(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134568
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0587 20100101AFI20240927BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20240927BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20240927BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20240927BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240927BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240927BHJP
H01G 11/06 20130101ALI20240927BHJP
H01G 11/60 20130101ALI20240927BHJP
H01G 11/62 20130101ALI20240927BHJP
H01G 11/30 20130101ALI20240927BHJP
【FI】
H01M10/0587
H01M10/0569
H01M10/0568
H01M10/054
H01M10/052
H01M4/13
H01G11/06
H01G11/60
H01G11/62
H01G11/30
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044821
(22)【出願日】2023-03-21
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 政裕
【テーマコード(参考)】
5E078
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AA03
5E078AB06
5E078AB13
5H029AJ06
5H029AK03
5H029AL07
5H029AM03
5H029AM07
5H029BJ14
5H029HJ01
5H029HJ04
5H050AA12
5H050BA15
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB08
5H050DA03
5H050FA04
5H050FA05
5H050HA01
5H050HA04
(57)【要約】
【課題】捲回型の電極体内の負極活物質層における支持塩に由来する負極SEI被膜の生成が概ね均一で、抵抗増加を抑制された蓄電デバイスを提供する。
【解決手段】蓄電デバイス1は、エチレンカーボネート6VE及びエチレンカーボネートよりも融点の低い溶媒6VL、及び、Pを含有する支持塩6Sを含む電解液6と、帯状の正極板3、帯状でSEI被膜4ACが形成された負極活物質層4Aを有する帯状の負極板4、及び、帯状のセパレータ5を有し、電解液が内部に浸透した捲回型の電極体2と、電極体及び電解液を収容したケース7と、を備え、電極体は、負極活物質層の幅寸法AWが180mm以上であり、負極活物質層に形成されているSEI被膜4ACに含まれるP量MPは、負極活物質層の幅方向WHのうち端部4AEにおける端部P量MPEを基準として、幅方向WHの中央部4ATにおける中央部P量MPTが、端部P量MPEの90~105%である。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンカーボネート及びエチレンカーボネートよりも融点の低い溶媒、及び、Pを含有する支持塩を含む電解液と、
帯状の正極板、帯状でSEI被膜が形成された負極活物質層を有する帯状の負極板、及び、帯状のセパレータを有し、前記電解液が内部に浸透した捲回型の電極体と、
前記電極体及び前記電解液を収容したケースと、を備え、
前記電極体は、前記負極活物質層の幅寸法が180mm以上である
蓄電デバイスであって、
前記負極活物質層に形成されている前記SEI被膜に含まれるP量は、
前記負極活物質層の幅方向のうち端部における端部P量を基準として、
前記幅方向の中央部における中央部P量が、前記端部P量の90~105%である
蓄電デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載の蓄電デバイスであって、
前記負極活物質層のうち前記端部と前記中央部との幅方向の中間に位置する中間部における中間部P量が、前記端部P量の96~104%である
蓄電デバイス。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の蓄電デバイスであって、
前記P量は、
前記蓄電デバイスから取り出し、付着する前記電解液を洗浄除去した前記負極板を用いたICP-MS分析によって得たP量である
蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ケース内に電極体及び電解液を備える電池等の蓄電デバイスでは、電極体内への電解液の浸透ムラ(含浸ムラ)に考慮する必要があった。そこで例えば、特許文献1においては、電極活物質層( A )とセパレータと電極活物質層( B ) が積層されてなる積層単位を得る積層工程の前に、セパレータ及び電極活物質層( B ) の少なくとも1つには電解液を含有させておくことで、電解液の浸透ムラを防止または抑制するリチウムイオン電池の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されているように、積層単位即ち積層型の電極体を用いず、捲回型の電極体を用いる場合には、電解液を含浸した帯状のセパレータ或いは電解液を含浸した帯状の電極板を扱う必要が生じ、取り扱いが難しい。
【0005】
一方、蓄電デバイスの電解液をなす溶媒として、ジメチルカーボネート(以下、DMCともいう。)、エチルメチルカーボネート(以下、EMCともいう。)などと共に、初充電の際に負極活物質層へのSEI被膜の形成を容易にするべく、SEI被膜を形成するエチレンカーボネート(以下、ECともいう。)をも併せて用いる場合がある。例えば、EC/DMC/EMC混合溶媒を電解液に用いる場合などである。
【0006】
ところが、ECを含んだ電解液を、電解液未浸透の電極体の端部から電極体内部に浸透させた場合、DMCやEMCやこれらに溶解したLiPF6などの支持塩に比して、ECは浸透速度が相対的に遅いことが判ってきた。ECは融点34-37℃程度であり、DMC(融点2-4℃),EMC(融点-53℃)などに比して相対的に融点が高く、粘度も高いため、負極活物質層やセパレータなどに沿って電極体内部に浸透するにあたり、DMCなどに比して浸透し難いと考えられる。
【0007】
すると例えば、捲回型電極体を用いた蓄電デバイスのうち、帯状の電極板が幅広であるために、電解液の浸透距離が長い電極体を有する蓄電デバイスでは、軸線方向の両端部から電解液を浸透させ、軸線方向の中央まで電解液が到達し電極体全体に電解液を浸透させ得たとしても、軸線方向の中央付近にまだECが十分到達できていない場合が生じる。即ち、初充電の際、電極体内の各所に存在するECの単位面積当たりの量(以下、面積密度ともいう)に不均一が生じている場合、つまりECの浸透ムラが生じている場合ある。
【0008】
この状態で二次電池などの蓄電デバイスに初充電を行い、負極活物質層に負極SEI被膜を形成しようとすると、EC及び支持塩(例えば、LiPF6など)に由来する負極SEI被膜が形成されるが、前述のように、電極体のうちEC含有量の低い軸線方向中央付近では、ECに由来する負極SEI被膜が形成されにくくなる。この場合には、これを補って、支持塩に由来する負極SEI被膜が相対的に多く形成されることになる。しかし、支持塩に由来する負極SEI被膜は、ECに由来する負極SEI被膜に比して抵抗が高くなる。このため、電極体のうち、例えば軸線方向両端付近などECの面積密度の高い部位に比して、ECの面積密度の低い軸線方向中央部付近では、局所的に、支持塩に由来する負極SEI被膜が増加し、相対的に抵抗の高い負極活物質層になることが判ってきた。これにより、蓄電デバイス全体としても抵抗が高くなる。
