(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134536
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】ポリエステルフィルムおよびその製造方法、それを用いた積層フィルム
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20240926BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20240926BHJP
B29C 55/12 20060101ALI20240926BHJP
C08J 11/10 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
C08J5/18
B32B27/36
B29C55/12
C08J11/10 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024040584
(22)【出願日】2024-03-15
(31)【優先権主張番号】P 2023044123
(32)【優先日】2023-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池本 章人
(72)【発明者】
【氏名】青山 雄輝
【テーマコード(参考)】
4F071
4F100
4F210
4F401
【Fターム(参考)】
4F071AA45
4F071AA46
4F071AA88
4F071AA89
4F071AF11Y
4F071AF16Y
4F071AG17
4F071AG28
4F071AH04
4F071BA01
4F071BB06
4F071BB08
4F071BC01
4F071BC12
4F100AK42A
4F100CB03B
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4F100JK03
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4F401CB01
4F401DC01
4F401DC04
4F401EA60
4F401EA90
4F401FA01Z
4F401FA02Z
(57)【要約】
【課題】熱水処理後やレトルト処理後においても、引裂き開封性に優れた包装袋に適用可能なポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】ポリエチレンテレフタレートと変性ポリブチレンテレフタレートとを含有するポリエステルフィルムであって、ポリエステルフィルムにおける変性ポリブチレンテレフタレートの含有量が、3~18質量%であり、示差走査熱量測定において、25℃から300℃まで昇温速度20℃/分で昇温し、300℃で10分保持した後、降温速度40℃/分で降温する際に結晶化する温度(降温結晶化温度)が、160℃以下であることを特徴とするポリエステルフィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンテレフタレートと変性ポリブチレンテレフタレートとを含有するポリエステルフィルムであって、ポリエステルフィルムにおける変性ポリブチレンテレフタレートの含有量が、3~18質量%であり、示差走査熱量測定において、25℃から300℃まで昇温速度20℃/分で昇温し、300℃で10分保持した後、降温速度40℃/分で降温する際に結晶化する温度(降温結晶化温度)が、160℃以下であることを特徴とするポリエステルフィルム。
【請求項2】
請求項1に記載のポリエステルフィルムを製造するための方法であって、下記の工程を含むことを特徴とするポリエステルフィルムの製造方法。
(A)ポリエチレンテレフタレートを解重合反応に供することにより反応生成物を得る工程
(B)前記反応生成物をろ過し、ろ液を回収する工程
(C)重合触媒の存在下、温度260℃以上、圧力1.0hPa以下で、前記ろ液を重縮合反応に供することにより、再生ポリエチレンテレフタレートを得る工程
(D)前記再生ポリエチレンテレフタレートを含む原料を用いて未延伸フィルムを製造した後、前記未延伸フィルムを二軸延伸する工程
【請求項3】
請求項1に記載のポリエステルフィルムとシーラント樹脂層とを含む積層フィルム。
【請求項4】
引裂き伝播抵抗値が0.35N以下であることを特徴とする請求項3に記載の積層フィルム。
【請求項5】
さらにガスバリア層を含む請求項3または4に記載の積層フィルム。
【請求項6】
請求項1に記載のポリエステルフィルムを含む包装材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
食品、医薬品、雑貨の包装には、各種のプラスチックフィルムを用いた包装袋が多く使用されている。中でも、チューブラー法、フラット式同時二軸延伸法、フラット式逐次延伸法等を用いて製造される二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)は、耐久性、防湿性、力学的強度、耐熱性、耐油性が優れており、食品包装分野等において幅広く使用されている。
PETフィルムを用いた包装袋は、開封性を良くするために、ノッチが付与されることが多い。しかし、ノッチから引裂く際に強い抵抗力を感じて、過度に力を加えると、内容物を飛散させてしまう場合があり、内容物がクッキー等の崩れやすい菓子の場合には、開封時に割れたり、液体の場合には、衣服を汚してしまうトラブルへ発展することもある。
そこで、PETフィルムを用いた包装袋の引裂き開封性を向上させる手法として、特許文献1には、PETに、変性ポリブチレンテレフタレート(変性PBT)を含有させたフィルムは、引裂く際にまっすぐ直線状に引裂くことができ、そのフィルムを用いた包装袋は、内容物を飛散させることなく開封できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されたフィルムを用いた包装袋は、内容物を熱水で温めるボイル処理後や、内容物の滅菌を行うレトルト処理後においては、引裂き開封性が十分でなくなることがあった。
本発明の課題は、熱水処理後やレトルト処理後においても、高齢者や女性、子供等の力の弱い人でも容易に開封できる、引裂き開封性に優れた包装袋に適用可能なポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、リサイクルによって得られた再生PETを用い、変性PBTの含有量を特定の範囲として製膜して得られるポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルムの降温結晶化温度を160℃以下としたことによって、熱水処理における加水分解が抑えられ、熱水処理後やレトルト処理後も引裂き開封性を維持した包装袋が得られることを見出し本発明に到達した。
すなわち、本発明の要旨は、次の通りである。
【0006】
(1)ポリエチレンテレフタレートと変性ポリブチレンテレフタレートとを含有するポリエステルフィルムであって、ポリエステルフィルムにおける変性ポリブチレンテレフタレートの含有量が、3~18質量%であり、示差走査熱量測定において、25℃から300℃まで昇温速度20℃/分で昇温し、300℃で10分保持した後、降温速度40℃/分で降温する際に結晶化する温度(降温結晶化温度)が、160℃以下であることを特徴とするポリエステルフィルム。
(2)上記(1)に記載のポリエステルフィルムを製造するための方法であって、下記の工程を含むことを特徴とするポリエステルフィルムの製造方法。
(A)ポリエチレンテレフタレートを解重合反応に供することにより反応生成物を得る工程
(B)前記反応生成物をろ過し、ろ液を回収する工程
(C)重合触媒の存在下、温度260℃以上、圧力1.0hPa以下で、前記ろ液を重縮合反応に供することにより、再生ポリエチレンテレフタレートを得る工程
(D)前記再生ポリエチレンテレフタレートを含む原料を用いて未延伸フィルムを製造した後、前記未延伸フィルムを二軸延伸する工程
(3)上記(1)に記載のポリエステルフィルムとシーラント樹脂層とを含む積層フィルム。
(4)引裂き伝播抵抗値が0.35N以下であることを特徴とする(3)に記載の積層フィルム。
(5)さらにガスバリア層を含む(3)または(4)に記載の積層フィルム。
(6)上記(1)に記載のポリエステルフィルムを含む包装材料。
【発明の効果】
【0007】
本発明のポリエステルフィルムは、熱水処理後やレトルト処理後においても易引裂き性に優れた効果を有するものであり、特にレトルト食品等の包装材料に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<ポリエステルフィルム>
