IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三ツ星ベルト株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-積層体およびその製造方法 図1
  • 特開-積層体およびその製造方法 図2
  • 特開-積層体およびその製造方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134523
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】積層体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01C 7/00 20060101AFI20240926BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20240926BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20240926BHJP
   H01C 17/065 20060101ALI20240926BHJP
   H05K 1/09 20060101ALI20240926BHJP
   H05K 1/16 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
H01C7/00 210
H01B5/14 Z
H01B13/00 503Z
H01C17/065 300
H05K1/09 C
H05K1/16 C
H01C7/00 100
H01C7/00 322
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024024626
(22)【出願日】2024-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2023044708
(32)【優先日】2023-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006068
【氏名又は名称】三ツ星ベルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】川口 暁広
(72)【発明者】
【氏名】小林 広治
【テーマコード(参考)】
4E351
5E032
5E033
5G307
5G323
【Fターム(参考)】
4E351AA07
4E351BB05
4E351BB31
4E351BB35
4E351BB38
4E351CC08
4E351CC10
4E351CC11
4E351CC16
4E351DD04
4E351DD05
4E351DD06
4E351DD10
4E351DD17
4E351DD18
4E351DD19
4E351DD20
4E351EE08
4E351GG20
5E032BA13
5E032CC14
5E033AA02
5E033BE01
5E033BE02
5G307GA06
5G307GB02
5G307GC02
5G323AA01
(57)【要約】
【課題】金属系ペースト材料のコストを抑え、かつ抵抗膜のTCRが小さく、絶縁性および保護性能に優れた保護膜を備えた積層体を提供する。
【解決手段】セラミック基板2と、銀を含む導体膜3と、銅およびニッケルを含む抵抗膜5と、絶縁保護膜6,7とを備える積層体において、前記導体膜と前記抵抗膜との間に、銀および銅を含まない金属成分を含む接続層4を介在させる。前記接続層の金属成分は6ホウ化ランタン、ニッケル、金および酸化ルテニウムからなる群より選択された少なくとも一種を含んでいてもよい。前記接続層はガラス成分をさらに含んでいてもよい。前記接続層において、前記金属成分と前記ガラス成分との体積比は、金属成分/ガラス成分=60/40~10/90であってもよい。前記接続層の平均厚みは5~50μmであってもよい。前記導体膜は銀、銀パラジウム合金または銀白金合金で形成されていてもよい。前記絶縁保護膜はガラス成分を含んでいてもよい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック基板と、銀を含む導体膜と、銅およびニッケルを含む抵抗膜と、絶縁保護膜とを備える積層体であって、前記導体膜と前記抵抗膜との間に、銀および銅を含まない金属成分を含む接続層が介在する、積層体。
【請求項2】
前記接続層の金属成分が6ホウ化ランタン、ニッケル、金および酸化ルテニウムからなる群より選択された少なくとも一種を含む請求項1記載の積層体。
【請求項3】
前記接続層がガラス成分をさらに含み、前記金属成分と前記ガラス成分との体積比が、金属成分/ガラス成分=60/40~10/90である請求項1または2記載の積層体。
【請求項4】
前記接続層の平均厚みが5~50μmである請求項1または2記載の積層体。
【請求項5】
前記導体膜が銀、銀パラジウム合金または銀白金合金で形成されている請求項1または2記載の積層体。
【請求項6】
前記絶縁保護膜がガラス成分を含む請求項1または2記載の積層体。
【請求項7】
前記絶縁保護膜が、前記導体膜の一部の領域を被覆し、かつ前記抵抗膜の少なくとも一部の領域を被覆する請求項1または2記載の積層体。
【請求項8】
前記絶縁保護膜が多層構造である請求項1または2記載の積層体。
【請求項9】
セラミック基板の上に、銀を含む導体膜を形成するための導体膜用ペーストを塗布し、大気中で焼成して導体膜を形成する導体膜形成工程、
前記導体膜の一部を含む領域に、銀および銅を含まない金属成分を含む接続層を形成するための接続層用ペーストを塗布し、大気中または窒素雰囲気中で焼成して接続層を形成する接続層形成工程、
前記接続層の少なくとも一部の領域および前記セラミック基板の一部の領域に、銅およびニッケルを含む抵抗膜を形成するための抵抗膜用ペーストを塗布し、窒素雰囲気中で焼成して抵抗膜を形成する抵抗膜形成工程、
前記導体膜の一部の領域および前記抵抗膜の少なくとも一部の領域に、第1の絶縁保護膜を形成するための第1の絶縁保護膜用ペーストを塗布し、窒素雰囲気中で焼成して第1の絶縁保護膜を形成する第1の絶縁保護膜形成工程、
前記第1の絶縁保護膜の上に、第2の絶縁保護膜を形成するための第2の絶縁保護膜用ペーストを塗布し、大気中で焼成して第2の絶縁保護膜を形成する第2の絶縁保護膜形成工程を含む、積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導体膜、抵抗膜および絶縁保護膜を備えた積層体(抵抗膜付きセラミック基板)およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、セラミックヒーター、チップ抵抗器、発光ダイオード(LED)実装用の基板などで用いる「抵抗体」は、抵抗膜付きセラミック基板で構成されている。抵抗膜付きセラミック基板は、セラミック系基材に、スクリーン印刷で塗布した複数の金属系ペースト材料を、高温で焼成することで形成された複数の金属膜の積層体である。複数の金属膜は、導体膜、抵抗膜、絶縁保護膜で構成される。
【0003】
抵抗膜付きセラミック基板において、導体膜は配線や電極として基板内部の導通経路や外部との接続部の役割を担う。抵抗膜は、回路中で電源電圧を所定の電圧まで降下させたり、抵抗両端にかかる電位差から回路に流れる電流値を検出する役割(抵抗体そのものとしての役割)の他、セラミックヒーターではジュール熱による発熱体の役割も担う。そのため、抵抗膜には、抵抗精度が高いこと、抵抗温度係数が小さいこと、負荷電力への耐性などが要求される。絶縁保護膜は、抵抗膜を外部環境から保護して長期使用における抵抗変化を抑制したり、意図せぬ電気的接触から保護する。そのため、絶縁保護膜には、耐熱性、耐湿性、絶縁性などが要求される。
【0004】
それぞれの膜に使用される金属系ペースト材料としては、導体膜には銀系ペースト、抵抗膜には銀、白金、パラジウム、ルテニウムなどの貴金属およびそれらの合金を主成分とする抵抗ペーストが用いられることが多い。絶縁保護膜にはエポキシ樹脂やガラスなどの絶縁材料が用いられるが、特に耐熱性が必要な場合などにおいてはガラスペーストが用いられる。
【0005】
導体膜や抵抗膜を構成する材料としては、大気中で焼成できる観点で、貴金属ペーストが用いられる。貴金属ペーストは大気中でも酸化されないため、不活性ガス、還元ガス、真空などのコントロールされた雰囲気下で焼成する必要がなく、そのため比較的簡易な方法で安定して焼成できる理由で広く用いられてきた。しかしながら、貴金属は材料コストが高い点で大きな課題があった。特に、抵抗膜には、抵抗温度係数(TCR)が小さい銀パラジウム合金が用いられるが、パラジウムは貴金属の中でも特に高価であり、TCRをできるだけ小さくするためにパラジウムの構成比率を大きくすると必然的にコストが増大してしまう。しかも、パラジウム比率の高い銀パラジウム合金を用いたとしても、TCRを±100ppm/℃以内あるいはそれよりも狭い範囲を求めるような高い要求レベルを満たすことは難しかった。
【0006】
そのため、特許文献1(特許第2986539号公報)では、厚膜抵抗組成物として、銀:パラジウム=45:55の銀パラジウムペーストに、ガラスフリットとチタニアまたはアルミナとを加えてTCRを小さく抑えている。
【0007】
また、特許文献2(特開2002-75600号公報)では、金、銀、白金、パラジウムなどの単体貴金属をセラミックヒーターの発熱抵抗体として用いる場合に、単体貴金属の大きなTCRのために急速昇温時に生じる発熱バラツキを改善する目的で、これら金属種の合金組成によって2,000ppm/℃以下のTCRを得ている。
【0008】
さらに、特許文献3(特許第3642100号公報)には、貴金属ではない抵抗ペーストとして銅/ニッケル合金粉と銅粉、ガラスフリット及び有機ビヒクルからなる抵抗ペーストを、窒素ガス雰囲気中で焼成することにより得られる銅ニッケル合金の抵抗膜を用いたチップ抵抗器が提案されている。このチップ抵抗器では、銅ニッケル合金を抵抗膜とすれば、小さいTCRも比較的達成し易くなるため、安価な卑金属系で構成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第2986539号公報
【特許文献2】特開2002-75600号公報
【特許文献3】特許第3642100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1の厚膜抵抗組成物においても、ガラスフリットや酸化物成分は、セラミック系基材への密着性に影響し、それらの選択が限定的になると、適用できるセラミック系基材の材質の選択も限定的となる。特に、窒化アルミニウムや窒化ケイ素などの窒化物系セラミックに厚膜ペーストの膜を密着させる際には、酸化物成分の濡れにくさから、密着性とTCRを両立させるようなガラスフリットや酸化物成分を見出すことは困難であった。