【0009】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、捲回型の電極体内の負極活物質層における支持塩に由来する負極SEI被膜の生成が概ね均一で、抵抗増加を抑制された蓄電デバイスを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記課題を解決するための本発明の一態様は、エチレンカーボネート及びエチレンカーボネートよりも融点の低い溶媒、及び、Pを含有する支持塩を含む電解液と、帯状の正極板、帯状でSEI被膜が形成された負極活物質層を有する帯状の負極板、及び、帯状のセパレータを有し、前記電解液が内部に浸透した捲回型の電極体と、前記電極体及び前記電解液を収容したケースと、を備え、前記電極体は、前記負極活物質層の幅寸法が180mm以上である蓄電デバイスであって、前記負極活物質層に形成されている前記SEI被膜に含まれるP量は、前記負極活物質層の幅方向のうち端部における端部P量を基準として、前記幅方向の中央部における中央部P量が、前記端部P量の90~105%である蓄電デバイスである。
【0011】
この蓄電デバイスは、EC及びPを含有する支持塩を含む電解液を備え、負極活物質層の幅寸法が180mm以上の電極体を備えるので、前述のようにECの浸透ムラを生じ易く、ECが届きにくい中央部では、ECに由来するSEI被膜が生成され難く、代わりに、Pを含む支持塩に由来するSEI被膜が過剰に形成されがちである。
しかるに、この蓄電デバイスでは、負極活物質層のSEI被膜に含まれるP量のうち、中央部P量が、端部P量を基準として90~105%の範囲内となっている。即ち、中央部P量が端部P量と概ね等しいかやや少ない。つまり、この蓄電デバイスでは、負極活物質層の中央部でも、Pを含む支持塩に由来する負極SEI被膜が過剰に形成されておらず、電極体内の軸線方向(負極板の幅方向)に生じる局所的なIV抵抗の増加を抑え、電極体全体の抵抗増加を抑制した蓄電デバイスとなる。
【0012】
なお、蓄電デバイスとしては、リチウムイオン二次電池,ナトリウムイオン二次電池等の二次電池やリチウムイオンキャパシタなどのキャパシタが挙げられる。また、捲回型の電極体としては、円筒捲回型や扁平捲回型の電極体が挙げられる。
【0013】
また、電解液としては、有機溶媒に支持塩を溶解させることによって得られる非水溶液系電解液を用いることができる。電解液に用いる有機溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)のほか、ECと混合して混合溶媒にでき、ECよりも融点の低い、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)などが挙げられる。
【0014】
また、電解液には、支持塩としては、Pを含むリチウム塩、例えばLiPF6が挙げられる。また、ナトリウム塩、例えばNaPF6を含めることができる。
【0015】
また、電解液に含めるECのほかに、初充電工程において、負極活物質粒子上に負極SEI被膜を形成し得る物質、例えば、電解液とは別に用いるEC、ビニレンカーボネート、LiBOB等を、電極体に含めることもできる。
【0016】
(2)上述の(1)に記載の蓄電デバイスであって、前記負極活物質層のうち前記端部と前記中央部との幅方向の中間に位置する中間部における中間部P量が、前記端部P量の96~104%である蓄電デバイスとすると良い。
【0017】
この蓄電デバイスは、中間部P量も、端部P量の96~104%である。即ち、この蓄電デバイスでは、全体に亘り、Pを含む支持塩に由来するSEI被膜が均一に形成されており、電極体内の軸線方向に生じる局所的なIV抵抗の増加を抑え、電極体全体の抵抗増加を抑制した蓄電デバイスとなる。
【0018】
(3)上述の(1)又は(2)に記載の蓄電デバイスであって、前記P量は、前記蓄電デバイスから取り出し、付着する前記電解液を洗浄除去した前記負極板を用いたICP-MS分析によって得たP量である蓄電デバイスとすると良い。
【0019】
この蓄電デバイスでは、ICP-MS分析により、負極活物質層の各部のP量を得るので、正確なP量や相対P量を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施形態に係る電池の部分破断斜視図である。
【
図2】実施形態に係り、負極活物質層の負極活物質粒子に負極SEI被膜が形成された様子を示す説明図である。
【
図3】実施形態に係り、扁平捲回型の電極体及び未浸透電極体の斜視図である。
【
図4】実施形態に係り、扁平捲回型の未浸透電極体を展開して正極板、負極及びセパレータを示す説明図である。
【
図5】実施形態に係る電池の製造のフローチャートである
【
図6】実施形態に係り、未浸透負極板の製造の様子を示す説明図である。
【
図7】実施形態に係り、ダイコータにより、不含負極ペースト及び付加負極ペーストを幅広負極箔に塗布したストライプパターンを示す説明図である。
【
図8】比較形態1に係り、扁平捲回型の未浸透電極体を展開して正極板、負極及びセパレータを示す説明図である。
【
図9】比較形態2に係り、扁平捲回型の未浸透電極体を展開して正極板、負極及びセパレータを示す説明図である。
【
図10】実施形態及び比較形態1,2に係る電池の電極体における調査部位を示す説明図である。
【
図11】実施形態及び比較形態1,2に係る電池の電極体における調査部位と、エチレンカーボネートの相対含有量との関係を示すグラフである。
【
図12】実施形態及び比較形態1,2に係る電池の電極体における調査部位と、相対P量との関係を示すグラフである。
【
図13】実施形態及び比較形態1,2に係る電池の電極体における調査部位と、相対IV抵抗値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(実施形態)
以下、本発明の実施形態に係るリチウムイオン二次電池である電池1(蓄電デバイスの一例)及びその製造を、
図1~
図7を参照しつつ説明する。この電池1は、角型で密閉型のリチウムイオン二次電池であり、ハイブリッドカーやプラグインハイブリッドカー、電気自動車等の車両や各種の機器に搭載される。
【0022】
本実施形態の電池1は、ケース7と、ケース7の内部に収容された電極体2及び電解液6とを備えている。金属(本実施形態ではアルミニウム)からなり、直方体箱状のケース7は、有底四角筒状のケース本体7Hと、高さ方向BHの上方BH1に位置する蓋体7Lとからなる。この蓋体7Lには、絶縁部材9を介して正極端子8P及び負極端子8Nが固設されている。この蓋体7Lには、電解液6を注液する注液孔7LHが穿孔されており、注液後に注液栓7LPによって封止されている。電極体2は、ケース7内で、図示しない袋状の絶縁フィルムに覆われている。またケース7内に収容された電解液6は、その一部が電極体2内に含浸され、残部はケース7の底部に溜まっている。
【0023】
電解液6が未含浸の未浸透電極体12(
図3,
図4参照)は、いわゆる扁平捲回型の電極体であり、帯状の未浸透正極板13と帯状の未浸透負極板14(付加電極板の一例)とが一対の帯状の未浸透セパレータ15を介して捲回され、厚み方向CHに押圧されて扁平にされてなる。このため、ケース7内に収容され、未浸透電極体12に電解液6を含浸した電極体2(
図1,
図3,
図4参照)も、各々電解液6が含浸された帯状の正極板3と帯状の負極板4とが一対の帯状のセパレータ5を介して捲回され、
図1において紙面に直交する厚み方向CHに薄くされ扁平にされてなる。この電極体2は、捲回軸線AXが幅方向AH(
