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特開2024-134310微細繊維状セルロース水分散液、乳化剤、乳化液、食品及び化粧品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134310
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】微細繊維状セルロース水分散液、乳化剤、乳化液、食品及び化粧品
(51)【国際特許分類】
   C08L 1/10 20060101AFI20240926BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20240926BHJP
   A61K 8/84 20060101ALI20240926BHJP
   A61K 8/04 20060101ALI20240926BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240926BHJP
   C08B 11/12 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
C08L1/10 ZBP
A61K8/73
A61K8/84
A61K8/04
A61Q19/00
C08B11/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044545
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】難波 達也
(72)【発明者】
【氏名】後居 洋介
【テーマコード(参考)】
4C083
4C090
4J002
【Fターム(参考)】
4C083AD261
4C083CC04
4C083CC05
4C083CC14
4C083CC19
4C083CC33
4C083CC38
4C083DD39
4C083EE17
4C090AA05
4C090BA25
4C090BB52
4C090BC10
4C090BD19
4C090BD36
4C090BD50
4C090DA26
4C090DA27
4J002AB02W
4J002AH00X
4J002GB00
4J002GT00
4J002HA06
4J002HA07
(57)【要約】
【課題】優れた乳化能を持つ微細繊維状セルロース水分散液を提供する。
【解決手段】実施形態に係る微細繊維状セルロース水分散液は、リグニンを含む微細繊維状セルロースの水分散液であって、下記(A)、(B)、(C)及び(D)の条件を満たす。
(A)上記水分散液の固形分中のリグニンの割合が5~30質量%。
(B)微細繊維状セルロースにはエステル結合を介してクエン酸骨格が導入されており、上記水分散液の固形分中のカルボキシ基量が0.5~4.0mmol/g。
(C)微細繊維状セルロースの平均アスペクト比が10~300。
(D)上記水分散液のナノファイバー化度が30~100。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグニンを含む微細繊維状セルロースの水分散液であって、
(A)前記水分散液の固形分中の前記リグニンの割合が5~30質量%であり、
(B)前記微細繊維状セルロースにはエステル結合を介してクエン酸骨格が導入されており、前記水分散液の固形分中のカルボキシ基量が0.5~4.0mmol/gであり、
(C)前記微細繊維状セルロースの平均アスペクト比が10~300であり、
(D)前記水分散液のナノファイバー化度が30~100である、
微細繊維状セルロース水分散液。
【請求項2】
原料がバイオマス材料である、請求項1に記載の微細繊維状セルロース水分散液。
【請求項3】
原料が食品廃棄物である、請求項1に記載の微細繊維状セルロース水分散液。
【請求項4】
原料が茶殻である、請求項1に記載の微細繊維状セルロース水分散液。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の微細繊維状セルロース水分散液を含む乳化剤。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載の微細繊維状セルロース水分散液を含む乳化液。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか1項に記載の微細繊維状セルロース水分散液又は該微細繊維状セルロース水分散液由来の微細繊維状セルロース及びリグニンを含む食品。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか1項に記載の微細繊維状セルロース水分散液又は該微細繊維状セルロース水分散液由来の微細繊維状セルロース及びリグニンを含む化粧品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細繊維状セルロース水分散液、並びに、その用途としての乳化剤、乳化液、食品及び化粧品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、セルロースの新たな利用形態として微細繊維状セルロース(セルロースナノファイバーとも称される。)が注目されている。微細繊維状セルロースは、セルロース繊維をナノレベルにまで微細化したものであり、増粘剤等、様々な用途に利用されている。
