IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社東芝の特許一覧 ▶ 東芝電機サービス株式会社の特許一覧

特開2024-134360真空バルブの接合構造、及び真空バルブ
<>
  • 特開-真空バルブの接合構造、及び真空バルブ 図1
  • 特開-真空バルブの接合構造、及び真空バルブ 図2
  • 特開-真空バルブの接合構造、及び真空バルブ 図3
  • 特開-真空バルブの接合構造、及び真空バルブ 図4
  • 特開-真空バルブの接合構造、及び真空バルブ 図5
  • 特開-真空バルブの接合構造、及び真空バルブ 図6
  • 特開-真空バルブの接合構造、及び真空バルブ 図7
  • 特開-真空バルブの接合構造、及び真空バルブ 図8
  • 特開-真空バルブの接合構造、及び真空バルブ 図9
  • 特開-真空バルブの接合構造、及び真空バルブ 図10
  • 特開-真空バルブの接合構造、及び真空バルブ 図11
  • 特開-真空バルブの接合構造、及び真空バルブ 図12
  • 特開-真空バルブの接合構造、及び真空バルブ 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134360
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】真空バルブの接合構造、及び真空バルブ
(51)【国際特許分類】
   H01H 33/664 20060101AFI20240926BHJP
   H01H 33/662 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
H01H33/664 B
H01H33/662 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044619
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】垂井 洋静
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 遥
(72)【発明者】
【氏名】吉田 剛
(72)【発明者】
【氏名】近藤 淳一
【テーマコード(参考)】
5G026
【Fターム(参考)】
5G026BA07
5G026BB02
5G026BB04
5G026BB24
5G026BB30
5G026BC04
(57)【要約】

【課題】 低コストな接合層を用いた真空バルブの接合構造を提供する。
【解決手段】 実施形態によれば、真空バルブの接合構造は、第1接合領域が設けられた第1母材と、第1接合領域と対向して配置された第2接合領域が設けられた第2母材と、第1接合領域と第2接合領域とを接合する接合層とを含み、第1母材は接点、第2母材は通電軸であり、接合層は、第1液相線温度を有し、第1接合領域の第1部分と第2接合領域の第2部分とを接合する第1接合部と、第1液相線温度よりも高い第2液相線温度を有し、第1接合領域の第1部分とは異なる第3部分と第2接合領域の第2部分とは異なる第4部分とを接合する第2接合部とを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1接合領域が設けられた第1母材と、
前記第1接合領域と対向して配置された第2接合領域が設けられた第2母材と、
前記第1接合領域と前記第2接合領域とを接合する第1接合層とを含み、
前記第1母材は接点、前記第2母材は通電軸であり、
前記第1接合層は、第1液相線温度を有し、前記第1接合領域の第1部分と前記第2接合領域の第2部分とを接合する第1接合部と、前記第1液相線温度よりも高い第2液相線温度を有し、前記第1接合領域の前記第1部分とは異なる第3部分と前記第2接合領域の前記第2部分とは異なる第4部分とを接合する第2接合部とを含むことを特徴とする真空バルブの接合構造。
【請求項2】
前記第1接合部と前記第2接合部との間の少なくとも一部を遮蔽する構造をさらに含む請求項1に記載の真空バルブの接合構造。
【請求項3】
前記遮蔽する構造は、前記第1接合領域と前記第2接合領域のうち少なくとも一方に設けられたスリットである請求項2に記載の真空バルブの接合構造。
【請求項4】
前記接合層は、前記第1接合部と前記第2接合部との間に、前記第1接合部及び前記第2接合部の組成とは異なる組成を有する第3接合部をさらに含む請求項1に記載の真空バルブの接合構造。
【請求項5】
前記第3接合部は、傾斜組成を有し、前記第1接合部の組成から前記第2接合部の組成へ連続的に変化する請求項4に記載の真空バルブの接合構造。