図1において左右方向)に一致する横倒しの姿勢として、ケース7内に収容されている。
【0024】
なお、電池1における電極体2は、後述するようにケース7内に収容した未浸透電極体12に電解液6を浸透させ、その後に初充電を行ってある。このため、
図2に示すように、電極体2の負極箔4F上に形成された負極活物質層4Aを構成する負極活物質粒子4APの周囲には、電解液6に含まれる溶媒のエチレンカーボネート6VE及びPを含む支持塩6Sに由来する負極SEI被膜4ACが形成されている。この負極SEI被膜4ACの形成により、負極SEI被膜4ACを形成しない場合や不十分形成の場合に比較して、電池1について低抵抗で安定した充放電が可能となる。
【0025】
扁平捲回型の電極体2及び未浸透電極体12のうち、捲回軸線AXに沿う軸線方向XHの一方側XH1(本実施形態では電池1の幅方向AHの一方側AH1に一致。
図3において上方)には、正極板3或いは未浸透正極板13の集電部3S,13Sが捲回された正極集電部2P,12Pが設けられている。これとは逆に、軸線方向XHの他方側XH2(本実施形態では電池1の幅方向AHの他方側AH2に一致。
図3において下方)には、負極板4或いは未浸透負極板14の集電部4S,14Sが捲回された負極集電部2N,12Nが設けられている。正極集電部2P,12Pと負極集電部2N,12Nとの間の部分は、正極板3と負極板4とがセパレータ5を介して、或いは未浸透正極板13と未浸透負極板14とが未浸透セパレータ15を介して捲回された本体部2H,12Hである。
【0026】
正極端子8Pは、所定形状に屈曲成形されたアルミニウム板からなる。正極端子8Pの一方端部をなす内側接続部8PIは、電極体2の幅方向AHの一方側AH1に配置された正極集電部2Pに接続されている。一方、正極端子8Pの他方端部は、ケース7外(具体的には蓋体7L上)に引き出されて外部端子部8POをなしている。また、負極端子8Nは、所定形状に屈曲成形された銅板からなる。この負極端子8Nの一方端部をなす内側接続部8NIは、電極体2のうち幅方向AHの他方側AH2に配置された負極集電部2Nに接続されている。一方、負極端子8Nの他方端部は、ケース7外(具体的には蓋体7L上)に引き出されて外部端子部8NOをなしている。
【0027】
電解液6は、有機溶媒6Vと支持塩6Sとを有する非水電解液である。本実施形態では、有機溶媒6Vとして、エチレンカーボネート(EC)6VEと他の溶媒6VLであるジメチルカーボネート(DMC)及びエチルメチルカーボネート(EMC)とを、重量比3:4:3で混合した有機溶媒を用いている。また、Pを含む支持塩6Sとして、LiPF6を用いている。電解液6におけるLiPF6の濃度は1.1mol/Lである。
【0028】
図4に示すように、未浸透電極体12のうち、帯状の未浸透正極板13は、アルミニウム箔からなる正極箔13Fと、正極箔13Fの両表面に積層された正極活物質層13Aとを備える。正極活物質層13Aは、図示しない正極活物質粒子と導電粒子と結着剤とからなる。本実施形態では、正極活物質粒子として、リチウム遷移金属複合酸化物粒子、具体的には、例えば、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物粒子を用いている。導電粒子としては、例えば、アセチレンブラック(AB)を用いている。また、結着剤には、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いている。帯状の未浸透正極板13のうち幅方向WHの一方側WH1(
図4において上方)の端部は、正極箔13F上に正極活物質層13Aが存在しておらず、正極箔13Fが露出した集電部13Sとなっている。一方、未浸透正極板13のうち残部は、正極箔13Fの両表面に正極活物質層13Aが積層された正極部13Pである。なお、
図3及び
図4から理解できるように、未浸透正極板13等の幅方向WH(
図4において上下方向)は、軸線方向XHに一致し、一方側WH1は一方側XH1に一致している。
【0029】
一方、未浸透電極体12のうち、帯状の未浸透負極板14は、銅箔からなる負極箔14Fと、負極箔14Fの両表面に積層された負極活物質層14Aとを備え、Pを含んでいない。負極活物質層14Aは、負極活物質粒子14APと結着剤(図示しない)とからなる。本実施形態では、負極活物質粒子14APとして黒鉛粒子を用いている。また、結着剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)を用いている。なお、帯状の未浸透負極板14のうち幅方向WHの他方側WH2(
図4において下方)の端部は、負極箔14F上に負極活物質層14Aが存在しておらず、負極箔14Fが露出した集電部14Sとなっている。一方、未浸透負極板14のうち残部は、負極箔14Fの両表面に負極活物質層14Aが積層された負極部14Nである。本実施形態では、負極活物質層4A,14Aの幅方向WHの幅寸法AWは、AW=180mmである。
【0030】
また、未浸透電極体12のうち、一対の帯状の未浸透セパレータ15は、多孔質の樹脂からなる。
図4に示すように、未浸透セパレータ15は、捲回した場合に、未浸透負極板14と未浸透正極板13との間に介在するように重ねられている。未浸透負極板14及び負極部14Nは、未浸透正極板13及び正極部13Pよりも、幅方向WHに僅かに幅広とされている。しかも、負極部14Nが正極部13Pの幅方向WHの全体を覆うように、即ち、正極活物質層13Aのどの部位においても、正極活物質層13Aに対向する負極活物質層14Aが存在するように配置されている。また、未浸透セパレータ15は、負極部14N及び正極部13Pよりも、幅方向WHに僅かに幅広とされている。しかも、未浸透セパレータ15が負極部14N及び正極部13Pの幅方向WHの全体を覆うように、即ち、正極活物質層13A及び負極活物質層14Aのどの部位においても、正極活物質層13A及び負極活物質層14Aを覆う未浸透セパレータ15が存在するように配置されている。
【0031】
未浸透電極体12を正極端子8P及び負極端子8Nに接続すると共に、ケース7内に収容し、電解液6をケース7内に注液すると、未浸透電極体12の軸線方向XHの外側XHO、即ち、一方側XH1及び他方側XH2から未浸透電極体12の内部に向けて電解液6が浸透する。具体的には、電解液6は、未浸透正極板13、未浸透負極板14及び未浸透セパレータ15に沿って、軸線方向XHに一致する幅方向WHの一方側WH1及び他方側WH2(
図4において図中上方及び下方)から、それぞれ負極活物質層14Aの幅方向WHの中心線MLに向けて、即ち幅方向WHの内側WHIに向けて浸透する。
【0032】
しかしながら、前述したように、未浸透電極体12内に電解液6が浸透するにあたり、有機溶媒6Vの成分のうち、エチレンカーボネート6VEは、他の溶媒6VL(本実施形態では、ECよりも融点の低いDMC,EMC)に比して浸透速度が遅い。このため、未浸透負極板14の負極活物質層14Aの幅方向WHの両端縁14AE1,14AE2を始点として、幅方向WHの内側WHIに向かって進む距離ELを考えると、距離ELが大きくなるほど、内側WHIに向けて浸透する電解液6のうち、先頭部分の電解液におけるエチレンカーボネート6VEの濃度が低下すると考えられる。このため、
図4において一点鎖線で示す、負極活物質層14Aの幅方向WHの中心線MLにまで電解液6が浸透し、未浸透電極体12内全体に電解液6の浸透が完了し、電解液6が含浸された電極体2となった時点(例えば、注液を開始してから電解液6の浸透が完了するまでの待機時間TTが経過した時点)では、浸透した電解液6のうち、中心線ML付近に位置する電解液6のエチレンカーボネート6VEの濃度が、中心線ML付近よりも幅方向WHの外側(
図4において上方或いは下方)に位置する電解液6に比して、相対的に低くなっていると考えられる。
【0033】
