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特開2024-134605人工皮革およびその製造方法ならびに積層体、乗物用内装材、衣類、雑貨
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  • 特開-人工皮革およびその製造方法ならびに積層体、乗物用内装材、衣類、雑貨 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134605
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】人工皮革およびその製造方法ならびに積層体、乗物用内装材、衣類、雑貨
(51)【国際特許分類】
   D06N 3/00 20060101AFI20240927BHJP
   D06N 3/14 20060101ALI20240927BHJP
   B32B 5/02 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
D06N3/00
D06N3/14
B32B5/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044877
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大浦 遥
(72)【発明者】
【氏名】板山 静季
(72)【発明者】
【氏名】阪上 このみ
(72)【発明者】
【氏名】小出 現
【テーマコード(参考)】
4F055
4F100
【Fターム(参考)】
4F055AA01
4F055AA21
4F055AA27
4F055AA30
4F055BA02
4F055BA11
4F055BA14
4F055CA15
4F055DA07
4F055DA12
4F055EA11
4F055EA12
4F055EA24
4F055EA29
4F055EA34
4F055FA04
4F055FA10
4F055FA15
4F055FA29
4F055GA02
4F055HA03
4F055HA11
4F055HA22
4F100AJ01A
4F100AK01C
4F100AK25A
4F100AK27A
4F100AK51A
4F100AK53A
4F100AK73A
4F100AN02A
4F100BA02
4F100DG11B
4F100DG15A
4F100DG16A
4F100DJ01C
4F100GB33
4F100GB72
4F100GB90
4F100JB16A
4F100JK09
4F100YY00A
(57)【要約】
【課題】 樹脂を塗布した人工皮革に優れた耐摩耗性と意匠性とを付与し、かつ柔軟性に優れた人工皮革を提供すること。
【解決手段】 人工皮革の少なくとも一方の表面が立毛を有し、該立毛を有する表面に樹脂部分Aと非連続な樹脂部分Bとが形成されてなり、この樹脂部分Aの少なくとも一部が非連続な樹脂部分Bの上に積層されてなり、さらに、樹脂部分Aは、ポリウレタン樹脂などの樹脂であり、非連続な樹脂部分Bは、ポリウレタン樹脂などの樹脂であり、樹脂部分Aと非連続な樹脂部分Bとが立毛を有する表面に占める面積割合が、50%以上95%以下であり、樹脂部分Aの長さa(mm)と非連続な樹脂部分Bの長さb(mm)が以下の式1を満たし、さらに、樹脂部分Aの少なくとも一部が、立毛を有する表面と直接的に接してなる、人工皮革。
1<a/b≦50 ・・・(式1)
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を主成分とし、平均単繊維径が1.0μm以上10.0μm以下の極細繊維で構成されてなる不織布を構成要素として含む繊維絡合体と、高分子弾性体と、を含む、人工皮革であって、前記人工皮革の一方の表面が立毛を有する表面であって、該立毛を有する表面に、樹脂部分Aと非連続な樹脂部分Bとが形成されてなり、前記樹脂部分Aの少なくとも一部が前記非連続な樹脂部分Bの上に積層されてなり、さらに、以下の(1)~(4)の要件を満たす、人工皮革。
(1) 前記樹脂部分Aは、スチレンブタジエンゴム、ニトリルゴム、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、および、天然樹脂からなる群から選択される1種以上を含む樹脂であり、前記非連続な樹脂部分Bは、スチレンブタジエンゴム、ニトリルゴム、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、および、天然樹脂からなる群から選択される1種以上を含む樹脂である。
(2) 前記樹脂部分Aと前記非連続な樹脂部分Bとが前記立毛を有する表面に占める面積割合が、50%以上95%以下である。
(3) 前記樹脂部分Aの長さa(mm)と前記非連続な樹脂部分Bの長さb(mm)が以下の式1を満たす。
1<a/b≦50 ・・・(式1)
(4) 前記樹脂部分Aの少なくとも一部が、前記立毛を有する表面と直接的に接してなり、かつ、当該部分では前記樹脂部分Aが前記立毛を覆っている。
【請求項2】
前記非連続な樹脂部分Bの上に前記樹脂部分Aがある位置での該樹脂部分Aの厚みTが、5μm以上200μm以下である、請求項1に記載の人工皮革。
【請求項3】
前記非連続な樹脂部分Bの長さb(mm)が0.05mm以上2.00mm以下である、請求項1または2に記載の人工皮革。
【請求項4】
前記樹脂部分Aの樹脂充填率が95%以上100%未満である、請求項1または2に記載の人工皮革。
【請求項5】
熱可塑性樹脂を主成分とし、平均単繊維径が1.0μm以上10.0μm以下の極細繊維で構成されてなる不織布を構成要素として含む繊維絡合体と、高分子弾性体と、を含む、シート状物を形成する工程と、
該シート状物の一方の表面を研削して、立毛シートを形成する工程と、
該立毛シートの立毛を有する表面に、スチレンブタジエンゴム、ニトリルゴム、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、および、天然樹脂からなる群から選択される1種以上を含む樹脂を非連続に載せて、非連続な樹脂部分Bを形成し、さらに、スチレンブタジエンゴム、ニトリルゴム、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、および、天然樹脂からなる群から選択される1種以上を含み、かつ、粘度が1000mPa・s以上4000mPa以下の樹脂を載せて、樹脂部分Aを形成する工程と、
を含む、請求項1または2に記載の人工皮革の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の人工皮革の他方の表面に、布帛層、および/または、発泡樹脂層を備えてなる、積層体。
【請求項7】
少なくとも一部が請求項1に記載の人工皮革、または、請求項6に記載の積層体である、乗物用内装材。
【請求項8】
少なくとも一部が請求項1に記載の人工皮革、または、請求項6に記載の積層体である、衣類。
【請求項9】
少なくとも一部が請求項1に記載の人工皮革、または、請求項6に記載の積層体である、雑貨。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は人工皮革およびその製造方法ならびに少なくとも一部が前記の人工皮革である、乗物用内装材、衣類、雑貨に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スエード調の人工皮革は、一般に高い耐摩耗性と柔らかな風合いを有し、自動車内装材、家具、雑貨、衣料用途など幅広い分野で使用されている。その人工皮革にロゴや模様などの意匠を付与する場合には、表面に樹脂を塗布する方法や、意匠をプリントする方法、エンボス加工により凹凸模様をつける方法が一般的である。
【0003】
この中で、人工皮革の表面に樹脂を塗布することによって意匠を施した場合、人工皮革特有の柔軟性と付与された意匠の耐摩耗性とを両立するための手段がかねてより求められている。
【0004】
このような技術として、例えば、特許文献1には、繊維絡合不織布の内部に高分子弾性体を含有してなる基材層の表面に、それぞれ特定の構造、特性を有する3層の高分子弾性体皮膜層が順次積層いる銀付調人工皮革が提案されている。そして、この発明によれば、その表面の平滑性と意匠形成性に優れ、軽量かつ高い剥離強力を有する旨の記載がされている。
【0005】
特許文献2には、布帛基材の表面に高分子弾性体からなる表皮材が存在し、この表皮材を形成する高分子弾性体が基材の表面から特定の範囲で基材の厚さ方向内部へ浸透させた銀付調人工皮革が提案されている。そしてこの発明によれば、剥離強力が低下することなく充実感と柔軟性を両立した銀付調人工皮革が提供できる旨の記載がされている。
【0006】
特許文献3には、皮革状シート状物において、特定のポリウレタンエラストマーを主体とする重合体を含浸せしめた繊維集合体よりなる基体層Aの表面に、特定の着色剤を樹脂固形重量に対して特定量を含む樹脂溶液からなり、かつ、その厚さが一定程度である隠蔽層Bが積層され、さらに、隠蔽層Bの表面に、特定の着色剤を特定量含む樹脂溶液からなり、かつ、厚さが特定の範囲である着色層Cが積層されてなる、透明性を有する皮革状シート状物が提案されている。そして、この発明によれば、得られた皮革状シート物は、透明性に優れ、色相の鮮明さを有するものである旨、記載がされている。
【0007】
特許文献4には、繊維基材と、平滑化層と、樹脂表層と、を備え、前記の平滑化層は、塗布工程を経て形成された、高分子弾性体と充填剤とを特定の割合で含有する特定の厚さの層である人工皮革が提案されている。そして、この発明によれば、繊維基材に深く沈み込まない樹脂層を備えた、しなやかさに優れた銀面調の人工皮革が得られる旨、記載がされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2013-177713号公報
【特許文献2】特開2014-1463号公報
【特許文献3】特開平11-1878号公報
【特許文献4】特開2015-158030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1、2などにおいて提案されているような方法で得られる人工皮革は、意匠性や耐摩耗性に優れた人工皮革を提供できるものの、基材表面に塗布した樹脂を一定程度基材に浸み込ませる方法であるため、厚みのある意匠を基材表面に形成しにくく、樹脂を載せようとした場合には、人工皮革が硬くなって柔軟性が損なわれるという課題がある。
