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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134335
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】配管詰まり診断方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/04 20060101AFI20240926BHJP
   G01N 29/12 20060101ALI20240926BHJP
   G01N 29/46 20060101ALI20240926BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20240926BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
G01N29/04
G01N29/12
G01N29/46
G01M99/00 Z
G01H17/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044578
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000165697
【氏名又は名称】原子燃料工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(74)【代理人】
【識別番号】100099933
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 敏
(72)【発明者】
【氏名】石井 元武
(72)【発明者】
【氏名】藤吉 宏彰
(72)【発明者】
【氏名】松永 嵩
(72)【発明者】
【氏名】小川 良太
(72)【発明者】
【氏名】礒部 仁博
【テーマコード(参考)】
2G024
2G047
2G064
【Fターム(参考)】
2G024BA27
2G024CA13
2G047AA05
2G047AB01
2G047BA04
2G047BC04
2G047BC18
2G047CA03
2G047EA10
2G047GG12
2G047GG20
2G047GG24
2G047GG32
2G047GG33
2G047GJ22
2G064AA01
2G064AB01
2G064AB02
2G064AB15
2G064AB22
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC43
(57)【要約】
【課題】専門技術や経験のない検査員であっても、配管詰まりの状況を、非破壊で、かつ高い精度で診断することが可能な配管詰まり診断方法を提供する。
【解決手段】流体が流通する配管内において発生した詰まりの状況を診断する配管詰まり診断方法であって、詰まりの発生していない健全状態(基準状態)にあることが分かっている配管に与えられた振動より得られる振動信号の周波数分布に基づいて基準状態における評価指標(基準状態評価指標)を取得する基準状態評価指標取得工程と、診断対象の配管に与えられた振動より得られる振動信号の周波数分布に基づいて診断時における評価指標(診断対象評価指標)を取得する診断対象評価指標取得工程と、取得された基準状態評価指標に対する診断対象評価指標の変化量に基づいて、診断対象の配管内における詰まりの状況を診断する詰まり診断工程とを備えている配管詰まり診断方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が流通する配管内において発生した詰まりの状況を診断する配管詰まり診断方法であって、
詰まりの発生していない健全状態(基準状態)にあることが分かっている配管に与えられた振動より得られる振動信号の周波数分布に基づいて、基準状態における評価指標(基準状態評価指標)を取得する基準状態評価指標取得工程と、
診断対象の配管に与えられた振動より得られる振動信号の周波数分布に基づいて、診断時における評価指標(診断対象評価指標)を取得する診断対象評価指標取得工程と、
前記基準状態評価指標取得工程において取得された基準状態評価指標と、前記診断対象評価指標取得工程において取得された診断対象評価指標とを比較して、前記基準状態評価指標に対する前記診断対象評価指標の変化量に基づいて、前記診断対象の配管内における詰まりの状況を診断する詰まり診断工程とを備えていることを特徴とする配管詰まり診断方法。
