(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134391
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】ポリイミド前駆体、ポリイミドおよびポリイミドフィルム
(51)【国際特許分類】
C08G 73/10 20060101AFI20240926BHJP
【FI】
C08G73/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044662
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 隼平
(72)【発明者】
【氏名】加藤 泰央
(72)【発明者】
【氏名】玉井 仁
(72)【発明者】
【氏名】小野 和宏
【テーマコード(参考)】
4J043
【Fターム(参考)】
4J043PA04
4J043PA11
4J043PA19
4J043PC205
4J043PC206
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4J043RA35
4J043SA06
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4J043UB012
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4J043UB121
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4J043UB162
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4J043UB281
4J043UB301
4J043UB302
4J043UB311
4J043UB381
4J043UB401
4J043UB402
4J043VA011
4J043VA021
4J043VA022
4J043VA041
4J043VA051
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4J043VA081
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4J043YA06
4J043YA07
4J043YA08
4J043ZA43
4J043ZB11
4J043ZB50
(57)【要約】
【課題】吸湿率が低く、かつ10GHz以上の領域での誘電特性に優れ、高周波回路基板に用いることが可能なポリイミドフィルムを得られるポリイミド前駆体を実現する。
【解決手段】ジアミン残基として特定の式で表されるマクロモノマー残基を含む、ポリイミド前駆体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される繰り返し単位を含む、ポリイミド前駆体:
【化1】
式(1)中、
X
1およびX
2は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~5のアルキル基であり;
Aは、4価のテトラカルボン酸残基であり;
Bは、2価のジアミン残基であり;
上記ジアミン残基は、下記一般式(2)で表されるマクロモノマー残基を含み;
【化2】
式(2)中、
Rは、ビニル系重合体であり;
R
1は-O-、-O(CO)-、-NH-、-N(CH
3)-または-N(CH
2CH
3)-であり;
R
2は、炭素数が1~18個の3価または4価の基であり、ヘテロ原子を有していてもよく;
R
3は、それぞれ独立に、単結合または炭素数が1~8個の2価の基であり、ヘテロ原子を有していてもよく;
nは、1または2であり;
nが2である場合、2個ずつ存在するRおよびR
1の構造は、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。
【請求項2】
上記ポリイミド前駆体中に含まれるジアミン残基100モル%中、上記一般式(2)で表されるマクロモノマー残基を0.1~10モル%含む、請求項1に記載のポリイミド前駆体。
【請求項3】
上記ビニル系重合体は、ポリ(メタ)アクリル系重合体またはポリイソブチレン系重合体である、請求項1に記載のポリイミド前駆体。
【請求項4】
上記マクロモノマー残基は、下記一般式(3)で表されるマクロモノマーに由来し、
下記一般式(3)で表されるマクロモノマーは、サイズ排除クロマトグラフィー法によって測定したときに、ポリスチレン換算数平均分子量が500~600,000であり、かつ、分子量分布が1.8以下である、請求項1に記載のポリイミド前駆体:
【化3】
式(3)中、
Rは、ビニル系重合体であり;
R
1は-O-、-O(CO)-、-NH-、-N(CH
3)-または-N(CH
2CH
3)-であり;
R
2は、炭素数が1~18個の3価または4価の基であり、ヘテロ原子を有していてもよく;
R
3は、それぞれ独立に、単結合または炭素数が1~8個の2価の基であり、ヘテロ原子を有していてもよく;
nは、1または2であり;
nが2である場合、2個ずつ存在するRおよびR
1の構造は、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体のイミド化物である、ポリイミド。
【請求項6】
請求項5に記載のポリイミドを含む、ポリイミドフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド前駆体、ポリイミドおよびポリイミドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器の高速信号伝送に伴い、回路を伝播する電気信号は高周波化している。この電気信号の高周波化に伴い、電子基板材料の低誘電率化および低誘電正接化の要求が高まっている。これは、高周波化した電気信号の伝送損失を抑制するには、誘電率と誘電正接とを低くすることが有効なためである。IoT化が進む近年、高周波化の傾向は進んでおり、例えば10GHz以上の領域においても伝送損失を抑制できるような基板材料が求められている。
【0003】
例えば特許文献1には、特定のジアミン成分から誘導されるジアミン残基と、特定のテトラカルボンカルボン酸成分から誘導される酸二無水物残基とを含有するポリイミドが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような従来のポリイミドには、低い吸湿率と、10GHz以上の領域での優れた誘電特性とを両立する観点から改善の余地があった。
【0006】
本発明の一態様は、吸湿率が低く、かつ10GHz以上の領域での誘電特性に優れ、高周波回路基板に用いることが可能なポリイミドフィルムを得られるポリイミド前駆体を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るポリイミド前駆体は、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を含む:
【0008】
【0009】
式(1)中、
X1およびX2は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~5のアルキル基であり;
Aは、4価のテトラカルボン酸残基であり;
Bは、2価のジアミン残基であり;
上記ジアミン残基は、下記一般式(2)で表されるマクロモノマー残基を含み;
【0010】
【0011】
式(2)中、
Rは、ビニル系重合体であり;
R1は-O-、-O(CO)-、-NH-、-N(CH3)-または-N(CH2CH3)-であり;
R2は、炭素数が1~18個の3価または4価の基であり、ヘテロ原子を有していてもよく;
R3は、それぞれ独立に、単結合または炭素数が1~8個の2価の基であり、ヘテロ原子を有していてもよく;
nは、1または2であり;
nが2である場合、2個ずつ存在するRおよびR1の構造は、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、吸湿率が低く、かつ10GHz以上の領域での誘電特性に優れ、高周波回路基板に用いることが可能なポリイミドフィルムを得られるポリイミド前駆体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態について、以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。また、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリルおよび/またはメタクリルを意味する。
【0014】
〔1.ポリイミド前駆体〕
