(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134519
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】液晶配向剤、液晶配向膜及びその製造方法、並びに液晶素子
(51)【国際特許分類】
G02F 1/1337 20060101AFI20240926BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20240926BHJP
C08L 79/08 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
G02F1/1337 525
C08G73/10
C08L79/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024008163
(22)【出願日】2024-01-23
(31)【優先権主張番号】P 2023044277
(32)【優先日】2023-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100122390
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 美穂
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(72)【発明者】
【氏名】藤下 翔平
(72)【発明者】
【氏名】田中 尊書
【テーマコード(参考)】
2H290
4J002
4J043
【Fターム(参考)】
2H290AA15
2H290AA18
2H290AA33
2H290AA53
2H290AA73
2H290BD01
2H290BF13
2H290BF24
2H290BF25
2H290BF54
2H290DA01
2H290DA03
4J002CM041
4J002EH096
4J002EH136
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4J002FD146
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4J043PA19
4J043PC066
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4J043QB15
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4J043SB01
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4J043SB04
4J043SB05
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4J043TB03
4J043UA022
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4J043UA131
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4J043UB011
4J043UB121
4J043UB131
4J043UB161
4J043UB211
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4J043VA011
4J043VA021
4J043XA04
4J043XA19
4J043YA08
4J043ZB23
(57)【要約】 (修正有)
【課題】液晶配向性、電圧保持特性、電圧保持率に対する信頼性及び膜強度に優れた液晶配向膜を得ることができ、かつ電荷の蓄積に起因する残像が十分に抑制された液晶素子を得ることができる液晶配向剤を提供すること。
【解決手段】(A)重合体:式(1)で表される部分構造を有するジアミンを含むジアミン化合物に由来する構造単位を有する重合体を含む重合体成分と、(B)化合物:求核性官能基又は酸性官能基中のヘテロ原子に結合する1個以上の水素原子が熱及び光の少なくともいずれかにより脱離する脱離性基に置き換えられた部分構造(T)を1分子内に3個以上有する化合物(ただし、重合体を除く。)と、を含有し、重合体成分における、式(1)で表される部分構造を有するジアミンに由来する構造単位の含有割合が、重合体成分中のジアミン化合物に由来する構造単位の全量1モルに対して0.13モル以上である液晶配向剤とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)重合体:
(A)重合体:下記式(1)で表される部分構造を有するジアミンを含むジアミン化合物に由来する構造単位を有する重合体
を含む重合体成分と、下記の(B)化合物:
(B)化合物:求核性官能基又は酸性官能基中のヘテロ原子に結合する1個以上の水素原子が熱及び光の少なくともいずれかにより脱離する脱離性基に置き換えられた部分構造(T)を1分子内に3個以上有する化合物(ただし、重合体を除く。)
と、を含有し、
前記重合体成分における、下記式(1)で表される部分構造を有するジアミンに由来する構造単位の含有割合が、前記重合体成分中のジアミン化合物に由来する構造単位の全量1モルに対して0.13モル以上である、液晶配向剤。
【化1】
(式(1)中、Ar
1は2価の芳香環基である。Ar
2及びR
1は、Ar
2が2価の芳香環基であって、R
1が水素原子若しくは1価の有機基であるか、又はAr
2及びR
1が互いに合わせられて、Ar
2及びR
1が結合する窒素原子と共に構成される窒素含有芳香族縮合環構造を表す。「*」は結合手を表す。)
【請求項2】
前記求核性官能基は、窒素原子、硫黄原子又は酸素原子に水素原子が結合した構造を有し、
前記(B)化合物は、前記部分構造(T)として、前記求核性官能基中の窒素原子、硫黄原子又は酸素原子に結合する1個以上の水素原子が前記脱離性基に置き換えられた部分構造を1分子内に3個以上有する、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項3】
前記(B)化合物は、下記式(2)で表される化合物である、請求項1に記載の液晶配向剤。
【化2】
(式(2)中、X
1及びX
5は、互いに独立して、窒素原子、硫黄原子、酸素原子、又は下記式(x-1)で表される基である。Y
1は前記脱離性基である。R
2a及びR
2bは、互いに独立して、水素原子又は1価の有機基である。R
3は(k1+k2)価の有機基である。k1は、X
1が硫黄原子又は酸素原子である場合に3以上の整数であり、X
1が窒素原子又は下記式(x-1)で表される基である場合に2以上の整数である。ただし、k1=2の場合、R
3は、窒素原子に結合する前記脱離性基を1個以上有する。X
1が硫黄原子又は酸素原子である場合、m=1かつn1=0であり、X
1が窒素原子又は下記式(x-1)で表される基である場合、mは1又は2かつ(m+n1)=2を満たす。k2は0~2の整数である。n2は、X
5が硫黄原子又は酸素原子である場合に1であり、X
5が窒素原子又は下記式(x-1)で表される基である場合に2である。式中の複数のX
1は同一又は異なる。式中にY
1が複数存在する場合、複数のY
1は同一又は異なり、式中にR
2aが複数存在する場合、複数のR
2aは同一又は異なる。式中にX
5が複数存在する場合、複数のX
5は同一又は異なる。式中にR
2bが複数存在する場合、複数のR
2bは同一又は異なる。)
【化3】
(式(x-1)中、R
4は、水素原子又は炭素数1~10の1価の炭化水素基である。「*」は結合手を表す。ただし、式(x-1)中のカルボニル基が上記式(2)中のR
3に結合している。)
【請求項4】
前記R3は、芳香環を有しない(k1+k2)価の基である、請求項3に記載の液晶配向剤。
【請求項5】
前記R3は、(k1+k2)価の鎖状炭化水素基であるか、又は、鎖状炭化水素基の炭素-炭素結合間に-O-、-S-、-CO-、-COO-、-NR5-、-CO-NR5-、-NR5-CO-O-、-NR5-CO-NR6-、-CO-NR5-NR6-、窒素原子若しくは非芳香族複素環を含む(k1+k2)価の基(ただし、R5及びR6は、互いに独立して、水素原子又は炭素数1~10の1価の有機基である。)である、請求項3に記載の液晶配向剤。
【請求項6】
前記酸性官能基は、カルボン酸基、リン酸基、亜リン酸基又はスルホン酸基であり、
前記(B)化合物は、前記部分構造(T)として、前記酸性官能基中のヘテロ原子に結合する1個以上の水素原子が前記脱離性基に置き換えられた部分構造を1分子内に3個以上有する、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項7】
前記(B)化合物は、下記式(3)で表される化合物を含む、請求項1に記載の液晶配向剤。
【化4】
(式(3)中、X
4は、カルボン酸基、リン酸基、亜リン酸基又はスルホン酸基である。X
5は、保護されたカルボン酸基、保護されたリン酸基、保護された亜リン酸基、又は保護されたスルホン酸基である。R
7は、(i+j)価の有機基である。iは0~2の整数である。jは3以上の整数である。iが2の場合、複数のX
4は同一又は異なる。式中の複数のX
5は同一又は異なる。)
【請求項8】
前記(A)重合体は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリウレア及びポリアミドイミドよりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項9】
前記重合体成分として、上記式(1)で表される部分構造を有しない重合体を更に含有する、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか一項に記載の液晶配向剤を基板上に塗布し、該塗布した後にラビング処理又は光照射処理を施して液晶配向能を付与する、液晶配向膜の製造方法。
【請求項12】
請求項10に記載の液晶配向膜を備える液晶素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶配向剤、液晶配向膜及びその製造方法、並びに液晶素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶素子は、液晶層中の液晶分子の配向を制御する機能を有する液晶配向膜を備えている。液晶配向膜は一般に、重合体成分が有機溶媒に溶解されてなる液晶配向剤を基板表面に塗布し、好ましくは加熱することによって基板上に形成される。
【0003】
近年、大画面で高精細な液晶テレビが主体となり、またスマートフォンやタブレットPC等といった小型の表示端末の普及が進み、液晶素子に対する高品質化の要求は更に高まっている。こうした点に鑑み、液晶配向膜の性能を改善して液晶素子の各種特性を優れたものとするべく、種々の液晶配向剤が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、重合体成分と共に、多官能のエポキシ化合物等の架橋剤を液晶配向剤に含有させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
液晶配向膜の高機能化において、架橋剤の使用は有効な手段といえる。その一方で、架橋剤の使用による膜の高密度化に伴い、液晶素子の電圧保持率を十分に高くできない等の不都合が生じることがある。また近年、液晶素子においては力学特性が重要視されており、基本特性である液晶配向性と共に、膜強度を十分に高くすることが求められている。
【0006】
液晶素子への直流電圧の印加により液晶セル内に電荷が蓄積されると、観察者に残像(DC残像)として視認され、液晶素子の表示品位が低下してしまうことがある。そのため、液晶配向膜に対して要求される特性の1つとして電荷の蓄積が少ないことが挙げられ、液晶素子の更なる高品質化の要求に伴い、残像が一層生じにくい液晶素子を開発することが求められている。
【0007】
さらに、液晶素子の更なる高品質化の要求を満たすべく、バックライトの照射による電圧保持率の低下が少なく、信頼性が高いことが求められる。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、液晶配向性、電圧保持特性、電圧保持率に対する信頼性及び膜強度に優れた液晶配向膜を得ることができ、かつ電荷の蓄積に起因する残像が十分に抑制された液晶素子を得ることができる液晶配向剤を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、以下の手段が提供される。
[1] 下記の(A)重合体:
(A)重合体:下記式(1)で表される部分構造を有するジアミンを含むジアミン化合物に由来する構造単位を有する重合体
を含む重合体成分と、下記の(B)化合物:
(B)化合物:求核性官能基又は酸性官能基中のヘテロ原子に結合する1個以上の水素原子が熱及び光の少なくともいずれかにより脱離する脱離性基に置き換えられた部分構造(T)を1分子内に3個以上有する化合物(ただし、重合体を除く。)
