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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134301
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】エンジンの油圧制御装置
(51)【国際特許分類】
   F01M 1/16 20060101AFI20240926BHJP
   F02B 55/02 20060101ALI20240926BHJP
   F02B 55/08 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
F01M1/16 C
F02B55/02 A
F02B55/08 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044532
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 健次
(72)【発明者】
【氏名】槇 大地
(72)【発明者】
【氏名】坂井 隆則
(72)【発明者】
【氏名】門脇 寿徳
(72)【発明者】
【氏名】唐津 雄一
【テーマコード(参考)】
3G313
【Fターム(参考)】
3G313AA11
3G313AB02
3G313AB10
3G313BB02
3G313BB14
3G313BC04
3G313BD44
3G313CA02
3G313EA02
3G313EA05
3G313EA08
3G313FA05
3G313FA08
3G313FA09
(57)【要約】
【課題】回転体と固定体との潤滑を適切な状態に維持しつつ、オイルポンプの負荷を低減させることができる。
【解決手段】PCM60は、ロータリエンジン14の始動時において、ロータリエンジン14が冷間状態であるときには、ロータリエンジン14を始動させた後、ロータリエンジン14が温間状態となりかつ検出温度が切替温度以上となったときに、油圧を低油圧にするように油圧切替装置90を制御する。PCM60は、切替温度を、始動時の検出温度であるエンジン始動温度が低い方が、エンジン始動温度が高いときと比較して高い温度に設定する。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体と、該回転体と油膜を介して接触する固定体と、該油膜を形成するオイルを吐出するオイルポンプと、を有するエンジンの油圧制御装置であって、
前記オイルの油圧を低油圧と高油圧とに切り替え可能な油圧切替装置と、
前記エンジンの温度を検出するエンジン温度検出部と、
前記エンジン温度検出部が検出した検出温度に基づいて、前記油圧切替装置を制御するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、
前記エンジンが、前記検出温度が第1所定温度未満である冷間状態とき及び前記検出温度が前記第1所定温度よりも高い第2所定温度以上である高温状態のときには、油圧が前記高油圧となるように前記油圧切替装置を制御し、
前記エンジンが、前記検出温度が前記第1所定温度以上でかつ前記第2所定温度未満である温間状態であるときには、油圧が前記低油圧となるように前記油圧切替装置を制御可能であり、
前記エンジンの始動時において、該エンジンが冷間状態であるときには、該エンジンを始動させた後、該エンジンが温間状態となりかつ前記検出温度が切替温度以上となったときに、油圧が前記低油圧となるように前記油圧切替装置を制御し、
前記切替温度を、始動時における前記検出温度であるエンジン始動温度が低い方が、前記エンジン始動温度が高いときと比較して高い温度に設定することを特徴とするエンジンの油圧制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジンの油圧制御装置において、
前記コントローラは、前記エンジン始動温度が予め設定されかつ前記第1所定温度未満の特定温度以上のときには、前記切替温度を前記第1所定温度に設定することを特徴とするエンジンの油圧制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のエンジンの油圧制御装置において、
前記エンジンは、ロータリエンジンであり、
前記回転体は、ロータであり、
前記固定体は、前記ロータを収容するロータ収容室を構成する一対のサイドハウジングであり、
前記ロータは、回転軸方向の側面に、前記サイドハウジングと油膜を介して接触するロータランドを有することを特徴とするエンジンの油圧制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載のエンジンの油圧制御装置において、
前記ロータランドは鋳鉄製であり、
前記サイドハウジングはアルミニウム製であることを特徴とするエンジンの油圧制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示された技術は、エンジンの油圧制御装置に関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、エンジンのオイルポンプが吐出するオイルの油圧を制御する油圧制御装置が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、オイルの油圧を第1油圧に制御する第1油圧制御手段と、オイルの油圧が所定時間継続して第1油圧に制御された場合に、オイルの油圧を一時的に第1油圧よりも高い油圧である第2油圧に変更する油圧変更手段と、を備えた油圧制御装置が開示されている。
【0004】
