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特開2024-134550潜熱赤外線反射による凍結及び解凍法とその器具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134550
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】潜熱赤外線反射による凍結及び解凍法とその器具
(51)【国際特許分類】
   A23L 3/36 20060101AFI20240926BHJP
   A23L 3/365 20060101ALI20240926BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20240926BHJP
   F25D 23/12 20060101ALI20240926BHJP
   B65D 30/08 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
A23L3/36 A
A23L3/36 Z
A23L3/365 Z
A23L5/00 G
F25D23/12 Q
B65D30/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024044228
(22)【出願日】2024-03-19
(31)【優先権主張番号】P 2023044753
(32)【優先日】2023-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023044754
(32)【優先日】2023-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】519149456
【氏名又は名称】株式会社ZERO FOOD
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】木野 正人
(72)【発明者】
【氏名】宮谷 茂
【テーマコード(参考)】
3E064
4B022
4B035
【Fターム(参考)】
3E064BA17
3E064BA26
3E064BB04
3E064EA18
3E064HM01
3E064HN70
4B022LA06
4B022LB02
4B022LJ06
4B022LP01
4B022LQ09
4B022LT02
4B022LT10
4B022LT11
4B035LC11
4B035LC16
4B035LE11
4B035LG24
4B035LG25
4B035LG42
4B035LG57
4B035LP43
4B035LT16
(57)【要約】
【課題】緩慢冷凍では、過冷却冷凍は冷凍の質が良いが、100%の確率で過冷却にすることは難しい。必ず良い冷凍品質になる冷凍法及び解凍法が求められていた。
【解決手段】
食品をアルミ箔の外袋とPE製の内袋からなる二重袋に入れ、緩慢冷凍することで、凍結時の潜熱放出時の潜熱赤外線を食品表面に反射させて戻すことで潜熱放出時間が延長され、氷晶核が過剰に生成されて、凍結開始から凍結完了までの時間が短縮されることで氷晶サイズ拡大が抑制されて質の良い冷凍ができ、解凍時には潜熱赤外線を透過させる内袋を外袋から取り出して解凍することで外部の赤外線により質の良い解凍ができる。
【選択図】図16
【特許請求の範囲】
【請求項1】
含水有機物の凍結方法であって、
前記含水有機物の凍結工程において、
前記氷点温度における前記含水有機物に含まれる水分の潜熱放出時において前記含水有機物から放射される赤外線を、反射材により前記含水有機物の表層に反射させる工程を含むことを特徴とする凍結方法。
【請求項2】
前記反射材が、アルミニウム、銅、銀または金であることを特徴とする請求項1に記載の凍結方法。
【請求項3】
前記凍結工程の前に前記含水有機物を庫内平均気温0~1℃の状態で前記含水有機物の芯温が0~1℃になるように予冷する処理工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の凍結方法。
【請求項4】
内部の少なくとも一部において前記反射材として金属箔を備える冷凍用袋において前記含水有機物を凍結する請求項1に記載の凍結方法。
【請求項5】
壁面、天面、及び、床面で区画された貯蔵空間を有し、
前記貯蔵空間の内部に配置された棚で含水有機物を冷凍する冷凍庫であって、
前記貯蔵空間の内側における前記壁面、天面、床面、及び、棚の表及び裏面の少なくとも一部に、前記凍結工程における前記含水有機物に含まれる水分の潜熱放出時において前記含水有機物から放射される赤外線を前記含水有機物の表層に反射させる反射材と、
外気侵入による前記反射材表面への着霜を防止する着霜防止装置と、を備えたことを特徴とする冷凍庫。
【請求項6】
前記棚は表及び裏面に前記反射材を備えており、前記貯蔵空間に送風装置を備えることを特徴とする請求項5に記載の冷凍庫。
【請求項7】
前記送風装置の送風方向に対して前記反射材が傾斜するように配置された前記棚を備えることを特徴とする請求項6に記載の冷凍庫。
【請求項8】
前記貯蔵空間の底面において、
前記含水有機物を設置する設置台を備え、
前記設置台が前記含水有機物周囲に庫内の空気が通過できるように設けられた間隙を有することを特徴とする請求項5に記載の冷凍庫。
【請求項9】
含水有機物の解凍方法であって、
前記含水有機物の解凍工程において、
0~8℃の温度条件のもと長波長赤外線を前記含水有機物の表層に照射する工程を含むことを特徴とする解凍方法。
【請求項10】
前記照射工程において、放射体の表面温度を電気ヒータ、ハロゲンヒータの加熱のオンオフ、又は、電圧制御でアルマイト加工した金属板、または、セラミック板、またはゴムの照射側表面温度を20~50℃に制御した照射装置が長波長赤外線を前記含水有機物の表層に照射することを特徴とする請求項9に記載の解凍方法。
【請求項11】
前記解凍工程の前処理工程として、
前記含水有機物の切断面にオブラートを付着させる工程を含むことを特徴とする請求項9に記載の解凍方法。
【請求項12】
前記照射工程において、前記照射装置が長波長赤外線を前記含水有機物の表層に照射する工程に加えて前記照射装置が照射した長赤外線を反射材が前記含水有機物の表層に反射する工程を含むことを特徴とする請求項10に記載の解凍方法。
【請求項13】
壁面、天面、及び、床面で区画された貯蔵空間を有し、
含水有機物を前記貯蔵空間の内部で解凍する解凍庫であって、
前記貯蔵空間の内側における前記壁面、天面、及び、床面の少なくとも一部に、長波長赤外線を前記含水有機物の表層に反射させる反射材を備えることを特徴とする解凍庫。
【請求項14】
前記貯蔵空間の内部において、
長波長赤外線を照射する赤外線照射装置を備えていることを特徴とする請求項10に記載の解凍庫。
【請求項15】
前記赤外線照射装置が、外部空間から気温20℃以上の室内から放射される長波長赤外線を前記解凍庫内に供給する窓を有することを特徴とする請求項13に記載の解凍庫。
【請求項16】
前記赤外線照射装置が、アルマイト加工した金属板で形成された反射面を有する前記反射材に、前記赤外線照射装置による長波長赤外線を照射することを特徴とする請求項13に記載の解凍庫。
【請求項17】
含水有機物を貯蔵空間の内部で保存する内袋と外袋の二重構造の凍結及び解凍用保存用袋であって、前記内袋は水蒸気を透過させずに潜熱赤外線を透過させるフィルムからなり、前記外袋内面には潜熱赤外線反射材が設けられていることを特徴とする保存袋。
【請求項18】
前記保存袋の外面に凸部を設けたことを特徴とする請求項17に記載の保存袋。
【請求項19】
前記保存袋の内部空間から水蒸気を除去する水蒸気除去剤を備えることを特徴とする請求項17に記載の保存袋。
【請求項20】
ファスナーを有する開口部に、
前記保存袋に前記袋体の内部から外部への空気の流出を可能にしながら、前記保存袋の内部空間への空気の流入を防止する逆流防止機能具を備えることを特徴とする請求項19に記載の保存袋。
【請求項21】
含水有機物の保存方法であって、
請求項17に記載の保存袋を用いて、外袋内面に潜熱赤外線を反射させながら前記含水有機物を冷凍する冷凍工程と、
冷凍された当該含水有機物を袋から取り出だして解凍する工程と、
を含むことを特徴とする保存方法。
【請求項22】