と、を含有し、前記重合体成分における、下記式(1)で表される部分構造を有するジアミンに由来する構造単位の含有割合が、前記重合体成分中のジアミン化合物に由来する構造単位の全量1モルに対して0.13モル以上である、液晶配向剤。
【化1】
(式(1)中、Ar
1は2価の芳香環基である。Ar
2及びR
1は、Ar
2が2価の芳香環基であって、R
1が水素原子若しくは1価の有機基であるか、又はAr
2及びR
1が互いに合わせられて、Ar
2及びR
1が結合する窒素原子と共に構成される窒素含有芳香族縮合環構造を表す。「*」は結合手を表す。)
[2] 上記[1]の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜。
[3] 上記[1]の液晶配向剤を基板上に塗布し、該塗布した後にラビング処理又は光照射処理を施して液晶配向能を付与する、液晶配向膜の製造方法。
[4] 上記[2]の液晶配向膜を備える液晶素子。
【発明の効果】
【0010】
本発明の液晶配向剤によれば、上記の(A)重合体を含む重合体成分及び(B)化合物を含有し、かつ、上記式(1)で表される部分構造を有するジアミンに由来する構造単位を、重合体成分中に含まれるジアミン化合物に由来する構造単位の全量に対して所定量以上含むことにより、液晶配向性、電圧保持特性、電圧保持率に対する信頼性及び膜強度に優れた液晶配向膜を得ることができる。また、電荷の蓄積に起因する残像が十分に抑制された液晶素子を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
≪液晶配向剤≫
本開示の液晶配向剤は、特定の窒素含有構造を有する重合体(以下、「(A)重合体」ともいう)と、熱及び光の少なくともいずれかにより脱離する脱離性基を有する化合物(以下、「(B)化合物」ともいう)と、を含有する。以下に、液晶配向剤に含まれる各成分、及び必要に応じて任意に配合される成分(以下、「その他の成分」ともいう)について説明する。
【0012】
ここで、本明細書において、「炭化水素基」とは、鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基を含む意味である。「鎖状炭化水素基」とは、主鎖に環状構造を含まず、鎖状構造のみで構成された直鎖状炭化水素基及び分岐状炭化水素基を意味する。ただし、鎖状炭化水素基は飽和でも不飽和でもよい。「脂環式炭化水素基」とは、環構造としては脂環式炭化水素の構造のみを含み、芳香環構造を含まない炭化水素基を意味する。ただし、脂環式炭化水素基は脂環式炭化水素の構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造を有するものも含む。「芳香族炭化水素基」とは、環構造として芳香環構造を含む炭化水素基を意味する。ただし、芳香族炭化水素基は芳香環構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造や脂環式炭化水素の構造を含んでいてもよい。「芳香環」は、芳香族炭化水素環及び芳香族複素環を含む意味である。「有機基」とは、炭素を含む化合物(すなわち有機化合物)から任意の水素原子を取り除いてなる原子団をいう。
【0013】
重合体の「主鎖」とは、重合体のうち最も長い原子の連鎖からなる「幹」の部分をいう。この「幹」の部分が環構造を含むことは許容される。例えば、「特定構造を主鎖に有する」とは、その特定構造が主鎖の一部分を構成することをいう。「側鎖」とは、重合体の「幹」から分岐した部分をいう。「テトラカルボン酸誘導体」は、テトラカルボン酸二無水物、テトラカルボン酸ジエステル及びテトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物を含む意味である。
【0014】
<(A)重合体>
(A)重合体は、下記式(1)で表される部分構造(以下、「部分構造(AN)」ともいう)に由来するジアミンに由来する構造単位を有する重合体である。
【化2】
(式(1)中、Ar
1は2価の芳香環基である。Ar
2及びR
1は、Ar
2が2価の芳香環基であって、R
1が水素原子若しくは1価の有機基であるか、又はAr
2及びR
1が互いに合わせられて、Ar
2及びR
1が結合する窒素原子と共に構成される窒素含有芳香族縮合環構造を表す。「*」は結合手を表す。)
【0015】
上記式(1)において、Ar
1又はAr
2で表される2価の芳香環基は、置換又は無置換の芳香環の環部分から2個の水素原子を取り除いた基である。2価の芳香環基に含まれる芳香環は、芳香族炭化水素環及び芳香族複素環のいずれでもよい。また、当該芳香環は単環でもよく、縮合環でもよい。芳香族炭化水素環の具体例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環等が挙げられる。芳香族複素環の具体例としては、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、1,2,4-トリアゾール環、1,2,3-トリアゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ピラジン環、1,2,4-トリアジン環、1,3,5-トリアジン環、1,2,4-トリアジン環、カルバゾール環、ベンズイミダゾール環、キノリン環、イソキノリン環、インドール環、プリン環、アクリジン環、オキサゾール環、チアゾール環、オキサジアゾール環、ベンゾチアゾール環、下記式
【化3】
で表される環等の窒素含有複素環;フラン環、ベンゾフラン環、ジベンゾフラン環、オキサゾール環、オキサジアゾール環等の酸素含有複素環;チオフェン環、ジベンゾチオフェン環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環等の硫黄含有複素環等が挙げられる。
【0016】
Ar1又はAr2で表される2価の芳香環基は、上記の中でも、芳香族炭化水素環又は窒素含有複素環が好ましく、ベンゼン環、ナフタレン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、カルバゾール環、ベンズイミダゾール環又はキノリン環が好ましく、ベンゼン環、ピリジン環又はカルバゾール環がより好ましい。
【0017】
Ar1又はAr2で表される2価の芳香環基は、環部分に置換基を有していてもよい。当該置換基としては、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、熱脱離性基(例えば、tert-ブトキシカルボニル基等)等が挙げられる。
【0018】
Ar2が2価の芳香環基である場合、R1は水素原子又は1価の有機基である。R1で表される1価の有機基は、炭素数1~10の1価の炭化水素基又は1価の熱脱離性基であることが好ましい。炭素数1~10の1価の炭化水素基としては、炭素数1~10の1価の鎖状炭化水素基、炭素数3~10の1価の脂環式炭化水素基、炭素数6~10の1価の芳香族炭化水素基等が挙げられる。これらのうち、炭素数1~6のアルキル基、シクロヘキシル基又はフェニル基が好ましく、炭素数1~3のアルキル基がより好ましい。
【0019】
1価の熱脱離性基としては、tert-ブトキシカルボニル基(Boc基)、ベンジルオキシカルボニル基、1,1-ジメチル-2-ハロエチルオキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基、2-(トリメチルシリル)エトキシカルボニル基、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基(F-moc基)等が挙げられる。熱による脱離性に優れ、かつ脱離した構造の膜中における残存量を少なくできる点で、これらのうちBoc基が好ましい。
【0020】
Ar2及びR1が互いに合わせられて、Ar2及びR1が結合する窒素原子と共に構成される窒素含有芳香族縮合環構造を表す場合、当該窒素含有芳香族縮合環構造としては、ベンゾイミダゾール環構造、カルバゾール環構造が挙げられる。
【0021】
上記式(1)で表される部分構造の具体例としては、下記式(1-1)~式(1-16)のそれぞれで表される構造及び下記式で表される構造の環部分に置換基を有する構造等が挙げられる。
【化4】
(式(1-1)~式(1-16)中、「*」は結合手を表す。)
【0022】
なお、上記式(1)で表される構造が窒素含有芳香族縮合環を有する場合、上記式(1)で表され、かつ窒素含有芳香族縮合環を有する構造を有するジアミンに由来する構造単位を有する重合体は、上記式(1)で表される構造を有する重合体に該当する。例えば、上記式(1-2)、式(1-3)、式(1-5)、式(1-6)、式(1-8)、式(1-9)、式(1-11)、式(1-13)~式(1-16)のそれぞれで表される部分構造を有するジアミンに由来する構造単位を有する重合体は、上記式(1)で表される構造を有するジアミンに由来する構造単位を有する重合体に該当する。
【0023】
良好な電圧保持特性を示しながら蓄積電荷による残像の低減効果がより高い液晶素子を得ることができる点で、(A)重合体は、上記式(1)で表される部分構造を有することが好ましい。また、良好な液晶配向性を示しながら、膜強度をより良好にできる点で、(A)重合体は部分構造(AN)を主鎖に有することが好ましく、電圧保持特性をより良好にできる点で、(A)重合体は部分構造(AN)を側鎖に有することが好ましい。
【0024】
(A)重合体の主骨格は、ジアミン化合物に由来する構造単位を有すればよく、特に限定されない。(A)重合体としては、例えば、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリアミン、ポリエナミン、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリウレアを主骨格とする重合体が挙げられる。なお、ポリエナミンとは、ポリアミンのアミノ基の隣接位に炭素-炭素二重結合を有する重合体であり、例えば、ポリエナミノケトン、ポリエナミノエステル、ポリエナミノニトリル、ポリエナミノスルホニル等が挙げられる。
【0025】
(A)重合体は、液晶配向性及び電圧保持特性により優れた液晶素子を得ることができる点で、上記のうち、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリウレア及びポリアミドイミドよりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの中でも特に、(A)重合体は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、ポリアミック酸及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種であることが特に好ましい。
【0026】
(A)重合体は、液晶配向性が良好であり、電圧保持率が高く、かつ残留電荷の蓄積に起因する残像の発生が十分に抑制された液晶素子を得ることができる点、部分構造(AN)を有する単量体を合成又は入手しやすく、部分構造(AN)を重合体に導入しやすい点で、部分構造(AN)を有するジアミンに由来する構造単位を含むことが好ましい。(A)重合体において、部分構造(AN)を有するジアミンに由来する構造単位の割合は、(A)重合体を構成する構造単位(すなわち単量体単位)の全量に対して、1モル%以上が好ましく、5モル%以上がより好ましく、10モル%以上が更に好ましい。また、部分構造(AN)を有するジアミンに由来する構造単位の割合は、(A)重合体を構成する構造単位の全量に対して、例えば50モル%以下であり、40モル%以下が好ましい。
【0027】
次に、本開示の液晶配向剤に含まれる重合体の好ましい例について説明する。(A)重合体が、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種である場合、(A)重合体は、例えば、テトラカルボン酸誘導体とジアミン化合物とを縮重合する工程を含む方法により得ることができる。
【0028】
(ポリアミック酸)
(A)重合体がポリアミック酸である場合、部分構造(AN)を有するポリアミック酸(以下、「ポリアミック酸(A)」ともいう)は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを反応させることにより得ることができる。具体的な方法としては、下記の〔方法1〕が挙げられる。
〔方法1〕テトラカルボン酸二無水物と、部分構造(AN)を有するジアミン(以下、「特定ジアミン」ともいう)を含むジアミン化合物と、を縮重合する。
単量体の選択肢を多くでき、かつ単量体及び重合体の合成しやすさの観点から、〔方法1〕を用いることが好ましい。
【0029】
・テトラカルボン酸二無水物