【0003】
微細繊維状セルロースとしては、セルロースをTEMPO触媒により酸化し微細化してなるTEMPO酸化セルロースナノファイバーが知られている。また、例えば、下記特許文献1には、原料に木質バイオマスを用いて、セルロースの水酸基にクエン酸等のポリカルボン酸が誘導されてなるセルロースナノファイバーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-140403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、特許文献1にはバイオマス材料を原料としてクエン酸で変性してなる微細繊維状セルロースが開示されている。しかしながら、特許文献1に記載の発明は、バイオマス材料からリグニンを抽出分離して、リグニンを実質的に含まないクエン酸変性微細繊維状セルロースの水分散液を得るものである。そのため、リグニンを含む微細繊維状セルロースの水分散液については開示されていない。
【0006】
本発明者は、微細繊維状セルロースの新たな可能性を鋭意検討していく中で、リグニンを含むクエン酸変性微細繊維状セルロースの水分散液がオイルに対する優れた乳化能を持つことを見出した。
【0007】
本発明の実施形態は、優れた乳化能を持つ微細繊維状セルロース水分散液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下に示される実施形態を含む。
[1] リグニンを含む微細繊維状セルロースの水分散液であって、
(A)前記水分散液の固形分中の前記リグニンの割合が5~30質量%であり、
(B)前記微細繊維状セルロースにはエステル結合を介してクエン酸骨格が導入されており、前記水分散液の固形分中のカルボキシ基量が0.5~4.0mmol/gであり、
(C)前記微細繊維状セルロースの平均アスペクト比が10~300であり、
(D)前記水分散液のナノファイバー化度が30~100である、
微細繊維状セルロース水分散液。
[2] 原料がバイオマス材料である、[1]に記載の微細繊維状セルロース水分散液。
[3] 原料が食品廃棄物である、[1]に記載の微細繊維状セルロース水分散液。
[4] 原料が茶殻である、[1]に記載の微細繊維状セルロース水分散液。
[5] [1]~[4]のいずれか1項に記載の微細繊維状セルロース水分散液を含む乳化剤。
[6] [1]~[4]のいずれか1項に記載の微細繊維状セルロース水分散液を含む乳化液。
[7] [1]~[4]のいずれか1項に記載の微細繊維状セルロース水分散液又は該微細繊維状セルロース水分散液由来の微細繊維状セルロース及びリグニンを含む食品。
[8] [1]~[4]のいずれか1項に記載の微細繊維状セルロース水分散液又は該微細繊維状セルロース水分散液由来の微細繊維状セルロース及びリグニンを含む化粧品。
【発明の効果】
【0009】
本発明の実施形態によれば、オイルに対する優れた乳化能を持つ微細繊維状セルロース水分散液を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例3の微細繊維状セルロースのAFM画像
図2】実施例5の微細繊維状セルロースのAFM画像
図3】比較例4の微細繊維状セルロースのAFM画像
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施形態に係る微細繊維状セルロース水分散液は、リグニンを含む微細繊維状セルロースの水分散液であり、下記(A)、(B)、(C)及び(D)の条件を満たすものである。
【0012】
(A)上記水分散液の固形分中のリグニンの割合が5~30質量%である。
(B)上記微細繊維状セルロースにはエステル結合を介してクエン酸骨格が導入されており、上記水分散液の固形分中のカルボキシ基量が0.5~4.0mmol/gである。
(C)上記微細繊維状セルロースの平均アスペクト比が10~300である。
(D)上記水分散液のナノファイバー化度が30~100である。
【0013】
該微細繊維状セルロース水分散液は、固形分として微細繊維状セルロースとリグニンを含むものであり、分散媒としての水中に微細繊維状セルロースが分散している。リグニンは、水中に分散してもよく、水に溶解してもよく、分散したものと溶解したものとが混在してもよい。微細繊維状セルロース水分散液は、固形分が実質的に微細繊維状セルロースとリグニンのみからなることが好ましい。ここで、実質的に微細繊維状セルロースとリグニンのみからなるとは、固形分100質量%における微細繊維状セルロースとリグニンの合計量が90質量%以上であることをいい、より好ましくは95質量%以上であり、100質量%でもよい。
【0014】
本明細書において、微細繊維状セルロース水分散液の固形分とは、水分散液中における水等の揮発成分を除いたものをいい、蒸発残分ないし不揮発分とも称される。固形分の質量は、一分間当たりの質量変化率が0.05%以下になるまで140℃で乾燥させた後の質量である。
