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特開2024-134375グラフト変性エチレン系重合体を含むポリアミド組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134375
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】グラフト変性エチレン系重合体を含むポリアミド組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/00 20060101AFI20240926BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20240926BHJP
   C08L 51/06 20060101ALI20240926BHJP
   C08F 8/46 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
C08L77/00
C08L23/26
C08L51/06
C08F8/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044640
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 智希
(72)【発明者】
【氏名】野崎 修平
(72)【発明者】
【氏名】田中 正和
(72)【発明者】
【氏名】中村 哲也
【テーマコード(参考)】
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4J002BB212
4J002BN052
4J002BN062
4J002CL011
4J002CL031
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ00
4J100AA02P
4J100AA04Q
4J100AA07Q
4J100AA15Q
4J100AA16Q
4J100AA18Q
4J100AA19Q
4J100AA21Q
4J100BC55H
4J100CA04
4J100CA31
4J100DA11
4J100DA42
4J100DA47
4J100DA49
4J100DA52
4J100HA42
4J100HC30
4J100HC36
4J100HE17
4J100JA28
4J100JA43
(57)【要約】
【課題】耐衝撃性、剛性および流動性のバランスに優れたポリアミド樹脂組成物を得ること。
【解決手段】要件(A-i)を満たす脂肪族長鎖ポリアミド(A)85.0~99.9質量%と、要件(B-i)および(B-ii)を満たすグラフト変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B)0.1~15.0質量%とを含むポリアミド樹脂組成物:(A-i)JIS K 6920-2:2009に準じて測定される相対粘度が1.80~4.50である;(B-i)極性基を有するビニル化合物由来の骨格単位の含有量MBがグラフト変性エチレン・α-オレフィン共重合体に対し、0.1~1.5質量%である;(B-ii)エチレン由来の骨格単位50~95モル%と、炭素原子数3~8のα-オレフィン由来の骨格単位5~50モル%とを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記要件(A-i)を満たす脂肪族長鎖ポリアミド(A)85.0~99.9質量%と、
下記要件(B-i)および(B-ii)を満たすグラフト変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B)0.1~15.0質量%(ただし、脂肪族長鎖ポリアミド(A)とグラフト変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B)の合計は100質量%である)と
を含むポリアミド樹脂組成物:
(A-i)JIS K 6920-2:2009(96%硫酸中、ポリマー濃度10mg/ml、25℃)に準じて測定される相対粘度が1.80~4.50である;
(B-i)極性基を有するビニル化合物由来の骨格単位の含有量MBがグラフト変性エチレン・α-オレフィン共重合体に対し、0.1~1.5質量%である;
(B-ii)エチレン由来の骨格単位50~95モル%と、
炭素原子数3~8のα-オレフィン由来の骨格単位5~50モル%と
を含む(ただし、エチレン由来の骨格単位と炭素原子数3~8のα-オレフィン由来の骨格単位との合計は100モル%である)。
【請求項2】
