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特開2024-134535牛伝染性リンパ腫ウイルス株の伝播性および発症の危険度を評価する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134535
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】牛伝染性リンパ腫ウイルス株の伝播性および発症の危険度を評価する方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/68 20180101AFI20240926BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240926BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20240926BHJP
   C12N 15/48 20060101ALN20240926BHJP
   C07K 16/10 20060101ALN20240926BHJP
【FI】
C12Q1/68 ZNA
C12N15/63 Z
C12N15/09 Z
C12N15/48
C07K16/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024039809
(22)【出願日】2024-03-14
(31)【優先権主張番号】P 2023043677
(32)【優先日】2023-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】502341546
【氏名又は名称】学校法人麻布獣医学園
(71)【出願人】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】100137512
【弁理士】
【氏名又は名称】奥原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100149294
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 直人
(72)【発明者】
【氏名】村上 裕信
(72)【発明者】
【氏名】曽川 一幸
(72)【発明者】
【氏名】内山 淳平
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 礼一郎
【テーマコード(参考)】
4B063
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA07
4B063QA13
4B063QQ03
4B063QQ10
4B063QQ12
4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS33
4H045AA11
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA50
(57)【要約】
【課題】本発明は、BLVの伝播性および病原性の程度を、各々評価または決定するための指標の提供、および当該指標を用いたBLVの伝播性および/または病原性を評価する方法の提供を課題とする。
【解決手段】本発明は、牛伝染性リンパ腫ウイルス(bovine leukemia virus:BLV)の伝播性を評価する方法であって、当該BLVのゲノム中の特定の位置の塩基または当該BLVの特定の遺伝子産物中の特定の位置のアミノ酸を検出することを含み、当該特定の塩基または当該特定のアミノ酸が、以下の(a)である場合に当該BLVの伝播性は高いと判断する、前記評価方法である。
(a)BLVのゲノム中の第175番目の塩基がシトシン(C)、AS1遺伝子産物中の第21番目のアミノ酸がグルタミン酸(E)、ENV遺伝子産物中の第28番目のアミノ酸がセリン(S)、TAX遺伝子産物中の第69番目のアミノ酸がトレオニン(T)、またはTAX遺伝子産物中の第73番目のアミノ酸がグルタミン(Q)である場合。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
牛伝染性リンパ腫ウイルス(bovine leukemia virus:BLV)の伝播性を評価する方法であって、当該BLVのゲノム中の特定の位置の塩基または当該BLVの特定の遺伝子産物中の特定の位置のアミノ酸を検出することを含み、当該特定の塩基または当該特定のアミノ酸が、以下の(a)である場合に当該BLVの伝播性は高いと判断する、前記評価方法。
(a)BLVのゲノム中の第175番目の塩基がシトシン(C)、AS1遺伝子産物中の第21番目のアミノ酸がグルタミン酸(E)、ENV遺伝子産物中の第28番目のアミノ酸がセリン(S)、TAX遺伝子産物中の第69番目のアミノ酸がトレオニン(T)、またはTAX遺伝子産物中の第73番目のアミノ酸がグルタミン(Q)である場合。
【請求項2】
BLVの伝播性を評価する方法であって、当該BLVのゲノム中の特定の塩基または当該BLVの特定の遺伝子産物中の特定の位置のアミノ酸が、以下の(b)である場合に当該BLVの伝播性は低いと判断する、前記評価方法。
(b)BLVのゲノム中の第175番目の塩基がチミン(T)、AS1遺伝子産物中の第21番目のアミノ酸がアスパラギン酸(D)、ENV遺伝子産物中の第28番目のアミノ酸がシステイン(C)、TAX遺伝子産物中の第69番目のアミノ酸がメチオニン(M)、またはTAX遺伝子産物中の第73番目のアミノ酸がアルギニン(R)である場合。
【請求項3】
BLVの病原性を評価する方法であって、BLVが感染した牛の血液、またはBLVが感染した細胞の培養上清に含まれるタンパク質の発現量を測定し、当該測定した発現量、または細胞外小胞の量に対する相対的発現量が、以下の(c)または(d)の場合に当該BLVは強毒株であると判断する、前記評価方法。
(c)C1R(Complement C1r subcomponent)、C4BPA(C4b-binding protein alpha chain)、CO4A(Complement C4-A)、FINC(Fibronectin)、ITIH1(Inter-alpha-trypsin inhibitor heavy chain H1)、PLMN(Plasminogen)、APOE(Apolipoprotein E)、CONG(Conglutinin)およびTSP1(Thrombospondin-1)からなるタンパク質群の1または複数の発現量または相対的発現量が、BLV弱毒性基準株が感染した牛の血液、またはBLVが感染した細胞の培養上清における発現量または相対的発現量よりも多い場合、
(d)APOC3(Apolipoprotein C-III)、BPTI(Pancreatic trypsin inhibitor)およびCO4(Complement C4)からなるタンパク質群の1または複数の発現量または相対的発現量が、BLV弱毒性基準株が感染した牛の血液、またはBLVが感染した細胞の培養上清における発現量または相対的発現量よりも少ない場合、
【請求項4】
BLVの病原性を評価する方法であって、BLVが感染した牛の血液、またはBLVが感染した細胞の培養上清に含まれるタンパク質の発現量を測定し、当該測定した発現量、または細胞外小胞の量に対する相対的発現量が、以下の(e)または(f)の場合に当該BLVは弱毒株であると判断する、前記評価方法。
(e)C1R、C4BPA、CO4A、FINC、ITIH1、PLMN、APOE、CONGおよびTSP1からなるタンパク質群の1または複数の発現量または相対的発現量が、BLV強毒性基準株が感染した牛の血液、またはBLVが感染した細胞の培養上清における発現量または相対的発現量よりも少ない場合、
