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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134459
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】電子顕微鏡、及び、結晶評価方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/22 20060101AFI20240926BHJP
   H01J 37/295 20060101ALI20240926BHJP
   H01J 37/28 20060101ALI20240926BHJP
   G01N 23/20058 20180101ALI20240926BHJP
   G01N 23/2251 20180101ALI20240926BHJP
   G01N 23/2055 20180101ALI20240926BHJP
【FI】
H01J37/22 502H
H01J37/295
H01J37/28 B
G01N23/20058
G01N23/2251
G01N23/2055 310
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044775
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】318010018
【氏名又は名称】キオクシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大塚 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】星野 健
(72)【発明者】
【氏名】圷 晴子
【テーマコード(参考)】
2G001
5C101
【Fターム(参考)】
2G001AA03
2G001BA07
2G001BA15
2G001CA03
2G001DA06
2G001DA09
2G001HA13
2G001JA07
2G001KA08
2G001LA11
5C101AA03
5C101AA16
5C101BB03
5C101EE53
5C101FF02
5C101FF58
5C101FF59
5C101GG04
5C101GG05
5C101JJ07
(57)【要約】
【課題】効率的かつ精度よく結晶性を解析することができる、電子顕微鏡、及び、結晶評価方法を提供する。
【解決手段】電子顕微鏡100は、電子ビーム照射部11と、被検体設置面121aを有する被検体保持部121と、EBSD像を検出する第2検出部15を備える。また、被検体保持部121の動作を制御するSEM制御部161と、EBSD像に基づき被検体21の結晶構造を解析するEBSD解析部162と、を備える。被検体保持部121は、電子線の照射方向と平行な軸を中心として回転可能になされており、また、電子線の照射方向と垂直な面に対して、被検体設置面121aを傾斜可能になされている。EBSD解析部162は、EBSD像とリフレクタとの類似度合いを算出するMAD値計算部162Aを有し、SEM制御部161は、類似度合いに基づき被検体保持部121の回転動作や傾斜動作を制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体表面の照射領域に電子線を照射する電子線照射部と、
前記被検体を積置する被検体設置面を有する被検体保持部と、
前記電子線の照射により前記被検体から放出される二次電子を検出する第1検出部と、
前記電子線の照射により前記被検体から発生する電子後方散乱パターンを検出する第2検出部と、
前記被検体保持部の動作を制御する動作制御部と、前記電子後方散乱パターンに基づき前記被検体の結晶構造を解析する構造解析部と、を備える制御解析部と、
を備えた電子顕微鏡であって、
前記被検体保持部は、前記電子線の照射方向と平行な軸を中心として回転可能になされており、また、前記被検体保持部は、前記電子線の照射方向と垂直な面に対して、前記被検体設置面を傾斜可能になされており、
前記構造解析部は、前記電子後方散乱パターンと既知の結晶構造に基づく結晶方位との類似度合いを算出する結晶性評価部を有し、
前記動作制御部は、前記類似度合いに基づき前記被検体保持部の回転動作、および/または、傾斜動作を制御する、電子顕微鏡。
【請求項2】
前記類似度合いは、前記電子後方散乱パターンの菊池線と前記既知の結晶構造の菊池線との平均角度差であるMAD値である。請求項1に記載の電子顕微鏡。
【請求項3】
前記被検体は、複数の前記照射領域を有する小領域が設定されており、
前記結晶性評価部は、前記複数の照射領域のそれぞれから検出された前記電子後方散乱パターンのそれぞれについてMAD値を算出し、
