(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134564
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】リニアモータ、対基板作業機及びリニアモータの製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 41/03 20060101AFI20240927BHJP
H05K 13/04 20060101ALN20240927BHJP
【FI】
H02K41/03 A
H05K13/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044815
(22)【出願日】2023-03-21
(71)【出願人】
【識別番号】000237271
【氏名又は名称】株式会社FUJI
(74)【代理人】
【識別番号】110000992
【氏名又は名称】弁理士法人ネクスト
(74)【代理人】
【識別番号】100162237
【弁理士】
【氏名又は名称】深津 泰隆
(74)【代理人】
【識別番号】100191433
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 友希
(72)【発明者】
【氏名】篭嶋 裕之
(72)【発明者】
【氏名】加藤 進一
(72)【発明者】
【氏名】岩島 賢史
【テーマコード(参考)】
5E353
5H641
【Fターム(参考)】
5E353JJ26
5E353QQ30
5H641BB06
5H641BB15
5H641BB16
5H641GG03
5H641GG04
5H641GG10
5H641HH02
5H641HH08
5H641JA09
(57)【要約】
【課題】走行時の振動を低減できるリニアモータ、対基板作業機及びリニアモータの製造方法を提供すること。
【解決手段】本開示のリニアモータは、複数の固定子磁石を有する固定子と、固定子磁石との間で磁気吸引力を発生させる可動子磁石を有し、磁気吸引力に基づく推進力により走行する可動子と、を備える。複数の固定子磁石、及び、複数の可動子磁石の少なくとも一方は、可動子の走行時における磁気吸引力及び推進力のうち、少なくとも一方の力の変動に含まれる周波数成分に基づく不等ピッチで配置される。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の固定子磁石を有する固定子と、
前記固定子磁石との間で磁気吸引力を発生させる可動子磁石を有し、前記磁気吸引力に基づく推進力により走行する可動子と、
を備え、
複数の前記固定子磁石、及び、複数の前記可動子磁石の少なくとも一方は、
前記可動子の走行時における前記磁気吸引力及び前記推進力のうち、少なくとも一方の力の変動に含まれる周波数成分に基づく不等ピッチで配置される、リニアモータ。
【請求項2】
複数の前記固定子磁石、及び、複数の前記可動子磁石の少なくとも一方は、
前記可動子の走行時における前記磁気吸引力及び前記推進力のうち、少なくとも一方の力の変動に含まれる周波数成分のうち、力の振幅のピークが発生した位置の周波数成分を抑制する不等ピッチで配置される、請求項1に記載のリニアモータ。
【請求項3】
複数の前記固定子磁石、及び、複数の前記可動子磁石の少なくとも一方は、
前記少なくとも一方の力の変動に含まれる周波数成分のうち、力の振幅が最も大きい周波数成分を抑制する不等ピッチで配置される、請求項2に記載のリニアモータ。
【請求項4】
複数の前記固定子磁石は、
前記可動子の移動方向に並んで配置される、第1固定子磁石、第2固定子磁石、第3固定子磁石、第4固定子磁石を含み、
前記第1固定子磁石、前記第2固定子磁石、前記第3固定子磁石、及び前記第4固定子磁石は、
この順番に繰り返し並んで配置され、
前記第1固定子磁石は、
前記第3固定子磁石と同極であり、
前記第2固定子磁石は、
前記第1固定子磁石とは異なる極性で、且つ、前記第4固定子磁石と同極であり、
前記第2固定子磁石は、
第1幅を間に設けて前記第1固定子磁石の隣に配置され、
前記第3固定子磁石は、
第2幅を間に設けて前記第2固定子磁石の隣に配置され、
前記第4固定子磁石は、
第3幅を間に設けて前記第3固定子磁石の隣に配置され、
前記第1固定子磁石は、
第4幅を間に設けて前記第4固定子磁石の隣に配置され、
前記第1幅は、
前記第3幅と略同一であり、
前記第2幅は、
前記第1幅に比べて大きく、
前記第4幅は、
前記第1幅に比べて小さい、請求項1又は請求項2に記載のリニアモータ。
【請求項5】
前記第1幅、前記第2幅、及び前記第4幅は、
前記第1幅と前記第2幅との差が、前記第4幅と前記第1幅との差に略等しい、
関係にある、請求項4に記載のリニアモータ。
【請求項6】
複数の前記固定子磁石は、
前記可動子の走行時における前記磁気吸引力及び前記推進力のうち、少なくとも一方の力の変動に含まれる周波数成分に基づく不等ピッチで配置され、
仮に、複数の前記固定子磁石を略等ピッチで配置した場合の前記推進力を第1推進力とした場合、
複数の前記固定子磁石を不等ピッチで配置した場合の前記推進力は、
前記第1推進力と略同一である、請求項1又は請求項2に記載のリニアモータ。
【請求項7】
複数の前記固定子磁石は、
前記可動子の走行時における前記磁気吸引力及び前記推進力のうち、少なくとも一方の力の変動に含まれる周波数成分に基づく不等ピッチで配置され、
複数の前記可動子磁石は、
前記可動子の移動方向に並んで配置され、略一定のピッチで配置される、請求項1又は請求項2に記載のリニアモータ。
【請求項8】
請求項1又は請求項2に記載のリニアモータと、
前記リニアモータを支持し、基板を搬送する搬送口が形成されたベースと、
前記可動子に搭載され、前記可動子の移動に合わせて移動し、前記基板に対する作業を実行する作業部と、
を備える、対基板作業機。
【請求項9】
複数の前記固定子磁石、及び、複数の前記可動子磁石の少なくとも一方は、
前記可動子の走行時における前記磁気吸引力及び前記推進力のうち、少なくとも一方の力の変動に含まれる周波数成分のうち、力の振幅が最も大きい周波数成分を抑制する不等ピッチで配置され、
力の振幅が最も大きい前記周波数成分の周波数は、
前記ベースをモーダル解析した場合に前記搬送口に発生する振動に含まれる周波数成分のうち、振幅のピークが発生した位置の周波数と略同一である、請求項8に記載の対基板作業機。
【請求項10】
前記固定子は、
前記可動子の移動方向に延び、複数の前記固定子磁石を収容するレール部を有し、
前記ベースは、
前記可動子の移動方向における中央に前記搬送口が形成され、前記移動方向における両側で前記レール部を下方から支持し、
前記搬送口の上部は、
前記レール部によって閉塞される、請求項8に記載の対基板作業機。
【請求項11】
前記リニアモータとして、第1リニアモータと、第2リニアモータを備え、
前記ベースは、