【0015】
微細繊維状セルロースは、セルロース繊維をナノレベルまで微細化したものであり、セルロースナノファイバーとも称される。微細繊維状セルロースの数平均繊維径は、特に限定されないが、300nm以下であることが好ましく、より好ましくは2~100nmであり、更に好ましくは3~50nmであり、更に好ましくは3~20nmであり、更に好ましくは4~10nmである。
【0016】
微細繊維状セルロースの数平均繊維長は、特に限定されず、例えば500nm~10μmでもよく、700~5000nmでもよく、800~3000nmでもよく、1000~2000nmでもよい。
【0017】
微細繊維状セルロースの平均アスペクト比は、上記(C)のとおり、10~300である。平均アスペクト比が10以上であることにより、乳化能を高めることができる。平均アスペクト比が300以下であることにより、乳化液の粘性上昇を抑制できる。平均アスペクト比は、50~280であることが好ましく、より好ましくは80~250である。
【0018】
これらの数平均繊維径、数平均繊維長及び平均アスペクト比は、後述する実施例の欄に記載の方法により測定することができる。
【0019】
微細繊維状セルロースは、上記(B)のとおり、エステル結合を介してクエン酸骨格が導入されている。すなわち、実施形態に係る微細繊維状セルロースは、クエン酸変性のセルロースナノファイバーであり、セルロースをクエン酸と反応させることにより得られる。クエン酸としては、無水物でもよく、一水和物でもよい。微細繊維状セルロースがクエン酸骨格を持つことにより、各種オイルに対する優れた乳化能を発揮することができる。
【0020】
詳細には、セルロース分子中のグルコースユニットの水酸基とクエン酸のカルボキシ基との間でエステル結合が形成され、該エステル結合を介してクエン酸骨格(即ち、当該エステル結合を形成するカルボキシ基を除く部分)が導入される。クエン酸の持つ3つのカルボキシ基の2つ以上がグルコースユニットの水酸基とエステル結合を形成してもよい。クエン酸のカルボキシ基は、セルロース分子を構成するすべてのグルコースユニットに一つ又は一つ以上結合していてもよく、あるいは、セルロース分子を構成する一部のグルコースユニットに一つ又は一つ以上結合していてもよい。一実施形態において、セルロース分子中のグルコースユニットのC6位の水酸基に、クエン酸の1つのカルボキシ基がエステル結合することで、当該エステル結合を介してクエン酸骨格が導入されてもよい。
【0021】
微細繊維状セルロースに導入されたクエン酸骨格のカルボキシ基は、酸型(-COOH)でもよく、塩型、即ちカルボン酸塩基(-COOX、ここでXはカルボン酸と塩を形成する陽イオン)でもよく、酸型と塩型が混在してもよい。塩としては、特に限定されず、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、ホスホニウム塩等のオニウム塩、1級アミン、2級アミン、3級アミン等のアミン塩等が挙げられる。塩は、好ましくはアルカリ金属塩である。
【0022】
微細繊維状セルロースにおけるカルボキシ基量は、上記(B)のとおり、微細繊維状セルロース水分散液の固形分中のカルボキシ基量として、0.5~4.0mmol/gである。該カルボキシ基量が0.5mmol/g以上であることにより、微細繊維状セルロースのアスペクト比が大きくなり、乳化能を高めることができる。該カルボキシ基が4.0mmolを超えると、クエン酸の持つ3つのカルボキシ基の2つ以上がグルコースユニットの水酸基とエステル結合する割合が高くなり、セルロース同士を架橋するため、微細繊維状セルロースを調製できない。該カルボキシ基量は、0.8~3.8mmol/gであることが好ましく、より好ましくは1.0~3.7mmol/gであり、更に好ましくは1.2~3.6mmol/gである。微細繊維状セルロース水分散液の固形分中のカルボキシ基量は、後述する実施例の欄に記載の方法により測定することができる。
【0023】
微細繊維状セルロースについてのナノファイバー化の程度は、上記(D)のとおり、微細繊維状セルロース水分散液のナノファイバー化度として、30~100である。ナノファイバー化度が30以上であることにより、優れた乳化能を発揮することができる。該ナノファイバー化度は、35~100であることが好ましく、より好ましくは40~100であり、更に好ましくは45~100である。微細繊維状セルロース水分散液のナノファイバー化度は、後述する実施例の欄に記載の方法により測定することができる。
【0024】
上記微細繊維状セルロースとしては、セルロースI型結晶構造を有するものが用いられる。セルロースI型結晶構造は天然セルロースの結晶形であり、I型結晶構造を有することにより、微細繊維状セルロースは水不溶性を持ち、水中において繊維形態を保持することができる。セルロースI型結晶構造を有することは、広角X線回折像測定により得られる回折プロファイルにおいて、2θ=14°~17°付近と、2θ=22°~23°付近の2つの位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
【0025】
