(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134314
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】電気自動車の駆動用バッテリの冷却システム
(51)【国際特許分類】
B60K 11/04 20060101AFI20240926BHJP
B60K 11/06 20060101ALI20240926BHJP
B60K 1/04 20190101ALI20240926BHJP
H01M 10/613 20140101ALI20240926BHJP
H01M 10/625 20140101ALI20240926BHJP
H01M 10/633 20140101ALI20240926BHJP
H01M 10/6556 20140101ALI20240926BHJP
H01M 10/6568 20140101ALI20240926BHJP
F01P 5/04 20060101ALI20240926BHJP
F01P 3/20 20060101ALI20240926BHJP
F02G 1/053 20060101ALI20240926BHJP
F02G 1/055 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
B60K11/04 Z
B60K11/06
B60K1/04 Z
H01M10/613
H01M10/625
H01M10/633
H01M10/6556
H01M10/6568
F01P5/04 Z
F01P3/20 A
F02G1/053 A
F02G1/055 G
F02G1/053 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044549
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】小林 宏臣
(72)【発明者】
【氏名】大和田 法臣
(72)【発明者】
【氏名】村井 太一
(72)【発明者】
【氏名】米田 毅
(72)【発明者】
【氏名】竹林 洋亮
(72)【発明者】
【氏名】高柳 龍也
(72)【発明者】
【氏名】鍋島 聡宏
(72)【発明者】
【氏名】菅野 薫
(72)【発明者】
【氏名】須山 稔
【テーマコード(参考)】
3D038
3D235
5H031
【Fターム(参考)】
3D038AA09
3D038AB01
3D038AC01
3D038AC02
3D235AA01
3D235BB36
3D235CC12
3D235CC14
3D235DD22
3D235HH16
5H031AA09
5H031HH06
5H031KK08
(57)【要約】 (修正有)
【課題】構造の複雑化を伴うことなく電気自動車の駆動用バッテリを効率よく冷却することのできる電気自動車の駆動用バッテリの冷却システムを提供すること。
【解決手段】この電気自動車の駆動用バッテリの冷却システムは、駆動用バッテリが電気自動車の少なくとも後方位置に搭載された電気自動車の駆動用バッテリ10-1の冷却システムにおいて、少なくとも後方位置に搭載された駆動用バッテリの近傍に設けられてこの駆動用バッテリに送風可能な冷却ファン24と、電気自動車に搭載され高温熱源と低温熱源とによって前記冷却ファンの駆動を行うスターリングエンジン20-1とを備えている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動用バッテリが電気自動車の少なくとも後方位置に搭載された電気自動車の駆動用バッテリの冷却システムにおいて、
前記少なくとも後方位置に搭載された駆動用バッテリの近傍に設けられ該駆動用バッテリに送風可能な冷却ファンと、
前記電気自動車に搭載され高温熱源と低温熱源とによって前記冷却ファンの駆動を行うスターリングエンジンと、
を備えたことを特徴とする電気自動車の駆動用バッテリ冷却システム。
【請求項2】
請求項1に記載の電気自動車の駆動用バッテリの冷却システムにおいて、
前記スターリングエンジンは、
高温熱源によって作動される第1のピストン及びシリンダと低温熱源によって作動される第2のピストン及びシリンダを有し、
前記高温熱源は、前記駆動用バッテリに設けられ、該駆動用バッテリからの熱を受ける熱媒が充填された熱媒供給部によって構成され、
前記低温熱源は、前記電気自動車に設けられた外気を取り込む外気導入口から前記スターリングエンジンの前記第2のシリンダに外気を誘導する外気誘導部によって構成されたことを特徴とする請求項1に記載の電気自動車の駆動用バッテリの冷却システム。
【請求項3】
