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特開2024-134419標的物質の存在状態の判定方法、キット、及び標的物質の存在状態の判定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134419
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】標的物質の存在状態の判定方法、キット、及び標的物質の存在状態の判定装置
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6844 20180101AFI20240926BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20240926BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20240926BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
C12Q1/6844 Z
G01N33/53 M ZNA
C12N15/11 Z
C12M1/34 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044717
(22)【出願日】2023-03-20
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】藤井 亮太
(72)【発明者】
【氏名】西山 泰貴
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029AA23
4B029BB20
4B029CC01
4B029FA15
4B029GA03
4B029GA08
4B029GB06
4B029GB10
4B063QA18
4B063QQ28
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QQ62
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR42
4B063QR62
4B063QR66
4B063QS25
4B063QS34
4B063QS36
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】良好な感度を有し汎用性の高い標的物質の存在状態の判定方法及び判定装置、並びに前記判定方法に用いるキットを提供する。
【解決手段】(A)試料を準備することと、(B)前記試料に、前記標的物質に結合可能な第一の標的結合分子と、前記第一の標的結合分子に結合しているか又は結合可能な、第一のシグナル配列を含む第一のシグナルDNAと、を添加することと、(C)前記試料に、DNAポリメラーゼと、ニッキング用エンドヌクレアーゼと、第一の鋳型DNAと、を添加することと、(D)前記(A)~(C)の後に、45℃以下の温度範囲で核酸増幅反応を行うことと、(E)前記(D)の後、増幅産物を検出することと、を含む、試料中の標的物質の存在状態の判定方法、並びに当該判定方法に用いるためのキット及び判定装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の標的物質の存在状態の判定方法であって、
(A)試料を準備することと、
(B)前記試料に、前記標的物質に結合可能な第一の標的結合分子と、前記第一の標的結合分子に結合しているか又は結合可能な、第一のシグナル配列を含む第一のシグナルDNAと、を添加することと、
(C)前記試料に、DNAポリメラーゼと、ニッキング用エンドヌクレアーゼと、第一の鋳型DNAと、を添加することと、
(D)前記(A)~(C)の後に、45℃以下の温度範囲で核酸増幅反応を行うことと、
(E)前記(D)の後、増幅産物を検出することと、
を含み、
前記第一の鋳型DNAは、増幅対象に相補的な配列と、前記ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、前記第一のシグナル配列と相補的な配列と、を含み、
前記試料中に標的物質が存在する場合には、前記(A)~(D)において、前記第一のシグナルDNAの結合した前記第一の標的結合分子が前記標的物質に結合し、前記第一のシグナルDNAが前記第一の鋳型DNAにハイブリダイズし、核酸増幅が開始される、判定方法。
【請求項2】
前記第一の鋳型DNAが、5’末端から順に、前記増幅対象に相補的な配列と、前記ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、前記第一のシグナル配列と相補的な配列と、を含む、請求項1に記載の判定方法。
【請求項3】
前記(A)において、前記試料中に前記標的物質が存在する場合、前記標的物質は基材に固定化されるか、又は固定化されない、請求項1に記載の判定方法。
【請求項4】
前記第一の鋳型DNAは、前記標的物質に結合可能な第二の標的結合分子に結合しているか又は結合可能である、請求項1に記載の判定方法。
【請求項5】
(i)前記第一の鋳型DNAは、前記第一のシグナル配列と相補的な配列と、前記ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、前記第一のシグナル配列と相補的な配列と、を含み、検出可能となる前記増幅産物は、前記第一のシグナル配列を含む増幅産物であるか、又は
(ii)前記(C)は、第二の鋳型DNAを添加することをさらに含み、
前記第一の鋳型DNAは、前記第一のシグナル配列とは異なる第二のシグナル配列と相補的な配列と、前記ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、前記第一のシグナル配列と相補的な配列と、を含み、
前記第二の鋳型DNAは、前記第二のシグナル配列と相補的な配列と、前記ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、前記第二のシグナル配列と相補的な配列と、を含み、
検出可能となる前記増幅産物は、前記第二のシグナル配列を含む増幅産物である、
請求項1に記載の判定方法。
【請求項6】
前記第二の鋳型DNAが、5’末端から順に、前記第二のシグナル配列と相補的な配列と、前記ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、前記第二のシグナル配列と相補的な配列と、を含む、請求項5に記載の判定方法。
【請求項7】
前記(A)において、前記試料は基材上に準備され、前記(A)及び(B)の後に前記(C)が行われ、前記(A)及び(B)の後、前記(C)の前に、前記基材を洗浄することをさらに含む、請求項1に記載の判定方法。
【請求項8】
前記標的物質が、タンパク質、核酸、糖、低分子化合物、微生物、ウイルス、及び細胞からなる群より選択される、請求項1に記載の判定方法。
【請求項9】
前記第一の標的結合分子が、抗体、アプタマー、ビオチン、ストレプトアビジン、チオール、N-ヒドロキシスクシンイミド、アルキン、及びアジド化合物からなる群より選択される、請求項1に記載の判定方法。
【請求項10】
前記第二の標的結合分子が、抗体、アプタマー、ビオチン、ストレプトアビジン、チオール、N-ヒドロキシスクシンイミド、アルキン、及びアジド化合物からなる群より選択される、請求項4に記載の判定方法。
【請求項11】
複数種類の第一の標的結合分子と、対応する複数種類の第一のシグナルDNA及び第一の鋳型DNAと、を用いることによって、複数種類の標的物質の存在状態を判定する、請求項1に記載の判定方法。
【請求項12】
前記(A)において、前記試料は基材上に準備され、前記基材の材料は、ポリスチレン、ポリプロピレン、金コロイド、及び磁性粒子からなる群より選択される、請求項1に記載の判定方法。
【請求項13】
前記DNAポリメラーゼが鎖置換活性を有する、請求項1に記載の判定方法。
【請求項14】
前記核酸増幅反応は、等温増幅反応である、請求項1に記載の判定方法。
【請求項15】
前記等温増幅反応が10℃~40℃で行われる、請求項14に記載の判定方法。
【請求項16】
さらにラムダエキソヌクレアーゼを添加することを含む、請求項1に記載の判定方法。
【請求項17】
標的物質に結合可能な第一の標的結合分子を前記標的物質に結合させて、試料中の標的物質の存在状態を判定するためのキットであって、
容器に格納された、前記第一の標的結合分子に結合しているか又は結合可能な、第一のシグナル配列を含む第一のシグナルDNAと、
容器に格納されたDNAポリメラーゼと、
容器に格納されたニッキング用エンドヌクレアーゼと、
容器に格納された第一の鋳型DNAと、
を備え、
前記第一の鋳型DNAは、増幅対象に相補的な配列と、前記ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、前記第一のシグナル配列と相補的な配列と、を含む、キット。
【請求項18】
前記第一のシグナルDNAは前記第一の標的結合分子に結合している、請求項17に記載のキット。
【請求項19】
前記第一のシグナルDNAを格納する容器は、前記第一の標的結合分子を含まない、請求項17に記載のキット。
【請求項20】
前記第一の鋳型DNAは、前記標的物質に結合可能な第二の標的結合分子に結合しているか又は結合可能である、請求項17に記載のキット。
【請求項21】
(i)前記第一の鋳型DNAは、前記第一のシグナル配列と相補的な配列と、前記ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、前記第一のシグナル配列と相補的な配列と、を含むか、又は
(ii)前記キットは、容器に格納された第二の鋳型DNAをさらに含み、前記第一の鋳型DNAは、前記第一のシグナル配列とは異なる第二のシグナル配列と相補的な配列と、前記ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、前記第一のシグナル配列と相補的な配列と、を含み、前記第二の鋳型DNAは、前記第二のシグナル配列と相補的な配列と、前記ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、前記第二のシグナル配列と相補的な配列と、を含む、
請求項17に記載のキット。
【請求項22】
前記DNAポリメラーゼが鎖置換活性を有する、請求項17に記載のキット。
【請求項23】
請求項1~16のいずれか1項に記載の判定方法における増幅産物の検出結果を取得する受付部と、
前記受付部で取得された検出結果を出力データに変換する処理部と、
前記出力データを出力する出力部と、
を備える、標的物質の存在状態の判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、標的物質の存在状態の判定方法、キット、及び標的物質の存在状態の判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
試料中の標的物質の検出方法として各種技術が知られている。例えば、核酸の高感度な検出方法としては、PCR(Polymerase Chain Reaction)等の核酸増幅を用いる方法が一般的に知られている。また、温度サイクルを必要とするPCRに代わり、SDA法(Strand Displacement Amplification;鎖置換型増幅法)、NEAR法(Nicking Enzyme Amplification Reaction)、LAMP法(Loop-Mediated Isothermal Amplification)、ICAN法(Isothermal and Chimeric primer-initiated Amplification of Nucleic acids)等の等温増幅反応を用いる方法も知られている。検出対象が核酸に限られず汎用性の高い方法としては、標的物質に抗体又は抗原を結合させ、酵素反応を利用して標的物質の存在を検出するELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)が挙げられる。
【0003】
