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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134334
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】繊維構造体及び繊維強化複合材
(51)【国際特許分類】
   D03D 1/00 20060101AFI20240926BHJP
   D03D 15/47 20210101ALI20240926BHJP
   D03D 15/44 20210101ALI20240926BHJP
   D03D 15/573 20210101ALI20240926BHJP
   D02G 3/38 20060101ALI20240926BHJP
   B29B 11/16 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
D03D1/00 A
D03D15/47
D03D15/44
D03D15/573
D02G3/38
B29B11/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044577
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】森 康平
【テーマコード(参考)】
4F072
4L036
4L048
【Fターム(参考)】
4F072AA02
4F072AA04
4F072AB10
4F072AB22
4F072AB28
4F072AB29
4F072AB33
4F072AG02
4F072AK03
4F072AK15
4L036MA35
4L036MA37
4L036RA25
4L048AA03
4L048AA05
4L048AA15
4L048AA16
4L048AA19
4L048AA24
4L048AA25
4L048AA48
4L048AB01
4L048AB06
4L048AB17
4L048AB18
4L048AB19
4L048AC09
4L048BA01
4L048CA00
4L048CA01
4L048DA41
4L048EB00
(57)【要約】
【課題】樹脂リッチの発生を抑制できる繊維構造体及び繊維強化複合材を提供すること。
【解決手段】繊維構造体20は、強化繊維製の非連続繊維32を含む繊維束の外周部にカバーリング糸33が巻き付けられている第1強化繊維糸31と、強化繊維製の連続繊維22を束ねて形成された第2強化繊維糸21と、を備える。繊維構造体20は、第1強化繊維糸31及び第2強化繊維糸21が同じ方向に延びるように並べて形成されている。繊維構造体20は、第2強化繊維糸21を第1強化繊維糸31で挟む部分を備えている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス樹脂を母材とする繊維強化複合材の強化基材となる繊維構造体であって、
強化繊維製の非連続繊維を含む繊維束の外周部にカバーリング糸が巻き付けられている第1強化繊維糸と、
強化繊維製の連続繊維を束ねて形成された第2強化繊維糸と、を備え、
前記第1強化繊維糸及び前記第2強化繊維糸が同じ方向に延びるように並べて形成されている繊維配置部を備え、当該繊維配置部は、前記第2強化繊維糸を前記第1強化繊維糸によって挟んでいる部分を備えることを特徴とする繊維構造体。
【請求項2】
前記繊維構造体は、当該繊維構造体の全体を前記繊維配置部とした一方向織物である請求項1に記載の繊維構造体。
【請求項3】
前記繊維構造体は、経糸よりなる経糸層、及び緯糸よりなる緯糸層を備える織物であり、前記繊維配置部は前記経糸層であり、当該経糸層は、前記経糸として前記第1強化繊維糸及び前記第2強化繊維糸を備える請求項1に記載の繊維構造体。
【請求項4】
マトリックス樹脂を母材とするとともに繊維構造体を強化基材とする繊維強化複合材であって、
前記繊維構造体は、
強化繊維製の非連続繊維を含む繊維束の外周部にカバーリング糸が巻き付けられている第1強化繊維糸と、
強化繊維製の連続繊維を束ねて形成された第2強化繊維糸と、を備え、
前記第1強化繊維糸及び前記第2強化繊維糸が同じ方向に延びるように並べて形成されている繊維配置部を備え、当該繊維配置部は前記第2強化繊維糸を前記第1強化繊維糸によって挟んでいる部分を備え、
