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特開2024-134387ポリ-γ-グルタミン酸誘導体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134387
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】ポリ-γ-グルタミン酸誘導体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 69/10 20060101AFI20240926BHJP
   A61K 8/88 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
C08G69/10
A61K8/88
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044656
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】513244753
【氏名又は名称】株式会社カーリット
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 みなみ
(72)【発明者】
【氏名】長井 敦史
(72)【発明者】
【氏名】梅山 晃典
【テーマコード(参考)】
4C083
4J001
【Fターム(参考)】
4C083AD071
4C083AD072
4C083AD131
4C083AD132
4C083CC01
4C083FF01
4J001DA01
4J001DB01
4J001DC12
4J001DD07
4J001DD13
4J001DD15
4J001EA33
4J001FA03
4J001GE02
4J001JA20
(57)【要約】
【課題】ポリ-γ-グルタミン酸の溶解性や粘性を向上させ、抗菌性をもつポリ-γ-グルタミン酸誘導体またはその塩を提供する。
【解決手段】ポリ-γ-グルタミン酸の末端アミノ基並びにアミド結合の二級アミン部位にカチオン性官能基を修飾することで、ポリ-γ-グルタミン酸の溶解性や粘度が向上し、抗菌性だけでなく感触にも優れる四級アンモニウム付加ポリ-γ-グルタミン酸を提供できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】
(式中、Aは基―N+であって、R、R、Rはそれぞれ独立してH、C―C21アルキル又はC―C21アルケニルであり、Bは基―NRであって、RはC―C21アルキル又はC―C21アルケニルであり、かつ、RはH、C―C21アルキル又はC―C21アルケニルであり、Xは基―CHCH(OH)(CH)t―であり、tは0以上3以下の整数を示し、p+q+rの総数は20~14000のいずれかの整数を表し、qは1以上の整数を表し、そして各繰り返し単位はランダムに存在し、末端はHまたはOHである。)
で表されるポリ-γ-グルタミン酸誘導体又はその塩。
【請求項2】
式(1)中、p:(q+r)が99:1~30:70である請求項1に記載のポリ-γ-グルタミン酸誘導体又はその塩。
【請求項3】
式(1)中、R、R、Rはそれぞれ独立してC―C21アルキルである請求項1又は2に記載のポリ-γ-グルタミン酸誘導体又はその塩。
【請求項4】
2.0質量%水溶液の25℃における粘度が10~50mPa・sである請求項1又は2に記載のポリ-γ-グルタミン酸誘導体又はその塩。
【請求項5】
カチオン化度が5~70%である請求項1又は2に記載のポリ-γ-グルタミン酸誘導体又はその塩。
【請求項6】
ポリ-γ-グルタミン酸の一部またはすべてを水に溶解してから、カチオン化剤を付加して反応させる工程を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のポリ-γ-グルタミン酸誘導体又はその塩の製造方法。
【請求項7】
カチオン化剤が、3―クロロ―2―ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルトリエチルアンモニウムクロリド、グリシジルトリエチルアンモニウムクロリド、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルドデシルジメチルアンモニウムクロリド、グリシジルドデシルジメチルアンモニウムクロリドからなる群より選ばれた1種又は2種以上のカチオン化剤である請求項6に記載のポリ-γ-グルタミン酸誘導体又はその塩の製造方法。
【請求項8】