ELISAの感度向上等を目的とした各種応用技術も開発が進められている。例えば、非特許文献1では、DNAを連結させた抗体で標的物質を捕捉し、リアルタイムPCRにより当該DNAを増幅させることで高感度に標的物質を検出するImmuno-PCRと呼ばれる方法が記載されている。また、非特許文献2では、イムノアッセイにEXPAR(Exponential Amplification Reaction)法と呼ばれる手法を組み合わせたIMEXPAR法によりMUC1(tumor protein Mucin 1)を高感度に検出したことが記載されている。また、通常のELISA法では洗浄により余剰の抗体を除去する操作が必要だが、非特許文献3では、あるDNAを連結させた抗体と、それと相補的なDNAを連結させた抗体とを用い、それらが同一の標的物質に結合してハイブリダイズすると増幅が起こるように設計することで、抗体の洗浄操作を経ることなく抗体を検出する方法(近接アッセイ又は近接伸長アッセイと呼ばれる)も報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Science, Volume 258, No.5079,2 October, 1992, Pages 120-122
【非特許文献2】Talanta, Volume 204, 1 November 2019, Pages 248-254
【非特許文献3】Nucleic Acids Res., Volume 39, No.15, 6 June 2011, e102
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、一般的に用いられる標的物質の検出方法は、感度が十分でなかったり、PCRのような精密な温度制御や高温反応が要求されたりする場合が多く、汎用性の面で十分ではないことが多かった。かかる状況に鑑み、本開示は良好な感度を有し汎用性の高い標的物質の存在状態の判定方法、並びに前記判定方法に用いるキット及び判定装置の提供に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段は、以下の態様を含む。
<1> 試料中の標的物質の存在状態の判定方法であって、
(A)試料を準備することと、
(B)前記試料に、前記標的物質に結合可能な第一の標的結合分子と、前記第一の標的結合分子に結合しているか又は結合可能な、第一のシグナル配列を含む第一のシグナルDNAと、を添加することと、
(C)前記試料に、DNAポリメラーゼと、ニッキング用エンドヌクレアーゼと、第一の鋳型DNAと、を添加することと、
(D)前記(A)~(C)の後に、45℃以下の温度範囲で核酸増幅反応を行うことと、
(E)前記(D)の後、増幅産物を検出することと、
を含み、
前記第一の鋳型DNAは、増幅対象に相補的な配列と、前記ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、前記第一のシグナル配列と相補的な配列と、を含み、
前記試料中に標的物質が存在する場合には、前記(A)~(D)において、前記第一のシグナルDNAの結合した前記第一の標的結合分子が前記標的物質に結合し、前記第一のシグナルDNAが前記第一の鋳型DNAにハイブリダイズし、核酸増幅が開始される、判定方法。
<2> 前記第一の鋳型DNAが、5’末端から順に、前記増幅対象に相補的な配列と、前記ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、前記第一のシグナル配列と相補的な配列と、を含む、<1>に記載の判定方法。
<3> 前記(A)において、前記試料中に前記標的物質が存在する場合、前記標的物質は基材に固定化されるか、又は固定化されない、<1>又は<2>に記載の判定方法。
<4> 前記第一の鋳型DNAは、前記標的物質に結合可能な第二の標的結合分子に結合しているか又は結合可能である、<1>~<3>のいずれか1項に記載の判定方法。
<5>(i)前記第一の鋳型DNAは、前記第一のシグナル配列と相補的な配列と、前記ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、前記第一のシグナル配列と相補的な配列と、を含み、検出可能となる前記増幅産物は、前記第一のシグナル配列を含む増幅産物であるか、又は
(ii)前記(C)は、第二の鋳型DNAを添加することをさらに含み、
前記第一の鋳型DNAは、前記第一のシグナル配列とは異なる第二のシグナル配列と相補的な配列と、前記ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、前記第一のシグナル配列と相補的な配列と、を含み、
前記第二の鋳型DNAは、前記第二のシグナル配列と相補的な配列と、前記ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、前記第二のシグナル配列と相補的な配列と、を含み、
検出可能となる前記増幅産物は、前記第二のシグナル配列を含む増幅産物である、
<1>~<3>のいずれか1項に記載の判定方法。
<6> 前記第二の鋳型DNAが、5’末端から順に、前記第二のシグナル配列と相補的な配列と、前記ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、前記第二のシグナル配列と相補的な配列と、を含む、<5>に記載の判定方法。
<7> 前記(A)において、前記試料は基材上に準備され、前記(A)及び(B)の後に前記(C)が行われ、前記(A)及び(B)の後、前記(C)の前に、前記基材を洗浄することをさらに含む、<1>~<6>のいずれか1項に記載の判定方法。
<8> 前記標的物質が、タンパク質、核酸、糖、低分子化合物、微生物、ウイルス、及び細胞からなる群より選択される、<1>~<7>のいずれか1項に記載の判定方法。
<9> 前記第一の標的結合分子が、抗体、アプタマー、ビオチン、ストレプトアビジン、チオール、N-ヒドロキシスクシンイミド、アルキン、及びアジド化合物からなる群より選択される、<1>~<8>のいずれか1項に記載の判定方法。
<10> 前記第二の標的結合分子が、抗体、アプタマー、ビオチン、ストレプトアビジン、チオール、N-ヒドロキシスクシンイミド、アルキン、及びアジド化合物からなる群より選択される、<4>に記載の判定方法。
<11> 複数種類の第一の標的結合分子と、対応する複数種類の第一のシグナルDNA及び第一の鋳型DNAと、を用いることによって、複数種類の標的物質の存在状態を判定する、<1>~<10>のいずれか1項に記載の判定方法。
<12> 前記(A)において、前記試料は基材上に準備され、前記基材の材料は、ポリスチレン、ポリプロピレン、金コロイド、及び磁性粒子からなる群より選択される、<1>~<11>のいずれか1項に記載の判定方法。
<13> 前記DNAポリメラーゼが鎖置換活性を有する、<1>~<12>のいずれか1項に記載の判定方法。
<14> 前記核酸増幅反応は、等温増幅反応である、<1>~<13>のいずれか1項に記載の判定方法。
<15> 前記等温増幅反応が10℃~40℃で行われる、<14>に記載の判定方法。
<16> さらにラムダエキソヌクレアーゼを添加することを含む、<1>~<15>のいずれか1項に記載の判定方法。
<17> 標的物質に結合可能な第一の標的結合分子を前記標的物質に結合させて、試料中の標的物質の存在状態を判定するためのキットであって、
容器に格納された、前記第一の標的結合分子に結合しているか又は結合可能な、第一のシグナル配列を含む第一のシグナルDNAと、
容器に格納されたDNAポリメラーゼと、
容器に格納されたニッキング用エンドヌクレアーゼと、
容器に格納された第一の鋳型DNAと、
を備え、
前記第一の鋳型DNAは、増幅対象に相補的な配列と、前記ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、前記第一のシグナル配列と相補的な配列と、を含む、キット。
<18> 前記第一のシグナルDNAは前記第一の標的結合分子に結合している、<17>に記載のキット。
<19> 前記第一のシグナルDNAを格納する容器は、前記第一の標的結合分子を含まない、<17>又は<18>に記載のキット。
<20> 前記第一の鋳型DNAは、前記標的物質に結合可能な第二の標的結合分子に結合しているか又は結合可能である、<17>~<19>のいずれか1項に記載のキット。
<21>(i)前記第一の鋳型DNAは、前記第一のシグナル配列と相補的な配列と、前記ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、前記第一のシグナル配列と相補的な配列と、を含むか、又は
(ii)前記キットは、容器に格納された第二の鋳型DNAをさらに含み、前記第一の鋳型DNAは、前記第一のシグナル配列とは異なる第二のシグナル配列と相補的な配列と、前記ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、前記第一のシグナル配列と相補的な配列と、を含み、前記第二の鋳型DNAは、前記第二のシグナル配列と相補的な配列と、前記ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、前記第二のシグナル配列と相補的な配列と、を含む、
<17>~<20>のいずれか1項に記載のキット。
<22> 前記DNAポリメラーゼが鎖置換活性を有する、<17>~<21>のいずれか1項に記載のキット。
<23> <1>~<16>のいずれか1項に記載の判定方法における増幅産物の検出結果を取得する受付部と、前記受付部で取得された検出結果を出力データに変換する処理部と、前記出力データを出力する出力部と、を備える、標的物質の存在状態の判定装置。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、良好な感度を有し汎用性の高い標的物質の存在状態の判定方法、並びに前記判定方法に用いるキット及び判定装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の判定方法の一実施形態の模式図を表す。
図2】本開示の判定方法の一実施形態の模式図を表す。
図3】本開示の判定方法の一実施形態の模式図を表す。
図4】本開示の判定方法の一実施形態の模式図を表す。
図5】一実施形態における判定装置の機能構成を表す模式図を表す。
図6】一実施形態における判定装置として機能するコンピュータの概略ブロック図である。
図7】実施例1における試験区1~3における抗体希釈率と増幅開始時間をプロットしたグラフである。
図8】実施例2におけるサンプルの増幅曲線を表す。
図9】実施例3におけるサンプルの増幅曲線を表す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施形態を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本開示の実施形態は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本開示の実施形態を制限するものではない。
【0010】
本開示において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、複数の要素が、「又は」又は「若しくは」を用いて列挙されている場合、特に明示されている場合を除き、技術的な矛盾が生じない限りは複数の要素を組み合わせて選択することを排除しない。
本開示において要素が単数形で表記されている場合であっても、特に明示されている場合を除き、技術的な矛盾が生じない限りは複数の存在を排除しない。
本開示において、別個に記載されている複数の例示的態様は、互いに矛盾しない限り、互いに組み合わせて新たな態様を構成してもよい。
本開示において実施形態を図面を参照して説明する場合、当該実施形態の構成は図面に示された構成に限定されない。また、各図における部材の大きさは概念的なものであり、部材間の大きさの相対的な関係はこれに限定されない。
本開示において、「核酸」は、あらゆる核酸(例えば、DNA、RNA、これらの類似体、天然物、人工物)と、あらゆる核酸に低分子化合物、基、核酸以外の分子、構造物などが連結している核酸とを含む用語である。
