(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134364
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】対向ピストンエンジンおよび車両
(51)【国際特許分類】
F02B 75/28 20060101AFI20240926BHJP
F02B 75/32 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
F02B75/28 B
F02B75/32 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044624
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】京徳 信夫
(57)【要約】
【課題】燃焼効率が更に向上した対向ピストンエンジンおよびこの対向ピストンエンジンを備えた車両を提供する。
【解決手段】本開示の対向ピストンエンジンは、一対のピストンが一つのシリンダ内において互いに近接と離間する方向に往復動する対向ピストンエンジンであって、ピストンと連結されたコンロッドと、コンロッドと連結されたクランクシャフトと、クランクシャフトと連結された出力軸と、クランクシャフトを回転可能に支持するクランクベアリングと、クランクベアリングを出力軸に対して移動させる可変クランク機構と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のピストンが一つのシリンダ内において互いに近接と離間する方向に往復動する対向ピストンエンジンであって、
前記ピストンと連結されたコンロッドと、
前記コンロッドと連結されたクランクシャフトと、
前記クランクシャフトと連結された出力軸と、
前記クランクシャフトを回転可能に支持するクランクベアリングと、
前記クランクベアリングを前記出力軸に対して移動させる可変クランク機構と、
を含む対向ピストンエンジン。
【請求項2】
前記可変クランク機構は、
前記クランクベアリングの一部が挿入されて前記クランクベアリングの可動範囲を規制する規制溝と、
前記規制溝に挿入された前記クランクベアリングの位置を移動又は固定するベアリング保持部材と、を含んで構成されてなる、請求項1に記載の対向ピストンエンジン。
【請求項3】
前記コンロッドは、前記一対のピストンのうちの一方に対応する第1コンロッドと、前記一対のピストンのうちの他方に対応する第2コンロッドと、を含み、
前記クランクシャフトは、前記第1コンロッドに連結された第1クランクシャフトと、前記第2コンロッドに連結された第2クランクシャフトと、を含み、
前記クランクベアリングは、前記第1クランクシャフトを支持する第1クランクベアリングと、前記第2クランクシャフトを支持する第2クランクベアリングと、を含み、
前記可変クランク機構は、
前記第1クランクベアリングを移動させる第1可変クランク機構と、前記第2クランクベアリングを移動させる第2可変クランク機構と、を含んでなる、請求項2に記載の対向ピストンエンジン。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の対向ピストンエンジンと、
前記対向ピストンエンジンの第1可変クランク機構および第2可変クランク機構をそれぞれ制御する制御装置と、を含む車両
【請求項5】
前記制御装置は、前記規制溝における前記第1クランクベアリングの移動量と、前記規制溝における前記第2クランクベアリングの移動量と、を互いに独立して調整する、請求項4に記載の車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、内燃機関、特にシリンダを対向配置する対向ピストンエンジンとそれを搭載する車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ガソリンの燃焼を用いた内燃機関の一形態として、特許文献1や特許文献2に例示される対向ピストンエンジンが知られている。かような対向ピストンエンジンは、1つのシリンダ内において互いに中心から近接又は離間するピストンを備えている。
【0003】
