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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013430
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】高分子アクチュエータ及びセンサ
(51)【国際特許分類】
   H02N 1/06 20060101AFI20240125BHJP
   C08L 33/14 20060101ALI20240125BHJP
   C08L 5/16 20060101ALI20240125BHJP
   C08L 75/14 20060101ALI20240125BHJP
   C08L 71/02 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
H02N1/06
C08L33/14
C08L5/16
C08L75/14
C08L71/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022115502
(22)【出願日】2022-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 洋充
(72)【発明者】
【氏名】高木 凡子
(72)【発明者】
【氏名】玉井 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】中井 孝憲
(72)【発明者】
【氏名】石田 真
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AB05Z
4J002BG07X
4J002CH02Y
4J002CK05W
4J002GQ04
(57)【要約】
【課題】絶縁破壊電圧の低下が抑制され、誘電率を向上させた誘電エラストマ層を備える高分子アクチュエータを提供すること。
【解決手段】誘電エラストマ層と前記誘電エラストマ層の両面に配置された2つの電極とを備えており、
前記誘電エラストマ層が、ポリロタキサン及び水酸基を有するジエン系重合体を含む樹脂成分と、環状カーボネート構造又はシアノ基と直鎖状又は分岐状の炭化水素鎖とを側鎖に有する(メタ)アクリルポリマーとを含有する組成物の硬化物からなるものであることを特徴とする高分子アクチュエータ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電エラストマ層と前記誘電エラストマ層の両面に配置された2つの電極とを備えており、
前記誘電エラストマ層が、ポリロタキサン及び水酸基を有するジエン系重合体を含む樹脂成分と、環状カーボネート構造又はシアノ基と直鎖状又は分岐状の炭化水素鎖とを側鎖に有する(メタ)アクリルポリマーとを含有する組成物の硬化物からなるものであることを特徴とする高分子アクチュエータ。
【請求項2】
前記(メタ)アクリルポリマーが、ポリアルキレングリコール鎖を更に側鎖に有するものであることを特徴とする請求項1に記載の高分子アクチュエータ。
【請求項3】
前記(メタ)アクリルポリマーが、下記式(1):
【化1】
(前記式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rはアルキレン基を表し、Dは環状カーボネート構造又はシアノ基を表す。)
で表される繰返し単位と、下記式(2):
【化2】
(前記式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは直鎖状又は分岐状の炭化水素鎖を表す。)
で表される繰返し単位とを含有するものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の高分子アクチュエータ。
【請求項4】
請求項1に記載の高分子アクチュエータを備えることを特徴とするセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子アクチュエータ及びセンサに関し、より詳しくは、誘電エラストマ層を備える高分子アクチュエータ及びセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリロタキサンを含有する誘電エラストマ層を備える高分子アクチュエータは、変位の大きい高分子アクチュエータとして知られている(例えば、特開2017-66318号公報(特許文献1))。しかしながら、従来のポリロタキサンを含有する誘電エラストマ層を備える高分子アクチュエータにおいては、出力が必ずしも十分に高いものではなく、高出力化が求められていた。
【0003】
一般に、誘電エラストマ層を備える高分子アクチュエータを高出力化するためには、誘電エラストマ層の誘電率を向上させることが有効であると考えられている。そして、誘電エラストマ層の誘電率を向上させるためには、チタン酸バリウムやチタニア等の高誘電率フィラーを配合することが有効であると考えられる。しかしながら、高誘電率フィラーは、弾性率が高いセラミックスからなるものが多いため、このような高誘電率フィラーを誘電エラストマ層に配合すると、誘電エラストマ層の誘電率は向上するものの、弾性率が著しく高くなるため、動作時に高分子アクチュエータの変位量が小さくなるという問題があった。このため、誘電エラストマ層を備える高分子アクチュエータにおいて、誘電エラストマ層の柔軟性を維持しながら、誘電率を向上させる技術が求められてきた。
【0004】
また、特開2018-59042号公報(特許文献2)には、側鎖にカーボネート基等の極性基が導入された共重合体を含有する誘電エラストマ材料が開示されており、前記極性基を導入することによって、前記誘電エラストマ材料の比誘電率が増大することが記載されている。しかしながら、側鎖にカーボネート基等の極性基のみが導入された共重合体を含有する誘電エラストマ材料は、比誘電率の向上が必ずしも十分ではなく、また、誘電エラストマ材料中において、側鎖にカーボネート基等の極性基のみが導入された共重合体が凝集・相分離しやすいため、側鎖にカーボネート基等の極性基が導入された共重合体を含有しない誘電エラストマ材料に比べて、絶縁破壊電圧が低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-66318号公報
