IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

<>
  • -磁気特性検査方法及び磁気特性検査装置 図1
  • -磁気特性検査方法及び磁気特性検査装置 図2
  • -磁気特性検査方法及び磁気特性検査装置 図3
  • -磁気特性検査方法及び磁気特性検査装置 図4
  • -磁気特性検査方法及び磁気特性検査装置 図5
  • -磁気特性検査方法及び磁気特性検査装置 図6
  • -磁気特性検査方法及び磁気特性検査装置 図7
  • -磁気特性検査方法及び磁気特性検査装置 図8
  • -磁気特性検査方法及び磁気特性検査装置 図9
  • -磁気特性検査方法及び磁気特性検査装置 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134406
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】磁気特性検査方法及び磁気特性検査装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/72 20060101AFI20240926BHJP
【FI】
G01N27/72
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044692
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(71)【出願人】
【識別番号】304028726
【氏名又は名称】国立大学法人 大分大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 秀輝
(72)【発明者】
【氏名】酒井 泰二
(72)【発明者】
【氏名】野瀬 裕之
(72)【発明者】
【氏名】中居 真之介
(72)【発明者】
【氏名】後藤 雄治
【テーマコード(参考)】
2G053
【Fターム(参考)】
2G053AA19
2G053AA20
2G053AB22
2G053BA03
2G053BC14
2G053CA05
2G053CB24
2G053CC04
(57)【要約】
【課題】試験体が使用に適するか否かを簡便に検査すること。
【解決手段】磁気特性検査方法は、磁気特性が許容範囲内である基準体91Aの基準体端面91tに、磁気特性が許容範囲内であるか否か不明である試験体92の試験体端面92tを所定の隙間Cをもって対面させる実配置ステップS14と、基準体91A及び試験体92に、基準体91Aの基準体端面91tと試験体92の試験体端面92tとを通る磁束M1を磁束印加ユニット2から与える実印加ステップS15と、隙間Cから漏れる漏れ磁束M2に関する実漏れ磁束密度を得る実計測ステップS16と、を有する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気特性が許容範囲内である第1基準体の端面に、磁気特性が許容範囲内であるか否か不明である試験体の端面を所定の隙間をもって対面させる実配置ステップと、
前記第1基準体及び前記試験体に、前記第1基準体の端面と前記試験体の端面とを通る磁束を磁束印加ユニットから与える実印加ステップと、
前記隙間から漏れる漏れ磁束に関する実漏れ磁束密度を得る実計測ステップと、を有する、磁気特性検査方法。
【請求項2】
前記第1基準体の端面に、磁気特性が許容範囲内である前記第1基準体とは別の第2基準体の端面を所定の隙間をもって対面させる予備配置ステップと、
前記第1基準体及び前記第2基準体に、前記第1基準体の端面と前記第2基準体の端面とを通る磁束を前記磁束印加ユニットから与える予備印加ステップと、
前記隙間から漏れる漏れ磁束に関する予備漏れ磁束密度を得る予備計測ステップと、
前記実漏れ磁束密度と前記予備漏れ磁束密度との差分が、閾値より小さい場合に、前記試験体の磁気特性が許容範囲内であると判定する判定ステップと、をさらに有する、請求項1に記載の磁気特性検査方法。
【請求項3】
前記磁束印加ユニットは、第1起磁力発生部と第2起磁力発生部とを有し、
前記実印加ステップ及び前記予備印加ステップにおいて、前記第1起磁力発生部が発生する起磁力は、前記第2起磁力発生部が発生する起磁力と、等しい、請求項2に記載の磁気特性検査方法。
【請求項4】
前記磁束印加ユニットは、第1起磁力発生部と第2起磁力発生部とを有し、
前記実印加ステップ及び前記予備印加ステップにおいて、前記第1起磁力発生部が発生する起磁力は、前記第2起磁力発生部が発生する起磁力と、異なる、請求項2に記載の磁気特性検査方法。
【請求項5】
前記磁束印加ユニットは、第1起磁力発生部と第2起磁力発生部とを有し、
前記実印加ステップは、
前記第1起磁力発生部から第1起磁力を発生させるとともに、前記第2起磁力発生部から第2起磁力を発生させる第1印加ステップと、
前記第1起磁力発生部から前記第2起磁力を発生させるとともに、前記第2起磁力発生部から前記第1起磁力を発生させる第2印加ステップと、を含み、
前記実計測ステップは、
前記第1印加ステップを実行した後に、前記隙間から漏れる漏れ磁束に関する第1実漏れ磁束密度を得る第1実漏れ磁束密度取得ステップと、
前記第2印加ステップを実行した後に、前記隙間から漏れる漏れ磁束に関する第2実漏れ磁束密度を得る第2実漏れ磁束密度取得ステップと、を含み、