また、特許文献1では、エンジン冷却水の水温が低温であるとき及び高温であるときには、油圧を第2油圧にする一方で、水温が低温と高温との間の中間温度のときには、油圧を第1油圧にすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-97390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、例えば、ロータリエンジンにおけるロータとサイドハウジングや、レシプロエンジンにおけるクランクシャフトと軸受のように、回転体と該回転体に接触する可能性のある固定体との間には、摩擦を低減させるためにオイルが供給される。エンジンの温度が低いときには、回転体と固定体との収縮の度合いの違い(熱膨張率の違い)により、エンジンの温度が高いときよりも強く接触するおそれがある。特許文献1の構成では、エンジン冷却水の水温が低いとき、つまりエンジンの温度が低いときに油圧を高くするため、回転体と固定体との間に適切に油膜を形成することが期待される。そして、エンジンがある程度温められたときには、油圧を低くして、オイルポンプの負荷を減らすことができる。
【0007】
しかしながら、回転体と固定体とでは、熱容量の違い等により、暖まりやすさが異なるため、エンジンの温度がかなり低い状態でエンジンを始動させたときには、エンジン水温が油圧を切り替える温度になったとしても、回転体と固定体との接触が強いままである可能性がある。このため、油圧を下げてしまうと、回転体と固定体との間の油膜が不十分となって、大きな摩擦抵抗が発生するおそれがある。
【0008】
ここに開示された技術は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、回転体と固定体との潤滑を適切に維持するとともに、オイルポンプの負荷を低減させることができる油圧制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、ここに開示された技術の第1の態様では、回転体と、該回転体と油膜を介して接触する固定体と、油膜を形成するオイルを吐出するオイルポンプと、を有するエンジンの油圧制御装置を対象として、前記オイルの油圧を低油圧と高油圧とに切り替え可能な油圧切替装置と、前記エンジンの温度を検出するエンジン温度検出部と、前記エンジン温度検出部が検出した検出温度に基づいて、前記油圧切替装置を制御するコントローラと、を備え、前記コントローラは、前記エンジンが、前記検出温度が第1所定未満である冷間状態とき及び前記検出温度が前記第1所定温度よりも高い第2所定温度以上である高温状態のときには、油圧が前記高油圧となるように前記油圧切替装置を制御し、前記エンジンが、前記検出温度が前記第1所定温度以上でかつ前記第2所定温度未満である温間状態であるときには、油圧が前記低油圧となるように前記油圧切替装置を制御可能であり、前記エンジンの始動時において、該エンジンが冷間状態であるときには、該エンジンを始動させた後、該エンジンが温間状態となりかつ前記検出温度が切替温度以上となったときに、油圧が前記低油圧となるように前記油圧切替装置を制御し、前記切替温度を、始動時における前記検出温度であるエンジン始動温度が低い方が、前記エンジン始動温度が高いときと比較して高い温度に設定する、という構成とした。
【0010】
この構成によると、エンジン始動温度がかなり低いときには、エンジンの温度が比較的高くなるまで油圧を高油圧に維持することで、回転体と固定体との接触が強い状態であっても、回転体と固定体と間に適切に油膜を形成することができる。また、回転体と固定体との両方がある程度温められて、接触が弱くなったときには、低油圧に切り替えられるため、回転体と固定体との潤滑を適切な状態に維持しつつ、オイルポンプの負荷を低減させることができる。
【0011】
ここに開示された技術の第2の態様では、前記第1の態様において、前記コントローラは、前記エンジン始動温度が予め設定されかつ前記第1所定温度未満の特定温度以上のときには、前記切替温度を前記第1所定温度に設定する。
【0012】
この構成によると、エンジン始動温度が第1所定温度に近い程、切替温度を単純に第1所定温度に近づけるのではなく、特定温度以上であれば切替温度は第1所定温度に設定される。これにより、エンジンが温間状態になると即座に油圧が低油圧に切り替えられるため、出来る限り早期に油圧を低油圧に切り替えることができる。この結果、オイルポンプの負荷をより低減させることができる。
【0013】
ここに開示された技術の第3の態様では、前記第1又は第2の態様において、前記エンジンは、ロータリエンジンであり、前記回転体は、ロータであり、前記固定体は、前記ロータを収容するロータ収容室を構成する一対のサイドハウジングであり、前記ロータは、回転軸方向の側面に、前記サイドハウジングと油膜を介して接触するロータランドを有する。
【0014】
すなわち、ロータリエンジンでは、ロータ収容室の一部のみで混合気が燃焼するため、ロータに対してサイドハウジングは温まりにくい。このため、エンジンの温度がある程度高くなったとしても、ロータランドとサイドハウジングとが強く接触する可能性が高い。このため、エンジン始動温度に応じて、高油圧と低油圧とを切り替える温度を変えることによる効果をより適切に発揮することができる。
【0015】
ここに開示された技術の第4の態様では、前記第3の態様において、前記ロータランドは鋳鉄製であり、前記サイドハウジングはアルミニウム製である。
【0016】
このように、アルミは鋳鉄と比較して比熱が大きいため、ロータランドと比較して、サイドハウジングは温まりにくい。このため、エンジンの温度がある程度高くなったとしても、ロータランドとサイドハウジングとは強く接触する可能性が高い。このため、エンジン始動温度に応じて、高油圧と低油圧とを切り替える温度を変えることによる効果をより適切に発揮することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、ここに開示された技術によると、回転体と固定体との潤滑を適切な状態に維持しつつ、オイルポンプの負荷を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、油圧制御装置を有するハイブリッド車両の構成図である。
図2図2は、エンジンシステムの概略図である。
図3図3は、ロータリエンジンの側面図である。
図4図4は、図3のIV-IV線相当の断面図である。
図5図5は、図3のV-V線相当の断面図である。
図6図6は、パワートレインの制御系を示す概略図である。
図7図7は、油圧供給システムを示す概略図である。
図8A図8Aは、油圧制御弁の構成を示す概略図であって、高油圧状態を示す図である。