【0010】
逆に、特許文献3、4などに開示されるような方法で得られる人工皮革は、意匠を付与する樹脂が基材に浸み込まないため、比較的柔軟な人工皮革を提供できるものの、厚みのある意匠を基材表面に形成しようとした場合には、耐摩耗性に劣るという課題がある。
【0011】
そこで、本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、樹脂を塗布した人工皮革に優れた耐摩耗性と意匠性とを付与し、かつ柔軟性に優れた人工皮革を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成するべく鋭意検討を重ねた結果、人工皮革の立毛を有する表面に非連続な樹脂部分を形成し、その非連続な樹脂部分の上に、さらに非連続な樹脂部分を特定の形態で形成させることによって、非連続的な樹脂部分Bの合間の立毛部に樹脂部分Aが入り込み、厚みのある意匠性と耐摩耗性を兼ね備えた表面状態を付与することができるという知見を得た。そして、この人工皮革が、樹脂部分が基材に浸み込みすぎないため、柔軟性に優れた人工皮革とすることが可能であることも判明した。
【0013】
本発明は、これら知見に基づいて完成に至ったものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
【0014】
[1] 熱可塑性樹脂を主成分とし、平均単繊維径が1.0μm以上10.0μm以下の極細繊維で構成されてなる不織布を構成要素として含む繊維絡合体と、高分子弾性体と、を含む、人工皮革であって、前記人工皮革の一方の表面が立毛を有する表面であって、該立毛を有する表面に、樹脂部分Aと非連続な樹脂部分Bとが形成されてなり、前記樹脂部分Aの少なくとも一部が前記非連続な樹脂部分Bの上に積層されてなり、さらに、以下の(1)~(4)の要件を満たす、人工皮革。
(1) 前記樹脂部分Aは、スチレンブタジエンゴム、ニトリルゴム、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、および、天然樹脂からなる群から選択される1種以上を含む樹脂であり、前記非連続な樹脂部分Bは、スチレンブタジエンゴム、ニトリルゴム、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、および、天然樹脂からなる群から選択される1種以上を含む樹脂である。
(2) 前記樹脂部分Aと前記非連続な樹脂部分Bとが前記立毛を有する表面に占める面積割合が、50%以上95%以下である。
(3) 前記樹脂部分Aの長さa(mm)と前記非連続な樹脂部分Bの長さb(mm)が以下の式1を満たす。
【0015】
1<a/b≦50 ・・・(式1)
(4) 前記樹脂部分Aの少なくとも一部が、前記立毛を有する表面と直接的に接してなり、かつ、当該部分では前記樹脂部分Aが前記立毛を覆っている。
【0016】
[2] 前記非連続な樹脂部分Bの上に前記樹脂部分Aがある位置での該樹脂部分Aの厚みTが、5μm以上200μm以下である、前記[1]に記載の人工皮革。
【0017】
[3] 前記非連続な樹脂部分Bの長さb(mm)が0.05mm以上2.00mm以下である、前記[1]または[2]に記載の人工皮革。
【0018】
[4] 前記樹脂部分Aの樹脂充填率が95%以上100%未満である、前記[1]~[3]のいずれかに記載の人工皮革。
【0019】
[5] 熱可塑性樹脂を主成分とし、平均単繊維径が1.0μm以上10.0μm以下の極細繊維で構成されてなる不織布を構成要素として含む繊維絡合体と、高分子弾性体と、を含む、シート状物を形成する工程と、
該シート状物の少なくとも一方の表面を研削して、立毛シートを形成する工程と、
該立毛シートの立毛を有する表面に、スチレンブタジエンゴム、ニトリルゴム、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、および、天然樹脂からなる群から選択される1種以上を含む樹脂を非連続に載せて、非連続な樹脂部分Bを形成し、さらに、スチレンブタジエンゴム、ニトリルゴム、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、および、天然樹脂からなる群から選択される1種以上を含み、かつ、粘度が1000mPa・s以上4000mPa以下の樹脂を載せて、樹脂部分Aを形成する工程と、
を含む、前記[1]~[4]のいずれかに記載の人工皮革の製造方法。
【0020】
[6] 前記[1]~[4]のいずれかに記載の人工皮革の他方の表面に、布帛層、および/または、発泡樹脂層を備えてなる、積層体。
【0021】
[7] 少なくとも一部が前記[1]~[4]のいずれかに記載の人工皮革、または、前記[6]に記載の積層体である、乗物用内装材。
【0022】
[8] 少なくとも一部が前記[1]~[4]のいずれかに記載の人工皮革、または、前記[6]に記載の積層体である、衣類。
【0023】
[9] 少なくとも一部が前記[1]~[4]のいずれかに記載の人工皮革、または、前記[6]に記載の積層体である、雑貨。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、厚みのある意匠性と耐摩耗性を兼ね備えた表面状態に加え、柔軟性に優れた人工皮革が得らえる。特に、本発明の人工皮革は、厚みのある意匠と柔軟性とを両立できる特徴から、自動車内装材、雑貨や小物、衣類、CE(Consumer Electronics)用途等に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、本発明に係る人工皮革の樹脂部分A、非連続な樹脂部分B、立毛部の位置関係を例示・説明する断面概念図である。
図2図2は、非連続な樹脂部分Bの配置の態様を例示・説明する上面概念図である。
図3図3は、本発明の実施例1に係る人工皮革の樹脂部分Aの形成パターンを説明する、上面概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の人工皮革は、熱可塑性樹脂を主成分とし、平均単繊維径が1.0μm以上10.0μm以下の極細繊維で構成されてなる不織布を構成要素として含む繊維絡合体と、高分子弾性体と、を含む、人工皮革であって、前記人工皮革の一方の表面が立毛を有する表面であって、該立毛を有する表面に、樹脂部分Aと非連続な樹脂部分Bとが形成されてなり、前記樹脂部分Aの少なくとも一部が非連続な樹脂部分Bの上に積層されてなり、さらに、以下の(1)~(4)の要件を満たす。
(1) 前記樹脂部分Aは、スチレンブタジエンゴム、ニトリルゴム、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、および、天然樹脂からなる群から選択される1種以上を含む樹脂であり、前記非連続な樹脂部分Bは、スチレンブタジエンゴム、ニトリルゴム、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、および、天然樹脂からなる群から選択される1種以上を含む樹脂である。
(2) 前記樹脂部分Aと非連続な樹脂部分Bとが前記立毛を有する表面に占める面積割合が、50%以上95%以下である。
(3) 前記樹脂部分Aの長さa(mm)と非連続な樹脂部分Bの長さb(mm)が以下の式1を満たす
1<a/b≦50 ・・・(式1)
(4) 前記樹脂部分Aの少なくとも一部が、前記立毛を有する表面と直接的に接してなり、かつ、当該部分では前記樹脂部分Aが前記立毛を覆っている。
【0027】
以下に、その構成要素について詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下に説明する範囲に何ら限定されるものではなく、そして、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0028】
[繊維絡合体]
まず、本発明に係る繊維絡合体は、熱可塑性樹脂を主成分とし、平均単繊維径が1.0μm以上10.0μm以下の極細繊維で構成されてなる不織布を構成要素として含む。なお、本発明において、「熱可塑性樹脂を主成分とし、」とは、当該熱可塑性樹脂の質量割合が90質量%以上である状態を指しているものとする。
【0029】
前記の熱可塑性樹脂としては、耐摩耗性、特には機械的強度、耐熱性等の観点から、ポリエステル系樹脂からなることが好ましい。なお、本発明において、「ポリエステル系樹脂」とは、繰り返し単位に占める当該ポリエステル単位のモル分率が80モル%~100モル%である樹脂のことを指す。特記がない限り、「・・・系樹脂」との記載があるものは同様である。
【0030】
前記のポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレ-ト、およびポリエチレン-1,2-ビス(2-クロロフェノキシ)エタン-4,4’-ジカルボキシレート等が挙げられる。中でも最も汎用的に用いられているポリエチレンテレフタレート、または主としてエチレンテレフタレート単位を含む、すなわち、繰り返し単位に占める当該エチレンテレフタレート単位のモル分率が50モル%~99モル%であるポリエステル共重合体が好適に使用される。
【0031】
また、前記のポリエステル系樹脂として、単一のポリエステルを用いても、異なる2種以上のポリエステルを用いてもよいが、異なる2種以上のポリエステルを用いる場合には、2種以上の成分の相溶性の観点から、用いるポリエステルの固有粘度(IV値)差は0.50以下であることが好ましく、0.30以下であることがより好ましい。
【0032】
本発明において、固有粘度は以下の方法により算出されるものとする。
(1)オルソクロロフェノール10mL中に試料ポリマーを0.8g溶かす。
(2)25℃の温度においてオストワルド粘度計を用いて相対粘度ηを下式により算出し、小数点以下第三位で四捨五入する
η=η/η=(t×d)/(t×d
固有粘度(IV値)=0.0242η+0.2634
(ここで、ηはポリマー溶液の粘度、ηはオルソクロロフェノールの粘度、tは溶液の落下時間(秒)、dは溶液の密度(g/cm)、tはオルソクロロフェノールの落下時間(秒)、dはオルソクロロフェノールの密度(g/cm)を、それぞれ表す。)。