(f)APOC3、BPTIおよびCO4からなるタンパク質群の1または複数の発現量または相対的発現量が、BLV強毒性基準株が感染した牛の血液、またはBLVが感染した細胞の培養上清における発現量または相対的発現量よりも多い場合。
【請求項5】
前記BLVが感染した牛の血液またはBLVが感染した細胞の培養上清に含まれるタンパク質が、細胞外小胞に含まれるタンパク質である、請求項3または4に記載の評価方法。
【請求項6】
BLVを分類する方法であって、請求項1もしくは請求項2に記載の評価方法および請求項3もしくは請求項4に記載の評価方法を実施して、当該BLVを以下(A)、(B)、(C)または(D)のいずれかの群に分類することを特徴とする、前記方法。
(A)高伝播性強毒株、
(B)低伝播性強毒株、
(C)高伝播性弱毒株、または
(D)低伝播性弱毒株。
【請求項7】
前記BLV弱毒性基準株が、pvAF805株(アクセス番号:AP018017)、pvAJ014(アクセス番号;AP019578)、pvAJ019(アクセス番号;AP019583)、pvAJ023(アクセス番号;AP019587)、pvAJ025(アクセス番号;AP019589)、pvAJ029(アクセス番号;AP019593)、pvAF076(アクセス番号;AP018007)、pvAF438(アクセス番号;AP018012)、pvAF513(アクセス番号;AP018014)、pvAF805(アクセス番号;AP018017)のいずかであり、前記BLV強毒性基準株が、pvAN903株(アクセス番号:LC164086)、pvAJ005(アクセス番号;AP019569)、pvAJ007(アクセス番号;AP019571)、pvAJ011(アクセス番号;AP019575)、pvAJ018(アクセス番号;AP019582)、pvAJ026(アクセス番号;AP019590)、pvAK001(アクセス番号;AP018020)、pvAN903(アクセス番号;LC164086)、および新規株であるpvAH001(配列番号4)、pvAH002(配列番号5)のいずれかであることを特徴とする、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
pvAH001のゲノムDNA(配列番号4)またはpvAH002のゲノムDNA(配列番号5)を含むベクター。
【請求項9】
BLVの伝播性を評価するためのキットであって、BLVゲノム中の第175番目の塩基、BVLゲノム中第7177番目の塩基、BVLゲノム中第4909番目の塩基、BVLゲノム中第7478番目の塩基またはBVLゲノム中第7490番目の塩基の少なくとも1つを検出するための手段を含むキット。
【請求項10】
前記手段が、SNPアレイ、プライマーまたはプローブである請求項9に記載のキット。
【請求項11】
BLVの病原性を評価するためのキットであって、C1R、C4BPA、CO4A、FINC、ITIH1、PLMN、APOE、CONG、TSP1、APOC3、BPTIまたはCO4の少なくとも1つを検出するための手段を含むキットである。
【請求項12】
前記手段が抗体である請求項11に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、牛伝染性リンパ腫ウイルスの伝播性と病原性を指標にした、牛伝染性リンパ腫の発症の危険度を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
牛伝染性リンパ腫ウイルス(bovine leukemia virus:BLV)は、畜牛の致死的感染症である牛伝染性リンパ腫(bovine leukosis:BL)の病原因子である。牛の監視伝染病のうち、発生数が最多であるが、感染および発症メカニズムについては不明な点が多い、日本において、BLVの感染率は急速に拡大しており、今後もその感染は拡大することが懸念されている。BLVに感染してもBLの発症率は数%であるが、BLV感染により乳量および繁殖成績の低下が生じ、また、BLV感染牛がリンパ腫を発症すると流通させることができない。そのため、BLVの感染拡大は畜産業に大きな経済的損失をもたらすことになる。
【0003】
BLVは宿主細胞に侵入後、宿主細胞の染色体に組込まれることで感染が成立し、その後ウイルスの産生を抑えることで宿主の免疫による排除から逃れる。従来、BLVによる感染の有無は、PCRでプロウイルス量(proviral load:PVL)を測定することで評価していた。しかし、PVL値は、数値が変動するため再現性に乏しく、また、低PVLと判断された場合であっても、発症する症例が散見されている。従って、PCR法によりPVL値を算出する方法は、BLVの感染の有無を評価することはできるが、リンパ腫の発症の可能性までは評価できなかった。BLVの感染拡大を有効に抑制するために、BLVの感染拡大の可能性(BLVの伝播性)の評価のみならず、リンパ腫発症の可能性(BLVの病原性)の評価を併せて行うことが重要であると考えられる。
【0004】
これまでに、本発明者らは、BLVの伝播性および病原性を各々評価できる因子(マーカー)の探索研究を進めてきたところ、ウイルスゲノム中の175番目の塩基がシトシン(C)であるBLVはウイルス産生能が高く、高伝播性の特徴を有することを明らかにしている(特許文献1および非特許文献1)。しかしながら、BLVの病原性を評価するため有効な指標となり得るマーカーに関する報告はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
特開2020-150893
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Murakamiら, virology, 537:45-52 2019
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記事情に鑑み、本発明は、BLVの伝播性および病原性の程度を、各々評価または決定するための指標(バイオマーカー)の提供、および当該指標を用いたBLVの伝播性および/または病原性を評価する方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、BLVの伝播性決定因子と病原性決定因子を同定することにより、高伝播性強毒株、低伝播性強毒株、高伝播性弱毒株、低伝播性弱毒株の4タイプに分類し、それぞれの株に感染した牛に対して適切な対策をとる(例えば高伝播性強毒株感染牛は摘発淘汰する、低伝播性弱毒株感染牛はワクチン的作用による強毒株感染を抑制するために維持する等)ことができれば、効率的に牛伝染性リンパ腫の発生数を抑制できると考え、これら因子の探索研究を進めた。
【0009】
本発明者らは、BLVの伝播性の高さ(すなわち、感染力の高さ)を判断するための指標(マーカー)として、BLVのLTRの175番目塩基(LTR_175)、env遺伝子の28番目アミノ酸(ENV_28)、AS1遺伝子の21番目アミノ酸(AS1_21)、tax遺伝子の69および73番目アミノ酸(TAX_69およびTAX_73)を利用することができることを明らかにした。一般に、BLVは変異が生じにくいこと、母子感染よりも水平伝播によることから、発明者によって明らかにされた上記指標は、BLVの伝播性の指標として、将来にわたって、汎用性の高い指標であると考えられる。
【0010】