本開示において、核酸の文脈における「相補的」な塩基対は、核酸分子のヌクレオチド又はヌクレオチドアナログの間の、ワトソン-クリック(AT対、AU対、又はCG対)又はフーグスティーン型塩基対を意味する。一方、配列が「相補的」であるという場合、当該配列が相補的な塩基対を有することを意味し、完全に相補的である(すなわち、ミスマッチを含まない)場合に加え、本開示の趣旨を逸脱しない範囲のミスマッチ(例えば1塩基、2塩基以下、又は3塩基以下のミスマッチ)を含む場合をも包含する。「相補的」な配列は完全に相補的であることが好ましい。
【0011】
<試料中の標的物質の存在状態の判定方法>
本開示の判定方法は、試料中の標的物質の存在状態の判定方法であって、
(A)試料を準備することと、
(B)前記試料に、前記標的物質に結合可能な第一の標的結合分子と、前記第一の標的結合分子に結合しているか又は結合可能な、第一のシグナル配列を含む第一のシグナルDNAと、を添加することと、
(C)前記試料に、DNAポリメラーゼと、ニッキング用エンドヌクレアーゼと、第一の鋳型DNAと、を添加することと、
(D)前記(A)~(C)の後に、45℃以下の温度範囲で核酸増幅反応を行うことと、
(E)前記(D)の後、増幅産物を検出することと、
を含み、
前記第一の鋳型DNAは、増幅対象に相補的な配列と、前記ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、前記第一のシグナル配列と相補的な配列と、を含み、
前記試料中に標的物質が存在する場合には、前記(A)~(D)において、前記第一のシグナルDNAの結合した前記第一の標的結合分子が前記標的物質に結合し、前記第一のシグナルDNAが前記第一の鋳型DNAにハイブリダイズし、核酸増幅が開始される。
以下、前記(A)~(E)をそれぞれ「工程(A)」~「工程(E)」とも記す。
【0012】
本開示の判定方法によれば、良好な感度を有し汎用性の高い標的物質の存在状態の判定が可能である。本開示の判定方法は、標的物質に結合可能な任意の第一の標的結合分子を用いることにより、タンパク質、核酸、糖、低分子化合物、微生物、ウイルス、細胞等、幅広い種類の分子の検出に適用することが可能である。また、45℃以下の温度範囲で核酸増幅反応を行うため、用いる部材の汎用性が高く、かつ、核酸増幅反応を行うため良好な感度が得られる。
【0013】
なお、本開示の判定方法は増幅産物を検出することにより標的物質の存在状態を判定するものであるため、上記「核酸増幅反応を行う」との表現は、標的物質が存在する場合に核酸が増幅可能な条件となるように調整することを意味し、必ずしも核酸が増幅されることを意味するものではない。また、「増幅産物を検出する」との表現は、増幅産物が存在する場合に検出可能となる操作を行うことを意味し、必ずしも増幅産物が検出されることを意味するものではない。
【0014】
本開示において、「存在状態」とは、単に存在の有無を指してもよく、存在量(存在量0、つまり存在しない場合も含む)を指していてもよい。したがって、「存在状態を判定すること」とは、存在するかしないかというバイナリーな判定を行うことであってもよく、存在するかしないかに加えて存在する場合の存在量の判定までも行うものであってもよい。ここで、「存在量」は、絶対的な存在量には限定されず、ネガティブコントロール又はポジティブコントロール等の比較対象に対する相対存在量であってもよい。
【0015】
〔実施形態例〕
工程(A)において、試料は基材上に準備されてもよい。試料中に標的物質が存在する場合、標的物質は基材に固定化されてもよく、固定化されなくてもよい。標的物質が基材に固定化される場合、基材を洗浄することにより、未固定の物質を除去することができ、感度及び/又は特異性が向上する傾向にある。標的物質が基材に固定化されない場合、基材の洗浄を省略することで作業が簡便になる傾向にある。
【0016】
一態様において、第一の鋳型DNAは、標的物質に結合可能な第二の標的結合分子に結合しているか又は結合可能である。本態様では、第一の標的結合分子に第一のシグナルDNAが結合し、第二の標的結合分子に第一の鋳型DNAが結合し、第一の標的結合分子及び第二の標的結合分子がいずれも標的物質に結合するとはじめて核酸増幅反応が進行する。すなわち、第一の標的結合分子及び第二の標的結合分子がいずれも標的物質に結合すると、第一のシグナルDNAと第一の鋳型DNAの距離が近づくことにより、両者がハイブリダイズする。DNAポリメラーゼとニッキング用エンドヌクレアーゼを添加することによって、核酸増幅反応が進行する。本態様によれば、標的物質に対する特異性を高め、バックグラウンドを低減できる傾向にある。以下、本態様を「近接アッセイ」とも記す。対照的に、標的物質に第一の標的結合分子のみを結合させる態様を「単独アッセイ」とも記す。
【0017】
核酸増幅反応は、一段階で行われても、二段階以上で行われてもよい。核酸増幅反応が一段階であると、より良好な感度が得られる傾向にある。核酸増幅反応が二段階以上であると、標的物質を検出する特異性が向上する傾向にある。核酸増幅反応は一段階又は二段階であることが好ましい。
【0018】
核酸増幅反応が一段階で行われる場合の例は以下の(i)が挙げられる。
(i)第一の鋳型DNAは、5’末端から順に、第一のシグナル配列と相補的な配列と、ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、第一のシグナル配列と相補的な配列と、を含み、検出可能となる増幅産物は、第一のシグナル配列を含む増幅産物である。以下、(i)の態様を「一段階増幅」とも記す。
一段階増幅における核酸増幅反応は、第一の鋳型DNAを鋳型とし、第一のシグナルDNAをプライマーとする一段階の核酸増幅反応であり、以下の機構で進行する。第一の鋳型DNAにハイブリダイズした第一のシグナルDNAの3’末端を起点として、DNAポリメラーゼにより核酸鎖の伸長が進行する。さらに、ニッキング用エンドヌクレアーゼによって、伸長した片側鎖が切断される。その結果、ニッキングされた片側鎖において新たな3’端が生じるため、その箇所を起点としてDNAポリメラーゼによる新たな鎖伸長が開始する。一方、DNAポリメラーゼの鎖置換反応等によって、第一のシグナル配列を含む片側鎖が二本鎖から解離する。これらの、伸長された核酸鎖のニッキング用エンドヌクレアーゼによる切断、及び切断部位からのDNAポリメラーゼによる核酸鎖の伸長を繰り返して、第一のシグナル配列を含む第一のシグナルDNAが増幅される。
【0019】
核酸増幅反応が二段階で行われる場合の例は以下の(ii)が挙げられる。
(ii)工程(C)は、第二の鋳型DNAを添加することをさらに含み、
第一の鋳型DNAは、5’末端から順に、第一のシグナル配列とは異なる第二のシグナル配列と相補的な配列と、ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、第一のシグナル配列と相補的な配列と、を含み、
第二の鋳型DNAは、5’末端から順に、第二のシグナル配列と相補的な配列と、ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、第二のシグナル配列と相補的な配列と、を含み、検出可能となる増幅産物は、第二のシグナル配列を含む増幅産物である。以下、(ii)の態様を「二段階増幅」とも記す。
二段階増幅における核酸増幅反応は、第一の鋳型DNAを鋳型とし、第一のシグナルDNAをプライマーとする一段階目の核酸増幅反応と、第二の鋳型DNAを鋳型とし、前記一段階目の核酸増幅反応により得られた第二のシグナルDNAをプライマーとする二段階目の核酸増幅反応と、を含み、以下の機構で進行する。
第一の鋳型DNAにハイブリダイズした第一のシグナルDNAの3’末端を起点として、DNAポリメラーゼにより核酸鎖の伸長が進行する。さらに、ニッキング用エンドヌクレアーゼによって、伸長した片側鎖が切断される。その結果、ニッキングされた片側鎖において新たな3’端が生じるため、その箇所を起点としてDNAポリメラーゼによる新たな鎖伸長が開始する。一方、DNAポリメラーゼの鎖置換反応等によって、第二のシグナル配列を含む片側鎖が二本鎖から解離する。これらの、伸長された核酸鎖のニッキング用エンドヌクレアーゼによる切断、及び切断部位からのDNAポリメラーゼによる核酸鎖の伸長を繰り返して、第二のシグナル配列を含む第二のシグナルDNAが増幅される。
次に、増幅された第二のシグナルDNAが第二の鋳型DNAとハイブリダイズする。ハイブリダイズした第二のシグナルDNAの3’末端を起点として、DNAポリメラーゼにより核酸鎖の伸長が進行する。さらに、ニッキング用エンドヌクレアーゼによって、伸長した片側鎖が切断される。その結果、ニッキングされた片側鎖において新たな3’端が生じるため、その箇所を起点としてDNAポリメラーゼによる新たな鎖伸長が開始する。一方、DNAポリメラーゼの鎖置換反応等によって、第二のシグナル配列を含む片側鎖が二本鎖から解離する。これらの、伸長された核酸鎖のニッキング用エンドヌクレアーゼによる切断、及び切断部位からのDNAポリメラーゼによる核酸鎖の伸長を繰り返して、第二のシグナル配列を含む第二のシグナルDNAがさらに増幅される。
【0020】
本開示の判定方法の好ましい態様を以下に挙げる。下表において、標的物質が基材に固定化される場合を「固定」、固定化されない場合を「非固定」と記す。「単独アッセイ」、「近接アッセイ」、「一段階増幅」、及び「二段階増幅」の意味は上述の通りである。
【0021】

【表1】
【0022】
以下、図面を参照して各実施形態例を説明する。ただし、本開示の実施形態は以下の例に限定されない。また、図面は模式図であり、実際の大きさや形状は図面に示される態様に限定されない。以下、上表の実施形態をそれぞれ「実施形態1」~「実施形態6」とも記す。
【0023】
実施形態1の模式図を図1に示す。試料中に標的物質1が含まれる場合、工程(A)において基材10上に試料を添加すると、標的物質1が基材10に固定化される。固定化の後、基材10を洗浄して未固定の物質を除去することが望ましい。工程(B)において、標的物質1に、第一のシグナルDNA3aが結合した第一の標的結合分子2aが結合する。その後に、基材10を洗浄して未固定の物質を除去することが望ましい。工程(C)において、基材10上に、DNAポリメラーゼと、ニッキング用エンドヌクレアーゼと、第一の鋳型DNA4aと、を添加すると、第一のシグナルDNA3aが第一の鋳型DNA4aにハイブリダイズし、核酸増幅が開始する。第一の鋳型DNA4aは、第一のシグナル配列と相補的な配列と、ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、第一のシグナル配列と相補的な配列と、を含む。上述した一段階増幅の機構により、第一のシグナルDNA3a’が増幅されるため、当該第一のシグナルDNA3a’を検出することにより、標的物質が検出できる。
【0024】
実施形態1において、標的物質1は基材に結合した物質を介して間接的に固定されてもよい。例えば、図2に示すように、標的物質1は、基材に結合した物質9を介して基材10に固定されてもよい。以下、標的物質を固定する他の実施形態においても同様である。
【0025】
実施形態2は、実施形態1における一段階増幅を二段階増幅に変更した実施形態である。実施形態2の模式図を図3に示す。
試料中に標的物質1が含まれる場合、工程(A)において基材10上に試料を添加すると、標的物質1が基材10に固定化される。固定化の後、基材10を洗浄して未固定の物質を除去することが望ましい。工程(B)において、標的物質1に、第一のシグナルDNA3aが結合した第一の標的結合分子2aが結合する。その後に、基材10を洗浄して未固定の物質を除去することが望ましい。工程(C)において、基材10上に、DNAポリメラーゼと、ニッキング用エンドヌクレアーゼと、第一の鋳型DNA4a’と、を添加すると、第一のシグナルDNA3aが第一の鋳型DNA4a’にハイブリダイズし、核酸増幅が開始する。
本実施形態では、第一の鋳型DNA4a’は、第一のシグナル配列とは異なる第二のシグナル配列と相補的な配列と、ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、第一のシグナル配列と相補的な配列と、を含む。また、第一の鋳型DNA4a’に加えて、第二の鋳型DNA4bを添加する。第二の鋳型DNA4bは、第二のシグナル配列と相補的な配列と、ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、第二のシグナル配列と相補的な配列と、を含む。上述した二段階増幅の機構により、第二のシグナルDNA3b及び3b’が増幅されるため、当該第一のシグナルDNA3b及び3b’を検出することにより、標的物質が検出できる。
