(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134303
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両のエンジン制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 10/30 20060101AFI20240926BHJP
B60K 6/46 20071001ALI20240926BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20240926BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20240926BHJP
F01M 1/16 20060101ALI20240926BHJP
F01M 1/22 20060101ALI20240926BHJP
F01M 1/20 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
B60W10/30 900
B60K6/46 ZHV
B60W10/06 900
B60W10/08 900
F01M1/16 C
F01M1/22
F01M1/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044536
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 健次
(72)【発明者】
【氏名】榎本 洋史
(72)【発明者】
【氏名】大島 博文
(72)【発明者】
【氏名】志田 尚紀
(72)【発明者】
【氏名】唐津 雄一
【テーマコード(参考)】
3D202
3G313
【Fターム(参考)】
3D202AA07
3D202BB01
3D202BB11
3D202DD05
3D202DD18
3D202DD22
3D202DD45
3D202DD47
3D202DD48
3D202EE00
3G313AA11
3G313AB01
3G313AB10
3G313BB14
3G313BB35
3G313CA02
3G313EA02
3G313EA12
3G313EA15
3G313FA05
3G313FA09
(57)【要約】
【課題】エンジン内の潤滑部に油膜が適切に形成されるようにする。
【解決手段】PCM60は、油圧センサ77により検出された検出油圧が、エンジン回転数に応じて予め設定された制限油圧未満であるか否かを判定し、スタータジェネレータ5により発電させる要求発電電力に対してロータリエンジン14を運転してスタータジェネレータ5を駆動した場合において、検出油圧が制限油圧以上であるときには、エンジン回転数を現在の回転数に維持にする一方、検出油圧が制限油圧未満になるときには、エンジン回転数を、現在の回転数から、現在の検出油圧が制限油圧以上となる特定回転数以下にまで低下させる回転数制限制御を実行する。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動用モータと、該駆動用モータを駆動させるための電力を発電するジェネレータと、ジェネレータ駆動用のエンジンと、を備えたハイブリッド車両のエンジン制御装置であって、
前記エンジンに油圧を供給する油圧供給システムと、
油圧を検出する油圧検出部と、
前記ジェネレータ、前記エンジン、及び前記油圧供給システムを制御するコントローラと、を備え、
前記油圧供給システムは、
オイルが貯留されたオイルパンと、
オイルパン内のオイルに浸漬され、該オイルを吸い込むオイルストレーナと、
を有し、
前記コントローラは、
前記ハイブリッド車両の状態に応じて算出される要求発電電力に基づいて、前記ジェネレータ及び前記エンジンを作動させ、
前記油圧検出部により検出された検出油圧が、エンジン回転数に応じて予め設定された制限油圧未満であるか否かを判定し、
前記ジェネレータにより発電させる要求発電電力に対して前記エンジンを運転して該ジェネレータを駆動した場合において、前記検出油圧が前記制限油圧以上であるときには、エンジン回転数を現在の回転数に維持にする一方、前記検出油圧が前記制限油圧未満になるときには、エンジン回転数を、現在の回転数から、現在の前記検出油圧が前記制限油圧以上となる特定回転数以下にまで低下させる回転数制限制御を実行する
ことを特徴とするハイブリッド車両のエンジン制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のハイブリッド車両のエンジン制御装置において、
前記油圧供給システムは、前記エンジンに供給する油圧である供給油圧が相対的に低い低油圧にする低油圧モードと、前記供給油圧が相対的に高い高油圧にする高油圧モードとに切り替える油圧切替装置を有し、
前記コントローラは、
エンジン回転数が所定回転数未満のときには前記油圧切替装置を前記低油圧モードにする一方で、エンジン回転数が前記所定回転数以上のときには前記油圧切替装置を前記高油圧モードにし、
前記高油圧モードの時に、前記回転数制限制御を実行するときには、エンジン回転数が前記所定回転数以上から該所定回転数未満になったとしても、前記高油圧モードのままにする
ことを特徴とするハイブリッド車両のエンジン制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載のハイブリッド車両のエンジン制御装置において、
前記油圧切替装置は、スループ弁により前記低油圧モードと前記高油圧モードとを切り替えるように構成されており、
前記コントローラは、前記高油圧モードの時に、前記回転数制限制御を実行するときには、前記エンジン回転数を前記特定回転数以下まで低下させた後、前記油圧切替装置を、一時的に前記低油圧モードに切り替えた後で前記高油圧モードに再度切り替えるクリーニング制御を行う、ことを特徴とするハイブリッド車両のエンジン制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載のハイブリッド車両のエンジン制御装置において、
前記コントローラは、前記クリーニング制御において、前記高油圧モードから前記低油圧モードへの切り替えを所定間隔で複数回行うことを特徴とするハイブリッド車両のエンジン制御装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1つに記載のハイブリッド車両のエンジン制御装置において、
前記コントローラは、
前記エンジンを、予め設定された下限回転数以上のエンジン回転数で動作させ、
前記検出油圧が、エンジン回転数が前記下限回転数であるときの前記制限油圧である最下限油圧未満であるときには前記エンジンを停止させることを特徴とするハイブリッド車両のエンジン制御装置。
【請求項6】
請求項1に記載のハイブリッド車両のエンジン制御装置において、
前記特定回転数は、現在の前記検出油圧が前記制限油圧となるエンジン回転数であり、
