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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134365
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】静電容量センサシステム
(51)【国際特許分類】
   G01B 7/00 20060101AFI20240926BHJP
【FI】
G01B7/00 101C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044625
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(74)【代理人】
【識別番号】100202728
【弁理士】
【氏名又は名称】三森 智裕
(72)【発明者】
【氏名】河合 康平
【テーマコード(参考)】
2F063
【Fターム(参考)】
2F063AA22
2F063BA08
2F063HA01
2F063HA04
(57)【要約】
【課題】静電容量を検出することによって対象者の接近または接触を判定する場合に、判定の精度を向上することが可能な静電容量センサシステムを提供する。
【解決手段】この静電容量センサシステム100は、センサ回路部による検出結果に基づいて静電容量の変化による微分値を算出する。そして、静電容量センサシステム100は、算出された微分値が上限積算しきい値よりも大きい場合、または、下限積算しきい値よりも小さい場合に、算出された微分値を積算することによって積算値を算出する。そして、静電容量センサシステム100は、算出された積算値に基づいて、対象者の接近または接触を判定する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の接近または接触により変化する静電容量を検出するセンサ回路部と、
前記センサ回路部により検出された前記静電容量に基づいて、前記対象者の接近または接触を判定する判定部と、を備え、
前記判定部は、
前記センサ回路部による検出結果に基づいて前記静電容量の変化による微分値を算出し、
算出された前記微分値が正側である所定の上限積算しきい値よりも大きい場合、または、負側である所定の下限積算しきい値よりも小さい場合に、算出された前記微分値を積算することによって積算値を算出し、
算出された前記積算値に基づいて、前記対象者の接近または接触を判定する、静電容量センサシステム。
【請求項2】
前記センサ回路部は、電極部材に接続されており、前記電極部材に対する前記対象者の接近または接触により変化する前記静電容量を検出し、
前記上限積算しきい値は、前記対象者の接近または接触に起因する前記静電容量の変化による前記微分値よりも小さく、かつ、前記電極部材の周囲の温度上昇に起因する前記静電容量の変化による前記微分値よりも大きくなるように設定され、
前記下限積算しきい値は、前記対象者の非接近または非接触に起因する前記静電容量の変化による前記微分値よりも大きく、かつ、前記電極部材の周囲の温度下降に起因する前記静電容量の変化による前記微分値より小さくなるように設定される、請求項1に記載の静電容量センサシステム。
【請求項3】
前記判定部は、
前記積算値が所定の判定しきい値よりも小さいことに基づいて、前記対象者が前記センサ回路部に接続された電極部材から離間している離間状態であると判定し、
前記積算値が前記判定しきい値以上であることに基づいて、前記対象者が前記センサ回路部に接続された前記電極部材に接近または接触している近接状態であると判定し、
前記離間状態であると判定された場合には、前記積算値をリセットする、請求項1または2に記載の静電容量センサシステム。
【請求項4】
前記センサ回路部は、車両に搭載されるステアリング機構において前記対象者により把持されるハンドル部材に配置されている電極部材に接続されており、
前記判定部は、前記積算値に基づいて前記対象者の接触を判定することによって、前記対象者による前記ハンドル部材の把持状態と、前記ハンドル部材の非把持状態とを判定する、請求項1または2に記載の静電容量センサシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電容量センサシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、静電容量センサシステムが知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、静電容量の変化によって人の接近を検出するシステムが記載されている。このシステムは、人の車両ドアへの接近を、ドアハンドルに設けられたセンサ電極により検出する。ドアハンドルを握る動作によってセンサ電極に対して人の手が接近した場合には、センサ電極により検出される静電容量が変化する。上記特許文献1に記載のシステムでは、静電容量の変化量に基づいて、人の接近が検出される。すなわち、上記特許文献1に記載のシステムは、静電容量の変化による微分値に基づいて、人の接近を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3714129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上記特許文献1に記載のシステムでは、静電容量の変化による微分値に基づいて、センサの電極部材に対する人体(対象者)の接近または接触が判定される。この場合には、対象者の接近または接触する部位の大きさが変化した場合に、対象者の接近または接触の誤判定が生じることが考えられる。たとえば、対象者の手指が接触しているか否かを静電容量の変化量(微分値)に基づいて判定する場合において、接触させる指の本数を5本から3本に変更させるような動作が行われた場合には、静電容量が比較的大きく変化するため静電容量の微分値が比較的大きくなる。このため、接触させる指の本数が変更された場合にも、手指の全体が電極部材から離間されたと誤判定される場合があると考えられる。また、上記特許文献1には記載されていないが、静電容量の微分値ではなく、静電容量そのものの値の大きさに基づいて、対象者の接近または接触を判定する場合が考えられる。この場合において、入力電圧の変化、または、温度変化などの外乱に起因して静電容量の値が変化する場合に、対象者の接近または接触を正確に判定することが困難となることが考えられる。たとえば、対象者の手指が接触しているか否かを静電容量の値に基づいて判定する場合において、手指が接触している状態で電極部材の温度が上昇した場合には、検出される静電容量が増加する場合がある。このため、温度の上昇により検出される静電容量の値が大きくなることに起因して、手指を離間させた場合にも手指が接触している状態であると誤判定される場合があると考えられる。これらのように、静電容量を検出することによって対象者の接近または接触を判定する場合に、判定の精度を向上させることが望まれている。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、静電容量を検出することによって対象者の接近または接触を判定する場合に、判定の精度を向上することが可能な静電容量センサシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明の一の局面における静電容量センサシステムは、対象者の接近または接触により変化する静電容量を検出するセンサ回路部と、センサ回路部により検出された静電容量に基づいて、対象者の接近または接触を判定する判定部と、を備え、判定部は、センサ回路部による検出結果に基づいて静電容量の変化による微分値を算出し、算出された微分値が正側である所定の上限積算しきい値よりも大きい場合、または、負側である所定の下限積算しきい値よりも小さい場合に、算出された微分値を積算することによって積算値を算出し、算出された積算値に基づいて、対象者の接近または接触を判定する。