図8B図8Bは、油圧制御弁の構成を示す概略図であって、低油圧状態を示す図である。
図9図9は、エンジン制御の処理を示すフローチャートである。
図10図10は、切替温度設定マップを示す図である。
図11図11は、エンジン水温と油圧との関係を示すチャート図である。
図12図12は、エンジン回転数と油圧との関係を示すグラフである。
図13図13は、冷間状態からエンジンを始動させる際の油圧制御の処理を示すフローチャートである。
図14図14は、温間状態と高温状態との間における油圧制御の処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、例示的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
〈システム構成〉
図1は、実施形態に係るハイブリッド車両1(以下、単に車両1という)を概略的に示す。車両1は、シリーズ式のハイブリッド車両である。車両1は、駆動用モータ2と、減速機3と、バッテリ4と、スタータジェネレータ5と、エンジンシステム6と、を備えている。
【0021】
駆動用モータ2は、車両1の主な駆動源である。駆動用モータ2は、バッテリ4から供給される電力によって駆動する電動モータである。駆動用モータ2からの出力は、減速機3を介して駆動輪7(ここでは前輪)に伝達される。
【0022】
バッテリ4は、例えばリチウムイオン電池で構成されている。バッテリ4は、車室の下側に配置されている。
【0023】
スタータジェネレータ5は、エンジンシステム6を始動させるスタータとしての機能と、エンジンシステム6の回転によって発電するジェネレータとしての機能とを有している。スタータジェネレータ5は、エンジンシステム6の始動時には、バッテリ4からの電力により駆動されて、エンジンシステム6をクランキングすることで、エンジンシステム6を始動させる。スタータジェネレータ5により発電された電力は、バッテリ4に供給されて蓄積されるか、又は駆動用モータ2に直接供給される。
【0024】
エンジンシステム6は、スタータジェネレータ5を作動させて発電を行うための発電用エンジンである。エンジンシステム6は、基本的には、車両1の駆動源としては利用されない。
【0025】
〈エンジンシステムの構成〉
エンジンシステム6は、図2に示すように、ロータリエンジン14を備えている。
【0026】
ロータリエンジン14は、トロコイド状の内周面を有するロータハウジング16と、ロータハウジング16の両側にそれぞれ配置された平面状の内面を有するサイドハウジング18と、ロータハウジング16及びサイドハウジング18に囲まれたロータ収容室に収容された概略三角形状のロータ20と、ロータ20の回転により回転するエキセントリックシャフト22と、を備えている。また、図3に示すように、ロータリエンジン14は、一対のサイドハウジング18をエキセントリックシャフト22の軸方向(以下、単に軸方向という)の外側から覆う一対のサイドカバー17と、オイルが貯留されるオイルパン12とを有する。
【0027】
図4及び図5に示すように、一対のサイドハウジング18は、ロータハウジング16に密着しており、これによりロータ収容室が形成されている。サイドハウジング18及びロータハウジング16には、エンジン冷却水が流通するウォータジャケットWJが形成されている。サイドハウジング18のウォータジャケットWJとロータハウジング16のウォータジャケットWJとは一部が連通している。ロータハウジング16及び各サイドハウジング18は、ともにアルミニウム製又はアルミニウム合金製である。
【0028】
ロータ20は、概略三角形状のロータ本体20aと、ロータ本体20aの軸方向の前記一端側に設けられた内歯車20bと、を有する。
【0029】
ロータ本体20aは、その三角形の頂点部に図示しないアペックスシールを有し、これらアペックスシールがロータハウジング16のトロコイド内周面に摺接している。これにより、ロータ本体20a、ロータハウジング16、及び各サイドハウジング18によりロータ収容室内に3つの作動室24(燃焼室に相当)が画成される。ロータ本体20aは鋳鉄製である。
【0030】
内歯車20bは、ロータ本体20aの側面部に固定されており、ロータ本体20aと一体的に回転する。内歯車20bは、エキセントリックシャフト22に固定された外歯車22aと噛み合う。ロータ20が回転すると、内歯車20bの回転が外歯車22aに伝達されて、エキセントリックシャフト22が回転する。内歯車20bは鋳鉄製である。
【0031】
ロータ20は、軸方向の両側側面に、ロータランド21をそれぞれ有する。ロータランド21は、ロータ20の軸方向のブレを抑制するための部分である。各ロータランド21は、各サイドハウジング18と油膜を介して接触する。軸方向の前記一端側のロータランド21は、内歯車20bに形成されており、軸方向の他端側のロータランド21は、ロータ本体20aに形成されている。各ロータランド21と各サイドハウジング18との間は、数十μm程度の隙間が空いており、この隙間を油膜が埋める。
【0032】
前記油膜を形成するためのオイルは、エキセントリックシャフト22から伝達される。エキセントリックシャフト22内には、軸方向に延びかつオイルが流通する軸内油路22bが形成されている。図5に示すように、軸内油路22bからは、エキセントリックシャフト22の径方向(以下、単に径方向という)に延びる分岐油路22cが形成されており、該分岐油路22cからロータランド21とサイドハウジング18との間にオイルが供給される。尚、図示は省略しているが、ロータランド21の前記径方向外側には、オイルが作動室24に漏れ出るのを抑制するためのオイルシールが配置される。
【0033】
ロータ20は、3つのアペックスシールが各々ロータハウジング16のトロコイド内周面に当接した状態でエキセントリックシャフト22の周りを自転しながら、該エキセントリックシャフト22の軸心周りに公転するようになっている。ロータ20が1回転する間に、該ロータ20の各頂点部間にそれぞれ形成された作動室24が周方向に移動しながら、吸気、圧縮、膨張(燃焼)及び排気の各行程を行い、これにより発生する回転力がロータ20からエキセントリックシャフト22に伝達される。