前記第1強化繊維糸同士の間に充填された前記マトリックス樹脂に前記連続繊維が分散されていることを特徴とする繊維強化複合材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維構造体及び繊維強化複合材に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化複合材は、マトリックス樹脂を母材とするとともに、繊維構造体を強化基材とする。繊維構造体を形成する強化繊維糸は、無撚糸であるのが好ましい。これは、強化繊維糸が無撚糸であると、強化繊維糸における繊維配向が一方向に揃いやすいため、繊維強化複合材の強度低下を抑制できるためである。無撚糸の強化繊維糸を形成する強化繊維としては、例えば、特許文献1に開示の紡績糸に含まれる再生炭素繊維が挙げられる。特許文献1に開示の再生炭素繊維は、直線状に延びる非連続繊維である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2013-519000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
直線状に延びる非連続繊維を用いた強化繊維糸は、非連続繊維の束にカバーリング糸を巻き付けることによって繊維束としての形状を保持する必要がある。このため、カバーリング糸を含む強化繊維糸を用いた繊維構造体を強化基材とすると、強化繊維糸同士の間に隙間が形成されやすい。その結果、繊維強化複合材には、強化繊維糸同士の間にマトリックス樹脂だけが充填された樹脂リッチが発生しやすい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記問題点を解決するための繊維構造体は、マトリックス樹脂を母材とする繊維強化複合材の強化基材となる繊維構造体であって、強化繊維製の非連続繊維を含む繊維束の外周部にカバーリング糸が巻き付けられている第1強化繊維糸と、強化繊維製の連続繊維を束ねて形成された第2強化繊維糸と、を備え、前記第1強化繊維糸及び前記第2強化繊維糸が同じ方向に延びるように並べて形成されている繊維配置部を備え、当該繊維配置部は、前記第2強化繊維糸を前記第1強化繊維糸によって挟んでいる部分を備えることを要旨とする。
【0006】
これによれば、繊維構造体の加圧に伴って繊維配置部が加圧されたとき、当該繊維配置部において、第1強化繊維糸は、カバーリング糸によって形状を保持されたままか、僅かに変形する。その一方で、繊維配置部において、第2強化繊維糸は、加圧によって連続繊維同士の間隔が広がるように変形する。すると、第2強化繊維糸を挟んでいた第1強化繊維糸同士の間に連続繊維が分散する。よって、繊維構造体を強化基材とした繊維強化複合材において、第1強化繊維糸同士の間に充填されたマトリックス樹脂には連続繊維が分散している。したがって、繊維強化複合材において、第1強化繊維糸同士の間に樹脂リッチが発生することを抑制できる。
【0007】
繊維構造体について、前記繊維構造体は、当該繊維構造体の全体を前記繊維配置部とした一方向織物であってもよい。
これによれば、一方向織物は、繊維構造体の加圧に伴って第2強化繊維糸及び第1強化繊維糸がランダムに並びやすいため、第1強化繊維糸同士の間に第2強化繊維糸が配置されやすい。このため、繊維構造体の加圧によって、第1強化繊維糸同士の間に連続繊維が分散しやすい。よって、一方向織物製の繊維構造体は、第1強化繊維糸同士の間に樹脂リッチが発生することを抑制しやすい。
【0008】
繊維構造体について、前記繊維構造体は、経糸よりなる経糸層、及び緯糸よりなる緯糸層を備える織物であり、前記繊維配置部は前記経糸層であり、当該経糸層は、前記経糸として前記第1強化繊維糸及び前記第2強化繊維糸を備えていてもよい。
【0009】
これによれば、織物であっても、第1強化繊維糸同士の間に、マトリックス樹脂だけが存在する樹脂リッチが発生することを抑制できる。
上記問題点を解決するための繊維強化複合材は、マトリックス樹脂を母材とするとともに繊維構造体を強化基材とする繊維強化複合材であって、前記繊維構造体は、強化繊維製の非連続繊維を含む繊維束の外周部にカバーリング糸が巻き付けられている第1強化繊維糸と、強化繊維製の連続繊維を束ねて形成された第2強化繊維糸と、を備え、前記第1強化繊維糸及び前記第2強化繊維糸が同じ方向に延びるように並べて形成されている繊維配置部を備え、当該繊維配置部は前記第2強化繊維糸を前記第1強化繊維糸によって挟んでいる部分を備え、前記第1強化繊維糸同士の間に充填された前記マトリックス樹脂に前記連続繊維が分散されていることを要旨とする。
【0010】