【請求項2】
前記評価指標が、ピーク周波数、ピーク強度、ピーク半値幅、ピーク面積、ピーク重心のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の配管詰まり診断方法。
【請求項3】
前記基準状態評価指標取得工程において、前記基準状態評価指標の取得を、新設時あるいは修繕時における現場測定、モックアップ試験体を用いた測定、既存の設備で相対的に最も新設に近い部位の測定、数値解析シミュレーションによる理論値の測定のいずれかにより行うことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の配管詰まり診断方法。
【請求項4】
前記診断対象評価指標取得工程において、前記振動信号を、打撃により生じる振動、または、プラントの稼働により生じる振動から得ることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の配管詰まり診断方法。
【請求項5】
前記診断対象評価指標取得工程において、
前記診断対象の配管が気中に敷設されている場合には、直接、配管を測定して、前記診断対象評価指標を取得し、
前記診断対象の配管が埋設されて敷設されている場合には、埋設個所の直上の部位を測定して、前記診断対象評価指標を取得することを特徴とする請求項4に記載の配管詰まり診断方法。
【請求項6】
前記詰まり診断工程が、前記診断対象の配管内における詰まり発生位置を特定するステップを有していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の配管詰まり診断方法。
【請求項7】
前記診断対象の配管内における詰まり発生位置を特定するステップが、
前記診断対象評価指標が、前記基準状態評価指標から予め定められた閾値を超えて変化している位置を、詰まり発生位置と特定するステップであることを特徴とする請求項6に記載の配管詰まり診断方法。
【請求項8】
前記診断対象の配管内における詰まり発生位置の特定に際して、
計測点および診断対象となる振動箇所の一方を固定、他方を移動させて、前記診断対象評価指標を取得することを特徴とする請求項6に記載の配管詰まり診断方法。
【請求項9】
前記診断対象の配管内における詰まり発生位置の特定に際して、
計測点および診断対象となる振動箇所の双方を移動させて、前記診断対象評価指標を取得することを特徴とする請求項6に記載の配管詰まり診断方法。
【請求項10】
前記詰まり診断工程が、さらに、前記診断対象の配管内における詰まり発生位置における詰まり状態の定量評価を行うステップを有していることを特徴とする請求項6に記載の配管詰まり診断方法。
【請求項11】
前記詰まり状態の定量評価を行うに際して、
前記基準状態評価指標F0に対する前記診断対象評価指標F´の比率(F´/F0)を求め、予め作成された(F´/F0)と閉塞率との関係と照合することにより、前記詰まり状態の定量評価を行うことを特徴とする請求項10に記載の配管詰まり診断方法。
【請求項12】
前記(F´/F0)と閉塞率との関係を予め作成するに際して、
診断対象となる配管の諸仕様、想定されるスラッジの諸特性を考慮して作成することを特徴とする請求項11に記載の配管詰まり診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配管内部に発生するさびや付着物の堆積などに起因する配管詰まりの状況を非破壊で診断する配管詰まり診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、プラント内には各種配管が敷設されているが、これらの配管の内部にさびや付着物などが発生して堆積する場合がある。そして、この堆積を放置したままにしておくと、配管に詰まりを生じ、配管内部において流体の流量の減少を招いて、設備の機能、効率を低下させる要因となる。なかでも、安全性に関わる詰まりが発生した場合には、重大な事故の発生に繋がる恐れがある。
【0003】
このため、配管内部における詰まりの発生状況を適切に診断することが重要な課題となっている。
【0004】
このような配管詰まりを診断する具体的な方法としては、まず、配管を外して内部を目視により確認する方法が考えられるが、配管を取り外すのに要するコストや時問が膨大なうえ、検査期間中、設備全体の運転を停止する必要があるという問題がある。
【0005】