【請求項6】
両端に開口端を有する絶縁容器と、
前記開口端に接合された一対の封着金具を備えた真空容器と、
前記真空容器に切離可能に設けられた一対の電極とを備えた真空バルブであって、
少なくとも一方の前記電極は、
第1接合領域が設けられた第1母材と、
前記第1接合領域と対向して配置された第2接合領域が設けられた第2母材と、
前記第1接合領域と前記第2接合領域とを接合する第1固相温度を有する第1接合層とを含む真空バルブの接合構造を含み、
前記第1母材は接点、前記第2母材は通電軸であり、
前記第1接合層は、第1液相線温度を有し、前記第1接合領域の第1部分と前記第2接合領域の第2部分とを接合する第1接合部と、前記第1液相線温度よりも高い第2液相線温度を有し、前記第1接合領域の前記第1部分とは異なる第3部分と前記第2接合領域の前記第2部分とは異なる第4部分とを接合する第2接合部とを含むことを特徴とする真空バルブ。
【請求項7】
前記第1接合層は、第1固相温度を有し、前記真空容器は、前記絶縁容器の両端と一対の封着金具との間に、第1液相線温度を有する第2接合層を含み、前記第2接合層の前記第1液相線温度は、前記第1接合層の前記第1固相線温度以下である請求項6に記載の真空バルブ。
【請求項8】
前記第1接合部と前記第2接合部との間の少なくとも一部を遮蔽する構造をさらに含む請求項6に記載の真空バルブ。
【請求項9】
前記遮蔽する構造は、前記第1接合領域と前記第2接合領域のうち少なくとも一方に設けられたスリットである請求項8に記載の真空バルブ。
【請求項10】
前記第1接合層は、前記第1接合部と前記第2接合部との間に、前記第1接合部及び前記第2接合部の組成とは異なる組成を有する第3接合部をさらに含む請求項6に記載の真空バルブ。
【請求項11】
前記第3接合部は、傾斜組成を有し、前記第1接合部の組成から前記第2接合部の組成へ連続的に変化する請求項10に記載の真空バルブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、真空バルブの接合構造、及び真空バルブに関する。
【背景技術】
【0002】
真空容器の製作には金属同士を接合するためのろう付けプロセスが用いられる。一部の真空容器においては複雑な内部構造を実現するために、多段ろう付けプロセスが適用される。多段ろう付けプロセスでは、融点の異なる二種類のろう材を用いることを特徴としており、まず、融点の高いろう材で真空容器内の部品例えば接点と通電軸を接合し、後工程で融点の低いろう材を用いて例えばセラミック容器と封着金具などの封着を行う。また、通電を伴う真空機器の場合、ろう材は電気抵抗が低い貴金属ろうが用いられることが一般的であり、特に高融点ろう材としてはパラジウムを含むろう材を用いることが多い。一方で低コスト化のためにはこれらの貴金属の使用量を低減することが求められている。貴金属を含まない高融点ろう材は一般に電気伝導度が悪く、常時通電するような環境においては電気的な損失が課題となりうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5668123号公報
【特許文献2】特許第5350317号公報
【特許文献3】特許第6187189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態は、低コストな接合層を用いた真空バルブの接合構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態によれば、第1接合領域が設けられた第1母材と、
前記第1接合領域と対向して配置された第2接合領域が設けられた第2母材と、
前記第1接合領域と前記第2接合領域とを接合する第1接合層とを含み、
前記第1母材は接点、前記第2母材は通電軸であり、
前記第1接合層は、第1液相線温度を有し、前記第1接合領域の第1部分と前記第2接合領域の第2部分とを接合する第1接合部と、前記第1液相線温度よりも高い第2液相線温度を有し、前記第1接合領域の前記第1部分とは異なる第3部分と前記第2接合領域の前記第2部分とは異なる第4部分とを接合する第2接合部とを含むことを特徴とする真空バルブの接合構造が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】実施形態に係る真空バルブの接合構造の一例を表す模式的な断面図である。
図2】実施形態に係る真空バルブの構成を表す縦断面図である。
図3】実施形態に係る真空バルブの接合構造の他の一例を表す模式的な断面図である。
図4】実施例1に係る真空バルブの接合構造を表す模式的な断面図である。
図5】実施例2に係る真空バルブの接合構造を表す模式的な断面図である。
