(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134313
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】静菌用液体組成物、加工食品、加工食品の製造方法、及び加工食品の静菌方法
(51)【国際特許分類】
A23L 3/3517 20060101AFI20240926BHJP
A23L 3/3508 20060101ALI20240926BHJP
A23L 3/3481 20060101ALI20240926BHJP
A23L 29/10 20160101ALI20240926BHJP
【FI】
A23L3/3517
A23L3/3508
A23L3/3481
A23L29/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044548
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000226998
【氏名又は名称】株式会社日清製粉グループ本社
(71)【出願人】
【識別番号】000103840
【氏名又は名称】オリエンタル酵母工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野 浩
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 純子
(72)【発明者】
【氏名】河原田 啓希
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 千夏
【テーマコード(参考)】
4B021
4B035
【Fターム(参考)】
4B021LA41
4B021LW02
4B021LW04
4B021LW10
4B021MC01
4B021MK20
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4B021MP01
4B035LC05
4B035LE20
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4B035LG32
4B035LG42
4B035LK01
4B035LP01
4B035LP21
(57)【要約】
【課題】微生物が増殖しやすい食品であっても、当該食品本来の食味を維持しつつ食品の保存性を向上させ得る静菌用液体組成物、及び該液体組成物を用いた静菌方法、並びに保存性の良好な加工食品及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】フェルラ酸類0.05~3質量%、フェルラ酸以外の有機酸及び該有機酸の塩からなる群から選択される1種以上1.5~5質量%、食塩1~5質量%、並びに食塩以外の水分活性低下剤5~65質量%を含有する、静菌用液体組成物。該静菌用液体組成物を、加工食品100重量部に対して20~45質量部となるように付着させる工程を有する、加工食品の静菌方法。該静菌用液体組成物を、加工食品の表面に付着させる工程を有する、加工食品の製造方法。該静菌用液体組成物が表面に付着している、加工食品。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェルラ酸類0.05~3質量%、フェルラ酸以外の有機酸及び該有機酸の塩からなる群から選択される1種以上1.5~5質量%、食塩1~5質量%、並びに食塩以外の水分活性低下剤5~65質量%を含有する、静菌用液体組成物。
【請求項2】
前記フェルラ酸以外の有機酸及び該有機酸の塩からなる群から選択される1種以上が、少なくとも酢酸塩を含む、請求項1記載の静菌用液体組成物。
【請求項3】
前記食塩以外の水分活性低下剤が、糖アルコール及び乳酸ナトリウムからなる群から選択される1種以上である、請求項1又は2に記載の静菌用液体組成物。
【請求項4】
水分活性が0.70~0.97である、請求項1又は2に記載の静菌用液体組成物。
【請求項5】
さらにミリスチン酸のエステルを含有する、請求項1又は2に記載の静菌用液体組成物。
【請求項6】
さらに澱粉類を含有する、請求項1又は2に記載の静菌用液体組成物。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の静菌用液体組成物を、加工食品100質量部に対して20~45質量部となるように付着させる工程を有する、加工食品の静菌方法。
【請求項8】
前記工程を経た後の加工食品のpHが5.8以上である、請求項7に記載の静菌方法。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の静菌用液体組成物を、加工食品の表面に付着させる工程を有する、加工食品の製造方法。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の静菌用液体組成物が表面に付着している、加工食品。
【請求項11】