【0026】
実施形態3は、実施形態1における単独アッセイを近接アッセイに変更した実施形態である。実施形態3の模式図を図4に示す。
試料中に標的物質1が含まれる場合、工程(A)において基材10上に試料を添加すると、標的物質1が基材10に固定化される。固定化の後、基材10を洗浄して未固定の物質を除去してもよく、洗浄しなくてもよい。工程(B)において、標的物質1に、第一のシグナルDNA3aが結合した第一の標的結合分子2aが結合する。その後に、基材10を洗浄して未固定の物質を除去してもよく、洗浄しなくてもよい。工程(C)において、基材10上に、DNAポリメラーゼと、ニッキング用エンドヌクレアーゼと、第一の鋳型DNA4aと、を添加する。本実施形態では、第一の鋳型DNA4aは、第二の標的結合分子2bに結合しているか結合可能であり、標的物質1に、第一の鋳型DNA4aが結合した第二の標的結合分子2bを結合させる。このようにして、標的物質1に、第一のシグナルDNA3aが結合した第一の標的結合分子2aと、第一の鋳型DNA4aが結合した第二の標的結合分子2bと、が結合する。これにより、第一のシグナルDNA3aと第一の鋳型DNA4aとがハイブリダイズし、核酸増幅が開始する。上述した一段階増幅の機構により、第一のシグナルDNA3a’が増幅されるため、当該第一のシグナルDNA3a’を検出することにより、標的物質が検出できる。
【0027】
実施形態4は、実施形態3における一段階増幅を二段階増幅とした実施形態である。二段階増幅の様式は上述した通りである。その他の詳細は実施形態3の詳細と同じである。
【0028】
実施形態5は、実施形態3における標的物質の基材への固定化を行わない実施形態である。本実施形態では、工程(A)の後及び工程(B)の後の基材の洗浄は行わない。その他の詳細は実施形態3の詳細と同じである。
【0029】
実施形態6は、実施形態5における一段階増幅を二段階増幅とした実施形態である。二段階増幅の様式は上述した通りである。その他の詳細は実施形態5の詳細と同じである。
【0030】
〔材料〕
以下、本開示の判定方法に関連する物質について詳述する。
【0031】
(試料)
試料は標的物質が存在し得る試料であれば特に制限されず、生物由来試料、ウイルス由来試料、環境由来試料、食品、医薬品(生物学的製剤等)等が挙げられる。また、試料は天然試料であっても、人工試料であってもよい。
生物由来試料としては、動物(哺乳類(例えばヒト及び非ヒト哺乳類動物)、鳥類、両生類、爬虫類、魚類、脊索動物、節足動物等)、植物(イネ、コムギ、タバコ等)、真菌(カビ、酵母等)、細菌等の生物に由来する試料が挙げられる。生物由来試料としては、具体的には、血液、尿、糞便、脳脊髄液、精液、唾液、組織等の生物由来試料;生物体(菌体等);細胞培養物等が挙げられる。
環境由来試料としては、土壌、水(生活排水、河川水、海水、地下水、水道水等)、空気等に由来する試料が挙げられる。
【0032】
(標的物質)
標的物質は特に制限されず、タンパク質、核酸、糖、低分子化合物、微生物、ウイルス、細胞等が挙げられる。
タンパク質としては、ペプチド、抗原、抗体、酵素、サイトカイン、リポタンパク質、糖タンパク質、ホルモン等が挙げられる。
核酸としては、DNA、RNA、これらの類似体、天然物、人工物、並びに、これらに低分子化合物、基、核酸以外の分子、構造物等が連結している核酸が挙げられる。核酸としては、国際公開第2020/179823号に詳述される生物のsmall RNA(sRNA)、micro RNA(miRNA)、messenger RNA(mRNA)、ribosomal RNA(rRNA)、transfer RNA(tRNA),Circular RNA(circRNA)等も挙げられる。
糖としては、単糖、多糖、及びこれらの誘導体が挙げられる。
低分子化合物としては、分子量2000以下の天然化合物又は合成化合物が挙げられる。低分子化合物の分子量は1500以下であってもよく、1000以下であってもよい。
微生物としては、原核生物(細菌及び古細菌)及び真核生物(原生生物、真菌類、藻類等)、マイコプラズマ、リケッチア、ファイトプラズマ、病原性微生物が挙げられる。
ウイルスとしては、RNAウイルス、DNAウイルス、ファージ、病原性ウイルス等が挙げられる。
細胞としては動物細胞、植物細胞等が挙げられる。
【0033】
(基材)
本開示の判定方法に基材を用いる場合、基材は特に制限されず、一般的に用いられる基材を使用できる。基材としては、プレート、粒子(金コロイド、磁性粒子、ゲル粒子、等)、不織布、膜等を用いることができる。
基材の材料としては、樹脂、ガラス、金属(金、銀、鉄、ジルコニア等)、珪藻土、シリカ、活性炭、ペプチド、多糖類等が挙げられる。樹脂としては、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリジメチルシロキサン、ポリメタクリル酸メチル、ポリフッ化ビニリデン、ナイロン、ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール、ポリアクリロニトリル、ポリウレタン等が挙げられる。多糖類としてはセルロース、ニトロセルロース、セファロース、セファデックス、セファクリル、デキストラン、アガロース、アルギン酸、カラギーナン、ペクチン、こんにゃく粉、キトサン等が挙げられる。本開示の判定方法によれば、核酸増幅反応において高温での処理を必要としないことから、汎用的に用いられる基材を制限なく用いることができる。例えば、ポリスチレン、ポリプロピレン、金コロイド、及び磁性粒子が好ましい。
【0034】
標的物質が基材に固定化される場合、標的物質は基材に直接固定化されてもよく、基材に結合した物質を介して間接的に固定化されてもよい。標的物質が基材に直接固定化される場合、基材は標的物質を固定化可能な材質からなるものであってもよく、固定化可能な処理を施したものであってもよい。標的物質が基材に結合した物質を介して間接的に固定化される場合の、基材に結合した物質としては、標的物質を結合可能な抗体、タンパク質、アプタマー(ペプチドアプタマー、核酸アプタマー等)などが挙げられる。標的物質を基材に結合させる結合様式は特に制限されず、共有結合(エステル結合、アミド結合、S-S結合、クリックケミストリー等)、非共有結合(イオン結合、水素結合、疎水性相互作用、静電的相互作用等)などが挙げられる。例えば、ポリスチレン基材への疎水性相互作用による結合、ビオチンーストレプトアビジンを介した非共有結合等が挙げられる。
【0035】
(第一の標的結合分子及び第二の標的結合分子)
第一の標的結合分子及び第二の標的結合分子(以下、第一の標的結合分子及び第二の標的結合分子に共通する説明においては、これらを包括的に「標的結合分子」とも記す。)は、標的物質に結合可能なものであれば特に制限されない。標的結合分子としては、抗体、アプタマー、ビオチン、ストレプトアビジン、チオール、N-ヒドロキシスクシンイミド、アルキン、アジド化合物等が挙げられる。
【0036】
近接アッセイを行う場合、第一の標的結合分子と第二の標的結合分子は、標的物質の異なる位置に結合する。第一の標的結合分子及び第二の標的結合分子は、これらにそれぞれ結合する第一のシグナルDNA及び第一の鋳型DNAが互いに近接することによりハイブリダイズ可能となるように設計される。一態様において、第一の標的結合分子と第二の標的結合分子は、標的物質の異なるエピトープに結合する抗体であってもよい。さらなる一態様において、第一の標的結合分子と第二の標的結合分子は、ストレプトアビジン化された標的物質の異なる位置に結合するビオチンであってもよい。
第一の標的結合分子と第一のシグナルDNA、及び第二の標的結合分子と第一の鋳型DNAは、それぞれ、直接結合していても、他の物質(二次抗体、ビオチン-ストレプトアビジン複合体、リンカーとなる核酸又はペプチド、分岐ポリエチレングリコール、金コロイド、これらの組み合わせ等)を介して間接的に結合していてもよい。
近接アッセイ時の第一のシグナルDNAと第一の鋳型DNAの距離に特に制限は設けないが、標的、結合分子、リンカーの全長は1μm以下が好ましく、200nm以下がより好ましい。
【0037】
(第一のシグナルDNA及び第二のシグナルDNA)
本開示において、シグナルDNAとは、任意の核酸配列(本開示においてシグナル配列と称する)を有するDNAを指す。第一のシグナルDNAは第一のシグナル配列を含む任意のDNAであり、第二のシグナルDNAは第二のシグナル配列を含む任意のDNAである。第一のシグナル配列と第二のシグナル配列は異なる配列を有する。
なお、本開示では、一段階増幅の場合、工程(B)で添加される第一のシグナルDNA、及び工程(D)の核酸増幅反応により増幅される増幅産物をいずれも「第一のシグナルDNA」と表現しているが、両者の全体配列は、第一のシグナル配列が含まれる限り互いに同じであっても異なっていてもよい。すなわち、両者は、第一のシグナル配列を含む限り、その他の配列(例えば、ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列の一部、当該認識配列とシグナル配列との間の介在配列等)が異なるものであってもよい。同様に、二段階増幅の場合、一段階目の増幅産物と二段階目の増幅産物をいずれも「第二のシグナルDNA」と表現しているが、両者の全体配列は、第二のシグナル配列が含まれる限り互いに同じであっても異なっていてもよい。
以下、第一のシグナルDNA及び第二のシグナルDNAに共通する説明においては、これらを包括的に「シグナルDNA」と記すことがあり、第一のシグナル配列及び第二のシグナル配列に共通する説明においては、これらを包括的に「シグナル配列」と記すことがある。
【0038】
シグナル配列の塩基数は、好ましくは6~50塩基、より好ましくは7~30塩基、さらに好ましくは8~15塩基である。シグナル配列は好ましくはシグナルDNAの3’末端から6~50塩基、より好ましくは7~30塩基、さらに好ましくは8~15塩基の配列を指す。シグナル配列は任意に設計可能であり、反応条件に即した融解温度(melting temperature、Tm値)、高次構造の融解温度等を考慮して設計することが好ましい。
【0039】
シグナルDNAは、好ましくは6~60塩基、より好ましくは7~40塩基、さらに好ましくは8~25塩基からなる。
【0040】
第一のシグナルDNAは、第一の標的結合分子に結合した状態で試料に添加してもよく、混合その他の処理により第一の標的結合分子に結合可能である場合には、第一の標的結合分子と別個に添加してもよい。
【0041】
第一のシグナルDNAは、第一の標的結合分子に直接結合しているか結合可能であってもよく、他の物質を介して間接的に結合しているか結合可能であってもよい。前記他の物質としては、二次抗体、ビオチン-ストレプトアビジン複合体、リンカーとなる核酸又はペプチド、修飾核酸(アミノ基修飾、ビオチン修飾、アジド基修飾;リンカーとなる炭化水素鎖やポリエチレングリコール鎖を含んでもよい)、炭化水素鎖、分岐又は非分岐のポリエチレングリコール、金コロイド、これらの組み合わせ等が挙げられる。
第一のシグナルDNAと第一の標的結合分子を結合させる方法は特に制限されないが、共有結合(N-ヒドロキシスクシンイミドによる活性エステルとアミノ基との反応、S-S結合、クリックケミストリー等)、親和性の高い非共有結合(ビオチン-ストレプトアビジン結合、抗体による結合、Hisタグ、Mycタグ、GSTタグ等)などが挙げられる。
【0042】
(第一の鋳型DNA及び第二の鋳型DNA)
第一の鋳型DNA及び第二の鋳型DNAは核酸増幅反応の鋳型となるDNAである。
第一の鋳型DNAは、増幅対象に相補的な配列と、ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、第一のシグナル配列と相補的な配列と、を含む。好ましくは、第一の鋳型DNAは、5’末端から順に、増幅対象に相補的な配列と、ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、第一のシグナル配列と相補的な配列と、を含む。