【0011】
また、特許文献2の抵抗発熱体でも、TCRはせいぜい500ppm/℃までにしか抑えられておらず、また、貴金属を用いるため高価であった。
【0012】
さらに、特許文献3のチップ抵抗器では、抵抗膜に銅ニッケル合金ペーストを用いる場合、通常は導体膜には銅ペーストが用いられる。この場合、絶縁保護膜(ガラスペースト)の焼成は銅が酸化しないように窒素ガス中で行わなければならない。しかし、窒素ガス中ではペーストに含まれるバインダー樹脂成分が分解しにくく、膜中で分解ガスが気泡となって残る問題が生じる。気泡が膜中に生じると絶縁性が大きく低下する。また、発熱体の用途など高温下で用いられる場合には、絶縁保護膜の中に気泡が存在すると、酸素透過に対する隠蔽性が低く、使用中に抵抗膜(銅ニッケル合金)が酸化して抵抗値が上昇してしまう問題も生じる。この問題を回避するために導体膜に大気中でも酸化しない銀ペーストを用いることで、絶縁保護膜(ガラスペースト)を大気中で焼成することも考えられるが、この場合には導体膜(銀)と抵抗膜(銅ニッケル合金)の接続ができず、物理的・電気的に連結が途切れてしまう。すなわち、これらの膜の焼成時の加熱によって、導体膜(銀)の一部が抵抗膜(銅ニッケル合金)に吸われてしまう現象、所謂「喰われ現象」が生じて、残った導体膜(銀)との連結が途切れてしまう。この現象は、銀膜と銅ニッケル合金膜とを個別に焼成しても同時に焼成しても生じる。
【0013】
以上のように、従来の技術では金属系ペースト材料のコストを抑えること、抵抗膜のTCRを小さく抑えること、絶縁保護膜の絶縁性と保護性能を充分に担持することを全て備えた抵抗膜付きセラミック基板(抵抗体)を得ることは困難であった。
【0014】
従って、本発明の目的は、金属系ペースト材料のコストを抑え、かつ抵抗膜のTCRが小さく、絶縁性および保護性能に優れた保護膜を備えた積層体およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者等は、前記課題を達成するため、セラミック基板と、銀を含む導体膜と、銅およびニッケルを含む抵抗膜と、絶縁保護膜とを備える積層体において、前記導体膜と前記抵抗膜との間に、銀および銅を含まない金属成分を含む接続層を介在させることにより、金属系ペースト材料のコストを抑え、かつ抵抗膜のTCRが小さく、絶縁性および保護性能に優れた保護膜を備えた積層体を提供できることを見出し、本発明を完成した。
【0016】
すなわち、本発明の態様[1]としての積層体は、セラミック基板と、銀を含む導体膜と、銅およびニッケルを含む抵抗膜と、絶縁保護膜とを備える積層体であって、前記導体膜と前記抵抗膜との間に、銀および銅を含まない金属成分を含む接続層が介在する。
【0017】
本発明の態様[2]は、前記態様[1]において、前記接続層の金属成分が6ホウ化ランタン、ニッケル、金および酸化ルテニウムからなる群より選択された少なくとも一種を含む態様である。
【0018】
本発明の態様[3]は、前記態様[1]または[2]において、前記接続層がガラス成分をさらに含み、前記金属成分と前記ガラス成分との体積比が、金属成分/ガラス成分=60/40~10/90である態様である。
【0019】
本発明の態様[4]は、前記態様[1]~[3]のいずれかの態様において、前記接続層の平均厚みが5~50μmである態様である。
【0020】
本発明の態様[5]は、前記態様[1]~[4]のいずれかの態様において、前記導体膜が銀、銀パラジウム合金または銀白金合金で形成されている態様である。
【0021】
本発明の態様[6]は、前記態様[1]~[5]のいずれかの態様において、前記絶縁保護膜がガラス成分を含む態様である。
【0022】
本発明の態様[7]は、前記態様[1]~[6]のいずれかの態様において、前記絶縁保護膜が、前記導体膜の一部の領域を被覆し、かつ前記抵抗膜の少なくとも一部の領域を被覆する態様である。
【0023】
本発明の態様[8]は、前記態様[1]~[7]のいずれかの態様において、前記絶縁保護膜が多層構造である態様である。
【0024】
本発明には、態様[9]として、
セラミック基板の上に、銀を含む導体膜を形成するための導体膜用ペーストを塗布し、大気中で焼成して導体膜を形成する導体膜形成工程、
前記導体膜の一部を含む領域に、銀および銅を含まない金属成分を含む接続層を形成するための接続層用ペーストを塗布し、大気中または窒素雰囲気中で焼成して接続層を形成する接続層形成工程、
前記接続層の少なくとも一部の領域および前記セラミック基板の一部の領域に、銅およびニッケルを含む抵抗膜を形成するための抵抗膜用ペーストを塗布し、窒素雰囲気中で焼成して抵抗膜を形成する抵抗膜形成工程、
前記導体膜の一部の領域および前記抵抗膜の少なくとも一部の領域に、第1の絶縁保護膜を形成するための第1の絶縁保護膜用ペーストを塗布し、窒素雰囲気中で焼成して第1の絶縁保護膜を形成する第1の絶縁保護膜形成工程、
前記第1の絶縁保護膜の上に、第2の絶縁保護膜を形成するための第2の絶縁保護膜用ペーストを塗布し、大気中で焼成して第2の絶縁保護膜を形成する第2の絶縁保護膜形成工程を含む、積層体の製造方法も含まれる。
【発明の効果】
【0025】
本発明では、セラミック基板と、銀を含む導体膜と、銅およびニッケルを含む抵抗膜と、絶縁保護膜とを備える積層体において、前記導体膜と前記抵抗膜との間に、銀および銅を含まない金属成分を含む接続層が介在しているため、金属系ペースト材料のコストを抑え、かつ抵抗膜のTCRが小さく、絶縁性および保護性能に優れた保護膜を備えた積層体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、本発明の積層体の一例を示す概略断面図である。
図2図2は、図1の積層体の端部における拡大図である。
図3図3は、図1の積層体の概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[積層体]
本発明の積層体(抵抗膜付きセラミック基板)は、セラミック基板と、銀を含む導体膜と、銅およびニッケルを含む抵抗膜と、絶縁保護膜とを備える積層体において、前記導体膜と前記抵抗膜とが、銀および銅を含まない金属成分を含む接続層を介して接合されていることを特徴とする。このような構造を有する本発明の積層体の一例について、必要に応じて、添付図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0028】
図1は、本発明の積層体の一例を示す概略断面図であり、図2は、図1の積層体の端部における拡大図であり、図3は、図1の積層体の概略平面図(積層体1の平面形状を絶縁保護膜7側から観察した図面)である。
【0029】
図1に示されるように、この例の積層体1は、平面形状が方形状(長方形状)であるセラミック基板2と、このセラミック基板2の表面の一部の領域に形成(または積層)された一対の導体膜3と、この一対の導体膜3を電気的に接続するために、両導体膜3を橋掛けて形成された抵抗膜5と、この抵抗膜5を外部環境から保護するために、抵抗膜5の全表面(露出面)を含む領域に形成された第1の絶縁保護膜6と、この絶縁保護膜6の上に積層された第2の絶縁保護膜7とを備えており、前記導体膜3と前記抵抗膜5との接合箇所には、両膜が接触しないように、両膜の間に一対の接続層4を介在させている。
【0030】
詳しくは、前記接続層4は、導体膜3と抵抗膜5とが接触する領域(対向領域)、すなわち導体膜3の表面のうち、対向側の表面域およびおよび側端面において抵抗膜5と接触する領域だけでなく、前記側端面に隣接し、セラミック基板2と抵抗膜5とが接触する領域4aにも形成されている。
【0031】
また、第1および第2の絶縁保護膜6,7は、抵抗膜5の全表面を被覆してセラミック基板2の一部の領域に積層されており、抵抗膜5の全表面を被覆することにより、抵抗膜5を外部環境から保護する役割を有している。
【0032】
さらに、第1および第2の絶縁保護膜6,7は、導体膜3の表面に対しては一部の領域のみを被覆することにより、導体膜3の残部の領域(一対の導体膜の対向方向に対して反対側の接続領域)を露出させ、導体膜3が露出領域で外部の導電体と接合または接続可能な構造に形成されている。
【0033】
なお、本発明の積層体は、セラミック基板と導体膜と抵抗膜と絶縁保護膜とを備え、かつ前記導体膜と前記抵抗膜とが接続層を介して接合されていればよく、図1~3に示す形態および構造に限定されない。
【0034】
すなわち、本発明の積層体は、セラミック基板と、このセラミック基板表面の一部の領域に積層された導体膜と、この導体膜と電気的に接続した状態で前記セラミック基板表面の一部の領域に積層された抵抗膜と、この抵抗膜表面の少なくとも一部の領域を積層する絶縁保護膜とで形成された積層体において、前記導体膜と前記抵抗膜との間に接続層が介在することを、形態および構造の特徴とする。本発明では、銀および銅を含まない接続層の存在によって導体膜と抵抗膜とが直接的に接触することなく接合されるため、導体膜(銀系)と抵抗膜(銅ニッケル系)との間が、所謂「喰われ現象」で物理的・電気的に連結が途切れる問題点を解消できる。すなわち、本発明では、銅ニッケル系抵抗膜を用いても喰われ現象を抑制できるため、安価な卑金属系の抵抗膜を用いることが可能となる。また、銅ニッケル系の卑金属材料はTCR特性にも優れているため、抵抗膜のTCRを小さくすることができる。さらに、絶縁保護膜で覆われずに一部露出されることになる導体膜が酸化に対して強い銀系となるので絶縁保護膜とするガラスペーストの焼成を大気中で行うことができる。そのため、ペースト中の樹脂成分をスムーズに分解でき、分解ガスがガラス膜中に閉じ込められて気泡が生じるのを抑制できるため、絶縁性や保護性能に優れた絶縁保護膜を形成できる。すなわち、本発明の構成によって、ペースト材料のコストを抑え、かつ抵抗膜のTCRが小さく、絶縁性と保護性能とに優れた絶縁保護膜を備えた抵抗膜付きセラミック基板である積層体を得ることができる。
【0035】
(接続層)
接続層の形状は、導体膜と抵抗膜との間に介在し、両膜が接触しないように、両膜の接触領域において両膜間に介在する形状(前記接触領域に対応する層状)であれば特に限定されないが、導体膜が外部導体と接続可能な形態で、少なくとも導体膜の表面および側端面を含む対向領域に形成されるのが好ましく、前記対向領域に加えて、前記側端面に隣接する隣接域(セラミック基板と抵抗膜との接触領域の一部の領域)に形成されるのが特に好ましい。
【0036】