【0033】
本発明において、前記の熱可塑性樹脂が、カーボンブラックを含有するものであってもよい。カーボンブラックは、細かい粒子径の黒色顔料が得られやすく、また、ポリマーへの分散性に優れる。そのため、カーボンブラックを含有するものであることで、優れた濃色で均一な発色性を有しながら、優れた染色堅牢性、耐摩耗性、強度を有する人工皮革となる。
【0034】
なお、前記のポリエステル系樹脂には、カーボンブラックの他に、種々の目的に応じ、本発明の目的を阻害しない範囲で、酸化チタン粒子等の無機粒子、潤滑剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、導電剤、蓄熱剤および抗菌剤等を添加することができる。
【0035】
次に、本発明に係る極細繊維は、前記の熱可塑性樹脂を主成分とし、平均単繊維径が1.0μm以上10.0μm以下である。この極細繊維の断面形状としては、加工操業性の観点から、丸断面にすることが好ましいが、楕円、扁平および三角などの多角形、扇形および十字型、中空型、Y型、T型、およびU型などの異形断面の断面形状を採用することもできる。
【0036】
極細繊維の平均単繊維径は、1.0μm以上10.0μm以下である。極細繊維の平均単繊維径が、1.0μm以上、好ましくは1.5μm以上であることにより、染色後の発色性や耐光および摩擦堅牢性、紡糸時の安定性に優れた人工皮革となる。一方、極細繊維の平均単繊維径が10.0μm以下、好ましくは6.0μm以下、より好ましくは4.5μm以下であることにより、緻密感があり、柔軟で表面品位に優れた人工皮革となる。
【0037】
本発明において極細繊維の平均単繊維径とは、人工皮革断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を撮影し、円形または円形に近い楕円形の極細繊維をランダムに10本選び、単繊維直径を測定して10本の算術平均値を計算して、小数点以下第二位で四捨五入することにより算出されるものとする。ただし、異型断面の極細繊維を採用した場合には、まず単繊維の断面積を測定し、当該断面を円形と見立てた場合の直径(円相当径)を算出することによって単繊維の直径を求めるものとする。
【0038】
そして、本発明に係る繊維絡合体は、前記の極細繊維で構成されてなる不織布を構成要素として含む。なお、本発明において、「不織布を構成要素として含む繊維絡合体」であるとは、繊維絡合体が不織布である態様や、後述するような、繊維絡合体が不織布と織編物とが絡合一体化されてなる態様等のことを示す。不織布を構成要素として含む繊維絡合体であることにより、表面を起毛した際に均一で優美な外観や風合いを得ることができる。
【0039】
前記の不織布の形態としては、一般に、主としてフィラメントから構成される長繊維不織布と、繊維長が主として100mm以下である繊維から構成される短繊維不織布がある。繊維質基材が長繊維不織布である場合においては、強度に優れる人工皮革となるため、好ましい。一方、繊維質基材が短繊維不織布である場合においては、長繊維不織布の場合に比べて人工皮革の厚さ方向に配向する繊維を多くすることができるため、表面を起毛させた際、その表面に高い緻密感を有する人工皮革となる。
【0040】
本発明の人工皮革においては、繊維絡合体が、織編物をさらに含むものであり、前記の織編物が前記不織布と絡合一体化されてなることも好ましい。このようにすることで、強度や形態安定性が向上された人工皮革となる。この「織編物をさらに含むもの」とは、例えば、不織布/織編物の順に積層されているもの、不織布/織編物/不織布の順に積層されているもの、不織布/織編物/織編物/不織布の順に積層されているもの、等が挙げられる。中でも、人工皮革の表面品位および強度の面から、不織布/織編物の順に積層されているものであることがより好ましい。
【0041】
本発明において、前記の織編物は、織物、編物の総称である。織編物が織物である場合の織組織は、平織、綾織、朱子織などが挙げられ、織編物が編物である場合の編組織は、「平編、ゴム編、パール編」等のよこ編、「シングルデンビー編、シングルアトラス編、シングルコード編、ダブルデンビー編、ダブルアトラス編、ダブルコード編、ハーフトリコット編」等のたて編などが挙げられる。中でも、織物の組織が平織である場合には、強度に優れた人工皮革とすることができ、特に好ましい。
【0042】
前記の織編物を構成する繊維の種類としては、フィラメントヤーン、紡績糸、フィラメントヤーンと紡績糸の混合複合糸などを用いることが好ましく、耐摩耗性、特には機械的強度等の観点から、ポリエステル系樹脂やポリアミド系樹脂からなるマルチフィラメントであることがより好ましい。
【0043】
前記の織編物を構成する繊維の平均単繊維径は、1.0μm以上50μm以下であることが好ましい。織編物を構成する繊維の平均単繊維径が、好ましくは50.0μm以下、より好ましくは15.0μm以下、さらに好ましくは13.0μm以下であることにより、柔軟性に優れた人工皮革となるだけでなく、人工皮革の表面に織編物の繊維が露出した場合でも、染色後に顔料を含有する極細繊維との色相差が小さくなるため、表面の色相の均一性を損なうことがない人工皮革となる。一方、平均単繊維径が好ましくは1.0μm以上、より好ましくは8.0μm以上、さらに好ましくは9.0μm以上であることにより、少なくとも一部が本発明の人工皮革である製品の形態安定性が向上する。
【0044】
本発明において織編物を構成する繊維の平均単繊維径は、人工皮革断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を撮影し、織編物を構成する繊維をランダムに10本選び、その繊維の単繊維直径を測定して10本の算術平均値を計算して、小数点以下第二位で四捨五入することにより算出されるものとする。
【0045】
前記の織編物を構成する繊維がマルチフィラメントである場合、そのマルチフィラメントの総繊度は、JIS L1013:2010「化学繊維フィラメント糸試験方法」の「8.3 繊度」の「8.3.1 正量繊度 b) B法(簡便法)」で測定され、その総繊度が30dtex以上170dtex以下であることが好ましい。
【0046】
前記のマルチフィラメントの総繊度が170dtex以下であることにより、柔軟性に優れた人工皮革となる。一方、総繊度が30dtex以上であることにより、少なくとも一部が本発明の人工皮革である製品の形態安定性が向上するだけでなく、不織布と織編物とをニードルパンチ等で絡合一体化させる際に、織編物を構成する繊維が人工皮革の表面に露出しにくくなるため、意匠性に優れた人工皮革となるため、好ましい。このとき、経糸と緯糸のマルチフィラメントの総繊度は同じ総繊度であることが好ましい。
【0047】
さらに、前記の織編物を構成する糸条の撚数は、1000T/m以上4000T/m以下であることが好ましい。前記の撚数が4000T/m以下、より好ましくは3500T/m以下、さらに好ましくは3000T/m以下であることにより、柔軟性に優れた人工皮革となり、前記の撚数を1000T/m以上、より好ましくは1500T/m以上、さらに好ましくは2000T/m以上であることにより、不織布と織編物をニードルパンチ等で絡合一体化させる際に、織編物を構成する繊維の損傷を防ぐことができ、機械的強度に優れた人工皮革となるため好ましい。
【0048】
[高分子弾性体]
次に、本発明の人工皮革は、高分子弾性体を含む。ここで、本発明において、「高分子弾性体を含む」とは、人工皮革の立毛部分を除く両表面から厚さ方向に30%の部分を除いた残りの中央40%の部分に高分子弾性体が含有された状態のことを指し、以下の(1)~(7)に示す手順によって判断することができる。
(1)リントブラシ等を用いて人工皮革の立毛表面を寝かせた状態で、人工皮革中で無作為に選択される位置から、人工皮革の断面方向に厚さ1mmの薄切片を作製する。
(2) 走査型電子顕微鏡(SEM、例えば、株式会社キーエンス製「VHX-D500/D510型」など)にて(1)の薄切片の断面のうち、両表面から厚さ方向に30%の部分を除いた残りの中央40%の部分を観察する。
(3) 撮影したSEM画像において、繊維絡合体を構成する繊維以外の物質の有無を確認する。
(4) 繊維絡合体を構成する繊維以外の物質がある場合には、人工皮革の表層に塗布されている樹脂部分AおよびBを剥離するなどして取り除く。
(5) 人工皮革の立毛部分を除く両表面から厚さ方向に30%の部分を研磨するなどして除去し、中央40%の部分のみとする。
(6) N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)のそれぞれに(5)の試験片を溶解させ、溶解後のDMF溶液中の溶質、および、HFIPへの不溶物を組成分析することで高分子弾性体の有無を確認する。そして、組成分析では、例えば、赤外分光法(IR)等にて高分子弾性体の有無を確認する。
(7)前記のDMF溶液中の溶質またはHFIPの不溶物のいずれかにおいて、後述する高分子弾性体の構造が確認できた場合には、高分子弾性体を含むものと見なす。
【0049】
この高分子弾性体は、人工皮革を構成する極細繊維を把持するバインダーであるため、本発明の人工皮革の柔軟な風合いを考慮すると、用いられる高分子弾性体としては、ポリウレタンを主成分として用いることが好ましい。なお、本発明でいう「主成分である」とは、高分子弾性体全体の質量に対してポリウレタンの質量が50質量%より多いことをいう。
【0050】
本発明において、高分子弾性体として好ましく用いられるポリウレタン樹脂は、有機溶剤に溶解した状態で使用する有機溶剤系ポリウレタン樹脂と、水に分散した状態で使用する水分散型ポリウレタン樹脂のどちらも採用することができる。ここで、本発明において、水分散型ポリウレタン樹脂とは、親水性基を有し、DMFへの溶解度が40g/100g-DMF未満の(DMF100gに対し、当該ポリウレタンが40g未満までしか溶解しない)ポリウレタン樹脂のことを言う。逆に、DMFへの溶解度が40g/100g-DMF以上の(DMF100gに対し、当該ポリウレタンが40g以上溶解できる)ポリウレタン樹脂が有機溶剤系ポリウレタン樹脂であるとする。
【0051】
また、本発明で好ましく用いられるポリウレタン樹脂としては、ポリマージオールと有機ジイソシアネートと鎖伸長剤との反応により得られるポリウレタン樹脂が挙げられる。以下に、それぞれ説明する。