なお、ここでは、負極活物質層14Aに沿って幅方向WHの内側WHIに浸透(進行)する電解液6について説明した。しかし、未浸透正極板13の正極活物質層13Aや未浸透セパレータ15に沿って、幅方向WHの内側WHIに浸透(進行)する電解液6についても同様に、浸透速度の違いによって、電解液6中のエチレンカーボネート6VEの濃度に不均一が生じる。即ち、ケース7内に電解液6を注液して、未浸透電極体12内に電解液6を浸透させると、電解液6が含浸された電極体2(
図3参照)のうち、軸線方向XHの中央部2M付近に届くエチレンカーボネート6VEの量が少なくなりがちである。
【0034】
特に本実施形態のように、電極体2(未浸透電極体12)が、負極活物質層4A,14Aの幅寸法AWが180mm以上である(本実施形態では、幅寸法AW=180mm)場合には、負極活物質層14Aの幅方向WHの両端縁14AE1,14AE2から浸透した電解液6が中心線MLに届くまでに、負極活物質層14Aに沿って90mm以上の距離ELを浸透(移動)する必要がある。このため、他の溶媒6VLとの浸透速度の差によって、中心線ML付近に位置する電解液6のエチレンカーボネート6VEの濃度が低くなり、中心線ML付近に存在するエチレンカーボネート6VEの面積密度も低くなる。
【0035】
なお、負極活物質層14Aの両端縁14AE1,14AE2からそれぞれ内側WHIに向かって浸透した電解液6が、いずれも中心線ML付近にまで届いて互いに会合した場合には、それ以降、電解液6は、浸透によって幅方向WHの内側WHIに移動しない。このため、浸透した電解液6のうち、中心線ML付近に位置する電解液6と、これよりも幅方向WHの外側(
図4において上方或いは下方)に位置する電解液6との間に生じているエチレンカーボネート6VEの濃度の不均一は、エチレンカーボネート6VEの濃度勾配による拡散移動によって徐々に解消されると考えられる。しかし、濃度の不均一の解消までには、浸透による電解液6の移動に比して時間が掛かると推測される(例えば数日など)。このため、電極体2全体に電解液6の浸透が完了した時点から、濃度の不均一が解消されるまで長時間に亘って、初充電に移行するのを待つのは難しい。
【0036】
このため、ケース7内に電解液6を注液した後、電解液6の浸透が完了するまでの待機時間TTの経過した後、時間を置かずに電池1の初充電を開始すると、電極体2内のエチレンカーボネート6VEの濃度の不均一が生じた状態で、初充電が行われることとなる。
【0037】
しかるに、前述したように、電解液6に含まれるエチレンカーボネート6VEは、負極活物質層4Aを構成する負極活物質粒子4APの周囲で負極SEI被膜4ACを生成する原料となる。このため、前述のように、負極活物質層4Aの中心線ML付近に存在するエチレンカーボネート6VEの面積密度が少ない場合には、負極活物質層4Aの中心線ML付近において、負極活物質粒子4APの周囲に負極SEI被膜4ACとして、エチレンカーボネートに由来する負極SEI被膜を適切に形成できず、電池1の抵抗が高くなるなどの不具合を生じ易い。
【0038】
そこで本実施形態の電池1では、
図4に示すように、未浸透電極体12をなす未浸透負極板14の負極活物質層14Aのうち、両端縁14AE1,14AE2からの距離ELが付加部距離ELF(本実施形態では、付加部距離ELF=80mm)以上である、幅方向WHの中央部分14AMを予め被膜形成物質CSを含ませた帯状の付加負極活物質層14AFとする。その一方、幅方向WHの一方側WH1の一方側部分14AS1、及び、幅方向WHの他方側WH2の他方側部分14AS2は、それぞれ従前と同じく、被膜形成物質CSを含まない帯状の不含負極活物質層14AN1,14AN2とした。なお本実施形態では、被膜形成物質CSとして、エチレンカーボネートCS1を用いた。これにより、未浸透電極体12は、軸線方向XHの中央部12Mに、負極活物質層4Aに負極SEI被膜4ACを形成する被膜形成物質CS(エチレンカーボネートCS1)を予め配置した未浸透電極体12となる。
【0039】
未浸透負極板14の負極活物質層14Aを形成するには、後述するように、被膜形成物質CSを含まない従前と同様の不含負極ペーストPANを用いて不含負極活物質層14AN1,14AN2を形成する一方、幅方向WHの中央部分14AMに、被膜形成物質CSを含む付加負極ペーストPAFを用いて付加負極活物質層14AFを形成した。本実施形態では、不含負極ペーストPANとして、99重量%の黒鉛粒子と、1重量%の結着剤(CMC)とを溶媒である水に混合したものを用いる。また、付加負極ペーストPAFは、上述の不含負極ペーストPANに、被膜形成物質CSとして5重量%のエチレンカーボネートCS1を加えたものを用いた。
【0040】
このように負極活物質層14Aの中央部分14AMに付加負極活物質層14AFを設けているので、負極活物質層14Aの幅方向WHの両端縁14AE1,14AE2から内側WHIに向けて浸透する電解液6が付加負極活物質層14AFに達すると、付加負極活物質層14AF内の被膜形成物質CSが電解液6に溶け込みつつ、電解液6がさらに中心線MLに向けて浸透する。従って、電解液6の浸透が完了した電極体2でも、負極活物質層14Aの中心線ML付近、即ち中央部分14AMに位置する電解液6において、電解液6に由来するエチレンカーボネート6VEの濃度は低下している。しかし、中央部分14AMの電解液6には、付加負極活物質層14AF内の被膜形成物質CS(エチレンカーボネートCS1)が加わっている。
【0041】
このため、前述のように、電解液6由来のエチレンカーボネート6VEが中央部分14AMに十分に届かなかった状態で、初充電工程を行った場合でも、予め配置しておいた被膜形成物質CSによって、負極活物質粒子4APに適切に負極SEI被膜4ACを形成することができる(
図2参照)。かくして、負極活物質層4Aにおける負極SEI被膜生成の不均一を抑制して、電極体2内の負極活物質層4Aの抵抗の不均一を抑制し、抵抗増加を抑制した電池1を製造することができる。
【0042】
特に本実施形態では、被膜形成物質CSとしてエチレンカーボネートCS1を用いている。即ち、電解液6由来のエチレンカーボネート6VEが不足する負極活物質層14Aの中央部分14AMに、被膜形成物質CSとして予めエチレンカーボネートCS1を配置しておく。このため、負極活物質層4Aの各所においてエチレンカーボネート不足を生じさせることがなく、負極活物質層4A全体に、エチレンカーボネート由来の負極SEI被膜を適切に形成することができる。
【0043】
次いで、この電池1の製造について、
図5~
図7を参照して説明する。先ず、電極体形成工程S1では、電解液6が未浸透で捲回型の未浸透電極体12を形成する。詳細には、未浸透負極板形成工程S11において、帯状の負極活物質層14Aを有する未浸透負極板14を形成する。
【0044】
更に詳細には、帯状の負極活物質層14Aのうち、幅方向WHの中央部分14AMは被膜形成物質CSを含ませた帯状の付加負極活物質層14AFとし、その一方、付加負極活物質層14AFよりも幅方向WHの外側WHOの一方側部分14AS1及び他方側部分14AS2にはそれぞれ被膜形成物質CSを含まない帯状の不含負極活物質層14AN1,14AN2とした、負極活物質層14Aを有する未浸透負極板14を形成する(
図4参照)。なお前述したように本実施形態では、被膜形成物質CSとして、エチレンカーボネートCS1を用いる。
【0045】
この未浸透負極板形成工程S11では、負極活物質粒子14AP及び結着剤は含むが被膜形成物質CSを含まない不含負極ペーストPANを用いて、不含負極活物質層14AN1,14AN2を形成する。その一方、負極活物質粒子4AP及び被膜形成物質CSを含む付加負極ペーストPAFを用いて、付加負極活物質層14AFを形成する。
【0046】
詳細には、塗布工程S111で、
