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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134302
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】収音装置、プログラム及び方法
(51)【国際特許分類】
   H04R 3/00 20060101AFI20240926BHJP
【FI】
H04R3/00 320
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044535
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】江波戸 明彦
(72)【発明者】
【氏名】蛭間 貴博
【テーマコード(参考)】
5D220
【Fターム(参考)】
5D220BA06
5D220BC05
(57)【要約】
【課題】特定の位置の音源の音を収音できる収音装置、プログラム及び方法を提供すること。
【解決手段】収音装置は、音響フィルタ係数計算部を備える。音響フィルタ係数計算部は、2つ以上のマイクロホンによる音圧感度の高い増感制御点における増倍率と、2つ以上のマイクロホンのそれぞれと増感制御点との間の伝達関数とに基づいて、2つ以上のマイクロホンでそれぞれ得られたマイク取得信号に対して適用される音響フィルタの音響フィルタ係数の間の第1の関係式を計算し、音源の周波数の情報と、2つ以上のマイクロホンの間隔とに基づいて、音響フィルタ係数の間の第2の関係式を計算し、第1の関係式と第2の関係式とに基づいて、それぞれの音響フィルタ係数を計算する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つ以上のマイクロホンによる音圧感度の高い増感制御点における増倍率と、前記2つ以上のマイクロホンのそれぞれと前記増感制御点との間の伝達関数とに基づいて、前記2つ以上のマイクロホンでそれぞれ得られたマイク取得信号に対して適用される音響フィルタの音響フィルタ係数の間の第1の関係式を計算し、
音源の周波数の情報と、前記2つ以上のマイクロホンの間隔とに基づいて、前記音響フィルタ係数の間の第2の関係式を計算し、
前記第1の関係式と前記第2の関係式とに基づいて、それぞれの音響フィルタ係数を計算する、
音響フィルタ係数計算部を具備する収音装置。
【請求項2】
前記音響フィルタ係数計算部は、前記2つ以上のマイクロホンを2つ以上のスピーカとみたときの音響パワーが最小になるように、前記第2の関係式を計算する、請求項1に記載の収音装置。
【請求項3】
前記音響フィルタが適用された前記マイク取得信号に基づいて前記音源の位置を推定する制御装置をさらに具備する、請求項1に記載の収音装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記音響フィルタが適用された前記マイク取得信号において最も音圧レベルの高い位置を前記音源の位置と推定する、請求項3に記載の収音装置。
【請求項5】
前記2つ以上のマイクロホンは、間隔の異なる複数の組のマイクロホンを含み、
前記音響フィルタ係数は、それぞれの組を構成するマイクロホンについて計算され、
それぞれの組について計算された前記音響フィルタ係数が適用された前記マイク取得信号を加算する制御装置をさらに具備する、請求項1に記載の収音装置。
【請求項6】
コンピュータを、請求項1乃至5の何れか1項に記載の収音装置が備える各部として機能させるための収音プログラム。
【請求項7】
2つ以上のマイクロホンによる音圧感度の高い増感制御点における増倍率と、前記2つ以上のマイクロホンのそれぞれと前記増感制御点との間の伝達関数とに基づいて、前記2つ以上のマイクロホンでそれぞれ得られたマイク取得信号に対して適用される音響フィルタの音響フィルタ係数の間の第1の関係式を計算することと、
音源の周波数の情報と、前記2つ以上のマイクロホンの間隔とに基づいて、前記音響フィルタ係数の間の第2の関係式を計算することと、
前記第1の関係式と前記第2の関係式とに基づいて、それぞれの音響フィルタ係数を計算することと、
を具備する収音方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、収音装置、プログラム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
対象物から発される音をマイクロホン(マイク)を用いて検知することで対象物の位置を検知する技術が知られている。このような技術において、対象物の周囲に複数の音源があると、対象物からの音に加えて周囲の音もマイクで検知されてしまう。このような周囲の音により、対象物の位置推定の精度は劣化する。特定の方向に対して音圧感度を有する指向性マイクもあるが、指向性マイクであっても特定の位置の音源からの音を選択的に収音することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-006253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
実施形態は、特定の位置の音源の音を収音できる収音装置、プログラム及び方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一態様の収音装置は、音響フィルタ係数計算部を備える。音響フィルタ係数計算部は、2つ以上のマイクロホンによる音圧感度の高い増感制御点における増倍率と、2つ以上のマイクロホンのそれぞれと増感制御点との間の伝達関数とに基づいて、2つ以上のマイクロホンでそれぞれ得られたマイク取得信号に対して適用される音響フィルタの音響フィルタ係数の間の第1の関係式を計算し、音源の周波数の情報と、2つ以上のマイクロホンの間隔とに基づいて、音響フィルタ係数の間の第2の関係式を計算し、第1の関係式と第2の関係式とに基づいて、それぞれの音響フィルタ係数を計算する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、第1の実施形態に係る収音装置の構成の一例を示す図である。