【特許文献2】特開2018-59042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、絶縁破壊電圧の低下が抑制され、誘電率を向上させた誘電エラストマ層を備える高分子アクチュエータ及びセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ポリロタキサン及び水酸基を有するジエン系重合体を含む樹脂成分からなる誘電エラストマ層に、環状カーボネート構造又はシアノ基と直鎖状又は分岐状の炭化水素鎖とを側鎖に有する(メタ)アクリルポリマーを配合することによって、誘電エラストマ層の絶縁破壊電圧の低下を抑制し、誘電率を向上させることが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の態様を提供する。
【0009】
[1]誘電エラストマ層と前記誘電エラストマ層の両面に配置された2つの電極とを備えており、前記誘電エラストマ層が、ポリロタキサン及び水酸基を有するジエン系重合体を含む樹脂成分と、環状カーボネート構造又はシアノ基と直鎖状又は分岐状の炭化水素鎖とを側鎖に有する(メタ)アクリルポリマーとを含有する組成物の硬化物からなるものである、高分子アクチュエータ。
【0010】
[2]前記(メタ)アクリルポリマーが、ポリアルキレングリコール鎖を更に側鎖に有するものである、[1]に記載の高分子アクチュエータ。
【0011】
[3]前記(メタ)アクリルポリマーが、下記式(1):
【0012】
【化1】
【0013】
(前記式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rはアルキレン基を表し、Dは環状カーボネート構造又はシアノ基を表す。)
で表される繰返し単位と、下記式(2):
【0014】
【化2】
【0015】
(前記式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは直鎖状又は分岐状の炭化水素鎖を表す。)
で表される繰返し単位とを含有するものである、[1]又は[2]に記載の高分子アクチュエータ。
【0016】
[4][1]~[3]のうちのいずれか1項に記載の高分子アクチュエータを備える、センサ。
【0017】
なお、本発明によって、誘電エラストマ層の絶縁破壊電圧の低下を抑制し、誘電率を向上させることが可能となる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、環状カーボネート構造やシアノ基は大きな誘電分極を有しているため、高い誘電率を示す。しかしながら、誘電エラストマ層に、側鎖に環状カーボネート構造のみ又はシアノ基のみを有する(メタ)アクリルポリマーを配合すると、環状カーボネート構造やシアノ基の大きな誘電分極によって、環状カーボネート構造同士やシアノ基同士が凝集しやすく、ポリロタキサン及び水酸基を有するジエン系重合体を含む樹脂成分中における前記(メタ)アクリルポリマーの分散性が低くなり、誘電エラストマ層の均一性が低下するため、絶縁破壊電圧が低下し、アクチュエータやセンサ等の素子の動作が不安定になる。一方、側鎖に環状カーボネート構造又はシアノ基と炭化水素鎖とを有する(メタ)アクリルポリマーを配合すると、側鎖の炭化水素鎖が疎水性であり、前記樹脂成分中の疎水性成分である水酸基を有するジエン系重合体との親和性が高いため、ポリロタキサン及び水酸基を有するジエン系重合体を含む樹脂成分中において、前記(メタ)アクリルポリマーは均一に分散する。その結果、均一性の高い誘電エラストマ層が形成されるため、絶縁破壊電圧の低下が抑制され、アクチュエータやセンサ等の素子の出力や感度が向上すると推察される。
【0018】
また、側鎖に環状カーボネート構造のみ又はシアノ基のみを有する(メタ)アクリルポリマーを配合すると、上述したように、環状カーボネート構造同士やシアノ基同士が凝集しやすいため、凝集体構造内で分極を打ち消し合ったり、また、誘電エラストマ層に電場を印加しても(メタ)アクリルポリマーが電場の印加方向に配向しにくくなる。その結果、環状カーボネート構造やシアノ基の一部が誘電率の向上に寄与しなくなるため、誘電エラストマ層の誘電率が十分に向上しにくくなる。一方、側鎖に環状カーボネート構造又はシアノ基と炭化水素鎖とを有する(メタ)アクリルポリマーを配合すると、炭化水素鎖が環状カーボネート構造同士やシアノ基同士の凝集を抑制し、環状カーボネート構造やシアノ基の大きな誘電分極が維持されるため、誘電エラストマ層に電場を印加すると、(メタ)アクリルポリマーが電場の印加方向に配位し、誘電率が向上すると推察される。さらに、環状カーボネート構造又はシアノ基と炭化水素鎖に加えてポリアルキレングリコール鎖を側鎖に導入すると、運動性が高く、大きな分極を誘起しやすいポリアルキレングリコール鎖の作用によって、環状カーボネート構造同士やシアノ基同士の凝集を更に抑制することができるため、誘電率が更に向上すると推察される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、絶縁破壊電圧の低下が抑制され、誘電率を向上させた誘電エラストマ層を備える高分子アクチュエータ及びセンサを得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例3で得られた硬化膜の表面における蛍光灯の反射像を示す写真である。
図2】実施例6で得られた硬化膜の表面における蛍光灯の反射像を示す写真である。
図3】比較例2で得られた硬化膜の表面における蛍光灯の反射像を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0022】
本発明の高分子アクチュエータは、誘電エラストマ層と前記誘電エラストマ層の両面に配置された2つの電極とを備えており、前記誘電エラストマ層は、ポリロタキサン及び水酸基を有するジエン系重合体を含む樹脂成分と、環状カーボネート構造又はシアノ基と直鎖状又は分岐状の炭化水素鎖とを側鎖に有する(メタ)アクリルポリマーとを含有する組成物の硬化物からなるものである。
【0023】
(ポリロタキサン)