【0043】
一態様において、本開示の判定方法を一段階増幅により行う場合は、核酸増幅反応における鋳型として第一の鋳型DNAのみを用い、第一のシグナルDNAをプライマーとした反応を生じさせる。
一段階増幅において、第一の鋳型DNAは、第一のシグナル配列と相補的な配列と、ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、第一のシグナル配列と相補的な配列と、を含み、好ましくは、5’末端から順に、第一のシグナル配列と相補的な配列と、ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、第一のシグナル配列と相補的な配列と、を含む。一段階増幅における第一の鋳型DNAは、ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列を挟んで第一のシグナル配列と相補的な配列を含むため、増幅産物は第一のシグナル配列を含む第一のシグナルDNAである。このように、同じシグナル配列を増幅させるための鋳型DNAを「Amplifier」とも記すことがある。
【0044】
一態様において、本開示の判定方法を二段階増幅により行う場合は、核酸増幅反応における鋳型として第一の鋳型DNA及び第二の鋳型DNAを用いる。第一の鋳型DNAは、第一のシグナルDNAをプライマーとして第二のシグナルDNAを増幅する反応を生じさせ、第二の鋳型DNAは、第二のシグナルDNAをプライマーとして第二のシグナルDNAを増幅する反応を生じさせる。
二段階増幅において、第一の鋳型DNAは、第一のシグナル配列とは異なる第二のシグナル配列と相補的な配列と、ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、第一のシグナル配列と相補的な配列と、を含み、好ましくは、5’末端から順に、第一のシグナル配列とは異なる第二のシグナル配列と相補的な配列と、ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、第一のシグナル配列と相補的な配列と、を含む。二段階増幅における第一の鋳型DNAは、ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列を挟んで第二のシグナル配列と相補的な配列及び第一のシグナル配列と相補的な配列を含むため、増幅産物は第二のシグナル配列を含む第二のシグナルDNAである。このように、異なるシグナル配列を増幅させるための鋳型DNAを「Converter」と記すことがある。
第二の鋳型DNAは、第二のシグナル配列と相補的な配列と、ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、第二のシグナル配列と相補的な配列と、を含み、好ましくは、5’末端から順に、第二のシグナル配列と相補的な配列と、ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、第二のシグナル配列と相補的な配列と、を含む。増幅産物は、第二のシグナル配列を含む第二のシグナルDNAである。第二の鋳型DNAは「Amplifier」に相当する。
【0045】
以下、第一の鋳型DNA及び第二の鋳型DNAに共通する説明においては、これらを包括的に「鋳型DNA」とも記すことがある。
【0046】
「シグナル配列と相補的な配列」は、シグナル配列の全長と相補的であることが好ましい。
シグナルDNAと鋳型の結合における融解温度は反応温度+5℃(反応温度37℃の場合42℃)を中心に±15℃であることが好ましく、±10℃であることがさらに好ましく、±5℃であることがさらに好ましい。
シグナル配列及びこれに相補的な配列の塩基数は、それぞれ、6~50であることが好ましく、7~30であることがより好ましく、8~15であることがさらに好ましい。
【0047】
ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列は、後述のニッキング用エンドヌクレアーゼの種類に応じて決定される。なお、本開示において、鋳型上の「ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列」とは、ニッキング用エンドヌクレアーゼが2本鎖DNAを切断対象として認識した場合における、ニッキングされる鎖とは反対の鎖における、ニッキング用エンドヌクレアーゼが認識する核酸領域の配列をいう。すなわち、ニッキング用エンドヌクレアーゼは、鋳型の相補鎖側を切断する。なお、ニッキング用エンドヌクレアーゼの切断部位は、前記2本鎖DNAの切断対象として認識した配列内に存在してもよく、当該認識した配列の近傍に存在してもよい。認識配列は、特異性に優れる観点からは、3塩基以上であることが好ましく、4塩基以上であることがより好ましく、5塩基以上であることがさらに好ましく、6塩基以上であることが特に好ましく、7塩基以上であることが極めて好ましい。入手容易性の観点からは、認識配列は、10塩基以下でもよく、9塩基以下でもよく、8塩基以下でもよく、7塩基以下でもよく、6塩基以下でもよい。
【0048】
ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列は、2種類の塩基からなってもよく、3種類の塩基からなってもよく、4種類の塩基からなってもよい。「認識配列が2種類の塩基からなる」とは、例えば、前記認識配列がGとCの2種類のみを塩基として有する場合が挙げられる。「認識配列が3種類の塩基からなる」とは、例えば、前記認識配列がGとCとAの3種類のみを塩基として有する場合が挙げられる。「認識配列が4種類の塩基からなる」とは、例えば、前記認識配列がGとCとAとTの4種類を塩基として有する場合である。
【0049】
本開示の判定方法を二段階増幅により行う場合、一段階目の増幅と二段階目の増幅とでは同一のニッキング用エンドヌクレアーゼを用いても異なるニッキング用エンドヌクレアーゼを用いてもよいため、第一の鋳型DNAにおけるニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と第二の鋳型DNAにおけるニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列とは同一でも異なってもよい。1種類のニッキング用エンドヌクレアーゼを用いて簡便に核酸増幅反応を行える観点からは、第一の鋳型DNAにおけるニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と第二の鋳型DNAにおけるニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列とは同一であることが好ましい。
【0050】
鋳型DNAは、各シグナル配列に相補的な配列と、ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、に加えて、核酸増幅反応の進行を大きく妨げない範囲で、各配列の間に任意の介在配列を有してもよい。介在配列の塩基数は、それぞれ0~2であってもよく、3~5であってもよく、6~20であってもよい。
【0051】
鋳型DNAにおいて、各シグナル配列に相補的な配列と、ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列とは、一部重複していてもよく、重複していなくてもよい。
【0052】
鋳型DNAの塩基数は特に制限されず、扱いやすさの観点からは、5~50であることが好ましく、5~30であることがより好ましく、10~30であることがさらに好ましい。
【0053】
核酸増幅反応において後述のラムダエキソヌクレアーゼを用いる場合には、鋳型DNAの5’末端はリン酸化されていないことが好ましい。これにより、第一の鋳型DNA及び第二の鋳型DNAの5’末端がラムダエキソヌクレアーゼから好適に保護される。
【0054】
鋳型DNAの3’末端側には、3’末端側より伸長反応が起こらないように、3’末端を修飾しておくことが好ましい。末端の修飾としては、TAMRA、DABCYL、FAM等が挙げられる。その他、ビオチン化、蛍光色素、リン酸化、チオール化、アミノ化等による修飾であってもよい。
【0055】
鋳型DNAは当業者に知られる任意の方法で作製することができる。例えば、ホスホアミダイト法、リン酸トリエステル法、H-ホスホネート法、チオホスホネート法等を用いて合成することができる。
【0056】
核酸増幅反応の系中の鋳型DNAの濃度は適宜調整可能である。
一態様において、Converterとして用いる鋳型DNAにおいては、鋳型DNAを十分量とする観点からは、前記濃度は0.01nM以上であることが好ましく、0.1nM以上であることがより好ましく、1nM以上であることがさらに好ましい。一態様において、前記濃度は100nM以下であってもよく、10nM以下であってもよく、5nM以下であってもよい。
一態様において、Amplifierとして用いる鋳型DNAにおいては、鋳型DNAを十分量とする観点からは、前記濃度は、0.1nM以上であることが好ましく、1nM以上であることがより好ましく、20nM以上であることがさらに好ましい。一態様において、前記濃度は100nM以下であってもよく、50nM以下であってもよく、20nM以下であってもよい。
好ましくは、鋳型DNA(特に、Amplifierとして用いる鋳型DNA)の全塩基数に対するGの個数割合は31%以下であり、Cの個数割合は43%以上である。このようにGの個数割合が比較的低く、Cの個数割合が比較的高いと、増幅反応における初期バックグラウンド増幅が低減できる傾向にあることが見出されている。本開示の実施形態は以下の理論により制限されないが、Gの個数割合が比較的低いと、鋳型DNAが、増幅反応の妨げとなる高次構造を形成しにくいものと推測される。
前記Gの個数割合は、30%以下でもよく、28%以下でもよい。また、前記Gの個数割合は、3%以上でもよく、10%以上でもよく、20%以上でもよい。
前記Cの個数割合は、45%以上でもよく、47%以上でもよい。また、前記Cの個数割合は、80%以下でもよく、70%以下でもよく、60%以下でもよく、50%以下でもよい。
【0057】
鋳型DNA(特に、Amplifierとして用いる鋳型DNA)の全塩基数に対するGとCの合計個数割合は特に制限されない。一態様において、前記GとCの合計個数割合は50~90%であることが好ましく、60~80%であることがより好ましく、70~80%であることがさらに好ましい。本開示の実施形態は以下の理論により制限されないが、GとCの合計個数割合が上記範囲であると、鋳型DNAが適度な高次構造を形成し、非特異的結合が抑制されるものと推測される。また、特にCの個数割合が増加すると、DNAポリメラーゼが1本鎖鋳型に結合することにより起きる非特異増幅が抑制されるものと推測される。
【0058】
鋳型DNA(特に、Amplifierとして用いる鋳型DNA)の全塩基数に対するAの個数割合及びTの個数割合は特に制限されない。
一態様において、前記Aの個数割合は、10%以上でもよく、15%以上でもよく、20%以上でもよい。また、前記Aの個数割合は、40%以下でもよく、35%以下でもよく、30%以下でもよい。
一態様において、前記Tの個数割合は、1%以上でもよく、2%以上でもよく、3%以上でもよい。また、前記Tの個数割合は、15%以下でもよく、10%以下でもよく、5%以下でもよい。
【0059】
鋳型DNA(特に、Amplifierとして用いる鋳型DNA)の全塩基数に対するAとTの合計個数割合は特に制限されない。一態様において、前記AとTの合計個数割合は10~50%であることが好ましく、20~40%であることがより好ましく、20~30%であることがさらに好ましい。
【0060】
下記のツールを用いた二次構造予測において、鋳型DNA(特に、Amplifierとして用いる鋳型DNA)の二次構造は、ヘアピン構造を有しないか、3’突出末端を有することが好ましい。本開示の実施形態は以下の理論により制限されないが、鋳型DNAがヘアピン構造を有しないか、ヘアピン構造を有したとしても3’突出末端を有する構造を有すると、シグナル配列のハイブリダイゼーションが阻害されにくく、好適に増幅が進みやすいと推測される。