前記コントローラは、前記回転数制限制御において、エンジン回転数を、前記特定回転数未満まで低下させた後、前記特定回転数まで上昇させることを特徴とするハイブリッド車両のエンジン制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示された技術は、ハイブリッド車両のエンジン制御装置に関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、油圧供給システムを備えたエンジンにおいて、車両が傾斜面やカーブを走行する際にオイルパンの油面が傾くのを抑制するための対策が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、オイルパン内のオイルをオイルポンプへ吸入するためのオイルストレーナ と、オイルパン内のオイルストレーナ近傍の油面の変動を抑制するバッフルプレートとを有するエンジンが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、オイルパンの油面が傾くと、エンジンに供給される油圧が低下するため、エンジン内の潤滑部に油膜が適切に形成されないおそれがある。特許文献1のように、バッフルプレートを設けると、油面の傾き自体を抑制できるため、油圧の低下を抑制することができる。
【0006】
ここで、ハイブリッド車両に設けられるエンジンには、車両の駆動源とはならず、ジェネレータを発電するためにのみ搭載されたものがある。このようなエンジンは、駆動源としてのエンジンと比較してかなり小型化される。エンジンが小型化されれば、オイルパンもそれに付随して小型化される。このような小型化されたオイルパンにバッフルプレートを設けるとなると、構造が複雑化する。また、エンジンが小型化されれば、バッフルプレートを設けることによる製造コストの上昇の影響が大きくなる。
【0007】
ここに開示された技術は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、エンジン内の潤滑部に油膜が適切に形成されるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、ここに開示された技術の第1の態様では、駆動用モータと、該駆動用モータを駆動させるための電力を発電するジェネレータと、ジェネレータ駆動用のエンジンと、を備えたハイブリッド車両のエンジン制御装置を対象として、前記エンジンに油圧を供給する油圧供給システムと、油圧を検出する油圧検出部と、前記ジェネレータ、前記エンジン、及び前記油圧供給システムを制御するコントローラと、を備え、前記油圧供給システムは、オイルが貯留されたオイルパンと、オイルパン内のオイルに浸漬され、該オイルを吸い込むオイルストレーナと、を有し、前記コントローラは、前記ハイブリッド車両の状態に応じて算出される要求発電電力に基づいて、前記ジェネレータ及び前記エンジンを作動させ、前記油圧検出により検出された検出油圧が、エンジン回転数に応じて予め設定された制限油圧未満であるか否かを判定し、前記ジェネレータにより発電させる要求発電電力に対して前記エンジンを運転して該ジェネレータを駆動した場合において、前記検出油圧が前記制限油圧以上であるときには、エンジン回転数を現在の回転数に維持にする一方、前記検出油圧が前記制限油圧未満になるときには、エンジン回転数を、現在の回転数から、現在の前記検出油圧が前記制限油圧以上となる特定回転数以下にまで低下させる回転数制限制御を実行する、という構成にした。
【0009】
この構成によると、油圧が制限油圧未満になったときには、エンジン回転数を低下させる。エンジン回転数が低下すれば、油膜切れが生じにくくなるため、エンジンの潤滑部に油膜を形成するために必要なオイルの量を減らすことができる。このため、油面が傾くことで油圧が低下して制限油圧未満になったとしても、エンジンの潤滑部に油膜を適切に形成することができる。また、バッフルプレートを設ける必要がなくなるため、エンジンの複雑化や製造コストの上昇を抑制することができる。
【0010】
ここに開示された技術の第2の態様では、第1の態様において、前記油圧供給システムは、前記エンジンに供給する油圧である供給油圧が相対的に低い低油圧にする低油圧モードと、前記供給油圧が相対的に高い高油圧にする高油圧モードとに切り替える油圧切替装置を有し、前記コントローラは、エンジン回転数が所定回転数未満のときには前記油圧切替装置を前記低油圧モードにする一方で、エンジン回転数が所定回転数以上のときには前記油圧切替装置を前記高油圧モードにし、前記高油圧モードの時に、前記回転数制限制御を実行するときには、エンジン回転数が前記所定回転数以上から該所定回転数未満になったとしても、前記高油圧モードのままにする。
【0011】
すなわち、回転数制限制御の実行中は、所望の油圧よりも低い油圧になっている状態である。このため、低油圧モードに切り替えるとなると、所望の油圧に対して更に低い油圧に下げることとなってしまう。前記の構成では、高油圧モードで回転数制限制御を実行しているときには、低油圧モードへの切り替えを停止させる。これにより、エンジンの潤滑部に油膜をより適切に形成することができる。
【0012】
ここに開示された技術の第3の態様では、第2の態様において、前記油圧切替装置は、スループ弁により前記低油圧モードと前記高油圧モードとを切り替えるように構成されており、前記コントローラは、前記高油圧モードの時に、前記回転数制限制御を実行するときには、前記エンジン回転数を前記特定回転数以下まで低下させた後、前記油圧切替装置を、一時的に前記低油圧モードに切り替えた後で前記高油圧モードに再度切り替えるクリーニング制御を行う。
【0013】
すなわち、高油圧モードの時に、回転数制限制御を実行するときには、低油圧モードへの切り替えを停止させるため、スループ弁が長期間動作しない。このため、スループ弁が固着して、低油圧モードと高油圧モードとを切り替えたいときに、切り替えることができなくなるおそれがある。そこで、クリーニング制御を起こって、スループ弁を一時的に動作させる。これにより、スループ弁の固着を抑制して、低油圧モードと高油圧モードとの切り替えを正常に行うことができるようになる。
【0014】
ここに開示された技術の第4の態様では、第3の態様において、前記コントローラは、前記クリーニング制御において、前記低油圧モードから前記高油圧モードへの切り替えを所定間隔で複数回行う。
【0015】
この構成により、スループ弁の固着をより効果的に抑制することができるため、低油圧モードと高油圧モードとの切り替えを正常に行うことができるようになる。
【0016】
ここに開示された技術の第5の態様では、第1~4の態様のいずれか1つにおいて、前記コントローラは前記エンジンを、予め設定された下限回転数以上のエンジン回転数で動作させ、前記検出油圧が、エンジン回転数が前記下限回転数であるときの前記制限油圧である最下限油圧未満であるときには前記エンジンを停止させる。
【0017】
すなわち、エンジン回転数が下限回転数よりも低くなると、発電効率がかなり悪化して、燃費の悪化を招いてしまう。このため、油圧が最下限油圧未満なって、回転数制限制御において、エンジン回転数を下限回転数未満にする必要が生じたときには、エンジンを停止させる。これにより、燃費の悪化を抑制することができる。
【0018】
ここに開示された技術の第6の態様では、第1の態様において、前記特定回転数は、現在の前記検出油圧が前記制限油圧となるエンジン回転数であり、前記コントローラは、前記回転数制限制御において、エンジン回転数を、前記特定回転数未満まで低下させた後、前記特定回転数まで上昇させる。