次に、本発明者らは、BLVの病原性の強さを判断するための指標(マーカー)として、BLV感染牛の血中タンパク質、特に細胞外小胞中のタンパク質の発現量に着目した。本発明者らは、未感染牛、弱毒株感染牛、強毒株感染牛の血清から細胞外小胞を調製し、細胞外小胞内のタンパク質の発現量を網羅的に比較した。その結果、弱毒株感染牛における発現量よりも、強毒株感染牛における発現量が有意に高いと認められるタンパク質としてC1R(Complement C1r subcomponent)、C4BPA(C4b-binding protein alpha chain)、CO4A(Complement C4-A)、FINC(Fibronectin)、ITIH1(Inter-alpha-trypsin inhibitor heavy chain H1)、PLMN(Plasminogen)、APOE(Apolipoprotein E)、CONG(Conglutinin)およびTSP1(Thrombospondin-1)が同定された。なかでも、C1R、C4BPA、CO4A、FINC、ITIH1およびPLMNについては、未感染牛および弱毒株感染牛では、その発現量が非常に低かったことから、これらのタンパク質は、強毒株が感染した場合に特異的にその発現量が上昇することが示唆された。さらに、弱毒株感染牛における発現量よりも、強毒株感染牛における発現量が有意に低いタンパク質として、APOC3(Apolipoprotein C-III)、BPTI(Pancreatic trypsin inhibitor)およびCO4(Complement C4)が同定された。これらの細胞外小胞内のタンパク質は、BLVの病原性の指標として利用できると考えられる。
【0011】
本発明者らは、以上の結果に基づいて、上記BLV の伝播性指標および病原性の指標を組み合わせて用いることで、牛に感染したBLVを高伝播性強毒株、低伝播性強毒株、高伝播性弱毒株、低伝播性弱毒株の4つのグループに分類できることを明らかにした。
すなわち、本発明は以下の(1)~(12)である。
(1)牛伝染性リンパ腫ウイルス(bovine leukemia virus:BLV)の伝播性を評価する方法であって、当該BLVのゲノム中の特定の位置の塩基または当該BLVの特定の遺伝子産物中の特定の位置のアミノ酸を検出することを含み、当該特定の塩基または当該特定のアミノ酸が、以下の(a)である場合に当該BLVの伝播性は高いと判断する、前記評価方法。
(a)BLVのゲノム中の第175番目の塩基がシトシン(C)、AS1遺伝子産物中の第21番目のアミノ酸がグルタミン酸(E)、ENV遺伝子産物中の第28番目のアミノ酸がセリン(S)、TAX遺伝子産物中の第69番目のアミノ酸がトレオニン(T)、またはTAX遺伝子産物中の第73番目のアミノ酸がグルタミン(Q)である場合。
(2)BLVの伝播性を評価する方法であって、当該BLVのゲノム中の特定の塩基または当該BLVの特定の遺伝子産物中の特定の位置のアミノ酸が、以下の(b)である場合に当該BLVの伝播性は低いと判断する、前記評価方法。
(b)BLVのゲノム中の第175番目の塩基がチミン(T)、AS1遺伝子産物中の第21番目のアミノ酸がアスパラギン酸(D)、ENV遺伝子産物中の第28番目のアミノ酸がシステイン(C)、TAX遺伝子産物中の第69番目のアミノ酸がメチオニン(M)、またはTAX遺伝子産物中の第73番目のアミノ酸がアルギニン(R)である場合。
(3)BLVの病原性を評価する方法であって、BLVが感染した牛の血液、またはBLVが感染した細胞の培養上清に含まれるタンパク質の発現量を測定し、測定した発現量、または細胞外小胞の量に対する相対的発現量が、以下の(c)または(d)の場合に当該BLVは強毒株であると判断する、前記評価方法。
(c)C1R、C4BPA、CO4A、FINC、ITIH1、PLMN、APOE、CONGおよびTSP1からなるタンパク質群の1または複数の発現量または相対的発現量が、BLV弱毒性基準株が感染した牛の血液、またはBLVが感染した細胞の培養上清における発現量または相対的発現量よりも多い場合、
(d)APOC3、BPTIおよびCO4からなるタンパク質群の1または複数の発現量または相対的発現量が、BLV弱毒性基準株が感染した牛の血液、またはBLVが感染した細胞の培養上清における発現量よりも少ない場合、
(4)BLVの病原性を評価する方法であって、BLVが感染した牛の血液、またはBLVが感染した細胞の培養上清に含まれるタンパク質の発現量を測定し、測定した発現量、または細胞外小胞の量に対する相対的発現量が、以下の(e)または(f)の場合に当該BLVは弱毒株であると判断する、前記評価方法。
(e)C1R、C4BPA、CO4A、FINC、ITIH1、PLMN、APOE、CONGおよびTSP1からなるタンパク質群の1または複数の発現量または相対的発現量が、BLV強毒性基準株が感染した牛の血液、またはBLVが感染した細胞の培養上清における発現量または相対的発現量よりも少ない場合、
(f)APOC3、BPTIおよびCO4からなるタンパク質群の1または複数の発現量または相対的発現量が、BLV強毒性基準株が感染した牛の血液、またはBLVが感染した細胞の培養上清における発現量または相対的発現量よりも多い場合。
(5)前記BLVが感染した牛の血液またはBLVが感染した細胞の培養上清に含まれるタンパク質が、細胞外小胞に含まれるタンパク質である、上記(3)または(4)に記載の評価方法。
(6)BLVを分類する方法であって、上記(1)もしくは上記(2)に記載の評価方法および上記(3)もしくは上記(4)に記載の評価方法を実施して、当該BLVを以下(A)、(B)、(C)または(D)のいずれかの群に分類することを特徴とする、前記方法。
(A)高伝播性強毒株、
(B)低伝播性強毒株、
(C)高伝播性弱毒株、または
(D)低伝播性弱毒株。
(7)前記BLV弱毒性基準株が、pvAF805株(アクセス番号:AP018017)、pvAJ014(アクセス番号;AP019578)、pvAJ019(アクセス番号;AP019583)、pvAJ023(アクセス番号;AP019587)、pvAJ025(アクセス番号;AP019589)、pvAJ029(アクセス番号;AP019593)、pvAF076(アクセス番号;AP018007)、pvAF438(アクセス番号;AP018012)、pvAF513(アクセス番号;AP018014)、pvAF805(アクセス番号;AP018017)のいずかであり、前記BLV強毒性基準株が、pvAN903株(アクセス番号:LC164086)、pvAJ005(アクセス番号;AP019569)、pvAJ007(アクセス番号;AP019571)、pvAJ011(アクセス番号;AP019575)、pvAJ018(アクセス番号;AP019582)、pvAJ026(アクセス番号;AP019590)、pvAK001(アクセス番号;AP018020)、pvAN903(アクセス番号;LC164086)、および新規株であるpvAH001(配列番号4)、pvAH002(配列番号5)のいずれかであることを特徴とする、上記(1)から上記(4)までのいずれかに記載の方法。
(8)pvAH001のゲノムDNA(配列番号4)またはpvAH002のゲノムDNA(配列番号5)を含むベクター。
(9)BLVの伝播性を評価するためのキットであって、BLVゲノム中の第175番目の塩基、BVLゲノム中第7177番目の塩基、BVLゲノム中第4909番目の塩基、BVLゲノム中第7478番目の塩基またはBVLゲノム中第7490番目の塩基の少なくとも1つを検出するための手段を含むキット。
(10)前記手段が、SNPアレイ、プライマーまたはプローブである上記(9)に記載のキット。
(11)BLVの病原性を評価するためのキットであって、C1R、C4BPA、CO4A、FINC、ITIH1、PLMN、APOE、CONG、TSP1、APOC3、BPTIまたはCO4の少なくとも1つを検出するための手段を含むキットである。
(12)前記手段が抗体である上記(11)に記載のキット。
なお、本明細書において「~」の符号は、その左右の値を含む数値範囲を示す。
【発明の効果】
【0012】