本発明のポリエステルフィルムは、ポリエチレンテレフタレート(PET)と、変性ポリブチレンテレフタレート(変性PBT)とを含有するものである。
本発明のポリエステルフィルムは、本発明の効果を妨げない範囲において、後述するような他の成分を含有していてもよく、PETと変性PBTの合計含有量は、60~100質量%であることが好ましく、80~100質量%であることがより好ましい。
【0009】
(ポリエチレンテレフタレート(PET))
本発明において、PETは、テレフタル酸とエチレングリコールとを重合成分とするものであり、本発明の効果を損ねない範囲であれば、他の成分が共重合されてもよい。
他の共重合成分としては、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等のジカルボン酸や、4-ヒドロキシ安息香酸、ε-カプロラクトン、乳酸等のオキシカルボン酸や、1,3-プロパンジオール、1,6-ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール等のグリコールや、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等の多官能化合物が挙げられる。
【0010】
PETは、公知の製法、すなわち、テレフタル酸ジメチルとエチレングリコールとからのエステル交換反応法、あるいは、テレフタル酸とエチレングリコールとからの直接エステル化法によりオリゴマーを得た後、溶融重合、あるいはさらに固相重合して得ることができる。
後述するように、本発明のポリエステルフィルムの製造方法においては、PETとして、再生されたポリエチレンテレフタレート(再生PET)を含有するPETを使用する。
【0011】
(変性ポリブチレンテレフタレート(変性PBT))
本発明において、変性PBTは、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)単位を含有するポリブチレンテレフタレートである。
本発明において、PTMGの分子量は、600~4000であることが好ましく、1000~3000であることがより好ましく、1000~2000であることがさらに好ましい。PTMGの分子量が600未満であると、得られるフィルムは、易引裂き性が得られないことがあり、4000を超えると、得られるフィルムは、機械的強度、寸法安定性、ヘーズ等の性能が低下し、また、安定した易引裂き性が発現しないことがある。
変性PBTにおけるPTMG単位の含有量は、5~20質量%であることが好ましく、10~20質量%であることがより好ましく、10~15質量%であることがさらに好ましい。PTMGの含有量が20質量%を超えると、特に量産スケールでフィルムを生産した場合に、押出時にフィルムが脈動するバラス現象が発現することがあり、フィルムの厚みムラが大きくなることがある。
変性PBTは、PBTの重合工程において、PTMGを添加して重縮合して得ることができ、例えば、ジメチルテレフタレートと1,4-ブタンジオールのエステル交換反応物と、分子量600~4000のPTMGとの重縮合反応により得ることができる。
【0012】
本発明のポリエステルフィルムにおいて、変性PBTの含有量は、3~18質量%であることが必要であり、3~15質量%であることが好ましく、3~8質量%であることがより好ましく、3~4質量%であることが最も好ましい。変性PBTの含有量が3質量%未満であると、得られるフィルムは、易引裂き性を得ることが困難となる。また、変性PBTの含有量が18質量%を超えると、レトルト処理後における包装袋は、易引裂き性が低下するおそれがある。
【0013】
(降温結晶化温度)
本発明のポリエステルフィルムは、示差走査熱量測定において、25℃から300℃まで昇温速度20℃/分で昇温し、300℃で10分保持した後、降温速度40℃/分で降温する際に結晶化する温度(降温結晶化温度(Tc))が160℃以下であることが必要であり、159℃以下であることが好ましく、158℃以下であることがより好ましい。ポリエステルフィルムの降温結晶化温度が上記範囲内にあり、かつ、変性PBT含有量が前記特定の範囲内にあることにより、得られる包装袋は、熱水処理後やレトルト処理後においても、易引裂き性に優れたものとなる。
【0014】
(引裂き伝播抵抗値)
本発明のポリエステルフィルムは、流れ方向(MD)への易引裂き性を有している。本発明における優れた易引裂き性は、JISK7128-1によって評価される引裂き伝播抵抗値が低いことを示す。引裂き伝播抵抗値は、一般的なPETフィルムでは0.1N以下を示すが、前記PETフィルムと厚さ50μmのシーラント樹脂層を積層した積層フィルムでは1.5N以上を示す。本発明が想定している分野、例えばレトルトカレー包材等において、力の弱い高齢者や子供が容易に開封するためには、積層フィルムの引裂き伝播抵抗値が0.35N以下であることが求められ、0.30N以下であることが好ましく、0.28N以下であることがより好ましい。本発明が想定している分野では、引裂き伝播抵抗値は、重要なパラメータである。
【0015】
<ポリエステルフィルムの製造方法>
次に、本発明のポリエステルフィルムを製造する方法について説明する。
本発明のポリエステルフィルムを製造するには、例えば、変性PBTとPETを混合したものを押出機に投入し、加熱溶融した後、Tダイのダイオリフィスからシート状に押出し、静電印加キャスト法等により冷却ドラムに密着して巻き付けて冷却し、未延伸フィルムを製造する。
次に、得られた未延伸フィルムを、縦横にそれぞれ延伸し、さらに熱処理し、二軸延伸フィルムを製造する。
二軸延伸の方法としては、テンター同時二軸延伸法、ロールとテンターによる逐次二軸延伸法、チューブラー法が挙げられる。
【0016】
本発明のポリエステルフィルムの製造において、上記変性PBTと混合するPETは、後述する再生されたポリエチレンテレフタレート(再生PET)を30質量%以上含有することが好ましく、40質量%以上含有することがより好ましい。さらに、変性PBTの含有量を所定の範囲とすることで、本発明のフィルムの降温結晶化温度を上記範囲にすることができる。
【0017】
すなわち、本発明のポリエステルフィルムを製造する方法は、下記の工程を含むことが必要である。
(A)ポリエチレンテレフタレートを解重合反応に供することにより反応生成物を得る工程
(B)前記反応生成物をろ過し、ろ液を回収する工程
(C)重合触媒の存在下、温度260℃以上、圧力1.0hPa以下で、前記ろ液を重縮合反応に供することにより再生ポリエチレンテレフタレート(再生PET)を得る工程
(D)前記再生PETを含む原料を用いて未延伸フィルムを製造した後、前記未延伸フィルムを二軸延伸する工程
【0018】
(A)解重合工程
解重合工程では、ポリエチレンテレフタレートを解重合反応に供することにより反応生成物を得る。解重合工程に用いるポリエチレンテレフタレートは、リサイクル用のポリエチレンテレフタレート(リサイクル用PET)であることが好ましい。
[リサイクル用PET]
本発明において、リサイクル用のポリエチレンテレフタレート(リサイクル用PET)とは、例えば、使用済みPET製品、PET製品を製造する工程で発生するPET片が挙げられる。上記PET製品やPET片は、PET以外のものを含有してもよいが、PETの含有量が70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。
使用済みPET製品としては、例えば一度市場に出回り、使用後に回収されたPET成形品(繊維、フィルムを含む)等が挙げられる。代表例としては、PETボトルのような容器または包装材料が挙げられる。
また、PET製品を製造する工程で発生するPET片は、製品化に至らなかったPETであり、例えば、規格を外れた樹脂ペレット、成形時に不要になった材料(フィルム端部)、成形時に切断された断片、成形時、加工時に発生した屑、銘柄変更時に発生する移行品の裁断物、試作品・不良品の裁断物等が挙げられる。
【0019】
リサイクル用PETの形態としては、限定的ではなく、前記使用済みPET製品や前記PET片の当初の形態のままでもよいし、さらに裁断、粉砕等の加工を施して得られる裁断片、粉砕物(粉末)等の形態の他、これらを成形してなる成形体(ペレット)等の固形の形態が挙げられる。
より具体的には、(a)PET屑の溶融物を冷却した後に得られるペレット、(b)PETボトルのようなPET成形品を細かく裁断した裁断片等が例示される。その他にも、上記の様な裁断片、粉砕物等を溶媒に分散または溶解させて得られる液体(分散液または溶液)の形態であってもよい。
これらの原料を用いて本発明のフィルムを製造する際には、必要に応じてこれらをその融点以上の温度で溶融させて融液として缶内へ投入することもできる。
【0020】
[エチレンテレフタレートオリゴマー、エチレングリコール]