すなわち、接続層は、セラミック基板の上に対向して積層された導体膜の表面と抵抗膜との間に形成(介在)されていればよく、前記表面と抵抗膜との間に加えて、さらに導体膜の側端面(特に、導体膜同士が対向する両側端面)と抵抗膜との間にも形成されているのが好ましく、前記表面と抵抗膜との間および前記側端面と抵抗膜との間に加えて、さらにセラミック基板のうち、導体膜の側端面に隣接する隣接領域にも形成されているのが特に好ましい。すなわち、図1および2に示されるように、接続層が導体膜表面から側端面を経由して隣接域に至る領域に形成されていると(導体膜と抵抗膜との接触領域だけなく、前記隣接域にも接続層が介在すると)、導体膜と抵抗膜が直接するのを防止できるとともに、接続層もコーティングによって容易に接続層を形成できるため、生産性に優れている。
【0037】
接続層は、銀および銅を含まない金属成分(第1の金属成分)を含む。金属成分としては、銀および銅以外の金属単体または合金、銀および銅を含まない金属化合物であれば特に限定されない。
【0038】
好ましい金属単体としては、例えば、モリブデン、タングステン、マンガン、ニッケル、白金、金、アルミニウムなどが挙げられる。これらの金属単体は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの金属単体のうち、モリブデン、タングステン、アルミニウム、ニッケル、金が特に好ましい。
【0039】
好ましい合金としては、前記金属単体からなる群より選択された少なくとも二種以上を組み合わせた合金などが挙げられる。このような合金のうち、モリブデンマンガン合金が特に好ましい。
【0040】
好ましい金属化合物としては、例えば、6ホウ化ランタン(LaB)などの金属ホウ化物、酸化ルテニウムなどの金属酸化物などが挙げられる。これらの金属化合物は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの金属化合物のうち、6ホウ化ランタン、酸化ルテニウムが好ましい。
【0041】
特に、これらの金属成分のなかでも、モリブデン、タングステン、マンガン、ニッケル、金、アルミニウム、モリブデンマンガン合金、6ホウ化ランタン、酸化ルテニウム(RuO)が好ましく、導体膜(銀系)や抵抗膜(銅ニッケル系)を形成するための金属系ペーストと焼成温度や雰囲気が近い点から、6ホウ化ランタン、ニッケル、金および酸化ルテニウムからなる群より選択された少なくとも一種がより好ましく、経済性にも優れる点から、6ホウ化ランタンおよび/またはニッケルが最も好ましい。
【0042】
接続層は、前記金属成分に加えて、無機バインダーとしてのガラス成分(第1のガラス成分)をさらに含んでいてもよい。ガラス成分の役割は、積層体の製造過程において、前記金属成分の原料である金属成分粒子の焼結を助け、焼結膜をセラミック基板に密着させる役割が主であるが、金属成分が酸化ルテニウムや6ホウ化ランタンである場合、ガラス成分の原料であるガラスフリットが軟化溶融することで、金属成分粒子を包み込むようにして膜を固めると同時に粒子間の電気的導通を繋ぐ役割も果たす。
【0043】
ガラス成分としては、ホウケイ酸系ガラス、例えば、組成式SiO-B-MO(式中、Mは、Si、B以外の元素を示す)で表されるホウケイ酸ガラス、組成式ZnO-SiO-B-MO(式中、Mは、Zn、Si、B以外の元素を示す)で表されるホウケイ酸亜鉛ガラス、組成式BiO-SiO-BO-MO(式中、Mは、Bi、Si、B以外の元素を示す)で表されるホウケイ酸ビスマスガラス、組成式Al-SiO-MO(式中、Mは、Al、Si以外の元素を示す)で表されるアルミノケイ酸ガラス、組成式Al-SiO-B-MO(式中、Mは、Al、Si、B以外の元素を示す)で表されるアルミノホウケイ酸ガラスなどが挙げられる。これらのガラス成分は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、ホウケイ酸ガラス、ホウケイ酸亜鉛ガラスが好ましい。
【0044】
ガラス成分の軟化点(または融点)は、接続層を形成するための焼成温度よりも低い温度であるのが好ましい。ガラス成分の軟化点は、例えば400~800℃、好ましくは420~780℃、さらに好ましくは450~750℃である。軟化点が低すぎると、接続層の強度が低下する虞があり、逆に高すぎると、溶融流動性が低下するため、バインダーとしての機能が低下する虞がある。
【0045】
前記第1の金属成分と前記第1のガラス成分との体積比は、第1の金属成分/第1のガラス成分=90/10~1/99(特に60/40~10/90)程度の範囲から選択でき、例えば70/30~5/95(例えば50/50~30/70)、好ましくは65/35~7/93、さらに好ましくは60/40~10/90、より好ましくは55/45~12/88、最も好ましくは50/50~15/85である。第1の金属成分の体積割合が少なすぎると、電気特性が低下する虞があり、逆に多すぎると、セラミック基板との密着性などが低下する虞がある。
【0046】
前記第1の金属成分と前記第1のガラス成分との質量比は、第1の金属成分/第1のガラス成分=90/10~1/99程度の範囲から選択でき、例えば70/30~10/90、好ましくは60/40~30/70、さらに好ましくは60/40~40/60、より好ましくは55/45~45/55である。第1の金属成分の体積割合が少なすぎると、電気特性が低下する虞があり、逆に多すぎると、セラミック基板との密着性などが低下する虞がある。
【0047】
接続層は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、半導体や絶縁体などの非導体(例えば、セラミックスなどの充填剤、焼成後に残存した有機ビヒクルなど)を含んでいてもよい。第1の金属成分および第1のガラス成分の合計割合は、接続層中90質量%以上であってもよく、好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上であり、特に100質量%(第1の金属成分および第1のガラス成分のみで形成)であってもよい。
【0048】
接続層は、単層構造であってもよく、異なる組成を有する複数の層が積層された積層構造であってもよい。
【0049】
本発明の積層体において、接続層は、導体膜と抵抗膜とを電気的に接続できるが、低い電気抵抗を有するのが好ましい。電気抵抗が低い方が好ましい理由は、用途によって異なる。例えば、電圧調整や電流検出の用途では、基板内の導通経路全体の抵抗値は主に抵抗膜に支配される。しかし、小さいTCR(抵抗温度係数)を要求される抵抗膜材料では、接続層の抵抗が抵抗膜の抵抗に対して無視できないほどに高くなると、TCR特性は接続層の影響を大きく受けるためである。一方、発熱体の用途では、接続層の抵抗が大きいと接続層の部分だけ発熱温度が周囲より高くなって、温度の均一性が低下するためである。これらの点を考慮すると、接続層の面抵抗は、例えば10kΩ/□以下、好ましくは1kΩ/□以下が好ましく、さらに好ましくは100Ω/□以下、より好ましくは10Ω/□以下である。
【0050】
なお、本願において、接続層の面抵抗は、2端子法で測定できる。
【0051】
接続層の厚み(平均厚み)は3~200μm程度の範囲から選択でき、例えば3~100μm、好ましくは4~70μm、さらに好ましくは5~50μm、より好ましくは10~25μm、最も好ましくは15~20μmである。接続層の厚みが薄すぎると、喰われ現象を抑制できない虞があり、逆に厚すぎると積層体の電気特性が低下する虞がある。
【0052】
なお、本願において、接続層および他の各膜の平均厚みは、触針式膜厚計を用いて測定できる。
【0053】
(導体膜)
導体膜は、銀を含むことにより、大気中での酸化を抑制できるため、積層体の製造過程において導体膜の表面が露出した状態であっても大気中で焼成できる。そのため、例えば、絶縁保護膜の焼成工程において、導体膜の酸化を考慮することなく、大気中で焼成でき、積層体の生産性を向上できる。
【0054】
導体膜は、配線や電極としての導通経路として、セラミック基板の一部の領域に形成(積層)されていればよいが、通常、複数形成(積層)され、例えば、図1~3に示されるように、対向する一対の導体膜として形成されていてもよい。導体膜の形状は、層状であればよく、平面形状としては、図1~3に示すような長方形状に限定されず、目的に応じて選択できる。
【0055】
導体膜は、金属成分(第2の金属成分)として銀を含んでいればよいが、銀単体の形態や、銀を含む合金(銀含有合金)の形態で含むのが好ましい。
【0056】
銀含有合金において、銀と合金化する他の金属としては、例えば、遷移金属(例えば、チタン、ジルコニウムなどの周期表第4A族金属;バナジウム、ニオブなどの周期表第5A族金属;モリブデン、タングステンなどの周期表第6A族金属;マンガンなどの周期表第7A族金属;鉄、コバルト、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、レニウム、イリジウム、白金などの周期表第8族金属;金などの周期表第1B族金属など)、周期表第2B族金属(例えば、亜鉛、カドミウムなど)、周期表第3B族金属(例えば、アルミニウム、ガリウム、インジウムなど)、周期表第4B族金属(例えば、ゲルマニウム、スズ、鉛など)、周期表第5B族金属(例えば、アンチモン、ビスマスなど)などが挙げられる。これらの金属は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの金属のうち、銀の硫化などを抑制できる点から、パラジウムおよび/または白金が好ましい。
【0057】
銀含有合金において、銀の割合は、銀含有合金中50質量%以上であってもよく、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。銀の割合が少なすぎると、他の金属の種類によっては導体膜が酸化し易くなる虞がある一方で、パラジウムや白金などの貴金属では経済性が低下する虞がある。
【0058】
他の金属の割合は、銀含有合金中50質量%以下であってもよく、好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0059】
銀の割合(合金中の銀も含む)は、第2の金属成分中50質量%以上であってもよく、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、より好ましくは99質量%以上であり、特に100質量%(銀のみで形成)であってもよい。
【0060】
第2の金属成分としては、銀単体、銀パラジウム合金、銀白金合金が好ましく、銀単体が特に好ましい。
【0061】
導体膜は、前記第2の金属成分に加えて、無機バインダーとしてのガラス成分(第2のガラス成分)をさらに含んでいてもよい。第2のガラス成分としては、接続層の項で第1のガラス成分として例示したガラス成分などが挙げられる。前記ガラス成分は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。前記ガラス成分のうち、ホウケイ酸亜鉛ガラスが好ましい。