【0019】
この構成によると、エンジン回転数を一時的に特定回転数未満にすることで、エンジン回転数が特定回転数よりも高い状態を出来る限り短くすることができる。これにより、エンジンの潤滑部が油膜切れになるのをより効果的に抑制することができる。すなわち、エンジンの潤滑部に油膜をより適切に形成することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、ここに開示された技術によると、油面に傾きが生じたとしても、エンジン内の潤滑部に油膜を適切に形成することができる。この結果、バッフルプレートを設ける必要がなくなるため、エンジンの複雑化や製造コストの上昇を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、油圧制御装置を有するハイブリッド車両の構成図である。
【
図3】
図3は、パワートレインの制御系を示す概略図である。
【
図4】
図4は、油圧供給システムを示す概略図である。
【
図5A】
図5Aは、油圧制御弁の構成を示す概略図であって、高油圧状態を示す図である。
【
図5B】
図5Bは、油圧制御弁の構成を示す概略図であって、低油圧状態を示す図である。
【
図6】
図6は、エンジン制御の処理を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、エンジン回転数と油圧との関係を示すグラフである。
【
図9】
図9は、油圧を切り替える際の処理を示すフローチャートである。
【
図11】
図11は、低油圧モードにおける回転数制限制御の処理を示すフローチャートである。
【
図12】
図12は、高油圧モードにおける回転数制限制御の処理を示すフローチャートである。
【
図13】
図13は、高油圧モードにおける回転数制限制御のタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、例示的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0023】
〈システム構成〉
図1は、実施形態に係るハイブリッド車両1(以下、単に車両1という)を概略的に示す。車両1は、シリーズ式のハイブリッド車両である。車両1は、駆動用モータ2と、減速機3と、バッテリ4と、スタータジェネレータ5と、エンジンシステム6と、を備えている。
【0024】
駆動用モータ2は、車両1の主な駆動源である。駆動用モータ2は、バッテリ4から供給される電力によって駆動する電動モータである。駆動用モータ2からの出力は、減速機3を介して駆動輪7(ここでは前輪)に伝達される。
【0025】
バッテリ4は、例えばリチウムイオン電池で構成されている。バッテリ4は、車室の下側に配置されている。
【0026】
スタータジェネレータ5は、エンジンシステム6を始動させるスタータとしての機能と、エンジンシステム6の回転によって発電するジェネレータとしての機能とを有している。スタータジェネレータ5は、エンジンシステム6の始動時には、バッテリ4からの電力により駆動されて、エンジンシステム6をクランキングすることで、エンジンシステム6を始動させる。スタータジェネレータ5により発電された電力は、バッテリ4に供給されて蓄積されるか、又は駆動用モータ2に直接供給される。
【0027】
エンジンシステム6は、スタータジェネレータ5を作動させて発電を行うための発電用エンジンである。エンジンシステム6は、基本的には、車両1の駆動源としては利用されない。
【0028】
〈エンジンシステムの構成〉
エンジンシステム6は、
図2に示すように、ロータリエンジン14を備えている。
【0029】
ロータリエンジン14は、トロコイド状の内周面を有するロータハウジング16と、ロータハウジング16の両側にそれぞれ配置された平面状の内面を有するサイドハウジング18と、ロータハウジング16及びサイドハウジング18に囲まれたロータ収容室に収容された概略三角形状のロータ20と、ロータ20の回転により回転するエキセントリックシャフト22と、を備えている。
【0030】
ロータ20は、その三角形の頂点部に図示しないアペックスシールを有し、これらアペックスシールがロータハウジング16のトロコイド内周面に摺接している。これにより、ロータ20、ロータハウジング16、及び各サイドハウジング18によりロータ収容室内に3つの作動室24(燃焼室に相当)が画成される。
【0031】
ロータ20は、3つのアペックスシールが各々ロータハウジング16のトロコイド内周面に当接した状態でエキセントリックシャフト22の周りを自転しながら、該エキセントリックシャフト22の軸心周りに公転するようになっている。ロータ20が1回転する間に、該ロータ20の各頂点部間にそれぞれ形成された作動室24が周方向に移動しながら、吸気、圧縮、膨張(燃焼)及び排気の各行程を行い、これにより発生する回転力がロータ20からエキセントリックシャフト22に伝達される。
【0032】
ロータリエンジン14は、燃料を作動室24内に噴射するインジェクタ54と、作動室24内で形成された混合気に着火するための点火プラグ26と、作動室24内に吸気を導入するための吸気ポート28と、排気ガスを作動室24から排出するための排気ポート30と、を有する。インジェクタ54は、ロータハウジング16に取り付けられている。インジェクタ54は、燃料供給通路を介して燃料タンクに接続され(何れも図示省略)、この燃料タンクから燃料が供給されるようになっている。点火プラグ26は、ロータハウジング16に取り付けられている。吸気ポート28及び排気ポート30は、サイドハウジング18に形成されている。吸気ポート28には、吸気通路32が接続されている。吸気(空気)は、吸気通路32を介して作動室24内に導入される。また、排気ポート30には、排気通路34が接続されている。排気ガスは、排気通路34を介して作動室24から排出される。吸気通路32には、スロットルバルブ38が設けられ、さらにその上流側にはエアクリーナ42が設けられている。排気通路34には、排気ガスを浄化する排気触媒36が設けられている。
【0033】
ロータ20は、
図2において時計回りに回転する。
図2に示す状態では、ロータ20の右上の作動室24において圧縮行程が行われ、右下の作動室24において膨張(爆発)行程が行われている。
図2の例では、ロータ20は時計回りに回転するので、作動室24のリーディング側(進み側、つまりロータ回転方向の前方側)とは作動室24の時計回り側(つまりロータ20の右上の作動室24では右下側、右下の作動室24においては左下側)であり、トレーリング側(遅れ側、つまりロータ回転方向の後方側)とは作動室24の反時計回り側(つまりロータ20の右上の作動室24では左上側、右下の作動室24においては右上側)である。
【0034】
ロータリエンジン14には、エキセントリックシャフト22の回転角度を検出するエキセントリックシャフト角センサ70が取り付けられている。エキセントリックシャフト角センサ70が検出した回転角度からエキセントリックシャフト22の回転数、つまりロータリエンジン14のエンジン回転数を検出することができる。また、ロータリエンジン14には、ロータリエンジン14のオイルポンプ(
図8参照)から吐出されるオイルの油圧を検出する油圧センサ77(