【0008】
この発明の一の局面による静電容量センサシステムでは、上記のように、センサ回路部による検出結果に基づいて静電容量の変化による微分値を算出し、算出された微分値が正側である所定の上限積算しきい値よりも大きい場合、または、負側である所定の下限積算しきい値よりも小さい場合に、算出された微分値を積算することによって積算値を算出し、算出された積算値に基づいて、対象者の接近または接触を判定する。これにより、静電容量の微分値を積算することにより算出された積算値に基づいて対象者の接近または接触を判定することによって、静電容量の全体的な大きさの変化を検出することができる。そのため、対象者の接近または接触する部位の大きさが部分的に変化する場合と、全体的に変化する場合とを区別することができるので、対象者の接近または接触の誤判定を抑制することができる。また、この発明の一の局面による静電容量センサシステムでは、上記のように、算出された微分値が正側である所定の上限積算しきい値よりも大きい場合、または、負側である所定の下限積算しきい値よりも小さい場合に、算出された微分値を積算することによって積算値を算出する。これにより、温度変化などの外乱に起因する静電容量の変化量は、対象者の接触または接近と離間とによる静電容量の変化量に比べて小さいため、所定の上限積算しきい値よりも大きい場合、または、所定の下限積算しきい値よりも小さい場合に微分値を積算することによって、温度変化などの外乱に起因する静電容量の変化による影響が含まれないように、対象者の接近または接触を判定するための積算値を算出することができる。そのため、温度変化などの外乱に起因する静電容量の変化が生じている場合にも、対象者の接近または接触の誤判定を抑制することができる。これらの結果、静電容量を検出することによって対象者の接近または接触を判定する場合に、判定の精度を向上することができる。
【0009】
上記一の局面による静電容量センサシステムにおいて、好ましくは、センサ回路部は、電極部材に接続されており、電極部材に対する対象者の接近または接触により変化する静電容量を検出し、上限積算しきい値は、対象者の接近または接触に起因する静電容量の変化による微分値よりも小さく、かつ、電極部材の周囲の温度上昇に起因する静電容量の変化による微分値よりも大きくなるように設定され、下限積算しきい値は、対象者の非接近または非接触に起因する静電容量の変化による微分値よりも大きく、かつ、電極部材の周囲の温度下降に起因する静電容量の変化による微分値より小さくなるように設定される。なお、「電極部材の周囲の温度変化」とは、電極部材に接する部材の温度変化、および、電極部材に接する空気の温度変化に加えて、電極部材自身の温度変化をも含む広い概念として記載している。また、ここで言う「非接近または非接触に起因する静電容量の変化」とは、接触または接近した状態から離間した状態へと変化することに起因する静電容量の変化を意味する。
【0010】
このように構成すれば、温度変化に起因する静電容量の変化による微分値を積算せずに、対象者の接近または接触に起因する静電容量の変化による微分値と非接近または非接触に起因する静電容量の変化による微分値とを積算するように積算値を算出することができる。そのため、センサ回路部に接続されている電極部材の周囲の温度変化に起因して積算値が変化することを抑制することができるので、温度変化に起因して、積算値に基づく対象者の接近または接触の判定の精度が低下することを抑制することができる。その結果、温度変化に起因して検出される静電容量が変化する場合にも、静電容量による対象者の接近または接触の判定の精度を向上することができる。
【0011】
上記一の局面による静電容量センサシステムにおいて、好ましくは、判定部は、積算値が所定の判定しきい値よりも小さいことに基づいて、対象者がセンサ回路部に接続された電極部材から離間している離間状態であると判定し、積算値が判定しきい値以上であることに基づいて、対象者がセンサ回路部に接続された電極部材に接近または接触している近接状態であると判定し、離間状態であると判定された場合には、積算値をリセットする。
【0012】
このように構成すれば、離間状態であると判定された場合に積算値がリセットされるため、離間状態であると判定された後に、再度対象者の接近または接触の判定を精度よく行うことができる。そのため、静電容量を検出することによって対象者の接近または接触を判定することを繰り返して継続する場合に、誤判定を抑制することができる。
【0013】
上記一の局面による静電容量センサシステムにおいて、好ましくは、センサ回路部は、車両に搭載されるステアリング機構において対象者により把持されるハンドル部材に配置されている電極部材に接続されており、判定部は、積算値に基づいて対象者の接触を判定することによって、対象者によるハンドル部材の把持状態と、ハンドル部材の非把持状態とを判定する。
【0014】
ここで、車両の内部では、空調装置などによって温度が変化する場合があるため、静電容量を検出することによってハンドル部材の把持状態と非把持状態とを判定する場合には、温度変化に起因する静電容量の変化が生じることがあると考えられる。そのため、積算値に基づいてハンドル部材の把持状態と非把持状態とを判定することによって、判定の精度を効果的に向上することができる。
【0015】
なお、上記一の局面による静電容量センサシステムにおいて、以下のような構成も考えられる。
【0016】
(付記項1)
この発明の他の局面における動作状態判定方法は、対象者の接近または接触により変化する静電容量を検出するセンサ回路部による検出結果に基づいて、静電容量の変化による微分値を算出するステップと、算出された微分値が正側である所定の上限積算しきい値よりも大きい場合、または、負側である所定の下限積算しきい値よりも小さい場合に、算出された微分値を積算することによって積算値を算出するステップと、算出された積算値に基づいて、対象者の接近または接触を判定するステップと、を備える。
【0017】