解重合工程では、リサイクル用PETを解重合反応に供し、これにより、リサイクル用PETを構成しているオリゴマー等を得ることができる。
解重合反応に際しては、リサイクル用PETを単独で解重合反応に供することもできるが、本発明ではエチレンテレフタレートオリゴマーおよびエチレングリコールの存在下でリサイクル用PETを解重合反応に供することが好ましい。
従来法においては、リサイクル用PETのみを用いて解重合を行っている。これに対し、本発明においては、エチレンテレフタレートオリゴマーおよびエチレングリコールの存在下で、エチレンテレフタレートオリゴマー、エチレングリコール、およびリサイクル用PETの全ての成分におけるモル比(全グリコール成分/全酸成分)が、下記の範囲になるように、リサイクル用PETを投入し、解重合反応を行うことが好ましい。
上記モル比は、1.08~1.35であることが好ましく、1.10~1.33であることがより好ましく、1.12~1.30であることがさらに好ましい。
このようなモル比で解重合することにより、各種の無機物のみならず、非PET由来の異物の析出が効率良く行われるため、後述のろ過工程において、これらの異物を効果的に取り除くことができる。そして、後述の重縮合工程において、ジエチレングリコールの含有量およびカルボキシル末端基濃度が後述する範囲のものであり、かつ、異物の混入量が比較的少ない再生ポリエチレンテレフタレート(再生PET)を得ることが可能となる。
【0021】
本発明の製造方法においては、上記の解重合反応により、リサイクル用PETを、モノマーにまで分解されずに、繰り返し単位が5~20程度のオリゴマーまで分解することが好ましい。このように分解を制御することにより、各種の無機物のみならず、非PET由来の異物の析出が効率良く行われる結果、より多くの異物を取り除くことが可能となる。
【0022】
エチレンテレフタレートオリゴマー、エチレングリコールは、いずれも公知または市販のものを使用することができる。また、公知の製造方法によって製造することもできる。特に、エチレンテレフタレートオリゴマーとしては、例えば、エチレングリコールとテレフタル酸とのエステル化反応物を好適に用いることができる。また、エチレンテレフタレートオリゴマーの数平均重合度は、限定的ではないが、例えば2~20程度とすることができる。
【0023】
エチレンテレフタレートオリゴマーの使用量は、上記モル比に設定できる限りは特に限定されないが、後記の重縮合工程で得られる再生PET100質量%中0.20~0.80質量%であることが好ましく、0.30~0.70質量%であることがより好ましい。エチレンテレフタレートオリゴマーの使用量が上記範囲より少ないと、リサイクル用PETを投入した際に、リサイクル用PETどうしがブロッキングを起こしやすくなり、撹拌機に過大な負荷がかかるおそれがある。一方、エチレンテレフタレートオリゴマーの使用量が上記範囲より多いと、解重合反応に特に問題は起きないが、最終的に得られる再生PETは、リサイクル率が低くなることがある。
【0024】
エチレングリコールの使用量は、上記モル比に設定できる限りは特に限定されないが、解重合反応を十分に進行させるという見地より、エチレンテレフタレートオリゴマー100質量部に対して5~15質量部であることが好ましく、5~10質量部であることがより好ましい。エチレングリコールの使用量が多すぎると、再生PET中のカルボキシル末端基濃度が低くなり、少なすぎると、カルボキシル末端基濃度が高くなり、いずれも、後述する好ましい範囲を逸脱することがある。特に、エチレングリコールを15質量部を超えて使用すると、反応器内でエチレンテレフタレートオリゴマーが固化しやすくなり、以後の反応が継続できなくなることがある。
【0025】
解重合工程でエチレンテレフタレートオリゴマーとエチレングリコールを用いる場合、その混合方法(添加順序)は、限定的ではないが、特にエチレンテレフタレートオリゴマーとエチレングリコールとを含む混合物に、リサイクル用PETを添加する方法が好ましい。これにより解重合反応の進行のむらを少なくすることができる。
また、エチレンテレフタレートオリゴマーとエチレングリコールとの混合に際しては、例えば、エチレンテレフタレートオリゴマー中にエチレングリコールを添加することが好ましい。また、添加する際は、オリゴマーの固化を防ぐ目的等で、撹拌機で撹拌しながら内容物の温度を均一にし、添加することが好ましい。
【0026】
リサイクル用PETを上記混合物に投入する際には、常圧下で撹拌しながら行うことが好ましく、少量の不活性ガス(一般的には窒素ガスを使用)でパージした状態で投入することがより好ましい。これによって、酸素の混入を妨げることができ、色調の悪化をより確実に防ぐことができる。
【0027】
解重合時の反応温度(特に反応器の内温)は、限定的ではないが、245~280℃であることが好ましく、255~275℃であることがより好ましい。解重合時の反応温度が245℃未満であると、反応物が固化し、操業性が低下するとともに、再生PETは、得られたとしても、ジエチレングリコールの含有量またはカルボキシル末端基濃度が高くなりすぎる傾向となる。反応温度が280℃を超えると、得られる再生PETのジエチレングリコールの含有量またはカルボキシル末端基濃度が高くなりすぎるおそれがある。
【0028】
また、解重合反応の時間(リサイクル用PETの投入終了後からの反応時間)は、解重合反応が完了するのに十分な時間とすればよく、特に限定されないが、通常は4時間以内であることが好ましい。特にジエチレングリコールの副生量を抑えること、ポリエステルの色調悪化を抑えること等の観点から、2時間以内であることがより好ましい。前記反応時間の下限は、限定的でなく、例えば1時間程度とすることもできる。
【0029】
反応装置は、特に限定されず、公知または市販の装置も使用することができる。特に、反応器においても、その容量、撹拌翼形状等は、一般的に使用されているエステル化反応器で特に問題ないが、解重合反応を効率的に進めるため、エチレングリコールを系外に留出させない蒸留塔を有する反応器であることが好ましい。
【0030】
(B)ろ過工程
ろ過工程では、前記反応生成物をろ過し、ろ液を回収する。前記の解重合工程で得られる反応生成物は、主としてリサイクル用PETの解重合体(特に再生されたオリゴマー)を含む液状体である。ろ過工程では、その反応生成物(液状体)をフィルターでろ過し、異物を除去し、ろ液を回収する。
【0031】
前記の解重合工程では、各種の無機物のみならず、非PET由来の異物の析出が効率良く行われるため、反応生成物(液状体)をフィルター(好ましくは、ろ過粒度10~25μm程度)でろ過し、異物をフィルターで除去して、異物の混入量の少ない解重合体を得ることができる。
ろ過粒度が25μmより大きいフィルターを使用すると、反応生成物(液状体)中の異物を十分に除去することができず、得られる再生PET中に異物が多くなる。このため、このような再生PETを用いて未延伸フィルムを製膜すると、Tダイ表面(リップ面)が汚染し、延伸時にフィルムが破断する場合がある。一方、ろ過粒度が10μmよりも小さいフィルターは、異物による目詰まりが生じやすく、フィルターライフが短くなることにより、コスト的に不利となる他、操業性も低下するおそれがある。
ろ過工程のフィルターとして、一般的なフィルターを使用できるが、特に金属製フィルターを使用することが好ましい。材質としては、特に限定されず、例えばステンレス鋼等が挙げられる。フィルター形式も、特に限定されず、例えばスクリーンチャンジャー式フィルター、リーフディスクフィルター、キャンドル型焼結フィルター等が挙げられる。これらは、公知または市販のものを使用することもできる。
【0032】
(C)重縮合工程
重縮合工程では、重合触媒の存在下、温度260℃以上、圧力1.0hPa以下で、前記ろ液を重縮合反応に供することにより再生ポリエチレンテレフタレート(再生PET)を得る。
【0033】
[重合触媒]
重合触媒としては、限定的ではないが、例えばゲルマニウム化合物、アンチモン化合物、チタン化合物、コバルト化合物等の少なくとも1種を用いることができる。その中でも、特にゲルマニウム化合物およびアンチモン化合物の少なくとも1種を使用することが好ましい。特に、得られる再生PETの透明性を重視する場合においては、ゲルマニウム化合物を使用することが好ましい。上記の各化合物としては、ゲルマニウム、アンチモン、チタン、コバルト等の酸化物、無機酸塩、有機酸塩、ハロゲン化物、硫化物等の少なくとも1種が例示される。
【0034】
重合触媒の使用量は、特に限定されないが、例えば生成する再生PETの酸成分1モルに対して5×10-5モル以上であることが好ましく、6×10-5モル以上であることがより好ましい。上記使用量の上限は、例えば1×10-3モル程度であるが、これに限定されない。
