(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134341
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】プレスフィット端子
(51)【国際特許分類】
H01R 12/58 20110101AFI20240926BHJP
【FI】
H01R12/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044594
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】弁理士法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山中 拓哉
【テーマコード(参考)】
5E223
【Fターム(参考)】
5E223AB17
5E223AC12
5E223AC21
5E223BA27
5E223BB12
5E223CB24
5E223CB64
5E223CD01
5E223CD15
5E223DA08
5E223DB13
(57)【要約】
【課題】スルーホールとの干渉・接触を抑制しながら、スルーホールへの挿入時の変形によって生じる応力を分散させることができるプレスフィット端子を提供する。
【解決手段】
前端に位置する先端部10と、前記先端部10よりも後方に位置する基部20と、開口部40を介して互いに対向して配置され、前記先端部10および前記基部20の間に位置して両者を連結するとともに、幅方向外側に向けて張り出した1対の弾性接触片30と、を備え、前記先端部10と前記弾性接触片30との境界部を含む領域に、応力分散部50が設けられており、前記応力分散部50は、前記境界部よりも前方側に、幅方向外側の側縁1aが幅方向内側に入り込んだ、外側狭窄部を有するとともに、前記境界部よりも後方側に、前記開口部40の周縁41が幅方向外側に張り出した内側狭窄部を有する、プレスフィット端子1とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回路基板に設けられたスルーホール内に挿入されるプレスフィット端子であって、
前記スルーホールに対する前記プレスフィット端子の挿入方向を前方、その反対の方向を後方とし、前記挿入方向に直交する方向を幅方向として、
前記プレスフィット端子は、
前端に位置する先端部と、
前記先端部よりも後方に位置する基部と、
開口部を介して互いに対向して配置され、前記先端部および前記基部の間に位置して両者を連結するとともに、幅方向外側に向けて張り出した1対の弾性接触片と、を備え、
前記先端部と前記弾性接触片との境界部を含む領域に、応力分散部が設けられており、
前記応力分散部は、
前記境界部よりも前方側に、前記プレスフィット端子の幅方向外側の側縁が幅方向内側に入り込んだ、外側狭窄部を有するとともに、
前記境界部よりも後方側に、前記開口部の周縁が幅方向外側に張り出した内側狭窄部を有する、プレスフィット端子。
【請求項2】
前記外側狭窄部において、前記側縁が最も幅方向内側に入り込んだ底部と、前記内側狭窄部において前記周縁が最も幅方向外側に張り出した頂部との間で、前後方向に沿った距離が、1対の前記弾性接触片の張り出し幅の50%以内に収まっている、請求項1に記載のプレスフィット端子。
【請求項3】
前記プレスフィット端子を、1対の前記弾性接触片の張り出し幅よりも小さい内径を有するスルーホールに挿入した状態において、
前記弾性接触片の変形により生じる応力が、前記弾性接触片の前後方向中央よりも前方の領域の中で最大になる位置が、前後方向に沿って前記外側狭窄部と前記内側狭窄部の間に存在する、請求項1または請求項2に記載のプレスフィット端子。
【請求項4】
前記内側狭窄部において、前記周縁は、円弧形状をとって、幅方向外側に張り出している、請求項1または請求項2に記載のプレスフィット端子。
【請求項5】
前記応力分散部は、前記側縁が幅方向外側に突出した凸部を有さない、請求項1または請求項2に記載のプレスフィット端子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プレスフィット端子に関する。
【背景技術】
【0002】
回路基板に形成された電子回路に対して、回路基板の外部の部材との間に電気接続を形成するのに、プレスフィット端子が用いられる。プレスフィット端子は、回路基板に設けられたスルーホールに挿入されるタブ状の接続端子であり、弾性変形可能な弾性接触片を有している。プレスフィット端子をスルーホールに圧入すると、弾性接触片がスルーホールの内壁面に対して弾性的に接触し、スルーホールと導通接続される。
【0003】
プレスフィット端子においては、温度や振動による影響に対して接続信頼性を保証するため、また振動等の外力によってプレスフィット端子が回路基板から離脱するのを防止するために、保持力、つまりスルーホールからのプレスフィット端子の引き抜きに要する力を、十分に大きく確保することが求められる。一方で、プレスフィット端子をスルーホールに圧入する際に、スルーホールの開口縁部等の箇所に、プレスフィット端子から大きな荷重が印加されることで、回路基板に負荷が生じる場合がある。また、スルーホールへのプレスフィット端子の挿入に伴う弾性接触片の変形によって、プレスフィット端子のひずみが大きくなるおそれがある。
【0004】
