(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134352
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】合成地下外壁
(51)【国際特許分類】
E02D 5/20 20060101AFI20240926BHJP
【FI】
E02D5/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044610
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(71)【出願人】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(71)【出願人】
【識別番号】000172813
【氏名又は名称】佐藤工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000195971
【氏名又は名称】西松建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】岸 俊甫
(72)【発明者】
【氏名】森 清隆
(72)【発明者】
【氏名】野原 悟
(72)【発明者】
【氏名】浦川 和也
(72)【発明者】
【氏名】新井 寿昭
(72)【発明者】
【氏名】高橋 直樹
(72)【発明者】
【氏名】山谷 裕介
(72)【発明者】
【氏名】高岡 雄二
【テーマコード(参考)】
2D049
【Fターム(参考)】
2D049EA09
2D049GB01
2D049GB05
2D049GF01
(57)【要約】
【課題】山留め壁の芯材の施工の際に施工誤差がある場合や芯材が撓んだ場合でも、芯材と地下外壁が十分な接合強度にて接合されている合成地下外壁を提供すること。
【解決手段】山留め壁30を形成する鋼製の芯材10に固定されている軸状の接合部材60が、建物を形成する鉄筋コンクリート製の地下外壁40に埋設されて、芯材10と地下外壁40が接合されることにより構成される、合成地下外壁100であり、平面視において、U字形の補強筋70がその一部を接合部材60に交差させ、その開口73を地下外壁40に対向するようにして配設され、地下外壁40に定着されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
山留め壁を形成する鋼製の芯材に固定されている軸状の接合部材が、建物を形成する鉄筋コンクリート製の地下外壁に埋設されて、前記芯材と前記地下外壁が接合されることにより構成される、合成地下外壁であって、
平面視において、U字形の補強筋がその一部を前記接合部材に交差させ、その開口を前記地下外壁に対向するようにして配設され、前記地下外壁に定着されていることを特徴とする、合成地下外壁。
【請求項2】
前記補強筋の2つの直線部がそれぞれ、その途中で外側へ折れ曲がっていることを特徴とする、請求項1に記載の合成地下外壁。
【請求項3】
平面視において、複数の前記接合部材が間隔を置いて併設しており、
平面視において、1つの前記補強筋が全ての前記接合部材に交差していることを特徴とする、請求項1に記載の合成地下外壁。
【請求項4】
平面視において、複数の前記接合部材が間隔を置いて併設しており、
平面視において、それぞれの前記接合部材に対して固有の前記補強筋が交差していることを特徴とする、請求項1に記載の合成地下外壁。
【請求項5】
前記芯材に対して、縦方向に間隔をおいて複数段の前記接合部材が固定されており、
各段の前記接合部材に対応する前記補強筋が配設されていることを特徴とする、請求項1に記載の合成地下外壁。
【請求項6】
前記芯材に対して、縦方向に間隔をおいて複数段の前記接合部材が固定されており、
複数段の前記接合部材に対して1つの前記補強筋が配設されていることを特徴とする、請求項1に記載の合成地下外壁。
【請求項7】
前記芯材に対して、縦方向に間隔をおいて複数段の前記接合部材が固定されており、
最上段の前記接合部材の上方位置と、最下段の前記接合部材の下方位置と、各段の前記接合部材の間の位置のそれぞれに、前記補強筋が配設されていることを特徴とする、請求項1に記載の合成地下外壁。
【請求項8】
前記接合部材が頭付きスタッドであり、
前記補強筋が鉄筋であることを特徴とする、請求項1に記載の合成地下外壁。
【請求項9】