そこで、超音波やX線を用いた計測機器による非破壊検査手法が考えられるが、超音波検査には、検査対象の表面状態によっては前処理が必要であり、局所的な範囲しか評価できないという問題があり、X線検査には、放射線を取り扱うことによる制約という問題がある。また、どちらの非破壊検査手法にも、取扱いや診断のためには、高度な専門技術や経験を必要とするという問題がある。
【0006】
そこで、上記の方法に替わる方法として、打撃によって発生させた弾性波を用いた検査方法(打音検査)として、手動ハンマーなどによる打音の振動を加速度センサや集音センサなどを用いて検出して、振動波形の平均値に対する振動のピーク値の比率を算出することにより配管の詰まりを診断する方法(特許文献1)や、叩打具による打音をマイクロフォンに入力して得られる周波数分布の特徴的周波数に基づいて管路の閉塞率を推定する管路診断方法(特許文献2)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6-258296号公報
【特許文献2】特開2020-165849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、これらの技術にも、種々の問題点がり、さらなる改善が求められている。
【0009】
例えば、特許文献1の技術は振動波形の大きさに着目した技術であり、打撃強さや測定対象の振動し易さ、また、外部環境に大きく依存しており、周囲の雑音、機械振動も信号として拾ってしまう可能性があるため、一定の評価をすることが難しい。
【0010】
また、特許文献2の技術は、そもそも、ガス埋設管内での差し水の侵入、滞留箇所を特定する技術であり、スケール等の固形物や汚泥・ゲル状の物質等が固着するような状態の診断に適用することは難しい。そして、マイクロフォンへの入力は、外乱の影響を受けやすく、騒音環境の中での利用が難しい。また、一般的に、配管の肉厚、径、形状(直管、エルボー等)、支持構造物などの形状や、詰まりの内容物の物性・形状と振動の測定位置、加振位置によって得られる周波数分布は異なることを考えると、この技術では「詰まりの位置や量、成分・形態を評価」することが難しい。
【0011】
このため、専門技術や経験のない検査員であっても、配管詰まりの状況を、非破壊で、かつ高い精度で診断することが可能な配管詰まり診断方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題の解決について鋭意検討を行い、以下に記載する発明により上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
請求項1に記載の発明は、
流体が流通する配管内において発生した詰まりの状況を診断する配管詰まり診断方法であって、
詰まりの発生していない健全状態(基準状態)にあることが分かっている配管に与えられた振動より得られる振動信号の周波数分布に基づいて、基準状態における評価指標(基準状態評価指標)を取得する基準状態評価指標取得工程と、
診断対象の配管に与えられた振動より得られる振動信号の周波数分布に基づいて、診断時における評価指標(診断対象評価指標)を取得する診断対象評価指標取得工程と、
前記基準状態評価指標取得工程において取得された基準状態評価指標と、前記診断対象評価指標取得工程において取得された診断対象評価指標とを比較して、前記基準状態評価指標に対する前記診断対象評価指標の変化量に基づいて、前記診断対象の配管内における詰まりの状況を診断する詰まり診断工程とを備えていることを特徴とする配管詰まり診断方法である。
【0014】
請求項2に記載の発明は、
前記評価指標が、ピーク周波数、ピーク強度、ピーク半値幅、ピーク面積、ピーク重心のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の配管詰まり診断方法である。
【0015】
請求項3に記載の発明は、
前記基準状態評価指標取得工程において、前記基準状態評価指標の取得を、新設時あるいは修繕時における現場測定、モックアップ試験体を用いた測定、既存の設備で相対的に最も新設に近い部位の測定、数値解析シミュレーションによる理論値の測定のいずれかにより行うことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の配管詰まり診断方法である。
【0016】
請求項4に記載の発明は、
前記診断対象評価指標取得工程において、前記振動信号を、打撃により生じる振動、または、プラントの稼働により生じる振動から得ることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の配管詰まり診断方法である。