これによれば、繊維構造体の加圧に伴って繊維配置部が加圧されたとき、当該繊維配置部において、第1強化繊維糸は、カバーリング糸によって形状を保持されたままか、僅かに変形する。その一方で、繊維配置部において、第2強化繊維糸は、加圧によって連続繊維同士の間隔が広がるように変形する。すると、第2強化繊維糸を挟んでいた第1強化繊維糸同士の間に連続繊維が分散する。よって、繊維構造体を強化基材とした繊維強化複合材において、第1強化繊維糸同士の間に充填されたマトリックス樹脂には連続繊維が分散している。したがって、繊維強化複合材において、第1強化繊維糸同士の間に樹脂リッチが発生することを抑制できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、樹脂リッチの発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、繊維強化複合材を模式的に示す断面図である。
図2図2は、繊維構造体を模式的に示す断面図である。
図3図3は、第2強化繊維糸を模式的に示す図である。
図4図4は、第1強化繊維糸を模式的に示す図である。
図5図5は、引抜成形装置を模式的に示す図である。
図6図6は、別例の繊維構造体を模式的に示す断面図である。
図7図7は、別例の繊維強化複合材を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1の実施形態)
以下、繊維構造体、及び繊維強化複合材を具体化した第1の実施形態を図1図5にしたがって説明する。なお、図1では、繊維強化複合材10及び繊維構造体20を模式的に示している。図2では、繊維構造体20を模式的に示している。また、図3では、第2強化繊維糸21を模式的に示している。図4では、第1強化繊維糸31を模式的に示している。
【0014】
<繊維強化複合材>
図1に示すように、繊維強化複合材10は、マトリックス樹脂12を母材とするとともに繊維構造体20を強化基材とする。繊維構造体20は、マトリックス樹脂12を母材とする繊維強化複合材10の強化基材である。図1では、繊維強化複合材10を模式的に示しているため、マトリックス樹脂12をドットハッチングで示すとともに、繊維強化複合材10及び繊維構造体20の外形の詳細な図示を省略している。
【0015】
繊維強化複合材10は、四角柱状のプリプレグである。なお、繊維構造体20及び繊維強化複合材10の形状は、断面H形状の柱状であったり、断面U形状の柱状であったり、筒状であったり、任意である。マトリックス樹脂12は、熱硬化性樹脂のエポキシ樹脂が使用される。なお、マトリックス樹脂12は、エポキシ樹脂でなくてもよく、例えばビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂であってもよいし、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド樹脂、ABS樹脂等といった熱可塑性樹脂であってもよい。
【0016】
<繊維構造体>
図2に示すように、繊維構造体20は、複数本の第1強化繊維糸31と、複数本の第2強化繊維糸21と、を備える。なお、図1及び図2では、繊維構造体20を模式的に示しているため、第1強化繊維糸31及び第2強化繊維糸21の外形の詳細な図示及びハッチングを省略している。繊維構造体20は、一方向織物である。繊維構造体20は、複数本の第1強化繊維糸31及び複数本の第2強化繊維糸21が同じ方向に延びるように並べて形成されている。したがって、繊維構造体20の全体は、第1強化繊維糸31及び第2強化繊維糸21が同じ方向に延びるように並べて形成されている繊維配置部である。
【0017】
図3に示すように、第2強化繊維糸21は、強化繊維製の連続繊維22を束ねて形成されている。連続繊維22は、直線状に延び、かつ直進性を有する。連続繊維22は、長繊維である。連続繊維22は、直線状に延び、直進性を有するとしているが、製造上、部分的に緩やかに湾曲することは避けられないため、直進性を有するとは、若干の湾曲やねじれを含むものとする。
【0018】
第2強化繊維糸21は、直線状に延びる連続繊維22を束ねて形成されているため、糸としての形状を保持するために、連続繊維22の繊維束に僅かに撚りを加えている。連続繊維22としては、有機繊維又は無機繊維を使用してもよいし、異なる種類の有機繊維、異なる種類の無機繊維、又は有機繊維と無機繊維を混繊した混繊繊維を使用してもよい。有機繊維としては、アクリル繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維、ポリ-p-フェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、超高分子量ポリエチレン繊維等が挙げられる。無機繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維等が挙げられる。本実施形態では、連続繊維22は、無機繊維としての炭素繊維の長繊維である。