前記第1リニアモータを支持し、前記基板を搬送する第1搬送口と、
前記第2リニアモータを支持し、前記基板を搬送する第2搬送口と、
が形成され、
前記作業部は、
前記第1リニアモータ及び前記第2リニアモータの各々の前記可動子の両方に搭載され、2つの前記可動子の移動に合わせて移動し、
前記第1リニアモータ及び前記第2リニアモータの各々の複数の前記固定子磁石は、
互いに同じ不等ピッチで配置される、請求項8に記載の対基板作業機。
【請求項12】
複数の固定子磁石を有する固定子と、
前記固定子磁石との間で磁気吸引力を発生させる可動子磁石を有し、前記磁気吸引力に基づく推進力により走行する可動子と、
を備えるリニアモータの製造方法であって、
複数の前記固定子磁石、及び、複数の前記可動子磁石の少なくとも一方を、前記可動子の走行時における前記磁気吸引力及び前記推進力のうち、少なくとも一方の力の変動に含まれる周波数成分に基づく不等ピッチで配置する、リニアモータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、固定子の固定子磁石と、可動子の可動子磁石を備えるリニアモータ、対基板作業機及びリニアモータの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、固定子磁石と、可動子磁石とを用いて推進力を発生させ可動子を移動させるリニアモータが種々提案されている。例えば、下記特許文献1のリニアモータは、複数の磁石を有する固定子と、複数のコイルを有する可動子を備えている。固定子には、可動子の移動方向に沿って、磁極の異なる磁石が交互に配列されている。可動子には、移動方向に沿って多数のコイルが配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した特許文献1に示されるような固定子と可動子を備えるリニアモータでは、動作に伴う磁気吸引力や推進力の増減が発生する虞がある。その結果、磁気吸引力等の増減が装置の振動を招くことが問題となる。
【0005】
本開示は、そのような実情に鑑みてなされたものであり、走行時の振動を低減できるリニアモータ、対基板作業機及びリニアモータの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書は、複数の固定子磁石を有する固定子と、前記固定子磁石との間で磁気吸引力を発生させる可動子磁石を有し、前記磁気吸引力に基づく推進力により走行する可動子と、を備え、複数の前記固定子磁石、及び、複数の前記可動子磁石の少なくとも一方は、前記可動子の走行時における前記磁気吸引力及び前記推進力のうち、少なくとも一方の力の変動に含まれる周波数成分に基づく不等ピッチで配置される、リニアモータを開示する。
【0007】
また、本明細書に開示される内容は、リニアモータとしての実施に限らず、リニアモータを備える対基板作業機、リニアモータの製造方法として実施例しても極めて有益である。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、複数の固定子磁石を、不等ピッチで配置することで、磁気吸引力及び推進力の少なくとも一方に含まれる周波数成分を抑制することができる。その結果、可動子の走行時の振動を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施例の部品装着装置を示す斜視図である。
【
図3】デバイスエリアに作業ヘッドを配置した状態を示す斜視図である。
【
図4】基板エリアに作業ヘッドを配置した状態を示す斜視図である。
【
図5】X方向移動装置の構成の一部を示す平面図である。
【
図6】Y方向から見たリニアモータの構成を示す模式図である。
【
図8】作業ヘッドをX方向移動装置によってX方向に移動させた場合の可動子に発生する吸引力方向の電磁力を磁気解析した結果であり、等ピッチ、不等ピッチの各場合のグラフである。
【
図9】作業ヘッドをX方向移動装置によってX方向へ移動させた場合の可動子に発生する推進力方向の電磁力を磁気解析した結果であり、等ピッチ、不等ピッチの各場合のグラフである。
【
図10】作業ヘッドをX方向移動装置によりX方向へ実際に移動させた場合に測定した走行音の周波数特性を示すグラフである。
【
図11】ベースのモーダル解析の結果を説明するための模式図、及びグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(1.部品装着機10の構成)
以下、本開示に係わるリニアモータを実施するための一実施例として、
図1に示す部品装着機10について、図を参照しつつ詳しく説明する。
図1は、部品装着機10の斜視図を示している。
図2は、部品装着機10のブロック図を示している。尚、
図1、
図2は、部品装着機10の構成を簡略化して図示している。
【0011】
図1及び
図2に示すように、部品装着機10は、基板11に対する部品の装着作業を実行するための装置であり、ベース12、1台の作業ヘッド13、移動装置15、制御装置17(
図2参照)を備え、装置カバー14によって上方を覆われている。部品装着機10は、基板搬送保持装置20(
図2参照)によって基板11を搬送するとともに、所定の作業位置において、基板11を固定的に保持し、作業ヘッド13による部品の装着作業を実施する。尚、以下の説明において、基板11の搬送方向をY方向と称し、Y方向に直角な水平の方向をX方向と称し、X方向及びY方向に直角な鉛直方向をZ方向と称する。また、
図1は、XY方向へ移動する1台の作業ヘッド13を破線で示している。また、部品装着機10は、2以上の複数台の作業ヘッド13を備えても良い。
【0012】
ベース12は、部品装着機10を設置する生産工場等の設置面に配置されおり、複数の脚部によって立設している。ベース12は、作業ヘッド13、移動装置15を支持している。ベース12は、Y方向に搬送される基板11を生産ラインの下流側の装置との間で受け渡さすための搬送口12Aと、上流側の装置との間で受け渡たすための搬送口12B(
図3、
図4参照)が形成されている。尚、
図1は、一対の搬送口12A,12Bのうち、一方側の搬送口12Aのみを図示している。部品装着機10は、搬送口12Bを通じて上流側装置から基板11を搬入し、基板11に対する装着作業を実行した後、搬送口12Aを通じて下流側の装置へ基板11を搬出する。
【0013】
作業ヘッド13は、吸着ノズル(図示略)を有し、吸着ノズルによって部品を吸着保持する。移動装置15は、ベース12によって支持されており、一対のX方向移動装置18と、Y方向移動装置19を有している。移動装置15は、XYロボット型の移動装置である。一対のX方向移動装置18の各々は、X方向に沿ったX軸ガイドレール21と、X軸ガイドレール21に沿って移動するXスライド22とを備えている。Y方向移動装置19は、Y方向の両端を、一対のXスライド22のそれぞれによって支持されている。X軸ガイドレール21及びXスライド22は、リニアモータを構成しており、制御装置17の制御に基づいてXスライド22をX軸ガイドレール21に沿って移動させる。これにより、一対のX方向移動装置18は、Y方向移動装置19をX方向の任意の位置へ移動させることができる。尚、リニアモータの構成の詳細については、後述する。また、一対のX方向移動装置18の一方には、作業ヘッド13を制御装置17に接続するケーブル等を保護する保護部材23が設けられている。
