(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134574
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】薄氷雪片の生成方法
(51)【国際特許分類】
F25C 1/145 20180101AFI20240927BHJP
F25C 3/04 20060101ALI20240927BHJP
G01M 17/007 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
F25C1/145 A
F25C3/04
G01M17/007 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044831
(22)【出願日】2023-03-21
(71)【出願人】
【識別番号】391007242
【氏名又は名称】三菱重工冷熱株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102738
【弁理士】
【氏名又は名称】岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】阿部 仁志
(57)【要約】 (修正有)
【課題】人工雪としてそのまま利用可能な薄氷雪片について、製造段階において、時間当たりの製造量、サイズおよび雪質(含水率)の調整が一度に可能な薄氷雪片の製造方法を提供する。
【解決手段】所望サイズ、所望含水率、および所望量の薄氷雪片の生成方法において、冷却面を所定温度に冷却する段階と、所望量および所望含水率に応じて定めた所定量の散水を、冷却面温度に応じて定めた温度で冷却面に噴霧することにより、冷却面上に所定厚みの薄氷層を形成する段階と、所望含水率および所定厚みに応じて定まる硬度を有する薄氷層を、所定厚み全体に亘って冷却面から剥離して、所望サイズの薄氷雪片を生成する段階と、生成された薄氷雪片を自然落下させ、そのまま人工雪として利用する段階とを、有することを特徴とする薄氷雪片の生成方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所望サイズ、所望含水率、および所望量の薄氷雪片の生成方法において、
冷却面を所定温度に冷却する段階と、
所望量および所望含水率に応じて定めた所定量の散水を、冷却面温度に応じて定めた温度で冷却面に噴霧することにより、冷却面上に所定厚みの薄氷層を形成する段階と、
所望含水率および所定厚みに応じて定まる硬度を有する薄氷層を、所定厚み全体に亘って冷却面から剥離して、所望サイズの薄氷雪片を生成する段階と、
生成された薄氷雪片を自然落下させ、そのまま人工雪として利用する段階とを、
有することを特徴とする薄氷雪片の生成方法。
【請求項2】
薄氷雪片は、自然雪を模擬する人工雪として、供試体に飛雪または降雪する環境試験に利用される、請求項1に記載の薄氷雪片の生成方法。
【請求項3】
前記冷却面は固定円筒内面であり、互いに固定円筒の周方向に所定角度間隔を隔てた、散水噴霧スプレー、および先端を固定円筒内面と所定間隔を隔てたブレードを、固定円筒と同心状に回転させて、薄氷雪片を繰り返し連続的に生成する、請求項1に記載の薄氷雪片の生成方法。
【請求項4】
薄氷雪片の所定量は一定で、薄氷雪片の所望サイズを変更する場合、冷却面温度および/または散水温度を変更し、それに応じて、薄氷雪片の掻き取り速度を調整する、請求項1に記載の薄氷雪片の生成方法。
【請求項5】
薄氷雪片の所望サイズは一定で、薄氷雪片の所定量を変更する場合、散水量を変更し、それに応じて、薄氷雪片の掻き取り速度、および冷却面温度および/または散水温度、を調整する、請求項1に記載の薄氷雪片の生成方法。
【請求項6】
薄氷雪片の含水率を変更する場合、生成された薄氷雪片の冷却面からの剥離可能な範囲で、薄氷雪片の掻き取り速度、および冷却面温度および/または散水温度、を調整する、請求項4または5に記載の薄氷雪片の生成方法。
【請求項7】
生成される薄氷雪片を前記固定円筒の下端開口の排出口から自然落下させる、請求項3に記載の薄氷雪片の生成方法。
【請求項8】
前記固定円筒は、内筒と外筒とからなる中空円筒であり、中空部に冷媒を供給することにより、該内筒の内周面を前記冷却面とし、前記ブレードは、矩形板状をなし、前記内周面に対向する直線状縁部を有し、その横断面は、回転方向進み方向の接線に対して鈍角の向きに設けられ、前記ブレードの直線状縁部を前記内周面に形成される薄氷層の外表面の上下方向長さ全体に同時にあてがいながら、剥離する、請求項7に記載の薄氷雪片の生成方法。
【請求項9】
前記散水噴霧スプレーにより前記冷却面に噴霧された散水が、回転方向遅れ側に設けられる前記ブレードにより剥離されるまでに薄氷層を形成するように、回転速度を調整する、請求項8に記載の薄氷雪片の生成方法。
【請求項10】
自然落下する無数の薄氷雪片を背後からの気流に乗せることにより、雪環境試験用供試体に向かって、飛雪または降雪する請求項7に記載の薄氷雪片の生成方法。
【請求項11】
薄氷雪片の厚みは、風に乗って飛雪可能なように、0.1ミリないし0.2ミリである、請求項10に記載の薄氷雪片の生成方法。
【請求項12】
前記固定円筒内面と前記ブレードの前記先端との前記所定間隔は、0.1ミリないし0.2ミリでほぼ一定に保持され、薄氷雪片の製造中、前記固定円筒内面上の薄氷層の厚みは、前記所定間隔と同等となるように薄氷層を形成する、請求項3に記載の薄氷雪片の生成方法。
【請求項13】
薄氷雪片の含水率を変更する場合、含水率は、薄氷雪片のサイズの最大限界による下限値と、生成された薄氷雪片の冷却面からの剥離可能な上限値との間の範囲で、調整する、請求項6に記載の薄氷雪片の生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄氷雪片の生成方法に関し、より詳細には、薄氷雪片の用途に応じて、所望雪質の薄氷雪片を、利用するその場その時に、必要量を連続的に供給することが可能な薄氷雪片の生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、風洞内で発生するジェット気流を供試体に向かって吹き付けることにより、走行状態を模擬する態様の環境試験が種々の目的で行われている。