前記静菌用液体組成物が表面に付着している状態でのpHが5.8以上である、請求項10に記載の加工食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静菌用液体組成物、並びに該静菌用液体組成物を使用した加工食品、加工食品の製造方法及び加工食品の静菌方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品分野においては従来、主に食品の安心・安全の観点から、食品の保存性を向上させることが要望されてきた。近年は、食品の消費期限徒過等による販売店舗での食品の廃棄が問題となっており、食品の廃棄を低減する観点からも、食品の保存性を向上させることが要望されている。特に、弁当や総菜等の加工食品については、工場や店内の厨房で大量に製造された後、加工食品が凍らない程度の低温度帯(チルド帯)での輸送、保存を経て消費者の手元に届くような流通・販売形態が近年普及しているところ、このようなチルド帯で保存、流通及び/又は販売される加工食品(チルド食品)は、容器に密封され加熱加圧処理されたレトルト食品に比べて、微生物の繁殖による腐敗や変質が問題となりやすいため、幅広い種類の微生物に有効な高レベルの静菌技術を適用する必要がある。
【0003】
従来、微生物の繁殖を抑え、食品の保存性を高める静菌剤として、酢酸、酢酸ナトリウム、フェルラ酸等の抗菌性を有する有機酸や有機酸塩、グリセリン脂肪酸エステル等の乳化剤等が知られており、これらは、殺菌又は静菌作用のある組成物の形態でしばしば使用されている。
【0004】
特許文献1には、フェルラ酸類と、フェルラ酸以外の有機酸及び該有機酸の塩から選ばれる1種以上と、ミリスチン酸のエステルとを含有する、静菌用液体組成物が記載されている。
特許文献2には、乳酸、クエン酸及びリンゴ酸並びにこれらの塩から選ばれる一種以上の有機酸類と糖アルコール類とを有効成分として含有することを特徴とする日持向上剤が記載されている。
特許文献3には、酢酸、酢酸ナトリウム、アジピン酸の群から選ばれる1種又は2種以上を混合した有機酸類に、マルチトール及び/又はエリスリトールを組合わせた粉末状の食品保存改良剤が記載されている。
特許文献4には、フェルラ酸類と有機酸、有機酸塩及びキトサンの少なくとも1種とを有効成分として含有することを特徴とする食品保存剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-194002号公報
【特許文献2】特開2006-121994号公報
【特許文献3】特開2003-144115号公報
【特許文献4】特開平5-168449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
食品の保存においては、微生物による腐敗や変質、特に環境中に比較的多く存在する乳酸菌による腐敗や変質が課題となる。また、食品用の静菌剤については、その微生物増殖抑制効果が重要であるだけでなく、安全性や食品の風味に与える影響も無視できない。しかしながら、乳酸菌は、従来の各種静菌剤及び静菌方法では食味に影響を及ぼさずに静菌することが困難であり、食品の設計において大きな壁となっている。
【0007】
本発明の課題は、乳酸菌等の微生物が増殖しやすい食品であっても、当該食品本来の食味を維持しつつ食品の保存性を向上させ得る静菌用液体組成物及び該液体組成物を用いた静菌方法、並びに保存性の良好な加工食品及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、加工食品の表面に、フェルラ酸類と、フェルラ酸類以外の有機酸及び該有機酸の塩から選択される1種以上と、食塩と、食塩以外の水分活性低下剤とを含有する液体組成物を付着させることにより、高い保存性を有しながらも本来の食味が維持された加工食品が得られることを見出した。
【0009】
本発明は上記知見に基づくものであり、フェルラ酸類0.05~3質量%、フェルラ酸以外の有機酸及び該有機酸の塩からなる群から選択される1種以上1.5~5質量%、食塩1~5質量%、並びに食塩以外の水分活性低下剤5~65質量%を含有する、静菌用液体組成物である。
【0010】
また本発明は、前記の本発明の静菌用液体組成物を、加工食品100重量部に対して20~45質量部となるように付着させる工程を有する、加工食品の静菌方法である。
また本発明は、前記静菌用液体組成物を、加工食品の表面に付着させる工程を有する、加工食品の製造方法である。
また本発明は、前記静菌用液体組成物が表面に付着している、加工食品である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、微生物が増殖しやすい食品、特にpHが高い加工食品であっても、当該食品本来の食味を維持しつつ食品の保存性を向上させ得る静菌用液体組成物を提供することができる。該静菌用液体組成物は、食品の表面に付着させるだけで、簡便に食品の保存性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
先ず、本発明の静菌用液体組成物について説明する。
本発明の静菌用液体組成物は、フェルラ酸類と、フェルラ酸類以外の有機酸及び該有機酸の塩からなる群から選択される1種以上と、食塩と、食塩以外の水分活性低下剤とを、それぞれ特定量含有する。以下では、フェルラ酸以外の有機酸及び該有機酸の塩から選ばれる1種以上を「有機酸類」ともいう。
本発明の静菌用液体組成物においては、食塩と、食塩以外の水分活性低下剤との働きにより、対象となる食品の水分活性を下げながら、フェルラ酸及び有機酸類の静菌性を奏させることで、食品に高い保存性を付与することができる。そして、これらの成分をそれぞれ特定の範囲内の量で併用することにより、食品に高い保存性を付与しつつ、食品の食味への影響を最小限に抑えることができる。
特に、本発明の静菌用液体組成物は、pHが高い加工食品、例えばpHが5.8以上の加工食品にも高い保存性を付与することができるという優れた効果を奏する。従来、pHが高い加工食品では、調理時に有機酸類を含む静菌剤を使用しても加工食品自体のpHが高いままであるため、有機酸類の静菌効果が十分に発揮されないという問題があったが、本発明は当該問題も解決し得るものである。本発明は、微生物が繁殖しやすいチルド食品の保存性の向上にとりわけ有効である。