【0014】
また、Y方向移動装置19は、Y方向に沿ったY軸ガイドレール25と、Y軸ガイドレール25に沿って移動するYスライド26と、保護部材27を備えている。Y軸ガイドレール25及びYスライド26は、リニアモータを構成しており、制御装置17の制御に基づいてYスライド26をY軸ガイドレール25に沿って移動させる。また、保護部材27は、作業ヘッド13を制御装置17に接続するケーブル等を保護するものである。
【0015】
作業ヘッド13は、Yスライド26に取り付けられている。従って、作業ヘッド13は、X方向移動装置18及びY方向移動装置19を駆動することで、XY方向の任意の位置に移動可能となっている。作業ヘッド13は、
図3に示すデバイスエリアと、
図4に示す基板エリアとで移動が可能となっている。尚、
図3及び
図4は、
図1に示す装置カバー14等の図示を省略し、
図1とは反対側の作業ヘッド13側から見た斜視図を示している。部品装着機10は、部品を供給する部品供給装置29(
図2参照)を備えている。部品供給装置29は、例えば、X方向におけるベース12の一端に装着される複数の供給装置を備えている。ここでいう供給装置とは、テープフィーダやトレイ型供給装置などの部品を供給する装置である。部品装着機10は、部品供給装置29から供給された部品を作業ヘッド13の吸着ノズルで吸着し、基板11に装着する。部品としては、電子回路部品、太陽電池の構成部品,パワーモジュールの構成部品等が挙げられる。
【0016】
デバイスエリアは、例えば、作業ヘッド13の移動範囲のうち、X方向の外側(端部又はそれに近い範囲)であり、部品供給装置29(
図2参照)から作業ヘッド13へ部品を供給するエリアである。基板エリアは、作業ヘッド13の移動範囲のうち、X方向の中央となる範囲であり、基板搬送保持装置20(
図2参照)によって所定の作業位置まで搬送された基板11(
図1参照)に対して作業ヘッド13により部品の装着を実行するエリアである。作業ヘッド13は、デバイスエリア及び基板エリアの各々において、X方向及びY方向の任意の位置に移動可能となっている。また、作業ヘッド13は、Yスライド26に対し着脱可能に装着され、交換可能となっている。また、部品装着機10は、作業ヘッド13を上下方向に移動させるZ方向移動装置(図示略)を有し、Z方向移動装置によって作業ヘッド13を上下方向に移動させることができる。
【0017】
また、
図2に示すように、部品装着機10の制御装置17は、コントローラ31、複数の駆動回路32を備えている。複数の駆動回路32は、上記した基板搬送保持装置20、移動装置15、作業ヘッド13、部品供給装置29に接続されている。コントローラ31は、CPU,ROM,RAM等を備え、コンピュータを主体とするものであり、複数の駆動回路32に接続されている。これにより、コントローラ31は、基板搬送保持装置20、移動装置15、部品供給装置29等の動作を、制御可能となっている。本実施例の部品装着機10は、上述した構成により基板11に対して部品の装着作業を実行する。具体的には、制御装置17は、基板搬送保持装置20を制御して基板11を所定の作業位置まで搬送させ、基板搬送保持装置20により基板11を固定的に保持する。制御装置17は、部品供給装置29を制御し、所定の供給位置に部品を供給させる。制御装置17は、X方向移動装置18及びY方向移動装置19を制御して作業ヘッド13を供給位置へ移動させ部品を吸着ノズルによって吸着保持させる。制御装置17は、X方向移動装置18及びY方向移動装置19を制御して作業ヘッド13を基板11の位置まで移動させ、基板11に部品を装着させる。これにより、基板11に対する部品の装着作業を行なうことができる。
【0018】
(2.リニアモータの構成)
次に、上記した部品装着機10のX方向移動装置18やY方向移動装置19に用いられるリニアモータの構成について説明する。以下の説明では、リニアモータの構成の説明として、X方向移動装置18の構成について説明する。尚、Y方向移動装置19についても、X方向移動装置18と同様に、後述するリニアモータ40の磁石44の配置等を採用することで、同様の効果を奏する。
【0019】
図5は、一対のX方向移動装置18のうち、一方(例えば、
図1の左側)のX方向移動装置18の構成の一部を示している。
図5に示すように、X方向移動装置18は、リニアモータ40を有している。リニアモータ40は、X軸ガイドレール21に設けられた固定子41と、Xスライド22に設けられた可動子42を有している。
図6は、Y方向から見たリニアモータ40の構成を示す模式図である。尚、一対のX方向移動装置18のうち、もう一方(
図1の右側)のX方向移動装置18についても左側のX方向移動装置18と同様の構成となっている。
【0020】
図5及び
図6に示すように、本実施例のリニアモータ40は、例えば、ムービングコイル方式の所謂F型(フラット型、対向型とも言い得る)のリニアモータである。リニアモータ40は、固定子41に対して可動子42をX方向へスライド移動させることで、Y方向移動装置19をX方向へ移動させる。
【0021】
固定子41は、レール部43と、複数の磁石44を有している。レール部43は、X方向に延びる枠形状をなしている。複数の磁石44の各々は、例えば、Y方向に延びる長方形の板状をなし、レール部43の枠内に配置(収容)されている。レール部43は、例えば、収容した磁石44を露出させる開口を上部に形成され、X方向に垂直な平面で切断した断面形状が略U字形状をなしている。レール部43は、X方向と平行な溝を構成し、その溝内に複数の磁石44を収容している。複数の磁石44は、X方向に沿って、即ち、可動子42の移動方向に沿って不等なピッチ45で並んで配置されている。複数の磁石44は、互いに同一形状をなし、X方向に沿って不等な間隔に並んでいる。ピッチ45の詳細については後述する。また、
図5及び
図6は、図面が煩雑となるのを避けるため、ピッチ45を同一ピッチで図示しているが、実際には、後述する
図7に示すように、数mm単位等で不等なピッチ45(第1~第4ピッチ45A~45D)となっている。尚、複数の磁石44は、互いに異なる形状でも良い。
【0022】
図3及び