前記脂肪族長鎖ポリアミド(A)が、11ナイロン、12ナイロンおよび6,12ナイロンからなる群より選ばれる少なくとも1種からなる、請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記要件(B-i)における、極性基を有するビニル化合物由来の骨格単位が、マレイン酸または無水マレイン酸由来の骨格単位である、請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物を含むペレット。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物を含む成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の要件を満たすグラフト変性エチレン・α-オレフィン共重合体を含むポリアミド樹脂組成物及びこれから得られる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂等の、エンジニアリングプラスチックはその優れた物性から各種電気・電子部品、機械部品および自動車部品等の用途に使用されている。これらの用途においては成形品の薄肉化、小型化、形状の複雑化が進んでいることから耐衝撃性や剛性、流動性のバランス向上が求められているが、未だ十分とはいえず、改良が検討されている。
【0003】
ポリアミドの耐衝撃性を改良する方法として、α,β-不飽和カルボン酸をグラフトしたエチレン・α-オレフィン共重合体を用いる方法が提案されている(特許文献1)。しかし、提案されているポリアミド組成物では、耐衝撃性を向上させようとすると、剛性や流動性が低下する傾向が認められている。
【0004】
ポリアミドの流動性を改良する方法として、ポリアミド樹脂に9,9-ビスアリールフルオレン骨格をもつ化合物を添加する方法が提案されている(特許文献2)。しかし、提案されている流動性が改善されたポリアミド樹脂組成物では、衝撃強度が不十分となる傾向が認められた。
【0005】
したがって、ポリアミド樹脂がもつ耐衝撃性、剛性および流動性のバランスに優れたポリアミド樹脂組成物の創出が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011-207979号公報
【特許文献2】WO2016/139826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは上記状況を鑑み、鋭意検討を重ねた結果、特定のポリアミド樹脂と特定のグラフト変性エチレン・α-オレフィン共重合体を特定範囲量含むポリアミド樹脂組成物において耐衝撃性、剛性および流動性のバランスに優れることを見出した。本発明は耐衝撃性、剛性および流動性のバランスに優れたポリアミド樹脂組成物を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の態様の例を、以下に示す。
[1]下記要件(A-i)を満たす脂肪族長鎖ポリアミド(A)85.0~99.9質量%と、下記要件(B-i)および(B-ii)を満たすグラフト変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B)0.1~15.0質量%(ただし、脂肪族長鎖ポリアミド(A)とグラフト変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B)の合計は100質量%である)とを含むポリアミド樹脂組成物。
(A-i)JIS K 6920-2:2009(96%硫酸中、ポリマー濃度10mg/ml、25℃)に準じて測定される相対粘度が1.80~4.50である。
(B-i)極性基を有するビニル化合物由来の骨格単位の含有量MBが0.1~1.5質量%である。
(B-ii)エチレン由来の骨格単位50~95モル%と、炭素原子数3~8のα-オレフィン由来の骨格単位5~50モル%とを含む(ただし、エチレン由来の骨格単位と炭素原子数3~8のα-オレフィン由来の骨格単位との合計は100モル%である)。
[2]前記脂肪族長鎖ポリアミド(A)が、11ナイロン、12ナイロンおよび6,12ナイロンからなる群より選ばれる1種以上からなる、項[1]に記載のポリアミド樹脂組成物。
[3]前記要件(B-i)における、極性基を有するビニル化合物由来の骨格単位が、マレイン酸または無水マレイン酸由来の骨格単位である、項[1]または[2]に記載のポリアミド樹脂組成物。
[4]項[1]~[3]のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物を含むペレット。
[5]項[1]~[3]のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物を含む成形体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ポリアミド樹脂組成物は、特定の粘度のポリアミドに対し特定範囲の変性度のグラフト変性エチレン・α-オレフィン共重合体を一定量添加することで耐衝撃性、剛性および流動性のバランスに優れるポリアミド樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。ここで、本明細書において、数値範囲を示す「~」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0011】
本明細書において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様であり、特に限定しない限り、組成物中の各成分またはポリマー中の各構成単位は1種単独で含まれていてもよいし、2種以上が含まれていてもよい。
