(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134460
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】質量分析装置
(51)【国際特許分類】
H01J 49/00 20060101AFI20240926BHJP
H01J 49/04 20060101ALI20240926BHJP
H01J 49/16 20060101ALI20240926BHJP
H01J 37/252 20060101ALI20240926BHJP
H01J 49/28 20060101ALN20240926BHJP
【FI】
H01J49/00 310
H01J49/04 630
H01J49/16 100
H01J37/252 B
H01J49/28 200
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044776
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】318010018
【氏名又は名称】キオクシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅川 淳
(72)【発明者】
【氏名】圷 晴子
(72)【発明者】
【氏名】大塚 裕貴
【テーマコード(参考)】
5C101
【Fターム(参考)】
5C101AA22
5C101EE48
5C101FF02
5C101FF17
5C101GG13
5C101HH03
5C101HH21
(57)【要約】
【課題】検出感度の低下を抑制し、検出時間を増加させることなく、広域の分析が可能な質量分析装置を提供する
【解決手段】イオンビーム201をパルス状に出射して、試料100の表面に設定されたスポット201rにイオンビーム201を照射するビーム照射部10と、レーザ光202をパルス状に出射して、試料100の上方に設定された照射領域202rにレーザ光202を照射するレーザ照射部20とを備える。また、イオンビーム201により試料100から放出された粒子が、レーザ光202によりイオン化されたイオン粒子P2の質量を検出する質量分析部30と、照射領域202rの位置を調整する制御部40も備える。制御部40は、レーザ光202の照射間隔ごとに照射領域202rの位置を調整する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンビームをパルス状に出射して、試料の表面に設定されたビーム照射領域に前記イオンビームを照射するビーム照射部と、
レーザ光をパルス状に出射して、前記試料の上方に設定されたレーザ照射領域に前記レーザ光を照射するレーザ照射部と、
前記イオンビームにより前記試料から放出された粒子が、前記レーザ光によりイオン化されたイオン粒子の質量を検出する質量分析部と、
前記レーザ照射領域の位置を調整する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記レーザ光の照射間隔ごとに前記レーザ照射領域の位置を調整する、質量分析装置。
【請求項2】
前記ビーム照射領域は、前記イオンビームの照射間隔ごとに位置が変更され、
前記制御部は、前記ビーム照射領域の位置の変更に追従して、前記レーザ照射領域の位置を調整する、請求項1に記載の質量分析装置。
【請求項3】
前記レーザ照射部は、前記レーザ光を出射する光源と、前記レーザ光の光路を変更する光路調整部と、を有し、
前記光路調整部は、電気光学効果スイッチと、非球面レンズと、を有する、請求項2に記載の質量分析装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記試料の上方からみたときに、前記ビーム照射領域に前記レーザ照射領域がかさなるように、前記レーザ照射領域の位置を調整する、請求項3に記載の質量分析装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記質量分析部が前記イオン粒子の質量を検出している間に、前記レーザ照射領域の位置を調整する、請求項3に記載の質量分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板中や、半導体基板上に形成された膜中に存在する元素の質量を分析する装置として、レーザ中性粒子スパッタ質量分析法(Sputtered Neutral Mass Spectroscopy:SNMS)を用いた質量分析装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2018/207842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本実施形態は、検出感度の低下を抑制し、検出時間を増加させることなく、広域の分析が可能な質量分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本実施形態の質量分析装置は、イオンビームをパルス状に出射して、試料の表面に設定されたビーム照射領域に前記イオンビームを照射するビーム照射部と、レーザ光をパルス状に出射して、前記試料の上方に設定されたレーザ照射領域に前記レーザ光を照射するレーザ照射部とを備える。