図6】実施例3に係る真空バルブの接合構造を表す模式的な断面図である。
図7図6の一部に関する電子顕微鏡写真である。
図8図6の他の一部に関する電子顕微鏡写真である。
図9】Cu-Ag系平衡状態図である。
図10】実施例4に係る真空バルブの接合構造を表す模式的な断面図である。
図11図10の一部を拡大して模式的に表す断面図である。
図12】Cu-Bi系平衡状態図である。
図13】Cu-Zn系平衡状態図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
第1実施形態に係る真空バルブの接合構造は、第1接合領域が設けられた第1母材と、第1接合領域と対向して配置された第2接合領域が設けられた第2母材と、第1接合領域と第2接合領域とを接合する第1接合層とを含む。第1母材は接点、第2母材は通電軸にすることができる。
第1接合層は、第1液相線温度を有する第1接合部と、第1液相線温度よりも高い第2液相線温度を有する第2接合部とを含む。第1接合部は、第1接合領域の第1部分と第2接合領域の第2部分とを接合する。第2接合部は、第1接合領域の第1部分とは異なる第3部分と、第2接合領域の第2部分とは異なる第4部分とを接合する。
【0008】
また、第2実施形態に係る真空バルブは、上記接合構造を用いた真空バルブであって、
両端に開口端を有する絶縁容器と、開口端に第2接合層により接合された一対の封着金具を備えた真空容器と、真空容器に切離可能に設けられた一対の電極とを含み、少なくとも一方の電極は、上記第1実施形態に係る真空バルブの接合構造を含む。
第1接合層は、第1実施形態にかかる真空バルブの接合構造の作成工程で、1段目の接合(ろう付け)により設けられる。第2接合層は、第1接合層を含む真空バルブの接合構造を封入して絶縁容器開口端を封着金具で封止する工程で、2段目の接合(ろう付け)により設けられる。このように、第1接合層は、真空バルブを作成する際に少なくとも2段の接合(多段ろう付け)に供され、高温に晒される。
第1接合層の第1接合部及び第2接合部には、ろう材を用いることができる。液相線温度が低い第1接合部は、導電率が高い傾向があるが、高温では溶けやすい。一方、液相線温度が高い第2接合部は、高温では溶けにくいが電気抵抗が高い傾向がある。
【0009】
第1実施形態及び第2実施形態によれば、第1液相線温度を有する第1接合部と、第1液相線温度よりも高い第2液相線温度を有する第2接合部とを含む第1接合層を用いて、第1接合部で、第1接合領域の第1部分と第2接合領域の第2部分とを接合し、第2接合部で、第1接合領域の第1部分とは異なる第3部分と、第2接合領域の第2部分とは異なる第4部分とを接合することにより、高温例えば2段目の接合の温度における第1接合層の溶け落ちを第2接合部で防止し、第1接合層の抵抗値の増加を第1接合部で防ぐことができる。
【0010】
このように、実施形態によれば、第1接合層に第1液相線温度を有する第1接合部と、第1液相線温度よりも高い第2液相線温度を有する第2接合部との組み合わせを使用することにより、第1接合層にパラジウムなどの高価な貴金属を含むろう材を使用しなくても、真空バルブの接合構造において低コストで電気伝導度を維持できる。
【0011】
以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。
なお、開示はあくまで一例にすぎず、当業者において、発明の主旨を保っての適宜変更であって容易に想到し得るものについては、当然に本発明の範囲に含有されるものである。また、図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。
【0012】
図1に、第1実施形態に係る真空バルブの接合構造の一例を表す模式的な断面図を示す。
21は、第1実施形態に係る真空バルブに用いられる部品の一例であり、真空バルブ用電極の一方例えば固定側電極を示す。固定側電極21は、その端面に第1接合領域6aが設けられた第1母材としての接点6と、第1接合領域6aと対向して配置された第2接合領域4aが設けられた第2母材としての通電軸4と、接点6の第1接合領域6aと通電軸4の第2接合領域4aとを接合する第1接合層5を含む接合構造121を備えている。
【0013】
第1接合層5は、第1液相線温度を有する第1接合部5-1と、第1液相線温度よりも高い第2液相線温度を有する第2接合部5-2を含む。ここでは、一例として、第1接合部5-1は第1接合層5の中央部付近に設けられ、第2接合部5-2は第1接合部5-1の周囲に設けられている。第1接合部5-1は、第1接合領域6aの中央部付近の第1部分6a-1と、第2接合領域4aの中央部付近の第2部分4a-1とを接合する。第2接合部5-2は、第1接合領域6aの第1部分6a-1の周囲に設けられた第3部分6a-2と、第2接合領域の第2部分4a-1の周囲に設けられた第4部分4a-2とを接合する。