図2図2は、制御装置に含まれる要素を示すブロック図である。
図3図3は、増音制御の概念図である。
図4図4は、音響パワー最小化制御の概念図である。
図5図5は、式(9)の結果に従って設定された音響フィルタが用いられるマイクの音圧感度分布を示す図である。
図6図6は、マイク間隔及び周波数の決定を含む空間音場設計の流れを示すフローチャートである。
図7A図7Aは、音響フィルタ係数が設定されたマイクに対して種々の位置に置かれた音源から放射された音をマイクで収集し、収集した音の騒音レベルを測定する実験の実験結果を示す図である。
図7B図7Bは、音響フィルタ係数が設定されたマイクに対して種々の位置に置かれた音源から放射された音をマイクで収集し、収集した音の騒音レベルを測定する実験の実験結果を示す図である。
図7C図7Cは、音響フィルタ係数が設定されたマイクに対して種々の位置に置かれた音源から放射された音をマイクで収集し、収集した音の騒音レベルを測定する実験の実験結果を示す図である。
図7D図7Dは、音響フィルタ係数が設定されたマイクに対して種々の位置に置かれた音源から放射された音をマイクで収集し、収集した音の騒音レベルを測定する実験の実験結果を示す図である。
図8図8は、実験におけるマイクの音圧感度分布を示す図である。
図9A図9Aは、図7Aの実験におけるマイクと音源との位置関係を示す図である。
図9B図9Bは、図7Bの実験におけるマイクと音源との位置関係を示す図である。
図9C図9Cは、図7Cの実験におけるマイクと音源との位置関係を示す図である。
図9D図9Dは、図7Dの実験におけるマイクと音源との位置関係を示す図である。
図10図10は、第2の実施形態における収音装置の構成の一例を示す図である。
図11図11は、マイクの数が4個であるときの増感制御点の設定例を示す図である。
図12図12は、収音装置のハードウェア構成の一例について示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
(第1の実施形態)
第1の実施形態を説明する。図1は、第1の実施形態に係る収音装置の構成の一例を示す図である。収音装置100は、マイクロホン(マイク)101L、101C、101Rと、信号処理装置102と、制御装置103とを有している。実施形態では、スピーカから空間場までの音の伝達系と音源からマイクまでの音の伝達系に相反定理が成り立つことを利用して、複数のスピーカを用いた増音制御及び音響パワー最小化制御において得られたフィルタ制御則をマイク収音システムに適用することにより、マイク101L、101Cの、101Rの周囲のある特定の増感エリアA1からの音に対する感度を擬似的に増加させる増感制御と、増感エリアA1以外の減感エリアA2からの音に対する感度を擬似的に低減させる減感制御とが実施される。増感エリアA1に音源SRが位置している場合、音源SRからの音だけが高い感度で収音される。これにより、音源SRの正確な位置が推定され得る。
【0008】
増音制御は、複数のスピーカから放射される音の振幅を制御することによってある特定の方向の音圧を増加させる制御である。一方、音響パワー最小化制御は、複数のスピーカから放射される音の振幅と位相とを制御することによって複数のスピーカを1つのスピーカと見たときの音響パワーを最小化する制御である。増音制御と音響パワー最小化制御とが組み合わせて用いられることにより、スピーカの周辺の比較的に狭い空間内に音圧レベルの勾配が形成される。この音圧レベルの勾配により、特定のエリアでだけ音が聴こえるようになる。つまり、複数のスピーカからの合成音は、強い指向性を持つことになる。相反定理に基づいて、増感制御と減感制御とが組み合わせて用いられることにより、マイクの周辺の比較的に狭い空間内において音圧レベルの勾配が形成されている音場から音を収音しているのと同様の音圧感度分布で音が収音される。つまり、複数のマイクで収集される音の合成音は、強い指向性を持っているのと同等になる。
【0009】
マイク101L、101C、101Rは、周囲の音を収集して電気信号としての音声信号に変換する機器である。マイク101L、101C、101Rは、例えば図1に示すように横並びに配置されている。マイク101L、101C、101Rは、1つの筐体に一体的に収納されてもよい。また、マイク101L、101C、101Rは、信号処理装置102、制御装置103と同じ筐体に収納されてもよい。図1で示す向きをマイク101L、101C、101Rの正面としたとき、マイク101Lは左側のマイクとして動作し、マイク101Cは中央のマイクとして動作し、マイク101Rは右側のスピーカとして動作する。ここで、マイク101L、101C、101Rは、ある程度は近接して配置されていることが望ましい。マイクの中には口径3mmといった小型のものもある。この場合、マイク101L、101C、101Rの間隔として2.5cmといった短い間隔も取り得る。
【0010】
信号処理装置102は、マイク101L、101C、101Rでそれぞれ得られたマイク取得信号に対する信号処理をする。信号処理装置102は、音響フィルタ1021L、1021C、1021Rを有している。マイク101L、101C、101Rの前段にアンプが設けられていてもよい。
【0011】