【0034】
サイドカバー17には、エキセントリックシャフト22が貫通する貫通孔が形成されている。エキセントリックシャフト22の軸方向の一端部には、ウォータポンプをベルト駆動するためのプーリー23が設けられている。図4及び図5に示すように、サイドカバー17とサイドハウジング18との間には、空間が形成されている。この空間には、後述する油圧切替装置90などが配置される。
【0035】
図2に戻って、ロータリエンジン14は、燃料を作動室24内に噴射するインジェクタ54と、作動室24内で形成された混合気に着火するための点火プラグ26と、作動室24内に吸気を導入するための吸気ポート28と、排気ガスを作動室24から排出するための排気ポート30と、を有する。インジェクタ54は、ロータハウジング16に取り付けられている。インジェクタ54は、燃料供給通路を介して燃料タンクに接続され(何れも図示省略)、この燃料タンクから燃料が供給されるようになっている。点火プラグ26は、ロータハウジング16に取り付けられている。吸気ポート28及び排気ポート30は、サイドハウジング18に形成されている。吸気ポート28には、吸気通路32が接続されている。吸気(空気)は、吸気通路32を介して作動室24内に導入される。また、排気ポート30には、排気通路34が接続されている。排気ガスは、排気通路34を介して作動室24から排出される。吸気通路32には、スロットルバルブ38が設けられ、さらにその上流側にはエアクリーナ42が設けられている。排気通路34には、排気ガスを浄化する排気触媒36が設けられている。
【0036】
ロータ20は、図2において時計回りに回転する。図2に示す状態では、ロータ20の右上の作動室24において圧縮行程が行われ、右下の作動室24において膨張(爆発)行程が行われている。図2の例では、ロータ20は時計回りに回転するので、作動室24のリーディング側(進み側、つまりロータ回転方向の前方側)とは作動室24の時計回り側(つまりロータ20の右上の作動室24では右下側、右下の作動室24においては左下側)であり、トレーリング側(遅れ側、つまりロータ回転方向の後方側)とは作動室24の反時計回り側(つまりロータ20の右上の作動室24では左上側、右下の作動室24においては右上側)である。
【0037】
ロータリエンジン14には、エキセントリックシャフト22の回転角度を検出するエキセントリックシャフト角センサ70が取り付けられている。エキセントリックシャフト角センサ70が検出した回転角度からエキセントリックシャフト22の回転数、つまりロータリエンジン14のエンジン回転数を検出することができる。また、ロータリエンジン14には、ロータリエンジン14のオイルポンプ(図7参照)から吐出されるオイルの油圧を検出する油圧センサ77(図6参照)が取り付けられている。また、図2では省略しているが、エンジン冷却水の温度(以下、エンジン水温という)を検出する水温センサ71(図6参照)は、ロータリエンジン14に設けられている。水温センサ71は、ウォータジャケットWJ内に臨んでいて、ウォータジャケットWJ内を流れるエンジン冷却水の水温を検出する。
【0038】
エンジンシステム6は、ECM(Engine Control Module)により制御される。ECM62は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラである。ECM62は、1つ又は複数のプロセッサ62a、と各種プログラムを記憶する記憶部62bとを備えている。プロセッサ62aは典型的にCPUであり、記憶部62bは典型的にはROMやRAMである。
【0039】
詳しくは後述するが、ECM62は、前述した各種センサ70,71,77や後述するPCM(Powertrain Control Module)60から入力された信号に基づき、ロータリエンジン14の点火プラグ26、インジェクタ54、油圧切替装置90などの各デバイスの制御量を演算し、演算した制御量に対応する電気信号をそれらのデバイスに出力する。PCM60は、駆動用モータ2、減速機3、バッテリ4、スタータジェネレータ5、エンジンシステム6などを含む車両1の動力系統全体の制御を行うコントローラであり、1つ以上のプロセッサ(典型的にはCPU)、各種プログラムを記憶する記憶部(典型的にはROM、RAMなど)などを備えている。
【0040】
〈エンジン制御システム〉
次に、図6を参照して、本実施形態による車両1におけるエンジン制御システムの概要を説明する。図6は本実施形態による車両1の制御ブロック図である。
【0041】
車両1のバッテリ4には、バッテリ4の出力電圧を検出する電圧センサ72と、バッテリ4の出力電流を検出する電流センサ73が設けられている。これらの電圧センサ72及び電流センサ73は、それぞれの検出値に対応する電気信号をBCM(Battery Control Module)64に出力する。BCM64は、主にバッテリ4の充放電制御を行うコントローラであり、1つ以上のプロセッサ(典型的にはCPU)、各種プログラムを記憶する記憶部(ROM、RAMなど)などを備えている。
【0042】
BCM64は、電圧センサ72及び電流センサ73から入力されたバッテリ4の電圧値及び電流値から、バッテリ4のSOC(State of Charge、以下単にバッテリSOCという)を推定し、PCM64に出力する。
【0043】
バッテリ4には、該バッテリ4の温度(以下、単にバッテリ温度という)を検出するバッテリ温度センサ74が設けられている。バッテリ温度センサ74は、検出したバッテリ温度をBCM64に送信する。BCM64は、バッテリ温度をPCM60に送信する。
【0044】
PCM60は、車両1のアクセルペダル(図示省略)の開度を検出するアクセル開度センサ75からアクセル開度を取得する。PCM60は、検出されたアクセル開度に基づいて、駆動用モータ2の要求駆動力を算出して、DMCM(driving Motor Control Module)66に出力する。DMCM66は、主にスタータジェネレータ5の制御を行うコントローラであり、1つ以上のプロセッサ(典型的にはCPU)、各種プログラムを記憶する記憶部(ROM、RAMなど)などを備えている。
【0045】
