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特開2024-134417標的核酸の存在状態の判定方法、標的生物の存在状態の判定方法、生物の同定方法、及び標的核酸の存在状態を判定するためのキット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134417
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】標的核酸の存在状態の判定方法、標的生物の存在状態の判定方法、生物の同定方法、及び標的核酸の存在状態を判定するためのキット
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6851 20180101AFI20240926BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20240926BHJP
【FI】
C12Q1/6851 Z ZNA
C12N15/113 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044715
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 亮太
(72)【発明者】
【氏名】西山 泰貴
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR14
(57)【要約】
【課題】非特異的な核酸増幅を抑制可能な、標的核酸の存在状態の判定方法、並びに当該方法を用いた標的生物の存在状態の判定方法、生物の同定方法、及びキットを提供する。
【解決手段】試料と、第1の鋳型DNA、第2の鋳型DNA、DNAポリメラーゼ、ニッキング用エンドヌクレアーゼ、及びラムダエキソヌクレアーゼと、を混合し、検出用のシグナル配列を含むシグナルDNAの遺伝子核酸増幅反応を行うことと、前記シグナルDNAの存在状態を判定することと、を含み、前記核酸増幅反応の系中の前記ラムダエキソヌクレアーゼの濃度が1.0U/mL~200U/mLである、試料中の標的核酸の存在状態の判定方法;並びに、当該方法を用いた標的生物の存在状態の判定方法、生物の同定方法、及びキット。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料と、第1の鋳型DNA、第2の鋳型DNA、DNAポリメラーゼ、ニッキング用エンドヌクレアーゼ、及びラムダエキソヌクレアーゼと、を混合し、検出用のシグナル配列を含むシグナルDNAの核酸増幅反応を行うことと、
前記シグナルDNAの存在状態を判定することと、を含み、
前記核酸増幅反応の系中の前記ラムダエキソヌクレアーゼの濃度が1.0U/mL~200U/mLである、試料中の標的核酸の存在状態の判定方法。
【請求項2】
前記第1の鋳型DNAは、前記シグナル配列に相補的な第1の配列と、前記ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、前記標的核酸に相補的な配列と、を含み、
前記第2の鋳型DNAは、前記シグナル配列に相補的な第2の配列と、前記ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、前記シグナル配列に相補的な第3の配列と、を含み、
前記核酸増幅反応は、
(A)前記第1の鋳型DNAにおける前記標的核酸に相補的な配列と、前記標的核酸と、がハイブリダイズし、前記DNAポリメラーゼによって前記標的核酸からの核酸鎖の伸長が起こり、
前記伸長された核酸鎖の前記ニッキング用エンドヌクレアーゼによる切断、及び前記切断部位からの前記DNAポリメラーゼによる核酸鎖の伸長を繰り返して、前記シグナルDNAが増幅される、第一段階増幅と、
(B)前記第2の鋳型DNAにおける前記シグナル配列に相補的な第3の配列と、前記シグナルDNAと、がハイブリダイズし、前記DNAポリメラーゼによって前記シグナルDNAからの核酸鎖の伸長が起こり、
前記伸長された核酸鎖の前記ニッキング用エンドヌクレアーゼによる切断、及び前記切断部位からの前記DNAポリメラーゼによる核酸鎖の伸長を繰り返して、前記シグナルDNAがさらに増幅される、第二段階増幅と、
を含む、
請求項1に記載の判定方法。
【請求項3】
前記第一段階増幅と前記第二段階増幅において、同一又は異なるニッキング用エンドヌクレアーゼにより伸長された核酸鎖が切断される、請求項2に記載の判定方法。
【請求項4】
前記第二段階増幅において、前記第2の鋳型DNAにおける前記シグナル配列に相補的な第3の配列と、前記シグナルDNAと、がハイブリダイズしてなる二本鎖の、前記第2の鋳型DNAの3’端側の末端が5’突出末端を有する、請求項2に記載の判定方法。
【請求項5】
前記DNAポリメラーゼが鎖置換活性を有する、請求項1に記載の判定方法。
【請求項6】
前記核酸増幅反応は、等温増幅反応である、請求項1に記載の判定方法。
【請求項7】
前記等温増幅反応が10℃~40℃で行われる、請求項6に記載の判定方法。
【請求項8】
前記核酸増幅反応の系中の前記ラムダエキソヌクレアーゼの濃度が2.5U/mL~100U/mLである、請求項1に記載の判定方法。
【請求項9】
前記標的核酸の存在状態の判定が、前記標的核酸の存在量の判定である、請求項1に記載の判定方法。
【請求項10】
前記標的核酸の塩基数が5~500である、請求項1に記載の判定方法。
【請求項11】
前記標的核酸が、標的生物において特異的な発現を示すsRNAである、請求項1に記載の判定方法。
【請求項12】
前記sRNAが、配列番号9~48で表されるsRNAのうちの少なくとも1種類を含む、請求項11に記載の判定方法。
【請求項13】
前記sRNAが、配列番号13~15及び34で表されるsRNAのうちの少なくとも1種類を含む、請求項11に記載の判定方法。
【請求項14】
前記標的生物が、Escherichia coli、Citrobacter freundii、Salmonella gallinarumからなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項11に記載の判定方法。
【請求項15】
前記sRNAは、配列番号1で表されるヌクレオチド配列を有するEC-5p-36、配列番号2で表されるヌクレオチド配列を有するEC-3p-40、配列番号7で表されるヌクレオチド配列を有するEC-5p-79、配列番号8で表されるヌクレオチド配列を有するEC-3p-393、配列番号6で表されるヌクレオチド配列を有するfox_milRNA_5、配列番号4で表されるヌクレオチド配列を有するmiR156、及び配列番号5で表されるヌクレオチド配列を有するmiR716bからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項11に記載の判定方法。
【請求項16】
前記第1の鋳型DNAが、5’末端から順に、前記シグナル配列に相補的な第1の配列と、前記ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、前記標的核酸に相補的な配列と、を含み、
前記第2の鋳型DNAが、5’末端から順に、前記シグナル配列に相補的な第2の配列と、前記ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、前記シグナル配列に相補的な第3の配列と、を含む、請求項2に記載の判定方法。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか1項に記載の判定方法により標的生物に特異的な発現を示すsRNAの存在状態を判定することを含む、試料中の標的生物の存在状態の判定方法。
【請求項18】
請求項1~16のいずれか1項に記載の判定方法によりsRNAの存在状態を判定することを含む、試料中の生物の同定方法。
【請求項19】
第1の鋳型DNAを含む容器、第2の鋳型DNAを含む容器、DNAポリメラーゼを含む容器、ニッキング用エンドヌクレアーゼを含む容器、及びラムダエキソヌクレアーゼを含む容器、を備える、標的核酸の存在状態を判定するためのキット。
【請求項20】
検出用のシグナル配列を含むシグナルDNAの存在状態の判定によって前記標的核酸の存在状態を判定するためのキットであって、
前記第1の鋳型DNAは、前記シグナル配列に相補的な第1の配列と、前記ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、前記標的核酸に相補的な配列と、を含み、
前記第2の鋳型DNAは、前記シグナル配列に相補的な第2の配列と、前記ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、前記シグナル配列に相補的な第3の配列と、を含む、
請求項19に記載のキット。
【請求項21】
前記第1の鋳型DNAが、5’末端から順に、前記シグナル配列に相補的な第1の配列と、前記ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、前記標的核酸に相補的な配列と、を含み、
前記第2の鋳型DNAが、5’末端から順に、前記シグナル配列に相補的な第2の配列と、前記ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、前記シグナル配列に相補的な第3の配列と、を含む、請求項20に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、標的核酸の存在状態の判定方法、標的生物の存在状態の判定方法、生物の同定方法、及び標的核酸の存在状態を判定するためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
核酸の検出は、医療分野や生物学の分野をはじめ幅広い技術分野で有用に用いられている。例えば、特許文献1には、液体試料中のsRNAの存在状態に基づいて生物の存在状態を判定する方法が記載されている。
【0003】