この発明の他の局面による動作状態判定方法では、上記のように、センサ回路部による検出結果に基づいて静電容量の変化による微分値を算出し、算出された微分値が正側である所定の上限積算しきい値よりも大きい場合、または、負側である所定の下限積算しきい値よりも小さい場合に、算出された微分値を積算することによって積算値を算出し、算出された積算値に基づいて、対象者の接近または接触を判定する。これにより、静電容量の微分値を積算することにより算出された積算値に基づいて対象者の接近または接触を判定することによって、静電容量の全体的な大きさの変化を検出することができる。そのため、対象者の接近または接触する部位の大きさが部分的に変化する場合と、全体的に変化する場合とを区別することができるので、対象者の接近または接触の誤判定を抑制することができる。また、この発明の他の局面による動作状態判定方法では、上記のように、算出された微分値が正側である所定の上限積算しきい値よりも大きい場合、または、負側である所定の下限積算しきい値よりも小さい場合に、算出された微分値を積算することによって積算値を算出する。これにより、温度変化などの外乱に起因する静電容量の変化量は、対象者の接触または接近と離間とによる静電容量の変化量に比べて小さいため、所定の上限積算しきい値よりも大きい場合、または、所定の下限積算しきい値よりも小さい場合に微分値を積算することによって、温度変化などの外乱に起因する静電容量の変化による影響が含まれないように、対象者の接近または接触を判定するための積算値を算出することができる。そのため、温度変化などの外乱に起因する静電容量の変化が生じている場合にも、対象者の接近または接触の誤判定を抑制することができる。これらの結果、静電容量を検出することによって対象者の接近または接触を判定する場合に、判定の精度を向上することが可能な動作状態判定方法を提供することができる。
【0018】
(付記項2)
また、上記ハンドル部材の把持状態と非把持状態とを判定する静電容量センサシステムにおいて、センサ回路部は、ヒーター部により加熱されるハンドル部材に配置されている電極部材に接続されている。
【0019】
ここで、ヒーター部による加熱によってハンドル部材の温度が変化することに起因して検出される静電容量が変化する場合がある。そのため、加熱されるハンドル部材に配置されている電極部材に対する対象者の接近または接触を、積算値に基づいて判定することによって、判定の精度をより効果的に向上することができる。
【0020】
(付記項3)
上記積算値が所定の判定しきい値よりも小さいことに基づいて離間状態であると判定される静電容量センサシステムにおいて、好ましくは、判定部は、積算値が判定しきい値よりも小さいと判定された回数を表すカウント値を取得するとともに、取得されたカウント値が所定のカウントしきい値以上の場合に、離間状態であると判定する。
【0021】
ここで、対象者がセンサ回路部に接続された電極部材から離間している離間状態が継続される場合には、複数回に渡って積算値が判定しきい値よりも小さいと判定される。これを考慮して、本発明では、判定部を、積算値が判定しきい値よりも小さいと判定された回数を表すカウント値を取得するとともに、取得されたカウント値が所定のカウントしきい値以上の場合に、離間状態であると判定するように構成する。このように構成すれば、ノイズなどに起因して、一時的に積算値が判定しきい値よりも小さいと判定された場合にも、離間状態であると誤判定されることを抑制することができる。その結果、静電容量による対象者の接近または接触の判定の精度をより向上することができる。
【0022】
(付記項4)
上記カウント値が所定のカウントしきい値以上の場合に離間状態であると判定する静電容量センサシステムにおいて、好ましくは、判定部は、離間状態であると判定された場合に、カウント値をリセットする。
【0023】
このように構成すれば、離間状態であると判定された場合にカウント値をリセットすることによって、近接状態と離間状態とを繰り返し判定することができる。その結果、対象者の接近または接触を判定する場合に判定の精度を継続して向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】一実施形態による車両に搭載された静電容量センサシステムの構成を示したブロック図である。
図2】一実施形態のハンドル部材におけるセンサ本体部と電極部材との配置を示した模式図である。
図3】静電容量センサシステムによる動作状態判定方法の制御処理を説明するためのフローチャート図である。
図4】把持した指の本数を変更する場合における把持状態と非把持状態との判定を説明するための図である。
図5】温度変化がある場合における把持状態と非把持状態との判定を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0026】
図1および図2を参照して、本実施形態による静電容量センサシステム100の構成について説明する。
【0027】
(車両の構成)
図1に示すように、静電容量センサシステム100は、車両101に搭載されている。車両101には、ステアリング機構30が搭載されている。ステアリング機構30は、車両101の進行方向を変更するための操舵装置である。ステアリング機構30は、対象者により把持されるハンドル部材31を含む。すなわち、ハンドル部材31は、車両101を運転する運転者である対象者により把持されるステアリングホイールである。本実施形態では、静電容量センサシステム100は、対象者によりハンドル部材31が把持されている把持状態(保舵状態)と、対象者によりハンドル部材31が把持されていない非把持状態(手放状態)とを判定する。
【0028】
また、車両101は、ヒーター部40およびECU50(Electronic Control Unit)を備えている。ヒーター部40は、ハンドル部材31の円環形状の把持部31a(図2参照)の内部に配置されている。ヒーター部40は、ECU50による制御によって電流が流されることにより発熱する電熱部材を含む。ヒーター部40は、ハンドル部材31を加熱する。
【0029】
ECU50は、車両101の各部の動作を制御する。ECU50は、たとえば、CPU(Central Processing Unit)などの演算装置、および、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリを有する記憶装置を含むコンピュータである。ECU50は、車両101において、静電容量センサシステム100に対する上位の制御装置である。ECU50は、静電容量センサシステム100と通信可能に構成されている。具体的には、ECU50は、静電容量センサシステム100に有線接続されており、静電容量センサシステム100と互いに信号の送受信を行う。
【0030】
(静電容量センサシステムの構成)
静電容量センサシステム100は、センサ本体部10、センサ回路部11、判定部12、電極部材21、および、電極部材22を備えている。本実施形態では、センサ回路部11は、電極部材21および電極部材22に接続されている。そして、センサ回路部11は、電極部材21および電極部材22に対する対象者の接近または接触により変化する静電容量を検出する。また、判定部12は、センサ回路部11により検出された静電容量に基づいて、対象者の接近または接触を判定する。すなわち、センサ回路部11と電極部材21および電極部材22とによって、静電容量センサが構成されている。そして、センサ回路部11と電極部材21および電極部材22とによって検出された静電容量に基づいて、判定部12による判定が行われる。