本発明により明らかにされた指標に基づいて、BLVを高伝播性強毒株、低伝播性強毒株、高伝播性弱毒株、低伝播性弱毒株の4つのグループに分類することができる。その結果、BLV感染牛に対する適切な対策をとることができ、効率的に牛伝染性リンパ腫の発生数を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、国内農場で飼養されている牛からBLVのゲノムを抽出し、ゲノム中のSNPとBLV産生量の関連性を調べた結果である。
図2図2は、BLV産生能に影響を及ぼす可能性の高いSNPまたはアミノ酸置換を野生型に導入し、BLV産生量の変動を調べた結果である。
図3図3は、BLV産生量に影響を及ぼすと考えられるBLV遺伝子の4領域について、pvAN006株(ウイルス産生量が低い株)とpvA007株(ウイルス産生量が高い株)の各領域を組み換えたBLV遺伝子の模式図である。
図4図4は、図3に示す組換体BLVのウイルス産生量を相対的に示した結果である。黒棒はpvAN006株の野生型または4領域のうち1領域をpvAJ007株の領域と組み換えたBLV産生量、白棒はpvA007株の野生型または4領域のうち1領域をpvAN006株の領域と組み換えたBLVの産生量を示す。
図5図5は、野生型のpvAN006株のTAX69またはTAX73のアミノ酸をpvAJ007株が有するアミノ酸に置換した場合のウイルス産生量(黒棒)と野生型のpvAJ007株のTAX69またはTAX73のアミノ酸をpvAN006株が有するアミノ酸に置換した場合のウイルス産生量(白棒)を示す。
図6図6は、BLV感染牛の血清から調製した細胞外小胞に含まれる各種タンパク質の相対的発現量を示した図である。図6に示すタンパク質は、弱毒株感染牛と強毒株感染牛との間で、その発現量が有意に異なる細胞外小胞タンパク質である。
図7図7は、BLV感染牛の血清から調製した細胞外小胞に含まれる各種タンパク質の相対的発現量を示した図である。図7に示すタンパク質は、非感染牛と、弱毒株感染牛および強毒株感染牛との間で、その発現量が有意に異なる細胞外小胞タンパク質である。
図8図8は、非感染群、弱毒株感染群および強毒株感染群の血液中に含まれるITIH1の量を細胞外小胞の量に対する相対量(相対的発現量)で比較した結果を示す。Aは各群由来の血液中のITIH1の測定量を比較したグラフで、Bは血液中の細胞外小胞の量に対するITIH1の相対的発現量を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施形態について説明する。なお、「本実施形態」と記す場合、特に断らない限り、本明細書に記載されている全ての実施形態を指すものとする。
第1の実施形態は、牛伝染性リンパ腫ウイルス(bovine leukemia virus:BLV)の伝播性を評価する方法であって、当該BLV(評価対象のBLV)のゲノム中の特定の位置の塩基または特定の遺伝子産物(タンパク質)中の特定の位置のアミノ酸を検出し、当該塩基またはアミノ酸を同定することを含む、前記方法である。
【0015】
本実施形態において、伝播性とは、牛または宿主細胞へのBLVの感染のし易さ、または感染のし難さのことで、「感染性」とほぼ同義である。発明者らは、ウイルス産生量が高いと伝播性が高いことを明らかにしており(Murakamiら, J Gen Virol. 97:2753-2762 2016;Murakamiら, Virus Res. 253-103-111 2018;Murakamiら, Virology 537:45-52 2019;Murakamiら, Virology 548:226-235 2020)、ウイルス産生量を有意に上昇させるBLVゲノム中の一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism:SNP)の検索を行った。その結果、本発明者らは、
(a)BLVのゲノム中の第175番目の塩基がシトシン(C)、BLVのAS1遺伝子産物(配列番号1)中の第21番目のアミノ酸がグルタミン酸(E)、ENV遺伝子産物(配列番号2)中の第28番目のアミノ酸がセリン(S)、TAX遺伝子産物(配列番号3)中の第69番目のアミノ酸がトレオニン(T)またはTAX遺伝子産物中の第73番目のアミノ酸がグルタミン(Q)である場合、
に当該BLVの伝播性が高く、
(b)BLVのゲノム中の第175番目の塩基がチミン(T)、BLVのAS1遺伝子産物中の第21番目のアミノ酸がアスパラギン酸(D)、ENV遺伝子産物中の第28番目のアミノ酸がシステイン(C)、TAX遺伝子産物中の第69番目のアミノ酸がメチオニン(M)またはTAX遺伝子産物中の第73番目のアミノ酸がアルギニン(R)である場合に、当該BLVの伝播性が低いと判断できることを明らかにした。
なお、AS1遺伝子産物のD21およびE21は、BVLゲノム中第7177番目の塩基が、各々、AおよびTの場合であり、ENV遺伝子産物のC28およびS28は、BVLゲノム中第4909番目の塩基が、各々、GおよびCの場合であり、TAX遺伝子のM69およびT69は、BVLゲノム中第7478番目の塩基が、各々、TおよびCの場合であり、TAX遺伝子のR73およびQ73は、BVLゲノム中第7490番目の塩基が、各々、GおよびAの場合である。
【0016】
伝播性を評価するために、BLVのゲノム中の第175番目の塩基、BLVのAS1遺伝子産物中の第21番目のアミノ酸、ENV遺伝子産物中の第28番目のアミノ酸、TAX遺伝子産物中の第69番目のアミノ酸、TAX遺伝子産物中の第73番目のアミノ酸を検出し、同定する方法は、当該技術分野における周知技術を用いることによって、容易に行うことができる。ここで、BLVのAS1遺伝子産物中の第21番目のアミノ酸、ENV遺伝子産物中の第28番目のアミノ酸、TAX遺伝子産物中の第69番目のアミノ酸、BLVのTAX遺伝子産物中の第73番目アミノ酸の同定は、各々、BLVゲノム中の第7177番目の塩基、BVLゲノム中第4909番目の塩基、BVLゲノム中第7478番目の塩基、BVLゲノム中第7490番目の塩基を検出することによっても行うことができる。これらのBLVゲノム中の塩基の同定は、特に限定はしないが、例えば、当該塩基を含むBLVゲノム領域のシークエンシングの他、上記位置のSNPを検出するための通常の方法(例えば、SNPアレイなどを使用する方法)を用いることにより、容易に行うことができる。
【0017】
ところで、本発明者らは、BLVの感染による被害に対する有効な措置をとるためには、BLVの伝播性の評価のみならず、BLVがリンパ腫を発症させる可能性、つまり、BLVの病原性を評価するための方法を確立ことも重要であると考え研究を進めた。
そこで、本発明にかかる第2の実施形態は、BLVの病原性を評価する方法であって、BLVが感染した牛の血液中のタンパク質、または、BLVが感染した細胞のうち、特定のタンパク質(以下「病原性マーカー」とも記載する)の発現量を測定し、当該タンパク質の発現量を指標にして、当該BLVの病原性の評価する方法である。
第2の実施形態は、特に限定はしないが、例えば、BLVの病原性を評価する方法であって、BLVが感染した牛の血液、またはBLVが感染した細胞の培養上清に含まれる特定のタンパク質(例えば、細胞外小胞内に含有される特定のタンパク質)が、以下の(c)、(d)、(e)または(f)に挙げられるタンパク質群から選択される1または複数であり、当該1または複数のタンパク質の発現量を測定し、測定した発現量、または当該牛の血液または当該培養上清に含まれる細胞外小胞の量に対する当該測定した発現量の相対量(相対的発現量)が、以下の(c)または(d)の場合に当該BLVは強毒株
であると判断し、(e)または(f)の場合に当該BLVは弱毒株であると判断する評価方法であってもよい;