上記微細繊維状セルロース水分散液に含まれるリグニンは、主として高等植物に含まれるプロピルベンゼン誘導体を構成単位とする網状高分子化合物である。
【0026】
本実施形態において、微細繊維状セルロース水分散液の固形分中のリグニンの割合(以下、リグニン量ともいう。)は、上記(A)のとおり、当該固形分100質量%に対して5~30質量%である。リグニン量が5~30質量%であることにより、各種オイルに対する優れた乳化能を発揮することができる。リグニン量は、8~28質量%であることが好ましく、より好ましくは9~25質量%であり、更に好ましくは10~22質量%である。
【0027】
微細繊維状セルロース水分散液の固形分中の微細繊維状セルロースの割合(以下、セルロース量ともいう。)は、当該固形分100質量%に対して70~95質量%であることが好ましく、より好ましくは72~92質量%であり、更に好ましくは75~91質量%であり、更に好ましくは78~90質量%である。
【0028】
上記微細繊維状セルロース水分散液は、分散媒として水を含むが、分散媒は水のみでもよく、水とともにエタノール、イソプロピルアルコール、メタノール等の水溶性有機溶媒を効果が損なわれない範囲で含んでもよい。有機溶媒を含む場合、分散媒100質量%における水の量は80質量%以上であることが好ましく、より好ましくは90質量%以上であり、更に好ましくは95質量%以上であり、更に好ましくは100質量%である。なお、分散媒は、効果が損なわれない限り、酸やアルカリ、それらの塩を含む水溶液であってもよい。
【0029】
上記微細繊維状セルロース水分散液は、原料がバイオマス材料であることが好ましい。バイオマス材料とは、再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたものをいい、例えば、食品廃棄物、パルプ工場廃液、建築廃材、製材廃材、林地残材、農業残渣等が挙げられる。これらの中でも食品廃棄物が好ましい。食品廃棄物とは、食品の製造や調理過程で生じる加工残渣で食用に供されないもの、食品の流通過程や消費段階で生じる残りや食べ残し等をいう。ここで、食品には飲料も含まれる。
【0030】
詳細には、上記微細繊維状セルロース水分散液は微細繊維状セルロース及びリグニンを含むため、バイオマス材料としてもセルロース及びリグニンを含むものが用いられる。好ましくは、セルロース及びリグニンを含む食用植物から得られる食品廃棄物であり、例えば、茶殻、果実の搾り滓(例えば、カシスの搾り滓、ローズヒップの搾り滓、赤ワイン搾り滓、柑橘由来の搾り滓等)、コーヒー滓等が挙げられる。これらはいずれか1種単独で用いてもよく又は2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中でもリグニンの含有量が比較的多く、乳化能に優れることから、茶殻がより好ましい。茶殻とは、茶をいれた残りかすをいい、例えば、ツバキ科の常緑樹である茶の葉や茎から飲料である茶をいれたときの残りかすが好ましく用いられる。
【0031】
上記微細繊維状セルロース水分散液の固形分濃度は特に限定されず、0.5~10質量%であることが好ましく、より好ましくは1~5質量%である。
【0032】
上記微細繊維状セルロース水分散液の調製方法は特に限定されない。例えば、バイオマス材料をアルカリ水溶液で加熱処理して、バイオマス材料に含まれるリグニンの一部を除去することでリグニンの含有量を調整する。得られたアルカリ処理バイオマス材料をクエン酸と混合し、加熱処理することにより、クエン酸を反応させる。得られたクエン酸変性バイオマス材料を水中に分散させた後、アルカリを加えて中和し、更に解繊処理を施すことにより、リグニンを含有した微細繊維状セルロース水分散液を調製することができる。
【0033】
解繊処理は、例えば、高速回転下でのホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波分散処理機、ビーター、ディスク型レファイナー、コニカル型レファイナー、ダブルディスク型レファイナー、グラインダー等を用いて、クエン酸変性バイオマス材料の水分散液を処理することにより行うことができる。
【0034】
実施形態に係る微細繊維状セルロース水分散液は、オイルに対する乳化能を持つため、乳化剤として用いることができる。すなわち、本実施形態に係る乳化剤は、上記微細繊維状セルロース水分散液を含む液状乳化剤である。該乳化剤は、上記微細繊維状セルロース水分散液のみからなるものでもよく、該微細繊維状セルロース水分散液とともに、例えばエタノール等の一価アルコール、プロピレングリコールやブチレングリコールなどの多価アルコール、単糖やオリゴ糖などの糖類、NaCl、KCl、CaCl、MgCl、(NHSO、NaCOなど無機塩類、有機塩類などの各種水溶性成分等を含むものでもよい。
【0035】
本実施形態に係る乳化液は、上記微細繊維状セルロース水分散液を含むものである。ここで、乳化液は、上記微細繊維状セルロース水分散液を乳化剤として用いてオイルを乳化して得られた液体であり、エマルション(乳濁液)とも称される。従って、乳化液は、上記微細繊維状セルロース水分散液とともにオイルを含む。一実施形態において、乳化液は、水中にオイル(油滴)が分散した水中油滴(O/W型)エマルションであることが好ましい。