第1接合層5には、金属を用いることができる。第1接合部5-1及び第2接合部5-2として、互いに組成の異なる金属を使用することができる。金属として、種々のろう材を使用することができる。ろう材としては、CuAg合金、BiCu合金、CuZn合金等をあげることができる。
【0014】
図2に、第2実施形態に係る真空バルブの構成を表す縦断面図を示す。
図示するように、真空バルブ100は、両端に開口部を有し、例えばアルミナ磁器等よりなる筒状のセラミックス容器1と、一方の開口部に第2接合層15により接合して封着された固定側封着金具2と、他方の開口部に第2接合層15’により接合して封着された可動側封着金具3と、一対の電極として、固定側電極21と、可動側電極22とを備えている。真空バルブ100内は真空が維持されている。固定側封着金具2には中央開口部が設けられ、一方の電路となる固定側通電軸4が貫通固定されている。固定側通電軸4のセラミックス容器1内の端部に第1接合層5を介して固定側接点6が固着されることにより、真空バルブ100の一対の電極の一方として、固定側電極21の接合構造が得られる。固定側電極21の接合構造として、図1に示す第1実施形態に係る真空バルブの接合構造121を適用することができる。
【0015】
また、固定側接点6に対向し、切離自在の一対の接点となる可動側接点7が、可動側通電軸9の端面に第1接合層8を介して固着されることにより、可動側電極22の接合構造が形成される。可動側通電軸9は、可動側封着金具3に設けられた中央開口部を移動自在に貫通する他の電路となる。
【0016】
この可動側通電軸9の中央部分より可動側封着金具3側の部分がセラミックス容器1の外に導出される部分となっており、その部分に、気密封止のためのベローズカバー10が設けられ、ベローズカバー10には伸縮自在の筒状のベローズ11の一方の端部が配設されている。ベローズ11の他方の端部は可動側封着金具3の中央開口部に封着されている。これにより、絶縁容器1の真空を保って、可動側通電軸9を軸方向に移動させることができる。固定側接点6、及び可動側接点7の周りには、開閉時に発生する金属蒸気や溶融金属が、絶縁容器1の内壁に付着して絶縁抵抗が低下することを防止するため、筒状のアークシールド12が設けられている。
可動側電極22の接合構造として、第1実施形態に係る真空バルブの接合構造122を適用することができる。
【0017】
図3に、可動側電極の接合構造の一例を表す模式的な断面図を示す。
22は、図2に示す真空バルブ100に用いられる真空バルブ用電極のもう一方である可動側電極を示す。可動側電極22は、その端面に第1接合領域7aが設けられた第1母材としての接点7と、第1接合領域7aと対向して配置された第2接合領域9aが設けられた第2母材としての通電軸9と、接点7の第1接合領域7aと通電軸4の第2接合領域9aとを接合する第1接合層8を含む接合構造122を備えている。
【0018】
上記接合構造122は、第1の接合部5-1の代わりに第1接合部8-1、第2接合部5-2の代わりに第2接合部8-2、第1部分6a-1の代わりに第1部分7a-1、第2部分4a-1第の代わりに第2部分9a-1、第3部分6a-2の代わりに第3部分7a-2、第4部分4a-2の代わりに第4部分9a-2が設けられていること以外は図1と同様の構造を有する。
なお、ここでは、第2実施形態に係る真空バルブにおいて、第1実施形態にかかる真空バルブの接合構造は、固定側電極21の接合構造、及び可動側電極22の接合構造の両方に適用しているが、少なくとも一方に適用すればよい。
【0019】
第1実施形態にかかる真空バルブの接合構造において、第1接合部5-1,8-1と、第2接合部5-2,8-2との比率は例えば面積比で1:2~1:10にすることができる。
通電軸4,9の端部4bまたは端部9bの径は、例えば10mm~150mm、軸方向の厚さは、例えば1mm~30mmにすることができる。
接点の径は、例えば15mm~150mm、厚さは、例えば3mm~10mmにすることができる。
第1接合層の径は、例えば10mm~150mm、厚さは、例えば0.1mm~1mmにすることができる。
第1実施形態にかかる真空バルブの接合構造は、第1接合部と第2接合部との間の少なくとも一部を遮蔽する構造をさらに含むことができる。