より具体的に対向ピストンエンジンでは、特許文献1に例示されるように、水平横向きに配置されたシリンダ内において、ヘッドが互いに対峙した状態でピストンを直線的に往復動するように構成される。このように構成されたシリンダ内ではピストンヘッドの対峙した中間部が燃焼室となり、燃料と空気の混合ガスがこの燃焼室に適時に供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-193994号公報
【特許文献2】特開2019-183732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように対向ピストンエンジンは1つのシリンダ内を2つのピストンが近接又は離間するため振動も少なく燃焼効率も高いという特性を備えているものの、現在のエンジン形態に置き換わるには燃焼エネルギーの効率も含めた更なる性能の向上が希求されている。
【0006】
本開示は、上記した課題を一例に鑑みて為されたものであり、燃焼効率が更に向上した対向ピストンエンジンおよびこの対向ピストンエンジンを備えた車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本開示の一形態における対向ピストンエンジンは、一対のピストンが一つのシリンダ内において互いに近接と離間する方向に往復動する対向ピストンエンジンであって、前記ピストンと連結されたコンロッドと、前記コンロッドと連結されたクランクシャフトと、前記クランクシャフトと連結された出力軸と、前記クランクシャフトを回転可能に支持するクランクベアリングと、前記クランクベアリングを前記出力軸に対して移動させる可変クランク機構と、を含む。
また、上記課題を解決するため、本開示の一形態における車両は、上記した対向ピストンエンジンと、前記対向ピストンエンジンの第1可変クランク機構および第2可変クランク機構をそれぞれ制御する制御装置と、を含む。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、上記した可変クランク機構によってクランクシャフトが最適な位置に制御されるため、燃焼効率が更に向上した対向ピストンエンジンおよびこの対向ピストンエンジンを備えた車両を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係る対向ピストンエンジンを備えた車両の構成例を示す模式図である。
【
図2】実施形態に係る対向ピストンエンジンの構造の一部を抜粋して示した模式図である。
【
図3】実施形態に係る制御装置とその周辺装置の機能ブロックを示す模式図である。
【
図4】実施形態に係る対向ピストンエンジンの制御方法を示すフローチャートである。
【
図5】エンジン回転数の推移とクランクシャフトの状態との関係(一例)を示したグラフである。
【
図6】実施形態に係るクランクシャフトの状態遷移を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に本開示の車両を実施するための好適な実施形態について説明する。なお本開示に直接関係のない要素や構造に関する図示は適宜省略する場合がある。従って以下で詳述する対向ピストンエンジンの構成以外のエンジン構造や車両構造については、例えば上記した特許文献を含む公知の対向ピストンエンジンの機構など公知の構造を適宜補完して実施してもよい。
【0011】
[車両200]
図1に、本開示の対向ピストンエンジン100及び当該対向ピストンエンジン100を備えた車両200の要部を示す。なお本開示に好適な車両200としては、後述する対向ピストンエンジン100が搭載された四輪自動車が例示できる。
【0012】
なお本開示の車両200は、上記した四輪自動車に限られず、二輪自動車その他の自動車や、対向ピストンエンジンを搭載可能な公知の種々の車両であってもよい。また、車両200が四輪自動車である場合、その駆動方式は前輪又は後輪駆動の他に全輪駆動であってもよい。また、以下では対向ピストンエンジン100について詳述するが、車両200に搭載されるトランスミッションやバッテリーなどは、上述した特許文献を含む公知の機構を適宜補完して実施してもよい。
【0013】
また、
図3に例示するように、車両200は、車外に設けられたサーバーや他車と情報通信可能な公知の通信装置CD、情報を一次的に保持可能な公知のメモリやHDDあるいはSSDなどの記憶装置MR、および公知の車載スピーカSPや車載ディスプレイDPを含む報知装置PDなどを含んで構成されていてもよい。
【0014】