【0036】
上記オイルとしては、常温(25℃)で液体の各種疎水性化合物が挙げられ、特に限定されない。例えば、シリコーンオイル、植物油脂、動物油脂、ロウ類、炭化水素、高級脂肪酸、高級アルコール、エステル油等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0037】
植物油脂としては、例えば、アボカド油、アーモンド油、オリーブ油、ククイナッツ油、グレープシード油、ゴマ油、小麦胚芽油、コメ胚芽油、コメヌカ油、サフラワー油、シアバター、大豆油、茶油(茶実油、茶種子油)、月見草油、ツパキ油、トウモロコシ胚芽油、ナタネ油、パーシック油、ハトムギ油、パーム油、パーム核油、ヒマシ油、硬化ヒマシ油、ヒマワリ油、へ一ゼルナッツ油、マカデミアナッツ油、メドウホーム油、綿実油、モクロウ、ヤシ油、落花生油、ローズヒップ油等が挙げられる。
【0038】
動物油脂としては、例えば、魚油、牛脂、タートル油、ミンク油、卵黄油等が挙げられる。
【0039】
ロウ類としては、例えば、カルナウバロウ、鯨ロウ、セラック、ホホバ油、ミツロウ、サラシミツロウ、モンタンワックス、ラノリン、ラノリン誘導体、還元ラノリン、硬質ラノリン、吸着精製ラノリン等が挙げられる。
【0040】
炭化水素としては、例えば、α-オレフィンオリゴマー、スクワラン、スクワレン、セレシン、固形パラフィン、プリスタン、ポリエチレン末、マイクロクリスタリンワックス、流動パラフィン、ワセリン、ミネラルオイル、炭素数8~30の直鎖アルカン(例えばオクタデカン)等が挙げられる。
【0041】
高級脂肪酸としては、例えば、アラキドン酸、イソステアリン酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ベヘニン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸、ラノリン脂肪酸、硬質ラノリン脂肪酸、軟質ラノリン脂肪酸、リノール酸、リノレン酸等が挙げられる。
【0042】
高級アルコールとしては、例えば、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、オクチルドデカノール、キミルアルコール、コレステロール、シトステロール、ステアリルアルコール、セタノール、セトステアリルアルコール、セラキルアルコール、デシルテトラデカノール、バチルアルコール、フィトステロール、ヘキシルデカノール、ベヘニルアルコール、ラウリルアルコール、ラノリンアルコール、水素添加ラノリンアルコール、オクタノール等が挙げられる。
【0043】
エステル油としては、例えば、酢酸ラノリン、イソステアリン酸イソセチル、イソステアリン酸コレステリル、エルカ酸オクチルドデシル、エチルヘキサン酸セチル、エチルヘキサン酸セトステアリル、オレイン酸オクチルドデシル、オレイン酸デシル、ジメチルオクタン酸ヘキシルデシル、ステアリン酸イソセチル、ステアリン酸コレステリル、ステアリン酸ブチル、パルミチン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソトリデシル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸ミリスチル、ラウリン酸ヘキシル、ラノリン脂肪酸イソプロピル、ラノリン脂肪酸コレステリル、デカン酸メチルなどの脂肪酸エステル、乳酸セチル、乳酸ミリスチル、ヒドロキシステアリン酸コレステロール、リンゴ酸ジイソステアリルなどのヒドロキシ酸エステル、トリミリスチン酸グリセリン、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルなどのトリグリセリド、メトキシケイヒ酸エチルヘキシルなどのメトキシケイヒ酸エステル等が挙げられる。
【0044】
上記乳化液におけるオイルの含有量は特に限定されず、例えば10~60質量%でもよく、20~40質量%でもよい。乳化液における微細繊維状セルロースの含有量も特に限定されず、例えば0.1~1質量%でもよく、0.2~0.5質量%でもよい。乳化液におけるリグニンの含有量も特に限定されず、例えば0.005~0.4質量%でもよく、0.01~0.2質量%でもよい。
【0045】
乳化液の調製方法は特に限定されず、常法に従い調製することができる。例えば、微細繊維状セルロース水分散液とオイルを混合し、任意に希釈水を加え、超音波ホモジナイザー等の分散機を用いて攪拌することにより調製することができる。
【0046】
上記微細繊維状セルロース水分散液は乳化剤として利用することができるため、食品や化粧品等の幅広い用途において添加剤として用いることができる。ここで食品には飲料も含まれる。例えば、一実施形態に係る食品は、上記微細繊維状セルロース水分散液又は当該水分散液由来の微細繊維状セルロース及びリグニンを含むものである。また、一実施形態に係る化粧品は、上記微細繊維状セルロース水分散液又は当該水分散液由来の微細繊維状セルロース及びリグニンを含むものである。これらの食品及び化粧品には、上記微細繊維状セルロース水分散液又は当該水分散液由来の微細繊維状セルロース及びリグニンの他に、それぞれの用途に応じた他の成分が含まれる。