(c)C1R、C4BPA、CO4A、FINC、ITIH1、PLMN、APOE、CONGおよびTSP1からなるタンパク質群の1または複数の発現量または相対的発現量が、BLV強毒性基準株が感染した牛の血液、またはBLV弱毒性基準株が感染した細胞の培養上清における発現量または相対的発現量よりも多い(好ましくは有意に多い)場合、
(d)APOC3、BPTIおよびCO4からなるタンパク質群の1または複数の発現量または相対的発現量が、BLV弱毒性基準株が感染した牛の血液、またはBLV弱毒性基準株が感染した細胞の培養上清における発現量または相対的発現量よりも少ない(好ましくは有意に少ない)場合、
(e)C1R、C4BPA、CO4A、FINC、ITIH1、PLMN、APOE、CONGおよびTSP1からなるタンパク質群の1または複数の発現量または相対的発現量が、BLV強毒性基準株が感染した牛の血液、またはBLV強毒性基準株が感染した細胞上清における発現量または相対的発現量よりも少ない(好ましくは有意に少ない)場合、
(f)APOC3、BPTIおよびCO4からなるタンパク質群の1または複数の発現量または相対的発現量が、BLV弱毒性基準株が感染した牛の血液、またはBLV強毒性基準株が感染した細胞の培養上清における発現量または相対的発現量よりも多い(好ましくは有意に多い)場合。
【0018】
本実施形態においては、病原性が強い(または高い)BLV株を「強毒株(または強毒性株)」とし、病原性が弱い(または低い)BLV株を「弱毒株(または弱毒性株)」とする。ここで、BLV「強毒株」とは、前癌状態の細胞に感染させ当該細胞を三次元培養したときに、感染細胞の約30%以上が形質転換する株のことである。より具体的には、ウイルスゲノム全長をプラスミド(例えば、pSMART-LC-Amp)にクローニングしたBLV感染性分子クローンを、例えば、前癌状態のマウス乳腺株化細胞NMuMGに形質導入後、マトリゲルによる三次元培養を行った場合、形質転換が30%以上誘導されるようなBLV株ことである。BLV「弱毒株」とは、形質転換を誘導しないBLV株のことである。ここで、「形質転換が誘導された」とは三次元培養した細胞集落が、球形ではなく不整形となった場合である。上記株のより具体的な例を挙げるとすると、特に限定はしないが、BLV強毒株として、例えば、pvAN903株(アクセス番号:LC164086)、pvAJ005(アクセス番号;AP019569)、pvAJ007(アクセス番号;AP019571)、pvAJ011(アクセス番号;AP019575)、pvAJ018(アクセス番号;AP019582)、pvAJ026(アクセス番号;AP019590)、pvAK001(アクセス番号;AP018020)、pvAN903(アクセス番号;LC164086)、および新規株であるpvAH001(配列番号4)、pvAH002(配列番号5)などを挙げることができる。BLV弱毒株として、例えば、pvAF805株(アクセス番号:AP018017)、pvAJ014(アクセス番号;AP019578)、pvAJ019(アクセス番号;AP019583)、pvAJ023(アクセス番号;AP019587)、pvAJ025(アクセス番号;AP019589)、pvAJ029(アクセス番号;AP019593)、pvAF076(アクセス番号;AP018007)、pvAF438(アクセス番号;AP018012)、pvAF513(アクセス番号;AP018014)、pvAF805(アクセス番号;AP018017)などを挙げることができる。 上記強毒株または弱毒株のゲノムは、当該ゲノムを適当なベクターに導入した感染性分子として保存または提供することができる。あるいは、上記強毒株または弱毒株のゲノムは、当該ゲノムを適当な培養細胞のゲノム中に安定に組み込んでもよく、当該培養細胞を保存または提供することもできる。
本実施形態において、「BLV弱毒性基準株」および「BLV強毒性基準株」とは、第2の実施形態において、評価対象のBLVが強毒株なのか弱毒株なのかを評価するための対照株(コントロール株)のことである。
【0019】
第2の実施形態を実施する場合に、BLVが感染した牛の血液、またはBLVが感染した細胞の培養上清に含まれるタンパク質は、特に限定されるものではなく、例えば、BLVが感染した牛の血液中のタンパク質、またはBLVが感染した細胞を培養した培養上清に含まれるタンパク質であって、核や細胞質中のタンパク質であってもよく、より具体的には細胞外小胞内のタンパク質であってもよい。これらのタンパク質は、BLVが感染した細胞の培養上清から抽出してもよく、あるいは、BLVが感染した個体から採取したサンプル、例えば血液などから抽出してもよい。
【0020】
第2の実施形態において、「特定のタンパク質」の発現量は、例えば、以下のような手順で測定してもよい。例えば、サンプルが血液である場合、BLVが感染した牛の血液を採取し、当該血液または当該血液から調製した血清中に含まれる「特定のタンパク質」の量を、例えば、LC-MS/MS解析、または抗体を使用したELISA法などにより定量してもよい。あるいは、血液または培養上清に含まれる「特定のタンパク質」の量として、「特定のタンパク質」の測定量を血液または培養上清中に含まれる細胞外小胞のマーカーとなるタンパク質(Alix、Tsg101、テトラスパニン(CD9)、フロチリンなど)または脂質(フォスファチジルセリンなど)の量で割った値、すなわち、血液または培養上清中の細胞外小胞の量に対する「特定のタンパク質」の相対量(相対的発現量)を指標にしてもよい。本明細書において、血液または培養上清中の細胞外小胞の量に対する当該タンパク質の量の相対量は、「相対的発現量」または単に「相対量」などのように、細胞外小胞の量に対する「相対」量であることが分かるような記載を行う。
また、「特定のタンパク質」の量は、例えば、BLVが感染した牛の血液などから遠心分離法などにより血清を調製し、当該血清から細胞外小胞を調製し、当該細胞外小胞に含まれるタンパク質の量を、例えば、LC-MS/MS解析、または抗体を使用したELISA法などにより定量することができる。
さらに、
【0021】
対照となるBLV弱毒性基準株またはBLV強毒性基準株が感染した細胞の細胞外小胞に含まれるタンパク質の発現量は、実際に、基準株を感染させた牛から調製した細胞外小胞からタンパク質を調製しその発現量を測定してもよいが、予め、BLV弱毒性基準株またはBLV強毒性基準株が感染した細胞の細胞外小胞に含まれるタンパク質の発現量を数値化しておき、その数値を発現量として使用してもよい。または、細胞外小胞に対する相対量を数値化してもよい。
【0022】
C1R、C4BPA、CO4A、FINC、ITIH1、PLMN、APOE、CONG、TSP1、APOC3、BPTIおよびCO4の発現量は、弱毒株が感染した牛における発現量と強毒株が感染した牛における発現量が有意に異なる。これらのタンパク質のうち、C4BPA、FINC、ITIH1、PLMNおよびTSP1については、弱毒性の感染性分子クローンをトランスフェクションした培養細胞における発現量と強毒性の感染性分子クローンをトランスフェクションした培養細胞における発現量も有意に異なることが確認されている。従って、C4BPA、FINC、ITIH1、PLMNまたはTSP1の発現量をBLV病原性の評価指標とする場合には、評価対象のBLV、基準となるBLV強毒株、およびBLV弱毒株の感染性分子を培養細胞にトランスフェクションし、当該培養細胞内の発現量を測定してもよい。
なお、本実施形態において、得られた解析データは、一元配置分散分析および、多重比較検定をTukey法により統計処理し、P < 0.05の場合に有意差があるとした。
【0023】