ポリロタキサンとは、環状の分子(リング状分子)の穴を棒状の分子(軸分子)が貫通し、棒状の分子の両末端に嵩高い部位(末端基)が結合した構造を有する分子集合体である。このようなポリロタキサンを誘電エラストマ層に含有させることによって、誘電エラストマ層において絶縁破壊電圧の低下を抑制しながら誘電率を向上させることができ、アクチュエータの出力を向上させることが可能となる。また、前記ポリロタキサンを含有する誘電エラストマ層は、前記ポリロタキサンが動的な架橋点となり、変形による架橋点の破壊が起こらないため、ヘタリが発生しにくく、動作の可逆性(可逆応答性)と安定性に優れている。本発明においては、このようなポリロタキサンとして特に制限はなく、従来公知のポリロタキサンを用いることができる。
【0024】
前記リング状分子としては特に制限はなく、例えば、シクロデキストリン(例えば、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン)、クラウンエーテル、シクロファン、カリックスアレーン、ククルビットウリル、環状アミド等が挙げられる。これらのリング状分子は、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、このようなリング状分子は置換基や側鎖を有していてもよい。これらのリング状分子の中でも、適度な柔軟性と誘電率が得られるという観点から、グラフト鎖としてカプロラクトン鎖を有するシクロデキストリンが好ましく、また、誘電エラストマ層の耐湿性向上し、誘電エラストマ層に水分子が混入しにくくなり、加水分解反応の発生や絶縁性の低下が抑制されるという観点並びに樹脂成分中におけるポリロタキサンの分散・溶解性を確保するという観点から、炭素水素基(例えば、アルキル基、アリール基)で修飾されたシクロデキストリンが好ましい。
【0025】
また、前記軸分子としては特に制限はなく、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリ乳酸、ポリテトラヒドロフラン、ポリジメチルシロキサン、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル等が挙げられる。これらの軸分子は、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、これらの軸分子の中でも、ガラス転移温度が低く、リング状分子がスムーズに移動できるという観点から、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールが好ましい。
【0026】
さらに、前記嵩高い末端基としては特に制限はなく、例えば、ジニトロフェニル基、シクロデキストリン基、アダマンタン基、トリチル基、フルオレセイン基、ピレン基、置換ベンゼン環、多環芳香族環、ステロイド基等が挙げられる。これらの末端基は、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、これらの末端基の中でも、軸分子の末端に導入しやすく、リング状分子が外れない程の嵩高さを有しているという観点から、ジニトロフェニル基、シクロデキストリン基、アダマンタン基、トリチル基、フルオレセイン基、ピレン基が好ましく、アダマンタン基がより好ましい。
【0027】
(ジエン系重合体)
本発明に用いられるジエン系重合体(ジエン系ゴム)は、水酸基を有するジエン系重合体であり、前記水酸基はジエン系重合体の末端に有していても、グラフト反応等により側鎖に有していてもよい。
【0028】
前記ジエン系重合体(ジエン系ゴム)としては、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等のジエンの単独重合体(例えば、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム)及び共重合体(スチレン・ブタジエンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム等のブタジエン系共重合体、スチレン・イソプレンゴム、アクリロニトリル・イソプレンゴム等のイソプレン系共重合体)が挙げられる。前記ジエンの共重合体における共重合モノマーとしては、(メタ)アクリレート、スチレン、アクリロニトリル等が挙げられる。
【0029】
このようなジエン系重合体の中でも、絶縁破壊電圧の低下を促す吸湿による水分導入を回避するという観点から、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエン系共重合体、イソプレン系共重合体等の疎水性のジエン系重合体が好ましく、ブタジエンゴム、イソプレンゴムがより好ましい。
【0030】
((メタ)アクリルポリマー)
本発明に用いられる(メタ)アクリルポリマーは、環状カーボネート構造又はシアノ基と直鎖状又は分岐状の炭化水素鎖とを側鎖に有するものである。環状カーボネート構造及びシアノ基は高誘電性を示す基(以下、これらをまとめて「高誘電性官能基」ともいう)であり、このような高誘電性官能基を側鎖に有する(メタ)アクリルポリマーを誘電エラストマ層に配合することによって、誘電エラストマ層の誘電率が向上する。しかしながら、環状カーボネート構造同士やシアノ基同士が凝集しやすいため、環状カーボネート構造のみ又はシアノ基のみを側鎖に有する(メタ)アクリルポリマーを配合した誘電エラストマ層では、前記(メタ)アクリルポリマーの凝集や相分離が起こりやすい。本発明に用いられる(メタ)アクリルポリマーは、樹脂成分中の疎水性成分である水酸基を有するジエン系重合体との親和性が高い前記炭化水素鎖が導入されているため、環状カーボネート構造同士やシアノ基同士の凝集が抑制され、ポリロタキサン及び水酸基を有するジエン系重合体を含む樹脂成分中で高分散することによって、均一性の高い誘電エラストマ層が形成され、絶縁破壊電圧の低下を抑制することが可能となる。
【0031】
また、本発明に用いられる(メタ)アクリルポリマーは、ポリアルキレングリコール鎖を側鎖に更に有するものであることが好ましい。(メタ)アクリルポリマーの側鎖としてポリアルキレングリコール鎖を更に導入することによって、環状カーボネート構造同士やシアノ基同士の凝集が抑制され、ポリロタキサン及び水酸基を有するジエン系重合体を含む樹脂成分中での(メタ)アクリルポリマーの分散性が向上し、更に均一性の高い誘電エラストマ層が形成されるため、絶縁破壊電圧の低下を更に抑制することができる。
