列であった場合や、dsDNAなどで直接ハイブリダイズさせることが難しい場合には、変換反応を用いて一旦人工塩基にしたのち、それを変換連鎖増幅してもよい。このような線形増幅器及び単純変換器は、上述した核酸増幅ユニットと同様の構成を有し得る。例えば、核酸増幅ユニット、線形増幅器及び単純変換器がそれぞれ独立して反応を行うように3つの反応場が配置されてもよい。1つの反応場が、核酸増幅ユニット、線形増幅器及び単純変換器の役割を担ってもよい。或いは、核酸増幅ユニット220とは独立して、核酸定量検出システム200が、線形増幅器又は単純変換器を備えてもよい。その場合、入力部210と、核酸増幅ユニット220との間に配置されてもよい(図示せず)。
【0053】
核酸定量検出システム200の1つの例において、前記核酸増幅ユニット220は、そこにおいて核酸反応を行うように区画された反応部と、前記反応部の温度を制御する温度管理部とを備え、前記核酸測定ユニット230が、核酸からの信号を検知する測定部と得られた信号に基づいて核酸量を決定する計算部とを備えてもよい(図示せず)。
【0054】
また核酸定量検出システム200は、測定結果を表示するディスプレイなどや結果を所望の通信場所へ送る通信手段などの出力部(図示せず)を備えてもよい。入力部210は、物理的な入力に加えて、電気的信号を入力可能なパネル、キーボード及びスイッチ等の入力手段を更に備えてもよい。核酸定量検出システム200は、入力部210、核酸増幅ユニット220及び核酸測定ユニット230の働きをコントロールする制御部(図示せず)を備えてもよい。そのような制御部は、例えば、CPUやコンピュータであってよく、そのような制御は、予め定められたプログラムやデータベース、並びに入力される情報に基づいて行われ得る。
【0055】
(第5の実施形態)
核酸定量検出システム200は、核酸定量検出装置として提供されてもよい。核酸定量検出装置は、上述した核酸定量検出システム200と同様の構成を備えればよい。
【0056】
(第6の実施形態)
第6の実施形態の核酸定量キットは、実施形態に従う核酸変換連鎖増幅方法及び一本鎖核酸定量法に使用するためのアッセイキットである。核酸定量キットは、標的核酸に応じて設計された変換用テンプレート、ポリメラーゼ及びニッカーゼを含む。更に、核酸定量キットは、至適反応のためのdNTP、緩衝液若しくは緩衝液用の組成物混合物、及び/又は検出用標識物質などを任意に含んでもよい。
【0057】
(第7の実施形態)
上述した実施形態の核酸定量キットは、試料中の標的核酸を増幅又は定量を行うための核酸反応キットとして提供されてもよい。そのような核酸反応キットは、変換用テンプレート、ニッカーゼ試薬及び鎖置換ポリメラーゼ試薬を含む。標的核酸が、標的配列xを有しているとき、変換用テンプレートは、3’から5’の向きで、標的配列xの相補配列x’と、C種類の人工配列の相補配列α’~n’とを含み、更に、これらの相補配列x’、α’~n’の配列間にあるC個のニッカーゼ認識部位を含む。ここで、人工配列α~n(ここでCは2~9の整数であり、nはC-1の整数である)は、試料中に存在しない配列であり、且つ互いに異なる配列で示される。
【0058】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0059】
1…標的核酸、2,2a,2b…変換連鎖増幅テンプレート、3…ポリメラーゼ、4…伸長、5…ニッカーゼ、101a,101b,102a,102b…伸長鎖、111a,112a,112b…人工的な配列断片
【配列表】