【0013】
<フェルラ酸類>
フェルラ酸類としては、フェルラ酸、フェルラ酸の水溶性塩及びフェルラ酸のエステルが挙げられる。フェルラ酸は植物の細胞壁等に存在し、抗酸化作用を有する。フェルラ酸の分子式はC10H10O4である。フェルラ酸はCAS番号:537-98-4で登録されており、そのIUPAC名は(E)-3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシ-フェニル)プロパン-2-エノール酸である。フェルラ酸の水溶性塩としては、フェルラ酸ナトリウム、フェルラ酸カリウム及びフェルラ酸カルシウム等が挙げられる。フェルラ酸のエステルとしては、炭素原子数1以上5以下の低級アルコールとフェルラ酸とのエステルが挙げられ、具体的にはフェルラ酸メチル又はフェルラ酸エチル等が挙げられる。フェルラ酸類としては、フェルラ酸を用いることが静菌性の高さ及び入手容易性の点で好ましい。
【0014】
フェルラ酸類は、植物等の天然物から抽出した抽出物でもよく、試薬等として市販されている市販品でもよく、使用者自ら化学的に合成した合成品であってもよい。これらの抽出物、市販品及び合成品は、それぞれ、フェルラ酸類の含有量が50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが更に一層好ましい。前記の抽出物、市販品及び合成品は、本発明の所定の効果を阻害しない範囲で、フェルラ酸類以外の他の成分を含有してもよい。
【0015】
本発明の静菌用液体組成物中におけるフェルラ酸類の含有量は、液体組成物全質量に対し、0.05~3質量%であり、0.1~2.5質量%であることが好ましい。フェルラ酸類の含有量が0.05質量%より少ないと、目的とする静菌性の効果を十分に得られない場合があり、3質量%より多いと溶液中に溶解できず、沈殿が発生する場合がある。
【0016】
<フェルラ酸以外の有機酸及び該有機酸の塩>
フェルラ酸以外の有機酸及び該有機酸の塩からなる群から選択される1種以上は、静菌用液体組成物のpHを調整するために使用され、フェルラ酸類による静菌作用を補助するものである。これらの有機酸類は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができ、典型的には、静菌用液体組成物が所望のpHとなるように2種以上を組み合わせて用い得る。
【0017】
フェルラ酸以外の有機酸としては、食用が可能な一価、二価又は三価以上のカルボン酸が挙げられ、より具体的には、酢酸、乳酸、フマル酸、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸、アジピン酸、フィチン酸、ソルビン酸等が挙げられる。
フェルラ酸以外の有機酸の塩としては、上記に挙げた各種有機酸のアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩を用いることが、静菌性の効果及び食味の点で好適である。アルカリ金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられ、アルカリ土類金属塩としてはカルシウム塩が挙げられる。
【0018】
本発明の静菌用液体組成物は、静菌性の高さ、入手容易性、溶解性及び緩衝力の観点から、前記有機酸類が少なくとも酢酸塩を含むことが好ましい。さらに、該酢酸塩は、酢酸のアルカリ金属塩であることがより好ましく、酢酸ナトリウムであることがより一層好ましい。
【0019】
前記有機酸類として、酢酸塩(好ましくは酢酸のアルカリ金属塩、特に酢酸ナトリウム)と酢酸塩以外の有機酸類とを併用する場合、所望のpHやこれらの有機酸類の緩衝力にもよるが、目安としては、有機酸類全質量中に酢酸塩が50~95質量%を占めることが好ましい。
また、本発明の静菌用液体組成物中における酢酸塩の含有量は、液体組成物全質量に対し、0.75~4.75質量%であることが、静菌効果を高める点及び食品の食味を良好とする点で好ましく、0.8~3質量%であることがより好ましい。
【0020】
また、有機酸類として、有機酸を含むことも静菌性を高める点で好ましい。有機酸を用いる場合、好ましい有機酸は、クエン酸、リンゴ酸、フィチン酸、酢酸、乳酸、フマル酸、グルコン酸、アジピン酸、ソルビン酸等からなる群から選ばれる1種以上であり、クエン酸、リンゴ酸、フマル酸からなる群から選ばれる1種以上であることがより好ましい。
本発明の静菌用液体組成物が有機酸を含有する場合、その含有量は、液体組成物全質量に対し、0.01~3質量%であることが、静菌性を高める点及び食品の食味を良好とする点で好ましく、0.05~2質量%であることがより好ましい。
【0021】
また、酢酸塩以外の有機酸塩を用いることは、食味の改善、酢酸塩との併用による静菌効果の向上の点で好ましい。酢酸塩以外の有機酸塩を用いる場合、その好適なものとしては、クエン酸三ナトリウム等のクエン酸塩、フマル酸一ナトリウムや二ナトリウム等のフマル酸塩、コハク酸一ナトリウムやコハク酸二ナトリウム等のコハク酸塩、乳酸カリウム等の乳酸塩(乳酸ナトリウムを除く)が挙げられる。
本発明の静菌用液体組成物が酢酸塩以外の有機酸塩を含有する場合、その含有量は、液体組成物全質量に対し、0.1~4質量%であることが好ましく、0.2~3質量%であることがより好ましい。
【0022】