【0062】
第2のガラス成分の軟化点も、好ましい態様も含めて、第1のガラス成分の軟化点として記載された範囲から選択できる。
【0063】
第2の金属成分と第2のガラス成分との質量比は、第2の金属成分/第2のガラス成分=99.9/0.1~90/10程度の範囲から選択でき、例えば99/1~95/5、好ましくは98.5/1.5~96/4、さらに好ましくは98/2~97/3である。第2の金属成分の割合が少なすぎると、電気特性が低下する虞があり、逆に多すぎると、セラミック基板との密着性などが低下する虞がある。
【0064】
導体膜は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、半導体や絶縁体などの非導体(例えば、セラミックスなどの充填剤、焼成後に残存した有機ビヒクルなど)を含んでいてもよい。第2の金属成分および第2のガラス成分の割合は、導体膜中90質量%以上、好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上であり、特に100質量%(第2の金属成分および第2のガラス成分のみで形成)であってもよい。
【0065】
導体膜の厚み(平均厚み)は3μm以上(例えば3~200μm)であってもよく、例えば3~100μm、好ましくは5~50μm、さらに好ましくは10~25μm、より好ましくは10~15μmである。導体膜の厚みが薄すぎると、積層体の電気特性が低下する虞がある。
【0066】
(抵抗膜)
抵抗膜は、前記導体膜に電気的に接続され、回路中で電源電圧を所定の電圧まで降下させたり、抵抗両端にかかる電位差から回路に流れる電流値を検出するために形成される。そのため、抵抗膜の形状は、前記接続層を介して、前記導体膜と電通するように接合させた形状(複数の接続層を橋掛けるように形成した層状)であればよく、特に限定されないが、接続層の表面の少なくとも一部の領域と対向する接続層間の領域(セラミック基板上の一部の領域)とに形成されるのが好ましく、接続層の表面の全領域と、対向する接続層の側端面(接続層同士が対向する両側端面)と、対向する接続層間のセラミック基板の領域とに形成されるのが特に好ましい。抵抗膜の平面形状としては、接続層を介して導体膜に接合して機能を発現できれば特に限定されず、図1~3に示すような長方形状に限定されず、目的に応じて選択できる。
【0067】
抵抗膜は、金属成分(第3の金属成分)として銅およびニッケルを含む。銅やニッケルは貴金属に比べて安価な材料であり、かつ銅ニッケル合金で形成される抵抗膜は、銅ニッケルの組成比を適切に選択されることによって±100ppm/℃以内の小さいTCR特性を有するため、温度変化によって抵抗がほとんど変化しないという非常に優れた抵抗膜を形成できる。そのため、抵抗膜は、銅およびニッケルを含んでいればよいが、銅およびニッケルを含む合金(銅ニッケル含有合金)の形態で銅およびニッケルを含むのが好ましい。
【0068】
銅ニッケル含有合金において、銅およびニッケルと合金化できる金属としては、前記導体膜の第2の金属成分において、銀と合金化する他の金属として例示された他の金属などが挙げられる。
【0069】
銅ニッケル含有合金において、銅およびニッケルの割合は、銅ニッケル含有合金中50質量%以上であってもよく、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、より好ましくは99質量%以上であり、特に100質量%(銅およびニッケルのみで形成された銅ニッケル合金)であってもよい。銅およびニッケルの割合が少なすぎると、TCRを小さくするのが困難となる虞がある。
【0070】
他の金属の割合は、銅ニッケル合金中50質量%以下であってもよく、好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。
【0071】
抵抗膜は、前記第3の金属成分に加えて、無機バインダーとしてのガラス成分(第3のガラス成分)をさらに含んでいてもよい。第3のガラス成分としては、接続層の項で第1のガラス成分として例示したガラス成分などが挙げられる。前記ガラス成分は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。前記ガラス成分のうち、ホウケイ酸系ガラス、特に、ホウケイ酸亜鉛ガラスが好ましい。
【0072】
第3のガラス成分の軟化点も、好ましい態様も含めて、第1のガラス成分の軟化点として記載された範囲から選択できる。
【0073】
第3の金属成分と第3のガラス成分との質量比は、第3の金属成分/第3のガラス成分=99.9/0.1~80/20程度の範囲から選択でき、例えば99/1~90/10、好ましくは98/2~93/7、さらに好ましくは97/3~95/5である。第3の金属成分の割合が少なすぎると、電気特性が低下する虞があり、逆に多すぎると、セラミック基板との密着性などが低下する虞がある。
【0074】
抵抗膜は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、半導体や絶縁体などの非導体(例えば、セラミックスなどの充填剤、焼成後に残存した有機ビヒクルなど)を含んでいてもよい。第3の金属成分および第3のガラス成分の合計割合は、抵抗膜中90質量%以上、好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上であり、特に100質量%(第3の金属成分および第3のガラス成分のみで形成)であってもよい。
【0075】
抵抗膜の厚み(平均厚み)は5μm以上(例えば5~200μm)であってもよく、例えば5~100μm、好ましくは10~50μm、さらに好ましくは15~30μm、より好ましくは20~25μmである。抵抗膜の厚みが薄すぎると、積層体の電気特性が低下する虞がある。
【0076】
(絶縁保護膜)
絶縁保護膜は、ガラス成分(第4のガラス成分)を含み、耐熱性、耐湿性および絶縁性を有している。このような特性を有する絶縁保護膜で前記抵抗膜を被覆することにより、長期使用における抵抗値変化を抑制したり、突発的な電気的接触などの外部環境から抵抗膜を保護できる。
【0077】
絶縁保護膜の形状は、抵抗膜の少なくとも一部の領域を被覆できればよく、特に限定されないが、抵抗膜を外部環境から有効に保護できる点から、抵抗膜の表面(露出面)の全領域(全表面)を被覆するのが好ましい。絶縁保護膜が抵抗膜の全表面を被覆する場合、絶縁保護膜による保護機能を向上でき、生産性にも優れる点から、抵抗膜に隣接する領域(セラミック基板および導体膜の表面)も被覆するのが好ましい。すなわち、絶縁保護膜は、抵抗膜の表面を含み、抵抗膜よりも大きな面積で被覆するのが好ましいが、導体膜およびセラミック基板の一部の領域に形成するのが好ましい。導体膜に絶縁保護膜が積層されていない露出領域を残存させることにより、導体膜が外部導体と電通可能とするためである。
【0078】
第4のガラス成分としては、接続層の項で例示したガラス成分などが挙げられる。前記ガラス成分は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。前記ガラス成分のうち、絶縁性、ガスバリア性、メッキ液への耐性に優れる点から、ホウケイ酸ガラス、アルミノケイ酸ガラス、アルミノホウケイ酸ガラスが好ましい。
【0079】
第4のガラス成分の軟化点(または融点)は、接続層を形成するための焼成温度よりも低い温度であるのが好ましい。ガラス成分の軟化点は、例えば400~800℃、好ましくは420~780℃、さらに好ましくは450~750℃である。軟化点が低すぎると、絶縁保護膜の強度が低下する虞があり、逆に高すぎると、溶融流動性が低下する虞がある。
【0080】
第4のガラス成分は、絶縁性やガスバリア性に優れる点から、充填剤を含むのが好ましい。第4のガラス成分が充填剤を含むことにより、絶縁保護膜に気泡による欠陥が生じるのを抑制できる。充填剤としては、例えば、シリカ、アルミナ、酸化バリウム、酸化イットリウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ホウ素などが挙げられる。これらの充填剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、シリカ、アルミナが好ましい。
【0081】
充填剤の割合は、第4のガラス成分中3~25質量%、好ましくは5~15質量%、さらに好ましくは7~13質量%である。
【0082】
第4のガラス成分は、露出した導体膜をメッキする場合などにおいてメッキ耐性が要求される場合もあり、メッキ液への耐性に優れる点から、耐酸性ガラスや耐アルカリ性ガラスであってもよい。
【0083】
絶縁保護膜は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、半導体や絶縁体などの非導体(例えば、焼成後に残存した有機ビヒクルなど)を含んでいてもよい。第4のガラス成分の割合は、絶縁保護膜中90質量%以上、好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上であり、特に100質量%(第4のガラス成分のみで形成)であってもよい。
【0084】
絶縁保護膜は、単層構造であってもよいが、二層以上の積層構造が好ましい。絶縁保護膜を積層構造とすることにより、絶縁保護膜の製造過程において、抵抗膜を被覆した後の二層目以降の層は、大気中で焼成できるため、ガラス中の気泡の発生を抑制でき、絶縁性や保護性能に優れた絶縁保護膜を形成できる。多層構造は、二層以上の多層構造であればよいが、生産性などの点から、二~四層構造が好ましく、二~三層構造がさらに好ましく、二層構造がより好ましい。積層構造における各層の材質(組成)は、異なる組成であってもよく、同一の組成であってもよい。
【0085】
絶縁保護膜の厚み(積層構造の場合は合計厚みの平均厚み)は10μm以上であってもよく、例えば20~200μm、好ましくは30~150μm、さらに好ましくは60~130μm、より好ましくは80~120μmである。絶縁保護膜の厚みが薄すぎると、絶縁保護膜による保護機能が低下する虞がある。
【0086】
(セラミック基板)
セラミック基板は、セラミックスを原料として含み、焼成温度に対応可能な材料であれば特に限定されず、各種のセラミックス、ガラス材料、セラミックスグリーンシートなどが汎用される。
【0087】