前記補強筋が、前記地下外壁を形成する壁筋の一部に位置決め用に仮固定されていることを特徴とする、請求項1に記載の合成地下外壁。
【請求項10】
前記芯材に鉛直荷重が作用した際に前記地下外壁に生じることが想定される、平面視における複数の仮想割裂線を通るように前記補強筋が配設されていることを特徴とする、請求項1に記載の合成地下外壁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成地下外壁に関する。
【背景技術】
【0002】
地下構造物の施工においては、その施工エリアの周辺に仮設構造物である山留め壁を施工し、山留め壁にて土圧や水圧を支保しながら、地下構造物の施工が進められるのが一般的である。この山留め壁には、親杭横矢板壁や鋼矢板壁等の既製矢板壁と、柱列山留め壁や連続地中壁等の場所打ち壁とがあり、柱列山留め壁には、場所打ち鉄筋コンクリート柱列山留め壁や鋼管柱列山留め壁、ソイルセメント柱列山留め壁(ソイルセメント柱列式連続壁)等が含まれる。
【0003】
例えば上記するソイルセメント柱列式連続壁は仮設構造物である一方、本設構造物である建物の備える鉄筋コンクリート製の地下部の側壁(地下外壁)と連結されることにより、ソイルセメント柱列式連続壁を本設構造物である建物の地下部の一部として利用する形態も存在する。
【0004】
ソイルセメント柱列式連続壁は、円柱状のソイルセメントが相互にラップされるようにして造成され、各ソイルセメントの内部には、H形鋼等により形成される芯材が埋設されている。そして、このソイルセメント柱列式連続壁と建物の地下外壁を連結する方法としては、芯材に対してその長手方向に間隔を置いて複数のスタッドジベル等を溶接することで側方に張り出させ、各スタッドジベル等が埋設されるようにして地下外壁を構築することにより、双方の一体化を図る方法が一例として挙げられる。
【0005】
ここで、特許文献1には、上記するように山留め壁と地下外壁を連結した合成地下外壁が提案されている。この合成地下外壁は、ソイルミキシングウォールの前面側に鉄筋コンクリート壁を形成して一体化した構造の合成地下外壁であり、ソイルミキシングウォールと鉄筋コンクリート壁とを一体化するためのスタッドがソイルミキシングウォールの芯材である鉄骨に溶殖されて鉄筋コンクリート壁中に埋設されているとともに、スタッドには先端部に定着頭部が一体に形成された鉄筋が用いられ、かつスタッドとしての鉄筋が剪断補強筋を兼用するものとして鉄筋コンクリート壁中に配筋されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載される合成地下外壁によれば、ソイルミキシングウォールを鉄筋コンクリート壁の一部として見込むことにより、鉄筋コンクリート壁の厚みを可及的に薄くすることができる。ところで、通常は、山留め壁を構成する芯材は、一定量の施工誤差を見込んで設計されるが、それでも、当該芯材の建て込みに際しては少なからず施工誤差が生じ、さらに、建て込み後には撓みが生じ得るが、芯材が仮に地下外壁と反対側へ偏位するようにして建て込まれた場合(平面的に芯材の設置位置がずれる場合や、鉛直精度が確保されずに傾斜して建て込まれることによりずれる場合等)や、反対側へ撓んだ場合には、スタッドジベル等の接合部材が地下外壁に定着されないことが懸念される。設計上必要となる本数の接合部材が地下外壁に定着されない場合は、山留め壁の芯材と地下外壁が十分な接合強度にて接合された合成地下外壁が形成されているとは言い難い。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、山留め壁の芯材の施工の際に施工誤差がある場合や施工後に芯材が撓んだ場合でも、芯材と地下外壁が十分な接合強度にて接合されている合成地下外壁を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明による合成地下外壁の一態様は、
山留め壁を形成する鋼製の芯材に固定されている軸状の接合部材が、建物を形成する鉄筋コンクリート製の地下外壁に埋設されて、前記芯材と前記地下外壁が接合されることにより構成される、合成地下外壁であって、
平面視において、U字形の補強筋がその一部を前記接合部材に交差させ、その開口を前記地下外壁に対向するようにして配設され、前記地下外壁に定着されていることを特徴とする。
【0010】