図4に示すように、ベース12は、Y方向の両端であって、X方向、即ち、可動子42の移動方向における中央の上部に搬送口12A,12Bがそれぞれ形成されている。ベース12は、X方向における両側でレール部43を下方から支持している。搬送口12A,12Bの各々の上部は、X軸ガイドレール21のレール部43(固定子41)によって閉塞されている。従って、一対のX方向移動装置18のレール部43は、搬送口12A,12Bの各々において、X方向の両側を支えられるようにして橋のように渡されている。また、例えば、X方向に沿った搬送口12A,12Bの幅16(
図3参照)は、X方向において搬送口12A,12Bの両側に設けられたベース12(レール部43を支持する部分)のX方向に沿った幅24(
図3参照)と略同一となっている。このため、幅16は、ベース12のX方向に沿った両端の長さを3等分した長さと略同一である。
【0023】
複数の磁石44の各々は、Z方向で可動子42と対向する上面においてN極、S極が交互に現れるように、X方向において隣り合うものが互いに異なる極性(N極及びS極)となっている。換言すれば、複数の磁石44は、X方向に沿って交互に異なる極性となるように配置されている。複数の磁石44の上面は、例えば、X方向及びY方向に平行な平面に沿って、同一平面上に位置している。尚、
図5、
図6、及び後述する
図7は、説明の便宜上、極性の異なる磁石44を、ハッチングを付して区別できるように図示している。例えば、N極にハッチングを付している。
【0024】
図5及び
図6に示すように、可動子42は、ケース47と、コア48と、コイル49を有している。ケース47は、例えば、X方向に長い箱形形状をなしており、Y方向移動装置19の下部を支持している。ケース47内には、コア48及びコイル49が配置されている。コア48は、例えば、電磁鋼板を積層して形成され、基部48A(
図6参照)と、複数の被巻回部48Bを有している。尚、コア48は、積層体に限定されず、鉄粉等の磁性紛体を焼結等によって固めて形成した成型体でも良い。
【0025】
基部48Aは、例えば、Z方向から見た場合に、X方向に長い平板状をなしており、下面に複数(本実施例では9つ)の被巻回部48Bが設けられている。複数の被巻回部48Bの各々は、基部48Aの下面から下方に突出し、X方向に薄く、Y方向に長い板状をなしている。複数の被巻回部48Bの各々には、コイル49が巻き付けられている。被巻回部48Bに巻き付けられたコイル49は、Z方向において、磁石44と対向する位置に配置されている。例えば、被巻回部48B及びコイル49は、ケース47の下面から露出しており、Z方向において、下方の磁石44と所定の隙間52(
図6参照)を間に設けて対向して配置されている。尚、
図5は、ケース47の一部(上面など)を省略して図示している。また、
図5は、被巻回部48B及びコイル49の位置で切断した状態を示している。
【0026】
また、X方向移動装置18は、コイル49に電力を供給する給電レール部51を有している。給電レール部51は、X軸ガイドレール21の側方(例えば、Y方向の内側)において、X方向に沿って配設されている。可動子42のコイル49は、給電部53を介して給電レール部51に電気的に接続されている。給電部53は、可動子42のスライド移動において、給電レール部51に摺動して電力を受電し、コイル49に電力を供給する。尚、コイル49へ電力を供給する方法は、給電レール部51及び給電部53を用いる方法に限らない。例えば、X方向移動装置18は、レール部43から非接触給電によりコイル49へ電力を供給しても良い。
【0027】
制御装置17は、駆動電力として、複数のコイル49の各々に三相(U相、V相、W相)の交流の電力を供給する。9つの被巻回部48Bに巻き付けられたコイル49の各々には、例えば、
図6に示すように、X方向に並ぶ順番に、U相、V相、W相の各相(各相3つずつ)の交流電力が供給される。被巻回部48B及びコイル49は、交流電力の通電に応じて磁界を発生させ(N極及びS極を誘起され)、固定子41の磁石44との間に磁気吸引力、磁気反発力、推進力を発生させる。従って、被巻回部48B及びコイル49は、コイル49に電力を供給されることで、可動子磁石として機能する。可動子42は、被巻回部48B及びコイル49と、磁石44との間に生じる磁気吸引力及び磁気反発力に基づく推進力によりX方向へ移動する。制御装置17は、コイル49に通電する三相の交流の電圧や電流を制御することで、コイル49によって形成する磁界、即ち、可動子42を移動させる方向や速度を制御する。
【0028】
例えば、各相の3つのコイル49は、互いに並列に接続され、各相の交流電圧が印加される。また、複数の被巻回部48Bの各々は、X方向に沿って、同じピッチ55で並んで配置されている。具体的には、例えば、各相のコイル49は、複数の被巻回部48Bの各々において、同一の巻数で巻き付けられている。複数の被巻回部48BのX方向における幅61は、互いに同一となっている。また、X方向における隣り合う2つのコイル49間の距離62は、全て同一となっている。従って、X方向において、任意の相のコイル49及び被巻回部48Bから、隣に配置された別の相のコイル49及び被巻回部48Bまでの距離であるピッチ55は、全て同一となっている。
【0029】
尚、上記した可動子42の構成は、一例である。ピッチ55、幅61、距離62の少なくとも1つを、相や被巻回部48Bの位置によって異なる値としても良い。例えば、X方向における内側のピッチ55を広くし、外側のピッチ55を狭くしても良い。これにより、X方向の外側の磁束密度を高くし、磁界の強度をより均一にできる。あるいは、ピッチ55は、後述する磁石44のピッチ45と同じ不等ピッチでも良い。この場合、逆に、ピッチ45を等ピッチとしても良い。また、複数のコイル49の巻数を、相や被巻回部48Bの位置によって異なる巻数としても良い。例えば、X方向の外側のコイル49の巻数を内側のコイル49の巻数よりも多くしても良い。これにより、X方向の外側の巻数を多くして端部側の磁界の強さを強くし、全体として磁界の強度をより均一にできる。また、コイル49の線径を、相や被巻回部48Bの位置で異なる太さとしても良い。例えば、X方向における両端の各々に設けられた一対の被巻回部48B(
図6の最も左のU相及び最も右のW相)に巻き付けられたコイル49を構成している巻線の線径のみを、他の被巻回部48Bのコイル49の線径に比べて太くしても良い。これにより、X方向の端部のコイル49は、線径を相対的に太くされることで、抵抗値が下がり、電流がより多く流れる。その結果、端部のコイル49が発生させる磁界の強度を相対的に大きくできる。可動子42の全体において、複数のコイル49及びコア48が発生させる磁界の強度をより均一にし、推力リップルを抑制できる。
【0030】
ここで、リニアモータは、動作に伴う磁気吸引力や推進力の増減が発生し、装置の振動や騒音を招く恐れがある。振動や騒音の対策方法として、固定子41の取り付け面の剛性を向上させる方法や、スライド機構の剛性を向上させる方法を採用した場合、製造コストの増加や、重量の増加を招く恐れがある。また、固定子41側の磁石44を、可動子42側の磁石(被巻回部48Bやコイル49)に対して傾ける(角度を付けた状態で配置する)方法を採用した場合や、固定子41と可動子42の間の隙間52を広げる方法を採用した場合、リニアモータ40の効率の低下を招く恐れがある。
