(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134598
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド、および、製造方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20240927BHJP
B41J 2/16 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
B41J2/14 607
B41J2/14 301
B41J2/16 503
B41J2/14 613
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044870
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】玉井 捷太郎
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 壮輔
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AF21
2C057AF71
2C057AG14
2C057AG44
2C057AN01
2C057AP25
2C057AQ02
2C057BA04
2C057BA14
(57)【要約】
【課題】圧力室ごとに液体の吐出特性にばらつきを抑制する。
【解決手段】液体吐出ヘッドにおいて、流路基板と圧力室基板とは接着剤によって接合されている。圧力室基板は、振動板が存在する側の面に形成された開口であって、振動板の少なくとも一部を圧力室空間に露出させる第1開口と、流路基板が存在する側の面に形成された他の開口であって、圧力室空間を流路基板に形成された流路につなぐ第2開口と、圧力室空間を区画する内壁部であって、第1開口と第2開口とをつなぐ少なくとも1つの壁部と、壁部に形成され、流路基板から振動板に向かう第1方向にくぼむ少なくとも1つの凹部と、壁部に形成され、第1方向とは逆の方向に突出する凸部であって、長手方向において少なくとも1つの凹部と第1開口との間に配置されている少なくとも1つの凹部と、を有する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体吐出ヘッドであって、
液体をノズルに導く流路を形成する1つ以上の空間を有する流路基板と、
前記流路基板の前記空間に接続される1つ以上の圧力室空間を有する圧力室基板と、
前記圧力室空間と重なる位置に配置された振動板と、
前記振動板を振動させて前記圧力室空間の内部の前記液体に圧力を付与する圧電素子と、
を備え、
前記流路基板と、前記圧力室基板と、前記振動板と、前記圧電素子とがこの順で積層されており、
前記流路基板と、前記圧力室基板と、は接着剤によって接合されており、
前記圧力室基板は、
前記振動板が存在する側の面に形成された開口であって、前記振動板の少なくとも一部を前記圧力室空間に露出させる第1開口と、
前記流路基板が存在する側の面に形成された他の開口であって、前記圧力室空間を前記流路基板に形成された前記流路につなぐ第2開口と、
前記圧力室空間を区画する内壁部であって、前記第1開口と前記第2開口とをつなぐ少なくとも1つの壁部と、
前記少なくとも1つの壁部に形成され、前記流路基板から前記振動板に向かう第1方向にくぼむ少なくとも1つの凹部と、
前記少なくとも1つの壁部に形成され、前記第1方向とは逆の方向に突出する凸部であって、前記圧力室空間の長手方向と積層方向とに平行な平面で切断した断面で前記圧力室空間を見たときに、前記長手方向において前記少なくとも1つの凹部と前記第1開口との間に配置されている少なくとも1つの凸部と、
を有する、
液体吐出ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載の液体吐出ヘッドであって、
前記流路基板には、前記圧力室空間へ前記液体を導入する流路と、前記圧力室空間から前記液体を排出する流路とのうち少なくとも一方が形成されており、少なくとも一方の流路は前記第2開口につながっている、
液体吐出ヘッド。
【請求項3】
請求項1に記載の液体吐出ヘッドであって、
前記流路基板には、前記ノズルが形成されており、前記ノズルは前記第1開口につながっている、
液体吐出ヘッド。
【請求項4】
請求項2または3に記載の液体吐出ヘッドであって、
前記少なくとも1つの壁部は、第1傾斜面と、第2傾斜面とを含み、
前記少なくとも1つの凹部は、第1凹部と、第2凹部とを含み、
前記少なくとも1つの凸部は、第1凸部と、第2凸部とを含み、
前記平行な平面で切断した前記断面で前記圧力室空間を見たときに、
前記第1傾斜面は、前記圧力室空間の前記長手方向の両端のうち一方の端において、前記第1開口と前記第2開口とをつなぐ傾斜面であり、
前記第1凹部および前記第1凸部は、前記第1傾斜面に配置され、
前記第2傾斜面は、前記圧力室空間の前記長手方向の両端のうち他方の端において、前記第1開口と前記第2開口とをつなぐ傾斜面であり、
前記第2凹部および前記第2凸部は、前記第2傾斜面に配置されている、
液体吐出ヘッド。
【請求項5】
請求項4に記載の液体吐出ヘッドであって、
前記圧力室基板は、
前記圧力室空間に接続され、前記圧力室空間に前記液体を導入する導入路であって、前記積層方向に見たときに、前記長手方向と交差する短手方向における長さが、前記圧力室空間の前記短手方向の長さより小さい導入路をさらに備え、
前記導入路は、前記平行な平面で切断した前記断面で前記圧力室空間を見たときに、前前記長手方向において前記第1凹部および前記第2凹部にくらべて前記第1開口により近い位置にある、
液体吐出ヘッド。
【請求項6】
請求項5に記載の液体吐出ヘッドであって、