【0012】
本明細書において、組成物中の各成分またはポリマー中の各構成単位の含量は、組成物中に各成分またはポリマー中の各構成単位に該当する物質または構成単位が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する該当する物質またはポリマー中に存在する複数の各構成単位の含量の合計を意味する。
【0013】
[ポリアミド樹脂組成物]
本発明のポリアミド樹脂組成物は、後述する脂肪族長鎖ポリアミド(A)85.0~99.9質量%と、後述するグラフト変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B)0.1~15.0質量%とを含む(ただし、前記成分(A)と前記成分(B)の合計は100質量%である)。
【0014】
[脂肪族長鎖ポリアミド(A)]
本発明に用いられる脂肪族長鎖ポリアミド(A)は下記要件を満たす;
(A-i)JIS K 6920-2:2009(96%硫酸中、ポリマー濃度10mg/ml、25℃)に準じて測定される相対粘度が好ましくは1.80~4.50、より好ましくは1.80~2.50、さらに好ましくは1.85~2.25である。粘度が上記上限値以下であることは、樹脂の剛性の点において好ましい。
【0015】
前記脂肪族長鎖ポリアミド(A)の具体例としては、以下の樹脂が挙げられる。
(1)炭素原子数4~12の有機ジカルボン酸と炭素原子数2~13の有機ジアミンとの重縮合物;
例えば、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との重縮合物であるポリヘキサメチレンアジパミド[6,6ナイロン]、ヘキサメチレンジアミンとアゼライン酸との重縮合物であるポリヘキサメチレンアゼラミド[6,9ナイロン]、ヘキサメチレンジアミンとセバシン酸との重縮合物であるポリヘキサメチレンセバカミド[6,10ナイロン]、ヘキサメチレンジアミンとドデカンジオン酸との重縮合物であるポリヘキサメチレンドデカノアミド[6,12ナイロン]等が挙げられる。
【0016】
上記有機ジカルボン酸としては、例えば、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等が挙げられる。上記有機ジアミンとしては、例えばヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナンジアミン、オクタンジアミン、デカンジアミン、ウンデカジアミン、ウンデカンジアミン、ドデカンジアミン等が挙げられる。
【0017】
(2)ω-アミノ酸の重縮合物;
例えば、ω-アミノウンデカン酸の重縮合物であるポリウンデカンアミド[11ナイロン]等が挙げられる。
(3)ラクタムの開環重合物;
例えば、ε-アミノカプロラクタムの開環重合物であるポリプラミド[6ナイロン]、ε-アミノラウロラクタムの開環重合物ポリラウリックラクタム[12ナイロン]等が挙げられる。
【0018】
以上に例示した中でも、炭素原子数11または12からなる繰り返し単位を含む脂肪族長鎖ポリアミドが好ましく、ポリウンデカンアミド[11ナイロン]、ポリヘキサメチレンドデカノアミド[6,12ナイロン]、ポリラウリックラクタム[12ナイロン]がより好ましい。
脂肪族長鎖ポリアミド(A)の原料は化石燃料由来及びバイオマス由来のどちらでも使用することができる。また、化石燃料由来及びバイオマス由来の原料を併用しても良い。
【0019】
[グラフト変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B)]
本発明に用いられるグラフト変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B)は、下記要件(B-i)および(B-ii)を満たす:
(B-i)極性基を有するビニル化合物由来の骨格単位の含有量MB(以後、単に「変性量MB」ともいう。)が0.1~1.5質量%である;
(B-ii)エチレン由来の骨格単位50~95モル%と、
炭素原子数3~8のα-オレフィン由来の骨格単位5~50モル%と
を含む(ただし、エチレン由来の骨格単位と炭素原子数3~8のα-オレフィン由来の骨格単位との合計は100モル%である。)。
【0020】
前記要件(B-i)における前記含有量MBは0.1~1.5質量%、好ましくは0.2~1.4質量%、より好ましくは0.3~1.2質量%である。変性量MBが少な過ぎると成形体の耐衝撃性が低下する場合がある。一方、変性量MBが多過ぎると、通常の変性方法では変性時の極性モノマーや有機過酸化物の仕込み量を増加させる必要が生じるが、このような変性方法では、変性ポリオレフィンであるグラフト変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B)中にゲル等の異物が混入する場合がある。変性量MBは、後述するように、FT-IRにてカルボニル基に帰属される波数1780cm-1ピーク強度に基づき、別途作成した検量線から求められる。測定条件は以下の通り。
フーリエ変換赤外分光光度計:日本分光(株)FT/IR―610
積算回数:32回