【0047】
詳細には、上記微細繊維状セルロース水分散液を乳化剤として用いてオイルを乳化させた乳化液を調製し、該乳化液を用いて食品や化粧品を調製してもよい。従って、一実施形態に係る食品又は化粧品は、該乳化液を含むものである。また、該乳化液とともに他の成分を混合したものを加熱等することにより乾燥させて食品や化粧品を調製してもよい。
【0048】
一実施形態に係る食品の具体例としては、乳酸菌飲料、ヨーグルト、酸性乳飲料、スポーツドリンク、乳幼児用イオン飲料、機能型ドリンク、ゼリー飲料、カロリー摂取型ドリンク、デザートドリンク、ベビーフード、ジャム、ドレッシング、マヨネーズ、ケチャップ、ウスターソース、バーベキューソース、焼肉ソース、各種食用タレ、つゆ、ジュレ状調味料等が挙げられる。
【0049】
一実施形態に係る化粧品の具体例としては、化粧水、乳液、クリーム、ファンデーション、アイシャドー、サンスクリーン化粧料、シャンプー、リンス、ヘアコンディショナー、リンスインシャンプー、ヘアスタイリング剤、ヘアトリートメント剤、染毛剤、育毛剤、養毛剤等が挙げられる。
【実施例0050】
以下に実施例について比較例とともに詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、例中、「%」とあるのは、特に限定のない限り質量基準を意味する。
【0051】
[実施例1:微細繊維状セルロース水分散液A1の調製]
水酸化ナトリウム60gに、純水1040gを加え、十分撹拌して水酸化ナトリウムを溶解させた後、溶液の温度を80℃まで昇温した。温度が80℃になったことを確認した後、茶殻400g(固形分60g)を加え、1時間静置した(アルカリ濃度:4%)。茶殻としては固形分濃度が15%のもの(残部は水)を用いた。静置後、遠心分離機で固液分離し、さらに純水1kgを加えて、濾液の電気伝導度が1mS/cm以下になるまで、純水で繰り返し洗浄し、アルカリ処理茶殻を得た。該アルカリ処理茶殻100g(固形分10g、残部は水)に、固形分に対して5倍量のクエン酸50gを加え、十分混合してクエン酸を溶解させた後、混合物をフッ素樹脂製のバットに広げ、120℃のオーブンに3時間静置することで、水分を除去した。その後、150℃のオーブンで3時間処理した。室温まで冷却後、純水1kgを加えて、余剰のクエン酸を溶解させた後、遠心分離機で固液分離し、さらに純水1kgを加えて、濾液の電気伝導度が200μS/cm以下になるまで、純水で繰り返し洗浄し、クエン酸変性茶殻を得た。該クエン酸変性茶殻100g(固形分10g、残部は水)に水900gを加えて、ホモミキサー(プライミクス株式会社製)を用いて回転数5000rpmで攪拌しながら、6mol/L水酸化ナトリウム水溶液を加えて、系内のpHを7とした。その後、回転数15000rpmで10分間攪拌した後、高圧ホモジナイザー(株式会社スギノマシン製)を用いて、圧力100MPaで2回処理し、微細繊維状セルロース水分散液A1を得た。
【0052】
[実施例2:微細繊維状セルロース水分散液A2の調製]
クエン酸の添加量を70gにした以外は実施例1の調製法に準じて、微細繊維状セルロース水分散液A2を得た。
【0053】
[実施例3:微細繊維状セルロース水分散液A3の調製]
クエン酸の添加量を100gにした以外は実施例1の調製法に準じて、微細繊維状セルロース水分散液A3を得た。
【0054】
[実施例4:微細繊維状セルロース水分散液A4の調製]
水酸化ナトリウムの添加量を125g(アルカリ濃度:8%)にした以外は実施例3の調製法に準じて、微細繊維状セルロース水分散液A4を得た。
【0055】
[実施例5:微細繊維状セルロース水分散液A5の調製]
クエン酸変性処理における150℃のオーブンでの処理時間を2時間にした以外は実施例3の調製法に準じて、微細繊維状セルロース水分散液A5を得た。
【0056】
[実施例6:微細繊維状セルロース水分散液A6の調製]
茶殻をカシスの搾り滓(固形分濃度:15%)にした以外は実施例3の調製法に準じて、微細繊維状セルロース水分散液A6を得た。
【0057】
[実施例7:微細繊維状セルロース水分散液A7の調製]
茶殻をローズヒップの搾り滓(固形分濃度:15%)にした以外は実施例3の調製法に準じて、微細繊維状セルロース水分散液A7を得た。
【0058】
[比較例1:微細繊維状セルロース水分散液B1の調製]
茶殻100g(固形分15g、残部は水)に、水1125g、臭化ナトリウム2g、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジノオキシラジカル)0.2gを加えた後、充分撹拌した。その後、13%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を50g加えて、反応を開始した。反応の進行に伴いpHが低下するため、pHを10~11に保持するように1mol/L水酸化ナトリウム水溶液を滴下しながら、pHの低下が見られなくなるまで反応した。反応終了後、1mol/L塩酸を加えて中和した後、遠心分離機で固液分離し、さらに純水1kgを加えて、濾液の電気伝導度が1mS/cm以下になるまで、純水で繰り返し洗浄した。