本態様によれば、平面視においてU字形の補強筋がその一部を接合部材に交差させ、その開口を地下外壁に対向するようにして配設されて当該地下外壁に定着されていることにより、建物の地下外壁の厚みを可及的に薄くすることができ、仮に芯材に施工誤差があって地下外壁と反対側へ偏位するようにして建て込まれたり、建て込み後の芯材が地下外壁と反対側へ撓むことにより、接合部材が地下外壁に十分に埋設されていない場合においても、U字形の補強筋によって芯材と地下外壁とを十分な接合強度にて接合することができる。
【0011】
本態様の合成地下外壁を形成する山留め壁には、H形鋼や鋼管、鋼矢板等の鋼製の芯材を有する様々な形式の山留め壁が含まれ、ソイルセメント柱列山留め壁の他にも、親杭横矢板壁、鋼矢板(シートパイル)壁、鋼管矢板壁等を例示できる。
【0012】
ここで、U字形の補強筋は、平面視においてその一部が接合部材に交差し、その開口が地下外壁に対向するようにして配設されて地下外壁に定着していることで足り、接合部材と直接接合されることは不要であり、地下外壁を構成する縦筋や横筋等の壁筋にも直接接合されることは不要であるが、接合部材の位置決め姿勢を保持する観点から、壁筋に結束線や溶接等で固定されてよい。
【0013】
また、軸状の接合部材には、スタッドジベルやボルト、鉄筋(丸鋼、異形棒鋼)等が適用でき、補強筋には鉄筋が適用できる。
【0014】
さらに、「U字形」には、文字通りのU字形の他に、隅角部が直交しているコの字形、隅角部が鈍角で二本の直線部が側方へ末広がりの略コの字形、逆に隅角部が鋭角で二本の直線部が内側へ狭まる略コの字形等が含まれる。
【0015】
本発明者等の検証によれば、芯材に鉛直荷重が作用した際に、接合部材を介して芯材と接合されている鉄筋コンクリート製の地下外壁には、平面視において、接合部材の近傍領域を中心とした複数の割裂線が生じ、この割裂線に沿って複数の鉄筋コンクリートブロックに割裂することが特定されている。この検証結果に基づき、本態様では、補強筋がその一部を接合部材に交差させつつ、複数の割裂線を通るような平面視形状として、U字形を適用している。
【0016】
また、本発明による合成地下外壁の他の態様は、
前記補強筋の2つの直線部がそれぞれ、その途中で外側へ折れ曲がっていることを特徴とする。
【0017】
本態様によれば、補強筋の2つの直線部がそれぞれその途中で外側へ折れ曲がっている形状、言い換えれば平面視ハット形を呈していることにより、例えば一般のU字形の補強筋と比べて2つの直線部の離間を狭めながらも、複数の割裂線を通るようにして補強筋を配設することができる。尚、本明細書では、このようなハット形もU字形の変形例として、U字形に含まれるものとする。
【0018】
また、本発明による合成地下外壁の他の態様は、
平面視において、複数の前記接合部材が間隔を置いて併設しており、
平面視において、1つの前記補強筋が全ての前記接合部材に交差していることを特徴とする。
【0019】
本態様によれば、平面視において複数(例えば2つ)の接合部材が間隔を置いて併設している形態において、平面視において1つの補強筋が全ての接合部材に交差するようにして配設されていることにより、必要となる接合強度を満たしつつ、良好な取り付け性の下で補強筋を配設することができる。
【0020】
また、本発明による合成地下外壁の他の態様は、
平面視において、複数の前記接合部材が間隔を置いて併設しており、
平面視において、それぞれの前記接合部材に対して固有の前記補強筋が交差していることを特徴とする。
【0021】
本態様によれば、平面視において複数の接合部材が間隔を置いて併設している形態において、平面視においてそれぞれの接合部材に対して固有の補強筋が交差するようにして配設されていることにより、より一層接合強度の高い合成地下外壁を形成することができる。
【0022】
また、本発明による合成地下外壁の他の態様は、
前記芯材に対して、縦方向に間隔をおいて複数段の前記接合部材が固定されており、
各段の前記接合部材に対応する前記補強筋が配設されていることを特徴とする。
【0023】
本態様によれば、芯材に対してその縦方向に間隔をおいて複数段の接合部材が固定されている形態において、各段の接合部材に対応する補強筋が配設されていることにより、より一層接合強度の高い合成地下外壁を形成することができる。ここで、平面視において、各段に1つの接合部材がある形態では、1つの接合部材に対してその一部が交差するようにして補強筋が配設される形態がある。一方、平面視において、各段に複数(例えば2つ)の接合部材がある形態では、1つの補強筋が全ての接合部材に交差するように配設される形態と、それぞれの接合部材に対して固有の補強筋が交差するようにして配設される形態がある。