本発明の静菌用液体組成物中における有機酸類の含有量(2種以上併用する場合は合計量)は、液体組成物全質量に対し、1.5~5質量%であり、2~4質量%であることがより好ましい。有機酸類の含有量が1.5質量%より少ないと、目的とする静菌作用を十分に得られない場合があり、5質量%より多いと食品の風味に影響を与える場合がある。
【0023】
また、本発明の静菌用液体組成物中における有機酸類の含有量は、フェルラ酸類100質量部に対し、100~2000質量部であることが、静菌性と食味との両立の点で好ましく、500~1500質量部であることがより好ましい。
【0024】
<食塩>
食塩は、本発明の静菌用液体組成物において水分活性低下剤の1つとして用いられ、食品、とりわけ加工食品内の自由水と結合し、その水分活性(Aw)の値を低下させるよう作用するものである。
本発明の静菌用液体組成物中における食塩の含有量は、液体組成物全質量に対し、1~5質量%であり、2~3.5質量%であることが好ましい。食塩の含有量が1質量%より少ないと、食品の水分活性の値を十分に低下させることができず静菌性が不十分になる場合がある。食塩の含有量が5質量%より多いと、食品に本来必要ではない塩味が付与されて食味に影響してしまうおそれがある。
【0025】
また、本発明の静菌用液体組成物中における食塩の含有量は、フェルラ酸類100質量部に対し、100~2500質量部であることが、静菌性と食味との両立の点で好ましく、500~2000質量部であることがより好ましい。
【0026】
<食塩以外の水分活性低下剤>
本発明の静菌用液体組成物は、前記食塩を、食塩以外の水分活性低下剤と併用する。水分活性低下剤として、食塩と、食塩以外の水分活性低下剤とを併用することにより、食品の食味への影響を抑えながら十分に食品の水分活性を低下させて、食品の保存性を向上させることができる。
【0027】
食塩以外の水分活性低下剤としては、限定されるものではないが、例えば糖質が挙げられ、糖質としては、ショ糖(砂糖)、グルコース、マルトース、トレハロース、水飴、果糖、乳糖、異性化糖及びこれら以外のオリゴ糖、並びにソルビトール、エリスリトール、マルチトール、還元水飴等の糖アルコール等が挙げられる。尚、ここでいう「糖質」は、単糖、オリゴ糖又は糖アルコールであり、後述するその他の成分の一種である「増粘多糖類」は「糖質」には含まれない。尚、一般的にオリゴ糖の構成単糖数は2以上10以下である。
さらに、食塩以外の水分活性低下剤の例としては、乳酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム及びグリセロールも挙げられる。乳酸ナトリウム及びリンゴ酸ナトリウムは、有機酸塩の一種であるが、本発明においては、前述の有機酸類としてではなく、食塩以外の水分活性低下剤として扱う。
これらの水分活性低下剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
本発明の静菌用液体組成物においては、食塩以外の水分活性低下剤として、糖質、乳酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、グリセロールから選ばれる1種以上であることが好ましく、糖質及び乳酸ナトリウムから選ばれる1種以上であることがより好ましく、糖アルコール及び乳酸ナトリウムからなる群から選ばれる1種以上を用いることがさらに好ましく、糖アルコールを用いることがさらに一層好ましく、ソルビトール及びエリスリトールからなる群から選ばれる少なくとも一種の糖アルコールを用いることが特に好ましく、ソルビトールを用いることが最も好ましい。
また、糖質と乳酸ナトリウムとを併用すると、本発明の静菌用液体組成物の水分活性が十分に低下して、一層確実に静菌性を奏させることができるので、より好ましく、とりわけ糖アルコールと乳酸ナトリウムとを併用することが好ましい。
【0029】
本発明の静菌用液体組成物中における食塩以外の水分活性低下剤の含有量は、液体組成物全質量に対し、5~65質量%であることが好ましく、10~55質量%であることがより好ましい。食塩以外の水分活性低下剤の含有量が5質量%未満であると、本発明の静菌用液体組成物の水分活性が十分に低下せず、静菌性を奏させることができない場合がある。食塩以外の水分活性低下剤の含有量が65質量%を超えると、静菌用液体組成物を適用した食品に異味が感じられるおそれがある。
【0030】
とりわけ、食塩以外の水分活性低下剤として糖質と乳酸ナトリウムとを併用する場合、静菌用液体組成物全質量に対し、糖質の含有量を10~50質量%、乳酸ナトリウムの含有量を0.1~10質量%とすると、一層確実に静菌性を奏させることができるので好ましく、糖質の含有量を20~40質量%、乳酸ナトリウムの含有量を1~6質量%とすることが一層好ましい。特に糖質が糖アルコールである場合に、糖アルコール及び乳酸ナトリウムがそれぞれこれらの含有量を満たすことが好ましい。
【0031】
尚、乳酸ナトリウムについては、食品添加物として使用可能な50~60%の乳酸ナトリウム製剤が市販されており、これを使用する場合は、有効成分としての乳酸ナトリウムの量に基づいて前記含有量を計算する。
【0032】
また、本発明の静菌用液体組成物中における食塩以外の水分活性低下剤の含有量は、フェルラ酸類100質量部に対し、100~50000質量部であることが、静菌性と食味との両立の点で好ましく、1000~30000質量部であることがより好ましい。
【0033】
<その他の成分>