また、車両200は、それぞれ公知のセンサ類SRを含んで構成されていてもよい。かようなセンサ類SRとしては、
図3に例示されるように、エンジンの回転数情報を取得可能な回転数センサSR
1、後述する規制溝61内におけるクランクベアリング50の位置情報を取得可能なベアリング位置検出センサSR
2、車両200の速度情報を取得可能な車速センサSR
3、および車両200の加速度情報を取得可能な加速度センサSR
4などが例示できる。なおベアリング位置検出センサSR
2としては、クランクベアリング50の位置を例えば光学的に検出可能な公知の光学センサが適用できる。また、センサ類SRとしては、上記以外にも、例えば角速度センサ、舵角センサ、アクセルペダルセンサ及びブレーキペダルセンサを含む公知の車載センサを含んでいてもよい。
【0015】
[対向ピストンエンジン100]
次に
図2も参照しつつ、実施形態に係る対向ピストンエンジン100の詳細な構造について説明する。同図に示すように、対向ピストンエンジン100は、一対のピストン10が一つのシリンダ20内において互いに近接と離間するシリンダ軸線方向に往復動するように構成されてなる。
【0016】
より具体的に本実施形態の対向ピストンエンジン100は、コンロッド30、クランクシャフト40、クランクベアリング50、および可変クランク機構60などを含んで構成されている。なお上記したクランクシャフト40は、
図2に示すように、後述する出力系70を構成する出力軸71に連結されている。従って、1つのシリンダ20内に設置された2つのピストン10(後述する第1ピストン10Aおよび第2ピストン10B)の往復運動がコンロッド30やクランクシャフト40を介して出力軸71に伝達される。この出力軸71を介して取り出された運動エネルギーは、公知のトランスミッションやベルトなどを通じて各種の車載装置や車載機構に伝達される。
【0017】
対向ピストンエンジンに搭載可能なコンロッド30は、上記ピストン10と連結されてなる。本実施形態のコンロッド30は、例えば対向ピストンエンジンに適用可能な公知のコンロッドが適用でき、
図2に示すように、一対のピストン10のうちの一方(第1ピストン10A)に対応する第1コンロッド30Aと、この一対のピストン10のうちの他方(第2ピストン10B)に対応する第2コンロッド30Bと、を含んで構成されている。
【0018】
対向ピストンエンジンに搭載可能なクランクシャフト40は、上記したコンロッド30と連結され、ピストン10の往復運動を回転運動に変換する機能を有して構成されている。本実施形態のクランクシャフト40は、対向ピストンエンジンに適用可能な公知のシャフトが適用でき、
図2に示すように、前記した第1コンロッド30Aに連結された第1クランクシャフト40Aと、前記した第2コンロッド30Bに連結された第2クランクシャフト40Bと、を含んで構成されている。
【0019】
対向ピストンエンジンに搭載可能なクランクベアリング50は、前記したクランクシャフト40を回転可能に支持する機能を有して構成されている。本実施形態のクランクベアリング50は、例えばクランクシャフトを保持可能な公知のベアリングが適用でき、
図2に示すように、前記した第1クランクシャフト40Aを支持する第1クランクベアリング50Aと、前記した第2クランクシャフト40Bを支持する第2クランクベアリング50Bと、を含んで構成されている。
【0020】
可変クランク機構60は、前記したクランクベアリング50を前記した出力軸71に対して移動させる機能を有して構成されている。より具体的に本実施形態の可変クランク機構60は、
図2に示すように、後述する固定歯車72の中心から半径Rの円周上に沿ってクランクベアリング50を移動させる。同図に示すように、本実施形態の対向ピストンエンジン100では、クランクシャフト40をシリンダ20の軸線CLに対してオフセットして配置することを基調としつつ、さらにこのクランクシャフト40の上記オフセットの量を可変クランク機構60によって任意のタイミングで可変している。これにより本実施形態の対向ピストンエンジン100では、燃焼効率や静粛性の更なる向上のみならず、燃焼制御の自由度も向上させることでドライバーのアクセルワークに応じた最適なクランクシャフトやコンロッドの運動状態を実現できる。
【0021】
より具体的に本実施形態の可変クランク機構60は、
図2に示すように、前記した第1クランクベアリング50Aを移動させる第1可変クランク機構60Aと、前記した第2クランクベアリング50Bを移動させる第2可変クランク機構60Bと、を含んで構成されている。
