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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134541
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】癌関連線維芽細胞増殖抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/50 20060101AFI20240926BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20240926BHJP
   A61K 31/5395 20060101ALI20240926BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240926BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
A61K31/50 ZNA
A61K31/519
A61K31/5395
A61P35/00
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024043132
(22)【出願日】2024-03-19
(31)【優先権主張番号】P 2023044173
(32)【優先日】2023-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】502285457
【氏名又は名称】学校法人順天堂
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】折茂 彰
(72)【発明者】
【氏名】山下 和成
(72)【発明者】
【氏名】王 子旭
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC41
4C086BC72
4C086CB05
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZC75
(57)【要約】
【課題】新たな癌関連線維芽細胞増殖抑制剤を提供すること。
【解決手段】ベルクリン類を有効成分とする癌関連線維芽細胞増殖抑制剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルクリン類を有効成分とする癌関連線維芽細胞増殖抑制剤。
【請求項2】
ベルクリン類が、ザルダベリン、アナグレリド、DNMDP、クアジノン、BAY2666605及びそれらの塩から選ばれる1種以上である請求項1記載の癌関連線維芽細胞増殖抑制剤。
【請求項3】
PDE3AとSLFN12を高発現しない癌細胞を含む癌組織の癌関連線維芽細胞増殖抑制剤である、請求項1記載の癌関連線維芽細胞増殖抑制剤。
【請求項4】
抗癌剤と併用することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項記載の癌関連線維芽細胞増殖抑制剤。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項記載の癌関連線維芽細胞増殖抑制剤を含有することを特徴とする抗癌剤。
【請求項6】
ベルクリン類を有効成分とする、PDE3AとSLFN12を高発現しない癌細胞を含む癌組織に対する抗癌剤。
【請求項7】
ベルクリン類が、ザルダベリン、アナグレリド、DNMDP、クアジノン、BAY2666605及びそれらの塩から選ばれる1種以上である請求項4記載の抗癌剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌関連線維芽細胞増殖抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
悪性腫瘍の中には癌細胞だけでなく非癌細胞も多く存在して、癌微小環境を形成していることが知られている。腫瘍中の線維芽細胞は、癌関連線維芽細胞(CAFs)と呼ばれている。CAFsは、細胞外マトリックスとサイトカインを分泌して、癌細胞の増殖、浸潤、転移、及び抗癌剤耐性を促進すると考えられている。かかる観点から、CAFsの増殖を抑制する新たな薬剤の開発が期待されている(非特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Cancer Associated Fibroblasts(CAFs)in Tumor Microenvironment,Front Biosci(Landmark Ed),2010 Jan 1;15:166-79,doi:10.2741/3613.
【非特許文献2】Turning foes to friends: targeting cancer-associated fibroblasts. Nature Reviews Drug Discovery volume 18,pages99-115(2019)
【非特許文献3】Kojima Y,et al.,Proc Natl AcadSci USA.2010;107(46):20009-14.