【0017】
請求項5に記載の発明は、
前記診断対象評価指標取得工程において、
前記診断対象の配管が気中に敷設されている場合には、直接、配管を測定して、前記診断対象評価指標を取得し、
前記診断対象の配管が埋設されて敷設されている場合には、埋設個所の直上の部位を測定して、前記診断対象評価指標を取得することを特徴とする請求項4に記載の配管詰まり診断方法である。
【0018】
請求項6に記載の発明は、
前記詰まり診断工程が、前記診断対象の配管内における詰まり発生位置を特定するステップを有していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の配管詰まり診断方法である。
【0019】
請求項7に記載の発明は、
前記診断対象の配管内における詰まり発生位置を特定するステップが、
前記診断対象評価指標が、前記基準状態評価指標から予め定められた閾値を超えて変化している位置を、詰まり発生位置と特定するステップであることを特徴とする請求項6に記載の配管詰まり診断方法である。
【0020】
請求項8に記載の発明は、
前記診断対象の配管内における詰まり発生位置の特定に際して、
計測点および診断対象となる振動箇所の一方を固定、他方を移動させて、前記診断対象評価指標を取得することを特徴とする請求項6に記載の配管詰まり診断方法である。
【0021】
請求項9に記載の発明は、
前記診断対象の配管内における詰まり発生位置の特定に際して、
計測点および診断対象となる振動箇所の双方を移動させて、前記診断対象評価指標を取得することを特徴とする請求項6に記載の配管詰まり診断方法である。
【0022】
請求項10に記載の発明は、
前記詰まり診断工程が、さらに、前記診断対象の配管内における詰まり発生位置における詰まり状態の定量評価を行うステップを有していることを特徴とする請求項6に記載の配管詰まり診断方法である。
【0023】
請求項11に記載の発明は、
前記詰まり状態の定量評価を行うに際して、
前記基準状態評価指標F0に対する前記診断対象評価指標F´の比率(F´/F0)を求め、予め作成された(F´/F0)と閉塞率との関係と照合することにより、前記詰まり状態の定量評価を行うことを特徴とする請求項10に記載の配管詰まり診断方法である。
【0024】
請求項12に記載の発明は、
前記(F´/F0)と閉塞率との関係を予め作成するに際して、
診断対象となる配管の諸仕様、想定されるスラッジの諸特性を考慮して作成することを特徴とする請求項11に記載の配管詰まり診断方法である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、専門技術や経験のない検査員であっても、配管詰まりの状況を、非破壊で、かつ高い精度で診断することが可能な配管詰まり診断方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】配管に与えられた振動から取得された振動波形の一例を示す図である。
図2図1に示す振動波形から得られた振動強度の周波数分布を示す図である。
図3】配管の閉塞率が大きくなるのに従い、ピーク周波数の低周波側へのシフトの幅が大きくなることを説明する図である。
図4】配管の閉塞率が大きくなるのに従い、各評価指標が変化する様子を説明する図である。
図5】詰まりの発生位置の確認、特定の具体的な一例を説明する図である。
図6】詰まり状態の定量評価の具体的な一例を説明する図である。
図7】閉塞率(%)と(F´/F0)との関係を示す図である。
図8】配管肉厚と(F´/F0)との関係を示す図である。
図9】配管外径(mm)と(F´/F0)との関係を示す図である。
図10】パラメータの変化に対応した閉塞率(%)と(F´/F0)との関係を説明する図である。
図11】本発明の一実施例における診断対象の配管の寸法及びスラッジの位置を示す図である。
図12図11に示す配管において得られたピーク周波数と配管の閉塞率との関係を示す図である。
図13図11に示す配管のピーク周波数とスラッジの弾性係数との関係を示す図である。
図14図11に示す配管のピーク周波数とスラッジの密度との関係を示す図である。
図15図11に示す配管のスラッジ部の位置と計測点の位置および打撃位置の関係を示す図である。
図16図11に示す配管の各計測点の位置および打撃位置におけるピーク周波数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[1]本発明について