分解:4cm-1
【0021】
前記要件(B-i)における前記極性基はカルボキシル基が好ましく、極性基を有するビニル化合物由来の骨格単位としてはマレイン酸またはその無水物に由来する骨格単位であることが好ましい。
【0022】
前記要件(B-ii)における前記エチレン由来の骨格単位は50~95モル%、好ましくは60~92モル%、より好ましくは70~90モル%、さらに好ましくは75~88モル%、特に好ましくは80~88モル%であり、炭素原子数3~8のα-オレフィン由来の骨格単位は5~50モル%、好ましくは8~40モル%、より好ましくは10~30モル%、さらに好ましくは12~25モル%、特に好ましくは12~20モル%である(ただし、エチレン由来の骨格単位と炭素原子数3~8のα-オレフィン由来の骨格単位との合計は100モル%である)。それぞれの骨格単位が前記範囲内にあると、前記共重合体(B)の柔軟性が良好で取扱いが容易であり、さらには耐衝撃性性に優れた成形体を提供し得るポリアミド樹脂組成物を得ることができる。
【0023】
前記炭素原子数3~8のα-オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、3-エチル-1-ペンテン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、1-オクテン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、4-エチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン及びこれらの組み合わせが挙げられる。中でもプロピレン、1-ブテン、1-オクテンが特に好ましい。
【0024】
本発明に用いられるグラフト変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B)は、エチレン由来の骨格単位および炭素原子数3~8のα-オレフィン由来の骨格単位のほかに、その他の構成成分に由来する骨格単位を含んでいてもよい。前記その他の構成成分に由来する骨格単位の含有量は、本発明の効果を阻害しない範囲であればよいが、例えばグラフト変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B)に対して好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下である。
【0025】
前記その他の構成成分としては具体的には、デセン-1、ウンデセン-1、ドデセン-1、トリデセン-1、テトラデセン-1、ペンタデセン-1、ヘキサデセン-1、ヘプタデセン-1、オクタデセン-1、ノナデセン-1、エイコセン-1等の炭素数9以上のα-オレフィン、シクロペンテン、シクロヘプテン、ノルボルネン、5-メチル-2-ノルボルネン、テトラシクロドデセン等の炭素数3~30、好ましくは3~20の環状オレフィン、1,4-ヘキサジエン、1,6-オクタジエン、2-メチル-1,5-ヘキサジエン、6-メチル-1,5-ヘプタジエン、7-メチル-1,6-オクタジエン等の鎖状非共役ジエン、シクロヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、メチルテトラヒドロインデン、5-ビニルノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-メチレン-2-ノルボルネン、5-イソプロピリデン-2-ノルボルネン、6-クロロメチル-5-イソプロペニル-2-ノルボルネン等の環状非共役ジエン、2,3-ジイソプロピリデン-5-ノルボルネン、2-エチリデン-3-イソプロピリデン-5-ノルボルネン、2-プロペニル-2,2-ノルボルナジエン、1,3,7-オクタトリエン、1,4,9-デカトリエン等の非共役ジエンおよびこれらのナトリウム塩等の金属塩類、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等のα,β-不飽和カルボン酸エステル類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル等の不飽和グリシジル類等の極性基含有モノマー、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o,p-ジメチルスチレン、メトキシスチレン、ビニル安息香酸、ビニル安息香酸メチル、ビニルベンジルアセテート、ヒドロキシスチレン、p-クロロスチレン、ジビニルベンゼン、α-メチルスチレン、アリルベンゼン等の芳香族ビニル化合物等が挙げられる。
グラフト変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B)を構成するモノマーであるエチレン、炭素原子数3~8のα-オレフィンおよびその他の構成成分は、例えば、化石燃料由来のモノマーもしくはバイオマス由来のモノマーであってもよく、これらのモノマーを1種単独で用いても、2種以上併用してもよい。
【0026】
[グラフト変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B)の製造方法]