前記第1実漏れ磁束密度と前記第2実漏れ磁束密度との差分が閾値より小さい場合に、前記試験体の磁気特性が許容範囲内であると判定する判定ステップと、をさらに有する、請求項1に記載の磁気特性検査方法。
【請求項6】
前記実印加ステップは、
前記基準体及び前記試験体に対する前記磁束印加ユニットの位置が第1位置である状態で、前記隙間から漏れる漏れ磁束に関する第1実漏れ磁束密度を得る第1実漏れ磁束密度取得ステップと、
前記基準体及び前記試験体に対する前記磁束印加ユニットの位置が前記第1位置とは異なる第2位置である状態で、前記隙間から漏れる漏れ磁束に関する第2実漏れ磁束密度を得る第2実漏れ磁束密度取得ステップと、
前記第1実漏れ磁束密度と前記第2実漏れ磁束密度との差分が閾値より小さい場合に、前記試験体の磁気特性が許容範囲内であると判定する判定ステップと、をさらに有する、請求項1に記載の磁気特性検査方法。
【請求項7】
磁気特性が許容範囲内であるか否か不明である試験体の主面に対面する第1磁束付与部と、
磁気特性が許容範囲内である第1基準体であって、前記第1基準体の端面が前記試験体の端面に対して所定の隙間をもって配置される前記第1基準体に対面する第2磁束付与部と、
前記第1磁束付与部及び前記第2磁束付与部を通過する磁束を発生させる起磁力発生部と、
前記第1磁束付与部と前記第2磁束付与部との間に配置されて、前記隙間から漏れる漏れ磁束を計測する漏れ磁束計測部と、を備える、磁気特性検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気特性検査方法及び磁気特性検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
材料特性の一例として、磁気特性が例示できる。非特許文献1~3は、材料の磁気特性を評価する手法を開示する。例えば、非特許文献1、2は、いわゆるKerr効果を利用した局所的な磁気特性の評価手法を提案する。また、非特許文献3は、放射光光電子顕微鏡に関する技術を開示する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】中川剛志、横山利彦、“X線磁気円二色性、磁気光学Kerr効果による磁性超薄膜のスピン再配列相転移”、表面科学 特集「放射光表面科学部特集」、日本、日本表面真空学会、2006年、Vol. 27、No. 5、p.272―277。
【非特許文献2】竹澤昌晃、”磁気光学顕微鏡とその応用”、IEEJ Trans. FM、日本、The Institute of Electrical and Electronics Engineers of Japan、2009年、Vol. 129、No. 9、p.565―568。
【非特許文献3】小野寛太、尾嶋正治、”放射光光電子顕微鏡を用いたナノ構造のイメージング”、日本放射光学会誌、日本、日本放射光学、2005年、Vol. 18、No. 3、p.176―185。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
金属製の部品を加工した結果、加工後の金属部品における磁気特性が変化することがある。磁気特性の態様によっては、加工後の金属部品は使用に適さないこともあり得る。そこで、非特許文献1~3が開示する手法を用いて、金属材料の磁気特性を評価することも考えられる。しかし、これらの手法は、製造現場では利用し難い。そこで、製造現場において、加工後の金属部品が使用に適するか否かを簡便に検査できる技術が望まれていた。
【0005】
そこで、本発明は、試験体が使用に適するか否かを簡便に検査できる磁気特性検査方法及び磁気特性検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態である磁気特性検査方法は、磁気特性が許容範囲内である第1基準体の端面に、磁気特性が許容範囲内であるか否か不明である試験体の端面を所定の隙間をもって対面させる実配置ステップと、第1基準体及び試験体に、第1基準体の端面と試験体の端面とを通る磁束を磁束印加ユニットから与える実印加ステップと、隙間から漏れる漏れ磁束に関する実漏れ磁束密度を得る実計測ステップと、を有する。
【0007】
この検査方法では、基準体と試験体との隙間から漏れる漏れ磁束を用いて、試験体の磁気特性を評価する。従って、基準体と試験体との隙間から漏れる漏れ磁束の計測によって、試験体が使用に適するか否かを簡便に検査できる。
【0008】
一形態の磁気特性検査方法は、第1基準体の端面に、磁気特性が許容範囲内である第1基準体とは別の第2基準体の端面を所定の隙間をもって対面させる予備配置ステップと、第1基準体及び第2基準体に、第1基準体の端面と第2基準体の端面とを通る磁束を磁束印加ユニットから与える予備印加ステップと、隙間から漏れる漏れ磁束に関する予備漏れ磁束密度を得る予備計測ステップと、実漏れ磁束密度と予備漏れ磁束密度との差分が、閾値より小さい場合に、試験体の磁気特性が許容範囲内であると判定する判定ステップと、をさらに有してもよい。この方法によれば、実漏れ磁束密度と予備漏れ磁束密度との比較によって、試験体が使用に適するか否かを簡便に検査できる。
【0009】
一形態の磁気特性検査方法において、磁束印加ユニットは、第1起磁力発生部と第2起磁力発生部とを有し、実印加ステップ及び予備印加ステップにおいて、第1起磁力発生部が発生する起磁力は、第2起磁力発生部が発生する起磁力と、等しくてもよい。この方法によれば、簡易な手法で試験体が使用に適するか否かを簡便に検査できる。
【0010】