請求項2に記載の電気自動車の駆動用バッテリの冷却システムにおいて、
前記電気自動車に設けられたラジエータと、
該ラジエータによって冷却された冷却水を前記第2のシリンダ側に供給して該前記第2のシリンダを冷却可能な冷却水供給部と、
外気温を計測可能な外気温検知部と、
前記外気誘導部及び前記冷却水供給部の作動を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記外気温検知部からの温度信号を受け、前記外気温が所定温度を超えている場合又は車両が停止している場合に前記外気誘導部からの外気の導入を停止し、前記冷却水供給部から前記第2のシリンダ側へ前記冷却水の供給を行うことを特徴とする請求項2に記載の電気自動車の駆動用バッテリの冷却システム。
【請求項4】
請求項1に記載の電気自動車の駆動用バッテリの冷却システムにおいて、
前記駆動用バッテリは、前方位置に前方駆動用バッテリが、後方位置に後方駆動用バッテリが各々分配配置され、
前記冷却ファンは、前記後方駆動用バッテリに送風可能に設けられ、
前記スターリングエンジンは、前記高温熱源によって作動される第1のピストン及びシリンダと前記低温熱源によって作動される第2のピストン及びシリンダとを有し、
前記高温熱源は、前記後方駆動用バッテリから受熱した熱媒が充填された熱媒供給部によって構成され、
前記低温熱源は、前記電気自動車に設けられたラジエータによって冷却された冷却水によって冷却された前記前方駆動用バッテリ内を循環する冷媒が充填された冷媒循環部によって構成されたことを特徴とする請求項1に記載の電気自動車の駆動用バッテリの冷却システム。
【請求項5】
請求項4に記載の電気自動車の駆動用バッテリの冷却システムにおいて、
前記電気自動車の作動における前記後方駆動用バッテリの負荷を前記前方駆動用バッテリよりも大きく設定したことを特徴とする請求項4に記載の電気自動車の駆動用バッテリの冷却システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車の駆動用バッテリの冷却システム、特に、電気自動車の少なくとも後方に駆動用バッテリが搭載された電気自動車の駆動用バッテリの冷却システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車には、駆動源として駆動用バッテリが搭載されている。この駆動用バッテリは、充電時及び放電時に温度が上昇し過ぎると性能が低下したり寿命が低下したりしてしまうことから、電気自動車には、駆動用バッテリを冷却するバッテリ冷却システムが搭載されている。
【0003】
駆動用バッテリの配置は、乗員室(キャビン)の容積確保を重視するか、車両全体の重量バランスを考慮するか等、車種によって異なり、前方配置タイプ、後方配置タイプ、前後分配配置タイプ、キャビン下部配置タイプなどに大別される。そして、駆動用バッテリの配置によって冷却システムも異なり、種々の駆動用バッテリ冷却システムが知られている。
【0004】
特に、車両の前方位置と後方位置に駆動用バッテリを分配して搭載する電気自動車における駆動用バッテリ冷却システムにおいては、車両前方に設置されている駆動用バッテリ専用のラジエータによって冷却した冷却水を用いて前方駆動用バッテリを冷却し、その後、この冷却水を配管によって車両後方まで送給して後方駆動用バッテリを冷却する方法がある。
【0005】
図16は上記の従来の駆動用バッテリ冷却システムの構成を示しており、図示のように本電気自動車では、前方と後方とに分けて駆動用バッテリが搭載されている。そして、電気自動車前方に設置したラジエータ58によって冷却した冷却水を電気自動車前方に搭載した駆動用バッテリ56内を通過させてこれを冷却する。次に、この前方駆動用バッテリ56内を通過させた冷却水を、冷却水管路60を通じて電気自動車後方へと送り、電気自動車後方に搭載した駆動用バッテリ16内を通過させてこれを冷却する。後方駆動用バッテリ16内を通過した冷却水は電気自動車前方へと戻されて再びラジエータによって冷却される。
【0006】
しかしながら、この駆動用バッテリ冷却システムでは、車両前方のラジエータによって冷却した冷却水が後方駆動用バッテリに到達するまでに温度上昇してしまい、後方駆動用バッテリの十分な冷却効率が得られず電費の悪化につながる可能性がある。
【0007】