第3の実施形態は、BLVの危険度を評価する方法である。本発明者らは、伝播性と病原性に基づいて、BLVを高伝播性強毒株、低伝播性強毒株、高伝播性弱毒株または低伝播性弱毒株4つのタイプに分類することを提唱した。BLVをこれら4タイプに分類することで、感染牛に対し、BLVのタイプ別に適切な対応を行うことで効率的に牛伝染性リンパ腫の発生を抑制できると考えられる。例えば、高伝播性強毒株に感染した牛は、他の牛へBLVを感染させる可能性が非常に高く、かつ、若齢でリンパ腫を発症する可能性が高い牛であり、早急に排除する必要がある。低伝播性強毒株に感染した牛は、他の牛へBLVを感染させる可能性はそれほど高くはないが、低プロウイルス量であってもリンパ腫を発症する可能性が高いため、直近の経済的損失を抑えるためには、やはり排除する必要性は高い。他方、高伝播性弱毒株は発症する可能性が低いが、他の牛への感染源としてBLV感染率を上昇させる可能性があるため、感染率を低下させる必要がある農場では、排除する必要がある。低伝播性弱毒株については、リンパ腫発症および感染を広げる可能性が低いため、そのワクチン様効果を期待して、これらの株に感染した牛は、排除することなく、強毒株の蔓延防止に活用することが考えられる。
そこで、第3の実施形態は、BLVを危険度に基づいて分類する方法であって、第1の実施形態にかかる方法でBLVの伝播性を評価し、第2の実施形態にかかる方法でBLVの病原性を評価し、これらの評価結果に基づいて、BLVを以下(A)、(B)、(C)または(D)のいずれかの群に分類することを特徴とする方法である;
(A)高伝播性強毒株、
(B)低伝播性強毒株、
(C)高伝播性弱毒株、または
(D)低伝播性弱毒株。
【0024】
第3の実施形態の高伝播性強毒株(タイプA)とは、
ゲノム中の第175番目の塩基がシトシン(C)、BLVのAS1遺伝子産物中の第21番目のアミノ酸がグルタミン酸(E)、ENV遺伝子産物中の第28番目のアミノ酸がセリン(S)、TAX遺伝子産物中の第69番目のアミノ酸がトレオニン(T)もしくはTAX遺伝子産物中の第73番目のアミノ酸がグルタミン(Q)である、および、
感染した牛の血液、または感染した細胞の培養上清に含まれるC1R、C4BPA、CO4A、FINC、ITIH1、PLMN、APOE、CONGおよびTSP1からなるタンパク質群の1または複数の発現量または相対的発現量が、BLV弱毒性基準株が感染した牛の血液、またはBLV弱毒性基準株が感染した細胞の培養上清に含まれるこれらのタンパク質(すなわち、C1R、C4BPA、CO4A、FINC、ITIH1、PLMN、APOE、CONGおよびTSP1からなるタンパク質群の1または複数のタンパク質)の発現量または相対的発現量よりも多い(好ましくは有意に多い)、もしくは、
感染した牛の血液、または感染した細胞の培養上清に含まれるAPOC3、BPTIおよびCO4からなるタンパク質群の1または複数の発現量または相対的発現量が、BLV弱毒性基準株が感染した牛の血液、またはBLV弱毒性基準株が感染した細胞の培養上清に含まれるこれらのタンパク質(すなわち、APOC3、BPTIおよびCO4からなるタンパク質群の1または複数のタンパク質)の発現量または相対的発現量よりも少ない(好ましくは有意に少ない)、
という特徴を有するBLVである。
【0025】
第3の実施形態の低伝播性強毒株(タイプB)とは、
ゲノム中の第175番目の塩基がチミン(T)、BLVのAS1遺伝子産物中の第21番目のアミノ酸がアスパラギン酸(D)、ENV遺伝子産物中の第28番目のアミノ酸がシステイン(C)、TAX遺伝子産物中の第69番目のアミノ酸がメチオニン(M)またはTAX遺伝子産物中の第73番目のアミノ酸がアルギニン(R)である、および、
感染した牛の血液、または感染した細胞の培養上清に含まれるC1R、C4BPA、CO4A、FINC、ITIH1、PLMN、APOE、CONGおよびTSP1からなるタンパク質群の1または複数の発現量または相対的発現量が、BLV弱毒性基準株が感染した牛の血液、またはBLV弱毒性基準株が感染した細胞の培養上清に含まれるこれらのタンパク質(すなわち、C1R、C4BPA、CO4A、FINC、ITIH1、PLMN、APOE、CONGおよびTSP1からなるタンパク質群の1または複数のタンパク質)の発現量または相対的発現量よりも多い(好ましくは有意に多い)、もしくは、
感染した牛の血液、または感染した細胞の培養上清に含まれるAPOC3、BPTIおよびCO4からなるタンパク質群の1または複数の発現量または相対的発現量が、BLV弱毒性基準株が感染した牛の血液、またはBLV弱毒性基準株が感染した細胞の培養上清に含まれるこれらのタンパク質(すなわち、APOC3、BPTIおよびCO4からなるタンパク質群の1または複数のタンパク質)の発現量または相対的発現量よりも少ない(好ましくは有意に少ない)、
という特徴を有するBLVである。
【0026】
第3の実施形態の高伝播性弱毒株(タイプC)とは、
ゲノム中の第175番目の塩基がシトシン(C)、BLVのAS1遺伝子産物中の第21番目のアミノ酸がグルタミン酸(E)、ENV遺伝子産物中の第28番目のアミノ酸がセリン(S)、TAX遺伝子産物中の第69番目のアミノ酸がトレオニン(T)もしくはTAX遺伝子産物中の第73番目のアミノ酸がグルタミン(Q)である、および、
感染した牛の血液、または感染した細胞の培養上清に含まれるC1R、C4BPA、CO4A、FINC、ITIH1、PLMN、APOE、CONGおよびTSP1からなるタンパク質群の1または複数の発現量または相対的発現量が、BLV強毒性基準株が感染した牛の血液、またはBLV強毒性基準株が感染した細胞の培養上清に含まれるこれらのタンパク質(すなわち、C1R、C4BPA、CO4A、FINC、ITIH1、PLMN、APOE、CONGおよびTSP1からなるタンパク質群の1または複数のタンパク質)の発現量または相対的発現量よりも少ない(好ましくは有意に少ない)、もしくは、
感染した牛の血液、または感染した細胞の培養上清に含まれるAPOC3、BPTIおよびCO4からなるタンパク質群の1または複数の発現量が、BLV強毒性基準株が感染した牛の血液、またはBLV強毒性基準株が感染した細胞の培養上清に含まれるこれらのタンパク質(すなわち、APOC3、BPTIおよびCO4からなるタンパク質群の1または複数のタンパク質)の発現量よりも多い(好ましくは有意に多い)、
という特徴を有するBLVである。
【0027】
第3の実施形態の低伝播性弱毒株(タイプD)とは、
ゲノム中の第175番目の塩基がチミン(T)、BLVのAS1遺伝子産物中の第21番目のアミノ酸がアスパラギン酸(D)、ENV遺伝子産物中の第28番目のアミノ酸がシステイン(C)、TAX遺伝子産物中の第69番目のアミノ酸がメチオニン(M)またはTAX遺伝子産物中の第73番目のアミノ酸がアルギニン(R)である、および、
感染した牛の血液、または感染した細胞の培養上清に含まれるC1R、C4BPA、CO4A、FINC、ITIH1、PLMN、APOE、CONGおよびTSP1からなるタンパク質群の1または複数の発現量または相対的発現量が、BLV強毒性基準株が感染した牛の血液、またはBLV強毒性基準株が感染した細胞の培養上清に含まれるこれらのタンパク質(すなわち、C1R、C4BPA、CO4A、FINC、ITIH1、PLMN、APOE、CONGおよびTSP1からなるタンパク質群の1または複数のタンパク質)の発現量または相対的発現量よりも少ない(好ましくは有意に少ない)、もしくは、
感染した牛の血液、または感染した細胞の培養上清にAPOC3、BPTIおよびCO4からなるタンパク質群の1または複数の発現量または相対的発現量が、BLV強毒性基準株が感染した牛の血液、またはBLV強毒性基準株が感染した細胞の培養上清に含まれるこれらのタンパク質(すなわち、APOC3、BPTIおよびCO4からなるタンパク質群の1または複数のタンパク質)の発現量または相対的発現量よりも多い(好ましくは有意に多い)、