その1つとして、人工雪をジェット気流に乗せて、供試体、たとえば、静止車両に向かって、飛雪したり、降雪したりすることにより、供試体に対する雪の影響を評価する雪環境試験がある。
雪環境試験においては、人工雪を製造する製氷機が利用されている。
【0003】
たとえば、特許文献1および特許文献2によれば、リーマ式製氷機により、所望製造量のフレーク状氷片を得るのに、冷媒温度、剥離速度および回転数を調整する技術が公知であり、環境試験方法に用いされている。
特許文献1において、この環境試験方法は、人工雪による吹雪を利用して環境試験を行う方法において、それぞれ、環境試験に用いる人工雪の全体必要量に応じて、フレーク状氷片を製造する複数のリーマ式製氷機のうちから任意台数を選択して、選択した 製氷機それぞれにおいて、環境試験の開始までに、製氷可能状態に準備する 段階と、準備したリーマ式製氷機により製氷することにより、環境試験に用いる人工雪の必要量の変化に応じて、製氷量を粗調整する段階と、環境試験に用いる人工雪の必要量の変化に対して、人工雪の必要量と粗調整 された製氷量との差分に応じて、選択したリーマ式製氷機において、冷却媒体の蒸発温度および/または水温および/またはリーマの回転数を調整することにより、製氷量を微調整する段階と、 選択したリーマ式製氷機により製氷されたフレーク状氷片を砕氷して、氷粒とする砕氷段階と、氷粒状の人工雪を用いて吹雪を発生させる段階と、を有し、前記製氷可能状態への準備段階は、前記複数のリーマ式製氷機において、環 境試験を開始する時点で、製氷機の薄氷形成面に薄氷層を製造しておく段階 を有し、 前記製氷段階は、薄氷形成面に形成された薄氷層に対して、リーマにより外 力を加えることにより、フレーク状の氷片を得る段階、を有する構成としている。
【0004】
以上の環境試験方法によれば、複数のリーマ式製氷機を準備し、環境試験の直前に、環境試験に用いる人工雪の必要量に応じて、フレーク状氷片を製造する複数の製氷機のうちから任意台数を選択し、選択したリーマ式製氷機において、環境試験の開始時点において、製氷機の薄氷形成面 に薄氷層を製造しておくことにより、製氷可能状態に準備しておき、環境試 験の際、準備したリーマ式製氷機により薄氷形成面に形成された薄氷層に対 して、リーマにより外力を加えることにより、フレーク状の氷片を得る態様で製氷することにより、製氷量を粗調整するとともに、環境試験に用いる人 工雪の必要量の変化に対して、人工雪の必要量と粗調整された製氷量との差 分に応じて、選択したリーマ式製氷機において、冷却媒体の蒸発温度および /または水温および/またはリーマの回転数を調整することにより、製氷量 を微調整したうえで、選択したリーマ式製氷機により製氷されたフレーク状氷片を砕氷して、氷粒とし、氷粒状の人工雪を用いて吹雪を発生させることから、たとえば、製氷機で製氷した氷片を砕氷して氷粒の状態で作り溜めする必要がないので、それに起因する氷質の変態を回避することが可能であり、一方、リーマ式製氷機による製氷量の粗調整および微調整を通じて、必要なときに必要な量の人工雪を利用して、リアルタイムに製氷量を調整することにより、人工雪による吹雪を利用した適正な試験を行うことが可能である 。
【0005】
一方、特許文献2において、製氷面を流れる給水を冷媒により冷却して氷を形成し、製氷面上に形成した氷を氷片として脱氷し、脱氷した氷を破砕して、氷粒とする氷の製氷方法において、 単位時間当たり要求製氷量および要求氷片温度を予め設定する段階と、 要求される氷の最大厚みおよび要求される最大含水率に応じて、単位時間当たり要求製氷量および要求氷片温度に基づいて、製氷面上での氷の形成速度および形成した氷の製氷面からの脱氷速度を調整する段階を有する、構成としている。
【0006】
以上の構成を有するリーマ式の製氷方法によれば、リーマによりフレーク状氷片に砕く前 に形成される氷層の最大厚み、および製氷するフレーク状氷片の氷温度を予め設定したうえで、設定した氷層の最大厚みおよび氷温度に応じて、冷媒蒸発温度を一定に維持しつつ 、単位時間当たり製氷量の増大とともに、給水温度を低下させながら、リーマ回転数を増大する段階を有することにより、製氷した氷片を砕氷した氷粒を搬送して利用する場合、 必要単位時間当たり製氷量を確保可能な限りにおいて、氷片の厚みを一定限度に制限する ことによりフレーク状氷片を氷粒にする砕氷段階の際、砕氷の障害を生じず、フレーク状 氷片の氷温度を調整することにより、氷粒を搬送路により搬送する搬送段階において、搬送路内に製氷された氷粒が付着することで、搬送路を閉塞したり、氷粒同士の付着により 氷粒の大径化を生じることなく、所望の氷温度および/または所望の氷厚のフレーク状氷片を効率的かつ円滑に製氷可能である。
【0007】
以上の構成を有する環境試験方法におけるリーマ式製氷機による製氷方法によれば、その時その場でフレーク状氷片の製氷は可能であるが、以下のような技術的問題点が存する。
第1に、フレーク状氷片が生成されるに過ぎず、そのまま利用するのが困難であり、生成されたフレーク状氷片を下流の砕氷機により破砕して、氷粒状にし、無数の氷粒を、搬送管内の搬送空気により現場に供給しており、これにより、雪環境試験として使用可能な人工雪とすることが可能である。
第2に、フレーク状氷片の製造量の調整は可能であるが、フレーク状氷片の雪質および/またはフレーク状氷片のサイズを生成の段階で一度に調整するのが困難である。
より詳細には、フレーク状氷片の雪質およびサイズを調整するためには、下流の砕氷機により破砕して、別途氷粒の粒径を調整したり、下流の湿雪化装置により、別途氷粒の外表面を溶かする必要があった。
特に、フレーク状氷片の生成段階において、リーマ式回転刃の螺旋状縁を薄氷層の外表面に当てて、薄氷層の一部を砕いて剥離するので、時間当たりの製造量とともにフレーク状氷片のサイズを調整するのは困難であった。
【0008】
それに対して、特許文献3においては、人工雪に利用する薄氷片の大きさ、および形状を一定化する人工雪の製造方法が開示されている。