特許文献1,2では、高保持力の確保と、プレスフィット端子のスルーホールへの圧入時に基板に印加される負荷の低減とを両立する観点から、プレスフィット端子の設計がなされている。一方、特許文献3では、スルーホールに挿入したプレスフィット端子において、弾性接触片の変形に伴って生じる応力を分散させる観点から、プレスフィット端子の設計がなされている。特許文献3では、ここで
図7に示しているように、先端部91と基部92の間に弾性接触片93が設けられたプレスフィット端子9’の構造において、先端部91と弾性接触片93との境界部を含む領域、および基部92と弾性接触片93との境界部を含む領域の少なくとも一方に、弾性接触片93の張り出し方向と同方向に突出する応力分散部95を設けることで、応力の分散を図っている。その結果として、プレスフィット端子における大きなひずみの発生を抑制できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-127610号公報
【特許文献2】国際公開第2008/038331号
【特許文献3】特開2018-63937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、電気・電子機器の小型化や電子回路の高集積化に伴い、回路基板に形成されるスルーホールも小径化している。一方で、スルーホールの小径化に合わせて、スルーホールに挿入するプレスフィット端子を幅の狭い形状に設計するのには、限界がある。上にも述べたとおり、スルーホールに挿入したプレスフィット端子の保持力を確保するために、プレスフィット端子からスルーホールの内壁面に対して十分に大きな接触荷重を印加することを要するが、そのためには、弾性接触片にある程度の幅を持たせ、弾性変形による復元力を確保する必要があるからである。また、幅の狭すぎるプレスフィット端子をプレス加工によって製造するのは困難だからである。このように、プレスフィット端子を幅の狭い形状とするのに限界がある中で、スルーホールを小径化すると、スルーホールの径に対する相対的なプレスフィット端子の幅が大きくなってしまう。
【0007】
図7に示した特許文献3の形態のように、弾性接触片93と先端部91との境界部を含む領域に突出形状の応力分散部95を設けることで、弾性接触片93の変形に伴って発生する応力を分散させることができるが、応力分散部95が突出形状を有することで、スルーホールにプレスフィット端子9’を挿入する際に、開口縁部をはじめとして、スルーホールの各部と、応力分散部95が干渉や接触を起こす可能性がある。特に、上記のように、スルーホールの径に対する相対的なプレスフィット端子9’の幅が大きくなっている状況では、スルーホールに対する応力分散部95の干渉や接触が起こりやすくなる。すると、スルーホールへのプレスフィット端子の挿入が行いにくくなる。また、プレスフィット端子の挿入に要する力(挿入力)も大きくなってしまう。このように、突出形状の応力分散部をプレスフィット端子に形成する場合に、応力分散部による応力の分散と、スルーホールとの間の干渉・接触の回避とを両立しながら、プレスフィット端子の幅を小さくすることは困難である。
【0008】
そこで、スルーホールとの干渉・接触を抑制しながら、スルーホールへの挿入時の変形によって生じる応力を分散させることができるプレスフィット端子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示のプレスフィット端子は、回路基板に設けられたスルーホール内に挿入されるプレスフィット端子であって、前記スルーホールに対する前記プレスフィット端子の挿入方向を前方、その反対の方向を後方とし、前記挿入方向に直交する方向を幅方向として、前記プレスフィット端子は、前端に位置する先端部と、前記先端部よりも後方に位置する基部と、開口部を介して互いに対向して配置され、前記先端部および前記基部の間に位置して両者を連結するとともに、幅方向外側に向けて張り出した1対の弾性接触片と、を備え、前記先端部と前記弾性接触片との境界部を含む領域に、応力分散部が設けられており、前記応力分散部は、前記境界部よりも前方側に、前記プレスフィット端子の幅方向外側の側縁が幅方向内側に入り込んだ、外側狭窄部を有するとともに、前記境界部よりも後方側に、前記開口部の周縁が幅方向外側に張り出した内側狭窄部を有する。
【発明の効果】
【0010】
本開示にかかるプレスフィット端子によれば、スルーホールとの干渉・接触を抑制しながら、スルーホールへの挿入時の変形によって生じる応力を分散させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態にかかるプレスフィット端子を示す平面図である。
【
図2】
図2は、上記プレスフィット端子の応力分散部を示す拡大図である。
【
図3】
図3は、上記プレスフィット端子を回路基板のスルーホールに挿入する過程を示す平断面図である。
【
図4】
図4は、上記プレスフィット端子を回路基板のスルーホールに挿入した状態を示す平断面図である。
【
図5】
図5は、変形形態にかかるプレスフィット端子を示す平面図である。
【
図6】
図6は、応力分散部を有さない従来一般のプレスフィット端子を示す平面図である。
【
図7】
図7は、凸部のみより構成される応力分散部を有するプレスフィット端子を示す平面図である。
【
図8】