【0032】
前記高誘電性官能基は、環状カーボネート構造又はシアノ基であり、前記環状カーボネート構造としては、エチレンカーボネート構造等のアルキレンカーボネート構造が挙げられる。
【0033】
本発明に用いられる(メタ)アクリルポリマーは、このような高誘電性官能基を含む繰返し単位、例えば、下記式(1):
【0034】
【化3】
【0035】
で表される繰返し単位を有するものである。
【0036】
前記式(1)中、Rは水素原子又はメチル基を表す。また、Rはアルキレン基を表し、例えば、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基等が挙げられる。Dは前記高誘電性官能基(前記環状カーボネート構造又はシアノ基)を表し、前記環状カーボネート構造としては、例えば、エチレンカーボネート構造等のアルキレンカーボネート構造が挙げられる。
【0037】
前記炭化水素鎖は、直鎖状であっても分岐状であってもよく、また、飽和であっても不飽和であってもよい。このような炭化水素鎖としては、炭素数3~30(好ましくは3~20、より好ましくは4~18)のアルキル基、アルケニル基及びアルカジエニル基が挙げられる。前記アルキル基としては、例えば、プロピル基、ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基、ステアリル基(オクタデシル基)が挙げられる。また、前記アルケニル基としては、例えば、クロチル基、メタリル基、プレニル基、イソペンテニル基、オクテニル基、デセニル基、ドデセニル基、オレイル基(オクタデセニル基)等の炭素数4~30(好ましくは炭素数4~20、より好ましくは炭素数4~18)のC=C結合を1分子中に1個有する炭化水素基が挙げられる。前記アルカジエニル基としては、例えば、ブタジエニル基、ソルビル基(ヘキサジエニル基)、オクタジエニル基、デカジエニル基、ドデカジエニル基、オクタデカジエニル基等の炭素数4~30(好ましくは炭素数4~20、より好ましくは炭素数4~18)のC=C結合を1分子中に2個有する炭化水素基が挙げられる。
【0038】
本発明に用いられる(メタ)アクリルポリマーは、このような炭化水素鎖を含む繰返し単位、例えば、下記式(2):
【0039】
【化4】
【0040】
で表される繰返し単位を有するものである。
【0041】
前記式(2)中、Rは水素原子又はメチル基を表す。また、Rは前記直鎖状又は分岐状の炭化水素鎖を表し、飽和であっても不飽和であってもよく、例えば、炭素数3~30(好ましくは3~20、より好ましくは4~18)のアルキル基及びアルケニル基が挙げられる。
【0042】
前記ポリアルキレングリコール鎖としては、ポリエチレングリコール鎖、ポリプロピレングリコール鎖が挙げられ、中でも、鎖の運動性が高く、前記高誘電性官能基の運動を妨げないという観点から、ポリエチレングリコール鎖が好ましい。
【0043】
前記ポリアルキレングリコール鎖におけるアルキレングリコールの重合度としては、4~100が好ましく、4~80がより好ましく、4~50が更に好ましく、4~20がまた更に好ましく、4~10が特に好ましい。アルキレングリコールの重合度が前記下限未満になると、環状カーボネート構造同士やシアノ基同士の凝集を十分に抑制することができないため、誘電率が十分に向上せず、また、絶縁破壊電圧の低下を十分に抑制されない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、ポリアルキレングリコール鎖の運動性が低下し、前記高誘電性官能基の運動を阻害する傾向にある。
【0044】
本発明に用いられる(メタ)アクリルポリマーは、このようなポリアルキレングリコール鎖を含む繰返し単位、例えば、下記式(3):
【0045】
【化5】
【0046】
で表される繰返し単位を更に有するものであることが好ましい。
【0047】
前記式(3)中、Rは水素原子又はメチル基を表す。また、AOはアルキレンオキシ基を表し、例えば、エチレンオキシ基、プロピレンオキシ基等が挙げられ、中でも、分子量が小さいにもかかわらず分極が大きいため、添加量に対する誘電率向上効果が高くなるという観点から、エチレンオキシ基が好ましい。Rはアルキル基を表し、例えば、メチル基、エチル基等が挙げられる。pは前記アルキレンオキシ基の重合度を表し、4~100が好ましく、4~80がより好ましく、4~50が更に好ましく、4~20がまた更に好ましく、4~10が特に好ましい。pが前記下限未満になると、環状カーボネート構造同士やシアノ基同士の凝集を十分に抑制することができないため、誘電率が十分に向上せず、また、絶縁破壊電圧の低下が十分に抑制されない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、ポリアルキレングリコール鎖の運動性が低下し、前記高誘電性官能基の分極を妨げるため、誘電率が向上しにくくなる傾向にある。
【0048】
また、本発明に用いられる(メタ)アクリルポリマーにおいては、本発明の効果を損なわない範囲において、前記高誘電性官能基を含む繰返し単位、前記炭化水素鎖を含む繰返し単位及び前記ポリアルキレングリコール鎖を含む繰返し単位以外に、他の(メタ)アクリルモノマー単位を含んでいてもよい。このような他の(メタ)アクリルモノマー単位としては、側鎖に水酸基を有する(メタ)アクリルモノマー単位、例えば、ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート単位、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート単位等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート単位が挙げられる。
【0049】