セラミック基板(またはセラミックス基板)の材質としては、例えば、金属酸化物(アルミナまたは酸化アルミニウム、ジルコニア、サファイア、フェライト、酸化亜鉛、酸化ニオブ、ムライト、ベリリアなど)、酸化ケイ素(石英、二酸化ケイ素など)、金属窒化物(窒化アルミニウム、窒化チタンなど)、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化炭素、金属炭化物(炭化チタン、炭化タングステンなど)、炭化ケイ素、炭化ホウ素、金属複酸化物[チタン酸金属塩(チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸鉛、チタン酸ニオブ、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウムなど)、ジルコン酸金属塩(ジルコン酸バリウム、ジルコン酸カルシウム、ジルコン酸鉛など)など]などが挙げられる。これらのセラミックスは単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。セラミックスは、低温同時焼成セラミックス(LTCC)であってもよい。
【0088】
これらのセラミック基板のうち、電気電子分野で信頼性が高い点から、アルミナ基板、アルミナ-ジルコニア基板、窒化アルミニウム基板、窒化ケイ素基板、炭化ケイ素基板が好ましく、アルミナ基板、窒化アルミニウム基板、窒化ケイ素基板がさらに好ましく、抵抗膜や導体膜との密着性に優れる点から、窒化アルミニウム基板、アルミナ基板がより好ましく、アルミナ基板が最も好ましい。
【0089】
セラミック基板の厚みは、用途に応じて適宜選択すればよく、例えば0.001~10mm、好ましくは0.01~5mm、さらに好ましくは0.05~3mm、より好ましくは0.1~1mmである。
【0090】
[積層体の特性]
本発明の積層体は、抵抗値の温度依存性が低く、安定性に優れている。具体的には、本発明の積層体の抵抗温度係数(TCR)の絶対値は、例えば300ppm/℃以下(例えば10~300ppm/℃程度)、好ましくは200ppm/℃以下、さらに好ましくは100ppm/℃以下、より好ましくは80ppm/℃以下、最も好ましくは70ppm/℃以下である。TCRが大きすぎると、抵抗膜付きセラミック基板としての積層体の安定性が低下する虞がある。
【0091】
なお、本願において、積層体のTCRは、後述する実施例に記載の方法で測定できる。また、本願において、ppm/℃とは、単位「/℃」で表される数値を10倍していることを意味する。
【0092】
本発明の積層体は、耐電圧性にも優れている。本発明の積層体は、電圧による絶縁保護膜の耐久性を測定した耐電圧値が1.5kV以上(例えば1.5~5kV程度)であってもよく、好ましくは1.8kV以上(例えば1.8~3kV程度)、さらに好ましくは2.0kV以上である。耐電圧値が低すぎると、抵抗膜付きセラミック基板としての積層体の安定性が低下する虞がある。
【0093】
なお、本願において、積層体の耐電圧値は、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0094】
[積層体の製造方法]
本発明の積層体の製造方法は、導体膜形成工程、接続層形成工程、抵抗膜形成工程、絶縁保護膜形成工程を経て得られ、絶縁保護膜形成工程は複数の工程を経るのが好ましく、例えば、絶縁保護膜を二層構造とする場合には、絶縁保護膜形成工程を、窒素雰囲気下で焼成する第1の絶縁保護膜形成工程と、大気中で焼成する第2の保護膜形成工程とするのが好ましい。以下、各工程について詳細に説明する。
【0095】
(導体膜形成工程)
導体膜形成工程では、セラミック基板の上(一部の領域)に、銀を含む導体膜を形成するための導体膜用ペーストを塗布した後、焼成して導体膜を形成する。
【0096】
前記導体膜用ペーストは、第2の金属成分の原料である第2の金属粒子、第2のガラス成分である第2のガラス粒子を含む。
【0097】
第2の金属粒子は、金属単体粒子であってもよく、合金粒子であってもよい。また、金属成分が合金である場合、合金粒子を用いて合金を形成してもよいし、金属単体粒子を混合して合金を形成してもよい。
【0098】
第2の金属粒子の形状は、特に限定されず、球状(真球状または略球状)、楕円体(楕円球)状、多面体状(三角錐状、正六面体状または立方体状、直方体状、八面体状など)、板状(扁平、鱗片または薄片状など)、ロッド状または棒状、繊維状、不定形状などであってもよい。金属粒子の形状は、通常、球状、楕円体状、多面体状、不定形状などである。
【0099】
第2の金属粒子の中心粒径(D50)は、例えば0.05~100μm(特に0.05~50μm)程度の範囲から選択でき、焼結性を向上でき、かつコーティング(特に、スクリーン印刷)に適した粘度のペーストに仕上げ易い点から、好ましくは0.08~10μm、さらに好ましくは0.1~5μm、より好ましくは0.2~4μm、最も好ましくは0.3~3μmである。
【0100】
なお、本願において、金属粒子(後述するガラス粒子も含む)の中心粒径(または平均粒径)は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置を用いて測定された粒径分布に基づく中心粒径(体積基準)を意味する。
【0101】
前記導体膜用ペーストは、第2の金属粒子に加えて、第2の有機ビヒクルをさらに含んでいてもよい。
【0102】
第2の有機ビヒクルは、有機バインダーおよび/または有機溶剤であってもよい。第2の有機ビヒクルは、有機バインダーおよび有機溶剤のいずれか一方であってもよいが、通常、有機バインダーと有機溶剤との組み合わせ(有機バインダーの有機溶剤による溶解物)である。
【0103】
有機バインダー(第2の有機バインダー)としては、特に限定されず、例えば、熱可塑性樹脂(オレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、セルロース誘導体など)、熱硬化性樹脂(熱硬化性アクリル系樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂など)などが挙げられる。これらの有機バインダーは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの有機バインダーのうち、焼成過程で容易に焼失し、かつ灰分の少ない樹脂、例えば、アクリル系樹脂(ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレートなど)、セルロース誘導体(ニトロセルロース、エチルセルロース、ブチルセルロース、酢酸セルロースなど)、ポリエーテル類(ポリオキシメチレンなど)、ゴム類(ポリブタジエン、ポリイソプレンなど)などが汎用される。
【0104】
有機溶剤(第2の有機溶剤)としては、特に限定されず、ペーストに適度な粘性を付与し、かつペーストを基板に塗布した後に乾燥処理によって容易に揮発できる有機化合物であればよく、高沸点の有機溶剤であってもよい。このような有機溶剤としては、例えば、芳香族炭化水素(パラキシレンなど)、エステル類(乳酸エチル、テキサノールなど)、ケトン類(イソホロンなど)、アミド類(ジメチルホルムアミドなど)、脂肪族アルコール(オクタノール、デカノール、ジアセトンアルコールなど)、セロソルブ類(メチルセロソルブ、エチルセロソルブなど)、セロソルブアセテート類(エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテートなど)、カルビトール類(カルビトール、メチルカルビトール、エチルカルビトールなど)、カルビトールアセテート類(エチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート)、脂肪族多価アルコール類(エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ブタンジオール、トリエチレングリコール、グリセリンなど)、脂環族アルコール類[例えば、シクロヘキサノールなどのシクロアルカノール類;テルピネオール、ジヒドロテルピネオールなどのテルペンアルコール類(モノテルペンアルコールなど)など]、芳香族アルコール類(メタクレゾールなど)、芳香族カルボン酸エステル類(ジブチルフタレート、ジオクチルフタレートなど)、窒素含有複素環化合物(ジメチルイミダゾール、ジメチルイミダゾリジノンなど)などが挙げられる。これらの有機溶剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0105】
第2の有機ビヒクルとして、第2の有機バインダーと第2の有機溶剤とを組み合わせる場合、第2の有機バインダーの割合は、第2の有機ビヒクル全体に対して3~60質量%、好ましくは5~50質量%、さらに好ましくは10~30質量%である。
【0106】
第2の有機ビヒクルの体積分率は、導電膜用ペーストの体積全体に対して、例えば30~70体積%、好ましくは40~60体積%、さらに好ましくは45~55体積%である。
【0107】
導体膜用ペーストは、本発明の効果を損なわない範囲で、慣用の添加剤をさらに含んでいてもよい。慣用の添加剤としては、例えば、硬化剤(アクリル系樹脂の硬化剤など)、着色剤(染顔料など)、色相改良剤、染料定着剤、光沢付与剤、金属腐食防止剤、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤など)、界面活性剤または分散剤(アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤など)、分散安定化剤、粘度調整剤またはレオロジー調整剤、保湿剤、チクソトロピー性賦与剤、レベリング剤、消泡剤、殺菌剤、充填剤などが挙げられる。これらの添加剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0108】
導体膜用ペーストの調製方法は、前記成分を含むペーストを調製できる限り特に限定されないが、通常、第2の金属粒子を、慣用の方法で第2の有機ビヒクル中に分散させることにより調製できる。
【0109】
導体膜用ペーストをセラミック基板に塗布するためのコーティング方法としては、例えば、フローコーティング法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、キャスト法、バーコーティング法、カーテンコーティング法、ロールコーティング法、グラビアコーティング法、ディッピング法、スリット法、フォトリソグラフィ法、インクジェット法などを挙げることができる。コーティングは、セラミック基板の一部の面に形成すればよいが、通常、パターン状で一部の面に形成される。塗膜でパターンを形成(描画)した場合、形成されたパターン(描画パターン)を焼成処理することにより焼結パターン(導体膜)を形成できる。パターン(塗布層)を描画するための描画法(または印刷法)としては、パターン形成可能な印刷法であれば特に限定されず、例えば、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法、凹版印刷法(例えば、グラビア印刷法など)、オフセット印刷法、凹版オフセット印刷法、フレキソ印刷法などが挙げられる。これらの方法のうち、スクリーン印刷法が好ましい。