そこで、下記特許文献1には、室内冷房用の冷凍サイクルシステムとバッテリ冷却用の水冷システムとを併用する冷却装置によって、車両駆動用のバッテリを冷却する冷却装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1に開示されている冷却装置によれば、ラジエータを用いて冷却媒体を冷却する第1流路と、冷凍サイクルシステムを用いて冷却媒体を冷却する第2流路とによって駆動用バッテリを冷却するための水冷システムを構成している。第2流路は駆動用バッテリの近傍に設置することができるので、流路の途中で冷却媒体が外部熱を吸収する体積が少なくて済み、したがって第2流路における冷却媒体の温度上昇を低減することができる。これにより、駆動用バッテリを通過させる冷却媒体を効率的に冷却することができ、駆動用バッテリを効果的に冷却することができるようになっている。
【0010】
しかしながら、特許文献1に開示されている冷却装置においては、冷却媒体の流路が2系統存在するので構造が複雑化し、しかも第2流路においては冷凍サイクルシステムを用いるので、凝縮器、蒸発器、圧縮機及び減圧器(膨張弁)が必須の構成要素となって重量増が不可避であると共に消費電力も大きくなるという問題がある。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、構造の複雑化を伴うことなく電気自動車の駆動用バッテリを効率よく冷却することのできる電気自動車の駆動用バッテリの冷却システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一実施の形態は、駆動用バッテリが電気自動車の少なくとも後方位置に搭載された電気自動車の駆動用バッテリの冷却システムにおいて、前記少なくとも後方位置に搭載された駆動用バッテリの近傍に設けられ該駆動用バッテリに送風可能な冷却ファンと、前記電気自動車に搭載され高温熱源と低温熱源とによって前記冷却ファンの駆動を行うスターリングエンジンと、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、構造の複雑化を伴うことなく電気自動車の駆動用バッテリを効率よく冷却することのできる電気自動車の駆動用バッテリの冷却システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1の実施の形態を示す概略構成説明図である。
【
図2】本発明の第1の実施の形態の平面視の概略構成説明図である。
【
図3】本発明の第2の実施の形態を示す概略構成説明図である。
【
図4】本発明の第2の実施の形態の平面視の概略構成説明図である。
【
図5】本発明の第2の実施の形態に用いるスターリングエンジンを示す概略構成説明図である。
【
図6】本発明の第2の実施の形態による外気誘導管のニップルの概略構成説明図である。
【
図7】本発明の第2の実施の形態によるスターリングエンジンと外気導入口の電気自動車における位置を示す概略図である。
【
図8】本発明の第3の実施の形態を示す概略構成説明図である。
【
図9】本発明の第3の実施の形態の平面視の概略構成説明図である。
【
図10】本発明の第3の実施の形態に用いるスターリングエンジンを示す概略構成説明図である。
【
図11】本発明の第3の実施の形態による制御部の制御フローチャートである。
【
図12】本発明の第4の実施の形態を示す概略構成説明図である。
【
図13】本発明の第4の実施の形態の平面視の概略構成説明図である。
【
図14】本発明の第4の実施の形態に用いるスターリングエンジンを示す概略構成説明図である。
【
図15】本発明の第5の実施の形態による制御部の制御フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明による電気自動車の駆動用バッテリの冷却システムの各実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以降の説明については、同じ作用を奏する部材には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0016】
(第1の実施の形態)
図1及び
図2は、本発明の第1の実施の形態に係る駆動用バッテリ冷却システム10の概略構成を示している。図示のように、駆動用バッテリは、電気自動車の車体底部12上に載置されており、車両前方位置に前方駆動用バッテリ56、後方位置に後方駆動用バッテリ16が搭載されている。第1の実施の形態の構成要素であるスターリングエンジン20は、後方駆動用バッテリ16の走行方向前方に配置されている。スターリングエンジン20からの出力を冷却ファン24へ伝達する動力伝達装置22と、後方駆動用バッテリ16を冷却する冷却ファン24も同様に後方駆動用バッテリ16の走行方向前方に配置されている。以後、同様の図面においては図上左方が車両走行方向である。
【0017】