本開示において、鋳型DNAの二次構造予測は、Sigma-Aldrich社により提供されているOligoEvaluator(商標;http://www.oligoevaluator.com/)を用いて行う。核酸配列に基づき核酸の二次構造を予測可能なツールである。本開示において、本ツールによる推定二次構造は、AnalysisタブからTypeをDNAに設定し、第1候補として出力される二次構造を表す。
【0061】
(DNAポリメラーゼ)
本開示の判定方法で用いられるDNAポリメラーゼはDNA鎖を伸長できるものであれば特に制限されない。なかでも、DNAポリメラーゼは、鎖置換活性を有することが好ましい。DNAポリメラーゼが鎖置換活性を有することで、シグナルDNAの解離のための温度調整を要することなく、例えば等温で、核酸増幅反応を実施できる。DNAポリメラーゼは、常温性、中温性、又は耐熱性のいずれのものであってもよい。DNAポリメラーゼは、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を実質的に有しないものであることが好ましい。DNAポリメラーゼとしては、大腸菌由来のDNAポリメラーゼIのクレノウ断片(3’→5’エキソヌクレアーゼ活性を欠損させた変異体を含む)、バチルス・ステアロサーモフィラス由来の5’→3’エキソヌクレアーゼ欠損BstDNAポリメラーゼ、バチルス・カルドテナックス由来の5’→3’エキソヌクレアーゼ欠損BcaDNAポリメラーゼ等が挙げられる。
【0062】
核酸増幅反応の系中のDNAポリメラーゼの濃度は適宜調節可能である。一態様において、良好な核酸増幅反応の観点からは、前記濃度は1U/mL以上であることが好ましく、10U/mL以上であることがより好ましく、20U/mL以上であることがさらに好ましい。一態様において、前記濃度は100U/mL以下であってもよく、50U/mL以下であってもよく、30U/mL以下であってもよい。
【0063】
(ニッキング用エンドヌクレアーゼ)
ニッキング用エンドヌクレアーゼは、ニッキング活性を有するエンドヌクレアーゼを意味する。ニッキング活性とは、二本鎖核酸のいずれか一方の鎖のみを切断する活性である。ニッキング用エンドヌクレアーゼは、ニッキング活性を有するエンドヌクレアーゼであれば制限されない。ニッキングに用い得る多くのエンドヌクレアーゼが認識配列とともに知られており、これらのエンドヌクレアーゼの中から適宜選択して使用することができる。ニッキング用エンドヌクレアーゼとしては、ニッキングエンドヌクレアーゼ及び制限酵素が挙げられる。
【0064】
ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列の好ましい態様は上述の通りである。
【0065】
ニッキング用エンドヌクレアーゼの反応至適温度は、増幅反応の簡便性の観点からは、10℃~60℃であることが好ましく、20℃~50℃であることがより好ましく、30℃~45℃であることがさらに好ましい。反応至適温度は、反応温度と反応速度の相関曲線により確認できる。
【0066】
DNAポリメラーゼ、及び必要に応じて用いられる他の酵素の反応を好適に進行させやすい観点からは、ニッキング用エンドヌクレアーゼが活性を有するpH範囲は広いほど好ましい。前記pH範囲は、pH6.0~9.0の範囲を包含することが好ましく、pH6.5~8.5の範囲を包含することがより好ましく、pH7.0~8.0の範囲を包含することがさらに好ましい。
【0067】
ニッキングエンドヌクレアーゼとしては、Nb.BbvCI、Nb.BsmI、Nb.BsrDI、Nb.BssSI、Nb.BtsI、Nt.AlwI、Nt.BbvCI、Nt.BspQI、Nt.BstNBI、Nt.BsmAI、Nt.CviPII等が挙げられる。
【0068】
制限酵素は、通常は二本鎖の両方の鎖を切断する酵素であるが、例えば、制限酵素によって切断されない化学修飾を二本鎖核酸の一方の鎖に施すことにより、他方の鎖のみを切断するニッキング反応に用いることができる。例えば、一方の鎖のホスホジエステル結合の酸素原子を硫黄原子に置換することにより、ニッキング反応に用いることが可能となる。この場合は、鋳型DNAを上記の通り修飾しておけばよい。
【0069】
本開示の判定方法を二段階増幅により行う場合、一段階目の増幅と二段階目の増幅とでは、同一又は異なるニッキング用エンドヌクレアーゼにより伸長された核酸配列が切断される。したがって、ニッキング用エンドヌクレアーゼは、1種のみを用いても2種を用いてもよい。
【0070】
核酸増幅反応の系中のニッキング用エンドヌクレアーゼの濃度は適宜調節可能である。一態様において、良好な核酸増幅反応の観点からは、前記濃度は10U/mL以上であることが好ましく、100U/mL以上であることがより好ましく、200U/mL以上であることがさらに好ましい。一態様において、前記濃度は1000U/mL以下であってもよく、500U/mL以下であってもよく、300U/mL以下であってもよい。
【0071】
(その他の成分)
核酸増幅反応に用いられるその他の試薬としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム等の金属塩;dNTPミックス等の基質;トリス塩酸バッファー、トライシンバッファー、リン酸ナトリウムバッファー、リン酸カリウムバッファー等の緩衝液等を使用することができる。さらに、ジメチルスルホキシドやベタイン(N,N,N-trimethylglycine)等の添加物、国際公開第99/54455号に記載の酸性物質、陽イオン錯体等を使用してもよい。
【0072】
一態様において、核酸増幅反応においてラムダエキソヌクレアーゼを用いてもよい。ラムダエキソヌクレアーゼは、2本鎖DNAに特異的な5’→3’エキソヌクレアーゼである。ラムダエキソヌクレアーゼは2本鎖DNAの5’末端から核酸を分解するエキソヌクレアーゼ活性を有するが、1本鎖DNAやRNAには殆ど作用しない。加えて、ラムダエキソヌクレアーゼは平滑末端や3’突出末端を有する2本鎖DNAにおける5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するが、5’突出末端には作用しない。この性質を利用して、シグナルDNAと鋳型DNAとがハイブリダイズしてなる二本鎖DNAが5’突出末端を有するように鋳型DNA及びシグナルDNAを設計すれば、これらのハイブリダイゼーションを阻害せずに非特異的結合を抑制できる。
【0073】
核酸増幅反応の系中のラムダエキソヌクレアーゼの濃度は適宜調整可能である。一態様において、検出感度の観点からは、前記濃度は200U/mL以下であることが好ましく、150U/mL以下であることがより好ましく、100U/mL以下であることがさらに好ましく、50U/mL以下であることが特に好ましく、25U/mL以下であることが極めて好ましい。エキソヌクレアーゼ活性を良好に発揮し、バックグラウンド増幅を好適に抑制する観点からは、前記濃度は1U/mL以上であることが好ましく、2.5U/mL以上であることがより好ましく、5U/mL以上であることがさらに好ましく、10U/mL以上であることが特に好ましく、15U/mL以上であることが極めて好ましい。なかでも、前記濃度は2.5U/mL~100U/mLであることが好ましく、5U/mL~100U/mLであることがより好ましく、10U/mL~100U/mLであることがさらに好ましく、15U/mL~50U/mLであることが特に好ましく、15U/mL~25U/mLであることが極めて好ましい。
【0074】
〔各工程の説明〕
以下、工程(A)~(E)及びその他の任意の工程について説明する。
【0075】
(工程(A)~工程(C))
工程(A)では、試料を準備する。
一態様において、標的物質を基材に固定化させる場合、標的物質を固定化可能な基材を用いるか、又は、試料を添加する前の基材に、標的物質を結合可能な他の物質を固定化させておく。
【0076】
工程(B)では、試料に、標的物質に結合可能な第一の標的結合分子と、第一の標的結合分子に結合しているか又は結合可能な、第一のシグナル配列を含む第一のシグナルDNAと、を添加する。
本工程では、第一の標的結合分子とシグナルDNAが結合したものを添加してもよい。また、第一の標的結合分子に結合可能な第一のシグナルDNAを、第一の標的結合分子とは別個に添加する場合、両者は混合その他の処理により結合するように構成されている。
【0077】
工程(C)では、試料に、DNAポリメラーゼと、ニッキング用エンドヌクレアーゼと、第一の鋳型DNAと、を添加する。
近接アッセイを行う場合には、第一の鋳型DNAとしては、第二の標的結合分子に結合しているか結合可能である第一の鋳型DNAを用いる。第二の標的結合分子に結合可能な第一の鋳型DNAを用いる場合、第二の標的結合分子を別途添加する。
二段階増幅を行う場合には、さらに第二の鋳型DNAを添加する。
【0078】
基材、試料、標的物質、及び上記工程に関与する他の必須又は任意の物質の詳細は上述の通りである。
【0079】
工程(A)~工程(C)のタイミング及び順序は特に限定されず、任意のタイミング及び順序で行えばよい。例えば、試料、第一の標的結合分子、任意に用いられる第二の標的結合分子、第一のシグナルDNA、DNAポリメラーゼ、ニッキング用エンドヌクレアーゼ、第一の鋳型DNA、任意に用いられる第二の鋳型DNA、及びその他の物質は、順次添加しても、いずれか2つ以上を同時に添加してもよく、添加のタイミング及び順序は、採用される手法に適合する範囲で適宜決定すればよい。
【0080】
一態様において、複数種類の標的物質の存在状態を判定するために、複数種類の第一の標的結合分子と、対応する複数種類の第一のシグナルDNA及び第一の鋳型DNAと、を用いてもよい。複数種類の標的物質ごとに、第一の標的結合分子と、これに対応付けられる第一のシグナルDNA(及び必要に応じて第二のシグナルDNA)並びに第一の鋳型DNA(及び必要に応じて第二の鋳型DNA)を用いることで、標的物質に対応付けられる増幅産物を検出することにより、複数種類の標的物質の存在状態を判定することができる。
【0081】
一態様において、標的物質が基材に固定化される手法を用いる場合、本開示の判定方法は、工程(A)の後に工程(B)及び工程(C)が行われ、工程(A)の後、工程(B)及び工程(C)の前に、基材を洗浄することをさらに含んでもよい。
一態様において、標的物質が基材に固定化される手法を用いる場合、本開示の判定方法は、工程(A)及び工程(B)の後に工程(C)が行われ、工程(A)及び工程(B)の後、工程(C)の前に、基材を洗浄することをさらに含んでもよい。
上記の洗浄はいずれか一方のみ行ってもよく、両方行ってもよい。
基材の洗浄工程により、未固定の物質を除去することができ、感度及び/又は特異性を向上できる傾向にある。
【0082】
(工程(D))
工程(D)では、工程(A)~(C)の後に、核酸増幅反応を行う。
核酸増幅反応の温度は45℃以下であればよく、等温下で行なうことが好ましい。すなわち、核酸増幅反応は等温増幅反応であることが好ましい。二段階増幅を行う場合、一段階目の増幅と二段階目の増幅は、一連の等温増幅反応であることが好ましい。等温増幅反応は、増幅のための機器(温度サイクルに合わせて温度を変動させる機器)を用意する必要がない観点から好ましい。本開示において、「等温増幅反応」とは、核酸のアニーリング、伸長、及び解離のための温度サイクルを要する核酸増幅反応とは対照的に、酵素及びプライマーが実質的に機能しうるほぼ一定の温度条件で行われる核酸増幅反応を意味する。ここで、「ほぼ一定の温度条件」とは、設定された温度を正確に保持した温度条件のみならず、酵素及びプライマーの実質的な機能を損なわない範囲での変動(例えば設定温度±10℃、好ましくは±5℃の変動)を許容した温度条件を意味する。
このような等温増幅反応は、使用する酵素の活性を維持できる温度に保つことにより実施することができる。反応が進行するにつれ酵素活性が減衰する場合であっても、意図される核酸増幅反応を実施できる温度であればよい。
【0083】