前記動作制御部は、前記複数のMAD値の全てが設定された閾値より大きい場合に、前記被検体保持部の回転動作、および/または、傾斜動作を制御する、請求項2に記載の電子顕微鏡。
【請求項4】
前記被検体保持部における回転動作、および/または、傾斜動作が行われる前後において、略同一の前記照射領域に照射された前記電子後方散乱パターンを検出する、請求項3に記載の電子顕微鏡。
【請求項5】
被検体保持部の被検体設置面に載置された被検体表面の照射領域に電子線を照射することと、
前記電子線の照射により前記被検体から発生する電子後方散乱パターンを検出することと、
前記電子後方散乱パターンと既知の結晶構造に基づく結晶方位との類似度合いを算出することと、
前記被検体保持部は、前記電子線の照射方向と平行な軸を中心として回転可能になされており、また、前記被検体保持部は、前記電子線の照射方向と垂直な面に対して、前記被検体設置面を傾斜可能になされており、前記類似度合いに基づき、前記被検体保持部の回転動作、および/または、傾斜動作を制御することと、
を含む結晶評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、電子顕微鏡、及び、結晶評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの開発には、微小領域における結晶性の解析が重要である。微小領域における結晶性を解析する装置として、EBSD検出器を備えた電子顕微鏡が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-110935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本実施形態は、効率的かつ精度よく結晶性を解析することができる、電子顕微鏡、及び、結晶評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本実施形態の電子顕微鏡は、被検体表面の照射領域に電子線を照射する電子線照射部と、被検体を積置する被検体設置面を有する被検体保持部と、を備える。また、本実施形態の電子顕微鏡は、前記電子線の照射により前記被検体から放出される二次電子を検出する第1検出部と、前記電子線の照射により前記被検体から発生する電子後方散乱パターンを検出する第2検出部と、を備える。さらに、本実施形態の電子顕微鏡は、制御解析部を備えており、前記制御解析部は、前記被検体保持部の動作を制御する動作制御部と、前記電子後方散乱パターンに基づき前記被検体の結晶構造を解析する構造解析部とを備える。
【0006】
前記被検体保持部は、前記電子線の照射方向と平行な軸を中心として回転可能になされており、また、前記被検体保持部は、前記電子線の照射方向と垂直な面に対して、前記被検体設置面を傾斜可能になされている。前記構造解析部は、前記電子後方散乱パターンと既知の結晶構造に基づく結晶方位との類似度合いを算出する結晶性評価部を有する。前記動作制御部は、前記類似度合いに基づき前記被検体保持部の回転動作、および/または、傾斜動作を制御する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施形態にかかる電子顕微鏡の構成例を示すブロック図である。
図2A】EBSD像のイメージ図である。
図2B】EBSD像のイメージ図である。
図3】3次元構造のNANDメモリセルアレイの構成例を説明する平面図および断面図である。
図4】被検体に設定される小領域とスポットを説明する図である。
図5】実施形態の結晶評価方法の手順の一例を示す説明するフローチャートである。
図6A】MAD値の推移の一例を示す図である。
図6B】MAD値の推移の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
【0009】
図1は、本発明の第1実施形態にかかる電子顕微鏡の構成例を示すブロック図である。本実施形態の電子顕微鏡100は、走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope;SEM)である。図1に示すように、走査電子顕微鏡100は、電子ビーム照射部11と、被検体ステージ12と、第1検出部14と、第2検出部15と、制御解析部16とを備える。
【0010】
電子ビーム照射部11は、電子線を発生させる。そして、発生させた電子を被検体21に照射する。電子ビーム照射部11は、例えば、電子源と、レンズユニットと、走査偏向器とを具備する。電子源は、電子を発生させる。電子源は、例えば、陰極から放出された電子を陽極で加速し電子線を放出する電子銃である。レンズユニットは、電子源から放出された電子線を細く絞り電子プローブ(収束された電子線)を形成する。レンズユニットは、電子プローブの径やプローブ電流(照射電流量)を制御することができる。走査偏向器は、レンズユニットによって形成された電子プローブを偏向させ、被検体21における照射位置を移動させる。すなわち、走査偏向器は、電子プローブで、被検体21上を走査するために用いられる。なお、図1において、電子プローブが被検体21に照射される方向をZ方向とする。また、Z方向に垂直な平面において、直交する2方向をX方向、Y方向とする。