音響フィルタ1021Lは、マイク101Lから入力されるマイク取得信号を制御装置103によって指定された音響フィルタ係数qLに従ってフィルタリングする。そして、音響フィルタ1021Lは、フィルタリングしたマイク取得信号を制御装置103に出力する。また、音響フィルタ1021Cは、マイク101Cから入力されるマイク取得信号を制御装置103によって指定された音響フィルタ係数qCに従ってフィルタリングする。そして、音響フィルタ1021Cは、フィルタリングしたマイク取得信号を制御装置103に出力する。また、音響フィルタ1021Rは、マイク101Rから入力されるマイク取得信号を制御装置103によって指定された音響フィルタ係数qRに従ってフィルタリングする。そして、音響フィルタ1021Rは、フィルタリングしたマイク取得信号を制御装置103に出力する。これらの音響フィルタは、マイク取得信号の特定の帯域の音のみを通過させるためのものである。音響フィルタ係数qL、qC、qRは、後で説明する増音制御則及び音響パワー最小化制御則に基づいて決定され得る。
【0012】
制御装置103は、音源の音の周波数と、マイク101L、101C、101Rのそれぞれの間隔とに基づいて、音響フィルタ1021L、1021C、1021Rに与える音響フィルタ係数qL、qC、qRを求めるための装置である。また、制御装置103は、音響フィルタ係数qL、qC、qRに従ってフィルタリングされたマイク取得信号から音源SRの位置を推定する装置でもある。
【0013】
次に、制御装置103について説明する。図2は、制御装置103に含まれる要素を示すブロック図である。制御装置103は、取得部1031と、音響フィルタ係数計算部1032と、音響フィルタ係数記憶部1033と、音響フィルタ設定部1034と、位置推定部1035とを有している。
【0014】
取得部1031は、音響フィルタ係数の計算に必要な種々の情報を取得する。そして、取得部1031は、取得した情報を音響フィルタ係数計算部1032に入力する。取得部1031によって取得される情報は、例えば周波数、マイク間隔及び伝達関数の情報を含む。また、取得部1031は、信号処理装置102から音響フィルタ係数qL、qC、qRに従ってフィルタリングされたマイク取得信号を取得する。そして、取得部1031は、取得したマイク取得信号を位置推定部1035に入力する。
【0015】
周波数は、検知したい音源SRの音の周波数である。取得部1031は、例えばユーザからの入力に基づいて音源SRの周波数の情報を取得する。なお、音速を既知とした場合、周波数は波数に換算され得る。後で説明するように、音響フィルタ係数の計算には波数が用いられるので、取得部1031は、波数の情報を取得してもよい。また、想定される音源SRの音の周波数が固定値である場合、取得部1031は、予め記憶していた固定値の周波数の情報を音響フィルタ係数計算部1032に入力してよい。
【0016】
マイク間隔は、複数のマイクのそれぞれの間隔である。取得部1031は、例えばユーザからの入力に基づいてマイク間隔を取得する。それぞれのマイク間隔は、等しくてもよいし、異なっていてもよい。なお、マイクが固定されている場合には、マイク間隔は、固定値として扱われ得る。この場合、取得部1031は、予め記憶していた固定値のマイク間隔の情報を音響フィルタ係数計算部1032に入力してよい。
【0017】
伝達関数は、マイク101L、101C、101Rのそれぞれと増感制御点との間の音の伝達特性を表す関数であって、マイク101L、101C、101Rと、増感制御点との位置関係によって決まる。増感制御点は、増感制御の制御目標位置である。増感制御点に音源があると想定される。伝達関数は、増感制御点からマイク101Lに伝達される音の空間伝達特性CR、増感制御点からマイク101Cに伝達される音の空間伝達特性CC、増感制御点からマイク101Rに伝達される音の空間伝達特性CRを要素とする行列で表される。それぞれの空間伝達特性は、音の反射の少ない無響室又は視聴室等において、増感制御点からランダム信号に基づく音又はTSP(Time stretched Pulse)信号に基づく音を放射し、マイク101L、101C、101Rによって収音することで得られるマイク取得信号から計測され得る。取得部1031は、このようにして計測された伝達関数を取得する。なお、マイク101L、101C、101Rの位置と増感制御点の位置とが固定されている場合には、伝達関数は、固定の伝達関数として扱われ得る。この場合、取得部1031は、予め記憶していた固定の伝達関数を音響フィルタ係数計算部1032に入力してよい。
【0018】
音響フィルタ係数計算部1032は、取得部1031から各種の情報を受け取るとともに音響フィルタ係数記憶部1033から少なくとも1つのマイクについての音響フィルタ係数を受け取って残りのマイクについての音響フィルタ係数を計算する。そして、音響フィルタ係数計算部1032は、音響フィルタ係数を音響フィルタ設定部1034に入力する。音響フィルタ係数の計算については後で詳しく説明する。
【0019】
音響フィルタ係数記憶部1033は、マイク101L、101C、101Rのうちの少なくとも1つのマイクについての音響フィルタ係数を記憶している。例えば、音響フィルタ係数記憶部1033は、マイク101Cの音響フィルタ係数を記憶している。音響フィルタ係数記憶部1033は、マイクの数が3個以上であるときに設けられ得る。そして、音響フィルタ係数記憶部1033は、マイクの数がm(m≧3)個の場合には、少なくとも(m-2)個の音響フィルタ係数を記憶している。なお、実施形態では、マイクは、2つ以上であればよい。マイクが2つの場合、音響フィルタ係数記憶部1033は省略されてよい。
【0020】
音響フィルタ設定部1034は、音響フィルタ係数計算部1032で計算された音響フィルタ係数を音響フィルタ1021L、1021C、1021Rのそれぞれに設定する。
【0021】
位置推定部1035は、取得部1031で取得されたフィルタリングされたマイク取得信号から音源SRの位置を推定する。音源SRの位置の推定については後で詳しく説明する。
【0022】
次に、音響フィルタ係数計算部1032における音響フィルタ係数の計算について説明する。前述したように、音響フィルタ係数を導出するための関係式は、複数のスピーカを用いた増音制御則及び音響パワー最小化制御則から決められる。以下、増音制御と音響パワー制御のそれぞれについて説明する。