また、前記イオンビームにより前記試料から放出された粒子が、前記レーザ光によりイオン化されたイオン粒子の質量を検出する質量分析部と、前記レーザ照射領域の位置を調整する制御部も備える。前記制御部は、前記レーザ光の照射間隔ごとに前記レーザ照射領域の位置を調整する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本発明の実施形態にかかる質量分析装置の構成例を示すブロック図である。
【
図2】試料に設定される観察領域を説明する図である。
【
図3】実施形態におけるレーザ照射部の詳細な構造を説明する図である。
【
図5】比較例におけるレーザ照射部の詳細な構造を説明する図である。
【
図6A】試料のスパッタからイオン化までの過程を説明する図である。
【
図6B】試料のスパッタからイオン化までの過程を説明する図である。
【
図6C】試料のスパッタからイオン化までの過程を説明する図である。
【
図6D】試料のスパッタからイオン化までの過程を説明する図である。
【
図7A】試料のスパッタからイオン化までの過程を説明する図である。
【
図7B】試料のスパッタからイオン化までの過程を説明する図である。
【
図7C】試料のスパッタからイオン化までの過程を説明する図である。
【
図7D】試料のスパッタからイオン化までの過程を説明する図である。
【
図8】実施形態の質量分析装置における各部位の動作のタイミングチャートである。
【
図9】実施形態の質量分析装置を用いた分析方法の手順の一例を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
【0008】
図1は、本発明の実施形態にかかる質量分析装置の構成例を示すブロック図である。本実施形態の質量分析装置1は、SNMSを用いた質量分析装置である。
図1に示すように、質量分析装置1は、ビーム照射部10と、レーザ照射部20と、質量分析部30と、制御部40と、可変電源50と、試料台60と、チャンバ70とを備える。
【0009】
イオン光源としてのビーム照射部10は、試料台60上に設置された試料100に、イオンビーム201をパルス状に照射する。イオンビーム201は、例えばガリウムイオンを含んだ収束イオンビーム(FIB)である。真空状態のチャンバ70内でイオンビーム201が試料100に照射されると、試料はスパッタされ、その表面から粒子が放出される。以下の説明において、試料台60上に設置された試料100の表面(イオンビーム201が照射される面)に平行な平面において直交する2方向をX方向、Y方向とする。また、試料100の表面に垂直な方向をZ方向とする。また、以下の説明において、Z方向正側を上方、負側を下方と示すこともある。イオンビーム201は、Z方向に沿って、試料100の表面に照射される。
【0010】
レーザ照射部20は、光源21と、レンズ部22とを有する。光源21は、例えばフェムト秒レーザの光源であって、レーザ光202をパルス状に射出する。レーザ光202は、レンズ部22で集光されて試料100の上方に照射される。レーザ光202は、XY平面に平行に照射される。例えば、
図1では、レーザ光202はX方向に沿って試料100の上方に照射される。試料100から放出された粒子は、試料100の上方において、レーザ光202によってイオン化される。レーザ光202によってイオン化されたイオン粒子は、質量分析部30で質量分析される。質量分析部30は、MCP(Micrо Channel Plate)38を有する。
【0011】
質量分析部30は、内部に引き込まれたイオン粒子を途中で方向が反転するように飛行させるリフレクトロン型である。質量分析部30には、複数の電極(図示せず)が、イオン粒子の軌道に沿って配置されている。これらの電極は、可変電源50に接続されている。可変電源50は、制御部40の制御に基づいて、各電極に印加する電圧を調整することができる。それぞれの電極に印可する電圧を調整することにより、質量分析部30に引き込まれたイオン粒子がMCP38に到達するように、軌道が調整される。
【0012】
MCP38は、イオン粒子を増幅して検出する。MCP38は、二次電子増倍管としてのマイクロチャネル(貫通孔)を複数有しており、MCP38に到達したイオン粒子は、それぞれのマイクロチャネルの一方の開口部からマイクロチャネル内に入射される。マイクロチャネル内に入射されたイオン粒子が、マイクロチャネルの内壁に衝突することで、2つ以上の二次電子が放出される。放出された二次電子もチャネルの内壁に衝突し、更なる二次電子の放出が繰り返される(二次電子のカスケード増倍)。このようにしてカスケード増倍された多数の二次電子は、マイクロチャネルの他方の開口部から放射電子として放出される。マイクロチャネルから放出された二次電子は、ADコンバータ(図示せず)によりデジタル信号に変換される。デジタル化された信号は、制御部40へ出力される。