本発明の静菌用液体組成物は、上述した必須成分であるフェルラ酸類、有機酸類、食塩、及び食塩以外の水分活性低下剤に加えて、その他の成分を含有してもよい。その他の成分は、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、乳化剤(ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等)、澱粉類(澱粉、加工澱粉等)、デキストリン類(デキストリン、シクロデキストリン、難消化性デキストリン等)、セルロース類、増粘多糖類(キサンタンガム、タマリンドシードガム等)等が挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
・乳化剤
本発明の静菌用液体組成物は、上述のその他の成分の中でも乳化剤を含有すると、液体組成物の静菌性が向上するため好ましい。乳化剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン等が挙げられる。ここで、グリセリン脂肪酸エステルには、グリセリンと脂肪酸とのエステルの外、グリセリン酢酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル及びポリグリセリン縮合リシノール酸エステル等が含まれる。
【0035】
乳化剤を構成する脂肪酸としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等の炭素数8~22の飽和又は不飽和の脂肪酸が挙げられる。これらの中でも、静菌性及び食味の点から、カプリン酸、ラウリン酸及びミリスチン酸からなる群から選択される1種以上を主成分とする脂肪酸が好ましく、ミリスチン酸が特に好ましい。
【0036】
ミリスチン酸のエステルとしては、例えば、モノグリセリンミリスチン酸エステル、ジグリセリンミリスチン酸エステル、ポリグリセリンミリスチン酸エステル、ショ糖ミリスチン酸エステル等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。ミリスチン酸のエステルは、これらの中でも、ジグリセリンミリスチン酸エステル及びショ糖ミリスチン酸エステルから選ばれる1種以上であることが、静菌性及び食味の点から好ましい。
【0037】
本発明の静菌用液体組成物中における乳化剤(好ましくはミリスチン酸のエステル)の含有量は、液体組成物全質量に対し、静菌性を確実に高める点から、0.01~0.5質量%が好ましく、0.03~0.2質量%であることがより好ましい。
【0038】
・澱粉類
前述のその他の成分の中でも、澱粉類は、食品に付着しやすい物性を液体組成物に付与することができ、それにより食品に十分な保存性をより確実に付与できる利点があるため、本発明の静菌用液体組成物は、澱粉類を含有することが好ましい。
澱粉類は、食用のものから特に制限なく適宜選択することができ、種類としては、例えば、小麦澱粉、米澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、甘藷澱粉等が挙げられ、これらは、生澱粉、α化澱粉、加工澱粉等のいずれであってもよい。これらの澱粉類は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。澱粉類の中でも、ヒドロキシプロピル化澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉が好ましい。
【0039】
本発明の静菌用液体組成物中における澱粉類の含有量は、食品に付着しやすい物性を液体組成物に十分に付与する点から、液体組成物全質量に対し、1~8質量%が好ましく、2~5質量%であることがより好ましい。
【0040】
<水>
本発明の静菌用液体組成物は、以上に説明した必須成分であるフェルラ酸類、有機酸類、食塩、及び食塩以外の水分活性低下剤、並びに必要に応じてその他の成分を、水に分散ないし溶解させたものである。本発明の静菌用液体組成物は、このように水を含むことで液状となっており、食品の表面に満遍なく付着させることができる。本発明の静菌用液体組成物における水の含有量は、特に制限されるものではなく、フェルラ酸類、有機酸類、食塩、及び食塩以外の水分活性低下剤、並びに必要に応じて使用されるその他の成分を除いた残部であってよい。本発明の静菌用液体組成物中における水の含有量は、典型的には、例えば10~90質量%、好ましくは30~80質量%である。
【0041】
また、前述の必須成分及びその他の成分を水に分散ないし溶解させるに際し、その他の成分の1つとして前記デキストリン類を使用し、必須成分及びデキストリン類を含むその他の成分を先ず混合し、次いで、得られた混合物を水に分散ないし溶解させることが好ましい。このようにすることで、デキストリン類が賦形剤及び分散剤として働き、各成分を水中に均一に分散ないし溶解させることができる。本発明の静菌用液体組成物中におけるデキストリン類の含有量は、例えば0.1~10質量%とすることができ、1~5質量%が好ましい。
【0042】
<pH>
本発明の静菌用液体組成物は、20℃でのpHが好ましくは4.8~7.0、より好ましくは5.3~6.0である。本発明の静菌用液体組成物のpHが7.0以下であると、十分な静菌性を奏することができ、液体組成物を適用した食品に優れた保存性を付与することができる。pHが4.8以上であると、液体組成物を適用した食品に酸味が出ることを確実に防止することができる。本発明の静菌用液体組成物のpHが前述の範囲内であると、後述する加工食品の好ましいpHが得やすくなる。
【0043】
<水分活性>