前記振動板の前記圧力室基板と対向する側とは逆の側の面であって、前記第1凹部および前記第2凹部と重なる領域に保護基板が積層されており、
前記保護基板は、前記振動板のうち前記圧力室空間と向かい合う部分の一部には積層されていない、
液体吐出ヘッド。
【請求項7】
請求項6に記載の液体吐出ヘッドであって、
前記圧力室基板はシリコン単結晶基板により形成されている、
液体吐出ヘッド。
【請求項8】
圧電デバイスの製造方法であって、
前記圧電デバイスは、第1基板と、第2基板と、振動板と、圧電素子と、がこの順で積層されており、
前記製造方法は、
前記第2基板の一方の面に前記振動板としての可撓性の膜を成膜する工程と、
前記可撓性の膜の上に前記圧電素子を形成する工程と、
前記第2基板に空間を形成する工程であって、
前記第2基板の前記一方の面に位置する第1開口と、
前記第2基板の他方の面に位置する第2開口と、
前記第1開口と前記第2開口とをつなぐ壁部であって、少なくとも1つの凹部と、前記少なくとも1つの凹部より前記第2開口から遠い位置に少なくとも1つの凸部と、を備える壁部と、
を形成する、
工程と、
前記第2開口を上にして配置した前記第2基板の前記他方の面に、前記第1基板を接着剤で接着する工程と、
を含む製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液体吐出ヘッド、および、製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、液体吐出装置の吐出ヘッドにおいて、圧力室の一方の開口面を塞ぐ振動板にクラック等の損傷が発生するのを抑制する技術が記載されている。
【0003】
具体的には、振動板の圧力室基板側の面に、圧力室の開口面積より大きい面積を有する凹部が形成される。振動板と圧力室基板とが積層された状態で、振動板の圧力室基板側の面に形成された凹部のうち、圧力室基板における圧力室を区画する隔壁と重なる部分に切欠部が形成される。切欠部が形成されるのは、振動板における可撓領域の周縁部である。切欠部には、連通基板と圧力室基板とを接着する接着剤の一部が、圧力室の内壁を通じて流れ込み硬化している。このようにして、振動板の可撓領域の周辺が接着剤により補強されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術においては、接着剤が、振動板の可撓領域の周縁部だけでなく、振動板の可撓領域にまで到達することがある。接着剤が振動板の可撓領域に付着して硬化すると、液体吐出の際に振動板の可撓領域が十分に撓むことができず、液体の吐出特性の低下につながる。振動板の可撓領域への接着剤の付着量のばらつきにより、圧力室ごとに液体の吐出特性にばらつきが生じる。この結果、液体吐出装置ごとの画質にバラツキが生じるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1の形態によれば、液体吐出ヘッドが提供される。この液体吐出ヘッドは、 液体吐出ヘッドであって、液体をノズルに導く流路を形成する1つ以上の空間を有する流路基板と、前記流路基板の前記空間に接続される1つ以上の圧力室空間を有する圧力室基板と、前記圧力室空間と重なる位置に配置された振動板と、前記振動板を振動させて前記圧力室空間の内部の前記液体に圧力を付与する圧電素子と、を備え、前記流路基板と、前記圧力室基板と、前記振動板と、前記圧電素子とがこの順で積層されており、前記流路基板と、前記圧力室基板と、は接着剤によって接合されており、前記圧力室基板は、前記振動板が存在する側の面に形成された開口であって、前記振動板の少なくとも一部を前記圧力室空間に露出させる第1開口と、前記流路基板が存在する側の面に形成された他の開口であって、前記圧力室空間を前記流路基板に形成された前記流路につなぐ第2開口と、前記圧力室空間を区画する内壁部であって、前記第1開口と前記第2開口とをつなぐ少なくとも1つの壁部と、前記少なくとも1つの壁部に形成され、前記流路基板から前記振動板に向かう第1方向にくぼむ少なくとも1つの凹部と、前記少なくとも1つの壁部に形成され、前記第1方向とは逆の方向に突出する凸部であって、前記圧力室空間の長手方向と積層方向とに平行な平面で切断した断面で前記圧力室空間を見たときに、前記長手方向において前記少なくとも1つの凹部と前記第1開口との間に配置されている少なくとも1つの凸部と、を有する。
【0007】
本開示の第2の形態によれば、圧電デバイスの製造方法が提供される。前記圧電デバイスは、第1基板と、第2基板と、振動板と、圧電素子と、がこの順で積層されており、前記製造方法は、前記第2基板の一方の面に前記振動板としての可撓性の膜を成膜する工程と、前記可撓性の膜の上に前記圧電素子を形成する工程と、前記第2基板に空間を形成する工程であって、前記第2基板の前記一方の面に位置する第1開口と、前記第2基板の他方の面に位置する第2開口と、前記第1開口と前記第2開口とをつなぐ壁部であって、少なくとも1つの凹部と、前記少なくとも1つの凹部より前記第2開口から遠い位置に少なくとも1つの凸部と、を備える壁部と、を形成する、工程と、前記第2開口を上にして配置した前記第2基板の前記他方の面に、前記第1基板を接着剤で接着する工程と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】液体吐出装置の概略構成を示す模式図である。
【
図2】液体吐出ヘッドの構成を示す分解斜視図である。
【
図3】
図2における液体吐出ヘッドのIII-III断面図である。
【
図5】ヘッド本体およびケース部材の構成の拡大図である。
【
図6】圧力室基板の個別流路の形状についての説明図である。
【
図7】本実施形態における形状の個別流路を有することの利点についての説明図である。
【
図8】連通基板を有しない液体吐出ヘッドのヘッド本体およびケース部材の構成の拡大図である。
【