【0031】
そこで、本実施例のリニアモータ40では、可動子42の走行時における磁気吸引力(磁気反発力)及び推進力の変動に含まれる周波数成分に基づいて、
図7に示す不等なピッチ45(後述する第1~第4ピッチ45A~45D)で磁石44を配置している。ここで、本開示において、推進力とは、例えば、可動子42を移動させる力、即ち、可動子42に対してX方向と平行な方向に作用する力である。従って、推進力の方向である推進力方向とは、X方向と平行な前後方向である。また、磁気吸引力とは、可動子42を固定子41に引き付ける力、即ち、可動子42に対してZ方向と平行な下方に作用する力である。また、磁気反発力とは、可動子42を固定子41から離す力、即ち、可動子42に対してZ方向と平行な上方に作用する力である。磁気吸引力及び磁気反発力は、推進力方向に直交する方向に作用する力であり、互いに反対方向に作用する正負の関係の力である。このため、以下の説明では、磁気反発力を含めて磁気吸引力と記載する場合がある。従って、磁気吸引力が作用する方向である吸引力方向とは、Z方向と平行な上下方向である。
【0032】
図8は、作業ヘッド13をX方向移動装置18によってX方向に移動させた場合の可動子42に発生する吸引力方向の電磁力を磁気解析(シミュレーション)した結果を示している。例えば、
図8は、Z方向の下方に作用する電磁力(磁気吸引力)を正として示している。作業ヘッド13の移動速度としては、例えば、実際に基板11に対する作業を実行する場合の移動速度(平均速度など)を採用した。
図8の上のグラフは、磁石44を等ピッチ、即ち、全てのピッチ45を同一にして配置した場合の磁気解析の結果を示している。また、下のグラフは、本実施例の不等なピッチ45、即ち、上記した
図7に示す第1~第4ピッチ45A~45Dで磁石44を配置した場合の磁気解析の結果を示している。また、
図8の大きいグラフの横軸は、時間(秒)を、縦軸は、その時間に発生した電磁力の変動の大きさ(N)を示している。
【0033】
また、
図8の大きいグラフ内に示す小さいグラフは、大きいグラフに示す力の変動に含まれる周波数成分を示している。例えば、磁気吸引力の変動に含まれる周波数成分をフーリエ解析によって解析した結果であり、横軸は、周波数(Hz)を、縦軸は、その周波数における波形の振幅の大きさ[N]を示している。
図8の上のグラフに示すように、等ピッチで配置した場合の磁気吸引力の変動には、各周波数の成分が含まれている。小さいグラフに示すように、含まれている周波数成分のうち、約200Hzの周波数成分の振幅が最も大きくなっている。
【0034】
また、
図9は、作業ヘッド13をX方向移動装置18によってX方向へ移動させた場合の可動子42に発生する推進力方向の電磁力を磁気解析(シミュレーション)した結果を示している。作業ヘッド13の移動速度は、例えば、
図8と同様に実際の装着時の速度である。
図9の上のグラフは、
図8と同様に等ピッチの場合を、下のグラフは、本実施例の不等なピッチ45の場合の磁気解析結果を示している。尚、
図9の大小のグラフの関係は、
図8と同様であるため、その説明を省略する。
図9の上のグラフに示すように、等ピッチで配置した場合の推進力についても、含まれている周波数成分のうち、約200Hzの周波数成分の振幅が最も大きくなっている。即ち、本実施例の部品装着機10の構成では、磁気吸引力及び推進力ともに装着作業の動作時に発生する力の変動における主要な周波数(振幅が最大の周波数)が、200Hzとなっている。この200Hzは、固定子41の磁石44のピッチ45等に起因している。そこで、本実施例では、ピッチ45を不等ピッチとすることで、推進力を維持して移動速度を維持しつつ、振動や騒音を低減することが可能となっている。
【0035】
さらに、
図10は、作業ヘッド13をX方向移動装置18によりX方向へ実際に移動させた場合に測定した走行音の周波数特性を示している。走行音の測定は、
図3に示すデバイスエリアと、
図4に示す基板エリアのそれぞれを対象に、騒音計を用いて測定した。
図10の実線のグラフは、デバイスエリアの測定結果を、一点鎖線のグラフは、基板エリアの測定結果を示している。また、
図10の横軸は、走行音に含まれる周波数(周波数成分)を示しており、縦軸は、その周波数における音のレベル(大きさ)を[dB]で示している。
【0036】
図10は、測定した走行音を周波数解析することで、リニアモータ40から発生する走行音の周波数の特性を示している。
図10に示すように、基板エリアの走行音は、200Hz付近において音レベルが最も大きくなっている。換言すれば、基板エリアの走行音が大きくなる原因として、200Hz付近の成分によるものが考えられる。上記したように、本実施例のXスライド22は、基板エリア(搬送口12A,12B)においてレール部43をベース12によって橋のように支持されている(
図3及び
図4参照)。このため、走行時に特定の周波数(例えば、200Hz)を成分とする振動や騒音が発生する可能性がある。
【0037】
また、
図11は、本実施例のベース12をモーダル解析した結果を示している。
図11に示すように、搬送口12A,12Bに複数(例えば、各6個の合計12個)のセンサ67(振動センサなど)を取り付け、X方向やY方向にハンマリング(ハンマによる加振)を実施し、ベース12の特徴的な振動数(共振振動数、固有振動数など)を測定した。
図11の左側の模式図は、ハンマリング前の状態を示しており、右側の模式図は、X方向(可動子42の移動方向)に加振した時に搬送口12A,12B(基板エリア)に発生した振動の様子を示している。右側の模式図に示すように、移動方向の振動が発生した場合に、移動方向(X方向)の中央部分(搬送口12A,12Bの中央上部となるレール部43)に強い振動が発生している。この固有振動を解析したところ、
図11のグラフに示すように、約210Hzの周波数で振幅がピーク69となり大きくなっている。従って、磁気解析、走行音の解析、モーダル解析の3つの異なる解析を実施し全てが略同一の周波数(200Hz近傍の周波数)が原因であることが判明した。これは、
図3及び
図4に示すように、基板11が通過可能な穴(搬送口12A,12B)をベース12に確保したことで、レール部43(リニアモータ40)の搬送口12A,12Bにおける剛性が、他のベース12で支持されている部分の剛性に比べて低下したことが一つの要因と考えられる。
【0038】
そこで、本開示の発明者らは、この約200Hzの周波数成分を対象(低減するターゲット)として設定し、その周波数成に起因した振動・騒音を低減するように、磁石44のピッチ45について鋭意検討した。その結果、