【0024】
また、本発明による合成地下外壁の他の態様は、
前記芯材に対して、縦方向に間隔をおいて複数段の前記接合部材が固定されており、
複数段の前記接合部材に対して1つの前記補強筋が配設されていることを特徴とする。
【0025】
本態様によれば、芯材に対してその縦方向に間隔をおいて複数段の接合部材が固定されている形態において、複数段の接合部材に対して1つの補強筋が配設されていることにより、必要となる接合強度を満たしつつ、良好な取り付け性の下で補強筋を配設することができる。例えば、1つもしくは複数の補強筋が、2段の接合部材ごとに配設されている形態、5段の接合部材ごとに配設されている形態等を挙げることができる。
【0026】
また、本発明による合成地下外壁の他の態様は、
前記芯材に対して、縦方向に間隔をおいて複数段の前記接合部材が固定されており、
最上段の前記接合部材の上方位置と、最下段の前記接合部材の下方位置と、各段の前記接合部材の間の位置のそれぞれに、前記補強筋が配設されていることを特徴とする。
【0027】
本態様によれば、芯材に対してその縦方向に間隔をおいて複数段の接合部材が固定されている形態において、最上段の接合部材の上方位置、最下段の接合部材の下方位置、及び各段の接合部材の間の位置のそれぞれに補強筋が配設されていること、言い換えれば、接合部材の段数よりも数が1つ多い段数の補強筋を配設することにより、より一層接合強度の高い合成地下外壁を形成することができる。
【0028】
また、本発明による合成地下外壁の他の態様は、
前記接合部材が頭付きスタッドであり、
前記補強筋が鉄筋であることを特徴とする。
【0029】
本態様によれば、接合部材が頭付きスタッドであることにより、より一層接合強度の高い合成地下外壁を形成することができる。さらに、補強筋が鉄筋であることにより、補強筋の製作性と取り付け性(施工性)の双方が良好になる。
【0030】
また、本発明による合成地下外壁の他の態様は、
前記補強筋が、前記地下外壁を形成する壁筋の一部に位置決め用に仮固定されていることを特徴とする。
【0031】
本態様によれば、補強筋が地下外壁を形成する壁筋の一部に位置決め用に仮固定されていることにより、補強筋の位置決め姿勢を保持することができる。ここで、「仮固定」とは、結束線等で簡単に固定されることを意味している。また、壁筋には、縦筋と横筋が含まれ、いずれか一方に仮固定されればよい。
【0032】
また、本発明による合成地下外壁の他の態様は、
前記芯材に鉛直荷重が作用した際に前記地下外壁に生じることが想定される、平面視における複数の仮想割裂線を通るように前記補強筋が配設されていることを特徴とする。
【0033】
本態様によれば、芯材に鉛直荷重が作用した際に地下外壁に生じることが想定される、平面視における複数の仮想割裂線を通るように補強筋が配設されていることにより、補強筋によって地下外壁の割裂を効果的に抑制することができ、接合強度の高い合成地下外壁を形成することができる。尚、平面視における複数の仮想割裂線を補強筋が通るとは、言い換えれば、地下外壁の内部において補強筋が複数の仮想割裂面を通ることである。
【発明の効果】
【0034】
以上の説明から理解できるように、本発明の合成地下外壁によれば、建物の地下外壁の厚みを可及的に薄くすることができ、山留め壁の芯材の施工の際に施工誤差がある場合や施工後に芯材が撓んだ場合でも、芯材と地下外壁が十分な接合強度にて接合されている合成地下外壁を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】実施形態に係る合成地下外壁の一例を示す縦断面図である。
【
図2】
図1のII-II矢視図であって、合成地下外壁を途中レベルで切断した横断面図である。
【
図3A】
図2に対応する図であって、平面視において、実施形態に係る合成地下外壁の変形例を示す図である。
【
図3B】
図2に対応する図であって、平面視において、実施形態に係る合成地下外壁の他の変形例を示す図である。
【
図3C】
図2に対応する図であって、平面視において、実施形態に係る合成地下外壁のさらに他の変形例を示す図である。