遮蔽する構造とは、第1接合部から第2接合部への元素の拡散、もしくは第2接合部から第1接合部への元素の拡散を防止する構造のことをいう。
遮蔽する構造として、例えば、第1接合領域と第2接合領域のうち少なくとも一方に設けられたスリットを用いることができる。また、スリットには第1接合部5-1、8-1、及び第2接合部5-2、8-2の組成とは異なる組成を有する例えばリング状のシールド材を適用することができる。シールド材としては、第1接合層に用いられる合金がシールド材内部に拡散し難い、あるいは第1接合層に用いられる合金とシールド材とが化学反応を生じ難い材料を使用することが可能であり、例えばアルミナ、黒鉛、カルシア、ジルコニア、マグネシア、及びシリカ等があげられる。
【0020】
スリットの形状としてとして、例えばリング状、格子状の形状があげられる。
例えばリング状の場合、深さは1mm~5mm、幅は1mm~30mmにすることができる。
また、例えば格子状の場合、深さは1mm~5mm、幅は1mm~5mmにすることができる。
スリットの深さは、1.5mm未満であると、接合部からスリット部へ接合部を構成する成分が流入する傾向がある。また、スリットの幅は、3mm未満であると、一方の接合部の成分と他方の接合部の成分とが混ざりやすくなる傾向がある。
【0021】
第1接合層は、第1接合部と第2接合部との間に、第1接合部及び第2接合部の組成とは異なる組成を有する第3接合部をさらに設けることができる。このとき、第1接合層は、第1液相線温度及び第2液相線温度とは異なる第3の液相線温度を有し、かつ第1接合領域の第1部分及び第3部分とは異なる第5部分と第2接合領域の第2部分及び第4部分とは異なる第6部分とを接合する第3接合部を、さらに含むことができる。
第3接合部は、第1接合部の組成から第2接合部の組成へ連続的に変化する傾斜組成を有することができる。
ここで、第1接合層5,8が第1固相線温度を有し、第2接合層が第1液相線温度を有する場合、第2接合層の第1液相線温度は、第1固相線温度以下にすることができる。第2接合層の第1液相線温度が第1接合層の第1固相線温度を超えると、2段目の接合の際に、1段目で接合された第1接合層の一部が溶融する傾向がある。
なお、ここでは、第1接合層の第1固相線温度は、第1接合層が複数の固相線温度を有する場合には一番低い固相線温度のことをいう。また、第2接合層の第1液相線温度は、第2接合層が複数の液相線温度を有する場合には、一番高い液相線温度のことをいう。
【0022】
第1実施形態及び第2実施形態に用いられる真空バルブの接合構造を製造する方法は、以下の2つに分けることができる。
まず、第1形成方法では、通電軸の接合領域に、互いに液相線温度が異なる2種以上のろう材例えば第1液相線温度を有する第1ろう材、及び第1液相線温度より高い第2液相線温度を有する第2ろう材を適用し、その上に接点の接合領域を設置し、常圧以下の気圧、及び液相線温度以上の温度でろう付けを行うことにより、通電軸、接点、通電軸と接点の間に設けられた第1接合層からなる第1接合構造を得ることができる。第1接合構造の第1接合層では、適用したろう材に対応して例えば第1ろう材に対応して第1接合部、第2ろう材に対応して第2接合部を作成することができる。
【0023】
また、第2形成方法では、通電軸の接合領域に、1種以上のろう材例えば第1液相線温度を有する第1ろう材を適用し、その上に接点の接合領域を設置し、真空雰囲気下、第1液相線温度以上から通電軸および接点が溶融しない温度以下の温度でろう付けを行うことにより、通電軸、接点、通電軸と接点の間に設けられた第1接合層からなる第2接合構造を得ることができる。第2接合構造の第1接合層では、真空雰囲気下でろう付けを行うことにより、側面は、第1ろう材に含まれる金属成分の一部が蒸発して金属組成比が変わり、金属成分の他の一部がリッチな組成を有する第2接合部となる。中心部は第1ろう材の金属組成と同様の組成を有する第1接合部となる。側面と中心部の間は、第2接合部の組成から第1接合部の組成へ連続して変化する傾斜組成を有する第3接合部とすることができる。
【0024】
第2形成方法において、真空雰囲気下におけるろう付けの温度は、ろう材の液相線温度以上、通電軸および接点が溶融しない温度以下にすることができる。ろう付けの気圧は、10-5Pa~10-3Paにすることができる。
また、第1形成方法では、ろう付けの温度は、ろう材の液相線温度以上、通電軸および接点が溶融しない温度以下にすることができる。また、ろう付けの気圧は10-5Pa~101300(大気圧)Paにすることができる。
【0025】
以下、実施例を示し、実施形態をより具体的に説明する。
実施例
実施例1