ポリアミック酸の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、脂肪族テトラカルボン酸二無水物、芳香族テトラカルボン酸二無水物等を挙げることができる。脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、鎖状テトラカルボン酸二無水物及び脂環式テトラカルボン酸二無水物を含む。
【0030】
これらの具体例としては、鎖状テトラカルボン酸二無水物として、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物等を;
脂環式テトラカルボン酸二無水物として、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-3a,4,5,9b-テトラヒドロナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-8-メチル-3a,4,5,9b-テトラヒドロナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、2,4,6,8-テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン-2:4,6:8-二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物等を;
芳香族テトラカルボン酸二無水物として、ピロメリット酸二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメート、4,4’-カルボニルジフタル酸無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物等を;それぞれ挙げることができる。また、テトラカルボン酸二無水物としては、特開2010-97188号公報に記載のテトラカルボン酸二無水物を用いることができる。テトラカルボン酸二無水物としては、1種を単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0031】
ポリアミック酸の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物は、重合体の溶解性を高くできる点、及び良好な電気特性を示す液晶配向膜を得ることができる点で、脂肪族テトラカルボン酸二無水物を含むことが好ましく、脂環式テトラカルボン酸二無水物を含むことがより好ましい。脂肪族テトラカルボン酸二無水物の使用量は、ポリアミック酸の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物の全量に対して、20モル%以上が好ましく、40モル%以上がより好ましく、50モル%以上が更に好ましい。
【0032】
・ジアミン化合物
特定ジアミンは、部分構造(AN)を主鎖に有していてもよく、側鎖に有していてもよく、その両方に有していてもよい。また、特定ジアミンが有する部分構造(AN)の数は特に限定されない。特定ジアミンの具体例としては、上記式(1)で表される部分構造を有するジアミンとして、下記式(a1-1)~式(a1-16)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【化5】
【0033】
良好な電圧保持特性を示しながら蓄積電荷による残像の低減効果がより高い液晶素子を得ることができる点で、特定ジアミンとしては、上記式(1)で表される部分構造を有する化合物を好ましく使用することができる。また、良好な液晶配向性を示しながら、膜強度をより良好にできる点で、特定ジアミンは、部分構造(AN)を重合体の主鎖に導入可能な構造を有することが好ましく、電圧保持特性をより良好にできる点で、部分構造(AN)を重合体の側鎖に導入可能な構造を有することが好ましい。
【0034】
(A)重合体の合成に際しては、ジアミン化合物として特定ジアミンのみを用いてもよい。また、特定ジアミンと共に、部分構造(AN)を有しないジアミン(以下、「その他のジアミン」ともいう)を用いてもよい。その他のジアミンとしては公知の化合物を用いることができる。その他のジアミンとしては、例えば、脂肪族ジアミン、芳香族ジアミン、ジアミノオルガノシロキサンが挙げられる。脂肪族ジアミンは、鎖状ジアミン及び脂環式ジアミンを含む。
【0035】
その他のジアミンの具体例としては、鎖状ジアミンとして、メタキシリレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等を;脂環式ジアミンとして、1,4-ジアミノシクロヘキサン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)等を;
芳香族ジアミンとして、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエート、4,4’-ジアミノアゾベンゼン、3,5-ジアミノ安息香酸、1,5-ビス(4-アミノフェノキシ)ペンタン、1,2-ビス(4-アミノフェノキシ)エタン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)プロパン、1,6-ビス(4-アミノフェノキシ)ヘキサン、ビス[2-(4-アミノフェニル)エチル]ヘキサン二酸、1,4-ビス-(4-アミノフェニル)-ピペラジン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’-(フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-[4,4’-プロパン-1,3-ジイルビス(ピペリジン-1,4-ジイル)]ジアニリン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、4,4’-ジアミノスチルベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェニル)-ピペラジン、ビス[2-(4-アミノフェニル)エチル]ヘキサン二酸、4,4’-ジアミノジフェネチルウレア、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル等の主鎖型ジアミン;
ドデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、ペンタデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、ヘキサデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、ペンタデカノキシ-2,5-ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ-2,5-ジアミノベンゼン、コレスタニルオキシ-3,5-ジアミノベンゼン、コレステニルオキシ-3,5-ジアミノベンゼン、コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン、コレステニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン、3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニル、3,5-ジアミノ安息香酸コレステニル、3,5-ジアミノ安息香酸ラノスタニル、3,6-ビス(4-アミノベンゾイルオキシ)コレスタン、3,6-ビス(4-アミノフェノキシ)コレスタン、4-(4’-トリフルオロメトキシベンゾイロキシ)シクロヘキシル-3,5-ジアミノベンゾエート、1,1-ビス(4-((アミノフェニル)メチル)フェニル)-4-ブチルシクロヘキサン、3,5-ジアミノ安息香酸=5ξ-コレスタン-3-イル、下記式(E-1)
【化6】
(式(E-1)中、X
I及びX
IIは、それぞれ独立して、単結合、-O-、*-COO-又は*-OCO-(ただし、「*」はジアミノフェニル基側との結合手を示す。)である。R
Iは、炭素数1~3のアルカンジイル基である。R
IIは、単結合又は炭素数1~3のアルカンジイル基である。R
IIIは、炭素数1~20のアルキル基、アルコキシ基、フルオロアルキル基、又はフルオロアルコキシ基である。aは0又は1である。bは0~3の整数である。cは0~2の整数である。dは0又は1である。ただし、1≦a+b+c≦3である。)
で表される化合物等の側鎖型ジアミン等を;
ジアミノオルガノシロキサンとして、例えば、1,3-ビス(3-アミノプロピル)-テ
トラメチルジシロキサン等を;それぞれ挙げることができるほか、特開2010-97188号公報に記載のジアミンを用いることができる。ポリアミック酸の合成に際し、ジアミン化合物としては、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0036】
式(E-1)で表される化合物としては、例えば下記式(E-1-1)~式(E-1-4)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【化7】
【0037】
また、その他のジアミンの具体例としては、2,6-ジアミノピリジン、3,4-ジアミノピリジン、2,4-ジアミノピリミジン、3,6-ジアミノカルバゾール、N-メチル-3,6-ジアミノカルバゾール、3,6-ジアミノアクリジン、N-エチル-3,6-ジアミノカルバゾール、N-フェニル-3,6-ジアミノカルバゾール、下記式(a2-1)~式(a2-24)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【化8】
【化9】
(式(a2-15)中、tは1~10の整数である。)
【0038】
【0039】
液晶配向性が良好であって、電圧保持率が高く、かつ残留電荷の蓄積に起因する残像の発生が十分に抑制された液晶素子を得る観点から、ポリアミック酸(A)は、特定ジアミンに由来する構造単位を、ポリアミック酸(A)が有するジアミン化合物に由来する構造単位に対して2モル%以上有することが好ましい。ポリアミック酸(A)における特定ジアミンに由来する構造単位は、ポリアミック酸(A)が有するジアミン化合物に由来する構造単位に対して、5モル%以上がより好ましく、10モル以上が更に好ましく、15モル%以上がより更に好ましく、20モル%以上が特に好ましい。また、ポリアミック酸(A)における特定ジアミンに由来する構造単位は、ポリアミック酸(A)が有するジアミン化合物に由来する構造単位に対して、95モル%以下が好ましく、90モル以下がより好ましく、80モル%以下が更に好ましい。
【0040】
・ポリアミック酸(A)の合成
ポリアミック酸は、上記のようなテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを、必要に応じて分子量調整剤とともに反応させることにより得ることができる。ポリアミック酸(A)の合成反応に供されるテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との使用割合は、ジアミン化合物のアミノ基1当量に対して、テトラカルボン酸二無水物の酸無水物基が0.2~2当量となる割合が好ましい。分子量調整剤としては、例えば、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水イタコン酸等の酸一無水物、アニリン、シクロヘキシルアミン、n-ブチルアミン等のモノアミン化合物、フェニルイソシアネート、ナフチルイソシアネート等のモノイソシアネート化合物等を挙げることができる。分子量調整剤の使用割合は、使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の合計100質量部に対して、20質量部以下とすることが好ましい。
【0041】
ポリアミック酸(A)の合成反応は、好ましくは有機溶媒中において行われる。このときの反応温度は-20℃~150℃が好ましく、反応時間は0.1~24時間が好ましい。
反応に使用する有機溶媒としては、例えば非プロトン性極性溶媒、フェノール系溶媒、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素、炭化水素等を挙げることができる。特に好ましい有機溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルトリアミド、m-クレゾール、キシレノール及びハロゲン化フェノールよりなる群から選択される1種以上を溶媒として使用するか、あるいはこれらの1種以上と、他の有機溶媒(例えば、ブチルセロソルブ、ジエチレングリコールジエチルエーテル等)との混合物を使用することが好ましい。有機溶媒の使用量(a)は、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの合計量(b)が、反応溶液の全量(a+b)に対して、0.1~50質量%になる量とすることが好ましい。
【0042】
以上のようにして、ポリアミック酸(A)を溶解してなる反応溶液が得られる。この反応溶液はそのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液中に含まれるポリアミック酸(A)を単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。