本発明に用いられる(メタ)アクリルポリマーにおける(メタ)アクリルモノマーの重合度(すなわち、前記高誘電性官能基を含む繰返し単位と前記炭化水素鎖を含む繰返し単位と前記ポリアルキレングリコール鎖を含む繰返し単位と前記他の(メタ)アクリルモノマー単位の合計数)としては、3~10000が好ましく、5~1000がより好ましく、5~100が特に好ましい。(メタ)アクリルモノマーの重合度が前記下限未満になると、(メタ)アクリルポリマーが誘電エラストマ層からブリードアウトしやすくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、(メタ)アクリルポリマーが誘電エラストマ層内で均一に分散しないため、誘電率が十分に向上せず、また、絶縁破壊電圧の低下が十分に抑制されない傾向にある。
【0050】
本発明に用いられる(メタ)アクリルポリマーにおいて、前記高誘電性官能基を含む繰返し単位(以下、「高誘電性官能基単位」ともいう)と前記炭化水素鎖を含む繰返し単位(以下、「炭化水素鎖単位」ともいう)とのモル比(高誘電性官能基単位:炭化水素鎖単位)としては、2:98~90:10が好ましく、5:95~80:20がより好ましく、10:90~70:30が特に好ましい。高誘電性官能基単位:炭化水素鎖単位が前記下限未満になると、前記高誘電性官能基の導入量が少なく、誘電率が向上しにくくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、環状カーボネート構造同士やシアノ基同士の凝集を十分に抑制することができないため、誘電率が十分に向上せず、また、絶縁破壊電圧の低下が十分に抑制されない傾向にある。
【0051】
また、本発明に用いられる(メタ)アクリルポリマーにおいて、前記高誘電性官能基単位と前記ポリアルキレングリコール鎖を含む繰返し単位(以下、「ポリアルキレングリコール鎖単位」ともいう)とのモル比(高誘電性官能基単位:ポリアルキレングリコール鎖単位)としては、2:98~90:10が好ましく、5:95~80:20がより好ましく、10:90~70:30が特に好ましい。高誘電性官能基単位:ポリアルキレングリコール鎖単位が前記下限未満になると、前記高誘電性官能基の導入量が少なく、誘電率が向上しにくくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、環状カーボネート構造同士やシアノ基同士の凝集を十分に抑制することができないため、誘電率が十分に向上せず、また、絶縁破壊電圧の低下が十分に抑制されない傾向にある。
【0052】
前記誘電エラストマ層を形成するための組成物において、前記(メタ)アクリルポリマーの含有量としては、前記誘電エラストマ層を形成するための樹脂成分100質量部に対して、5~60質量部が好ましく、10~40質量部がより好ましい。前記(メタ)アクリルポリマーの含有量が前記下限未満になると、前記高誘電性官能基及び前記炭化水素鎖による効果が十分に得られず、例えば、誘電率が十分に向上せず、また、絶縁破壊電圧の低下が十分に抑制されない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、前記(メタ)アクリルポリマーが相分離してしまう傾向にある。
【0053】
また、前記誘電エラストマ層を形成するための組成物において、前記(メタ)アクリルポリマーの含有量としては、前記ポリロタキサン100質量部に対して、5~5000質量部が好ましく、100~3000質量部がより好ましい。前記(メタ)アクリルポリマーの含有量が前記下限未満になると、前記高誘電性官能基及び前記炭化水素鎖による効果が十分に得られず、例えば、誘電率が十分に向上せず、また、絶縁破壊電圧の低下が十分に抑制されない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、前記(メタ)アクリルポリマーが相分離してしまう傾向にある。
【0054】
このような(メタ)アクリルポリマーの合成方法としては特に制限はなく、例えば、環状構造に1つの酸素原子を含む複素環式(メタ)アクリレート(例えば、グリシジル(メタ)アクリレート)と、前記炭化水素鎖を含む(メタ)アクリルモノマーと、必要に応じて、前記ポリアルキレングリコール鎖を含む(メタ)アクリルモノマーと、他の(メタ)アクリルモノマーとを、臭化リチウムの存在下、二酸化炭素雰囲気下で加熱して、1つの酸素原子を含む前記環状構造を環状カーボネート構造に変換しながら、前記(メタ)アクリレートを共重合させる方法や、前記環状カーボネート構造を含む(メタ)アクリルモノマー又はシアノ基を含む(メタ)アクリレートと、前記炭化水素鎖を含む(メタ)アクリルモノマーと、必要に応じて、前記ポリアルキレングリコール鎖を含む(メタ)アクリルモノマーと、他の(メタ)アクリルモノマーとを、窒素雰囲気下で加熱して、前記(メタ)アクリレートを共重合させる方法が挙げられる。
【0055】
これらの合成方法における反応条件としては特に制限はなく、従来公知の反応条件を適宜採用することができ、また、最適化した反応条件を採用することが好ましい。
【0056】
(その他の樹脂成分)
前記誘電エラストマ層を形成するための組成物には、必要に応じて、ポリシロキサンを含有するブロック共重合体やポリシロキサンを含有しない重合体が含まれていてもよい。ポリシロキサンとしては特に制限はないが、例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、変性ポリジメチルシロキサン等が挙げられる。ポリシロキサンを含有するブロック共重合体としては特に制限はないが、例えば、ポリカプロラクトン-ポリシロキサンブロック共重合体、ポリアジペート-ポリシロキサンブロック共重合体、ポリエチレングリコール-ポリシロキサンブロック共重合体等が挙げられる。ポリシロキサンを含有しない重合体としては特に制限はないが、例えば、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリカーボネート、ポリカプロラクトン、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリプロピレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。
【0057】