前方及び後方駆動用バッテリ56,16は、電気自動車の駆動力を図示しない車輪の駆動装置(例えば電気モータ)へ電力を供給し、また、いわゆる充電スタンドや家庭用電源からの充電及び車両の減速時に図示しない電力回生システムから回収される電気を蓄電する装置である。そして、このバッテリの性能を維持するためには、できるだけ適温を保つ必要がある。
【0018】
そこで、本実施の形態の特徴的なことは、冷却ファン24の駆動源としてスターリングエンジン20を用いたことである。そして、スターリングエンジン20によって発生させた動力を伝達するための動力伝達装置22と、伝達された動力によって駆動する冷却ファン24とからなる冷却システムを用いる。
【0019】
ここでスターリングエンジンとは、密閉された空間にある作動流体(気体)を、加熱、冷却によって膨張、収縮させることでピストンを往復運動させ、このピストンの往復運動を回転運動に変換して回転出力を生み出す仕組みを持った外燃機関である。近年では、エネルギ効率に優れ、各種の排熱を利用可能なことから省エネルギにもつながる点で再注目されているものである。
【0020】
スターリングエンジン20の回転出力は、動力伝達装置22によって冷却ファン24へと伝達され、伝達された回転動力によって冷却ファン24が駆動し、冷却対象である後方駆動用バッテリ16を冷却する。
【0021】
本実施の形態では、スターリングエンジン20の高温熱源側シリンダ30(第1のシリンダ)の加熱は、インバータや前後の駆動用バッテリの排熱を用いるなど、任意の方法により行われ得る。
【0022】
また本実施の形態では、スターリングエンジン20の低温熱源側シリンダ(第2のシリンダ)31の冷却は、電気自動車の走行により自然的に発生する外気流やキャビン内を適温に保つ空調の冷気、ラジエータに導通する冷却水を導入したり、専用の冷却装置を用いるなど、任意の方法により行われ得る。
【0023】
上記の構成によれば、スターリングエンジン20という特別な電源を必要としない駆動源を用いることで、簡易且つ省エネルギの状況で後方駆動用バッテリ16の冷却が行われる。すなわち、電気自動車の走行に関連して生じる熱エネルギを利用して、スターリングエンジン20の高温熱源と低温熱源を確保することで、スターリングエンジン20の駆動を行うことが可能である。したがって、既存の熱エネルギを用いた効率的な後方駆動用バッテリ16の冷却が可能となっている。
【0024】
(第2の実施の形態)
図3及び
図4は、本発明に係る第2の実施の形態による駆動用バッテリ冷却システム10-1の概略構成を示している。図示のように、後方駆動用バッテリ16の走行方向前方にスターリングエンジン20-1が配置されており、スターリングエンジン20-1の後方に熱媒配管18、前方に外気誘導管50がそれぞれ延びている。後方駆動用バッテリ16の内部には、循環管路として形成された熱媒配管18が蛇行して配設されている。熱媒配管18は開放端のない循環管路として構成されているが、外気誘導管50は両端が開放されており、第1の端部には外気を取り込むための外気導入口52、第2の端部には取り込まれた外気を排出するための外気排出口54がそれぞれ形成されている。なお、
図1と同様に、動力伝達装置22と冷却ファン24も駆動用バッテリ16の走行方向前方に配置されている。
【0025】
図5は、スターリングエンジンとして、いわゆる2ピストン形(α形)と呼ばれるタイプのものを用いた例を示す概略図である。このタイプのスターリングエンジン20-1は、主に、第1のピストン(膨張ピストン)32が内部で上下運動する第1のシリンダ30が高温熱源側、第2のピストン(圧縮ピストン)33が内部で上下運動する第2のシリンダ31が低温熱源側としてそれぞれ機能する一対のピストン及びシリンダと、両ピストンの上下往復運動を回転運動に変換するためのクランクシャフト26及びクランクシャフトの回転運動を外部に伝達するための回転動力出力部28から構成されている。第1のシリンダ(高温熱源側シリンダ)30と第2のシリンダ(低温熱源側シリンダ)31は、作動流体導通管34を介して連結されている。以後の実施の形態によるスターリングエンジンは上記同様の構成を備えている。
【0026】
そして、本実施の形態によるスターリングエンジン20-1では、図示のように、第1のシリンダ30の外周に、高温熱源である駆動用バッテリ16の内部に配設された熱媒配管18に接続されているシリンダ加熱管40が巻回されており、第2のシリンダ31の底部は、低温熱源である外気をスターリングエンジン20-1へと導入する外気誘導管50の一部を構成するニップル51によって覆われている。さらに両シリンダの外周と作動流体導通管34の外周は断熱材36によって被覆されている。このようにして、本実施の形態によるスターリングエンジン20-1は、両シリンダ30,31と外部との余分な熱の授受を可及的に減ずるように構成されている。なお、スターリングエンジン20-1の作動原理については後述する。