【0013】
制御部40は、プロセッサとしての中央演算処理装置(CPU)41と、RAM42とを備えている。CPU41は、図示しないメモリに記憶されたプログラムに従って動作し、質量分析装置1を構成する各部位(ビーム照射部10、レーザ照射部20、可変電源50など、)の動作や設定を制御する制御機能を有すると共に、質量分析部30から出力される信号を分析するデータ分析機能も有する。すなわち、質量分析部30から入力された信号を分析し、試料100に含まれる元素を同定して元素ごとに質量を算出する。RAM42は、分析後のデータや各種設定値を格納する。
【0014】
次に、試料100に設定される観察領域100aについて説明する。
図2は、試料に設定される観察領域を説明する図である。試料100の観察を行う場合、まず、試料100の表面に観察領域100aを設定する。例えば、200μm×200μmの矩形領域が観察領域100aとして設定される。観察領域100aには、イオンビーム201の照射領域であるスポット201rが設定される。例えば、スポット201rの大きさは、数十nm~数百nm程度である。例えば、スポット201rの位置を、
図2の矢印付き点線で示すようにラスタースキャン方式で移動させながら、観察領域100aをイオンビーム201でくまなく走査する。このような走査によって、観察領域100aの全体をスパッタリングし、表面から粒子を放出させることができる。一方、観察領域100aの上方には、レーザ光の照射領域202rが設定される。中性粒子のトンネルイオン化には、高い光子密度(10^14W/cm
2)が必要である。このため、レーザ光202は、直径100μm程度まで集光され、かつ、短パルス幅(例えば、100fs程度)で照射される必要がある。従って、レーザ光の照射領域202rは、例えば
図2に示すように、焦点位置を中心とする直径100μm程度の円形領域となる。 照射領域202rは、観察領域100aよりも面積が小さく、全てのスポット201rの上方をカバーするためには、イオンビーム201が照射されるスポット201rの位置に応じて照射領域202rの位置を変更しながら分析を行う必要がある。観察領域100aの表面から放出された中性粒子を効率よくイオン化するためには、スポット201rの上方において、レーザ光202の光子密度が高いことが好ましい。照射領域202r内におけるレーザ光202の光子密度は、焦点位置が最も高く、焦点位置から離れるにつれて低下する傾向にある。このため、Z方向から見たときに、スポット201rとレーザ光202の焦点位置が一致することが好ましい。
【0015】
図6A~
図6D、
図7A~
図7Dは、試料のスパッタからイオン化までの過程を説明する図である。
図6A~
図6Dは、照射領域202rの位置を変更せずに分析を行う場合の図である。
図7A~
図7Dは、照射領域202rの位置を変更しながら分析を行う場合の図である。
図6A~
図6D、
図7A~
図7Dにおいて、レーザ光202のビーム径が最も小さい位置(図面において、Z方向の幅が最も小さい位置)を焦点位置とする。また、イオンビーム201の光軸が試料100の表面に交わる位置を、スポット201rの中心位置とする。
【0016】
以下、照射領域202rの位置を変更せずに、焦点位置が固定された状態での分析について説明する。まず、レーザ光202の焦点位置とスポット201rの中心位置とがずれた状態で、イオンビーム201が試料100表面に照射される(
図6A)。この状態で試料100の表面がスパッタされて粒子が放出されると、レーザ光202によって、これらの粒子がイオン化される(
図6B)。このとき、スポット201rの上方におけるレーザ光202の光子密度に応じて、放出された粒子の一部がイオン化される。すなわち、放出された粒子の一部はイオン化されてイオン粒子P2となって質量分析部30に引き込まれ、残りの粒子は中性粒子P1のまま質量分析部30に引き込まれる。
図6Bは、例えば、イオン化効率が10%程度の状態を示している。次に、スポット201rの位置が移動され、レーザ光202の焦点位置とスポット201rの中心位置とが一致した状態で、イオンビーム201が試料100表面に照射される(
図6C)。この状態で試料100の表面がスパッタされて粒子が放出されると、レーザ光202によって、これらの粒子がイオン化される(
図6D)。このとき、スポット201rの上方におけるレーザ光202の光子密度は、
図6Bに示す状態での光子密度よりも高い。光子密度が高いほどイオン化される割合が高くなるため、
図6Dの状態におけるイオン化効率は、
図6Bの状態に比べて高くなる。
図6Dは、例えば、イオン化効率が45%程度の状態を示している。
【0017】
次に、照射領域202rの位置を変更しながら分析を行う場合について説明する。まず、焦点位置とスポット201rの中心位置とを合わせた状態で、イオンビーム201が試料100表面に照射される(