【
図4A】
図1のIV部に対応する図であって、縦断面視において、実施形態に係る合成地下外壁の変形例を示す図である。
【
図4B】
図1のIV部に対応する図であって、縦断面視において、実施形態に係る合成地下外壁の他の変形例を示す図である。
【
図5】押し抜きせん断試験で適用したせん断試験装置の正面図である。
【
図6A】(a)は、地下外壁の壁筋まで接合部材が到達し、補強筋の無い試験体1(比較例1)の平面図であり、(b)は、(a)のb-b矢視図であり、(c)は、(a)のc-c矢視図である。
【
図6B】(a)は、地下外壁の壁筋まで接合部材が到達せず、補強筋の無い試験体2(比較例2)の平面図であり、(b)は、(a)のb-b矢視図であり、(c)は、(a)のc-c矢視図である。
【
図6C】(a)は、補強筋のある試験体3(実施例)の平面図であり、(b)は、(a)のb-b矢視図であり、(c)は、(a)のc-c矢視図である。
【
図7】油圧ジャッキによる鉛直荷重の載荷開始時と載荷終了時の状態を示す写真図である。
【
図8】試験終了後の無補強の試験体を破砕して、試験により生じた割裂面を示す写真図である。
【
図9】押し抜きせん断試験の試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、実施形態に係る合成地下外壁について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0037】
[実施形態に係る合成地下外壁]
はじめに、
図1乃至
図4を参照して、実施形態に係る合成地下外壁の一例について説明する。ここで、
図1は、実施形態に係る合成地下外壁の一例を示す縦断面図であり、
図2は、
図1のII方向矢視図であって、合成地下外壁を途中レベルで切断した横断面図である。また、
図3A乃至
図3Cはいずれも、
図2に対応する図であって、平面視において、実施形態に係る合成地下外壁の変形例を示す図である。さらに、
図4Aと
図4Bはいずれも、
図1のIV部に対応する図であって、縦断面視において、実施形態に係る合成地下外壁の変形例を示す図である。
【0038】
尚、
図1,2等においては、図面を視認し易くするべく、地下外壁40のコンクリート内に配筋されている、縦筋や横筋等の壁筋の図示を省略している。
【0039】
図1に示すように、地盤Gの内部には、山留め壁30が施工されており、山留め壁30の側方には、建物の地下部50を形成する鉄筋コンクリート製の地下外壁40が施工されている。山留め壁30を形成する芯材10には、その長手方向である縦方向(例えば鉛直方向)に間隔を置いて複数の軸状の接合部材60が固定されており、各接合部材60が地下外壁40に埋設されて、芯材10と地下外壁40が接合されることにより、合成地下外壁100が形成される。
【0040】
図示例の山留め壁30はソイルセメント柱列式連続壁であり、平面視円形のソイルセメント20の一部が相互にラップするようにして地下部50を包囲する平面線形で造成され、各ソイルセメントの内部にはH形鋼により形成される芯材10が埋設されている。ソイルセメント20は、地盤Gを掘削することにより発生する土砂と、多軸混練オーガー機等(図示せず)の先端から吐出されるセメントミルクを混合撹拌することにより造成され、硬化前のソイルセメント20の内部に芯材10が挿入されることにより構築される。
【0041】
そして、芯材10の一方のフランジ11の表面が露出するようにソイルセメント20の一部が切削され、フランジ11の表面に接合部材である頭付きスタッド60の脚部が溶接接合されている。ここで、合成地下外壁を形成する山留め壁は、図示例のソイルセメント柱列式連続壁以外にも、鋼製の芯材を有している親杭横矢板壁や鋼矢板壁、鋼管矢板壁等であってもよい。
【0042】
図示例の地下部50は、地下2階の構造を有し、複数(図示例は3つ)の床版45と、各床版45を繋ぐ地下外壁40とを有しており、全ての構成部材が鉄筋コンクリート製である。この地下部50の上方には、不図示の地上部が載置されることにより、例えば、地下2階、地上数十階建ての建物となる。この建物を構成する地上部は、地下部50と同様にRC(Reinforced concrete)造の他、S(Steel)造やSRC(Steel Reinforced concrete)造であってよく、建物には、オフィスビルやマンション、体育館やショッピングモール、各種公共建物等、様々な形態が含まれる。また、その他にも、地下部が免震擁壁等であってもよい。