【非特許文献4】Yan B,et al.,Cell Chem Biol.2022;29(6):958-69 e5.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、新たなCAFs増殖抑制剤、及び当該CAFs増殖抑制剤含有する抗癌剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、我々が実験的に作成したCAFs(exp-CAFs)(非特許文献3)を用いて数多くの物質をスクリーニングしたところ、PDE3A/4A阻害剤として知られているザルダベリン(Zardaverine)が優れたCAFs増殖抑制作用を有することを見出した。そしてさらに検討したところ、ザルダベリンは、PDE3A/4A阻害作用によりCAFs増殖抑制作用を示しているのではなく、ベルクリン類(velcrins)としてPDE3A-SLFN12複合体形成を誘導することによりCAFs増殖抑制作用を示していること、及びPDE3A-SLFN12複合体形成を誘導するザルダベリン以外のベルクリン類(velcrins)もCAFs増殖抑制作用を有することを見出した。さらに、ベルクリン類は、PDE3AとSLFN12を高発現しない癌細胞を含む癌組織のCAFs増殖抑制剤として、さらにPDE3AとSLFN12を高発現しない癌細胞を含む癌組織に対する抗癌剤として有用であることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、次の発明[1]~[6]を提供するものである。
[1]ベルクリン類を有効成分とするCAFs増殖抑制剤。
[2]ベルクリン類が、ザルダベリン、アナグレリド、DNMDP、クアジノン、BAY2666605及びそれらの塩から選ばれる1種以上である[1]記載のCAFs増殖抑制剤。
[3]PDE3AとSLFN12を高発現しない癌細胞を含む癌組織のCAFs増殖抑制剤である、[1]又は[2]記載のCAFs増殖抑制剤。
[4]ベルクリン類を有効成分とする、PDE3AとSLFN12を高発現しない癌細胞を含む癌組織に対する抗癌剤。
[5]ベルクリン類が、ザルダベリン、アナグレリド、DNMDP、クアジノン、BAY2666605及びそれらの塩から選ばれる1種以上である[4]記載の抗癌剤。
[6][1]~[3]のいずれかに記載のCAFs増殖抑制剤と他の抗がん剤を組み合わせてなる抗癌剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明のCAFs増殖抑制剤は、特にPDE3AとSLFN12を高発現しない癌細胞を含む癌組織のCAFs増殖抑制剤として、PDE3AとSLFN12を高発現しない癌細胞を含む癌組織に対する抗癌剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】ザルダベリン(Zarudaverine)のexp-CAFsの増殖抑制作用を示す図である。
図2】ザルダベリン(Zard)のexp-CAFsの細胞周期に対する作用を示す図である。
図3】exp-CAFsにおける各種のPDE遺伝子の発現を示す図である。
図4】ベルクリン類ではないPDE3A阻害剤とPDE4A阻害剤のexp-CAFsの増殖に対する作用を示す図である。
図5】ベルクリン類ではないPDE3A阻害剤とPDE4A阻害剤の併用(Cilostamide+Roflumilast)のexp-CAFsの増殖に対する作用を示す図である。Roflumilast 100μMの高濃度処理ではその毒性の為に非特異的な細胞死が誘導されている。
図6】PDE3Aノックダウンのexp-CAFsの増殖に対する作用を示す図である。(左図)PDE3Aの遺伝子発現(右図)各細胞のcell viability(%)
図7】PDE3AとPDE4Aダブルノックダウンのexp-CAFsの増殖に対する作用を示す図である。(左図)PDE3Aの遺伝子発現(中央図)PDE4Aの遺伝子発現(右図)各細胞のcell viability(%)
図8】3種類の異なるベルクリン類であるDNMDP、アナグレリド(Anagrelide)、クアジノン(Quazinone)のCAFs増殖抑制作用を示す図である。
図9】ザルダベリン又はDNMDPによる増殖抑制が、PDE3A阻害剤であるトレキンシン(Trequinsin)を一緒に処理することでレスキューされたことを示す図である。