本発明の一実施形態に係るポリイミド前駆体は、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を含む:
【0015】
【0016】
式(1)中、
X1およびX2は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~5のアルキル基であり;
Aは、4価のテトラカルボン酸残基であり;
Bは、2価のジアミン残基であり;
上記ジアミン残基は、下記一般式(2)で表されるマクロモノマー残基を含み;
【0017】
【0018】
式(2)中、
Rは、ビニル系重合体であり;
R1は-O-、-O(CO)-、-NH-、-N(CH3)-または-N(CH2CH3)-であり;
R2は、炭素数が1~18個の3価または4価の基であり、ヘテロ原子を有していてもよく;
R3は、それぞれ独立に、単結合または炭素数が1~8個の2価の基であり、ヘテロ原子を有していてもよく;
nは、1または2であり;
nが2である場合、2個ずつ存在するRおよびR1の構造は、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。なお、nは、R2と結合するR-R1-の数を表す。
【0019】
上記ポリイミド前駆体は、上記マクロモノマー残基を含むため、側鎖としてビニル系重合体が導入されているとも言える。このポリイミド前駆体を用いることにより、10GHz以上の領域での誘電特性に優れ、高周波回路基板に用いることが可能なポリイミドフィルムを得られる。また、電子機器は様々な環境に対応することが求められている。特に誘電正接は水の影響を受け易いことから、材料の低吸湿率化も電子機器の高性能化にとって、重要である。上記ポリイミド前駆体を用いることにより、誘電特性に優れ、かつ吸湿率が低いポリイミドフィルムを得ることができる。また、得られたポリイミドフィルムは、ポリイミド主鎖の影響が大きいガラス転移温度および線膨張係数などの物性も損なわれず、耐熱性などのフレキシブル配線基板(FPC)に求められる基本的な特性も兼ね備える。
【0020】
上記ポリイミド前駆体は、全繰り返し単位のうち一般式(1)で表される繰り返し単位を70モル%以上含むことが好ましく、80モル%以上含むことがより好ましく、90モル%以上含むことがさらに好ましく、100モル%含むことが特に好ましい。すなわち、上記ポリイミド前駆体は、一般式(1)で表される繰り返し単位からなるものでもよい。上記ポリイミド前駆体の末端はアミノ基であり得る。
【0021】
<テトラカルボン酸残基>
上記繰り返し単位には、4価のテトラカルボン酸残基が含まれる。当該テトラカルボン酸残基は、テトラカルボン酸二無水物に由来する構成単位であり得る。当該テトラカルボン酸二無水物は、脂肪族テトラカルボン酸二無水物であってもよく、芳香族テトラカルボン酸二無水物であってもよいが、熱安定性の観点からは芳香族テトラカルボン酸二無水物が好ましい。
【0022】
テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)および4,4’-オキシジフタル酸二無水物(ODPA)、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、1,1-(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸二無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸二無水物)、ビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸二無水物)等が挙げられる。これらのうち1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0023】
上記テトラカルボン酸残基は、上記テトラカルボン酸二無水物のアルキルモノエステルまたはアルキルジエステルに由来する構成単位であってもよい。この場合、X1およびX2の少なくともいずれか一方は、炭素数1~5のアルキル基であり得る。
【0024】
<ジアミン残基>
上記繰り返し単位には、2価のジアミン残基が含まれる。ジアミン残基はジアミンに由来する構成単位である。ジアミンとしては、後述のマクロモノマーに加え、マクロモノマー以外のジアミンも含まれ得る。マクロモノマー以外のジアミンとしては、芳香族ジアミン、脂肪族ジアミンおよびポリエーテルジアミン等が挙げられる。これらのうち1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0025】
芳香族ジアミンとしては、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、パラフェニレンジアミン(PDA)、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4'-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、ベンジジン、4,4’-ジアミノ-2,2’-ジメチルビフェニル(m-TB)、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジメチルビフェニル、4,4’-ジアミノ-2,2’-ジメトキシビフェニル、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジメトキシビフェニル、3,3’-ジクロロベンジジン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、1,5-ジアミノナフタレン、4,4’-ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’-ジアミノジフェニルシラン、4,4’-ジミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4’-ジアミノジフェニルN-メチルアミン、4,4’-ジアミノジフェニルN-フェニルアミン、1,3-ジアミノベンゼン(メタフェニレンジアミン、MDA)、1,2-ジアミノベンゼン等が挙げられる。
【0026】
脂肪族ジアミンとしては、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,11-ジアミノウンデカン、1,12-ジアミノドデカン、1,13-ジアミノトリデカン、1,14-ジアミノテトラデカン、1,15-ジアミノペンタデカン、1,16-ジアミノヘキサデカン、1,17-ジアミノヘプタデカン、1,18-ジアミノオクタデカン、1,19-ジアミノノナデカン、1,20-ジアミノエイコサン、シクロヘキサンジアミン、ビス-(4-アミノシクロヘキシル)メタン等が挙げられる。
【0027】
ポリエーテルジアミンとしては、ポリオキシアルキレン(例えば、ポリオキシエチレン、1,2-ポリオキシプロピレン、1,3-ポリオキシプロピレンあるいはそれらの共重合物等)のアミノ変性体が挙げられる。
【0028】
<マクロモノマー残基>
上記繰り返し単位には、一般式(2)で表されるマクロモノマー残基が含まれる。上記マクロモノマー残基は、下記一般式(3)で表されるマクロモノマーに由来する構成単位である:
【0029】
【0030】
式(3)中、R、R1、R2、R3、nの定義は、一般式(2)と同じである。上記一般式(3)で表されるマクロモノマーとしては、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0031】
上記ポリイミド前駆体中に含まれるジアミン残基100モル%中、上記一般式(2)で表されるマクロモノマー残基の割合は、0.1モル%以上であることが好ましく、0.5モル%以上であることがより好ましく、1モル%以上であることがさらに好ましく、1.5モル%以上であることが特に好ましい。また、上記マクロモノマー残基の割合は、10モル%以下であることが好ましく、8モル%以下であることがより好ましく、6モル%以下であることがさらに好ましい。マクロモノマー残基の割合が0.1モル%以上であれば、誘電率および誘電正接をより低下させるとともに吸湿率もより低下させることができる。また、マクロモノマー残基の割合が10モル%以下であれば、耐熱性の観点から好ましい。上記ポリイミド前駆体は、上記ポリイミド前駆体中に含まれるジアミン残基100モル%中、上記一般式(2)で表されるマクロモノマー残基を0.1~10モル%含むことが好ましいとも言える。
【0032】
R1は、-O-、-O(CO)-、-NH-、-N(CH3)-または-N(CH2CH3)-である。中でも、R1は、-O(CO)-または-NH-であることが好ましい。
【0033】