請求項1又は2のポリ-γ-グルタミン酸誘導体又はその塩を含有することを特徴とする化粧料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ-γ-グルタミン酸をカチオン性官能基で修飾することによって、新たな機能を有する四級アンモニウム付加ポリ-γ-グルタミン酸に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ-γ-グルタミン酸は、複数のグルタミン酸がγ-アミド結合により結合した鎖状高分子で、粘ちょう性を示すことが知られている。ポリ-γ-グルタミン酸は、生分解性を備え、高い粘性及び保水性を有することから、食品、化粧品、医薬品等の多くの分野で利用されている。
【0003】
一般的に、ポリ-γ-グルタミン酸は構成する分子内のα-カルボキシル基が反応性官能基として関与し、その分子量が大きい程、粘性、保水性、及びカルシウム吸収促進性が高まることが知られている。この理由から、ポリ-γ-グルタミン酸の分子量の大きさを調整することで、ポリ-γ-グルタミン酸の特性を変化させ、種々の用途に対応してきた。特許文献1には、バチルス属細菌由来PgsB、PgsC、PgsA、PgsEをコードする遺伝子を有するバチルス属細菌を培養することにより、高分子量のポリ-γ-グルタミン酸を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-042844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
微生物から得られるポリ-γ-グルタミン酸の分子量を特定の範囲に調整して生産することは困難であるため、分子の大きさに関係なく、ポリ-γ-グルタミン酸の持つ特性を変化させる技術が望まれており、ポリ-γ-グルタミン酸は酸性の水に対して低い溶解性を示し、水に溶解させた際の粘性が低く、水溶液の状態では腐敗しやすく、長期保存ができないため防腐剤を添加して保存するが、防腐剤の使用により、使用時に皮膚への刺激や用途が制限されるといった課題を見出した。
従って、本発明は、ポリ-γ-グルタミン酸の溶解性や粘性を向上させ、抗菌性をもつポリ-γ-グルタミン酸誘導体またはその塩を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、ポリ-γ-グルタミン酸の末端アミノ基並びにアミド結合の二級アミン部位にカチオン性官能基を修飾することで、ポリ-γ-グルタミン酸の溶解性や粘度が向上し、抗菌性だけでなく感触にも優れるポリ-γ-グルタミン酸誘導体(以下、本発明のポリ-γ-グルタミン酸誘導体を、四級アンモニウム付加ポリ-γ-グルタミン酸とも記載する)となることを見出した。
すなわち、本発明は以下に示すものである。
【0007】
[1]一般式(I)
【0008】
【化1】
【0009】
(式中、Aは基―N+であって、R、R、Rはそれぞれ独立してH、C―C21アルキル又はC―C21アルケニルであり、Bは基―NRであって、RはC―C21アルキル又はC―C21アルケニルであり、かつ、RはH、C―C21アルキル又はC―C21アルケニルであり、Xは基―CHCH(OH)(CH)t―であり、tは0以上3以下の整数を示し、p+q+rの総数は20~14000のいずれかの整数を表し、qは1以上の整数を表し、そして各繰り返し単位はランダムに存在し、末端はHまたはOHである。)
で表されるポリ-γ-グルタミン酸誘導体又はその塩。
【0010】
[2]式(1)中、p:(q+r)が99:1~30:70である[1]に記載のポリ-γ-グルタミン酸誘導体又はその塩。
【0011】
[3]式(1)中、R、R、Rはそれぞれ独立してC―C21アルキルである[1]又は[2]に記載のポリ-γ-グルタミン酸誘導体又はその塩。
【0012】
[4]2.0質量%水溶液の25℃における粘度が10~50mPa・sである[1]~[3]のいずれかに記載のポリ-γ-グルタミン酸誘導体又はその塩。
【0013】
[5]カチオン化度が5~70%である[1]~[4]のいずれかに記載のポリ-γ-グルタミン酸誘導体又はその塩。
【0014】
[6]ポリ-γ-グルタミン酸の一部またはすべてを水に溶解してから、カチオン化剤を付加して反応させる工程を有することを特徴とする[1]~[5]のいずれかに記載のポリ-γ-グルタミン酸誘導体又はその塩の製造方法。
【0015】