図4に、実施例1に係る真空バルブの接合構造を表す模式的な断面図を示す。
図4に示すように、直径50mmの接合面34aを有する無酸素銅製の通電軸34と、直径50mmの接合面36aを有し、Cu合金(Cu75重量%-Cr25重量%)からなる接点36とを用意した。一対のスリット31として、接合面36aに同心円状のスリット31-1、及び接合面34aにスリット31-1に対向して同心円状のスリット31-2を設け、無酸素銅接合面34aのスリット31-2に収まる円筒形状のAl(アルミナ)材33を設置し、アルミナ材33よりも内側の無酸素銅接合面34aに、ろう材1としてCuAg合金(Cu28重量%-Ag72重量%)からなる共晶Agろう箔35-2(0.1mm)を設置し、ろう材2としてアルミナ材33よりも外側の平滑面にNi-P合金からなるNi-Pろう箔35-1(0.1mm)を設置した。共晶Agろう箔35-2の固相線温度、液相線温度はともに780℃、Ni-Pろう箔35-1の固相線温度、液相線温度はともに875℃である。Cu合金の接合面36aに設けたスリット31-1に無酸素銅側のアルミナ材33が収まるように設置し、真空雰囲気下、温度900℃、保持時間10分のろう付け処理を行い、通電軸34と、接点36と、通電軸34及び接点36間に設けられた第1接合層35とを有する接合構造123を有する電極23を得た。ろう付完了後に接点36と通電軸34との間の抵抗を測定したところ、得られた抵抗は、接点36と通電軸34の接合面と同様の接合面を全面共晶Agろうでろう付けした接合構造の抵抗値を抵抗の基準値とした場合、1.7倍程度であった。また、実施例1の接合構造を800℃で10分加熱したところ、Cu合金が無酸素銅から脱落することはなかった。なお、このような800℃で10分の加熱処理は、例えば共晶Agろう箔による2段目の接合に使用される処理と同様である。
得られた結果を下記表1に示す。
【0026】
実施例2
図5に、実施例2に係る真空バルブの接合構造を表す模式的な断面図を示す。
直径50mmの接合面44aを有する無酸素銅製の通電軸44と、直径50mmの接合面46aを有し、Cu合金(Cu75重量%-Cr25重量%)からなる接点46を用意した。図5に示すように、一対のスリット41として、接合面46aに同心円状のスリット41-1,及び接合面44aにスリット41-1に対向して同心円状のスリット41-2を設けた。無酸素銅接合面44aのスリット41よりも内側に、ろう材1として実施例1と同様の共晶Agろう箔45-2(0.1mm)を設置し、接合面44aのスリット41よりも外側にろう材2としてNi-Pろう箔45-1(0.1mm)を設置した。共晶銀ろう箔45-2の固相線温度、液相線温度はともに780℃、Ni-Pろう箔45-1の固相線温度、液相線温度はともに875℃である。Cu合金46に設けたスリット41-1と無酸素銅44側のスリット41-2が一致するように各接合面46a,44aを向かい合わせて設置し、真空雰囲気下、温度900℃、保持時間10分のろう付け処理を行い、通電軸44と、接点46と、通電軸44及び接点46間に設けられた第1接合層45とを有する接合構造124を有する電極24を得た。ろう付完了後に接点46と通電軸44との間の抵抗を測定したところ、実施例1の抵抗の基準値の1.7倍程度であった。また、実施例2の接合構造を800℃で10分加熱したところ、Cu合金が無酸素銅から脱落することはなかった。
得られた結果を下記表1に示す。
【0027】
実施例3
図6に、実施例3に係る真空バルブの接合構造を表す模式的な断面図を示す。
直径50mmの接合面54aを有する無酸素銅製の通電軸54と、直径50mmの接合面56aを有し、Cu合金(Cu75重量%-Cr25重量%)からなる直径50mmの接点56を用意した。図6に示すように、接合面54aにろう材として実施例1と同様の共晶Agろう箔を設置し、その上にCu合金56(Cu75重量%-Cr25重量%)の接合面56aを設置し、真空雰囲気下1050℃の温度で30分加熱し、ろう付け処理を行い、通電軸54と、接点56と、通電軸54及び接点56間に設けられた第1接合層55とを有する接合構造126を有する電極26を得た。ろう付け部の断面を電子顕微鏡で観察した。
【0028】
図7に、図6のろう付け部の断面の一部の電子顕微鏡写真を示す。
図8に、図6のろう付け部の断面の他の一部の電子顕微鏡写真を示す。