図7に示す不等な第1~第4ピッチ45A~45Dを導き出すことに成功した。従って、本実施例のリニアモータ40では、可動子42の走行時における磁気吸引力及び推進力の変動に含まれる周波数成分に基づいて、
図7に示す不等な第1~第4ピッチ45A~45Dで磁石44を配置している。
【0039】
図7は、磁石44の配置を示している。以下の説明では、
図7に示すように、X方向における一方側(
図7の左側)から他方側(
図7の右側)へ並ぶ順に複数の磁石44の各々を、第1磁石44A、第2磁石44B、第3磁石44C、第4磁石44D、と称して説明する。また、第1~第4磁石44A~44Dを総称する場合は、磁石44と記載する。後述する第1~第4ピッチ45A~45Dについても同様である。第1~第4磁石44A~44Dは、X方向において、この順番に繰り返し並んで配置されている。第1磁石44Aは、第3磁石44Cと同極(例えば、N極)である。X方向における第1~第4磁石44A~44Dの幅64は、互いに同一となっている。磁石44の幅64は、例えば、数十mmである。
【0040】
第2磁石44Bは、第1磁石44Aとは異なる極性(例えば、S極)で、且つ、第4磁石44Dと同極である。第2磁石44Bは、第1幅65Aを間に設けて第1磁石44Aの隣に配置されている。第3磁石44Cは、第2幅65Bを間に設けて第2磁石44Bの隣に配置されている。第4磁石44Dは、第3幅65Cを間に設けて第3磁石44Cの隣に配置されている。そして、第1磁石44Aは、第4幅65Dを間に設けて第4磁石44Dの隣に配置されている。第1幅65Aは、第3幅65Cと同一である。第1幅65A及び第3幅65Cは、例えば、数mmである。また、第2幅65Bは、第1幅65Aに比べて大きくなっている。第4幅65Dは、第1幅65Aに比べて小さくなっている。そして、第1幅65A(第3幅65C)と第2幅65Bとの差(第2幅65Bから第1幅65Aを減算した値)が、第4幅65Dと第1幅65Aとの差(第1幅65Aから第4幅65Dを減算した値)と同一となっている。第1幅65A(第3幅65C)と第2幅65Bとの差は、例えば、0.数mm(=第2幅65B-第1幅65A)である。
【0041】
尚、上記した各長さや幅の数値・単位は、一例であり、リニアモータ40が備える各装置の大きさ、構造等に応じて適宜変更される。また、第1幅65Aは、第3幅65Cと略同一でも良い。また、第1幅65A(第3幅65C)と第2幅65Bとの差は、第4幅65Dと第1幅65Aとの差と略同一でも良い。本開示において略同一とは、例えば、同一ではないものの、同一とした場合と同等の効果(振動を低減する効果など)を図れる範囲の差(微細な差)を含む概念である。従って、略同一には、製造上の精度の誤差の範囲だけでなく、効果として同等の効果を奏する範囲を含んでいる。他の幅(第1ピッチ45Aと第3ピッチ45Cなど)の同一、略同一についても同様である。また、上記した磁石44の配置は一例である。例えば、第1幅65A(第3幅65C)と第2幅65Bとの差が、第4幅65Dと第1幅65Aとの差と異なっていても良い。
【0042】
従って、第1磁石44Aのピッチ45である第1ピッチ45Aと、第3磁石44Cのピッチ45である第3ピッチ45Cとは同一である。第1ピッチ45Aは、第1磁石44Aの幅64に第1幅65Aを加算した幅である。同様に、第3ピッチ45Cは、第3磁石44Cの幅64に第3幅65Cを加算した幅である。第2ピッチ45B及び第4ピッチ45Dの定義も同様である。従って、第2磁石44Bのピッチ45である第2ピッチ45Bは、第1ピッチ45Aに比べて大きい。具体的には、上記した第1幅65Aと第2幅65Bとの差だけ、第2ピッチ45Bが第1ピッチ45Aに比べて大きくなっている。また、第4磁石44Dのピッチ45である第4ピッチ45Dは、第1ピッチ45Aに比べて小さい。具体的には、上記した第4幅65Dと第1幅65Aとの差だけ、第4ピッチ45Dが第1ピッチ45Aに比べて小さくなっている。このため、ピッチ45の関係は、第2ピッチ45B>第1ピッチ45A=第3ピッチ45C>第4ピッチ45Dとなっている。
【0043】
このような第1~第4ピッチ45A~45Dとすることで、
図8の下の図に示すように、約200Hzの成分は、吸引力方向で約44%も低減することができた。また、
図9の下の図に示すように、推進力方向では、約200Hzの成分を約40%も低減することができた。約200Hzの振動成分を低減させることでベース12の基板エリアの振動を大幅に低減できる。さらに、
図9に示すように、推進力全体としては、変更前の等ピッチの状態と略同一の推進力を維持できた。最も振幅の大きい約200Hzに起因した振動・騒音を抑制できただけでなく、必要な推進力を確保することができている。
【0044】
従って、本実施例の第1~第4磁石44A~44Dは、可動子42の走行時における磁気吸引力及び推進力の変動に含まれる周波数成分のうち、力の振幅のピークが発生した位置の周波数成分を抑制する不等ピッチで配置されている。これにより、特定のピークが発生している周波数成分を対象として振動・騒音の抑制を図ることができる。装置の構造等に起因した特有の固有振動や特定の音を抑制することができる。本実施例であれば、上記した通り搬送口12A,12Bの構造に起因した振動や、基板エリアに発生する騒音について、約200Hzの振動や音を抑制できる。尚、本実施例では、
図8に示す磁気吸引力と、
図9に示す推進力の両方を対象として、力の振幅のピークが発生した位置の周波数成分を抑制する不等ピッチとしたが、2つの力のうち、少なくとも一方を対象とした不等ピッチとしても良い。例えば、2つの力のうち、振幅がより大きい力を対象に絞って、その最大振幅の周波数を対象に磁石44を不等ピッチとしても良い。
【0045】
また、第1~第4磁石44A~44Dは、磁気吸引力及び推進力の変動に含まれる周波数成分のうち、力の振幅が最も大きい周波数成分(本実施例では200Hzの成分)を抑制する不等ピッチで配置されている。これにより、振動や騒音を発生させている周波数として、最も影響が大きい周波数を抑制し、振動や騒音を効果的に抑制できる。尚、ピッチ45を、力の振幅が最も大きい周波数成分を対象として設定しなくとも良い。例えば、ピッチ45を、磁気吸引力や推進力の変動に含まれる周波数成分のうち、力の振幅が2番目に大きい周波数成分を対象として設定しても良い。
【0046】
また、
図7に示す第2幅65Bが、第1幅65Aに比べて大きく、第4幅65Dが、第1幅65Aに比べて小さくなっている。このように交互にピッチ45を変更することで、不等ピッチによる可動子42の可動子磁石(三相のコイル49)に対する磁気的な不平衡を低減することができる。即ち、不等ピッチとして振動や騒音の低減を図りつつ、可動子42との磁気的なバランスを維持することで、結果として推進力を維持できる。尚、