最初に、本発明の完成に至る経緯と、本発明の概要について説明する。
【0028】
1.本発明の完成に至る経緯
本発明者は、上記課題の解決について、種々の実験と検討を行った結果、プラント内に敷設された配管における振動は、配管内の詰まりの状況に応じて変化していることが分かった。そこで、この振動の変化を適切な指標を用いて解析することにより、詰まりの状況を適切に診断することができると考えた。
【0029】
具体的には、配管に与えられた振動をセンサにて振動信号として取得することにより、一例として、図1に示すような振動波形を得ることができる。図1において、縦軸は振幅(Amplitude:mV)、横軸は振動開始からの経過時間(Time:sec)である。図1より、振動開始からの時間の経過に伴って、徐々に振幅が減少(減衰)していくことが分かる。
【0030】
得られた振動波形を周波数解析することにより、図2に示すような振動強度の周波数分布を得ることができる。図2において、縦軸は振動強度(Magunitude:a.u.)、横軸は周波数(Frequenncy:Hz)である。なお、図2においては、周波数解析に際して、高速フーリエ(FFT:Fast Fourier Transformation)解析を適用しているが、ウェーブレット解析、短時間FFT解析を適用してもよい。これらの解析を適用することにより、信号強度に依らない解析結果を得ることができ、信頼性の高い周波数分布を取得することができる。図2より、周波数分布においては、特定の周波数(ピーク周波数)においてシャープなピークが存在することが分かる。
【0031】
本発明者の実験、検討によれば、このピーク周波数は、配管における詰まりの存在によって変化、具体的には、詰りがある場合にはより低周波数側にシフトし、さらには、詰りの程度(閉塞率の大きさ)が大きくなると、シフトの程度も大きくなることが分かった。
【0032】
具体的な一例を図3に示す。なお、図3は、後述する実施の形態において具体的な診断例として示した配管において、閉塞率0%(健全状態)、25%および50%の各配管を想定し、それぞれを打撃して(図3左図参照)得られた振動信号に対してFEM(Finite Element Method:有限要素法)解析を施すことにより得られた周波数分布(図3右図参照)を示している。図3より、詰まりが生じることにより、ピーク周波数が低周波数側にシフトしていることが分かり、そして、閉塞率が大きくなるに従って、ピーク周波数がより低周波数側にシフトして、健全時のピーク周波数からの隔たりが大きくなることが分かる。
【0033】
そして、得られた周波数分布をさらに詳細に観察すると、図4に示すように、ピーク周波数の変化に伴って、ピーク強度、ピーク半値幅、ピーク面積、ピーク重心も、同様に変化していることが分かった。例えば、ピーク強度に着目すると、閉塞率が大きくなるに従って、ピーク強度が低下している。そして、ピーク半値幅に着目すると、閉塞率が大きくなるに従って、ピーク半値幅が増加している。また、ピーク面積に着目すると、閉塞率が大きくなるに従って、ピーク面積が減少している。さらに、ピーク重心に着目すると、閉塞率が大きくなるに従って、ピーク重心がより低周波側にシフトしている。
【0034】
本発明者は、これらのパラメータを評価の指標(評価指標)に用いて、配管の振動信号から得られた周波数分布における評価指標の変化を知ることにより、詰まり発生位置を特定すると共に、詰まり状態の定量評価が可能であると考え、本発明を完成するに至った。
【0035】
2.本発明の概要
本発明は、流体が流通する配管内において発生した詰まりの状況を診断する配管詰まり診断方法であって、詰まりの発生していない健全状態(基準状態)にあることが分かっている配管に与えられた振動より得られる振動信号の周波数分布に基づいて、基準状態における評価指標(基準状態評価指標)を取得する(基準状態評価指標取得工程)一方、診断対象の配管に与えられた振動より得られる振動信号の周波数分布に基づいて、診断時における評価指標(診断対象評価指標)を取得(診断対象評価指標取得工程)し、その後、取得された基準状態評価指標に対する診断対象評価指標の変化量に基づいて、配管内における詰まりの状況を診断する(詰まり診断工程)配管詰まり診断方法である。
【0036】
本発明によれば、打撃により生じる振動やプラントの稼働により生じる振動から得られた振動信号の周波数分布に基づいて取得された診断対象評価指標を基準状態評価指標と比較することにより、配管内における詰まりの状況を診断することができるため、専門技術や経験のない検査員であっても、配管詰まりの状況を、非破壊で、かつ高い精度で診断することができる。