この人工雪の製造方法は、冷却面に薄氷層を形成し、形成された薄氷層を回転刃により薄氷片として剥離する点において、特許文献1および特許文献2と共通であるが、砕氷による氷粒化の前段階の薄氷片の大きさ、および形状がほぼ一定となるように、冷却面に格子状に突起を設け、薄氷層が、突起に対応する部位を起点に分断し、大きさ、形状がほぼ一定となり、その後の砕氷による氷粒の粒径のバラツキを抑制するものである。
この点において、人工雪としてそのまま利用される薄氷片の大きさ、形状の調整ではなく、砕氷の準備段階における薄氷片の大きさ、および形状を一定化するに過ぎず、砕氷の準備段階における薄氷片の大きさ、および形状を調整するにしても、それに応じた格子状の突起を有する冷却面を準備する必要が生じる。
また、砕氷の準備段階における薄氷片の時間当たりの製造量、雪質(含水率)の調整について、何ら開示するものでなく、薄氷片の大きさ、および形状の調整と、時間当たりの製造量、雪質(含水率)の調整とをどのように両立するかについて、なんらの示唆もなされていない。
【特許文献1】PCT/JP2014/061724
【特許文献2】特開2018-197650
【特許文献3】特開2006-84162
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上の技術的問題点に鑑み、本発明の課題は、人工雪としてそのまま利用可能な薄氷雪片について、製造段階において、時間当たりの製造量、サイズおよび雪質(含水率)の調整が一度に可能な薄氷雪片の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を達成するために、本発明の薄氷雪片の生成方法は、
所望サイズ、所望含水率、および所望量の薄氷雪片の生成方法において、
冷却面を所定温度に冷却する段階と、
所望量および所望含水率に応じて定めた所定量の散水を、冷却面温度に応じて定めた温度で冷却面に噴霧することにより、冷却面上に所定厚みの薄氷層を形成する段階と、
所望サイズに応じて定めた剥離速度および冷却面温度で、所望含水率および所定厚みに応じて定まる硬度を有する形成された薄氷層を、所定厚み全体に亘って冷却面から剥離して、所望サイズの薄氷雪片を生成する段階と、
生成された薄氷雪片を自然落下させ、そのまま人工雪として利用する段階とを、
有する構成としている。
【0011】
以上の構成の薄氷雪片の生成方法によれば、従来のサイズが大きく厚くて硬く、嵩密度の大きいフレーク状氷片を砕氷して、氷粒として、人工雪として利用するのとは異なり、サイズが小さく薄くて柔らかく、嵩密度の小さい薄氷雪片だからこそ、所与の剥離速度のもとで、冷却面の温度、散水量および散水温度を調整することにより、薄氷雪片の時間当たりの製造量と、薄氷雪片の雪質(含水率)と、薄氷雪片のサイズの調整が、製造段階において一度に可能で、生成された薄氷雪片を自然落下させ、そのまま人工雪として利用することが可能であり、フレーク状氷片の場合は、いったん砕氷し、かつ、たとえば、搬送管により空気搬送し、人工雪として供給するまでに、別途、氷粒のサイズを調整したり、湿雪化したりする手間がかかるところ、利用用途に応じて要求される雪質を達成する所望製造量の所望サイズの薄氷雪片をその場で、その時に、簡便なやり方でオンラインで現場に供給可能である。
【0012】
また、薄氷雪片は、自然雪を模擬する人工雪として、供試体に飛雪または降雪する環境試験に利用されるのがよい。
さらに、前記冷却面は固定円筒内面であり、互いに固定円筒の周方向に所定角度間隔を隔てた、散水噴霧スプレー、および先端を内面と所定間隔を隔てたブレードを、固定円筒と同心状に回転させて、薄氷雪片を繰り返し連続的に生成するのがよい。
さらにまた、薄氷雪片の所定量は一定で、薄氷雪片の所望サイズを変更する場合、冷却面温度および/または散水温度を変更し、それに応じて、薄氷雪片の掻き取り速度を調整するのがよい。
加えて、薄氷雪片の所望サイズは一定で、薄氷雪片の所定量を変更する場合、散水量を変更し、それに応じて、薄氷雪片の掻き取り速度、および冷却面温度および/または散水温度、を調整するのがよい。
【0013】
また、薄氷雪片の含水率を変更する場合、生成された薄氷雪片の冷却面からの剥離可能な範囲で、薄氷雪片の掻き取り速度、および冷却面温度および/または散水温度、を調整するのがよい。この場合、含水率は、薄氷雪片のサイズの最大限界による下限値と、生成された薄氷雪片の冷却面からの剥離可能な上限値との間の範囲で、調整するのがよい。
さらに、生成される薄氷雪片を前記固定円筒の下端開口の排出口から自然落下させるのがよい。
さらにまた、前記固定円筒は、内筒と外筒とからなる中空円筒であり、中空部に冷媒を供給することにより、該内筒の内周面を前記冷却面とし、前記ブレードは、矩形板状をなし、前記内周面に対向する直線状縁部を有し、その横断面は、回転方向進み方向の接線に対して鈍角の向きに設けられ、前記ブレードの直線状縁部を前記内周面に形成される薄氷層の外表面の上下方向長さ全体に同時にあてがいながら、剥離するのがよい。
【0014】
また、前記散水噴霧スプレーにより前記冷却面に噴霧された散水が、回転方向遅れ側に設けられる前記ブレードにより剥離されるまでに薄氷層を形成するように、回転速度を調整するのがよい。
さらに、自然落下する無数の薄氷雪片を背後からの気流に乗せることにより、雪環境試験用供試体に向かって、飛雪または降雪するのがよい。
さらにまた、薄氷雪片の厚みは、風に乗って飛雪可能なように、0.1ミリないし0.2ミリであるのがよい。
加えて、前記固定円筒内面と前記ブレードの前記先端との前記所定間隔は、0.1ミリないし0.2ミリでほぼ一定に保持され、薄氷雪片の製造中、前記固定円筒内面上の薄氷層の厚みは、前記所定間隔と同等となるように薄氷層を形成するのがよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明の薄氷雪片の生成方法を含む雪環境試験設備の実施形態について、図面を参照しながら、以下に詳細に説明する。
図1に示すように、雪環境試験設備10は、薄氷雪片からなる人工雪を利用し、人工雪をその背後からの気流に乗せて飛雪を模擬して、試験供試体である車両Vに向かうように構成され、そのために、風洞設備と、薄氷雪片製造装置18と、気流発生装置100とを有する。