図7に示すピッチ45は、一例である。可動子42の走行時における磁気吸引力及び推進力のうち、少なくとも一方の力の変動に含まれる周波数成分に基づいて不等なピッチ45を適宜設定しても良い。このため、リニアモータ40やそれを支持するベース12等の構造・特徴に起因した振動等を抑制するピッチ45としても良い。周波数成分に基づく不等ピッチであれば、第2幅65B及び第4幅65Dの両方が、第1幅65Aに比べて小さくとも良く、第2幅65B及び第4幅65Dの両方が、第1幅65Aに比べて大きくとも良い。また、第2幅65B又は第4幅65Dの一方が第1幅65Aと同一でも良い。
【0047】
さらに、第1幅65Aと第2幅65Bとの差が、第4幅65Dと第1幅65Aとの差と等しくなっている。これにより、不等ピッチによる可動子42の可動子磁石に対する磁気的な不平衡をより低減できる。尚、第1幅65Aと第2幅65Bとの差が、第4幅65Dと第1幅65Aとの差と異なっていても良い。
【0048】
また、上記したように、仮に、複数の磁石44を略等ピッチで配置した場合の推進力を第1推進力とした場合、複数の磁石44を不等ピッチで配置した場合の推進力は、第1推進力と略同一となっている。例えば、
図9では、推進力方向の電磁力が全体として若干だけ下がっているものの、
図8に示す磁気吸引力が維持されることで、可動子42を移動させる力は、不等ピッチとした場合にも、等ピッチの場合と同等の力(所望の速度やトルク)を得ることができている。即ち、略同一と言えるほど、移動に必要な推進力を確保できている。これにより、必要な推進力を維持しつつ、振動や騒音を抑制できる。
【0049】
また、複数の被巻回部48B及びコイル49は、
図6に示すように、可動子42の移動方向に並んで配置され、略一定のピッチ55で配置されている。これにより、固定子41の不等ピッチに対し、可動子42を等ピッチとすることで、磁気的な不平衡の発生を抑制できる。
【0050】
また、ベース12は、リニアモータ40を支持し、基板11を搬送する搬送口12A,12Bが形成されている(
図3、
図4参照)。作業ヘッド13は、可動子42に搭載され、可動子42の移動に合わせて移動し、基板11に対する装着作業を実行する。このような構成では、作業ヘッド13の移動にともなって、搬送口12A,12Bにおいて特定の周波数成分の振動や騒音が発生する。このため、上記した特定の周波数成分を対象として磁石44を不等ピッチとすることは、搬送口12A,12Bを形成したベース12でリニアモータ40を支持する部品装着機10において極めて有効である。
【0051】
また、上記したように、磁気吸引力及び推進力の変動における振幅が最も大きい周波数成分の周波数が、ベース12をモーダル解析した場合に搬送口12A,12Bに発生する振動に含まれる周波数成分のうち、振幅のピークが発生した位置の周波数と略同一である(
図11参照)。これにより、可動子42の磁気吸引力及び推進力の変動に含まれる振幅が最も大きい周波数成分と、作業ヘッド13の移動によって搬送口12A,12Bに発生する力の変動に含まれる振幅が最も大きい周波数成分とをまとめて抑制することができる。影響が大きい最大振幅の周波数を揃えることで、不等ピッチによる抑制効果をより発揮させることができる。
【0052】
また、ベース12は、可動子42の移動方向における中央に搬送口12A,12Bが形成され、移動方向における両側でレール部43を下方から支持している。搬送口12A,12Bの上部は、レール部43によって閉塞されている。これにより、基板11を搬入・搬出するのに必要な開口の大きさを確保するとともに、レール部43を搬送口12A,12Bの一部として流用することで、装置の小型化を図ることができる。そして、この橋を渡すような構造において、磁石44を不等ピッチとし、特有の振動等を抑制できる。
【0053】
また、一対のX方向移動装置18の両方は、
図5に示すように、同じ態様で第1~第4ピッチ45A~45Dで第1~第4磁石44A~44Dが配置されている。このため、2つのリニアモータ40が同一構成となっている。従って、部品装着機10は、リニアモータ40として、一対のX方向移動装置18のそれぞれにリニアモータ40(本開示の第1リニアモータ、第2リニアモータの一例)を備えている。ベース12は、各リニアモータ40を支持し、基板11を搬送する搬送口12A,12B(本開示の第1搬送口、第2搬送口の一例)がそれぞれ形成されている。作業ヘッド13は、2つのリニアモータ40の各々の可動子42の両方に搭載され、2つの可動子42の移動に合わせてX方向へ移動する。そして、2つのリニアモータ40の各々が有する複数の第1~第4磁石44A~44Dは、2つのリニアモータ40で互いに同じ不等ピッチの第1~第4ピッチ45A~45Dで配置されている。これにより、一対のX方向移動装置18の両方で作業ヘッド13を支える構成において、磁気吸引力及び推進力に含まれる特定の周波数成分を両方のX方向移動装置18で抑制できる。従って、一対のX方向移動装置18で、可動子42を安定して走行させることができる。尚、一対のX方向移動装置18は、互いに異なるピッチ45でも良い。また、Y方向移動装置19のリニアモータについても、
図5に示すリニアモータ40(X方向移動装置18)と同様の不等ピッチの構成を採用することで、振動及び騒音の低減を図ることができる。
【0054】
(3.リニアモータ40の製造方法)
次に、上記した構成のリニアモータ40の製造方法について説明する。まず、例えば、上記した通り、磁気解析、走行音解析、モーダル解析によって振動・騒音の主な原因となる周波数、即ち、対象の周波数を設定する。磁石44を不等ピッチとしながら、対象となる周波数の低減状況や騒音を確認する。この際、可動子42の可動子磁石を等ピッチで維持する。例えば、第1幅65Aと第3幅65Cを同一としたまま、第2幅65Bを第1幅65Aに比べて所定幅だけ大きくし、その増加分の所定幅だけ第4幅65Dを第1幅65Aに比べて小さくする。そして、第1幅65Aと第2幅65Bの差を、第4幅65Dと第1幅65Aの差と等しい状態で、二つの差を同様に増減させつつ、対象の周波数成分の低減状態を確認する。これにより、対象の周波数成分が最も抑制できる不等ピッチを導き出すことができる。確認した不等な第1~第4ピッチ45A~45Dで磁石44を並べてレール部43に収納することで、振動・騒音を低減できるリニアモータ40を製造できる。
【0055】
因みに、上記実施例において、部品装着機10は、本開示の対基板作業機の一例である。搬送口12A,12Bは、第1搬送口、第2搬送口の一例である。作業ヘッド13は、作業部の一例である。磁石44は、固定子磁石、第1~第4固定子磁石の一例である。第1磁石44Aは、本開示の固定子磁石、第1固定子磁石の一例である。第2磁石44Bは、本開示の固定子磁石、第2固定子磁石の一例である。第3磁石44Cは、本開示の固定子磁石、第3固定子磁石の一例である。第4磁石44Dは、本開示の固定子磁石、第4固定子磁石の一例である。被巻回部48B及びコイル49は、可動子磁石の一例である。一対のX方向移動装置18のそれぞれに設けられたリニアモータ81は、第1リニアモータ、第2リニアモータの一例である。X方向は、移動方向の一例である。