一形態の磁気特性検査方法において、磁束印加ユニットは、第1起磁力発生部と第2起磁力発生部とを有し、実印加ステップ及び予備印加ステップにおいて、第1起磁力発生部が発生する起磁力は、第2起磁力発生部が発生する起磁力と、異なってもよい。この方法によっても、簡易な手法で試験体が使用に適するか否かを簡便に検査できる。
【0011】
一形態の磁気特性検査方法において、磁束印加ユニットは、第1起磁力発生部と第2起磁力発生部とを有し、実印加ステップは、第1起磁力発生部から第1起磁力を発生させるとともに、第2起磁力発生部から第2起磁力を発生させる第1印加ステップと、第1起磁力発生部から第2起磁力を発生させるとともに、第2起磁力発生部から第1起磁力を発生させる第2印加ステップと、を含み、実計測ステップは、第1印加ステップを実行した後に、隙間から漏れる漏れ磁束に関する第1実漏れ磁束密度を得る第1実漏れ磁束密度取得ステップと、第2印加ステップを実行した後に、隙間から漏れる漏れ磁束に関する第2実漏れ磁束密度を得る第2実漏れ磁束密度取得ステップと、を含み、第1実漏れ磁束密度と第2実漏れ磁束密度との差分が閾値より小さい場合に、試験体の磁気特性が許容範囲内であると判定する判定ステップと、をさらに有してもよい。この方法によれば、予備漏れ磁束密度を事前に取得することなく、試験体が使用に適するか否かを簡便に検査できる。
【0012】
一形態の磁気特性検査方法において、実印加ステップは、基準体及び試験体に対する磁束印加ユニットの位置が第1位置である状態で、隙間から漏れる漏れ磁束に関する第1実漏れ磁束密度を得る第1実漏れ磁束密度取得ステップと、基準体及び試験体に対する磁束印加ユニットの位置が第1位置とは異なる第2位置である状態で、隙間から漏れる漏れ磁束に関する第2実漏れ磁束密度を得る第2実漏れ磁束密度取得ステップと、第1実漏れ磁束密度と第2実漏れ磁束密度との差分が閾値より小さい場合に、試験体の磁気特性が許容範囲内であると判定する判定ステップと、をさらに有してもよい。この方法によっても、予備漏れ磁束密度を事前に取得することなく、試験体が使用に適するか否かを簡便に検査できる。
【0013】
本発明の別の形態である磁気特性検査装置は、磁気特性が許容範囲内であるか否か不明である試験体の主面に対面する第1磁束付与部と、磁気特性が許容範囲内である第1基準体であって、第1基準体の端面が試験体の端面に対して所定の隙間をもって配置される第1基準体に対面する第2磁束付与部と、第1磁束付与部及び第2磁束付与部を通過する磁束を発生させる起磁力発生部と、第1磁束付与部及び第2磁束付与部を通過する磁束を発生させる起磁力発生部と、第1磁束付与部と第2磁束付与部との間に配置されて、隙間から漏れる漏れ磁束を計測する漏れ磁束計測部と、を備える。この装置によれば、試験体が使用に適するか否かを簡便に検査できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、試験体が使用に適するか否かを簡便に検査できる磁気特性検査方法及び磁気特性検査装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、第1実施形態の磁気特性検査装置の構成を示す概略図である。
図2図2(a)は、試験体の磁気特性が許容できる状態であるときの磁束の様子を模式的に示す図である。図2(b)は、試験体の磁気特性が許容できない状態であるときの磁束の様子を模式的に示す図である。
図3図3は、磁束密度と起磁力の比率とを示すグラフである。
図4図4は、第1実施形態の磁気特性検査方法の主要な工程を示すフロー図である。
図5図5は、第2実施形態の磁気特性検査方法の主要な工程を示すフロー図である。
図6図6は、試験体の磁気特性が許容できるか否かを判定する第2実施形態の磁気特性検査方法の手法を説明するための図である。
図7図7は、第3実施形態の磁気特性検査方法の主要な工程を示すフロー図である。
図8図8(a)、図8(b)及び図8(c)は、第3実施形態の磁気特性検査方法を説明するための図である。
図9図9は、試験体の磁気特性が許容できるか否かを判定する第3実施形態の磁気特性検査方法の手法を説明するための図である。
図10図10(a)は第1変形例の磁気特性検査装置の構成を示す概略図である。図10(b)は第2変形例の磁気特性検査装置の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しながら本発明を実施するための形態を詳細に説明する。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0017】
<第1実施形態>
図1は、磁気特性検査装置1を用いて磁気特性の検査を行っている様子を示す。基準体91Aは、磁気特性が許容可能であることが明らかなものである。一方、試験体92は、磁気特性が許容できるか否かが不明なものである。磁気特性検査装置1は、試験体92における磁気特性が許容可能なものであるか否かを検査する。
【0018】
試験体92の例示は、軟磁性材料からなる金属部品である。このような金属部品として、例えば、積層構造を有するモータステータのための電磁鋼板からなる部品が挙げられる。このような部品は、打抜き加工によって形成されることがある。打抜き加工に起因して、切断面の近傍に残留応力が発生すると、切断面の近傍に許容できない程度に磁気特性が変化した領域が生じることがある。許容できない程度に磁気特性が変化した領域を、以下の説明では、「劣化領域」と称する。