本発明に用いられるグラフト変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B)は、エチレン・α-オレフィン共重合体(r)をマレイン酸またはその無水物等の極性基を有するビニル化合物によりグラフト変性することにより得ることができる。
【0027】
前記共重合体(r)は、エチレン由来の骨格単位50~95モル%と、炭素原子数3~8のα-オレフィン由来の骨格単位5~50モル%とを含む(エチレン由来の骨格単位と炭素原子数3~8のα-オレフィン由来の骨格単位の合計は100モル%である)。
【0028】
前記共重合体(r)は、230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレート(MFR)が0.01~200g/10分、好ましくは0.1~100g/10分、より好ましくは0.1~10g/10分である。MFRが前記範囲内にあると、得られるグラフト変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B)とポリアミド(A)とのブレンド性が良好になる。加えて、この条件を満たすエチレン・α-オレフィン共重合体(r)を用いると、成形性に優れたポリアミド樹脂組成物を得ることができる。
【0029】
上記のような特性を有するエチレン・α-オレフィン共重合体(r)は、可溶性バナジウム化合物とアルキルアルミニウムハライド化合物とからなるバナジウム系触媒又はジルコニウムのメタロセン化合物と有機アルミニウムオキシ化合物とからなるメタロセン系触媒(例えばWO97/10295に記載されているメタロセン系触媒)等を用いる従来公知の方法により製造することができる。
【0030】
前記共重合体(B)は、前記共重合体(r)に、必要に応じて後述する添加剤を加え、マレイン酸又はその無水物等の極性基を有するビニル化合物を、好ましくはラジカル開始剤の存在下においてグラフト重合させて得られる。
【0031】
マレイン酸又はその無水物の仕込み量は、エチレン・α-オレフィン共重合体(r)100質量部に対して、通常0.010~15質量部、好ましくは0.010~5.0質量部である。ラジカル開始剤の使用量は、エチレン・α-オレフィン共重合体(r)100質量部に対して、通常0.0010~1.0質量部、好ましくは0.0010~0.30質量部である。
【0032】
ラジカル開始剤としては、例えば、有機過酸化物、アゾ化合物又は金属水素化物等を用いることができる。有機過酸化物としては、ベンゾイルペルオキシド、ジクロルベンゾイルペルオキシド、ジクミルペルオキシド等が挙げられ、上記アゾ化合物としては、アゾビスイソブチルニトリル、ジメチルアゾイソブチレート等が挙げられる。
【0033】
ラジカル開始剤は、マレイン酸又はその無水物、及び変性前のポリオレフィンや他の成分とそのまま混合しても使用することができるが、少量の有機溶媒に溶解してから使用することもできる。この有機溶媒としては、ラジカル開始剤を溶解し得る有機溶媒であれば特に限定されない。
【0034】
マレイン酸又はその無水物によるグラフト変性は、従来公知の方法で行うことができる。例えば、プロピレン系ポリアミド樹脂組成物を有機溶媒に溶解し、次いでマレイン酸又はその無水物及びラジカル開始剤等を溶液に加え、70~200℃、好ましくは80~190℃の温度で、0.5~15時間、好ましくは1~10時間反応させる方法が挙げられる。
【0035】
また、押出機等を用いて、無溶媒で、ラジカル開始剤存在下において、マレイン酸又はその無水物とエチレン・α-オレフィン共重合体(r)とを反応させて変性体を製造することもできる。この反応は、通常はエチレン・α-オレフィン共重合体(r)の融点以上の温度で、通常0.5~10分間行われることが望ましい。
【0036】
変性に利用される極性基を有するビニル化合物としては、酸、酸無水物、エステル、アルコール、エポキシ、エーテル等の酸素含有基を有するビニル化合物、イソシアネート、アミド等の窒素含有基を有するビニル化合物、ビニルシラン等のケイ素含有基を有するビニル化合物等を使用することができる。
【0037】
この中でも、酸素含有基を有するビニル化合物が好ましく、具体的には、不飽和エポキシ単量体、不飽和カルボン酸及びその誘導体等が好ましい。不飽和エポキシ単量体としては、不飽和グリシジルエーテル、不飽和グリシジルエステル(例えば、グリシジルメタクリレート)等がある。上記不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、マレイン酸、フマール酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ナジック酸TM(エンドシス-ビシクロ[2,2,1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボン酸)等がある。
【0038】
また、上記不飽和カルボン酸の誘導体としては、上記不飽和カルボン酸の酸ハライド化合物、アミド化合物、イミド化合物、酸無水物、及びエステル化合物等を挙げることができる。具体的には、塩化マレニル、マレイミド、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、グリシジルマレエート等がある。