[7]カチオン化剤が、3―クロロ―2―ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルトリエチルアンモニウムクロリド、グリシジルトリエチルアンモニウムクロリド、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルドデシルジメチルアンモニウムクロリド、グリシジルドデシルジメチルアンモニウムクロリドからなる群より選ばれた1種又は2種以上のカチオン化剤である[6]に記載のポリ-γ-グルタミン酸誘導体又はその塩の製造方法。
【0016】
[8][1]~[5]のいずれかに記載のポリ-γ-グルタミン酸誘導体又はその塩を含有することを特徴とする化粧料。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ポリ-γ-グルタミン酸の末端アミノ基並びにアミド結合の二級アミン部位にカチオン性官能基を修飾することで、ポリ-γ-グルタミン酸の溶解性や粘度が向上し、抗菌性だけでなく感触にも優れる四級アンモニウム付加ポリ-γ-グルタミン酸を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明について説明する。
【0019】
本発明の四級アンモニウム付加ポリ-γ-グルタミン酸は、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を含む。
【0020】
【化1】
【0021】
式中、Aは基―N+であって、R、R、Rはそれぞれ独立してH、C―C21アルキル又はC―C21アルケニルであり、Bは基―NRであって、RはC―C21アルキル又はC―C21アルケニルであり、かつ、RはHまたはC―C21アルキル又はC―C21アルケニルであり、Xは基―CHCH(OH)(CH)t―であり、tは0以上3以下の整数を示し、p+q+rの総数は20~14000のいずれかの整数を表し、p、qはそれぞれ1以上の整数を表し、そして各繰り返し単位はランダムに存在し、末端はHまたはOHである。
【0022】
~Rのアルキルまたはアルケニル部分は、共通して、ハロゲン原子で置換されていてもよく、直鎖または分岐鎖であることができる。
【0023】
カチオン化剤が入手しやすく、反応率が高い観点から、R~Rの好ましい官能基としては、それぞれ独立してC―C21アルキルであることが挙げられ、C―C15アルキルであることがより好ましく、C―C13アルキルであることがより好ましい。
【0024】
p:(q+r)の比率は、抗菌性と感触の両方が優れる四級アンモニウム付加ポリ-γ-グルタミン酸が提供できるという観点から、p:(q+r)が99:1~30:70であることが好ましく、95:5~33:67であることがより好ましく、91:9~33:67であることがより好ましい。pと(q+r)の比率をこの範囲内とすることで、抗菌性と感触の両方が優れる四級アンモニウム付加ポリ-γ-グルタミン酸を提供できる。
【0025】
四級アンモニウム付加ポリ-γ-グルタミン酸のポリ-γ-グルタミン酸単位のカルボキシル基を介して形成される塩としては、ナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属塩、カルシウムやマグネシウムなどのアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩などの塩基性アミン酸塩を挙げることができる。好ましくはナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属塩である。
【0026】
また、四級アンモニウム付加ポリ-γ-グルタミン酸のカチオン基は陰イオンとイオン対をなし、塩を形成するが、その陰イオンの具体例として、以下に共役酸の状態にて例示する。例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、フッ化水素酸、硫酸、亜硫酸、二亜硫酸、アミド硫酸、チオ硫酸、硝酸、亜硝酸、リン酸、亜リン酸、オルトリン酸、メタリン酸、次リン酸、ピロリン酸、ホスフィン酸、ホスホン酸、炭酸、過炭酸、ホウ酸、オルトホウ酸、メタホウ酸、塩素酸、過塩素酸、次亜塩素酸、臭素酸、過臭素酸、次亜臭素酸、ヨウ素酸、過ヨウ素酸、次亜ヨウ素酸、ケイ酸、オルトケイ酸、メタケイ酸、アルミン酸、テルル酸、イソシアン酸、チオシアン酸、マンガン酸、過マンガン酸、過ヨウ素酸、クロム酸、ニクロム酸、メタ亜アンチモン酸、メタバナジン酸、モリブデン酸等の無機鉱酸、有機ホスホン酸、有機スルホン酸、有機カルボン酸、シュウ酸、有機フェノール、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、ヘキサフルオロアンチモン酸イオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸イオン、ビス(フルオロスルホニル)イミド酸等が挙げられる。