【0019】
機械加工による加工ひずみは、局所的な磁気特性の変化を生じさせる。局所的な磁気特性は、モータの性能に影響を及ぼすことがある。従って、加工によって生じる磁気特性の変化が、許容できるものであるか否かを部品の段階で検査することができれば、許容できない部品を組み立て対象から除外することが可能になる。その結果、所望のモータ性能を発揮できるモータステータを得ることができる。
【0020】
図2(a)に示すように、基準体91Aは、基準体91Aの基準体端面91tが別の基準体91Bの基準体端面91tに対面するように配置されている。図2(a)に示す別の基準体91Bは、劣化領域が存在しないものであると仮定する。基準体91Aと別の基準体91Bとの間には、わずかな隙間Cが設けられている。つまり、基準体91Aは、別の基準体91Bに対して直接に接触していない。
【0021】
このように配置された基準体91A及び別の基準体91Bに磁束印加ユニット2から磁束M1を与える。磁束M1は、閉じた経路を構成する。磁束M1は、磁束印加ユニット2の第1磁束付与面210sから別の基準体91Bの基準体主面91aに至る。磁束M1は、別の基準体端面91tから隙間Cを通過して基準体端面91tに至る。磁束M1は、基準体主面91aから磁束印加ユニット2の第2磁束付与面210tに至る。
【0022】
ここで、磁束M1は、隙間Cからその一部が漏れることがある。隙間Cから漏れる漏れ磁束を漏れ磁束M2と称する。漏れ磁束M2は、基準体91Aと基準体91Bとの間に存在する隙間Cの見かけの透磁率の影響を受ける。基準体91A及び基準体91Bは、金属である。一方、隙間Cには空気が存在する。従って、透磁率は、基準体91Aと基準体91Bより隙間Cのほうが小さい。
【0023】
図2(b)に示す試験体92は、劣化領域92sが存在するものであると仮定する。劣化領域92sは、試験体端面92tの近傍に存在する。このような劣化領域92sは、試験体端面92tが打ち抜き加工やせん断加工により形成されることにより発生することがある。
【0024】
劣化領域92sでは、劣化領域92sではない領域に比べて透磁率が低くなる傾向がある。そうすると、図2(b)に示す構成の試験体92と基準体91Aとの間の見かけの透磁率は、図2(a)に示す構成の見かけの透磁率よりも小さくなる。その結果、隙間Cから漏れる漏れ磁束M2が多くなる。この漏れ磁束M2の相違は、試験体端面92t近傍の領域に発生する残留応力に起因すると考えられる。磁気特性検査装置1及び磁気特性検査方法は、この漏れ磁束を計測することによって、試験体92における磁気特性が許容可能なものであるか否かを判定する。
【0025】
以下、漏れ磁束の計測によって、試験体92における磁気特性が許容可能なものであるか否かを検査する方法を詳細に説明する。
【0026】
図3のグラフは、第1コイル211(第1起磁力発生部)が発生する起磁力と、第2コイル212(第2起磁力発生部)が発生する起磁力との比率と、漏れ磁束密度との関係を示す。図3の縦軸は、正規化された漏れ磁束密度を示す。図3の横軸において、例えば横軸の右端の数値「0:10」は、第1コイル211の起磁力が「10」であり、第2コイル212の起磁力が「0」であることを示す。なお、起磁力を示す数値は正規化された値である。また、横軸の中央の数値「5:5」は、第1コイル211の起磁力と、第2コイル212の起磁力とが等しいことを示す。
【0027】
図3のグラフG3aは、基準体91A(第1基準体)に、劣化領域92sが存在しない別の基準体91B(第2基準体)を突き合せたときに得られる漏れ磁束M2の磁束密度を示す。漏れ磁束密度は、第1コイル211の起磁力と第2コイル212の起磁力とが等しいときに最も小さくなる(符号P31参照)。縦軸の漏れ磁束密度は、この時の値を基準として正規化したものである。そして、第1コイル211の起磁力と第2コイル212の起磁力とに偏りが生じると、漏れ磁束M2の磁束密度が次第に増加する。
【0028】
図3のグラフG3bは、基準体91Aに、劣化領域92sが存在する試験体92を突き合せたときに得られる漏れ磁束M2の磁束密度を示す。グラフG3aと同様に、漏れ磁束M2の磁束密度は、第1コイル211の起磁力と第2コイル212の起磁力とが等しいときに最も小さくなる(符号P32参照)。そして、第1コイル211の起磁力と第2コイル212の起磁力とに偏りが生じると、漏れ磁束M2の磁束密度が次第に増加することもグラフG3aと同様である。
【0029】
その一方で、2つの注目すべき点がある。第1に、劣化領域92sが存在する試験体92を突き合せたときに得られる漏れ磁束M2の磁束密度は、劣化領域92sが存在しない別の基準体91B(第2基準体)を突き合せたときに得られる漏れ磁束M2の磁束密度よりも大きいということである。例えば、第1コイル211の起磁力と第2コイル212の起磁力とが等しいときの漏れ磁束M2の磁束密度(P31、P32)比較すると、劣化領域92sが存在する試験体92を突き合せたときに得られる漏れ磁束M2の磁束密度(P32)が大きいことは明らかである。この相違は、第1コイル211の起磁力と第2コイル212の起磁力とを異ならせたとき(P33、P34)でも同様に生じる。
【0030】