【0110】
コーティング後は、自然乾燥してもよいが、加熱して乾燥してもよい。加熱温度は、有機溶剤の種類に応じて選択でき、例えば50~200℃、好ましくは100~150℃程度である。加熱時間は、例えば5分~1時間程度、好ましくは10~30分程度である。
【0111】
コーティングされた塗膜は、所定の温度で加熱して焼成(または加熱処理)することにより、導体膜が得られる。
【0112】
導体膜を形成するための焼成温度(最高到達温度)は、例えば600~1000℃、好ましくは800~900℃である。焼成温度が低すぎると、金属粒子が焼結せず、導電性が低下する虞がある。一方、焼成温度が高すぎると、金属粒子が過剰に焼結することで導体膜が捲れ上がってセラミック基板との密着性が低下する虞がある。
【0113】
焼成雰囲気は、不活性ガス中(例えば窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなど)または大気中のいずれであってもよいが、大気中が好ましい。
【0114】
(接続層形成工程)
接続層形成工程では、前記導体膜が積層された前記セラミック基板において、前記導体膜の一部を含む領域に、銀および銅を含まない金属成分で形成されている接続層を形成するための接続層用ペーストを塗布した後、焼成して接続層を形成する。
【0115】
前記接続層用ペーストは、第1の金属成分の原料である第1の金属粒子、第1のガラス成分の原料である第1のガラス粒子を含む。
【0116】
第1の金属粒子は、金属単体粒子であってもよく、合金粒子であってもよい。また、金属成分が合金である場合、合金粒子を用いて合金を形成してもよいし、金属単体粒子を混合して合金を形成してもよい。
【0117】
第1の金属粒子の形状は、通常の形状も含めて、前記第2の金属粒子の形状として例示された形状から選択できる。また、第1の金属粒子の中心粒径(D50)は、好ましい範囲も含めて、前記第2の金属粒子の中心粒径(D50)として記載された範囲から選択できる。
【0118】
第1のガラス粒子の形状も、通常の形状も含めて、前記第2の金属粒子の形状として例示された形状から選択できる。また、第1のガラス粒子の中心粒径(D50)は、好ましい範囲も含めて、前記第2の金属粒子の中心粒径(D50)として記載された範囲から選択できる。
【0119】
接続層用ペーストは、第1の金属粒子および第1のガラス粒子に加えて、第1の有機ビヒクルをさらに含んでいてもよい。第1の有機ビヒクルとしては、前記第2の有機ビヒクルとして例示された有機ビヒクルなどが挙げられる。第1の有機ビヒクル全体に対する第1の有機バインダーの割合および第1の有機ビヒクルの体積分率は、好ましい範囲も含めて、第2の有機ビヒクルとして記載された割合および体積分率から選択できる。
【0120】
接続層用ペーストは、本発明の効果を損なわない範囲で、慣用の添加剤をさらに含んでいてもよい。慣用の添加剤としては、前記導体膜用ペーストにおける慣用の添加剤として記載された慣用の添加剤などが挙げられる。
【0121】
なお、各成分の比率は、特に限定されず、印刷性や電気特性、セラミック基板との密着性などから適宜調整することができる。
【0122】
接続層用ペーストの調製方法は、前記成分を含むペーストを調製できる限り特に限定されないが、通常、第1の金属粒子および第1のガラス粒子を、慣用の方法で第1の有機ビヒクル中に分散させることにより調製できる。
【0123】
接続層用ペーストのコーティング方法としては、前記導体膜用ペーストのコーティング方法として記載されたコーティング方法などが挙げられる。コーティングは、導体膜と抵抗膜との接触領域を含む領域に形成される。好ましいコーティング方法は、前記導体膜用ペーストのコーティング方法と同様である。
【0124】
コーティング後は、自然乾燥してもよいが、加熱して乾燥してもよい。加熱温度および加熱時間は、好ましい範囲も含めて、前記導体膜用ペーストの加熱温度および加熱時間として記載された範囲から選択できる。
【0125】
コーティングされた塗膜は、所定の温度で加熱して焼成(または加熱処理)することにより、接続層が得られる。
【0126】
接続層を形成するための焼成温度(最高到達温度)は、例えば600~1000℃程度の範囲から選択でき、好ましくは800~1000℃、さらに好ましくは850~900℃である。焼成温度が低すぎると、ガラス粒子が焼結せず、導体膜-抵抗膜間の合金化阻害効果が不十分となる虞がある。一方、焼成温度が高すぎると、軟化したガラス粒子が導体膜上に染み出し、導電性が低下する虞がある。
【0127】
焼成雰囲気は、不活性ガス中(例えば窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなど)または大気中のいずれであってもよく、第1の金属成分の種類に応じて選択できる。
【0128】
なお、接続層を積層構造で形成する場合は、接続層形成工程を繰り返すことにより、多層構造の接続層を形成できる。
【0129】
(抵抗膜形成工程)
前記導体膜および前記接続層が積層された前記セラミック基板において、前記接続層の少なくとも一部の領域および前記セラミック基板の一部の領域(前記接続層の少なくとも一部の領域およびこの領域に連続したセラミック基板上の一部の領域)に、銅およびニッケルを含む抵抗膜を形成するための抵抗膜用ペーストを塗布し、窒素雰囲気中で焼成して抵抗膜を形成する。前記導体膜および前記接続層が複数形成される場合は、接続層の表面(特に、全表面)と、対向する接続層間の領域(セラミック基板表面の一部の領域であり、接続層間を橋掛けする領域)とを前記抵抗膜用ペーストで塗布して窒素雰囲気下で焼成するのが好ましい。
【0130】
前記抵抗膜用ペーストは、第3の金属成分の原料である第3の金属粒子、第3のガラス成分の原料である第3のガラス粒子を含む。
【0131】
第3の金属粒子は、金属単体粒子であってもよく、合金粒子であってもよい。また、金属成分が合金である場合、合金粒子を用いて合金を形成してもよいし、金属単体粒子を混合して合金を形成してもよい。
【0132】
第3の金属粒子の形状は、通常の形状も含めて、前記第2の金属粒子の形状として例示された形状から選択できる。また、第3の金属粒子の中心粒径(D50)は、好ましい範囲も含めて、前記第2の金属粒子の中心粒径(D50)として記載された範囲から選択できる。
【0133】
第3のガラス粒子の形状も、通常の形状も含めて、前記第2の金属粒子の形状として例示された形状から選択できる。また、第3のガラス粒子の中心粒径(D50)は、好ましい範囲も含めて、前記第2の金属粒子の中心粒径(D50)として記載された範囲から選択できる。
【0134】
抵抗膜用ペーストは、第3の金属粒子および第3のガラス粒子に加えて、第3の有機ビヒクルをさらに含んでいてもよい。第3の有機ビヒクルとしては、前記第2の有機ビヒクルとして例示された有機ビヒクルなどが挙げられる。第3の有機ビヒクル全体に対する第3の有機バインダーの割合および第3の有機ビヒクルの体積分率は、好ましい範囲も含めて、第2の有機ビヒクルとして記載された割合および体積分率から選択できる。
【0135】
抵抗膜用ペーストは、本発明の効果を損なわない範囲で、慣用の添加剤をさらに含んでいてもよい。慣用の添加剤としては、前記導体膜用ペーストにおける慣用の添加剤として記載された慣用の添加剤などが挙げられる。
【0136】
抵抗膜用ペーストの調製方法は、前記成分を含むペーストを調製できる限り特に限定されないが、通常、第3の金属粒子および第3のガラス粒子を、慣用の方法で第3の有機ビヒクル中に分散させることにより調製できる。
【0137】
抵抗膜用ペーストのコーティング方法としては、前記導体膜用ペーストのコーティング方法として記載されたコーティング方法などが挙げられる。コーティングは、前記接続層を介して複数の領域に形成された導体膜を電気的に接続するために、前記接続層を橋掛ける領域に形成される。好ましいコーティング方法は、前記導体膜用ペーストのコーティング方法と同様である。
【0138】
コーティング後は、自然乾燥してもよいが、加熱して乾燥してもよい。加熱温度および加熱時間は、好ましい範囲も含めて、前記導体膜用ペーストの加熱温度および加熱時間として記載された範囲から選択できる。
【0139】
コーティングされた塗膜は、所定の温度で加熱して焼成(または加熱処理)することにより、抵抗膜が得られる。
【0140】
抵抗膜を形成するための焼成温度(最高到達温度)は、例えば600~1000℃程度の範囲から選択でき、好ましくは800~1000℃、さらに好ましくは850~900℃である。焼成温度が低すぎると、金属粒子が焼結せず、導電性が低下する虞がある。一方、焼成温度が高すぎると、金属粒子の偏析が起こって目的の電気特性を得られない虞がある。
【0141】
焼成雰囲気は、不活性ガス中(例えば窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなど)または大気中のいずれであってもよいが、銅の酸化を抑制できる点から、窒素雰囲気下が好ましい。
【0142】
(第1の絶縁保護膜形成工程)
前記導体膜、前記接続層および前記抵抗膜が積層された前記セラミック基板において、前記導体膜の一部の領域および前記抵抗膜の少なくとも一部の領域に、第1の絶縁保護膜を形成するための第1の絶縁保護膜用ペーストを塗布し、焼成して第1の絶縁保護膜を形成する。導体膜の一部の領域のみに第1の絶縁保護膜用ペーストを塗布することにより、導体膜の残部を外部導体との接続領域とできる一方で、抵抗膜については、保護を向上できる点から、全面を第1の絶縁保護膜用ペーストで被覆するの好ましい。
【0143】
前記第1の絶縁保護膜用ペーストは、第4のガラス成分の原料である第4のガラス粒子を含む。
【0144】
第4のガラス粒子の形状は、通常の形状も含めて、前記第2の金属粒子の形状として例示された形状から選択できる。また、第4のガラス粒子の中心粒径(D50)は、好ましい範囲も含めて、前記第2の金属粒子の中心粒径(D50)として記載された範囲から選択できる。
【0145】
第1の絶縁保護膜用ペーストは、第4のガラス粒子に加えて、第4の有機ビヒクルをさらに含んでいてもよい。第4の有機ビヒクルとしては、前記第2の有機ビヒクルとして例示された有機ビヒクルなどが挙げられる。第4の有機ビヒクル全体に対する第4の有機バインダーの割合および第4の有機ビヒクルの体積分率は、好ましい範囲も含めて、第2の有機ビヒクルとして記載された割合および体積分率から選択できる。
【0146】
第1の絶縁保護膜用ペーストは、本発明の効果を損なわない範囲で、慣用の添加剤をさらに含んでいてもよい。慣用の添加剤としては、前記導体膜用ペーストにおける慣用の添加剤として記載された慣用の添加剤などが挙げられる。