核酸の高感度な検出方法としては、PCR(Polymerase Chain Reaction)等の核酸増幅を用いる方法が一般的に知られている。また、温度サイクルを必要とするPCRに代わり、SDA法(Strand Displacement Amplification;鎖置換型増幅法)、LAMP法(Loop-Mediated Isothermal Amplification)、ICAN法(Isothermal and Chimeric primer-initiated Amplification of Nucleic acids)等の等温増幅反応を用いる方法も知られている。
【0004】
増幅対象の核酸を鋳型として外部からプライマーを添加して核酸を増幅する方法とは異なり、外部から鋳型を添加して増幅対象の核酸をプライマーとして使用し、検出対象のシグナルとなる核酸を増幅させる方法も知られている。特許文献2では、EXPAR(Exponential Amplification Reaction)法と呼ばれる方法を利用して、2種類の鋳型を用いて、試料中の標的核酸をプライマーとして、ニッキング用エンドヌクレアーゼの存在下で核酸増幅を行い、得られた核酸を検出することを含む試料中の標的核酸の検出方法が記載されている。
【0005】
さらなる核酸検出方法として、特許文献3には、二次サイクル増幅により高い感度でマイクロRNAを検出可能な核酸検出方法が記載されている。特許文献4には、核酸の等温増幅、増幅産物のニッキング増幅及び一本鎖核酸の生成、前記一本鎖核酸のプローブとのハイブリダイゼーション、並びに余剰核酸の分解を経て核酸を検出する核酸検出方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2020/179823号
【特許文献2】国際公開第2012/077819号
【特許文献3】中国特許第103088128号明細書
【特許文献4】国際公開第2022/033331号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明者らは、EXPAR法を利用して試料中の標的核酸の存在状態を高感度で判定する方法の開発を試みた。EXPAR法では、核酸増幅過程においてしばしば非特異的な核酸増幅(以下、「バックグラウンド増幅」とも記す。)が発生し、不十分な感度の原因となっていた。かかる状況に鑑み、本開示は、非特異的な核酸増幅を抑制可能な、標的核酸の存在状態の判定方法、並びに当該方法を用いた標的生物の存在状態の判定方法、生物の同定方法、及びキットの提供に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は以下の態様を含む。
<1> 試料と、第1の鋳型DNA、第2の鋳型DNA、DNAポリメラーゼ、ニッキング用エンドヌクレアーゼ、及びラムダエキソヌクレアーゼと、を混合し、検出用のシグナル配列を含むシグナルDNAの核酸増幅反応を行うことと、
前記シグナルDNAの存在状態を判定することと、を含み、
前記核酸増幅反応の系中の前記ラムダエキソヌクレアーゼの濃度が1.0U/mL~200U/mLである、
試料中の標的核酸の存在状態の判定方法。
<2> 前記第1の鋳型DNAは、前記シグナル配列に相補的な第1の配列と、前記ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、前記標的核酸に相補的な配列と、を含み、
前記第2の鋳型DNAは、前記シグナル配列に相補的な第2の配列と、前記ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、前記シグナル配列に相補的な第3の配列と、を含み、
前記核酸増幅反応は、
(A)前記第1の鋳型DNAにおける前記標的核酸に相補的な配列と、前記標的核酸と、がハイブリダイズし、前記DNAポリメラーゼによって前記標的核酸からの核酸鎖の伸長が起こり、
前記伸長された核酸鎖の前記ニッキング用エンドヌクレアーゼによる切断、及び前記切断部位からの前記DNAポリメラーゼによる核酸鎖の伸長を繰り返して、前記シグナルDNAが増幅される、第一段階増幅と、
(B)前記第2の鋳型DNAにおける前記シグナル配列に相補的な第3の配列と、前記シグナルDNAと、がハイブリダイズし、前記DNAポリメラーゼによって前記シグナルDNAからの核酸鎖の伸長が起こり、
前記伸長された核酸鎖の前記ニッキング用エンドヌクレアーゼによる切断、及び前記切断部位からの前記DNAポリメラーゼによる核酸鎖の伸長を繰り返して、前記シグナルDNAがさらに増幅される、第二段階増幅と、
を含む、
<1>に記載の判定方法。
<3> 前記第一段階増幅と前記第二段階増幅において、同一又は異なるニッキング用エンドヌクレアーゼにより伸長された核酸鎖が切断される、<2>に記載の判定方法。
<4> 前記第二段階増幅において、前記第2の鋳型DNAにおける前記シグナル配列に相補的な第3の配列と、前記シグナルDNAと、がハイブリダイズしてなる二本鎖の、前記第2の鋳型DNAの3’端側の末端が5’突出末端を有する、<2>に記載の判定方法。
<5> 前記DNAポリメラーゼが鎖置換活性を有する、<1>~<4>のいずれか1項に記載の判定方法。
<6> 前記核酸増幅反応は、等温増幅反応である、<1>~<5>のいずれか1項に記載の判定方法。
<7> 前記等温増幅反応が10℃~40℃で行われる、<6>に記載の判定方法。
<8> 前記核酸増幅反応の系中の前記ラムダエキソヌクレアーゼの濃度が2.5U/mL~100U/mLである、<1>~<7>のいずれか1項に記載の判定方法。
<9> 前記標的核酸の存在状態の判定が、前記標的核酸の存在量の判定である、<1>~<8>のいずれか1項に記載の判定方法。
<10> 前記標的核酸の塩基数が5~500である、<1>~<9>のいずれか1項に記載の判定方法。
<11> 前記標的核酸が、標的生物において特異的な発現を示すsRNAである、<1>~<10>のいずれか1項に記載の判定方法。
<12> 前記sRNAが、配列番号9~48で表されるsRNAのうちの少なくとも1種類を含む、<11>に記載の判定方法。
<13> 前記sRNAが、配列番号13~15及び34で表されるsRNAのうちの少なくとも1種類を含む、<11>又は<12>に記載の判定方法。
<14> 前記標的生物が、Escherichia coli、Citrobacter freundii、Salmonella gallinarumからなる群より選択される少なくとも1つを含む、<11>~<13>のいずれか1項に記載の判定方法。
<15> 前記sRNAは、配列番号1で表されるヌクレオチド配列を有するEC-5p-36、配列番号2で表されるヌクレオチド配列を有するEC-3p-40、配列番号7で表されるヌクレオチド配列を有するEC-5p-79、配列番号8で表されるヌクレオチド配列を有するEC-3p-393、配列番号6で表されるヌクレオチド配列を有するfox_milRNA_5、配列番号4で表されるヌクレオチド配列を有するmiR156、及び配列番号5で表されるヌクレオチド配列を有するmiR716bからなる群より選択される少なくとも1種を含む、<11>~<14>のいずれか1項に記載の判定方法。
<16> 前記第1の鋳型DNAが、5’末端から順に、前記シグナル配列に相補的な第1の配列と、前記ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、前記標的核酸に相補的な配列と、を含み、
前記第2の鋳型DNAが、5’末端から順に、前記シグナル配列に相補的な第2の配列と、前記ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、前記シグナル配列に相補的な第3の配列と、を含む、<2>に記載の判定方法。
<17> <1>~<16>のいずれか1項に記載の判定方法により標的生物に特異的な発現を示すsRNAの存在状態を判定することを含む、試料中の標的生物の存在状態の判定方法。
<18> <1>~<16>のいずれか1項に記載の判定方法によりsRNAの存在状態を判定することを含む、試料中の生物の同定方法。
<19> 第1の鋳型DNAを含む容器、第2の鋳型DNAを含む容器、DNAポリメラーゼを含む容器、ニッキング用エンドヌクレアーゼを含む容器、及びラムダエキソヌクレアーゼを含む容器、を備える、標的核酸の存在状態を判定するためのキット。
<20> 検出用のシグナル配列を含むシグナルDNAの存在状態の判定によって前記標的核酸の存在状態を判定するためのキットであって、
前記第1の鋳型DNAは、前記シグナル配列に相補的な第1の配列と、前記ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、前記標的核酸に相補的な配列と、を含み、
前記第2の鋳型DNAは、前記シグナル配列に相補的な第2の配列と、前記ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、前記シグナル配列に相補的な第3の配列と、を含む、
<19>に記載のキット。
<21> 前記第1の鋳型DNAが、5’末端から順に、前記シグナル配列に相補的な第1の配列と、前記ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、前記標的核酸に相補的な配列と、を含み、
前記第2の鋳型DNAが、5’末端から順に、前記シグナル配列に相補的な第2の配列と、前記ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、前記シグナル配列に相補的な第3の配列と、を含む、<20>に記載のキット。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、非特異的な核酸増幅を抑制可能な、標的核酸の存在状態の判定方法、並びに当該方法を用いた標的生物の存在状態の判定方法、生物の同定方法、及びキットが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の判定方法の原理を説明する概略図を示す。
図2】実施例における、ラムダエキソヌクレアーゼ未添加の際の核酸増幅反応に伴う蛍光強度の経時変化を示す。
図3】実施例における、0.015U/μL(15U/mL)のラムダエキソヌクレアーゼを添加した際の核酸増幅反応に伴う蛍光強度の経時変化を示す。