第1実施形態の磁気特性検査方法は、この漏れ磁束M2の磁束密度の相違を利用する。第1実施形態の磁気特性検査方法は、磁気特性が許容できるか否かが不明である試験体92を配置して得る実漏れ磁束密度を計測するだけで、試験体92における磁気特性が許容可能なものであるか否かを判定することができる。その一方で、第1実施形態の磁気特性検査方法は、実漏れ磁束密度を判定するための基準情報が必要である。これは、実漏れ磁束密度の計測とは別に、あらかじめ取得されている。
【0031】
第2に、起磁力の比率を反転させた状態に注目する。例えば、グラフG3aの符号P35、P36を見る。符号P35は、起磁力の比率が10:0であるときの磁束密度である。符号P36は、起磁力の比率が0:10であるときの磁束密度である。符号P35が示す磁束密度は、符号P36が示す磁束密度と等しい。つまり、劣化領域92sが存在しない別の基準体91Bを突き合せたときには、起磁力の比率を反転させた場合に、漏れ磁束M2の磁束密度に有意な相違が現れない。
【0032】
その一方で、グラフG3bの符号P37、P38を見る。符号P37は、起磁力の比率が10:0であるときの磁束密度である。符号P38は、起磁力の比率が0:10であるときの磁束密度である。符号P38が示す磁束密度は、符号P37が示す磁束密度と異なる。より詳細には、符号P38が示す磁束密度は、符号P37が示す磁束密度より大きい。つまり、劣化領域92sが存在する試験体92を突き合せたときには、起磁力の比率を反転させた場合に、漏れ磁束M2の磁束密度に有意な相違が現れる。
【0033】
第2実施形態の磁気特性検査方法は、この漏れ磁束M2の相違を利用する。第1実施形態の磁気特性検査方法は、基準情報が必要であった。第2実施形態の磁気特性検査方法は、基準情報との比較が不要であるので、事前に基準情報を取得する必要がない。その一方で、第2実施磁気特性検査方法は、少なくとも2回の実漏れ磁束密度の計測を行う必要がある。
【0034】
再び図1を参照する。磁気特性検査装置1は、磁束印加ユニット2と、漏れ磁束計測ユニット3(漏れ磁束計測部)と、コントローラ4と、を有する。磁束印加ユニット2は、試験体92及び基準体91Aに磁束M1を与える。漏れ磁束計測ユニット3は、漏れ磁束M2の磁束密度の大きさを得る。コントローラ4は、漏れ磁束M2の磁束密度を利用して、試験体92における磁気特性が許容可能なものであるか否かを判定する。また、コントローラ4は、磁束印加ユニット2の動作を制御する。
【0035】
なお、磁気特性検査装置1は、コントローラ4を省略することもできる。つまり、検査を行う作業者が磁束印加ユニット2の各種設定を行うとともに、漏れ磁束計測ユニット3の値を読み取る。そして、読み取った値を作業者自身が処理することにより、試験体92における磁気特性が許容可能なものであるか否かを判定してもよい。
【0036】
磁束印加ユニット2は、磁化器21と、第1電源22と、第2電源23と、を有する。磁化器21は、正面視してU字形状を呈する。磁化器21は、ヨーク210と、第1コイル211と、第2コイル212と、を有する。ヨーク210の第1端部210aは、第1磁束付与面210s(第1磁束付与部)を含む。例えば、第1磁束付与面210sは、試験体主面92aに対面するように配置される。第1端部210aには、第1コイル211が設けられている。ヨーク210の第2端部210bは、第2磁束付与面210t(第2磁束付与部)を含む。例えば、第2磁束付与面210tは、基準体主面91aに対面するように配置される。第2端部210bには、第2コイル212が設けられている。つまり図2におけるz方向(試験体を載置する面に対する鉛直方向)から見た上面視において、本実施形態の第1磁束付与面210sと第2磁束付与面210tとの間に隙間Cがある。また本実施形態においては、第1コイル211と第2コイル212との間に隙間Cがある。
【0037】
第1電源22は、第1コイル211に直流電流を与える。第1電源22は、コントローラ4の制御信号D22に応じて電流の大きさを変更することができる。また、第1電源22は、作業者の操作に応じて電流の大きさを変更することもできる。第2電源23は、第2コイル212に直流電流を与える。第2電源23も、コントローラ4の制御信号D23に応じて電流の大きさを変更することができる。第2電源23のそのほかの構成は第1電源22と同じであるから詳細な説明は省略する。
【0038】
漏れ磁束計測ユニット3は、漏れ磁束M2の磁束密度に応じたデータD3を出力する。漏れ磁束計測ユニット3は、ホール素子31と、ガウスメータ32と、を有する。ホール素子31は、第1磁束付与面210sと第2磁束付与面210tとの間に配置されている。さらに、ホール素子31は、隙間Cの直上に配置されている。ガウスメータ32は、ホール素子31からの信号を受けて、漏れ磁束密度を示すデータD3をコントローラ4に渡す。
【0039】
磁気特性検査装置1が実施する検査では、第1磁束付与面210sから試験体主面92aまでの距離と、第2磁束付与面210tから基準体主面91aまでの距離と、を維持することが望ましい。一例として、第1磁束付与面210sから試験体主面92aまでの距離は、0.1mm程度である。そこで、例えば、第1磁束付与面210sと試験体主面92aとの間及び第2磁束付与面210tと基準体主面91aとの間にシート51を配置してもよい。また、このシート51は非磁性の絶縁体であっても良い。シート51は、第1磁束付与面210sに接するとともに試験体主面92aに接する。同様にシート51は、第2磁束付与面210tに接するとともに基準体主面91aに接する。このようなシート51によれば、第1磁束付与面210sから試験体主面92aまでの距離及び第2磁束付与面210tから基準体主面91aまでの距離を容易に維持することができる。