本発明の静菌用液体組成物は、水分活性が好ましくは0.70~0.97である。本発明の静菌用液体組成物の水分活性が0.97以下であると、液体組成物を適用した食品に十分な保存性が付与できるため好ましく、水分活性が0.70以上であると、食味の点で好ましい。静菌用液体組成物の水分活性は、実施例に記載の方法により求めることができる。
【0044】
本発明の静菌用液体組成物は、食品の鮮度や品質等の劣化を抑制し、その保存性を向上させるために使用される。本発明の静菌用液体組成物が適用可能な食品の種類は特に限定されず、例えば、野菜、豆類、芋類、山菜、果物、畜肉、鶏肉、水産物、穀類等の各種食材の非調理品であってもよいし、惣菜、飯類、麺類、菓子類、スープ類、乳製品、豆腐類等といった調理済み又は半調理済みの食品、いわゆる加工食品であってもよい。尚、ここでいう半調理とは、未完成の調理を指す。例えば半調理品とは、味付け、切断、皮むき、串刺し、粉付け等、食材の下ごしらえを行った食品をいい、例えば、加熱済みであるが調味は完成していないもの、衣及び/又は下味が付された状態であるが未加熱のもの、カットされた野菜等を含む。本発明の静菌用液体組成物は、特に加工食品に有用であり、とりわけ、レトルト食品に該当しない加熱調理済食品である惣菜に有用である。惣菜としては、例えば、煮物類、茹で物類、焼き物類、和え物類、蒸し物類、炒め物類、揚げ物類、汁物類、サラダ類等が挙げられる。
【0045】
本発明の静菌用液体組成物は、広範な微生物に有効であるが、特に乳酸菌の繁殖を効果的に抑制することを可能とする。乳酸菌の種類は特に限定されないが、一般的に、食品製造時に混入しやすい乳酸菌として、Lactobacillus属細菌、Leuconostoc属細菌、Lactococcus属細菌、Pediococcus属細菌、Weissella属細菌、Enterococcus属菌等が挙げられる。また、食品製造時に混入しやすい乳酸菌以外の微生物として、例えば、酵母、大腸菌群が挙げられる。本発明の静菌用組成物はこれらの菌の繁殖を効果的に抑制できる。例えば大腸菌群としては、Klebsiella属、Enterobacter属、Citrobacter属、Escherichia属、Leclercia属、Pantoea属、Yersinia属、Raoultella属、Rahnella属、Serratia属、Aeromonas属、Yokenella属、Erwinia属、Pectobacterium属、Kluyvera属が挙げられる。
【0046】
次に、本発明の静菌用液体組成物を用いた加工食品の静菌方法(以下、「本発明の加工食品の静菌方法」ともいう)について、以下に説明する。本発明の加工食品の静菌方法については、以下の説明に加えて、前述の本発明の静菌用液体組成物についての説明を適宜適用することができる。
【0047】
本発明の加工食品の静菌方法は、本発明の静菌用液体組成物を、加工食品の表面に付着させる工程(以下、「付着工程」ともいう)を有する。本発明の静菌用液体組成物を加工食品の表面に付着させる手法は、食品の種類等に応じて適宜選択することができる。例えば、加工食品に本発明の静菌用液体組成物を混合する、振りかける、まぶす、塗布する若しくは噴霧することができ、又は本発明の静菌用液体組成物中に加工食品を浸漬させてもよい。あるいは、加工食品を製造する際に、本発明の静菌用液体組成物を用いて食材を調理又は半調理する、例えば、食材と本発明の静菌用液体組成物を混合する手法も、最終的に加工食品の表面に本発明の静菌用液体組成物が付着した状態になる限り、採用可能である。本発明の静菌用液体組成物は、加工食品の表面に満遍なく付着させることが好ましい。
【0048】
加工食品に対する本発明の静菌用液体組成物の付着量は、該液体組成物を付着させる前の加工食品100質量部に対して、好ましくは20~45質量部、より好ましくは30~40質量部である。付着量が20質量部以上であると、加工食品に十分な保存性を付与することができ、付着量が45質量部以下であると、加工食品の食味に影響を及ぼすことを確実に防止することができる。
【0049】
付着工程を経た後の加工食品のpHは、5.8以上であってよく、さらには6.0以上であってもよい。ここでいうpHは、加工食品をイオン交換水又は生理食塩水で2質量倍から10質量倍に希釈し、ストマッカー、フードプロセッサー又はミキサー等でペースト状にして20℃で測定したpHである。
【0050】
従来、pHが高い加工食品、例えばpHが5.8以上の加工食品では、有機酸類を含む静菌剤を使用しても加工食品自体のpHが高いままであるため、有機酸類の静菌効果が十分に発揮されず、食品の保存性を十分に高めることができなかった。本発明の静菌用液体組成物は、このような高いpHを有する加工食品に対しても、良好な保存性を付与することができる。
【0051】
また、従来は、加工食品の調理時に静菌剤を使用し、加工食品中に静菌剤が満遍なくいきわたるようにすることが多い。例えば、特許文献1の実施例では、和え物の和え衣に静菌用組成物を含有させたり、静菌用組成物を含有する煮汁で煮物を調理している。特許文献3の実施例では、ハンバーグの原料中に食品保存改良剤を混合しており、特許文献4の実施例では、浅漬けの漬液中に食品保存剤を溶解させている。
これに対し、本発明の静菌用液体組成物は、加工食品の表面に付着させるという簡便な工程のみで、加工食品に優れた保存性を付与することができる。従って、本発明の静菌用液体組成物は、惣菜の中でも煮物類や茹で物類のような、加工食品中に静菌剤を満遍なくいきわたらせることが難しい又は手間や時間がかかる、数センチ角程度の塊状の食材への適用に好適である。また、本発明の加工食品の静菌方法では、一般的な製法で出来上がった加工食品に、本発明の静菌用液体組成物を付着させるだけでよいので、従来の加工食品の製造過程を変える必要がないという点にも利点がある。