等温増幅反応の温度は、10℃~45℃が好ましく、簡便性の観点からは、10℃~40℃がより好ましい。簡便性の観点から、等温増幅反応は常温(例えば20℃~40℃)で行ってもよい。
【0084】
核酸増幅反応のpHは、使用する酵素の種類に応じて調整すればよい。一態様において、核酸増幅反応のpHはpH6.0~9.0が好ましく、pH6.5~8.5がより好ましく、pH7.0~8.0がさらに好ましい。
【0085】
(工程(E))
工程(E)では、工程(D)の後、増幅産物を検出する。
増幅産物の検出は、オリゴヌクレオチドを検出する任意の方法を採用して行うことができる。例えば、ゲル電気泳動及びエチジウムブロマイド染色、蛍光偏光、イムノアッセイ、蛍光共鳴エネルギー転移、酵素標識(例えば、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ等)、蛍光標識(例えば、フルオレセイン、ローダミン等)、ケミルミネッセンス、バイオルミネッセンス等を使用してもよい。また、Taqmanプローブ、分子ビーコン等を利用して検出してもよい。ビオチン等で標識した標識ヌクレオチドを使用して増幅産物を検出してもよい。この場合、増幅産物中のビオチンは、蛍光標識アビジン又は酵素標識アビジン等を用いて検出することができる。また、酸化還元型インターカレーターを使用することで、電極により増幅産物を検出してもよい。また、SPR(表面プラズモン共鳴)を用いて増幅産物を検出してもよい。
【0086】
一態様において、増幅産物は定量してもよい。増幅産物の定量によって、標的物質の存在量を判定することができる。増幅産物の定量は、例えば、蛍光を測定することにより増幅産物を検出する場合には、蛍光強度を指標として行うことができる。
増幅産物の検出は、例えば、濃度が既知の標的物質を用いて同様の条件で核酸増幅反応を行って標的物質濃度と増幅開始時間の相関を示す検量線を作成し、濃度が未知の標的物質を用いて本開示の判定方法を実施して検量線と比較することで行うことができる。
【0087】
以下に、操作手順の例を示す。ただし操作手順は以下の例に限定されず、採用する手法に適合する範囲で適宜決定すればよい。
【0088】
一態様において、標的物質の固定化を行う単独アッセイの場合、(a)基材への試料の添加及び標的物質の固定化、(b)洗浄、(c)第一の標的結合分子及び第一のシグナルDNAの添加、(d)洗浄、(e)DNAポリメラーゼ、ニッキング用エンドヌクレアーゼ、第一の鋳型DNA、及び必要に応じて用いられる第二の鋳型DNAの添加、(f)増幅反応、並びに(g)増幅産物の検出をこの順に行う。DNAポリメラーゼ、ニッキング用エンドヌクレアーゼ、第一の鋳型DNA、及び必要に応じて用いられる第二の鋳型DNAは同時に添加してもよく、順次添加してもよい。
【0089】
一態様において、標的物質の固定化を行う近接アッセイの場合、(a)基材への試料の添加及び標的物質の固定化、(b)洗浄、(c)第一の標的結合分子及び第一のシグナルDNA、並びに第二の標的結合分子及び第一の鋳型DNAの添加、(d)必要に応じて洗浄、(e)DNAポリメラーゼ、ニッキング用エンドヌクレアーゼ、及び必要に応じて第二の鋳型DNAの添加、(f)増幅反応、並びに(g)増幅産物の検出をこの順に行う。第一の標的結合分子及び第一のシグナルDNA、並びに第二の標的結合分子及び第一の鋳型DNAは、同時に添加してもよく、順次添加してもよい。DNAポリメラーゼ、ニッキング用エンドヌクレアーゼ、及び必要に応じて用いられる第二の鋳型DNAは同時に添加してもよく、順次添加してもよい。前記(d)の洗浄を行わない場合は、(c)と(e)の成分は同時に添加してもよく、順次添加してもよい。
【0090】
一態様において、標的物質の固定化を行わない近接アッセイの場合、(a)試料の準備、(b)第一の標的結合分子及び第一のシグナルDNA、並びに第二の標的結合分子及び第一の鋳型DNAの添加、(c)DNAポリメラーゼ、ニッキング用エンドヌクレアーゼ、及び必要に応じて第二の鋳型DNAの添加、を行い、その後(d)増幅反応、及び(e)増幅産物の検出をこの順に行う。第一の標的結合分子及び第一のシグナルDNA、並びに第二の標的結合分子及び第一の鋳型DNAは、同時に添加してもよく、順次添加してもよい。DNAポリメラーゼ、ニッキング用エンドヌクレアーゼ、及び必要に応じて用いられる第二の鋳型DNAは同時に添加してもよく、順次添加してもよい。(a)、(b)及び(e)の成分は同時に添加してもよく、順次添加してもよく、添加の順番を変えてもよい。
【0091】
<キット>
本開示のキットは、標的物質に結合可能な第一の標的結合分子を前記標的物質に結合させて、試料中の標的物質の存在状態を判定するためのキットであって、
容器に格納された、前記第一の標的結合分子に結合しているか又は結合可能な、第一のシグナル配列を含む第一のシグナルDNAと、
容器に格納されたDNAポリメラーゼと、
容器に格納されたニッキング用エンドヌクレアーゼと、
容器に格納された第一の鋳型DNAと、
を備え、
前記第一の鋳型DNAは、増幅対象に相補的な配列と、前記ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、前記第一のシグナル配列と相補的な配列と、を含む。好ましくは、第一の鋳型DNAは、5’末端から順に、増幅対象に相補的な配列と、ニッキング用エンドヌクレアーゼの認識配列と、第一のシグナル配列と相補的な配列と、を含む。
本開示のキットは、上述の本開示の判定方法に用いることができる。
【0092】
キットは、本開示の判定方法の項で説明した任意の物質をさらに含んでいてもよい。例えば、キットは、容器に格納された、第二のシグナルDNA、第二の標的結合分子、第二の鋳型DNA、ラムダエキソヌクレアーゼ、その他の成分等をさらに含んでもよい。また、キットは容器に格納されたdNTP、容器に格納された洗浄液等をさらに含んでもよい。洗浄液としては、任意の緩衝液等を利用することができる。
標的物質、第一の標的結合分子、第一のシグナルDNA、DNAポリメラーゼ、ニッキング用エンドヌクレアーゼ、第一の鋳型DNA、及び任意の各物質の詳細は上述した通りである。
【0093】
一態様において、第一のシグナルDNAは第一の標的結合分子に結合していてもよい。第一のシグナルDNAが結合した第一の標的結合分子を添加する場合には、本態様のキットを用いることが簡便である。
さらなる一態様において、第一のシグナルDNAを格納する容器は、第一の標的結合分子を含まなくてもよい。第一の標的結合分子と、これに結合可能な第一のシグナルDNAと、を別個に用意する場合には、本態様のキットを用いることが簡便である。
【0094】
一態様において、近接アッセイに適したキットとして、第一の鋳型DNAは、標的物質に結合可能な第二の標的結合分子に結合しているか又は結合可能であってもよい。第一の鋳型DNAを結合させた第二の標的結合分子を用いた近接アッセイの詳細は上述の通りである。
【0095】
<標的物質の存在状態の判定装置>
本開示の標的物質の存在状態の判定装置は、上述した本開示の判定方法における増幅産物の検出結果を取得する受付部と、
前記受付部で取得された検出結果を出力データに変換する処理部と、
前記出力データを出力する出力部と、
を備える。
【0096】
図5は、判定装置の機能構成の例を表すブロック図である。図5に示すように、判定装置20は、機能構成として、受付部11、処理部12、及び出力部13を有する。各機能構成は、コンピュータにより実行される。
受付部11は、本開示の判定方法による増幅産物の検出結果を取得可能に構成される。検出結果には、例えば、蛍光の有無、検出時間、強度等が含まれる。
処理部12は、受付部で取得された検出結果を、出力データに変換する。出力データには、標的物質の検出の有無、濃度等が含まれる。
出力部13は、判定結果として、前記変換された出力データを、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等の表示部に出力する。出力部は、通信インターフェースを含んで構成されていてもよく、出力部は、通信インターフェースを介して、検出結果を外部装置へ出力するように構成されていてもよい。
【0097】
判定装置は、Central Processing Unit(CPU)と、Random Access Memory(RAM)と、各処理を実行するためのプログラムや各種データを記憶したRead Only Memory(ROM)と、を含むコンピュータで構成することができる。
【0098】
例えば、判定装置は、図6に示すコンピュータ50で実現することができる。コンピュータ50はCPU51、一時記憶領域としてのメモリ52、及び不揮発性の記憶部53を備える。また、コンピュータ50は、入出力interface(I/F)54、及び記録媒体に対するデータの読み込み及び書き込みを制御するread/write(R/W)部55を備える。また、コンピュータ50は、インターネット等のネットワークに接続されるネットワークI/F56を備える。CPU51、メモリ52、記憶部53、入出力I/F54、R/W部55、及びネットワークI/F56は、バス57を介して互いに接続される。
【0099】
記憶部53は、Hard Disk Drive(HDD)、Solid State Drive(SSD)、フラッシュメモリ等によって実現できる。記憶媒体としての記憶部53には、コンピュータ50を機能させるためのプログラムが記憶されている。CPU51は、プログラムを記憶部53から読み出してメモリ52に展開し、プログラムが有するプロセスを順次実行する。
【0100】
この判定装置は、機能的には、図5に示されるように、受付部11と、処理部12と、出力部13と、を備えている。
【実施例0101】
次に本開示の実施形態を実施例により具体的に説明するが、本開示の実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0102】
<実施例1:単独アッセイ>
本実施例では、マイクロプレートに標的物質を固相化する方法(直接法)での一段階増幅を行う単独アッセイを試みた。標的物質としてはラビット抗体を、第一の標的結合分子としては抗ラビット抗体を用いた。
【0103】
〔抗体-シグナルDNA複合体の調製〕
2μMのビオチン化シグナルDNA1μL([BioON]TGCGGCTGAGGCTGCGTGCGGCTGAGGCTGCGTGCGGCTGAGGCTGCGTGCGGCTGAGGCTGCGTGCGGCTGAGGCTGCGTGCGGCTGAGGCTGCGTGCG(配列番号1);Eurofins Genomics社製)、35μg/mLのストレプトアビジン(富士フイルム和光純薬株式会社)1μL、0.1mg/mLのビオチン化抗体(Biotin-SP AffiniPure F(ab’)2 Fragment Donkey Anti-Mouse IgG (H+L)(min X Bov, Ck, Gt, GP, Sy Hms, Hrs, Hu, Rb, Rat, Shp Sr Prot)、Jackson ImmunoResearch社製、715-066-151)1μL、及び1×TEバッファー(Sigma-Aldrich社製)500μLを混合して、抗体-シグナルDNA複合体を作製した。その後、Amicon Ultra 100K(0.5mL)(Merck社製)を2本用意し、抗体-シグナルDNA複合体及びNCのそれぞれを全量添加した。14,000×gで5分間遠心し、フロースルーを破棄し、再度1×TEバッファーを450μL添加し、14,000×gで5分間遠心した。遠心による洗浄操作を6回繰り返し、抗体-シグナルDNA複合体及びNCのそれぞれの残液を回収した。
【0104】
〔標的物質結合マイクロプレートの調製〕
標的物質としてはラビット抗体であるAnti-HE4 antibody(Abcam社製、EPR16658)を用いた。標的物質の基材への結合を試みた。Anti-HE4 antibody 1.4μLと、1×PBS(-)(pH7.4)(ナカライテスク株式会社)1.4mLを混合し、一次抗体溶液を調製した。一次抗体溶液を、Nunc immunoプレート(Thermo Fisher Scientific)の各ウェルに、100μLずつ分注した。コントロールとして、一次抗体溶液を添加せず、1×PBSを100μL添加したウェルも用意した。プレートを、4℃で一晩静置した。静置後、各ウェルの溶液90μLを除去し、Tween添加PBS(PBST)を200μL添加し、さらに200μLを除去することで、ウェルの洗浄を行った。洗浄後のウェルに、Blocking One(ナカライテスク株式会社)800μLとMilliQ水3.2mLの混合液を200μLずつ添加し、5時間室温で静置した。静置後、各ウェルの溶液90μLを除去し、PBSTを200μL添加し、さらに200μLを除去することで、ウェルの洗浄を行った。洗浄後のウェルに、下記のようにPBSで希釈した抗体-シグナルDNA複合体溶液を100μLずつ添加した。