図8は、2種のプレスフィット端子について、スルーホール挿入前の端子形状、スルーホールに挿入した状態におけるひずみ分布、発生ひずみの大きさを示す。端子Aは応力分散部を有さない端子、端子Bは外側狭窄部と内側狭窄部を備えた応力分散部を有する端子である。ひずみ分布については、それぞれ、主図は平面図を示し、枠内の図は外側縁の箇所の拡大図を示している。発生ひずみは、ひずみ分布におけるひずみの最大値を、端子Aの場合を100%として表示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本開示の実施形態の説明]
最初に、本開示の実施態様を説明する。
[1]本開示のプレスフィット端子は、回路基板に設けられたスルーホール内に挿入されるプレスフィット端子であって、前記スルーホールに対する前記プレスフィット端子の挿入方向を前方、その反対の方向を後方とし、前記挿入方向に直交する方向を幅方向として、前記プレスフィット端子は、前端に位置する先端部と、前記先端部よりも後方に位置する基部と、開口部を介して互いに対向して配置され、前記先端部および前記基部の間に位置して両者を連結するとともに、幅方向外側に向けて張り出した1対の弾性接触片と、を備え、前記先端部と前記弾性接触片との境界部を含む領域に、応力分散部が設けられており、前記応力分散部は、前記境界部よりも前方側に、前記プレスフィット端子の幅方向外側の側縁が幅方向内側に入り込んだ、外側狭窄部を有するとともに、前記境界部よりも後方側に、前記開口部の周縁が幅方向外側に張り出した内側狭窄部を有する。
【0013】
上記のプレスフィット端子は、先端部と弾性接触片との境界部を含む領域に、応力分散部を有しており、その応力分散部は、境界部よりも前方側に、プレスフィット端子の幅方向外側の側縁が幅方向内側に入り込んだ外側狭窄部を有するとともに、境界部よりも後方側に、開口部の周縁が幅方向外側に張り出した内側狭窄部を有する。プレスフィット端子を回路基板のスルーホールに圧入して弾性接触片を変形させた際に、プレスフィット端子において、弾性接触片およびその近傍には応力が生じるが、各弾性接触片等、金属材料が連続している領域の幅が広くなっている箇所ほど、生じる応力が小さくなる。逆に、金属材料が連続している領域の幅を狭くすると、狭くした箇所に応力が分布しやすくなる。プレスフィット端子において、先端部と弾性接触片との境界部は、スルーホールに圧入する際に応力が集中しやすい箇所であるが、この境界部の前方側および後方側にそれぞれ、外側狭窄部および内側狭窄部を設け、それらの狭窄部の位置でプレスフィット端子の幅をあえて狭くすることで、応力が上記境界部ばかりに集中せず、前後方向に沿って広い領域に分布するようになる。このように弾性接触片の変形に伴う応力を前後方向に沿って広い範囲に分散させることで、境界部への応力の集中を緩和することができる。生じる応力が小さくなると、プレスフィット端子の構成材料に印加される力学的な負荷が軽減され、大きなひずみが生じにくくなる。
【0014】
応力分散部において、内部狭窄部は弾性接触片の内側に設けられており、プレスフィット端子をスルーホールに挿入する際に、スルーホールに対して干渉や接触を起こすものではない。外側狭窄部も、弾性接触片の外側の側縁が内側に入り込んだ凹構造として設けられるため、プレスフィット端子の挿入時に、開口縁部をはじめとして、スルーホールの各部に対して、干渉や接触を起こすものとはなりにくい。このように、外側狭窄部および内側狭窄部を含んだ応力分散部を設けることで、スルーホールとの干渉・接触を抑制しながら、スルーホールへの挿入時の変形によって生じる応力を分散させることが可能となる。なお、内側狭窄部の代わりに、先端部と弾性接触片との境界部よりも後方側に、外側狭窄部と同様に、プレスフィット端子の幅方向外側の側縁が幅方向内側に入り込んだ凹構造を設けても、応力分散の効果が得られるが、その凹構造は、弾性接触片の張り出し形状によって、外部狭窄部よりも幅方向外側の位置に設けられることになるため、プレスフィット端子をスルーホールに挿入する際に、その凹構造の端縁がスルーホールの開口縁部に衝突や引っ掛かりを起こす可能性を排除できない。本開示のプレスフィット端子は、そのように外側の側縁の比較的後方の位置に凹構造を設けるのではなく、比較的前方の位置に外側狭窄部を設けるとともに、弾性接触片の内側に内側狭窄部を設けていることにより、凹構造の端縁における衝突や引っ掛かりを含め、スルーホールとの干渉・接触を効果的に抑制することができる。
【0015】
[2]上記[1]の態様において、前記外側狭窄部において、前記側縁が最も幅方向内側に入り込んだ底部と、前記内側狭窄部において前記周縁が最も幅方向外側に張り出した頂部との間で、前後方向に沿った距離が、1対の前記弾性接触片の張り出し幅の50%以内に収まっているとよい。この場合には、外側狭窄部および内側狭窄部によって、金属材料が連続している領域の幅が狭められる箇所が、プレスフィット端子をスルーホールに挿入する際に応力が集中しやすい位置である先端部と弾性接触片との境界部に十分に近い位置に設けられることになる。そのため、2つの狭窄部による応力分散の効果が高く得られ、先端部と弾性接触片との境界部への応力の集中を効果的に緩和することができる。
【0016】
[3]上記[1]または[2]の態様において、前記プレスフィット端子を、1対の前記弾性接触片の張り出し幅よりも小さい内径を有するスルーホールに挿入した状態において、前記弾性接触片の変形により生じる応力が、前記弾性接触片の前後方向中央よりも前方の領域の中で最大になる位置が、前後方向に沿って前記外側狭窄部と前記内側狭窄部の間に存在するとよい。この場合には、スルーホールへのプレスフィット端子の挿入時に、外側狭窄部および内側狭窄部による応力分散の効果が特に高く得られる。