【0052】
<1>ポリマージオール
上記のポリマージオールとしては、例えば、ポリカーボネート系ジオール、ポリエステル系ジオール、ポリエーテル系ジオール、シリコーン系ジオールおよびフッ素系ジオールを採用することができ、これらを組み合わせた共重合体を用いることもできる。中でも、耐加水分解性、耐摩耗性の観点からは、ポリカーボネート系ジオールを用いることがより好ましい態様である。
【0053】
ポリマージオールの数平均分子量は、ポリウレタン系エラストマーの分子量が一定の場合、500以上4000以下の範囲であることが好ましい。数平均分子量を好ましくは500以上、より好ましくは1500以上とすることにより、人工皮革が硬くなることを防ぐことができる。また、数平均分子量を好ましくは4000以下、より好ましくは3000以下とすることにより、ポリウレタン樹脂としての強度を維持することができる。
【0054】
<2>有機ジイソシアネート
本発明で好ましく用いられる有機ジイソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の脂肪族系ジイソシアネートや、ジフェニルメタンジイソシアネート、およびトリレンジイソシアネート等の芳香族系ジイソシアネートが挙げられ、またこれらを組み合わせて用いることもできる。
【0055】
<3>鎖伸長剤
本発明で好ましく用いられる鎖伸長剤としては、好ましくはエチレンジアミンやメチレンビスアニリン等のアミン系の鎖伸長剤、およびエチレングリコール等のジオール系の鎖伸長剤を用いることができる。また、ポリイソシアネートと水を反応させて得られるポリアミンを鎖伸長剤として用いることもできる。
【0056】
<4>その他成分
本発明において、高分子弾性体として好ましく用いられるポリウレタン樹脂は、耐水性、耐摩耗性および耐加水分解性等を向上させる目的で架橋剤を併用することができる。架橋剤は、ポリウレタン樹脂に対し、第3成分として添加する外部架橋剤でもよく、またポリウレタン樹脂の分子構造内に予め架橋構造となる反応点を導入する内部架橋剤も用いることができる。内部架橋剤は、ポリウレタン樹脂の分子構造内に均一な架橋点を形成することができるため、柔軟性の減少を軽減できるという観点から、より好ましい。
【0057】
また、高分子弾性体には、目的に応じて各種の添加剤、例えば、「リン系、ハロゲン系および無機系」などの難燃剤、「フェノール系、イオウ系およびリン系」などの酸化防止剤、「ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系、シアノアクリレート系およびオキザリックアシッドアニリド系」などの紫外線吸収剤、「ヒンダードアミン系やベンゾエート系」などの光安定剤、ポリカルボジイミドなどの耐加水分解安定剤、可塑剤、耐電防止剤、界面活性剤、凝固調整剤、カーボンブラックおよび染料などを含有させることができる。
【0058】
一般に、人工皮革における高分子弾性体の含有量は、使用する高分子弾性体の種類、高分子弾性体の製造方法および風合や物性を考慮して、適宜調整することができるが、本発明においては、高分子弾性体の含有量は、繊維絡合体の質量に対して10質量%以上60質量%以下とすることが好ましい。前記の高分子弾性体の含有量を10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上とすることで、繊維間の高分子弾性体による結合を強めることができ、人工皮革の耐摩耗性を向上させることができる。一方、前記の高分子弾性体の含有量を60質量%以下、より好ましくは45質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下とすることで、人工皮革をより柔軟性が高く、柔らかい風合いを有するものとすることができる。
【0059】
なお、本発明において、人工皮革における高分子弾性体の含有量(質量%)は、以下の手順によって測定、算出される値を採用するものとする。
(1)人工皮革からランダムに10cm×10cmの大きさの試験片を3枚採取する。
(2)人工皮革の表層に塗布されている樹脂部分Aおよび非連続な樹脂部分Bからなる層を剥離するなどして取り除く。
(3)人工皮革の立毛部分を除く両表面から厚さ方向に30%の部分を研磨するなどして除去し、中央40%の部分のみとする。
(4)前記の高分子弾性体を含むか否かの確認方法の(7)において、DMF溶液中の溶質側で前記の高分子弾性体の構造が確認できた場合には手順(5)を行い、HFIPの不溶物側で前記の高分子弾性体の構造が確認できた場合には手順(6)を行い、高分子弾性体の含有量を算出する。また、DMF、HFIP双方にて高分子弾性体の構造が確認できた場合には、手順(5)および(6)で算出された値のうち大きい方の値を高分子弾性体の含有量として採用する。
(5)前記試験片をDMFに浸漬させ、25℃、24時間乾燥する。溶解前後での試験片の質量比を以下の式で算出し、3つの試験片の算術平均値(%)について、小数点以下第1位を四捨五入して高分子弾性体の含有量を算出する
(溶解前のサンプル質量(g)-溶解、乾燥後のサンプル質量(g))/(溶解前のサンプル質量(g))×100
(6)前記試験片をHFIPに浸漬させ、25℃、24時間乾燥する。溶解前後での試験片の質量比を以下の式で算出し、3つの試験片の算術平均値(%)について、小数点以下第1位を四捨五入して高分子弾性体の含有量を算出する
(溶解後のサンプル質量(g))/(溶解前のサンプル質量(g))×100。
【0060】
[人工皮革]
本発明の人工皮革は、前記の繊維絡合体と、前記の高分子弾性体と、を含む。そして、本発明の人工皮革は、まず、その一方の表面が立毛を有する。ここで、本発明において、表面が「立毛を有する」か否かは、その表面において、以下の観察を行い、判断されるものとする。
(1) リントブラシ等を用いて人工皮革の立毛表面を逆立てた状態で、人工皮革中で無作為に選択される位置から、人工皮革の長手方向に、垂直な面の断面方向に厚さ1mmの薄切片を作製する。
(2) 走査型電子顕微鏡(SEM、例えば、株式会社キーエンス製「VHX-D500/D510型」など)にて人工皮革の断面のうち、その観察視野に、後述する樹脂部分A、および、非連続な樹脂部分Bが含まれない位置で、その断面を120倍で観察する。
(3)断面のうち、厚さ方向に配向する繊維のみからなる層を立毛部とし、厚さ方向に配向する繊維と人工皮革の面方向に配向する繊維との交点から、立毛の先端までの長さを立毛長(μm)として、測定する。
(4) 撮影したSEM画像の幅3000μmの領域において、繊維絡合体基材から50μm以上の長さの立毛を確認し、10本以上確認できた場合には、「立毛を有する」とする。
【0061】
また、本発明の人工皮革は、一方の表面が立毛を有する表面であるが、他方の表面も立毛を有する表面であってもよい。この両面が立毛を有する表面である場合において、後述する樹脂部分Aと非連続な樹脂部分Bとが、前記一方の表面のみに形成されてなるものであっても、両面に形成されてなるものであってもよいことは言うまでもない。ただし、この両面の立毛を有する表面に後述する樹脂部分Aと非連続な樹脂部分Bとが形成された場合、人工皮革が満たすべき前記の要件(1)~(4)については、少なくとも一方の表面が満たせばよいものとする。
【0062】
次に、本発明の人工皮革は、前記の立毛を有する表面に、樹脂部分Aと非連続な樹脂部分Bとが形成されてなる。立毛を有する表面に、この2つの非連続な樹脂部分を形成されてなることが、意匠性と耐摩耗性に優れた人工皮革を得る上で重要となる。以下に、さらにこの詳細を説明する。
【0063】
<1>樹脂部分A
まず、樹脂部分Aは、前記の立毛を有する表面に形成されてなる。そして、本発明に係る樹脂部分Aは、その少なくとも一部が、前記立毛を有する表面と直接的に接してなり、かつ、当該部分では前記樹脂部分Aが前記立毛を覆っている。また、樹脂部分Aは、その少なくとも一部が、後述する非連続な樹脂部分Bの上に積層されてなる。つまり、樹脂部分Aは、ある部分では、立毛を有する表面と直接的に接してなり、かつ、当該部分では前記樹脂部分Aが前記立毛を覆っており、別の部分では、非連続な樹脂部分Bの上に積層されてなる。このような構成であることで、樹脂部分Aが立毛を有する表面と直接的に接して立毛によって耐摩耗性に優れ、樹脂部分Aが直接的に繊維基材に浸み込みづらくなるため柔軟性にも優れた人工皮革となる。なお、本発明において、「樹脂部分Aが立毛を覆っている」とは、立毛の先端からその根元に向かって少なくとも50%以上が樹脂部分Aに取り囲まれている(包埋されている)状態のことを指すものとする。
【0064】
また、この樹脂部分Aは、スチレンブタジエンゴム、ニトリルゴム、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、および、天然樹脂からなる群から選択される1種以上を含む樹脂である。中でも、柔軟性と耐摩耗性の観点から、ポリウレタン樹脂であることが好ましい。なお、ここで言う天然樹脂とは、松脂、漆、琥珀、ラテックスなどの植物由来の樹脂、あるいは、膠などの動物由来の樹脂のことである。
【0065】
樹脂部分Aがポリウレタン樹脂である場合において、そのポリウレタンは、有機溶剤に溶解した状態で使用する有機溶剤系ポリウレタンや、水に分散した状態で使用する水分散型ポリウレタンなどがあるが、本発明においてはどちらも採用することができる。
【0066】
本発明で好ましく用いられるポリウレタンとしては、ポリオール、ポリイソシアネートおよび鎖伸長剤を適宜反応させた構造を有するポリウレタンを用いることができる。
【0067】
ポリオールとしては、例えば、ポリカーボネート系ジオール、ポリエステル系ジオール、ポリエーテル系ジオール、シリコーン系ジオールおよびフッ素系ジオールや、これらを組み合わせた共重合体を用いることができる。中でも、耐光性の観点から、ポリカーボネート系ジオールおよびポリエステル系ジオールが好ましく用いられる。さらに、耐加水分解性と耐熱性の観点から、ポリカーボネート系ジオールが好ましく用いられるが、本発明における接着層においては、繊維構造物表面との接着性から、ポリエーテル系ジオール、またはポリエステル系ジオールが好ましく用いられる。
【0068】