という特徴を有するBLVである。
【0028】
第4の実施形態は、BLVの伝播性を評価するためのキットであって、BLVゲノム中の第175番目の塩基、BVLゲノム中第7177番目の塩基(AS1遺伝子産物の第21番目のアミノ酸のコード配列に含まれる塩基)、BVLゲノム中第4909番目の塩基(ENV遺伝子産物の第28番目のアミノ酸のコード配列に含まれる塩基)、BVLゲノム中第7478番目の塩基(TAX遺伝子産物の第69番目のアミノ酸のコード配列に含まれる塩基)またはBVLゲノム中第7490番目の塩基(TAX遺伝子産物の第73番目のアミノ酸のコード配列に含まれる塩基)の少なくとも1つを検出するための手段を含むキットである。
第5の実施形態にかかるキットに含まれる、BLVゲノム中の第175番目の塩基、BVLゲノム中第7177番目の塩基、BVLゲノム中第4909番目の塩基、BVLゲノム中第7478番目の塩基またはBVLゲノム中第7490番目の塩基を検出するための手段として、例えば、これらの塩基を含むBLVゲノムを増幅するためのプライマー、SNPアレイ、TaqMan法のためのプライマーやプローブ、EMD(enzyme mutation detection)アッセイのためのT4 endonuclease VIIなどが挙げられる。当該検出手段の他、第5の実施形態にかかるキットには、上記塩基を検出するための装置の他、検出に必要なバッファーなどが含まれていてもよい。さらに、当該キットには、使用説明書(DVDなどの媒体に保存されている場合を含む)が含まれていてもよく、または、使用方法を掲載したウェブサイトなどの常法が記載された情報書面等が含まれていてもよい。
【0029】
第5の実施形態は、BLVの病原性を評価するためのキットであって、C1R、C4BPA、CO4A、FINC、ITIH1、PLMN、APOE、CONG、TSP1、APOC3、BPTIまたはCO4の少なくとも1つを検出するための手段を含むキットである。
第5の実施形態にかかるキットに含まれる、C1R、C4BPA、CO4A、FINC、ITIH1、PLMN、APOE、CONG、TSP1、APOC3、BPTIまたはCO4を検出するための手段として、特に限定はしないが、例えば、これらのタンパク質を認識する分子、抗体、アプタマーなどが挙げられる。当該検出手段の他、第5の実施形態にかかるキットには、タンパク質を検出するための装置(例えば、ELISA装置など)の他、検出に必要なバッファーなどが含まれていてもよい。さらに、当該キットには、使用説明書(DVDなどの媒体に保存されている場合を含む)が含まれていてもよく、または、使用方法を掲載したウェブサイトなどの常法が記載された情報書面等が含まれていてもよい。
【0030】
なお、第4の実施形態にかかるキットの構成要素および第5の実施形態にかかるキットの構成要素のいずれも含むキットは、第3の実施形態にかかるBLVの危険度を評価する方法を実施するためのキットとして使用することができる。
【0031】
本明細書において引用されたすべての文献の開示内容は、全体として明細書に参照により組み込まれる。また、本明細書全体において、単数形の「a」、「an」、および「the」の単語が含まれる場合、文脈から明らかにそうでないことが示されていない限り、単数のみならず複数のものを含むものとする。
以下に実施例を示してさらに本発明の説明を行うが、実施例は、あくまでも本発明の実施形態の例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例0032】
1.伝播性マーカーの同定
1-1.BLV感染分子クローンの調製
日本国内の農場で飼養されている106頭の牛から血液を採取した。得られた血液サンプルからDNA抽出を行い、抽出したDNAを鋳型にして、牛伝染性リンパ腫ウイルス(BLV)ゲノムをPCRで増幅した。増幅には、以下に示すプライマーを使用した。
BLV-FF:5’-AAAGCATGCTGTATGAAAGATCATGCCG-3’(配列番号6)
BLV-FR:5’-CCGGTTAGGAATAGGTCGAT-3’(配列番号7)
BLV-LF:5’-AGGGCGGAGAAACACCCAAGGGCTCTGAT-3’(配列番号8)
BLV-LR:5’-AAAACGCGTTGTTTGCCGGTCTCTCCT-3’(配列番号9)
増幅産物は、pSMART-LC-Amp(Lucigen社)にクローニングし、106の感染分子クローンを得た。得られた106の感染性分子クローンのBLVゲノムの配列をサンガーシークエンス法により決定した。
【0033】
1-2.各感染分子クローンのウイルス産生量の定量およびSNPの同定
次に、感染性分子クローンを293T細胞にトランスフェクション後、その培養上清からRNAを抽出し、逆転写を行い、感染性分子クローンのcDNAを作製した。作製したcDNAを鋳型としてBLVのウイルスゲノムコピー数をリアルタイムPCRにて定量し、106株のウイルス産生量を測定した。リアルタイムPCRの実施に使用したプライマーおよびプローブを以下に示す。
プライマー:
5’- GGACAAATGGACTGCTCAAAC-3’ (配列番号10)
5’- CTCCCATCTGGTCTTTAGAATTG-3’ (配列番号11)
プローブ:5’-CTTCCCATGACTCAGGCCCTTTCT-3’(配列番号12)
106株のSNPとウイルス産生量の関連性を解析するために、106株のウイルスゲノムのマルチプルアライメントによりSNPを探索した。3株以上で同じSNPを有しているものを選抜した結果、222箇所のSNPが認められた(図1)。検出された222箇所のSNPとウイルス産生量について統計解析(SNPが2塩基に分けられる場合はt検定、3塩基以上は一元配置分散分析)を行い、88箇所の多型がウイルス産生量を有意に(P<0.05)変化させることが明らかになった。
【0034】
P値が低い上位のSNPとウイルス産生量の関連性を調べるため、P値が低く、ウイルスの機能に影響を及ぼす可能性が高いSNP、すなわち、ウイルスの転写活性領域のSNPまたはアミノ酸置換を伴うSNPとして、BVLゲノムの175、4909、6273、7177番目のSNP を選択した。これら4つのSNPにおける塩基置換を感染性分子クローン(pBLV-AJ004;pVAJ004株、Accession no.;AP019568)に導入した。また、ウイルス産生量の測定を簡便に行うため、env遺伝子の下流にHiBiTタグを挿入することでレポーターウイルスが産生されるようにした。pBLV-AJ004にLTR領域の塩基置換C175T、ENV遺伝子中の アミノ酸置換S28C(4909番目の塩基置換;C4909G)、ENV遺伝子中のアミノ酸置換E482K(6273番目の塩基置換;G6273A)、AS1遺伝子中のアミノ酸置換E21D(7177番目の塩基置換;T7177A)を導入した結果、LTR、env、AS1の変異導入によりウイルス産生量が低下した(図2)。従って、これら3つの変異がウイルス産生量に影響をもたらすと考えた。
【0035】
1-3.BLVの伝播性に影響を与える変異の同定