なお、リサイクル用PET中に含まれる重合触媒も、重縮合反応時に触媒として作用する場合もあるため、重縮合工程で重合触媒を添加する際には、リサイクル用PET中に含まれる重合触媒の種類とその含有量を考慮することが好ましい。
【0035】
[添加剤]
また、重縮合反応時には、必要に応じて、上記の重合触媒と併せて、例えば(a)溶融粘度を調整することができる脂肪酸エステル、(b)ヒンダードフェノール系抗酸化剤、(c)樹脂の熱分解を抑制することができるリン化合物等を必要に応じて添加することもできる。
【0036】
脂肪酸エステルとしては、例えば、蜜ロウ(ミリシルバルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ジペンタエリスリトールヘキサステアレート等が挙げられる。これらの中でも、グリセリンモノステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ジペンタエリスリトールヘキサステアレートが好ましい。これらは1種または2種以上で用いることができる。
【0037】
ヒンダードフェノール系抗酸化剤としては、例えば2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、n-オクタデシル-3-(3′,5′-ジ-t-ブチル-4′-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス〔メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4′-ブチリデンビス-(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、トリエチレングリコール-ビス〔3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート〕、3,9-ビス{2-〔3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕-1,1′-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン等が用いられるが、効果とコストの面で、テトラキス〔メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタンが好ましい。これらは1種または2種以上で用いることができる。
【0038】
リン化合物としては、例えば亜リン酸、リン酸、トリメチルフォスファイト、トリフェニルフォスファイト、トリデシルフォスファイト、トリフェニルフォスフォート等のリン化合物を用いることができる。これらは1種または2種以上で用いることができる。
【0039】
[反応条件]
重縮合反応においては、温度は、260℃以上であることが必要であり、270℃以上であることが好ましい。また、圧力は、1.0hPa以下であることが必要であり、0.8hPa以下であることが好ましい。
重縮合反応温度が260℃未満であったり、あるいは圧力が1.0hPaを超えると、重縮合反応時間が長くなるため、生産性に劣り、得られる再生PETは、カルボキシル末端基濃度が低すぎるものとなる。
一方、重縮合反応温度が高すぎると、得られる再生PETは、熱分解により、着色し、色調が悪化し、また、カルボキシル末端基濃度が高くなりすぎるため、本発明においては、重縮合反応温度の上限は、通常は285℃であることが好ましい。圧力の下限値は、例えば0.1hPa程度とすることができるが、これに限定されない。
【0040】
[再生PET]
上記重縮合反応によって再生PETを得ることができる。
本発明において、再生PETは、PETを主体とするものであることが好ましく、再生PET中におけるPETの含有量は70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90~100質量%であることがさらに好ましい。
【0041】
本発明において、再生PETは、全グリコール成分におけるジエチレングリコールの含有量は、0.5~4モル%であることが好ましく、1~3.5モル%であることがより好ましく、1.2~3モル%であることがさらに好ましい。特に、本発明の製造方法においては、エチレングリコールを原料の一つとして用いているが、得られる再生PETは、エチレングリコールから副生するジエチレングリコールの含有量が少ないものであり、ジエチレングリコールの含有量が4モル%以下であることにより、より熱安定性に優れた性能を得ることができる。このため、再生PETを含む原料は、未延伸フィルムを製膜する際に、Tダイの表面(リップ面)の汚染を抑制することができ、高い生産性を得ることが可能となる。
【0042】
また、再生PETは、カルボキシル末端基濃度が40当量/t以下であることが好ましく、30当量/t以下であることがより好ましく、25当量/t以下であることがさらに好ましく、20当量/t以下であることが最も好ましい。再生PETは、カルボキシル末端基濃度が40当量/t以下であることにより、耐熱性に優れており、各種の成形方法により、耐熱性に優れた成形品を得ることが可能となる。なお、カルボキシル末端基濃度の下限は、フィルム製膜時の引張伸度等の機械強度向上の観点から、10当量/tであることが好ましい。
【0043】
再生PETは、次の方法により測定される平均昇圧速度が0.6MPa/h以下であることが好ましく、0.5MPa/h以下であることがより好ましく、0.4MPa/h以下であることがさらに好ましい。
上記の平均昇圧速度は、各種無機物に由来する異物、非PETに由来する異物等の混入量の多さの指標となるものであり、平均昇圧速度が小さいほど異物の混入量が少ないことを示す。平均昇圧速度が0.6MPa/h以下であることにより、例えば延伸倍率が10倍以上の高倍率の延伸フィルムを製造することも可能となる。なお、平均昇圧速度の下限は、例えば、0.01MPa/h程度とすることができるが、これに限定されない。
上記の平均昇圧速度は、エクストルーダーおよび圧力センサを含む昇圧試験機を用い、エクストルーダーの先端に前記フィルターをセットし、ポリエステル樹脂をエクストルーダーにて300℃で溶融し、前記フィルターからの吐出量29.0g/分で当該溶融物を押出した時の前記フィルターにかかる圧力値として、押出し開始時の圧力値を「初期圧力値(MPa)」とし、その後連続して12時間押出しをした時点の圧力値を「最終圧力値(MPa)」とした場合、それらの圧力値に基づいて下記(式A)により算出する。
平均昇圧速度(MPa/h)=(最終圧力値-初期圧力値)/12 (式A)
前記の測定で用いるエクストルーダー、フィルター等は、本発明の規定を満たす限りは、制限されず、公知又は市販のものを適宜使用することもできる。
【0044】
再生PETの極限粘度は、特に限定されないが、通常は0.44~0.80であることが好ましく、0.55~0.70であることがより好ましい。また、再生PETは、固相重合工程を経て高重合度化することも可能である。この場合、得られる再生PETの極限粘度は、通常0.80~1.25であることが好ましい。
【0045】
(D)延伸工程
延伸工程では、前記再生PETを含む製膜原料を用いて未延伸フィルムを製造した後、前記未延伸フィルムを二軸延伸する。
【0046】
[製膜原料]
未延伸フィルムを製造する製膜原料における再生PETの含有量は、限定的ではなく、通常は20質量%以上であることが好ましく、24質量%以上であることがより好ましく、エコマーク認証等の環境的な観点から、25質量%以上であることが好ましく、35質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましく、50質量%以上であることが最も好ましい。再生PETの含有量が低すぎると、それに伴って、得られるフィルムは、リサイクル率が低下する。前記含有量の上限については、通常は80質量%程度に設定できるが、これに限定されない。
また、再生PETは、1種類のみからなるものでもよく、2種類以上を混合したものでもよく、再生PETと再生PET以外の樹脂を混合したものでもよい。
本発明のフィルムの降温結晶化温度を規定する範囲とするためには、再生PETの含有量は30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましい。なお、再生PETの含有量の上限は、100質量%とすることもできるが、これに限定されない。
【0047】
製膜原料として、上記再生PET(解重合-再重縮合品)の他、本発明の効果を損なわない範囲でリサイクル率を高くするために、リサイクル用PETを再溶融したもの(再溶融品)を使用してもよく、また、リサイクル用PETを使用していないポリエチレンテレフタレート(バージンPET)も含めてもよい。
【0048】