【0031】
図2に示すように、センサ本体部10は、ハンドル部材31に配置されている。センサ本体部10は、ハンドル部材31の中心部31bの内部に配置されている。センサ本体部10は、内部にセンサ回路部11および判定部12を収容する。センサ回路部11は、たとえば、IC(Integrated Circuit:集積回路)を含む。また、判定部12は、CPUなどの演算装置、および、不揮発性メモリなどの記憶装置を含むマイクロコンピュータを含む。センサ回路部11および判定部12は、センサ本体部10の内部に配置された図示しない基板に実装されており、互いに信号の送受信を行う。また、センサ本体部10は、ECU50と電気的に接続される図示しない車両側端子と、電極部材21および電極部材22と接続される図示しない電極端子とを含む。
【0032】
センサ回路部11が接続される電極部材21および電極部材22は、ハンドル部材31に配置されている。具体的には、電極部材21および電極部材22は、ハンドル部材31において、ハンドル部材31を把持する対象者の手指が接触する把持部31aに配置されている。電極部材21は、ハンドル部材31を把持した対象者から見て、ハンドル部材31の左側に配置されている。また、電極部材22は、ハンドル部材31を把持した対象者から見てハンドル部材31の右側に配置されている。電極部材21および電極部材22の各々には、電極端子を介してセンサ回路部11から所定の電圧が印加される。
【0033】
センサ回路部11は、電極部材21および電極部材22の各々と、対象者の一部である手指との間に生じる静電容量を検出する。すなわち、対象者によりハンドル部材31が把持された把持状態(保舵状態)と対象者がハンドル部材31から手指を離間させた非把持状態(手放状態)とでは、対象者と電極部材21および電極部材22の各々との間の静電容量が変化する。センサ回路部11は、電極部材21および電極部材22の各々における静電容量を別個に検出する。センサ回路部11は、判定部12に接続されており、検出された静電容量の大きさを示す信号を判定部12に対して出力する。なお、センサ回路部11は、電極部材21において検出された静電容量と、電極部材22において検出された静電容量とを、別個に出力するように構成されている。
【0034】
判定部12は、センサ回路部11からの出力に基づいて、対象者によるハンドル部材31の把持状態および非把持状態を判定する。また、判定部12は、車両側端子を介してECU50と通信可能に構成されている。判定部12は、把持状態と非把持状態との判定結果を、ECU50に対して出力する。なお、判定部12は、電極部材21により検出された静電容量に基づく判定結果と、電極部材22により検出された静電容量に基づく判定とを、別個に出力する。判定部12は、把持状態と非把持状態とを判定する後述する動作状態判定方法を実行するためのプログラム、および、後述する上限積算しきい値、下限積算しきい値、および、判定しきい値を含むパラメータを、記憶装置に記憶している。
【0035】
(静電容量センサシステムによる動作状態判定方法)
次に、図3を参照して、本実施形態の静電容量センサシステム100による動作状態判定方法の制御処理について説明する。静電容量センサシステム100による動作状態判定方法では、対象者による動作としてハンドル部材31の把持状態(近接状態)と非把持状態(離間状態)とが判定される。なお、図3に示した動作状態判定方法のフローチャート図において、ステップS1~ステップS8による制御処理は、判定部12により実行される。また、ステップS1~ステップS8の演算処理は、センサ回路部11からの静電容量の検出値が取得されるごとに実行される。すなわち、判定部12は、所定の演算周期ごとに、ステップS1~S8の演算処理を繰り返し実行するように構成されている。また、電極部材21において検出された静電容量に基づく判定の処理と、電極部材22において検出された静電容量に基づく判定の処理とは、互いに同様である。そのため、以下の説明では、電極部材21により検出された静電容量に基づく判定の処理について、図面を用いて説明するとともに、電極部材22により検出された静電容量に基づく判定の処理については、説明を省略する。
【0036】
まず、ステップS1において、静電容量が取得される。具体的には、判定部12は、センサ回路部11からの出力に基づいて、電極部材21において検出された静電容量を示す信号を取得する。たとえば、判定部12は、検出された静電容量を示す信号を取得することによって、数十ミリ秒の演算周期ごとに静電容量の検出値を取得する。
【0037】
そして、ステップS2において、微分値が算出される。判定部12は、センサ回路部11による検出結果に基づいて静電容量の変化による微分値を算出する。具体的には、判定部12は、演算周期ごとに取得された静電容量の値と、所定の微分時間分だけ前の時点において取得された静電容量の値との差分を取得することによって、微分値を算出する。たとえば、所定の微分時間が1秒である場合には、判定部12は、演算周期ごとに、取得された静電容量の値と1秒前の時点において取得された静電容量の値との差を微分値として算出する。
【0038】
そして、ステップS3において、微分値が正側である所定の上限積算しきい値よりも大きいか否か、または、微分値が負側である所定の下限積算しきい値よりも小さいか否かが判断される。微分値が正側である所定の上限積算しきい値よりも大きいと判断された場合、または、負側である所定の下限積算しきい値よりも小さいと判断された場合には、ステップS4に進む。また、微分値が上限積算しきい値よりも大きくなく、かつ、下限積算しきい値よりも小さくないと判断された場合には、ステップS5に進む。
【0039】
上限積算しきい値は、正の値であって、対象者の接近または接触に起因する静電容量の変化による微分値よりも小さく、かつ、電極部材21の周囲の温度上昇に起因する静電容量の変化による微分値よりも大きくなるように設定されている。下限積算しきい値は、負の値であって、対象者の非接近または非接触に起因する静電容量の変化による微分値よりも大きく、かつ、電極部材21の周囲の温度下降に起因する静電容量の変化による微分値よりも小さくなるように設定されている。具体的には、上限積算しきい値は、対象者のハンドル部材31に対する接触に起因する静電容量の変化による微分値よりも小さくなるように設定されている。下限積算しきい値は、対象者のハンドル部材31に対する非接触に起因する静電容量の変化による微分値よりも大きくなるように設定されている。なお、ここで言う「非接触」とは、接触した状態から離間した状態へと変化することを意味する。したがって、上限積算しきい値は、対象者がハンドル部材31の把持を開始した時点における静電容量の変化による微分値よりも小さくなるように設定されている。下限積算しきい値は、対象者がハンドル部材31の把持を終了した時点(手を放した時点)における静電容量の変化による微分値よりも大きくなるように設定されている。また、上限積算しきい値は、車両101の空調装置およびヒーター部40による電極部材21および電極部材22の周囲の温度上昇に起因する静電容量の変化による微分値よりも大きくなるように設定されている。下限積算しきい値は、車両101の空調装置およびヒーター部40による電極部材21および電極部材22の周囲の温度下降に起因する静電容量の変化による微分値よりも小さくなるように設定されている。