【0017】
[4]上記[1]から[3]のいずれか1つの態様で、前記内側狭窄部において、前記周縁は、円弧形状をとって、幅方向外側に張り出しているとよい。すると、開口部の周縁が、内部狭窄部が設けられた箇所を含めて、滑らかに連続した形状を有するものとなる。
【0018】
[5]上記[1]から[4]のいずれか1つの態様において、前記応力分散部は、前記側縁が幅方向外側に突出した凸部を有さないものであるとよい。プレスフィット端子の幅方向外側の端縁に突出構造が設けられないことで、プレスフィット端子をスルーホールに挿入する際に、スルーホールの各部との干渉および接触が、特に起こりにくくなる。
【0019】
[本開示の実施形態の詳細]
以下に、本開示の実施形態にかかるプレスフィット端子ついて、図面を用いて詳細に説明する。本明細書において、対称、同一、直線状、円弧形状等、形状や配置に関する語には、幾何的に厳密な概念のみならず、接続端子において通常許容される範囲の誤差を有する形態も含むものとする。誤差の範囲は、例えば、長さおよび角度にして±10%程度である。
【0020】
<プレスフィット端子の構造の概略>
図1に、本開示の一実施形態にかかるプレスフィット端子1の構造を示す。プレスフィット端子1は、金属の板材を打ち抜いて形成されており、全体として細長い形状を有している。プレスフィット端子1を構成する金属の種類は特に限定されるものではないが、導電性等の観点から、銅または銅合金の板材、あるいはその表面にスズ層等の金属層を形成した板材を好適に用いることができる。
【0021】
プレスフィット端子1は、一端に、端子部として、
図1に示す構造を有しており、
図3,4に示すように、回路基板Bに設けられたスルーホールHに挿入可能となっている。また、プレスフィット端子1において、端子部が形成されているのと反対側の端部には、他の接続端子等、外部の電気接続部材に接続可能な接続部が設けられている(不図示)。以降、プレスフィット端子1の端子部をスルーホールHに挿入する挿入方向(図の下方)を前方とし、その反対の方向(図の上方)を後方とする。また挿入方向に直交する方向(図の横方向)を幅方向とする。そして、挿入方向(前後方向)に沿った中心軸の方へ、幅方向に沿って向かう方向を幅方向内側、その反対の方向を幅方向外側とする。
【0022】
プレスフィット端子1の端子部は、ニードルアイ型のプレスフィット端子として構成されており、前端に位置する先端部10と、先端部10よりも後方に位置する基部20と、先端部10および基部20の間に位置する1対の弾性接触片30を一体に有している。先端部10、基部20、1対の弾性接触片30よりなる端子部は、全体が同一の板厚を有しており、同一の面内に形成されている。また、端子部は、上記のように、板材を打ち抜いて形成されており、表裏の面と側面の間の接合箇所を除き、厚み方向(図の奥行方向)の各位置で、同一の断面形状を有している。
【0023】
先端部10は、回路基板BのスルーホールHへのプレスフィット端子1の挿入を案内する部位である。図示した形態においては、先端部10は、弾性接触片30の前端から前方に向かって直線状に延びた姿勢ガイド部11と、姿勢ガイド部11の前端から前方に向けて漸次先細り形状となった位置ガイド部12とを備えている。姿勢ガイド部11は、スルーホールHの軸に対してプレスフィット端子1の姿勢をまっすぐに誘導する役割を果たし、位置ガイド部12は、スルーホールHの中心位置にプレスフィット端子1の先端を誘導する役割を果たす(
図3参照)。基部20は、先端部10から後方に離れた位置に設けられ、前後方向に沿って直線状に延びている。
【0024】
弾性接触片30は、先端部10と基部20の間に1対設けられており、先端部10と基部20を連結するとともに、幅方向外側に向けて張り出している。1対の弾性接触片30は、前後方向に沿ったプレスフィット端子1の中心軸に対して、相互に対称な形状を有している。図示した形態においては、各弾性接触片30は、第一傾斜部31、接触部32、第二傾斜部33を、前方から後方へとこの順に、一体に連続させて有している。第一傾斜部31は、前方から後方に向けて徐々に幅方向外側に張り出した形状を有している。接触部32は、前後方向に沿って直線状に延びた部位である。第二傾斜部33は、前方から後方に向けて徐々に幅方向内側に向かう形状を有している。
【0025】
1対の弾性接触片30の間には、前後方向に延びる長孔状の開口部40が設けられている。つまり、1対の弾性接触片30は、開口部40を介して、幅方向に、互いに対向して配置されている。図示した形態においては、開口部40の周縁41が、1対の弾性接触片30の幅方向外側の側縁(外側縁)1aの形状に沿った形状に形成されており、各弾性接触片30は、前後方向に沿って、幅寸法が略同一となっている(後に説明する応力分散部50の箇所を除く)。
【0026】
プレスフィット端子1において、先端部10と弾性接触片30との境界部を含む領域には、応力分散部50が設けられている。応力分散部50は、プレスフィット端子1の外側縁1aおよび開口部40の周縁41に所定の形状の構造が形成された部位として設けられている。ここで、先端部10と弾性接触片30の間の境界部とは、先端部10の後端から1対の弾性接触片30が分岐して幅方向外側に張り出す分岐箇所を指し、おおむね、弾性接触片30の張り出し形状に沿って、開口部40の前端に対応する位置を指す。応力分散部50の詳細な構造については、後に説明する。