製膜原料における上記再溶融品の含有量は、通常75質量%以下であることが好ましく、65質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましく、40質量%以下であることが特に好ましく、35質量%以下であることが最も好ましい。再溶融品の含有量が75質量%を超える製膜原料は、異物または熱劣化物が増え、フィルム製膜の際に、切断等のトラブルが生じる傾向にある。また、得られるフィルムは、引張伸度等の機械物性が低下する傾向にある。
再溶融品の原料として用いるフィルム屑や不良品は、例えば、シリカ等の滑剤の他、酸化防止剤等の各種添加剤の濃度が、製品の銘柄毎に異なる。そのため、製膜原料中の再溶融品の含有量が多くなる程、前記添加剤濃度のバラツキが生じ、得られたフィルムのヘーズ、フィルム表面の濡れ張力、印刷適性等に悪影響を及ぼす場合がある。
前記理由から、複数の層から構成されるポリエステルフィルムの場合、表層は、再溶融品の含有量が50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、35質量%以下であることがさらに好ましい。
一方、中間層は、再溶融品の含有量が多くても、濡れ張力、印刷適性等のフィルム表面特性には影響を与えないため、リサイクル率を高くする観点から、再溶融品の含有量を多くすることができる。中間層における再溶融品の含有量は100質量%としてもよい。
【0049】
本発明のポリエステルフィルムのリサイクル率は、高い方が好ましく、具体的には、通常25質量%以上であることが好ましく、35質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましく、50質量%以上であることが特に好ましく、65質量%以上であることが最も好ましい。リサイクル率の上限は、例えば80質量%程度とすることができるが、これに限定されない。従って、上記のようなリサイクル率となるように、製膜原料におけるPETの組成を調整することが好ましい。なお、本発明において、PETのリサイクル率Rとは、下記式で示される質量割合をいう。
R(質量%)=A×B+C
(ただし、Aは、解重合-再重縮合PETに占めるリサイクルPETの質量割合(質量%)を示し、Bは、解重合-再重縮合PETがフィルム中に占める質量割合(質量%)を示し、Cは、再溶融PETがフィルム中に占める質量割合(質量%)を示す。)
【0050】
[製膜]
未延伸フィルムは、作製方法が限定的でなく、公知のフィルム製膜法によって成形することができ、例えば、前記製膜原料の溶融物をTダイから押出した後、キャスティングロールで冷却することによって得ることができる。この場合、未延伸フィルムの結晶化度を均一にする観点で、このキャスティングロール表面の実温度を精度よく管理することが好ましい。
【0051】
[二軸延伸]
次いで、得られた未延伸フィルムの二軸延伸を行う。これにより、流れ方向(MD)および幅方向(TD)の引張伸度がいずれも優れたフィルムを得ることができる。
二軸延伸法は、限定的でなく、例えば、同時二軸延伸法、逐次二軸延伸法が挙げられる。引張強度、引張弾性率のいずれの物性も、MDおよびTDの差を小さくする機械物性の面バランスの観点で、同時二軸延伸法が好ましく、乾熱収縮率のMDおよびTDの差を小さくする熱特性の面バランスの観点で、逐次二軸延伸法が好ましく、これらは求めるフィルム物性、用途において適宜選択できる。
延伸倍率は、例えばフィルムの用途、所望の物性等に応じて適宜設定することができ、例えばMDに2~4倍、TDに2~4倍とすることができるが、これに限定されない。
延伸温度も、限定的でなく、例えば40~220℃の範囲が挙げられる。特に逐次延伸の場合、MDの延伸は、40~80℃で実施し、TDの延伸は、80~150℃で実施することが好ましい。また、同時二軸延伸の場合は、160~220℃で実施することが好ましい。
【0052】
[熱処理]
得られた二軸延伸フィルムは、寸法安定性向上、熱水収縮率を抑制するために、必要に応じて220~240℃程度の温度で短時間の熱処理を施すことが好ましい。
延伸工程で与えられる変形と熱により、延伸フィルムの結晶化が進行するが、本発明の範囲の降温結晶化温度であらわされるような結晶化特性を持つポリエステルフィルムは、フィルムの表面結晶化度を適切にコントロールすることが容易になり、機械特性に優れたものとなる。
【0053】
<ポリエステルフィルム中の他の成分>
本発明のポリエステルフィルムに含まれる他の成分としては、例えば後述するような、一般的なフィルムに含まれている添加剤が挙げられる。また、添加剤には、本発明フィルムの製造時にはじめて添加される添加剤の他、原料中に含まれる添加剤、不純物等も含まれる。
【0054】
本発明のポリエステルフィルムには、フィルムの性能を損なわない範囲であれば、着色剤、フィラー、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防腐剤、帯電防止剤、ブロッキング剤、耐衝撃改良剤、無機微粒子等の各種添加剤を1種あるいは2種以上添加することができる。
特に、本発明のフィルムは、フィルムのスリップ性を向上させる等の目的で、滑剤が添加されていてもよい。滑剤の具体例としては、クレー、タルク、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、珪酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト、層状珪酸塩、エチレンビスステアリン酸アミド等が挙げられる。これらの中でもシリカが好ましい。滑剤の含有量は、限定的ではないが、通常はポリエステルフィルム中に0.01~0.3質量%程度が適当である。
【0055】
また、本発明のポリエステルフィルムは、本発明の効果を損なわない範囲であれば、ポリエチレンナフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート等の他のポリマーを含有することができる。
【0056】
<ポリエステルフィルムの表面>
本発明のポリエステルフィルムは、その用途に応じて、コロナ放電処理、表面硬化処理、メッキ処理、着色処理、あるいは各種のコーティング処理により、その表面を処理することができる。また、易接着層、ガスバリア層、印刷層等を必要に応じて設けることもできる。
【0057】
<ポリエステルフィルムの厚み>
本発明のポリエステルフィルムの厚みは、易引裂き性向上の観点から、50μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることが最も好ましい。一方で、機械強度の観点から、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることが最も好ましい。
【0058】
<積層フィルム>
本発明のポリエステルフィルムの形態は、単一の層から構成されるものであってもよいし、同時溶融押出しまたはラミネーションによって形成された複数の層から構成されるものであってもよい。
例えば、解重合-再重縮合PETを含有するポリエステルフィルム(A)と、再溶融PETを含有するポリエステルフィルム(B)とを積層する二種二層の構成の他、上記フィルム(A)で、上記フィルム(B)を挟む二種三層の構成でもよい。二種三層構成のような中間層を挟む層構成のポリエステルフィルムにおいては、中間層のフィルム(B)は、積層フィルムの表面を構成しないため、耐屈曲性、強度、表面結晶化度等への影響はわずかであり、再溶融PETの含有量を多くすることができる。
また、本発明のポリエステルフィルムは、そのまま単独で使用することもできる他、他の層(ガスバリア層等のバリア層、印刷層、接着剤層、基材樹脂層、シーラント樹脂層等)とともに積層フィルムとしても使用することができる。積層フィルムの層構成としては、本発明のポリエステルフィルムを(A)、ガスバリア層を(G)、印刷層を(I)、基材樹脂層を(B)、シーラント樹脂層を(S)とすると、例えば、A/S、A/I/S、A/G/S、A/G/I/S、A/I/G/S、A/B/S、A/I/B/S、A/B/I/S、A/G/B/S、A/B/G/S、A/G/I/B/S、A/G/B/I/S、A/I/G/B/S、A/I/B/G/S、A/B/G/I/S、A/B/I/G/S、B/A/S、B/I/A/S、B/A/I/S、B/G/A/S、B/A/G/S、B/G/I/A/S、B/G/A/I/S、B/I/G/A/S、B/I/A/G/S、B/A/G/I/S、B/A/I/G/S等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、層間に接着剤層を設けてもよい。
【0059】
(ガスバリア層)
ガスバリア層は、酸素等を遮断するための層である。