R2は炭素数が1~18個の3価または4価の基であり、ヘテロ原子を有していてもよい。R2における炭素数は、1~13個であることが好ましく、1~12個であることがより好ましく、1~6個であることがさらに好ましい。R2が有し得るヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子)等が挙げられる。
【0034】
R2は線状構造であってもよく、分枝状構造であってもよく、環状構造であってもよい。また、R2が環状構造である場合、R2はヘテロ環構造を有していてもよい。より具体的に、R2は、3価または4価のアルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであることが好ましい。
【0035】
R2がアリールまたはヘテロアリールであれば、脂肪族ジアミンを用いた場合に起こる塩形成などが起こらないため好ましい。脂肪族ジアミンを用いて高分子量のポリイミド前駆体を得る方法では塩形成が起こる場合があったが、R2がアリールまたはヘテロアリールのマクロモノマーを用いれば塩形成が起こらず、従来と同様の方法で高分子量のポリイミド前駆体を得ることができる。
【0036】
なお、本明細書において、3価のアルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールとは、通常は1価であるアルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールから水素原子を2個除いた基を表す。すなわち、3価のアルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールは、他の分子との結合箇所を3箇所有するものである。
【0037】
また、本明細書において、4価のアルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールとは、通常は1価であるアルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールから水素原子を3個除いた基を表す。すなわち、4価のアルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールは、他の分子との結合箇所を4箇所有するものである。
【0038】
R3は、単結合または炭素数が1~8個の2価の基であり、ヘテロ原子を有していてもよい。R3における炭素数は、0~8個であり、0~6個であることが好ましく、0~4個であることがより好ましく、0~2個であることがさらに好ましい。なお、R3の炭素数が0であるとは、R3が単結合であるか、ヘテロ原子のみからなることを意味する。R3が有し得るヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子)等が挙げられる。
【0039】
R3は線状構造であってもよく、分枝状構造であってもよく、環状構造であってもよい。また、R3が環状構造である場合、R3はヘテロ環構造を有していてもよい。より具体的に、R3は、2価のアルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであることが好ましい。
【0040】
本明細書において、2価のアルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールとは、通常は1価であるアルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールから水素原子は1個除いた基を表す。すなわち、2価のアルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールは、他の分子との結合箇所を2箇所有するものである。なお、2価のアルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールは、アルキレン、ヘテロアルキレン、シクロアルキレン、ヘテロシクロアルキレン、アリーレンまたはヘテロアリーレンとも称する。
【0041】
上記一般式(3)で表されるマクロモノマーの具体例としては、以下の式(i)~(v)で表される構造が挙げられる。
【0042】
【0043】
Rは、ビニル系重合体である。すなわち、上記マクロモノマーは、ビニル系単量体に由来する構成単位から構成される主鎖構造を有する。
【0044】
上記マクロモノマーの主鎖を構成する構成単位の由来となるビニル系単量体としては、ビニル基を有する限り特に限定されない。当該ビニル系単量体としては、(メタ)アクリル酸系単量体、スチレン系単量体、マレイミド系単量体、塩素含有ビニル系単量体、フッ素含有ビニル系単量体、ケイ素含有ビニル系単量体、ニトリル基含有ビニル系単量体、アミド基含有ビニル系単量体、ビニルエステル類、アルケン類、共役ジエン類などが挙げられる。
【0045】
(メタ)アクリル酸系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ヘプチル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トルイル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸3-メトキシブチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2-アミノエチル、γ-((メタ)アクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(メタ)アクリル酸のエチレンオキサイド付加物、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2-トリフルオロメチルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロエチルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロエチル-2-パーフルオロブチルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロメチル、(メタ)アクリル酸ジパーフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロメチル-2-パーフルオロエチルメチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロヘキシルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロデシルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロヘキサデシルエチルなどが挙げられる。
【0046】
スチレン系単量体としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、クロルスチレン、スチレンスルホン酸およびスチレンスルホン酸の塩などが挙げられる。マレイミド系単量体としては、例えば、マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、プロピルマレイミド、ブチルマレイミド、ヘキシルマレイミド、オクチルマレイミド、ドデシルマレイミド、ステアリルマレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミドなどが挙げられる。
【0047】
塩素含有ビニル系単量体としては、特に限定されないが、例えば、塩化ビニル、塩化ビニリデン、塩化アリルなどが好適に挙げられる。フッ素含有ビニル系単量体としては、例えば、パーフルオロエチレン、パーフルオロプロピレン、フッ化ビニリデンなどが挙げられる。ケイ素含有ビニル系単量体としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどが挙げられる。ニトリル基含有ビニル系単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられる。アミド基含有ビニル系単量体としては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミドなどが挙げられる。
【0048】
ビニルエステル類としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニルなどが挙げられる。アルケン類としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレンなどが挙げられる。共役ジエン類としては、例えば、ブタジエン、イソプレンなどが挙げられる。