図10】細胞にsiNS(non-silencing siRNA)を導入して、ベルクリン類(ザルダベリン(Zard)、DNMDP、アナグレリド(Ana))で48hr処理すると、CAFsの増殖を特異的に抑制した。一方、siPDE3A(PDE3A―siRNA)の2番あるいは5番でノックダウンすると、ベルクリン類(ザルダベリン(Zard)、DNMDP、アナグレリド(Ana))で処理してもCAFの増殖があまり抑制されなかったことを示す図である。
図11】BAY2666605のexp-CAFsへの特異的な増殖抑制作用を示す図である。
図12】SLFN12に対する2種のsiRNA(siSLFN12-1, siSLFN12-3)によるノックダウン効果を示す図である。siRNAをcontrol fibroblastとexp-CAFにそれぞれ導入し、RT-qPCRによってSLFN12発現量を比較した。Control fibroblastの相対発現量を1とした。
図13】細胞にsiNS(non-silencing siRNA)を導入して、ベルクリン類(ザルダベリン(Zard)、DNMDP、BAY2666605)で48hr処理すると、CAFsの増殖を特異的に抑制した(上段左)。一方、siPDE3A(PDE3A―siRNA)の2番あるいは5番でノックダウンすると、ベルクリン類(ザルダベリン(Zard)、DNMDP、BAY2666605)で処理してもCAFの増殖があまり抑制されなかった(上段中央、上段右)。さらに、siSLFN12(SLFN12―siRNA)の1番あるいは3番でノックダウンすると、ベルクリン類(ザルダベリン(Zard)、DNMDP、BAY2666605)で処理してもCAFの増殖があまり抑制されなかった(下段中央、下段右)。
図14】NOGマウス(免疫不全マウス)にDCIS.com(乳癌細胞株)のみを移植、あるいは、DCIS.comとexp-CAFsを混合して共移植し、腫瘍形成後にBAY2666605の投与を行った。細胞移植の7日後から、腫瘍への薬剤の局所投与を行った。3日に一度、注射により薬剤を腫瘍内に直接投与した。細胞移植の22日後に腫瘍を摘出し、組織切片の免疫染色を行った(左図)。抗体はV9モノクローナル抗体を用いており、この抗体はヒトビメンチン蛋白質を特異的に認識し、マウスのビメンチンは認識しない。すなわち、移植したヒト細胞を認識する。ヒトビメンチン弱陽性の敷石状の形態をした癌細胞が占める領域を削除し(左下段)、その他のビメンチン強陽性部をexp-CAFsと認識して、その面積を定量した(右図)。BAY2666605の投与により、腫瘍内のexp-CAFsが減少したことが示唆された。
図15】腫瘍の長径と短径を定量することで腫瘍体積を概算した(左図)。DCIS.com単独移植に対してはBAY2666605の投与は腫瘍縮小効果を示さなかった。この結果から、BAY2666605は癌細胞に直接働くわけではないと考えられる。一方、DCIS.comとexp-CAFsの共移植群に対しては、BAY2666605の投与による腫瘍縮小効果が認められた。これらの結果から、ベルクリン類は、CAFの増殖抑制効果を介して腫瘍を縮小させることが示された(右図、摘出された腫瘍の写真)。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一態様は、ベルクリン類を有効成分とするCAFs増殖抑制剤である。
ベルクリン類(Velcrins)とは、PDE3A-SLFN12複合体形成を誘導することにより、癌細胞(PDE3AとSLFN12高発現)の細胞死を誘導する低分子化合物である(非特許文献4参照)。PDE3A阻害剤などのPDE3Aに結合する化合物の一部がベルクリン類に該当する。すなわち、ベルクリン類は、PDE3A-SLFN12複合体形成を誘導することでRNAase活性を持つSLFN12蛋白質を安定化させることにより、PDE3AとSLFN12を高発現する癌細胞のリボソーマルRNAを分解させ、その癌細胞を直接アポトーシスさせる化合物であり、CAFsに対する作用は全く知られていない。
ベルクリン類としては、ザルダベリン(Zardaverine)、アナグレリド(Anagrelide)、DNMDP((4R)-3-[4-(diethylamino)phenyl]-4-methyl-4,5-dihydro-1H-pyridazin-6-one)、クアジノン(Quazinone)、BAY2666605((S)-5-[4’-Fluoro-2-(trifluoromethyl)-4-biphenylyl]-6-methyl-3,6-dihydro-2H-1,3,4-oxadiazin-2-one)及びそれらの塩などが挙げられる。このうち、ザルダベリン、アナグレリド、DNMDP、クアジノン、BAY2666605及びそれらの塩から選ばれる1種以上がより好ましく、ザルダベリン、アナグレリド、DNMDP、BAY2666605及びそれらの塩から選ばれる1種以上がさらに好ましい。