【0011】
被検体ステージ12は、被検体保持部121と、支持部122と、土台123とを有する。被検体保持部121は、被検体設置面121aを有する。被検体設置面12aには、被検体21が載置される。被検体設置面12aに平行な平面において直行する2方向をx方向、y方向とし、被検体設置面12aに垂直な方向をz方向とする。被検体ステージ12は、X方向、Y方向、および、Z方向に移動することができる。また、被検体保持部121は、Z方向に延伸する回転軸Rを中心する回転動作が可能である。さらに、被検体保持部121は、傾斜軸Tを中心とする傾斜動作も可能である。傾斜軸Tは、XY平面に平行、かつ、被検体設置面121a(xy平面)に平行に延伸する。例えば図1において、軸Tは、図1の紙面手前から紙面奥に向かう方向に延伸している。回転動作により、被検体設置面121a(xy平面)に対する電子プローブの入射方向を変化させることができる。傾斜動作により、被検体設置面121a(xy平面)に対する電子プローブの入射角度を変化させることができる。
【0012】
なお、回転動作によって、被検体保持部121が初期状態から回転移動した角度を回転角θrとする。例えば、被検体設置面121aがY軸と平行に設置されている状態を初期状態とする。また、XY平面と被検体設置面121a(xy平面)との成す角を、傾斜角θtとする。例えば、図1に示す被検体保持部121は、回転角θrが約0°、傾斜角θtが約70°に設定されている。xy平面における位置は、XY平面における位置から、傾斜角θtおよび回転角θrを考慮して計算することができる。例えば、回転角θrが0°かつ傾斜角θtが0°である場合、xy平面における位置とXY平面における位置とが一致する。
【0013】
第1検出部14は、電子線が照射されることによって被検体21から放出される二次電子を検出する。電子プローブで被検体21を走査し、第1検出部14で被検体21から放出される二次電子を検出することによって、SEM像(二次電子像)を得ることができる。
【0014】
第2検出部15は、EBSD(Electron Bascscatter Diffraction)検出器である。EBSD検出器は、電子線の照射により、被検体21から発生する電子後方散乱回折パターンを検出することができる。以下、第2検出部15で検出される電子後方散乱回折パターンをEBSD像と示す。
【0015】
一般的に、結晶性の試料に入射した電子は、試料内で原子の熱振動による非弾性散乱を受けた後にブラッグ反射(弾性散乱)を起こす。これによって菊池図形が生じる。非弾性散乱を受けた電子の進行方向は、広い角度にわたって分布する。故に、ブラッグ反射位置には、ある結晶面の表面と裏面の反射による明線と暗線のペアが生じる。この明線と暗線のペアを菊池線という。菊池図形は、結晶の実格子を投影したパターンであり、菊池図形に結晶方位指数付けをすることで、試料の結晶方位を解析することができる。第2検出部15で検出されるEBSD像は、被検体21の電子プローブ照射領域における、菊池図形を表している。図2A図2Bは、EBSD像のイメージ図である。図2Aに示すEBSD像は、明線と暗線のペアである菊池線が明瞭に現れている。一方、図2Bに示すEBSD像は、菊池線が不明瞭である。第2検出部15で検出されたEBSD像に菊池線が明瞭に現れている場合に、電子プローブの照射位置における結晶方位の解析が可能である。
【0016】
制御解析部16は、SEM制御部161と、EBSD解析部162とを具備する。SEM制御部161は、ビーム照射制御部161Aと、R、T制御部161Bと、X、Y、Z制御部161Cとを含む。
【0017】
ビーム照射制御部161Aは、電子ビーム照射部11の動作を制御する。例えば、電子の加速電圧や、電子プローブの径や、プローブ電流量や、電子プローブの偏向状態を制御する。電子ビーム照射部11の制御によって、被検体21における電子プローブの照射領域(以下、スポットと示す)の位置や大きさが設定される。R、T制御部161Bは、被検体保持部121の回転角θrが設定された角度になるように、被検体保持部121の回転動作を制御する。また、被検体設置面121aの傾斜角θtが設定された角度になるように、被検体保持部121の傾斜動作を制御する。X、Y、Z制御部161Cは、被検体保持部121の位置を制御する。X方向、及び/または、Y方向に被検体保持部121を移動させることで、被検体21の表面(xy平面)における電子プローブを照射可能な領域(以下、小領域と示す)を移動させることができる。
【0018】