そして、後述する非連続な樹脂部分Bの上に樹脂部分Aが積層されてなる位置において、該樹脂部分Aの厚みは5μm以上200μm以下であることが好ましい。上記の厚みが好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上であることで、明瞭な意匠が付与された人工皮革となる。また、上記の厚みが好ましくは200μm以下、より好ましくは150μm以下であることで、耐摩耗性と柔軟性に富んだ人工皮革となる。
【0069】
なお、上記の厚みは、以下の方法によって測定、算出される値を採用するものとする。
(1) 非連続な樹脂部分Bの上に樹脂部分Aが積層されてなる位置が含まれるようにしながら、人工皮革からランダムに3.0cm×0.1cmの試験片をハサミやカッターにて10枚採取する。
(2) 非連続な樹脂部分Bの上に樹脂部分Aが積層されてなる位置の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を撮影する。
(3) 非連続な樹脂部分Bの上に樹脂部分Aが積層されてなる位置での樹脂部分Aの厚みを10μmおきに10点測定する。具体的には、図1(A)~(D)に例示するとおり、SEM写真内の非連続な樹脂部分Bの中で最も高い位置と樹脂部分Aの中で最も高い位置との差を測定する。測定した10点の厚みの算術平均値をその画像での樹脂部分Aの代表値とする。
(4) 10枚の試験片全てについて、(2)、(3)を行い、それらから測定、算出された樹脂部分Aの厚みの算術平均値を小数点以下第2位で四捨五入した値を非連続な樹脂部分Bの上に樹脂部分Aがある位置での樹脂部分Aの厚みとする。
【0070】
さらに、樹脂部分Aの樹脂充填率が95%以上100%未満であることが好ましい。樹脂部分Aの樹脂充填率が95%以上であることで、樹脂部分Aの耐摩耗性を担保することができる。また、樹脂部分Aの樹脂充填率が100%未満であることで、樹脂部分の耐摩耗性を担保しつつ、柔軟性と風合いを兼ね備えた人工皮革を形成することができる。
【0071】
なお、上記の樹脂充填率は、以下の方法によって測定、算出される値を採用するものとする。
(1) 非連続な樹脂部分Bの上に樹脂部分Aが積層されてなる位置が含まれるようにしながら、人工皮革からランダムに3.0cm×0.1cmの試験片をハサミやカッターにて10枚採取する。
(2) 非連続な樹脂部分Bの上に樹脂部分Aが積層されてなる位置の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を撮影する。
(3) 画像分析ソフト(例えば、米国国立衛生研究所(NIH)にて開発された画像分析ソフトウェアである「ImageJ」など)を用いて樹脂部分Aの総面積の比率を算出する。この際、前記の「ImageJ」を用いた場合には、樹脂部分Aの充填部分と空隙部分との閾値を100(画素値の0~99が白、100~255が黒となるように設定)に設定して、他のソフトウェアを用いた場合には、同等の閾値となるように設定して、2値化処理することで算出する。また、樹脂充填率の面積割合の算出において、SEM画像から判断して、明らかに空隙部分ではない箇所が空隙部分のように2値化処理されている場合、当該箇所について、手動で画像を編集するなどして、その部分を樹脂部分Aとして算出されるようにする。
(4) 撮影した10か所のSEM画像から測定された樹脂部分Aの樹脂充填率の算術平均値を小数点以下第2位で四捨五入した値を樹脂部分Aの樹脂充填率とする。
【0072】
本発明において、樹脂部分Aに用いられる樹脂は、本発明の効果を妨げない範囲で、ポリエステル系、ポリアミド系およびポリオレフィン系などのエラストマー樹脂、アクリル樹脂およびエチレン-酢酸ビニル樹脂などを含有させることができる。また、これらの樹脂には、各種の添加剤、例えば、カーボンブラックなどの顔料、リン系、ハロゲン系および無機系などの難燃剤、フェノール系、イオウ系およびリン系などの酸化防止剤、ヒンダードアミン系やベンゾエート系などの光安定剤、ポリカルボジイミドなどの耐加水分解安定剤、可塑剤、耐電防止剤、界面活性剤、凝固調整剤、および染料などを含有させることができる。
【0073】
<2>非連続な樹脂部分B
まず、非連続な樹脂部分Bは、前記の立毛を有する表面に形成されてなる。本発明において、この「非連続な樹脂部分Bが立毛を有する表面に形成されてなる」とは、当該立毛を有する表面に、樹脂部分Bが存在しない箇所が存在するように形成されてなることを指し、例えば、図2(A)のような格子柄の模様、図2(B)のようなランダムな円が配置された模様、図2(C)のようなロゴ、図2(D)のようなランダムな島状の模様といった、1つ1つの樹脂部分Bが独立して形成されている状態、あるいは、図2(E)のような市松模様(チェッカー)や図2(F)のような千鳥格子(ハウンドトゥースチェック)のように、構成単位の頂点のみがつながっていて、大部分が隣接する構成単位と接触していないような状態を指す。なお、図2には、非連続な樹脂部分Bを説明するため、樹脂部分Aを図示していない。
【0074】
そして、この非連続な樹脂部分Bは、スチレンブタジエンゴム、ニトリルゴム、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、および、天然樹脂からなる群から選択される1種以上を含む樹脂である。中でも、柔軟性と耐摩耗性の観点から、ポリウレタン樹脂であることが好ましい。
【0075】
非連続な樹脂部分Bがポリウレタン樹脂である場合において、そのポリウレタンは、有機溶剤に溶解した状態で使用する有機溶剤系ポリウレタンや、水に分散した状態で使用する水分散型ポリウレタンなどがあるが、本発明においてはどちらも採用することができる。
【0076】
本発明で好ましく用いられるポリウレタンとしては、ポリオール、ポリイソシアネートおよび鎖伸長剤を適宜反応させた構造を有するポリウレタンを用いることができる。
【0077】
ポリオールとしては、例えば、ポリカーボネート系ジオール、ポリエステル系ジオール、ポリエーテル系ジオール、シリコーン系ジオールおよびフッ素系ジオールや、これらを組み合わせた共重合体を用いることができる。中でも、耐光性の観点から、ポリカーボネート系ジオールおよびポリエステル系ジオールが好ましく用いられる。さらに、耐加水分解性と耐熱性の観点から、ポリカーボネート系ジオールが好ましく用いられるが、本発明における接着層においては、繊維構造物表面との接着性から、ポリエーテル系ジオール、またはポリエステル系ジオールが好ましく用いられる。
【0078】
本発明において、非連続な樹脂部分Bに用いられる樹脂は、本発明の効果を妨げない範囲で、ポリエステル系、ポリアミド系およびポリオレフィン系などのエラストマー樹脂、アクリル樹脂およびエチレン-酢酸ビニル樹脂などを含有させることができる。また、これらの樹脂には、各種の添加剤、例えば、カーボンブラックなどの顔料、リン系、ハロゲン系および無機系などの難燃剤、フェノール系、イオウ系およびリン系などの酸化防止剤、ヒンダードアミン系やベンゾエート系などの光安定剤、ポリカルボジイミドなどの耐加水分解安定剤、可塑剤、耐電防止剤、界面活性剤、凝固調整剤、および染料などを含有させることができる。
【0079】
<3>樹脂部分Aと非連続な樹脂部分Bとの関係
本発明の人工皮革において、樹脂部分Aと非連続な樹脂部分Bとが、立毛を有する表面に占める面積割合が、50%以上95%以下である。上記の面積割合を50%以上、好ましくは60%以上とすることで、意匠性と耐摩耗性に優れ、摩擦に強い意匠とすることができる。また、上記の面積割合を95%以下、好ましくは90%以下とすることで、人工皮革特有の柔軟性を維持することができる。
【0080】
なお、上記の面積割合は、以下の方法によって測定、算出される値を採用するものとする。
(1) 非連続な樹脂部分Bの上に樹脂部分Aが積層されてなる位置が含まれるようにしながら、人工皮革からランダムに2.0cm×2.0cmの試験片をハサミやカッターにて10枚採取する。
(2) 非連続な樹脂部分Bの上に樹脂部分Aが積層されてなる位置の表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を撮影する。
(3) 画像分析ソフト(例えば、米国国立衛生研究所(NIH)にて開発された画像分析ソフトウェアである「ImageJ」など)を用いて樹脂部分AおよびBの総面積の比率を算出する。この際、前記の「ImageJ」を用いた場合には、樹脂部分と非立毛部分との閾値を100(画素値の0~99が白、100~255が黒となるように設定)に設定して、他のソフトウェアを用いた場合には、同等の閾値となるように設定して、2値化処理することで算出する。また、面積割合の算出において、SEM画像から判断して、樹脂部分AおよびBではない物質が樹脂部分として2値化処理されている場合、当該箇所について、手動で画像を編集するなどして、その部分を樹脂部分以外のものとして算出する。
【0081】
続いて、本発明の人工皮革において、樹脂部分Aの長さa(mm)と非連続な樹脂部分Bの長さb(mm)が以下の式1を満たす
1<a/b≦50 ・・・(式1)
a/bを1より大きく、好ましくは5以上であることで、樹脂部分Aが樹脂部分Bを包埋され、さらに立毛も包埋されることとなるため、厚みのある樹脂部分Aであっても耐摩耗性を有する人工皮革となる。一方、a/bを50以下、好ましくは40以下であることで、人工皮革特有の柔軟性を担保することができる。
【0082】
上記の式1を満たす限りにおいて、まず、前記の樹脂部分Aの長さa(mm)は0.10mm以上50.00mm以下であることが好ましい。樹脂部分Aの長さaが好ましくは0.10mm以上、より好ましくは0.20mm以上であることで、耐摩耗性に優れ、かつ、厚みのある樹脂部分を有する人工皮革となる。また、樹脂部分Aの長さaが好ましくは50.00mm以下、より好ましくは40.00mmであることで、樹脂部分Aの耐摩耗性と人工皮革特有の柔軟性とを兼ね備えた人工皮革となる。
【0083】
次に、非連続な樹脂部分Bの長さb(mm)は、0.05mm以上2.00mm以下であることが好ましい。樹脂部分Bの長さbが好ましくは0.05mm以上、より好ましくは0.08mm以上であることで、樹脂部分Aとして厚みのある樹脂層を載せた場合であっても立毛がその樹脂部分から露出することなく、均一な表面とすることができる。また、樹脂部分Bの長さbを2.00mm以下、好ましくは1.50mmとすることで、樹脂部分Aの耐摩耗性と人工皮革特有の柔軟性を兼ね備えた人工皮革を得ることができる。