PCM60は、要求駆動力に基づいて、駆動用モータ2に供給すべき電力を算出する。PCM60は、算出した電力が駆動用モータ2に供給されるようにBCM64に出力する。
【0046】
PCM60は、BCM64から入力されたSOCと、アクセル開度センサ75から入力されたアクセル開度とに基づいて、要求発電電力を算出する。PCM60は、該要求発電電力を得るために必要なロータリエンジン14の回転数(要求エンジン回転数)及び負荷(要求エンジン負荷)を算出して、ECM62に出力する。
【0047】
PCM60は、エンジンシステム6を始動させる場合、スタータジェネレータ5によりロータリエンジン14のエキセントリックシャフト22を回転させる際の回転数(要求回転数)及び回転数の上昇速度(回転上昇率)を算出し、SGCM(Starter Generator Control Module)68に出力する。SGCM68は、主にスタータジェネレータ5の制御を行うコントローラであり、1つ以上のプロセッサ(典型的にはCPU)、各種プログラムを記憶する記憶部(ROM、RAMなど)などを備えている。
【0048】
PCM60は、車両1の車速を検出する車速センサ76からの出力を取得する。
【0049】
PCM60は、ECM62を介して、エンジン回転数、エンジン水温、油圧に関する情報を取得する。PCM60は、エンジン水温をロータリエンジン14の温度とみなす。本実施形態では、詳しくは後述するが、PCM60は、エンジン回転数及びエンジン水温に基づいて、油圧切替装置90をオン状態又はオフ状態にするための制御信号をECM62に出力する。ECM62は、PCM60から信号に基づいて、油圧切替装置90を制御する。PCM60は、コントローラの一例である。
【0050】
〈油圧制御システム〉
次に、ロータリエンジン14に搭載された油圧制御システム80について説明する。
【0051】
図7に示すように、オイルは、オイルパン12からオイルポンプ81により汲み上げられ、フィルタ83により濾過されて、給油路84に送られる。オイルポンプ81は、ロータリエンジン14の回転により駆動する機械式のオイルポンプである。オイルポンプ81から吐出されるオイルの油圧は、基本的にはエンジン回転数が高いほど高くなる。
【0052】
給油路84は、ロータリエンジン14の本体に穿設されたり、パイプが配置されたりすることで形成されている。給油路84は、主にロータランド21のような潤滑部に供給する給油路である。潤滑部に到達したオイルは、不図示のドレン油路を通って、オイルパン12に戻る。
【0053】
また、油圧制御システム80は、給油路84に過剰に油圧が供給されないように、油圧が所定値を超えるとオイルポンプ81とフィルタ83との間のオイル経路部分からオイルパン12に過剰な油圧(油量)を逃がすリリーフ弁85が設けられている。
【0054】
給油路84には、潤滑部に供給するオイル量、すなわち油圧を制御するための油圧切替装置90が設けられている。油圧切替装置90は、高油圧状態と低油圧状態との二つの状態に油圧を切り替える。図8A及び図8Bに示すように、油圧切替装置90は、本体部91と、切替弁92と、調整弁93とを有する。
【0055】
本体部91は、切替弁92が配置された第1弁室91aと、調整弁93が配置された第2弁室91bと、給油路84に連通する第1油路91cと、第1弁室91aと第2弁室91bとを連通する第2油路91dと、を有する。第2弁室91bは、給油路84と前記ドレン油路とに連通していて、給油路84と前記ドレン油路とを連通させることが可能な室である。
【0056】
切替弁92は、第1弁室91a内を往復駆動可能なスループ弁で構成されている。切替弁92は、第1油路91cと第2油路91dとを連通させるための連通油路92aを有している。切替弁92は、ECM62からのオンオフ信号により作動する。具体的には、切替弁92がオフ状態のときは、図8Aに示すように、第1油路91cと第2油路91dとは連通されず、切替弁92により第1油路91cのオイルがせき止められる。一方で、切替弁92がオン状態のときは、図8Bに示すように、第1油路91cと第2油路91dとが連通油路92aにより連通されて、第1油路91cのオイルが第2油路91dに流れる。
【0057】
調整弁93は、給油路84からオイルを塞ぐ閉塞位置(図8A参照)と、給油路84と前記ドレン油路とを連通させるリリーフ位置(図8B参照)とに移動可能な弁である。調整弁93の一端部にはリターンスプリング93aが設けられている。調整弁93は、調整弁93に第2油路91dから油圧が作用していないときには、リターンスプリング93aの付勢力により前記閉塞位置に位置する一方で、調整弁93に第2油路91dから油圧が作用したときには、リターンスプリング93aの付勢力に抗して前記リリーフ位置に移動する。
【0058】
図8Aに示すように、切替弁92がオフ状態のときには、第1油路91cと第2油路91dとが非連通状態となって、調整弁93が前記閉塞位置に位置する。このときには、油圧切替装置90は、給油路84と前記ドレン油路とが連通させず、給油路84の油圧を高油圧状態に切り替える。一方で、図8Bに示すように、切替弁92がオン状態のときには、第1油路91cと第2油路91dとが連通状態であるため、調整弁93が前記リリーフ位置に位置する。このときには、油圧切替装置90は、給油路84と前記ドレン油路とを連通させて、給油路84の油圧を低油圧状態に切り替える。
【0059】
〈エンジン駆動時の制御処理〉
次に、エンジン駆動時のPCM60の処理制御について、図9のフローチャートを参照しながら説明する。
【0060】
まず、ステップS101において、PCM60は各種センサからの信号を読み込む。
【0061】
次に、ステップS102において、PCM60は駆動用モータ2で出力すべき要求駆動力を算出する。
【0062】
次いで、ステップS103において、PCM60は、発電要求があるか否かを判定する。この発電要求は、スタータジェネレータ5で発電した電力を駆動用モータ2に供給するための発電要求と、該電力をバッテリ4に供給するための発電要求とを含んでいる。PCM60は、発電要求があるYESのときにはステップS104に進む一方で、発電要求がないNOのときには前記ステップS101に戻る。
【0063】