【0043】
(ポリイミド)
(A)重合体がポリイミドである場合、当該ポリイミド(以下、「ポリイミド(A)」ともいう)は、例えば、ポリアミック酸(A)を脱水閉環してイミド化することにより得ることができる。ポリイミド(A)は、イミド化率が20~90%であることが好ましく、30~85%であることがより好ましい。なお、イミド化率は、ポリイミドのアミック酸構造の数とイミド環構造の数との合計に対するイミド環構造の数の占める割合を百分率で表したものである。
【0044】
ポリアミック酸(A)の脱水閉環は、好ましくはポリアミック酸(A)を有機溶媒に溶解し、この溶液中に脱水剤及び脱水閉環触媒を添加し、必要に応じて加熱する方法により行われる。この方法において、脱水剤としては、例えば無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸等の酸無水物を用いることができる。脱水剤の使用量は、ポリアミック酸(A)のアミック酸構造の1モルに対して0.01~20モルとすることが好ましい。脱水閉環触媒としては、例えばピリジン、コリジン、ルチジン、トリエチルアミン等の3級アミンを用いることができる。脱水閉環触媒の使用量は、使用する脱水剤1モルに対して0.01~10モルとすることが好ましい。
【0045】
脱水閉環反応に用いられる有機溶媒としては、ポリアミック酸(A)の合成に用いられるものとして例示した有機溶媒を挙げることができる。脱水閉環反応の反応温度は、好ましくは0~180℃である。反応時間は、好ましくは1.0~120時間である。なお、ポリイミド(A)を含有する反応溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に用いられてもよい。また、反応溶液中からポリイミド(A)を単離し、単離したポリイミド(A)を液晶配向剤の調製に用いてもよい。ポリイミド(A)は、ポリアミック酸エステルの脱水閉環により得ることもできる。
【0046】
なお、(A)重合体としてのポリアミック酸エステル及びポリアミドイミドについてもポリアミック酸(A)及びポリイミド(A)と同様に、重合に際しモノマーとして特定ジアミンを用いることにより得ることができる。具体的には、ポリアミック酸エステルは、テトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物と、特定ジアミンを含むジアミン化合物とを反応させる方法等によって得ることができる。ポリアミドイミドは、トリカルボン酸誘導体と、特定ジアミンを含むジアミン化合物とを反応させる方法等によって得ることができる。また、ポリウレアは、ジイソシアネート化合物と、特定ジアミンを含むジアミン化合物とを反応させる方法等によって得ることができる。
【0047】
(A)重合体の溶液粘度は、濃度10質量%の溶液としたときに10~800mPa・sの溶液粘度を持つものであることが好ましく、15~500mPa・sの溶液粘度を持つものであることがより好ましい。なお、溶液粘度(mPa・s)は、(A)重合体の良溶媒(例えば、γ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン等)を用いて調製した濃度10質量%の重合体溶液につき、E型回転粘度計を用いて25℃において測定した値である。
【0048】
(A)重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000~500,000であり、より好ましくは2,000~300,000である。Mwと、GPCにより測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)との比で表される分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは7以下であり、より好ましくは5以下である。
【0049】
液晶配向剤中における(A)重合体の含有割合は、液晶配向剤に含まれる固形分の全量(すなわち、液晶配向剤の溶媒以外の成分の合計質量)に対して、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上が更に好ましい。
【0050】
<(B)化合物>
(B)化合物は、求核性官能基又は酸性官能基中のヘテロ原子に結合する1個以上の水素原子が熱及び光の少なくともいずれかにより脱離する脱離性基(以下、単に「脱離性基」ともいう)に置き換えられた部分構造(T)を1分子内に3個以上有する化合物である。ただし、(B)化合物は、重合体とは異なる化合物である。したがって、(B)化合物は(A)重合体とは異なる成分として液晶配向剤中に配合される。(B)化合物の分子量は、膜強度を高める観点から、好ましくは3,000以下であり、より好ましくは2,000以下であり、更に好ましくは1,000以下であり、より更に好ましくは800以下である。
【0051】
(B)化合物としては、部分構造(T)として、求核性官能基中のヘテロ原子に結合する1個以上の水素原子が脱離性基に置き換えられた部分構造を1分子内に3個以上有する化合物(以下、「化合物(B1)」ともいう)、酸性官能基中のヘテロ原子に結合する1個以上の水素原子が脱離性基に置き換えられた部分構造を1分子内に3個以上有する化合物(以下、「化合物(B2)」ともいう)が挙げられる。
【0052】
・化合物(B1)
化合物(B1)において、求核性官能基としては、1級アミノ基、2級アミノ基、チオール基、ヒドロキシ基等が挙げられる。なお、ヒドロキシアルキルアミド基に含まれるヒドロキシ基は求核性官能基には該当しない。化合物(B1)は、複数個の求核性官能基のうち一部が脱離性基によって保護されていてもよく、複数個の求核性官能基の全部が脱離性基によって保護されていてもよい。液晶配向剤の保存安定性を向上させる観点からすると、求核性官能基の全部が脱離性基によって保護されていることが好ましい。
【0053】
なお、化合物(B1)において、求核性官能基としての1級アミノ基が脱離性基によって保護されている場合、1級アミノ基に結合する2個の水素原子のうち1個のみが脱離性基に置き換えられていてもよく、両方の水素原子が脱離性基に置き換えられていてもよい。1級アミノ基に結合する2個の水素原子のうち1個のみが脱離性基に置き換えられている場合及び2個の水素原子が脱離性基にそれぞれ置き換えられている場合のいずれも、部分構造(T)の数としては1個として数えられる。すなわち、(B)化合物が有する部分構造(T)の数は、脱離性基によって保護された求核性官能基又は酸性官能基の数を表す。
【0054】
化合物(B1)は、求核性官能基中のヘテロ原子に結合する1個以上の水素原子が脱離性基に置き換えられた部分構造と共に、酸性官能基中のヘテロ原子に結合する1個以上の水素原子が脱離性基に置き換えられた部分構造を有していてもよい。ただし、液晶配向剤の保存安定性を高める観点からすると、化合物(B1)は酸性官能基(すなわち、保護されていない酸性官能基)を有しないことが好ましい。
【0055】
化合物(B1)が有する脱離性基は、熱により脱離する基であることが好ましい。窒素原子に結合する水素原子を置換する脱離性基としては、例えば、カルバメート系脱離性基、アミド系脱離性基、イミド系脱離性基、スルホンアミド系脱離性基等が挙げられる。これらのうち、熱による脱離性が高い点で、カルバメート系脱離性基が好ましく、その具体例としては、tert-ブトキシカルボニル基(Boc基)、ベンジルオキシカルボニル基、1,1-ジメチル-2-ハロエチルオキシカルボニル基、1,1-ジメチル-2-シアノエチルオキシカルボニル基、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基(Fmoc基)、アリルオキシカルボニル基、2-(トリメチルシリル)エトキシカルボニル基等が挙げられる。これらのうち、熱による脱離性に優れ、かつ脱保護した構造に由来する化合物の膜中における残存量を少なくできる点で、tert-ブトキシカルボニル基(Boc基)が特に好ましい。
【0056】
酸素原子又は硫黄原子に結合する水素原子を置換する脱離性基としては、例えば、メチル基、エチル基、tert-ブチル基、ベンジル基、p-メトキシベンジル基、トリチル基等のエーテル系脱離性基;メトキシメチル基、エトキシエチル基、2-テトラヒドロピラニル基等のアセタール系脱離性基;アセチル基、ピバロイル基、ベンゾイル基、トリクロロアセチル基等のアシル系脱離性基;アリル基、メタリル基等のアリル系脱離性基;tert-ブトキシカルボニル基等のカルバメート系脱離性基;トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基等のシリルエーテル系脱離性基が挙げられる。熱による脱離しやすさと保存安定性との両立を図る観点から、酸素原子又は硫黄原子に結合する水素原子を置換する脱離性基は、炭素数1~7のアルキル基、2-テトラヒドロピラニル基、メトキシメチル基、1-エトキシエチル基、又はアセチル基であることが好ましい。
【0057】
化合物(B1)が有する部分構造(T)の数は3個以上であればよい。良好な液晶配向性を示す液晶素子を得る観点から、化合物(B1)が有する部分構造(T)の数は12個以下が好ましく、10個以下がより好ましく、8個以下が更に好ましい。
【0058】
化合物(B1)の好ましい具体例としては、下記式(2)で表される化合物が挙げられる。
【化11】
(式(2)中、X
1及びX
5は、互いに独立して、窒素原子、硫黄原子、酸素原子、又は下記式(x-1)で表される基である。Y
1は脱離性基である。R
2a及びR
2bは、互いに独立して、水素原子又は1価の有機基である。R
3は(k1+k2)価の有機基である。k1は、X
1が硫黄原子又は酸素原子である場合に3以上の整数であり、X
1が窒素原子又は下記式(x-1)で表される基である場合に2以上の整数である。ただし、k1=2の場合、R
3は、窒素原子に結合する脱離性基を1個以上有する。X
1が硫黄原子又は酸素原子である場合、m=1かつn1=0であり、X
1が窒素原子又は下記式(x-1)で表される基である場合、mは1又は2かつ(m+n1)=2を満たす。k2は0~2の整数である。n2は、X
5が硫黄原子又は酸素原子である場合に1であり、X
5が窒素原子又は下記式(x-1)で表される基である場合に2である。式中の複数のX
1は同一又は異なる。式中にY
1が複数存在する場合、複数のY
1は同一又は異なり、式中にR
2aが複数存在する場合、複数のR
2aは同一又は異なる。式中にX
5が複数存在する場合、複数のX
5は同一又は異なる。式中にR
2bが複数存在する場合、複数のR
2bは同一又は異なる。)
【化12】
(式(x-1)中、R
4は、水素原子又は炭素数1~10の1価の炭化水素基である。「*」は結合手を表す。ただし、式(x-1)中のカルボニル基が上記式(2)中のR
3に結合している。)
【0059】
上記式(2)において、X1又はX5が上記式(x-1)で表される基である場合、式(x-1)中のR4における1価の炭化水素基としては、炭素数1~10のアルキル基、炭素数3~10のシクロアルキル基、炭素数6~10のアリール基、炭素数6~10のアラルキル基等が挙げられる。R4は、水素原子、炭素数1~10のアルキル基又はフェニル基が好ましく、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基がより好ましい。
X1は、脱離性基の脱離により生じた基の架橋反応性が高い点で、上記のうち、窒素原子、硫黄原子又は上記式(x-1)で表される基が好ましく、窒素原子又は上記式(x-1)で表される基がより好ましい。
X5は、架橋反応性が高い点で、上記のうち、窒素原子、硫黄原子又は上記式(x-1)で表される基が好ましく、窒素原子又は上記式(x-1)で表される基がより好ましい。
【0060】
Y1は、熱により脱離する基であることが好ましい。X1が窒素原子又は上記式(x-1)で表される基である場合のY1、X1が酸素原子又は硫黄原子である場合のY1としては、化合物(B1)が有する脱離性基の説明において示した具体例及び好ましい例と同様の基が挙げられる。
【0061】
R2a又はR2bで表される1価の有機基は、炭素数1~12の1価の炭化水素基が好ましい。R2は、好ましくは水素原子又は炭素数1~10の1価の炭化水素基であり、より好ましくは水素原子又は炭素数1~6のアルキル基である。
【0062】