前記保存袋の内部の水蒸気含有空気を不活性気体に置換する工程を含むことを特徴とする請求項21に記載の保存方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結時の含水物の潜熱放射を反射させて表面に戻して凍結する技術及び解凍時に低温で潜熱放射と同じ波長帯の赤外線を照射して解凍する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、常温付近の熱の移動では流体の対流及び接触による熱伝導での熱の移動が主であり、放射による熱の移動の割合は少なく、しかも放射エネルギーは黒体の場合、放射物表面温度の4乗に比例するため、放射物表面温度が数百℃以上にならないとあまり意味が無いと考えられていた。まして低温の水及び食品の氷点付近では赤外線放射はほとんど放熱及び吸熱に影響を与えることは無いと思われていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-039703号公報
【特許文献2】特許公報第4303996号
【特許文献3】特開2003-343964号公報
【特許文献4】特許第2863302号公報
【特許文献5】特開平03-175252号公報
【特許文献6】特開平03-032995号公報
【特許文献7】特開2018-157803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エネルギーコスト及び作業員の作業環境の関係から冷凍庫の庫内温度は-20℃前後の温度帯が一般的であり、食品の厚みが厚い場合は緩慢冷凍となる。食品、特に生鮮食品に於いては含水率が高いため、緩慢冷凍に於いて、従来の定説では、食品温度が食品の氷点温度から-5℃の最大氷結晶生成温度帯に長く留まると、徐々に氷晶核が結合して氷晶サイズが巨大化してゆき細胞膜を破壊して冷凍の質を悪化させると考えられていた。また、解凍では、細胞保存技術の分野では解凍速度が速い方が解凍品質が良いことが知られていた。
【0005】
詳細は後述するが、発明者が冷凍の質を定量化する方法を発見し、比較したところ、同じ環境温度中(以下「庫内温度」)で、同じ風速及び接触物の熱伝導率と接触面積が同じで、同じ形状、同じ重量で同質の食品では、例えば潜熱放射赤外線を反射させて被凍結物に戻す等の方法を用いることで潜熱放出開始から凍結完了までの時間(以下「凍結必要時間」)が長い方が逆に解凍後のドリップ量が減少することを発見した。従来の定説では、庫内温度を氷点温度から-5℃の最大氷結晶生成温度帯に設定して食品を凍結させた場合に、解凍後のドリップ量が多くなることからこの仮説が定説となったと思われる。しかし、一般的な食品の冷凍に於いては庫内温度を-18℃以下にして凍結させるため、スノコを敷くなどして庫内空気だけで食品を冷却する場合、逆に凍結必要時間を延長する前記の様な方法を用いる場合、潜熱放出時間が延長されて食品中により多くの氷晶核が形成されて、潜熱放出終了後の氷晶核同士が結合を開始する凍結開始から凍結完了までの時間(以下「凝固時間」)が短縮されて凍結の質が向上するのではないかと考えられる。そこで、冷凍に於いて食品の凝固時間を短縮し、潜熱放出時間を延長する手段が求められる。
【0006】
一方、肉及び魚等の細胞組織からなる食品の解凍では、凍結時の水から氷結晶への体積膨張により損傷した細胞膜及び細胞間接着蛋白の一部が解凍時に損傷が回復する過程と、組織は浸透圧の異なる部位で構成されているが、外側の一旦解凍された低浸透圧部位が、熱が内側に伝達されるにつれて内側の高浸透圧部位が解凍する際に外側の低浸透圧部位から潜熱を奪って低浸透圧部位が再凍結する。これを繰り返すことで氷結晶が成長して細胞に損傷を与える。この現象は、含水率が比較的高く、浸透圧がより高い部位からなる食品で、より緩慢に解凍した場合に顕著になる。また、切り身などの組織を切断した食品の解凍に於いては、一旦解凍して食品外に流出したドリップは元にも戻すことはできないため、細胞膜及び細胞間接着蛋白の回復によるドリップの再吸収には寄与できない。
【0007】
金属薄膜と樹脂フィルムのラミネート及び金属蒸着フィルムを用いた食品袋は、ガス透過性が低いため、湿気防止及び臭い移り防止及び酸化防止のために用いられている。この目的でパンの冷凍用袋としてアルミ箔と樹脂フィルムとのラミネートの袋が使用されている。例えば、臭い移り防止では周囲の臭いが移らないようにするためのパン凍結用袋、封入した食品の臭いが外部に漏れないようにするための生のカット根菜及び豆用冷凍食品袋及び、臭い漏れと酸化を防止するための炒め物用及び餃子等の加工食品用の冷凍食品用袋がある。しかしこれらは、食品の解凍後のドリップ低減及び食感の改善の目的には用いられてはいない。
【0008】
更に、特許文献1及び3では、物体に近赤外線を照射して凍結する方法が開示されている。更に特許文献2には、凍結対象物へ磁場発生装置による磁場印加中で遠赤外線照射を行う技術が開示されている。しかし、特許文献1及び3では、近赤外線を用いている。近赤外線発生手段は、表面温度が400℃以上になる電気ヒータを用いることが一般的であるが、この様な高温の放射体では放射エネルギーが波長に反比例し、表面の絶対温度の4乗に比例するためエネルギーが大きすぎて潜熱放出時間を延長するための制御が非常に困難になる。更に近赤外線は多くの物質に高率で吸収されるため周囲の物質にも吸収されて凍結庫内の温度が上昇して凝固速度を遅延させて冷凍の質を返って損なう可能性がある。
【0009】
また、特許文献2では、遠赤外線照射手段としてセラミックをトンネルフリーザ内に設けることが記載されているがトンネルフリーザ内の温度は通常-80℃以下であるため190K付近の黒体放射のピーク波長は約15μm、水の潜熱放出赤外線のピーク波長10μm付近の分光放射輝度は凡そ0.03μW/cm2/sr/μmで、0℃での薄層の水の潜熱放出赤外線のピーク波長10.5μmの分光放射輝度の約4分の1であり強度が弱い。更に特許文献3では同じくトンネルフリーザ内に赤外線照射手段を設けているが、トンネルフリーザは室内の絶対湿度の高い空気が庫内に入り込むため、トンネル内に霧氷が発生して長波長赤外線を吸収してしまうので効果はほとんど望めない。
【0010】
更に、特許文献4では、冷蔵庫内に設けた解凍ボックスが開示され、解凍ボックスは熱伝導の良い金属製の内箱からなり、物体に電気ヒータの赤外線を照射して凍結する方法が開示されている。また、特許文献5には、冷凍庫と冷蔵庫の中間温度帯の庫内で解凍する技術が開示されている。特許文献4及び5に記載されているように、被解凍物に電気ヒータの放射する赤外線を照射したり、特許文献6にあるように庫内温度のセラミックを用いて遠赤外線を照射させたり、その赤外線を反射させるための反射板が設けたりすることは解凍手段では常識である。
【0011】
しかし、表面温度が高温になる電気ヒータからの放射では、主に短波長赤外線が放射される。高温放射体からの短波長赤外線は被解凍物の食品温度を急激に上昇させるため短時間で解凍はできるが、肉及び魚の切り身等では解凍中に食品外にドリップが多量に流出して細胞膜の損傷回復の効果を十分に享受できない。更に、特許文献7では、シロキクラゲ多糖体を飲料及び加工費食品に混入させることで解凍後の離水抑制効果を得ることが可能となる技術の開示がある。しかし、この技術では肉及び魚の切り身に応用することは困難である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記手段を解決するために、含水有機物の凍結方法であって、前記含水有機物の凍結工程において、前記氷点温度における前記含水有機物に含まれる水分の潜熱放出時において前記含水有機物から放射される赤外線を、反射材により前記含水有機物の表層に反射させる工程を含むことを特徴とする凍結方法に関する。
【0013】
含水有機物からなる食品が氷点温度まで冷却されると潜熱放出を開始する。純水の場合、潜熱放出により0℃という水の氷点で水温が留まることで周囲の水と表面に接する冷却空気に、熱伝導と対流と放射という三つの手段で潜熱を伝える。緩慢冷凍の場合、溶質がある場合にはモル濃度に応じて氷点が降下し、潜熱放出時の氷晶核形成では純水のみが氷晶となり、溶質は周囲の液体中に押し出されて周囲の液体の溶質濃度を上昇させる。そのため冷却曲線の潜熱放出では横に水平ではなく、濃度と冷却速度に応じた角度で右肩下がりの直線となるが潜熱放出のメカニズムは純水と同様である。従来、放射エネルギーは物体の表面の絶対温度の4乗に比例するため、実質的には低温域では熱伝達の手段としては無視できると考えられていた。