最もP値が低かった175番目塩基のSNP多型に影響を受けない変異を明らかにするため、175番目塩基がTでウイルス産生量が106株の中で相対的に高い株(pvAJ007)と、175番目塩基がCでウイルス産生量が106株の中で相対的に低い株(pvAN006)でゲノム配列を比較した結果、miRNAコード領域以外のLTR、gag-pro-pol遺伝子、env遺伝子、AS1からTax遺伝子をコードする非構造タンパク質コード領域(NSP:Non-structural protein)に塩基多型が認められることが分かった。そこで、pvAJ007株(ウイルス産生量が高い株)とpvAN006株(ウイルス産生量が低い株)の上記4領域(LTR領域、gag-pro-pol遺伝子領域、env遺伝子領域およびNSP領域)を、組換えたキメラレポーターウイルスを作出して(図3を参照)、ウイルス産生量を測定した。その結果、NSP領域を組換えることによって、野生型のpvAJ007株 およびpvAN006株のウイルス産生量の傾向が逆転することが分かった(図4)。そこで、両株のNSPコード領域を比較した結果、Tax遺伝子の69番目および73番目のアミノ酸置換があることが分かったため、それぞれの変異を導入した分子クローンを作出し、ウイルス産生量を測定した結果、両変異ともにウイルス産生量に影響をもたらす変異であることが明らかになった(図5)。上記の結果から、LTRの175番目塩基(LTR_175)、env遺伝子産物の28番目アミノ酸(ENV_28)、AS1遺伝子産物の21番目アミノ酸(AS1_28)、TAX遺伝子産物の69番目および73番目アミノ酸(TAX_69およびTAX_73)の変異がウイルスの伝播性に影響をもたらすことが考えられた(表1)。
【表1】
【0036】
2.病原性マーカーの同定
2-1.BLV感染後の牛または培養細胞からの細胞外小胞の分離
インビトロにおいて形質転換誘導能を有する強毒株(pvAJ005;アクセス番号AP019569、pvAJ007;アクセス番号AP019571、pvAJ011;アクセス番号AP019575、pvAJ018;アクセス番号AP019582、pvAJ026;アクセス番号AP019590)に感染した牛の血清、インビトロにおいて形質転換誘導能を有さない弱毒株(pvAJ014;アクセス番号AP019578、pvAJ019;アクセス番号AP019583、pvAJ023;アクセス番号AP019587、pvAJ025;アクセス番号AP019589、pvAJ029;アクセス番号AP019593)に感染した牛の血清およびBLV未感染牛の血清を調製した。さらに、感染性分子クローン(強毒株;pvAH001(配列番号4)、pvAH002(配列番号5)、pvAK001;アクセス番号AP018020、pvAN903;アクセス番号;LC164086、および弱毒株;pvAF076;アクセス番号AP018007、pvAF438;アクセス番号AP018012、pvAF513;アクセス番号AP018014、pvAF805;アクセス番号AP018017)を培養細胞(NMuMG)にトランスフェクションし、エクソソーム除去血清を添加した増殖培地で培養した細胞の培養上清を調製した。次に、調製した血清および培養上清から細胞外小胞を分離した。具体的には、血清については超遠心法、培養上清についてはエクソソーム分離キット(MagCapture Exosome isolation kit)を使用して、各々から細胞外小胞を分離した。分離した細胞外小胞を、10 mMトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン (TCEP)で処理することで破砕および還元し、その後、ヨードアセトアミドでアルキル化した。反応は、サンプルをシステイン処理することで停止させた。
【0037】
2-2.弱毒株または強毒株の感染による細胞外小胞タンパク質の発現量の影響
次に、細胞外小胞由来のタンパク質をトリプシン(FUJIFILM Wako)およびLys-C(FUJIFILM Wako)で消化した。消化したペプチド断片はTMTで標識した。TMT標識ペプチドをLC-MS/MSで解析し、各ペプチドの相対的な発現量の比較を行った。得られたデータに基づいて、発現タンパク質の同定および、それらタンパク質の網羅的な発現量の比較を行った。
牛の血清を用いたインビボにおける解析では、26種のタンパク質の発現量が弱毒株と強毒株で、有意に異なっていた(表2)。
【表2】
【0038】
これら26 種のタンパク質のうち、弱毒株感染群と強毒株感染群で有意差が認められたタンパク質は12種であり(図6)、病原性関連マーカーとして使用できると考えられる。
その他の14種のタンパク質では弱毒株および強毒株感染群で発現量の有意差は認められなかったが、非感染群と比較すると、感染群のタンパク質の発現量は有意に変化することが認められた(図7)。そのため、図7に示すタンパク質の発現量は、弱毒株感染群と強毒株感染群を区別するためのマーカーとしての使用は難しいが、BLVの感染の有無を明らかにする上では有用であると考えられる。
【0039】
また、インビトロの網羅的発現比較解析結果と同じ傾向であったタンパク質はAPOA1、C4BPA、FINC、ITIH1、PLMN、TSP1の6種であり、そのうちAPOA1以外のタンパク質は弱毒株感染群と強毒株感染群間で発現量に有意差が認められた。
【0040】
2-3.血液中に含まれる病原性マーカー量の細胞外小胞の量に対する相対量による評価
BLVの強毒株または弱毒株感染により特異的に変化する病原性マーカーは、血液中の細胞外小胞に含まれるタンパク質であることから、血液中の細胞外小胞の量に対する、血液中の病原性マーカー(例えば、ITIH1、TSP1、C4BPAなどの強毒株の病原性マーカー、またはAPOC3、BPTIなどの弱毒株の病原性マーカー)の量の相対量で比較することで、検査対象牛に感染しているBLVの病原性をより正確に評価することができる。より具体的には、血液中に存在する病原性マーカーの量を測定し、加えて、血液中に存在する細胞外小胞のマーカーとなるタンパク質または脂質(例えば、Alix、Tsg101、テトラスパニン(例えばCD9)、フロチリン、フォスファチジルセリンなど)の量を測定し、得られた病原性マーカーの相対量により感染株の病原性の評価が可能であると考えられる。
そこで、血清中に含まれるテトラスパニンのひとつであるCD9の量、および強毒株の病原性マーカーであるITIH1の量をELISA法により測定し、血液中に含まれるITIH1の相対量(細胞外小胞の量に対する相対量)により、病原性マーカーの精度について検討を行った。
【0041】
牛の全血から分離した血清を炭酸バッファーで50倍希釈して、ELISAプレートのウェルに添加し、4℃で一晩静置して血清中に含まれる抗原の固相化を行った。その後、5%スキムミルク含有TBS-Tで37℃、1時間ブロッキングし、抗ウシCD9または抗ウシITIH1ポリクローナル抗体で室温、1時間反応させ、ビオチン化抗ウサギIgGで室温、1時間反応後、Streptavidin-polyHRP80で室温、1時間反応後させた。なお、各反応終了後にTBS-Tにて3回洗浄を行った。その後、HRP発色試薬(TMB溶液)でHRPを検出後、反応停止液(硫酸)でHRPの検出を停止させ、吸光度を測定し、各タンパク質の量を計測した。
その結果、ITIH1量(測定値)はBLV強毒株感染群で最も多くなったが、非感染群と弱毒株感染群間の差は認められなかった(図8A)。一方、CD9を用いた相対値で比較すると各群間の差が顕著になった(図8B)。
以上のことから、血液サンプルを用いた病原性バイオマーカーの検出には、血中の細胞外小胞量に対する病原性バイオマーカーの相対量(細胞外小胞のマーカー物質の量に対する病原性マーカーの相対量)で判別することが有用である。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明によれば、BLVによるリンパ腫の発症の危険度を評価することができる。従って、本発明にかかる方法を使用することで、BLV感染牛に対する適切な対策をとることができ、効率的に牛伝染性リンパ腫の発生数を抑制することが可能となる。よって、本発明は、畜産分野獣および医学分野における利用が期待される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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