図6参照)が取り付けられている。また、
図2では省略しているが、エンジン冷却水の温度(以下、エンジン水温という)を検出する水温センサ71(
図6参照)は、ロータリエンジン14に設けられている。水温センサ71は、ウォータジャケット内に臨んでいて、ウォータジャケット内を流れるエンジン冷却水の水温を検出する。
【0035】
エンジンシステム6は、ECM(Engine Control Module)により制御される。ECM62は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラである。ECM62は、1つ又は複数のプロセッサ62a、と各種プログラムを記憶する記憶部62bとを備えている。プロセッサ62aは典型的にCPUであり、記憶部62bは典型的にはROMやRAMである。
【0036】
詳しくは後述するが、ECM62は、前述した各種センサ70,71,77や後述するPCM(Powertrain Control Module)60から入力された信号に基づき、ロータリエンジン14の点火プラグ26、インジェクタ54、油圧切替装置90などの各デバイスの制御量を演算し、演算した制御量に対応する電気信号をそれらのデバイスに出力する。PCM60は、駆動用モータ2、減速機3、バッテリ4、スタータジェネレータ5、エンジンシステム6などを含む車両1の動力系統全体の制御を行うコントローラであり、1つ以上のプロセッサ(典型的にはCPU)、各種プログラムを記憶する記憶部(典型的にはROM、RAMなど)などを備えている。
【0037】
〈エンジン制御システム〉
次に、
図3を参照して、本実施形態による車両1におけるエンジン制御システムの概要を説明する。
図3は本実施形態による車両1の制御ブロック図である。
【0038】
車両1のバッテリ4には、バッテリ4の出力電圧を検出する電圧センサ72と、バッテリ4の出力電流を検出する電流センサ73が設けられている。これらの電圧センサ72及び電流センサ73は、それぞれの検出値に対応する電気信号をBCM(Battery Control Module)64に出力する。BCM64は、主にバッテリ4の充放電制御を行うコントローラであり、1つ以上のプロセッサ(典型的にはCPU)、各種プログラムを記憶する記憶部(ROM、RAMなど)などを備えている。
【0039】
BCM64は、電圧センサ72及び電流センサ73から入力されたバッテリ4の電圧値及び電流値から、バッテリ4のSOC(State of Charge、以下単にバッテリSOCという)を推定し、PCM64に出力する。
【0040】
バッテリ4には、該バッテリ4の温度(以下、単にバッテリ温度という)を検出するバッテリ温度センサ74が設けられている。バッテリ温度センサ74は、検出したバッテリ温度をBCM64に送信する。BCM64は、バッテリ温度をPCM60に送信する。
【0041】
PCM60は、車両1のアクセルペダル(図示省略)の開度を検出するアクセル開度センサ75からアクセル開度を取得する。PCM60は、検出されたアクセル開度に基づいて、駆動用モータ2の要求駆動力を算出して、DMCM(driving Motor Control Module)66に出力する。DMCM66は、主にスタータジェネレータ5の制御を行うコントローラであり、1つ以上のプロセッサ(典型的にはCPU)、各種プログラムを記憶する記憶部(ROM、RAMなど)などを備えている。
【0042】
PCM60は、要求駆動力に基づいて、駆動用モータ2に供給すべき電力を算出する。PCM60は、算出した電力が駆動用モータ2に供給されるようにBCM64に出力する。
【0043】
PCM60は、BCM64から入力されたSOCと、アクセル開度センサ75から入力されたアクセル開度とに基づいて、要求発電電力を算出する。PCM60は、該要求発電電力を得るために必要なロータリエンジン14の回転数(要求エンジン回転数)及び負荷(要求エンジン負荷)を算出して、ECM62に出力する。
【0044】
PCM60は、エンジンシステム6を始動させる場合、スタータジェネレータ5によりロータリエンジン14のエキセントリックシャフト22を回転させる際の回転数(要求回転数)及び回転数の上昇速度(回転上昇率)を算出し、SGCM(Starter Generator Control Module)68に出力する。SGCM68は、主にスタータジェネレータ5の制御を行うコントローラであり、1つ以上のプロセッサ(典型的にはCPU)、各種プログラムを記憶する記憶部(ROM、RAMなど)などを備えている。
【0045】
PCM60は、車両1の車速を検出する車速センサ76からの出力を取得する。
【0046】
PCM60は、ECM62を介して、エンジン回転数、エンジン水温、油圧に関する情報を取得する。PCM60は、エンジン水温をロータリエンジン14の温度とみなす。詳しくは後述するが、本実施形態では、PCM60は、エンジン回転数に基づいて、油圧切替装置90をオン状態又はオフ状態にするための制御信号をECM62に出力する。また、PCM60は、油圧センサ77が検出した検出油圧に基づいて、エンジン回転数を制御することがある。ECM62は、PCM60から信号に基づいて、インジェクタ52、点火プラグ26、及び油圧切替装置90を制御する。PCM60は、コントローラの一例である。
【0047】
〈油圧制御システム〉
次に、ロータリエンジン14に搭載された油圧供給システム80について説明する。
【0048】
図4に示すように、オイルは、オイルパン12に貯留されている。オイルパン12内のオイルは、オイルポンプ81によりオイルストレーナ82を介して汲み上げられ、フィルタ83により濾過されて、給油路84に送られる。オイルポンプ81は、ロータリエンジン14の回転により駆動する機械式のオイルポンプである。オイルポンプ81から吐出されるオイルの油圧は、基本的にはエンジン回転数が高いほど高くなる。
【0049】
給油路84は、ロータリエンジン14の本体に穿設されたり、パイプが配置されたりすることで形成されている。給油路84は、主にロータランドのような潤滑部に供給する給油路である。潤滑部に到達したオイルは、不図示のドレン油路を通って、オイルパン12に戻る。図示は省略しているが、油圧供給システム80は、摺動部及び冷却部等に供給する給油路も有している。
【0050】
また、油圧供給システム80は、給油路84に過剰に油圧が供給されないように、油圧が所定値を超えるとオイルポンプ81とフィルタ83との間のオイル経路部分からオイルパン12に過剰な油圧(油量)を逃がすリリーフ弁85が設けられている。
【0051】
給油路84には、潤滑部に供給するオイル量、すなわち油圧を制御するための油圧切替装置90が設けられている。油圧切替装置90は、高油圧状態と低油圧状態との二つの状態に油圧を切り替える。
図5A及び
図5Bに示すように、油圧切替装置90は、本体部91と、切替弁92と、調整弁93とを有する。
【0052】
本体部91は、切替弁92が配置された第1弁室91aと、調整弁93が配置された第2弁室91bと、給油路84に連通する第1油路91cと、第1弁室91aと第2弁室91bとを連通する第2油路91dと、を有する。第2弁室91bは、給油路84と前記ドレン油路とに連通していて、給油路84と前記ドレン油路とを連通させることが可能な室である。