【0023】
まず、増音制御について説明する。図3は、増音制御の概念図である。図3は、3つスピーカ201L、201C、201Rを用いた増音制御について示されている。
【0024】
増音制御は、増音エリアa1における音圧エネルギーをn倍にする制御である。つまり、増音制御前の増音エリアa1における音圧エネルギーをQOFF、増音制御後の増音エリアa1における音圧エネルギーをQonとしたとき、以下の式(1)の関係が成立するようにそれぞれのスピーカ201L、201C、201Rから放射される音が制御される。ここで、実施形態における増音制御前は、基準のスピーカ201Cだけから音が放射されている状態のことを言う。
on=nQOFF (1)
【0025】
増音エリアa1にN個の増音制御点があり、増音制御前のそれぞれの増音制御点における音圧がPj(j=1,2,…,N)であり、増音制御後のそれぞれの増音制御点における音圧がP´j(j=1,2,…,N)であり、スピーカ201Lとそれぞれの増音制御点との間の伝達関数がDLj(j=1,2,…,N)であり、スピーカ201Cとそれぞれの増音制御点との間の伝達関数がDCj(j=1,2,…,N)であり、スピーカ201Rとそれぞれの増音制御点との間の伝達関数がDRj(j=1,2,…,N)であり、スピーカ201Lの複素体積速度がqLであり、スピーカ201Cの複素体積速度がqCであり、スピーカ201Rの複素体積速度がqRであるとしたとき、増音エリアa1における音圧エネルギーQOFF及びQONは、それぞれの増音制御点における音圧エネルギーの総和であって、それぞれ以下の式(2)、(3)で示すようにして計算される。ここで、式(2)及び(3)の*は複素共役を表す記号である。なお、jが1である、すなわち増音制御点が1点であるときには、音圧エネルギーは、その増音制御点における音圧に等しい。
【数1】
音響フィルタ係数は、スピーカ201L、201C、201Rの複素体積速度に等しくなるように設定され得る。したがって、式(1)で示す増音制御の関係式が成立するときの、qL、qC、qRを計算することによって、増音制御に必要な音響フィルタ係数が計算される。後で説明するように、増音制御と音響パワー最小化制御のそれぞれで1つずつの関係式が導出される。したがって、qL、qC、qRのうちの少なくとも1つが予め定められていることにより、qL、qC、qRが計算される。例えばqcが固定値、例えば1として予め決められているものとする。したがって、音響フィルタ係数qRとqLが決められればよい。ここで、式(1)、(2)、(3)をqLについて整理すると、式(4)が得られる。式(4)が増音制御から導出される音響フィルタqLについての第1の関係式である。例では、qLについて整理されているが、qRについて整理されてもよい。
【数2】
【0026】
次に、音響パワー最小化制御について説明する。図4は、音響パワー最小化制御の概念図である。図4は、図3と同様に、3つスピーカ201L、201C、201Rを用いた音響パワー最小化制御について示されている。
【0027】
音響パワー最小化制御は、スピーカの周辺の減音エリアa2における音響パワーを最小化する制御である。ここで、1つの音源についての音響パワーWは、以下の式(5)によって計算される。式(5)のReは括弧内の実部を取ることを表す記号、ωは角振動数、ρは媒質、典型的には空気の密度、kは波数、qL、qC、qRは対応する音源の複素体積速度、dLC、dRL、dCRは対応するスピーカの間のスピーカ間隔を示す。また、式(2)及び(3)と同様、*は複素共役を示す記号である。音響パワーの単位は例えばWであり、複素体積速度の単位は例えばm/sである。この単位からもわかるように、音響パワーは単位時間当たりの音のエネルギーを示す。音響パワーは音源により定まる絶対値であり、音源からの位置に依存しない。
【数3】
式(5)は、1つの音源についての音響パワーである。例えば図4のような3つの音源についての音響パワーWは、以下の式(6)によって計算される。
【数4】
式(6)の音響パワーWを最小化するqL、qC、qRを計算することによって、音響パワー最小化制御に必要な音響フィルタ係数が計算される。このために、式(7)で示す偏微分計算が実施される。
【数5】
式(7)の結果をqLについて整理すると、式(8)が得られる。式(8)が音響パワー最小化制御から導出される音響フィルタqLについての第2の関係式である。
【数6】
ここで、qCが予め決められていることから、式(4)及び(8)にqC=1を代入して、qRについて整理すると、増音制御及び音響パワー最小化制御の双方が両立されるqL、qC、qRが式(9)のようにして得られる。
【数7】
【0028】
式(9)の音響フィルタ係数qL、qC、qRがスピーカに入力される音声信号に対して適用されることにより、増音制御点の音圧を増加させつつ、スピーカの周囲は静粛化される。また、式(9)のnを検知したい音源からの音に対する音圧感度の増倍率に、伝達関数DLj、DCj、DRjをそれぞれマイク101L、101C、101Rと増感制御点との間の伝達関数に、dをマイク間隔に置き換えることにより、式(9)の音響フィルタ係数qL、qC、qRは、マイク取得信号に対する音響フィルタ係数としても使用される。以下、式(9)の伝達関数DLj、DCj、DRjは、それぞれ、マイク101L、101C、101Rと増感制御点との間の伝達関数であり、式(9)のdは、マイク間隔であるとして説明が続けられる。
【0029】
式(9)に示すように、qL、qRは、波数kとマイク間隔の積であるkd値及びそれぞれのマイクと増感エリアのそれぞれの増感制御点との間の伝達関数DLj、DCj、DRjの関数である。kd値は、位相に相当する無次元量であり、音速が決められていれば、マイクで収集される音の周波数とマイク間隔とによって決められ得る。また、伝達関数は、音の反射の少ない無響室又は視聴室等において、増感制御点からランダム信号に基づく音又はTSP(Time stretched Pulse)信号に基づく音を放射し、マイク101L、101C、101Rによって収音することで得られるマイク取得信号から計測され得る。