図4】実施例における、ラムダエキソヌクレアーゼ濃度とバックグラウンド発生換算濃度との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本開示の実施形態は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本開示の実施形態を制限するものではない。
【0012】
本開示において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、複数の要素が、「又は」又は「若しくは」を用いて列挙されている場合、特に明示されている場合を除き、技術的な矛盾が生じない限りは複数の要素を組み合わせて選択することを排除しない。
本開示において要素が単数形で表記されている場合であっても、特に明示されている場合を除き、技術的な矛盾が生じない限りは複数の存在を排除しない。
本開示において、別個に記載されている複数の例示的態様は、互いに矛盾しない限り、互いに組み合わせて新たな態様を構成してもよい。
本開示において実施形態を図面を参照して説明する場合、当該実施形態の構成は図面に示された構成に限定されない。また、各図における部材の大きさは概念的なものであり、部材間の大きさの相対的な関係はこれに限定されない。
本開示において、「核酸」は、あらゆる核酸(例えば、DNA、RNA、これらの類似体、天然物、人工物)と、あらゆる核酸に低分子化合物、基、核酸以外の分子、構造物などが連結している核酸とを含む用語である。
本開示において、核酸の文脈における「相補的」な塩基対は、核酸分子のヌクレオチド又はヌクレオチドアナログの間の、ワトソン-クリック(AT対、AU対、又はCG対)又はフーグスティーン型塩基対を意味する。一方、配列が「相補的」であるという場合、当該配列が相補的な塩基対を有することを意味し、完全に相補的である(すなわち、ミスマッチを含まない)場合に加え、本開示の趣旨を逸脱しない範囲のミスマッチ(例えば1塩基、2塩基以下、又は3塩基以下のミスマッチ)を含む場合をも包含する。「相補的」な配列は完全に相補的であることが好ましい。
【0013】
≪標的核酸の存在状態の判定方法≫
一態様において、本開示は、試料と、第1の鋳型DNA、第2の鋳型DNA、DNAポリメラーゼ、ニッキング用エンドヌクレアーゼ、及びラムダエキソヌクレアーゼと、を混合し、検出用のシグナル配列を含むシグナルDNAの核酸増幅反応を行うことと、前記シグナルDNAの存在状態を判定することと、を含み、前記核酸増幅反応の系中の前記ラムダエキソヌクレアーゼの濃度が1.0U/mL~200U/mLである、試料中の標的核酸の存在状態の判定方法を提供する。以下、上記判定方法を「本判定方法」とも記す。なお、本判定方法は増幅された核酸の存在状態を判定するものであるため、上記「核酸増幅反応を行う」との表現は、増幅対象の核酸が存在する場合に前記核酸が増幅可能な条件となるように調整することを意味し、必ずしも増幅対象の核酸が増幅されることを意味するものではない。
【0014】
本開示において、「存在状態」とは、単に存在の有無を指してもよく、存在量(存在量0、つまり存在しない場合も含む)を指していてもよい。したがって、「存在状態を判定すること」とは、存在するかしないかというバイナリーな判定を行うことであってもよく、存在するかしないかに加えて存在する場合の存在量の判定までも行うものであってもよい。ここで、「存在量」は、絶対的な存在量には限定されず、ネガティブコントロール又はポジティブコントロール等の比較対象に対する相対存在量であってもよい。
【0015】
一態様において、第1の鋳型DNAは、シグナル配列に相補的な第1の配列と、ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、標的核酸に相補的な配列と、を含み、第2の鋳型DNAは、シグナル配列に相補的な第2の配列と、ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、シグナル配列に相補的な第3の配列と、を含み、核酸増幅反応は、
(A)第1の鋳型DNAにおける標的核酸に相補的な配列と、標的核酸と、がハイブリダイズし、DNAポリメラーゼによって標的核酸からの核酸鎖の伸長が起こり、伸長された核酸鎖のニッキング用エンドヌクレアーゼによる切断、及び切断部位からのDNAポリメラーゼによる核酸鎖の伸長を繰り返して、シグナルDNAが増幅される、第一段階増幅と、
(B)第2の鋳型DNAにおけるシグナル配列に相補的な第3の配列と、シグナルDNAと、がハイブリダイズし、DNAポリメラーゼによってシグナルDNAからの核酸鎖の伸長が起こり、伸長された核酸鎖のニッキング用エンドヌクレアーゼによる切断、及び切断部位からのDNAポリメラーゼによる核酸鎖の伸長を繰り返して、シグナルDNAがさらに増幅される、第二段階増幅と、を含む。
【0016】
本判定方法の原理を、図1を用いて説明する。なお、図1は例示による説明のための図であり、本開示の実施形態を限定するものではない。
試料中に標的核酸が存在する場合、第一段階増幅(A)と第二段階増幅(B)の2段階の増幅反応を経てシグナルDNAが増幅される。
第一段階増幅(A)は、第1の鋳型DNAにおける標的核酸に相補的な配列と、標的核酸と、のハイブリダイズ(a1)により開始する。続いて、DNAポリメラーゼによって標的核酸からの核酸鎖の伸長が進行する(a2)。さらに、ニッキング用エンドヌクレアーゼによって、伸長した片側鎖が切断される(a3)。その結果、ニッキングされた片側鎖において新たな3’端が生じるため、その箇所を起点としてDNAポリメラーゼによる新たな鎖伸長が開始する。その後、熱変性、DNAポリメラーゼの鎖置換反応等によって、シグナルDNAを含む片側鎖が二本鎖から解離する。これらの伸長された核酸鎖のニッキング用エンドヌクレアーゼによる切断、及び切断部位からのDNAポリメラーゼによる核酸鎖の伸長を繰り返して、シグナルDNAが増幅される。第一段階増幅(A)におけるシグナルDNAの増幅は、一次関数的な増幅である。
第二段階増幅(B)は、第2の鋳型DNAにおけるシグナル配列に相補的な第3の配列と、シグナルDNAと、のハイブリダイズ(b1)により開始する。続いて、DNAポリメラーゼにより核酸鎖の伸長が進行する(b2)。さらに、ニッキング用エンドヌクレアーゼによって、伸長した片側鎖が切断される。その結果、ニッキングされた片側鎖において新たな3’端が生じるため、その箇所を起点としてDNAポリメラーゼによる新たな鎖伸長が開始する。その後、熱変性、DNAポリメラーゼの鎖置換反応等によって、シグナルDNAを含む片側鎖が二本鎖から解離する(b3)。これらの伸長された核酸鎖のニッキング用エンドヌクレアーゼによる切断、及び切断部位からのDNAポリメラーゼによる核酸鎖の伸長を繰り返して、シグナルDNAがさらに増幅される。第2の鋳型DNA上に、2つのシグナルDNAハイブリダイゼーション部位が設けられている結果、シグナルDNA一本鎖分子の濃度が上昇すると、シグナルDNAの増幅量も増え、つまり鎖伸長反応の起点の量自体がさらに増加する。したがって、第二段階増幅(B)におけるシグナルDNAの増幅は指数関数的な増幅である。
このようにして増幅されたシグナルDNAの存在状態は標的核酸の存在状態の指標となるため、増幅されたシグナルDNAの存在状態を判定することによって、標的核酸の存在状態が判定される。例えば、試料中に標的核酸が存在しない場合には増幅反応が起こらず、上記反応によりシグナルDNAが増幅されないが、試料中に標的核酸が存在する場合には、上記反応によりシグナルDNAが増幅される。増幅したシグナルDNAを検出することで、感度の高い標的核酸の検出が可能となる。
【0017】
従来の方法では、上記核酸増幅反応においてバックグラウンド増幅が少なからず発生してしまい、標的核酸を検出する際に不十分な感度の原因となっていた。バックグラウンド増幅は、標的核酸とは異なる系中の核酸が非特異的に鋳型DNAにハイブリダイズしてしまうことが一因と考えられた。そこで、発明者らは、反応系にラムダエキソヌクレアーゼを添加することでバックグラウンド増幅を抑制することを発案した。ラムダエキソヌクレアーゼは2本鎖DNAの5’末端から核酸を分解するエキソヌクレアーゼ活性を有するが、1本鎖DNAやRNAには殆ど作用しない。そのため、標的核酸は第1の鋳型DNAとハイブリダイゼーションしても分解されず、一方、第1の鋳型DNAに非特異的に結合するDNAの多くは分解される。その結果、標的核酸の鋳型への特異的ハイブリダイゼーションを阻害せずに、非特異的結合を抑制できると考えられる。また、発明者らの検討により、核酸増幅反応の系中のラムダエキソヌクレアーゼの濃度が1.0U/mL~200U/mLである場合に、良好に上記効果が奏されることが見出された。
【0018】
加えて、ラムダエキソヌクレアーゼは平滑末端や3’突出末端を有する2本鎖DNAにおける5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するが、5’突出末端には作用しない。そのため、シグナルDNAと第2の鋳型DNAにおけるシグナル配列に相補的な第3の配列とがハイブリダイズしてなる二本鎖DNAが5’突出末端を有するように鋳型DNA及びシグナルDNAを設計すれば、これらのハイブリダイゼーションを阻害せずに非特異的結合を特に良好に抑制できる。
以下、本判定方法の各工程及び関与する物質について詳述する。
【0019】
<核酸増幅反応>
(第1の鋳型DNA)
第1の鋳型DNAは、標的核酸をプライマーとした核酸増幅の鋳型となる一本鎖DNAである。一態様において、第1の鋳型DNAは、シグナル配列に相補的な第1の配列と、ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、標的核酸に相補的な配列と、を含む。好ましくは、第1の鋳型DNAは、5’末端から順に、前記シグナル配列に相補的な第1の配列と、前記ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、前記標的核酸に相補的な配列と、を含む。
【0020】
シグナルDNAは、前記核酸増幅反応により増幅されて、後述する検出用に用いられるDNAである。シグナルDNAはシグナル配列を含む。シグナル配列は好ましくはシグナルDNAの3’末端から6~50塩基、より好ましくは7~30塩基、さらに好ましくは8~15塩基の配列を指す。シグナル配列は任意に設計可能であり、反応条件に即した融解温度(melting temperature、Tm値)、高次構造の融解温度等を考慮して設計することが好ましい。シグナル配列に相補的な第1の配列は、シグナル配列の全長と相補的であることが好ましい。