【0027】
これらの中では、安全性に優れ、酸化還元性が無く、低コストであり、水への溶解性が高いものが好ましい。例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、フッ化水素酸、硫酸、亜硫酸、硝酸、亜硝酸、リン酸、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、ホスフィン酸、ホスホン酸、炭酸、ホウ酸、オルトホウ酸、メタホウ酸、ケイ酸、オルトケイ酸、メタケイ酸、シュウ酸、有機ホスホン酸、有機スルホン酸、有機カルボン酸等が好ましい。さらに、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、炭酸、ホウ酸、有機ホスホン酸、有機スルホン酸、有機カルボン酸等が、特に好ましい。
【0028】
p、qおよびrの総数は、後述するようにポリ-γ-グルタミン酸を原料として、それぞれ-Y-Bおよび-X-Aをグラフト化する場合には、原料ポリ-γ-グルタミン酸の分子量により変動する。バチルスズブチルス(Bacillus subtilis)の発酵によって得られるポリ-γ-グルタミン酸は数十万の分子量を有するものが得られており、市販もされている。本発明の四級アンモニウム化ポリ-γ-グルタミン酸は市販されているものをそのまま、または、バチルスズブチルスの菌株を培養することにより、また、高分子量のポリ-γ-グルタミン酸を必要により機械的もしくは化学的に加水分解することによって、分子量を低下させたものを出発原料として得ることができる。したがって、一般的には、p、qおよびr(p+q+r)の総数は20~14000、好ましくは180~3000、より好ましくは500~700のいずれかの整数であることができる。また、本発明の四級アンモニウム化ポリ-γ-グルタミン酸では、所期の機能を奏するためには、カチオン基を有する繰り返し単位が一緒に存在することが必須であるので、p、qはそれぞれ1以上の整数である。
【0029】
(p+q+r)の算出方法は、ゲル濾過カラム(GPCカラム)を用いたHPLCにて分析し、得られたピークに対するリテンションタイムから既知分子量マーカーを用いて作成した校正曲線より分子量を算出することができる。既知分子量マーカーは既知分子量プルランを用いる。算出した分子量と、上記のp:(q+r)の値から、(p+q+r)の値を算出することができる。
【0030】
ポリ-γ-グルタミン酸のα-カルボキシ基に疎水性官能基を修飾すると、水への溶解性が低下し、ポリ-γ-グルタミン酸特有の粘性が低下するという課題がある。ポリ-γ-グルタミン酸の末端アミノ基並びにアミド結合の二級アミン部位にカチオン基を修飾することで、ポリ-γ-グルタミン酸の粘性を維持しつつ、水への溶解性を向上させることができる。
【0031】
本発明を四級アンモニウム付加ポリ-γ-グルタミン酸を2質量%濃度になるように精製水に溶解し、粘度を東機産業(株)製の粘度計(VISCOMETER TV-100E)を使用して25℃で測定した場合の粘度は、塗布した際に保持されやすい観点から、10mPa・s以上が好ましく、20mPa・s以上がより好ましく、23mPa・s以上がより好ましく、塗布した際に伸ばしやすい観点から、70mPa・s以下が好ましく、60mPa・s以下がより好ましく、50mPa・s以下がより好ましい。
【0032】
一般式(1)で表される四級アンモニウム付加ポリ-γ-グルタミン酸の製造方法は、以下の工程(i)および(ii)を含む。
【0033】
(i)出発原料であるポリ-γ-グルタミン酸の一部またはすべてを水に溶解する工程
工程(i)は、ポリ-γ-グルタミン酸にカチオン化剤を付加する反応を促進するために、水にポリ-γ-グルタミン酸の一部またはすべてを溶解させる工程である。
【0034】
出発原料として使用するポリ-γ-グルタミン酸は、合成法または発酵法など、その製造方法の別は問わない。ポリ-γ-グルタミン酸は、特公昭43―24472号公報や特開平1-174397号公報の記載を参考にして、バチルス属の微生物から製造することができるし、また市販のポリ-γ-グルタミン酸を用いることができる(例えば、一丸ファルコス(株)、日本ポリグリ(株)、(株)明治フードマテリアルなど)。
【0035】
工程(i)で水に溶解するときの水とポリ-γ-グルタミン酸の質量比は問わないが、水とポリ-γ-グルタミン酸の質量比が100:1~1:100であることが好ましく、10:1~1:50であることがより好ましい。