特に、薄氷雪片のサイズおよび含水率が主な影響因子である所定の雪質を具備する飛雪を必要量用いて、車両Vに向かって連続的に供給する際、車両Vの高さ全体に拡散し、場合により車両Vの高さ方向に所望の飛雪濃度分布を実現できるようにするために、所定の温度および湿度管理のもとで、人工雪として利用する薄氷雪片群を試験直前に製造して迅速に供給することが要求される。
【0016】
概略的には、雪環境試験設備10は、風洞16内において、車両Vに向けて気流MFを発生しつつ、薄氷雪片製造装置18により薄氷雪片状の人工雪を製造し、気流発生装置100により車両Vに向けて斜め上方に発生する気流により、落下する薄氷雪片を斜め上方に飛雪し、車両Vに降雪するようにしている。
【0017】
風洞16は、開放タイプの回流型であり、測定対象である車両Vを設置する( 開放型)測定室300と、第1~第4の4つの屈曲胴302、304、306、308(屈曲部)とを備えて平面視略長方形に形成されている。
送風機25で発生した気流MFは、第2拡散胴310、第3屈曲胴306、第4屈曲胴308、整流胴312、縮流胴314を経て、測定室300に開口する吹出し口316から測定室300に流入し、測定室300を介して、吹出し口316と受入れ口317とが対向配置されており、受入れ口317、第1屈曲胴302、第2屈曲胴304の順に流れるようになっている。
送風機25によって送風された気流MFは、いったん気流全体としての風速( 動圧) を低下させて中間胴部における圧力(静圧)を上昇させた後、縮流胴314を通過させることで、測定するのに必要十分な風量(風速)の気流MFを吹出し口316から測定室300に吹き出すことができるようにしている。
【0018】
これにより、後に説明するように、薄氷雪片が、測定室300内において、その背後からの気流MFに乗って車両Vに向かって飛雪として供給され、送風機25により気流MFの風速を調整することにより、静止車両Vでありながら走行車両Vを模擬できるようにしている。
また、降雪試験用の回流型風洞16の場合、試験後の雪を分離回収するために、車両Vの下流に、別途雪補修装置38を設けているが、いずれにせよ、雪の重力落下あるいは慣性効果により雪を分離させるのに、車両Vの下流に、敢えて気流MFを整流させない領域を設けている。
【0019】
次に、
図2ないし
図4に示すように、薄氷雪片製造装置18は、固定中空円筒20の内周面56に向かって散水を噴霧する散水噴霧スプレー24と、先端26が内周面56と所定間隔を隔てたブレード28と、散水噴霧スプレー24およびブレード28を固定中空円筒20と同心状に回転させる回転駆動手段30と、を有し、散水噴霧スプレー24およびブレード28は、互いに固定中空円筒20の周方向に所定角度間隔θを隔て、内周面56に形成される薄氷層Lをブレード28により剥離することにより生成した薄氷雪片Sを自然落下させる排出口32が下端部に設けられる。
【0020】
薄氷雪片製造装置18は、整流洞312の上部に設けられ、薄氷雪片製造装置18によって造られた薄氷雪片雪が整流洞312の上面に設ける開口部を介して、整流洞312内に落下するようにしている。
薄氷雪片製造装置18が、模擬走行速度に応じた気流により、縮流洞314と静止車両Vとの間で移動可能であり、たとえば、整流洞312の上部に設けた、風洞16の延び方向に沿うレール(図示せず)に嵌合し、整流洞312と静止車両Vとの間で移動可能に構成することにより、薄氷雪片製造装置18を風洞16に対して移動可能にすることが可能である。
薄氷雪片製造装置18は、複数(図面2基)設けられ、各薄氷雪片製造装置18は、互いに独立に水平方向位置が整流洞312上で調整可能としている。これにより、各薄氷雪片製造装置18により製造され、整流洞312内に自然落下する無数の薄氷雪片Sについて、縮流洞314に至るまでに、ブースター気流発生装置100およびコンベア400による飛雪態様を調整することが可能である。
【0021】
固定中空円筒20は、内表面に薄氷層Lが形成される内筒22と、内筒22を囲繞する外筒23とを有している。内筒22及び外筒23は鋼製とされ、内筒22と外筒23の間には中空部21が設けられている。中空部21には、配管76、78を介して冷凍機74から冷媒が供給され、内筒22の内周面56が、固定円筒内面として、冷媒により所定温度まで冷却されるようにしている。なお、固定中空円筒20の外周面は円筒状の保護カバー(図示せず)で覆われている。
固定中空円筒20には、内周面56に形成される薄氷層Lをブレード28により剥離することにより生成した薄氷雪片Sを自然落下させる排出口32が下端部42に設けられる。
【0022】
連結ロッド40が、固定中空円筒20内スペースを固定中空円筒20の中心を通り横断するように水平に設けられ、各端部42には、連結ロッド回転機構44が設けられ、連結ロッド回転機構44の各端部42の固定中空円筒20の中心寄りには、支持アーム46を介して、一対のブレード28ー散水噴霧スプレー24が設けられ、連結ロッド回転機構44により、連結ロッド40が固定中空円筒20の中心まわりに回転し、以て、各対のブレード28ー散水噴霧スプレー24が、固定中空円筒20の周方向に移動可能に構成している。
連結ロッド40の固定中空円筒20に対するレベルは、適宜定めればよいが、後に説明するように、連結ロッド回転機構44の設置態様から、固定中空円筒20の上部が好ましい。
【0023】
各端部42に設ける連結ロッド回転機構44は、共通であるので、一方について説明する。
連結ロッド回転機構44は、連結ロッド40を境に両側に配置された一対のタイヤ48I、48Oと、一対のタイヤ48I,48Oそれぞれをタイヤ48の中心まわりに回転可能に支持する鉛直回転シャフト50と、鉛直回転シャフト50を支持する回転シャフト支持部52と、タイヤ48を回転駆動する回転駆動部54とを概略有する。
一対のタイヤ48I,48Oはそれぞれ、固定中空円筒20の内周面56側および外周面58側に設けられ、内周面56側に設けた円周溝60および外周面58側に設けた円周溝60に嵌るようにし、一対のタイヤ48I,48Oにより、固定中空円筒20を挟み込むように配置されている。一対のタイヤ48I,48O同士の間隔、すなわち、矩形部材(後に説明)の長さは、連結ロッド回転機構44により、連結ロッド40、かくして、2組のブレード28ー散水噴霧スプレー24が固定中空円筒20の周方向に円滑に回転可能な観点から定めればよい。タイヤ48は、衝撃吸収性、変形可能性を具備する弾力性を有する通常のゴム製がよい。