R3で表される(k1+k2)価の有機基は、X1の求核性を阻害しない構造が好ましい。R3で表される(k1+k2)価の有機基は、膜強度を十分に高める観点から、炭素数1~40であることが好ましい。(k1+k2)価の有機基の具体例としては、炭素数1~40の(k1+k2)価の炭化水素基、当該炭化水素基の炭素-炭素結合間に-O-、-S-、-CO-、-COO-、-NR5-、-CO-NR5-、-NR5-CO-O-、-NR5-CO-NR6-、-CO-NR5-NR6-、3級窒素原子又は複素環を含む(k1+k2)価の基(ただし、R5及びR6は、それぞれ独立して、水素原子又は1価の有機基である。)等が挙げられる。ここで、炭素数1~40の炭化水素基としては、鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基が挙げられる。これらのうち、架橋反応性を高くでき、また液晶配向性及び電圧保持特性が良好な膜を形成できる点で、好ましくは鎖状炭化水素基である。R5又はR6で表される1価の有機基は、好ましくは炭素数1~10の1価の炭化水素基又は熱脱離性基であり、より好ましくは炭素数1~6の1価の炭化水素基又は熱脱離性基であり、更に好ましくは炭素数1~6のアルキル基又はtert-ブトキシカルボニル基である。
【0063】
架橋反応性がより高く、良好な液晶配向性を示す液晶配向膜を得ることができる点で、R
3は、芳香環を有しない(k1+k2)価の基であることが好ましい。具体的には、R
3は、(k1+k2)価の鎖状炭化水素基であるか、又は、当該鎖状炭化水素基の炭素-炭素結合間に-O-、-S-、-CO-、-COO-、-NR
5-、-CO-NR
5-、-NR
5-CO-O-、-NR
5-CO-NR
6-、-CO-NR
5-NR
6-、3級窒素原子若しくは非芳香族複素環を含む(k1+k2)価の基であることが好ましい。ここで、(k1+k2)価の鎖状炭化水素基は、炭素数2~30が好ましく、炭素数3~20がより好ましい。非芳香族複素環は、窒素含有環であることが好ましく、例えば、ピペリジン環、ピロリジン環、ヘキサメチレンイミン環、モルホリン環、イソシアヌレート環等が挙げられる。R
3の好ましい具体例としては、例えば、下記式(r-1)~式(r-4)のそれぞれで表される構造等が挙げられる。
【化13】
(式(r-1)~式(r-4)中、tは0~18の整数である。X
2及びX
3は、互いに独立して、-O-、-S-、-CO-、-COO-、-NR
5-、-CO-NR
5-、-NR
5-CO-O-、-NR
5-CO-NR
6-又は-CO-NR
5-NR
6-である。t1、t2及びt3は、互いに独立して、1~10の整数である。uは0~3の整数である。R
20は、上記式(r-1)又は上記式(r-2)で表される2価の基である。式中の3個のR
20は同一又は異なる。「*」は結合手を表す。)
【0064】
X1が窒素原子又は上記式(x-1)で表される基である場合、液晶配向性及び電圧保持特性を良好に維持できる点で、mは1又は2が好ましい。
【0065】
液晶配向性、電圧保持特性及び膜強度をバランス良く改善する観点から、k1は2~10が好ましく、2~6がより好ましく、2~4が更に好ましい。k1が2の場合、R3は、窒素原子に結合する脱離性基を1個以上有することが好ましく、鎖状炭化水素基の炭素-炭素結合間に-NR5a-(ただし、R5aは脱離性基である。)を含むことが好ましい。中でも、k1が2であって、かつR3が窒素原子に結合する脱離性基を1個以上有する化合物によれば、液晶配向性を良好に維持しながら、電圧保持特性、膜強度及びDC残像特性をバランス良く良化できる点で特に好ましい。R3が、鎖状炭化水素基の炭素-炭素結合間に-NR5a-を含む基である場合、R3中の-NR5a-は、液晶配向性を良好に維持する観点から、1~5個が好ましく、1~3個がより好ましい。
k2は、液晶配向剤の保存安定性を向上させる観点から、0又は1が好ましく、0がより好ましい。
【0066】
化合物(B1)の具体例としては、下記式(b1-1)~式(b1-8)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【化14】
【0067】
・化合物(B2)
化合物(B2)において、酸性官能基としては、カルボン酸基、リン酸基、亜リン酸基、スルホン酸基等が挙げられる。化合物(B2)は、複数個の酸性官能基の一部又は全部が、脱離性基によって保護されている。液晶配向剤の保存安定性を向上させる観点からすると、分子内に存在する酸性官能基の全部が脱離性基によって保護されていることが好ましい。
【0068】
化合物(B2)が有する脱離性基は、熱により脱離する基であることが好ましい。当該脱離性基は、カルボン酸基、リン酸基、亜リン酸基又はスルホン酸基に含まれるOH基が有する水素原子を置換する基であることが好ましく、具体的には、「*-O-L
1」(ただし、L
1は脱離性基であり、「*」は結合手を表す。)で表される基を有する。L
1は、熱により脱離して水素原子に置き換わる基であることが好ましい。「*-O-L
1」で表される基の具体例としては、下記式(L1-1)~式(L1-8)のそれぞれで表される基等が挙げられる。
【化15】
(式(L1-1)~式(L1-8)中、「*」は結合手を表す。)
【0069】
化合物(B2)は、酸性官能基中のヘテロ原子に結合する1個以上の水素原子が脱離性基に置き換えられた部分構造と共に、求核性官能基中のヘテロ原子に結合する1個以上の水素原子が脱離性基に置き換えられた部分構造を有していてもよい。ただし、液晶配向剤の保存安定性を高める観点から、化合物(B2)は求核性官能基(すなわち、保護されていない求核性官能基)を有しないことが好ましい。
【0070】
化合物(B2)が有する部分構造(T)の数は3個以上であればよい。良好な液晶配向性を示す液晶素子を得る観点から、化合物(B1)が有する部分構造(T)の数は12個以下が好ましく、10個以下がより好ましく、8個以下が更に好ましい。
【0071】
化合物(B2)の好ましい具体例としては、下記式(3)で表される化合物が挙げられる。
【化16】
(式(3)中、X
4は、カルボン酸基、リン酸基、亜リン酸基又はスルホン酸基である。X
5は、保護されたカルボン酸基、保護されたリン酸基、保護された亜リン酸基、又は保護されたスルホン酸基である。R
7は、(i+j)価の有機基である。iは0以上の整数である。jは3以上の整数である。iが2の場合、複数のX
4は同一又は異なる。式中の複数のX
5は同一又は異なる。)
【0072】
上記式(3)において、X5は、カルボン酸基、リン酸基、亜リン酸基又はスルホン酸基に含まれるOH基が有する水素原子を脱離性基で置き換えてなる基であり、「*-O-L1」で表される基を有する。「*-O-L1」で表される基の具体例としては、上記式(L1-1)~式(L1-8)のそれぞれで表される基等が挙げられる。
【0073】
R7で表される(i+j)価の有機基は、X4及びX5の求核性を阻害しない構造であることが好ましい。(i+j)価の有機基は、膜強度を十分に高める観点から、炭素数1~40であることが好ましい。(i+j)価の有機基の具体例としては、炭素数1~40の(i+j)価の炭化水素基、当該炭化水素基の炭素-炭素結合間に-O-、-S-、-CO-、-COO-、-NR8-、-CO-NR8-、-NR8-CO-O-、-NR8-CO-NR9-、-CO-NR8-NR9-、3級窒素原子又は複素環を含む(i+j)価の基等が挙げられる。R8又はR9で表される1価の有機基は、好ましくは炭素数1~10の1価の炭化水素基又は熱脱離性基であり、より好ましくは炭素数1~6の1価の炭化水素基又は熱脱離性基であり、更に好ましくは炭素数1~6のアルキル基又はtert-ブトキシカルボニル基である。
【0074】
架橋反応性がより高く、液晶配向性及び電圧保持特性に優れた液晶配向膜を得ることができる点で、R7は、芳香環を有しない(i+j)価の基であることが好ましい。具体的には、R7は、(i+j)価の鎖状炭化水素基であるか、当該鎖状炭化水素基の炭素-炭素結合間に-O-、-S-、-CO-、-COO-、-NR8-、-CO-NR8-、-NR8-CO-O-、-NR8-CO-NR9-、-CO-NR8-NR9-、3級窒素原子若しくは非芳香族複素環を含む(i+j)価の基であるか、又は(i+j)価の脂環式炭化水素基であることが好ましい。ここで、(i+j)価の鎖状炭化水素基は、炭素数2~30が好ましく、炭素数3~20がより好ましい。非芳香族複素環は窒素含有環であることが好ましく、例えば、ピペリジン環、ピロリジン環、ヘキサメチレンイミン環、モルホリン環、イソシアヌレート環等が挙げられる。
【0075】
液晶配向膜の密着性の観点から、R7は、(i+j)価の鎖状炭化水素基であるか、又は、鎖状炭化水素基の炭素-炭素結合間に-O-、-S-、-CO-、-COO-、-NR8-、-CO-NR8-、-NR8-CO-O-、-NR8-CO-NR9-、-CO-NR8-NR9-、3級窒素原子若しくは非芳香族複素環を含む(i+j)価の基であることが好ましい。
【0076】
化合物(B2)の具体例としては、3個以上のカルボキシ基を有する多官能カルボン酸、3個以上のリン酸基を有する多官能リン酸、3個以上の亜リン酸基を有する多官能亜リン酸、及び3個以上のスルホン酸基を有する多官能スルホン酸において、各化合物が有する酸性基のうち少なくとも3個が保護された化合物が挙げられる。これらのうち、(A)重合体が有する官能基との反応性を高める観点から、3個以上のカルボキシ基を有する多価カルボン酸におけるカルボキシ基の少なくとも3個が保護された化合物を好ましく使用できる。
【0077】
化合物(B2)の更なる具体例としては、例えば、1,2,4-ブタントリカルボン酸、1,2,3-シクロヘキサントリカルボン酸、トリメリット酸、1,2,4-ナフタレントリカルボン酸等のトリカルボン酸が有する3個のカルボキシ基が保護された化合物;1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸、シクロペンタンテトラカルボン酸、シクロヘキサンテトラカルボン酸、ピロメリット酸等のテトラカルボン酸が有する4個のカルボキシ基のうち3個以上が保護された化合物;下記式(b2-1)~式(b2-3)のそれぞれで表される化合物;等が挙げられる。
【化17】
(式(b2-1)~式(b2-3)中、複数のL
2は、互いに独立して熱脱離性基である。)
【0078】
液晶配向性及び電圧保持特性を良好としながら、膜強度がより高い液晶配向膜を得ることができる点において、上記の中でも、(B)化合物は化合物(B1)が好ましく、保護された窒素原子を1分子内に3個以上有する化合物がより好ましい。
【0079】
本開示の液晶配向剤における(B)化合物の含有量は、電圧保持特性に優れた液晶素子を得る観点、及び液晶配向膜の膜強度を十分に高くする観点から、液晶配向剤に含まれる(A)重合体100質量部に対して、0.2質量部以上が好ましい。(B)化合物の含有量は、(A)重合体100質量部に対して、0.5質量部以上がより好ましく、1質量部以上が更に好ましい。また、液晶配向性の低下を抑制する観点から、(B)化合物の含有量は、(A)重合体100質量部に対して、30質量部以下が好ましく、25質量部以下がより好ましく、20質量部以下が更に好ましい。
【0080】
液晶配向剤に含まれる重合体成分の合計100質量部に対する(B)化合物の含有量は、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましく、2質量部以上が更に好ましい。また、(B)化合物の含有量は、液晶配向剤に含まれる重合体成分の合計100質量部に対して、30質量部以下が好ましく、25質量部以下がより好ましく、20質量部以下が更に好ましい。(B)化合物としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0081】
<その他の成分>
液晶配向剤は、(A)重合体及び(B)化合物のほか、必要に応じて、(A)重合体及び(B)化合物とは異なる成分(その他の成分)を更に含有していてもよい。
【0082】
・(C)重合体
本開示の液晶配向剤は、重合体成分として、(A)重合体とは異なる重合体(以下、「(C)重合体」ともいう)を更に含有していてもよい。(C)重合体は、部分構造(AN)を有しない重合体であればよく、その主骨格は特に限定されない。(C)重合体としては、例えば、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリオルガノシロキサン、ポリエステル、ポリエナミン、ポリウレア、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリベンゾオキサゾール前駆体、ポリベンゾオキサゾール、セルロース誘導体、ポリアセタール、付加重合体等が挙げられる。(A)重合体と共に用いる場合に液晶配向性等の各種特性に優れる液晶素子を得る観点から、(C)重合体としては、ジアミン化合物に由来する構造単位を有し、かつ上記式(1)で表される部分構造を有しない重合体を好ましく使用することができる。(C)重合体がジアミン化合物に由来する構造単位を有する場合の(C)重合体の具体例としては、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリアミン、ポリエナミン、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリウレア等が挙げられる。
【0083】