【0014】
しかし、常温の20℃では293K、0℃では273Kで約1.07倍であり、これを4乗してもエネルギーは1.3倍に過ぎない。即ち、0℃付近でも放射強度及び放射エネルギーは常温とそれ程大きく変わらず熱伝達手段として無視することはできない。また、赤外線の吸収と放射も、他の熱伝達手段と同様に庫内温度(以下「Te」)と被冷却物表面温度(以下「Ts」)の差によって、Te>Tsでは吸収が優位となって吸収し、Te=Tsは放射と吸収が釣り合った状態、Te<Tsでは放射が優位になって放射する。
【0015】
凍結過程における放射の役割は被凍結物の温度の高さと共に環境との温度差の大きさが重要である。潜熱放出時には必ずTe>Ts条件となっており、被凍結物中の水は潜熱を放出して氷晶核を形成し、周囲に潜熱赤外線を放射している。一方、食品内部では、氷晶核の0℃での吸収ピーク波長と水の放射ピーク波長がほぼ同じであり、周囲からの潜熱赤外線を吸収して氷晶核が溶解する。被凍結物表層で形成された氷晶核が内部に供給され、その潜熱放射の吸収によって氷晶核が溶解するというサイクルを繰り返す。Te<Tsの条件である限り表面から内部へと氷晶核が増加してゆく、内部の潜熱は表層に運ばれて表層から接触熱伝導、対流及び放射によって放熱される。氷晶核が飽和量だけ蓄積すると氷晶核同士が局所的に結合して、それまで液体であった水が潜熱放出を終了して凍結を開始し、凍結開始部位から順次固体に相転移してゆく。
【0016】
被凍結物中の氷晶核が多いほど氷晶核の密度が高くなり、凍結開始から凍結完了までの速度(以下「凝固速度」)は速くなると考えられる。これとは逆に、凝固速度が遅いと全体が固体になるまでの時間が長いため氷晶核同士の結合が局所的に進行して、氷晶サイズが大きくなり細胞を損傷させると考えられる。潜熱放出・吸収時の主な放射波長である8~15μmの赤外線(以下「潜熱赤外線」)は長波長赤外線と呼ばれる波長帯である。潜熱赤外線を外部で反射させて被凍結物に吸収させることで表層の潜熱放出時間が延長され、被冷却物中に飽和状態よりも過剰な氷晶核を形成することで凝固時間が短縮され、氷晶サイズの成長を抑制して良質の冷凍が可能となる。発明者は冷凍の質の定量測定法を開発し、潜熱赤外線を被凍結物である含水有機物表層に反射させて戻すことで潜熱放出時間を延長した方が解凍後のドリップが少ない良質な凍結ができることを発見した。
【0017】
更に上記凍結方法は、前記潜熱赤外線反射手段の反射材が潜熱赤外線に対する高反射率のアルミニウム、銅、銀または金であることを特徴とすることができる。
【0018】
被冷凍物が放射する潜熱赤外線の反射手段は、被凍結物に到着するまで1回から複数回反射を繰り返す。潜熱赤外線の反射率が高い素材が求められる。0℃付近でこの波長域での反射率が80%以上であることが望ましい。鏡面仕上げした純アルミニウム及び銅、銀または金は全てこの波長域での反射率が90%以上である。従来冷凍庫及びプレハブ冷凍庫では内壁面の材料がステンレス板及びカラー鋼板及びカラーアルミ板であったが、潜熱赤外線の波長域の長波長赤外線及び遠赤外線に対しては放射率が高く、反射率が不十分であった。尚、高反射率の金属同士の合金であっても良い。
【0019】
更に上記凍結方法は、前記凍結工程の前に前記含水有機物を庫内平均気温0~1℃の状態で前記含水有機物の芯温が0~1℃になるように予冷する処理工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の凍結方法とすることができる。
【0020】
被凍結物の芯部まで氷点近くまで冷却することで被冷却物を過冷却になり易くし、過冷却にすることで被冷却物中に過剰な氷晶核を形成することで、潜熱赤外線吸収で生成した過剰氷晶核に加えて更に多くの氷晶核を生成させることが可能となり凝固速度を高めて凍結の質を向上させることができる。
【0021】
更に上記凍結方法は、内部の少なくとも一部において前記反射材として金属箔を備える凍結用袋において前記含水有機物を凍結する凍結方法とすることができる。
【0022】
熱容量が大きく、熱伝導率の高い金属を予冷し、その金属に被凍結物を接触させて凍結させることで凝固速度が大きくなる。潜熱赤外線反射手段と組み合わせることで潜熱放出時間は延長され、予冷した熱容量が大きく熱伝導率の良い金属板に接触させることで凝固時間は凝固速度が上がるのでより良い質の凍結が可能となる。また、直接的に、又は凍結用袋等を通して間接的に、金属に接触状態にあることで、質の良い凍結が可能になる。また、金属箔はフィルムへの蒸着でも良い。
【0023】
また、本発明によれば壁面、天面、及び、床面で区画された貯蔵空間を有し、前記貯蔵空間の内部に配置された棚で含水有機物を冷凍する冷凍庫であって、前記貯蔵空間の内側における前記壁面、天面、床面、及び、棚の表及び裏面の少なくとも一部に、前記凍結工程における前記含水有機物に含まれる水分の潜熱放出時において前記含水有機物から放射される赤外線を前記含水有機物の表層に反射させる反射材を備え、扉開放時の外気侵入による前記反射材表面への着霜を防止する着霜防止装置を備えたことを特徴とする冷凍庫とすることができる。
【0024】
被凍結物を凍結させる凍結庫内の壁面及び天面及び床面及び棚面及び扉内面に、長波長赤外線の反射材を設けることで、被凍結物表面から放射される潜熱赤外線を反射して被凍結物表層に戻して潜熱放出時間を延長させて凍結の質を向上させることができる。凍結庫内には被凍結物を裸状態で収納するか、ポリエチレンフィルム製の凍結袋及びラッピングフィルム及び真空パック袋に入れて収納する。低密度ポリエチレンフィルムは長波長赤外線域では約14μmの波長で例外的に30~40%の吸収があるだけでその他の波長では、ほぼ100%に近い透過度がある。
【0025】
更に上記冷凍庫は、前記棚は表及び裏面に前記反射材を備えており、前記貯蔵空間に送風装置を備えることを特徴とする冷凍庫とすることができる。
【0026】
上記送風装置により、扉開放時の外気侵入による前記反射材への着霜の防止を促進し冷凍効率を更に向上させることができる。水蒸気を多く含む外気の侵入で霧及び霧氷が発生した空気塊が反射材に接触すると着霜するが、残りの庫内の空気は未飽和空気なので、未飽和空気を送風することで着霜を昇華させて潜熱赤外線を反射できるようになる。
【0027】
更に上記冷蔵庫は、前記送風装置の送風方向に対して前記反射材が傾斜するように配置された前記棚を備えることを特徴とする冷蔵庫とすることができる。
【0028】
上記構成により、反射材表面風速を加速して前記反射材への着霜の防止を促進し冷凍効率を更に向上させることができる。
【0029】
更に上記冷蔵庫は、前記貯蔵空間の底面において、前記含水有機物を設置する設置台を備え、前記設置台が前記含水有機物周囲に庫内の空気が通過できるように設けられた間隙を有すること冷蔵庫とすることができる。
【0030】
上記構成によれば、設置台があることにより冷蔵庫底面に直接触れることなく、冷気が対流するような構成を取るので、凝固速度を上げて凍結させることができ、凍結の質を向上させることができる。
【0031】
また本発明は、含水有機物の解凍方法であって、前記含水有機物の解凍工程において、0~8℃の温度条件のもと長波長赤外線を前記含水有機物の表層に照射する工程を含むことを特徴とする解凍方法とすることができる。
【0032】
一方、肉及び魚等の細胞組織からなる食品の解凍では、前述の様に凍結時の水から氷結晶への体積膨張により損傷した細胞膜及び細胞間接着蛋白の一部が解凍時に損傷が回復する過程と、組織は浸透圧の異なる部位で構成されているが、外側の一旦解凍された低浸透圧部位が、熱が内側に伝達されるにつれて内側の高浸透圧部位が解凍する際に外側の低浸透圧部位から潜熱を奪って低浸透圧部位が再凍結する。これを繰り返すことで氷結晶が成長して細胞に損傷を与える。この現象は、含水率が比較的高く、浸透圧がより高い部位からなる食品で、より緩慢に解凍した場合に顕著になる。
【0033】
上記解凍方法は前記照射工程において、放射体の表面温度を電気ヒータ、ハロゲンヒータの加熱のオンオフ、又は、電圧制御でアルマイト加工した金属板及びセラミック板及びゴムの照射側表面温度を20~50℃に制御した照射装置が長波長赤外線を前記含水有機物の表層に照射することを特徴とすることができる。