より詳細には、円周溝60の幅wは、タイヤ48の幅に応じて設定し、タイヤ48が中心まわりに回転フリーとなるようにタイヤ48の幅より若干広いのが好ましく、円周溝60の深さdは、計4つのタイヤ48により、連結ロッド40、および2組のブレード28ー散水噴霧スプレー24を支持可能な観点から決定するのがよい。
【0024】
回転シャフト支持部52は、たとえば、各タイヤ48の中心支持部を四隅それぞれに有する矩形部材であり、固定中空円筒20の上方から固定中空円筒20の上周面を内外に跨るように配置され、内周面56側において、連結ロッド40の対応する端部42に連結されている。これにより、連結ロッド40と回転シャフト支持部52、かくして、回転シャフト支持部52により支持される各タイヤ48は、一体的に可動である。
回転駆動部54は、たとえば、駆動モーターでよく、4つのタイヤ48のいずれか1つの鉛直回転シャフト50に直結され、回転駆動タイヤ48とし、他のタイヤ48は、被駆動タイヤ48として、構成している。なお、一対の連結ロッド回転機構44のいずれか1つの側のいずれか1つのタイヤ48に回転駆動部54を設け、残りの計7つのタイヤ48を被駆動タイヤ48とすればよい。この場合、被駆動タイヤ48は、対応する鉛直回転シャフト50に対して回転フリー、駆動タイヤ48は、回転駆動部54により回転駆動される鉛直回転シャフト50に対して、たとえば、減速機構(図示せず)を介して、連結されるのがよい。
【0025】
以上の構成により、連結ロッド回転機構44により、連結ロッド40と回転シャフト支持部52、かくして、回転シャフト支持部52により支持されるタイヤ48が支持された状態で、回転駆動部54により、連結ロッド40、かくして、2組のブレード28ー散水噴霧スプレー24が、固定中空円筒20の周方向に回転するようにし、後に説明するように、散水噴霧スプレー24により固定中空円筒20の内周面56に散水しつつ、内周面56に形成される薄氷層Lをブレード28により、薄氷雪片として剥離して、薄氷雪片を繰り返し連続的に生成するようにしている。
【0026】
各支持アーム46は、連結ロッド40と同様に、金属製が好ましく、連結ロッド40に対して直交して設けられ、両先端部がそれぞれ内周面56に向けて折れ曲がっている。支持アーム46の先端部の折れ曲がり角度αは110°程度とされている。支持アーム46の連結ロッド40に対する連結位置および折れ曲がり角度は、適宜に設定すればよい。
図4に示すように、2組のブレード28ー散水噴霧スプレー24の一方の組のブレード28と他方の組の散水噴霧スプレー24は、互いに固定中空円筒20の周方向に所定角度間隔θを隔て、所定角度間隔θは、散水噴霧スプレー24A、24Bそれぞれの回転方向θ遅れ側のブレード28B、28Aが、散水噴霧スプレー24により散水された水により冷却面に形成される薄氷層Lを剥離可能なように、適宜設定すればよい。
【0027】
各散水噴霧スプレー24は、最近接するブレード28の回転方向進み側に配置されている。散水噴霧スプレー24の設置高さは、噴霧範囲が固定中空円筒20の内周面56高さの全体をカバー可能なように、内周面56高さのほぼ中間位置とするのがよい。散水噴霧スプレー24から噴射する霧状の水の噴射圧は、0.05~0.2MPa程度が好ましい。
【0028】
散水噴霧スプレー24は、支持アーム46への取り付け方により、散水噴霧スプレー24から内筒22の内周面56までの距離、および散水噴霧スプレー24から噴射される水の噴射方向を調節可能としている。
【0029】
支持アーム46それぞれの各先端部に装着されているブレード28は、固定中空円筒20の内筒22の高さ方向長さと同等な長さを有する金属製矩形板からなり、回転方向の接線方向に対して所定傾斜角度αをなすように設けられる。金属製矩形板は、内周面56に対向する直線状縁部を有し、その横断面は、
図4に示すように、回転方向進み方向の接線に対して鈍角αの向きに設けられ、ブレード28の直線状縁部を内周面56に形成される薄氷層Lの外表面の上下方向長さ全体に同時にあてがいながら、支持アーム46の回転により剥離するようにしている。
ブレード28の支持アーム46側端部には、ブレード28の先端部と固定中空円筒20の内周面56との間隔を調整するための間隔調整ボルト29が取り付けられている。ブレード28の先端部27と固定中空円筒20の内筒22の内周面56との間隔は、0.1~0.2mm程度が好ましい。固定中空円筒20の内筒22の内周面56の製作誤差から、内周面56とブレード28の先端部27との最小クリアランスは、0.1mm程度がほぼ限界である一方、内周面56に生成される薄氷層Lの厚みにも依存するが、0.2mmを超えると、含水率等所望雪質の薄氷雪片を得るのが困難となる。
間隔と剥離される薄氷雪片のサイズとの関係について、この範囲であれば、薄氷雪片のサイズ、特に厚みへの影響は小さく、薄氷雪片のサイズは、冷媒温度および/又は散水温度、流量、および連結ロッド40の回転数が重要なパラメータとなることを確認している。
生成される薄氷雪片Sの厚みが、風に乗って飛雪可能なように、0.1ミリないし0.2ミリの場合、散水を冷却面56に散布した瞬間に、薄氷雪片Sが生成されることから、ブレード28の先端と冷却面56との間隔は、生成される薄氷雪片Sの厚み範囲に固定し、散水噴霧スプレー24の回転方向遅れ側に隣接するブレード28(
図4によれば、直径方向反対側のブレード28、散水噴霧スプレー24A,Bそれぞれに対して、ブレード28B, A)により、生成された薄氷雪片Sを剥離するのが好ましい。
【0030】
水温水量調整装置61が、散水ノズル24に供給される水の温度および流量を調整するために設けられ、水タンク62、水タンク62内の水を加熱する加熱ヒーター64、水タンク62と散水ノズル24とを連通接続する配管66、および配管66の途中に設けられた液送ポンプ68を有し、制御盤70が、加熱ヒーター64および液送ポンプ68を制御し、水温調整および水量調節を行うようにし、水温調整および水量調節された水が、配管66を介して散水ノズル24に供給されるようにしている。薄氷雪片製造装置18 に供給する水は水道水で良く、水温は5~25℃とする。