【0084】
なお、前記の樹脂部分Aの長さa(mm)、非連続な樹脂部分Bの長さb(mm)、樹脂部分Aの長さa(mm)の非連続な樹脂部分Bの長さb(mm)に対する比a/bは、以下の方法によって測定、算出される値を採用するものとする。
(1) 非連続な樹脂部分Bの上に樹脂部分Aが積層されてなる位置が含まれるようにしながら、任意の1方向を0°とし、その0°、30°、60°、90°の4方向にてランダムに7.0cm×0.1cmの試験片をハサミまたはカッターにて断面サンプルをそれぞれの方向から10枚採取する。ただし、図2(G)のように一方向に連続的に樹脂部分が存在する場合には、非連続ととれる短辺(ラインの幅)を観察できるように試験片を採取する。
(2) 非連続な樹脂部分Bの上に樹脂部分Aが積層されてなる位置の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を撮影する。
(3) 樹脂部分Aの長さa(mm)および非連続な樹脂部分Bのb(mm)をSEM画像から測定する。この長さとは、図1に例示されるように、SEM画像中における、個々の樹脂部分Aまたは非連続な樹脂部分Bの左右方向の距離であり、この長さにバラツキがある場合、つまり、複数個の樹脂部分Aや非連続な樹脂部分Bが確認される場合であって、それらの長さが異なる場合には画像から確認できる長さaおよびbを数点測定し、その算術平均値をその画像での代表の値とする。
(4) 撮影した10か所のSEM画像から測定された長さaおよびbの算術平均値を小数点以下第2位で四捨五入した値を樹脂部分Aの長さa(mm)および樹脂部分Bの長さb(mm)とする。
(5) a/bは撮影した10か所のSEM画像から測定された長さaおよびbから算出された値について平均値を小数点以下第2位で四捨五入した値をa/bの値とする。
【0085】
本発明の人工皮革において、人工皮革の目付は150g/m以上600g/m以下であることが好ましい。人工皮革の目付が好ましくは150g/m以上、より好ましくは200g/mであることで、厚みのある意匠と耐摩耗性、生地としての強力を兼ね備えた人工皮革となる。また、人工皮革の目付を600g/m以下、より好ましくは、550g/mであることで、柔軟性に優れた人工皮革となる。
【0086】
本発明の人工皮革において、その立毛を有する表面におけるマーチンデール摩耗評価(12.0kPa×10000回)後の摩耗減量(以降、単に「摩耗減量」と略記することがある)は、15mg以下であることが好ましい。摩耗減量が15mg以下、より好ましくは13mg以下であることで、長期間の使用後も樹脂部分Aの意匠が柄切れすることなく、明瞭な意匠を維持することができる。
【0087】
なお、摩耗減量は以下の方法によって測定、算出される値を採用するものとする。
(1) 非連続な樹脂部分Bの上に樹脂部分Aが積層されてなる位置が含まれるようにしながら、直径3.8cmの試験片をハサミまたはカッターにて試験布をランダムに4枚採取する。
(2) それぞれの試験布について、摩耗試験前の質量(mg)を測定する。
(3) JIS L1096:2010「織物及び編物の生地試験方法」の「8.19 摩耗強さ及び摩擦変色性」の「8.19.5 E法(マーチンデール法)」に沿って、押圧荷重:12.0kPa、摩擦回数:10000回で摩耗試験を行う。
(4) 摩耗試験後の試験布の質量(mg)を測定し、摩耗試験前後での試験布の質量差をその試験布の摩耗減量とする。
(5) それぞれの試験布について(2)~(4)を繰り返して試験布の摩耗減量を算出し、それらの算術平均値(mg)を小数点以下第2位で四捨五入した値を算出する。
【0088】
本発明の人工皮革において、その剛軟度は10mm以上60mm以下であることが好ましい。剛軟度が10mm以上、好ましくは15mm以上であることで、縫製時や貼り合わせ時における形態安定性の高い人工皮革となる。剛軟度が60mm以下、より好ましくは55mm以下であることで、柔らかい風合いと意匠性を兼ね備えた人工皮革となる。
【0089】
なお、人工皮革の剛軟度は、以下の方法によって測定、算出される値を採用するものとする。
(1) 非連続な樹脂部分Bの上に樹脂部分Aが積層されてなる位置が含まれるようにしながら、2cm×15cmの試験片をハサミまたはカッターにて試験布をランダムに3枚採取する。
(2) それぞれの試験布について、41.5°の斜面を有するカンチレバーを用い、樹脂部分Aおよび樹脂部分Bが塗布されている面をオモテ面として剛軟度を測定する。なお、両面が樹脂部分Aおよび樹脂部分Bが塗布されている面である場合には、オモテ面とウラ面の両方を測定し、両面の平均値を試験布の剛軟度とする。
(3) それぞれの試験布で測定した剛軟度(cm)の算術平均値を小数点以下第1位で四捨五入した値を算出する。
【0090】
[人工皮革の製造方法]
本発明の人工皮革を製造する方法の好ましい態様は、
(a)熱可塑性樹脂を主成分とし、平均単繊維径が1.0μm以上10.0μm以下の極細繊維で構成されてなる不織布を構成要素として含む繊維絡合体と、高分子弾性体と、を含む、シート状物を形成する工程と、
(b)該シート状物の一方の表面を研削して、立毛シートを形成する工程と、
(c)該立毛シートの立毛を有する表面に、スチレンブタジエンゴム、ニトリルゴム、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、および、天然樹脂からなる群から選択される1種以上を含む樹脂を非連続に載せて、非連続な樹脂部分Bを形成し、さらに、スチレンブタジエンゴム、ニトリルゴム、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、および、天然樹脂からなる群から選択される1種以上を含み、かつ、粘度が1000mPa・s以上4000mPa以下の樹脂を載せて、樹脂部分Aを形成する工程と、
を含むものである。以下に、上記の各工程について、さらに具体的に説明する。
【0091】
(a)シート状物を形成する工程
まず、本工程では、熱可塑性樹脂を主成分とし、平均単繊維径が1.0μm以上10.0μm以下の極細繊維で構成されてなる不織布を構成要素として含む繊維絡合体と、高分子弾性体と、を含む、シート状物を形成する。
【0092】
この繊維絡合体に関し、構成要素の1つである、熱可塑性樹脂を主成分とし、平均単繊維径が1.0μm以上10.0μm以下の極細繊維で構成されてなる不織布を形成するには、前記の平均単繊維径となる極細繊維を直接紡糸して不織布とする方法、一旦、極細繊維発現型繊維を不織布とし、その後にそこから極細繊維を発現させる方法などが挙げられる。中でも、操業性に富み、均一な極細繊維を得ることができるという観点から、一旦、極細繊維発現型繊維を用いた不織布を形成する方法をとることが好ましい。
【0093】
極細繊維発現型繊維としては、溶剤溶解性の異なる熱可塑性樹脂を海成分(易溶解性ポリマー)と島成分(難溶解性ポリマー)とし、前記の海成分を、溶剤などを用いて溶解除去することによって島成分を極細繊維とする海島型複合繊維を用いる。海島型複合繊維を用いることによって、海成分を除去する際に島成分間、すなわち繊維束内部の極細繊維間に適度な空隙を付与することができるため、人工皮革の柔軟な風合いや表面品位の観点から好ましい。
【0094】
海島型複合構造を有する極細繊維発現型繊維を紡糸する方法としては、海島型複合繊維用口金を用い、海成分と島成分とを相互配列して紡糸する高分子相互配列体を用いる方式が、均一な単繊維繊度の極細繊維が得られるという観点から好ましい。
【0095】
海島型複合繊維の海成分としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ナトリウムスルホイソフタル酸やポリエチレングリコールなどを共重合した共重合ポリエステル、およびポリ乳酸などを用いることができるが、製糸性や易溶出性等の観点から、ポリスチレンや共重合ポリエステルが好ましく用いられる。
【0096】
本発明の人工皮革の製造方法においては、島成分の強度が2.0cN/dtex以上である海島型複合繊維を用いることが好ましい。島成分の強度が2.0cN/dtex以上、より好ましくは2.3cN/dtex以上、さらに好ましくは2.8cN/dtex以上であることによって、人工皮革の耐摩耗性が向上するとともに繊維の脱落に伴う摩擦堅牢度の低下を抑制することができる。
【0097】
本発明において、海島型複合繊維の島成分の強度は以下の方法により算出されるものとする。
(1) 長さ20cmの海島型複合繊維を10本束ねる。
(2) (1)の試料から海成分を溶解除去したのちに、風乾する。
(3) JIS L1013:2010「化学繊維フィラメント糸試験方法」の「8.5 引張強さ及び伸び率」の「8.5.1 標準時試験」にて、つかみ長さ5cm、引張速度5cm/分、荷重2Nの条件にて10回試験する(N=10)。
(4) (3)で得られた試験結果の算術平均値(cN/dtex)を小数点以下第二位で四捨五入して得られる値を、海島型複合繊維の島成分の強度とする。
【0098】
続いて、紡出された極細繊維発現型繊維を開繊したのちにクロスラッパー等により繊維ウェブとし、絡合させることにより不織布を構成要素として含む繊維絡合体を得る。繊維ウェブを絡合させ不織布を構成要素として含む繊維絡合体を得る方法としては、ニードルパンチ処理やウォータージェットパンチ処理等を用いることができる。
【0099】
不織布の形態としては、前述のように短繊維不織布でも長繊維不織布でも用いることができるが、短繊維不織布であると、人工皮革の厚さ方向を向く繊維が長繊維不織布に比べて多くなり、起毛した際の人工皮革の表面に高い緻密感と柔軟な風合いを得ることができる。
【0100】
不織布として短繊維不織布である場合には、前記の海島型複合繊維を形成する工程において得られた、海島型複合繊維に対して、好ましくは捲縮加工を施し、所定長にカット加工して原綿を得たのちに、開繊、積層、絡合させることで短繊維不織布を得る。捲縮加工やカット加工は、公知の方法を用いることができる。
【0101】
短繊維不織布を用いる場合の極細繊維の平均繊維長は、好ましくは25mm以上90mm以下である。繊維長を90mm以下、より好ましくは80mm以下、さらに好ましくは70mm以下とすることにより、良好な品位、柔らかな風合いを得られる。他方、繊維長を25mm以上、より好ましくは35mm以上、さらに好ましくは40mm以上とすることにより、耐摩耗性に優れた人工皮革とすることができる。