【0027】
図6は、本実施の形態によるスターリングエンジン20-1の第2のシリンダ31に接続される外気誘導管50の概略構成を示しており、この外気誘導管50の第1の端部は外気導入口52、第2の端部は外気排出口54としてそれぞれ形成されている。外気誘導管50の管路の途中にはニップル51が設けられている。
【0028】
図7は、本実施の形態によるスターリングエンジン20-1と外気導入口52の電気自動車における位置関係を示した概略構成を示している。図示のように、外気導入口52はスターリングエンジン20-1のすぐ傍から車両外部へと延出しているので、スターリングエンジン20-1の第2のシリンダ31への外気の誘導が効率的に行えるようになっている。
【0029】
本実施の形態に用いる2ピストン形(α形)スターリングエンジン20-1は、第1のピストン32が内部に設けられた第1のシリンダ30が高温熱源を、第2のピストン33が内部に設けられた第2のシリンダ31が低温熱源をそれぞれ利用する。2つのシリンダ内に移動可能に充填された図示しない作動流体を、高温熱源が膨張させ、低温熱源が圧縮することにより両ピストン32,33を作動させて回転出力を生み出す構成となっている。作動流体にはヘリウムを用いるのが好ましいが、水素や空気などの他の気体も使用可能である。
【0030】
図4に示したように、車両後方駆動用バッテリ16の内部には、バッテリの発熱による排熱を吸収する熱媒を充填して密閉し、これが循環できるように形成した熱媒配管18を蛇行するように設置する。その際、この熱媒配管18の一部を後方駆動用バッテリ16の外部に露出させ、後方駆動用バッテリ16の走行方向前方に配置されたスターリングエンジン20-1の第1のシリンダ(高温熱源側シリンダ)30に巻回したシリンダ加熱管40に接続する。また、
図5に示したように、このスターリングエンジン20-1の第2のシリンダ31に、車外の空気を取り込む第1の開口部である外気導入口52から取り込んだ外気を冷媒として通過させる外気誘導管50のニップル51を、第2のシリンダ31の側壁と隙間を保持した状態で被せて設置する。このニップル51は、
図5に示したスターリングエンジン20-1の第2のシリンダ31の底部付近を外周から覆うことのできる直径で形成されており、第2のシリンダ31の底部側面と隙間を保ってこれを下方から覆うことができる。なお、外気誘導管50の外気導入口52とは反対側の第2の開口部は外気排出口54を構成している。
【0031】
後方駆動用バッテリ16の走行方向前方には、この後方駆動用バッテリ16を送風によって冷却するための冷却ファン24が配置されており、この冷却ファン24の駆動部とスターリングエンジン20-1の回転動力出力部28とを、チェーンで構成した動力伝達装置22が接続している。
【0032】
駆動用バッテリ16内の熱媒配管18内に充填された図示しない熱媒が後方駆動用バッテリ16の排熱を回収し、この熱媒が熱媒配管18を通ってスターリングエンジン20-1の第1のシリンダ30を加熱する。第1のシリンダ30が加熱されると、シリンダ30,31内部の図示しない作動流体が膨張し、第1のピストン(膨張ピストン)32を押しのけるように作用し、第1のピストン32はクランクシャフト26を図上下方から上方へと押し上げる。第1のピストン32の上方へ押し上げる動きはクランクシャフト26の回転運動に変換され、クランクシャフト26と同軸に形成された回転動力出力部28が回転動力を外部に供給する。
【0033】
また、外気導入口52から取り込んだ外気が外気誘導管50及びニップル51を通ってスターリングエンジン20-1の第2のシリンダ31を冷却する。第2のシリンダ31が冷却されると、シリンダ30,31内部の図示しない作動流体の体積が圧縮(凝縮)され、作動流体は第1のシリンダ30内で再度加熱されて膨張するためのエネルギを蓄えて準備した状態になる。以上述べたスターリングエンジンの作動原理は、低温熱源が異なる他は以下の実施の形態でも同様である。
【0034】
そして、スターリングエンジン20-1の回転動力が動力伝達装置22を介して冷却ファン24を回転させる。冷却ファン24の回転によって生成された空気の流れが駆動用バッテリ16を外側から冷却する。
【0035】