【0056】
(4.効果)
上記した本実施例では、以下の効果を奏する。
本実施例の一態様では、第1~第4磁石44A~44Dは、可動子42の走行時における磁気吸引力及び推進力の変動に含まれる周波数成分に基づく不等ピッチで配置されている。これにより、磁気吸引力及び推進力に含まれる特定の周波数成分を抑制でき、可動子42の走行時の振動を低減できる。
【0057】
(5.その他)
尚、本願は、上記実施例に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することが可能である。
例えば、上記実施例では、本開示のリニアモータとして、コイル49を可動子42に取り付ける、所謂ムービングコイル方式のリニアモータ40を採用したが、可動子42に磁石44を取り付けた所謂ムービングマグネット方式のリニアモータでも良い。この場合、固定子41側のコイル49を、上記実施例の第1~第4ピッチ45A~45Dのように不等ピッチとしても良い。
また、上記実施例の被巻回部48Bやコイル49の数は一例であり、適宜変更可能である。
また、上記実施例では、固定子磁石である磁石44の第1~第4ピッチ45A~45Dを不等ピッチとしたが、可動子42のコイル49(被巻回部48B)のピッチ55を、磁気吸引力、推進力に基づいて不等ピッチとしても良い。また、第1~第4ピッチ45A~45Dとピッチ55の両方を不等ピッチとしても良い。従って、本開示の内容は、複数の固定子磁石、及び、複数の可動子磁石の少なくとも一方を、可動子の走行時における磁気吸引力及び推進力のうち、少なくとも一方の力の変動に含まれる周波数成分に基づく不等ピッチで配置しても良い。
【0058】
また、上記実施例では、本開示のリニアモータ40として、F型のリニアモータを採用したが、これに限らない。本開示のリニアモータ40としては、例えば、
図12に示す所謂T型のリニアモータ71や
図13に示すシャフト型のリニアモータ81を採用できる。尚、以下の説明では、上記した実施例と同様の構成については同一符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0059】
図12に示すように、リニアモータ71は、X方向に延びる固定子72と、キャリア73を有している。キャリア73は、本開示の可動子の一例である。固定子72は、Y方向で対向する一対の側壁74を有する。尚、
図12は、一対の側壁74のうち、手前側の側壁74の図示を省略している。一対の側壁74は、X方向に延び、Y方向の内側に複数の磁石44が配置されている。また、キャリア73には、Y方向の両側であって、磁石44と対向する位置に、複数組の被巻回部48B及びコイル49が設けられている。複数組の被巻回部48B及びコイル49は、X方向に並んで配置されている。リニアモータ71は、例えば、複数のコイル49の各々に三相交流電力を供給することで、キャリア73をX方向に移動させる。このようなT型のリニアモータ71においても、X方向に並ぶ複数の磁石44のピッチ45を上記した実施例のように不等ピッチとしても良い。これにより、推進力を維持しつつ、振動・騒音を抑制できる。
【0060】
図13は、シャフト型(円筒型とも言い得る)のリニアモータ81の断面を示している。
図13に示すように、リニアモータ81は、シャフト状の固定子82を備えている。固定子82には、軸方向に並ぶ複数の磁石83が設けられている。複数の磁石83は、スペーサ84を間に挟んで配置され、N極とS極の磁束を交互に発生する構成となっている。固定子82の外側には、可動子86が軸方向(
図13の左右方向)に可動可能に設けられている。可動子86には、複数組の被巻回部48B及びコイル49が軸方向に並んで設けられている。リニアモータ81は、例えば、可動子86に設けた磁気センサ(図示略)で固定子82の磁極の位置を検出してコイル49への通電を切り換えることで可動子86を固定子82に沿って直線駆動する。このようなシャフト型のリニアモータ81においても、軸方向に並ぶ複数組の磁石83及びスペーサ84を調整し、磁石83のピッチ45を上記した実施例のように不等ピッチとしても良い。これにより、推進力を維持しつつ、振動・騒音を抑制できる。
【0061】
上記実施例では、本開示の対基板作業機として、基板11に部品を実装する部品装着機10を採用したが、これに限らない。本開示の対基板作業機としては、基板11にクリームはんだを塗布するスクリーン印刷機、基板11に装着された電子部品を検査する検査装置、基板11に塗布されたクリームはんだを加熱して溶融させるリフロー炉など、基板11に各種の作業を実行する作業機を採用できる。このような各対基板作業機においてもリニアモータを搭載する場合、本開示の不等ピッチのリニアモータを採用することで、振動や騒音を低減できる。
【0062】
尚、本開示の内容は、請求項に記載の従属関係に限定されない。例えば、請求項4において「請求項1又は請求項2に記載のリニアモータ」を「請求項1から請求項3の何れか1項に記載のリニアモータ」に変更した技術思想についても、本明細書は開示している。また、例えば、請求項6において「請求項1又は請求項2に記載のリニアモータ」を「請求項1から請求項5の何れか1項に記載のリニアモータ」に変更した技術思想についても、本明細書は開示している。また、例えば、請求項7において「請求項1又は請求項2に記載のリニアモータ」を「請求項1から請求項6の何れか1項に記載のリニアモータ」に変更した技術思想についても、本明細書は開示している。また、例えば、請求項8において「請求項1又は請求項2に記載のリニアモータを備える対基板作業機」を「請求項1から請求項7の何れか1項に記載のリニアモータを備える対基板作業機」に変更した技術思想についても、本明細書は開示している。また、例えば、請求項10において「請求項8に記載の対基板作業機」を「請求項1又は請求項9に記載の対基板作業機」に変更した技術思想についても、本明細書は開示している。
【符号の説明】
【0063】
10 部品装着機(対基板作業機)、11 基板、12 ベース、12A,12B 搬送口(第1搬送口、第2搬送口)、13 作業ヘッド(作業部)、40,71,81 リニアモータ(第1リニアモータ、第2リニアモータ)、43 レール部、44,83 磁石(固定子磁石、第1~第4固定子磁石)、44A 第1磁石(固定子磁石、第1固定子磁石)、44B 第2磁石(固定子磁石、第2固定子磁石)、44C 第3磁石(固定子磁石、第3固定子磁石)、44D 第4磁石(固定子磁石、第4固定子磁石)、41,72,82 固定子、42,86 可動子、45 ピッチ、45A~45D 第1~第4ピッチ(ピッチ)、48B 被巻回部(可動子磁石)、49 コイル(可動子磁石)、55 ピッチ、65A 第1幅、65B 第2幅、65C 第3幅、65D 第4幅、73 キャリア(可動子)。