冷媒温度調整装置72が、固定中空円筒20内に供給される冷媒の温度を調整するために設けられ、凝縮器(図示せず)とインバータ制御される圧縮機(図示せず)とを含む通常の冷凍機部分74と、固定中空円筒20内に設けた蒸発器(図示せず)から蒸発圧力調整弁80を介して冷媒を冷凍機部分74に戻す戻し管76と、膨張弁82を介して冷媒を蒸発器に向けて供給する供給管78とを有し、制御盤70が、冷凍機部分74および蒸発圧力調整弁80を制御し、固定中空円筒20内に供給する冷媒温度および流量を制御し、温度および流量が調整された冷媒が固定中空円筒20内の蒸発器に供給され、冷却面22を所定温度に冷却し、加熱された冷媒が冷凍機部分74に戻るようにしている。
【0031】
制御盤70が、駆動モーター54を制御し、連結ロッド40の回転数を調整するようにしており、これにより、冷却面22に対して散水を供給する速度、および冷却面22上に形成された薄氷層Lを剥離する速度が調整されるようにしている。
以上の構成により、薄氷雪片の所望サイズおよび時間当たりの所望製造量(降雪量)に応じて、水温水量調整装置61により水温および水量を調整しつつ、冷媒温度調整装置72により冷媒温度を調整する一方、駆動モーター54を制御することにより、薄氷層Lを剥離する速度を調整するようにしている。
【0032】
気流発生装置100は、気流発生駆動源102と、気流発生駆動源102により発生した気流Jを吹き出す気流吹き出しノズル104と、気流発生駆動源102と気流吹き出しノズル104とを連通接続する気流搬送管106とを有し、気流吹き出しノズル104は、風洞16の縮流洞の最上部より上方に設置される。これにより、気流発生装置100により車両Vに向かって斜め上方に発生する気流Jが、風洞16内から発生する気流MFによって偏向されないようにしている。
気流発生駆動源102は、たとえば、送風機でよく、気流吹き出しノズル104は、複数設けられ、互いに同レベルに設けられるのでもよく、単一で、水平方向に横長開口のものでよい。
変形例として、気流発生装置100を複数設け、互いに同レベルに設けられるのでもよい。
【0033】
以上の上記構成を有する雪環境試験設備10について、その運転方法について説明する。なお、薄氷雪片製造装置18が設置される測定室300内 の温度は 5℃以下、好ましくは 3℃以下に保つのがよい。
【0034】
まず、雪環境試験の試験目的に応じて、薄氷雪片の所望サイズ、所望含水率および時間当たりの所望製造量(降雪量)を設定するとともに、走行模擬する車両Vの走行速度に応じて、風洞16内の気流MFの気流速度を設定する。
次いで、薄氷雪片Sの供試体である車両Vへの所望飛雪高さ範囲Rに応じて、縮流洞314の吹き出し口316からの供試体の距離Lを設定する。たとえば、車両Vへの所望飛雪高さ範囲Rが低いレベルである場合には、距離Lを長く設定する。
次いで、設定した薄氷雪片の所望サイズ、所望含水率および時間当たりの所望製造量(降雪量)に基づいて、制御盤70により、水温水量調整装置61、冷媒温度調整装置72および駆動モーター54を制御して、散水噴射ノズル24に供給する水の温度および流量、冷媒温度、連結ロッド40の回転速度を調整する。
より具体的には、冷凍機74を作動させることで配管76、78を介して固定中空円筒20に冷媒を供給して、固定中空円筒20の内周面の温度を―10~―20℃にするとともに、薄氷雪片のサイズおよび製造量に応じて、散水噴霧スプレー24から噴射される水量および連結ロッド40の回転速度を設定する。雪環境試験自体の規模によるが、たとえば、散水量:毎分0.4~2.0リットル、回転速度:毎秒400~1000ミリである。散水量は、薄氷雪片の所望量および所望含水率に応じて定められる。
【0035】
たとえば、薄氷雪片の所望サイズを変更する場合、水温水量調整装置61により散水ノズル24に供給される散水温度を変更したり、冷媒温度調整装置72により固定中空円筒20内に供給される冷媒の温度を調整して冷却面温度を変更したり、その両方を同時に行い、それに応じて、剥離速度を調整するのがよい。より具体的には、薄氷雪片の所望サイズを大きくする場合には、散水温度を高くするとともに、冷却面温度を高くするのがよい。後述の実施例において述べるように、雪片サイズの変更には剥離速度が大きく影響し、剥離速度が早いほど雪片サイズが小さくなる。
たとえば、薄氷雪片の所望含水率を変更する場合、水温水量調整装置61により散水ノズル24に供給される散水温度を変更したり、冷媒温度調整装置72により固定中空円筒20内に供給される冷媒の温度を調整して冷却面温度を変更したり、その両方を同時に行い、それに応じて、薄氷層の形成速度を調整するのがよい。より具体的には、薄氷雪片の所望含水率を高める場合には、散水温度を高くするとともに、冷却面温度を高くするのがよい。
散水温度および冷却面温度は、いずれも冷却面に散水された水の凍りやすさを調整するパラメータであり、冷却面に形成される薄氷層の厚み全体に亘ってブレードにより剥離することを前提に、散水された水が凍るぎりぎりの状態で剥離させることにより、雪片サイズが大きくなるとともに含水率が高くなる。
【0036】
たとえば、薄氷雪片の所望量を変更する場合、水温水量調整装置61により散水ノズル24に供給される散水量を変更し、それに応じて、薄氷層の厚みを調整するのがよい。より具体的には、薄氷雪片の所望量を増大する場合には、散水量を増大して、薄氷層の厚みを増大するのがよい。
なお、このような薄氷雪片の所望サイズ、所望含水率および所望量の変更は、変更のたびに、いったん薄氷雪片製造装置18を停止するバッチ的行うのでもよく、一連の雪環境試験として予めスケジューリングされている場合には、薄氷雪片製造装置18を停止することなく、連続的に稼働しながら行うのでもよい。
【0037】
支持アーム46と共に反時計回りに回転する散水噴霧スプレー24から固定中空円筒20の内周面に向けて噴射された霧状の水は、固定中空円筒20の内周面に接触すると瞬時に凍結して 薄氷層Lとなる。