【0030】
図5は、式(9)の結果に従って設定された音響フィルタが用いられるマイクの音圧感度分布を示している。図5は、音源の周波数が500Hz、マイク間隔が10cmであるときの例である。図5のx軸及びy軸は、例えばマイク101Cの位置を原点としたときの原点からの距離である。また、図5の縦軸は、音圧レベルである。図6に示す、音圧レベルの低下量の少ない領域、例えば+0.75≦x≦+2かつ-1.25≦y≦1.5(何れも単位はメートル)のエリアが増感エリアである。すなわち、実施形態の収音装置100は、例えば2m×2mといったマイク101L、101C、101Rの周辺の比較的に狭い空間内に音圧感度の勾配を作り出すことができる。狭い空間内に音圧感度の勾配が作り出されるので、実施形態の収音装置100は、低周波数域の音に対しても高い指向性能を有する。これは、音響パワー最小化制御が低周数域の音に対する音圧レベルの低減効果があり、相反定理によってこの効果が減感制御においても適用されるためである。
【0031】
また、式(6)からも明らかなように、音響パワーWはkd値の関数であるので、音響パワー最小化制御においてはkd値によって音響パワー低下量が決まる。そして、周波数又はスピーカ間隔が変わったとしても、kd値が一定であれば、同一の音響パワー低下量が得られる。このことをマイクと増感制御点との関係に置き換えた場合、kd値が一定であれば、同じ音圧感度分布で音が収音されることを意味している。例えば、音源の周波数が1000Hzであるとき、マイク間隔が5cmであれば、図5と同じ音圧感度分布で音が収音される。逆に言えば、kd値が変わると、同じ音圧感度分布では音が収音されないことを意味している。例えば、音源の周波数が1000Hzであるとき、マイク間隔が2.5cmであると、図5とは異なる音圧感度分布で音が収音される。
【0032】
図6は、マイク間隔及び周波数の決定を含む空間音場設計の流れを示すフローチャートである。図6の処理は、音響フィルタ設定部1034に音響フィルタ係数を設定する際に実施される。
【0033】
ステップS1において、制御装置130は、増感倍率nを決定する。増感倍率nは、式(1)で示したnに対応しており、例えばユーザによって適宜に決定される。増感倍率nは、固定値であってもよいし、ユーザ又は収音装置100の設定を担当する作業者からの入力を受け付けることで決定されてもよい。
【0034】
ステップS2において、制御装置130は、音源の周波数を決定する。音源の周波数は、例えばユーザによって適宜に決定される。
【0035】
ステップS3において、制御装置130は、kd値を決定する。kd値は、音響パワー最小化制御の音響パワーの低減量に対応する、減音制御によって要求される音圧レベルの低下量に応じて適宜に決定される。kd値は、例えば固定値であってもよいし、ユーザ又は収音装置100の設定を担当する作業者からの入力を受け付けることで決定されてもよい。また、マイク間隔と周波数が固定値であれば、ステップS3の処理は省略されてよい。
【0036】
ステップS4において、制御装置130は、周波数とkd値とに基づいてマイク間隔を決定する。
【0037】
ステップS5において、制御装置130は、増感制御点を決定する。増感制御点は、例えばマイク101Cを基準とした2m×2mの範囲の中で決定され得る。増感制御点は、位置推定の対象となる音源の位置に基づいて決定される。増感制御点は、ユーザ又は収音装置100の設定を担当する作業者からの入力を受け付けることで決定されてもよい。この場合において、制御装置130は、増感制御点を入力させるための表示等を行ってよい。この表示は、例えばマイク101Cを中心とした2m×2mのマップの表示である。ユーザ又は作業者は、このマップ上の例えば1点を増感制御点として任意に指定し得る。
【0038】
ステップS6において、制御装置130は、伝達関数を計測する。前述したように、伝達関数は、音の反射の少ない無響室又は視聴室等において、増感制御点の位置におかれた音源からランダム信号に基づく音又はTSP(Time stretched Pulse)信号に基づく音を放射し、マイク101L、101C、101Rによって集音することで得られるマイク取得信号から計測され得る。ここで、増感制御点として想定される複数の位置についての伝達関数が計測されていてもよい。
【0039】
ステップS7において、制御装置130は、増感倍率、マイク間隔、周波数、伝達関数から、式(9)に基づいてフィルタ係数qL、qC、qRを計算する。そして、制御装置130は、フィルタ係数qL、qC、qRを音響フィルタ1021L、1021C、1021Rのそれぞれに設定する。その後、制御装置130は、図6の処理を終了する。
【0040】
図7A図7B図7C図7Dは、実施形態で説明した音響フィルタ係数が設定されたマイクに対して種々の位置に置かれた音源から放射された音をマイクで収集し、収集した音の騒音レベルを測定する実験の実験結果を示す図である。図7A図7B図7C図7Dの横軸は、1/3オクターブバンドの中心周波数である。図7A図7B図7C図7Dの縦軸は、1/3オクターブバンドレベルである。
【0041】
ここで、実験においては、音響フィルタ係数は、図8で示す音圧感度分布が得られるように設定されている。図8で示す分布は、濃度によって音圧感度の大きさを表している。図8に示すように、実験では、マイク101L、101C、101Rの右方向を0度方向と定義したとき、0度方向に増感エリアが設定され、90度方向、180度方向及び270度方向にそれぞれ減感エリア1、2、3が設定されている。
【0042】