【0040】
ステップS4では、微分値が積算されることによって積算値が算出される。具体的には、ステップS2において算出された微分値が正側である所定の上限積算しきい値よりも大きい場合、または、負側である所定の下限積算しきい値よりも小さい場合に、算出された微分値が積算される。判定部12は、演算周期ごとに、算出された積算値を記憶装置に記憶(保持)する。判定部12は、ステップS2において算出された微分値が所定の上限積算しきい値よりも大きい場合、または、所定の下限積算しきい値よりも小さい場合に、一つ前の演算周期までに記憶されている積算値に対してステップS2において算出された微分値を加算することによって、微分値を積算した積算値を算出(更新)する。すなわち、判定部12は、演算周期ごとに、対象者の接近または接触に起因する静電容量の変化、または、対象者の非接近または非接触に起因する静電容量の変化による微分値を積算するとともに、電極部材21の周囲の温度変化に起因する静電容量の変化による微分値を積算しないように、積算値を更新する。そして、ステップS5に進む。
【0041】
ステップS5では、積算値が所定の判定しきい値よりも小さいか否かの判断が行われる。積算値が所定の判定しきい値よりも小さいと判断された場合には、ステップS6に進む。積算値が所定の判定しきい値よりも小さいと判断されない場合には、ステップS8に進む。
【0042】
ステップS6では、判定部12は、積算値が所定の判定しきい値よりも小さいことに基づいて、対象者がセンサ回路部11に接続された電極部材21から離間している離間状態であると判定することによって、ハンドル部材31が把持されていない非把持状態(手放状態)であると判定する。
【0043】
次に、ステップS7において、離間状態(非把持状態)であると判定された場合には、積算値がリセットされる。すなわち、判定部12は、ステップS6において非把持状態であると判定した場合には、記憶されている積算値を0にする。
【0044】
ステップS8では、判定部12は、積算値が所定の判定しきい値以上であることに基づいて、対象者がセンサ回路部11に接続された電極部材21に接近または接触している近接状態であると判定することによって、ハンドル部材31が把持されている把持状態(保舵状態)であると判定する。
【0045】
このように、本実施形態では、判定部12は、検出された静電容量の微分値を上限積算しきい値および下限積算しきい値を用いて積算することにより算出された積算値に基づいて、対象者の接近または接触を判定することによって、対象者のハンドル部材31に対する接触を判定する。そして、本実施形態では、判定部12は、対象者のハンドル部材31に対する接触を判定することによって、把持状態と非把持状態とを判定する。判定部12は、把持状態と非把持状態との判定結果を、ECU50に対して出力する。判定部12は、電極部材21における静電容量に基づく判定結果と、電極部材22における静電容量に基づく判定結果とを、ECU50に対して別個に出力する。ECU50は、たとえば、取得された判定結果に基づいて、非把持状態であると判定された場合には、対象者にハンドル部材31を把持するよう促す通知を行う。
【0046】
なお、判定部12を、車両101の動作に応じて上限積算しきい値および下限積算しきい値を変更するように構成してもよい。たとえば、車両101では、駆動開始時(運転開始時)に空調装置の動作、および、ヒーター部40によるハンドル部材31の加熱などが開始されるため、車両101の駆動が開始された時点から所定の期間において、電極部材21および電極部材22の温度変化が大きくなる。一方で、車両101の駆動が開始された時点から所定の期間が経過した後は、車内の気温が一定となり、ハンドル部材31の温度変化が小さくなるため、電極部材21および電極部材22の温度変化は小さくなる。ECU50は、車両101の駆動が開始された場合に、静電容量センサシステム100に対して、駆動信号を出力する。判定部12は、駆動信号が取得されたことに基づいて、把持状態と非把持状態との判定を行う動作状態判定方法の制御処理を開始する。判定部12は、動作状態判定方法の制御処理が開始された時点から予め設定されている所定の期間が経過するまで、上限積算しきい値を比較的大きい値に設定するとともに下限積算しきい値を比較的小さい値に設定し、動作状態判定方法の制御処理が開始された時点から予め設定されている所定の期間が経過した時点において、上限積算しきい値を比較的小さい値に変更するとともに下限積算しきい値を比較的大きい値に設定するようにしてもよい。
【0047】
また、判定部12を、複数の判定しきい値を用いてステップS5による積算値の判定を行うようにしてもよい。たとえば、判定部12は、固定値である固定判定しきい値と、値が変化する可変判定しきい値とを含む2つの判定しきい値を用いることによって、積算値に基づく対象者の接近または接触を判定するようにしてもよい。固定判定しきい値は、たとえば、予め設定されて記憶装置に記憶されている固定値である。可変判定しきい値は、たとえば、積算値の最大値に基づいて値が変化する可変値である。判定部12は、記憶装置に、取得された積算値の最大値を記憶(ピークホールド)する。そして、判定部12は、記憶されている最大値に対する所定の割合の値を可変判定しきい値として設定する。判定部12は、ステップS5において固定判定しきい値と可変判定しきい値とのうちの少なくとも一方よりも積算値が小さいか否かを判断することによって、積算値が判定しきい値よりも小さいか否かを判断するようにしてもよい。記憶された積算値の最大値は、ステップS7において積算値と同様にリセットされるようにしてもよい。判定しきい値を積算値に基づいて値が変化するように設定することによって、対象者の動作に合わせて判定しきい値を適切な値に設定することができる。たとえば、5本の指で把持されている状態を基準とするように判定しきい値を設定することができる。そのため、判定しきい値を積算値に基づいて値が変化するように設定することによって、対象者の接近または接触をより精度よく判定することができる。なお、判定しきい値は、固定判定しきい値と可変判定しきい値との両方を用いてもよいし、少なくとも一方を用いてもよい。
【0048】
(把持状態と非把持状態との判定)
次に、図4および図5を参照して、判定部12による把持状態と非把持状態との判定の例について説明する。なお、図4および図5では、電極部材21において検出された静電容量の判定の例を説明する。また、図4および図5では、判定しきい値が固定値のみである場合の例を示している。
【0049】
〈把持した指の本数を変更する場合の判定〉
図4では、ハンドル部材31を把持してハンドル部材31に接触した後に、ハンドル部材31に接触させる指の本数を段階的に減少させながら、ハンドル部材31から手指を離間させて非接触にする動作が行われた場合の例が示されている。
【0050】