図6に示すように、バックアップロールBR1に巻き付けた、負極板4の負極箔4Fの2倍の幅を有する幅広負極箔24Fに、ダイコータDCを用いて、幅広負極ペースト層24ATを塗布する。更に詳細には、ダイコータDCのうち、貯留タンクDCT1に不含負極ペーストPANを、貯留タンクDCT2に付加負極ペーストPAFを貯留しておく。図示しない仕切りを複数設けたダイDCDを用い、貯留タンクDCT1から供給される不含負極ペーストPANと、貯留タンクDCT2から供給される付加負極ペーストPAFとをダイDCDのスリットDCSからストライプ状に吐出させ、バックアップロールBR1に巻き付けた幅広負極箔24Fに塗布する(
図7参照)。具体的には、負極箔14Fの2倍の幅を有する幅広負極箔24Fの両側に、それぞれ未浸透負極板14の集電部14Sとする部位を空けて、負極活物質層14Aの2倍の幅を有する幅広負極ペースト層24ATを塗布する。この幅広負極ペースト層24ATは、
図7に一点鎖線で示す切断中心線CLを中心として左右対称に形成されており、3本の不含負極ペースト層24ATNの間に、2本の付加負極ペースト層24ATFが介在する5本のストライプ状のパターンに塗布する。なお、不含負極ペースト層24ATNは、次述するように乾燥し切断した後には、負極活物質層14Aのうち不含負極活物質層14AN1,14AN2となる。また、付加負極ペースト層24ATFは、乾燥し切断した後には、付加負極活物質層14AFとなる。
【0047】
その後、乾燥工程S112において、乾燥炉DRで、幅広負極箔24Fに塗布された幅広負極ペースト層24ATを乾燥させて、幅広負極活物質層24Aを形成する。なお、塗布工程S111と乾燥工程S112とを、幅広負極箔24Fの表面と裏面について繰り返して、幅広負極箔24Fの両面に幅広負極活物質層24Aを設けた幅広未浸透負極板24を形成する。なお、
図6では、幅広負極箔24Fの一方面に幅広負極活物質層24Aを設けた幅広片面負極板24Sについて、幅広負極ペースト層24ATの塗布、乾燥を行う様子を示す。
【0048】
さらに、切断工程S113では、幅広負極箔24Fの両面に幅広負極活物質層24Aを設けた幅広未浸透負極板24を、切断中心線CL(
図7参照)で切断して、2本の帯状の未浸透負極板14を形成する。その後は、未浸透負極板14を振分けロールFRで振り分けた上で、巻取ロールSR1,SR2にそれぞれ巻き取る。かくして、未浸透負極板形成工程S11により、未浸透負極板14(
図4参照)を得る。
【0049】
次いで捲回工程S12で、未浸透負極板14を、別途形成した未浸透正極板13及び未浸透セパレータ15と共に捲回して円筒形状で捲回型の電極体(図示しない)を形成する。さらに扁平化工程S13で、この円筒形状の電極体を押圧して、板状で扁平な捲回型の未浸透電極体12(
図3参照)を形成する。かくして、電極体形成工程S1により、未浸透電極体12を得る。
【0050】
その後、収容工程S2において、ケース7内に未浸透電極体12を収容する。具体的には、まず端子接続工程S21で、蓋体7Lに絶縁部材9を介して固定された正極端子8Pの内側接続部8PIに未浸透電極体12の正極集電部12Pを、同様に、負極端子8Nの内側接続部8NIに正極集電部12Pをそれぞれ溶接して、正極端子8P及び負極端子8Nを介して、蓋体7Lに未浸透電極体12を固定する(
図1参照)。
【0051】
続く挿入工程S22では、樹脂フィルムからなる袋状の樹脂カバー(図示しない)を未浸透電極体12に被せた上で、ケース本体7H内に未浸透電極体12を挿入し、蓋体7Lでケース本体7Hを封口する。さらに、封止工程S23において、蓋体7Lの周縁を全周に亘りレーザ溶接によりケース本体7Hに気密に溶接し封止する。かくして、収容工程S2により、ケース7内に未浸透電極体12を収容する。
【0052】
その後、注液工程S3では、蓋体7Lの注液孔7LHを通じて、所定量の電解液6をケース7内に注液する。これにより、前述したように、ケース7内の未浸透電極体12内への電解液6の含浸が行われる。なお、注液工程S3では、予め定めた注液パターンで電解液6を注液する。また、注液に先立って、未注液の電池1をチャンバ内に入れて減圧や加圧を行いつつ、未浸透電極体12内への電解液6の含浸を行うこともできる。
【0053】
待機工程S4では、注液開始から予め定めた待機時間TTが経過するのを待つ。待機時間TTは、注液開始から未浸透電極体12内全体に電解液6が浸透するまで(電解液6が含浸された電極体2となるまで)の時間であり、この待機時間TTは、注液開始からの経過時間が異なる電池サンプルを解体し、電解液6の浸透状態を観察するなどにより、予め得ておく。
【0054】
待機時間TTの経過後、初充電工程S5に移行し、正極端子8P及び負極端子8Nに電源(図示しない)を接続し、正極端子8P及び負極端子8Nを通じて、電池1の電極体2に電圧を印加して初充電を行う。即ち、電極体2の正極板3と負極板4との間に、所定の初充電パターンで電圧を印加し、負極板4の負極活物質層4Aに負極SEI被膜4ACを形成する(
図2参照)。本実施形態では、0.5C-CCCV充電(SOC90%)の初充電パターンで初充電を行った。その後、注液孔7LHを注液栓7LPで封止しておく。
【0055】
前述したように、本実施形態の電池1では、未浸透電極体12のうち未浸透負極板14の負極活物質層14Aの中央部分14AMに、付加負極活物質層14AFを設けてあった。このため、待機時間TTが経過し、未浸透電極体12内全体に電解液6が浸透した電極体2において、負極板4の負極活物質層4Aのうち中心線ML付近に存在するエチレンカーボネートの面積密度の低下を防止できている。このため、初充電工程S5において、負極活物質層4Aのいずれの場所においても、負極活物質粒子4APに適切に、負極SEI被膜4ACを形成することができる。
【0056】
次いで、高温エージング工程S6で、電池1を、60℃の環境下に20時間に亘り放置する高温エージングを行い、検査工程S7で電池1の検査を行い、電池1を完成する。
【0057】
(比較形態1,2)
実施形態に係る電池1と比較するべく、比較形態1,2に係る電池1C1,1C2をも製造し、後述する調査を行った。まず、比較形態1,2に係る電池1C1,1C2の製造について、
図8,
図9を参照して説明する。
【0058】
比較形態1に係る電池1C1は、従来と同様の電池である。実施形態の電池1では、負極活物質層14Aの中央部分14AMに付加負極活物質層14AFを設けた未浸透負極板14を用いて、未浸透電極体12を形成し、電解液6を含浸した。これに対し、比較形態1の電池1C1では、
図8に示すように、負極活物質層14Aに付加負極活物質層14AFを設けず、負極活物質層14A全体を、被膜形成物質CSを含まない不含負極活物質層14ANとした未浸透負極板14C1を形成した。そして、この未浸透負極板14C1を用いて未浸透電極体12C1を形成した。これ以外は実施形態1の電池1と同様とし、初充電工程S5及び高温エージング工程S6等も同様に行って、比較形態1の電池1C1を得た。
【0059】
一方、比較形態2に係る電池1C2は、比較形態1の電池1C1の未浸透負極板14C1とは逆の電池である。即ち、
図9に示すように、負極活物質層14Aに被膜形成物質CSを含まない不含負極活物質層14ANを設けず、負極活物質層14A全体を、被膜形成物質CS(エチレンカーボネートCS1)を含む付加負極活物質層14AFとした未浸透負極板14C2を形成し、この未浸透負極板14C2を用いて未浸透電極体12C2を形成した。これ以外は実施形態1の電池1と同様とし、初充電工程S5及び高温エージング工程S6等も同様に行って、比較形態2の電池1C2を得た。
【0060】
(エチレンカーボネート含有量調査)
製造された電池1,1C1,1C2を、不活性雰囲気としたグローブボックス内で解体し、各電極体2,2C1,2C2を取り出す。さらに各電極体2,2C1,2C2を巻きほぐして、負極板4を取り出し、静置して乾燥させる。各々の負極板4のうち、捲回の中間部分(長手方向LHの概ね中央)で、且つ、