シグナルDNAと鋳型の結合における融解温度は反応温度+5℃(反応温度37℃の場合42℃)を中心に±15℃であることが好ましく、±10℃であることがさらに好ましく、±5℃であることがさらに好ましい。
シグナル配列及びこれに相補的な配列の塩基数は、それぞれ、6~50であることが好ましく、7~30であることがより好ましく、8~15であることがさらに好ましい。
【0021】
ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列は、後述のニッキング用エンドヌクレアーゼの種類に応じて決定される。なお、本開示において、鋳型上の「ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列」とは、ニッキング用エンドヌクレアーゼが2本鎖DNAを切断対象として認識した場合における、ニッキングされる鎖とは反対の鎖における、ニッキング用エンドヌクレアーゼが認識する核酸領域の配列をいう。すなわち、ニッキング用エンドヌクレアーゼは、鋳型の相補鎖側を切断する。なお、ニッキング用エンドヌクレアーゼの切断部位は、前記2本鎖DNAの切断対象として認識した配列内に存在してもよく、当該認識した配列の近傍に存在してもよい。認識配列は、特異性に優れる観点からは、3塩基以上であることが好ましく、4塩基以上であることがより好ましく、5塩基以上であることがさらに好ましく、6塩基以上であることが特に好ましく、7塩基以上であることが極めて好ましい。入手容易性の観点からは、認識配列は、10塩基以下でもよく、9塩基以下でもよく、8塩基以下でもよく、7塩基以下でもよく、6塩基以下でもよい。
【0022】
ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列は、2種類の塩基からなってもよく、3種類の塩基からなってもよく、4種類の塩基からなってもよい。「認識配列が2種類の塩基からなる」とは、例えば、前記認識配列がGとCの2種類のみを塩基として有する場合が挙げられる。「認識配列が3種類の塩基からなる」とは、例えば、前記認識配列がGとCとAの3種類のみを塩基として有する場合が挙げられる。「認識配列が4種類の塩基からなる」とは、例えば、前記認識配列がGとCとAとTの4種類を塩基として有する場合である。
【0023】
標的核酸に相補的な配列は、標的核酸の塩基配列に応じて設計され、例えば、特異性の観点からは、標的核酸の3’末端から6塩基以上、好ましくは7塩基以上、より好ましくは8塩基以上の配列と相補的な配列を有する。また、標的核酸に相補的な配列は、例えば、融解温度の観点からは、標的核酸の3’末端から200基以下、好ましくは100塩基以下、より好ましくは30塩基以下の配列と相補的な配列を有する。したがって、標的核酸に相補的な配列の塩基数は上記範囲であり得る。
【0024】
第1の鋳型DNAは、シグナル配列に相補的な第1の配列と、ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、標的核酸に相補的な配列に加えて、核酸増幅反応の進行を大きく妨げない範囲で、各配列の間に任意の介在配列を有してもよい。介在配列の塩基数は、それぞれ0~2であってもよく、3~5であってもよく、6~20であってもよい。
【0025】
第1の鋳型DNAにおいて、シグナル配列に相補的な第1の配列と、ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列とは、一部重複していてもよく、重複していなくてもよい。また、ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、標的核酸に相補的な配列とは、一部重複していてもよく、重複していなくてもよい。
【0026】
第1の鋳型DNAの塩基数は特に制限されず、扱いやすさの観点からは、5~50であることが好ましく、5~30であることがより好ましく、10~30であることがさらに好ましい。
【0027】
第1の鋳型DNAの5’末端はリン酸化されていないことが好ましい。これにより、第1の鋳型DNAの5’末端がラムダエキソヌクレアーゼから好適に保護される。
【0028】
第1の鋳型DNAの3’末端側には、3’末端側より伸長反応が起こらないように、3’末端を修飾しておくことが好ましい。末端の修飾としては、TAMRA、DABCYL、FAM等が挙げられる。その他、ビオチン化、蛍光色素、リン酸化、チオール化、アミノ化等による修飾であってもよい。
【0029】
第1の鋳型DNAは当業者に知られる任意の方法で作製することができる。例えば、ホスホアミダイト法、リン酸トリエステル法、H-ホスホネート法、チオホスホネート法等を用いて合成することができる。
【0030】
核酸増幅反応の系中の第1の鋳型DNAの濃度は適宜調整可能である。一態様において、第1の鋳型DNAを十分量とする観点からは、前記濃度は0.01nM以上が好ましく、0.1nM以上がより好ましく、1nM以上がさらに好ましい。一態様において、前記濃度は100nM以下でもよく、10nM以下でもよく、5nM以下でもよい。
【0031】
核酸増幅反応において、第1の鋳型DNAは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。例えば、2種以上の標的核酸の存在状態を判定する場合(例えば、後述のように、試料中の生物の同定を行う場合)、2種以上の第1の鋳型DNAを併用することで効率的な判定が可能である。2種以上の第1の鋳型DNAを併用する場合としては、第1の配列、ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列、及び標的核酸に相補的な配列のうち、標的核酸に相補的な配列のみが異なる2種以上の第1の鋳型DNAを併用する場合、標的核酸に相補的な配列及び第1の配列の両方が異なる2種以上の第1の鋳型DNAを併用する場合等が挙げられる。
【0032】
(第2の鋳型DNA)
第2の鋳型DNAは、シグナルDNAをプライマーとした核酸増幅の鋳型となる一本鎖DNAである。一態様において、第2の鋳型DNAは、シグナル配列に相補的な第2の配列と、ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、シグナル配列に相補的な第3の配列と、を含む。好ましくは、第2の鋳型DNAは、5’末端から順に、前記シグナル配列に相補的な第2の配列と、前記ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、前記シグナル配列に相補的な第3の配列と、を含む。
【0033】
シグナル配列に相補的な第2の配列は、シグナル配列の全長と相補的であることが好ましい。シグナル配列に相補的な第2の配列の詳細は第1の鋳型DNAにおけるシグナル配列に相補的な第1の配列の詳細と同様である。
【0034】
シグナル配列に相補的な第3の配列は、シグナル配列の全長と相補的であることが好ましい。シグナル配列に相補的な第3の配列の詳細は第1の鋳型DNAにおけるシグナル配列に相補的な第1の配列の詳細と同様である。
【0035】
第1の鋳型DNAにおけるシグナル配列に相補的な第1の配列、並びに第2の鋳型DNAにおけるシグナル配列に相補的な第2及び第3の配列は、いずれも同一の配列であっても、いずれか2つが同一で1つが異なっても、全てが異なってもよい。
【0036】
ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列の詳細は第1の鋳型DNAの項で説明したものと同様である。なお、第一段階増幅と第二段階増幅とでは同一のニッキング用エンドヌクレアーゼを用いても異なるニッキング用エンドヌクレアーゼを用いてもよいため、第1の鋳型DNAにおけるニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と第2の鋳型DNAにおけるニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列とは同一でも異なってもよい。1種類のニッキング用エンドヌクレアーゼを用いて簡便に核酸増幅反応を行える観点からは、第1の鋳型DNAにおけるニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と第2の鋳型DNAにおけるニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列とは同一であることが好ましい。
【0037】
第2の鋳型DNAは、シグナル配列に相補的な第2の配列と、ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、シグナル配列に相補的な第3の配列に加えて、核酸増幅反応の進行を大きく妨げない範囲で、各配列の間に任意の介在配列を有してもよい。介在配列の塩基数は、それぞれ1~4であってもよく、5~10であってもよく、11~30であってもよい。
【0038】
第2の鋳型DNAにおいて、シグナル配列に相補的な第2の配列と、ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列とは、一部重複していてもよく、重複していなくてもよい。また、ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、シグナル配列に相補的な第3の配列とは、一部重複していてもよく、重複していなくてもよい。
【0039】
第2の鋳型DNAの塩基数は特に制限されず、扱いやすさの観点からは、5~50であることが好ましく、5~30であることがより好ましく、10~30であることがさらに好ましい。
【0040】
第2の鋳型DNAの5’末端はリン酸化されていないことが好ましい。これにより、第2の鋳型DNAの5’末端がラムダエキソヌクレアーゼから好適に保護される。
【0041】
第2の鋳型DNAの3’末端側には、3’末端側より伸長反応が起こらないように、3’末端を修飾しておくことが好ましい。末端の修飾方法は、第1の鋳型DNAの項で説明した方法が挙げられる。