【0034】
波長が8~15μmの赤外線を長波長赤外線というが、この波長帯は0℃の水及び氷の潜熱放出・吸収時の赤外線波長でもあるため被凍結物表面に照射することで凍結時の潜熱放出延長を図ることが可能となる。しかも、この波長帯は黒体の放射ピークの温度は常温の20℃付近とほとんど重なっている。放射ピーク波長は放射体表面温度に反比例し、放射エネルギーは表面温度の4乗に比例する。凍結庫内温度は-18℃以下が一般的であるため水及び氷の赤外線吸収波長帯でも短波長赤外線を使用する場合は放射体表面温度を400℃近くまで上げる必要があり、庫内温度に大きな影響を与える可能性がある。長波長赤外線放射であれば低温の放射体を用いることができるため庫内環境に優しく、使用電気量も少なくて済む。放射体はこの波長域での放射率が高い天然ゴム及び長波長域では放射特性が黒体に近いセラミック及びアルマイトが望ましい。電気ヒータ及びハロゲンヒータを制御して放射体表面温度を20℃~50℃にすることで潜熱赤外線とほぼ同じ波長帯の赤外線を放射することができる。肉及び魚などの高浸透圧食品の緩慢解凍時に生じる低浸透圧部位の再凍結で放射される潜熱赤外線を反射手段で該食品表面に反射で戻して再凍結を抑制すると同時に、同じ波長帯の赤外線を照射することで、反射時に減衰した潜熱赤外線強度を補うことが可能となり確実に質の良い解凍が実現できる。
【0035】
上記解凍方法は、前記解凍工程の前処理工程として、前記含水有機物の切断面にオブラートを付着させる工程を含むことを特徴とすることができる。
【0036】
粉末デンプンを溶いた湯を薄膜状に伸ばし、乾燥させてなるシート状のオブラートを肉及び魚の切断面に張り付けて凍結した後に解凍することでデンプンの吸水力で切断面にドリップを保持することができ、食品外部へのドリップ流出を抑制して解凍工程で細胞膜及び細胞間接着蛋白の回復を図り解凍の質を向上させることができる。または、肉及び魚の切り身の冷凍品の解凍時に切断面にオブラートを貼り付けても良い。
【0037】
上記解凍方法は、前記照射工程において、前記照射装置が長波長赤外線を前記含水有機物の表層に照射する工程に加えて前記照射装置が照射した長赤外線を反射材が前記含水有機物の表層に反射する工程を含むことを特徴とすることができる。
【0038】
上記構成により、含水有機物の長赤外線の吸収効率が向上し更に解凍効率を上げることができる。本発明は、壁面、天面、及び、床面で区画された貯蔵空間を有し、含水有機物を前記貯蔵空間の内部で解凍する解凍庫であって、前記貯蔵空間の内側における前記壁面、天面、及び、床面の少なくとも一部に、長波長赤外線を前記含水有機物の表層に反射させる反射材を備えることを特徴とする解凍庫を提供することができる。
【0039】
更に上記解凍庫は、前記貯蔵空間の内部において、長波長赤外線を照射する赤外線照射装置を備えていることを特徴とすることができる。
【0040】
上記構成により、含有有機物に照射される長波長赤外線の量が増加するので、更なる解凍効率の向上を期待できる。
【0041】
更に上記解凍庫は、赤外線照射装置が、ゴム製の融雪マットであることを特徴とすることができる。
【0042】
上記構成により、冷凍庫内でゴムを電熱発熱体によって表面温度を常温付近まで加熱することでゴムの種類にもよるが、凡そ9.5~12μmの波長にピークを持つ赤外線を含有有機物に放射させることができる。この波長域は0℃付近の水及び氷が吸収する波長でありマットの表面温度を45~55℃付近に制御することが望ましい。電熱ヒータ及びハロゲンランプ等に比して表面温度が低温で庫内環境に優しく、しかもゴムは保温性が良く熱伝導率が低い放射体なので潜熱放出延長には適当である。ゴムにセラミック粉末を練りこんだものもある。潜熱赤外線反射材で被凍結物の潜熱赤外線を反射させて被凍結物表層に戻すと同時に同じ波長域の赤外線を外部から補うことで、被凍結物が放射し何度も繰り返し反射して戻って来る減衰した潜熱赤外線の強度を補うことが可能となり質の良い冷凍が可能となる。発熱体の表面温度を上げ過ぎると3μm付近の短波長赤外線の分光放射輝度が上昇し、更に放射全体のエネルギーが過剰となって、被凍結物表面が急速解凍してしまい、低温環境解凍時の自己修復の時間を短縮してしまい被解凍物の解凍の質を落とす可能性がある。
【0043】
更に上記解凍庫は、赤外線照射装置が、外部空間から20℃以上の室温の室内から放射される長波長赤外線を前記解凍庫内に供給する窓を有することを特徴とすることができる。
【0044】
常温環境の物体の放射は凡そ9~20μmの波長帯の分光放射輝度が高い。これは潜熱赤外線の波長帯でもあるため、環境中の放射を取り込むことができれば凍結の質を向上させることができる。そこでこの波長帯に透明度の高いポリエチレン等で赤外線取り入れ窓を設けることで余分なエネルギーを消費せずに潜熱赤外線反射を補って解凍の質の向上を図ることが可能となる。低密度ポリエチレンフィルムは長波長赤外線域では約14μmの波長で例外的に30~40%の吸収があるだけでその他の波長では、ほぼ100%に近い透過度がある。
【0045】
更に上記解凍庫は、前記赤外線照射装置が、アルマイト加工した金属板及びセラミック板で形成された反射面を有する前記反射材に、前記赤外線照射装置による長波長赤外線を照射することを特徴とすることができる。
【0046】
特にアルマイトはセラミックの中でも放射率が高く、しかも膜厚が非常に薄いため基盤の金属の高熱伝導率の影響で反射板の熱伝導率は他のセラミックよりも高い。反射板温度を50℃付近に制御することで短波長赤外線を放射する電気ヒータ及びランプ型ハロゲンヒータの短波長赤外線放射を吸収してアルマイト層が長波長赤外線に変換して放射(反射)することで質の良い解凍が可能となる。
【0047】
含水有機物を貯蔵空間の内部で冷凍する内袋と外袋の二重構造の保存用袋であって、前記内袋は水蒸気を透過させずに潜熱赤外線を透過させるフィルムからなり、前記外袋内面には潜熱赤外線反射材が設けられていることを特徴とする保存袋。
【0048】
上記保存袋によれば、潜熱赤外線反射材により含水有機物表層に潜熱赤外線を反射させながら、含水有機物を凍結することができるので、質の良い凍結環境を容易に提供することができる。また、内袋は水蒸気を透過させずに潜熱赤外線を透過するので、解凍時に含水有機物の乾燥を防止できる。また詳細は後述するが、解凍時には外部からの赤外線を遮断すると解凍品質が悪くなることが判明した。そのため、解凍時には外袋から赤外線を透過する内袋を取り出して解凍することで、解凍後の含水有機物の品質を良くすることができる。内袋は、ポリエチレンまたはパラフィンフィルム製であることが好ましい。
【0049】
上記保存袋外面に凸部を設けたことを特徴とする。
【0050】
また同様に、予冷した金属製のホテルパン等の熱伝導率の高い床面には凸部の無い面を接触させて凝固速度を高めて凍結し、凍結の質を高めることができる。また、通気の良い箱内に収納する時及び床面が低熱伝導率素材である場合には、凸部は袋の両面にあっても良い。また、凍結用袋及び凍結用箱の内側には収納物に高率で潜熱赤外線を反射させるために金属箔の鏡面を内側にすることができる。金属箔鏡面と収納物は直接接触しても良いし、金属箔と収納物の間にポリエチレンフィルムの様な潜熱赤外線に対する高透過度のフィルムを使用しても良い。
【0051】
前記保存袋の内部空間から水蒸気を除去する水蒸気除去剤を備えることを特徴とする保存袋。
【0052】
保存袋の内部空間に常温空気の水蒸気が多量にある状態で、当該保存袋中で含水有機物が冷凍されると、水蒸気が凝縮し水になると、保存袋内の含水有機物表面及び袋内面に着霜し、潜熱赤外線を吸収してしまう。これらにより潜熱赤外線反射及び照射の効果が抑制されてしまう。上記構成を取ることにより、このような不具合が解消されうる。なお、このような水蒸気除去剤は、シリカゲル等公知のものが使用される。
【0053】
上記保存袋はファスナーを有する開口部に、前記凍結用保存袋に前記袋体の内部から外部への空気の流出を可能にしながら、前記保存袋の内部空間への空気の流入を防止する逆流防止機能具を備えることができる。
【0054】
上記構成を取ることにより、保存袋から酸素及び水蒸気が排除される状態になるので、室温水蒸気高含有空気の水蒸気が凍結時に凍結用保存袋内で凝縮し、袋内面及び被保存物表面への着霜を抑制し、潜熱赤外線を含水有機物表面に届けることができ、更に酸化も抑制されるので、保存袋内の含水有機物の保存状態が更に向上されうる。