図10において、調査位置I,II,III,IV,Vで示す位置に対応する部位を、20×20mmの大きさに切り出して、合計15種類の抽出用負極サンプルを得る。各抽出用負極サンプルを抽出溶媒に浸漬してエチレンカーボネートを抽出し、既知のエチレンカーボネート濃度の基準液及び各抽出液についてNMR測定を行い、基準液と抽出液におけるエチレンカーボネートの検出強度の比から、各抽出液に含有されているエチレンカーボネートの含有量を算出した。さらに、各電極体2,2C1,2C2において、調査位置Iで得られたエチレンカーボネートの含有量を100%として、各調査位置I~Vにおける相対EC含有量(%)を得た。
【0061】
なお、調査位置I,II,III,IV,Vは、
図10に示すように、負極板4の負極活物質層4Aのうち、各電極体2,2C1,2C2において扁平板状とされていた部位であり、軸線方向XHに並び、負極集電部2Nとなる集電部4S側の端縁4AE2(
図4参照)から、軸線方向XHの内側XHI(幅方向WHの内側WHI)に測った距離ELが、それぞれ距離EL1,EL2,EL3,EL4,EL5の部位である(本実施形態等では、具体的には、EL1=10mm,EL2=30mm,EL3=50mm,EL4=70mm,EL5=90mm)。なお、調査位置Vは、負極活物質層4Aの中心線ML上の位置である。即ち、距離EL5は、負極活物質層4Aの幅方向WHの幅寸法AW(本実施形態等では、AW=180mm)の1/2の大きさである。
【0062】
この結果を、
図11のグラフに示す。太破線で示す比較形態1の電池1C1の電極体2C1では、概ね、調査位置Iから調査位置IVに向かうほど、即ち、端縁4AE2から軸線方向XHの内側XHIほど、エチレンカーボネート6VEの含有量が徐々に低くなっている。しかし、調査位置Vでは、即ち、電極体2C1の軸線方向XHの中央部2M(
図3参照)では、エチレンカーボネート6VEの含有量が大きく低下(本比較形態1では、調査位置Iに比して概ね30%低下)していることが判る。
【0063】
このようになるのは、以下の理由によると考えられる。前述したように、電解液6に含まれるエチレンカーボネート6VEの浸透速度が、他の溶媒6VL(具体的にはDMC,EMC)に比して遅い。このため、端縁4AE2から調査位置Vまでの距離ELが大きくなるほど、電極体2C1内に浸透する電解液6のうち、浸透の先端部分に位置する電解液6におけるエチレンカーボネート6VEの濃度が低下すると考えられる。特に、距離ELが80mmを越えると、エチレンカーボネート6VEの濃度低下が大きくなる。しかも、負極活物質層4Aの中心線ML上に位置する調査位置V付近、即ち、電極体2C1の中央部2Mでは、負極活物質層4Aの両端縁4AE1,4AE2(
図8参照)から幅方向WHの内側WHI(軸線方向XHの内側XHI)にそれぞれ浸透した電解液6が会合して浸透が停止するため、中央部2Mに届くエチレンカーボネート6VEの含有量(面積密度)が少ないままとなりやすい。
【0064】
一方、太一点鎖線で示す比較形態2の電池1C2の電極体2C2では、調査位置Iから調査位置IVでは、エチレンカーボネートの含有量が100%付近の高い値に保たれている。特に調査位置II,IIIでは、幅方向WHの外側WHOの端縁4AE2付近の調査位置Iよりも、エチレンカーボネートの含有量がやや高くなっている。但し、調査位置IVでは、エチレンカーボネートの含有量が若干低下している。しかしながら、調査位置Vでは、即ち、電極体2C1の軸線方向XHの中央部2M(
図9参照)では、エチレンカーボネートの含有量が大きく低下(比較形態2では、調査位置Iに比して概ね35%低下)していることが判る。
【0065】
このようになるのは、以下の理由によると考えられる。比較形態2の電池1C2の電極体2C2では、負極活物質層14A全体を被膜形成物質CS(具体的にはエチレンカーボネートCS1)を含む付加負極活物質層14AFとした未浸透負極板14C2を用いている。このため、端縁4AE2からの距離ELが比較的小さい調査位置I~IIIまでの範囲では、電解液6に含まれるエチレンカーボネート6VEの浸透速度が遅いことによる濃度の低下(比較形態1のグラフ参照)を、付加負極活物質層14AF由来のエチレンカーボネートCS1が電解液6中に溶解することで補い得た、むしろエチレンカーボネートの濃度が、電解液6の浸透と共に高まる状態となったと考えられる。
【0066】
しかし、前述したように、電解液6に溶解したエチレンカーボネートは、他の溶媒6VL(具体的にはDMC,EMC)に比して浸透速度が遅いのに加えて、粘度が高い。このため、調査位置II,III付近で電解液6に溶解したエチレンカーボネートの濃度が高くなると、その粘度増加の影響により、エチレンカーボネートの浸透速度が急激に低下し、調査位置Vに届く電解液6中のエチレンカーボネートの濃度が大きく低下する。このため、たとえ、調査位置V付近の付加負極活物質層14AF由来のエチレンカーボネートCS1が補ったとしても、調査位置V、即ち、中央部2Mのエチレンカーボネートの含有量の大幅低下を補い切れなかったと推測される。
【0067】
これらに対し、太実線で示す本実施形態の電池1(電極体2)では、調査位置I~IVでは、概ね比較形態1の電池1C1と同様に、概ね調査位置Iから調査位置IVに向かうほど、即ち、端縁4AE2から軸線方向XHの内側XHIに進むほど、エチレンカーボネートの含有量が徐々に低くなっている。しかし、比較形態1の電池1C1とは異なり、本実施形態の電池1では、調査位置Vでも調査位置IVとほぼ同じエチレンカーボネートの含有量となった。即ち、本実施形態の電池1の電極体2では、軸線方向XHの中央部2M(
図3参照)におけるエチレンカーボネートの含有量の低下が抑制されている。具体的には、本実施形態では、調査位置Iに比して調査位置Vの含有量の低下は、概ね10%以下に留まっている。
【0068】
このようになるのは、以下の理由によると考えられる。本実施形態の電池1の電極体2では、負極活物質層14Aのうち、調査位置Vを含む距離ELが80mm以上の中央部分14AMのみに、被膜形成物質CS(具体的にはエチレンカーボネートCS1)を含む付加負極活物質層14AFを形成した未浸透負極板14を用いている(
図4参照)。このため、調査位置I~IVまでの範囲では、比較形態1と同じく、電解液6由来のエチレンカーボネート6VEの浸透速度が遅いことによる濃度の低下を生じたと考えられる。
【0069】
しかし、前述したように、浸透した電解液6が負極活物質層14Aの中央部分14AMの付加負極活物質層14AFに届くと、付加負極活物質層14AF由来のエチレンカーボネートCS1が電解液6中に溶解して補充される。これにより、調査位置Vでは、エチレンカーボネートの含有量を、調査位置IVと同程度に保ち得たと考えられる。
【0070】
(含有P量調査)
電池1,1C1,1C2の負極活物質層4Aに形成された負極SEI被膜4ACの由来を検討すべく、負極SEI被膜4ACに含まれるP量MPの調査も併せて行った。具体的には、上述のエチレンカーボネート含有量で調査した、各電極体2,2C1,2C2から取り出した負極板4のうち、捲回の中間部分で、且つ、
図10において調査位置I,III,Vに対応する部位(負極活物質層4Aの端部4AE,中間部4AM,中央部4AT)を、20×20mmの大きさに切り出して、合計9種類のP量測定用負極サンプルを得る。各サンプルをEMCで洗浄して電解液6を除去し乾燥する。その後、各サンプルを抽出溶液に入れて酸処理等を行い、各サンプルの負極活物質層4AについてICP-MS分析を行い、負極活物質層4Aに含まれる、即ち、負極SEI被膜4ACに含まれるP量を算出した。さらに、各電極体2,2C1,2C2について、調査位置I(端部4AE)について得た端部P量MPEを100%として、各調査位置III,V(中間部4AM,中央部4AT)における相対的な中間部P量MPM(%)及び中央部P量MPT(%)を得た。
【0071】
この結果を、