【0010】
ザルダベリンは、下記の化学式を有する化合物であり、PDE3A/4A阻害作用を有することが知られている。PDE3A/4A阻害剤により、cAMPの分解が抑制されてcAMPの量が増加し、下流のプロテインキナーゼAが活性化され、気管支拡張作用やインビトロで癌細胞増殖抑制作用を有することが知られているが、CAFsに対する作用は全く知られていない。
【0011】
【化1】
【0012】
アナグレリドは、下記の化学式を有する化合物であり、PDE3阻害剤であり、血小板血症治療剤として用いられているが、CAFsに対する作用は全く知られていない。
【0013】
【化2】
【0014】
DNMDPは、化学名(4R)-3-[4-(diethylamino)phenyl]-4-methyl-4,5-dihydro-1H-pyridazin-6-oneであり、次の化学式で表される。DNMDPは、PDE3A阻害剤であることは知られているが、CAFsに対する作用は全く知られていない。
【0015】
【化3】
【0016】
クアジノンは、下記の化学式で表される化合物であり、PDE3阻害剤であり、強心剤、血管拡張剤であるが、CAFsに対する作用は全く知られていない。
【0017】
【化4】
【0018】
BAY2666605は(化学名(S)-5-[4’-Fluoro-2-(trifluoromethyl)-4-biphenylyl]-6-methyl-3,6-dihydro-2H-1,3,4-oxadiazin-2-one)は、下記の化学式を有する化合物であり、PDE3A/4A阻害作用を有することが知られている。PDE3A/4A阻害剤により、癌細胞増殖抑制作用を有することが知られているが、CAFsに対する作用は全く知られていない。
【0019】
【化5】
【0020】
前記ベルクリン類の塩としては、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩などの無機酸塩、酢酸塩、乳酸塩などの有機酸塩が挙げられる。また、ベルクリン類には、それらの化合物の水和物、それらの塩の水和物などが含まれる。
【0021】
ベルクリン類は、いずれも既知の化合物であり、既知の方法により製造することができる。また市販品を購入することもできる。
【0022】
後述の実施例に示すように、本発明者は、ザルダベリンが、実験的に作成したCAFs(exp-CAFs)を用いたスクリーニング系により、CAFsの増殖を特異的に抑制することを見出した。一方、ザルダベリン以外のベルクリン類ではない種々のPDE3A/4A阻害剤、PDE3A阻害剤、PDE4A阻害剤、PDE3A阻害剤とPDE4A阻害剤の併用は、いずれもCAFs増殖を特異的に抑制しなかった。
従って、ザルダベリンのCAFs増殖抑制作用は、PDE3A/4A阻害によるものではなかった。
そこで、PDE3A-SLFN12複合体形成を誘導することにより、癌細胞(PDE3AとSLFN12高発現)の細胞死を誘導する低分子化合物であるベルクリン類に着目し、それらのCAFs増殖抑制作用を検討したところ、ザルダベリン以外のベルクリン類(アナグレリド、DNMDP、クアジノン、BAY2666605)もCAFs増殖抑制作用を有することを見出した。
従って、ベルクリン類は、CAFs増殖抑制剤として有用である。
【0023】
ベルクリン類によるCAFsの増殖抑制は、PDE3A阻害剤を一緒に阻害することにより、またPDE3A遺伝子又はSLFN12遺伝子をノックダウンすることによりレスキューされた。従って、ベルクリン類は、癌細胞の有無にかかわらず、CAFsの増殖を特異的に抑制するから、PDE3AとSLFN12を高発現しない癌細胞を含む癌組織のCAFs増殖抑制剤として有用である。また、ベルクリン類は、PDE3AとSLFN12を高発現しない癌細胞を含む癌組織に対する抗癌剤として有用である。
【0024】