図4の例では、時点T1において、対象者によってハンドル部材31が把持される。時点T1では、ハンドル部材31は、対象者の5本の指によって把持される。時点T1において、ハンドル部材31が把持されていない状態から把持されている状態となるため、センサ回路部11により検出される静電容量の値が大きくなる。また、時点T2において、ハンドル部材31を把持する指の数が5本から3本に変更される。すなわち、電極部材21に近接している対象者の部分の大きさが小さくなるように変更されている。電極部材21に近接している対象者の身体の部分(電極部材21と対向する部分の面積)が減少するため、時点T2において、検出される静電容量が減少する。そして、時点T3において、対象者の手指の全体が、ハンドル部材31から離間される。なお、図4の例では、電極部材21の周囲の温度は変化していない。したがって、時点T3において、対象者がハンドル部材31から手指を離間させることにより電極部材21から離間したことによって、対象者によってハンドル部材31が把持された時点T1よりも前の値まで、検出される静電容量が減少する。
【0051】
時点T1において検出される静電容量の値が上昇しているため、時点T1から時点T11までの間において、正の微分値が取得される。また、時点T2および時点T3の各々において検出される静電容量の値が減少しているため、時点T2から時点T12までの間と、時点T3から時点T13までの間との各々において、負の微分値が取得される。なお、時点T1、時点T2、および、時点T3の各々において、静電容量が瞬間的に変化しているため、時点T1から時点T11まで、時点T2から時点T12まで、および、時点T3から時点T13までの各々の期間が、微分値を算出するための微分時間と略等しい長さとなる。また、時点T1から時点T11までの期間において取得される微分値は、上限積算しきい値よりも大きい値となる。時点T2から時点T12まで、および、時点T3から時点T13までの各々の期間において取得される微分値は、下限積算しきい値よりも小さい値となる。したがって、時点T1から時点T11まで、時点T2から時点T12まで、および、時点T3から時点T13までの各々の期間において取得される微分値を積算することによって積算値が取得される。一方で、時点T11から時点T2まで、および、時点T12から時点T3までの期間では、算出される微分値が上限積算しきい値よりも小さく、かつ、下限積算しきい値よりも大きい(ほぼ0である)ため、時点T11から時点T2まで、および、時点T12から時点T3までの期間において取得された微分値は積算値に積算されない。
【0052】
図4の例では、時点T21において、算出された積算値が判定しきい値よりも大きくなるとともに、時点T22において、算出された積算値が判定しきい値よりも小さくなる。したがって、時点T21において、把持状態であると判定された後に、時点T22において、非把持状態であると判定される。すなわち、時点T2においてハンドル部材31を把持する指の数を5本から3本に変更した場合にも、積算値が判定しきい値よりも大きいため、把持状態のままであると判定される。
【0053】
〈温度変化がある場合の判定〉
図5では、ハンドル部材31を把持してハンドル部材31に接触した後に、ハンドル部材31の温度が上昇するとともに、温度が上昇した状態のハンドル部材31から手指を離間させて非接触にする動作が行われた場合の例が示されている。
【0054】
図5の例では、図4の時点T1と同様に、時点T31において対象者によってハンドル部材31が把持されることにより、検出される静電容量の値が増加する。そして、時点T32において、電極部材21の温度の上昇が開始される。たとえば、時点T32において、ECU50によりヒーター部40によるハンドル部材31の加熱が開始される。そして、時点T33において、電極部材21の温度の上昇が停止する。すなわち、時点T32よりも前の期間と時点T33よりも後の期間では、電極部材21における温度は一定であって、時点T32から時点T33までの期間において、電極部材21における温度が上昇している。図5の例では、時点T32から時点T33までの期間において、電極部材21の温度上昇に起因して、検出される静電容量の値が徐々に大きくなる。時点T32から時点T33までの静電容量の増加は、時点T31における静電容量の増加に比べて緩やかである。そして、時点T34において、対象者の手指の全体が、ハンドル部材31から離間され、検出される静電容量が減少する。図5の例では、ハンドル部材31の把持が開始された時点T31に比べて、ハンドル部材31の把持が終了された時点T34のほうが電極部材21の温度が高いため、時点T34より後に検出される静電容量は、時点T31よりも前に比べて大きい値となる。時点T31および時点T34における人の動作に起因する静電容量の変化は瞬間的である一方で、時点T32から時点T33までの温度変化に起因する静電容量の変化は、緩やかである。なお、図5の例では、温度変化、および、温度変化に起因する静電容量の変化が、時間経過に伴う線形的な変化である例が示されている。
【0055】
時点T31から時点T41までにおいて、図4の時点T1から時点T11までと同様に、正の微分値が取得され、時点T34から時点T44までにおいて、検出される静電容量の値が減少しているため、負の微分値が取得される。また、時点T32から時点T42まで微分値が増加し、時点T42から時点T33まで比較的小さい正の微分値が取得され、時点T33から時点T43まで微分値が減少する。図5の例では、時点T31から時点T41までの期間に取得される微分値は、上限積算しきい値よりも大きい値となる。また、時点T34から時点T44までの期間に取得される微分値は、下限積算しきい値よりも小さい値となる。そして、時点T32から時点T43までの間に取得される微分値は、温度変化に起因する静電容量の変化により値が上昇しているものの、上限積算しきい値より小さく、かつ、下限積算しきい値より大きい値となる。したがって、時点T31から時点T41まで、および、時点T34から時点T44までの各々の期間に取得される微分値が積算される。時点T32から時点T43までの期間を含む時点T41から時点T34までの期間において取得された微分値は、積算値に積算されない。
【0056】
図5の例では、時点T51において、算出された積算値が判定しきい値よりも大きくなるとともに、時点T52において、算出された積算値が判定しきい値よりも小さくなるため、時点T51において、把持状態であると判定された後に、時点T52において、非把持状態であると判定される。すなわち、時点T32から時点T33における温度変化に起因する静電容量の変化は、把持状態の判定には影響を与えずに、把持が終了された時点T34における静電容量の変化に基づいて、時点T52において非把持状態と判定される。
【0057】
(本実施形態の効果)
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0058】