【0049】
上記マクロモノマーの主鎖を構成する構成単位の由来となるビニル系単量体としては、無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸のモノアルキルエステル、マレイン酸のジアルキルエステル、フマル酸、フマル酸のモノアルキルエステル、フマル酸のジアルキルエステルおよびアリルアルコールなども好適に挙げられる。
【0050】
上記マクロモノマーの主鎖は、上述したビニル系単量体のうち1種のビニル系単量体に由来する構成単位のみを含む単独重合体であってもよく、2種以上の任意のビニル系単量体に由来する構成単位を含む共重合体であってもよい。
【0051】
特に、重合体末端の変性が比較的容易であることから、上記マクロモノマーの主鎖は、(メタ)アクリル酸系単量体に由来する構成単位、スチレン系単量体に由来する構成単位またはイソブチレンに由来する構成単位のうち1つ以上を主成分とすることが好ましい。すなわち、上記マクロモノマーの主鎖は、ポリ(メタ)アクリレート、ポリスチレンまたはポリイソブチレンを主成分とすることが好ましく、ポリ(メタ)アクリレートまたはポリイソブチレンを主成分とすることがより好ましい。換言すれば、上記ビニル系重合体は、ポリ(メタ)アクリル系重合体またはポリイソブチレン系重合体であることがより好ましい。上記マクロモノマーの主鎖は、(メタ)アクリル酸系単量体、スチレン系単量体およびイソブチレンからなる群より選択される2種類以上に由来する構成単位を主成分とする共重合体であってもよい。
【0052】
本明細書において、マクロモノマーの主鎖がポリ(メタ)アクリレートを主成分とするとは、当該主鎖に含まれる全構成単位100モル%中、(メタ)アクリル酸に由来する構成単位を50モル%以上含むことを意図する。上記マクロモノマーの主鎖がポリ(メタ)アクリレートを主成分とする場合、上記マクロモノマーの主鎖は、当該主鎖に含まれる全構成単位100モル%中(メタ)アクリル酸に由来する構成単位を60モル%以上含むことが好ましく、70モル%以上含むことがより好ましく、80モル%以上含むことがさらに好ましく、90モル%以上含むことがよりさらに好ましく、100モル%であってもよい。
【0053】
本明細書において、マクロモノマーの主鎖がポリスチレンを主成分とするとは、当該主鎖に含まれる全構成単位100モル%中、スチレン系単量体に由来する構成単位を50モル%以上含むことを意図する。本末端変性ビニル系重合体の主鎖がポリスチレンを主成分とする場合、本末端変性ビニル系重合体の主鎖は、当該主鎖に含まれる全構成単位100モル%中スチレン系単量体に由来する構成単位を60モル%以上含むことが好ましく、70モル%以上含むことがより好ましく、80モル%以上含むことがさらに好ましく、90モル%以上含むことがよりさらに好ましく、100モル%であってもよい。
【0054】
本明細書において、マクロモノマーの主鎖がポリイソブチレンを主成分とするとは、当該主鎖に含まれる全構成単位100モル%中、イソブチレンに由来する構成単位を50モル%以上含むことを意図する。上記マクロモノマーの主鎖がポリイソブチレンを主成分とする場合、上記マクロモノマーの主鎖は、当該主鎖に含まれる全構成単位100モル%中イソブチレンに由来する構成単位を60モル%以上含むことが好ましく、70モル%以上含むことがより好ましく、80モル%以上含むことがさらに好ましく、90モル%以上含むことがよりさらに好ましく、100モル%であってもよい。
【0055】
本明細書において、マクロモノマーの主鎖が(メタ)アクリル酸系単量体、スチレン系単量体およびイソブチレンからなる群より選択される2種類以上に由来する構成単位を主成分とするとは、当該主鎖に含まれる全構成単位100モル%中、(メタ)アクリル酸系単量体、スチレン系単量体またはイソブチレンに由来する構成単位を、合計で50モル%以上含むことを意図する。マクロモノマーの主鎖が(メタ)アクリル酸系単量体、スチレン系単量体およびイソブチレンからなる群より選択される2種類以上に由来する構成単位を主成分とする場合、上記マクロモノマーの主鎖は、当該主鎖に含まれる全構成単位100モル%中(メタ)アクリル酸系単量体、スチレン系単量体またはイソブチレンに由来する構成単位を、合計で、60モル%以上含むことが好ましく、70モル%以上含むことがより好ましく、80モル%以上含むことがさらに好ましく、90モル%以上含むことがよりさらに好ましく、100モル%であってもよい。
【0056】
上記マクロモノマーの主鎖は、上記のビニル系単量体に由来する構成単位に加えて、ビニル系単量体以外の単量体(その他の単量体)に由来する構成単位を含んでいてもよい。上記マクロモノマーの主鎖におけるその他の単量体に由来する構成単位の含有量は、当該主鎖に含まれる全構成単位100モル%中、50モル%未満であることが好ましく、40モル%以下であることがより好ましく、30モル%以下であることがより好ましく、20モル%以下であることがさらに好ましく、10モル%以下であることがよりさらに好ましく、0モル%であってもよい。
【0057】
上記マクロモノマーの主鎖の構造は特に限定されず、線状構造であってもよく、分枝状構造であってもよい。すなわち、上記マクロモノマーの主鎖は線状重合体であってもよく、分枝状重合体であってもよい。
【0058】
上記マクロモノマーの主鎖であるビニル系重合体の重合法は、特に限定されず、例えば、特開2005-232419公報、特開2006-291073公報、特開2016-88944公報に記載の重合法が挙げられる。
【0059】
なお、上記マクロモノマーの主鎖であるビニル系重合体は、当該ビニル系重合体内(特に末端部に)に、ビニル系単量体以外の物質(例えば、重合触媒等)に由来する構造を有する場合がある。例えば、後述するメルカプタン類を使用した重合方法によりビニル系重合体を重合した場合、得られるビニル系重合体は、その末端に、当該メルカプタン類に由来するS基を含む構造を有する場合がある。このような末端にS基を有するビニル系重合体を主鎖とする場合、上記マクロモノマーは、上記R1と、ビニル系単量体からなる主鎖構造との間に、上記メルカプタン類に由来するS基を含む構造をさらに有する場合がある。
【0060】
上記マクロモノマーとしては、上記のように、上記R1と、ビニル系単量体からなる主鎖構造との間に、重合触媒等のビニル系単量体以外の物質に由来する構造(例えば、S基を含む構造)をさらに有していてもよい。このような態様もまた、本発明の一実施形態に含まれる。
【0061】
(重量平均分子量)
上記マクロモノマーは、サイズ排除クロマトグラフィー(Size Exclusion Chromatography;SEC)で測定したときに、重量平均分子量が550以上であることが好ましく、1,200以上であることがより好ましく、2,400以上であることがさらに好ましい。また、重量平均分子量は、1,100,000以下であることが好ましく、200,000以下であることがより好ましく、50,000以下であることがさらに好ましい。当該構成によると、ビニル系重合体に導入される末端構造の数を容易に制御でき、所望の数の末端構造を有するマクロモノマーを提供できる。
【0062】
(数平均分子量)
上記マクロモノマーは、サイズ排除クロマトグラフィーで測定したときに、数平均分子量が500以上であることが好ましく、1,000以上であることがより好ましく、2,000以上であることがさらに好ましい。また、数平均分子量は、600,000以下であることが好ましく、100,000以下であることがより好ましく、30,000以下であることがさらに好ましい。当該構成によると、ビニル系重合体に導入される末端構造の数を容易に制御でき、所望の数の末端構造を有するマクロモノマーを提供できる。
【0063】
(分子量分布(Mw/Mn))
上記マクロモノマーは、分子量分布、すなわち、サイズ排除クロマトグラフィーで測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)の値が1.8以下であることが好ましく、1.7以下であることがより好ましく、1.6以下であることがより好ましく、1.5以下であることがさらに好ましく、1.4以下であることがよりさらに好ましく、1.3以下であることが特に好ましい。当該構成によると、ビニル系重合体に導入される末端構造の数を容易に制御でき、所望の数の末端構造を有するマクロモノマーを提供できる。分子量分布の下限値は、理論上、1である。
【0064】
本明細書におけるビニル系重合体の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、SECで測定し、ポリスチレン換算値で算出された値とする。ビニル系重合体の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)の具体的な測定方法は実施例に記載の通りである。