【0102】
さらに、繊維絡合体が織編物を含む場合には、前記の方法によって得られた不織布と織編物とを積層し、そして絡合一体化させる。不織布と織編物の絡合一体化には、不織布の片面もしくは両面に織編物を積層するか、あるいは複数枚の不織布ウェブの間に織編物を挟んだ後に、ニードルパンチ処理やウォータージェットパンチ処理等によって不織布と織編物の繊維同士を絡ませることができる。
【0103】
本発明に係る人工皮革を構成する不織布の目付は、JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.2 単位面積当たりの質量(ISO法)」で測定され、50g/m以上600g/m以下であることが好ましい。前記の不織布の目付が、50g/m以上、より好ましくは80g/m以上であることで、充実感のある、風合いの優れた人工皮革となる。一方、前記の不織布の目付が、600g/m以下、より好ましくは500g/m以下であることで賦型意匠性に優れた、柔軟な人工皮革となる。
【0104】
ニードルパンチ処理あるいはウォータージェットパンチ処理後の海島型複合繊維からなる不織布の見掛け密度は、0.15g/cm以上0.45g/cm以下であることが好ましい。見掛け密度を好ましくは0.15g/cm以上とすることにより、人工皮革が十分な形態安定性と寸法安定性が得られる。一方、見掛け密度を好ましくは0.45g/cm以下とすることにより、高分子弾性体を付与するための十分な空間を維持し、断面の空隙を保つことで柔軟な風合いを達成することができる。
【0105】
前記の繊維絡合体には、繊維の緻密感向上のために、温水やスチームによる熱収縮処理を施すことも好ましい態様である。
【0106】
次に、前記の繊維絡合体に水溶性樹脂の水溶液を含浸し、乾燥することにより水溶性樹脂を付与することもできる。繊維絡合体に水溶性樹脂を付与することにより、繊維が固定されて寸法安定性が向上される。
【0107】
続いて、得られた繊維質基材を溶剤あるいは溶液で処理して、単繊維の平均単繊維径が1.0μm以上10.0μm以下の極細繊維を形成させる。
【0108】
極細繊維の形成は、溶剤中あるいは溶液中に前記の繊維絡合体を浸漬させて、海島型複合繊維の海成分を溶解除去することにより行うことができる。
【0109】
海成分を溶解除去する溶剤としては、海成分がポリエチレン、ポリプロピレンまたはポリスチレンの場合には、トルエンやトリクロロエチレンなどの有機溶剤を用いることができる。また、海成分が共重合ポリエステルやポリ乳酸の場合には、水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液を用いることができる。また、海成分が水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系樹脂の場合には、熱水を用いることができる。
【0110】
そして、極細繊維または海島型複合繊維を主構成成分とする前記の繊維絡合体に、前記の高分子弾性体の溶液を含浸させ、高分子弾性体を固化することにより、前記の繊維絡合体と、高分子弾性体と、を含む、シート状物を形成することができる。高分子弾性体を固化する方法としては、高分子弾性体の溶液を繊維絡合体に含浸させた後、湿式凝固または乾式凝固する方法があり、使用する高分子弾性体の種類により適宜これらの方法を選択することができる。
【0111】
高分子弾性体としてポリウレタンが選択される場合に用いられる溶媒としては、N,N’-ジメチルホルムアミドやジメチルスルホキシド等が好ましく用いられる。また、ポリウレタンを水中にエマルジョンとして分散させた水分散型ポリウレタン液を用いてもよい。
【0112】
なお、繊維絡合体への高分子弾性体の付与は、海島型複合繊維から極細繊維を発生させる前に付与してもよいし、海島型複合繊維から極細繊維を発生させた後に付与してもよい。
【0113】
(b)立毛シートを形成する工程
続いて、得られたシート状物の一方の表面を研削して、立毛シートを形成する。製造効率の観点から、シート状物の表面を研削する前に、該シート状物を厚み方向に半裁して2枚のシート状物とすることも好ましい態様である。
【0114】
そして、前記のシート状物(半裁されたシート状物も含む)の前記の一方の表面を、サンドペーパーやロールサンダーなどを用いて、研削して、立毛シートを形成する。前記のとおり、両方の表面を研削して、両面、立毛を有する表面としてもよいことは言うまでもない。
【0115】
研削を行う前に、シリコーンエマルジョンなどの滑剤を人工皮革の表面へ付与することもできる。また、研削を行う前に帯電防止剤を付与することで、研削によってシート状物から発生した研削粉がサンドペーパー上に堆積しにくくなる。
【0116】
さらに、この工程の段階で立毛シートを、例えば、ジッガー染色機や液流染色機を用いた液流染色処理、連続染色機を用いたサーモゾル染色処理等の浸染処理、あるいはローラー捺染、スクリーン捺染、インクジェット方式捺染、昇華捺染および真空昇華捺染等による立毛面への捺染処理等を用いて染色することもできる。中でも、柔軟な風合いが得られることから、品質や品位面から液流染色機を用いることが好ましい。また、必要に応じて、染色後に柔軟剤や帯電防止剤などの仕上げ剤を付与する、仕上げ加工を施すこともできる。
【0117】
(c)非連続な樹脂部分B、樹脂部分Aを形成する工程
さらに、得られた立毛シートの立毛を有する表面に、スチレンブタジエンゴム、ニトリルゴム、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、および、天然樹脂からなる群から選択される1種以上を含む樹脂を非連続に載せて、非連続な樹脂部分Bを形成し、さらに、スチレンブタジエンゴム、ニトリルゴム、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、および、天然樹脂からなる群から選択される1種以上を含み、かつ、粘度が1000mPa・s以上4000mPa以下の樹脂を載せて、樹脂部分Aを形成する。
【0118】
本発明において、樹脂部分Aおよび樹脂部分Bの形成方法としては、繊維構造物の表面に樹脂部分を形成できる方法であれば特に限定はされないが、例えば、フラットスクリーンやロータリースクリーン等のスクリーン法やグラビアコーティング法、手捺染等の塗布後に乾燥して樹脂層を形成する方法や離型紙等の支持基材繊維状に非連続に樹脂膜を形成したのち、その樹脂膜の表面に接着剤を塗布し繊維構造物となる表面に貼り合わせて接着し、離型紙を剥離することによって樹脂層を形成する方法等が挙げられる。
【0119】
上記において、樹脂部分Aを形成する際の、かかる樹脂の粘度は1000mPa・s以上4000mPa・s以下である。樹脂部分Aの粘度を好ましくは1000mPa・s以上、より好ましくは1100mPa・sとすることで、樹脂部分Aが繊維基材に浸み込まずに風合いを保つことができ、柔軟性に優れた人工皮革とすることができる。また、樹脂部分Bの粘度を好ましくは4000mPa・s以下、より好ましくは、3900mPa・sとすることで、樹脂部分Aが立毛部を包埋できる構造を容易にとることができ、より樹脂部分Aの耐摩耗性を高めることができる。
【0120】
(d)その他の工程
さらに、本発明の人工皮革の製造方法では、必要に応じて、人工皮革に対し、例えば、パーフォレーション等の穴開け加工、エンボス加工、レーザー加工、ピンソニック加工、および、プリント加工等の後加工処理を施すこともできる。
【0121】
[積層体、乗物用内装材、衣類、雑貨]
本発明の人工皮革は、天然皮革調の柔軟な触感と優れた強度、品位、緻密感を有しており、家具、椅子および車両内装材から衣料用途まで幅広く用いることができる。
【0122】
例えば、前記の人工皮革の、樹脂部分Aと非連続な樹脂部分Bとが形成されてない側の表面に、布帛層、および/または、発泡樹脂層を備えてなる、積層体とすることも好ましい。ここで言う布帛層とは、不織布、織物、編物などで構成されてなる層のことを言い、発泡樹脂層とは、一般的なポリウレタン系、オレフィン系などの樹脂を所望の特性に合わせて発泡させてなる樹脂で構成されてなる、多孔構造を有する樹脂で構成されてなる層、より具体的には、軟質ポリウレタンフォームなどで構成されてなる層のことを言う。例えば、布帛層を備えてなる積層体は、強力に優れ、成型しやすいものとなる。また、発泡樹脂層を備えてなる積層体は、柔らかな風合いとクッション性に優れたものとなる。
【0123】
なお、布帛層、発泡樹脂層は、例えば、前記の人工皮革と接着剤などで接着させることで積層体としてもよいし、布帛層、発泡樹脂層の表面の少なくとも一部を溶融させて融着させることで積層体としてもよい。
【0124】
そして、前記の人工皮革、または、前記の積層体は、特に、耐久性、成型性、意匠性、樹脂部分の耐摩耗性に優れ、さらには、柔軟な風合いを有している。そのため、少なくとも一部が前記の人工皮革、または、前記の積層体である、乗物用内装材、衣類、雑貨とすることが好ましい。
【0125】
なお、ここで言う「乗物用内装材」とは、乗物の、例えば、ステアリングホイール、ホーンスイッチ、シフトノブ、ダッシュボード、インストルメントパネル、グローブボックス、フロアカーペット、フロアマット、天井内張、サンバイザー、アシストグリップなどのことを言い、本発明における「乗物」とは、自動車、航空機、鉄道用車両、船舶をはじめ、馬車やかご、人力車などの乗物、さらには、ショベルカー、クレーン車、トラクター、コンバインなど、人間や動物を乗せて移動することのできる、一部の産業機械、建設機械、農業機械も含むものである。
【0126】
また、ここで言う「衣類」とは、ジャケット、パンツ、コートなどのことを言い、「雑貨」とは、鞄、靴、帽子、財布、小物入れなどのことを言う。なお、衣類も、雑貨も、人間用のものに限らず、犬や猫などの愛玩動物が着用、使用するものであってもよいし、キャラクターの着ぐるみが着用、使用するものであってもよい。
【実施例0127】
次に、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0128】
[測定方法]
実施例で用いた評価法とその測定条件について説明する。なお、各物性の測定において、特段の記載がないものは、前記の方法に基づいて測定を行ったものである。
【0129】