EBSD解析部162は、MAD値計算部162Aと、粒径解析部162Bと、配向解析部162Cとを含む。MAD値計算部162Aは、第2検出部15で検出されたEBSD像と、既知の結晶構造から得られる理論的な菊池図形(以下、リフレクタと示す)との類似度合いを計算する。例えば、第2検出部15で検出されたEBSD像にあらわれている菊池線とリフレクタの菊池線との平均角度差であるMAD(Mean Angular Deviation)値によって、類似度合いを計算する。MAD値が小さいほど、EBSD像が取得されたスポットの結晶方位と、リフレクタの結晶方位との一致度合いが大きいといえる。本実地形態の電子顕微鏡では、MAD値計算部162Aで算出されたMAD値が、予め設定された閾値(例えば、0.5)より大きい場合、当該EBSD像は結晶性の評価には適さないと判定する。粒径解析部162Bは、被検体21に存在する結晶粒を検出し、検出された結晶粒の粒径を算出する。例えば、同じ結晶方位を有する連続したスポットの集合を、結晶粒として検出する。配向解析部162Cは、結晶粒の配向性を解析する。
【0019】
なお、制御解析部16は、中央演算処理装置(CPU)と、RAMと、ROMとを有するコンピュータに組み込まれていてもよい。制御解析部16における動作を予めプログラムとしてメモリに格納しておき、CPUにおいて実行することにより、ソフトウェア的に制御解析部16の各動作を行ってもよい。
【0020】
上述した実施形態の電子顕微鏡は、例えば、3次元構造のNANDメモリなど、半導体装置の製造工程において形成された膜などの、結晶の粒径および配向の分析に用いることができる。図3は、3次元構造のNANDメモリセルアレイの構成例を説明する平面図および断面図である。メモリセルアレイは、複数のブロックを備える。図3は、メモリセルアレイを構成する複数のブロックのうちの1つのブロックを示している。また、図3は、紙面左側にブロックの一部の平面形状を示しており、A-A線で切断した断面形状を紙面右側に示している。絶縁層351は、一のブロックを他のブロックBLKと分離する。詳しくは、図3の右側の断面図に示すように、絶縁層351は、選択ゲート線SGD上に形成された層間絶縁膜337の上面からソース線330まで延設されて、選択ゲート線SGD、複数のワード線WL、選択ゲート線SGSをブロックBLK間で分離する。絶縁層351は、絶縁材料が充填されたスリットSTとして機能する。絶縁層351の中には、層間絶縁膜337の上面からソース線330まで延設された配線340が形成されている。配線340は、ソース線330への接続配線である配線LIとして機能する。図3の例は、1ブロック内に、絶縁層352によって分離された5つの選択ゲート線SGD0~SGD4をそれぞれ含む5つのストリングユニットが構成された例を示している。絶縁層352は、図3の右側の例では、選択ゲート線SGD上に形成された層間絶縁膜337の上面から、複数の選択ゲート線SGDの最下層と複数のワード線WLの最上層との間のまで延設されて、各選択ゲート線SGD0~SGD4を相互に分離する。すなわち、絶縁層352は、絶縁材料が充填されたスリットSHEである。なお、図3ではメモリホールMHの上面よりも層間絶縁膜337の上面のほうが上方に位置するように層間絶縁膜337が形成されている場合を一例として示しているが、メモリホールMHの上面と層間絶縁膜337の上面が同じ高さになるように層間絶縁膜337を形成してもよい。
【0021】
1ストリングユニット内の各メモリホールMHは、それぞれコンタクトプラグ339によってビット線BL0,BL1,…(以下、これらを区別する必要がない場合にはビット線BLという)に接続される。なお、図3の左側では図面の見やすさを考慮して、一部のビット線BL及び一部のコンタクトプラグ339のみを示してある。
【0022】
図3に示すように、各ビット線BLは、それぞれコンタクトプラグ339を介してストリングユニット毎に1つのメモリホールMHに接続される。なお、各ビット線BLを各ストリングユニットの1つのメモリホールMHに接続するために、コンタクトプラグ339の位置は、ビット線BLの延伸方向に直交する方向にずらしてある。
【0023】
ソース線330上には、複数のNANDストリングが形成されている。すなわち、ソース線330上には、選択ゲート線SGS、複数のワード線WL、および複数の選択ゲート線SGDが絶縁膜を介して積層されている。そして、これらの選択ゲート線SGD、ワード線WL及び選択ゲート線SGSを貫通してソース線330に達するメモリホールMHが形成されている。メモリホールMHの側面には、ブロック絶縁膜、電荷蓄積膜(電荷保持領域)、およびゲート絶縁膜からなるONO膜336が形成され、更にメモリホールMH内に導電体柱335が埋め込まれている。導電体柱335は、例えばポリシリコンからなり、NANDストリングに含まれるメモリセルトランジスタ並びに選択ゲートトランジスタの動作時にチャネルが形成される領域として機能する。
【0024】