本発明のCAFs増殖抑制剤及び抗癌剤の適応対象となる悪性腫瘍の例としては、頚部癌、食道癌、胃癌、結腸癌、直腸癌、肝臓癌、胆嚢・胆管癌、膵臓癌、肺癌、乳癌、卵巣癌、子宮頚癌、子宮体癌、腎癌、膀胱癌、前立腺癌、精巣腫瘍、骨・軟部肉腫、白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、皮膚癌、脳腫瘍等が挙げられる。好ましくは、CAFsを癌組織内に有する悪性腫瘍が好ましく、特にCAFsが豊富な悪性腫瘍が好ましい。具体的には、乳癌、膵癌、肝癌、肺癌、大腸癌、前立腺癌、皮膚癌、胃癌、食道癌、卵巣癌が好ましく、乳癌、膵癌がより好ましく、乳癌がさらに好ましい。また、PDE3AとSLFN12を高発現しない癌細胞を含む癌組織であっても、癌組織内にCAFsを含むかぎり、適応対象となる。
【0025】
本発明のCAFs増殖抑制剤及び抗癌剤は、ベルクリン類単独でもよいが、必要に応じて薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物の形態とするのが好ましい。該形態としては、例えば、経口剤、注射剤、坐剤、軟膏剤、貼付剤等が挙げられる。これらの投与形態は、各々当業者に公知慣用の製剤方法により製造できる。
【0026】
薬学的に許容される担体としては、製剤素材として慣用の各種有機或いは無機担体物質が用いられ、固形製剤における賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤;液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤等として配合される。また、必要に応じて防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤、安定化剤等の製剤添加物を用いることもできる。
【0027】
経口用固形製剤を調製する場合は、前記有効成分に賦形剤、必要に応じて、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味・矯臭剤等を加えた後、常法により錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等を製造することができる。
【0028】
賦形剤としては、乳糖、白糖、D-マンニトール、ブドウ糖、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、微結晶セルロース、無水ケイ酸等が挙げられる。
結合剤としては、水、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、α-デンプン液、ゼラチン液、D-マンニトール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
崩壊剤としては、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖等が挙げられる。
滑沢剤としては、精製タルク、ステアリン酸塩ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、ホウ砂、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
着色剤としては、酸化チタン、酸化鉄等が挙げられる。
矯味・矯臭剤としては白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸等が挙げられる。
【0029】
経口用液体製剤を調製する場合は、前記有効成分に矯味剤、緩衝剤、安定化剤、矯臭剤等を加えて常法により内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等を製造することができる。この場合矯味・矯臭剤としては、前記に挙げられたものでよく、緩衝剤としては、クエン酸ナトリウム等が、安定剤としては、トラガント、アラビアゴム、ゼラチン等が挙げられる。必要により、腸溶性コーティング又は、効果の持続を目的として、経口製剤に公知の方法により、コーティングを施すこともできる。このようなコーティング剤にはヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリオキシエチレングリコール、Tween80(登録商標)等が挙げられる。
【0030】
注射剤を調製する場合は、前記有効成分にpH調節剤、緩衝剤、安定化剤、等張化剤、局所麻酔剤等を添加し、常法により皮下、筋肉内及び静脈内用注射剤を製造することができる。この場合のpH調節剤及び緩衝剤としては、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウム等が挙げられる。安定化剤としては、ピロ亜硫酸ナトリウム、EDTA、チオグリコール酸、チオ乳酸等が挙げられる。局所麻酔剤としては、塩酸プロカイン、塩酸リドカイン等が挙げられる。等張化剤としては、塩化ナトリウム、ブドウ糖、D-マンニトール、グリセリン等が挙げられる。