【0040】
磁気特性検査装置1が実施する検査では、試験体端面92tと基準体端面91tとの隙間Cの距離を維持することも望まれる。試験体端面92tと基準体端面91tとの隙間Cの距離は、一例として0.1mmである。そこで、必要に応じて試験体端面92tと基準体端面91tとの隙間Cにもシート52を配置してもよい。また、このシート52は非磁性の絶縁体であっても良い。
【0041】
次に、図4のフロー図を参照しながら、第1実施形態の磁気特性検査方法について説明する。
【0042】
はじめに、基準情報を取得する。基準情報の取得は、以下のステップS11~S13を実行する。まず、基準体91Aと、別の基準体91Bとを突き合せる(S11)。次に、所定の比率の起磁力を発生する(S12)。例えば、第1コイル211の起磁力と第2コイル212の起磁力とが等しくなる比率(図3における横軸5:5)に設定してもよい。例えば、第1コイル211の起磁力と第2コイル212の起磁力とが異なる比率(図3における横軸8:2)に設定してもよい。次に、予備漏れ磁束密度の値を得る(S13)。この値は、基準情報としての基準漏れ磁束密度として扱ってよい。なお、ステップS13であるとき、磁束印加ユニット2は、試験体92及び基準体91Aに対して移動させない。つまり、ステップS13であるとき、磁束印加ユニット2は、静止させる。
【0043】
次に、試験体92の検査を行う。試験体92の検査は、以下のステップS14~S17を実行する。まず、基準体91Aと試験体92とを突き合せる(S14)。次に、所定の比率の起磁力を発生する(S15)。ステップS15における比率は、前述のステップS12において採用した比率と同であるように設定する。例えば、ステップS12において比率を「5:5」とした場合には、ステップS15における比率も「5:5」とする。次に、実漏れ磁束密度の値を得る(S16)。なお、ステップS13と同様に、ステップS16であるとき、磁束印加ユニット2は、試験体92及び基準体91Aに対して移動させない。
【0044】
次に、実漏れ磁束密度と基準漏れ磁束密度との差分が、閾値より小さいか否かを判定する(S17)。差分が閾値より小さい場合(S17:YES)には、試験体92における磁気特性が許容できるものであるから、試験体92は使用できると判定する(S18)。差分が閾値より大きい場合(S17:NO)には、試験体92における磁気特性が許容できないものであるから、試験体92は使用できないと判定と判定する(S19)。
【0045】
なお、上記のステップS11~S17は、ひとつの試験体92について、磁束を与える場所を変えながら複数回実施してもよい。
【0046】
<作用効果>
磁気特性検査方法は、磁気特性が許容範囲内である基準体91Aの基準体端面91tに、磁気特性が許容範囲内であるか否か不明である試験体92の試験体端面92tを所定の隙間Cをもって対面させる実配置ステップS14と、基準体91A及び試験体92に、基準体91Aの基準体端面91tと試験体92の試験体端面92tとを通る磁束M1を磁束印加ユニット2から与える実印加ステップS15と、隙間Cから漏れる漏れ磁束M2に関する実漏れ磁束密度を得る実計測ステップS16と、を有する。
【0047】
この検査方法では、基準体91Aと試験体92との隙間Cから漏れる漏れ磁束M2を用いて、試験体92の磁気特性が許容できるか否かを検査する。従って、基準体91Aと試験体92との隙間から漏れる漏れ磁束M2の計測によって、試験体92が使用に適するか否かを簡便に検査できる。
【0048】
磁気特性検査方法は、基準体91Aの基準体端面91tに、磁気特性が許容範囲内である基準体91Aとは別の基準体91Bの基準体端面91tを所定の隙間Cをもって対面させる予備配置ステップS11と、基準体91A、91Bに、基準体91Aの基準体端面91tと別の基準体91Bの基準体端面91tとを通る磁束M1を磁束印加ユニット2から与える予備印加ステップS12と、隙間Cから漏れる漏れ磁束M2に関する予備漏れ磁束密度を得る予備計測ステップS13と、実漏れ磁束密度と予備漏れ磁束密度との差分が、閾値より小さい場合に、試験体92の磁気特性が許容範囲内であると判定する判定ステップS17と、をさらに有する。この方法によれば、実漏れ磁束密度と予備漏れ磁束密度との比較によって、試験体92が使用に適するか否かを簡便に検査できる。
【0049】
磁束印加ユニット2は、第1コイル211と第2コイル212とを有する。実印加ステップS15及び予備印加ステップS12において、第1コイル211が発生する起磁力は、第2コイル212が発生する起磁力と、等しくてもよい。また、第1コイル211が発生する起磁力は、第2コイル212が発生する起磁力と、異なってもよい。この方法によれば、試験体92が使用に適するか否かを簡便に検査できる。
【0050】
磁気特性検査装置1は、磁気特性が許容範囲内であるか否か不明である試験体92の試験体主面92aに対面する第1磁束付与面210sと、磁気特性が許容範囲内である基準体91Aであって、基準体91Aの基準体端面91tが試験体92の試験体端面92tに対して所定の隙間Cをもって配置される基準体91Aに対面する第2磁束付与面210tと、第1磁束付与面210s及び第2磁束付与面210tを通過する磁束M1を発生させる第1コイル211及び第2コイル212と、第1磁束付与面210sと第2磁束付与面210tとの間に配置されて、隙間Cから漏れる漏れ磁束M2を計測する漏れ磁束計測ユニット3と、を備える。磁気特性検査装置1によれば、試験体92が使用に適するか否かを簡便に検査できる。