【0147】
第1の絶縁保護膜用ペーストの調製方法は、前記成分を含むペーストを調製できる限り特に限定されないが、通常、第4のガラス粒子を、慣用の方法で第4の有機ビヒクル中に分散させることにより調製できる。
【0148】
第1の絶縁保護膜用ペーストのコーティング方法としては、前記導体膜用ペーストのコーティング方法として記載されたコーティング方法などが挙げられる。コーティングは、前記抵抗膜の表面に積層され、通常、前記抵抗膜の全表面に積層される。好ましいコーティング方法は、前記導体膜用ペーストのコーティング方法と同様である。
【0149】
コーティング後は、自然乾燥してもよいが、加熱して乾燥してもよい。加熱温度および加熱時間は、好ましい範囲も含めて、前記導体膜用ペーストの加熱温度および加熱時間として記載された範囲から選択できる。
【0150】
コーティングされた塗膜は、所定の温度で加熱して焼成(または加熱処理)することにより、第1の絶縁保護膜が得られる。
【0151】
第1の絶縁保護膜を形成するための焼成温度(最高到達温度)は、例えば600~1000℃程度の範囲から選択でき、好ましくは800~1000℃、さらに好ましくは850~900℃である。焼成温度が低すぎると、ガラス粒子が焼結せず、絶縁性及び保護機能が損なわれる虞がある。一方、焼成温度が高すぎると、軟化したガラスフリットが下地膜を覆いきれずに導体膜や抵抗膜が露出し、絶縁性及び保護性能が損なわれる虞がある。
【0152】
焼成雰囲気は、不活性ガス中(例えば窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなど)または大気中のいずれであってもよいが、抵抗膜の銅の酸化を抑制できる点から、窒素雰囲気下が好ましい。
【0153】
(第2の絶縁保護膜形成工程)
第2の絶縁保護膜形成工程では、前記第1の絶縁保護膜の上に、第2の絶縁保護膜を形成するための第2の絶縁保護膜用ペーストを塗布し、大気中で焼成して第2の絶縁保護膜を形成する。
【0154】
第2の絶縁保護膜形成工程は、焼成雰囲気を除いては、第1の絶縁保護膜形成工程と同様の方法で第2の絶縁保護膜を形成できる。なお、第2の絶縁保護膜形成工程では、第4のガラス粒子は、第1の絶縁保護膜形成工程における第4のガラス粒子と異なっていてもよいが、簡便性などの点から、通常、同一であり、第4の有機ビヒクルおよび慣用の添加剤についても同様である。焼成雰囲気以外の条件や方法についても、第1の絶縁保護膜形成工程と異なっていてもよいが、簡便性などの点から、通常、同一である。
【0155】
一方、焼成雰囲気については、第1の絶縁保護膜形成工程においては、抵抗膜の銅の酸化を抑制するために、窒素雰囲気下が好ましいが、第2の絶縁保護膜形成工程では、第1の絶縁保護膜によって抵抗膜が保護されているため、大気中が好ましい。第2の絶縁保護膜を窒素雰囲気下で焼成すると、有機ビヒクルなどが原因となる気泡が発生し易いが、大気中で焼成することにより、気泡の発生を抑制でき、積層体の安定性を向上できる。
【0156】
(他の工程)
絶縁保護膜が三層以上の積層構造である場合は、絶縁保護膜の形成工程が三工程以上になるが、第1の絶縁保護膜形成工程以外の工程は、第2の絶縁保護膜形成工程と同様に、焼成雰囲気は大気中が好ましい。例えば、絶縁保護膜が三層構造である場合は、積層体の製造方法は、絶縁保護膜積層工程として、第1の絶縁保護膜形成工程、第2の絶縁保護膜形成工程、第3の絶縁保護膜形成工程を有するが、第1の絶縁保護膜形成工程では、焼成雰囲気は窒素雰囲気が好ましく、第2の絶縁保護膜形成工程および第3の絶縁保護膜形成工程では、焼成雰囲気は大気中が好ましい。
【実施例0157】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0158】
[使用材料]
Ag粒子:中心粒径(D50)2μmの銀粒子(比重10.5)
AgPd粒子:中心粒径(D50)1μmであるAgとPdとの合金粒子(AgとPdとの質量比:Ag/Pd=90/10、比重10.6)
AgPt粒子:中心粒径(D50)1μmであるAgとPtとの合金粒子(AgとPtとの質量比:Ag/Pt=90/10、比重11.1)
Au粒子:中心粒径(D50)1μmの金粒子(比重19.3)
LaB粒子:中心粒径(D50)1μmの6ホウ化ランタン粒子(比重4.8)
RuO粒子:中心粒径(D50)1μmの酸化ルテニウム粒子(比重7.1)
Cu粒子:中心粒径(D50)2μmの銅粒子(比重8.9)
Ni粒子:中心粒径(D50)0.5μmのニッケル粒子(比重8.9)
ガラス粒子A:中心粒径(D50)3μm、組成ホウケイ酸亜鉛ガラスのガラス粒子(比重3.0)
ガラス粒子B:中心粒径(D50)3μm、組成ホウケイ酸ガラスのガラス粒子(比重3.0)
有機ビヒクルA:アクリル樹脂を、テルピネオールとブチルカルビトールアセテートとの混合溶媒(質量比1/1)中に溶解して調製したアクリル樹脂30質量%の溶液
有機ビヒクルB:エチルセルロースを、テキサノールの溶媒中に溶解して調製したエチルセルロース10質量%の溶液
アルミナ基板:96%アルミナ基板
【0159】
[試料の作製]
(実施例1)
アルミナ基板上に、図1~3に示す配置で導体膜、接続層、抵抗膜および絶縁保護膜を形成した積層体を以下の通り作製した。
【0160】
まず、導体膜用ペースト(Ag粒子85質量%、ガラス粒子A 2質量%、有機ビヒクルB 13質量%)を0.6cm×0.9cmの矩形にスクリーン印刷し、100℃の送風乾燥機で20分乾燥し溶媒を除去した後、ベルト炉にて焼成することで導体膜を形成した。焼成は、大気中、ピーク温度900℃、ピーク温度保持時間10分間、投入-排出総時間60分間の条件で行った。得られた導体膜の厚みを触針式膜厚計にて測定したところ10~15μm程度であった。
【0161】
次に、導体膜の上に、接続層用ペースト(LaB粒子40質量%、ガラス粒子B 40質量%、有機ビヒクルA 20質量%)を0.3cm×0.5cmの矩形の範囲にスクリーン印刷し、100℃の送風乾燥機で20分乾燥し溶媒を除去した後、ベルト炉にて焼成することで接続層を形成した。焼成は、窒素雰囲気中、ピーク温度900℃、ピーク温度保持時間10分間、投入-排出総時間60分間の条件で行った。接続層の平均厚みは18μmであった。
【0162】
さらに、接続層の上に、抵抗膜用ペースト(Cu粒子52質量%、Ni粒子32質量%、ガラス粒子A 4質量%、有機ビヒクルA 12質量%)を0.3×9cmの矩形の範囲にスクリーン印刷し、100℃の送風乾燥機で20分乾燥し溶媒を除去した後、ベルト炉にて焼成することで抵抗膜を形成した。焼成は、窒素雰囲気中、ピーク温度900℃、ピーク温度保持時間10分間、投入-排出総時間60分間の条件で行った。抵抗膜の厚みは20~25μm程度であった。
【0163】
最後に、抵抗膜の酸化防止を目的に、抵抗膜の上に、第1の絶縁保護膜用ペースト(ガラス粒子B 75質量%、有機ビヒクルA 25質量%)を3×12cmの矩形の範囲に抵抗膜と重なるようにスクリーン印刷し、100℃の送風乾燥機で20分乾燥し溶媒を除去した後、ベルト炉にて焼成することで第1の絶縁保護膜を形成した。焼成は、窒素雰囲気中、ピーク温度900℃、ピーク温度保持時間10分間、投入-排出総時間60分間の条件で行った。形成された第1の絶縁保護膜の上に、さらに2層目の第2の絶縁保護膜用ペースト(ガラス粒子B 75質量%、有機ビヒクルA 25質量%)を3cm×12cmの矩形の範囲にスクリーン印刷し、100℃の送風乾燥機で20分乾燥し溶媒を除去する工程を2回繰り返した後、ベルト炉にて焼成することで2層目の絶縁保護膜を形成した。焼成は、大気中、ピーク温度900℃、ピーク温度保持時間10分間、投入-排出総時間60分間の条件で行った。各絶縁保護膜の厚みは50~55μm程度であった。
【0164】
以上の工程により、アルミナ基板上に導体膜、接続層、抵抗膜、第1の絶縁保護膜および第2の絶縁保護膜が積層された抵抗膜付きセラミック基板(積層体)を得た。
【0165】
(実施例2)
接続層用ペーストに含まれるLaB粒子の代わりにNi粒子を用いたことを除いては、実施例1と同様の方法で抵抗膜付きセラミック基板を得た。
【0166】
(実施例3)
接続層用ペーストに含まれるLaB粒子および有機ビヒクルAの代わりにRuO粒子および有機ビヒクルBを用い、かつその焼成を大気中で行ったことを除いては、実施例1と同様の方法で抵抗膜付きセラミック基板を得た。
【0167】
(実施例4)
接続層用ペーストに含まれるLaB粒子および有機ビヒクルAの代わりにAu粒子および有機ビヒクルBを用い、かつ配合比をAu粒子64質量%、ガラス粒子B 16質量%、有機ビヒクルB 20質量%と変更し、さらにその焼成を大気中で行ったことを除いては、実施例1と同様の方法で抵抗膜付きセラミック基板を得た。
【0168】
(実施例5)
導体膜用ペーストに含まれるAg粒子の代わりにAgPd粒子を用いたことを除いては、実施例1と同様の方法で抵抗膜付きセラミック基板を得た。
【0169】
(実施例6)
導体膜用ペーストに含まれるAg粒子の代わりにAgPt粒子を用いたことを除いては、実施例1と同様の方法で抵抗膜付きセラミック基板を得た。
【0170】
(実施例7)
接続層用ペーストに含まれるガラス粒子Bの代わりにガラス粒子Aを用いたことを除いては、実施例1と同様の方法で抵抗膜付きセラミック基板を得た。
【0171】
(実施例8)
接続層用ペーストに含まれるLaB粒子とガラス粒子Bの配合比を変更し、LaB粒子20質量%、ガラス粒子B 60質量%、有機ビヒクルA 20質量%としたことを除いては、実施例1と同様の方法で抵抗膜付きセラミック基板を得た。
【0172】
(実施例9)
接続層用ペーストに含まれるLaB粒子とガラス粒子Bの配合比を変更し、LaB粒子48質量%、ガラス粒子B 32質量%、有機ビヒクルA 20質量%としたことを除いては、実施例1と同様の方法で抵抗膜付きセラミック基板を得た。
【0173】
(実施例10)
接続層用ペーストのスクリーン印刷の条件を調整し、焼成後の接続層の平均厚みを6μmとしたことを除いては、実施例1と同様の方法で抵抗膜付きセラミック基板を得た。
【0174】
(実施例11)
接続層用ペーストのスクリーン印刷の条件を調整し、焼成後の接続層の平均厚みを48μmとしたことを除いては、実施例1と同様の方法で抵抗膜付きセラミック基板を得た。
【0175】
(比較例1)
接続層を形成せず、導体膜(銀)と抵抗膜(銅ニッケル)を、実施例1と同様の方法で形成した。この段階での観察で、導体膜(銀)と抵抗膜(銅ニッケル)との反応(合金化)により、物理的・電気的に途切れている状態(断線状態)であることが確認されたので、絶縁保護膜の形成は行わなかった。
【0176】