【0027】
プレスフィット端子1をスルーホールHに挿入していない自然状態において、弾性接触片30の張り出し幅L、つまり1対の弾性接触片30の接触部32における外側縁1aの間の幅方向に沿った距離が、プレスフィット端子1を挿入するスルーホールHの内径L0(内径が分布を有する場合には最大径;以下においても同様)よりも大きくってなっており、プレスフィット端子1をスルーホールHに挿入する際には、圧入を要する。プレスフィット端子1をスルーホールHに圧入すると、
図4に示すように、1対の弾性接触片30が、相互に近接するように幅方向内側に押し縮められ、変形する。そして、弾性接触片がスルーホールHの内壁面H2と弾性的に接触した状態で、プレスフィット端子1がスルーホールHと導通接続される。プレスフィット端子1の圧入に伴う弾性接触片30の変形により、弾性接触片30と先端部10との境界部およびその近傍に、引張応力が印加され、ひずみが生じる。この応力およびひずみが最大になる点が、おおむね、弾性接触片30と先端部10との境界部に対応する。次に詳しく説明するとおり、当該境界部を含む領域に応力分散部50が設けられていることにより、プレスフィット端子1をスルーホールHに挿入する際の応力が分散される。
【0028】
<応力分散部の詳細>
上記のとおり、本実施形態にかかるプレスフィット端子1においては、先端部10と弾性接触片30との境界部を含む領域に、応力分散部50が設けられている。
図2に応力分散部50の近傍の拡大図を示す。応力分散部50は、プレスフィット端子1の外側縁1aおよび開口部40の周縁41にそれぞれ凹構造を設けた部位として構成されており、前方から後方に向かって順に、外側狭窄部51と内側狭窄部52を有している。
【0029】
図2に示すとおり、応力分散部50のうち前方側に位置する外側狭窄部51は、プレスフィット端子1において、外側縁1aが幅方向内側に入り込んだ(退避した、落ち込んだ)凹構造として構成されている。詳細には、外側狭窄部51においては、底部(最も幅方向内側に入った箇所)を挟んで前方側で、プレスフィット端子1の外側縁1aが、それよりも前方の部位に比べて急な角度で、前方側から後方側に向かって内側に入り込んでいる。また、底部を挟んで後方側で、それよりも後方の部位に比べて急な角度で、外側縁1aが後方側から前方側に向かって内側に入り込んでいる。外側狭窄部51の傾斜は、曲線状であっても直線状であってもよいが、前後方向両側において、それぞれ先端部10および弾性接触片30の外側縁1aと滑らかに連続していることが好ましい。
【0030】
外側狭窄部51は、プレスフィット端子1の先端部10と弾性接触片30の間の境界部よりも前方の位置に形成されている。つまり、少なくとも外側狭窄部51の底部、好ましくは外側狭窄部51の全域が、その境界部よりも前方に形成されている。上記のとおり、先端部10と弾性接触片30の間の境界部は、おおむね、弾性接触片30の張り出し形状に沿って、開口部40の前端部に対応する位置を有するので、外側狭窄部51は、開口部40の少し前方の位置に少なくとも底部が位置するように、形成されていればよいことになる。
【0031】
応力分散部50のうち後方側に位置する内側狭窄部52は、プレスフィット端子1において、開口部40の周縁41が幅方向外側に張り出した(突出した、膨出した)構造として構成されている。換言すると、内側狭窄部52は、各弾性接触片30の開口部40に面する内側縁が、各弾性接触片30の幅の内側に入り込んだ凹構造として構成されている。詳細には、内側狭窄部52においては、頂部(最も幅方向外側に張り出した箇所)を挟んで前方側で、開口部40の周縁41が、それよりも前方の部位に比べて急な角度で、前方側から後方側に向かって外側に張り出している。また、頂部を挟んで後方側で、それよりも後方の部位に比べて急な角度で、開口部40の周縁41が後方側から前方側に向かって外側に張り出している。内側狭窄部52の傾斜は、曲線状であっても直線状であってもよいが、前方側および後方側において、開口部40の周縁41と滑らかに連続していることが好ましい。内側狭窄部52は、開口部40の周縁41が円弧形状をとって幅方向外側に張り出している形態が、特に好ましい。
【0032】
内側狭窄部52は、プレスフィット端子1の先端部10と弾性接触片30の間の境界部よりも後方の位置に形成されている。つまり、少なくとも内側狭窄部52の頂部、好ましくは内側狭窄部52の全域が、その境界部よりも後方に形成されている。上記のとおり、先端部10と弾性接触片30の間の境界部は、おおむね、弾性接触片30の張り出し形状に沿って、開口部40の前端部に対応する位置を有するので、内側狭窄部52は、開口部40の前端部の少し後方に形成されていればよい。
【0033】
本実施形態にかかるプレスフィット端子1をスルーホールHに挿入する際には、まず、
図3に示すように、先端部10によって、プレスフィット端子1が、スルーホールHの中心軸に沿ってまっすぐな姿勢で、スルーホールHの中央部に案内される。そして、弾性接触片30の第一傾斜部31がスルーホールHの開口縁部H1に当接する。
【0034】
ここで、