【0055】
本発明は、含水有機物の凍結及び解凍用保存方法であって、上記の保存袋を用いて、外袋内面に長波長赤外線を反射させながら前記含水有機物を冷凍する冷凍工程と、冷凍された当該含水有機物を袋から取り出して解凍する工程と、を含むことを特徴とする保存方法及びその袋とすることができる。
【0056】
解凍時にアルミ箔等の反射材で被解凍物を包装して解凍すると、外部からの赤外線が遮断されて被解凍物表面に到達できなくなるため、解凍時間が長くなり、解凍品質が低下する。
【0057】
上記保存法により、長波長赤外線を反射させながら前記含水有機物を冷凍する冷凍工程により質の良く冷凍された含有有機物を更にドリップが出にくい状態で解凍することができる。
【0058】
本発明は、袋内水蒸気含有空気を、水蒸気を含まない窒素ガスまたはアルゴンガスに置換することを特徴とする凍結方法とすることができる。
【0059】
袋内の水蒸気をほぼ完全に除去するには、真空パックするかあるいは、水蒸気を含まない精製窒素ガス及びアルゴンガスに内部空気を置換するのが良い。袋内収容物が変形を嫌う含水有機物で有ったり、複数個入れて間隙容積が大きかったりした場合にはガス置換が有効である。
【発明の効果】
【0060】
後述の実験結果を示す表3及び4から、アルミ箔包装で凍結した試料の方が塩化ビニリデンフィルム包装の試料よりもドリップ量が少なく、更に、試料を予冷してアルミ箔で包装した試料をスノコ上に乗せて凍結したものが最もドリップ量が少なかった。また、庫内温度が-20℃~-25℃の緩慢冷凍では時々過冷却になって凍結することがあり凍結の質が非常に良いものが出現することは知られていた。しかし、肉及び魚などの厚みの厚い実食品の下にスノコを敷いたり、緩慢な冷却速度にしたりしても確実に100%過冷却にして凍結させることは困難であったが、本発明により潜熱放出時間を延長させることで確実に上質な冷凍を実現できる。また、マグロ等の回遊漁は筋肉内に多量のATP及びクレアチンリン酸が貯蔵されているため、冷凍マグロの凍結時に破壊された細胞内のカルシウムイオンを含む小胞から解凍後にカルシウムイオンが流出して解凍硬直を起こし、多量のドリップが流出して食品の質を低下させてしまう。凍結温度中では融点温度が最もATPの分解速度が速いため0℃付近の温度で時間を掛けて緩慢に解凍してATP残量を最小にして解凍する。特に、緩慢解凍において潜熱赤外線を被解凍物に戻したり照射したりすることで、解凍中の食品の低浸透圧部位の再凍結を抑制して解凍の質を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
図1】本発明を説明するための実験結果を示すグラフ
図2】本発明の実験方法を説明する側断面説明図
図3】本発明を説明するための実験結果を示す側断面説明図
図4】本発明を説明するための実験結果を示す側断面説明図
図5】本実施形態の一例の天面パネルと冷凍機の側断面説明図
図6】本実施形態の一例の側面パネルと着霜センサの側断面説明図
図7】本実施形態の一例の前室を設けた解凍庫の平断面説明図
図8】本発明を説明するための実験結果を示すグラフ
図9】本実施形態の一例の解凍ボックスの平面断面説明図
図10】本実施形態の他の一例の解凍ボックスの側断面説明図
図11】本実施形態の一例の解凍用袋の側断面説明図
図12】本実施形態の他の一例の解凍ボックスの側断面説明図
図13】解凍ボックスの蓋の側断面説明図
図14】コンニャク解凍時間のグラフ
図15】ハロゲンランプ赤外線照射器の説明図
図16】本実施形態の保存袋の説明図
図17】空気抜き栓の説明図
図18】コンニャクドリップ量のグラフ
【発明を実施するための形態】
【0062】
図1から図13を用いて説明する。実験1及び実験2によって今回発見のメカニズムの推定を行った。更にこれらの実験に先立って従来凍結の質の定量化が困難であったため新たな簡易ドリップ量測定法を開発した。
【0063】
発明者が過去に開発した測定法では、寒天を凍結させ、遠心機とドリップフィルターを用いて低g印加環境で解凍してドリップ重量を比較したが、この方法ではサンプル収納バケットがローターに対して自由に角度を変えられる旧式の遠心機が必要であった。遠心力を常に印加した環境でしか解凍できなかった。これは、寒天が一旦放出したドリップを再吸収して元に戻る性質があるためである。
【0064】
そこで、同じ製造者で同じ製造日の平坦なコンニャク(以下「平コンニャク」)を型抜きして凍結し、スノコ上で解凍用ホテルパンにラップをかけて室温で解凍し、解凍後ドリップ重量を計測してドリップ率の比較を行う。コンニャクは入手加工が容易でバラツキが少ないため一度に多種の比較を行うときに便利である。また、コンニャクは固化時にアルカリ液が必要なためドリップを吸収して元に戻ることはない。比較の場合、1枚の平コンニャクから複数の試料を型抜きして用いるのが最も品質のバラツキが少ない。異なる平コンニャクを用いてスクリーニングを行うときは、コンニャク専門製造業者名と賞味期限日が確認できるものを使用し、同一製造業者の同一賞味期限のものを用いることでドリップ率のバラツキを抑えることができる。
【0065】
尚、本測定法のコンニャクの解凍条件は、図18の如く、室温にて解凍完了時間(3時間)以上の中でどの時点が良いか実験した結果、24時間後のドリップを100%とした場合に時定数2τ(95%)以上の時間(13時間以上)放置してから測定するのが最もバラツキが少ないことが判明した。
【0066】
〔実験1〕
実際にどの様に凍結しているのかを知るために、図2の如く赤外線放射吸収効果の高いアルマイト表面加工を施した予冷したジュラルミン板で上下に空間を開けてステンレス容器に入れた40mlの水(203)を底面は割り箸(205)でスノコ上にして挟み込んで-25℃のストッカー内で凍結した(以下「アルマイト」)。また同時に同じストッカー内に同様にした水を、赤外線反射の効率の高い予冷したアルミ箔の鏡面で上下を挟み込んで凍結した(以下「アルミ」)水の冷却曲線を図1に示す。また、凍結後の水面形状を示した模式図を図3及び4に示す。
【0067】
ステンレス容器内の水の中心部付近に熱電対センサを固定し計測した。アルマイトやアルミ水試料を同時にストッカー内に設置し測定を開始した。潜熱放出時間は、センサ位置で水温が0℃になった時点(103、102)から0℃未満になった時点(105、104)までの時間とし、最大氷結晶生成帯滞留時間はセンサ位置での水温が0℃から-5℃になるまでの時間とし、凝固時間はセンサ位置での水温が0℃未満になった時間(以下「凍結開始時間」)から凍結が完了するまでの時間とした。今回のサンプル量は40mlと少量であることから容器内の水中のどこかで潜熱を放出しているとその影響を受けてセンサ位置が凍結を開始した後でも冷却曲線の下降の傾きが小さくなる。しかし、容器内の水が全て凍結すると潜熱の影響が無くなるため下降の傾きが大きくなり曲線に変曲点が生じる。この時点(107,106)を凍結完了点とした。表1に図1の結果を示す。ここで、最大氷結晶生成帯滞留時間が長いと凝固時間が短いという結果が出たが、従来説と矛盾するため凍結試料を観察した。アルミでは図3の如く水面の中央(302)が盛り上がって凍結していた。アルマイトでは図4の如く水面(402)が水平になって凍結していた。これらのことからアルミでは水の潜熱赤外線を予冷したアルミ箔が反射して水面に戻したことで水面に再吸収されたため水面の凍結開始が遅れて容器に接する底面及び側面から凍結を開始したと推定される。また、アルマイトでは水の潜熱赤外線を予冷したアルマイトに吸収されて水面に戻ってこなかったかまたは戻って来る赤外線強度が低かったために冷却空気と直接接する水面から凍結を開始したと考えられる。センサ位置に対して両試料で凍結開始位置と凍結完了位置が異なるため表1の結果だけでは何も言えないため、凍結開始位置と凍結完了位置が同じになる様に実験2を実施した。
【0068】
【表1】
【0069】
〔実験2〕
家庭用冷蔵庫の冷凍室に型抜きしたコンニャク表面を塩化ビニリデン樹脂製ラッピングフィルムで覆ったもの(以下「ラップ包装」)と、該コンニャク表面をアルミ箔の鏡面を内側(コンニャク側)にして覆ったもの(以下「アルミ箔包装」)を樹脂製の冷凍庫床に床の影響を抑制するため断熱シートを敷いてその上に静置して凍結させ、翌日ラップで覆った解凍器のスノコ上にのせて常温で1日間放置して解凍後重量測定し初期重量との差から表2のドリップ率を算定した。また、該コンニャクの中心部に熱電対を刺して図8の冷却曲線を得た。両試料を同時に-18℃~-20℃の家庭用冷蔵庫の冷凍室に入れて実験した。