【0036】
工程(i)では水以外の溶媒を含んでいてもよく、溶解していないポリ-γ-グルタミン酸が存在していても良い。
【0037】
(ii)ポリ-γ-グルタミン酸にカチオン化剤を付加する工程
工程(ii)は、ポリ-γ-グルタミン酸水溶液を含む溶媒にカチオン化剤を添加して、末端アミノ基並びにアミド結合の二級アミン部位にカチオン性官能基を修飾する工程である。
【0038】
工程(ii)で使用するカチオン化剤は、ポリ-γ-グルタミン酸にカチオン基を修飾して一般式(1)の四級アンモニウム付加ポリ-γ-グルタミン酸を作製することができるカチオン化剤であれば構造は問わないが、具体例では、グリシジルトリメチルアンモニウム、グリシジルトリエチルアンモニウム、グリシジルトリプロピルアンモニウムのそれぞれ塩化物、臭化物又はヨウ化物や、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウム、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルトリエチルアンモニウム、又は3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルトリプロピルアンモニウムのそれぞれ塩化物、3-ブロモ-2-ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウム、3-ブロモ-2-ヒドロキシプロピルトリエチルアンモニウム、又は3-ブロモ-2-ヒドロキシプロピルトリプロピルアンモニウムのそれぞれ臭化物や、3-ヨード-2-ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウム、3-ヨード-2-ヒドロキシプロピルトリエチルアンモニウム、又は3-ヨード-2-ヒドロキシプロピルトリプロピルアンモニウムのそれぞれヨウ化物などが挙げられる。これらのうち、3―クロロ―2―ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルトリエチルアンモニウムクロリド、グリシジルトリエチルアンモニウムクロリド、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルドデシルジメチルアンモニウムクロリド、グリシジルドデシルジメチルアンモニウムクロリドが好ましい。これら反応剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0039】
カチオン化度は、四級アンモニウム付加ポリ-γ-グルタミン酸と、比較例1の未処理のポリ-γ-グルタミン酸をDOにそれぞれ溶解して、日本電子(株)製の分析装置(JNM-LA300)を用いて、1H-NMRで測定することができる。カチオン化度は、カチオン化剤に由来するプロトンと、ポリ-γ-グルタミン酸に由来するプロトンの比率から、グルタミン酸単位あたりのすべてにカチオン化剤が1つずつ付加した場合をカチオン化度100%として算出することができる。
【0040】
なお、ポリ-γ-グルタミン酸のα-カルボキシ基を修飾するために、その水溶液中、水溶性の脱水縮合剤を用いて修飾剤を縮合する反応が知られているが、水溶液中での脱水反応は、当然ではあるが効率が極めて悪く、脱水縮合剤は比較的高価であり、生体にアレルギー症状を引き起こすおそれもある。また、ポリ-γ-グルタミン酸のα-カルボキシ基を修飾するために、ポリ-γ-グルタミン酸の一部を疎水性化して有機溶媒に溶解させた後に修飾剤を結合させる反応が知られているが、2段階以上の反応工程が必要であり、工程が多くなるほど収率の低下や、副生成物の除去にコストがかかる。
本発明のポリ-γ-グルタミン酸水溶液を含む溶媒にカチオン化剤を添加して、末端アミノ基並びにアミド結合の二級アミン部位にカチオン基を修飾する工程は、効率が高く、工程は少なく、副生成物の除去にコストがかからず、カチオン化剤は比較的安価である等の長所がある。
【0041】
工程(ii)において、ポリ-γ-グルタミン酸に対する上記カチオン化剤の添加量は問わないが、一般式(1)のp:(q+r)が99:1~30:70の範囲になるように添加量を調整することが好ましく、95:5~33:67の範囲になるように添加量を調整することがより好ましく、91:9~33:67の範囲になるように添加量を調製することがより好ましい。pと(q+r)の比率をこの範囲内とすることで、抗菌性と感触の両方が優れる四級アンモニウム化ポリ-γ-グルタミン酸を提供できる。
【0042】