【0052】
以上、本発明の静菌用液体組成物を用いた、本発明の加工食品の静菌方法について説明したが、前述したように、本発明の静菌用液体組成物を適用する対象は、加工食品ではなく、各種食材の非調理品であってもよい。その場合も、本発明の加工食品の静菌方法に準じて適宜、本発明の静菌用液体組成物を食品の表面に付着させればよい。
【0053】
さらに、本発明は、本発明の静菌用液体組成物を、加工食品の表面に付着させる工程を有する、加工食品の製造方法(以下、「本発明の加工食品の製造方法」ともいう);及び、静菌用液体組成物が表面に付着している、加工食品(以下、「本発明の加工食品」ともいう)も提供する。
本発明の加工食品の製造方法及び本発明の加工食品については、以下の説明に加えて、本発明の静菌用組成物及び本発明の加工食品の静菌方法についての上記の説明を適宜適用することができる。
【0054】
本発明の加工食品は、前述した本発明の静菌用液体組成物、すなわち、フェルラ酸類、有機酸類、食塩、及び食塩以外の水分活性低下剤をそれぞれ特定量含む静菌用液体組成物が表面に付着したものである。したがって本発明の加工食品は、微生物安全性が高く、本来的に保存性が問題となりやすい形態、例えば、チルド状態で保存、流通及び/若しくは販売される形態又はフローズンチルドの形態であっても長期保存が可能であり、特に、従来、有機酸類を含む静菌剤を使用しても保存性が十分に向上しなかった、pHが高い加工食品であっても、そのような効果を得ることができる。また、本発明の加工食品は、当該加工食品が有する本来の食味、食感等の品質が維持されやすい。
【0055】
本発明の加工食品は、本発明の静菌用液体組成物が表面に付着している状態でのpHが5.8以上であってよく、さらに6.0以上であってもよい。pHの測定方法は上述した通りである。
【0056】
本発明の加工食品は、典型的には、冷凍、冷蔵若しくは常温で保存、流通及び/又は販売される調理済み食品又は半調理済み食品である。具体的には、例えば、惣菜(和え物類、煮物類、焼き物類、茹で物類、蒸し物類、炒め物類、揚げ物類、汁物類、及びサラダ類等)、飯類、麺類、菓子類、スープ類、乳製品、豆腐類を例示できる。本発明の加工食品は、特に、煮物類、茹で物類、和え物類、揚げ物類であることが好適である。
【0057】
本発明の加工食品は、通常の保存手段、例えば、常温、冷蔵、チルド又は冷凍で保存され得る。好ましくは、本発明の加工食品は、チルド状態で保存、流通及び/又は販売されるものである。ここでいう「チルド状態」とは、加工食品の品温が凍結しない程度の低温である状態を指す。チルド状態の加工食品の品温は、好ましくは0~12℃、より好ましくは0~10℃である。
【実施例0058】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0059】
〔実施例1、比較例1〕里芋の煮物での試験
(1-1)静菌用液体組成物の調製
表1に記載の組成に従い、水以外の全成分を混合した後、得られた混合物を水に加え撹拌しながら溶解させ、さらに撹拌下、85℃で1分間加熱して、静菌用液体組成物を得た。尚、比較例1において、しょうゆ及び砂糖は調味を目的として使用した。
得られた静菌用液体組成物のpHを、20℃でpHメーター(東亜ディーケーケー社製、TOAHM-30G)を用いて測定した。
また、得られた静菌用液体組成物の水分活性を、水分活性計(デカゴン社製、AquaLab 4TE)を用いて測定した。
静菌用液体組成物のpH及び水分活性を表1に示す。
【0060】
(1-2)里芋の煮物の製造
沸騰した水に市販の冷凍里芋を加え、再沸騰後2分間加熱した。里芋が柔らかくなったことを確認し、水を切ってボイル里芋を得た。だし汁(市販の顆粒のだしの素を水に3質量%含有させたもの)10.2質量部、上白糖8.2質量部、濃口しょうゆ9.5質量部及び水51.0質量部を混合して煮汁とし、そこへボイル里芋100質量部を加え加熱した。煮汁が沸騰してから15分間煮込み、里芋の煮物を得た。
【0061】
(1-3)里芋の煮物に対する静菌処理
(1-2)で得られた里芋の煮物100質量部に対し、(1-1)で得られた静菌性液体組成物35質量部を混合することにより付着させた(静菌処理)。
静菌処理後の里芋の一部を5質量倍のイオン交換水に入れ、フードプロセッサーでペースト状にした。得られたペーストのpHを20℃でpHメーター(東亜ディーケーケー社製、TOAHM-30G)を用いて測定した。
【0062】
(1-4)静菌性評価
(1-3)で得られた静菌処理後の里芋の煮物に、下記の乳酸菌4菌種のカクテルを混合することにより植菌した。乳酸菌の植菌量は、里芋の煮物に対して4菌種の合計で7cfu/gとなる量であった。その後、10℃で保存し、植菌直前(0時間)並びに植菌から120時間及び144時間をそれぞれ経過した時点の乳酸菌数を下記方法にて測定した。
【0063】
・使用した乳酸菌4菌種カクテル
Weissella viridescens BI-315
Leuconostoc mesenteroides BI-427
Leuconostoc citreum BI-543
Leuconostoc pseudomesenteroides BI-544
4菌種のカクテルは、滅菌した0.1質量%ペプトン水に上記各菌種の培養液を加えて、各菌種それぞれの濃度をペプトン水中3500cfu/mlとしたものであった。
【0064】
・乳酸菌数測定用試料液の調製方法
里芋の煮物を25g量り取り、ストマッカー袋へ入れた。希釈液としてペプトン水225mlを加えて10質量倍希釈とした後、ストマッカー処理して試料液を得た。