【0031】
前記の各投与単位形態中に配合されるべき前記有効成分の量は、これを適用すべき患者の症状により、或いはその剤形等により一定ではないが、一般に投与単位形態あたり、経口剤では約0.05~1000mg、注射剤では約0.01~500mg程度である。
また、前記投与形態を有する薬剤の1日あたりの投与量は、患者の症状、体重、年齢、性別等によって異なり一概には決定できないが、通常成人(体重60kg)1日あたり約0.05~5000mg程度であり、0.1~1000mgが好ましく、これを1日1回又は2~3回程度に分けて投与するのが好ましい。
【0032】
本発明のCAFs増殖抑制剤は、他の抗癌剤と併用して抗癌剤として使用することもできる。すなわち本発明の別の一態様は、前記CAFs増殖抑制剤と他の抗がん剤を組み合わせてなる抗癌剤である。
組み合わせことができる他の抗癌剤としては特に限定はなく、アルキル化剤、白金化合物、代謝拮抗剤、トポイソメラーゼ阻害剤、微小管阻害剤、抗生物質などのいずれでもよく、免疫療法剤でもよい。アルキル化剤としては、シクロフォスファミド、メルファラン、チオテパ、ニムスチン、ラニムスチン、ストレプトゾトシンなど、白金化合物としては、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、ネダプラチンなど、代謝拮抗剤では、5-FU、チオグアニン、シタラビン、ゲムシタビンなど、トポイソメラーゼ阻害剤としては、イリノテカン、ドキソルビシン、エトポシド、レボフロキサシンなど、微小管阻害剤としては、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、パクリタキセル、ドセタキセルなど、抗生物質としては、マイトマイシン―C、ドキソルビシン、エピルビシン、ダウノマイシン、ブレオマイシンなどがある。
他の抗癌剤との併用においては、CAFs増殖抑制剤は、抗癌剤と同時に投与されてもよく、抗癌剤投与の前又は後に投与されてもよく、前後両方に投与されてもよい。この場合、必ずしも同じ投与経路である必要はなく、それぞれの製剤に適した投与方法で投与すればよい。また、CAFs増殖抑制剤と他の抗癌剤を同一製剤に含む配合剤としてもよい。
【実施例0033】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に何ら限定されるものではない。
【0034】
(方法)
1.exp-CAFsの作成及びexp-CAFsを用いた薬剤スクリーニング方法
本発明者は、まず、ヒト乳腺由来不死化線維芽細胞とヒト乳癌細胞を免疫不全マウスに共移植して腫瘍を形成させ、さらに、この腫瘍よりCAFsに変化した線維芽細胞を単離培養することで、exp-CAFsを樹立した。また、ヒト乳腺由来不死化線維芽細胞を単独で免疫不全マウスへ移植し、その組織より単離培養した線維芽細胞をcontrol
fibroblastとして樹立した(非特許文献3)。これら細胞に、3515種の既存薬又は生理活性が明らかな化合物で構成される化合物ライブラリを作用させ、WST-8 assay(同仁化学)により細胞増殖を評価した。Control Fibroblastの増殖をほとんど妨げず、exp-CAFsの増殖を抑制する化合物をヒット化合物とした。
【0035】
2.exp-CAFsにおけるPDE3A/4A遺伝子の発現の検出
各種細胞よりNucleoSpinRNA(MACHEREY-NAGEL社)を用いてtotal RNAを抽出し、これをPrimeScript Reverse Transcriptase(Takara社)を用いて逆転写し、THUNDERBIRD
Next SYBR qPCR Mix(東洋紡)とQuantStudio 3(Thermo Fisher)を用いてPCRと定量を行った。使用したプライマーは以下の配列である。
PDE3A:5‘-CCACGGCCTCATTACCGAC-3’&5‘-TTGCTCACGGCTCTCAAGG-3’(配列番号1及び2)、
PDE4A:5‘-ACACACCTGTCAGAAATGAGC-3&5’-GGGTGATGGGATCTCCACTTC-3’(配列番号3及び4)、