本実施形態では、上記のように、センサ回路部11による検出結果に基づいて静電容量の変化による微分値を算出し、算出された微分値が正側である所定の上限積算しきい値よりも大きい場合、または、負側である所定の下限積算しきい値よりも小さい場合に、算出された微分値を積算することによって積算値を算出し、算出された積算値に基づいて、対象者の接近または接触を判定する。これにより、静電容量の微分値を積算することにより算出された積算値に基づいて対象者の接近または接触を判定することによって、静電容量の全体的な大きさの変化を検出することができる。そのため、対象者の接近または接触する部位の大きさが部分的に変化する場合と、全体的に変化する場合とを区別することができるので、対象者の接近または接触の誤判定を抑制することができる。また、本実施形態では、上記のように、算出された微分値が正側である所定の上限積算しきい値よりも大きい場合、または、負側である所定の下限積算しきい値よりも小さい場合に、算出された微分値を積算することによって積算値を算出する。これにより、温度変化などの外乱に起因する静電容量の変化量は、対象者の接触または接近と離間とによる静電容量の変化量に比べて小さいため、所定の上限積算しきい値よりも大きい場合、または、所定の下限積算しきい値よりも小さい場合に微分値を積算することによって、温度変化などの外乱に起因する静電容量の変化による影響が含まれないように、対象者の接近または接触を判定するための積算値を算出することができる。そのため、温度変化などの外乱に起因する静電容量の変化が生じている場合にも、対象者の接近または接触の誤判定を抑制することができる。これらの結果、静電容量を検出することによって対象者の接近または接触を判定する場合に、判定の精度を向上することができる。
【0059】
また、本実施形態では、上記のように、上限積算しきい値が、対象者の接近または接触に起因する静電容量の変化による微分値よりも小さく、かつ、電極部材21および電極部材22の周囲の温度上昇に起因する静電容量の変化による微分値よりも大きくなるように設定されている。また、下限積算しきい値が、対象者の非接近または非接触に起因する静電容量の変化による微分値よりも大きく、かつ、電極部材21および電極部材22の周囲の温度下降に起因する静電容量の変化による微分値よりも小さくなるように設定されている。これにより、温度変化に起因する静電容量の変化による微分値を積算せずに、対象者の接近または接触に起因する静電容量の変化による微分値と非接近または非接触に起因する静電容量の変化による微分値とを積算するように積算値を算出することができる。そのため、センサ回路部11に接続されている電極部材21および電極部材22の周囲の温度変化に起因して積算値が変化することを抑制することができるので、温度変化に起因して、積算値に基づく対象者の接近または接触の判定の精度が低下することを抑制することができる。その結果、温度変化に起因して検出される静電容量が変化する場合にも、静電容量による対象者の接近または接触の判定の精度を向上することができる。
【0060】
また、本実施形態では、上記のように、離間状態であると判定された場合に積算値がリセットされるため、離間状態であると判定された後に、再度対象者の接近または接触の判定を精度よく行うことができる。そのため、静電容量を検出することによって対象者の接近または接触を判定することを繰り返して継続する場合に、誤判定を抑制することができる。
【0061】
ここで、車両101の内部では、空調装置などによって温度が変化する場合があるため、静電容量を検出することによってハンドル部材31の把持状態と非把持状態とを判定する場合には、温度変化に起因する静電容量の変化が生じることがあると考えられる。そのため、本実施形態では、上記のように、積算値に基づいてハンドル部材31の把持状態と非把持状態とを判定することによって、判定の精度を効果的に向上することができる。
【0062】
また、ヒーター部40による加熱によってハンドル部材31の温度が変化することに起因して検出される静電容量が変化する場合がある。そのため、加熱されるハンドル部材31に配置されている電極部材21および電極部材22に対する対象者の接近または接触を、積算値に基づいて判定することによって、判定の精度をより効果的に向上することができる。
【0063】
[変形例]
今回開示された上記実施形態は、全ての点で例示であり制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更(変形例)が含まれる。
【0064】
たとえば、上記実施形態では、上限積算しきい値が、対象者の接近または接触に起因する静電容量の変化による微分値よりも小さく、かつ、電極部材21および電極部材22の周囲の温度上昇に起因する静電容量の変化による微分値よりも大きくなるように設定され、下限積算しきい値が、対象者の非接近または非接触に起因する静電容量の変化による微分値よりも大きく、かつ、電極部材21および電極部材22の周囲の温度下降に起因する静電容量の変化による微分値よりも小さくなるように設定されている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、上限積算しきい値を、温度変化以外の外乱に起因する静電容量の変化による微分値よりも大きい値として設定するとともに、下限積算しきい値を、温度変化以外の外乱に起因する静電容量の変化による微分値よりも小さい値として設定するようにしてもよい。
【0065】
また、上記実施形態では、離間状態(非把持状態)であると判定された場合には、積算値をリセットする例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、離間状態と判定された場合にも積算値をリセットしないようにしてもよい。また、積算値の最大値を記憶するとともに、積算値の最大値に応じて判定しきい値を変更する場合において、離間状態(非把持状態)であると判定された場合に、記憶されている積算値の最大値をリセットしないようにしてもよい。
【0066】
また、上記実施形態では、積算値が判定しきい値よりも小さいと判定されたことに基づいて、離間状態であると判定する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、判定部を、積算値が判定しきい値よりも小さいと判定されたことに基づいて、積算値が判定しきい値よりも小さいと判定された回数を表すカウント値を取得するとともに、取得されたカウント値が所定のカウントしきい値以上の場合に、離間状態(非把持状態)であると判定するようにしてもよい。これにより、ノイズなどに起因して、一時的に積算値が判定しきい値よりも小さいと判定された場合にも、離間状態であると誤判定されることを抑制することができる。その結果、静電容量による対象者の接近または接触の判定の精度をより向上することができる。この場合に、離間状態であると判定された場合にカウント値をリセットする(0にする)ようにしてもよい。これにより、カウント値をリセットすることによって、近接状態と離間状態とを繰り返し判定することができる。その結果、対象者の接近または接触を判定する場合に判定の精度を継続して向上することができる。また、積算値が所定の判定しきい値よりも小さいと判断されない場合には、カウント値をリセットするようにしてもよい。その場合には、判定部は、演算周期ごとの処理において、カウントしきい値以上の複数回に渡って連続的に積算値が所定の判定しきい値よりも小さいと判断された場合に、非把持状態であると判定する。なお、カウントしきい値を1とした場合には、上記実施形態のように、1度積算値が判定しきい値よりも小さいと判定された場合に離間状態であると判定される。カウント値を取得する場合に、カウントしきい値は、1よりも大きい値であってもよい。