すなわち、本実施の形態によるスターリングエンジン20-1は、後方駆動用バッテリ16の使用によって生成された排熱により第1のシリンダ30を加熱し、第2のシリンダ31を車外から取り込んだ外気により冷却することで作動し、回転出力を生み出す。この回転出力が動力伝達装置22を介して冷却ファン24を回転させ、後方駆動用バッテリ16を冷却する。
【0036】
なお、駆動用バッテリ16内の熱媒配管18は端部の無い循環管路であるから、その内部に充填された熱媒は熱媒配管18を循環しつづける。一方、外気導入口52から取り込まれた外気は、スターリングエンジン20-1の第2のシリンダ31を冷却した後、外気排出口54から車外へと排出されるので、電気自動車が走行している限り、新たな外気がスターリングエンジン20-1へと常に供給され続ける。
【0037】
上記の構成によれば、スターリングエンジン20-1としていわゆる2ピストン形のものを用いたことで、構造が簡素で、高温熱源側シリンダ30と低温熱源側のシリンダ31の配置の自由度が高く、各シリンダを各熱源に近接させて配置させることができるようになっている。そして、当該スターリングエンジン20-1は後方駆動用バッテリ16からの排熱を高温熱源とし、車外から取り込む外気を低温熱源としてそれぞれ利用しているので、後方駆動用バッテリ16の排熱温度と車外から取り込む外気温度との温度差が大きくなるほど高い出力が確保される。これにより、後方駆動用バッテリ16の負荷が大きくなって発熱量が多くなると冷却ファン24の回転数も比例して高くなり、駆動用バッテリ16の冷却効率を高めるという自律制御が実現される。
【0038】
(第3の実施の形態)
図8及び
図9は、本発明に係る第3の実施の形態による駆動用バッテリ冷却システム10-2の概略構成を示している。図示のように、電気自動車の後方位置に後方駆動用バッテリ16、前方位置に前方駆動用バッテリ56がそれぞれ搭載され、さらにラジエータ58が車両の前方位置に設けられており、内部に冷却水が充填された冷却水管路60がこのラジエータ58から後方駆動用バッテリ16の走行方向前方に設けられたスターリングエンジン20-2まで延びている。この冷却水管路60には、ラジエータ58からの冷却水を冷却水管路60に圧送するポンプ68が設けられている。また、第2の実施の形態と同様に、外気誘導管50がスターリングエンジン20-2に接続されている。さらに、この冷却水管路60と外気誘導管50のそれぞれ途中の位置に開閉弁66が設置されている。なお、冷却水管路60はラジエータ58によって冷却される冷却水をスターリングエンジン20-2のシリンダ冷却管38へ供給するが、この冷却水は前方駆動用バッテリ56内を通過しない。したがって、前方駆動用バッテリ56はラジエータ58によって冷却される冷却水によって冷却されず、この冷却水はスターリングエンジン20-2の第2のシリンダ31を冷却するためだけに用いられている。なお、
図1と同様に、動力伝達装置22と冷却ファン24も駆動用バッテリ16のすぐ前に配置されている。
【0039】
図10は、本実施の形態によるスターリングエンジン20-2の概略構成を示しており、
図5に示したスターリングエンジン20-1と同様の構成要素を備えるが、第2のシリンダ31を冷却するためのシリンダ冷却管38が第2のシリンダ31の外周に巻回されて設けられている点と、外気誘導管50の一部を構成するニップル51の直径が第2のシリンダ31の直径と同程度に形成されている点で異なる。シリンダ冷却管38の2つの端部は、それぞれ
図8及び
図9に示した冷却水管路60に接続されている。構造上、第2シリンダ31は、外気と冷却水の両方を用いて同時に2系統で冷却され得るものとなっている。しかし後述するように、第2シリンダ31は、条件により、外気又は冷却水のいずれか一方のみを用いて冷却されるように構成されている。
【0040】
図11は、図示しない制御部が外気誘導管50と冷却水管路60の各々の途中に設けられた開閉弁66の開閉判断を行うフローを示した図である。図示のように、図示していない制御部は、外気の温度があらかじめ定めた所定の温度の値(閾値)以上であるか若しくはそれを下回るか、又は車両が停止中であるか若しくは走行中であるかを判断し、これによって両開閉弁66の制御を行う。ここで、上記外気の所定の温度の値(閾値)は、例えば摂氏30度である。
【0041】