工程(ii)において、ポリ-γ-グルタミン酸水溶液を含む溶媒とカチオン化剤のpHは問わないが、エポキシ基をもたないカチオン化剤を使用するときは、付加反応を促進するために反応前~反応開始後1時間までのpHを調整してもよいが、pH10以上であれば、ポリ-γ-グルタミン酸やカチオン性官能基の加水分解も促進されるため、pHを10前後に維持することが好ましい。
【0043】
工程(ii)において、ポリ-γ-グルタミン酸とカチオン化剤との反応温度は、特に限定されないが、ポリ-γ-グルタミン酸または四級アンモニウム付加ポリ-γ-グルタミン酸の安定性の観点から、好ましくは100℃以下、より好ましくは80℃以下、更に好ましくは70℃以下であり、また、反応速度を向上させる観点から、好ましくは40℃以上、より好ましくは60℃以上が好ましい。
【0044】
工程(ii)において、ポリ-γ-グルタミン酸とカチオン化剤との反応時間は、特に限定されないが、収率の観点から、好ましくは0.1時間以上、より好ましくは1時間以上、より好ましくは3時間以上である。
【0045】
以上に説明してきた本発明の四級アンモニウム付加ポリ-γ-グルタミン酸は、具体的には、例えば、以下に示すように製造することができる。
【0046】
機械撹拌式混合機内で粉末状の、ポリ-γ-グルタミン酸ナトリウム、塩基性触媒、水を加えて攪拌する。その後カチオン化剤を機械撹拌式混合機内に滴下する。滴下終了後、機械攪拌式混合機内の温度を昇温して反応を行なう。反応終了後は、必要に応じて触媒の中和、精製操作を行って、四級アンモニウム化ポリ-γ-グルタミン酸を単離することもできる。
【0047】
塩基触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン等の3級アミン類が挙げられる。これらの中では、入手性及び経済性の観点から、好ましくはアルカリ金属水酸化物、より好ましくは水酸化ナトリウム、又は、水酸化カリウムである。これらの触媒は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0048】
塩基性触媒の使用量としては、反応開始時のpHが10前後になる触媒量が好ましく、反応開始後1時間まではpHを維持するために、適宜触媒を追加することが好ましい。
反応液から未反応のカチオン化剤を除去し、精製する方法としては、例えば酸沈殿法、溶媒沈殿法、膜精製法等の既知の方法を任意に選択することができる。
【0049】
本発明の四級アンモニウム付加ポリ-γ-グルタミン酸は界面作用型であり、抗菌性を示すが、その使用用途は特に限定されない。例えば、従来の表面作用型高分子薬剤、界面作用型高分子薬剤、内部作用型高分子薬剤、結合作用型高分子薬剤が使用可能な用途の何れにも使用できる。
【0050】
界面作用型高分子薬剤としては、例えば、分散を主目的としたものとして、顔料分散剤、農薬粒剤用分散剤、微粉炭用分散剤、セメント分散剤、スケール防止剤、潤滑油用清浄分散剤、流動点降下剤、プラスチック着色助剤、相溶化剤が挙げられ、凝集を主目的としたものとして、高分子凝集剤、ろ水性・歩留り向上剤等が挙げられ、接着を主目的としたものとして、印刷インキ用バインダー、へアセット用高分子、不織布用バインダー、プラスチック強化繊維用バインダー、電子写真トナー用バインダー、磁気テープ用バインダー、レジンコンクリート用バインダー、鋳物砂用バインダー、ファインセラミック用バインダー、シーラント、接着剤等が挙げられ、その他の目的のものとして、泡安定化剤、消泡剤、エマルジョンブレーカー、滑剤等が挙げられる。
【0051】
表面作用型高分子薬剤としては、例えば、表面保護を主目的としたものとして、塗料用高分子、フロアポリッシュ用高分子、錠剤コーティング剤、マスキング剤、光ファイバー用コーティング剤、プラスチック・ハードコート剤、フォトレジスト用高分子、プリント配線板用防湿コーティング剤等が挙げられ、表面改質を主目的としたものとして、紙用サイズ剤、紙力増強剤、つや出しコーティング剤、繊維用防染加工剤、帯電防止剤・導電剤、電磁波シールド用コーティング剤、コンクリート用防水剤、プライマー等が挙げられる。
【0052】
内部作用型高分子薬剤としては、例えば、増粘を主目的とするものとして、捺染用のり剤、原油増産用高分子、土木用高分子、焼き入れ油用高分子、作動液用高分子、粘度指数向上剤等が挙げられ、減粘を主目的とするものとして、可塑剤等が挙げられ、ゲル化を主目的としたものとして、吸油性高分子等が挙げられる。
【0053】
結合作用型高分子薬剤としては、例えば、ビルダー、キレート高分子、染料固着剤、エポキシ樹脂硬化剤等が挙げられる。
【0054】