【0067】
また、上記実施形態では、電極部材21および電極部材22が、車両101に搭載されるステアリング機構30において対象者により把持されるハンドル部材31に配置されている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、電極部材は、車両以外の船舶、および、航空機などに設けられたハンドル部材に配置されるようにしてもよい。また、対象者の手指により把持される部材以外に電極部材を配置してもよい。たとえば、電極部材を、対象者の接近または接触を検出するために固定して配置してもよい。すなわち、静電容量センサシステムを据え置き型のセンサシステムとして、離間状態および近接状態を判定することによって対象者の接近または接触を判定するようにしてもよい。
【0068】
また、上記実施形態では、ハンドル部材31に対する対象者の手指の接触を判定することによって、把持状態と非把持状態とを判定する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、対象者の接近を判定するようにしてもよい。すなわち、センサ回路部および判定部を、接触しない接近により変化する静電容量を検出するとともに、対象者の接触しない接近の動作を判定するようにしてもよい。
【0069】
また、上記実施形態では、静電容量センサシステム100が電極部材21および電極部材22の2つの電極部材を備えている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、静電容量センサシステムが1つの電極部材を備えていてもよいし、3つ以上の電極部材を備えていてもよい。また、静電容量センサシステムが電極部材を備えておらず、外部の電極部材から取得された信号に基づいて、外部の電極部材における静電容量を検出するとともに、外部の電極部材に対する対象者の接近または接触を判定するようにしてもよい。また、電極部材を、ハンドル部材の全周に渡って配置せずに、一部にのみ配置するようにしてもよい。なお、電極部材の大きさが大きい場合には検出される静電容量の分解能が小さくなるため、電極部材を複数設けることによって検出される静電容量の分解能を向上することができる。そのため、対象者の接近または接触を判定する精度を向上することができる。
【0070】
また、上記実施形態では、判定部12を、電極部材21における静電容量に基づく判定結果と、電極部材22における静電容量に基づく判定結果とを、別個に出力するように構成する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、判定部を、複数の電極部材の各々における静電容量を取得する場合に、取得された複数種類の静電容量ごとに判定を行うことによって複数の判定結果を取得するとともに、取得された複数の判定結果に基づいて、1つの総合的な判定結果を出力するようにしてもよい。たとえば、複数の電極部材がハンドル部材に配置されている場合に、取得された複数種類の静電容量に基づく複数の判定結果の全てが非把持状態であるとする判定結果である場合に、ハンドル部材の把持がされていない手放状態であるとする総合的な判定結果を出力するとともに、取得された複数種類の静電容量に基づく複数の判定結果の少なくとも1つが把持状態であるとする判定結果である場合には、ハンドル部材が把持されている保舵状態であるとする総合的な判定結果を出力するようにしてもよい。また、複数の電極部材の各々における静電容量を取得する場合に、判定部を、取得された複数種類の静電容量に基づいて、1つの判定結果を取得するようにしてもよい。たとえば、複数種類の静電容量の合計値、平均値、中央値、最頻値、最大値、または、最小値などの1つの値を取得するとともに、取得された1つの値の微分値を積算することによって算出された積算値に基づいて、1つの判定結果を取得するようにしてもよい。
【0071】
また、上記実施形態では、検出された静電容量の微分値と、上限積算しきい値および下限積算しきい値とによって、微分値が上限積算しきい値よりも大きいか否かと、下限積算しきい値よりも大きいか否かとを判断する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、上限積算しきい値と下限積算しきい値との絶対値が等しい場合には、所定のしきい値と微分値の絶対値とを比較することによって、微分値が上限積算しきい値よりも大きいか否かと、下限積算しきい値よりも大きいか否かとを判断するようにしてもよい。
【0072】
また、上記実施形態では、センサ回路部11を、周囲の温度が上昇した場合に、検出される静電容量が大きくなる電極部材21および電極部材22に接続する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、センサ回路部を、周囲の温度が上昇した場合に検出される静電容量が小さくなる電極部材に接続するように構成してもよい。その場合には、上限積算しきい値は、電極部材の周囲の温度下降に起因する静電容量の変化による微分値よりも大きくなるように設定され、下限積算しきい値は、電極部材の周囲の温度上昇に起因する静電容量の変化による微分値より小さくなるように設定される。すなわち、上限積算しきい値は、電極部材の周囲の温度変化に起因する静電容量の変化による微分値よりも大きくなるように設定されてもよいし、下限積算しきい値は、電極部材の周囲の温度変化に起因する静電容量の変化による微分値より小さくなるように設定されてもよい。
【0073】
また、上記実施形態では、静電容量を検出するセンサ回路部11がICであり、対象者の接近または接触を判定する判定部12がCPUを有するマイクロコンピュータである例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、静電容量の検出と、対象者の接近または接触の判定とを、共通の制御部(制御装置)により行うようにしてもよい。すなわち、センサ回路部と判定部とを共通のハードウェアとして構成された制御部により行うようにしてもよい。また、センサ回路部および判定部の各々における制御処理が、複数のハードウェア(プロセッサまたは回路)によって、分割されて実行されるようにしてもよい。センサ回路部および判定部を、静電容量の検出と、対象者の接近または接触の判定と行うように構成されたICなどのプロセッサ、回路(circuitry)などによって構成してもよいし、ソフトウェア(プログラム)とハードウェアとの組み合わせによって機能を実行するように構成してもよい。また、静電容量に基づいて判定を行う判定部を、静電容量の検出値を出力するセンサ回路部から離間した位置に配置するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0074】
11 センサ回路部
12 判定部
21、22 電極部材
30 ステアリング機構
31 ハンドル部材
40 ヒーター部
100 静電容量センサシステム
101 車両
図1
図2
図3
図4
図5