実施形態の電子顕微鏡は、例えば、選択ゲート線SGD、SGS、ワード線WLなどを構成する膜(多結晶シリコン膜、金属膜、金属シリサイド膜など)や、ビット線BLなどを構成する金属膜における、結晶の粒径および配向の分析に用いることができる。
【0025】
次に、被検体21に設定される小領域とスポットについて説明する。図4は、被検体に設定される小領域とスポットを説明する図である。図4では、被検体21の表面におけるxy平面を示している。なお、被検体21の表面からのz方向における距離はz0とする。被検体21の観察を行う場合、まず、被検体21の表面に小領域210を設定する。このとき、被検体保持部121を移動させることなく、走査偏向器による走査角度の制御のみで電子プローブを走査可能な範囲が、小領域210として設定される。例えば、小領域210の大きさは、25μm×25μm程度である。図4に示すように、例えば、x=x0、y=y0を一頂点とする矩形領域が小領域210として設定される。小領域210には、電子プローブの照射領域であるスポット211が設定される。例えば、スポット211の大きさは、数nm~数十nm程度である。例えば、走査偏向器によりスポット211の位置を、図4の矢印付き点線で示すようにラスタースキャン方式で移動させながら、小領域210を電子プローブでくまなく走査することで、SEM像を取得することができる。また、スポット211ごとに、EBSD像を取得することができる。小領域210の位置を、x方向、及び/または、y方向、及び/または、z方向に移動させることで、被検体21表面の任意の位置についてSEM像やEBSD像を取得することができる。
【0026】
次に、実施形態における結晶評価方法について説明する。図5は、実施形態の結晶評価方法の手順の一例を示す説明するフローチャートである。図5に示す手順を実行することで、効率的かつ度よく、被検体21の結晶性を解析することができる。
【0027】
まず、SEM像を取得する小領域210の位置(x、y、z)を初期設定する(S1)。例えば、図4に示すように、1つの頂点の位置を(x、y、z)=(x0、y0、z0)とする矩形領域を、最初にSEM像を取得する小領域210とする。次に、設定した小領域210のSEM像を取得する(S2)。次に、被検体保持部121の回転角θrと傾斜角θtとを初期設定する(S3)。S3では、例えば、回転角θrを0°、傾斜角θtを70°に設定する。続いて、S2でSEM像を取得した小領域210内において、EBSD像を取得するスポット211の位置を初期設定する(S4)。S4では、例えば、S2のSEM像取得時において、電子プローブの走査を開始する位置をスポット211の初期位置とする。
【0028】
続いて、S4で設定されたスポット211に電子プローブを照射して、EBSD像を取得し、MAD値を計算する(S5)。S2でSEM像を取得した小領域210内において、EBSD像を取得していない位置がある場合(S6、NO)、S7に進む。S7では、スポット211の位置を、EBSD像を取得していない位置に移動させる。例えば、S2のSEM像取得時における電子プローブの走査順に、スポット211の位置を移動させる。スポット211の位置を移動させた後、S5に戻ってEBSD像を取得し、MAD値を算出する。
【0029】
一方、S2でSEM像を取得した小領域210内において、電子プローブが照射される全ての位置について、EBSD像を取得してMAD値の算出が終わっている場合(S6、YES)、S8に進む。S8では、当該小領域210内の全ての位置のうち、MAD値が設定された基準を満たす位置があるか否かを判定する。例えば、MAD値が設定された閾値(例えば、0.5)以下である場合、当該位置は基準を満たすと判定する。基準を満たした位置は、EBSD像が取得されたスポットの結晶方位と、リフレクタの結晶方位との一致度合いが大きく、結晶性の評価に適している。
【0030】
図6A図6Bは、MAD値の推移の一例を示す図である。図6A図6Bともに、下側の図は、MAD値の推移を示している。下側の図において、縦軸はMAD値をあらわしており、軸の上側にいくほどMAD値が小さくなる。また、下側の図において、横軸は、スポットの計測順番であるスポット番号をあらわしている。すなわち、図6A図6Bの下側の図は、横軸の左側から右側に向かって、MAD値を算出順にプロットした図である。設定された閾値を一点鎖線で示しており、一点鎖線よりも上側にプロットされたMAD値は基準を満たしている。また、図6A図6Bともに、上側の図は、計測対象である小領域210とスポット211とを示している。
【0031】
図6Aは、ある回転角θr、傾斜角θtにおいて計測を行った際に、設定された基準を満たすMAD値が存在しない場合の一例を示している。すなわち、スポット211を移動させながら計測を行っても、MAD値が設定された基準を満たすスポット211は存在しない。一方、図6Bは、他の回転角θr、傾斜角θtにおいて計測を行った際に、設定された基準を満たすMAD値が存在する場合の一例を示している。すなわち、スポット211を移動させながら計測を行うと、MAD値が設定された基準を満たすスポット211(斜線付きの丸印で示すスポット)が検出される。上図におけるスポットの位置と、下図におけるMAD値との対応を、二点鎖線で示している。