【0037】
[2]本発明の実施の形態
次に、本発明の実施の形態について、具体的な診断例として、評価指標にピーク周波数を用いた診断例を挙げて説明するが、その他の評価指標(ピーク強度、ピーク半値幅、ピーク面積、ピーク重心)の場合も同様に考えることができる。なお、以下では、打撃により配管に与えられた振動から得られた振動信号を用いて詰まり診断を行うとして説明しているが、前記したように、プラントの稼働により生じる振動から得られた振動信号を用いて詰まり診断を行ってもよい。
【0038】
そして、具体的な診断例としては、外径Φ48.6mm、肉厚3.5mmの配管内の中央部領域に、ヤング率200MPa、密度5200kg/mの赤さび(Fe)がスラッジとして詰まっている場合における診断を示している。
【0039】
上記したように、本発明に係る配管詰まり診断方法においては、基準状態評価指標取得工程(本実施の形態においては、評価指標として「ピーク周波数」を用いるため、以下、「基準状態ピーク周波数取得工程」という)、診断対象評価指標取得工程(同様に、以下、「診断対象ピーク周波数取得工程」という)、詰まり診断工程を備えている。
【0040】
なお、配管は気中に敷設されている場合、もしくはコンクリートなどに埋設されて敷設されている場合が想定されるが、気中に敷設されているには、直接、配管を測定し、埋設されて敷設されている場合には、埋設個所の直上の部位を測定して、詰まりの診断を行うものとする。
【0041】
1.基準状態ピーク周波数取得工程
基準状態ピーク周波数取得工程は、詰まりの発生していない健全状態(基準状態)にあることが分かっている配管に与えられた振動より得られる振動信号の周波数分布に基づいて、基準状態ピーク周波数を取得する工程である。
【0042】
本実施の形態において、基準状態ピーク周波数の取得は、以下の(1)~(4)に説明する4つの方法のいずれか、または、これらの組み合わせにより行うことができる。
【0043】
(1)新設時あるいは修繕時における現場測定
新設時あるいは修繕時において、診断対象の配管と同仕様に敷設された直後の配管は、詰まりの発生していない健全状態(基準状態)にあるとみなすことができる。このため、この配管の振動信号の周波数分布に基づいて取得されたピーク周波数は、基準状態ピーク周波数として使用することができる。
【0044】
このとき、配管の振動は、従来の打音検査と同様に、打撃により与えることができる。なお、打撃に使用する治具としては、打音点検用に一般的に用いられており、重さも軽く、持ち運びに便利なテストハンマが好ましいが、プラスチックハンマ、ゴムハンマ、木ハンマ、鉄ハンマなど、対象に振動を与えることができて振動波形が取得可能なハンマであれば、テストハンマに替えて使用してもよい。また、ハンマに替えて、鉄球を用いて打音してもよい。
【0045】
そして、振動を振動信号として取得するセンサとしては、AE(Acoustic Emission)センサ、振動を取得可能な加速度センサ、マイクロフォン等が用いられる。これらのセンサは、安価である上に、取り扱いが容易であり、測定に特別のスキルを必要としない。また、多くの使用実績があり、信頼性が高い。中でも、AEセンサ、加速度センサは、測定対象に接触させて使用することができ、測定結果が周辺環境の影響を受けにくいため、より高い精度で測定を行うことができる。
【0046】
(2)モックアップ試験体を用いた測定
新設時における配管状態を模擬したモックアップ試験体を作製して、ピーク周波数を取得してもよい。このモックアップ試験体は、前記したように、新設時における配管状態を模擬して作製されているため、詰まりの発生していない健全状態(基準状態)にあるとみなすことができる。このため、この配管の振動信号の周波数分布に基づいて取得されたピーク周波数は、基準状態ピーク周波数として使用することができる。
【0047】
(3)既存の設備で相対的に最も新設に近い部位の測定
上記した新設時あるいは修繕時における現場測定が困難な場合には、代替手段として、既存の設備で相対的に最も新設に近い部位で測定してもよい。即ち、新設に近い部位では、詰まりの発生はないとみなすことができるため、取得されたピーク周波数を基準状態ピーク周波数として使用することができる。
【0048】
(4)数値解析シミュレーションによる理論値の測定