【0043】
図2に示すように、平面視において、1つの芯材10のフランジ11に対して、2本の頭付きスタッド60が間隔を置いて併設するように固定されている。そして、平面視において、U字形の補強筋70は、その底部71(一部の例)がコンクリートのかぶり厚を確保した状態で2つの頭付きスタッド60の双方に交差し、底部71から屈曲して延びる2つの直線部72によって形成される開口73が地下外壁40に対向し、地下外壁40に対して十分な定着長さが確保されるように配設されている。
【0044】
この補強筋70のうち、直線部72は相互に直交する壁筋41,42と交差し、壁筋41,42の少なくとも一方に対して結束線等によって仮固定され、その位置決め姿勢が保持されている。このように、補強筋70が頭付きスタッド60と壁筋41,42の双方に定着されることにより、施工誤差によって、仮に頭付きスタッド60と壁筋41,42が相互に交差しない態様で双方が配設される状況が生じた場合であっても、地下外壁40と芯材10を十分な接合強度にて接合することができる。
【0045】
また、
図2に示すように、平面視において、頭付きスタッド60と壁筋41,42は、相互に交差しないように双方が配設されている。このことにより、ふかし部のような施工誤差がある場合でも、補強筋70を配設して頭付きスタッド60及び壁筋41,42と定着させることで、地下外壁40と芯材10の接合を図ることが可能になる。尚、
図2は、2つの芯材10と、これに対応する地下外壁40の範囲を抽出して図示している。
【0046】
図2に示すように、平面視で1つの芯材10のフランジ11に対して2つの頭付きスタッド60が固定され、2つの頭付きスタッド60の双方にその一部が交差するようにしてU字形の補強筋70が配設されるが、これを縦断面で見た際には、
図1に示すように、縦方向に間隔をおいて複数段の頭付きスタッド60が芯材10に固定されている。そして、最上段の頭付きスタッド60Aの上方位置と、最下段の頭付きスタッド60Bの下方位置と、各段の頭付きスタッド60の間の位置のそれぞれに、補強筋70が配設されている。すなわち、頭付きスタッド60の段数よりも数が1つ多い段数の補強筋70を配設するものである。
【0047】
本発明者等によれば、芯材10に鉛直荷重が作用した際に、平面視において、2つの頭付きスタッド60を包囲する仮想割裂線L0,L1,L3と、これらの仮想割裂線L1,L3から平面視で例えば45度方向に延びる別途の仮想割裂線L2,L4が生じ、これら複数の割裂線L0~L4に沿って地下外壁40が割裂することにより、複数の割裂ブロックB1~B4に割裂することが特定されている。
【0048】
尚、このように割裂が生じるケースとしては、地下外壁40から、接合部材60を介して芯材10に対して鉛直荷重が作用した場合であり、建物の地上部の常時荷重が芯材10に作用する場合や、芯材10に対して地震時や強風時における押し込み力が作用する場合等が想定される。
【0049】
そこで、芯材10ごとに、複数の仮想割裂線L0~L4を通るようにU字形の補強筋70を配設し、仮想割裂線L0~L4に沿う割裂を補強筋70にて抑制することにより、鉄筋コンクリート製の地下外壁40の割裂を抑制しながら、芯材10と地下外壁40を補強筋70を介して高強度に接合するものである。ここで、補強筋70は、丸鋼もしくは異形棒鋼からなる鉄筋により形成される。
【0050】
図示する合成地下外壁100は、CUW(Composite Underground Wall、登録商標)とも称され、CUW工法により施工される合成地下外壁である。尚、詳細な説明は省略するが、このCUW工法では、地盤条件と施工条件に応じて、重ね壁法と合成壁法という2種類の設計方法のいずれか一種を合理的に選定可能となっている。
【0051】
合成地下外壁100によれば、平面視においてU字形の補強筋70がその一部を頭付きスタッド60に交差させ、その開口73を地下外壁40に対向するようにして配設されて地下外壁40に定着されていることにより、建物の地下外壁40の厚みを可及的に薄くすることができ、このことによって地下部50の室内空間を広くすることができる。
【0052】