ガスバリア層を積層させる方法としては、フィルム表面に無機物を蒸着する方法や、ガスバリアコート液を塗布し乾燥する方法、アルミニウム箔やガスバリアフィルムをラミネートする方法等が挙げられる。ガスバリア層を積層したフィルムの酸素透過度は、100ml/(m2・day・MPa)以下であることが好ましい。
【0060】
フィルム表面に無機物を蒸着して蒸着層を設ける場合、用いる無機物としては、例えば、アルミニウム、ケイ素、マグネシウム、パラジウム、亜鉛、ニッケル、銀、銅、金、インジウム、ステンレス鋼、クロム、チタン等の金属類および、これらの各金属の酸化物またはこれらの化合物が挙げられる。
【0061】
蒸着層中において、これらの無機物の含有量は、通常は95~100質量%程度の範囲内とすればよいが、これに限定されない。
【0062】
蒸着層の厚みは、限定的でないが、通常は0.005~0.3μmであることが好ましく、特に0.01~0.15μmであることがより好ましい。厚みが0.005μm未満の場合、蒸着層の均一性や厚みが不十分となり、十分なガスバリア性が得られない場合がある。一方、厚みが0.3μmを超える場合、マイクロクラックが発生しやすくなり、ガスバリア性が低下する場合がある。
【0063】
蒸着層を形成する手法としては、特に限定されず、例えば物理蒸着法(PVD)、化学蒸着法(CVD)等を挙げることができる。これらは公知の条件の範囲内で実施することができる。
【0064】
フィルム表面にガスバリアコート液を塗布乾燥してガスバリア層を設ける場合、ガスバリアコート液としては、ポリ塩化ビニリデン類を含むガスバリアコート液(I)や、無機層状化合物と樹脂を含むガスバリアコート液(II)が挙げられる。
【0065】
ガスバリアコート液(I)のポリ塩化ビニリデン類としては、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)のほか、塩化ビニリデンと他のモノマー(塩化ビニル等)との共重合体であるポリ塩化ビニリデン共重合体等を用いることができる。
【0066】
ポリ塩化ビニリデン類は、公知又は市販のものを使用すればよい。また、公知の製法(例えば乳化重合方法等)により得られたものを使用することもできる。この場合、乳化重合方法では、ポリ塩化ビニリデン類はラテックスの形態で得ることができるが、そのラテックス又はその濃度を調整した液体をコート液として用いることもできる。この場合のコート液のポリ塩化ビニリデン類の平均粒径は、通常0.05~0.5μmとすることが好ましく、特に0.07~0.3μmとすることがより好ましい。このような粒度に調整することによりラテックスの貯蔵安定性と塗工性をより高めることができる
【0067】
ガスバリアコート液(II)には、無機層状化合物と任意の樹脂が含まれる。
【0068】
無機層状化合物とは、単位結晶層が互いに積み重なって層状構造を形成している無機化合物をいう。無機層状化合物としては、溶媒への膨潤性および劈開性を有する粘土鉱物が好ましい。そのような粘土鉱物としては、例えば、カオリナイト、ディッカイト、ナクライト、ハロイサイト、アンチゴライト、クリソタイル、パイロフィライト、モンモリロナイト、バイデライト、ベントナイト、ノントロナイト、サポナイト、ソーコナイト、スチブンサイト ヘクトライト、テトラシリリックマイカ、ナトリウムテニオライト、白雲母、マーガライト、タルク、バーミキュライト、金雲母、ザンソフィライト、緑泥石等が挙げられる。中でも、スメクタイト族、バーミキュライト族、マイカ族の粘土系鉱物が好ましく、スメクタイト族がより好ましい。スメクタイト族としては、例えばモンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ソーコナイト、スチブンサイト、ヘクトライト等が挙げられる。また、これら粘土鉱物に有機物でイオン交換等の処理を施して分散性等を改良したものも、無機層状化合物として用いることができる。
【0069】
無機層状化合物のアスペクト比は、特に限定されないが、通常は50~5000程度であることが好ましく、特に200~3000であることがより好ましい。上記アスペクト比が50未満では、ガスバリア性の発現が不十分となる。一方、アスペクト比が3000を超える無機層状化合物を得ることは技術的に難しく、またコストないし経済的にも高価になる。そのため、製造容易性の点からは、このアスペクト比は3000以下であることが好ましい。
【0070】
無機層状化合物は、ガスバリア性、透明性、製膜性等の点から、粉末状の形態であることが望ましく、特に平均粒径が5μm以下であることがより好ましい。特に透明性が求められる用途では、平均粒径が1μm以下であることがより好ましい。なお、平均粒径の下限値は、例えば0.01μmとすることができるが、これに限定されない。
【0071】
ガスバリアコート液(II)を用いたガスバリア層中における無機層状化合物の含有割合は、例えば5~20体積%程度の範囲内で適宜設定することができるが、これに限定されない。
【0072】
ガスバリアコート液(II)に用いられる樹脂は特に限定されないが、例えば、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリアクリロニトリル、多糖類、ポリアクリル酸およびそのエステル類が挙げられる。中でも、樹脂単位質量当りの水素結合性基またはイオン性基の質量百分率が20~60%の割合を満足する水素結合性樹脂が好ましく、樹脂単位質量当りの水素結合性基またはイオン性基の質量百分率が30~50%の割合を満足する水素結合性樹脂がより好ましい。「水素結合性基」とは、炭素以外の原子(ヘテロ原子)に直接結合した水素を少なくとも1個有する基をいう。「イオン性基」とは、水中において水分子の水和が可能な程度に局在化した正または負の少なくとも一方の電荷を有する基をいう。水素結合性樹脂の水素結合性基としては、例えば、水酸基、アミノ基、チオール基、カルボキシル基、スルホン酸基、燐酸基等が挙げられ、イオン性基としては、例えば、カルボキシレート基、スルホン酸イオン基、燐酸イオン基、アンモニウム基、ホスホニウム基が等挙げられ、中でも、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、スルホン酸基、カルボキシレート基、スルホン酸イオン基、アンモニウム基が挙げられる。
【0073】
水素結合性樹脂の具体例としては、例えば、ポリビニルアルコールおよびその類縁体、エチレン-ビニルアルコール共重合体等のビニルアルコール系樹脂、多糖類、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリ-2-ヒドロキシエチルアクリレート、ポリ-2-ヒドロキシエチルメタクリレート、ポリアクリルアミド、エチレン-アクリル酸共重合体およびその塩等のアクリル系樹脂、ジエチレントリアミン-アジピン酸重縮合体等ポリアミノアミド系樹脂、ポリチレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリビニルピリジンおよびその塩、ポリエチレンイミンおよびその塩、ポリアリルアミンおよびその塩、ポリビニルピロリドン、ポリビニルスルホン酸およびその塩、ポリビニルチオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリグリセリン等が挙げられる。中でも、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、多糖類が好ましい。
【0074】
ここでポリビニルアルコールとは、ビニルアルコールのモノマー単位を主成分として有するポリマーである。このようなポリビニルアルコールとしては、例えば、酢酸ビニル重体の酢酸エステル部分を加水分解またはエステル交換(鹸化)して得られるポリマー(正確にはビニルアルコールと酢酸ビニルの共重合体となったもの)や、トリフルオロ酢酸ビニル重合体、ギ酸ビニル重合体、ピバリン酸ビニル重合体、t-ブチルビニルエーテル重合体、トリメチルシリルビニルエーテル重合体等を鹸化して得られるポリマー等が挙げられる。ポリビニルアルコールの鹸化度は、モル百分率で70%以上とすることが好ましく、85%以上とすることがより好ましく、98%以上のいわゆる完全鹸化品がさらに好ましい。また、重合度は、100~5000とすることが好ましく、200~3000とすることがより好ましい。
【0075】
エチレン-ビニルアルコール共重合体のビニルアルコール分率は、40~80モル%とすることが好ましく、45~75モル%とすることがより好ましい。
エチレン-ビニルアルコール共重合体のメルトインデックス(温度190℃、荷重2160gの条件で測定した値)は、特に限定されないが、0.1~50g/10分とすることが好ましい。本発明にいうエチレン-ビニルアルコール共重合体は、本発明の目的が阻害されない限り、少量の共重合モノマーで変性されていてもよい。
【0076】