図12のグラフに示す。太破線で示す比較形態1の電池1C1の電極体2C1では、概ね、調査位置Iから調査位置Vに向かうほど、即ち、端縁4AE2から軸線方向XHの内側XHIに進むほど、P量が徐々に増加していることが判る。具体的には、調査位置I(端部4AE)に対応する端部P量MPEに比して、調査位置III(中間部4AM)に対応する中間部P量MPMは、約2%上昇している。また、端部P量MPEに比して、調査位置V(電極体2C1の軸線方向XHの中央部2M(
図3参照))に対応する中央部P量MPTは、約8%上昇していることが判る。
【0072】
この結果と前述した
図11の結果と併せて考えると、比較形態1の電池1C1では、初充電工程S5を行う際には、電解液6は電極体2C1の中央部2Mまで届いていたが、中央部2Mではエチレンカーボネート6VEの面積密度が大きく低下していたと考えられる。このため、調査位置III(中間部4AM)付近では、調査位置I(端部4AE)と同様、負極SEI被膜4ACのうち、ECに由来する負極SEI被膜の生成が十分生成され、電解液6に含まれるPを含む支持塩6S(本実施形態ではLiPF
6)に由来し、それ故、Pを含む負極SEI被膜も同程度生成されたと考えられる。しかし、電極体2C1の中央部2Mでは、負極SEI被膜4ACのうち、ECに由来する負極SEI被膜の生成は十分でなかった。しかしこれに代えて、支持塩6Sに由来しPを含む負極SEI被膜が過剰に生成されたため、端部P量MPEに比して中央部P量MPTが増加したと考えられる。
【0073】
一方、太一点鎖線で示す比較形態2の電池1C2の電極体2C2では、比較形態1の電池1C1とは逆に,調査位置Iから調査位置Vに向かうほど、即ち、端縁4AE2から軸線方向XHの内側XHIに進むほど、P量が減少していることが判る。具体的には、調査位置Iに対応する端部P量MPEに比して、調査位置III(中間部4AM)に対応する中間部P量MPMは、約4%減少し、調査位置V(電極体2C2の中央部2M)に対応する中央部P量MPTは、約16%減少していることが判る。
【0074】
この結果と前述した
図11の結果と併せて考えると、比較形態2の電池1C2では、初充電工程S5を行う際には、調査位置III付近では、電解液6に溶解したエチレンカーボネートの面積密度が若干高くなり、調査位置III(中間部4AM)付近では、負極SEI被膜4ACのうち、ECに由来する負極SEI被膜の生成が、調査位置I(端部4AE)と同様或いはそれ以上に、十分生成された。これに代えて、支持塩6Sに由来しPを含む負極SEI被膜の生成はやや抑制されたと考えられる。
【0075】
しかしながら、前述したように、エチレンカーボネートの粘度が高いことにより、エチレンカーボネートの浸透速度が低下するのみならず、電解液6の浸透速度まで低下する。このため、調査位置V(中央部4AT)に届く電解液6の量までも低下したと推測される。即ち、そもそも電解液6が電極体2C2の中央部2Mまで十分届いていなかったと推測される。このため、電極体2C2の中央部2M(調査位置V)では、負極SEI被膜4ACのうち、ECに由来する負極SEI被膜が十分生成できなかった。併せて、支持塩6Sに由来しPを含む負極SEI被膜をも十分生成できなかった。このため、端部P量MPEに比して中央部P量MPTが大きく減少したと推測される。
【0076】
これらに対し、太実線で示す本実施形態の電池1の電極体2では、調査位置Iに対応する端部P量MPEに対し、調査位置IIIに対応する中間部P量MPMはほぼ同じ(約1%増)である。一方、調査位置Vに対応する中央部P量MPTは、端部P量MPEに比して、約6%減少している。
【0077】
この結果と前述した
図11の結果と併せて考えると、実施形態の電池1では、前述したように、負極活物質層14Aの中央部分14AMのみに付加負極活物質層14AFを形成した未浸透負極板14を用いている(
図4参照)。このため、初充電工程S5を行う際には、電解液6は電極体2の中央部2Mまで届いていていた。調査位置III(中間部4AM)付近では、調査位置I(端部4AE)と同様、負極SEI被膜4ACのうち、ECに由来する負極SEI被膜の生成が十分生成され、電解液6に含まれるPを含む支持塩6S(本実施形態ではLiPF
6)に由来し、それ故、Pを含む負極SEI被膜も同程度生成されたと考えられる。しかも、付加負極活物質層14AF由来のエチレンカーボネートCS1の補充により、中央部2M(調査位置V)でのECの濃度低下は抑制されていた。このため、電極体2C2の中央部2Mでは、負極SEI被膜4ACのうち、ECに由来する負極SEI被膜が十分生成できており、これにより、支持塩6Sに由来しPを含む負極SEI被膜の生成が抑制された。このため、端部P量MPEに比して中央部P量MPTが6%程度減少したと推測される。
【0078】
(IV抵抗値調査)
エチレンカーボネートの濃度の違い及びP量の違いによる電池特性への影響を検討するべく、以下の調査も併せて行った。製造された電池1,1C1,1C2を、SOC50%充電状態とし、それぞれ不活性雰囲気下のグローブボックス内で解体し、各電極体2,2C1,2C2を取り出す。さらに各電極体2,2C1,2C2を巻きほぐして、正極板、これに対向する負極板、及び、これらに挟まれたセパレータのうち、捲回の中間部分で、且つ、
図10において、調査位置I,III,Vに対応する部位を、それぞれ20×20mmの大きさに切り出して、小型正極板、小型負極板、小型セパレータからなる、合計9種類の小型セル用サンプルを得る。これらをEMCで洗浄及び乾燥し、小型正極板と小型負極板との間に小型セパレータを挟んで積層し、ラミネートフィルムで囲み、新しい電解液6を注液し封止して、新たな小型セル(図示しない)を形成する。
【0079】
各電極体2,2C1,2C2の各調査位置I,III,Vに対応する小型セル(合計9種類)について、それぞれ、25℃環境下で、電流Aを放電電流レート0.2C,0.5C,1C,2Cに相当する大きさとした定電流放電を行い、各々10秒経過時点の電圧低下量ΔVを得た。得られたデータを、電流AをX軸とし電圧低下量ΔVをY軸としたグラフにプロットし、近似直線の傾きを各小型セルのIV抵抗の値とする(IV抵抗=電圧低下量ΔV/電流A)。さらに、各形態について、調査位置Iの小型セルで得られたIV抵抗値を100%とした、各調査位置I,III,Vの小型セルの相対IV抵抗値を得た。
【0080】
この結果を、
図13のグラフに示す。太破線で示す比較形態1の電池1C1の電極体2C1の小型セルのうち、調査位置I,IIIの小型セルは、相対IV抵抗値がほぼ同じであった。しかし、調査位置Vの小型セルは、調査位置I,IIIの小型セルに比して、相対IV抵抗値が大きく上昇(比較形態1では、調査位置Iに比して概ね18%上昇)していることが判る。
【0081】
このようになるのは、以下の理由によると考えられる。前述したように、比較形態1の電池1C1の電極体2C1のうち調査位置I~IIIでは、エチレンカーボネートの含有量はあまり変化していない(
図11参照)。具体的には、調査位置Iに対して調査位置II,IIIでは、高々-7%程度の低下に留まっている。調査位置Iの端部P量MPEに比して調査位置IIIの中間部P量MPMもほとんど増加していない(
図12参照)。比較形態1の電池1C1に対し初充電工程S5で初充電を行うと、負極板4の負極活物質層4Aのうち、調査位置I,III付近では、負極活物質粒子4APに負極SEI被膜4ACとして、エチレンカーボネートに由来する負極SEI被膜が適切に形成される。このため、支持塩6Sに由来する負極SEI被膜も調査位置I,III付近では同程度生成される。かくして、調査位置I,IIIの小型正極板、小型負極板、小型セパレータを用いた小型セルでは、相対IV抵抗値が相互に同程度になったと考えられる。
【0082】
しかし、前述したように、電極体2C1のうち調査位置Vでは、エチレンカーボネートの含有量が大きく低下(-28%低下)していた(
図11参照)。このため、初充電後の負極板4の負極活物質層4Aのうち、調査位置V付近、即ち、中心線ML付近(