図7に示すプレスフィット端子9’のように、突出形状のみで構成された応力分散部95を有するとすれば、スルーホールHの内径L0が小さい場合には、その応力分散部95の突出形状の頂部が、スルーホールHの開口縁部H1に接触する可能性がある。あるいは、接触にまでは至らなくても、応力分散部95の突出形状とスルーホールHの間に干渉が生じる可能性がある。これら接触や干渉が生じると、さらなるプレスフィット端子9’の挿入を円滑に行えなくなる可能性や、挿入に大きな力を要するようになる可能性がある。しかし、本実施形態にかかるプレスフィット端子1においては、応力分散部50が、プレスフィット端子1の外側縁1aに設けられた構造としては、凹構造である外側狭窄部51を有しており、仮想外縁V(応力分散部50の前方および後方に隣接する箇所の外側縁1aを、それぞれ後方および前方へ外挿したもの)よりも幅方向外側に突出する凸構造を有していない。よって、そのような凸構造を有する場合とは異なり、応力分散部50は、仮想外縁Vによって外縁を模擬される、
図6に示したような応力分散部を有さないプレスフィット端子9と比較して、プレスフィット端子1をスルーホールHに挿入する際に、スルーホールHの各部との干渉・接触の可能性を高めるものとはならない。内側狭窄部52は、そもそも弾性接触片30の内側に形成されており、スルーホールHとの干渉・接触を起こすものではない。このように、本実施形態にかかるプレスフィット端子1の応力分散部50は、
図7に示される凸部よりなる応力分散部95と比較して、スルーホールHの内径L0が小さい場合であっても、スルーホールHの開口縁部H1に対して干渉や接触を起こしにくいものとなっている。よって、それら干渉や接触の影響を低減して、プレスフィット端子1の挿入を、円滑に、また小さい力で進めることができる。
【0035】
図3のように、弾性接触片30の第一傾斜部31がスルーホールHの開口縁部H1に当接した状態から、さらにプレスフィット端子1の挿入を進めると、弾性接触片30の外側縁1aがスルーホールHの開口縁部H1に押圧されることにより、弾性接触片30が幅方向内側に向かって徐々に撓みながらスルーホールHの内部に進入する。そして、
図4に示すとおり、弾性接触片30の接触部32が、スルーホールHの内壁面H2に押し付けられた状態となる。弾性接触片30は、変形を起こし、幅方向内側に押し縮められた状態となっている。
【0036】
このように、弾性接触片30が変形し、幅方向内側に押し縮められた状態では、弾性接触片30に応力が生じる。この際、プレスフィット端子1の挿入に従って最初に変形が開始する領域、つまり先端部10と弾性接触片30との境界部において、弾性接触片30が前後方向に引き伸ばされる力を受け、その境界部の外側縁1aの近傍の位置において、応力の集中が起こりやすい。応力の集中は、プレスフィット端子1を構成する金属材への過剰な負荷の印加につながり、大きなひずみを生じる可能性がある。
【0037】
図6に示す応力分散部が設けられていない従来一般のプレスフィット端子9においては、先端部91と弾性接触片93との境界部を含む領域において、応力の集中が起きやすい。しかし、外側狭窄部51および内側狭窄部52を含んだ応力分散部50を有する本実施形態にかかるプレスフィット端子1においては、応力が広い範囲に分散され、応力集中が緩和される。応力集中の緩和の機構としては、以下のようなものが考えられる。プレスフィット端子1においては、各弾性接触片30等、金属材料が連続している領域において、幅寸法が小さくなっている箇所ほど、大きな応力が発生しやすいが、先端部10と弾性接触片30の間の境界部の前後に、外側狭窄部51および内側狭窄部52を設けて、あえて幅寸法が小さくなった箇所を設けることで、その箇所に応力が分布しやすくなり、プレスフィット端子1の前後方向に沿って広い範囲にわたって、応力が分布することになる。これにより、前後方向に沿って、各位置の応力が小さくなる。つまり、前後方向に応力を広く分散させることで、先端部10と弾性接触片30の間の境界部の狭い領域への応力の集中を緩和することができる。その結果として、金属材への過剰な負荷の印加によってプレスフィット端子1に大きなひずみが生じるのを、抑制することができる。
【0038】
図8に、端子Aとして、
図6のような応力分散部を有さない従来一般のプレスフィット端子、および端子Bとして、
図1のような外側狭窄部と内側狭窄部を含む応力分散部を有するプレスフィット端子について、ひずみの分布を実際に解析した結果を示す。解析は、図の上段に示した形状を有する端子に対して、コンピュータ支援エンジニアリング(CAE)を用いた有限要素法による弾塑性解析によって行った。図中、中段のひずみ分布については、スルーホールに挿入したプレスフィット端子について、ひずみの分布をコンター図として表示しており、濃色で表示している箇所ほど、大きなひずみが生じていることを示す。主図は正面図であり、枠内に示しているのは外側縁の箇所の拡大図である。下段には、発生ひずみとして、上記ひずみ分布におけるひずみの最大値を、端子Aの場合を100%として表示している。
【0039】