振動波形の形成にあたっては、数値解析シミュレーションを用いてもよい。具体的には、FEMは、地盤や構造シミュレーションモデルにおいて、時刻歴応答解析を施すことにより、理論的に振動波形を形成することができるため、この振動波形に高速フーリエ変換処理などを施すことにより、基準状態ピーク周波数を求めることができる。
【0049】
2.診断対象ピーク周波数取得工程
診断対象ピーク周波数取得工程は、診断対象の配管に与えられた振動より得られる振動信号の周波数分布に基づいて、診断対象ピーク周波数を取得する工程である。
【0050】
本実施の形態において、診断対象ピーク周波数の取得は、前記した基準状態ピーク周波数取得工程における要領と同様にして行うことができる。
【0051】
3.詰まり診断工程
詰まり診断工程は、基準状態ピーク周波数取得工程において取得された基準状態ピーク周波数と、診断対象ピーク周波数取得工程において取得された診断対象ピーク周波数とを比較し、その変化量に基づいて、配管内における詰まりの状況を診断する工程であり、具体的には、詰まり発生位置の特定と、詰まり状態の定量評価を行う工程である。なお、必要に応じては、詰まり発生位置の特定のみを行ってもよい。
【0052】
(1)詰まり発生位置の特定
図3に示したように、詰まりが生じることによりピーク周波数は低周波数側にシフトするため、基準状態ピーク周波数よりも低周波数側にシフトしている診断対象ピーク周波数を知ることにより、詰まりの発生位置を確認、特定することができる。
【0053】
詰まりの発生位置の確認、特定の具体的な一例を図5に示す。図5左図に示すように、ここでは、計測点であるセンサ位置を固定とし、4箇所の位置で打撃して振動を与えている。そして、図5右図に示すような周波数分布を得ている。
【0054】
図5右図に示すように、ほぼ健全位置である打撃位置(1)では4709Hzと、図3上段に示した基準状態ピーク周波数4637Hzに近い位置にピーク周波数が表れている。これに対して、詰まり位置であるスラッジ直上の打撃位置(3)では4049Hzと、低周波数側に大きくシフトして表れている。また、詰まり位置両端部の打撃位置(2)、(4)では、それぞれ、4692Hz、4708Hzと、基準状態ピーク周波数4637Hzに近い位置にピーク周波数が表れている。
【0055】
即ち、基準状態ピーク周波数F0(=4637Hz)付近に着目すると、スラッジが存在する箇所では、F0のピークの他に、低周波数側に比較的大きなピークが生じる変化が見られ、これを知ることにより、詰まりの存在を確認することができる。
【0056】
なお、上記では、センサ位置を固定して打撃位置を移動させているが、逆に、打撃位置を固定してセンサ位置を移動させてもよい。また、より高い精度の診断を行うために、センサ位置と打撃位置の双方を移動させてもよいが、検査速度が低下する。
【0057】
また、図5では、配管の長さ方向に打撃位置を移動させているが、周方向に移動させて、周方向での配管詰まりの状況を診断してもよい。
【0058】
(2)詰まり状態の定量評価
図3に示したように、閉塞率が大きくなるに従って、ピーク周波数がより低周波数側にシフトして、健全時のピーク周波数からの隔たりが大きくなっており、閉塞率とピーク周波数からの隔たりとの間には、一定の関係があることが分かり、詰まり状態の定量評価が可能であることが分かる。
【0059】
即ち、得られたピーク周波数F´(診断対象ピーク周波数)の基準状態ピーク周波数F0に対する比率(F´/F0)を求め、予め作成された(F´/F0)と閉塞率との関係と照合することにより、詰まり状態の定量評価を行うことができる。
【0060】
詰まり状態の定量評価の具体的な一例を図6図7に示す。なお、図6は、スラッジにより詰まりが生じている位置を打撃して、診断対象ピーク周波数F´として3600Hzが得られ、(F´/F0)=(3600/4637)≒0.77であることを示す。そして、図7は、数値解析シミュレーションにより予め作成された閉塞率(%)と(F´/F0)との関係を示す図である。
【0061】
図7を参照することにより、図6で得られた(F´/F0)≒0.77に対応する閉塞率が、約20%であることが分かる。
【0062】
このように、数値解析シミュレーションなどを用いて、配管内における閉塞率と(F´/F0)との関係を予め作成して、評価基準として設定することにより、実測値から詰まり状態を定量的に推定、評価することができる。
【0063】
しかしながら、この配管内における閉塞率と(F´/F0)との関係は、配管の外径や肉厚、想定されるスラッジの成分や物性(ヤング率や密度など)によって変動するため、診断対象となる配管の諸仕様や、想定されるスラッジの成分や物性などに関する情報の提供を事前に受けて、適切な評価基準を設定する必要がある。