【0022】
また、第1可変クランク機構60Aおよび第2可変クランク機構60Bは、
図2に示すように、それぞれクランクベアリング50の一部が挿入されて当該クランクベアリング50の可動範囲を規制する規制溝61と、この規制溝61に挿入されたクランクベアリング50の位置を移動又は固定するベアリング保持部材62と、を含んで構成されてなる。なお、ベアリング保持部材62の具体的な構成としては、例えば耐熱性に優れた公知の鋼材などで部分的に補強されてクランクベアリングを保持可能な油圧シリンダや電動モータなど公知の昇降機構が例示できる。
【0023】
出力系70は、上記したコンロッド30及びクランクシャフト40を介して得られたピストンの運動エネルギーを、車載される他の装置や機構に供給する機能を有して構成されている。より具体的に本実施形態の出力系70は、上記した出力軸71と、クランクシャフト40と出力軸71と噛み合うようにこれらの間に介在してクランクシャフト40の動力を出力軸71に伝達する固定歯車72と、を含んで構成されている。
【0024】
なお
図2から理解されるとおり、本実施形態の出力軸71は、一対のピストン10が往復運動するシリンダ20のほぼ中央に設置されている。従って、出力系70を構成する固定歯車72は、上記した第1クランクシャフト40Aに対応する第1固定歯車72Aと、上記した第2クランクシャフト40Bに対応する第2固定歯車72Bと、を含んで構成されている。このように第1固定歯車72Aおよび第2固定歯車72Bが介在することで、一対のクランクシャフト40からの動力が同期して出力軸71に伝達される。換言すれば、本実施形態の出力軸71は、上記したシリンダ軸線方向に関してシリンダ20の中央部に設置され、上記した固定歯車72を介してクランクシャフト40に連結されていると言える。
【0025】
制御装置80は、前述した前記対向ピストンエンジン100における第1可変クランク機構60Aおよび第2可変クランク機構60Bをそれぞれ制御する機能を有して構成されている。なお本実施形態の制御装置80は、後述するように、規制溝61における第1クランクベアリング50Aの移動量と、規制溝61における第2クランクベアリング50Bの移動量と、を互いに独立して調整することが好ましい。
【0026】
かような制御装置80は、車載されるECU(電子制御ユニット)として構成されてもよく、例えばCPU(Central Processing Unit)等の一つ又は複数のプロセッサと、当該プロセッサと通信可能に接続されたRAM(Random Access Memory)又はROM(Read Only Memory)等の一つ又は複数のメモリを備えて構成されていてもよい。このように制御装置80は、一つ又は複数のプロセッサがコンピュータプログラムを実行することで、上述の可変クランク機構60や他の車載装置を制御する制御装置として機能できる。
【0027】
当該コンピュータプログラムは、制御装置80が実行すべき動作をプロセッサに実行させるためのコンピュータプログラムである。プロセッサにより実行されるコンピュータプログラムは、制御装置80に備えられた不図示の記憶部(メモリ)として機能する記録媒体に記録されていてもよく、制御装置80に内蔵された記録媒体又は制御装置80に外付け可能な公知の記録媒体に記録されていてもよく、あるいは車両200の外部から公知のネットワークNTを介してダウンロード可能に構成されていてもよい。
【0028】
なおコンピュータプログラムを記録する記録媒体としては、ハードディスク、フロッピーディスク及び磁気テープ等の磁気媒体、CD-ROM(Compact Disk Read Only Memory)、DVD(Digital Versatile Disk)及びBlu-ray(登録商標)等の光記録媒体、フロプティカルディスク等の磁気光媒体、RAM及びROM等の記憶素子、及びUSB(Universal Serial Bus)メモリ等のフラッシュメモリ、SSD(Solid State Drive)、その他のプログラムを格納可能な媒体であってよい。
【0029】
[制御装置80]
次に
図3を参照しつつ、本実施形態の制御装置80について説明する。図示されるとおり、本実施形態における制御装置80は、上記した通信装置CDやセンサ類SRなどと電気的に接続され、エンジン回転数取得部81、トルク計測部82、クランクベアリング調整部83、および報知制御部86などを含んで構成されている。