【0032】
図6Bに示すように、MAD値が設定された基準を満たす位置がある場合(S8、YES)、S9に進み、基準を満たす位置のそれぞれについて、結晶方位を解析し、粒径や配向を分析する。例えば、図6Bに示すように4つのMAD値が基準を満たす場合、Na番目に設定されたスポットの位置、Nb番目に設定されたスポットの位置、Nc番目に設定されたスポットの位置、Nd番目に設定されたスポットの位置について、それぞれ結晶方位を解析し、粒径や配向を分析する。そして、分析された粒径や配向を出力し、一連の計測手順を終了する。
【0033】
一方、図6Aに示すように、MAD値が設定された基準を満たす位置がない場合(S8、NO)、当該小領域210に関し、全ての回転角θr、傾斜角θtについて、EBSD像の取得からMAD値の算出までの一連の計測が終了しているか否かを判定する(S9)。なお、S9における全ての回転角θrとは、予め設定された範囲内において設定しうる回転角θrである。同様に、S9における全ての傾斜角θtとは、予め設定された範囲内において設定しうる傾斜角θtである。例えば、傾斜角の設定範囲が68°~73°であって、最小設定角度が1°である場合、全ての傾斜角θtとは、68°、69°、70°、71°、72°、73°の6つの角度を指す。
【0034】
結晶性を有する領域であっても、電子プローブの入射方向や入射角度が変わると、菊池線の検出強度が異なる。すなわち、図2Bに示すように、不明瞭なESBD像が検出された領域は、非晶性であるか、または、結晶性を有するが電子プローブの入射条件によって検出強度が低くなってしまったか、のいずれかであると考えられる。そこで、同じ位置の小領域210について、電子プローブの入射方向や入射角度を変えて再度ESBD像を取得することで、結晶性を有する領域の見落としを防止し、解析の精度を向上させることができる。
【0035】
当該小領域210に関し、EBSD像の取得からMAD値の算出までの一連の計測が終了していない回転角θr、傾斜角θtがある場合(S9、NO)、S12に進んで回転角θr、傾斜角θtを変更する。変更後の状態で、S4からS8までの一連の手順を実行し、当該小領域210内に結晶性を有する領域があるか否かを探索する。一方、当該小領域210に関し、全ての回転角θr、傾斜角θtについて、EBSD像の取得からMAD値の算出までの一連の計測が終了している場合(S9、YES)。S13に進み、被検体21の全領域について、EBSD像の取得からMAD値の算出までの一連の計測が終了しているか否かを判定する。
【0036】
計測していない領域がある場合(S13、NO)、小領域210に未計測の領域が含まれるように、小領域210の位置を変更する(S14)。位置を変更後の小領域210について、S2からS12までの一連の手順を実行し、当該小領域210内に結晶性を有する領域があるか否かを探索する。一方、被検体21の全領域について計測が終了している場合(S13、YES)、被検体21には結晶性の評価に適している領域が存在しない旨を出力し(S15)、一連の計測手順を終了する。
【0037】
このように、本実施形態によれば、被検体21におけるスポットの位置を移動させながら、各スポットのEBSD像を取得する。それぞれのEBSD像のMAD値を算出して、結晶性の評価に適している領域を判別し、粒径や配向の解析を実行する。MAD値が基準値より小さい領域が存在しない場合は、被検体保持部121の回転角度や傾斜角度を変更し、電子プローブの入射角度や入射方向を変えながら、結晶性の評価に適している領域を探索する。これにより、結晶性を有する領域の見落としを防止することができ、効率的かつ精度よく結晶性を解析することができる、電子顕微鏡、及び、結晶評価方法を提供することができる。
【0038】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、一例として示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0039】
11…電子ビーム照射部、12…被検体ステージ、14…第1検出部、15…第2検出部、16…制御解析部、21…被検体、121…被検体保持部、122…支持部、123…土台、121a…被検体設置面、161…SEM制御部、161A…ビーム照射制御部、161B…R、T制御部、161C…X、Y、Z制御部、162…EBSD解析部、162A…MAD値計算部、162B…粒径解析部、162C…配向解析部、100…電子顕微鏡(走査電子顕微鏡)、
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6A
図6B