また、本発明の重合体は、医薬、農薬、肥料等の薬剤徐放性の基材として用いることもできる。さらに、上記各用途以外でも、使用目的、使用用途に応じて、親水性/疎水性のバランスをとることにより、広い範囲で有効な重合体として使用できる。
本発明の重合体は、各種用途のうち、皮膚への塗布性や抗菌性に優れる点から、特に化粧品に使用した際に有用である。
【0055】
例えば、乳液、エマルジョン、クリーム、クレンジングクリーム、おしろい、口紅、化粧水、ローション、ぬれティッシュー、マニキュア、ペディキュア、保湿料、パック、ムース、シェービングクリーム、アフターシェービングローション、ヘアトニック、ヘアリキッド、ヘアスプレー、デオドラント、消臭剤、消香剤、抗菌性化粧料等をも包含する。
【実施例0056】
以下、本発明について実施例を挙げ、より詳細に説明する。なお、本発明は本実施例により何ら限定されるものでない。以下の記載において、特に言及の無い限り、「部」は「質量部」を意味する。
【0057】
[実施例1]
15部の未処理ポリ-γ-グルタミン酸を水に溶かして苛性ソーダでpH10に調整し、これに47.8部の3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルドデシルジメチルアンモニウムクロリド(有効成分30.8質量%;四日市合成製)を添加して60℃に保温した。最初の1時間はpHの低下を補正しながら12時間撹拌した。未反応物の除去のために、これを分子量分画5000のUF膜にて分画し、濃縮液を凍結乾燥で粉末化して実施例1の四級アンモニウム付加ポリ-γ-グルタミン酸を得た。このときの収率は48%であった。
【0058】
[実施例2]
実施例1において、47.8部の3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルドデシルジメチルアンモニウムクロリドを95.6部に変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、実施例2の四級アンモニウム付加ポリ-γ-グルタミン酸を得た。このときの収率は46%であった。
【0059】
[実施例3]
実施例1において、47.8部の3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルドデシルジメチルアンモニウムクロリドを239.0部に変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、実施例3の四級アンモニウム付加ポリ-γ-グルタミン酸を得た。このときの収率は42%であった。
【0060】
[実施例4]
実施例1において、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルドデシルジメチルアンモニウムクロリドを3.8部のグリシジルトリメチルアンモニウムクロリド(有効成分70.0質量%;セイケムジャパン製)に変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、実施例4の四級アンモニウム付加ポリ-γ-グルタミン酸を得た。このときの収率は95%であった。
【0061】
[実施例5]
実施例4において、3.8部のグリシジルトリメチルアンモニウムクロリドを7.7部に変更した以外は実施例4と同様の操作を行い、実施例5の四級アンモニウム付加ポリ-γ-グルタミン酸を得た。このときの収率は87%であった。
【0062】
[製造例6]
実施例4において、3.8部のグリシジルトリメチルアンモニウムクロリドを19.2部に変更した以外は実施例4と同様の操作を行い、実施例6の四級アンモニウム付加ポリ-γ-グルタミン酸を得た。このときの収率は65%であった。
【0063】
[比較例1]
実施例1における未処理のポリ-γ-グルタミン酸を比較例1とした。
[評価試験]
(1)カチオン化度、(p:(q+r))の算出
実施例1~6で得られた四級アンモニウム付加ポリ-γ-グルタミン酸と、比較例1の未処理のポリ-γ-グルタミン酸をDOにそれぞれ溶解して、日本電子(株)製の分析装置(JNM-LA300)を用いて、1H-NMRで測定した。カチオン化度は、使用したカチオン化剤(3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルドデシルジメチルアンモニウムクロリド又はグリシジルトリメチルアンモニウムクロリド)に由来するプロトンと、ポリ-γ-グルタミン酸に由来するプロトンの比率から、グルタミン酸単位のすべてに使用したカチオン化剤(3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルドデシルジメチルアンモニウムクロリド又はグリシジルトリメチルアンモニウムクロリド)(カチオン化剤)が1つずつ付加した場合をカチオン化度100%として算出した。p:(q+r)についても1H-NMRの結果から求めた。その結果を表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