【0070】
図8の801は計測開始点、802と803はセンサ部の潜熱放出開始点、804と805はセンサ部の凍結開始時間、806と807は試料の凍結完了点である。氷は熱伝導が良いために小さな試料の場合、どこかで潜熱を放出していれば熱伝導及び赤外線放射で全体に影響を与え、冷却曲線で読むことができる。潜熱放出が完全になくなると冷却曲線に変曲点が現れ、以後急速に温度が低下するためである。両試料は、コンニャクの同じ中心部位置にセンサを刺した。コンニャクでは水と異なり対流及び氷と水の密度差によって水及び氷が移動することは無いため、底面を断熱して上面と側面から凍結を開始するようにした。センサ位置と凍結開始及び完了位置が同じと考えられるため潜熱放出時間及び凍結開始時間及び凝固時間が意味を持つことになり比較が可能となる。試料に使用したコンニャクのドリップ率の実験結果を表2に、そのコンニャクの中心部に刺したセンサによる冷却曲線を図8に、また、その結果を表3に示す。
【0071】
表3では、アルミ箔包装はラップ包装よりも熱伝導率が高いので、本来ならばアルミ箔包装の方がラップ包装よりも最大氷結晶生成帯滞留時間が短いはずだが、実際には逆にアルミ箔包装の方が長い。それは、アルミ箔包装の潜熱放出時間が延長されたからである。これは試料が潜熱放出時に赤外線を放出し、その赤外線をアルミ箔が反射して試料表層に戻し吸収させたためと推察される。試料重量測定により表2の結果を得た。表2のドリップ率を冷却曲線の分析結果と統合した表が表3である。
【0072】
アルミ箔包装の方がラップ包装に比べて最大氷結晶生成帯滞留時間が長いにも関わらず、ドリップ率はアルミ箔包装の方が小さい。これは従来信じられていた定説が誤りであることを示唆している。即ち、緩慢冷凍における凍結の質は、最大氷結晶生成帯滞留時間で決まるのではなく、凝固時間によって決まることを強く示唆している。そのメカニズムの考察は前述の通りである。
【0073】
【表2】
【0074】
【表3】
【0075】
〔実験3〕
次にサンプルは、平コンニャクを円柱状に型抜きした試料を用いて試料の各種凍結条件のドリップ率を試験した。予冷試料と予冷無試料、アルミ箔包装とラップ包装、スノコ有と金属直置きでドリップ量を計測し、凍結前重量に対するドリップ量で比較した。表4に結果を示す。予冷は0℃の冷蔵庫で1日間予冷し、凍結は-25℃の業務用冷凍庫に1日間保管し凍結させた。ラップ包装ではスノコを使用した場合、試料の予冷有の方が、予冷無に比較して1%ドリップが少なかった。アルミ箔包装ではスノコを使用した場合、試料の予冷有の方が、予冷無に比較して4%ドリップが少なかった。アルミのホテルパンに試料を乗せた金属接触ではアルミ箔包装もラップ包装も試料の予冷の有無に関係なくドリップ率は変わらなかった。
【0076】
食品の芯部まで氷点近くまで予冷して凍結した方が、予冷無に比較して僅かにドリップが少ないことが判明した。特質すべきは芯部まで氷点まで冷却し、アルミ箔包装してスノコをかませて凍結したものが、顕著にドリップ量が少なかった。このことから0℃付近で予冷することで過冷却になり食品中に飽和状態よりも過剰に多くの氷晶核が形成されたことを示唆している。更に、アルミ箔で赤外線を反射させて食品表面の潜熱放出時間を延長することで食品により多くの過剰な氷晶核が形成されたことを強く示唆している。
【0077】
〔実験4〕
ジュラルミン表及び裏面にアルマイト加工した金属板と陶器の板と板状のPET板上に同条件で凍結した、ほぼ同重量の型抜きコンニャクを乗せたものと型抜きコンニャクをアルミ箔の鏡面を内側にしてコンニャクを包装したものにそれぞれ中心部に熱電対を挿入して温度変化を測定したものを図14に示す。アルマイトに接触したコンニャクが最も短時間で解凍した。逆にアルミ箔で包装したものは最も解凍所要時間が長かった。これは、接触解凍なのでアルマイトの金属部位の熱伝導率が最も高かったことと、アルミ箔で外界の赤外線を遮断した効果が大きかったためと思われる。更にアルマイトの長波長赤外線の放射率が高くアルマイトからの放射の吸収の効果も加わって最も短時間で解凍したと思われる。表4の如く予冷してスノコ上で凍結させたものが一番ドリップが少なかった。
【0078】
【表4】
【0079】
【表5】
【0080】
【表6】
【0081】
表5では、0℃で12時間予冷したコンニャクサンプルを-20℃の冷凍室に12時間入れて凍結した。サンプルの数字はコンニャク番号、Aは照射有群、Bは照射無群である。赤外線照射群は純鉄の酸化熱で加熱する表面温度60℃のカイロを試料から40cm上方に設置して赤外線を照射した。照射群は照射しなかった群に比較して同じコンニャクでは僅かにドリップ率が高かった。これは試料表面に赤外線が当たり表面温度が上昇したためか、あるいは凍結開始以降も赤外線の照射が継続したために凍結開始から凍結完了までの時間が長くなったためと思われる。表6では、0.5℃で12時間予冷したコンニャクサンプルを-20℃の冷凍庫に12時間入れて凍結した。試料には表面をアルマイト加工したアルミ板の箱に電気ヒータを入れて表面温度が20度で「ON」、同50℃で「OFF」に制御した赤外線照射気を飼料の上40cmに設置し、資料の下10cmにもアルマイト加工したアルミ反射板を設け、照射しながら凍結させた。表5及び表6では、赤外線照射による効果は認められなかった。人為的に赤外線を照射すると制御が困難であるミ箔の様に潜熱放出時間にだけ適度な波長と強度で赤外線を試料に照射させることができないためと思われる。しかし、壁面及び天面及び床面を赤外線反射材で構成する場合は、被凍結物が潜熱放出時に放射する赤外線を反射させて戻すだけである。赤外線の強度は距離の2乗に反比例するので反射材からの距離が一番近いものに最も強く作用するため反射材包装と同じ効果を出すことができる。
【0082】
〔実施形態1〕
図5図6及び図7で説明する。図5は冷凍庫の壁面の側断面図である。図6は冷凍庫内部の壁面に着霜センサを設けた側面断面図である。図7は低温の前室付き冷凍庫の上から見た平面説明図である。庫内に冷却器を設けずに壁面を冷却する低温高湿度冷凍庫及びストッカーに応用する場合、図7の内壁面(702)は、潜熱赤外線を高率で反射する、鏡面仕上げ純アルミ板である。庫内温度と外気温との差が大きい場合、特に高温高湿度の日本の夏季では、物品の搬入・搬出時に外気が冷凍庫(701)内に侵入して壁面(702)に一時的に着霜する。着霜した壁面は赤外線を吸収し、反射率がほぼ0%近くに低下する。着霜時間を短縮するために前室を設け、前室内に除湿器を設けることで702への着霜量が減少して着霜時間を短縮することができる。更に、図6の着霜センサを設け、着霜を検知すると図5の温水配管に温水を流すと同時にファン503を運転して702を除霜する。壁面を除霜することで常に高湿度を維持して安定した冷凍の質を確保することができる。
【0083】
〔実施形態2〕
図9で説明する。図9は凍結用ボックスの側面断面図である。本形態は、冷凍倉庫内で使用する凍結ボックスである。901、904等内壁面、蓋内面及び床面は鏡面仕上げの純アルミ材である。側壁板904はブラインド状になっており隙間からボックス外の冷気が流入・流出する。ボックス内にはスノコ(903)があり、食品は周囲を冷凍倉庫内の冷気で包まれて凍結する。食品は裸か低密度ポリエチレンフィルム製の凍結袋及びラッピングフィルムで包装した形で凍結・保管する。なお、本実施形態では凍結ボックスであるが、同様の構成を冷凍庫等に施すような改変形態についても同様の作用効果が奏されることは自明である。本発明においては、上記実施形態のような凍結ボックス及び同様の構成を施した冷凍庫について冷凍庫と称することにする。また、後述する解凍庫、解凍ボックスについても同様である。更に、解凍庫及び凍結庫を組み合わせるような保存庫を形成してもよい。または、側面はブラインド状に空隙があり、内面がアルミコーティングの樹脂及び段ボールに互いが接触しない様に包装して凍結させることで凍結後そのまま冷凍倉庫内に保存できる。低密度ポリエチレン(LDPE)フィルムは潜熱赤外線に対して高い透過率があるため潜熱赤外線をほとんど減衰させずに食品表層に戻すことができる。