【0042】
第2の鋳型DNAは当業者に知られる任意の方法で作製することができる。例えば、第1の鋳型DNAの項で説明した方法が挙げられる。
【0043】
核酸増幅反応の系中の第2の鋳型DNAの濃度は適宜調整可能である。一態様において、第2の鋳型DNAを十分量とする観点からは、前記濃度は0.1nM以上であることが好ましく、1nM以上であることがより好ましく、20nM以上であることがさらに好ましい。一態様において、前記濃度は100nM以下であってもよく、50nM以下であってもよく、20nM以下であってもよい。
【0044】
核酸増幅反応において、第2の鋳型DNAは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。例えば、第1の配列の異なる2種以上の第1の鋳型DNAを用いる場合、2種以上の第2の鋳型DNAを併用して核酸増幅反応を行うことができる。
【0045】
(DNAポリメラーゼ)
本判定方法で用いられるDNAポリメラーゼはDNA鎖を伸長できるものであれば特に制限されない。なかでも、DNAポリメラーゼは、鎖置換活性を有することが好ましい。DNAポリメラーゼが鎖置換活性を有することで、シグナルDNAの解離のための温度調整を要することなく、例えば等温で、核酸増幅反応を実施できる。DNAポリメラーゼは、常温性、中温性、又は耐熱性のいずれのものであってもよい。DNAポリメラーゼは、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を実質的に有しないものであることが好ましい。DNAポリメラーゼとしては、大腸菌由来のDNAポリメラーゼIのクレノウ断片(3’→5’エキソヌクレアーゼ活性を欠損させた変異体を含む)、バチルス・ステアロサーモフィラス由来の5’→3’エキソヌクレアーゼ欠損BstDNAポリメラーゼ、バチルス・カルドテナックス由来の5’→3’エキソヌクレアーゼ欠損BcaDNAポリメラーゼ等が挙げられる。
【0046】
核酸増幅反応の系中のDNAポリメラーゼの濃度は適宜調節可能である。一態様において、良好な核酸増幅反応の観点からは、前記濃度は1U/mL以上であることが好ましく、前記濃度は10U/mL以上であることがより好ましく、前記濃度は20U/mL以上であることがさらに好ましい。一態様において、前記濃度は100U/mL以下であってもよく、50U/mL以下であってもよく、30U/mL以下であってもよい。
【0047】
(ニッキング用エンドヌクレアーゼ)
ニッキング用エンドヌクレアーゼは、ニッキング活性を有するエンドヌクレアーゼを意味する。ニッキング活性とは、二本鎖核酸のいずれか一方の鎖のみを切断する活性である。ニッキング用エンドヌクレアーゼは、ニッキング活性を有するエンドヌクレアーゼであれば制限されない。ニッキングに用い得る多くのエンドヌクレアーゼが認識配列とともに知られており、これらのエンドヌクレアーゼの中から適宜選択して使用することができる。ニッキング用エンドヌクレアーゼとしては、ニッキングエンドヌクレアーゼ及び制限酵素が挙げられる。
【0048】
ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列の好ましい態様は上述の通りである。
【0049】
ニッキング用エンドヌクレアーゼの反応至適温度は、増幅反応の簡便性の観点からは、10℃~60℃であることが好ましく、20℃~50℃であることがより好ましく、30℃~45℃であることがさらに好ましい。反応至適温度は、反応温度と反応速度の相関曲線により確認できる。
【0050】
DNAポリメラーゼ、ラムダエキソヌクレアーゼ、及び必要に応じて用いられる他の酵素の反応を好適に進行させやすい観点からは、ニッキング用エンドヌクレアーゼが活性を有するpH範囲は広いほど好ましい。前記pH範囲は、pH6.0~9.0の範囲を包含することが好ましく、pH6.5~8.5の範囲を包含することがより好ましく、pH7.0~8.0の範囲を包含することがさらに好ましい。
【0051】
ニッキングエンドヌクレアーゼとしては、Nb.BbvCI、Nb.BsmI、Nb.BsrDI、Nb.BssSI、Nb.BtsI、Nt.AlwI、Nt.BbvCI、Nt.BspQI、Nt.BstNBI、Nt.BsmAI、Nt.CviPII等が挙げられる。
【0052】
制限酵素は、通常は二本鎖の両方の鎖を切断する酵素であるが、例えば、制限酵素によって切断されない化学修飾を二本鎖核酸の一方の鎖に施すことにより、他方の鎖のみを切断するニッキング反応に用いることができる。例えば、一方の鎖のホスホジエステル結合の酸素原子を硫黄原子に置換することにより、ニッキング反応に用いることが可能となる。この場合は、第1の鋳型DNA及び/又は第2の鋳型DNAを上記の通り修飾しておけばよい。
【0053】
第一段階増幅と第二段階増幅では、同一又は異なるニッキング用エンドヌクレアーゼにより伸長された核酸配列が切断される。したがって、ニッキング用エンドヌクレアーゼは、1種のみを用いても2種を用いてもよい。
【0054】
核酸増幅反応の系中のニッキング用エンドヌクレアーゼの濃度は適宜調節可能である。一態様において、良好な核酸増幅反応の観点からは、前記濃度は10U/mL以上であることが好ましく、100U/mL以上であることがより好ましく、200U/mL以上であることがさらに好ましい。一態様において、前記濃度は1000U/mL以下であってもよく、500U/mL以下であってもよく、300U/mL以下であってもよい。
【0055】
(ラムダエキソヌクレアーゼ)
ラムダエキソヌクレアーゼは、2本鎖DNAに特異的な5’→3’エキソヌクレアーゼである。
【0056】
核酸増幅反応の系中のラムダエキソヌクレアーゼの濃度は1.0U/mL~200U/mLである。一態様において、検出感度の観点からは、前記濃度は150U/mL以下であることが好ましく、100U/mL以下であることがより好ましく、50U/mL以下であることがさらに好ましく、25U/mL以下であることが特に好ましい。エキソヌクレアーゼ活性を良好に発揮し、バックグラウンド増幅をより好適に抑制する観点からは、前記濃度は2.5U/mL以上であることが好ましく、10U/mL以上がより好ましく、15U/mL以上であることがさらに好ましい。なかでも、前記濃度は2.5U/mL~100U/mLであることが好ましく、5U/mL~100U/mLであることがより好ましく、10U/mL~100U/mLであることがさらに好ましく、15U/mL~50U/mLであることが特に好ましく、15U/mL~25U/mLであることが極めて好ましい。
【0057】
(他の試薬)
核酸増幅反応に用いられるその他の試薬としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム等の金属塩;dNTPミックス等の基質;トリス塩酸バッファー、トライシンバッファー、リン酸ナトリウムバッファー、リン酸カリウムバッファー等の緩衝液等を使用することができる。さらに、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide)やベタイン(N,N,N-trimethylglycine)等の添加物、国際公開第99/54455号に記載の酸性物質、陽イオン錯体等を使用してもよい。
【0058】
(試料)
試料は標的核酸が存在し得る試料であれば特に制限されず、生物由来試料、ウイルス由来試料、環境由来試料、食品、医薬品(生物学的製剤等)等が挙げられる。また、試料は天然試料であっても、人工試料(合成RNA、合成DNAを含み得る試料等)であってもよい。
生物由来試料としては、動物(哺乳類(例えばヒト及び非ヒト哺乳類動物)、鳥類、両生類、爬虫類、魚類、脊索動物、節足動物等)、植物(イネ、コムギ、タバコ等)、真菌(カビ、酵母等)、細菌等の生物に由来する試料が挙げられる。生物由来試料としては、具体的には、血液、尿、糞便、脳脊髄液、精液、唾液、組織等の生物由来試料;生物体(菌体等);細胞培養物等が挙げられる。
環境由来試料としては、土壌、水(生活排水、河川水、海水、地下水、水道水等)、空気等に由来する試料が挙げられる。
【0059】
試料は標的核酸の存在状態について分析したい対象物(以下、「分析対象物」とも記す。)であっても、分析対象物から任意の処理により調製した試料であってもよい。作業の簡便性の観点からは、試料は分析対象物であることが好ましい。分析対象物は固体、液体、気体のいずれでもよい。
分析対象物から任意の処理により調製した試料としては、分析対象物である固体を液体に浸漬して得られた液体;分析対象物である液体の希釈物;気体中の浮遊物を収集して得られた試料(空気の濾過フィルタ上に捕集された捕集物等);分析対象物の表面を拭いたワイプ、綿棒等、又は該捕集物を液体に浸漬して得られた液体;周囲雰囲気に開放された容器内に付着した付着物などが挙げられる。分析対象物から調製した試料としては、試料からRNAを抽出、精製等して標的核酸を富化した調製物も挙げられる。
【0060】
一態様において、分析対象物は、衛生管理の必要とされる現場(食品製造、医療、福祉、家庭等)において存在が衛生管理上の問題となりうる生物であってもよい。そのような生物としては、病原性微生物、腐敗微生物が挙げられる。病原性微生物は病原性真菌であってもよく、その例としては、白癬菌、カンジダ、アスペルギルス等が挙げられる。病原性微生物は病原性細菌であってもよく、その例としては、グラム陽性菌(例えばブドウ球菌、レンサ球菌、肺炎球菌、腸球菌、ジフテリア菌、結核菌、らい菌、炭疽菌、枯草菌、ウェルシュ菌、破傷風菌、ボツリヌス菌等)、グラム陰性菌(淋菌、脳膜炎菌、サルモネラ菌、大腸菌、緑膿菌、赤痢菌、インフルエンザ菌、百日咳菌、コレラ菌、腸炎ビブリオ菌、アシネトバクター、カンピロバクター、レジオネラ菌、ヘリコバクター等)等が挙げられる。病原性細菌はベロ毒素生産菌であってもよい。腐敗微生物としては、魚介類の場合、シュードモナス、マイクロコッカス、ビブリオ、フラボバクテリウム等の各属の細菌が、畜肉類の場合、シュードモナス、アクロモバクター、マイクロコッカス、フラボバクテリウム等の各属の細菌が、米飯及びめん類の場合、バチルス属の細菌が挙げられる。
【0061】