本実施の形態による図示しない制御部は、同様に図示しない外気温度計からの温度データと、電気自動車が走行中であるか停止中であるかの信号を逐一、又は一定時間毎に監視する。外気が第2のシリンダ31の冷却に適さない温度であるか又は電気自動車が停止中であると制御部が判断した場合、制御部は、外気誘導管50に設けられた開閉弁66を閉弁し且つ冷却水管路60に設けられた開閉弁66を開弁するよう制御して、ラジエータ58の冷却水を圧送するポンプ68を駆動させる。これにより、スターリングエンジン20-2の第2のシリンダ31をラジエータ58から供給される冷却水によって強制的に冷却することができる。一方、外気がこの第2のシリンダ31の冷却に適した温度であるか又は電気自動車が走行中であると制御部が判断した場合、制御部は、ポンプ68を停止させ、冷却水管路60に設けられた開閉弁66を閉弁し且つ外気誘導管50に設けられた開閉弁66を開弁するよう制御する。これにより、冷却水を用いずとも第2のシリンダ31が適切な温度を保っている場合に、冷却水圧送用のポンプ68の駆動を停止させてポンプ68に費消される電力が可及的に抑制される。
【0042】
なお、本実施の形態によるスターリングエンジン20-2の第1のシリンダ30の加熱構造は、
図3~
図5に示したスターリングエンジン20-1と同様である。すなわち、後方駆動用バッテリ16内に配設されて図示しない熱媒が充填された熱媒配管18がスターリングエンジン20-2の第1のシリンダ30に巻回されたシリンダ加熱管40に接続されており、後方駆動用バッテリ16内の排熱を吸収した熱媒が第1のシリンダ30を加熱するように構成されている。
【0043】
上記の構成によれば、車両外気が所定以上の温度、すなわち、第2のシリンダ31の低温熱源としての利用に適さない高い温度となった場合には、制御部がスターリングエンジン20-2の低温熱源を車両外気の導入による冷却からラジエータ冷却水による冷却へと切り替えることができる。また、制御部は、この切り替え制御を車両が停止している場合にも行うことから、車両の停止時などの走行風が得られず第2のシリンダ31の冷却が期待できない状況においても、高温熱源である後方駆動用バッテリ16の排熱温度と低温熱源との温度差を的確に確保することができる。
【0044】
(第4の実施の形態)
図12及び
図13は、本発明に係る第4の実施の形態による駆動用バッテリ冷却システム10-3の概略構成を示している。図示のように、ラジエータ58と前方駆動用バッテリ56がそれぞれ車両前方位置に搭載され、冷却水が充填された冷却水管路60がラジエータ58と前方配置駆動用バッテリ56内とを流通している。この冷却水管路60の途中にはポンプ68が設置されている。また、車両後方位置には後方駆動用バッテリ16が搭載され、この後方駆動用バッテリ16の走行方向前方にスターリングエンジン20-3が配置されており、スターリングエンジン20-3の後方に熱媒配管18、前方に冷媒循環管路62がそれぞれ延びている。熱媒配管18は、後方駆動用バッテリ16の内部を蛇行するように配設されている。熱媒配管18も冷媒循環管路62も共に開放端のない循環管路として構成されており、冷媒循環管路62の前方は、前方駆動用バッテリ56内を流通する冷媒配管64に接続されている。なお、
図1と同様に、動力伝達装置22と冷却ファン24も後方駆動用バッテリ16の走行方向前方に配置されている。
【0045】
図14は、本実施の形態によるスターリングエンジン20-3の概略構成図であり、
図10に示したスターリングエンジン20-2の構成と類似しているが、図上第2のシリンダ31の下方には何らの構成要素も備えていない点で異なる。
【0046】
図12及び
図13に示したように、本実施の形態による駆動用バッテリ冷却システム10-3は、前方駆動用バッテリ56を一種の熱交換器のように利用している。すなわち、ラジエータ58によって冷却された冷却水によって前方駆動用バッテリ56が冷却され、冷媒が充填された冷媒配管64が前方駆動用バッテリ56内を循環し、この冷媒配管64は、スターリングエンジン20-3の低温熱源として用いる冷媒が充填された冷媒循環管路62に接続されている。そして、冷却された冷媒はスターリングエンジン20-3の第2のシリンダ31に巻回されたシリンダ冷却管38を介して第2のシリンダ31を冷却するようになっている。
【0047】
上記の構成によれば、前方駆動用バッテリ56はラジエータ58によって冷却された冷却水の冷却水管路60での流通によって内部から冷却されるので、この前方駆動用バッテリ56の温度は低温に保たれている。冷媒循環管路62はこの低温に維持された前方駆動用バッテリ56内を流通し、この冷媒循環管路62の冷媒が第2のシリンダ31の低温熱源として用いられる。一方、第1のシリンダ30は、後方駆動用バッテリ16から受熱した熱媒が充填された熱媒配管18からの熱を高温熱源として用いる。電気自動車の走行時において、後方駆動用バッテリ16は排熱を発生させ続けるので、第1のシリンダ30はこの排熱を吸収した熱媒により加熱され続ける。したがって、低温熱源と高温熱源との温度差を、走行中に、より安定して確保することができ、スターリングエンジンの作動の安定化が図られる。