図9】他の実施形態3にかかる圧力室基板に形成された個別流路の形状についての説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
A.実施形態:
図1は、液体吐出ヘッド100を備える液体吐出装置300の概略構成を示す模式図である。
図1において、理解を容易にするためXYZ直交座標系を設定する。X軸およびY軸は水平面に沿っており、Z軸は鉛直方向に沿っている。なお、液体吐出装置300の載置方向によってはこの限りではない。直交とは、90°±10°の範囲を含む。
図2以降の図面においても同様にXYZ直交座標系が設定されている。
【0010】
液体吐出装置300は、液体の一例としてインクを吐出することによって媒体である印刷用紙P上に画像を印刷するインクジェットプリンターである。液体吐出装置300が液体を吐出する対象である媒体は、印刷用紙Pではなく、プラスチック、フィルム、繊維、布帛、皮革、金属、ガラス、木材、セラミックス等であってもよい。
【0011】
液体吐出装置300は、液体を吐出する液体吐出ヘッド100と、液体容器310と、ヘッド移動機構320と、搬送機構330と、制御部500とを備える。
【0012】
液体吐出ヘッド100は、液体を吐出する複数のノズル21を有し、液体容器310から供給された液体を印刷用紙P上に吐出する。複数のノズル21は、Y軸方向に沿って配列されている。液体容器310は、液体吐出ヘッド100から吐出される液体を貯留する。液体容器310が貯留する液体は、樹脂製のチューブ312を介して液体吐出ヘッド100に供給される。液体容器310は、例えば、可撓性フィルムで形成された袋状の液体パックである。
【0013】
ヘッド移動機構320は、液体吐出ヘッド100を搭載するキャリッジ322と、キャリッジ322が固定されている駆動ベルト324と、駆動ベルト324を主走査方向に往復移動させる移動用モーター326およびプーリー327とを備える。移動用モーター326が、駆動ベルト324を主走査方向に往復移動することにより、キャリッジ322および液体吐出ヘッド100が主走査方向に往復移動する。主走査方向は+X方向および-X方向である。副走査方向は、主走査方向と交差する方向であり、+Y方向および-Y方向である。図示する例においては、液体がノズル21から+Z方向に吐出される。
【0014】
搬送機構330は、3つの搬送ローラー332と、搬送ローラー332が装着された搬送ロッド334と、搬送用モーター336とを備える。搬送用モーター336が、搬送ロッド334を回転駆動することにより、印刷用紙Pは副走査方向に搬送される。
【0015】
制御部500は、CPUとメモリーとを備えるコンピューターであり、液体吐出装置300全体を制御する。例えば、制御部500は、キャリッジ322の主走査方向に沿った往復動作、印刷用紙Pの副走査方向に沿った搬送動作、液体吐出ヘッド100の吐出動作を制御する。
【0016】
図2は、液体吐出ヘッド100の構成を示す分解斜視図である。
図3は、
図2における液体吐出ヘッド100のIII-III断面図である。
図3において、説明の便宜上、仮想的な中心面Oを設定する。中心面Oは、Y軸およびZ軸に平行な平面であり、ノズル列L1とノズル列L2とからの距離が等しい平面である。ノズル列L1は、Y軸方向に沿って配置された複数のノズル21を含む。ノズル列L2も同様である。液体吐出ヘッド100のヘッド本体およびケース部材40の構成は、中心面Oに対して+X方向と-X方向とにおいて、その構成が共通している。
【0017】
図2、
図3に示すように、液体吐出ヘッド100は、圧力室基板10と、連通基板15と、ノズル基板20と、保護基板30と、ケース部材40と、アクチュエーター150と、振動板180と、配線基板200とを備える。これらの積層部材が積層されることで、液体吐出ヘッド100が形成される。液体吐出ヘッド100を形成する積層部材が積層される方向を積層方向ともよぶ。本実施形態において積層方向はZ軸方向と一致する。あらかじめ決められた基準位置に対して、+Z方向側を「下側」とも呼び、-Z方向側を「上側」ともよぶ。
【0018】
圧力室基板10は、連通基板15の上側の面に接着剤により固定されている。圧力室基板10は、シリコン単結晶基板により形成されている。あるいは、圧力室基板10は、ステンレス鋼(SUS)、ニッケル(Ni)等の金属、ジルコニア(ZrO2)、アルミナ(Al2O3)等のセラミック材料、ガラスセラミック材料、酸化マグネシウム(MgO)、ランタンアルミン酸(LaAlO3)等の酸化物材料によって形成されてもよい。圧力室基板10には、ノズル21にそれぞれ対応する個別流路U1が形成されている。個別流路U1には、連通基板15に形成されたインク供給路16から液体が流入する。
【0019】
図4は、
図3におけるIV-IV断面図である。なお、
図4においてケース部材40の図示を省略している。
図4において、ノズル21の位置を破線で示す。個別流路U1は、第1連通流路11、圧力室12、導入路13、第2連通流路14を含む。インク供給路16から流入した液体は、第1連通流路11、導入路13、圧力室12、第2連通流路14を、この順で通過する。平面視において、個別流路U1は、X軸方向の長さがY軸方向の長さより長く、くびれを有する略平行四辺形状に形成されている。本明細書において、「平面視」とは、積層方向に沿って対象物を見た状態を意味する。なお、個別流路U1の平面視における形状は、
図4に示す例に限られない。
【0020】
第1連通流路11は、圧力室12および導入路13の上流に設けられた流路である。後述するインク供給路16から流れ込んだ液体は、第1連通流路11を通り、導入路13に流れ込む。複数の圧力室12は、複数のノズル21に対応して個別にY軸方向に沿って配列されている。圧力室12は、アクチュエーター150の駆動により、液体に圧力を付与するための空間である。