【0039】
これらの中では、不飽和ジカルボン酸及びその酸無水物がより好ましく、特にマレイン酸、ナジック酸TM及びこれらの酸無水物が特に好ましい。なお、上記極性基を有するビニル化合物又はその誘導体が、エチレン・α-オレフィン共重合体(r)にグラフトする位置は特に制限されず、変性により得られたグラフト変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B)の任意の炭素原子に不飽和カルボン酸又はその誘導体が結合していればよい。
【0040】
[ポリアミド樹脂組成物の組成]
本発明のポリアミド樹脂組成物は、前記脂肪族長鎖ポリアミド(A)85.0~99.9質量%と前記グラフト変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B)0.1~15.0質量%とを含む(ただし、前記成分(A)および(B)の合計は100質量%である)。好ましくは前記成分(A)86.0~98.0質量%と前記成分(B)2.0~14.0質量%、より好ましくは前記成分(A)87.0~96.0質量%と前記成分(B)4.0~13.0質量%とを含む。このような割合で組成することによって、耐衝撃性、流動性および剛性のバランスに優れた成形体が提供される。
【0041】
[ポリアミド樹脂組成物の調製方法]
本発明のポリアミド樹脂組成物は、例えば、前記脂肪族長鎖ポリアミド(A)と、前記グラフト変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B)と、必要に応じて配合される添加剤とを種々の従来公知の方法で溶融混合することにより調製される。具体的には、上記各成分を同時に又は逐次的に、例えばヘンシェルミキサー、V型ブレンダー、タンブラーミキサー、リボンブレンダー等に装入して混合した後、単軸押出機、多軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサー等で溶融混練することによって得られる。特に、多軸押出機、ニーダー、バンンバリーミキサー等の混練性能に優れた装置を使用すると、各成分がより均一に分散された高品質のポリアミド樹脂組成物が得られる。また、これらの任意の段階で必要に応じてその他の添加剤、例えば酸化防止剤等を添加することもできる。
【0042】
[添加剤]
本発明のポリアミド樹脂組成物には、前記脂肪族長鎖ポリアミド(A)、前記グラフト変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B)の他に、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、他の合成樹脂、他のゴム、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、結晶核剤、顔料、塩酸吸収剤、銅害防止剤等の添加物を、前記ポリアミド樹脂組成物100質量部あたり、通常0.01~10質量部、好ましくは0.1~5質量部含んでいてもよい。これらの添加剤は、前記ポリアミド樹脂組成物の調製段階で添加してもよいし、前記グラフト変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B)の調製前、調製中、又は調製後に添加してもよい。
【0043】
[成形体]
本発明のポリアミド樹脂組成物は、射出成形、押出成形、インフレーション成形、ブロー成形、押出ブロー成形、射出ブロー成形、プレス成形、真空成形、カレンダー成形、発泡成形等の公知の成形方法により、各種成形体に成形することができ、公知の多様な用途に適用することができる。
【0044】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
[脂肪族長鎖ポリアミド(A)]
実施例および比較例で使用した脂肪族長鎖ポリアミド(A)は、以下の通りである。
ポリアミド12(A-1):12ナイロン(宇部興産株式会社製、UBESTA(登録商標)3024U、溶融温度:178℃、密度(測定法ISO 1183-3):1020kg/m3、相対粘度(JIS K 6920-2:2009):1.99)、
ポリアミド12(A-2):12ナイロン(宇部興産株式会社製、UBESTA(登録商標)3014U、溶融温度:179℃、密度(測定法ISO 1183-3):1020kg/m3、相対粘度(JIS K 6920-2:2009):1.68)
【0046】
[グラフト変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B)の調製]
エチレン・α-オレフィン共重合体(r)として、密度(ATSM D1505):861kg/m3、MFR(ASTM D1238、230℃、2.16kg荷重):0.9g/10分、エチレンに由来する骨格含有量:81モル%、1-ブテンに由来する骨格含有量:19モル%のエチレン・1-ブテン共重合体(EBR)(r-1)を用いた。
【0047】
(グラフト変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B-1)の調製方法)