GAPDH:5‘-ACCCAGAAGACTGTGGATGG-3’&5‘-TCTAGACGGCAGGTCAGGTC-3’(配列番号5及び6)
【0036】
3.薬剤処理が細胞周期に与える影響の解析
Confluentに到達しない数量の各種細胞を培養皿に播種し、24時間培養した。処理群にはZardaverineを終濃度10μMで添加し、非処理群のvehicle control細胞には同量のDMSOを添加し、さらに72時間培養した。トリプシン処理で単離、細胞を2mlの染色液(50μg/mL propidium iodide,0.1%クエン酸ナトリウム,0.3%NP-40,0.058%NaCl,1U/mL RNase)で一回洗浄し、2mlの新しい染色液に交換して4℃遮光下で10分間処理し、35μmナイロンメッシュを通過させてからFlow Cytometer(FACS Celesta;Becton Dickinson)で解析した。細胞周期の解析にはModfit LT 6.0を使用した。
【0037】
4.siRNAによるPDE3A、PDE4Aのノックダウン
各種細胞の播種より12時間後にLipofectamine RNAiMAXを用いてトランスフェクションを行った。siRNAは終濃度40nMで用いた。non-silencing siRNA(UUCUCCGAACGUGUCACGU:配列番号7)、siPDE3A-2(AAAAACGUAUAAUGUGACA:配列番号8)、siPDE3A-5(GGAUAUGUAUUCUCAAAAA:配列番号9)
【0038】
(結果)
1.exp-CAFsを用いた薬剤スクリーニングの結果
exp-CAFsを用いて数多くの薬剤をスクリーニングした結果、図1に示すように、ザルダベリンが、強いCAFs増殖抑制作用を有することが判明した(IC50は、2.82±0.83μM)。
FACSを利用して、薬剤で処理された細胞の細胞周期を解析した。10μMのザルダベリンで72hr処理しても、コントロール線維芽細胞(con.fibro)の細胞周期はあまり変わらなかった。一方のexp-CAFsでは、S,G2/Mが減少して、G1/G0が増加することがわかった。また、sub G1/G0がないので、ザルダベリンが細胞死の誘導ではなく、細胞の増殖を抑制することがわかった(図2)。
また、exp-CAFsにおけるPDE3A/4A遺伝子の発現を調査したところ、図3に示すように、exp-CAFsはPDE3AとPDE4Aを高発現していた。(exp-CAFsはPDE5Aも高発現していた。)
【0039】
2.ザルダベリン以外のPDE3A/4A阻害剤によるCAFs増殖抑制作用
ザルダベリン以外のPDE3A阻害剤(シロスタミド(Cilostamide)、トレキンシン(Trequinsin);PDE4A阻害剤(ロフルミラスト(Roflumilast));PDE3A阻害剤とPDE4A阻害剤の併用(シロスタミド+ロフルミラスト)のいずれによっても、CAFs増殖抑制作用を示さなかった(シロスタミド、トレキンシン、ロフルミラストの結果を図4に示す)(シロスタミド+ロフルミラスト併用の結果を図5に示す)。なお、これら化合物はPDE3Aと4Aの阻害剤として働くが、ベルクリン類ではない。
また、siRNAによるPDE3A、PDE4AのノックダウンによるCAFsの増殖変化を検討したところ、PDE3AあるいはPDE4Aのノックダウン(図6)やPDE3AとPDE4Aのダブルノックダウン(図7)は、CAFsの増殖をほとんど阻害しなかった。
【0040】
3.前記の結果から、ザルダベリンのCAFs増殖抑制作用は、PDE3A/4Aの阻害によるものではないことが判明した。そこで、ザルダベリンのCAFs増殖抑制作用のメカニズムを解明するために、ザルダベリンがベルクリンとしての活性を持つことに着目し、ザルダベリン以外のベルクリン類のCAFs増殖抑制作用を検討した。
ザルダベリン以外のベルクリン類のDNMDP、アナグレリド、クアジノンのCAFs増殖抑制作用を図8に示す。いずれもCAFs増殖抑制作用を示した。DNMDPのIC50は、118nMであった。
【0041】
4.ベルクリン類は、PDE3A-SLFN12複合体形成を誘導することにより、癌細胞(PDE3AとSLFN12高発現)の細胞死を誘導する低分子化合物である。ベルクリン類と非ベルクリンのPDE3A阻害剤の両者はPDE3Aに対する結合部位が同じなので、互いに競合阻害する関係にある。すなわち、もしザルダベリンとDNMDPなどが本当にベルクリン類として細胞増殖を抑制しているなら、非ベルクリンのPDE3A阻害剤でレスキューできると考えられる。そこで、ザルダベリンとPDE3A阻害剤であるトレキンシン(trequinsin)を一緒に処理したところ、ザルダベリン処理による増殖抑制をレスキューした(図9左)。また、DNMDPでも同様で、DNMDP処理による増殖抑制はトレキンシンの同時処理でレスキューされた。(図9右)。