【0084】
〔実施形態3〕
本形態を図11及び10で説明する。図10は外側をアルミ蒸着ポリエチレンテレフタレートフィルム1101と袋内側はLDPEフィルム1102をラミネートした凍結用袋である。外面の片面には凸部1103が設けられている。本形態は、食品凍結袋及び真空パック用袋及びアルミ蒸着紙を用いた食品凍結用箱に用いられる。片面に凸部を設けたことで、樹脂及び木製の棚に乗せて凍結する場合は、凸部により樹脂及び木板との間に隙間を作り冷却空気で食品を包むことで潜熱赤外線照射効果に過冷却効果を相乗的に加えることができる。また、予冷した金属板がある場合には、凸部の無い面を下にして接触凍結させることで凝固速度を速めて質の良い凍結を実現できる。
【0085】
また、本形態の袋に細胞障害保護剤を添加した生きた細胞及び組織を収納して凍結させ、氷晶サイズ拡大を抑制して生存率を高める可能性がある。
【0086】
黒体の絶対温度(以下「K」)における最大の分光放射エネルギーの波長(以下「λmax (単位;μm)」)には以下の式1の関係がある。
〔式1〕
λmax = 2,897/K
【0087】
本発明は、冷凍用袋及び真空パック用袋及び冷凍庫及び冷凍庫の内壁材及び庫内の棚材としての利用、また、凍結方法としては細胞及び組織の凍結時の細胞障害の抑制に使用できる。
【0088】
なお、本発明における含水有機物とは、凍結時点で細胞の形状が残っているものであることが好ましい。潜熱赤外線吸収による解凍及び凍結の目的は、細胞損傷によるドリップ流出量を抑制することで解凍及び凍結の質の向上を図ることにある。すなわち、凍結時に水の凍結膨張によって損傷を受け、商品価値が下がるものを言い、小麦粉、米粉及びコーンスターチなど等の細胞を破壊した加工食品、根菜及び豆類の様に加熱して細胞壁を壊して調理するものについても効果を奏するが、食肉等においてより顕著な効果を奏する。なお、細胞または組織は生体であっても死骸であっても良い。
【0089】
〔実験5〕
筋肉などの臓器に切れ目を入れると解凍時にドリップが外部に流出するために切り方によってバラツキが発生するため、切れ目を入れない筋肉として鶏ささみ(以下「ササミ」)をサンプルとした。まず試験的に鶏ささみを同条件で凍結させてから解凍して、テクロック社製のゴム硬度計デュロメータ・タイプE2・GS743を自動アラインメント補正及び下降速度調整器付の手動定圧荷重器GS612(以下「スタンド」)にセットして1kg荷重で下降速度最大で硬度を計測した。ササミ硬度測定個所は3か所から最大5か所とし、最大値と最小値を外れ値として除外し、測定中間値(以下「測定ポイント数」)をEpとする。応力に対して直線の関係にあるタイプAデュロメータの値(以下「ポイント数」)をApとする。Epを下記変換式で、Apに変換して比較した。その結果、凍結・解凍すると通常は損傷によって硬度が低下するはずであるが逆に硬度が上昇した。その原因はササミ中のATP残量が殆ど無いため、一度荷重を掛けて測定すると筋肉が伸びて二回目にその近辺を測定すると硬度が上がる。更にササミの温度が上がると筋肉の硬度が下降する。また、同じ条件で緩慢冷凍・緩慢解凍すると凡そ4~5個に1個の割合で硬度の高いものが出現する。これは緩慢冷凍時の過冷却凍結であると思われる。これらを考慮して硬度測定プロトコールを下記に定めた。
【0090】
〔変換式〕
Ap=Ep(0.0034×Ep+0.2301) 但しEp<50。
【0091】
〔測定比較手順〕
解凍時には凍結時の細胞損傷の内、一部の細胞膜及び細胞間接着蛋白が自己回復し、細胞外に出たドリップも再吸収するメカニズムが存在するようであるため、解凍の質をコンニャクドリップ測定法では測定できない。そこで、細胞からできた切れ目が入っていない臓器を試料とする。但し、臓器では解凍時にドリップ吸収があるため臓器外部のドリップ量測定は困難である。ドリップ量の代わりに硬度変化を測定して比較することにした。
【0092】
(1)ササミ試料を冷蔵庫から取り出して室温で1時間放置した後に測定する。試料片面の厚みの厚い部位を、凹部を避けて最低3か所、望ましくは5か所測定する。同じ場所を測定しない様に注意し、GS621の下降速度は最大にする。最小値と最大値を棄却し、3値を変換式によりタイプA値に変換して平均値を求めて比較する。
(2)-20℃以下の冷凍庫で予冷しておいた金属製のホテルパン上にポリエチレン(以下「PE」)ラップ包装したササミを置いて,同冷凍庫に1日間保存して凍結させる。予冷金属に接触させて冷凍庫に入れて凍結することで過冷却凍結を防止する。
(3)各解凍条件で完全に解凍する。
(4)冷蔵庫に1時間以上保管して冷却する。
(5)次に、(1)で測定したササミの裏面を、(1)と同様の手順で測定・比較する。
【0093】
表6では、0.5℃で12時間予冷したコンニャクサンプルを-20度の冷凍庫に12時間入れて凍結した。試し料には表面をアルマイト加工したアルミ板の箱に電気ヒータを入れて表面温度が20℃で「ON」、同50℃で「OFF」に制御した赤外線照射気を飼料の上40cmに設置し、資料の下10cmにもアルマイト加工したアルミ反射板を設け、照射しながら凍結させた。表5及び表6では、赤外線照射による効果は認められなかった。人為的に赤外線を照射すると制御が困難でアルミ箔の様に潜熱放出時間にだけ適度な波長と強度で赤外線を試料に照射させることができないためと思われる。しかし、壁面及び天面及び床面を赤外線反射材で構成する場合は、被凍結物が潜熱放出時に放射する赤外線を反射させて戻すだけである。赤外線の強度は距離の2乗に反比例するので反射材からの距離が一番近いものに最も強く作用するため反射材包装と同じ効果を出すことができる。
【0094】
【表7】
備考:測定はJIS硬度計テクロック製デュロメータ・タイプOO測定値の最大と最小を外れ値として棄却、3値をタイプA値に変換した後それらの平均値の前後差を求めた。通常ラップはポリ塩化ビニリデンフィルムを使用。PEラップはポリエチレンフィルムを使用。尚、小数点以下は四捨五入して整数で比較した。
【0095】
【表8】
備考:(上段)はタイプOO測定値の最大と最小を外れ値として棄却(X印)した値、(下段)は上段値をタイプA値に変換した後それらの平均値の前後差を求めた。試料は解凍後室温に1時間放置してから測定した。尚、室温解凍及び40℃温水解凍は、解凍後1時間8℃で冷却後に更に室温1時間放置後測定した。
【0096】
比較実験は、庫内を平均0.5℃にした冷蔵解凍庫(以下「ゼロ庫」)での解凍と、庫内温度8℃の冷蔵庫での解凍と約20℃の室温でサンプルを裸状態でアルミのホテルパンにスノコを敷いてポリエチレンフィルムでホテルパンを覆い解凍、更に、空気を抜いたポリエチレンフィルム袋に包装無し(以下「裸」)で収納して40℃の湯につけて解凍し、硬度測定した。結果を表8に示す。
【0097】
表8に示すように前後の硬度変化度(後-前)で比較すると低温での長波長性器外線照射が温水解凍に匹敵する解凍品質であることが判明した。40℃温水に浸漬すると水の対流で効率よく含水有機物を解凍できるが、解凍量が少なければ温水浸漬できるが、解凍量が多い場合は温水浸漬解凍が事実上困難であった。しかし、低温環境で長波長赤外線照射により温水浸漬とほぼ同等の解凍品質が得られることが判明した。この低温赤外線照射解凍により一度に多量の解凍物を解凍することが可能となる。
【0098】
この結果は、水が凍結する時の潜熱放出時に放射する赤外線(以下「潜熱赤外線」;λMAX約10.3μm)の波長帯は長波長赤外線の波長域(8μm~15μm)である。回答時も凍結時と反対に同じ波長帯の潜熱赤外線を吸収して解凍する。また、この赤外線照射器の主波長帯は、長波長赤外線域にあり、潜熱赤外線とほぼ同じ波長帯である。解凍温度が低いため損傷回復の時間が十分あり、更に前述の理由で最大氷結晶生成温度帯に長く留まっていても潜熱赤外線と同じ波長域の赤外線を吸収して氷結晶が成長せずに損傷が最小限に抑制されたためと考えられる。
【0099】
〔実施形態3〕
本形態を図10図14図15で説明する。図10は解凍庫の側面から見た断面説明図である。図14は型で抜いた5個のコンニャクの中心部に熱電対を挿入して同条件で冷凍し、ジュラルミン、表面にアルマイト加工したジュラルミン(以下「アルマイト」)、板状PET樹脂(以下「PET」)、陶器上にのせて接触させて解凍、また、アルミ箔に包んで解凍の解凍曲線を示したグラフである。