また、図9A図9B図9C図9Dは、実験におけるマイクと音源との位置関係を示している。図9Aは、図7Aと対応している。図9Bは、図7Bと対応している。図9Cは、図7Cと対応している。図9Dは、図7Dと対応している。図9A図9B図9C図9DのL、C、Rの位置にマイク101L、101C、101Rが配置されている。また、図9A図9B図9C図9DのSRの位置に音源が配置されている。音源は、ランダムノイズ音を放射するスピーカである。また、マイク101L、101C、101Rのマイク間隔は10cmである。前述したkd値の制約により、マイク間隔が10cmであるときの増感制御及び減感制御の効果の高い音源の周波数の範囲は、1/3オクターブバンドの中心周波数で400Hz-1250Hzと計算される。
【0043】
図7Aは、増感エリアに音源が配置されているときの実験結果に対応している。図7Aに示すように、増感エリアに音源が配置されているときには、400Hz-1250Hzにおける音圧レベルは、35-45dB程度である。
【0044】
図7B図7C図7Dは、増感エリアに音源が配置されていないときの実験結果に対応している。図7B図7C図7Dについては、比較のために図7Aの実験結果が破線で示されている。図7B図7C図7Dに示すように、増感エリアに音源が配置されていないときには、400Hz-1250Hzにおける音圧レベルは、20-30dB程度である。つまり、音源が増感エリアに配置されていないときにマイクで収音される音の音圧レベルは、音源が増感エリアに配置されているときにマイクで収音される音の音圧レベルよりも低減されている。このように、増感制御と減感制御とが組み合わせられることにより、近距離でありながら急激な音圧レベルの差がつけられていることがわかる。
【0045】
ここで、音源が180度方向に配置されているときの図7Dにおける音圧レベルの低下量は、音源が図7B及び図7Cにおける音圧レベルの低下量よりも小さい。これは、音響パワー最小化制御の原理に基づいている。音響パワー最小化制御ではある地点で音圧レベルの低減が起こった場合、別の地点では音圧レベルが増加する。この音圧レベルの増加が生じるのは、スピーカ201Cの位置を基準にして増音エリアと対称の位置にある減音エリアである。増感制御及び減感制御では、増音制御及び音響パワー最小化制御によって形成される音場から音を収音しているのと同様となるようにマイク取得信号に対して音響フィルタが適用される。したがって、増感制御及び減感制御でも、マイク101Cを基準にして増感エリアと対称の位置の減感エリアにおける音圧レベルの低下量は、その他の減感エリアにおける音圧レベルの低下量よりも小さくなる。
【0046】
これに対し、例えば音響フィルタ1021L、1021C、1021Rの前段に位相器を配置してマイク取得信号の位相をずらすことで増感エリアと対称の位置の減感エリアの音圧レベルの低下量を大きくすることもできる。この場合、音響フィルタ1021Lに入力するマイク取得信号の位相は例えば240度であり、音響フィルタ1021Cに入力するマイク取得信号の位相は例えば0度であり、音響フィルタ1021Rに入力するマイク取得信号の位相は例えば120度である。これにより、音響パワー最小化制御では増音エリアと対称の位置に減音エリアにおける音圧レベルが若干増加するものの、増感エリアと対称の位置にある減音エリアにおいても十分な音圧レベルの低下量が確保される。これをマイクに置き換えると、マイク101Cを基準にして増感エリアと対称の位置の減感エリアにおいて十分な音圧レベルの低下量が確保されることになる。
【0047】
マイク取得信号に対して位相補正をするのではなく、増感制御点から最も遠いマイクで取得されるマイク取得信号のゲインをさらに低減させることによって位相補正と同等の効果が得られる。
【0048】
次に、位置推定部1035による音源位置の推定について説明する。位置推定部1035は、マイク101R、101C、101Lで得られるマイク取得信号に対して式(9)で示した音響フィルタ係数のフィルタが適用されたマイク取得信号に基づき、音源位置を推定する。実施形態では、増感制御点に音源があるときには、フィルタ適用後のマイク取得信号の音圧レベルが高くなる。一方で、増感制御点に音源がないときには、フィルタ適用後のマイク取得信号の音圧レベルが低くなる。したがって、位置推定部1035は、最も高い音圧レベルを有する増感制御点の位置を音源の位置と推定する。
【0049】
以上説明したように第1の実施形態によれば、スピーカを用いた増音制御と音響パワー最小化制御によるフィルタ制御則をマイクに適用することによって、特定のエリアにおける音圧感度を擬似的に増加させ、特定のエリア以外の音圧感度を擬似的に低下させることができる。したがって、狭い空間内に音圧感度の勾配が形成され、特定の位置の音源の音が選択的に収音され得る。また、このような収音装置により、音源のある方向だけでなく、音源のある位置までもが高精度に推定され得る。
【0050】
また、第1の実施形態では、狭いエリア内に音圧感度の勾配が形成され得る。したがって、低周波の音に対する指向性も確保され得る。また、反響のある空間であっても音源からの音だけが収音され得る。なお、出願人の実験では、指向性マイクと第1の実施形態の手法とでマイクの音圧感度を比較したときに、第1の実施形態の手法のほうが特に低周波域での音に対する指向性が確保されていることが確認されている。
【0051】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。第1の実施形態で説明したように、増音制御と音響パワー最小化制御によるフィルタ制御則によって十分な音圧感度の勾配を形成できるかどうかは、kd値によって決まる。つまり、1つのマイク間隔では適用可能な周波数帯もある範囲に定められてしまう。第2の実施形態は、複数の異なるマイク間隔のマイクで同時に収音を実施することにより、音圧感度の勾配を形成できる周波数帯の広域化を図るものである。
【0052】