本発明にかかる誘電エラストマ層は、前記ポリロタキサン及び水酸基を有するジエン系重合体を含む樹脂成分と、前記(メタ)アクリルポリマーとを少なくとも含有し、必要に応じて、ポリシロキサンを含有するブロック共重合体やポリシロキサンを含有しない重合体を含有する組成物を硬化させることによって形成することができる。したがって、前記組成物には、必要に応じて、架橋剤が含まれていることが好ましい。
【0058】
このような架橋剤は、前記組成物に含まれる、前記ポリロタキサン、前記水酸基を有するジエン系重合体、前記ポリシロキサンを含有するブロック共重合体、前記ポリシロキサンを含有しない重合体等の樹脂成分に応じて適宜選択することができ、特に制限はなく、例えば、官能基を有する、脂肪族ポリオール、脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリカーボネート、及びこれらのブロック共重合体が挙げられる。また、前記官能基としては、イソシアネート基、ブロックイソシアネート基、エポキシ基が挙げられる。
【0059】
前記誘電エラストマ層の形成方法としては特に制限はなく、例えば、前記組成物を、スピンコート法、スリットダイコータ法、スクリーンプリント法、インクジェット法等の公知の膜形成方法により塗膜を形成した後、硬化させる方法が挙げられる。
【0060】
本発明の高分子アクチュエータは、このような誘電エラストマ層と前記誘電エラストマ層の両面に配置された2つの電極とからなる電極層付誘電体を備えるものであり、前記電極層付誘電体の形状としては特に制限はなく、例えば、渦巻き状に複数巻いて円筒状にしたもの、波状に湾曲させて折り畳んだカーテン状のもの等が挙げられる。
【0061】
前記電極としては特に制限はなく、従来のアクチュエータに用いられる公知の電極を用いることができ、例えば、貴金属(例えば、銀ナノワイヤ等)やカーボン(例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン等)といった導電性粒子が分散した、シリコーンや天然ゴム、樹脂等からなる導電性高分子膜等が挙げられる。
【0062】
また、本発明のセンサは、このような本発明の高分子アクチュエータを備えるものである。
【実施例0063】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0064】
(合成例1)
<(メタ)アクリルポリマーの合成>
2-シアノエチルアクリレート0.4g、2-エチルヘキシルアクリレート0.6g、S,S-ジベンジルトリチオ炭酸0.15g、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)9mg、及びN-メチル-2-ピロリドン(NMP)1.4gをフラスコ中で混合し、窒素雰囲気下、70℃で20時間撹拌して重合反応を行った。反応後の溶液をメタノール20mlに投入して沈殿物を生成させ、-70℃で1時間冷却した後、沈殿物を遠心分離(4800rpm)により回収した。得られた沈殿物をテトラヒドロフラン(THF)1mlに溶解し、メタノール20mlに投入して再び沈殿物を生成させ、-70℃で1時間冷却した後、沈殿物を遠心分離(4800rpm)により回収した。得られた沈殿物を真空乾燥して、下記式(4):
【0065】
【化6】
【0066】
で表される、側鎖に2-シアノエチル基と2-エチルヘキシル基とを有するアクリルポリマー0.88gを得た。なお、このアクリルポリマーの設計分子量は2200である。また、この合成を複数回実施して、前記アクリルポリマーを必要量確保した。
【0067】
(合成例2)
<(メタ)アクリルポリマーの合成>
グリシジルアクリレート3.85g、2-エチルヘキシルアクリレート2.96g、メトキシトリエチレングリコールアクリレート2.82g、S,S-ジベンジルトリチオ炭酸0.158g、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)90mg、臭化リチウム一水和物(LiBr・HO)0.15g、及びN-メチル-2-ピロリドン(NMP)14gを混合し、1気圧の二酸化炭素雰囲気下、70℃で20時間撹拌して重合反応を行った。反応後の溶液をメタノール150mlに投入し、-70℃に冷却して沈殿物を生成させた後、沈殿物を遠心分離(4800rpm)により回収した。得られた沈殿物をメタノール125mlに溶解し、-70℃に冷却して再び沈殿物を生成させた後、沈殿物を遠心分離(4800rpm)により回収した。得られた沈殿物を真空乾燥して、下記式(5):
【0068】
【化7】
【0069】
で表される、側鎖にエチレンカーボネート構造と2-エチルヘキシル基とメトキシトリエチレングリコール鎖とを有するアクリルポリマー7.35gを得た。なお、このアクリルポリマーの設計分子量は約2066である。
【0070】
(合成例3)
<(メタ)アクリルポリマーの合成>
グリシジルアクリレート0.4g、ドデシルアクリレート0.6g、S,S-ジベンジルトリチオ炭酸0.16g、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)9mg、臭化リチウム一水和物(LiBr・HO)15mg、及びN-メチル-2-ピロリドン(NMP)1.4gを混合し、1気圧の二酸化炭素雰囲気下、70℃で20時間撹拌して重合反応を行った。反応後の溶液をメタノール20mlに投入して沈殿物を生成させた後、沈殿物を遠心分離(5000rpm)により回収した。得られた沈殿物をテトラヒドロフラン(THF)2mlに溶解し、メタノール20mlに投入して再び沈殿物を生成させた後、沈殿物を遠心分離(5000rpm)により回収した。得られた沈殿物を真空乾燥して、下記式(6):
【0071】
【化8】
【0072】
で表される、側鎖にエチレンカーボネート構造とドデシル基とを有するアクリルポリマー0.65gを得た。なお、このアクリルポリマーの設計分子量は約2100である。また、この合成を複数回実施して、前記アクリルポリマーを必要量確保した。
【0073】
(比較合成例1)
<(メタ)アクリルポリマーの合成>