【0030】
(エンジン回転数取得部)
エンジン回転数取得部81は、対向ピストンエンジン100の回転数を計測する機能を有する。エンジン回転数取得部81は、上記した回転数センサSR1を介して対向ピストンエンジン100の回転数情報を取得することができる。
【0031】
(トルク計測部)
トルク計測部82は、対向ピストンエンジン100のトルクを計測する機能を有する。トルク計測部82は、例えば回転数センサSR1を介して取得したエンジン回転数に基づいて、公知の算出式を用いて対向ピストンエンジン100のトルクを計測することができる。
【0032】
(クランクベアリング調整部)
クランクベアリング調整部83は、上記したクランクシャフト40を保持するクランクベアリング50の規制溝61内における位置を調整する機能を有する。本実施形態のクランクベアリング調整部83は、図示されるとおり、ベアリング位置検出部84と、ベアリング位置移動部85と、を含んで構成されている。
【0033】
このうちベアリング位置検出部84は、上記したベアリング位置検出センサSR2を介してクランクベアリング50の規制溝61内における位置を検出するように構成されている。また、ベアリング位置移動部85は、ベアリング保持部材62を介してクランクベアリング50の位置を移動または保持するように構成されている。
【0034】
報知制御部86は、上記した報知装置PDを介して、例えば上記した燃焼効率に関する情報など必要に応じてドライバーなどの車両200に搭乗するユーザに報知する機能を有して構成されている。なお報知制御部86は、上記した燃焼効率に関する情報などを、報知装置PDに代えて乗員が所持するスマートフォンなどの外部端末に表示させてもよい。
【0035】
次に
図4~6も参照しつつ、本実施形態における対向ピストンエンジン100の制御方法について説明する。なお、当該制御方法は、例えば上記した制御装置80によって実行され得る。当該制御方法は、コンピュータが読み取り可能なプログラムのアルゴリズムとして用いられてもよい。かようなアルゴリズムを有するプログラムは、例えば公知のネットワークを介して車両200の上記記憶装置MRにダウンロード可能に流通したり、記録媒体に格納された形で流通し得る。
【0036】
以下では、例えばユーザが車両200のイグニッションスイッチをONにして所望の目的地に向けて出発するケースを例にして説明する。
まずステップ10において、車両200に搭載された制御装置80は、対向ピストンエンジン100が始動したか否かを判定する。ステップ10でエンジンが未だ始動していない場合、ステップ14に移行する。
【0037】
なおステップ14では、上記したイグニッションスイッチが切られるなどして車両200のシステムがOFFとなったか否かが判定される。ステップ14でシステムが未だOFFとなっていない場合には上記したステップ10に戻ってステップ10以降の処理を繰り返す一方で、ステップ14でシステムが未だOFFとなった場合には処理を完了する。
【0038】
ステップ10でエンジンが始動した場合には、次いでステップ11に移行する。ステップ11では、制御装置80のエンジン回転数取得部81は、上記した回転数センサSR1を介して対向ピストンエンジン100の回転数情報を取得する。
【0039】
次いでステップ12では、制御装置80のクランクベアリング調整部83は、例えば対向ピストンエンジン100の回転数に応じた最適なクランクベアリング50の位置情報を取得する。一例として、
図5に対向ピストンエンジン100の回転数と、その回転数に適したクランクベアリング50の状態と、の関係を示す。上述したとおり、対向ピストンエンジン100の回転数によっては、クランクベアリング50の最適な位置(すなわちシリンダ20の軸線CLに対するクランクベアリング50のオフセットの量)が異なり得る。
【0040】
一例として、
図5及び
図6に示すように、アイドリング時に相当するエンジン回転数r1から、回転数r2までの低速(例えば5~20km/h)域について、クランクベアリング50の位置は、
図6(a)に示す第1状態ST1となるように調整し得る。同様に、例えばエンジン回転数がr2~r3までの中速(21~50km/h)域において、クランクベアリング50の位置は、