多糖類とは、種々の単糖類の縮重合によって生体系で合成される生体高分子であり、ここではそれらをもとに化学修飾したものも含まれる。例えば、セルロースおよびヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、アミロース、アミロペクチン、プルラン、カードラン、ザンタン、キチン、キトサン等が挙げられる。
【0077】
ガスバリアコート液(II)に用いられる樹脂が水素結合性樹脂である場合、その耐水性を改良する観点から、架橋剤を用いてもよい。架橋剤としては、例えば、チタン系カップリング剤、シラン系カップリング剤、メラミン系カップリング剤、エポキシ系カップリング剤、イソシアネート系カップリング剤、銅化合物、ジルコニウム化合物等が挙げられる。
【0078】
無機層状化合物を膨潤かつ劈開させる分散媒としては、例えば、水、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等)、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン等が挙げられる。とりわけ、水、アルコール又は水-アルコール混合物が好ましい。
【0079】
ガスバリアコート液(II)の調製に用いる溶媒としては、水のほか、各種の有機溶剤を用いることができる。有機溶剤としては、例えば、シクロヘキサン、ノルマルヘキサン、ベンゼン等の炭化水素系溶剤、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール等のアルコール系溶剤、アセトン、ケトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチル、酢酸イソペンチル等のエステル系溶剤、エチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル系溶剤等が挙げられる。
【0080】
ガスバリアコート液(II)の製造方法は、特に限定されないが、配合時の均一性および操作容易性の観点から、樹脂を溶解させた液と、無機層状化合物を予め膨潤・劈開させた分散液とを混合後、溶媒を除く方法(方法1)、無機層状化合物を膨潤・劈開させた分散液を樹脂に添加し、溶媒を除く方法(方法2)、樹脂を溶解させた液に無機層状化合物加え膨潤・劈開させた分散液とし溶媒を除く方法(方法3)、樹脂と無機層状化合物を熱混練する方法(方法4)等が使用可能である。無機層状化合物の大きなアスペクト比が容易に得られる観点から、前3者が好ましい。
【0081】
ガスバリアコート液(II)を用いる場合、フィルム表面との接着性を高めるため、アンカーコート層を設けてから、ガスバリアコート層を設けてもよい。アンカーコート層に用いるアンカーコート液としては、特に限定されないが、イソシアネート化合物、ポリウレタンおよびウレタンプレポリマーの1種または2種以上の混合物および反応生成物、ポエステル、ポリオールおよびポリエーテルの1種または2種以上とイソシアネートとの混合物および反応生成物、またはこれらの溶液または分散液が好ましい。アンカーコート層の厚みは、特に限定されないが、乾燥後の厚みが0.02~0.2μmとすることが好ましく、0.04~0.1μmとすることがより好ましい。
【0082】
ガスバリアコート液(I)または(II)を用いる場合、ガスバリアコート層の形成方法としては、ガスバリアコート液をフィルムの製膜時に塗布するインラインプリコート法を採用してもよいし、製膜後に塗布するポストコート法いずれを採用してもよい。また、インラインプリコート法およびポストコート法を併用することも可能である。ガスバリアコート層の塗布には、エアーナイフコーター、キスロールコーター、メタリングバーコーター、グラビアロールコーター、リバースロールコーター、ディップコーター、ダイコーター等のほか、これらのいずれかを組み合わせた方法を用いることができる。これらは、公知又は市販の装置を用いて実施することができる。
【0083】
ガスバリアコート層の厚みは、限定的でないが、通常は0.01~3.0μmであることが好ましく、特に0.02~2.0μmであることがより好ましい。厚みが0.01μm未満の場合、十分なガスバリア性が得られない場合がある。一方、厚みが3.0μmを超える場合、造膜性が低下して皮膜の外観が損なわれやすい。
【0084】
アルミニウム箔や、前述した蒸着層やガスバリアコート層を含むガスバリアフィルムを本発明の積層フィルムにラミネートして積層してもよい。
【0085】
(印刷層)
印刷層は、例えば文字、図柄等を印刷した層である。印刷層の形成に用いられるインキとしては、特に限定されるものではない。例えば、含トルエンインキ、ノントルエンインキ、水性インキ等が挙げられる。環境の面から考えると、ノントルエンインキ、水性インキ等の少なくとも1種が好ましい。
【0086】
(接着剤層)
接着剤層を形成する接着剤としては、公知又は市販のものを使用することができる。例えば、イソシアネート系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリエチレンイミン系、ポリブタジエン系、ポリオレフィン系、アルキルチタネート系の接着剤等が挙げられる。その中でも、密着性、耐熱性、耐水性等の観点から、イソシアネート系、ポリウレタン系、ポリエステル系等の少なくとも1種の接着剤が好ましい。
【0087】
(基材樹脂層)
基材樹脂層としては、ポリエステル樹脂フィルム、ポリアミド樹脂フィルム、ポリプロピレン樹脂フィルム等の熱可塑性樹脂フィルムが挙げられる。また、基材樹脂層の表面にガスバリア層や易接着層等が積層されていてもよい。
【0088】
(シーラント樹脂層)
シーラント樹脂層としては、ヒートシール性を有するものであれば特に限定されず、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン、アイオノマー樹脂等の少なくとも1種が挙げられる。また、シーラント樹脂層の表面にアルミニウム蒸着等によるガスバリア層が積層されていてもよい。
【0089】
<包装材料>
本発明のポリエステルフィルムまたはその積層フィルムは、所定の袋体を構成することもできる。袋体の形状は、限定的でなく、例えば、二方袋、三方袋、チャック付き三方袋、合掌袋、ガゼット袋、底ガゼット袋、スタンド袋等の各種の形状が挙げられる。例えば、ドライラミネート法、押出しラミネート法等の公知の方法を用いて、ポリオレフィン等のシーラント樹脂層と本発明フィルムとを積層して積層フィルムとし、そのシーラント樹脂層どうしを熱融着させて包装袋を構成することができる。
本発明のポリエステルフィルムを含む包装材料(包装袋、容器等)は、内容物が限定されず、食品をはじめ、医薬品・医療機器、化粧品、化学品、雑貨、電子部品等の包装に幅広く使用することができる。中でも、本発明のポリエステルフィルムを含む包装袋は、優れた引裂き開封性を有していることから、レトルトカレーの様なボイルや電子レンジ調理を行う食品類、開封時の形崩れ防止や内容物の取り出しやすさが求められる菓子やペットフード、即座に開封し中身を取り出す必要のある医薬品・医療機器等の用途に好適といえる。
【実施例0090】
以下、本発明の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0091】
ポリエステルフィルムの特性は、下記の方法で測定した。
(1)引裂き伝播抵抗(N)
実施例、比較例で得られたポリエステルフィルムの片面(ガスバリア層が積層されている場合はガスバリア層側の面)に、ポリウレタン系接着剤(三井化学社製、タケラックA-525S/A-50、2液型)を均一に塗布し(塗布量4g/m2)、乾燥した後、温度100℃の熱ロール上で、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)フィルム(三井化学東セロ社製 TUX-FCS 40μm)、または無延伸ポリプロピレン(CPP)フィルム(三井化学東セロ社製 RXC-22 50μm)をドライラミネートして、それぞれ積層フィルムを得た。
島津製作所製オートグラフAG-ISを使用し、JISK7128-1に準じて、上記積層フィルムのMDへの引裂き伝播抵抗を、引張速度200mm/min、測定環境23℃×50%RHの条件で、それぞれ測定した。
【0092】
(2)熱水処理後の引裂き伝播抵抗(N)
上記(1)で得られた、ポリエステルフィルムとLLDPEフィルムとの積層フィルムを三方袋の形状に製袋し、純水を充填したサンプルを作製した。サンプルを、ボイル浴槽を用いて95℃に熱した純水中に30分間浸漬し、熱水処理した。30分経過後、直ちに処理水から引き揚げたサンプル内の純水を抜き、サンプルから、ポリエステルフィルムとLLDPEフィルムとの積層フィルムを切り出し、上記(1)に記載方法で積層フィルムのMDへの引裂き伝播抵抗を測定した。
【0093】