得られたひずみ分布において、応力分散部を有さない端子Aの場合には、矢印A1で示すように、先端部と弾性接触片との境界部の箇所が、周囲の箇所に比べて顕著に濃色で表示されており、ひずみの集中が大きく生じている。一方で、応力分散部を有する端子Bの場合には、先端部と弾性接触片との境界部およびその近傍の領域の中に、顕著にひずみが集中した箇所は生じておらず、端子Aの場合と比べて、明らかに広い範囲にひずみが分布している。表示色の濃淡によって表されるひずみの最大値も小さくなっている。つまり、端子Aと比べて、各箇所で、ひずみが小さくなっていることが分かる。発生ひずみの定量評価の結果を見ても、端子Bにおいて、発生ひずみが、端子Aの89%に低減されている。ひずみの分布は、応力の分布と高い相関を示すものであり、端子Bの場合の方が、端子Aの場合よりも、各箇所に発生する応力が小さくなっており、応力集中が緩和されていることが分かる。このように、外側狭窄部と内側狭窄部を有する応力分散部をプレスフィット端子の先端部と弾性接触片との境界部を含む領域に形成することで、応力集中を緩和できることが、シミュレーションによっても確認される。
【0040】
以上に説明したとおり、プレスフィット端子1の先端部10と弾性接触片30との境界部を含む領域に、外側狭窄部51と内側狭窄部52を有する応力分散部50を形成することにより、開口縁部H1をはじめとするスルーホールHの各部に対する干渉・接触を抑制しながら、スルーホールHへの挿入時の変形によって生じる応力の集中を緩和させることができる。近年、スルーホールHが小径化される傾向があるが、プレスフィット端子1とスルーホールHの間で十分な保持力を確保する必要性から、スルーホールHの小径化に対して、比例的にプレスフィット端子1の幅を小さくすることは難しく、スルーホールHの内径L0に対する相対的なプレスフィット端子1の幅が大きくなってしまう。しかし、上記応力分散部50を備えた本実施形態にかかるプレスフィット端子1を用いれば、そのように相対的なプレスフィット端子1の幅を小さくできない状況でも、小径のスルーホールHに対するプレスフィット端子1の干渉や接触を起こりにくい状態に保ちながら、応力の集中を抑制することが可能となる。
【0041】
応力分散部50において、先端部10と弾性接触片30との境界部よりも後方に設ける構造として、内側狭窄部52の代わりに、外側狭窄部51と同様に、プレスフィット端子1の外側縁1aが内側に入り込んだ凹構造を設けることも考えられる(仮に外側後方狭窄部と称する)。その場合にも、外側後方狭窄部により、弾性接触片30の幅が狭くなった領域が生じることで、応力の集中を緩和する効果が得られる。しかし、その場合には、内径L0の小さいスルーホールHにプレスフィット端子1を挿入する際に、外側後方狭窄部の底部より後方側の端縁が、スルーホールHの開口縁部H1に、角度をなして接触し、衝突や引っ掛かりを起こしてしまう可能性が、低いながらも生じうる。一方で、本実施形態にかかるプレスフィット端子1においては、応力分散部50に、外側後方狭窄部ではなく、内側狭窄部52を設けており、そのような衝突や引っ掛かりが生じる可能性を排除することができる。なお、外側後方狭窄部について、そのような衝突や引っ掛かりの可能性が想定されるのは、外側後方狭窄部が設けられる箇所が、内側狭窄部52と同様の前後方向位置、つまり先端部10と弾性接触片30の間の境界部よりも後方の位置であり、弾性接触片30の張り出し形状により、ある程度幅方向外側の位置となるからである。これに対し、外側狭窄部51は、先端部10と弾性接触片30の間の境界部よりも前方の、外側縁1aが幅方向外側に大きくは張り出していない位置に設けられるため、同様の衝突や引っ掛かりを起こす可能性は、かなり低い。
【0042】
応力分散部50の具体的な形状および位置は、先端部10と弾性接触片30の間の境界部よりも前方側に外側狭窄部51が設けられ、その境界部よりも後方側に内側狭窄部52が設けられるかぎりにおいて、特に限定されるものではない。しかし、外側狭窄部51と内側狭窄部52が、先端部10と弾性接触片30の間の境界部を挟んで、ある程度近い位置に存在する方が、応力分散部50全体としての応力分散の効果を高めることができる。例えば、外側狭窄部51の底部と内側狭窄部52の頂部の間で、プレスフィット端子1の前後方向に沿った距離が、弾性接触片30の張り出し幅Lの50%以内、さらには25%以内に収まっていることが好ましい。ただし、外側狭窄部51と内側狭窄部52の距離が近すぎても、応力を前後方向に沿って広い範囲に分散させにくくなるので、外側狭窄部51と内側狭窄部52のそれぞれの全域において、前後方向位置が相互に重なっていないことが好ましい。また、スルーホールHにプレスフィット端子1を挿入した際に、弾性接触片30の変形によって生じるひずみが弾性接触片30の前後方向中央よりも前方の領域の中で最大になる位置(
図8中で矢印A1,A2の位置)が、前後方向に沿って、外側狭窄部51と内側狭窄部52の間にくるように、外側狭窄部51と内側狭窄部52の位置を設定すればよい。さらに好ましくは、外側狭窄部51の底部と内側狭窄部52の頂部の間で、プレスフィット端子1の前後方向に沿った距離が、そのひずみが最大になる位置を挟んで、弾性接触片30の張り出し幅Lの50%以内、さらには25%以内に収まるようにすればよい。
【0043】
また、応力分散部50は、外側狭窄部51および内側狭窄部52以外の構造を備えてもよい。例えば、外側狭窄部51と内側狭窄部52の間の前後方向位置、特に先端部10と弾性接触片30の間の境界部またはその近傍の位置に、プレスフィット端子1の外側縁1aが外側に突出した凸部を設けてもよい。凸部を設けることで、凸部の箇所で、金属材料が連続した領域の幅が広がり、幅方向に広い領域に応力が分散することにより、先端部10と弾性接触片30の間の境界部に応力が集中するのを緩和する効果が高くなる。この場合には、凹構造として形成された外側狭窄部51に隣接して凸部が設けられることになるため、