ある実施形態においては、分析対象物となる生物は、腸内細菌科に属する細菌であってもよい。その例としては、Citrobacter freundii等のCitrobacter属の細菌、Edwardsiella tarda等のEdwardsiella属の細菌、Enterobacter aerogenes、E. cloacae、E. gergoviae、及びE. sakazakii等のEnterobacter属の細菌、Escherichia coli及びE. albertii等のEscherichia属の細菌、Hafnia alvei等のHafnia属の細菌、Klebsiella oxytoca及びK. pneumoniae等のKlebsiella属の細菌、Kluyvera ascorbata及びK. cryocrescens等のKluyvera属の細菌、Morganella morganii等のMorganella属の細菌、Proteus mirabilis及びP. vulgaris等のProteus属の細菌、Providencia alcalifaciens、P. rettgeri、及びP. stuartii等のProvidencia属の細菌、Salmonella enterica等のSalmonella属の細菌、Serratia liquefaciens及びS. marcescens等のSerratia属の細菌、Shigella boydii、S. dysenteriae、S. flexneri、及びS. sonnei等のShigella属の細菌、並びにYersinia enterocolitica、Y. pestis、及びY. pseudotuberculosis等のYersinia属の細菌が挙げられる。前記生物はEscherichia coli、Citrobacter freundii、及びSalmonella gallinarumからなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。別のある実施形態においては、前記生物は植物を含み、前記植物はクロマツであってもよい。別のある実施形態においては、前記生物はベロ毒素生産菌を含む。
【0062】
分析対象物は細胞壁を有する生物であってもよい。分析対象物が細胞壁を有する生物である場合の試料の具体例及び調製方法は、例えば特開第2022-043934号公報、特開第2022-043935号公報、特開第2022-043936号公報、国際公開第2020/179823号等に記載の事項を採用できる。
【0063】
一態様において、標的核酸の塩基数は、5~500であることが好ましく、8~500であることがより好ましく、10~200であることがさらに好ましく、12~100であることが特に好ましく、15~30であることが極めて好ましい。
【0064】
標的核酸の種類は特に制限されず、全RNA、mRNA、rRNA、siRNA、hnRNA、piRNA、aRNA、miRNA、合成RNA、全DNA、ゲノムDNA、合成DNA、DNA・RNAのハイブリッド等のいずれであってもよい。標的核酸の3’末端は、非修飾な水酸基であっても修飾された水酸基であってもよいが、DNAポリメラーゼによる核酸増幅が起こりやすいよう、非修飾な水酸基であることが好ましい。一態様において、標的核酸は、標的生物において特異的な発現を示すsRNAであってもよい。かかるsRNAの存在状態を判定することにより、試料中の標的生物の存在状態を判定したり、試料中の生物を同定したりすることができる。標的生物において特異的な発現を示すsRNAの詳細は後述する。
一態様において、標的核酸の5’末端は、ラムダエキソヌクレアーゼが作用しにくい形状(非修飾形状、リン酸基以外の修飾でキャップされた形状、第一の鋳型DNAと結合した際に1塩基以上の突出末端を有する形状、RNA等)であることが好ましい。
5’末端の化学修飾はリン酸基以外の核酸増幅を阻害することができればいずれの保護基であってもよい。5’末端の化学修飾の一様態としてAmino Modifier(C3,C6,C12等)、5’-Biotin、Spacer(3、9、18、d等)、標識プローブ(Fluorescein、BHQ1等)、Inverted dT等が挙げられる。
【0065】
〔反応条件〕
試料及び増幅反応に用いられる各試薬の混合のタイミング及び順序は特に制限されず、任意のタイミング及び順序で混合することができる。
【0066】
核酸増幅反応の温度は特に制限されず、等温下で行なうことが好ましい。すなわち、核酸増幅反応は等温増幅反応であることが好ましい。第一段階増幅と第二段階増幅は、一連の等温増幅反応であることが好ましい。等温増幅反応は、増幅のための機器(温度サイクルに合わせて温度を変動させる機器)を用意する必要がない観点から好ましい。本開示において、「等温増幅反応」とは、核酸のアニーリング、伸長、及び解離のための温度サイクルを要する核酸増幅反応とは対照的に、酵素及びプライマーが実質的に機能しうるほぼ一定の温度条件で行われる核酸増幅反応を意味する。ここで、「ほぼ一定の温度条件」とは、設定された温度を正確に保持した温度条件のみならず、酵素及びプライマーの実質的な機能を損なわない範囲での変動(例えば設定温度±10℃、好ましくは±5℃の変動)を許容した温度条件を意味する。
このような等温増幅反応は、使用する酵素の活性を維持できる温度に保つことにより実施することができる。反応が進行するにつれ酵素活性が減衰する場合であっても、意図される核酸増幅反応を実施できる温度であればよい。
【0067】
等温増幅反応の温度は、10℃~75℃が好ましく、簡便性の観点からは、10℃~40℃がより好ましい。簡便性の観点から、等温増幅反応は常温(例えば20℃~40℃)で行ってもよい。
【0068】
核酸増幅反応のpHは、使用する酵素の種類に応じて調整すればよい。一態様において、核酸増幅反応のpHはpH6.0~9.0が好ましく、pH6.5~8.5がより好ましく、pH7.0~8.0がさらに好ましい。
【0069】
一態様において、第二段階増幅において、第2の鋳型DNAにおけるシグナル配列に相補的な第3の配列と、シグナルDNAと、がハイブリダイズしてなる二本鎖の、第2の鋳型DNAの3’端側の末端が5’突出末端を有することが好ましい。第一段階増幅によって得られたシグナルDNAと、第2の鋳型DNAと、をハイブリダイズしてなる二本鎖DNAが5’突出末端を有するように、シグナルDNA及び第2の鋳型DNAを設計することで、非特異的結合のみをラムダエキソヌクレアーゼによってより良好に分解することができ、バックグラウンド増幅がより好適に抑制できる。
【0070】
<シグナルDNAの存在状態の判定>
増幅されたシグナルDNAの存在状態の判定は、オリゴヌクレオチドを検出する任意の方法を採用して行うことができる。例えば、ゲル電気泳動及びエチジウムブロマイド染色、蛍光偏光、イムノアッセイ、蛍光共鳴エネルギー転移、酵素標識(例えば、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ等)、蛍光標識(例えば、フルオレセイン、ローダミン等)、ケミルミネッセンス、バイオルミネッセンス等を使用してもよい。また、Taqmanプローブ、分子ビーコン等を利用して検出してもよい。ビオチン等で標識した標識ヌクレオチドを使用して増幅産物を検出してもよい。この場合、増幅産物中のビオチンは、蛍光標識アビジン又は酵素標識アビジン等を用いて検出することができる。また、酸化還元型インターカレーターを使用することで、電極により増幅産物を検出してもよい。また、SPR(表面プラズモン共鳴)を用いて増幅産物を検出してもよい。
【0071】
一態様において、シグナルDNAは定量してもよい。シグナルDNAの定量によって、標的核酸の存在量を判定することができる。シグナルDNAの定量は、例えば、蛍光を測定することによりシグナルDNAの存在状態を判定する場合には、蛍光強度を指標として行うことができる。
標的核酸の存在量の判定は、例えば、濃度が既知の標的核酸を用いて同様の条件で核酸増幅反応を行って標的核酸濃度と増幅開始時間の相関を示す検量線を作成し、濃度が未知の標的核酸を用いて本判定方法を実施して検量線と比較することで行うことができる。
【0072】
≪標的生物の存在状態の判定方法、及び生物の同定方法≫
一態様において、本開示は、前述の本判定方法により標的生物に特異的な発現を示すsRNAの存在状態を判定することを含む、試料中の標的生物の存在状態の判定方法を提供する。
一態様において、本開示は、前述の本判定方法によりsRNAの存在状態を判定することを含む、試料中の生物の同定方法を提供する。
【0073】
本判定方法を生物の同定に用いる場合、例えば、2種以上の第1の鋳型DNAを併用することにより生物を同定してもよい。
例えば、第1の配列、ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列、及び標的核酸に相補的な配列のうち、標的核酸に相補的な配列のみが異なる2種以上の第1の鋳型DNAを用いてもよい。この場合、例えば、検出対象の生物毎に、対応するsRNAに相補的な配列を有する第1の鋳型DNAを含む反応系で核酸増幅反応を行い、本判定方法を適用してもよい。
また、第1の配列、ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列、及び標的核酸に相補的な配列のうち、標的核酸に相補的な配列及び第1の配列の両方が異なる2種以上の第1の鋳型DNAを用いてもよい。この場合、例えば、1つの反応系で、前記2種以上の第1の鋳型DNA及び対応して設計される2種以上の第2の鋳型DNAを用いて核酸増幅反応を行い、検出対象の生物毎に異なるシグナルDNAを検出してもよい。
【0074】
sRNAはsmall RNAとも称され、細胞に含まれる短鎖のRNAである。標的核酸が標的生物において特異的な発現を示すsRNAである場合、当該sRNAの存在状態を判定することにより、試料中の標的生物の存在状態を判定することができる。また、当該RNAの存在状態を判定することにより、試料中の生物を同定することができる。
【0075】
sRNAの塩基数は上述した標的核酸の塩基数の範囲であることが好ましい。なお、sRNAの中には、真核細胞に含まれる20塩基~30塩基程度のRNAであるmicro RNA等もある。また、原核生物でも同程度の特に短いsRNAのことをmicroRNA-size small RNAと呼ぶ場合もある。