図7に示すように、真空雰囲気下でろう付けを行うことにより、共晶Agろうに含まれるAgの一部が蒸発し、側面はCuリッチな組成を持つ領域55-1(接合材料3)となり、図8に示すように、中心付近は共晶Agろうに近い組成を持つ領域55-2(接合材料1)、その間は接合材料1の組成から接合材料3の組成へと連続的に組成が変化する中間の組成を持つ領域55-3(接合材料2)となっていた。元素分析の結果、接合材料2は平均組成がAg5重量%-Cu95重量%、接合材料3は平均組成がAg20重量%-Cu80重量%、接合材料1は共晶組成(Ag28重量%-Cu72重量%)となっていた。
【0029】
図9に、Cu-Ag系平衡状態図を示す。
図中、131は液相線を示す。
状態図から固相線温度は、接合材料1及び接合材料3は780℃、接合材料2は900℃程度であり、液相線温度は、接合材料1は780℃、接合材料3は960℃、接合材料2は1050℃程度であることを確認した。この接合構造を800℃で10分加熱したがCu合金が無酸素銅から脱落することはなかった。通電軸54と接点56との間の抵抗を測定したところ、実施例1の基準値と同等であった。
得られた結果を下記表1に示す。
【0030】
実施例4
図10に、実施例4に係る真空バルブの接合構造を表す模式的な断面図を示す。
直径50mmの接合面64aを有する無酸素銅製の通電軸64と、直径50mmの接合面66aを有し、Cu合金(Cu75重量%-Cr25重量%)からなる接点66を用意した。
図10に示すように、一対のスリット61として、接合面64aに格子状のスリット61-2,及び接合面66aにスリット61-2に対向して格子状のスリット61-1を設けた。直径50mmの無酸素銅接合面およびCu合金(Cu75重量%-Cr25重量%)接合面に図10に示すように格子状のスリットを設けた。
【0031】
接合面64aのスリット61-2以外の部分となる領域62-2に実施例1と同様の共晶Agろう箔を設置し、領域62-2の上に、Cu合金の接合面66aのスリット61-1以外の部分となる領域62-1を位置合わせして設置した。真空雰囲気下1050℃で30分加熱してろう付けを行ない、接合構造127を有する電極27を得た。ろう付け部分の断面を電子顕微鏡で観察した。
【0032】
図11に、図10の一部を拡大して模式的に表す断面図を示す。
スリット61-2以外の部分となる領域62-2とスリット61-1以外の部分となる領域62-1の間の共晶Agろう箔25では、共晶Agろうに含まれるAgの一部が蒸発し、側面はCuリッチな領域25-1(接合材料2)となり、中心付近の領域25-3は共晶Agろうに近い組成(接合材料1)、その間の領域25-2は接合材料1の組成から接合材料2の組成へと連続的に組成が変化する中間の組成(接合材料3)となっていた。
元素分析の結果、接合材料2は平均組成がAg5重量%-Cu95重量%、接合材料3は平均組成がAg20重量%-Cu80重量%、接合材料1は共晶組成となっていた。
【0033】
また、図9の状態図から固相線温度は接合材料2、接合材料3が780℃、接合材料1が900℃程度となり、液相線温度は、接合材料1は780℃、接合材料3は960℃、接合材料2は1050℃程度であることを確認した。本接合体を800℃で10分加熱したがCu合金が無酸素銅から脱落することはなかった。
接点66と通電軸64との間の抵抗を測定したところ、実施例1の抵抗の基準値と同等であった。
得られた結果を下記表1に示す。
【0034】
実施例5
直径50mmの接合面を有する無酸素銅製の通電軸と、直径50mmの接合面を有し、Cu合金(Cu75重量%-Cr25重量%)からなる直径50mmの接点を用意した。
無酸素銅接合面にろう材としてCu50重量%-Bi50重量%のろう材箔を設置し、その上に接点のCu合金を設置し、真空雰囲気下900℃で30分加熱することによりろう付けを行ない、接合構造を得た。ろう付け部の断面を電子顕微鏡で観察したところ、図6に示す接合構造と同様に、Cu50重量%-Bi50重量%合金に含まれるBiの一部が蒸発し、側面はCuリッチな領域(接合材料2)となり、中心付近は初期組成に近い組成を持つ領域(接合材料1)、その間は接合材料1の組成から接合材料3の組成へと連続的に組成が変化する中間の組成を持つ領域(接合材料3)となっていた。元素分析の結果、接合材料2はほぼCu単相、接合材料3は平均組成がCu80重量%-Bi20重量%、接合材料1は初期のCu50重量%-Bi50重量%組成となっていた。
【0035】
図12に、Cu-Bi系平衡状態図の一例を示す。
図中、132は液相線を示す。
状態図から固相線温度は接合材料1、接合材料3が300℃、接合材料2が1080℃程度となり、液相線温度は、接合材料1は900℃、接合材料3は1000℃、接合材料2は1080℃程度であることを確認した。また、接点と通電軸との間の抵抗を測定したところ、同様の接点と通電軸を共晶銀ろうで全面ろう付けした場合と同程度であった。