前記ステップS104では、PCM60は、スタータジェネレータ5を作動させて、ロータリエンジン14を始動させる。
【0064】
次に、ステップS105において、PCM60は、要求発電電力を算出する。
【0065】
次いで、ステップS106において、PCM60は、前記ステップS107で算出した要求発電電力で発電されるように、スタータジェネレータ5及びエンジンシステム6を制御する。PCM60は、要求発電電力に基づいて、スタータジェネレータ5の作動点と、エンジンシステム6の作動点とをそれぞれ設定して、各作動点でスタータジェネレータ5及びエンジンシステム6を作動させる。
【0066】
次に、ステップS107において、PCM60は、発電要求がないか否かを判定する。PCM60は、発電要求がないYESのときにはステップS108に進む。一方で、PCM60は、発電要求があるNOのときには、前記ステップS105に戻る。
【0067】
前記ステップS108では、PCM60はロータリエンジン14を停止させる。ステップS108の後は、PCM60はリターンする。
【0068】
〈エンジン始動時の油圧制御〉
ロータリエンジン14を作動させるときには、ロータ20が適切に回転できるように、各ロータランド21と各サイドハウジング18との間に適切に油膜を形成する必要がある。ロータ20とサイドハウジング18とでは材質が異なるため、熱収縮の度合いの違い(熱膨張率の違い)により、エンジン水温が低いとき、すなわちロータリエンジン14が冷間状態であるときには、ロータランド21とサイドハウジング18とが、温間状態や高温状態のときよりも強く接触するおそれがある。このため、冷間状態において適切な油膜を形成するためには油圧を高くする必要がある。また、エンジン水温がかなり高いとき、すなわちロータリエンジン14が高温状態であるときには、オイルの粘度がかなり低く、適切な油膜を形成するために多くのオイルを供給する必要がある。このため、高温状態において適切な油膜を形成するときにも油圧を高くする必要がある。一方で、エンジン水温が冷間状態よりも高くかつ高温状態よりも低い適当な温度であるとき、すなわちロータリエンジン14が温間状態であるときには、オイルの粘度が適当な粘度になっているため、油圧を低くしたとしても適切な油膜を形成することができる。このため、本実施形態では、PCM60は、エンジン水温が第1所定温度Tb1未満の冷間状態であるとき、及びエンジン水温が第2所定温度Tb2以上の高温状態であるときには、給油路84の油圧が高油圧になるように油圧切替装置90を制御する。一方で、PCM60は、エンジン水温が第1所定温度Tb1以上でかつ第2所定温度Tb2未満である温間状態であるときには、油圧切替装置90により、給油路84の油圧を低油圧に切替可能にする。これにより、冷間状態及び高温状態でロータランド21とサイドハウジング18との間に適切に油膜を形成することができるとともに、温間状態においてオイルポンプ81の負荷を低減して、燃費を向上させることができる。
【0069】
しかしながら、ロータランド21とサイドハウジング18とでは熱容量が異なる。また、ロータ20とサイドハウジング18とでは3つの作動室24の中でも燃料を燃焼させる燃焼室と接触する面積が大きく異なる。これにより、ロータランド21とサイドハウジング18とでは暖まりやすさが異なる。このため、冷間状態のなかでもロータリエンジン14の温度がかなり低い状態で、該ロータリエンジン14を始動させたときには、エンジン水温が第1所定温度Tb1以上になったとしても、ロータランド21とサイドハウジング18との接触が強いままである可能性がある。このような状態で、油圧を低油圧に切り替えてしまうと、ロータランド21とサイドハウジング18との間の油膜が不十分となって、大きな摩擦抵抗が発生するおそれがある。
【0070】
そこで、本実施形態では、PCM60は、ロータリエンジン14の始動時におけるエンジン水温(以下、エンジン始動温度という)に基づいて、給油路84の油圧を高油圧から低油圧に切り替えるエンジン水温である切替温度を変更するようにした。具体的には、エンジン始動温度が低い方が、エンジン始動温度が高いときと比較して前記切替温度を高い温度に設定するようにした。尚、「給油路84の油圧を高油圧から低油圧に切り替える」とは、「油圧切替装置90の切替弁92をオフ状態からオン状態に切り替える」と同義である。
【0071】
図10は、切替温度を設定する切替温度設定マップ100を示す。図10において、縦軸は切替温度であり、横軸はエンジン始動温度である。ここで示す切替温度設定マップ100は、ロータリエンジン14が冷間状態から温間状態になったときにおける、油圧切替装置90の切替弁92をオフ状態からオン状態に切り替える切替温度を示している。切替温度設定マップ100は、PCM60の記憶部に記憶されている。
【0072】
図10に示すように、エンジン始動温度が、第1特定温度Ts1と、該第1特定温度Ts1よりも高温の第2特定温度Ts2との間の温度であるときには、切替温度は、エンジン始動温度が低いほど高い温度に設定される。ここでは、エンジン始動温度に対する切替温度の変化は、非線形になっている。尚、エンジン始動温度に対する切替温度の変化は、線形になっていてもよい。
【0073】
一方で、エンジン始動温度が、第1特定温度Ts1以下であるときには、切替温度は第1切替温度Tc1に設定される。また、エンジン始動温度が、第2特定温度Ts2以上でかつ第1所定温度Tb1未満あるときには、切替温度は、第1切替温度Tc1よりも低温の第2切替温度Tc2に設定される。第2切替温度Tc2は、第1所定温度Tb1と等しい。つまり、エンジン始動温度が、第2特定温度Ts2以上でかつ第1所定温度Tb1未満であるときには、切替温度は第1所定温度Tb1に設定されると言える。第1特定温度Ts1は、例えば-30℃であり、第2特定温度Ts2は、例えば-10℃である。第1切替温度Tc1は、例えば20℃程度であり、第2切替温度Tc2は、例えば5℃程度である。
【0074】
エンジン始動温度が、第1所定温度Tb1以上であるときには、温間状態でのエンジン始動であるため、冷間状態と温間状態との間での油圧の切替温度は設定されない。
【0075】