【0076】
標的生物において特異的な発現を示すsRNAの配列情報は、Rfam(EMBL EBI) 、Small RNA Database(MD Anderson Cancer Center) 、miRBase(Griffiths-Jones lab at the Faculty of Biology, Medicine and Health, University of Manchester)、National Center for Biotechnology Information (NCBI)のデータベース等のデータベースに蓄積されている他、学術論文にも種々報告されている。このため、各種の生物に含まれるsRNAの情報は、データベース検索を始めとする公知の方法で得ることが可能である(杏林医会誌41巻1号pp.13~18 2010年4月参照)。例えば、National Center for Biotechnology Information (NCBI)のデータベースに含まれる核酸配列と、検索対象の核酸配列とを、Nucleotide BLAST(https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)を用いて比較及び同一配列の検索(当該同一配列の由来となる生物の情報を含む)をすることができる。
【0077】
sRNAは、生物の種類に応じて差示的に発現する。例えば、Rfam、Small RNA Database、miRBase、National Center for Biotechnology Information (NCBI)データベース等の配列データベースを参照すると、特定のsRNAがどの生物において発現しているかを検索することができ、また、特定の生物においてどのsRNAが発現しているかを検索することができる。sRNAは、関心のある特定の生物において特異的な発現状態を示すものであることが好ましい。このようにすることで、sRNAの存在状態から生物の存在状態をよりよく判定できる。
【0078】
「標的生物に特異的な発現を示すsRNA」は、標的生物に特異的に発現するsRNAであっても、標的生物に特異的に非発現であるsRNAであってもよい。存在状態を判定する少なくとも1種類は、標的生物に特異的に発現するsRNAであることが好ましい。
また、「標的生物において特異的な発現を示すsRNA」は、標的生物においてのみ発現するsRNAであってもよく、標的生物においてのみ発現しないsRNAであってもよく、標的生物を含む特定の生物群においてのみ発現する、又は標的生物を含む特定の生物群においてのみ発現しないsRNAといった、標的生物にのみに完全に特異的であるわけではないsRNAであってもよい。
【0079】
試料中に特定の生物に特異的なsRNAが検出されることは、試料中における当該生物の存在を示唆する。試料中における特定の生物に特異的なsRNAの存在量の情報からは、試料中における当該生物の存在量についての情報を得ることもできる。
【0080】
sRNAがどの生物で発現するかは、例えば以下のようにして知ることができる。前記sRNAの核酸配列を基準配列として、National Center for Biotechnology Information (NCBI)のデータベースから、基準配列と類似する核酸配列をNucleotide BLAST(https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)を用いて比較する。得られた比較結果の中から、基準配列としたsRNAと核酸配列が100%一致するsRNAを含む生物が、前記sRNAを発現する生物ということになる。
【0081】
なお、1種類のsRNAが1種類の生物に完全に特異的であるとは限らず、同じsRNAを発現する生物が複数種類存在する場合もある。しかし、1種類の生物におけるsRNAの発現プロファイルはsRNA毎に異なるため、複数種類のsRNAそれぞれの存在状態を基にすれば、存在する可能性のある生物の種類をより絞り込むことができる。このため、複数種類のsRNAそれぞれの存在状態に基づいて、標的生物の存在状態を判定してもよい。この判定においては、標的生物において特異的に非発現であるsRNAの発現状態も用いることができる。標的生物において特異的に非発現であるsRNAが検出されること又はされないことは、単独では、前記生物の存在状態を示唆するものではないが、前記生物において特異的に発現するsRNAの存在状態についての情報と組み合わせることで、それらsRNAの発現プロファイルを示す生物の候補をより絞り込むことができる。
【0082】
存在状態を判定するsRNAとして、その発現プロファイルを基に関心のある特定の生物が、他の生物からよりよく判別されるようなsRNAを選択することが好ましい。
【0083】
生物の同定にあたっては、試料中に存在する生物の候補を1種類に限定してもよく、複数種類の生物からなる候補群を同定してもよい。後者は、複数種類の生物それぞれの存在状態を個別に判定するのではなく、複数種類の生物の存在状態を総体的に判定するものである。したがって、生物の同定は、複数種類の生物のうちどれが実際に存在しているかまでは判定できないとしても、候補群(グループ)を構成する複数種類の生物のうち少なくとも1種類が存在していることを判定できればよい。
【0084】
したがって、試料中の標的生物の存在状態の判定方法は、2種類以上の生物の総体的な存在状態を判定するものであってもよい。
また、試料中の生物の同定方法は、試料中の2種類以上の生物を総体的に同定するものであってもよい。
【0085】
sRNAの存在状態の検出の際に、sRNAの存在量についても判定することで、生物の存在量の判定も可能となる。sRNAの存在量の判定方法は上述した通りである。
【0086】
試料中のsRNAの存在状態に基づく生物の同定の一例について説明する。sRNAであるEC-5p-36(配列番号1;5’-UGUGGGCACUCGAAGAUACGGAU-3’、Curr Microbiol.2013 Nov;67(5):609-13参照)は、Nucleotide BLAST検索によれば、Escherichia属細菌、Shigella属細菌、Salmonella属細菌、Citrobacter属細菌において共通して発現している。このことから、液体試料中にEC-5p-36が存在すると検出された場合、存在している生物は、Escherichia属細菌、Shigella属細菌、Salmonella属細菌、及びCitrobacter属細菌のうち1種類以上であると同定できる。また、sRNAであるEC-3p-40は、Nucleotide BLAST検索によれば、Shigella属細菌、Salmonella属細菌、Escherichia属細菌、及びCitrobacter属細菌に加えて、Klebsilla属細菌にも共通して発現する。このため、EC-3p-40(配列番号2;5’-GUUGUGAGGUUAAGCGACU-3’)が液体試料中に存在すると検出された場合、存在する生物はEscherichia属細菌、Shigella属細菌、Salmonella属細菌、Citrobacter属細菌、及びKlebsilla属細菌のうち1種類以上であると同定できる。また、これらの結果を組み合わせて同定を行ってもよい。例えば、EC-5p-36はKlebsilla属細菌では発現しないが、EC-3p-40はKlebsilla属細菌で発現するので、液体試料中にEC-3p-40は存在するがEC-5p-36は存在しないと検出された場合は、存在する生物はKlebsilla属細菌であると同定できる。
【0087】
また、生物の同定は、特定の機能を有するsRNAの存在状態に基づいて同定してもよい。例えば、腸管出血性大腸菌(O-157等)の毒素(ベロ毒素。シガトキシンとも呼ばれる)に関与するsRNAである24B_1(配列番号3;5’-UAACGUUAAGUUGACUCGGG-3’、Scientific Reports volume 5, Article number: 10080 (2015)参照)は、Nucleotide blast検索によればベロ毒素(シガトキシン)生産菌に共通して発現する。このため、液体試料中に24B_1が存在すると検出された場合は、存在する生物はベロ毒素保有菌であると同定できる。
【0088】
また、Escherichia属細菌、Shigella属細菌、Salmonella属細菌、及びCitrobacter属細菌の総体的な存在状態(いずれも存在しないか、1種類以上が存在するか等)を判定したい場合には、EC-5p-36の存在状態を判定するようにすればよい。Klebsilla属細菌の存在状態を判定したい場合には、EC-3p-40及びEC-5p-36の存在状態を判定するようにすればよい。
【0089】
その他、sRNAであるEC-5p-79(配列番号7;5’-UUUGCUCUUUAAAAAUC-3’)及びEC-3p-393(配列番号8;5’-CUCGAAGAUACGGAUUCUUAAC-3’)は、Escherichia coli、Citrobacter freundii、及びSalmonella gallinarumにおいて発現している。以上のことから、sRNAと生物種の対応関係として、EC-5p-36、EC-3p-40、EC-5p-79、及びEC-3p-393からなる群より選択される少なくとも1種類と、Escherichia coli、Citrobacter freundii、及びSalmonella gallinarumからなる群より選択される少なくとも一種との組み合わせ、配列番号6(5’-UCCGGUAUGGUGUAGUGGC-3’、PLoS One. 2014 Aug 20;9(8):e104956.参照)で表されるヌクレオチド配列を有するfox_milRNA_5とFusarium oxysporumとの組み合わせ、配列番号4(5’-CAGAAGAUAGAGAGCACAUC-3’;http://www.mirbase.org/;pta-miR156aを参照)で表されるヌクレオチド配列を有するmiR156とクロマツとの組み合わせ、並びに配列番号5(5’-GAGAUCUUGGUGGUAGUAGCAAAUA-3’;Sci. Rep., 2015,5,7763参照)で表されるヌクレオチド配列を有するmiR716bとSaccharomyces cerevisiaeとの組み合わせが挙げられる。