【0021】
導入路13は、圧力室12の上流に設けられた流路である。導入路13は、第1連通流路11と圧力室12と接続する。短手方向(Y軸方向)の導入路13の長さ、即ち幅は、圧力室12のY軸方向の長さより小さく設定されている。導入路13の流路を絞ることにより、圧力室12内の液体が、後述する第1共通液室17、第2共通液室18、および、液室部42が形成する共通液室部へ逆流することが抑制される。第2連通流路14は、圧力室12の下流に設けられた流路である。圧力室12を通過した液体は、第2連通流路14を通り、後述するノズル連通口19に流れこむ。本実施形態における個別流路U1の内部の形状の詳細については後述する。
【0022】
連通基板15は、
図2に示すように、ノズル基板20の上側の面に接着剤により固定されている。連通基板15は、例えば、シリコン単結晶基板によって形成される。
【0023】
図4に示すように、連通基板15には、インク供給路16と、第1共通液室17と、第2共通液室18と、ノズル連通口19とが形成されている。連通基板15を流路基板ともよぶ。インク供給路16は、連通基板15をZ軸方向に貫通する貫通孔であり、第2共通液室18と圧力室基板10に形成された個別流路U1とを接続する。インク供給路16は個別流路U1へ液体を導入する流路である。第1共通液室17は、連通基板15をZ軸方向に貫通する貫通孔として形成されている。第2共通液室18は、連通基板15の下面に設けられた凹部として形成されている。第1共通液室17と第2共通液室18とは、後述するケース部材40に形成された液室部42とともに、液体の流路の一部を構成する。第1共通液室17、第2共通液室18、および、液室部42は、ノズル21に供給される液体を貯留する共通液室部を形成する。ノズル連通口19は、連通基板15をZ軸方向に貫通する貫通孔であり、圧力室基板10に形成された個別流路U1とノズル21とを接続する。ノズル連通口19は個別流路U1から液体を排出する流路である。連通基板15には、ノズル21の数に対応する数のノズル連通口19が形成されている。
【0024】
図2に示すように、ノズル基板20は、連通基板15の下側の面に接着剤により固定されている。ノズル基板20は、例えば、シリコン単結晶基板により形成される。ノズル基板20には複数のノズル21が形成されている。
【0025】
図3に示すように、保護基板30は、振動板180の上側の面に接着剤により固定されている。保護基板30を形成する材料は圧力室基板10と同様である。保護基板30は、アクチュエーター150を保護するとともに、圧力室基板10および振動板180の強度を補強するために設けられている。
【0026】
保護基板30には、凹部33と、貫通孔39と、が形成されている。凹部33は-Z側に開口している凹部である。このため、保護基板30は、振動板180のうち圧力室12と向かい合う部分の一部には積層されていない。凹部33は液体の流路と接続されていないため、凹部33には液体が流通しない。貫通孔39は、配線基板200が挿入されるための保護基板30をZ軸方向に貫通する貫通孔である。
【0027】
図2に示すように、ケース部材40は、連通基板15の上に配置されている。ケース部材40は、例えば、樹脂材料によって形成される。
図3に示すように、ケース部材40は、液室部42と、接続口43と、2つの液体流通口44とを有する。液室部42は、連通基板15に形成された第1共通液室17および第2共通液室18とともに液体の流路の一部を構成する。接続口43は、ケース部材40をZ軸方向に貫通する貫通孔である。接続口43には配線基板200が差し込まれる。液体流通口44は、ケース部材40をZ軸方向に貫通する貫通孔である。液体流通口44から液体が液体吐出ヘッド100内部に流入する。
【0028】
図5は、
図3における液体吐出ヘッド100のヘッド本体およびケース部材40の構成の拡大図である。ヘッド本体は、圧力室基板10と連通基板15とノズル基板20と振動板180とを含む。
図5に示すように、アクチュエーター150は、保護基板30に形成された凹部33の内部において振動板180上に配置されている。アクチュエーター150は、振動板180を振動させて圧力室12内の液体に圧力を付与する。圧力室12内の液体に圧力が付与されると、ノズル連通口19を介してノズル21から液体が吐出される。アクチュエーター150は、圧電素子160と、配線170とを有する。
【0029】
圧電素子160は、複数の第1電極161と、第2電極163と、圧電体165とを有する。第1電極161と圧電体165と第2電極163とは積層方向に沿ってこの順で積層されている。第1電極161は、積層方向に見たときに、振動板180の上側の面において対応する圧力室12に重なる位置に配置されている。第2電極163は、複数の第1電極161に共通の電極であるため、複数の第1電極161すべてと重なる範囲にわたって配置されている。第1電極161と第2電極163とは、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、チタン(Ti)、タングステン(W)、タンタル(Ta)のような各種金属、ニッケル酸ランタン(LaNiO3)等の導電性金属酸化物によって形成される。圧電体165は、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)によって形成される。第1電極161は配線170を介して、後述する駆動回路201に電気的に接続される。第2電極163は不図示の配線を介して駆動回路201に電気的に接続される。
【0030】