【0065】
上記一般式(3)で表されるマクロモノマーは、サイズ排除クロマトグラフィー法によって測定したときに、ポリスチレン換算数平均分子量が500~600,000であり、かつ、分子量分布が1.8以下であることが好ましい。
【0066】
(マクロモノマーの製造方法)
上記マクロモノマーの製造方法としては、上記マクロモノマーを提供できる限り特に限定されないが、以下の方法(1)または方法(2)の製造方法を、好適な製造方法として挙げることができる:
方法(1):ビニル系重合体の末端に位置するハロゲン基と、下記一般式(4a)で表される化合物とを反応させる工程を有する方法。
【0067】
【0068】
式(4a)中、
Xは、-OH、-COOH、-NH2、-N(CH3)Hもしくは-N(CH2CH3)H、または、これらの塩であり;
R2、R3、nの定義は、一般式(2)と同じである。
【0069】
方法(2):ビニル系重合体の末端に位置するハロゲン基と、下記一般式(4b)で表される化合物とを反応させる工程と、得られた反応物を還元する工程と、を有する方法。
【0070】
【0071】
式(4b)中、
Xは、-OH、-COOH、-NH2、-N(CH3)Hもしくは-N(CH2CH3)H、または、これらの塩であり;
R2、R3、nの定義は、一般式(2)と同じである。
【0072】
上記式(4a)および(4b)において、Xにおける塩としては、例えば、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属塩あるいは、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属等が挙げられる。
【0073】
以下、方法(1)および方法(2)を例に挙げて、上記マクロモノマーの具体的な製造方法について詳細に説明するが、上記マクロモノマーの製造方法は、これらの方法には限定されない。
【0074】
(方法(1))
方法(1)によるマクロモノマーの製造方法(「第一のマクロモノマーの製造方法」と称する場合がある)は、ビニル系重合体の末端に位置するハロゲン基と、上記一般式(4a)で表される化合物とを反応させる工程を有する。
【0075】
(第1の反応工程)
第一のマクロモノマーの製造方法は、ビニル系重合体の末端に位置するハロゲン基と、上記一般式(4a)で表される化合物とを反応させる工程(「第1の反応工程」と称する場合がある)を有する。当該工程においては、ビニル系重合体の末端に上記一般式(4a)で表される化合物を反応させることで、ビニル系重合体の末端を変性させ、上記一般式(4a)で表される化合物に由来する末端構造を有するマクロモノマーを得ることができる。
【0076】
第1の反応工程において、ビニル系重合体の末端に位置するハロゲン基と、上記一般式(4a)で表される化合物とを反応させる方法としては、特に限定されないが、溶媒中に末端にハロゲン基を有するビニル系重合体と、上記一般式(4a)で表される化合物とを溶解させ、当該溶媒中のビニル系重合体および上記一般式(4a)で表される化合物を加熱(および必要に応じて攪拌する)方法が挙げられる。
【0077】
第1の反応工程において、上記の反応を実施する溶媒としては特に限定はされないが、上記反応は求核置換反応であるため、極性溶媒が好ましい。第1の反応工程において使用し得る極性溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、アセトン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、アセトニトリル等が挙げられる。
【0078】
第1の反応工程において、当該溶媒中のビニル系重合体および上記一般式(4a)で表される化合物を加熱する温度(加熱温度)は限定されないが、例えば、30℃~120℃であり、50℃~100℃であることが好ましく、70℃~90℃であることがより好ましい。
【0079】
第1の反応工程における加熱時間は特に限定されないが、反応に供したビニル系重合体が有する全てのハロゲン基が、上記一般式(4a)で表される化合物と反応(置換)するまで加熱を継続することが好ましい。具体的な加熱時間としては、例えば、30分間~6時間であり得る。
【0080】
上記一般式(4a)で表される化合物の具体例としては、以下の式(vi)~(x)で表される構造が挙げられる。
【0081】
【0082】
(方法(2))
方法(2)によるマクロモノマーの製造方法(「第二のマクロモノマーの製造方法」と称する場合がある)は、ビニル系重合体の末端に位置するハロゲン基と、上記一般式(4b)で表される化合物とを反応させる工程と、得られた反応物を還元する工程と、を有する。
【0083】
(第2の反応工程)
第二のマクロモノマーの製造方法は、ビニル系重合体の末端に位置するハロゲン基と、上記一般式(4b)で表される化合物とを反応させる工程(「第2の反応工程」と称する場合がある)を有する。当該工程においては、ビニル系重合体の末端に上記一般式(4b)で表される化合物を反応させることで、ビニル系重合体の末端を変性させ、上記一般式(4b)で表される化合物に由来する末端構造を有する末端変性ビニル系重合体を得る。
【0084】
第2の反応工程において、ビニル系重合体の末端に位置するハロゲン基と、上記一般式(4b)で表される化合物とを反応させる方法としては、特に限定されないが、溶媒中に末端にハロゲン基を有するビニル系重合体と、上記一般式(4b)で表される化合物とを溶解させ、当該溶媒中のビニル系重合体および上記一般式(4b)で表される化合物を加熱(および必要に応じて攪拌する)方法が挙げられる。
【0085】
第2の反応工程において、上記の反応を実施する溶媒としては特に限定はされないが、上記反応は求核置換反応であるため、極性溶媒が好ましい。第2の反応工程において使用し得る極性溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、アセトン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、アセトニトリル等が挙げられる。
【0086】
第2の反応工程において、当該溶媒中のビニル系重合体および上記一般式(4b)で表される化合物を加熱する温度(加熱温度)は限定されないが、例えば、30℃~120℃であり、50℃~100℃であることが好ましく、70℃~90℃であることがより好ましい。
【0087】
第2の反応工程における加熱時間は特に限定されないが、反応に供したビニル系重合体が有する全てのハロゲン基が、上記一般式(4b)で表される化合物と反応(置換)するまで加熱を継続することが好ましい。具体的な加熱時間としては、例えば、30分間~6時間であり得る。
【0088】
(還元工程)
第二のマクロモノマーの製造方法は、上記一般式(4b)で表される化合物に由来する末端構造を1つ以上有する末端変性ビニル系重合体、すなわち、上記第2の反応工程で得られた反応物を還元する工程を有する。当該工程においては、上記第2の反応工程で得られた反応物を還元することで、すなわち、当該反応物の末端のニトロ基を還元してアミノ基に変換することで、上記一般式(3)で表されるマクロモノマーを得る。
【0089】
還元工程において、上記第2の反応工程で得られた反応物を還元する方法としては、特に限定されないが、上記第2の反応工程で得られた反応物と、還元剤と、を反応させる方法が挙げられる。
【0090】
還元工程において使用し得る還元剤としては、例えば、塩化アンモニウム、水素、ヒドラジン、水素化アルミニウムリチウムおよび水素化ホウ素ナトリウム等が挙げられる。
【0091】
上記一般式(4b)で表される化合物の具体例としては、以下の式(xi)~(xv)で表される構造が挙げられる。
【0092】
【0093】
(方法(3))
本発明の一実施形態において、本製造方法の上記方法(1)または方法(2)以外の一態様として、ビニル系重合体の末端に位置する水酸基、またはカルボキシル基等のハロゲン基以外の官能基と、下記一般式(4c)の化合物とを反応させる工程を有する、末端変性ビニル系重合体の製造方法を提供する(方法(3)):
【0094】
【0095】
式(4c)中、
X’は、-OH、-NH2、-N(CH3)H、-N(CH2CH3)H、-COOH、-COZまたは-Zであり(Zは、ハロゲン原子であり);
R2、R3、nの定義は、一般式(2)と同じである。
本明細書において、この方法(3)による末端変性ビニル系重合体の製造方法を「第三の製造方法」と称する場合がある。
【0096】
(第3の反応工程)