図10は、第2の実施形態における収音装置の構成の一例を示す図である。第2の実施形態における収音装置は、7個のマイク101a、101b、101c、101e、101f及び101gと、信号処理装置102と、制御装置103とを有している。
【0053】
7個のマイクは、横並びに配置されている。そして、マイク101dを基準にしてマイク101aとマイク101g、マイク101bとマイク101f、マイク101cとマイク101eとは、対称の位置に配置されている。マイク101aとマイク101dのマイク間隔、マイク101gとマイク101dのマイク間隔は、それぞれ、10cmである。マイク101bとマイク101dのマイク間隔、マイク101fとマイク101dのマイク間隔は、それぞれ、5cmである。マイク101cとマイク101dのマイク間隔、マイク101eとマイク101dのマイク間隔は、それぞれ、2.5cmである。つまり、マイク101aと、マイク101dと、マイク101gの組は、マイク間隔が10cmのマイク101L、101C、101Rとして動作し得る。同様に、マイク101bと、マイク101dと、マイク101fの組は、マイク間隔が5cmのマイク101L、101C、101Rとして動作し得る。また同様に、マイク101cと、マイク101dと、マイク101eの組は、マイク間隔が2.5cmのマイク101L、101C、101Rとして動作し得る。
【0054】
第2の実施形態における信号処理装置102は、3種類の音響フィルタを有している。3種類の音響フィルタは、マイク間隔10cmに対応した500Hzフィルタ1021a、マイク間隔5cmに対応した1000Hzフィルタ1021b、マイク間隔2.5cmに対応した2000Hzフィルタ1021cを有している。500Hzフィルタ1021aには、マイク101a、101d、101gでそれぞれ得られたマイク取得信号が入力される。1000Hzフィルタ1021bには、マイク101b、101d、101fでそれぞれ得られたマイク取得信号が入力される。2000Hzフィルタ1021cには、マイク101c、101d、101eでそれぞれ得られたマイク取得信号が入力される。
【0055】
ここで、500Hzフィルタ1021aの音響フィルタ係数qL1、qC1、qR1は、マイク間隔が10cm及び音源の周波数が500Hzの条件で、増感制御点とマイク101aの間の伝達関数DLj1、増感制御点とマイク101dの間の伝達関数DCj1、増感制御点とマイク101gの間の伝達関数DRj1を用いて式(9)に従って計算された音響フィルタ係数である。同様に、1000Hzフィルタ1021bの音響フィルタ係数qL2、qC2、qR2は、マイク間隔が5cm及び音源の周波数が1000Hzの条件で、増感制御点とマイク101bの間の伝達関数DLj2、増感制御点とマイク101dの間の伝達関数DCj2、増感制御点とマイク101fの間の伝達関数DRj2を用いて式(9)に従って計算された音響フィルタ係数である。また同様に、2000Hzフィルタ1021cの音響フィルタ係数qL3、qC3、qR3は、マイク間隔が2.5cm及び音源の周波数が2000Hzの条件で、増感制御点とマイク101cの間の伝達関数DLj3、増感制御点とマイク101dの間の伝達関数DCj3、増感制御点とマイク101eの間の伝達関数DRj3を用いて式(9)に従って計算された音響フィルタ係数である。500Hzフィルタ1021a、1000Hzフィルタ1021b、2000Hzフィルタ1021cのkd値は一定であるので、同じ音圧感度分布が得られる。
【0056】
500Hzフィルタ1021a、1000Hzフィルタ1021b、2000Hzフィルタ1021cのそれぞれでフィルタリングされたマイク取得信号は、制御装置103に入力される。制御装置103の位置推定部1035は、500Hzフィルタ1021a、1000Hzフィルタ1021b、2000Hzフィルタ1021cのそれぞれでフィルタリングされたマイク取得信号を加算し、加算したマイク取得信号を用いて音源の位置を推定する。
【0057】
以上説明したように第2の実施形態によれば、複数のマイク間隔のマイクで同時に収音が行われる。これにより、音圧感度の勾配を形成できる周波数帯の広域化が図られる。
【0058】
ここで、図10の例では、マイク間隔は、2.5cm、5cm、10cmの3通りに異なっている。しかしながら、これに限らない。また、マイク間隔は、2通りに異なっていてもよいし、4通り以上に異なっていてもよい。マイクは、スピーカに比べて小型であるので、2.5cmよりも狭いマイク間隔でマイクを配置することもでき、また、多くのマイク間隔でマイクを配置することもできる。つまり、スピーカに比べてマイクは、広帯域化しやすい。
【0059】
(その他の変形例)
前述した実施形態では、3つのマイクを用いて増感制御及び減感制御が行われる。しかしながら、マイクは2つ以上であればよい。特に、マイクが3つ以上である場合には、増感制御点の数を2つ以上にすることができる。具体的には、マイクの数がmの場合の増感制御点の数は(m-1)個とされ得る。図11は、マイクの数が4個であるときの増感制御点の設定例を示す図である。図11では、4個のマイク101L、101C、101R、101Dが上下及び左右の4方向にそれぞれ配置されている。そして、右側のマイク101Rから見て右上及び右下に2つの音源SR1及びSR2が配置されている。
【0060】
このような場合であっても、マイク101L、101C、101R、101Dについての音響フィルタ係数qL、qC、qR、qDは、それぞれのマイクの間のマイク間隔dCL、dRC、dDR、dLDと、音源の周波数と、マイク101L、101C、101R、101Dと増感制御点、すなわち音源SR1との間の伝達関数DL1、DC1、DR1、DD1と、マイク101L、101C、101R、101Dと増感制御点、すなわち音源SR2との間の伝達関数DL2、DC2、DR2、DD2とから計算され得る。
【0061】