この接合構造を800℃で10分加熱したがCu合金が無酸素銅から脱落することはなかった。
得られた結果を下記表1に示す。
【0036】
実施例6
ろう材として、Cu50重量%-Bi50重量%のろう材箔の代わりにCu50重量%-Zn50重量%のろう材箔を使用すること以外は実施例5と同様にして、無酸素銅製の通電軸とCu合金(Cu75重量%-Cr25重量%)製の接点のろう付けを行ない、接合構造を得た。ろう付け部の断面を電子顕微鏡で観察したところ、図6に示す接合構造と同様に、Cu50重量%-Zn50重量%合金に含まれるZnの一部が蒸発し、側面はCuリッチな領域(接合材料2)となり、中心付近は初期組成に近い組成(接合材料1)、その間は接合材料1の組成から接合材料3の組成へと連続的に組成が変化する中間の組成(接合材料3)となっていた。元素分析の結果、接合材料2はCu90重量%-Zn10重量%、接合材料3は平均組成がCu60重量%-Zn40重量%、接合材料1は初期の組成となっていた。
【0037】
図13に、Cu-Zn系平衡状態図の一例を示す。
図中、133は液相線を示す。
状態図から固相線温度は接合材料2が1030℃程度、接合材料3が890℃程度、接合材料1が870℃程度となっており、液相線温度は、接合材料2が1050℃程度、接合材料3が900℃程度、接合材料1が850℃程度となっていることを確認した。また、接点と通電軸との間の抵抗を測定したところ、同様の接点と通電軸を共晶銀ろうで全面ろう付けした場合と同程度であった。この接合構造を800℃で10分加熱したがCu合金が無酸素銅から脱落することはなかった。
得られた結果を下記表1に示す。
【0038】
比較例1
直径50mmの無酸素銅製の通電軸と直径50mmのCu合金(Cu75重量%-Cr25重量%)接点とをNi-Pろうペーストを介して接合した。真空雰囲気下で、到達温度900℃、保持時間10分のろう付け処理を行ない、接合構造を得た。ろう付完了後に接点と通電軸との間の抵抗を測定したところ、実施例1の抵抗の基準値の20倍程度であった。また、この接合構造を800℃で10分加熱したがCu合金が無酸素銅から脱落することはなかった。
【0039】
比較例2
直径50mmの無酸素銅製の通電軸と直径50mmのCu合金(Cu75重量%-Cr25重量%)接点とを共晶銀ろう箔を介して接合した。真空雰囲気下で、到達温度900℃、保持時間10分でろう付け処理を行ない、接合構造を得た。ろう付完了後に接点と通電軸との間の抵抗を測定したところ、十分な抵抗値が得られた。なお、各実施例は、この抵抗値を基準値として抵抗値を比較した。この接合構造を800℃で10分加熱したところCu合金が無酸素銅から脱落した。
得られた結果を下記表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
表1に示すように、実施例1~6の接合構造では、高温における接合層の溶け落ちを防止し、接合層の抵抗値の増加を防ぐことができる。
実施例1~実施例6に接点として使用されるCu合金としては他の組み合わせ例えばCu-50重量%W-1重量%Sb,Cu-60重量%Mo-2重量%Cr,Cu-40重量%Mo-1重量%Cr,Cu-25重量%Cr,Cu-50重量%Cr,あるいはCu-65重量%Crなど適用可能である。また、それ以外にも母材として任意の材料を用いることができる。
また、実施例1,実施例2に関してはろう材1とろう材2の組み合わせとして下記表2に示すような組み合わせも適用可能である。また、下記以外にも請求項を満たす範囲で任意の接合材料を用いることができる。
【0042】
【表2】
【0043】
表2中、Bal.は、残部を示す。
なお、上記実施例では、第1母材が電極、第2母材が通電軸である真空バルブの接合構造について示しているが、第1母材と第2母材の接合構造は、真空バルブ以外に使用することもできる。
【0044】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0045】
1…絶縁容器、4、9、34、44、54、64…通電軸、4a,9a…第2接合領域、5、25、35、45、55…第1接合層、4a-1、9a-1…第2部分、4a-2、9a-2…第4部分、5-1、8-1…第1接合部、5-2、8-2…第2接合部、6、7、36、46、56、66…接点、6a,7a…第1接合領域、6a-1、7a-1…第1部分、6a-2、7a-2…第3部分、21、22、24、26、27…電極、100…真空バルブ、121、122、126、127…接合構造
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13