次にsiPDE3Aのレスキュー実験を行った。細胞にsiNSを導入して、ベルクリン類(ザルダベリン、DNMDP、アナグレリド)で48hr処理すると、前記と同じようにCAFsの増殖を特異的に抑制した(図10)。一方、siPDE3A(2種類の異なるsiRNA配列をもつ2番あるいは5番)でノックダウンすると、ベルクリン類で処理してもCAFの増殖があまり抑制されなかった(図10)。
従って、ザルダベリン、DNMDP、アナグレリドなどは、ベルクリン類としてPDE3A存在下で働いてCAFsの増殖を抑制していることが明らかになった。
【0042】
5.BAY2666605を用いて、exp-CAFsに対する増殖抑制作用を検討した。その結果、図11に示すように、BAY2666605も強いCAFsに対する増殖抑制作用を示した。
【0043】
6.siRNAをcontrol fibroblastとexp-CAFsにそれぞれ導入し、RT-qPCRによってSLFN12発現量を比較した。Control fibroblastの相対発現量を1とした。その結果、図12に示すように、SLFN12に対する2種のsiRNA(siSLFN12-1, siSLFN12-3)によるノックダウンにより、SLFN12の遺伝子発現は抑制された。
【0044】
7.細胞にsiNS(non-silencing siRNA)を導入して、ベルクリン類(ザルダベリン(Zard)、DNMDP、BAY2666605)で48hr処理すると、CAFsの増殖を特異的に抑制した(図13、上段左)。一方、siPDE3A(PDE3A―siRNA)の2番あるいは5番でノックダウンすると、ベルクリン類(ザルダベリン(Zard)、DNMDP、BAY2666605)で処理してもCAFの増殖があまり抑制されなかった(図13、上段中央、上段右)。
さらに、siSLFN12(SLFN12―siRNA)の1番あるいは3番でノックダウンすると、ベルクリン類(ザルダベリン(Zard)、DNMDP、BAY2666605)で処理してもCAFの増殖があまり抑制されなかった(図13、下段中央、下段右)。
以上より、これら薬剤はPDE3A阻害剤としてではなく、ベルクリン類としての機能によってCAFの増殖を阻害していることが支持される。
【0045】
8.NOGマウス(免疫不全マウス)にDCIS.com(乳癌細胞株)のみを移植、あるいは、DCIS.comとexp-CAFsを混合して共移植し、腫瘍形成後にBAY2666605の投与を行った。細胞移植の7日後から、腫瘍への薬剤の局所投与を行った。3日に一度、注射により薬剤を腫瘍内に直接投与した。
細胞移植の22日後に腫瘍を摘出し、組織切片の免疫染色を行った結果を、図14、左図に示す。抗体はV9モノクローナル抗体を用いており、この抗体はヒトビメンチン蛋白質を特異的に認識し、マウスのビメンチンは認識しない。すなわち、移植したヒト細胞を認識する。ヒトビメンチン弱陽性の敷石状の形態をした癌細胞が占める領域を削除し(図14、左下段)、その他のビメンチン強陽性部をexp-CAFsと認識して、その面積を定量した(図14、右図)。BAY2666605の投与により、腫瘍内のexp-CAFsが減少したことが示唆された。
【0046】
9.腫瘍の長径と短径を定量することで腫瘍体積を概算した(図15、左図)。DCIS.com単独移植に対してはBAY2666605の投与は腫瘍縮小効果を示さなかった。この結果から、BAY2666605は癌細胞に直接働くわけではないと考えられる。一方、DCIS.comとexp-CAFsの共移植群に対しては、BAY2666605の投与による腫瘍縮小効果が認められた。これら結果から、ベルクリン類は、CAFの増殖抑制効果を介して腫瘍を縮小させることが示された。
図1
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図10
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【配列表】
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