【0051】
<第2実施形態>
次に、図5のフロー図を参照しながら第2実施形態の磁気特性検査方法について説明する。なお、第2実施形態の磁気特性検査方法に用いる磁気特性検査装置1は、第1実施形態のものと同じである。従って、磁気特性検査装置1の詳細な説明は省略する。
【0052】
まず、基準体91Aと試験体92とを突き合せる(S21)。次に、第1コイル211の起磁力と第2コイル212の起磁力との比率が第1比率(例えば1:9)であるように設定し、磁束を発生する(S22)。そして、第1実漏れ磁束密度(図6の符号P61参照)を取得する(S23)。次に、第1コイル211の起磁力と第2コイル212の起磁力との比率が第2比率(例えば9:1)であるように設定し、磁束を発生する(S24)。そして、第2実漏れ磁束密度(図6の符号P62参照)を取得する(S25)。
【0053】
なお、ステップS23、S25であるとき、磁束印加ユニット2は、試験体92及び基準体91Aに対して移動させない。つまり、ステップS23、S25であるとき、磁束印加ユニット2は、静止させる。
【0054】
そして、第1実漏れ磁束密度と第2実漏れ磁束密度の差分(図6の符号D61参照)が、閾値より小さいか否かを判定する(S27)。差分が閾値より小さい場合(S27:YES)には、試験体92における磁気特性が許容できるものであるから、試験体92は使用できると判定する(S28)。差分が閾値より大きい場合(S27:NO、符号D61)には、試験体92における磁気特性が許容できないものであるから、試験体92は使用できないと判定と判定する(S29)。
【0055】
<作用効果>
第2実施形態の磁気特性検査方法において、実印加ステップS20Aは、第1コイル211から第1起磁力を発生させるとともに、第2コイル212から第2起磁力を発生させる第1印加ステップS22と、第1コイル211から第2起磁力を発生させるとともに、第2コイル212から第1起磁力を発生させる第2印加ステップS24と、を含む。実計測ステップS20Bは、第1印加ステップS22を実行した後に、隙間Cから漏れる漏れ磁束M2に関する第1実漏れ磁束密度を得る第1実漏れ磁束密度取得ステップS23と、第2印加ステップS24を実行した後に、隙間Cから漏れる漏れ磁束M2に関する第2実漏れ磁束密度を得る第2実漏れ磁束密度取得ステップS25と、を含む。第2実施形態の磁気特性検査方法は、第1実漏れ磁束密度と第2実漏れ磁束密度との差分が閾値より小さい場合に、試験体92の磁気特性が許容範囲内であると判定する判定ステップS27と、を有する。この方法によれば、予備漏れ磁束密度を事前に取得することなく、試験体92が使用に適するか否かを簡便に検査できる。
【0056】
<第3実施形態>
ところで、第2実施形態の磁気特性検査方法では、隙間Cを通過する磁束M1を第1状態と第2状態とするものであった。この第1状態から第2状態への切り替えは、第1コイル211の起磁力と第2コイル212の起磁力とを入れ替えることによって実現した。この第1状態から第2状態への切り替えは、別の方法によっても実現できる。具体的には、第1コイル211の起磁力と第2コイル212の起磁力との比率は維持した状態で、試験体92及び基準体91Aに対する磁束印加ユニット2の相対的な位置を変えることである。このような検査方法を、第3実施形態の磁気特性検査方法として、図7を参照しながら説明する。
【0057】
まず、基準体91Aと試験体92とを突き合せる(S30)。次に、磁束印加ユニット2を第1位置L1に配置する(S31)。図8(a)に示すように、隙間Cの直上に磁束印加ユニット2を配置した位置を、基準位置Lと定義する。第1位置L1とは、例えば、図8(b)に示すように、基準位置Lから試験体92側へ磁束印加ユニット2を偏らせて配置した位置をいう。基準位置Lから試験体92側へ磁束印加ユニット2を偏らせることを、説明の便宜上、正の方向へずらすとも称する。そして、第1コイル211の起磁力と第2コイル212の起磁力との比率が等しくなるように設定し、磁束を発生する(S32)。そして、第1実漏れ磁束密度(図9の符号P91参照)を取得する(S33)。
【0058】
次に、磁束印加ユニット2を第2位置L2に配置する(S34)。第2位置L2とは、例えば、図8(c)に示すように、基準位置Lから基準体91A側へ磁束印加ユニット2を偏らせて配置した位置をいう。基準位置Lから基準体91A側へ磁束印加ユニット2を偏らせることを、説明の便宜上、負の方向へずらすとも称する。そして、第1コイル211の起磁力と第2コイル212の起磁力との比率が等しくなるように設定し、磁束を発生する(S35)。そして、第2実漏れ磁束密度(図9の符号P92参照)を取得する(S36)。
【0059】
つまり、第1実漏れ磁束密度を取得するとき(S33)から、第2実漏れ磁束密度を取得するとき(S36)までの間に、磁束印加ユニット2を試験体92及び基準体91Aに対して移動させる。この移動は、例えば、移動ユニット7によってなされてもよい。
【0060】
そして、第1実漏れ磁束密度と第2実漏れ磁束密度の差分(図9の符号D91参照)が、閾値より小さいか否かを判定する(S37)。閾値より小さい場合(S37:YES)には、試験体92における磁気特性が許容できるものであるから、試験体92は使用できると判定する(S38)。閾値より大きい場合(S37:NO、符号D91参照)には、試験体92における磁気特性が許容できないものであるから、試験体92は使用できないと判定する(S38)。