【0019】
図4に示すように、第1強化繊維糸31は、強化繊維製の非連続繊維32を含む繊維束の外周部にカバーリング糸33が螺旋状に巻き付けられて形成されている。カバーリング糸33は、非連続繊維32の繊維束の形状を糸状に保持する。
【0020】
非連続繊維32は、短繊維である。非連続繊維32は、長繊維が切断されて形成されている。非連続繊維32は、第2強化繊維糸21の連続繊維22よりも短い。非連続繊維32としては、有機繊維又は無機繊維を使用してもよいし、異なる種類の有機繊維、異なる種類の無機繊維、又は有機繊維と無機繊維を混繊した混繊繊維を使用してもよい。有機繊維としては、アクリル繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維、ポリ-p-フェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、超高分子量ポリエチレン繊維等が挙げられる。無機繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維等が挙げられる。
【0021】
本実施形態では、非連続繊維32は、再生繊維として再生炭素繊維を使用している。非連続繊維32は、多軸織物のトリム、織物の織端のトリム、裁断された連続していたトウ等から発生する。非連続繊維32は、直線状に延び、かつ直進性を有する。非連続繊維32は無撚である。第1強化繊維糸31の断面形状は、カバーリング糸33による形状保持によってほぼ円形状に保持されている。第1強化繊維糸31は、非連続繊維32の繊維配向を一方向に揃えて形成されている。
【0022】
カバーリング糸33は、有機繊維製である。繊維強化複合材10の製造時、繊維構造体20を加熱したとき、カバーリング糸33が溶融しないような融点を持つ有機繊維に、カバーリング糸33の材料が決められている。
【0023】
図2に示すように、繊維構造体20の軸方向は、第1強化繊維糸31及び第2強化繊維糸21の各々の延びる方向と一致する。繊維構造体20の軸方向は、一方向織物における第1強化繊維糸31及び第2強化繊維糸21の延びる方向である。第1強化繊維糸31及び第2強化繊維糸21の延びる方向は、繊維構造体20の軸方向Lである。したがって、第2強化繊維糸21の連続繊維22、及び第1強化繊維糸31の非連続繊維32の各々は、繊維構造体20の軸方向Lへ直線状に延び、かつ直進性を有する。繊維構造体20において、軸方向Lが直交する断面は、四角形状である。繊維構造体20の断面の四角形において、対向する二辺の延びる方向を第1方向Xとするとともに、対向する他の二辺の延びる方向を第2方向Yとする。第1方向Xと第2方向Yは直交する。また、第1方向X及び第2方向Yに直交する方向は軸方向Lである。
【0024】
繊維構造体20の単位面積当たりにおける第1強化繊維糸31と第2強化繊維糸21の比率は任意である。繊維構造体20を強化基材とする繊維構造体20において、軸方向Lへの強度を高めたい場合は、単位面積当たりにおける第1強化繊維糸31と第2強化繊維糸21の比率は、第1強化繊維糸31の方が第2強化繊維糸21より大きくなる。また、第1強化繊維糸31における非連続繊維32は再生炭素繊維であるため、再生炭素繊維の利用の観点からすると、単位面積当たりにおける第1強化繊維糸31と第2強化繊維糸21の比率は、第1強化繊維糸31の方が第2強化繊維糸21より大きくするのが好ましい。
【0025】
繊維構造体20において、第1強化繊維糸31と第2強化繊維糸21は、第1方向X及び第2方向Yにランダムに配置されている。なお、第1強化繊維糸31と第2強化繊維糸21は、第1方向X及び第2方向Yに交互に配置されて整列状態に配置されていてもよい。繊維構造体20において、第2強化繊維糸21は、第1方向X及び第2方向Yのいずれかの方向に限らず、その他の方向からも第1強化繊維糸31に隣り合っている。繊維構造体20は、1本の第2強化繊維糸21を2本の第1強化繊維糸31によって第1方向Xから挟んでいる部分や、1本の第2強化繊維糸21を2本の第1強化繊維糸31によって第2方向Yから挟んでいる部分や、1本の第2強化繊維糸21を2本の第1強化繊維糸31によって、第1方向X及び第2方向Y以外の方向から挟んでいる部分を備える。繊維構造体20において、第2強化繊維糸21は、様々な方向から第1強化繊維糸31によって挟まれている。つまり、第1強化繊維糸31同士の間には、第2強化繊維糸21が配置されている。したがって、繊維配置部としての繊維構造体20は、第2強化繊維糸21を第1強化繊維糸31によって挟んでいる部分を多数備える。繊維構造体20は、マトリックス樹脂12の含浸されたプリプレグの強化基材である。したがって、繊維強化複合材10は、プリプレグである。