また、信頼性の高い液晶素子を得る観点から、(C)重合体は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリウレア、ポリアミドイミド、ポリオルガノシロキサン及び付加重合体よりなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリオルガノシロキサン及び付加重合体よりなる群から選択される少なくとも1種がより好ましい。(C)重合体は、これらの中でも、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド及び付加重合体よりなる群から選択される少なくとも1種を好ましく使用でき、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種をより好ましく使用できる。
【0084】
(C)重合体を液晶配向剤に含有させる場合、(C)重合体の含有量は、(A)重合体と(C)重合体との合計量に対して、例えば1質量%以上であり、2質量%以上としてもよい。液晶配向性がより良好な液晶素子を得る観点からすると、(C)重合体の含有量は、(A)重合体と(C)重合体との合計量に対して、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。また、(C)重合体の含有量は、(A)重合体と(C)重合体との合計量に対して、95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましい。(C)重合体としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0085】
・溶剤
本開示の液晶配向剤は、(A)重合体、(B)化合物、及び必要に応じて使用されるその他の成分が、好ましくは適当な溶媒中に分散又は溶解してなる液状の組成物として調製される。
【0086】
溶剤としては有機溶媒が好ましく使用される。その具体例としては、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、1,2-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、フェノール、γ-ブチロラクトン、γ-ブチロラクタム、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、ジアセトンアルコール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、プロパン-1,2-ジオール、3-メトキシ-1-ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、プロピオン酸エチル、メチルメトキシプロピオネ-ト、エチルエトキシプロピオネ-ト、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール-n-プロピルエーテル、エチレングリコール-i-プロピルエーテル、エチレングリコール-n-ブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジイソブチルケトン、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、ジイソペンチルエーテル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、ジエチレングリコールジエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールジアセテート、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等を挙げることができる。溶剤としては、1種を単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0087】
液晶配向剤に含有されるその他の成分としては、上記のほか、例えば、酸化防止剤、金属キレート化合物、硬化促進剤、界面活性剤、充填剤、分散剤、光増感剤等が挙げられる。その他の成分の配合割合は、本開示の効果を損なわない範囲で各化合物に応じて適宜選択することができる。
【0088】
液晶配向剤における固形分濃度(液晶配向剤の溶媒以外の成分の合計質量が液晶配向剤の全質量に占める割合)は、粘性、揮発性等を考慮して適宜に選択される。液晶配向剤の固形分濃度は、好ましくは1~10質量%の範囲である。固形分濃度が1質量%以上であると、塗膜の膜厚を十分に確保でき、より良好な液晶配向性を示す液晶配向膜を得ることができる点で好適である。一方、固形分濃度が10質量%以下であると、塗膜を適度な厚みとすることができ、良好な液晶配向性を示す液晶配向膜が得られやすく、また、液晶配向剤の粘性が適度となり塗布性を良好にできる傾向がある。
【0089】
本開示の液晶配向剤は、液晶配向剤中に含まれる重合体成分における、部分構造(AN)を有するジアミンに由来する構造単位の含有割合(以下、「特定N含有構造比率」ともいう。)が、重合体成分中のジアミン化合物に由来する構造単位の全量1モルに対して0.13モル以上である。特定N含有構造比率が、重合体成分中のジアミン化合物に由来する構造単位の全量1モルに対して0.13モル未満であると、電圧保持率に対する信頼性(VHR信頼性)が十分でなく、またDC残像特性に劣ってしまう。
【0090】
液晶配向性、電圧保持特性、VHR信頼性及びDC残像特性がバランス良く改善された液晶素子を得ることができ、しかも膜強度が十分に高い液晶配向膜を得る観点から、特定N含有構造比率は、重合体成分中のジアミン化合物に由来する構造単位の全量1モルに対して、0.14モル以上が好ましい。また、特定N含有構造比率は、重合体成分中の単量体に由来する構造単位の全量1モルに対して、0.90モル以下が好ましく、0.80モル以下がより好ましい。なお、部分構造(AN)は、電荷の蓄積に起因する残像の発生を低減する効果への寄与度が高いと考えられることから、部分構造(AN)を有するジアミンに由来する構造単位の量を、重合体成分中のジアミン化合物に由来する構造単位の全量を基準とした割合によって表すことにより、電荷の蓄積に起因する残像に対する効果をより正確に反映できるものと考えられる。
【0091】
具体的には、液晶配向剤が重合体成分として(A)重合体のみを含む場合(すなわち、(A)重合体を含み、(C)重合体を含まない場合)、特定N含有構造比率は、(A)重合体を構成するジアミン化合物に由来する構造単位の全量に対する、(A)重合体が有する特定ジアミンに由来する構造単位の比率により算出される。例えば、(A)重合体における特定ジアミンに由来する構造単位の含有割合が、(A)重合体を構成するジアミン化合物に由来する構造単位の全量に対して20モル%である液晶配向剤の場合、特定N含有構造比率は0.20モルとなる。
【0092】
また、液晶配向剤が重合体成分として(A)重合体と(C)重合体とを含む場合、特定N含有構造比率は、(A)重合体を構成するジアミン化合物に由来する構造単位の全量と、(C)重合体を構成するジアミン化合物に由来する構造単位の全量との総量(すなわち、重合体成分中のジアミン化合物に由来する構造単位の全量)に対する、(A)重合体が有する特定ジアミンに由来する構造単位の比率により算出される。例えば、重合体成分として、特定ジアミンに由来する構造単位を有する第1重合体と、特定ジアミンに由来する構造単位を有しない第2重合体とを含み、かつ、第1重合体の含有割合が重合体成分の全量100質量部に対して80質量部であり、第2重合体の含有割合が重合体成分の全量100質量部に対して20質量部であり、第1重合体における特定ジアミンに由来する構造単位の含有割合が、第1重合体を構成するジアミン化合物に由来する構造単位の全量に対して20モル%である液晶配向剤の場合、特定N含有構造比率は、20[モル%]×0.8/100=0.16モルとなる。
【0093】
≪液晶配向膜及びその製造方法≫
本開示の液晶配向膜は、上記のように調製された液晶配向剤により形成される。液晶配向膜は、以下の塗膜形成工程を含む方法により製造することができる。また、本開示の液晶配向膜は、塗膜形成工程により得られた有機膜に対し、以下の配向処理工程により液晶配向処理を行い、液晶配向能を付与してもよい。
【0094】
・塗膜形成工程
液晶配向膜の製造に際しては、まず、基板上に液晶配向剤を塗布し、好ましくは塗布面を加熱することにより基板上に塗膜を形成する。基板としては、例えばフロートガラス、ソーダガラス等のガラス;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリ(脂環式オレフィン)等のプラスチックからなる透明基板を用いることができる。
【0095】
基板への液晶配向剤の塗布方法は特に限定されない。基板への液晶配向剤の塗布は、例えば、スピンコート方式、印刷方式(例えば、オフセット印刷方式、フレキソ印刷方式等)、インクジェット方式、スリットコート方式、バーコーター方式、エクストリューションダイ方式、ダイレクトグラビアコーター方式、チャンバードクターコーター方式、オフセットグラビアコーター方式、含浸コーター方式、MBコーター方式等により行うことができる。
【0096】
液晶配向剤を塗布した後、塗布した液晶配向剤の液垂れ防止等の目的で、好ましくは予備加熱(プレベーク)が実施される。プレベーク温度は、好ましくは30~200℃であり、プレベーク時間は、好ましくは0.25~10分である。その後、溶剤を完全に除去し、必要に応じて、重合体に存在するアミック酸構造を熱イミド化することを目的として焼成(ポストベーク)工程が実施される。このときの焼成温度(ポストベーク温度)は、好ましくは80~280℃であり、より好ましくは80~250℃である。ポストベーク時間は、好ましくは5~200分である。形成される膜の膜厚は、好ましくは0.001~1μmである。
【0097】
・配向処理工程
配向処理工程では、液晶配向剤を基板上に塗布し、該塗布した後、好ましくは加熱処理を行い、その後、ラビング処理又は光照射処理を施して液晶配向能を付与することが好ましい。ラビング処理では、基板上に形成した塗膜に対し、例えばナイロン、レーヨン、コットン等の繊維からなる布を巻き付けたロールで一定方向に擦ることにより、塗膜に液晶配向能を付与する。光配向処理では、基板上に形成した塗膜に光照射を行って塗膜に液晶配向能を付与する。
【0098】
光配向処理において、光照射は、ポストベーク工程後の塗膜に対して照射する方法、プレベーク工程後であってポストベーク工程前の塗膜に対して照射する方法、プレベーク工程及びポストベーク工程の少なくともいずれかにおいて塗膜の加熱中に塗膜に対して照射する方法、等により行うことができる。塗膜に照射する放射線としては、例えば150~800nmの波長の光を含む紫外線及び可視光線を用いることができる。好ましくは、200~400nmの波長の光を含む紫外線である。放射線が偏光である場合、直線偏光であっても部分偏光であってもよい。用いる放射線が直線偏光又は部分偏光である場合には、照射は基板面に垂直の方向から行ってもよく、斜め方向から行ってもよく、又はこれらを組み合わせて行ってもよい。非偏光の放射線の場合の照射方向は斜め方向とする。
【0099】
使用する光源としては、例えば低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、重水素ランプ、メタルハライドランプ、アルゴン共鳴ランプ、キセノンランプ、エキシマーレーザー等が挙げられる。放射線の照射量は、好ましくは400~50,000J/m2であり、より好ましくは1,000~20,000J/m2である。配向能付与のための光照射後において、基板表面を、例えば水、有機溶媒(例えば、メタノール、イソプロピルアルコール、1-メトキシ-2-プロパノールアセテート、ブチルセロソルブ、乳酸エチル等)又はこれらの混合物を用いて洗浄する処理や、基板を加熱する処理を行ってもよい。
【0100】
≪液晶素子≫
本開示の液晶素子は、上記で説明した液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜を備える。液晶素子における液晶の駆動方式は特に限定されず、例えばTN型、STN型、VA型(VA-MVA型、VA-PVA型等を含む)、IPS(In Plane Switching)型、FFS(Fringe Field Switching)型、OCB(Optically Compensated Bend)型、PSA(Polymer Sustained Alignment)型等の種々のモードに適用することができる。液晶素子は、例えば、上述した塗膜形成工程及び配向処理工程、並びに以下のセル構築工程を含む方法により製造することができる。
【0101】