【0048】
(第5の実施の形態)
図15は、図示しない制御部が電気自動車の後方駆動用バッテリ16の負荷を前方駆動バッテリ56の負荷よりも高くするように制御するフローを示した図である。
【0049】
本実施の形態による図示しない駆動用バッテリ冷却システムの制御部は、例えば、車両の始動時や加速時等における負荷を後方駆動用バッテリ16に受け持たせるなどの制御を行う。また、前方及び後方の両方の駆動用バッテリ56、16の使用状態を常時、または一定時間毎に監視し、後方駆動用バッテリ16の負荷を、前方駆動用バッテリ56の負荷よりも高めるように制御する。制御部は、前方駆動用バッテリ56と後方駆動用バッテリ16の使用状態に関する信号情報を各駆動用バッテリから取得し、後方駆動用バッテリ16の負荷が前方駆動用バッテリ56の負荷を下回っていると判断した場合、両駆動用バッテリ56,16の使用バランスを後方駆動用バッテリ16の方が高くなるように使用負荷を配分する。使用負荷の配分は、例えば前方及び後方の駆動用バッテリ56,16の充放電頻度などを調整することによって行うことができる。
【0050】
上記の構成によれば、充電及び放電による後方駆動用バッテリ16の負荷は、前方駆動用バッテリ56の負荷を上回るように設定される。例えば、車両始動時や急加速時に使用する電力を後方駆動用バッテリ16から供給したり、走行中に使用される電力を後方駆動用バッテリ16から優先的に供給するように設定することで達成される。これにより、後方駆動用バッテリ16の負荷に起因する排熱をより多く確保することができる。したがって、低温熱源を構成する循環冷媒の温度と高温熱源を構成する後方駆動用バッテリ16の排熱温度との温度差、すなわち第2のシリンダ31と第1のシリンダ30との温度差を的確に維持することができる。
【0051】
本発明によれば、特別な電源を必要とせず、既存の熱エネルギを用いて作動可能なスターリングエンジンという駆動源を用いることで、簡易且つ省エネルギの状況で駆動用バッテリの冷却を行うことのできる電気自動車の駆動用バッテリの冷却システムが実現される。
【0052】
以上、本発明について図面と共に詳細に説明したが、本発明は以上説明した実施の形態に適用が限定されるものではなく、特許請求の範囲及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
【0053】
例えば、本実施の形態においては、シリンダ加熱管40及びシリンダ冷却管38の断面形状を限定していないが、これらは扁平形状であるのが好ましい。これにより、第1のシリンダ30及び第2のシリンダ31との接触面積を増加させることができ、各シリンダとの熱交換を効果的に行うことが可能となる。
【0054】
また、本実施の形態においては、動力伝達装置22は樹脂製のチェーンであってもよいし、ゴムや樹脂からなるベルト等であってもよい。
【0055】
さらに、本実施の形態においては、熱媒配管18の途中にポンプを設けることもできる。これにより、熱媒を強制的に循環させ、スターリングエンジンの第1のシリンダ30を効率的に加熱することが可能となる。
【0056】
また、本実施の形態においては、冷媒循環管路62の途中にポンプを設ける構成にすることもできる。これにより、冷媒を強制的に循環させ、スターリングエンジンの第2のシリンダ31を強力に冷却することが可能となる。
【0057】
さらに、本実施の形態においては、前方駆動用バッテリとスターリングエンジンとを循環する冷媒循環管路62の配置構造を限定していないが、冷媒循環管路62は前方駆動用バッテリ側が路面を基準としてより高く、スターリングエンジン側がより低くなるように傾斜させて配置するのが好ましい。このように冷媒循環管路62を傾斜させることにより、ポンプを用いずとも、内部に充填された冷媒の自然対流によって冷媒循環管路62内で冷媒を循環させることが可能となる。
【符号の説明】
【0058】
10,10-1,10-2,10-3 駆動用バッテリ冷却システム
16 後方駆動用バッテリ
18 熱媒配管
20,20-1,20-2,20-3 スターリングエンジン
24 冷却ファン
30 高温熱源側シリンダ(第1のシリンダ)
31 低温熱源側シリンダ(第2のシリンダ)
32 膨張ピストン(第1のピストン)
33 圧縮ピストン(第2のピストン)
38 シリンダ冷却管
40 シリンダ加熱管
50 外気誘導管
52 外気導入口
54 外気排出口
56 前方駆動用バッテリ
58 ラジエータ
60 冷却水管路
62 冷媒循環管路
66 開閉弁
100 従来の駆動用バッテリ冷却システム