【0026】
<繊維構造体の製造方法>
図5に示すように、繊維強化複合材10は、引抜成形装置40によって製造される。そして、繊維強化複合材10の製造過程で繊維構造体20が製造される。
【0027】
引抜成形装置40は、供給部41と、含浸層42と、圧搾部43と、加熱用金型44と、引抜部45と、切断部46と、を備える。供給部41は、第2強化繊維糸21の供給部41a及び第1強化繊維糸31の供給部41bを備える。供給部41は、繊維構造体20を製造するための第1強化繊維糸31及び第2強化繊維糸21を一方向に送り出す。第1強化繊維糸31及び第2強化繊維糸21は、引抜部45によって引っ張られる。引抜部45によって第1強化繊維糸31及び第2強化繊維糸21が引っ張られることにより、第1強化繊維糸31及び第2強化繊維糸21は、供給部41から送り出される。
【0028】
供給部41から第1強化繊維糸31及び第2強化繊維糸21を送り出すとき、第1強化繊維糸31と第2強化繊維糸21は、第1方向X及び第2方向Yへランダムに並ぶ状態で供給部41から送り出される。なお、供給部41から第1強化繊維糸31及び第2強化繊維糸21を送り出すとき、第1強化繊維糸31と第2強化繊維糸21は、第1方向X及び第2方向Yへ交互に並ぶように整列された状態で供給部41から送り出されてもよい。ただし、第1方向X及び第2方向Yへ交互に第1強化繊維糸31と第2強化繊維糸21が並ぶ状態で送り出されても、含浸層42に向かう途中に、第1強化繊維糸31と第2強化繊維糸21はランダムに並ぶ状態に混ざり合う。
【0029】
そして、供給部41から送り出された第1強化繊維糸31及び第2強化繊維糸21は、束状に纏められる。つまり、供給部41によって第1強化繊維糸31及び第2強化繊維糸21が同じ方向に延びるように並んで送り出されることによって繊維配置部が形成されるとともに、繊維構造体20が形成される。以降の説明において、供給部41から送り出された第1強化繊維糸31及び第2強化繊維糸21よりなる繊維配置物を繊維構造体20とする。なお、図5は、引抜成形装置40を模式的に示しているため、繊維構造体20についても模式的に示している。
【0030】
図2に示すように、繊維構造体20には、第1方向X、第2方向Y、及びその他の方向に隣り合う第1強化繊維糸31同士の間には隙間が形成されている。また、第1方向X、第2方向Y、及びその他の方向に隣り合う第2強化繊維糸21同士の間にも隙間が形成されている。さらに、第1方向X、第2方向Y、及びその他の方向に隣り合う第2強化繊維糸21と第1強化繊維糸31との間には隙間が形成されている。
【0031】
図5に示すように、含浸層42には、液体状態のマトリックス樹脂12が収容されている。含浸層42に収容されているマトリックス樹脂12は、高温の溶融樹脂である。含浸層42では、供給部41から送り出された繊維構造体20にマトリックス樹脂12が含浸する。繊維構造体20は、第1強化繊維糸31及び第2強化繊維糸21の延びる方向へ連続的に含浸層42を通過していく。
【0032】
繊維構造体20の各第1強化繊維糸31及び各第2強化繊維糸21にマトリックス樹脂12が含浸するとともに、繊維構造体20の全体にマトリックス樹脂12が含浸する。繊維構造体20において、隣り合う第2強化繊維糸21同士の間と、隣り合う第1強化繊維糸31同士の間と、隣り合う第1強化繊維糸31と第2強化繊維糸21との間にマトリックス樹脂12が入り込む。また、繊維構造体20の表面全体は、マトリックス樹脂12によって被覆される。つまり、繊維構造体20に存在していた隙間にマトリックス樹脂12が充填される。
【0033】
図5に示すように、圧搾部43は、マトリックス樹脂12の含浸された繊維構造体20を圧搾する。圧搾部43による繊維構造体20の圧搾によって、繊維構造体20全体が第2方向Yに加圧されるとともに、第1強化繊維糸31及び第2強化繊維糸21は第2方向Yに加圧される。圧搾部43による繊維構造体20の圧搾によって、過剰なマトリックス樹脂12が繊維構造体20から除去される。