第三の製造方法は、ビニル系重合体の末端に位置する水酸基、またはカルボキシル基等のハロゲン基以外の官能基と、下記一般式(4c)の化合物とを反応させる工程(第3の反応工程と称する場合がある)を有する。当該工程においては、ビニル系重合体の末端に上記一般式(4c)で表される化合物を反応させることで、ビニル系重合体の末端を変性させ、上記一般式(4c)で表される化合物に由来する末端構造を有する末端変性ビニル系重合体を得ることができる。
【0097】
(ビニル系重合体調製工程)
第一のマクロモノマーの製造方法および第二のマクロモノマーの製造方法は、ハロゲン基が末端に位置するビニル系重合体を調製する工程(ビニル系重合体調製工程)をさらに有していてもよい。ハロゲン基が末端に位置するビニル系重合体の調製(重合)方法としては、リビングカチオン重合法、リビングラジカル重合法等の公知の種々の重合法を採用することができる。また、第三の製造方法は、ハロゲン基以外の官能基が末端に位置するビニル系重合体を調製する工程をさらに有していてもよい。ハロゲン基以外の官能基が末端に位置するビニル系重合体の調製(重合)方法としては、特開平1-203412号に記載のような、メルカプトエタノール等の水酸基を有するメルカプタン類、または、メルカプト酢酸等のカルボキシル基を有するメルカプタン類を使用した重合方法などを利用することもできる。
【0098】
以下、リビングラジカル重合法を例に挙げて、ビニル系重合体調製工程の具体的な一態様について詳説する。ビニル系重合体の原料となるビニル系単量体としては、上記の各ビニル系単量体を適宜使用することができる。
【0099】
リビングラジカル重合としては、(a)ポリスルフィドなどの連鎖移動剤を用いる重合法、(b)有機テルル化合物、コバルトポルフィリン錯体および/またはニトロキシド化合物などのラジカル捕捉剤を用いる重合法、(c)有機ハロゲン化物などを開始剤として使用し、かつ遷移金属錯体を触媒として使用する原子移動ラジカル重合(Atom Transfer Radical Polymerization:ATRP)法、(d)有機ハロゲン化物などを開始剤として使用し、かつ窒素、酸素等を中心原子とする有機分子を触媒として使用する重合(可逆移動触媒重合(RTCP))法などを挙げることができるが、ビニル系重合体の分子量および分子量分布の制御が容易であることから、原子移動ラジカル重合法が好ましい。
【0100】
リビングラジカル重合においては、重合条件を制御することにより、得られるビニル系重合体が有するハロゲン基末端の数を制御することができる。例えば、重合の開始剤の種類を制御することで、得られるビニル系重合体が有するハロゲン基末端の数を制御することができる。具体的に、重合開始点が1箇所ある開始剤を使用した場合、片方の末端にハロゲン基が位置する線状ビニル系重合体を調製することができる。
【0101】
重合開始点が1箇所ある開始剤としては、2-ブロモイソ酪酸エチル、ブロモ酢酸エチル、ブロモ酢酸メチル、(1-ブロモエチル)ベンゼン、アリルブロミド、2-ブロモプロピオン酸メチル、クロロ酢酸メチル、2-クロロプロピオン酸メチル、(1-クロロエチル)ベンゼン等が挙げられる。
【0102】
リビングラジカル重合においては、開始剤に加えて、重合触媒、多座アミン(配位子)、塩基、還元剤、溶媒等を使用してもよい。これらの各成分の種類および量は、当業者が適宜選択可能である。
【0103】
<添加剤>
上記ポリイミド前駆体は、所望の目的に応じて種々の添加剤を配合した組成物とすることができる。かかる添加剤としては、例えば、リン化合物(例えば、リン酸、ピロリン酸、ポリリン酸、亜リン酸、次亜リン酸、または、これらのアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属塩)、耐熱剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑材、スリップ剤、結晶核剤、粘着性付与剤、離型剤、可塑剤、顔料、染料、難燃剤、補強材、無機フィラー、微小繊維、X線不透過剤などが挙げられる。添加剤としては、上記の各種添加剤のうち1種類を単独で使用してもよく、複数種類を組み合わせて使用してもよい。また、これらの添加剤の種類および使用量は、所望の目的に応じて当業者が適宜選択可能である。
【0104】
〔2.ポリイミド前駆体の製造方法〕
上記ポリイミド前駆体の製造方法は、有機溶媒中でテトラカルボン酸二無水物またはそのアルキルモノエステルもしくはアルキルジエステルと、マクロモノマーと、当該マクロモノマー以外のジアミンとを含むモノマー群を重合する工程(重合工程)を有する。モノマー群は、任意で上記以外のモノマー(その他のモノマー)を含んでいてもよい。なお、〔1.ポリイミド前駆体〕で説明した事項は適宜その記載を援用する。
【0105】
重合方法は特に限定されず、以下の(1)~(5)のいずれかを好適に使用することができる。以下では、テトラカルボン酸二無水物またはそのアルキルモノエステルもしくはアルキルジエステルをカルボン酸成分、マクロモノマーと当該マクロモノマー以外のジアミンとをジアミン成分とも称する。
(1)ジアミン成分を有機溶媒中に溶解し、ジアミン成分と、これと実質的に等モル量のカルボン酸成分とを反応させて重合する方法。
(2)カルボン酸成分と、これに対して過小モル量のジアミン成分とを有機溶媒中で反応させ、両末端に酸二無水物基またはカルボキシル基を有するプレポリマーを得る。続いて、プレポリマーに、カルボン酸成分に対して、重合工程全体の総使用量が実質的に等モル量となるようジアミン成分を重合させる方法。
(3)カルボン酸成分と、これに対し過剰モル量のジアミン成分とを有機溶媒中で反応させ、両末端にアミノ基を有するプレポリマーを得る。続いて、当該プレポリマーにジアミン成分を追加添加後に、重合工程全体のカルボン酸成分とジアミン成分との合計の使用量が実質的に等モル量となるように、カルボン酸成分を加え、プレポリマーとカルボン酸成分とを重合する方法。
(4)カルボン酸成分を有機溶媒中に溶解および/または分散させた後に、そのカルボン酸成分に対して実質的に等モル量になるようにジアミン成分を加えて、カルボン酸成分とジアミン成分とを重合させる方法。
(5)実質的に等モル量のカルボン酸成分とジアミン成分との混合物を、有機溶媒中で反応させて重合する方法。
【0106】
本明細書において、実質的に等モル量とは、カルボン酸成分とジアミン成分とのモル量の比率が、100:98~100:102の範囲内であり、好ましくは100:100であることを意図する。
【0107】
有機溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド等のホルムアミド系溶媒;N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド等のアセトアミド系溶媒;N-メチル-2-ピロリドン、N-ビニル-2-ピロリドン等のピロリドン系溶媒;フェノール、o-、m-、またはp-クレゾール、o-、m-、またはp-キシレノール、o-、m-、またはp-ハロゲン化フェノール、o-、m-、またはp-カテコール等のフェノール系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソラン等のエーテル系溶媒;メタノール、エタノール、ブタノール等のアルコール系溶媒;ブチルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒;ヘキサメチルホスホルアミド、γ-ブチロラクトン等の溶媒;等の有機極性溶媒を挙げることができる。これら有機溶媒は単独で用いてもよいし、複数種類を混合して用いてもよい。さらに、キシレン、トルエン等の芳香族炭化水素も使用可能である。
【0108】
〔3.ポリイミド〕
本発明の一実施形態に係るポリイミドは、上記ポリイミド前駆体のイミド化物である。上記ポリイミド前駆体をイミド化する方法としては、熱イミド化法および化学イミド化法が挙げられる。熱イミド化法では、イミド化促進剤を使用せずに、ポリイミド前駆体溶液を加熱してイミド化する。化学イミド化法では、ポリイミド前駆体に、無水酢酸等の酸二無水物に代表される脱水剤(脱水閉環剤)、および/または、ピコリン、キノリン、イソキノリン、ピリジン等の第3級アミン類に代表される触媒、等のイミド化促進剤を添加し、当該イミド化促進剤を含むポリイミド前駆体を加熱することで、ポリイミド前駆体をイミド化する。
【0109】
本発明の一実施形態には、上記ポリイミドを含むポリイミドフィルムも包含される。当該ポリイミドフィルムは、吸湿率が低く、かつ10GHz以上の領域での誘電特性に優れるため、電子機器におけるフレキシブル配線基板等に利用できる。当該ポリイミドフィルムは、例えば上記ポリイミド前駆体の製造方法によって得られたポリイミド前駆体溶液を支持体上に塗布し、加熱(イミド化)および乾燥させることにより得ることができる。