振動板180は、積層方向に見たときに、複数の圧力室12と重なる位置において圧力室基板10の上に積層されている。振動板180は、可撓層181と、保護層183とを有する。可撓層181は圧力室基板10上に成膜される。可撓層181は、例えば、二酸化シリコン(SiO2)によって形成される。保護層183は可撓層181上に成膜される。保護層183は、例えば、酸化ジルコニウム(ZrO2)によって形成される絶縁膜である。なお、振動板180の少なくとも一部は、圧力室基板10と共通の基板によって構成してもよい。例えば、圧力室基板10を構成するシリコン単結晶基板の表面を熱酸化することによって、可撓層181を構成する二酸化シリコンを成膜することも可能である。なお、こうした場合においても、便宜上、圧力室基板10において圧力室12が開口すると表現する。
【0031】
図3に示すように、配線基板200には駆動回路201が設けられている。駆動回路201は、制御部500から供給される制御信号に基づいて、アクチュエーター150を駆動するための駆動信号を生成する。
【0032】
続いて、本実施形態における個別流路U1の内部の形状の詳細については説明する。個別流路U1を圧力室空間ともよぶ。
【0033】
図6は、圧力室基板10に形成された個別流路U1の形状についての説明図である。
図6において連通基板15の図示を省略している。また、保護基板30、圧電素子160、配線170、振動板180を破線で表している。個別流路U1のうち、圧力室基板10に形成された貫通孔は、第1開口10aと、第2開口10bと、傾斜面10cと、傾斜面10dと、凹部10eと、凸部10fと、凹部10gと、凸部10hとを含む。傾斜面10cを第1傾斜面ともよぶ。傾斜面10dを第2傾斜面ともよぶ。凹部10eを第1凹部ともよぶ。凹部10gを第2凹部ともよぶ。凸部10fを第1凸部ともよぶ。凸部10hを第2凸部ともよぶ。
【0034】
第1開口10aは、圧力室基板10の上側の面に形成された開口である。第1開口10aは、圧力室基板10に積層された振動板180の少なくとも一部を個別流路U1に露出させる開口である。第1開口10aは、積層方向に見たときに、圧力室12および導入路13が占める領域に重なる。
【0035】
第2開口10bは、圧力室基板10の下側の面に形成された開口である。
図5に示すように、第2開口10bは、圧力室基板10と連通基板15とが積層された状態において、個別流路U1を連通基板15に形成された流路につなぐ開口である。
図6に示すように、第2開口10bの開口面積は、第1開口10aの開口面積より大きく設定されている。積層方向に見たときに、第2開口10bは、第1開口10aを包含する。このため、第1開口10aと第2開口10bとをつなぐ壁部は傾斜面となる。
【0036】
傾斜面10cは、個別流路U1のX軸方向の両端のうち一方の端において、第1開口10aと第2開口10bとをつなぐ壁部である。傾斜面10cを壁部ともよぶ。傾斜面10cは、個別流路U1を区画する内壁部の一部を構成する。傾斜面10dは、個別流路U1のX軸方向の両端のうち他方の端において、第1開口10aと第2開口10bとをつなぐ壁部である。傾斜面10dを壁部ともよぶ。傾斜面10dは、個別流路U1を区画する内壁部の一部を構成する。
【0037】
傾斜面10cの振動板180に対する傾きθ1と、傾斜面10dの振動板180に対する傾きθ2とはそれぞれ90度未満となるように設定されている。実施形態においては、傾きθ1および傾きθ2は、45度である。
【0038】
凸部10fおよび凹部10eは、傾斜面10cに形成されている。凸部10fは、振動板180から連通基板15に向かう方向、即ち、+Z方向に突出する。凹部10eは、連通基板15から振動板180に向かう方向、即ち、-Z方向にくぼんでいる。連通基板15から振動板180に向かう方向を第1方向ともよぶ。凸部10hおよび凹部10gは、傾斜面10dに形成されている。凸部10hは、振動板180から連通基板15に向かう方向、即ち、+Z方向に突出する。凹部10gは、連通基板15から振動板180に向かう方向、即ち、-Z方向にくぼんでいる。
【0039】
凸部10fは、積層方向において凹部10eに対して第1開口10a側にある。別の言い方をすると、凸部10fは、個別流路U1が延びる長手方向(X軸方向)と積層方向(Z軸方向)とに平行なXZ平面で切断した断面で個別流路U1を見たときに、凹部10eより第1開口10aに近い位置にある。凸部10hは、積層方向において凹部10gに対して第1開口10a側にある。別の言い方をすると、凸部10hは、XZ平面で切断した断面で個別流路U1を見たときに、凹部10gより第1開口10aに近い位置にある。
【0040】
以下、振動板180、圧力室基板10、および、連通基板15を積層する工程を含む、圧電デバイスの製造方法を説明する。圧電デバイスは、液体吐出ヘッド100の部品であり、圧電素子160が駆動することにより、振動板180を振動させ、圧力室空間内に貯留された液体に圧力を付与する。
【0041】
圧力室基板10を第2基板ともよぶ。連通基板15を第1基板ともよぶ。まず、圧力室基板10の一方の面に振動板180の一部を構成する可撓層181が成膜される。次に、可撓層181の上に保護層183が成膜される。続いて、保護層183の上に圧電素子160が形成される。続いて、圧力室基板10の他方の面に、個別流路U1を構成する空間を形成するためのマスクが形成される。マスクを介して、圧力室基板10がエッチングされることにより、個別流路U1を構成する空間が形成される。ここで、エッチングは、等方性エッチング、異方性エッチングを含む。この結果、圧力室基板10の一方の面であって振動板180が設けられている側の面に第1開口10aが形成される。圧力室基板10の他方の面の第2開口10bが形成される。
【0042】
その後、圧力室基板10に連通基板15を接着する。圧力室基板10に連通基板15を接着する際には、まず、圧力室基板10が第2開口10b側を上にした状態で配置される。圧力室基板10の第2開口10b側の面に接着剤が塗布される。圧力室基板10の上に連通基板15が配置される。このようにして、圧力室基板10と連通基板15とが接着材で接着される。その後、連通基板15にノズル基板20が積層される。このようにして、圧電デバイスが製造される。