エチレン・1-ブテン共重合体(EBR)(r-1)10kgと、無水マレイン酸(MAH)30g及び2,5-ジメチル-2,5-ジ-(t-ブチルペルオキシ)-3-ヘキシン(商品名パーヘキサ25B)7.5gをアセトンに溶解した溶液をブレンドした。次いで、得られたブレンド物を、スクリュー径30mm、L/D 40の軸押出機のホッパーから投入し、樹脂温度200℃、スクリュー回転数240rpm、吐出量12kg/hrでストランド状に押し出した。得られたストランドを十分冷却した後、造粒することで、エチレン・α-オレフィン共重合体(B-1)を得た。
【0048】
(グラフト変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B-2)の調製方法)
エチレン・1-ブテン共重合体(EBR)(r-1)10kgと、無水マレイン酸(MAH)60g及び2,5-ジメチル-2,5-ジ-(t-ブチルペルオキシ)-3-ヘキシン(商品名パーヘキサ25B)15gをアセトンに溶解した溶液をブレンドした。次いで、得られたブレンド物を、スクリュー径30mm、L/D 40の軸押出機のホッパーから投入し、樹脂温度200℃、スクリュー回転数240rpm、吐出量12kg/hrでストランド状に押し出した。得られたストランドを十分冷却した後、造粒することで、エチレン・α-オレフィン共重合体(B-2)を得た。
【0049】
(グラフト変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B-3)の調製方法)
エチレン・1-ブテン共重合体(EBR)(r-1)10kgと、無水マレイン酸(MAH)90g及び2,5-ジメチル-2,5-ジ-(t-ブチルペルオキシ)-3-ヘキシン(商品名パーヘキサ25B)22.5gをアセトンに溶解した溶液をブレンドした。次いで、得られたブレンド物を、スクリュー径30mm、L/D 40の軸押出機のホッパーから投入し、樹脂温度200℃、スクリュー回転数240rpm、吐出量12kg/hrでストランド状に押し出した。得られたストランドを十分冷却した後、造粒することで、グラフト変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B-3)を得た。
【0050】
実施例および比較例で用いたグラフト変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B)の物性測定方法を以下に示し、結果を表1に示す。
【0051】
<MFR>
メルトフローレート(MFR)は、ASTM D1238に準拠して、230℃、2.16kg荷重の条件で測定した。
【0052】
<密度>
密度(g/cm3)は、ASTM D1505に従い、23℃にて求めた。
【0053】
<極性基を有するビニル化合物由来の骨格単位の含有量MB
グラフト変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B)の変性量MBは、FT-IRにてカルボニル基に帰属される波数1780cm-1ピーク強度に基づき、別途作成した検量線から求めた。測定条件は以下の通り。
フーリエ変換赤外分光光度計:日本分光(株)FT/IR―610
積算回数:32回
分解:4cm-1
【0054】
【表1】
【0055】
[実施例1]
ポリアミド12(A-1)95質量部と、グラフト変性エチレン・α-オレフィン共重合体(B-1)5質量部とを、ヘンシェルミキサーを用いて混合してドライブレンド物を調製した。次いで、このドライブレンド物を245℃に設定した2軸押出機に供給し、ポリアミド樹脂組成物のペレットを調製した。得られたポリアミド樹脂組成物のペレットを80℃で1昼夜乾燥した後、下記条件で射出成形を行ない、物性試験用試験片を作製した。
(射出成形条件)
シリンダー温度:245℃
射出圧力:40MPa
金型温度:80℃
得られた物性試験用試験片およびポリアミド組成物を用いて物性評価を行なった。
【0056】
(1)曲げ試験
厚み1/8インチの試験片を用い、ASTM D790に従って、5mm/分の速度で試験し、曲げ弾性率(FM;kg/cm2)を測定した。なお、試験片の状態調製は、乾燥状態で23℃の温度で2日行なった。
【0057】
(2)アイゾット衝撃試験
厚み1/8インチの試験片を用い、ASTM D256に従って、23℃でノッチ付きアイゾット衝撃強度を測定した。なお、試験片の状態調製は、乾燥状態で23℃の温度で2日行なった。
【0058】
(3)流動性(スパイラルフロー)
シリンダー温度280℃、射出圧力100MPa、金型温度80℃とした50t型締力の射出成形機にて、3.8mmφ半円のスパイラル状の溝を持った金型に射出成形し、流動距離を測定した。
【0059】
[実施例2~4、比較例1~5]
実施例1において配合成分(A)および(B)の組成を、表2に示すとおりに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、ポリアミド樹脂組成物のペレット製造、乾燥および試験片の作製、ならびに物性評価を行った。各評価結果を表2に示す。
【0060】
【表2】