図6(b)に示す第2状態ST2となるように調整し得る。同様に、例えばエンジン回転数がr3を超える高速(51km/h以上)域において、クランクベアリング50の位置は、
図6(c)に示す第3状態ST3となるように調整し得る。
なお
図5に示す第1状態ST1~第3状態ST3は一例であって、より細かい回転数の区分に応じて更に細分化されたクランクベアリング50の位置を設定してもよい。
【0041】
かような対向ピストンエンジン100の回転数と、その回転数に適したクランクベアリング50の状態と、の関係は、有限の実験またはシミュレーションによって事前に規定することができる。また、この対向ピストンエンジン100の回転数とクランクベアリング50の状態との関係を示す情報は、上記した記憶装置MRに保持されていてもよいし、通信装置CDおよびネットワークNTなどを介して車外のサーバー(不図示)などから車両200にダウンロードされる形態であってよい。
【0042】
また、本実施形態では、
図5に例示するように、対向ピストンエンジン100の回転数とその回転数に適したクランクベアリング50の状態との関係を規定しているが、この形態に限られない。すなわち、制御装置80は、例えば対向ピストンエンジン100のトルクと、そのトルクを発揮するのに適したクランクベアリング50の状態と、の関係を予め実験又はシミュレーションで求めておき、この関係を用いて可変クランク機構60を介してクランクベアリング50の位置を調整してもよい。
【0043】
そして制御装置80のクランクベアリング調整部83は、例えば上記した対向ピストンエンジン100の回転数とその回転数に適したクランクベアリング50の状態との関係を示す情報に基づいて、そのエンジン回転数に適したクランクベアリング50の状態を選択して可変クランク機構60を制御する。このとき、制御装置80は、上記した第1クランクベアリング50Aが設置される規制溝61における当該第1クランクベアリング50Aの移動量(上記オフセットの量)と、第2クランクベアリング50Bが設置される規制溝61における当該第2クランクベアリング50Bの移動量(上記オフセットの量)と、を互いに独立して調整してもよい。
【0044】
従って
図5に示すように、エンジン始動から対向ピストンエンジン100の回転数は刻一刻と変化するが、制御装置80は、刻々と変化するエンジン回転数に適したクランクベアリング50の位置を設定し得る。これにより本実施形態の対向ピストンエンジン100を備えた車両200によれば、上記した可変クランク機構60によってクランクベアリング50の位置(換言すればコンロッド30と連結されたクランクシャフト40の位置)が最適な位置に制御されるため、燃焼効率を更に向上させることができる。
【0045】
また、本実施形態の可変クランク機構60は、クランクベアリング50の位置を左右のピストンで独立して調整できる。そのため、可変クランク機構60は、例えば燃焼室23の位置を軸線CLに沿って圧縮比を変えずにシフトさせることもできる。これにより、例えばエンジンの運転条件(例えば回転数や負荷など)および吸気管21や排気管22の形状によって変動する燃焼室23内に流入する燃料混合気体の流れ(スワールなどとも称される)を適正化することも可能となる。
【0046】
ステップ12でクランクベアリング50の位置を調整した後は、ステップ13に移行する。すなわちステップ13において、制御装置80は、エンジンが停止したか否かを判定する。そしてステップ13で対向ピストンエンジン100が未だ停止していないときは、ステップ11に戻って上記したステップ11からの処理を繰り返す。一方、ステップ13で対向ピストンエンジン100が停止した場合には、上述したとおりステップ14に移行してシステムがOFFとなったか否かを判定する。
【0047】
以上、添付図面を参照しながら本開示の好適な実施形態について詳細に説明したが、本開示はかかる例に限定されない。本開示の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、これら実施形態や変形例に対して更なる修正を試みることは明らかであり、これらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0048】
10:ピストン、20:シリンダ、30:コンロッド、40:クランクシャフト、50:クランクベアリング、60:可変クランク機構、70:出力系、80:制御装置、100:対向ピストンエンジン、200:車両