グリシジルアクリレート0.4g、メトキシトリエチレングリコールアクリレート0.6g、S,S-ジベンジルトリチオ炭酸0.159g、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)9mg、臭化リチウム一水和物(LiBr・HO)15mg、及びN-メチル-2-ピロリドン(NMP)1.4gを混合し、1気圧の二酸化炭素雰囲気下、70℃で20時間撹拌して重合反応を行った。反応後の溶液をメタノール20mlに投入し、-75℃に冷却して沈殿物を生成させた後、沈殿物を遠心分離(5000rpm)により回収した。得られた沈殿物をテトラヒドロフラン(THF)1mlに溶解してメタノール20mlに投入し、-75℃に冷却して再び沈殿物を生成させた後、沈殿物を遠心分離(5000rpm)により回収した。得られた沈殿物を真空乾燥して、下記式(7):
【0074】
【化9】
【0075】
で表される、側鎖にエチレンカーボネート構造とメトキシトリエチレングリコール鎖とを有するアクリルポリマー0.42gを得た。なお、このアクリルポリマーの設計分子量は約2100である。また、この合成を複数回実施して、前記アクリルポリマーを必要量確保した。
【0076】
(実施例1)
<(メタ)アクリルポリマー含有ポリブタジエンフィルムの作製>
国際公開第2008/108411号に記載の方法に従って調製したヒドロキシプロピル化アダマンタンポリロタキサン(HAPR、リング状分子:α-シクロデキストリン、軸分子:ポリエチレングリコール(平均分子量:3.5万)、末端基:アダマンタン基)3.95g、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(東ソー株式会社製ポリメリックMDI「ミリオネートMR200」)1.94g、及び下記式(8):
【0077】
【化10】
【0078】
で表される水酸基末端液状ポリブタジエン(出光興産株式会社製「Poly bd R-15HT」)8.74gを、トルエン9.53gに溶解して攪拌し、均一な溶液を調製した。
【0079】
この溶液に、酸化防止剤(Rianlon社製「Thanox1726」、4,6-ビス(ドデシルチオメチル)-o-クレゾール)0.24g、表面調整剤(Gelest社製シリコーン添加剤「DBL-C31」、両末端アルコール変性シリコーン:カプロラクトン-ジメチルシロキサン-カプロラクトンブロックコポリマー、固形分濃度30質量%のトルエン溶液)0.2g、加水分解抑制剤(日清紡ケミカル株式会社製「カルボジライトV-09GB」、濃度30質量%のトルエン溶液)0.41gを添加して攪拌し、均一な溶液を調製した。
【0080】
この溶液に、合成例1で得られた側鎖に2-シアノエチル基と2-エチルヘキシル基とを有するアクリルポリマー1.27g(前記ヒドロキシプロピル化アダマンタンポリロタキサンと前記水酸基末端液状ポリブタジエンとの合計量(樹脂成分量)100質量部に対して10質量部)を添加して攪拌し、均一な樹脂溶液を調製した。
【0081】
この樹脂溶液に脱泡処理を施した後、スリットダイコータ法により前記樹脂溶液を基材フィルム上に塗布し、得られた塗膜を130℃のオーブン内で減圧条件下、5時間静置して硬化させた。その後、得られた硬化膜を基材フィルムから剥離した。この硬化膜の厚さは0.05mmであった。
【0082】
(実施例2)
合成例1で得られた側鎖に2-シアノエチル基と2-エチルヘキシル基とを有するアクリルポリマーの添加量を2.54g(前記ヒドロキシプロピル化アダマンタンポリロタキサンと前記水酸基末端液状ポリブタジエンとの合計量(樹脂成分量)100質量部に対して20質量部)に変更した以外は実施例1と同様にして、硬化膜を作製した。この硬化膜の厚さは0.05mmであった。
【0083】
(実施例3)
合成例1で得られた側鎖に2-シアノエチル基と2-エチルヘキシル基とを有するアクリルポリマーの添加量を3.81g(前記ヒドロキシプロピル化アダマンタンポリロタキサンと前記水酸基末端液状ポリブタジエンとの合計量(樹脂成分量)100質量部に対して30質量部)に変更した以外は実施例1と同様にして、硬化膜を作製した。この硬化膜の厚さは0.05mmであった。
【0084】
(実施例4)
合成例1で得られた側鎖に2-シアノエチル基と2-エチルヘキシル基とを有するアクリルポリマーの代わりに、合成例2で得られた側鎖にエチレンカーボネート構造と2-エチルヘキシル基とメトキシトリエチレングリコール鎖とを有するアクリルポリマー1.27g(前記ヒドロキシプロピル化アダマンタンポリロタキサンと前記水酸基末端液状ポリブタジエンとの合計量(樹脂成分量)100質量部に対して10質量部)を添加した以外は実施例1と同様にして、硬化膜を作製した。この硬化膜の厚さは0.05mmであった。
【0085】
(実施例5)
合成例2で得られた側鎖にエチレンカーボネート構造と2-エチルヘキシル基とメトキシトリエチレングリコール鎖とを有するアクリルポリマーの添加量を2.54g(前記ヒドロキシプロピル化アダマンタンポリロタキサンと前記水酸基末端液状ポリブタジエンとの合計量(樹脂成分量)100質量部に対して20質量部)に変更した以外は実施例4と同様にして、硬化膜を作製した。この硬化膜の厚さは0.05mmであった。
【0086】
(実施例6)
合成例2で得られた側鎖にエチレンカーボネート構造と2-エチルヘキシル基とメトキシトリエチレングリコール鎖とを有するアクリルポリマーの添加量を3.81g(前記ヒドロキシプロピル化アダマンタンポリロタキサンと前記水酸基末端液状ポリブタジエンとの合計量(樹脂成分量)100質量部に対して30質量部)に変更した以外は実施例4と同様にして、硬化膜を作製した。この硬化膜の厚さは0.05mmであった。
【0087】
(実施例7)
合成例1で得られた側鎖に2-シアノエチル基と2-エチルヘキシル基とを有するアクリルポリマーの代わりに、合成例3で得られた側鎖にエチレンカーボネート構造とドデシル基とを有するアクリルポリマー1.27g(前記ヒドロキシプロピル化アダマンタンポリロタキサンと前記水酸基末端液状ポリブタジエンとの合計量(樹脂成分量)100質量部に対して10質量部)を添加した以外は実施例1と同様にして、硬化膜を作製した。この硬化膜の厚さは0.05mmであった。
【0088】
(比較例1)
合成例1で得られた側鎖に2-シアノエチル基と2-エチルヘキシル基とを有するアクリルポリマーを添加しなかった以外は実施例1と同様にして、硬化膜を作製した。この硬化膜の厚さは0.05mmであった。