ここで、増感制御点が2つ以上である場合、2つ以上の増感制御点は、1つの増感エリアにあってもよいし、別々の増感エリアにあってもよい。2つ以上の増感制御点が1つの増感エリアにある場合、2つ以上の増感制御点は、第1の実施形態で説明したのと同様に共通の増感倍率で増感制御されてもよいし、異なる増感倍率で増感制御されてもよい。例えば、増感制御点が3つである場合に、1つの増感エリアに、まず、2倍の増感倍率の第1の増感制御点が配置され、第1の増感制御点の後方に1倍の増感倍率の第2の増感制御点が配置され、第2の増感制御点のさらに後方に0.1倍の増感倍率の第3の増感制御点が配置されてもよい。この場合、1つの増感エリアの中でも音圧レベルの勾配が発生し得る。なお、複数の増感制御点が異なる増感倍率で増感制御される場合、式(2)、(3)はそれぞれの増感制御点について計算され得る。このようにして、増感制御点の位置、数、増感倍率を設定することにより、多様な音圧感度分布が設計され得る。
【0062】
次に、図12を用いて、前述した各実施形態で説明した収音装置100のハードウェア構成の一例について説明する。図12は、収音装置100のハードウェア構成の一例について示す図である。
【0063】
図12に示すように、収音装置は、制御部309、記憶部310、電源部311、計時装置312、通信インタフェース(I/F)305、入力部306、出力装置307、及び外部インタフェース(I/F)308が電気的に接続されたコンピュータを備えている。
【0064】
制御部309は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、及び/又はROM(Read Only Memory)等を含み、情報処理に応じて各構成要素の制御を行う。制御部309は、信号処理装置102及び制御装置103として動作し得る。制御部309は、記憶部310に記憶されている実行プログラムを呼び出して処理を実行し得る。
【0065】
記憶部310は、コンピュータ及び機械等が読み取り可能なようにプログラム等の情報を記憶する媒体である。また、記憶部310は、マイク間隔の情報、音源の周波数の情報、伝達関数の情報を記憶し得る。記憶部310は、例えば、ハードディスクドライブ、ソリッドステートドライブ等の補助記憶装置であり得る。さらに、記憶部310はドライブを含んでいてもよい。ドライブは、別の補助記憶装置及び記録媒体等に記憶されているデータを読み込むための装置であり、例えば、半導体メモリドライブ(フラッシュメモリ(Flash Memory)ドライブ)、CD(Compact Disk)ドライブ、DVD(Digital Versatile Disk)ドライブ等を含む。ドライブの種類は、記憶媒体の種類に応じて適宜選択されてよい。
【0066】
電源部311は、収音装置100の各要素に電力を供給する。電源部311は、さらに、収音装置100を備える機器の各要素に電力を供給してもよい。電源部311は、例えば、2次電池又は交流電源を含み得る。
【0067】
計時装置312は、時間を計測する装置である。例えば、計時装置312はカレンダを含む時計でもよく、現在の年月及び/又は日時の情報を制御部309へ渡す。計時装置312は、収音される音声信号に日時を付す際に利用されてよい。
【0068】
通信インタフェース305は、例えば、近距離無線通信(例えば、Bluetooth(登録商標))モジュール、有線LAN(Local Area Network)モジュール、無線LANモジュール等であり、ネットワークを介した有線又は無線通信を行うためのインタフェースである。このネットワークを介した通信は、無線又は有線のいずれでもよい。なお、ネットワークは、インターネットを含むインターネットワークでもよいし、社内LANのような他の種類のネットワークであってもよい。さらには、通信インタフェース305は、USB(Universal Serial Bus)ケーブル等を用いた1対1の通信をしてもよい。さらに、通信インタフェース305は、マイクロUSBコネクタを含んでいてもよい。通信インタフェース305は、各種の通信機器といった外部装置に接続するためのインタフェースである。通信インタフェース305は、制御部309によって制御され、ネットワーク等を介して外部装置から各種の情報を受け取る。各種の情報は、例えば外部機器において設定された、マイク間隔の情報、音源の周波数の情報、伝達関数の情報を含む。
【0069】
入力部306は、入力を受け付ける装置であり、例えば、タッチパネル、物理ボタン、マウス、及びキーボード等であり得る。また、入力部206は、マイク101L、101C、101Rとして動作する例えば3つのマイクロホン(マイク)を含む。出力装置307は、出力を行う装置であり、表示、音声等で情報を出力する、例えば、ディスプレイ、及びスピーカ等である。マイク間隔の情報、音源の周波数の情報、伝達関数の情報は、入力部306を介して入力されてもよい。
【0070】
外部インタフェース308は、収音装置の本体と外部装置との媒介をするためのものである。外部装置は、例えば、プリンター、メモリ、及び通信機器等であってよい。
【0071】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0072】
100 収音装置、101L,101C,101R マイクロホン(マイク)、102 信号処理装置、103 制御装置、201L,201C,201R スピーカ、305 通信インタフェース(I/F)、306 入力部、307 出力装置、308 外部インタフェース(I/F)、309 制御部、310 記憶部、311 電源部、312 計時装置、1021L,1021C,1021R 音響フィルタ、1031 取得部、1032 音響フィルタ係数計算部、1033 音響フィルタ係数記憶部、1034 音響フィルタ設定部、1035 位置推定部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図8
図9A
図9B
図9C
図9D
図10
図11
図12