(比較例2)
接続層用ペーストに含まれるLaB粒子および有機ビヒクルAの代わりにAg粒子および有機ビヒクルBを用いることにより、導体膜(銀)と接続層(銀)と抵抗膜(銅ニッケル)とを、実施例1と同様の方法で形成した。接続層の焼成は大気中で行った。この段階での観察で、接続層(銀)と抵抗膜(銅ニッケル)との反応(合金化)により、物理的・電気的に途切れている状態(断線状態)であることが確認されたので、絶縁保護膜の形成は行わなかった。
【0177】
(比較例3)
接続層用ペーストに含まれるLaB粒子の代わりにCu粒子を用いることにより、導体膜(銀)と接続層(銅)と抵抗膜(銅ニッケル)とを、実施例1と同様の方法で形成した。この段階での観察で、接続層(銅)と導体膜(銀)との反応(合金化)により、物理的・電気的に途切れている状態(断線状態)であることが確認されたので、絶縁保護膜の形成は行わなかった。
【0178】
(比較例4)
接続層を形成せず、抵抗膜用ペーストに含まれるCu粒子、Ni粒子および有機ビヒクルAの代わりにAgPd粒子および有機ビヒクルBを用い、かつ全ての焼成を大気中で行ったことを除いては、実施例1と同様の方法で抵抗膜付きセラミック基板を得た。全ての焼成を大気中で行ったのは、銅成分を含まないためである。銀パラジウム抵抗膜の厚みは10~15μm程度であった。
【0179】
(比較例5)
導体膜用ペーストに含まれるAg粒子および有機ビヒクルBの代わりにCu粒子および有機ビヒクルAを用い、接続層を形成せず、かつ全ての焼成を窒素雰囲気下で行ったことを除いては、実施例1と同様の方法で抵抗膜付きセラミック基板を得た。
【0180】
(比較例6)
抵抗膜用ペーストに含まれるCu粒子、Ni粒子および有機ビヒクルAの代わりにAgPd粒子および有機ビヒクルBを用い、かつ抵抗膜および絶縁保護膜の焼成を大気中で行ったことを除いては、実施例1と同様の方法で抵抗膜付きセラミック基板を得た。銀パラジウム抵抗膜の厚みは10~15μm程度であった。
【0181】
(比較例7)
導体膜用ペーストに含まれるAg粒子および有機ビヒクルBの代わりにCu粒子および有機ビヒクルAを用い、かつ導体膜が銅成分を含むため、全ての焼成を窒素雰囲気下で行ったことを除いては、実施例1と同様の方法で抵抗膜付きセラミック基板を得た。
【0182】
実施例1~11および比較例1~7で得られた抵抗膜付きセラミック基板の評価方法を以下に示す。
【0183】
[導体膜と抵抗膜の接続確認]
各実施例および比較例で作製した抵抗膜付きセラミック基板をマイクロスコープにて観察し、以下の基準で判定した。
【0184】
(判定基準)
a判定:導体膜と抵抗膜とが反応せず、物理的・電気的に途切れていない状態
c判定:導体膜と抵抗膜とが反応し、物理的・電気的に途切れている状態
【0185】
[絶縁保護膜の気泡の有無]
各実施例および比較例で作製した抵抗膜付きセラミック基板の絶縁保護膜をマイクロスコープにて観察し、直径20μm以上の気泡の有無を判定した。絶縁性や酸素透過に対する隠蔽性の向上のため、絶縁保護膜の気泡は無い方が好ましい。
【0186】
(判定基準)
a判定:絶縁保護膜に直径20μm以上の気泡が無い場合
c判定:絶縁保護膜に直径20μm以上の気泡がある場合
【0187】
[抵抗温度係数TCR]
評価用試料を25℃の恒温槽に入れ、5分間以上静置した後、4端子法で平均抵抗値(体積抵抗率)を測定した。次に、評価用試料を75℃の恒温槽に入れ、5分間以上静置した後、4端子法で平均抵抗値(体積抵抗率)を測定した。75℃で静置後の平均抵抗値(75℃の平均抵抗値)と、25℃で静置後の平均抵抗値(25℃の平均抵抗値)に基づいて、下記式により変化率としての抵抗温度係数TCRを求め、以下の基準で判定した。
【0188】
TCR(ppm/℃)=10×[75℃の平均抵抗値(Ω)-25℃の平均抵抗値(Ω)]/[25℃の平均抵抗値(Ω)×(75-25)(℃)]
【0189】
TCRは一般的に低い方が好ましく、チップ抵抗器用途を想定すると100ppm/℃以下が望ましいが、定着ヒーター用途を想定すると300ppm/℃程度まで許容されると考えられる。
【0190】
(判定基準)
a判定:TCRの絶対値が300ppm/℃未満
c判定:TCRの絶対値が300ppm/℃以上
【0191】
[耐電圧]
評価用試料に対し、絶縁耐圧測定器から伸ばした2つの電極のうちの一つは導体膜に、もう一つは絶縁保護膜を全て覆うことが出来るサイズにカットした銅箔に繋いだ。次に、銅箔を絶縁保護膜に載せ電圧を印加した。印加電圧は約0.1kV/sec.の速度で上げていき、絶縁保護膜が破壊した時の電圧を耐電圧値とした。耐電圧性は、例えば、定着ヒーター用途を想定すると、1.8kVに1分以上絶縁破壊することなく耐え得ることが好ましい。
【0192】
(判定基準)
a判定:耐電圧値が2.0kV以上
c判定:耐電圧値が2.0kV未満
【0193】
[ペースト材料コスト]
導体膜、接続層、抵抗膜について、貴金属である銀、パラジウム、ルテニウム、金、白金を含む数が少ない方がペースト材料のコストが小さく好ましい(例:実施例1は銀の計1つを含む、実施例3は銀とルテニウムの計2つを含む、比較例4は銀と銀パラジウム合金の計3つを含む)。
【0194】
(判定基準)
a判定:導体膜、接続層、抵抗膜に銀、パラジウム、ルテニウム、金、白金を1つ含む場合
b判定:導体膜、接続層、抵抗膜に銀、パラジウム、ルテニウム、金、白金を2つ含む場合
c判定:導体膜、接続層、抵抗膜に銀、パラジウム、ルテニウム、金、白金を3つ以上含む場合
【0195】
[総合判定]
各評価項目の判定により、次の判定基準で総合評価した。
【0196】
(判定基準)
Aランク:各評価項目が全てa判定である場合
Bランク:各評価項目にc判定が無く、1つでもb判定がある場合
Cランク:各評価項目に1つでもc判定がある場合
【0197】
実施例1~7および比較例1~7で得られた抵抗膜付きセラミック基板の評価結果を表1に示す。
【0198】
【表1】
【0199】
(実施例1)
導体膜(銀)と抵抗膜(銅ニッケル)との間に、接続層(6ホウ化ランタン)を設けた例であり、導体膜と抵抗膜とは断線状態になることなく形成できた。TCRは66ppm/℃と小さく、耐電圧値は2.3kVと大きく、いずれも良好な水準であった。貴金属を用いているのは導体膜の銀のみのため、材料コスト的にも有利である。
【0200】
(実施例2)
実施例1に対して、接続層をニッケルに変更した例である。実施例1と同等に、良好な水準のTCRと耐電圧値が得られた。貴金属を用いているのは導体膜の銀のみのため、材料コスト的にも有利である。
【0201】
(実施例3、4)
実施例1に対して、接続層を酸化ルテニウムに変更した実施例3、および金に変更した実施例4においても、実施例1と同等に、良好な水準のTCRと耐電圧値が得られた。但し、材料コスト的には、実施例3は導体膜に銀、接続層にルテニウム、実施例4は導体膜に銀、接続層に金が含まれるため、実施例1に比べればやや不利になる。
【0202】
(実施例5、6)
実施例1に対して、導体膜を銀パラジウムに変更した実施例5、および銀白金に変更した実施例6においても、実施例1と同等に、良好な水準のTCRと耐電圧値が得られた。但し、材料コスト的には、実施例5は導体膜に銀とパラジウム、実施例6は導体膜に銀と白金が含まれるため、実施例1に比べればやや不利になる。
【0203】
(実施例7)
実施例1に対して、接続層のガラス成分をガラス粒子Aに変更した実施例7においても、実施例1と同等に、良好な水準のTCRと耐電圧値が得られた。貴金属を用いているのは導体膜の銀のみのため、材料コスト的にも有利である。
【0204】
(比較例1)
導体膜(銀)と抵抗膜(銅ニッケル)とが直接積層される構成の場合、合金化により断線状態となり、好ましくなかった。
【0205】
(比較例2)
比較例1に対して、接続層(銀)を設けた例である。接続層(銀)と抵抗膜(銅ニッケル)とが合金化により断線状態となり、好ましくなかった。
【0206】
(比較例3)
比較例1に対して、接続層(銅)を設けた例である。接続層(銅)と導体膜(銀)とが合金化により断線状態となり、好ましくなかった。
【0207】
(比較例4)
導体膜(銀)と抵抗膜(銀パラジウム)とが直接積層される構成の場合、耐電圧値は2.5kVと良好な水準であったが、TCRは601ppm/℃と水準が大きくなった。貴金属を多く用いているため材料コスト的にも不利である。
【0208】
(比較例5)
導体膜(銅)と抵抗膜(銅ニッケル)とが直接積層される構成の場合、TCRは50ppm/℃と良好な水準であったものの、耐電圧値は0.8kVと水準が小さくなった(2.0kV未満)。耐電圧値が小さい理由は、導体膜に酸化しやすい銅を用いる都合上、絶縁保護膜の焼成を窒素雰囲気下で行わざるを得ず、膜中に樹脂の分解ガスが耐電圧性を低下せしめる気泡として多く残留しているためと考えられる。
【0209】
(比較例6)
比較例4に対して、接続層(6ホウ化ランタン)を設けた例である。比較例4と同様に、耐電圧値は2.4kVと良好な水準であったが、TCRは615ppm/℃と水準が大きくなった。接続層(6ホウ化ランタン)を設けたとしても、導体膜(銀)と抵抗膜(銀パラジウム)の組み合わせではTCR特性を満足できない例である。また、貴金属を多く用いているため材料コスト的にも不利である。
【0210】
(比較例7)
比較例5に対して、接続層(6ホウ化ランタン)を設けた例である。比較例5と同様に、TCRは56ppm/℃と良好な水準であったものの、耐電圧値は0.7kVと水準が小さくなった(2.0kV未満)。接続層(6ホウ化ランタン)を設けたとしても、導体膜(銅)と抵抗膜(銅ニッケル)の組み合わせでは耐電圧特性を満足できない例である。
【0211】
実施例1および8~11で得られた抵抗膜付きセラミック基板の評価結果を表2に示す。
【0212】
【表2】
【0213】
(実施例8、9)
実施例1に対して、接続層の金属成分とガラス成分との体積比を金属成分/ガラス成分=17/83に変更した実施例8、および金属成分/ガラス成分=49/51に変更した実施例9においても、実施例1と同等に、良好な水準のTCRと耐電圧値が得られた。
【0214】
(実施例10、11)
実施例1に対して、接続層の平均厚みを6μmに変更した実施例10、および48μmに変更した実施例11においても、実施例1と同等に、良好な水準のTCRと耐電圧値が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0215】
本発明の積層体は、チップ抵抗器、抵抗内蔵モジュール、抵抗内蔵基板、セラミックスヒーター、LED実装用基板などに利用できる。
【符号の説明】
【0216】
1…積層体
2…セラミック基板
3…導体膜
4…接続層
5…抵抗膜
6…第1の絶縁保護膜
7…第2の絶縁保護膜
図1
図2
図3