より具体的には、固定中空円筒20の内周面とブレード28の先端との所定間隔は、0.1ミリないし0.2ミリでほぼ一定に保持され、薄氷雪片の製造中、固定中空円筒20の内周面上の薄氷層Lの厚みは、所定間隔と同等となるように薄氷層Lを形成する。薄氷層Lの硬度は、所望含水率および所定厚みに応じて定まる。
固定中空円筒20の内周面に形成された薄氷層Lは、支持アーム46と共に反時計回り に回転するブレード28によって剥離されて、繰り返し連続的に薄氷雪片となる。剥離された無数の薄氷雪片は排出口32から測定室300内に落下する。
【0038】
次いで、気流発生装置100により、排出口32と縮流胴314との間に、静止車両Vの真上から降雪するように、排出口32から重力落下する薄氷雪片Sに向かって、静止車両Vに向かう斜め上方に気流Jを流す。
薄氷雪片製造装置18と静止車両Vとの距離が長い場合は、それに応じて、気流発生装置100による気流吹き出しノズル104の斜め上方の向きを小さくする一方、薄氷雪片製造装置18からの時間当たりの薄氷雪片製造量、すなわち、薄氷雪片落下量が大きい場合には、それに応じて、気流流量を増大すればよい。
または、時間当たりの薄氷雪片製造量、薄氷雪片落下量が小さい場合には、気流流量を増大することにより、気流吹き出しノズル104の斜め上方の向きを小さくしない選択もあり得る。
さらに、薄氷雪片製造装置18を静止車両V側に移動することにより、薄氷雪片製造装置18と静止車両Vとの距離を調整するのでもよく、薄氷雪片製造装置18の移動のみ、あるいは、気流吹き出しノズル104の斜め上方の向きの調整のみでは、対応できない場合に、薄氷雪片製造装置18の移動と、気流吹き出しノズル104の斜め上方の向きの調整とを組み合わせてもよい。
【0039】
以上の構成を有する降雪システムによれば、風洞設備11により風洞16内で発生する気流MFを縮流洞から静止車両Vに向かって流すことにより、走行模擬することが可能である。
その際、薄氷雪片製造装置18を縮流洞と静止車両Vとの間に設け、回転駆動手段30により、散水噴霧スプレー24およびブレード28を固定中空円筒と同心状に回転させることにより、散水噴霧スプレー24により固定中空円筒20の内周冷却面に向かって散水を噴霧することにより、内周冷却面に薄氷層Lを形成しつつ、散水噴霧スプレー24と互いに固定中空円筒20の周方向に所定角度間隔を隔てたブレード28により、薄氷層Lをブレード28により剥離することにより、薄氷雪片が生成され、生成した薄氷雪片を下端部の排出口32から自然落下させることにより、薄氷雪片を風洞16内で発生する気流MFに乗せて、静止車両Vに向かって飛雪させることが可能である。
ここで、排出口32と縮流胴314との間に設ける気流発生装置100により、排出口32から重力落下する薄氷雪片Sに向かって、静止車両Vに向かう斜め上方に気流Jを流すことにより、気流発生装置100より発生する気流の向きおよび/または気流流量を調整することにより、静止車両Vの真上から降雪するようにすることが可能であり、以て、静止車両Vを利用して走行車両Vを模擬する際、自然雪に近い着雪性を有する薄氷雪片を用いて、走行車両Vへの降雪による着雪状況を精確に模擬可能である。より具体的には、風洞16内で発生する気流MFを利用して、走行模擬車両に対する前方からの飛雪を模擬し、気流発生装置100より発生する気流を利用して、走行模擬車両の真上からの降雪を模擬することが可能である。
以上の構成の薄氷雪片の生成方法によれば、従来のサイズが大きく厚くて硬く、嵩密度の大きいフレーク状氷片を砕氷して、氷粒として、人工雪として利用するのとは異なり、サイズが小さく薄くて柔らかく、嵩密度の小さい薄氷雪片だからこそ、所与の剥離速度のもとで、冷却面の温度、散水量および散水温度を調整することにより、薄氷雪片の時間当たりの製造量と、薄氷雪片の雪質(含水率)と、薄氷雪片のサイズの調整が、製造段階において一度に可能で、生成された薄氷雪片を自然落下させ、そのまま人工雪として利用することが可能であり、フレーク状氷片の場合は、いったん砕氷し、かつ、たとえば、搬送管により空気搬送し、人工雪として供給するまでに、別途、氷粒のサイズを調整したり、湿雪化したりする手間がかかるところ、利用用途に応じて要求される雪質を達成する所望製造量の所望サイズの薄氷雪片をその場で、その時に、簡便なやり方でオンラインで現場に供給可能である。特に、砕氷雪は、多角形状の氷粒であり、車両にぶつかったとき跳ね返りやすいのに対し、薄氷雪片は、車両との接触面積が広く着雪しやすい。
【0040】
本件出願人は、実施形態による薄氷雪片の製造方法により、散水量およびブレード速度を主パラメータとして、薄氷雪片サイズに与える影響について実証試験を行った。
試験条件(散水量、ブレード速度、蒸発圧力飽和温度(ET)および散水温度)は、
図5ないし
図7に記載の通りであり、冷却面とブレードの先端との隙間は、0.12mmで一定である。
蒸発圧力飽和温度は、冷媒が特定の蒸発圧力で蒸発する際の飽和温度であり、冷却面温度は冷媒が特定の蒸発圧力で蒸発する際の飽和温度(冷媒温度)で制御され、蒸発圧力は蒸発圧力調整弁80で制御される。
図5によれば、大きさが小さい薄氷雪片を製造するには、ブレード速度が高く、散水量が低く、大きさが大きい薄氷雪片を製造するには、ブレード速度が低く、散水量が高くすればよいことが示されている。また、同じ大きさの薄氷雪片を製造するのに、冷媒温度および散水温度が一定のもとで、ブレード速度と散水量との組み合わせが可能であることが示されている。より詳細には、ブレード速度を高く、それに応じて散水量を低く高くするか、ブレード速度を低く、それに応じて散水量を低くするかの選択が可能である。この場合、たとえば、所望の雪質の薄氷雪片、たとえば、含水率と、所望の大きさの薄氷雪片との両立を達成するには、含水率から散水量を定め、それに応じて、ブレード速度を調整すればよい。
次に、
図5と
図7との比較より、冷媒温度が高く、散水温度が低い場合(
図5)と、冷媒温度が低く、散水温度が低い場合(
図7)とにおいて、冷媒温度が低く、散水温度が低い場合の方が、薄氷雪片の大きさが小さくなる傾向にあることがわかる。
次に、
図6と