【0089】
(比較例2)
合成例1で得られた側鎖に2-シアノエチル基と2-エチルヘキシル基とを有するアクリルポリマーの代わりに、比較合成例1で得られた側鎖にエチレンカーボネート構造とメトキシトリエチレングリコール鎖とを有するアクリルポリマー3.81g(前記ヒドロキシプロピル化アダマンタンポリロタキサンと前記水酸基末端液状ポリブタジエンとの合計量(樹脂成分量)100質量部に対して30質量部)に変更した以外は実施例1と同様にして、硬化膜を作製した。この硬化膜の厚さは0.05mmであった。
【0090】
〔比誘電率〕
得られた硬化膜の両面に、オートファインコータ(日本電子株式会社製「JEC-3000FC」)を用いて、金を蒸着させて電極膜(15mm径)を作製し、誘電率測定用プローブを用いてプレシジョン・インピーダンス・アナライザ(Agilent社製「4294A」)により静電容量を測定し、比誘電率を算出した。その結果を表1に示す。
【0091】
【表1】
【0092】
表1に示したように、ポリロタキサン及び水酸基を有するジエン系重合体を含む樹脂成分の硬化物からなる誘電エラストマ層に、側鎖に2-シアノエチル基と2-エチルヘキシル基とを有するアクリルポリマーを添加した場合(実施例1~3)には、添加しなかった場合(比較例1)に比べて、比誘電率が向上することが確認された。
【0093】
また、ポリロタキサン及び水酸基を有するジエン系重合体を含む樹脂成分の硬化物からなる誘電エラストマ層に、側鎖にエチレンカーボネート構造と2-エチルヘキシル基とメトキシトリエチレングリコール鎖とを有するアクリルポリマーを添加した場合(実施例4~6)も、添加しなかった場合(比較例1)に比べて、比誘電率が向上することが確認された。
【0094】
さらに、ポリロタキサン及び水酸基を有するジエン系重合体を含む樹脂成分の硬化物からなる誘電エラストマ層に、側鎖にエチレンカーボネート構造とドデシル基とを有するアクリルポリマーを添加した場合(実施例7)には、添加しなかった場合(比較例1)に比べて、比誘電率が向上することが確認された。
【0095】
また、添加量が同一の場合、側鎖にエチレンカーボネート構造と2-エチルヘキシル基とメトキシトリエチレングリコール鎖とを有するアクリルポリマー(実施例4~6)は、側鎖に2-シアノエチル基と2-エチルヘキシル基とを有するアクリルポリマー(実施例1~3)に比べて、比誘電率の向上効果が高くなることがわかった。
【0096】
一方、ポリロタキサン及び水酸基を有するジエン系重合体を含む樹脂成分の硬化物からなる誘電エラストマ層に、側鎖にエチレンカーボネート構造とメトキシトリエチレングリコール鎖とを有するアクリルポリマーを添加した場合(比較例2)には、添加しなかった場合(比較例1)に比べて、比誘電率は向上したものの、添加量が同一の場合、側鎖に2-シアノエチル基と2-エチルヘキシル基とを有するアクリルポリマーを添加した場合(実施例3)、及び側鎖にエチレンカーボネート構造と2-エチルヘキシル基とメトキシトリエチレングリコール鎖とを有するアクリルポリマーを添加した場合(実施例6)に比べて、比誘電率の向上効果は劣ることがわかった。
【0097】
〔(メタ)アクリルポリマーの分散性〕
得られた硬化膜上の高さ150cmの位置に蛍光灯を設置し、硬化膜の表面における蛍光灯の反射像を観察した。図1図3には、実施例3及び6、比較例2で得られた硬化膜の表面における蛍光灯の反射像を示す。
【0098】
ポリロタキサン及び水酸基を有するジエン系重合体を含む樹脂成分の硬化物からなる誘電エラストマ層に、側鎖に2-シアノエチル基と2-エチルヘキシル基とを有するアクリルポリマーを添加した場合(実施例3、図1)及び側鎖にエチレンカーボネート構造と2-エチルヘキシル基とメトキシトリエチレングリコール鎖とを有するアクリルポリマーを添加した場合(実施例6、図2)には、硬化膜表面における蛍光灯の反射像の形状が明瞭であり、前記アクリルポリマーが誘電エラストマ層中に均一に分散していることが確認された。一方、側鎖にエチレンカーボネート構造とメトキシトリエチレングリコール鎖とを有するアクリルポリマーを添加した場合(比較例2、図3)には、硬化膜表面における蛍光灯の反射像の形状は、光散乱により不明瞭となり、前記アクリルポリマーが誘電エラストマ層中で凝集・分離していることが確認された。比較例2で得られた硬化膜においては、前記アクリルポリマーの側鎖にジエン系重合体との親和性が良好な炭化水素鎖が存在しないため、側鎖に炭化水素鎖を有するアクリルポリマーを添加した硬化膜(実施例3及び6)に比べて、前記アクリルポリマーの分散性が低くなったと考えられる。
【0099】
このように、本発明にかかる誘電エラストマ層においては、高誘電成分である直鎖状又は分岐状の炭化水素鎖と環状カーボネート構造又はシアノ基とを側鎖に有する(メタ)アクリルポリマーが凝集せずに、均一に分散しているため、層内の電界が均一であり、絶縁破壊が起こりにくく、絶縁破壊電圧が高くなる。そして、このような絶縁破壊電圧が高い誘電エラストマ層を採用したアクチュエータやセンサは、高電圧で使用することができ、出力や感度を十分に向上させることが可能となる。
【0100】
一方、側鎖にエチレンカーボネート構造とメトキシトリエチレングリコール鎖とを有するアクリルポリマーを含有する誘電エラストマ層のように、高誘電成分が均一に分散せず、凝集・相分離が発生した誘電エラストマ層においては、電界が高誘電相間に集中し、局所的に高電界となるため、低電圧でも、そこを起点として絶縁破壊が発生する、すなわち、絶縁破壊電圧が低くなる。そして、このような絶縁破壊電圧が低い誘電エラストマ層は、アクチュエータやセンサに適用しても、低電圧でしか使用することができず、出力や感度を十分に向上させることが困難である。
【産業上の利用可能性】
【0101】
以上説明したように、本発明によれば、絶縁破壊電圧の低下が抑制され、誘電率を向上させた誘電エラストマ層を形成することが可能となる。したがって、本発明の高分子アクチュエータは、このような誘電エラストマ層を備えているため、高電圧で作動させることが可能であり、産業用や介護用ロボット、人工筋肉、センサ、ハプティクス等、様々な分野に利用することができる。
図1
図2
図3