【0053】
切替弁92は、第1弁室91a内を往復駆動可能なスループ弁で構成されている。切替弁92は、第1油路91cと第2油路91dとを連通させるための連通油路92aを有している。切替弁92は、ECM62からのオンオフ信号により作動する。具体的には、切替弁92がオフ状態のときは、
図5Aに示すように、第1油路91cと第2油路91dとは連通されず、切替弁92により第1油路91cのオイルがせき止められる。一方で、切替弁92がオン状態のときは、
図5Bに示すように、第1油路91cと第2油路91dとが連通油路92aにより連通されて、第1油路91cのオイルが第2油路91dに流れる。
【0054】
調整弁93は、給油路84からオイルを塞ぐ閉塞位置(
図5A参照)と、給油路84と前記ドレン油路とを連通させるリリーフ位置(
図5B参照)とに移動可能な弁である。調整弁93の一端部にはリターンスプリング93aが設けられている。調整弁93は、調整弁93に第2油路91dから油圧が作用していないときには、リターンスプリング93aの付勢力により前記閉塞位置に位置する一方で、調整弁93に第2油路91dから油圧が作用したときには、リターンスプリング93aの付勢力に抗して前記リリーフ位置に移動する。
【0055】
図5Aに示すように、切替弁92がオフ状態のときには、第1油路91cと第2油路91dとが非連通状態となって、調整弁93が前記閉塞位置に位置する。このときには、油圧切替装置90は、給油路84と前記ドレン油路とが連通させず、給油路84の油圧を高油圧状態に切り替える。一方で、
図5Bに示すように、切替弁92がオン状態のときには、第1油路91cと第2油路91dとが連通状態であるため、調整弁93が前記リリーフ位置に位置する。このときには、油圧切替装置90は、給油路84と前記ドレン油路とを連通させて、給油路84の油圧を低油圧状態に切り替える。以下の説明では、切替弁92がオフ状態であるときを高油圧モード、切替弁92がオン状態であるときを低油圧モードと言うことがある。
【0056】
〈エンジン駆動時の制御処理〉
次に、エンジン駆動時のPCM60の処理制御について、
図6のフローチャートを参照しながら説明する。
【0057】
まず、ステップS101において、PCM60は各種センサからの信号を読み込む。
【0058】
次に、ステップS102において、PCM60は駆動用モータ2で出力すべき要求駆動力を算出する。
【0059】
次いで、ステップS103において、PCM60は、発電要求があるか否かを判定する。この発電要求は、スタータジェネレータ5で発電した電力を駆動用モータ2に供給するための発電要求と、該電力をバッテリ4に供給するための発電要求とを含んでいる。PCM60は、発電要求があるYESのときにはステップS104に進む一方で、発電要求がないNOのときには前記ステップS101に戻る。
【0060】
前記ステップS104では、PCM60は、スタータジェネレータ5を作動させて、ロータリエンジン14を始動させる。
【0061】
次に、ステップS105において、PCM60は、要求発電電力を算出する。
【0062】
次いで、ステップS106において、PCM60は、前記ステップS107で算出した要求発電電力で発電されるように、スタータジェネレータ5及びエンジンシステム6を制御する。PCM60は、要求発電電力に基づいて、スタータジェネレータ5の作動点と、エンジンシステム6の作動点とをそれぞれ設定して、各作動点でスタータジェネレータ5及びエンジンシステム6を作動させる。より具体的には、PCM60は、
図7に示すような、回転数設定マップ700に基づいて、要求発電電力に対するエンジン回転数を設定するとともに、該エンジン回転数に応じたエンジン負荷を算出して、設定したエンジン回転数及びエンジントルクでもって、エンジンシステム6を作動させる。
【0063】
次に、ステップS107において、PCM60は、回転数制限制御を実行する必要が無いか否かを判定する。PCM60は、回転数制限制御を実行する必要がないYESのときには、ステップS108に進む一方で、回転数制限制御を実行する必要があるNOのときには、ステップS110に進む。詳しくは後述するが、回転数制限制御は、油圧がエンジン回転数に応じて設定された制限油圧よりも低下したときに実行する制御である。
【0064】
次に、ステップS108において、PCM60は、発電要求がないか否かを判定する。PCM60は、発電要求がないYESのときにはステップS109に進む。一方で、PCM60は、発電要求があるNOのときには、前記ステップS105に戻る。
【0065】
前記ステップS109では、PCM60はロータリエンジン14を停止させる。PCM60は、ステップS109の後はリターンする。
【0066】
前記ステップS110では、PCM60は、回転数制限制御を実行する。PCM60は、ステップS110の後はリターンする。
【0067】
〈エンジン駆動時の油圧制御〉
本実施形態では、エンジン回転数に基づいて、油圧切替装置90の切替弁92のオンオフを切り替えるようにしている。具体的には、
図8にグラフ800に示すように、PCM60は、エンジン回転数が第1所定回転数R1以上でかつ第2所定回転数R2未満であるときには、切替弁92をオンにして、低油圧モードにする一方で、エンジン回転数が第2所定回転数R2以上であるときには、切替弁92をオフにして、高油圧モードにする。尚、本実施形態では、第1所定回転数未満では、ロータリエンジン14を作動させないため、
図8では、第1所定回転数R1でグラフ800の線が切れている。また、
図8のグラフに示す油圧は、後述する制限油圧以上の油圧である。
【0068】
エンジン回転数が低いときには、ロータリエンジン14の潤滑部での油膜切れが発生しにくい。このため、低油圧モードにして給油路84の油圧を低くしたとしても、ロータリエンジン14の動作に悪影響がほとんどない。寧ろ、低油圧モードにすることで、オイルポンプ81の負荷を下げることができるため、ロータリエンジン14の燃費を向上させることができる。
【0069】
次に、エンジンシステム6の駆動時において、油圧を切り替える際のPCM60の処理を
図9のフローチャートを参照しながら説明する。ロータリエンジン14が作動していることを前提としているため、エンジン回転数は必然的に第1所定回転数R1以上である。
【0070】
まず、ステップS201において、PCM60は各種センサからの信号を読み込む。PCM60は、特にエキセントリックシャフト角センサ70からの信号を取得する。
【0071】
次に、ステップS202において、PCM60は、エンジン回転数が第2所定回転数R2未満である否かを判定する。PCM60は、エンジン回転数が第2所定回転数R2未満であるYESのときにはステップS203に進む一方で、エンジン回転数が第2所定回転数R2以上であるNOのときにはステップS205に進む。
【0072】
前記ステップS203では、PCM60は、フラグFが0であるか否かを判定する。PCM60は、フラグFが0であるYESのときにはステップS204に進む一方で、フラグFが1であるNOのときにはステップS205に進む。
【0073】
前記ステップS204では、PCM60は、切替弁92をオン状態にして、低油圧モードに切り替える。PCM60は、ステップS204の後はリターンする。
【0074】