【0061】
なお、上記の説明では、第1実漏れ磁束密度を取得するとき(S33)と、第2実漏れ磁束密度を取得するとき(S36)は、磁束印加ユニット2を試験体92及び基準体91Aに対して静止させていた。例えば、磁束印加ユニット2を第1位置L1から第2位置L2に移動させながら、漏れ磁束密度を計測してもよい。この場合には、図9に示すグラフG9aを得ることができる。このグラフG9aからも、第1実漏れ磁束密度及び第2実漏れ磁束密度に対応する値が得られるので、上記の判定ステップS37と同様の処理によって、試験体92における磁気特性が許容できるか否かを判定することができる。
【0062】
<作用効果>
実印加ステップS30Aは、基準体91A及び試験体92に対する磁束印加ユニット2の位置が第1位置L1である状態で、隙間Cから漏れる漏れ磁束M2に関する第1実漏れ磁束密度を得る第1実漏れ磁束密度取得ステップS33と、基準体91A及び試験体92に対する磁束印加ユニット2の位置が第1位置L1とは異なる第2位置L2である状態で、隙間Cから漏れる漏れ磁束M2に関する第2実漏れ磁束密度を得る第2実漏れ磁束密度取得ステップS36と、第1実漏れ磁束密度と第2実漏れ磁束密度との差分が閾値より小さい場合に、試験体92の磁気特性が許容範囲内であると判定する判定ステップS37と、を有する。この方法によっても、予備漏れ磁束密度を事前に取得することなく、試験体92が使用に適するか否かを簡便に検査できる。
【0063】
<変形例>
以上、磁気特性検査方法及び磁気特性検査装置の例示について説明した。磁気特性検査方法及び磁気特性検査装置は、上記の例示に限定されることなく様々な形態で実施してよい。
【0064】
図10(a)は、第1変形例の磁気特性検査装置1Aを示す。磁気特性検査装置1Aは、磁束印加ユニット2Aが備えるコイル213が一つである点で、第1実施形態の磁気特性検査装置1と異なる。そのほかの構成要素は、第1実施形態の磁気特性検査装置1と同様である。第1変形例の磁気特性検査装置1Aは、試験体92側の起磁力と、基準体91A側の起磁力とに偏りを設けることができない。つまり、第1変形例の磁気特性検査装置1Aは、図3における比率が「5:5」である起磁力を発生することができる。従って、第1変形例の磁気特性検査装置1Aは、第1実施形態の磁気特性検査方法において、起磁力の比率を「5:5」とする方法に用いることができる。また、第1変形例の磁気特性検査装置1Aは、第3実施形態の磁気特性検査方法に用いることもできる。
【0065】
なお、磁束印加ユニット2Aは、磁束を発生させることができればよい。従って、磁束の発生源は、コイルである必要はない。例えば、磁束印加ユニット2Aは、コイル213に変えて永久磁石を備えてもよい。この構成によれば、コイル213に電流を与えるための電源24を省略することができる。
【0066】
図10(b)は、第2変形例の磁気特性検査装置1Bを示す。前述したように、磁束の発生源は、コイルである必要はない。そこで、第2変形例の磁気特性検査装置1Bの磁束印加ユニット2Bは、第1実施形態の磁気特性検査装置1の第1コイル211に代えて第1永久磁石211Mを備えており、第2コイル212に代えて第2永久磁石212Mを備えている。第2変形例の磁気特性検査装置1Bは、第1永久磁石211M及び第2永久磁石212Mを備えるので、互いに起磁力の異なる永久磁石を用いることにより、起磁力の比率を任意の値に設定することもできる。
【0067】
つまり、起磁力が等しい永久磁石を用いた場合には、第2変形例の磁気特性検査装置1Bは、第1実施形態の磁気特性検査方法において、起磁力の比率を「5:5」とする方法に用いることができる。また、第2変形例の磁気特性検査装置1Bは、第3実施形態の磁気特性検査方法に用いることもできる。
【0068】
一方、起磁力が異なる永久磁石を用いた場合には、第2変形例の磁気特性検査装置1Bは、第1実施形態の磁気特性検査方法において、起磁力の比率を例えば「8:2」とする方法に用いることができる。また、2回の計測において、起磁力が互いに異なる第1永久磁石211Mと第2永久磁石212Mを入れ替えることにより、第2実施形態の磁気特性検査方法に用いることもできる。
【符号の説明】
【0069】
1,1A,1B 磁気特性検査装置
2,2A,2B 磁束印加ユニット
210 ヨーク
210s 第1磁束付与面(第1磁束付与部)
210t 第2磁束付与面(第2磁束付与部)
211 第1コイル(第1起磁力発生部)
212 第2コイル(第2起磁力発生部)
3 漏れ磁束計測ユニット(漏れ磁束計測部)
4 コントローラ
51,52 シート
91A 基準体(第1基準体)
91B 基準体(第2基準体)
92 試験体
C 隙間
L 基準位置
L1 第1位置
L2 第2位置
M1 磁束
M2 漏れ磁束
S11 予備配置ステップ
S12 予備印加ステップ
S13 予備計測ステップ
S14 実配置ステップ
S15,S20A,S30A 実印加ステップ
S16,S20B 実計測ステップ
S17,S27,S37 判定ステップ
S22 第1印加ステップ
S23,S25,S33,S36 漏れ磁束密度取得ステップ
S24 第2印加ステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10