【0065】
・乳酸菌数の測定方法
乳酸菌数(生菌数)は、表面塗抹平板法により計測した。具体的には下記の通りである。
寒天培地をあらかじめ平板として固めた培地表面に、上記方法で調製した試料液0.1mLあるいは100倍、10000倍に希釈した試料液0.1mLを滴下し、コンラージ棒で均等に塗抹し、培養した。培地及び培養条件としては、MRS寒天培地(メルク社)を用い、30℃、72時間の好気培養を採用した。
生菌数は、培地で生育したコロニー数に希釈倍数を乗じて加工食品1gあたりの生菌数(cfu/g)として計測した。測定は2連で行い、その平均値を乳酸菌の生菌数測定結果とした。生菌数の結果から「LOG10(生菌数(cfu/g))」を計算し、その値が4未満の場合を〇、4以上の場合を×として、表1に示す。
【0066】
(1-5)食味評価
(1-3)で得られた静菌処理直後の里芋の煮物を専門パネラーに食してもらい、食味について下記評価基準により採点してもらった。10名の専門パネラーによる採点の算術平均点を求め、5.0~3.0点の場合を〇、2.9~2.0点の場合を△、1.9~1.0点の場合を×として、表1に示す。尚、下記評価基準における「対照例」は、前記(1-2)で得られた里芋の煮物(静菌処理をしていない加工食品)である。
【0067】
・食味の評価基準
5点:酸味又は強い塩味等の異味は全く感じられず、対照例と同様の食味であり、非常に良好。
4点:酸味又は強い塩味等の異味はあまり感じられず、対照例よりも若干劣る食味であるが良好。
3点:酸味又は強い塩味等の異味が感じられ、対照例よりも劣る食味であるが、商品価値は十分と認められる。
2点:酸味又は強い塩味等の異味が感じられ、対照例よりも食味が劣り、商品価値はやや低い。
1点:酸味又は強い塩味等の異味が顕著に感じられ、不良。
【0068】
【0069】
〔実施例2、比較例2〕鶏もも煮での試験
(2-1)静菌用液体組成物の調製
表2に記載の組成に従い、水以外の全成分を混合した後、得られた混合物を水に加え撹拌しながら溶解させ、さらに撹拌下、85℃で1分間加熱して、静菌用液体組成物を得た。
得られた静菌用液体組成物のpH及び水分活性を、実施例1の(1-1)と同様にして求めた。それらの結果を表2に示す。
【0070】
(2-2)鶏もも煮の製造
鶏もも肉を1.5cm×2cmにカットした。濃口しょうゆ1.6質量%、料理酒1.6質量%及び水3.8質量%を混合し、そこへカットした鶏もも肉88.6質量%を加え、よく混ぜ込んだ。さらに片栗粉4.4質量%をまぶし、再度よく混ぜ、30分以上冷蔵庫でねかせておいた(下処理)。
水43.5質量%、濃口しょうゆ8.2質量%、料理酒1.2質量%、サラダ油2.4質量%、砂糖6.4質量%、みりん5.3質量%及び市販の顆粒のだしの素0.5質量%を混合して調味液とした。調味液を沸騰させ、下処理した鶏もも肉32.6質量%を入れ、再沸騰後10分間煮込み、鶏もも煮を得た。
【0071】
(2-3)鶏もも煮に対する静菌処理
(2-1)で得られた静菌用液体組成物を用い、実施例1の(1-3)と同様の手順で、(2-2)で得られた鶏もも煮に対し静菌処理を行った後、静菌処理後の鶏もも煮のpHを測定した。その結果を表2に示す。
【0072】
(2-4)静菌性評価
(2-3)で得られた静菌処理後の鶏もも煮について、実施例1の(1-4)と同様の手順で静菌性評価を行った。その結果を表2に示す。
【0073】
(2-5)食味評価
(2-3)で得られた静菌処理後の鶏もも煮について、実施例1の(1-5)と同様の手順で食味評価を行った。その結果を表2に示す。
【0074】
【0075】
〔実施例3〕肉じゃが用豚肉での試験
(3-1)静菌用液体組成物の調製
表3に記載の組成に従い、水以外の全成分を混合した後、得られた混合物を水に加え撹拌しながら溶解させ、さらに撹拌下、85℃で1分間加熱して、静菌用液体組成物を得た。
得られた静菌用液体組成物のpH及び水分活性を、実施例1の(1-1)と同様にして求めた。それらの結果を表3に示す。
【0076】
(3-2)肉じゃが用豚肉の製造
水33.9質量%、だし汁(市販の顆粒のだしの素を水に3質量%含有させたもの)25.4質量%、みりん3.4質量%、砂糖7.2質量%及び濃口しょうゆ8.9質量%を混合して煮汁とした。煮汁を沸騰させ、そこへ豚バラ肉21.2質量%を加え、3分間煮込み、肉じゃが用豚肉を得た。
【0077】
(3-3)肉じゃが用豚肉に対する静菌処理
(3-1)で得られた静菌用液体組成物を用い、実施例1の(1-3)と同様の手順で、(3-2)で得られた肉じゃが用豚肉に対し静菌処理を行った後、静菌処理後の肉じゃが用豚肉のpHを測定した。その結果を表3に示す。
【0078】
(3-4)静菌性評価
(3-3)で得られた静菌処理後の肉じゃが用豚肉について、実施例1の(1-4)と同様の手順で静菌性評価を行った。その結果を表3に示す。
【0079】
(5)食味評価
(3-3)で得られた静菌処理後の肉じゃが用豚肉について、実施例1の(1-5)と同様の手順で食味評価を行った。その結果を表3に示す。
【0080】
【0081】
表1~表3に示す通り、本発明の静菌用液体組成物は、食品の食味への影響を抑えながら優れた保存性を食品に付与することができる。比較例1の静菌用液体組成物の組成は、特許文献1に記載の静菌用組成物の成分を使用しつつ本発明の静菌用液体組成物の組成に近い比較例であるところ、実施例1-1~1-5の本発明の静菌用液体組成物は、pHが高い加工食品に対し、比較例1の静菌用液体組成物に比して優れた乳酸菌の静菌効果を示している。