図11は、給油路84の油圧を切り替える際のチャートを示す。縦軸は、切替弁92のオン及びオフを示し、横軸はエンジン水温を示している。図11は、ロータリエンジン14を冷間状態で始動させたことを前提としている。また、図11では、エンジン始動温度で切替温度が異なることを示すために、低温側については複数例示しているが、高温側については、切替温度が一定値に決まっているため1つのみ例示している。
【0076】
図11に示すように、まず、初期状態では冷間状態であるため、切替弁92はオフ状態である。ロータリエンジン14を始動させた後、エンジン水温が上昇して、切替温度設定マップ100に従って設定された切替温度に到達したときには、切替弁92はオフ状態からオン状態に切り替えられる。そして、温間状態でエンジン水温が上昇して、第2切替温度Tc2よりも高い第4切替温度Tc4に到達したときには、切替弁92はオン状態からオフ状態に切り替えられる。その後、エンジン水温が低下して、第2切替温度Tc2よりも高くかつ第4切替温度Tc4よりも低い第3切替温度Tc3に到達したときには、切替弁92は、再びオフ状態からオン状態に切り替えられる。第3切替温度Tc3及び第4切替温度Tc4は、エンジン始動温度に関わらず一定の値に設定されている。尚、第4切替温度Tc4は、第2所定温度Tb2に等しい。
【0077】
尚、冷間状態と温間状態との間において、切替弁92をオン状態からオフ状態に切り替える切替温度は、エンジン始動温度に関わらず第2切替温度Tc2に設定されている。しかしながら、ロータリエンジン14の作動中に温間状態から冷間状態になることは基本的にないので、冷間状態と温間状態との間における、切替弁92をオン状態からオフ状態に切り替える切替温度は設定しなくてもよい。
【0078】
ここで、本実施形態では、ロータリエンジン14が温間状態であるときには、エンジン回転数によっても、給油路84の油圧が切り替えられる。具体的には、図12に示すように、エンジン回転数が第1所定回転数R1以上でかつ第2所定回転数R2未満であるときには低油圧に切り替えられる一方、エンジン回転数が第2所定回転数以上であるときには高油圧に切り替えられる。第2所定回転数は、例えば3600rpm程度である。
【0079】
エンジン回転数が高いときには、油膜切れが発生しやすいため、油圧を高くして出来る限り多くのオイルを供給する必要がある。このため、エンジン回転数が第2所定回転数以上であるときには、たとえロータリエンジン14が温間状態、特にエンジン水温が切替温度以上になったとしても、切替弁92をオフ状態のままにして、給油路84を高油圧状態に維持する。
【0080】
尚、本実施形態では、第1所定回転数R1未満の回転数ではロータリエンジン14を作動させないため、図12では第1所定回転数R1未満の領域には油圧が表示されていない。
【0081】
次に、ロータリエンジン14を冷間状態から始動させる際のPCM60による油圧制御の処理を、図13に示すフローチャートに基づいて説明する。尚、図13に示すフローチャートは、スタート時点においてロータリエンジン14が冷間状態であることを前提としている。
【0082】
まず、ステップS201において、PCM60は、水温センサ71からエンジン始動温度を読み込む。
【0083】
次に、ステップS202において、PCM60は、切替弁92をオフ状態にする。これにより給油路84は高油圧状態になる。
【0084】
次いで、ステップS203において、PCM60は、切替温度を設定する。PCM60は、前記ステップS201で読み込んだエンジン始動温度を切替温度設定マップ100に当てはめて、切替温度を設定する。
【0085】
次に、ステップS204において、PCM60は、エンジン水温Twを読み込む。
【0086】
次いで、ステップS205において、PCM60は、エンジン水温Twが前記ステップS203で設定した切替温度以上であるか否かを判定する。PCM60は、エンジン水温Twが切替温度以上であるYESのときにはステップS206に進む。一方で、PCM60は、エンジン水温Twが切替温度未満であるNOのときには、ステップS208に進む。
【0087】
前記ステップS206では、PCM60は、エンジン回転数が第2所定回転数R2未満であるか否かを判定する。PCM60は、エンジン回転数が第2所定回転数R2未満であるYESのときにはステップS207に進む。一方で、PCM60は、エンジン回転数が第2所定回転数R2以上であるNOのときには、ステップS208に進む。尚、ロータリエンジン14が始動した後であるため、エンジン回転数は当然第1所定回転数R1以上である。
【0088】
前記ステップS207では、PCM60は、切替弁92をオン状態にする。これにより給油路84は低油圧状態になる。
【0089】
一方で、前記ステップS208では、PCM60は、切替弁92をオフ状態にする。これにより給油路84は高油圧状態になる。
【0090】
PCM60は、前記ステップS207及びS208の後は、しかる後にリターンする。
【0091】
以上のようにして、冷間状態と温間状態との間において、高油圧状態(切替弁92がオフ状態)と低油圧状態(切替弁92がオン状態)とが切り替えられる。これにより、ロータランド21とサイドハウジング18との間に適切に油膜を形成することができるとともに、温間状態においてオイルポンプ81の負荷を低減して、燃費を向上させることができる。
【0092】
次に、温間状態と高温状態との間における、PCM60による油圧制御の処理を、図14に示すフローチャートに基づいて説明する。尚、図14に示すフローチャートは、スタート時点においてロータリエンジン14が温間状態であることを前提としている。
【0093】
まず、ステップS301において、PCM60は、エンジン水温を読み込む。
【0094】
次に、ステップS302において、PCM60は、エンジン水温Twが第4切替温度Tc4以上であるか否かを判定する。PCM60は、エンジン水温Twが第4切替温度Tc4以上であるYESのときにはステップS303に進む。一方で、PCM60は、エンジン水温Twが第4切替温度Tc4未満であるNOのときには、前記ステップS301に戻る。
【0095】
前記ステップS303では、切替弁92をオフ状態にする。これにより給油路84は高油圧状態になる。