【0090】
その他、以下の表1及び表2に記載したsRNAは、腸内細菌科の細菌、例えば大腸菌において発現することが判明している。特に、sRNA13~sRNA32は、tRNAの配列である。
【0091】

【表1】

【0092】
【表2】
【0093】
また、sRNA9、10、13~15、17~19、21~24、26、及び27について、その発現が確認されている生物をその属名(カンジダ属については種名)により以下の表3及び表4に示す。表3及び表4中「Yes」はその生物においてsRNAが発現することを表す。
【0094】
【表3】
【0095】
【表4】
【0096】
表1及び表2に記載されたsRNAも本判定方法に用いることができる。存在状態を判定するsRNAは、配列番号9~48で表されるsRNAのうちの少なくとも1種類(つまりsRNA9~sRNA48のうちの少なくとも1種類)を含むことが好ましい。存在状態を判定するsRNAは、配列番号13~15及び34で表されるsRNAのうちの少なくとも1種類(つまりsRNA13~sRNA15及びsRNA34のうちの少なくとも1種類)を含むことがより好ましい。
【0097】
一態様において、存在状態を判定するsRNAは、配列番号9~48で表されるsRNAのうちの少なくとも1種類(つまりsRNA9~sRNA48のうちの少なくとも1種類)に加えて、他のsRNAも含んでいてもよい。他のsRNAもさらに含むことによって、さらに判定又は同定の精度を上げること、及び/又はより幅広い生物種について生物の存在状態の判定又は生物の同定を行うことができる。
【0098】
このため、例えば、存在状態を判定するsRNAは、配列番号9~48で表されるsRNAのうちの少なくとも1種類(好ましくは配列番号13~15及び34で表されるsRNAのうちの少なくとも1種類)に加えて、配列番号1~8のsRNAのうちの少なくとも1種類をさらに含んでいてもよい。
【0099】
なお、上記以外のsRNAについても、判定又は同定に必要なsRNAと生物との対応関係は、学術論文、上述のデータベース等から容易に入手することができる。
【0100】
本開示の標的生物の存在状態の判定方法及び生物の同定方法によれば、核酸増幅によるsRNAの検出を行うことで、生物の16S rRNAを取り出す方法よりも少ない手間で、標的生物の存在状態を判定することができ、また、試料中に存在する生物を同定することができる。
【0101】
上記のように標的生物において特異的な発現を示すsRNAの存在状態を判定する方法によれば、培養法とは異なり、試料に含まれる可能性のある生物を培養する必要がない。このため、短時間での判定又は同定が可能でありながら、核酸増幅を用いるため高い感度を実現することも可能である。さらに、培養が困難な細菌等にも本方法を適用することができる。また、培養法とは異なり、本方法においては、必要なサンプル量が少なく、処理に用いた資材の廃棄も容易である。本方法では、遺伝子法の利点を維持しつつ、さらに従来の遺伝子法よりも簡便な操作で生物の存在状態の判定及び試料中に含まれる生物の同定をすることができる。
【0102】
本方法は、例えば、衛生管理の必要とされる現場(食品製造、医療、福祉、家庭等)での簡便な微生物検査のために用いることができる。その例としては、食品製造工程における腐敗変敗菌検査による製品の衛生管理、食中毒事故時のすみやかな原因特定、医療施設のベッドや待合室における食中毒菌検出による二次感染予防、児童福祉施設や老人福祉施設における食中毒菌の二次感染予防、家庭に食中毒患者がいる場合における食中毒菌の検出による二次感染予防等が挙げられる。
【0103】
≪キット≫
一態様において、本開示は、第1の鋳型DNAを含む容器、第2の鋳型DNAを含む容器、DNAポリメラーゼを含む容器、ニッキング用エンドヌクレアーゼを含む容器、及びラムダエキソヌクレアーゼを含む容器、を備える、標的核酸の存在状態を判定するためのキットを提供する。キットは、上述の本判定方法、並びに標的生物の存在状態の判定方法及び生物の同定方法に用いることができる。第1の鋳型DNA、第2の鋳型DNA、DNAポリメラーゼ、ニッキング用エンドヌクレアーゼ、及びラムダエキソヌクレアーゼの詳細は上述した通りである。また、キットは、上述した、核酸増幅反応に用いられるその他の各種試薬を含んでもよい。キットは、使用説明書を備えていてもよい。
第1の鋳型DNA、第2の鋳型DNA、DNAポリメラーゼ、ニッキング用エンドヌクレアーゼ、ラムダエキソヌクレアーゼ、及び任意のその他の試薬は、それぞれ個別の容器に含まれていてもよく、2種以上の試薬が同じ容器に含まれていてもよい。容器としては、エッペンドルフ(登録商標)チューブなどのマイクロチューブ、遠沈管、スピッツ管、バイアル、アンプル、投薬瓶、点滴瓶、点眼瓶等、一般的に用いられる容器を使用できる。
【0104】
一態様において、第1の鋳型DNAは、シグナル配列に相補的な第1の配列と、ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、標的核酸に相補的な配列と、を含み、第2の鋳型DNAは、シグナル配列に相補的な第2の配列と、ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、シグナル配列に相補的な第3の配列とを含む。第1の鋳型DNA及び第2の鋳型DNAの詳細は上述の通りである。
【実施例0105】
次に本開示の実施形態を実施例により具体的に説明するが、本開示の実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0106】
以下の試薬を準備した。
・第1の鋳型DNA:ジーンデザイン社製(配列:CGCACGCAGCCTCAGCGCAGTCGCTTAACCTCACAAC-(inverted dT)- (inverted dT))(配列番号49)
・第2の鋳型DNA:IDT technologies社製(配列:CGCACGCAGCCTCAGCCGCACGCAG[3SpC3](配列番号50)、PAGE-HPLC Dual精製品)
・DNAポリメラーゼ:New England Biolabs社製、Bst DNA polymerase
・ニッキング用エンドヌクレアーゼ:New England Biolabs社製、Nb.BbvCl(鋳型上の認識配列:CCTCAGC)
・ラムダエキソヌクレアーゼ:New England Biolabs社製
・dNTP:New England Biolabs社製
【0107】
なお、第1の鋳型DNA及び第2の鋳型DNAにおける各領域の配列、並びにシグナルDNAの配列は以下の通りである。
第1の鋳型DNAにおける第1の配列、並びに第2の鋳型DNAにおける第2及び第3の配列:CGCACGCAG
第1の鋳型DNAにおける標的核酸に相補的な配列:GCAGTCGCTTAACCTCACAAC(配列番号51)
シグナルDNA:TGAGGCTGCGTGCG(配列番号52)
【0108】
<ラムダエキソヌクレアーゼ添加によるバックグラウンド発生抑制効果の評価>
ラムダエキソヌクレアーゼ添加によるバックグラウンド発生抑制効果の評価を試みた。 終濃度が0U/μL~2.5U/μLとなるように、ラムダエキソヌクレアーゼをRNase-free水で希釈した。さらに、1サンプルあたり、PCRチューブ内に、RNase-free水を4.4μL、10×NEB#2 bufferを1μL、10%TritonX-100を1μL、20×EvaGreen(登録商標)を0.1μL、50nMの第1の鋳型DNAを0.1μL、2000nMの第2の鋳型DNAを1μL、125μMのdATPを0.02μL、2mMのdTTPを0.02μL、100mMのdCTPを0.1μL、100mMのdGTPを0.02μL、10U/μLのニッキング用エンドヌクレアーゼを0.2μL、及び8U/μLのDNAポリメラーゼを0.05μL混合し、プレミックスを調製した。このプレミックスに、各濃度のラムダエキソヌクレアーゼを1μL添加し、反応液を調製した。この反応液に10pMの合成EC-5p-36(配列番号1;ユーロフィンジェノミクス社製)を1μL添加したものを強陽性サンプルとした。また、前記反応液に、100fMの合成EC-5p-36(配列番号1;ユーロフィンジェノミクス社製)を1μL添加したものを弱陽性サンプルとした。さらに、前記反応液に、RNase-free水を1μL添加したものをバックグラウンドサンプルとした。
強陽性サンプル、弱陽性サンプル、及びバックグラウンドサンプルを、それぞれ、リアルタイムPCR装置CFX96 Real-Time System(BIO-RAD社)を用いて、37℃で5時間インキュベートし、増幅開始時間を測定した。続いて、強陽性サンプル及び弱陽性サンプルの結果をもとに作成した検量線から、バックグラウンドサンプルの増幅開始時間に相当する核酸濃度を算出した。
【0109】
ラムダエキソヌクレアーゼ未添加の場合の蛍光強度の経時変化を図2に示し、0.015U/μL(15U/mL)のラムダエキソヌクレアーゼを添加した場合の蛍光強度の経時変化を図3に示す。図2と比較して図3では、バックグラウンド発生開始時間が強陽性サンプル及び弱陽性サンプルと比較して相対的に遅れている。この結果より、ラムダエキソヌクレアーゼを添加すると、バックグラウンド発生が抑制されることがわかる。
【0110】
また、ラムダエキソヌクレアーゼ濃度とバックグラウンド発生の核酸相当濃度との関係を表1に示し、そのプロットを図4に示す。この結果から、酵素未添加の条件と比較して、ラムダエキソヌクレアーゼ濃度が2.5U/mL~100U/mLの範囲においてバックグラウンド発生が抑制されることが示された。
【0111】
【表5】
【0112】
以上の結果より、2種の鋳型DNAを用いるEXPAR法において、ラムダエキソヌクレアーゼを用いると、ラムダエキソヌクレアーゼを添加しない場合と比べて、バックグラウンド増幅が抑制されることがわかった。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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