【0034】
そして、繊維構造体20が加圧されると、第2強化繊維糸21は、加圧によって束ねた状態が解除される。第2強化繊維糸21は、加圧によって連続繊維22同士の間隔が広がるように変形する。すると、第2強化繊維糸21を形成する連続繊維22がばらける。
【0035】
その結果、図1に示すように、連続繊維22は、隣り合う第1強化繊維糸31同士の間に入り込んでいたマトリックス樹脂12に分散される。すると、繊維強化複合材10が製造される。
【0036】
図5に示すように、加熱用金型44は、マトリックス樹脂12の含浸された繊維構造体20、つまり繊維強化複合材10を加熱する。引抜部45は、加熱用金型44においてマトリックス樹脂12の加熱された繊維強化複合材10を引っ張る。切断部46は、マトリックス樹脂12の熱硬化した繊維強化複合材10を所望する長さに切断する。
【0037】
<第1の実施形態の作用>
図1に示すように、繊維強化複合材10において、各第1強化繊維糸31の形状は、圧搾による加圧によって若干扁平状に変形するが、カバーリング糸33によって非連続繊維32を束ねた状態は保持されている。各第1強化繊維糸31の非連続繊維32は、圧搾による加圧によって、直線状に延びる状態が僅かに崩れるが、ほぼ直線状に延びている。このため、繊維強化複合材10において、第1強化繊維糸31による強度は確保されている。
【0038】
各第2強化繊維糸21は、第1強化繊維糸31のようにカバーリング糸33によって束ねた状態に保持されていない。このため、各第2強化繊維糸21の形状は、圧搾による加圧によって大きく変わっている。各第2強化繊維糸21の連続繊維22は、圧搾による加圧を受けて連続繊維22の間隔を広げるようにランダムに移動する。このため、各第2強化繊維糸21は、圧搾による加圧前に比べてばらけている。繊維強化複合材10において、第1強化繊維糸31は、第1方向X及び第2方向Yに隣り合うだけでなく、第1方向X及び第2方向Yの両方に直交する方向や、その他様々な方向に隣り合っている。そして、第2強化繊維糸21の連続繊維22は、上記した様々な方向に分散して、隣り合う第1強化繊維糸31同士の間で分散している。
【0039】
マトリックス樹脂12は、隣り合う第1強化繊維糸31同士の間に入り込んでいる。上記したように、第2強化繊維糸21の連続繊維22は、あらゆる方向において、隣り合う第1強化繊維糸31同士の間で分散している。このため、第1強化繊維糸31同士の間に入り込んだマトリックス樹脂12には、第2強化繊維糸21の連続繊維22が分散されている。つまり、マトリックス樹脂12だけからなる樹脂リッチの発生が抑制されている。
【0040】
分散した連続繊維22は、ほぼ直線状に延びている。このため、繊維強化複合材10において、連続繊維22による強度は確保されている。
上記第1の実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0041】
(1-1)繊維強化複合材10の製造の際、マトリックス樹脂12の含浸された繊維構造体20は、圧搾部43によって加圧される。このとき、第1強化繊維糸31同士の間で、連続繊維22が分散する。よって、繊維構造体20を強化基材とした繊維強化複合材10において、第1強化繊維糸31同士の間に充填されたマトリックス樹脂12には連続繊維22が分散している。したがって、繊維構造体20を強化基材とする繊維強化複合材10において、第1強化繊維糸31同士の間に樹脂リッチが発生することを抑制できる。
【0042】
(1-2)繊維強化複合材10において、繊維配向を揃えて繊維強化複合材10の強度を確保するため、第1強化繊維糸31は、無撚の非連続繊維32を用いて形成されている。非連続繊維32は、多軸織物のトリム、織物の織端のトリム、細断された連続していたトウ等から得られる再生炭素繊維である。これら再生炭素繊維を糸として再利用するには、非連続繊維32を束ねる必要がある。よって、再生炭素繊維からなる非連続繊維32を再利用した第1強化繊維糸31は、カバーリング糸33を必要とする。このため、第1強化繊維糸31は、加圧に伴う形状変化が僅かである。このような第1強化繊維糸31を用いた繊維構造体20であっても、第2強化繊維糸21のばらけ易さを利用することで、第1強化繊維糸31同士の間に樹脂リッチが発生することを抑制できる。
【0043】