図7との比較より、冷媒温度が低く、散水温度が高い場合(
図6)と、冷媒温度が低く、散水温度が低い場合(
図7)とにおいて、冷媒温度が低く、散水温度が低い場合の方が、薄氷雪片の大きさが小さくなる傾向にあることがわかる。
以上より、薄氷雪片の製造量、薄氷雪片の雪質、たとえば、含水率および薄氷雪片の大きさを考慮する場合には、薄氷雪片の製造量は、散水量が主要な支配因子であり、薄氷雪片の雪質は、ブレード速度が主要な支配因子であるところ、冷媒温度と散水温度との組み合わせにより、薄氷雪片の大きさが調整可能であることがわかる。
【0041】
より詳細には、以下を確認した。
前提として造雪量の調整は散水量で行う。
・雪片サイズを固定しつつ、造雪量を変化させる場合
(1)造雪量増加
→散水量 増+掻き取り速度 速+冷却面温度 低(散水温度 低)
(2)造雪量減少
→散水量 減+掻き取り速度 遅+冷却面温度 高(散水温度 高)
・造雪量を固定しつつ、雪片サイズを変化させる場合
(1)雪片サイズ 大
→冷却面温度 高(散水温度 高)+掻き取り速度 遅
(2)雪片サイズ 小
→冷却面温度 低(散水温度 低)+掻き取り速度 速
特に、風洞設備により静止車両の走行模擬をしつつ、吹雪、飛雪、降雪の雪環境試験を行うのに必要な自然雪に近い雪質を実現するのに、厚み0.1mmないし0.2mmの薄氷雪片が雪片サイズを調整しつつ生成可能である点を確認している。
なお、含水率の調整について、含水率が高くなると、生成された薄氷雪片が冷却面から剥離しにくくなる一方、含水率が低くなると、薄氷雪片同士の付着による薄氷雪片のサイズの最大限界があることから、含水率の調整範囲として、下限値および上限値があり、その範囲内で調整可能である点も確認している。
以上、時間当たりの散水量、冷媒温度/散水温度、および/またはブレード速度を調整すれば、薄氷雪片の生成段階において、生成される薄氷雪片の時間当たりの製造量、サイズおよび雪質の調整が一度に可能である点を確認した。
【0042】
以上、本発明の実施形態を詳細に説明したが、本発明の範囲から逸脱しない範囲内において、当業者であれば、種々の修正あるいは変更が可能である。
たとえば、本実施形態において、雪環境設備として、気流発生装置100を利用して、薄氷雪片により静止車両の真上から降雪する場合を説明したが、それに限定されることなく、気流発生装置100を利用せずに、薄氷雪片を背後からの風洞内の気流MFに乗せて、静止車両に向かって飛雪させ、吹雪の車両の付着状況を評価するのに用いてもよい。この場合、試験に応じて、薄氷雪片の雪質に影響を与えることなく薄氷雪片の製造量を変更することが可能である。
【0043】
たとえば、本実施形態において、雪環境設備として、気流発生装置100を利用して、薄氷雪片により静止車両の真上から降雪する場合を説明したが、それに限定されることなく、整流洞内にブースター気流発生装置を設置して、背後からの風洞内の気流MFに乗る薄氷雪片をブースター気流発生装置により発生する気流により縮流洞まで案内して、車両への飛雪レベルを調節して、吹雪の車両の付着状況を評価するのに用いてもよい。この場合、試験に応じて、薄氷雪片の雪質に影響を与えることなく薄氷雪片の製造量を変更することが可能である。
たとえば、本実施形態において、薄氷雪片製造装置18において、冷却面温度は冷媒が蒸発する際の温度による制御と説明したが、それに限定されることなく、冷却面に所望の薄氷層が生成される限り、冷媒にブライン液を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1】本発明の実施形態に係る雪環境試験設備の全体構成図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る雪環境試験設備の静止車両Vへの降雪状況を示す部分図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る雪環境試験設備の薄氷雪片製造装置18を示す概略側面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る雪環境試験設備の薄氷雪片製造装置18を示す概略平面図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る薄氷雪片の製造方法を基礎とした、蒸発圧力飽和温度(ET)および散水温度がある条件の場合における、ブレード速度および散水量を主パラメータとしての実証試験の結果を示すグラフである。
【
図6】本発明の実施形態に係る薄氷雪片の製造方法を基礎とした、蒸発圧力飽和温度および散水温度がある条件の場合における、ブレード速度および散水量を主パラメータとしての実証試験の結果を示すグラフである。
【
図7】本発明の実施形態に係る薄氷雪片の製造方法を基礎とした、蒸発圧力飽和温度および散水温度がある条件の場合における、ブレード速度および散水量を主パラメータとしての実証試験の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0045】
S 薄氷雪片
MF 気流
J 気流
V 静止車両
θ 所定角度間隔
α ブレードの傾斜角度
w 円周溝60の幅
d 円周溝60の深さ
L 薄氷層
10 雪環境試験設備
11 風洞設備
16 風洞
18 薄氷雪片製造装置
20 固定中空円筒
21 中空部
24 散水噴霧スプレー
27 先端部
28 ブレード
29 固定ボルト
30 回転駆動手段
32 排出口
40 連結ロッド
42 端部
44 連結ロッド回転機構
46 支持アーム
48 タイヤ
50 鉛直回転シャフト
52 回転シャフト支持部
54 回転駆動部
56 内周面
58 外周面
60 円周溝
61 水温水量調整装置
62 水タンク
64 加熱ヒーター
66 配管
68 液送ポンプ
70 制御盤
72 冷媒温度調整装置
74 冷凍機
76 供給管
78 戻し管
80 蒸発圧力調整弁
100 気流発生装置
102 気流発生駆動源
104 気流吹き出しノズル
106 気流搬送管
300 測定室
302、304、306、308 屈曲胴
310 第2拡散胴
306 第3屈曲胴
308 第4屈曲胴
312 整流胴
314 縮流胴
316 吹出し口
317 受入れ口