【0096】
次に、ステップS304において、PCM60は、エンジン水温Twを再び読み込む。
【0097】
次いで、ステップS305において、PCM60は、エンジン水温Twが第3切替温度未満であるか否かを判定する。PCM60は、エンジン水温Twが第3切替温度未満であるYESのときにはステップS306に進む。一方で、PCM60は、エンジン水温Twが第3切替温度以上であるNOのときには、前記ステップS304に戻る。
【0098】
前記ステップS306では、PCM60は、切替弁92をオン状態にする。これにより給油路84は低油圧状態になる。
【0099】
PCM60は、前記ステップS306の後は、しかる後にリターンする。
【0100】
以上のようにして、温間状態と高温状態との間において、高油圧状態(切替弁92がオフ状態)と低油圧状態(切替弁92がオン状態)とが切り替えられる。これにより、ロータランド21とサイドハウジング18との間に適切に油膜を形成することができるとともに、温間状態においてオイルポンプ81の負荷を低減して、燃費を向上させることができる。
【0101】
〈実施形態の効果〉
以上のように、本実施形態では、PCM60は、ロータリエンジン14が、エンジン水温Twが第1所定温度Tb1未満である冷間状態とき及びエンジン水温Twが第1所定温度よりも高い第2所定温度Tb2以上である高温状態のときには、油圧が高油圧となるように油圧切替装置90を制御し、ロータリエンジン14が、エンジン水温Twが第1所定温度Tb1以上でかつ第2所定温度Tb2未満である温間状態であるときには、油圧が低油圧となるように油圧切替装置90を制御可能であり、ロータリエンジン14の始動時において、ロータリエンジン14が冷間状態であるときには、ロータリエンジン14を始動させた後、ロータリエンジン14が温間状態となりかつエンジン水温Twが切替温度以上となったときに、油圧が低油圧となるように油圧切替装置90を制御し、切替温度を、始動時におけるエンジン水温であるエンジン始動温度が低い方が、エンジン始動温度が高いときと比較して高い温度に設定する。これにより、エンジン始動温度がかなり低いときには、ロータリエンジン14の温度が比較的高くなるまで油圧を高油圧に維持することで、ロータランド21とサイドハウジング18との接触が強い状態であっても、ロータランド21とサイドハウジング18との間に適切に油膜を形成することができる。また、ロータランド21とサイドハウジング18との両方がある程度温められて、接触が弱くなったときには、低油圧に切り替えられるため、ロータランド21とサイドハウジング18との潤滑を適切な状態に維持しつつ、オイルポンプ81の負荷を低減させることができる。また、オイルポンプ81の負荷が低減することにより、燃費を向上させることもできる。
【0102】
また、本実施形態では、PCM60は、エンジン始動温度が予め設定されかつ第1所定温度Tb1未満の第2特定温度Ts2以上のときには、切替温度を第1所定温度Tb1に設定する。これにより、ロータリエンジン14が温間状態になると即座に油圧が低油圧に切り替えられるため、出来る限り早期に油圧を低油圧に切り替えることができる。この結果、オイルポンプの負荷をより低減させることができ、燃費を向上させることができる。
【0103】
また、本実施形態では、PCM60は、エンジン始動温度が予め設定されかつ第2特定温度Ts2未満の第1特定温度Ts1未満のときには、切替温度を一定の第2切替温度Tc2に設定する。これにより、出来る限り早期に油圧を低油圧に切り替えることができる。この結果、オイルポンプの負荷をより低減させることができ、燃費を向上させることができる。
【0104】
また、本実施形態では、ロータランド21は鋳鉄製であり、サイドハウジング18はアルミニウム製である。アルミニウムは鋳鉄と比較して比熱が大きいため、ロータランド21と比較して、サイドハウジング18は温まりにくい。このため、ロータリエンジン14の温度がある程度高くなったとしても、ロータランド21とサイドハウジング18とは強く接触する可能性が高い。このため、エンジン始動温度に応じて、高油圧と低油圧とを切り替える温度を変えることによる効果をより適切に発揮することができる。
【0105】
(その他の実施形態)
ここに開示された技術は、前述の実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
【0106】
例えば、前述の実施形態では、水温センサ71の検出結果に基づく油圧切替装置90の制御をPCM60が行っていた。これに限らず、ECM62が、水温センサ71の検出結果に基づいて油圧切替装置90の制御を行うようにしてもよい。
【0107】
また、前述の実施形態では、エンジンとしてロータリエンジン14を例示したが、これに限らずレシプロエンジンであってもよい。レシプロエンジンであっても、回転体としてのクランクシャフトと固定体としての軸受との間の潤滑が問題になるため、本実施形態のような油圧制御装置により、クランクシャフトと軸受との潤滑を適切な状態に維持しつつ、オイルポンプの負荷を低減させるという効果を発揮することができる。
【0108】
前述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本開示の範囲を限定的に解釈してはならない。本開示の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本開示の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0109】
ここに開示された技術は、回転体と、回転体と油膜を介して接触する固定体と、油膜を形成するオイルを吐出するオイルポンプと、を有するエンジンの油圧制御装置として有用である。
【符号の説明】
【0110】
14 ロータリエンジン
18 サイドハウジング(固定体)
20 ロータ(回転体)
21 ロータランド
60 PCM(コントローラ)
62 ECM(コントローラ)
71 水温センサ(エンジン温度検出部)
81 オイルポンプ
90 油圧切替装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12
図13
図14