(1-3)繊維構造体20は、一方向織物である。繊維強化複合材10の製造時、圧搾部43による繊維構造体20の加圧によって、第1強化繊維糸31及び第2強化繊維糸21の並びは崩れやすい。このため、一方向織物の繊維構造体20は、第1強化繊維糸31同士の間に第2強化繊維糸21が配置されやすい。その結果、繊維構造体20の加圧によって、第1強化繊維糸31同士の間に連続繊維22が分散しやすい。よって、一方向織物製の繊維構造体20は、第1強化繊維糸31同士の間に樹脂リッチが発生することを抑制しやすい。
【0044】
(第2の実施形態)
次に、繊維構造体、及び繊維強化複合材を具体化した第2の実施形態を図6図7にしたがって説明する。なお、第2の実施形態は、第1の実施形態と同様の部分についてはその詳細な説明を省略する。
【0045】
図6に示すように、繊維強化複合材50の繊維構造体60は、経糸61よりなる経糸層65、及び緯糸62よりなる緯糸層66を備える織物である。
繊維構造体60は、積層された2つの織物を結合糸64によって積層方向に結合して形成されている。2つの織物の各々は1つの経糸層65と2つの緯糸層66を備える。1つの経糸層65は、2つの緯糸層66によって挟まれている。
【0046】
経糸層65は、複数本の経糸61を同じ方向に延びるように並べて形成されている。緯糸層66は、複数本の緯糸62を同じ方向に延びるように並べて形成されている。経糸61の延びる方向と緯糸62の延びる方向は交差する。
【0047】
経糸61は、第1強化繊維糸31及び第2強化繊維糸21を含む。経糸層65には、2本の第2強化繊維糸21を第1強化繊維糸31で挟むように第1強化繊維糸31と第2強化繊維糸21が配置されている箇所と、1本の第2強化繊維糸21を第1強化繊維糸31で挟むように第1強化繊維糸31と第2強化繊維糸21が配置されている箇所とがある。なお、経糸層65において、第2強化繊維糸21と第1強化繊維糸31の配置は、適宜変更可能である。例えば、第1強化繊維糸31と第2強化繊維糸21を交互に配置してもよい。そして、繊維構造体60において、経糸層65は、経糸61として第1強化繊維糸31及び第2強化繊維糸21を備える繊維配置部である。したがって、繊維構造体60は、繊維配置部を備える。
【0048】
緯糸層66は、第1強化繊維糸31のみで形成されている。緯糸層66は、複数本の緯糸62を同じ方向に延びるように並べて形成されている。結合糸64は、任意の糸を用いることができる。結合糸64は、経糸層65と緯糸層66の積層方向に延びるとともに、繊維構造体60の最外層の緯糸層66で折り返されている。
【0049】
経糸層65において、積層方向に結合糸64の延びる箇所は、結合糸64によって、経糸61同士が若干隔てられている。経糸層65において、積層方向に延びる結合糸64を挟むように第2強化繊維糸21が隣り合っている。つまり、結合糸64によって、第2強化繊維糸21が隔てられている。
【0050】
繊維強化複合材50は、RTM(Resin Transfer Molding)法によって形成される。
図7に示すように、繊維強化複合材50の製造は、繊維構造体60の配置された成形型70内にマトリックス樹脂12を充填することによって行われる。成形型70内にマトリックス樹脂12が充填されると、繊維構造体60は、マトリックス樹脂12の充填圧によって加圧される。また、成形型70内に充填されたマトリックス樹脂12は、繊維構造体60に含浸される。
【0051】
繊維構造体60の経糸層65及び緯糸層66において、各第1強化繊維糸31及び各第2強化繊維糸21にマトリックス樹脂12が含浸するとともに、繊維構造体60の全体にマトリックス樹脂12が含浸する。経糸層65において、隣り合う第2強化繊維糸21同士の間と、隣り合う第2強化繊維糸21と第1強化繊維糸31との間にマトリックス樹脂12が入り込む。また、緯糸層66において、隣り合う緯糸62同士の間にマトリックス樹脂12が入り込む。そして、マトリックス樹脂12及び繊維構造体60が成形型70内で加熱されると、マトリックス樹脂12が硬化して、マトリックス樹脂12が複合化される。その結果、マトリックス樹脂12を母材とするとともに、繊維構造体60を強化基材とする繊維強化複合材50が製造される。
【0052】
<第2の実施形態の作用>
繊維強化複合材50において、繊維構造体60の経糸層65では、各第1強化繊維糸31の形状は、マトリックス樹脂12の充填圧によって若干扁平状に変形するが、カバーリング糸33によって非連続繊維32を束ねた状態は保持されている。各第1強化繊維糸31の非連続繊維32は、充填圧によって、直線状に延びる状態が僅かに崩れるが、ほぼ直線状に延びている。このため、繊維強化複合材50において、第1強化繊維糸31による強度は確保されている。
【0053】