(2)(p+q+r)の算出
実施例1~6で得られた四級アンモニウム付加ポリ-γ-グルタミン酸の平均分子量を測定した。測定方法はゲル濾過カラム(GPCカラム)を用いたHPLCにて分析し、得られたピークに対するリテンションタイムから既知分子量マーカーを用いて作成した校正曲線より分子量を算出した。既知分子量マーカーは既知分子量プルランを用いた。算出した分子量と、上記のp:(q+r)の値から、(p+q+r)の値を算出した。その結果を表2に示す。
【0066】
【表2】
【0067】
(3)粘度
実施例1~6で得られた四級アンモニウム付加ポリ-γ-グルタミン酸を2質量%濃度になるように精製水に溶解し、粘度を東機産業(株)製の粘度計(VISCOMETER TV-100E)を使用して25℃で測定した。比較例1の未処理のポリ-γ-グルタミン酸も同様に測定した。その結果を表3に示す。
【0068】
【表3】
【0069】
(4)溶解性
実施例1~6で得られた四級アンモニウム付加ポリ-γ-グルタミン酸を2質量%濃度になるように精製水に溶解し、pHを酸性域(pH1)、中性域(pH7)、アルカリ性域(pH12)の範囲に塩酸または苛性ソーダで調整したときの溶解性を目視で確認し、下記の評価基準に基づいて評価した。その結果を表4に示す。表4において、ポリ-γ-グルタミン酸が溶解しない強酸性領域でも四級アンモニウム付加ポリ-γ-グルタミン酸は溶解しており、幅広いpH領域で溶解させたまま使用することができる。
○:水溶液が透明である
×:水溶液が白濁した
【0070】
【表4】
【0071】
(5)抗菌性能
抗菌性能は、大腸菌(Escherichia
coli NBRC3972)に対するMIC(最小発育阻止濃度)試験にて評価した。
実施例1~6で得られた四級アンモニウム付加ポリ-γ-グルタミン酸と、比較例1の未処理のポリ-γ-グルタミン酸を、それぞれ培地により各種濃度に調整して試験培地とした。また、サンプルを含まない培地をコントロールとした。試験菌は普通寒天培地に接種し、32.5℃で24時間培養後、生理食塩水を用いて、菌数が10/mLになるように調整したものを試験菌液とした。次に各試験培地に試験菌液を接種し、32.5℃で24時間培養した。培養後、試験菌の発育有無を肉眼で観察し、MICを判定した。MIC値の結果から、下記4段階で評価した。これらの結果を表5に示す。表5において、四級アンモニウム付加ポリ-γ-グルタミン酸は、未処理ポリ-γ-グルタミン酸よりも、大腸菌に対する明らかな抗菌性能がみられた。
◎:MIC値が0.01%未満
○:MIC値が0.01%~0.5%未満
●:MIC値が0.5%~5.0%未満
×:MIC値が5.0%以上
【0072】
【表5】
【0073】
(6)官能試験
実施例1~6で得られた四級アンモニウム付加ポリ-γ-グルタミン酸と、比較例1の未処理のポリ-γ-グルタミン酸を、それぞれ1部ずつ精製水に溶解し、試験溶液とした。得られた試験溶液50mgを、前腕内部の2cm×5cmの面積に塗布した際の塗り広げやすさ、しっとり感について、下記「塗り広げやすさの評点」および「しっとり感の評点」に基づいて判断した。専門パネル間で評点の基準を統一し、専門パネル10人の評点の平均点を素肌感の評価結果とした。その結果を表6に示す。表6において、四級アンモニウム付加ポリ-γ-グルタミン酸は、未処理ポリ-γ-グルタミン酸よりも、皮膚に塗布しやすく、長鎖アルキルをもつカチオン化剤を付加したが実施例1~3は非常にしっとり感が強く感じられた。
(塗り広げやすさの評点)
3点:非常に塗り広げやすい。2点:やや塗り広げやすい。1点:やや塗り広げにくい。
0点:塗り広げにくい。
(しっとり感の評点)
3点:非常にしっとり感がある。2点:しっとり感がある。1点:ややしっとり感がある。
0点:しっとり感は感じられない。
【0074】
【表6】
【0075】
以上説明したように、本発明によれば、ポリ-γ-グルタミン酸に四級アンモニウム塩を付加することにより、塗布感や感触が優れるだけでなく、抗菌性をもち、幅広い用途において各種要求特性を満たすことのできる四級アンモニウム付加ポリ-γ-グルタミン酸及びその製造方法を提供できる。