図7A)。この状態で、試料100の表面がスパッタされて粒子が放出されると、レーザ光202によって、これらの粒子がイオン化される(
図7B)。
図7Bの状態は、
図6Dの状態と同様であるので、イオン化効率も同程度(例えば、45%程度)である。次に、スポット201rの位置が移動される(
図7C)。このとき、レーザ光202の焦点位置とスポット201rの中心位置とが一致するように、レーザ光202の照射領域202rも移動される。この状態で、試料100の表面がスパッタされて粒子が放出されると、レーザ光202によって、これらの粒子がイオン化される(
図7D)。
図7Dの状態は、
図7Bの状態と同様であるので、イオン化効率も同程度(例えば、45%程度)である。
【0018】
照射領域202rの位置を変更せずに分析を行う場合、スポット201rの位置によって試料100から放出された粒子のイオン化効率が変化する。照射領域202rの位置とスポット201rの位置とのずれが大きくなるほどイオン化効率が悪くなる。イオン化効率が悪くなると、質量分析部30で検出できるイオン粒子が少なくなり、検出感度が低下する。一方、照射領域202rの位置を変更しながら分析を行う場合、スポット201rの位置によらず、高いイオン化効率を保持することができる。故に、検出感度を低下させることなく、分析を行うことができる。
【0019】
実施形態の質量分析装置1は、レーザ光202の照射領域202rの位置を調整する機構を、レーザ照射部20に備えている。
図3は、実施形態におけるレーザ照射部の詳細な構造を説明する図である。光路調整部としてのレンズ部22は、電気光学効果スイッチ221と、非球面レンズ222とを備える。電気光学効果スイッチ221と非球面レンズ222は、レーザ光202の光路上に、この順に配置される。
【0020】
図4は、電気光学効果スイッチを説明する図である。
図4に示すように、電気光学効果スイッチ221は、電気光学結晶221aと可変電圧源221bとを有する。より具体的には、電気光学結晶221aの上面と下面にそれぞれ設けられた電極に、可変電圧源221bが接続されている。可変電圧源221bによって電気光学結晶221aに印可する電圧を調整することによって、電気光学結晶221aの屈折率が変化する。実施形態の電気光学効果スイッチ221は、例えば、ホウ酸バリウムの結晶であるBBO結晶からなるポッケルスセルである。ポッケルスセルは、当該セルを透過する光の屈折率を、印可される電圧の1次関数として変化させる。すなわち、可変電圧源221bによって電気光学結晶221aに印可する電圧を調整することで、電気光学結晶221aから出射されるレーザ光202の方向を、電気光学結晶221aに入射されるレーザ光202の方向に対し所望の角度の方向に変更することができる。すなわち、電気光学効果スイッチ221により、入射されるレーザ光202の方向に対して、出射されるレーザ光202の方向を変更することができる。可変電圧源221bによる電気光学結晶221aへの印可電圧は、例えば、制御部40によって設定される。また、非球面レンズ222は、レーザ光202の入射位置によらず、光軸と略平行にレーザ光202を出射することができるように構成されている。
【0021】
このように、実施形態のレーザ照射部20は、光源21から出射されたレーザ光202の光路を、電気光学効果スイッチ221と非球面レンズ222によって変更することができる。これにより、観察領域100a上におけるレーザ光202の照射領域202rの位置を、所望の位置に調整することができる。レーザ光202の照射領域202rの位置を、スポット201rの位置の移動に追従して調整することで、検出感度を低下させることなく、広範囲の分析が可能になる。
【0022】
図5は、比較例におけるレーザ照射部の詳細な構造を説明する図である。比較例のレーザ照射部20のレンズ部22'は、ミラー223と球面レンズ224とを備える。光源21から出射されたレーザ光202は、ミラー223により光路の方向が調整された後、球面レンズ224を通り、光軸上の焦点位置に向かって出射される。
図5に示す比較例の構造の場合、レーザ光202の照射領域202rの位置を変更する場合、ミラー223の位置を移動させたり、ミラー223に対するレーザ光202の入射角度を変更したり、球面レンズ224の位置を調整してレーザ光202の焦点位置を変更したりする必要がある。すなわち、レーザ光202の照射領域202rの位置を変更するために、ミラー223と球面レンズ224の配置を機械的に調整する必要がある。このため、レーザ光202の照射位置を変更するために、例えば、数sec程度の時間を要する。
【0023】
これに対し、
図3に示す実施形態の装置では、電気光学結晶221aに印可する電圧を調整することで、レーザ光202の照射領域202rの位置を変更することができる。すなわち、電気的な調整によって、レーザ光202の照射領域202rの位置を変更することができる。このため、例えば、数十nsから数百ns程度の時間で、レーザ光202の照射領域202rの位置を変更することができる。