また、通常、山留め壁30を構成する芯材10は、一定量の施工誤差を見込んで設計されるが、それでも、芯材10の建て込みに際して少なからず施工誤差が生じ、地下外壁40と反対側へ偏位するようにして芯材10が建て込まれたり、建て込み後に芯材10が地下外壁40と反対側へ撓むことにより、接合部材60が十分に地下外壁40に埋設されない場合が生じ得る。このような場合であっても、U字形の補強筋70により、芯材10と地下外壁40とを十分な接合強度にて接合することができる。
【0053】
図3Aに示す合成地下外壁100Aは、平面視において、芯材10のフランジ11に対して間隔を置いて固定されている2つの頭付きスタッド60のそれぞれに、固有の補強筋70が配設されている点において、合成地下外壁100と相違する。
【0054】
図示例は、1つの芯材10に対して平面視で2つの頭付きスタッド60が固定されていることから、平面視で2つの補強筋70がそれぞれに対応する頭付きスタッド60に交差するように配設されている。そして、各補強筋70は、仮想割裂線L0~L4を通るように配設されており、これらの仮想割裂線L0~L4に沿う地下外壁40の割裂を抑制しながら、芯材10と地下外壁40を補強筋70を介して高強度に接合するものである。
【0055】
一方、
図3Bに示す合成地下外壁100Bは、補強筋70Aの2つの直線部72がそれぞれ、その途中で外側へ折れ曲がっている折り曲げ部74を有し、平面視ハット形の補強筋70Aを適用する点において、合成地下外壁100,100Aと相違する。
【0056】
例えば、
図2の合成地下外壁100と比較すると明らかであるが、U字形の補強筋70と比べて、2つの直線部72の離間が狭くなり、これらの直線部72が2つの仮想割裂線L2,L4をそれぞれ二度通ることにより、各割裂ブロックB1~B4を補強筋70Aが繋いでいる。尚、本明細書では、平面視ハット形の補強筋70Aは、平面視U字形の補強筋の変形例として、当該U字形の補強筋に含まれるものとする。
【0057】
一方、
図3Cに示す合成地下外壁100Cは、平面視で1つの頭付きスタッド60が芯材10のフランジ11に固定され、補強筋70がこの頭付きスタッド60に交差するように配設されている点において合成地下外壁100,100A,100Bと相違する。
【0058】
芯材10と地下外壁40の接合に際して、各段における頭付きスタッド60の本数が1本で足りる場合は、図示例のようにフランジ11の中央位置に頭付きスタッド60を固定することにより、頭付きスタッド60の本数低減と施工性の向上に繋がる。
【0059】
次に、
図4Aと
図4Bを参照して、芯材10の縦方向における補強筋70の他の配設例について説明する。
【0060】
図1に示す例では、頭付きスタッド60の段数よりも数が1つ多い段数の補強筋70を配設する形態であったが、
図4Aに示す例は、各段の頭付きスタッド60に対応する補強筋70が配設されている形態であり、頭付きスタッド60の段数と同じ段数の補強筋70を配設する形態である。
【0061】
一方、
図4Bに示す例は、複数段(図示例は2段)の頭付きスタッド60ごとに1つの補強筋70が配設されている形態である。
【0062】
このように、芯材10と地下外壁40の接合に際して設計上必要とされる数の補強筋70に応じて、芯材10の縦方向に固定されている複数段の頭付きスタッド60に対して、様々な配設形態にて補強筋70が配設されてよい。例えば、図示例は、頭付きスタッド60と補強筋70が深さ方向で離れているが、双方が接している形態であってもよい。
【0063】
[押し抜きせん断試験とその結果]
次に、
図5乃至
図9を参照して、本発明者等により実施された押し抜きせん断試験とその結果について説明する。この押し抜きせん断試験は、3種類の試験体を製作し、せん断試験装置に各試験体を設置し、試験体を構成するH形鋼(芯材を模擬)に鉛直荷重を載荷した際に、試験体を構成する鉄筋コンクリートブロック(地下外壁を模擬)が割裂する際の荷重とH形鋼の鉛直変位を測定している。
【0064】
ここで、
図5は、押し抜きせん断試験で適用したせん断試験装置の正面図である。また、
図6A、
図6B,及び
図6Cはそれぞれ、試験体1(比較例1)、試験体2(比較例2)、及び試験体3(実施例)を説明した図である。
【0065】
具体的には、
図6Aに示す試験体1(試験体T1)は、地下外壁の壁筋まで接合部材が到達し、補強筋の無い試験体であり、(a)は平面図であり、(b)は(a)のb-b矢視図であり、(c)は(a)のc-c矢視図である。
【0066】
一方、