経糸層65において、各第2強化繊維糸21は、第1強化繊維糸31のようにカバーリング糸33によって束ねた状態に保持されていない。このため、各第2強化繊維糸21の形状は、充填圧によって大きく変わっている。各第2強化繊維糸21の連続繊維22は、充填圧を受けて連続繊維22の間隔を広げるようにランダムに移動する。このため、各第2強化繊維糸21は、マトリックス樹脂12の充填前に比べてばらけている。そして、第2強化繊維糸21の連続繊維22は、経糸層65において隣り合う第1強化繊維糸31の間で分散している。
【0054】
マトリックス樹脂12は、経糸層65において隣り合う第1強化繊維糸31同士の間に入り込んでいる。上記したように、第2強化繊維糸21の連続繊維22は、隣り合う第1強化繊維糸31同士の間で分散している。このため、第1強化繊維糸31同士の間に入り込んだマトリックス樹脂12には、第2強化繊維糸21の連続繊維22が分散されている。つまり、経糸層65には、マトリックス樹脂12だけからなる樹脂リッチの発生が抑制されている。
【0055】
上記第2の実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(2-1)RTM法による繊維強化複合材50の製造の際、マトリックス樹脂12の含浸された繊維構造体60は、マトリックス樹脂12の充填圧によって加圧される。このとき、経糸層65では、第1強化繊維糸31同士の間で、連続繊維22が分散する。よって、繊維構造体60を強化基材とした繊維強化複合材50において、第1強化繊維糸31同士の間に充填されたマトリックス樹脂12には連続繊維22が分散している。したがって、繊維強化複合材50において、第1強化繊維糸31同士の間に樹脂リッチが発生することを抑制できる。
【0056】
(2-2)繊維構造体60は、経糸層65及び緯糸層66を備える織物である。そして、経糸層65は、第1強化繊維糸31及び第2強化繊維糸21を備える。このため、経糸層65において、第1強化繊維糸31同士の間に樹脂リッチの発生が抑制される。よって、経糸61と緯糸62を用いた織物を強化基材とした繊維強化複合材50において、マトリックス樹脂12だけが充填された箇所による強度低下を抑制できる。
【0057】
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施できる。上記各実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
○第2の実施形態の繊維構造体60において、経糸層65だけでなく、緯糸層66も第1強化繊維糸31と第2強化繊維糸21によって形成された繊維配置部としてもよい。
【0058】
○第2の実施形態の繊維構造体60において、緯糸層66を第1強化繊維糸31と第2強化繊維糸21で形成した繊維配置部とするとともに、経糸層65は、第1強化繊維糸31のみで形成してもよい。
【0059】
○第1強化繊維糸31において、非連続繊維32の束は撚られていてもよい。この場合、非連続繊維32の束の撚りと、カバーリング糸33とによって第1強化繊維糸31がばらけることをより一層抑制できる。
【0060】
○第1の実施形態において、繊維強化複合材10は、複数の第1強化繊維糸31及び複数の第2強化繊維糸21を一方向に揃えて配置した一方向織物にマトリックス樹脂12が含浸されてなる一方向プリプレグシート材を、複数積層して形成されていてもよい。
【0061】
○第1強化繊維糸31のカバーリング糸33は、有機繊維以外の強化繊維であってもよい。カバーリング糸33の材料は、例えば、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維であってもよい。
【0062】
○第1強化繊維糸31は、非連続繊維32を含むとともに、連続繊維を含む繊維束にカバーリング糸33を巻き付けて形成されていてもよい。
○第1強化繊維糸31の非連続繊維32は、再生炭素繊維でなくてもよく、未使用炭素繊維や、新材の炭素繊維であってもよい。
【0063】
○第2の実施形態において、繊維構造体60における織物の種類は適宜変更してもよい。
【符号の説明】
【0064】
10,50…繊維強化複合材、12…マトリックス樹脂、20…繊維配置部としての繊維構造体、21…第2強化繊維糸、22…連続繊維、31…第1強化繊維糸、32…非連続繊維、33…カバーリング糸、60…繊維構造体、61…経糸、62…緯糸、65…繊維配置部としての経糸層、66…緯糸層。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7