図10参照)では、負極活物質粒子4APに負極SEI被膜4ACとして、エチレンカーボネートに由来する負極SEI被膜4ACが十分形成できず、これに代えて、比較的抵抗の高いPを含む支持塩6Sに由来する負極SEI被膜が多く生成された。このため、調査位置Vの小型正極板、小型負極板、小型セパレータを用いた小型セルでは、調査位置Iの小型セルに比して、相対IV抵抗値が18%も高くなったと考えられる。調査位置Iの端部P量MPEに比して調査位置Vの中央部P量MPTが約8%増加していたこと(
図12参照)とも適合する。このことから、比較形態1の電池1C1の電極体2C1では、局所的に中央部2MでIV抵抗値が高くなっており、電極体2C1全体としてもIV抵抗値が高くなっていることが判る。
【0083】
また、太一点鎖線で示す比較形態2の電池1C2の電極体2C2でも、調査位置I,IIIの小型セルは、相対IV抵抗値がほぼ同じであった。しかし、調査位置Vの小型セルは、調査位置I,IIIの小型セルに比して、相対IV抵抗値が大きく上昇(比較形態2では、調査位置Iに比して概ね24%上昇)していることが判る。
【0084】
このようになるのは、以下の理由によると考えられる。前述したように、比較形態2の電池1C2の電極体2C2のうち調査位置I~IIIでは、電解液6に含まれるエチレンカーボネートの含有量はほとんど変化していない(
図11参照)。このため、比較形態2の電池1C2に対し初充電工程S5で初充電を行うと、調査位置I,III付近では、負極板4の負極活物質層4Aのうち、負極活物質粒子4APにエチレンカーボネートに由来する負極SEI被膜4ACが適切に形成される。これに伴い、調査位置III付近では、支持塩6Sに由来する負極SEI被膜の生成は抑制される。このため、調査位置Iの端部P量MPEに比して調査位置IIIの中間部P量MPMが4%程度低下している(
図12参照)と考えられる。そしてこれにより、調査位置I,IIIの小型正極板、小型負極板、小型セパレータを用いた小型セルでは、相対IV抵抗値が相互に同程度になったと考えられる。
【0085】
しかし、前述したように、電極体2C2のうち調査位置Vでは、エチレンカーボネートの含有量が大きく低下(-36%低下)していた(
図11参照)。加えて、調査位置Iの端部P量MPEに比して、調査位置Vの中央部P量MPTは約16%低下している(
図12参照)。電解液6が電極体2C2の中央部2Mまで十分届いていなかったため、初充電後の負極板4の負極活物質層4Aのうち、中央部4AT(調査位置V)付近では、負極活物質粒子4APに負極SEI被膜4ACとして、エチレンカーボネートに由来する負極SEI被膜が十分形成できない。加えて、支持塩6Sに由来する負極SEI被膜も十分生成できない、即ち、負極SEI被膜4ACが生成不十分となった。これにより、調査位置Vの小型正極板、小型負極板、小型セパレータを用いた小型セルでは、調査位置Iの小型セルに比して、相対IV抵抗値が24%も高くなったと考えられる。このことから、比較形態2の電池1C2の電極体2C2でも、局所的に中央部2MでIV抵抗値が高くなっており、電極体2C2全体としてもIV抵抗値が高くなっていることが判る。
【0086】
これらに対し、太実線で示す本実施形態の電池1(電極体2)では、調査位置I,III,Vのいずれにおいても、相対IV抵抗値に大きな変化は生じていない。
【0087】
このようになるのは、以下の理由によると考えられる。前述したように、本実施形態の電池1の電極体2では、調査位置II~IVのみならず調査位置Vでも、調査位置Iに比して、電解液6に含まれるエチレンカーボネートの含有量があまり低下していない。具体的には、調査位置Iに比して、調査位置Vの含有量は-9%の低下に留まっている(
図11参照)。調査位置Iの端部P量MPEに比して調査位置IIIの中間部P量MPMもほとんど増加していない。一方、調査位置Vの中央部P量MPTは約6%低下している(
図12参照)。これらから、本実施形態の電池1に対し初充電を行うと、負極板4の負極活物質層4Aのうち、調査位置I,III付近のみならず調査位置V付近でも、負極活物質粒子4APにエチレンカーボネートに由来する負極SEI被膜4ACを適切に形成できる。これに伴い、調査位置V付近では、支持塩6Sに由来する負極SEI被膜の生成が抑制される。このため、調査位置I,III,Vの小型正極板、小型負極板、小型セパレータを用いた小型セルは、相対IV抵抗値が相互に同程度になったと考えられる。このことから、本実施形態の電池1の電極体2では、捲回型の電極体2内の負極活物質層4Aにおける負極SEI被膜生成の不均一を抑制でき、局所的に中央部2MでIV抵抗値が高くなることがなく、電極体2全体としてもIV抵抗値の増加を抑制できることが判る。即ち、比較形態1,2の電池1C1,1C2に比して、本実施形態の電池1はIV抵抗の低い電池1となることが判る。
【0088】
このように本実施形態の電池1は、エチレンカーボネート6VE及びPを含有する支持塩6Sを含む電解液6を備え、負極活物質層4Aの幅寸法AWが180mm以上の電極体2を備えるので、比較形態1で示したように、ECの浸透ムラを生じ易く、ECが届きにくい中央部2Mでは、ECに由来するSEI被膜が生成され難く、代わりに、Pを含む支持塩に由来するSEI被膜が過剰に形成されがちである。
しかるに、本実施形態の電池1では、負極活物質層4Aの負極SEI被膜4ACに含まれるP量MPのうち、中央部P量MPTが、端部P量MPEを基準として90~105%の範囲内(具体的には94%)となっている。即ち、中央部P量MPTが端部P量MPEと概ね等しいかやや少ない。つまり、この電池1では、負極活物質層4Aの中央部4ATでも、Pを含む支持塩6Sに由来する負極SEI被膜が過剰に形成されておらず、電極体2内の軸線方向XH(負極板4の幅方向WH)に生じる局所的なIV抵抗の増加を抑え、電極体2全体の抵抗増加を抑制した電池1となる。
【0089】
特に本実施形態の電池1は、中間部P量MPMも、端部P量MPEの96~104%(具体的には101%)である。即ち、この電池1では、全体に亘り、負極SEI被膜4ACのうち、Pを含む支持塩6Sに由来する負極SEI被膜が均一に形成されており、電極体2内の軸線方向XHに生じる局所的なIV抵抗の増加を抑え、電極体2全体の抵抗増加を抑制した電池1となる。
【0090】
以上において、本発明を実施形態に即して説明したが、本発明は実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることは言うまでもない。
例えば、実施形態では、負極活物質層14Aの中央部分14AMに、被膜形成物質CSとしてエチレンカーボネートCS1を付加した付加負極活物質層14AFを設けた未浸透負極板14を用い、電池1を形成した。しかし、被膜形成物質CSとして、エチレンカーボネートCS1に代えて、ビニレンカーボネート、LiBOB等を付加して、負極SEI被膜を生成し、支持塩6Sに由来する負極SEI被膜の過剰生成を抑制するようにしても良い。
【符号の説明】
【0091】
1,1C1,1C2 電池(蓄電デバイス)
2,2C1,2C2 電極体
2M 中央部
3 正極板
4 負極板
4A 負極活物質層
4AE 端部
4AT 中央部
4AM 中間部
AW (負極活物質層の)幅寸法
4AE1,4AE2 (幅方向の)端縁
4AP 負極活物質粒子
4AC 負極SEI被膜
MP P量
MPE 端部P量
MPT 中央部P量
MPM 中間部P量
6 電解液
6V 有機溶媒
6VE エチレンカーボネート
6VL 他の溶媒
6S 支持塩(Pを含む支持塩)
7 ケース
14A 負極活物質層
14AE1,14AE2 (幅方向の)端縁
ML 中心線
14AM 中央部分
14AS1 一方側部分(端縁側部分)
14AS2 他方側部分(端縁側部分)
EL 距離
14AF 付加負極活物質層
14AN1,14AN2,14AN 不含負極活物質層
14AP 負極活物質粒子
XH 軸線方向
XHI 内側
XHO 外側
WH 幅方向
WHI 内側