【0043】
圧力室基板10に連通基板15を接着する際には、接着材の一部が、圧力室基板10と連通基板15とが接する面からはみ出すことがある。圧力室基板10が、第2開口10b側を上にした状態で、連通基板15の下に配置されているため、はみ出した接着材が、個別流路U1を区画する内壁を伝い、振動板180に到達することがある。振動板180に付着した接着剤が硬化すると、液体吐出の際に振動板180の可撓領域が十分に撓むことができない。振動板180の可撓領域への接着剤の付着量のばらつきにより、圧力室ごとに液体の吐出特性にばらつきが生じる。この結果、液体吐出装置300ごとの画質にバラツキが生じる。
【0044】
図7は、本実施形態における液体吐出ヘッド100が上述の形状の個別流路U1を有することの利点についての説明図である。
図7に示す例では、個別流路U1を区画する内壁部の一部が傾斜面として形成されていない。一方、本実施形態においては、連通基板15と重なる側の面に形成された第2開口10bと振動板180と重なる側の面に形成された第1開口10aとをつなぐ内壁が、振動板180に対して傾いた傾斜面10c、10dとして形成される。
図7に示すような態様にくらべ、
図6に示す本実施形態にかかる態様では、連通基板15と圧力室基板10とを接着する接着剤が個別流路U1を区画する内壁を伝って振動板180に到達するまでの距離を長くすることができる。よって、接着剤が振動板180に到達することを抑制でき、接着剤が振動板180に到達する可能性を低減できる。
【0045】
さらに、傾斜面10cに凹部10eと凸部10fとが設けられ、傾斜面10dに凹部10gと凸部10hとが設けられる。このため、連通基板15と圧力室基板10とを接着する接着剤の一部が圧力室空間内に流れ込んだ場合に、接着剤が凹部10e、凹部10gに保持される。よって、接着剤が振動板180に到達することを抑制でき、接着剤が振動板180に到達する可能性を低減できる。
【0046】
従って、接着剤が振動板180の可撓領域に付着し、硬化する可能性を低減でき、液体吐出装置300ごとの画質にバラツキの発生を抑制できる。仮に、接着剤の一部が振動板180に到達するとしても、本実施形態にかかる態様では、
図7に示すような態様に比べ、振動板180に付着する接着材の量を低減できる。よって、振動板180の可撓領域において、接着剤が付着する範囲を従来の態様より小さくすることができる。
【0047】
また、
図6に示すように、個別流路U1が延びる長手方向(X軸方向)と積層方向(Z軸方向)とに平行なXZ平面で切断した断面で個別流路U1を見たときに、振動板180の圧力室基板10と対向する側とは逆の側の面、即ち、上側の面であって、凹部10eと重なる領域に保護基板30が積層されている。また、振動板180の上側の面であって、凹部10gと重なる領域にも保護基板30が積層されている。圧力室基板10の凹部10eおよび凹部10gが形成されている領域は、局所的に厚みが薄くなっている。さらに、圧力室基板10はシリコン単結晶基板により形成されている。このため、応力集中により凹部10e、凹部10gが形成されている領域の強度が、その他の領域に比べて低下することが想定される。当該領域に重なる範囲に保護基板30が重ねられることにより、当該領域の強度を補強できる。
【0048】
また、
図6に示すように、導入路13は、積層方向において、凹部10gおよび凸部10hに対して第1開口10aの側にある。別の言い方をすると、導入路13は、個別流路U1が延びる長手方向(X軸方向)と積層方向(Z軸方向)とに平行なXZ平面で切断した断面で個別流路U1を見たときに、凹部10gおよび凸部10hにくらべて第1開口10aにより近い位置、すなわち、凹部10gおよび凸部10hより第2開口10bから遠い位置にある。導入路13の幅は、圧力室12の幅より狭く設定されている。このため、接着剤の一部が導入路13に干渉すると、液体の円滑な流通が妨げられる。上述した構成により、連通基板15と圧力室基板10とを接着する接着剤の一部が、導入路13に干渉することを抑制できる。
【0049】
B.他の実施形態:
B1.他の実施形態1:
図8は、連通基板15を有しない液体吐出ヘッド100のヘッド本体およびケース部材40の構成の拡大図である。上述の実施形態においては、ノズル基板20と、圧力室基板10との間に、連通基板15が設けられている例を説明した(
図5を参照)。しかしながら、液体吐出ヘッド100は連通基板15を有していなくてもよい。
図8に示すように、ノズル基板20の上側に圧力室基板10が積層される。圧力室基板10には、個別流路U1に加えて、個別流路U1と、ケース部材40の液室部42とを接続するため、X軸方向に沿った流路51が形成される。ケース部材40には、個別流路U1と液室部42とを接続するため、流路51に接続する流路53が形成される。
【0050】
B2.他の実施形態2:
上述の実施形態においては傾斜面10cおよび10dそれぞれに凹部と凸部とが形成されている例を説明した。しかしながら、傾斜面10cおよび10dのいずれかにのみ凹部と凸部とが形成されていてもよい。この場合も、接着剤が振動板180に到達することを抑制でき、接着剤が振動板180に到達する可能性を低減できる。
【0051】
また、あるいは、傾斜面10cおよび傾斜面10dには、それぞれ凹部が形成されており、凸部が形成されていなくてもよい。あるいは、傾斜面10cおよび傾斜面10dには、それぞれ凸部が形成されており、凹部が形成されていなくてもよい。この場合も、接着剤が振動板180に到達することを抑制でき、接着剤が振動板180に到達する可能性を低減できる。
【0052】
B3.他の実施形態3:
図9は、他の実施形態3にかかる圧力室基板10に形成された個別流路U1の形状についての説明図である。
図9において連通基板15の図示を省略している。上述の実施形態において、個別流路U1のX軸方向の両端のうち一方の端において、第1開口10aと第2開口10bとをつなぐ壁部が傾斜面10cとして形成される例を説明した。しかしながら、
図9に示すように、個別流路U1のX軸方向の両端のうち一方の端において、第1開口10aと第2開口10bとをつなぐ壁部は傾斜面として形成されていなくてもよい。同様に、個別流路U1のX軸方向の両端のうち他方の端において、第1開口10aと第2開口10bとをつなぐ壁部も傾斜面として形成されていなくてもよい。他の実施形態3においても、連通基板15と圧力室基板10とを接着する接着剤の一部が圧力室空間内に流れ込んだ場合に、接着剤が凹部10e、凹部10gに保持される。よって、接着剤が振動板180に到達することを抑制でき、接着剤が振動板180に到達する可能性を低減できる。
【0053】
あるいは、個別流路U1のX軸方向の両端のうちの一方の端において、第1開口10aと第2開口10bとをつなぐ壁部が傾斜面として形成され、他方の端において第1開口10aと第2開口10bとをつなぐ壁部が傾斜面として形成されていなくてもよい。
【0054】
B4.他の実施形態4:
上述の実施形態においては、圧力室基板10に形成された貫通孔が、2つの傾斜面10cおよび10dを含む例を説明した。しかしながら、圧力室基板10に形成された貫通孔が、傾斜面10cおよび10dのうち一方のみを含んでいてもよい。この場合、一方の傾斜面に凹部と凸部とが形成される。
【0055】
B5.他の実施形態5:
実施形態においては、
図6に示すように、傾斜面10cの振動板180に対する傾きθ1と、傾斜面10dの振動板180に対する傾きθ2と、がいずれも45度である例を説明した。しかしながら、これに限られない。傾きθ1および傾きθ2は、それぞれ異なる角度に設定されていてもよい。また、好ましくは、傾きθ1およびθ2はそれぞれ10度から60度の範囲に設定される。より好ましくは、傾きθ1およびθ2はそれぞれ45度から50度の範囲に設定される。
【0056】
B6.他の実施形態6:
実施形態においては、
図6に示すように、第1開口10aは、積層方向に見たときに、圧力室12および導入路13が占める領域に重なる例を説明した。しかしながら、第1開口10aは、積層方向に見たときに、少なくとも圧力室12が占める領域に重なっていればよい。圧電素子160の駆動により圧力室12内の液体に圧力が十分に付与されるためである。
【0057】
B7.他の実施形態7:
実施形態においては、個別流路U1が延びる長手方向(X軸方向)の両端のうち一方の端に設けられた傾斜面10cに凹部10eおよび凸部10fが設けられ、長手方向の両端の内の他方の端に設けられた傾斜面10dに凹部10gおよび凸部10hが設けられる例を説明した。個別流路U1の短手方向の一方の端と他方の端とには、凹部および凸部を設けていない。接着剤の大部分は、
図4に示すように、長手方向(X軸方向)の一方の端にある鋭角部分P1および長手方向の他方の端にある鋭角部分P2から圧力室空間内に流れ込む傾向がある。このため、実施形態においては、個別流路U1の短手方向の一方の端と他方の端とには、凹部および凸部を設けていない。これにより、凹部および凸部の形成に要する手間を簡略化できる。
【0058】
B8.他の実施形態8:
実施形態においては、連通基板15には、個別流路U1に液体を導入するインク供給路16と、個別流路U1から液体を排出するノズル連通口19とが設けられる例を説明した。しかしながら、連通基板15には、いずれか一方だけが形成されていてもよい。
【0059】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替え、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【0060】
C.他の形態:
(1)本開示の第1の形態によれば、液体吐出ヘッドが提供される。この液体吐出ヘッドは、液体をノズルに導く流路を形成する1つ以上の空間を有する流路基板と、前記流路基板の前記空間に接続される1つ以上の圧力室空間を有する圧力室基板と、前記圧力室空間と重なる位置に配置された振動板と、前記振動板を振動させて前記圧力室空間の内部の前記液体に圧力を付与する圧電素子と、を備え、前記流路基板と、前記圧力室基板と、前記振動板と、前記圧電素子とがこの順で積層されており、前記流路基板と、前記圧力室基板と、は接着剤によって接合されており、前記圧力室基板は、前記振動板が存在する側の面に形成された開口であって、前記振動板の少なくとも一部を前記圧力室空間に露出させる第1開口と、前記流路基板が存在する側の面に形成された他の開口であって、前記圧力室空間を前記流路基板に形成された前記流路につなぐ第2開口と、前記圧力室空間を区画する内壁部であって、前記第1開口と前記第2開口とをつなぐ少なくとも1つの壁部と、前記少なくとも1つの壁部に形成され、前記流路基板から前記振動板に向かう第1方向にくぼむ少なくとも1つの凹部と、前記少なくとも1つの壁部に形成され、前記第1方向とは逆の方向に突出する凸部であって、前記圧力室空間の長手方向と積層方向とに平行な平面で切断した断面で前記圧力室空間を見たときに、前記長手方向において前記少なくとも1つの凹部と前記第1開口との間に配置されている少なくとも1つの凸部と、を有する。
上記の形態によれば、液体吐出ヘッドは、第2開口と第1開口とをつなぐ壁部に、凹部と、長手方向において凹部と第1開口との間に配置されている凸部とを備える。このため、流路基板と圧力室基板とを接着する接着剤の一部が圧力室空間内に流れ込んだ場合に接着剤が凹部に保持される。よって、接着剤が振動板に到達することを抑制できる。従って、接着剤が振動板の可撓領域に付着し、硬化する可能性を低減でき、液体吐出装置ごとの画質にバラツキの発生を抑制できる。