塗膜形成工程において使用する基板は、所望の動作モードによって異なる。例えば、TN型、STN型又はVA型の液晶素子を製造する場合には、パターニングされた透明導電膜が設けられている基板2枚を用いる。IPS型又はFFS型の液晶素子を製造する場合には、櫛歯型にパターニングされた電極が設けられている基板と、電極が設けられていない対向基板とを用いる。透明導電膜としては、酸化スズ(SnO2)からなるNESA膜(米国PPG社登録商標)、酸化インジウム-酸化スズ(In2O3-SnO2)からなるITO膜等を用いることができる。
【0102】
なお、TN型、STN型、IPS型又はFFS型の液晶素子を製造する場合には、塗膜形成工程により得られた塗膜に液晶配向能を付与する処理(配向処理)を実施する。これにより、液晶分子の配向能が塗膜に付与されて液晶配向膜となる。一方、垂直配向(VA)型の液晶素子を製造する場合には、塗膜形成工程により得られた塗膜をそのまま液晶配向膜として使用することができる。また、液晶配向能を更に高めるために、該塗膜に対し配向処理を施してもよい。垂直配向型の液晶素子に好適な液晶配向膜はPSA型の液晶素子にも好適である。
【0103】
・セル構築工程
上記のようにして液晶配向膜が形成された基板を2枚準備し、2枚の基板間に液晶配向膜に隣接して液晶が配置されるように液晶セルを製造する。液晶セルを製造するには、例えば、液晶配向膜が対向するように間隙を介して2枚の基板を対向配置し、2枚の基板の周辺部をシール剤により貼り合わせ、基板表面とシール剤で囲まれたセルギャップ内に液晶を注入充填し注入孔を封止する方法、ODF方式による方法等が挙げられる。シール剤としては、例えば、硬化剤及びスペーサーとしての酸化アルミニウム球を含有するエポキシ樹脂等を用いることができる。液晶としては、ネマチック液晶及びスメクチック液晶を挙げることができ、その中でもネマチック液晶が好ましい。PSAモードでは、液晶セルの構築後に、一対の基板の有する導電膜間に電圧を印加した状態で液晶セルに光照射する処理を行う。
【0104】
PSA型の液晶素子は、以下の工程を含む方法により製造することができる。
・本開示の液晶配向剤を、導電膜を有する一対の基板のそれぞれの導電膜上に塗布して塗膜を形成する工程。
・液晶配向剤を塗布した一対の基板を、液晶層を挟んで塗膜が対向するように配置して液晶セルを構築する工程。
・導電膜間に電圧を印加した状態で液晶セルに光照射する工程。
【0105】
具体的には、まず、導電膜を有する一対の基板間に、液晶と共に光重合性モノマーを注入又は滴下する点以外は上記工程1~工程3と同様にして液晶セルを構築する。液晶と共に注入又は滴下する光重合性モノマーとしては、従来公知の化合物を用いることができる。好ましくは、多官能性(メタ)アクリルモノマーである。(メタ)アクリルは、アクリル及びメタクリルを意味する。
【0106】
PSA型液晶素子の製造においては、液晶セルの構築後、一対の基板の有する導電膜間に電圧を印加した状態で液晶セルに光照射する。印加する電圧は、例えば5~50Vの直流又は交流とすることができる。照射する光としては、例えば150~800nmの波長の光を含む紫外線及び可視光線を用いることができる。これらのうち、300~400nmの波長の光を含む紫外線が好ましい。照射光の光源としては、例えば低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、重水素ランプ、メタルハライドランプ、アルゴン共鳴ランプ、キセノンランプ、エキシマーレーザー等を使用することができる。光の照射量としては、好ましくは1,000~200,000J/m2であり、より好ましくは1,000~100,000J/m2である。
【0107】
各モードの液晶セルにつき、続いて、必要に応じて、液晶セルの外側表面に偏光板を貼り合わせ、液晶素子とする。偏光板としては、ポリビニルアルコールを延伸配向させながらヨウ素を吸収させた「H膜」と称される偏光フィルムを酢酸セルロース保護膜で挟んだ偏光板又はH膜そのものからなる偏光板が挙げられる。
【0108】
液晶としては、ポジ型及びネガ型のいずれを用いてもよい。IPS型及びFFS型の液晶素子においてネガ型液晶を用いた場合、電極上部での透過損失を小さくでき、コントラスト向上を図ることができる点で好ましい。液晶としては、ネマチック液晶、スメクチック液晶を挙げることができ、中でもネマチック液晶が好ましい。
【0109】
本開示の液晶素子は、種々の用途に有効に適用することができる。具体的には、例えば、時計、携帯型ゲーム機、ワープロ、ノート型パソコン、カーナビゲーションシステム、カムコーダー、PDA、デジタルカメラ、携帯電話機、スマートフォン、各種モニター、液晶テレビ、インフォメーションディスプレイ等の各種表示装置や、調光装置、位相差フィルム等として用いることができる。
【0110】
以上説明した本開示によれば、次の手段が提供される。
〔手段1〕 重合体成分を含有する液晶配向剤であって、下記の(A)重合体:
(A)重合体:上記式(1)で表される部分構造を有するジアミンを含むジアミン化合物に由来する構造単位を有する重合体
と、下記の(B)化合物:
(B)化合物:求核性官能基又は酸性官能基中のヘテロ原子に結合する1個以上の水素原子が熱及び光の少なくともいずれかにより脱離する脱離性基に置き換えられた部分構造(T)を1分子内に3個以上有する化合物(ただし、重合体を除く。)
と、を含有し、前記重合体成分における、上記式(1)で表される部分構造を有する単量体に由来する構造単位の含有割合が、前記重合体成分中の単量体に由来する構造単位の全量1モルに対して0.065モル以上である、液晶配向剤。
〔2〕 前記求核性官能基は、窒素原子、硫黄原子又は酸素原子に水素原子が結合した構造を有し、前記(B)化合物は、前記部分構造(T)として、前記求核性官能基中の窒素原子、硫黄原子又は酸素原子に結合する1個以上の水素原子が前記脱離性基に置き換えられた部分構造を1分子内に3個以上有する、〔手段1〕に記載の液晶配向剤。
〔手段3〕 前記(B)化合物は、上記式(2)で表される化合物である、〔手段1〕又は〔手段2〕に記載の液晶配向剤。
〔手段4〕 前記R3は、芳香環を有しない(k1+k2)価の基である、〔手段3〕に記載の液晶配向剤。
〔手段5〕 前記R3は、(k1+k2)価の鎖状炭化水素基であるか、又は、鎖状炭化水素基の炭素-炭素結合間に-O-、-S-、-CO-、-COO-、-NR5-、-CO-NR5-、-NR5-CO-O-、-NR5-CO-NR6-、-CO-NR5-NR6-、窒素原子若しくは非芳香族複素環を含む(k1+k2)価の基(ただし、R5及びR6は、互いに独立して、水素原子又は炭素数1~10の1価の有機基である。)である、〔手段3〕又は〔手段4〕に記載の液晶配向剤。
〔手段6〕 前記酸性官能基は、カルボン酸基、リン酸基、亜リン酸基又はスルホン酸基であり、前記(B)化合物は、前記部分構造(T)として、前記酸性官能基中のヘテロ原子に結合する1個以上の水素原子が前記脱離性基に置き換えられた部分構造を1分子内に3個以上有する、〔手段1〕~〔手段5〕のいずれかに記載の液晶配向剤。
〔手段7〕 前記(B)化合物は、上記式(3)で表される化合物を含む、〔手段1〕~〔手段6〕のいずれかに記載の液晶配向剤。
〔手段8〕 前記(A)重合体は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリウレア、ポリアミドイミド、ポリオルガノシロキサン及び付加重合体よりなる群から選択される少なくとも1種である、〔手段1〕~〔手段7〕のいずれかに記載の液晶配向剤。
〔手段9〕 前記重合体成分として、上記式(1)で表される部分構造を有しない重合体を更に含有する、〔手段1〕~〔手段8〕のいずれかに記載の液晶配向剤。
〔手段10〕 〔手段1〕~〔手段9〕のいずれかに記載の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜。
〔手段11〕 〔手段1〕~〔手段9〕のいずれかに記載の液晶配向剤を基板上に塗布し、該塗布した後にラビング処理又は光照射処理を施して液晶配向能を付与する、液晶配向膜の製造方法。
〔手段12〕 〔手段10〕に記載の液晶配向膜を備える液晶素子。
【実施例0111】
以下、実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0112】
以下の例において、重合体の溶液粘度及びイミド化率は以下の方法により測定した。
<重合体の溶液粘度>
重合体の溶液粘度は、E型粘度計を用いて25℃において測定した。
<ポリイミドのイミド化率>
ポリイミドの溶液を純水に投入し、得られた沈殿を室温で十分に減圧乾燥した後、重水素化ジメチルスルホキシドに溶解し、テトラメチルシランを基準物質として室温で1H-NMR測定を行った。得られた1H-NMRスペクトルから、下記数式(1)によりイミド化率[%]を求めた。
イミド化率[%]=(1-(β1/(β2×α)))×100 …(1)
(数式(1)中、β1は化学シフト10ppm付近に現れるNH基のプロトン由来のピーク面積であり、β2はその他のプロトン由来のピーク面積であり、αは重合体の前駆体(ポリアミック酸)におけるNH基のプロトン1個に対するその他のプロトンの個数割合である。)
【0113】
下記の例で使用した化合物の略称を以下に示す。なお、以下では便宜上、「式(X)で表される化合物」を単に「化合物(X)」と示すことがある。
【0114】
(テトラカルボン酸二無水物)TA-1~TA-6
【化18】
【0115】
(ジアミン化合物)DA-1~DA-5、Da-6、Da-7、DB-1~DB-12
【化19】
【化20】
【化21】
【0116】
(添加剤)AD-1~AD-10
【化22】
【化23】
【0117】
1.ポリアミック酸の合成
[合成例1]
テトラカルボン酸二無水物として化合物(TA-2)80モル部及び化合物(TA-6)20モル部、並びに、ジアミン化合物として化合物(DA-1)20モル部及び化合物(DB-2)80モル部をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解し、40℃で24時間反応させることにより、ポリアミック酸(これを重合体(PA-1)とする)を20質量%含有する溶液を得た。この溶液を少量分取し、NMPを加えて濃度15質量%の溶液として測定した溶液粘度は243mPa・sであった。
【0118】
[合成例2~13]
重合に使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の種類及び量を表1に記載のとおり変更した点以外は合成例1と同様に重合を行い、ポリアミック酸である重合体(PA-2)~(PA-13)をそれぞれ含有する溶液を得た。なお、重合は、重合体濃度15質量%のNMP溶液の粘度が200~250mPa・sとなるように、ジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物とのモル比(ジアミン化合物/テトラカルボン酸二無水物)を0.900~0.995に合わせて実施した。表1中、酸二無水物の数値は、合成に使用したテトラカルボン酸二無水物の全量100モル部に対する各化合物の割合(モル部)を表す。ジアミンの数値は、合成に使用したジアミン化合物の全量100モル部に対する各化合物の割合(モル部)を表す。
【0119】
【0120】
2.ポリイミドの合成
[合成例14]
テトラカルボン酸二無水物として化合物(TA-1)100モル部、並びに、ジアミン化合物として化合物(DA-6)30モル部、化合物(DB-4)40モル部及び化合物(DB-3)30モル部をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解し、40℃で24時間反応させることにより、ポリアミック酸を20質量%含有する溶液を得た。次いで、得られたポリアミック酸溶液にNMPを追加し、ピリジン及び無水酢酸を、ポリアミック酸のカルボキシ基に対して1.8モル当量ずつ添加して、60℃で4時間脱水閉環反応を行った。脱水閉環反応後、系内の溶媒を新たなNMPで溶媒置換し、更に濃縮することにより、イミド化率55%のポリイミド(これを重合体(PI-1)とする)を20質量%含有する溶液を得た。この溶液を少量分取し、NMPを加えて濃度15質量%の溶液として測定した溶液粘度は395mPa・sであった。
【0121】
[合成例15]
重合に使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の種類及び量を表2に記載のとおり変更し、ピリジン及び無水酢酸の量を目的のイミド化率に応じて変更した点以外は合成例14と同様に重合を行い、ポリイミドである重合体(PI-2)を含有する溶液を得た。
【0122】
【0123】
3.液晶配向剤の調製及び評価
[実施例1:ラビングFFS型液晶表示素子]
1.液晶配向剤の調製
合成例1で得た重合体(PA-1)70質量部を含む溶液と、合成例10で得た重合体(PA-10)30質量部を含む溶液とを混合し、更に化合物(AD-4)10質量部、NMP及びブチルセロソルブ(BC)を加え、溶剤組成がNMP/BC=80/20(質量比)、固形分濃度が4.0質量%の溶液とした。この溶液を孔径0.2μmのフィルターで濾過することにより液晶配向剤(AL-1)を調製した。
【0124】