【0110】
〔4.まとめ〕
本発明の一実施形態は、以下の構成を含んでいてもよい。
〔1〕下記一般式(1)で表される繰り返し単位を含む、ポリイミド前駆体:
【0111】
【0112】
式(1)中、
X1およびX2は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~5のアルキル基であり;
Aは、4価のテトラカルボン酸残基であり;
Bは、2価のジアミン残基であり;
上記ジアミン残基は、下記一般式(2)で表されるマクロモノマー残基を含み;
【0113】
【0114】
式(2)中、
Rは、ビニル系重合体であり;
R1は-O-、-O(CO)-、-NH-、-N(CH3)-または-N(CH2CH3)-であり;
R2は、炭素数が1~18個の3価または4価の基であり、ヘテロ原子を有していてもよく;
R3は、それぞれ独立に、単結合または炭素数が1~8個の2価の基であり、ヘテロ原子を有していてもよく;
nは、1または2であり;
nが2である場合、2個ずつ存在するRおよびR1の構造は、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。
〔2〕上記ポリイミド前駆体中に含まれるジアミン残基100モル%中、上記一般式(2)で表されるマクロモノマー残基を0.1~10モル%含む、〔1〕に記載のポリイミド前駆体。
〔3〕上記ビニル系重合体は、ポリ(メタ)アクリル系重合体またはポリイソブチレン系重合体である、〔1〕または〔2〕に記載のポリイミド前駆体。
〔4〕上記マクロモノマー残基は、下記一般式(3)で表されるマクロモノマーに由来し、
下記一般式(3)で表されるマクロモノマーは、サイズ排除クロマトグラフィー法によって測定したときに、ポリスチレン換算数平均分子量が500~600,000であり、かつ、分子量分布が1.8以下である、〔1〕~〔3〕のいずれか1つに記載のポリイミド前駆体:
【0115】
【0116】
式(3)中、
Rは、ビニル系重合体であり;
R1は-O-、-O(CO)-、-NH-、-N(CH3)-または-N(CH2CH3)-であり;
R2は、炭素数が1~18個の3価または4価の基であり、ヘテロ原子を有していてもよく;
R3は、それぞれ独立に、単結合または炭素数が1~8個の2価の基であり、ヘテロ原子を有していてもよく;
nは、1または2であり;
nが2である場合、2個ずつ存在するRおよびR1の構造は、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。
〔5〕〔1〕~〔4〕のいずれか1つに記載のポリイミド前駆体のイミド化物である、ポリイミド。
〔6〕〔5〕に記載のポリイミドを含む、ポリイミドフィルム。
【0117】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0118】
以下、本発明の一実施形態を実施例により具体的に説明する。本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0119】
[分析方法]
(重合転化率)
ビニル系重合体の製造における、単量体の重合体への転化率は、ガスクロマトグラフ(Gas Chromatograph,GC(株式会社島津製作所製、GC-2000))を用いて測定した。カラムには、Agilent J&W社製、GCカラムHP-1を用いた。また、トルエンをスタンダードとして測定した。
【0120】
(官能基の定性分析および定量分析)
重合体における官能基の定性分析および定量分析は、1H NMR(Bruker 400MHz NMR)を用いて行なった。重合体30mgを重クロロホルム0.8gに溶解させて得られた溶解物を分析用の試料とした。
【0121】
(重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn))
重合体の重量平均分子量および数平均分子量の分析は、SEC(HLC-8420GPC)を用いて行った。カラムにはTOSOH TSKgel SuperHM-Lを用い、スタンダードにはポリスチレンスタンダードサンプルを用いた。溶離液はクロロホルムにトリエチルアミン1.5重量%を添加した混合溶媒を用いた。重合体3mgを混合溶媒3mLに溶解させて得られた溶解物を分析用の試料とした。
【0122】
(臭素末端分析)
重合体の末端臭素基をアクリル酸カリウムで置換した後、1H NMRにより置換基の根元のH量を計算することで求めた。末端臭素基の置換方法を次に示す。ビニル系重合体に大過剰量のジメチルアセトアミドおよびアクリル酸カリウムを加え、得られた溶液を50℃にて30分間攪拌した。得られた溶液に過剰量の酢酸エチルおよび水を加え、得られた混合物から有機層のみを採取した。その後、有機層を濃縮して、末端臭素基をアクリル酸カリウムで置換したビニル重合体を得た。得られたビニル重合体を重クロロホルムに溶解させて得られた溶解物を分析用の試料として、1H NMR測定を行った。その結果、4.8~5.2ppmの範囲にアクリル酸カリウムで置換された置換基の根元のHのシグナルが確認され、その積分値からビニル系重合体の末端臭素量を算出した。
【0123】
(線膨張係数(CTE)の測定)
熱分析装置(日立ハイテクサイエンス社製「TMA/SS6100」)を用いて、窒素雰囲気下においてポリイミドフィルムを、-10℃から300℃まで昇温させた後、-10℃まで冷却し、更に再度300℃まで昇温させて、2回目の昇温時の50℃から250℃における歪み量から線膨張係数を求めた。測定条件を以下に示す。
・サンプル(ポリイミドフィルム)のサイズ:幅3mm、長さ10mm
・荷重:1g(9.8mN)
・昇温速度:10℃/分。
【0124】
(動的粘弾性の測定)
動的粘弾性測定装置(日立ハイテクサイエンス社製「DM6100」)を用いて、空気雰囲気下においてポリイミドフィルムの動的粘弾性を測定した。貯蔵弾性率(E’)と測定温度との相関をプロットして、変曲点温度を読み取った。また、貯蔵弾性率と損失弾性率(E”)の比(E’/E”)より算出されたTanδと測定温度との相関をプロットして、Tanδピークトップ温度を読み取った。測定条件を以下に示す。
・サンプル(ポリイミドフィルム)の幅:9mm
・サンプル保持具(つかみ具)の間隔:20mm
・測定温度範囲:0℃~400℃
・昇温速度:3℃/分
・歪み振幅:10μm
・測定周波数:1Hz,5Hz,10Hz
・最小張力/圧縮力:100mN
・張力/圧縮ゲイン:1.5
・力振幅初期値:100mN。
【0125】
(吸湿率の測定)
吸湿率は、熱重量測定装置(TA Instruments社製「SDT Q600」)を用いて測定した。測定は、窒素雰囲気下において行い、20℃から120℃まで昇温した後、120℃で120分間保持した際のポリイミドフィルムの重量変化より、吸湿率を算出した。測定条件を以下に示す。
・サンプル(ポリイミドフィルム)のサイズ:50mm×100mm
・事前乾燥条件:150℃×30分
・調湿条件:23℃、50%R.H.
・測定試料:前記調湿条件下で1週間放置した試料を測定に使用した。
・昇温速度:20℃/分。
【0126】
(誘電率(Dk)、誘電正接(Df)の測定)
誘電率および誘電正接は、HEWLETT PACKARD社製のネットワークアナライザ8719Cと株式会社関東電子応用開発製の空洞共振器振動法誘電率測定装置CP511とを用いて測定した。測定条件を以下に示す。
・サンプル(ポリイミドフィルム)のサイズ:幅2mm、長さ100mm
・測定周波数:10GHz
・測定条件:23℃、50%R.H.環境下
・測定試料:前記測定条件下で24時間放置した試料を測定に使用した。
【0127】
[マクロモノマーの合成]
フラスコにメタノール160g、アクリル酸ブチル320g、2-ブロモイソ酪酸エチル55.3g、トリエチルアミン4.3g、臭化第二銅0.16g、およびトリス[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミン0.16gを添加した。次に、フラスコ内を窒素バブリングした。なお、「窒素バブリング」とは、フラスコまたは溶液などの対象物に窒素を流入して対象物から酸素を除去することを意図する。窒素バブリング後、フラスコ内の混合物を加熱し、45℃まで昇温した。
【0128】
別途、メタノール49g、アスコルビン酸0.25gおよびトリエチルアミン0.29gを混合してメタノール溶液を得た。このメタノール溶液を窒素バブリングした後、上記フラスコ内に5.1mL/hで滴下した。
【0129】