図6Bに示す試験体2(試験体T2)は、地下外壁の壁筋まで接合部材が到達せず、補強筋の無い試験体であり、(a)は平面図であり、(b)は(a)のb-b矢視図であり、(c)は(a)のc-c矢視図である。
【0067】
さらに、
図6Cに示す試験体3(試験体T3)は、補強筋のある試験体であり、(a)は平面図であり、(b)は(a)のb-b矢視図であり、(c)は(a)のc-c矢視図である。
図6Cに示すように、2段で各段に2つのスタッドジベル(頭付きスタッド)が接合部材として固定され、各段の2つのスタッドジベルに対して平面視で1つのU字形の補強筋が配設され、縦方向に計3段の補強筋が配設されている。
【0068】
また、
図7は、油圧ジャッキによる鉛直荷重の載荷開始時と載荷終了時の状態を示す写真図であり、
図8は、試験終了後の無補強の試験体を破砕して、試験により生じた割裂面を示す写真図である。さらに、
図9は、押し抜きせん断試験の試験結果を示す図である。
【0069】
図5に示すせん断試験装置Sは、複数の鋼管や形鋼材等によって正面視枠状に組み付けられた架構Fの内部の下方に2つの架台Dを設置し、上方に油圧ジャッキJを設置し、油圧ジャッキJの下方にロードセルLを設置することにより構成されている。
【0070】
試験体Tは、芯材を模擬するH形鋼Pの左右に、不図示の頭付きスタッドを介して鉄筋コンクリートブロックCが接合されることにより構成されている。せん断試験装置Sの2つの架台Dの上に左右の鉄筋コンクリートブロックCが設置され、H形鋼Pの上にロードセルLを介して油圧ジャッキJが設置される。
【0071】
せん断試験装置Sに対して、
図6A,
図6B及び
図6Cに示す試験体T1~T3をそれぞれ設置し、中央のH形鋼Pに対して油圧ジャッキJにて鉛直荷重を載荷し、鉛直荷重をロードセルLで読み取り、さらに、その際のH形鋼Pの初期位置からの下方への変位を測定した。
【0072】
図7の左図は、載荷開始時の状態を示しており、
図7の右図は、載荷終了時の状態を示している。尚、載荷は、最大荷重を記録して以降、最大荷重のおよそ70%まで低下した時点で終了した。
【0073】
図8に示すように、補強筋の無い試験体T2の試験終了後の鉄筋コンクリートブロックCを破砕すると、鉄筋コンクリートブロックCの内部には、頭付きスタッドWが上方に引っ張られて変形し、各頭付きスタッドWの頭部を繋ぐような割裂面や、この頭部を繋ぐ割裂面から45度方向に延びる別途の割裂面が生じていることが分かる。
【0074】
この実験結果に基づき、
図2等に示す複数の仮想割裂線L0~L4を設定することとした。
【0075】
さらに、
図9に示す鉛直変位-荷重グラフによれば、補強筋の無い比較例1,2の中でも。地下外壁の壁筋まで接合部材が到達している比較例1の荷重(割裂が生じた際の荷重)は、比較例2に対して20%程度も大きくなり、その際の鉛直変位も5mmから10mmと2倍程度も長くなることが分かる。
【0076】
この比較例1に対して、補強筋のある実施例では、荷重がさらに7%程度も大きくなり、その際の鉛直変位も10mmから16mmとさらに1.6倍程度も長くなることが分かる。
【0077】
この実験結果より、芯材に固定される接合部材が鉄筋コンクリートブロックに埋設される構造体において、U字形の補強筋がその一部を接合部材に交差させ、その開口を鉄筋コンクリートブロックに対向するようにして配設され、当該鉄筋コンクリートブロックに定着されていることにより、割裂耐力が向上し、構造体の接合強度が高められることが実証されている。
【0078】
上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0079】
10:芯材
11:フランジ
20:ソイルセメント
30:山留め壁
40:地下外壁
41,42:壁筋
45:床版
50:地下部
60:接合部材(頭付きスタッド)
60A:最上段の接合部材(頭付きスタッド)
60B:最下段の接合部材(頭付きスタッド)
70,70A:補強筋
71:底部(一部)
72:直線部
73:開口
74:折り曲げ部
100,100A,100B,100C:合成地下外壁
G:地盤
L0,L1,L2,L3,L4:仮想割裂線
B1,B2,B3,B4:割裂ブロック
T,T1,T2,T3:試験体
P:H形鋼
W:頭付きスタッド
C:鉄筋コンクリートブロック
S:せん断試験装置
F:架構
J:油圧ジャッキ
L:ロードセル
D:架台
H:割裂