その後、純水、6mol/L水酸化ナトリウム水溶液を加えて、pHを10、固形分を4%に調整したスラリーを得た。前記スラリーの温度を30℃とした後、水素化ホウ素ナトリウムを0.1g加え、2時間反応した。反応終了後、1mol/L塩酸を添加して中和した後、遠心分離機で固液分離し、さらに純水1kgを加えて、濾液の電気伝導度が200μS/cm以下になるまで、純水で繰り返し洗浄し、TEMPO酸化処理茶殻を得た。該TEMPO酸化処理茶殻100g(固形分10g、残部は水)に水900gを加えて、ホモミキサー(プライミクス株式会社製)を用いて回転数5000rpmで攪拌しながら、6mol/L水酸化ナトリウム水溶液を加えて、系内のpHを7とした。その後、回転数15000rpmで10分間攪拌した後、高圧ホモジナイザー(株式会社スギノマシン製)を用いて、圧力100MPaで2回処理し、微細繊維状セルロース水分散液B1を得た。
【0059】
[比較例2:微細繊維状セルロース水分散液B2の調製]
粉末パルプ10gに、クエン酸100gを加え、十分混合した後、混合物をフッ素樹脂製のバットに広げ、150℃のオーブンで3時間反応した。放冷後、純水1kgを加えて、余剰のクエン酸を溶解させた後、遠心分離機で固液分離し、さらに純水1kgを加えて、濾液の電気伝導度が200μS/cm以下になるまで、純水で繰り返し洗浄し、クエン酸変性パルプを得た。該クエン酸変性パルプ10gに水990gを加えて、ホモミキサー(プライミクス株式会社製)を用いて回転数5000rpmで攪拌しながら、6mol/L水酸化ナトリウム水溶液を加えて、系内のpHを7とした。その後、回転数15000rpmで10分間攪拌した後、高圧ホモジナイザー(株式会社スギノマシン社)を用いて、圧力100MPaで2回処理し、微細繊維状セルロース水分散液B2を得た。
【0060】
[比較例3:微細繊維状セルロース水分散液B3の調製]
水酸化ナトリウムの添加量を29g(アルカリ濃度:2%)にした以外は実施例3の調製法に準じて、微細繊維状セルロース水分散液B3を得た。
【0061】
[比較例4:微細繊維状セルロース水分散液B4の調製]
高圧ホモジナイザーを用いた圧力100MPaでの2回処理を実施しなかった以外は実施例3の調製法に準じて、微細繊維状セルロース水分散液B4を得た。
【0062】
[比較例5:微細繊維状セルロース水分散液B5の調製]
茶殻をタケにした以外は比較例4の調製法に準じて、微細繊維状セルロース水分散液B5を得た。
【0063】
上記で得られた微細繊維状セルロース水分散液A1~A7及びB1~B5について、カルボキシ基量、数平均繊維径、数平均繊維長、平均アスペクト比、ナノファイバー化度、及びリグニン量を測定した。各測定方法は以下のとおりである。
【0064】
[カルボキシ基量の測定]
微細繊維状セルロース水分散液15g(固形分0.15g)を精秤し、水60gを添加してスラリーを調製し、0.1mol/L塩酸水溶液によってpHを約2.5とした後、0.05mol/L水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、電気伝導度測定を行い、pHが約11になるまで続け、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量V[mL]から、下記式に従い求めることができる。
カルボキシ基量[mmol/g]=V[mL]×(0.05/微細繊維状セルロース水分散液の固形分[g]) …(1)
【0065】
[数平均繊維径、数平均繊維長及び平均アスペクト比の測定]
微細繊維状セルロースの数平均繊維径及び数平均繊維長は、原子間力顕微鏡(AFM、株式会社日立ハイテク製)を用いて観察した。詳細には、各微細繊維状セルロース水分散液をマイカ基板上にキャストした後、AFM画像を10枚撮影し、その中から25本の微細繊維状セルロースを選択し、繊維径と繊維長を計測した。得られた繊維径と繊維長のデータから、それぞれの相加平均を算出して、数平均繊維径[nm]及び数平均繊維長[nm]を求めた。また、下記式(2)に従い、平均アスペクト比を算出した。なお、繊維同士が絡み合い、凝集体を形成している場合は、測定不可とした。
平均アスペクト比=数平均繊維長[nm]/数平均繊維径[nm] …(2)
【0066】
[ナノファイバー化度]
ISO/TS 21346に準拠して、ナノファイバー化度を測定した。詳細には、固形分濃度1%の微細繊維状セルロース水分散液20gに、水180gを加えて、ホモミキサー(株式会社プライミクス製)を用いて回転数8000rpmで攪拌し、希釈液を得た。遠心分離機(HIMAC社製)を用いて回転数12000g、20分間で上記希釈液を固液分離し、上澄み液を得た。上記希釈液及び上澄み液をそれぞれ105℃で乾燥した後、乾燥重量[g]を計測した。そして、下記式(3)に従い、ナノファイバー化度を求めた。
ナノファイバー化度=(上澄み液の乾燥重量[g]/希釈液の乾燥重量[g])×100 …(3)
【0067】
[リグニン量の測定]