(3)レトルト処理後の引裂き伝播抵抗(N)
上記(1)で得られた、ポリエステルフィルムとCPPフィルムとの積層フィルムを三方袋の形状に製袋し、純水を充填したサンプルを作製した。サンプルを、高温高圧殺菌調理装置(レトルト釜)を用いて、120℃で30分間レトルト処理した。レトルト処理後、10分間の冷却処理の後、サンプル内の純水を抜き、サンプルから、ポリエステルフィルムとCPPフィルムとの積層フィルムを切り出し、上記(1)に記載の方法で積層フィルムのMDへの引裂き伝播抵抗を測定した。
【0094】
(4)ポリエステルフィルムの降温結晶化温度
パーキンエルマー社製示差走査熱量計入力補償型DSC8000を使用し、JISK7121に準じて、実施例、比較例で得られたポリエステルフィルム10mgをサンプルとして測定した。測定は、昇温速度20℃/分にて25℃から300℃まで昇温し、300℃で10分間保持した後、降温速度40℃/分にて100℃まで冷却する条件で実施し、降温時に結晶化するピークトップ温度を降温結晶化温度Tcとした。
【0095】
(5)フィルム厚み
フィルムを23℃×50%RH環境にて2時間調湿した後、厚みゲージ(ハイデンハイン社製 HEIDENHAIN-METRO MT1287)を用いて、任意の10点の厚みを測定し、その平均値をフィルム厚みとした。
【0096】
(6)酸素透過度
モコン社製の酸素バリア測定器(OX-TRAN 2/20)を用いて、測定面積50cm2、窒素のガス流量10cc/min、酸素のガス流量20cc/min、20℃、65%RHの雰囲気下における、ポリエステルフィルムの酸素透過度を測定した。測定は1サイクルあたり20minとし、3サイクル間隔の酸素透過度の変動率が1%以内になれば測定終了とした。
【0097】
実施例、比較例において使用した原料は、以下の通りである。
<再生PET(解重合-再重合品A-1)>
エステル化反応器(ES缶)に、テレフタル酸(TPA)とエチレングリコール(EG)のスラリー(TPA/EGモル比=1/1.6)を供給し、温度250℃および圧力50hPaの条件で反応させ、エステル化反応率95%のエチレンテレフタレートオリゴマー(数平均重合度:5)を得た。
得られたエチレンテレフタレートオリゴマー45.0質量部をES缶に仕込み、続いてES缶の撹拌機を回した状態でエチレングリコール7.0質量部を投入した。ES缶の内温降下が止まったところより、リサイクル用PET(PETを製造する工程で発生するPET屑のペレット)55.0質量部を、ロータリーバルブを介して約2時間かけて投入した。このとき、全グリコール成分/全酸成分のモル比(G/A)は1.16であった。その後、270℃の熱処理条件下で1時間解重合反応を行った。
次に、得られた解重合体を、ES缶と重縮合反応器との間にセットした目開き20μmのキャンドルフィルターを通して、重縮合反応器(PC缶)へ圧送した後、重合触媒として三酸化アンチモンを1.0×10-4mol、二酸化チタンのEGスラリーを0.20質量%となるように加え、PC缶を減圧にして1時間後に最終圧力0.5hPa、温度275℃で4時間、溶融重合反応を行い、再生PET(解重合-再重合品A-1)(リサイクル率55質量%、極限粘度0.64、カルボキシル末端基濃度27当量/t、降温結晶化温度170℃、平均昇圧速度0.28MPa/h)を得た。
【0098】
<再生PET(解重合-再重合品A-2)>
A-1と同様にして、エステル化反応率95%のエチレンテレフタレートオリゴマー(数平均重合度:5)を得た。
得られたエチレンテレフタレートオリゴマー30.0質量部をES缶に仕込み、続いてES缶の撹拌機を回した状態でエチレングリコール7.0質量部を投入した。ES缶の内温降下が止まったところより、リサイクル用PET(PETを製造する工程で発生するPET屑のペレット)70.0質量部を、ロータリーバルブを介して約2時間かけて投入した。このとき、モル比(G/A)は1.10であった。その後、270℃の熱処理条件下で1時間解重合反応を行った。
そして得られた解重合体を、ES缶とPC缶との間にセットした目開き20μmのキャンドルフィルターを通してPC缶へ圧送した後、重合触媒として三酸化アンチモンを1.0×10-4molとなるように加え、PC缶を減圧にして1時間後に最終圧力0.5hPa、温度275℃で5時間、溶融重合反応を行い、再生PET(解重合-再重合品A-2)(リサイクル率70質量%、極限粘度0.65、カルボキシル末端基濃度38当量/t、降温結晶化温度170℃、平均昇圧速度0.3MPa/h)を得た。
【0099】
<再溶融品>
PETフィルム製造時に発生したフィルム屑を粉砕後、250~290℃で再溶融し、ペレット化した。その後、乾燥し、再溶融品(リサイクル率100質量%、降温結晶化温度179℃)とした。
【0100】
<バージンPET>
日本エステル社製ポリエチレンテレフタレート樹脂UT-CBR(降温結晶化温度177℃)を用いた。
【0101】
<変性PBT>
ジメチルテレフタレート194質量部と、1,4-ブタンジオール108質量部と、テトラブチルチタネート80ppm(ポリマーに対するチタン金属の質量に換算した数値)とを、150℃から210℃に加熱昇温しながら、2.5時間エステル交換反応を行った。得られたエステル交換反応生成物85質量部を重合缶に移送し、テトラブチルチタネートを40ppm添加した後、分子量1100のPTMGを15質量部添加して、減圧を開始し、最終的に1hPaの減圧下、210℃から昇温し最終的に245℃の温度で2時間溶融重合し、相対粘度1.62の変性PBTを得た。
【0102】
実施例1
変性PBT4質量部と、PET(再生PET(解重合-再重合品A-1)/再溶融品/バージンPET(質量比:60/20/20))96質量部とを混合して押出機内で溶融混錬し、Tダイへ供給してシート状に吐出し、20℃に温調した金属ドラムに巻き付け、冷却して巻き取ることにより、約120μmの厚みの未延伸フィルムを得た。
次いで、この未延伸フィルムの端部を、テンター式同時二軸延伸装置のクリップで保持し、180℃の条件下でMDに3.0倍、TDに3.3倍の延伸倍率で同時二軸延伸した。
その後、TDの弛緩率を5%として、215℃で4秒間の熱処理を施し、室温まで徐冷し、片面にコロナ放電処理を施して、リサイクル率が50.9質量%、厚みが12μmのポリエステルフィルムを得た。
【0103】
実施例2~9、比較例1~8
変性PBTの含有量、PETの含有量と組成を表1に記載の通りに変更した以外は実施例1と同様にして、厚みが12μmのポリエステルフィルムを得た。
【0104】
実施例10
実施例1と同様の操作にて、約180μmの厚みの未延伸フィルムを得た後、この未延伸フィルムの端部をテンター式同時二軸延伸装置のクリップで保持し、180℃の条件下でMDに2.5倍、TDに2.8倍の延伸倍率で同時二軸延伸し、厚みが25μmのポリエステルフィルムを得た。
【0105】
実施例11
MDに3.0倍、TDに3.0倍の延伸倍率で逐次二軸延伸した以外は実施例1と同様にして、リサイクル率が50.9質量%、厚みが12μmのポリエステルフィルムを得た。
【0106】
実施例12
実施例1で得られたポリエステルフィルムの片面にポリウレタン系接着剤(三井化学社製、タケラックA-525S/A-50、2液型)を均一に塗布し(塗布量4g/m2)、乾燥した後、厚さ7μmのアルミニウム箔をドライラミネートし、ガスバリア層としてアルミニウム箔が積層されたポリエステルフィルムを得た。得られた積層ポリエステルフィルムの酸素透過度は0.1ml/(m2・day・MPa)以下であった。
【0107】
実施例13
実施例1で得られたポリエステルフィルムの片面に真空蒸着法により酸化ケイ素を蒸着し、厚みが0.05μmのガスバリア層が積層されたポリエステルフィルムを得た。得られた積層ポリエステルフィルムの酸素透過度は5ml/(m2・day・MPa)であった。
【0108】
各実施例、比較例で得られたポリエステルフィルムの構成と特性を表1に示す。
【0109】
【0110】
実施例1~13のポリエステルフィルムは、再生PETを含有したPETを用い、フィルムにおける変性PBTの含有量を所定の割合にしたことで、降温結晶化温度が本発明で規定する範囲を満たしているため、熱水処理後とレトルト処理後の引裂き伝播抵抗値が低く、易引裂き性に優れていた。
一方、比較例1~4のポリエステルフィルムは、変性PBTを含有していない、もしくは変性PBTの含有量が本発明で規定する範囲に満たないため、易引裂き性が発現しないものであった。
比較例5~7のポリエステルフィルムは、降温結晶化温度が本発明で規定する範囲を超えていたため、熱水処理後およびレトルト処理後の引裂き伝播抵抗値が高くなる傾向にあった。
比較例8のポリエステルフィルムは、変性PBTの含有量が本発明で規定する範囲を超えているため、レトルト処理後の引裂き伝播抵抗値が高くなる傾向にあった。