【0064】
例えば、同じ25%の閉塞率の配管であっても、肉厚や外径が異なると、図8図9に示すように、(F´/F0)との関係が変化する。なお、図8は配管肉厚(mm)と(F´/F0)との関係を示す図、図9は配管外径(mm)と(F´/F0)との関係を示す図である。
【0065】
これらパラメータの変化が(F´/F0)に及ぼす影響をまとめると、表1のように表すことができ、パラメータの変化に対応して、閉塞率(%)と(F´/F0)との関係を図10に示すように、適宜、変動させることにより、複数の配管肉厚、複数の配管外径に対応する評価基準が作成でき、より効率多岐な診断が可能となる。
【0066】
【表1】
【実施例0067】
以下、実施例に基づき、本発明をさらに具体的に説明する。
【0068】
1.実施例1
FEMシミュレーションを用いて打音検査によるピーク周波数と配管の閉塞率の関係を求めた。診断対象は、図11に示す3mの中央部50cmの領域で赤さび(Fe)が固着している部分とした。
【0069】
配管は、外径φ48.6mm、内径φ41.6mmとした。スラッジ(赤さび)は長さ500mmであり、配管内壁の周方向に均一に堆積しているものとした。配管のFEMシミュレーションモデルの概要を表2に示す。また、取得したピーク周波数と配管の閉塞率との関係を図12に示す。
【0070】
【表2】
【0071】
図12より、閉塞率(%)が大きくなるに従ってピーク周波数(Hz)が低下しており、ピーク周波数(Hz)と閉塞率(%)とは、一定の関係にあり、配管やスラッジの諸特性を適切に設定して、ピーク周波数を求めることにより、高い精度で、閉塞率の推測が可能であることが確認された。
【0072】
2.実施例2
FEMシミュレーションを用いて打音検査によるピーク周波数に対するスラッジの弾性係数の大きさ及び密度の大きさの影響を調べた。
【0073】
配管の寸法及び物性値は、実施例1と同じとした。また、スラッジの長さ、外径は、実施例1と同じとし、内径はΦ31.2mm(閉塞率50%に相当)とした。その他の解析条件を表3に示す。得られたピーク周波数(Hz)とスラッジの弾性係数(MPa)との関係を図13に、また、ピーク周波数(Hz)とスラッジの密度(ton/mm)との関係を図14に示す。
【0074】
【表3】
【0075】
図13より、スラッジの弾性係数の低下に伴って、ピーク周波数が低周波数側にシフトすることが確認できた。なお、スラッジの弾性係数が10MPa(ゴムと同程度)以下にまで低下すると、スラッジの影響が殆どなくなり、健全状態(閉塞率0%)に近い周波数に戻っている。
【0076】
そして、図14より、スラッジの密度の低下に伴って、ピーク周波数が高周波数側にシフトすることが確認できた。なお、スラッジの密度が400kg/mm(木材と同程度)以下にまで低下すると、スラッジの影響が殆どなくなり、健全状態(閉塞率0%)に近い周波数に戻っている。
【0077】
3.実施例3
FEMシミュレーションを用いて打音検査によるピーク周波数に対する計測点(センサ)の位置および打撃位置の影響を調べた。
【0078】
具体的には、計測点の位置を配管の軸方向に沿って移動させた。また、計測の位置と打撃位値との軸方向における間隔を50mmとし、計測点の位置の移動に伴って打撃位置を軸方向に移動させた。配管のFEMシミュレーションモデルは実施例1と同じとした。また、スラッジ部の閉塞率を50%とした。
【0079】
図15にスラッジ部の位置と計測点の位置および打撃位置の関係を、図16に各計測点の位置および打撃位置におけるピーク周波数を示す。
【0080】
図16より、計測点の位置と打撃位置が共にスラッジ外に位置する場合には、計測点の位置と打撃位置を移動させても、一定の高いピーク周波数が取得されること、計測点の位置および打撃位置が共にスラッジ部に位置する場合には、ピーク周波数が低周波数側に大きくシフトすることが確認できた。
【0081】
また、計測点の位置がスラッジ外で打撃位置がスラッジ上の場合、計測点の位置がスラッジ部とスラッジ外の境界にある場合は中間のピーク周波数が取得され、これらのうち、計測点の位置がスラッジ部とスラッジ外の境界にあり、打撃位置がスラッジ上の場合、ピーク周波数の低周波数側へのシフトの大きさがより大きいことが確認できた。
【0082】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16