メタノール溶液の滴下開始から0.5時間後、フラスコ内に窒素バブリングしたアクリル酸ブチル480gを1.5時間かけて滴下した。メタノール溶液滴下開始から4時間後、アクリル酸ブチルの転化率が95%以上に達したことをガスクロマトグラフィーにより確認し、メタノール溶液の滴下を止めた。その後、フラスコ内の反応溶液を100℃かつ真空下で1時間濃縮した。濃縮した反応溶液に、酢酸ブチル800g、キョーワード500(協和化学製)8g、キョーワード700(協和化学製)8g、ラヂオライト900(昭和化学製)8gを添加し、80℃で1時間攪拌した。次に、得られた反応溶液をろ過した。得られたろ液を100℃かつ真空下で2時間濃縮することで、片末端に臭素を有するポリアクリル酸ブチル(重合体1-1)を得た。得られた重合体1-1の数平均分子量は2574であり、分子量分布は1.30であることをSECにより確認した。更に重合体1-1は1分子あたり平均0.86の臭素末端を有していることを1H NMRにより確認した。
【0130】
フラスコに重合体1-1を150gと、N,N-ジメチルアセトアミド150gと、を添加し、攪拌させて均一にした。更に攪拌させながら炭酸カリウム13.5g、ジアミノ安息香酸16.4gを添加した。続いて、フラスコを80℃で4時間、加熱攪拌した。その後、1-ブタノール450gと水450gを加え、室温で撹拌、静置分離をして有機層だけを取る抽出操作を3回行った。得られた有機層を50℃かつ真空下で1時間濃縮することで、重合体1-1の臭素末端がジアミノ安息香酸に由来する構造に置換されてなる末端変性ビニル系重合体(マクロモノマー)を得た。得られたマクロモノマーの数平均分子量は2628であり、分子量分布は1.19であることをSECにより確認した。更にマクロモノマーは臭素末端が完全にジアミノ安息香酸のエステル基に置き換わったことを1H NMRにより確認した。
【0131】
[使用した原料モノマーおよびその略号]
DMF:N,N-ジメチルホルムアミド
PDA:パラフェニレンジアミン
MDA:メタフェニレンジアミン
ODA:4,4’-ジアミノジフェニルエーテル
PMDA:ピロメリット酸二無水物
MM:マクロモノマー。
【0132】
[非熱可塑性ポリイミド前駆体の合成]
(合成例1)
容量2000mLのガラス製フラスコにDMF(290.58g)とODA(28.11g)を加え、窒素雰囲気下で攪拌しながら、PMDA(40.83g)を添加し、反応溶液を調製した。PMDAが溶解したことを目視で確認後、4.05gのPDAを固形分濃度20%となるようにDMFに溶解した溶液を調製し、上記反応溶液に加えて30分間撹拌した。最後に、1.01gのPDAを固形分濃度5%となるようにDMFに溶解した溶液を調製し、この溶液を粘度上昇に気を付けながら、上記反応溶液に徐々に添加した。上記反応溶液の23℃での粘度が2000ポイズに達した時点で添加、撹拌をやめ、ポリイミド前駆体溶液を得た。
【0133】
(合成例2)
容量2000mLのガラス製フラスコにDMF(290.41g)とODA(27.49g)、MDA(0.41g)を加え、窒素雰囲気下で攪拌しながら、PMDA(41.02g)を添加し、反応溶液を調製した。PMDAが溶解したことを目視で確認後、4.07gのPDAを固形分濃度20%となるようにDMFに溶解した溶液を調製し、上記反応溶液に加えて30分間撹拌した。最後に、1.02gのPDAを固形分濃度5%となるようにDMFに溶解した溶液を調製し、この溶液を粘度上昇に気を付けながら、上記反応溶液に徐々に添加した。上記反応溶液の23℃での粘度が2000ポイズに達した時点で添加、撹拌をやめ、ポリイミド前駆体溶液を得た。
【0134】
(合成例3)
容量2000mLのガラス製フラスコにDMF(292.98g)とODA(25.85g)、MM(5.37g)を加え、窒素雰囲気下で攪拌しながら、PMDA(38.06g)を添加し、反応溶液を調製した。PMDAが溶解したことを目視で確認後、3.77gのPDAを固形分濃度20%となるようにDMFに溶解した溶液を調製し、上記反応溶液に加えて30分間撹拌した。最後に、0.94gのPDAを固形分濃度5%となるようにDMFに溶解した溶液を調製し、この溶液を粘度上昇に気を付けながら、上記反応溶液に徐々に添加した。上記反応溶液の23℃での粘度が2000ポイズに達した時点で添加、撹拌をやめ、ポリイミド前駆体溶液を得た。
【0135】
(合成例4)
容量2000mLのガラス製フラスコにDMF(295.08g)とODA(23.88g)、MM(10.06g)を加え、窒素雰囲気下で攪拌しながら、PMDA(35.64g)を添加し、反応溶液を調製した。PMDAが溶解したことを目視で確認後、3.53gのPDAを固形分濃度20%となるようにDMFに溶解した溶液を調製し、上記反応溶液に加えて30分間撹拌した。最後に、0.88gのPDAを固形分濃度5%となるようにDMFに溶解した溶液を調製し、この溶液を粘度上昇に気を付けながら、上記反応溶液に徐々に添加した。上記反応溶液の23℃での粘度が2000ポイズに達した時点で添加、撹拌をやめ、ポリイミド前駆体溶液を得た。
【0136】
(合成例5)
容量2000mLのガラス製フラスコにDMF(327.90g)とODA(28.72g)を加え、窒素雰囲気下で攪拌しながら、PMDA(30.34g)を添加し、反応溶液を調製した。PMDAが溶解したことを目視で確認後、続けて30分間撹拌した。最後に、0.94gのPMDAを固形分濃度7.2%となるようにDMFに溶解した溶液を調製し、この溶液を粘度上昇に気を付けながら、上記反応溶液に徐々に添加した。上記反応溶液の23℃での粘度が2000ポイズに達した時点で添加、撹拌をやめ、ポリイミド前駆体溶液を得た。
【0137】
(合成例6)
容量2000mLのガラス製フラスコにDMF(329.37g)とODA(24.74g)、MM(7.77g)を加え、窒素雰囲気下で攪拌しながら、PMDA(26.67g)を添加し、反応溶液を調製した。PMDAが溶解したことを目視で確認後、続けて30分間撹拌した。最後に、0.82gのPMDAを固形分濃度7.2%となるようにDMFに溶解した溶液を調製し、この溶液を粘度上昇に気を付けながら、上記反応溶液に徐々に添加した。上記反応溶液の23℃での粘度が2000ポイズに達した時点で添加、撹拌をやめ、ポリイミド前駆体溶液を得た。
【0138】
(合成例7)
容量2000mLのガラス製フラスコにDMF(331.00g)とODA(20.30g)、MM(16.43g)を加え、窒素雰囲気下で攪拌しながら、PMDA(22.57g)を添加し、反応溶液を調製した。PMDAが溶解したことを目視で確認後、続けて30分間撹拌した。最後に、0.70gのPMDAを固形分濃度7.2%となるようにDMFに溶解した溶液を調製し、この溶液を粘度上昇に気を付けながら、上記反応溶液に徐々に添加した。上記反応溶液の23℃での粘度が2000ポイズに達した時点で添加、撹拌をやめ、ポリイミド前駆体溶液を得た。
【0139】
[ポリイミドフィルムの製造]
(実施例1)
合成例3で得られたポリイミド前駆体溶液(65g)に、無水酢酸/イソキノリン/DMF(重量比12.42/3.93/9.65)からなる硬化剤を26.0g添加して0℃以下の温度で攪拌および脱泡し、コンマコーターを用いてアルミ箔上に流延塗布した。この樹脂膜を110℃で150秒間加熱した。その後、アルミ箔から自己支持性のゲル膜を引き剥がして金属製の固定枠に固定し、250℃で16秒間、320℃で27秒間、350℃で37秒間、乾燥およびイミド化させて厚み約17μmのポリイミドフィルムを得た。このフィルムを金属製の固定枠に固定し、450℃で2分間加熱したところ形態を保持し、非熱可塑性であることが確認できた。
【0140】
(実施例2~実施例4、比較例1~比較例3)
合成例3で得られたポリイミド前駆体溶液を表1に示すポリイミド前駆体溶液に変更する以外は、実施例1と同様に実施した。このフィルムを金属製の固定枠に固定し、450℃で2分間加熱したところ形態を保持し、いずれも非熱可塑性であることが確認できた。
【0141】
[評価結果]
実施例および比較例の評価結果を表1に示す。なお、実施例1~4では、測定温度範囲でE’変曲点温度が測定できなかったことから「-」と記載している。
【0142】
【0143】
各合成例におけるモノマーのモル比を表2に示す。
【0144】
【0145】
表1、2より、MMを用いなかった比較例1~3に比べて、MMを用いた実施例1~4では吸湿率および誘電率が低下していた。また、実施例1~4は、誘電正接も良好な範囲であり、実施例2~4は誘電正接が特に低下していた。さらに実施例1~4と比較例1~3は、CTE、E’変曲点温度、Tg tanδピークトップ温度の比較から、同等の耐熱性を有していることが分かる。従って、実施例1~4は、吸湿率、誘電率および誘電正接が改善されているだけでなく、FPCに求められる基本的な特性も兼ね備えていることが分かる。