微細繊維状セルロース水分散液の固形分が0.3gになるように精秤した後、純水30mL、1mol/L水酸化ナトリウム水溶液2mLを加えて、70℃のオーブンで4時間静置した。ガラス濾過器を用いて吸引濾過し、真空下、105℃で1時間乾燥し、リグニン量測定サンプルを得た。該リグニン量測定サンプルに、72%硫酸15mLを加えて、ガラス棒で十分に攪拌して室温で4時間静置した。その後、純水560mLを加えて、4時間加熱還流した。あらかじめ質量C0[g]を測定したガラス濾過器を用いて吸引濾過し、濾過残渣が入ったガラス濾過器を真空下、105℃で1時間乾燥した。乾燥後、デシケーター内に保存し、冷却後、ガラス濾過器の質量C1[g]を測定した。また、吸引濾過時の濾液について、濾液質量[kg]と205nmの吸光度[abs]を測定した。更に、3%硫酸について205nmの吸光度[abs]を測定した。
【0068】
下記式(4)に従い、酸不溶性リグニン量[%]を求めた。
酸不溶性リグニン量[%]=100×(ガラス濾過器の質量C1[g]-ガラス濾過器の質量C0[g])/微細繊維状セルロース水分散液の固形分[g] …(4)
【0069】
また、下記式(5)に従い、酸可溶性リグニン量[%]を求めた。
酸可溶性リグニン量[%]=100×濾液質量[L]×(濾液の吸光度[abs]-3%硫酸の吸光度[abs])/(リグニンの吸光係数[L/g・cm]×光路長[cm]×微細繊維状セルロース水分散液の固形分[g]) …式(5)
ここで、リグニンの吸光係数=110L/g・cmであり、光路長=1cmである。
【0070】
上記で得られた酸不溶性リグニン量[%]及び酸可溶性リグニン量[%]から、下記式(6)により、微細繊維状セルロース水分散液の固形分中のリグニンの割合である、リグニン量[%]を算出した。
リグニン量[%]=酸不溶性リグニン量[%]+酸可溶性リグニン量[%]…式(6)
【0071】
[乳化能の評価]
上記微細繊維状セルロース水分散液A1~A7及びB1~B5について、乳化能を評価した。詳細には、微細繊維状セルロース水分散液60mLに純水140mLを加えて、ホモミキサー(プライミクス株式会社製)を用いて回転数8000rpmで攪拌し、希釈液を得た。該希釈液20mLにオイル5mLを加えて、超音波ホモジナイザー(ソニック社製「VC-505」)を用いて攪拌し(処理条件:出力40%)、乳化液を得た。オイルとしては、ヘキサデカン、デカン酸メチル、及びオクタノールの3種を用いて、それぞれ乳化液を作製した。
【0072】
上記乳化液を試験管に20mL入れて、一晩静置した後、試験管内での乳化層の高さ[cm]と、乳化液の液面の高さ[cm]を測定し、下記式(7)に従い、乳化安定性[%]を算出した。そして、下記評価基準に従い、乳化能を評価した。
乳化安定性=(乳化層の高さ[cm]/乳化液の液面の高さ[cm])×100…式(7)
<評価基準>
〇:乳化安定性が95以上100以下
△:乳化安定性が90以上95未満
×:乳化安定性が90未満
【0073】
【表1】
【0074】
結果は表1に示すとおりである。比較例1では、微細繊維状セルロース水分散液B1がリグニンを含有しているものの、微細繊維状セルロースの変性がクエン酸変性ではなく、TEMPO酸化変性であるため、オクタノール及びデカン酸メチルを乳化できなかった。
【0075】
比較例2では、微細繊維状セルロースがクエン酸で変性されたものであるが、水分散液がリグニンを含有していないため、オクタノールを乳化できなかった。比較例3では、微細繊維状セルロースがクエン酸で変性されたものであるが、リグニンの割合が多く、微細繊維状セルロースの割合が少ないため、オクタノール及びデカン酸メチルを乳化できなかった。
【0076】
比較例4、5では、微細繊維状セルロース水分散液がリグニンを含有しているものの、ナノファイバー化処理に高圧分散機を使用しておらず、微細繊維状セルロース水分散液のナノファイバー化度が低いため、オクタノール、デカン酸メチル、及びオクタデカンといった各種オイルを乳化できなかった。
【0077】
これに対し、実施例1~7の微細繊維状セルロース水分散液A1~A7では、ナノファイバー化度が高く、平均アスペクト比が大きく、クエン酸で変性されており、かつリグニンを5~30%の範囲で含有しているため、オクタノール、デカン酸メチル、及びオクタデカンといった各種オイルを乳化でき、優れた乳化能を有していた。
【0078】
図1は実施例3の微細繊維状セルロース水分散液についてのAFM画像であり、図2は実施例5、図3は比較例4についての同様のAFM画像である。図3に示されるように、比較例4では、セルロースの解繊が不十分で1本1本に分かれておらず、繊維が充分に解れきれていないことがわかる。これに対し、実施例3及び実施例5ではそれぞれ図1及び図2に示されるように、微細繊維状セルロースが解繊されており、特にナノファイバー化度が高い実施例3では、実施例5に比べても、充分に解繊されていることが分かる。
【0079】
なお、明細書に記載の種々の数値範囲は、それぞれそれらの上限値と下限値を任意に組み合わせることができ、それら全ての組み合わせが好ましい数値範囲として本明細書に記載されているものとする。また、「X~Y」との数値範囲の記載は、X以上Y以下を意味する。
【0080】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
図1
図2
図3