【0061】
(2)上記形態において、前記流路基板には、前記圧力室空間へ前記液体を導入する流路と、前記圧力室空間から前記液体を排出する流路とのうち少なくとも一方が形成されており、少なくとも一方の流路は前記第2開口につながっていてもよい。
【0062】
(3)上記形態において、前記流路基板には、前記ノズルが形成されており、前記ノズルは前記第1開口につながっていてもよい。
【0063】
(4)上記形態において、前記少なくとも1つの壁部は、第1傾斜面と、第2傾斜面とを含み、前記少なくとも1つの凹部は、第1凹部と、第2凹部とを含み、前記少なくとも1つの凸部は、第1凸部と、第2凸部とを含み、前記平行な平面で切断した前記断面で前記圧力室空間を見たときに、前記第1傾斜面は、前記圧力室空間の前記長手方向の両端のうち一方の端において、前記第1開口と前記第2開口とをつなぐ傾斜面であり、前記第1凹部および前記第1凸部は、前記第1傾斜面に配置され、前記第2傾斜面は、前記圧力室空間の前記長手方向の両端のうち他方の端において、前記第1開口と前記第2開口とをつなぐ傾斜面であり、前記第2凹部および前記第2凸部は、前記第2傾斜面に配置されていてもよい。
【0064】
(5)上記形態において、前記圧力室基板は、前記圧力室空間に接続され、前記圧力室空間に前記液体を導入する導入路であって、前記積層方向に見たときに、前記長手方向と交差する短手方向における長さが、前記圧力室空間の前記短手方向の長さより小さい導入路をさらに備え、前記導入路は、前記平行な平面で切断した前記断面で前記圧力室空間を見たときに、前前記長手方向において前記第1凹部および前記第2凹部にくらべて前記第1開口により近い位置にあってもよい。
上記形態によれば、導入路が、第1凹部および第2凹部にくらべて第1開口により近い位置にあるので、流路基板が接着される面に形成された第2開口から接着剤の一部が、導入路に干渉することを抑制できる。
【0065】
(6)上記形態において、前記振動板の前記圧力室基板と対向する側とは逆の側の面であって、前記第1凹部および前記第2凹部と重なる領域に保護基板が積層されており、前記保護基板は、前記振動板のうち前記圧力室空間と向かい合う部分の一部には積層されていなくてもよい。
上記形態によれば、圧力室基板に凹部を形成した位置に保護基板が重ねられることにより、圧力室基板において凹部を形成した部分の強度を補強できる。
【0066】
(7)上記形態において、前記圧力室基板はシリコン単結晶基板により形成されていてもよい。
【0067】
(8)本開示の第2の形態によれば、圧電デバイスの製造方法が提供される。前記圧電デバイスは、第1基板と、第2基板と、振動板と、圧電素子と、がこの順で積層されており、前記製造方法は、前記第2基板の一方の面に前記振動板としての可撓性の膜を成膜する工程と、前記可撓性の膜の上に前記圧電素子を形成する工程と、前記第2基板に空間を形成する工程であって、前記第2基板の前記一方の面に位置する第1開口と、前記第2基板の他方の面に位置する第2開口と、前記第1開口と前記第2開口とをつなぐ壁部であって、少なくとも1つの凹部と、前記少なくとも1つの凹部より前記第2開口から遠い位置に少なくとも1つの凸部と、を備える壁部と、を形成する、工程と、前記第2開口を上にして配置した前記第2基板の前記他方の面に、前記第1基板を接着剤で接着する工程と、を含む。
上記の形態によれば、第1基板と重なる側の面の第2開口と、振動板と重なる側の面の第1開口と、をつなぐ内壁が振動板に対して傾いた傾斜面として形成される。これにより、第2基板の上に第1基板を接着する際に、第1基板と第2基板とを接着する接着剤が空間を区画する内壁を伝って振動板に到達するまでの距離を、第2開口と第1開口とをつなぐ内壁を傾斜面として形成しない態様にくらべて、長くすることができる。よって、接着剤が振動板に到達することを抑制できる。さらに、第1基板において、第2開口と第1開口とをつなぐ傾斜面に、第1基板が存在する側の面に形成された第2開口に近い位置に凹部と、凹部より第2開口から遠い位置に凸部とが形成される。このため、第1基板と第2基板とを接着する接着剤の一部が室空間内に流れ込んだ場合に接着剤が凹部に保持される。よって、接着剤が振動板に到達することを抑制できる。従って、接着剤が振動板の可撓領域に付着し、硬化する可能性を低減できる。圧電デバイスごとの動作のバラツキの発生を抑制できる。
【0068】
本開示は、上述した液体吐出装置としての形態に限らず、液体吐出システム、液体吐出装置を備える複合機等の種々の態様で実現可能である。
【符号の説明】
【0069】
10…圧力室基板、10a…第1開口、10b…第2開口、10c…傾斜面、10d…傾斜面、10e…凹部、10f…凸部、10g…凹部、10h…凸部、11…第1連通流路、12…圧力室、13…導入路、14…第2連通流路、15…連通基板、16…インク供給路、17…第1共通液室、18…第2共通液室、19…ノズル連通口、20…ノズル基板、21…ノズル、30…保護基板、33…凹部、39…貫通孔、40…ケース部材、42…液室部、43…接続口、44…液体流通口、51…流路、53…流路、100…液体吐出ヘッド、150…アクチュエーター、160…圧電素子、161…第1電極、163…第2電極、165…圧電体、170…配線、180…振動板、181…可撓層、183…保護層、200…配線基板、201…駆動回路、300…液体吐出装置、310…液体容器、312…チューブ、320…ヘッド移動機構、322…キャリッジ、324…駆動ベルト、326…移動用モーター、327…プーリー、330…搬送機構、332…搬送ローラー、334…搬送ロッド、336…搬送用モーター、500…制御部、L1…ノズル列、L2…ノズル列、O…中心面、P…印刷用紙、P1…鋭角部分、P2…鋭角部分、U1…個別流路