重合体成分の配合量に基づき、液晶配向剤(AL-1)に含まれる重合体成分に含まれるジアミン化合物に由来する構造単位1モルに対する、部分構造(AN)を有するジアミン(特定ジアミン)に由来する構造単位の割合(特定N含有構造比率)を計算したところ、0.14モルであった。
なお、計算式は以下のとおりである。
特定N含有構造比率=20×0.7/100=0.14
【0125】
2.ラビング法を用いたFFS型液晶表示素子の製造
平板電極(ボトム電極)、絶縁層及び櫛歯状電極(トップ電極)がこの順で片面に積層されたガラス基板(第1基板とする)、並びに電極が設けられていないガラス基板(第2基板とする)を準備した。次いで、第1基板の電極形成面及び第2基板の片面のそれぞれに液晶配向剤(AL-1)をスピンナーにより塗布し、110℃のホットプレートで3分間加熱(プレベーク)した。その後、庫内を窒素置換した230℃のオーブンで30分間乾燥(ポストベーク)を行い、平均膜厚0.08μmの塗膜を形成した。次いで、塗膜表面に対し、レーヨン布を巻き付けたロールを有するラビングマシーンにより、ロール回転数1,000rpm、ステージ移動速度3cm/秒、毛足押し込み長さ0.3mmでラビング処理を行った。その後、超純水中で1分間超音波洗浄を行い、次いで100℃クリーンオーブン中で10分間乾燥することにより、液晶配向膜を有する一対の基板を得た。
次いで、液晶配向膜を有する一対の基板につき、液晶配向膜を形成した面の縁に液晶注入口を残して、直径3.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤をスクリーン印刷塗布した。その後、基板を重ね合わせて圧着し、150℃で1時間かけて接着剤を熱硬化させた。次いで、液晶注入口より、一対の基板間の間隙にネガ型液晶(メルク社製、MLC-6608)を充填した後、エポキシ系接着剤で液晶注入口を封止した。さらに、液晶注入時の流動配向を除くために、これを120℃で加熱してから室温まで徐冷し、液晶セルを製造した。なお、一対の基板を重ね合わせる際には、それぞれの基板のラビング方法が反平行となるようにした。次に、液晶セルにおける基板の外側両面に偏光板を貼り合わせ、FFS型液晶表示素子を得た。
【0126】
3.評価
(1)液晶配向性の評価(リタデーション変化率による評価)
上記2.でラビング法により製造したFFS型液晶表示素子を27,000cd/m2の高輝度バックライト上で500時間静置し、バックライトの照射前後におけるリタデーション変化率により液晶配向性を評価した。まず、上記2.で製造したFFS型液晶表示素子につき、オプトサイエンス社製Axoscanによりリタデーションを測定し、下記数式(F1)によりバックライト照射前後のリタデーションの変化率αを算出した。変化率αが小さいほど、バックライト照射に伴う液晶配向性の低下が生じにくく、液晶配向性が良好であるといえる。変化率αが0.5%未満であった場合を「優良(◎)」、0.5%以上1%未満であった場合を「良好(○)」、1%以上2%以下であった場合を「可(△)」、2%よりも大きかった場合を「不良(×)」と判定した。
α=Δθ/θ1 …(F1)
(式(F1)中、Δθは照射前後のリタデーション差を表し、θ1は照射前のリタデーション値を表す。)
その結果、この実施例の液晶配向性の評価は「優良(◎)」であった。
【0127】
(2)電圧保持率(VHR)による電気特性の評価
上記2.でラビング法により製造したFFS型液晶表示素子につき、5Vの電圧を60マイクロ秒の印加時間、167ミリ秒のスパンで印加した後、印加解除から167ミリ秒後の電圧保持率(以下、「初期VHR」ともいう)を測定した。測定装置には(株)東陽テクニカ製VHR-1を使用した。このとき、電圧保持率が85%よりも大きい場合に「優良(◎)」、75%よりも大きく85%以下の場合に「良好(○)」、60%以上75%以下の場合に「可(△)」、60%未満の場合に「不良(×)」と判定した。その結果、この実施例では、初期VHRは「良好(○)」の評価であった。
【0128】
(3)VHR信頼性の評価
上記2.でラビング法により製造したFFS型液晶表示素子につき、上記(2)で初期VHRを測定した後のFFS型液晶表示素子に、CCFL(バックライト)を60℃で1週間照射した後、室温中に静置して室温まで自然冷却した。冷却後、液晶セルに5Vの電圧を60マイクロ秒の印加時間、167ミリ秒のスパンで印加した後、印加解除から167ミリ秒後の電圧保持率(以下、「照射後VHR」ともいう)を測定した。このときのVHRの変化率(ΔVHR)を初期VHRと照射後VHRとの差分(ΔVHR=初期VHR-照射後VHR)により算出し、ΔVHRによってVHR信頼性を評価した。ΔVHRが5%未満であった場合を「優良(◎)」、5%以上10%未満で合った場合を「良好(○)」、10%以上15%未満であった場合を「可(△)」、15%以上であった場合を「不良(×)」と判定した。その結果、この実施例ではVHR信頼性「可(△)」であった。
【0129】
(4)膜強度の評価
上記1.で調製した液晶配向剤(AL-1)を1.0μmのフィルターで濾過した後、上記第2基板にスピンコート塗布にて塗布した。次いで、80℃のホットプレートで1分間加熱(プレベーク)した。その後、庫内を窒素置換した230℃のオーブンで30分間乾燥(ポストベーク)を行い、平均膜厚0.1μmの塗膜を形成し、ヘイズメーター(hazemeter)を用いて塗膜のヘイズ値を測定した。次いで、この塗膜に対し、コットン布を巻き付けたロールを有するラビングマシーンにより、ロール回転数1000rpm、ステージ移動速度3cm/秒、毛足押し込み長さ0.3mmでラビング処理を5回実施した。その後、ヘイズメーターを用いて液晶配向膜のヘイズ値を測定し、ラビング処理前のヘイズ値との差(ヘイズ変化値)を計算した。ラビング処理前の膜のヘイズ値をHz1(%)、ラビング処理後の膜のヘイズ値をHz2(%)とした場合、ヘイズ変化値は下記数式(F2)で表される。
ヘイズ変化値(%)=Hz2-Hz1 …(F2)
液晶配向膜におけるヘイズ変化値が0.5%未満であった場合を「優良(◎)」、0.5%以上0.8%未満であった場合を「良好(○)」、0.8%以上1.0%未満であった場合を「可(△)」、1.0%以上であった場合を「不良(×)」と評価した。ヘイズ変化値が1.0%未満であれば膜強度が十分に高くラビング耐性が高い、すなわち膜の力学特性が良好であるといえる。その結果、この実施例では膜強度「良好(○)」の評価であった。
【0130】
(5)DC残像特性の評価
上記2.でラビング法により製造したFFS型液晶表示素子につき、AC2.5Vで駆動させて任意の2画素の間の輝度差を0に設定した後、AC2.5Vで駆動させつつ片方の画素のみにDC1Vを20分間印加して電荷を蓄積させた。DC1Vの印加を終了してAC2.5Vでの駆動のみに戻すと、蓄積された電荷によって2画素の間に輝度差が生じた。この輝度差の経時変化を観測することで、残留DC値が減衰する過程の緩和時間を算出した。緩和時間が10秒未満であった場合を「優良(◎)」、緩和時間が10秒以上20秒未満であった場合を「良好(○)」、緩和時間が20秒以上30秒未満であった場合を「可(△)」、緩和時間が30秒以上であった場合を「不良(×)」と判定した。その結果、この実施例では「優良(◎)」の評価であった。
【0131】
[実施例2~9及び比較例1、2、4~6]
液晶配向剤の組成を表3のとおりに変更した以外は実施例1と同様にして液晶配向剤を調製した。また、得られた液晶配向剤を用いて、実施例1と同様にしてラビング法によりFFS型液晶表示素子を製造し、液晶配向性、初期VHR、VHR信頼性、膜強度及びDC残像特性の評価を行った。それらの結果を表3に示した。表3中、重合体成分(重合体1及び重合体2)及び添加剤の欄の数値は、液晶配向剤の調製に使用した重合体成分の全量100質量部に対する、各化合物の固形分での配合割合(質量部)を表す。また、特定N含有構造比率を表4に併せて示す。
[比較例3]
液晶配向剤の組成を表3のとおりに変更した以外は実施例1と同様にして液晶配向剤(AR-3)を調製した。しかしながら、得られた液晶配向剤(AR-3)はゲル化したため、それ以降の評価を行わなかった。
【0132】
【0133】
[実施例10:光FFS型液晶表示素子]
1.液晶配向剤の調製
合成例5で得た重合体(PA-5)60質量部を含む溶液と、合成例13で得た重合体(PA-13)40質量部を含む溶液とを混合し、更に化合物(AD-4)8質量部、NMP及びBCを加え、溶剤組成がNMP/BC=80/20(質量比)、固形分濃度が3.5質量%の溶液とした。この溶液を孔径0.2μmのフィルターで濾過することにより液晶配向剤(AL-10)を調製した。液晶配向剤(AL-10)の特定N含有構造比率を算出したところ0.48であった。
【0134】
2.光配向法を用いたFFS型液晶表示素子の製造
実施例1と同様の第1基板及び第2基板を準備した。次いで、第1基板の電極形成面及び第2基板の一方の基板面のそれぞれに、液晶配向剤(AL-10)をスピンナーにより塗布し、80℃のホットプレートで1分間加熱(プレベーク)した。その後、庫内を窒素置換した230℃のオーブンで30分間乾燥(ポストベーク)を行い、平均膜厚0.1μmの塗膜を形成した。得られた塗膜に対し、Hg-Xeランプを用いて、直線偏光された254nmの輝線を含む紫外線1,000J/m2を基板法線方向から照射して光配向処理を施した。なお、この照射量は、波長254nm基準で計測される光量計を用いて計測した値である。次いで、光配向処理が施された塗膜を、230℃のクリーンオーブンで30分加熱して熱処理を行い、液晶配向膜を形成した。
次に、液晶配向膜を形成した一対の基板のうちの一方の基板につき、液晶配向膜を有する面の外縁に、直径3.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤をスクリーン印刷により塗布した。その後、光照射時の偏光軸の基板面への投影方向が逆平行となるように基板を重ね合わせて圧着し、150℃で1時間かけて接着剤を熱硬化させた。次いで、液晶注入口より一対の基板間にネガ型液晶(メルク社製、MLC-6608)を充填した後、エポキシ系接着剤で液晶注入口を封止し、液晶セルを得た。さらに、液晶注入時の流動配向を除くために、これを120℃で加熱してから室温まで徐冷した。その後、液晶セルにおける基板の外側両面に偏光板を貼り合わせ、液晶表示素子を得た。また、上記の一連の操作を、ポストベーク後の紫外線照射量を100~10,000J/m2の範囲でそれぞれ変更して実施することにより、紫外線照射量が異なる3個以上の液晶表示素子を製造し、最も良好な配向特性を示した露光量(最適露光量)の液晶表示素子を以下の評価に用いた。
【0135】
3.評価
上記2.で製造した液晶表示素子につき、実施例1と同様の方法により液晶配向性、初期VHR、VHR信頼性及びDC残像特性を評価した。また、上記1.で調製した液晶配向剤(AL-10)を用いて、実施例1と同様の方法により膜強度を評価した。それらの結果を表4に示した。
【0136】
[実施例11~13及び比較例7]
液晶配向剤の組成を表4のとおりに変更した以外は実施例10と同様にして液晶配向剤を調製した。得られた液晶配向剤を用いて、実施例10と同様にして光配向法によりFFS型液晶表示素子を製造し、液晶配向性、初期VHR、VHR信頼性、膜強度及びDC残像特性の評価を行った。それらの結果を表4に示す。表4中、重合体成分(重合体1及び重合体2)及び添加剤の欄の数値は、液晶配向剤の調製に使用した重合体成分の全量100質量部に対する、各化合物の固形分での配合割合(質量部)を表す。また、特定N含有構造比率を表4に示す。
【0137】
【0138】
表3及び表4に示すように、部分構造(AN)を有する重合体と、部分構造(T)を1分子内に3個以上有する添加剤とを含み、かつ特定N含有構造比率が0.13以上である液晶配向剤を用いた実施例1~13は、液晶配向性、初期VHR、VHR信頼性、膜強度及びDC残像特性の評価結果が優良(◎)、良好(○)又は可(△)であり、各種特性がバランス良く改善された。これに対し、部分構造(AN)を有する重合体を含まない液晶配向剤とした比較例1、及び部分構造(T)を1分子内に3個以上有する添加剤を含まない液晶配向剤とした比較例2~6のうち、比較例2、4、5、7は、初期VHR、膜強度及びDC残像特性の評価結果において1つ以上が不良(×)であり、比較例3は液晶配向剤がゲル化してしまった。また、特定N含有構造比率が0.12である比較例6は、VHR信頼性及びDC残像特性が不良(×)であった。
【0139】
以上の結果から、部分構造(AN)を有する重合体と、部分構造(T)を1分子内に3個以上有する添加剤とを含有し、かつ、部分構造(AN)を有するジアミンに由来する構造単位を重合体成分中のジアミン化合物に由来する構造単位に対して所定量以上含む液晶配向剤によれば、液晶配向性、電圧保持特性、VHR信頼性及び膜強度に優れた液晶配向膜を得ることができ、かつ蓄積電荷に起因する残像が十分に低減された液晶素子を得ることができることが明らかとなった。