一方、前記ステップS205では、PCM60は、切替弁92をオフ状態にして、高油圧モードに切り替える。
【0075】
前記ステップS205の後のステップS206では、PCM60は、エンジン回転数を制限する回転数制限制御の実行中であるか否かを判定する。PCM60は、回転数制限制御の実行中であるYESのときにはステップS207に進む一方で、回転数制限制御の実行中でないNOのときにはステップS208に進む。
【0076】
前記ステップS207では、フラグFを1にする。PCM60は、ステップS207の後はリターンする。
【0077】
前記ステップS208では、フラグFを0にする。PCM60は、ステップS208の後はリターンする。
【0078】
前述したように、回転数制限制御は、油圧が制限油圧よりも低下したときに実行する制御である。このため、高油圧モードで回転数制限制御を実行中に低油圧モードに切り替えると、油圧を大きく低下させることになり、ロータリエンジン14の潤滑部に油膜を適切に形成できなくなる。このため、高油圧モードでかつ回転数制限制御を実行中には、エンジン回転数が第2所定回転数R2未満になったとしても、低油圧モードに切り替えないようにする。これにより、ロータリエンジン14の潤滑部に油膜を適切に形成することができる。
【0079】
〈回転数制限制御〉
ここで、ロータリエンジン14の潤滑部に油膜切れを生じさせないために、本実施形態では、エンジン回転数に応じて、油圧の制限値(下限値)である制限油圧を設定されている。PCM60は、基本的には、給油路84の油圧が制限油圧以上になるように、オイルポンプ81や油圧切替装置90を作動させている。
【0080】
図10は、制限油圧を設定するための制限油圧設定マップ100である。この制限油圧設定マップ100は、PCM60の記憶部に記憶されている。
【0081】
図10に示すように、制限油圧は、エンジン回転数が高いほど高くなるように設定されている。特に、エンジン回転数が第3所定回転数R3以上の範囲では、第3所定回転数未満の範囲と比較して、エンジン回転数に対する制限油圧の傾きが大きくなっている。また、エンジン回転数が第1所定回転数R1のときの制限油圧は、最下限油圧Plとなっている。最下限油圧Plは、ロータリエンジン14を適切に作動させることができる(潤滑部の潤滑を維持できる)最低限の油圧である。このように、制限油圧を設定して、ロータリエンジン14の潤滑部に油膜が適切に形成されるようにしている。
【0082】
しかしながら、オイルパン12内のオイルが少ないとき、すなわちオイルパン12内の油面が低いときに、車両1が旋回したり、傾斜面を走行したりすると、油面が傾いてオイルストレーナ82が油面から露出することがある。オイルストレーナ82が油面から露出すると、汲み上げることができるオイルの量が減少するため、油圧が低下してしまう。例えば、
図10に示すように、平地の直線を走行している時には、油圧が黒丸の位置にあったものが、車両1が旋回する時に油面が傾いて、油圧が制限油圧未満の白丸の位置にまで低下してしまうおそれがある。
【0083】
従来は、オイルパン12内にバッフルプレートを配置して、油面が傾くこと自体を抑制していた。しかし、本実施形態のようなシリーズ式のハイブリッド車両に設けられるロータリエンジン14は、駆動源としては用いられず、発電のためのみに利用されるため、駆動源として用いられるエンジンと比較してかなり小型化される。小型化されたロータリエンジン14では、オイルパン12もそれに付随して小型化される。このような小型化されたオイルパン12にバッフルプレートを設けるとなると、構造が複雑化する。また、小型化されたロータリエンジン14では、バッフルプレートを設けることによる製造コストの上昇の影響が大きくなる。
【0084】
そこで、本実施形態では、PCM60は、要求発電電力に対してロータリエンジン14を運転してスタータジェネレータ5を駆動した場合において、油圧センサ77が検出した検出油圧が制限油圧以上であるときには、エンジン回転数を現在の回転数に維持にする。一方、PCM60は、検出油圧が制限油圧未満になるときには、エンジン回転数を、現在の回転数から、現在の検出油圧が制限油圧以上となる特定回転数以下にまで低下させる回転数制限制御を実行する。特定回転数は、現在の検出油圧が制限油圧となるエンジン回転数である。
図10に示すように、エンジン回転数を特定回転数まで低下させることで、ロータリエンジン14の状態が、白丸の位置から白抜き四角の位置になる。これにより、現在の油圧(検出油圧)は制限油圧以上になり、ロータリエンジン14の潤滑部に油膜を適切に形成できるようになる。尚、油圧の低下は、オイルストレーナ82が汲み上げることができるオイルの量が減少することが原因であるため、エンジン回転数を低下させたとしても、油圧はほとんど変化しない。
【0085】
尚、PCM60は、前記回転数制限制御によりエンジン回転数を低下させたことで発電電力が不足するときには、不足分をバッテリに蓄積された電力により補うようにする。また、PCM60は、エンジン負荷が最大負荷でないときには、エンジン負荷を増加させることで、スタータジェネレータ5により要求発電電力を満たすようにしてもよい。
【0086】
次に、
図11及び
図12を参照しながら、回転数制限制御を実行する際のPCM60の処理動作について説明する。
【0087】
図11は、低油圧モードのときの回転数制限制御を示すフローチャートである。
【0088】
まず、ステップS301において、PCM60は各種センサからの信号を読み込む。PCM60は、特にエキセントリックシャフト角センサ70からの信号、及び油圧センサ77からの信号を取得する。
【0089】
次に、ステップS302において、PCM60は、現在のエンジン回転数に応じた制限油圧を算出する。PCM60は、制限油圧設定マップ100を読み込んで、現在のエンジン回転数を制限油圧設定マップ100に当てはめて、制限油圧を算出する。
【0090】
次に、ステップS303において、PCM60は、油圧が制限油圧未満である否かを判定する。PCM60は、油圧が制限油圧未満であるYESのときにはステップS304に進む一方で、油圧が制限油圧以上であるNOのときにはステップS308に進む。
【0091】
前記ステップS304では、PCM60は、油圧が最下限油圧Pl以上である否かを判定する。PCM60は、油圧が最下限油圧Pl以上であるYESのときにはステップS305に進む一方で、油圧が最下限油圧Pl未満であるNOのときにはステップS309に進む。
【0092】
前記ステップS305では、PCM60は、油圧が制限油圧未満の状態が第1所定時間継続したか否かを判定する。PCM60は、制限油圧未満の状態が第1所定時間継続したYESのときにはステップS306に進む一方で、制限油圧未満の状態が第1所定時間継続していないNOのときにはステップS303に戻る。第1所定時間は、例えば2秒である。
【0093】
前記ステップS306では、PCM60は、エンジン回転数を特定回転数未満にする。
【0094】
次に、前記ステップS307では、PCM60は、エンジン回転数を特定回転数まで上昇させる。PCM60は、ステップS307の後はリターンする。
【0095】
一方で、前記ステップS303の判定がNOのときに進む、前記ステップS308では、PCM60は、エンジン回転数を現在の回転数に維持にする。PCM60は、ステップS308の後はリターンする。