【0100】
図15はランプ型ハロゲンヒータ1502とアルマイトの反射面1503を持つ反射板からなる長波長赤外線照射器である。
【0101】
図10は解凍庫である。解凍庫内壁面、天面及び床面は鏡面仕上げ純アルミ材である。庫内には庫内温度を低温に保つための冷却機1004と、天面には電熱式の融雪マット1002と反射板1003が設けられ常に融雪マットの表面温度を50℃付近になるように制御されている。
【0102】
電熱式融雪マット1002を設けることで裸及びPE製袋に入れた含水有機物に長波長赤外線をことができる。また、融雪マットを天面に設けることで、温度の高い空気は上昇するため下降せず庫内温度の上昇を抑制することができる。また、融雪マットの代わりに図15のアルマイト加工面1503を反射面とする反射板を設けたランプ型ハロゲンヒータ照射器(以下「ハロゲンランプ」)を設けても良い。
【0103】
アルマイトは図14に示す如く、アルマイト・陶器・PET樹脂はそれぞれ室温の長波長赤外線の放射率が高い。この中でアルマイトは基板金属の影響で熱伝導率が一番高かったために最も短時間で解凍した。熱伝導が低いと高放射率でも制御の際の立ち上がりに時間が掛かる。
【0104】
反射板の温度は50℃付近になるようにハロゲンランプのON/OFFを制御することでハロゲンヒータの短波長赤外線を吸収して反射波の波長を、長波長赤外線成分を多く含む帯域に変換することができる。潜熱赤外線の波長帯の黒体温度は20℃~50℃付近であるが、20℃では照射強度が不十分なため50℃付近とすることで十分な強度で潜熱赤外線を補うことが可能となる。また強度は距離の二乗に反比例するため照射器と被解凍物の距離をできるだけ小さくすることで十分な効果を得ることができる。
【0105】
〔実施形態4〕
本形態を図12及び図13で説明する。図12は解凍ボックスの側面断面図である。図13図12のPE気泡シート1201の側断面説明図である。庫内壁面、天面及び床面は全て鏡面仕上げ純アルミ材である。
【0106】
庫外が室温20℃~25℃であるとき、この温度帯では黒体の放射は波長域9~20μmが最も分光放射輝度が高い。即ち、潜熱赤外線と同じ波長域の赤外線を室内のあらゆる物体が常に放射している。この環境赤外線をPE気泡シート1201の窓を通して外部から解凍庫内に照射することで、本形態では、解凍庫内に電熱融雪マットの様な熱源を持ち込む必要が無いため省エネルギーである。図13の素材はLDPEフィルム製の気泡緩衝材である。但し、本形態では庫内温度と庫外温度の差で1201内部に結露が発生する可能性があり、結露すると潜熱赤外線を吸収してしまい効果が無くなるため、気泡1301及び間隙1302には乾燥空気及び乾燥窒素ガスが充填する。断熱すると同時に結露の原因となる水蒸気を含まない気体を充填することで結露しないで断熱することができる。また、LDPEフィルムは潜熱赤外線を高率で透過させるため食品の潜熱放出時間を延長して質の良い凍結を可能にする。
【0107】
〔実施形態5〕
本形態を図11で説明する。図11は外側をアルミ蒸着ポリエチレンテレフタレートフィルム1101と袋内側はLDPEフィルム1102をラミネートした凍結用袋である。外面の片面には凸部1103が設けられている。
【0108】
本形態は、食品凍結袋及び真空パック用袋及びアルミ蒸着紙を用いた食品凍結用箱に用いられる。片面に凸部を設けたことで、樹脂及び木製の棚に乗せて凍結する場合は、凸部により樹脂及び木板との間に隙間を作り冷却空気で食品を包むことで潜熱赤外線照射効果に過冷却効果を相乗的に加えることができる。また、予冷した金属板がある場合には、凸部の無い面を下にして接触凍結させることで凝固速度を速めて質の良い凍結を実現できる。
【0109】
また、本形態の袋に細胞障害保護剤を添加した生きた細胞及び組織を収納して凍結させ、氷晶サイズ拡大を抑制して生存率を高める可能性がある。
【0110】
冷凍用袋及び真空パック用袋及び冷凍庫及び冷凍庫の内壁材及び庫内の棚材としての利用、また、凍結方法としては細胞及び組織の凍結時の細胞障害の抑制に使用できる。
【0111】
[実施形態6]
図16は、本発明の実施形態である保存袋2003である。空気抜き2002は、内袋2005及び外袋2006の内部空間から空気を抜く。栓2001は空気抜き2002に装着させる栓である。内袋チャック2006は開けたまま凍結物を収納し、外袋チャック2004を閉め、水を張ったボウルに空気抜きだけ水面から出して浸漬し、水圧で中の空気を抜いてから空気抜きに栓をしてから冷凍庫に入れて凍結する。解凍時は内袋を取り出して内袋チャック2006を閉めて解凍する。空気抜きから口で中の空気を吸っても良い。外袋に空気を抜く手段が設けてあればその形状は問わない。また、図17の如く可動栓を設ければ市販のワイン用手動空気抜きポンプで中の空気を抜くことができる。
【0112】
【表9】
【0113】
[実施形態7]
保存袋2003に凍結物を収納し、当該保存袋2003の内部の水蒸気含有空気をアルゴンガスに置換して上記の方法で解凍した。気体置換処理は、保存袋2003の内部における水蒸気を除去することが可能な処理であれば、どのような方法によって気体置換を行ってもよい。気体置換処理の方法としては、例えば、脱気処理、気体充填処理及びこの組み合わせた方法等を挙げることができる。気体置換処理の方法は、より具体的には例えば、包装の内部を所望の気体量まで脱気する方法、不活性気体を包装部材内部に充填する方法、包装の内部の脱気を行ってから不活性気体の充填処理を行う方法、及び、これらを複数回連続して行う方法などを挙げることができる。脱気処理は、例えば、真空包装機を使用して行ってもよく、外部から圧力を負荷して行ってもよい。気体置換処理の方法は、好ましくは、不活性気体による充填処理及び脱気処理のセットを複数回繰り返すことによって行われ、このような方法で気体置換処理を行うことによって、包装内部の水蒸気を、より確実に除去することができる。また、気体置換処理の方法としては、上記の他に、例えば、シリカゲルなどを使用する方法を用いてもよい。気体置換処理に用いられる不活性気体としては、窒素ガス、二酸化炭素ガス、ヘリウムガス及びアルゴンガスからなる群より選択される少なくとも1種の気体を挙げることができる。不活性気体は、好ましくは窒素ガス、アルゴンガスを含み、より好ましくは窒素ガス及びアルゴンガスからなる。本実施形態において上記のような質の良い解凍効果を得ることができた。
【符号の説明】
【0114】
101 開始点
102 アルマイト潜熱放出開始点
103 アルミ潜熱放出開始点
104 アルマイト凍結開始点
105 アルミ凍結開始点
106 アルマイト凍結完了点
107 アルミ凍結完了点
201 試験上板
202 ステンレス容器
203 水
204 樹脂スペーサ
205 木製スペーサ
206 試験下板
301 ステンレス容器
302 水面
303 水
401 ステンレス容器
402 水面
403 水
501 外壁パネル
502 断熱材
503 ファン
504 温水配管
505 内壁パネル
601 内壁パネル
602 赤外線照射部
603 赤外線センサ部
604 霜層
701 冷凍庫
702 内壁面
703 凍結機
704 内扉
705 除湿器
706 温湿度センサ
707 外扉
708 前室
801 開始点
802 ラップ潜熱放出開始点
803 アルミ箔潜熱放出開始点
804 ラップ凍結開始点
805 アルミ箔凍結開始点
806 ラップ凍結完了点
807 アルミ箔凍結完了点
901 蓋板
902 ハンドル
903 スノコ
904 ブラインド状側壁板
1001 解凍庫
1002 融雪マット
1003、1005 反射板
1004 冷却機
1101 蒸着フィルム外袋
1102 PEフィルム内袋
1103 凸部
1201 PE気泡緩衝材
1202 解凍ボックス
1203 冷却機
1301 気泡
1302 間隙
1303 PEフィルム
1501 遮蔽板のアルミ鏡面
1502 ランプ型ハロゲンヒータ
1503 反射板のアルマイト反射面
2001 栓
2002 空気抜き
2003 保存袋
2004 外袋チャック
2005 内袋
2006 外袋
2007 内袋チャック
Ep タイプE2デュロメータの測定ポイント数
Ap タイプAデュロメータのポイント数
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18