図7の形態のように、凸部が単独で応力分散部を構成する場合と比較して、凸部の突出高さ(凸部の基底部と頂部の距離)が同じであっても、プレスフィット端子1全体としての幅方向の外側に凸部が突出する量を、小さく抑えることができる。その結果として、
図7のように凸部が単独で応力分散部を構成する形態と比較すると、スルーホールHにプレスフィット端子1を挿入する際に、スルーホールHに対する干渉や接触が起こりにくくなる。しかし、スルーホールHに対する干渉・接触を極力小さく抑える観点からは、応力分散部50は、プレスフィット端子1の外側縁1aに、幅方向外側に突出する凸部は有さない方がよい。そのような凸部を設けなくても、
図8の端子Bのシミュレーション結果に示されるとおり、外側狭窄部51と内側狭窄部52のみで、十分に高い応力分散効果を得ることができる。なお、開口部40の周縁41において、先端部10と弾性接触片30の間の境界部またはその近傍に、弾性接触片30の幅を局所的に広げる凸構造、つまり開口部40の周縁41が幅方向内側に入り込んだ構造を設けて、応力分散効果を高めることも考えられる。しかし、そのような凸構造を設けるとすれば、開口部40の周縁41のうち前後方向またはそれに近い方向に延びる箇所において、内側狭窄部52よりも前方に設けることになり、
図2の構造に示されるように、そのような凸構造を設ける空間的余裕を確保することは現実的に難しい。構造の簡素性の観点からも、応力分散部50は、応力分散のための構造として、外側狭窄部51と内側狭窄部52のみを有する形態が、最も好ましい。
【0044】
<その他の形態>
本開示のプレスフィット端子は、上記で詳細に説明したプレスフィット端子1の形態に限られるものではなく、先端部と弾性接触片との境界部を含む領域に、上記のとおり、外側狭窄部51と内側狭窄部52を有する応力分散部50が設けられてさえいればよい。
【0045】
例えば、プレスフィット端子の全体形状は、
図1に示したものに限られない。全体形状が異なる変形形態にかかるプレスフィット端子の一例を、
図5に示す。
図5のプレスフィット端子1’においては、弾性接触片30’の形状が
図1のものと異なっている。ここでは、弾性接触片30’が前後方向に延びた平坦な接触部32を有しておらず、前後方向の中央にあたる頂部35において、最も幅方向外側に張り出した形状を有している。また、先端部10’が、
図1の形態の姿勢ガイド部11に対応する直線状の部分を有しておらず、単純な先細り形状に形成されている。この場合にも、先端部10’と弾性接触片30’との境界部(おおむね、弾性接触片30’の張り出し形状に沿って、開口部40の前端に対応する位置)の前方側に外側狭窄部51を有し、かつその境界部よりも後方側に内側狭窄部52を有する応力分散部50が設けられる。ここに説明した以外の各要素の構成は、上記で説明した
図1の実施形態と同様であり、対応する要素を図中に対応する番号で表示している。
【0046】
また、
図1,5の形態では、応力分散部50を、先端部10(または10’;以下同)と弾性接触片30(または30’;以下同)との境界部を含む領域にのみ設けているが、合わせて、基部20と弾性接触片30との境界部を含む領域にも、応力分散部を設けてもよい。
図8のひずみ分布によると、端子Aの基部と弾性接触片との境界部およびその近傍の位置でもひずみの集中が起こっているが、基部20と弾性接触片30との境界部を含む領域に応力分散部を設けることで、そのような弾性接触片30の後方側での応力集中を、弾性接触片30の前方側での応力集中と合わせて緩和することができる。弾性接触片30の後方側に設ける応力分散部としては、特許文献3に開示されているような突出構造よりなるもの等、どのような形態のものであってもよいが、上記で説明したプレスフィット端子1で弾性接触片30の前方側に設けている応力分散部50と同様に、外側狭窄部と内側狭窄部を有するもののとすることが好ましい。その場合に、後方側に設ける応力分散部は、前方側の応力分散部50を前後方向に反転させた形状を有するものとすればよい。つまり、後方側の応力分散部を、基部20と弾性接触片30との境界部(おおむね、弾性接触片30の張り出し形状に沿って、開口部40の後端に対応する位置)よりも後方側に、外側縁1aが幅方向内側に入り込んだ外側狭窄部を有するとともに、その境界部よりも前方側に、開口部40の周縁41が幅方向外側に張り出した内側狭窄部を有するものとすればよい。
【0047】
さらに、上記では、プレスフィット端子として、ニードルアイ型のものを用いたが、それに限られず、例えば、S型、N型、H型、M型、船型等の種々のプレスフィット形状を適用することもできる。
【0048】
以上、本開示の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0049】
1,1’9,9’ プレスフィット端子
1a,9a,9’a 外側縁
10,10’ 先端部
20,92 基部
30,30’,93 弾性接触片
31 第一傾斜部
32 接触部
33 第二傾斜部
35 弾性接触片の頂部
40,94 開口部
41 開口部の周縁
50,95 応力分散部
51 外側狭窄部
52 内側狭窄部
B 回路基板
H スルーホール
H1 開口縁部
H2 内壁面
L 弾性接触片の張り出し幅
L0 スルーホールの内径
V 仮想外縁