【0096】
一方で、前記ステップS304の判定がNOのときに進む、前記ステップS309では、PCM60は、油圧が最下限油圧Pl未満の状態が第2所定時間継続したか否かを判定する。PCM60は、最下限油圧Pl未満の状態が第2所定時間継続したYESのときにはステップS310に進む一方で、最下限油圧Pl未満の状態が第2所定時間継続していないNOのときにはステップS303に戻る。第2所定時間は、例えば3秒である。
【0097】
前記ステップS310では、PCM60は、ロータリエンジン14を停止させる。PCM60は、ステップS310の後はリターンする。
【0098】
一方で、
図12は、高油圧モードのときの回転数制限制御を示すフローチャートである。
【0099】
まず、ステップS401において、PCM60は各種センサからの信号を読み込む。PCM60は、特にエキセントリックシャフト角センサ70からの信号、及び油圧センサ77からの信号を取得する。
【0100】
次に、ステップS402において、PCM60は、現在のエンジン回転数に応じた制限油圧を算出する。PCM60は、制限油圧設定マップ100を読み込んで、現在のエンジン回転数を制限油圧設定マップ100に当てはめて、制限油圧を算出する。
【0101】
次に、ステップS403において、PCM60は、油圧が制限油圧未満である否かを判定する。PCM60は、油圧が制限油圧未満であるYESのときにはステップS404に進む一方で、油圧が制限油圧以上であるNOのときにはステップS410に進む。
【0102】
前記ステップS304では、PCM60は、油圧が最下限油圧Pl以上である否かを判定する。PCM60は、油圧が最下限油圧Pl以上であるYESのときにはステップS405に進む一方で、油圧が最下限油圧Pl未満であるNOのときにはステップS411に進む。
【0103】
前記ステップS405では、PCM60は、油圧が制限油圧未満の状態が第1所定時間継続したか否かを判定する。PCM60は、制限油圧未満の状態が第1所定時間継続したYESのときにはステップS406に進む一方で、制限油圧未満の状態が第1所定時間継続していないNOのときにはステップS403に戻る。
【0104】
前記ステップS406では、PCM60は、エンジン回転数を特定回転数未満にする。
【0105】
次に、ステップS407では、PCM60は、エンジン回転数を特定回転数まで上昇させる。
【0106】
次いで、ステップS408では、PCM60は、油圧が制限油圧未満の状態が第3所定時間継続したか否かを判定する。PCM60は、制限油圧未満の状態が第3所定時間継続したYESのときにはステップS406に進む一方で、制限油圧未満の状態が第3所定時間継続していないNOのときにはリターンする。第3所定時間は、例えば、7秒である。
【0107】
一方で、前記ステップS409では、PCM60は、クリーニング制御を実行する。クリーニング制御は、高油圧モードから一時的に低油圧モードに切り替えて、再度高油圧モードに切り替える制御である。PCM60は、クリーニング制御において、高油圧モードから低油圧モードへの切り替えを複数回行う。PCM60は、ステップS409の後はリターンする。
【0108】
一方で、前記ステップS403の判定がNOのときに進む、前記ステップS410では、PCM60は、エンジン回転数を現在の回転数に維持にする。PCM60は、ステップS308の後はリターンする。
【0109】
また、前記ステップS404の判定がNOのときに進む、前記ステップS411では、PCM60は、油圧が最下限油圧Pl未満の状態が第2所定時間継続したか否かを判定する。PCM60は、最下限油圧Pl未満の状態が第2所定時間継続したYESのときにはステップS412に進む一方で、最下限油圧Pl未満の状態が第2所定時間継続していないNOのときにはステップS403に戻る。
【0110】
前記ステップS412では、PCM60は、ロータリエンジン14を停止させる。PCM60は、ステップS412の後はリターンする。
【0111】
PCM60は、以上のようにして油圧に応じてエンジン回転数を制御する。前述したように、PCM60は、エンジン回転数を低下させるときには、油圧が制限油圧未満になってから第1所定時間が経過してから、エンジン回転数を低下させる。これにより、油面の影響以外で油圧が一時的に低下したときには、エンジン回転数を低下させないようにすることができる。また、PCM60は、ロータリエンジン14を停止させるときには、油圧が最下限油圧未満になってから第2所定時間が経過してから、ロータリエンジン14を停止させる。これにより、油面の影響以外で油圧が一時的に低下したときには、ロータリエンジン14を低下させないようにすることができる。
【0112】
また、PCM60は、エンジン回転数を低下させるときには、エンジン回転数を、特定回転数未満まで下げた後に、特定回転数まで上昇させる。エンジン回転数が特定回転数よりも高い状態を出来る限り短くすることができる。これにより、ロータリエンジン14の潤滑部が油膜切れになるのをより効果的に抑制することができる。
【0113】
また、PCM60は、高油圧モードのときには、第3所定時間が経過したときに、クリーニング制御を実行する。油圧切替装置90を、長期間、高油圧モードのままにすると、油圧切替装置90の切替弁92や調整弁93が固着して、低油圧モードと高油圧モードとを切り替えたいときに、切り替えることができなくなるおそれがある。そのため、一時的に、低油圧モードに切り替えて、切替弁92及び調整弁93を動かすことで、切替弁92及び調整弁93の固着を抑制する。これにより、低油圧モードと高油圧モードとの切り替えを適切に行うことができ、油圧の制御を適切に行うことができる。延いては、オイルポンプ81の負荷を軽減して、燃費を向上させることもできる。
【0114】
図13は、回転数制限制御を実行する際のタイムチャートである。初期状態では、ロータリエンジン14を作動させた状態で、駆動用モータ2により走行している。また、初期状態において、エンジン回転数は第2所定回転数以上であり、油圧切替装置90は高油圧モードに切り替えられている。
【0115】
時間t1において、車両1が旋回を開始したときには、車速が低下して、それに付随してエンジン回転数も低下する。
【0116】
車両1の旋回に伴い、時間t2において油圧が低下したとする。油圧が低下した状態が、時間t2から第1所定時間が経過した時間t3まで継続すると、回転数制限制御がオンになる。このとき、エンジン回転数は、一旦、特定回転数未満の回転数まで低下し、その後、特定回転数まで上昇する。油圧の低下はオイルストレーナ82が汲み上げるオイルの量が低下したことにあるため、エンジン回転数が変化したとしても、油圧はほとんど変化せず一定の状態である。
【0117】
一方で、油圧が低下した状態が、時間t2から第3所定時間が経過した時間t4まで継続すると、クリーニング制御がオンする。クリーニング制御がオンすると、切替弁92が一時的にオンした後、再度オフされる。切替弁92がオンする時間は、1秒よりも短い。クリーニング制御では、切替弁92のオフからオンへの切り替えを所定間隔で複数回(ここでは2回)行う。クリーニング制御の際は、一時的に油圧が低下するが、油圧が低下する時間は第1所定時間よりも短いため、クリーニング制御により油圧が低下したとしても、この油圧低下によって更にエンジン回転数を低下させることはない。