【0024】
図8は、実施形態の質量分析装置における各部位の動作のタイミングチャートである。
図8において、横軸は時間を示している。実施形態の質量分析装置1は、まず、最初の20ns~400nsで、観察領域100aにイオンビーム201を照射して試料100をスパッタリングし、粒子を放出させる。続く190fs程度の間に、レーザ光202を照射して放出された粒子をイオン化する。その後、約60μsの間に質量分析部30においてイオン粒子を検出する。このように、観察領域100aにおける1つのスポット201rの分析には、約100μsの時間を要する。実施形態の質量分析装置1は、例えば500ns程度の時間でレーザ光202の照射領域202rの位置を変更することができる。従って、質量分析部30においてイオン粒子を検出する間に、照射領域202rの位置を変更することができる。このように、実施形態の質量分析装置1は、1つのスポット201rについて分析を行っている間に、次のスポット201rの位置にあわせて照射領域202rの位置を変更することができる。故に、分析時間を増加させることなく、広範囲の分析が可能である。
【0025】
また、比較例の質量分析装置では、ミラー223を大きく動かすと、レーザ光202の反射率が変化したりコヒーレンシーが変化したりする懸念がある。これにより、観察領域100a上に照射されるレーザ光202の強度が低下するため、粒子のイオン化率が低下して検出感度が低下する可能性がある。これに対し、実施形態の質量分析装置1は、低抵抗の電気光学結晶221aを用いることで、レーザ光202の反射率の変化やコヒーレンシーの変化が生じにくい。これにより、観察領域100a上に照射されるレーザ光202の強度は低下しにくいので、粒子のイオン化率の低下にともなう検出感度の低下を抑制することができる。
【0026】
なお、上述では、ビーム照射部10は、1本のイオンビーム201を照射する構成としているが、同時に複数のイオンビームを照射可能な構成とし、複数のスポット201rのそれぞれに対してイオンビームを照射するようにしてもよい。
【0027】
次に、実施形態の質量分析装置1を用いた分析方法について、
図9を用いて説明する。
図9は、実施形態の質量分析装置を用いた分析方法の手順の一例を説明するフローチャートである。まず、試料100の表面に、分析対象領域としての観察領域100aを設定する(S1)。次に、イオンビーム201の照射位置を、最初の位置に設定する(S2)。例えば、
図2に示す観察領域100aの場合、左上端のスポット201rを、最初の照射位置として設定する。続いて、照射領域202rがS2で設定したスポット201rの位置とかさなるように、レーザ光202の光路を調整する(S3)。そして、S2で設定したスポット201rの位置にイオンビーム201を照射して、試料100をスパッタリングし、粒子を放出させる(S4)。続いてレーザ光202を照射し、S4で放出された粒子をイオン化する(S5)。
【0028】
次に、S4で放出された粒子(中性粒子、イオン粒子含む)を質量分析部30に引き込み、質量分析を行う(S6)。S6と並行して、レーザ光202の光路の調整の要否を判定する(S7)。現在の照射領域202rの位置が、次に設定されるスポット201rの位置とずれており、光路の調整が必要である場合(S7、YES)、S6と並行して、レーザ光202の光路を調整する(S8)。一方、レーザ光202光路の調整が不要である場合(S7、NO)、S8は実行せず、S6の終了後にS9を実行する。
【0029】
S6の質量分析が終了し、(S8を実行する場合は)S8の光路調整も終了したら、観察領域100aの全域について、イオンビーム201を照射したか否かを判定する(S9)。イオンビーム201を照射していない領域がある場合(S9、NO)、イオンビーム201の照射位置を、次の位置に設定し(S10)、S4からS9の一連の手順を繰り返す。観察領域100aの全域にイオンビーム201を照射した場合(S9、YES)、試料100の分析を終了する。
【0030】
このように、実施形態の分析方法によれば、スポット201rの位置を移動しながら観察領域100aの分析を行う際に、一のスポット201rについて質量分析を行っている間に、次のスポット201rの位置にあわせてレーザ光202の光路を調整する。従って、検出感度の低下を抑制し、検出時間を増加させることなく、広域の分析が可能となる。
【0031】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、一例として示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0032】
1…質量分析装置、10…ビーム照射部、20…レーザ照射部、21…光源、22…レンズ部、30…質量分析部、38…MCP、40…制御部、41…CPU、42…RAM、50…可変電源、60…試料台、70…チャンバ、100…試料、201…イオンビーム、202…レーザ光、221…電気光学効果スイッチ、222…非球面レンズ、