【0105】
【表2】
【0106】
試験区1~3について、抗体-シグナルDNA複合体溶液を添加後、室温で1時間静置した。静置後、ウェルの溶液を90μL除去し、PBST200μLを添加し、再度200μLを除去する洗浄を3回行った。
【0107】
〔核酸増幅反応〕
チューブ内に、RNase-free水を56.2μL、10×NEB#2バッファーを1μL、10%TritonX-100(ナカライテスク社製)を10μL、20×EvaGreen(登録商標、Biotium社製)を2μL、2000nMのAmplifier(CGCACGCAGCCTCAGCCGCACGCAG/3SpC3/(配列番号2);IDT社製;3SpC3/:3’ C3 Spacer;IDT社製)を1μL、125μMのdATPを0.2μL、2mMのdTTPを0.2μL、100mMのdCTPを0.2μL、100mMのdGTPを0.2μL、50%グリセロールを7.5μL、10U/μLのNb.BbvCl(認識配列:CCTCAGC)を2μL、8U/μLのBST DNAポリメラーゼを0.3μL、及び5U/μLのラムダエキソヌクレアーゼを0.2μL混合し、プレミックスを調製した。
調製した反応液を試験区1~3のウェルに添加した。同時に、ビオチン化シグナルDNA(配列番号1)を添加した液(試験区4:終濃度1pM、試験区5:終濃度10fM)、及びサンプルの代わりに水を添加した液(試験区6)をウェルに添加した。
プレートをプレートリーダー(SpectraMax i3x;Molecular Devices社製)にセットし、37℃での蛍光を連続測定した(励起光485nm、測定535nm;1分間隔、10時間測定)。
各試験区の増幅開始時間を下表に示す。また、試験区1~3における抗体希釈率と増幅開始時間をプロットしたグラフを図7に示す。図7中、抗体希釈率は10を底とする対数で表す。
【0108】
【表3】
【0109】
希釈前の複合体の濃度は、ブラッドフォード法によるタンパク質濃度測定によると、1μg/mL以下であった。今回、複合体10,000倍希釈まで測定できたことから、100pg/mL以下の検出が可能であった。一方、同じ抗体をHRP標識した抗ラビットIgG抗体(Goat Anti-Rabbit IgG H&L(HRP):Abcam社製、ab6721)とELISA用TMB基質で検出したところ、10ng/mLまでしか検出できず、本実施例の方法のほうが高感度であることが示唆された。
【0110】
<実施例2:近接アッセイ例(1)>
本実施例では、標的物質としてストレプトアビジンを用い、第一及び第二の標的結合分子としてビオチンを用いて、二段階増幅を行う近接アッセイの評価を試みた。
【0111】
ビオチン修飾したシグナルDNA(第一の標的結合分子-第一のシグナルDNA複合体)(bio-Target;[BioON]CCTCAGCGCGTTGTGAGGTTAAGCGACTCCTCAGCGCGTTGTGAGGTTAAGCGACTCCTCAGCGCGTTGTGAGGTTAAGCGACT(配列番号3);Eurofins Genomics社製、HPLC精製品)と、ビオチン修飾したConverter(第二の標的結合分子-第一の鋳型DNA複合体)(bio-converter;CGCACGCAGCCTCAGCGCAGTCGCTTAACCTCACAAC[Biotin](配列番号4);Eurofins Genomics社製、HPLC精製品)と、標的物質(ストレプトアビジン;富士フイルム和光純薬株式会社)が2:2:1のモル比となるように調製した複合体1を、第一の標的結合分子の終濃度が100pMとなるように1×TEバッファーで希釈した。
【0112】
さらに、1サンプルあたり、PCRチューブ内に、RNase-free水を5.62μL、10×NEB#2バッファーを1μL、10%TritonX-100を1μL、20×EvaGreen(登録商標)を0.2μL、2000nMのAmplifier(第二の鋳型DNA)(CGCACGCAGCCTCAGCCGCACGCAG/3SpC3/(配列番号5);IDT社製;3SpC3/:3’ C3 Spacer;IDT社製)を0.1μL、125μMのdATPを0.02μL、2mMのdTTPを0.02μL、100mMのdCTPを0.02μL、100mMのdGTPを0.02μL、50%グリセロールを0.75μL、10U/μLのNb.BbvCl(認識配列:CCTCAGC)を0.2μL、及び8U/μLのBST DNAポリメラーゼを0.03μL混合し、プレミックスを調製した。このプレミックスに、ラムダエキソヌクレアーゼを0.2μL添加し、反応液を調製した。
【0113】
この反応液に前記複合体1を1μL添加したものを標的物質ありのサンプルとした。また、前記反応液に、終濃度10pMの第一の標的結合分子-第一のシグナルDNA複合体と終濃度10pMの第二の標的結合分子-第一の鋳型DNA複合体の混合溶液を1μL添加したものを標的物質なしのサンプルとした。さらに、前記反応液に、RNase-free水を1μL添加したものをバックグラウンドサンプルとした。
【0114】
標的物質ありのサンプル、標的物質なしのサンプル、及びバックグラウンドサンプルを、それぞれ、リアルタイムPCR装置CFX96 Real-Time System(BIO-RAD社)を用いて、37℃で10時間インキュベートし、増幅開始時間を測定した。その結果、標的物質の有無により、増幅開始時間が約18分加速されることが示された。各サンプルの増幅曲線を図8に示し、増幅開始時間を下表に示す。図8中、白丸は標的物質あり(陽性)、黒丸は標的物質なし(陰性)のサンプルの結果を示す。なお、蛍光強度が50RFUとなった時点を増殖開始時間とした。
【0115】
【表4】
【0116】
上記結果から、本実施例の近接アッセイにおいて、pMオーダーの標的物質が高感度で検出できることが確認できた。本結果より、標的物質が存在しない場合にも非特異的に増殖が起こるが、陰性サンプルと比較することにより標的物質の検出が可能であることがわかる。また、検量線を作成することにより標的物質を定量することも可能である。
【0117】
<実施例3:近接アッセイ(2)>
本実施例では、標的物質としてラビット抗体を用い、第一及び第二の標的結合分子として抗ラビット抗体を用いて、二段階増幅を行う近接アッセイの評価を試みた。
【0118】
本実施例では、シグナルDNA(bio-Target;[BioON]CCTCAGCGCGTTGTGAGGTTAAGCGACTCCTCAGCGCGTTGTGAGGTTAAGCGACTCCTCAGCGCGTTGTGAGGTTAAGCGACT(配列番号3);Eurofins Genomics社製、HPLC精製品)をビオチン/ストレプトアビジンを介して抗ラビット抗体に結合した第一の標的結合分子-シグナルDNA複合体と、シグナルDNAと相補性を有するConverter(bio-converter;CGCACGCAGCCTCAGCGCAGTCGCTTAACCTCACAAC[Biotin](配列番号4);Eurofins Genomics社製、HPLC精製品)をビオチン/ストレプトアビジンを介して抗ラビット抗体に結合した第二の標的結合分子-第一の鋳型DNA複合体を、ラビット抗体を含む反応液中に添加した。このとき、近接効果によって反応が加速されるかどうかを評価した。
【0119】
〔第一の標的結合分子-シグナルDNA複合体の作製〕
1nMのビオチン修飾シグナルDNA(bio-Target)と1nMのビオチン修飾抗ラビット抗体(Biotin-SP AffiniPure F(ab’)2 Fragment Donkey Anti-Mouse IgG (H+L)(min X Bov, Ck, Gt, GP, Sy Hms, Hrs, Hu, Rb, Rat, Shp Sr Prot)、Jackson ImmunoResearch社製、715-066-151)を10mMのTris-HCl溶液中で混合し、そこに500pMのストレプトアビジンを添加した。混合後、5℃で2時間静置して第一の標的結合分子-シグナルDNA複合体を得た。
【0120】
〔第二の標的結合分子-第一の鋳型DNA複合体の作製〕
1nMのシグナルDNAと相補性を有するビオチン修飾Converter(bio-converter)と1nMのビオチン修飾抗ラビット抗体を10mMのTris-HCl溶液中で混合し、そこに500pMのストレプトアビジンを添加した。混合後、5℃で2時間静置して第二の標的結合分子-第一の鋳型DNA複合体を得た。
【0121】
〔標的結合分子/標的分子複合体の作製〕
前記第一の標的結合分子-シグナルDNA複合体と、各濃度の前記第二の標的結合分子-第一の鋳型DNA複合体と、標的分子となる1nMのラビット抗体とを10mMのTris-HCl溶液中で混合し、5℃で1時間静置して複合体2を得た。
【0122】
〔等温遺伝子増幅法による検出〕
1サンプルあたり、PCRチューブ内に、RNase-free水を5.62μL、10×NEB#2バッファーを1μL、10%TritonX-100を1μL、20×EvaGreen(登録商標)を0.2μL、2000nMのAmplifier(第二の鋳型DNA)(CGCACGCAGCCTCAGCCGCACGCAG/3SpC3/(配列番号5);IDT社製;3SpC3/:3’ C3 Spacer;IDT社製)を0.1μL、125μMのdATPを0.02μL、2mMのdTTPを0.02μL、100mMのdCTPを0.02μL、100mMのdGTPを0.02μL、50%グリセロールを0.75μL、5U/μLのラムダエキソヌクレアーゼを0.2μL、10U/μLのNb.BbvCl(認識配列:CCTCAGC)を0.2μL、及び8U/μLのBST DNAポリメラーゼを0.03μL混合し、プレミックスを調製した。
この反応液に前記複合体2を1μL添加したものを標的物質ありのサンプルとした。また、前記反応液に、前記第一の標的結合分子-シグナルDNA複合体と前記第二の標的結合分子-第一の鋳型DNA複合体の混合溶液を1μL添加したものを標的物質なしのサンプルとした。さらに、前記反応液に、RNase-free水を1μL添加したものをバックグラウンドサンプルとした。
【0123】
標的物質ありのサンプル、標的物質なしのサンプル、及びバックグラウンドサンプルを、それぞれ、リアルタイムPCR装置CFX Duet Real-Time System(BIO-RAD社)を用いて、37℃で10時間インキュベートし、増幅開始時間を測定した。その結果、標的物質なしのサンプルに対して、標的物質ありのサンプルの増幅開始時間が約6分加速されることが示された。各サンプルの増幅曲線を図9に示し、増幅開始時間を下表に示す。図9中、白丸は標的物質あり(陽性)、黒丸は標的物質なし(陰性)のサンプルの結果を示す。なお、蛍光強度が50RFUとなった時点を増殖開始時間とした。
【0124】
【表5】
【0125】
上記結果から、本実施例の近接アッセイにおいて、pMオーダーの標的物質が高感度で検出できることが確認できた。
【符号の説明】
【0126】
1 標的物質
2a 第一の標的結合分子
2b 第二の標的結合分子
3a、3a’ 第一のシグナルDNA
3b、3b’ 第二のシグナルDNA
4a、4a’ 第一の鋳型DNA
4b 第二の鋳型DNA
9 基材に結合した物質
11 受付部
12 処理部
13 出力部
20 判定装置
50 コンピュータ
51 CPU
52 メモリ
53 記憶部
54 入出力I/F
55 R/W部
56 ネットワークI/F
57 バス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
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