【0118】
そして、時間t5において、車両1が更に傾斜面を走行するなどして、油圧が更に低下して最下限油圧Pl未満になったとする。最下限油圧Pl未満の状態が、時間t5から第2所定時間が経過した時間t6まで継続すると、ロータリエンジン14が停止される。これにより、エンジン回転数が0になるとともに、油圧も0になる。一方で、車両1は駆動用モータ2により走行しているため、車速は維持される。ロータリエンジン14は、発電要求があれば再始動する。
【0119】
〈実施形態の効果〉
以上のように、本実施形態では、ロータリエンジン14に油圧を供給する油圧供給システム80と、油圧を検出する油圧センサ77と、スタータジェネレータ5、ロータリエンジン14、及び油圧供給システム80を制御するPCM60と、を備え、PCM60は、車両1の状態に応じて算出される要求発電電力に基づいて、スタータジェネレータ5及びロータリエンジン14を作動させ、油圧センサ77により検出された検出油圧が、エンジン回転数に応じて予め設定された制限油圧未満であるか否かを判定し、スタータジェネレータ5により発電させる要求発電電力に対してロータリエンジン14を運転してスタータジェネレータ5を駆動した場合において、検出油圧が制限油圧以上であるときには、エンジン回転数を現在の回転数に維持にする一方、検出油圧が制限油圧未満になるときには、エンジン回転数を、現在の回転数から、現在の検出油圧が制限油圧以上となる特定回転数以下にまで低下させる回転数制限制御を実行する。このように、油圧が制限油圧未満になったときに、エンジン回転数を低下させれば、潤滑部に油膜切れが生じにくくなるため、ロータリエンジン14の潤滑部に油膜を形成するために必要なオイルの量を減らすことができる。このため、油面が傾くことで油圧が低下して制限油圧未満になったとしても、ロータリエンジン14の潤滑部に油膜を適切に形成することができる。また、バッフルプレートを設ける必要がなくなるため、ロータリエンジン14の複雑化や製造コストの上昇を抑制することができる。
【0120】
特に、本実施形態では、油圧が制限油圧未満の状態が第1所定時間継続したときに、回転数制限制御を実行する。これにより、瞬間的な油圧低下では回転数制限制御は実行されないため、回転数制限制御が頻繁に実行されるのを抑制することができる。
【0121】
また、本実施形態では、油圧供給システム80は、ロータリエンジン14に供給する油圧である供給油圧が相対的に低い低油圧にする低油圧モードと、供給油圧が相対的に高い高油圧にする高油圧モードとに切り替える油圧切替装置90を有し、PCM60は、エンジン回転数が所定回転数未満のときには油圧切替装置90を低油圧モードにする一方で、エンジン回転数が所定回転数以上のときには油圧切替装置を90高油圧モードにし、高油圧モードの時に、回転数制限制御を実行するときには、エンジン回転数が所定回転数以上から所定回転数未満になったとしても、高油圧モードのままにする。すなわち、回転数制限制御の実行中は、所望の油圧よりも低い油圧になっている状態である。このため、高油圧モードから低油圧モードに切り替えるとなると、所望の油圧に対して更に低い油圧に下げることとなってしまい、ロータリエンジン14の潤滑部に油膜切れが発生するおそれがある。このため、高油圧モードで回転数制限制御を実行しているときには、低油圧モードへの切り替えを停止させることで、ロータリエンジン14の潤滑部に油膜をより適切に形成することができる。
【0122】
また、本実施形態では、油圧切替装置90は、スループ弁で構成された切替弁92により低油圧モードと高油圧モードとを切り替えるように構成されており、PCM60は、高油圧モードの時に、回転数制限制御を実行するときには、エンジン回転数を特定回転数以下まで低下させた後、油圧切替装置90を、一時的に低油圧モードに切り替えた後で高油圧モードに再度切り替えるクリーニング制御を行う。
【0123】
特に、本実施形態では、PCM60は、クリーニング制御において、低油圧モードから高油圧モードへの切り替えを所定間隔で複数回行う。
【0124】
すなわち、このように、クリーニング制御を行うことで、切替弁92及び調整弁93を一時的に動作させる。これにより、切替弁92及び調整弁93の固着を抑制して、低油圧モードと高油圧モードとの切り替えを正常に行うことができるようになる。
【0125】
また、本実施形態では、PCM60は、ロータリエンジン14を、予め設定された下限回転数以上のエンジン回転数で動作させ、検出油圧が、エンジン回転数が下限回転数であるときの制限油圧である最下限油圧Pl未満であるときにはロータリエンジン14を停止させる。このように、発電効率がかなり悪化して、燃費の悪化するおそれがあるときには、ロータリエンジン14を停止させる。これにより、燃費の悪化を抑制することができる。
【0126】
また、本実施形態では、特定回転数は、現在の検出油圧が制限油圧となるエンジン回転数であり、PCM60は、回転数制限制御において、エンジン回転数を、特定回転数未満まで低下させた後、特定回転数まで上昇させる。これにより、エンジン回転数が特定回転数よりも高い状態を出来る限り短くすることができるため、ロータリエンジン14の潤滑部が油膜切れになるのをより効果的に抑制することができる。したがって、ロータリエンジン14の潤滑部に油膜をより適切に形成することができる。
【0127】
(その他の実施形態)
ここに開示された技術は、前述の実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
【0128】
例えば、前述の実施形態では、回転数制限制御において、エンジン回転数を、特定回転数未満まで低下させた後に、特定回転数まで上昇させていた。これに限らず、エンジン回転数を特定回転数まで低下させるようにしてもよい。また、エンジン回転数を、特定回転数未満まで低下させた後、特定回転数まで上昇させることなく、特定回転数未満の回転数に維持するようにしてもよい。
【0129】
また、前述の実施形態では、エンジンとしてロータリエンジン14を採用した場合を説明したが、エンジンとしてレシプロエンジンを採用してもよい。
【0130】
前述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本開示の範囲を限定的に解釈してはならない。本開示の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本開示の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0131】
ここに開示された技術は、駆動用モータと、駆動用モータを駆動させるための電力を発電するジェネレータと、ジェネレータ駆動用のエンジンと、を備えたハイブリッド車両のエンジン制御装置として有用である。
【符号の説明】
【0132】
1 ハイブリッド車両
2 駆動用モータ
5 スタータジェネレータ
12 オイルパン
14 ロータリエンジン
60 PCM(コントローラ)
77 油圧センサ(油圧検出部)
80 油圧供給システム
81 オイルポンプ
82 オイルストレーナ
90 油圧切替装置
Pl 最下限油圧