(1)極細繊維の平均単繊維径(μm):
走査型電子顕微鏡として、株式会社キーエンス製「VHX-D500/D510型」を用い、前記の方法によって測定、算出を行った。
【0130】
(2)樹脂部分Aと非連続な樹脂部分Bとが立毛を有する表面に占める面積割合(%):
走査型電子顕微鏡として、株式会社キーエンス製「VHX-D500/D510型」を、画像解析ソフトとして、「ImageJ」(アメリカ国立衛生研究所)を用い、前記の方法によって測定、算出を行った。なお、表1、2では単に「樹脂部分の面積割合」と略記した。
【0131】
(3)樹脂部分Aの長さa(mm)、非連続な樹脂部分Bの長さb(mm)ならびに比a/b(-):
走査型電子顕微鏡として、株式会社キーエンス製「VHX-D500/D510型」を用い、前記の方法によって測定、算出した。
【0132】
(4)非連続な樹脂部分Bの上に樹脂部分Aがある位置での該樹脂部分Aの厚みT(μm):
走査型電子顕微鏡として、株式会社キーエンス製「VHX-D500/D510型」を用い、前記の方法によって、測定、算出を行った。
【0133】
(5)樹脂部分Aの樹脂充填率(%):
走査型電子顕微鏡として、株式会社キーエンス製「VHX-D500/D510型」を用い、前記の方法によって、測定、算出を行った。
【0134】
(6)耐摩耗性(摩耗減量):
前記の手順で人工皮革のマーチンデール摩耗評価(12.0kPa×10000回)後の摩耗減量(mg)を測定、算出することにより、人工皮革における樹脂部分Aの耐摩耗性を評価した。
【0135】
(7)柔軟性:
人工皮革の柔軟性は、前記の手順で人工皮革の剛軟度を測定、算出することにより評価した。
【0136】
(8)人工皮革の意匠性:
人工皮革の意匠性は、健康な成人男性と成人女性各10名ずつ、計20名による、視覚的、触覚的な評価を行った。具体的には、樹脂部分Aの表面状態について、下記の5段階の評価を視覚的、触覚的な観点から判別を行い、最も多かった評価を人工皮革の意匠性とした。ただし、評価が同数となった場合は、より高い評価をその複合人工皮革の外観品位とすることとした。本発明の良好なレベルは「AまたはB」とした。
・A:非常に樹脂部分Aの意匠が明瞭、均一である。
・B:樹脂部分Aの意匠が明瞭、均一である。
・C:樹脂部分Aの意匠が不明瞭、不均一である。
・D:非常に樹脂部分Aの意匠が不明瞭、不均一である。
・E:樹脂部分Aの厚みがないまたは薄く、意匠性がない。
【0137】
[実施例1]
(a)シート状物を形成する工程
島成分と海成分からなる海島型複合構造を有する海島型複合繊維を、以下の条件で溶融紡糸した。
・島成分: 固有粘度(IV値)が0.73のポリエチレンテレフタレートA
・海成分: MFR(メルトフローレート、ISO 1133:1997に規定の試験方法で測定)が65g/10分のポリスチレン
・口金: 島数が16島/ホールの海島型複合繊維用口金
・紡糸温度: 285℃
・島成分/海成分 質量比率: 80/20
・吐出量: 1.2g/(分・ホール)
・紡糸速度: 1100m/分
次いで、150℃としたスチームボックス中で海島型複合繊維を2.7倍に延伸した。
【0138】
そして、前記で得られた海島型複合繊維を、押し込み型捲縮機を用いて捲縮加工処理した後、51mmの長さにカットし、単繊維繊度が4.2dtexの海島型複合繊維ウェブを形成した。この海島型複合繊維から得られる極細繊維の平均単繊維径は4.4μmであった。
【0139】
上記のようにして得られた海島型複合繊維ウェブを用いて、カードおよびクロスラッパー工程を経て積層ウェブ(不織布)を形成したのち、固有粘度(IV値)が0.65のポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント(平均単繊維径:11.0μm、総繊度:84dtex、72フィラメント)に2500T/mの撚りを施した撚糸を、緯糸と経糸の両方に用いた、織密度が経95本/2.54cm、緯76本/2.54cmの平織物(目付75g/m)(織編物(a))を前記積層ウェブ(不織布)の上下に積層した。そして、2500本/cmのパンチ本数でニードルパンチ処理して、目付が700g/mで、厚みが3.0mmの繊維絡合体を得た。
【0140】
上記のようにして得られた繊維絡合体を96℃の熱水で収縮処理させた。その後、濃度が5質量%となるように調製した、鹸化度88%のポリビニルアルコール(以下、PVAと略記することがある)水溶液を熱水で収縮処理させた繊維絡合体に含浸させた。さらにこれをロールで絞り、温度125℃の熱風で10分間PVAをマイグレーションさせながら乾燥させ、シートの質量に対するPVA質量が45質量%となるようにしたPVA付シートを得た。このようにして得られたPVA付シートをトリクロロエチレンに浸漬させて、マングルによる搾液と圧縮を行う工程を10回行った。これによって、海成分の溶解除去(脱海)とPVA付シートの圧縮処理とを行い、極細繊維束が絡合してなるPVA付シートを得た。
【0141】
上記のようにして得られた極細繊維束が絡合してなるPVA付シートに、ポリウレタンを主成分とする固形分の濃度が11.3質量%となるように調製した、ポリウレタンのジメチルホルムアミド(以下、DMFと略記することがある)溶液を浸漬させた。その後、ポリウレタンのDMF溶液に浸漬させたPVA付シートをロールで絞った。次いで、このシートを濃度30質量%のDMF水溶液中に浸漬させ、ポリウレタンを凝固させた。その後、PVAおよびDMFを熱水で除去し、濃度1質量%に調整したシリコーンオイルエマルジョン液を含浸し、繊維絡合体の質量とポリウレタンの質量の合計質量に対し、付与量が0.5質量%になるようにシリコーン系滑剤を付与し、120℃の温度の熱風で10分間乾燥させた。これによって、厚みが2.1mmで、繊維絡合体の質量に対するポリウレタン質量が28質量%となるシート状物を得た。
【0142】
(b)立毛シートを形成する工程
上記のようにして得られたシート状物を厚みがそれぞれ1/2ずつとなるように半裁した。続いて、この半裁されたシート状物に対し、サンドペーパー番手が240番のエンドレスサンドペーパーを用いて半裁面(半裁された際に形成された表面)の表層部を0.15mm研削し、厚み0.9mmの立毛シートを得た。
【0143】
上記のようにして得られた立毛シートを、液流染色機を用いて染色した。その後、100℃で7分間、乾燥処理を行って、極細繊維の平均単繊維径が4.4μmで、目付が375g/m、厚みが1.1mm、立毛長が330μmの、染色された立毛シートを得た。
【0144】
(c)非連続な樹脂部分B、樹脂部分Aを形成する工程
上記の染色された立毛シートの立毛を有する表面に、固形分濃度30%に調整したポリウレタン(以下、PUと略記することがある)のDMF(ジメチルホルムアミド)溶液(DMF溶液-B1と称する)をグラビアコーティング手法により塗布し、乾燥させることで、非連続なランダムな島状(島の大きさが100μm×100μm~1000μm×1200μm程度)の、非連続な樹脂部分B(非連続な樹脂部分Bの長さbが0.20mm)を形成した。
【0145】
さらに、その上から、格子柄(四角形が千鳥配置されている柄)の型を用い、粘度を2000mPa・sに調整したPUのDMF(ジメチルホルムアミド)溶液(DMF溶液-A1と称する)を塗布し、乾燥させることで、格子柄(図3の上面概念図のように、格子間隔D=10mmの正方形格子上に、ランダムに大きさ3mm×3mm~8mm×8mmの四角形が千鳥配置されている柄)の樹脂部分A(樹脂部分Aの長さaが6.00mm、厚みTが130μm)を形成した。これにより、立毛を有する表面に樹脂部分Aと非連続な樹脂部分Bとが形成されてなり、樹脂部分Aの少なくとも一部が非連続な樹脂部分Bの上に積層されてなる人工皮革を得た。結果について、表1に示す。得られた人工皮革は、意匠性と耐摩耗性とに優れ、かつ、優れた柔軟性を有していた。特に耐摩耗性の評価においては、試験後に柄切れや目立った摩耗も見られず、均一な表面を維持できていた。
【0146】
[実施例2]
(c)非連続な樹脂部分B、樹脂部分Aを形成する工程において、DMF溶液-A1を、粘度を1050mPa・sに調整した発泡性を有するPUのDMF溶液(DMF溶液-A2と称する)に変え、さらに、樹脂部分Aの長さaを5.80mm、厚みTを120μmとしたこと以外は、実施例1と同様に人工皮革を得た。結果を表1に示す。得られた人工皮革は良好な意匠性と一定の耐摩耗性とを有し、かつ、優れた柔軟性を有していた。
【0147】
[実施例3]
実施例1の(c)非連続な樹脂部分B、樹脂部分Aを形成する工程において、非連DMF溶液-A1を、粘度を3500mPa・sに調整したPUのDMF溶液(DMF溶液-A3と称する)に変え、さらに、樹脂部分Aの長さaを6.60mm、厚みTを210μmとしたこと以外は、実施例1と同様に人工皮革を得た。結果を表1に示す。得られた人工皮革は一定の耐摩耗性と優れた意匠性を有していた。
【0148】
[実施例4]
実施例1の(c)非連続な樹脂部分B、樹脂部分Aを形成する工程において、DMF溶液-A1を、粘度を1300mPa・sに調整したPUのDMF溶液(DMF溶液-A4と称する)に変え、さらに樹脂部分Aの柄を変えて、別の格子柄(図3の上面概念図のように、格子間隔D=10mmの正方形格子上に、ランダムに大きさ1mm×1mm~3mm×3mmの四角形が千鳥配置されている柄)の樹脂部分A(樹脂部分Aの長さaが2.00mm、厚みTが5μm)を形成したこと以外は、実施例1と同様に人工皮革を得た。結果を表1に示す。得られた人工皮革は優れた耐摩耗性と柔軟性、明瞭な意匠性を有していた。
【0149】
[実施例5]
実施例1の(c)非連続な樹脂部分B、樹脂部分Aを形成する工程において、非連続な樹脂部分Bのグラビアロールのメッシュを小さくして、非連続な樹脂部分Bの島の大きさを100μm×200μm~1100μm×1300μm程度から10μm×20μm~150μm×200μm程度、非連続な樹脂部分Bの長さbを0.20mmから0.04mmに変え、さらに、樹脂部分Aの柄を変えて、別の格子柄(図3の上面概念図のように、格子間隔D=10mmの正方形格子上に、ランダムに大きさ1mm×1mm~3mm×3mmの四角形が千鳥配置されている柄)の樹脂部分A(樹脂部分Aの長さaが2.00mm、厚みTが30μm)を形成したこと以外は、実施例1と同様に人工皮革を得た。結果を表1に示す。得られた人工皮革は優れた耐摩耗性と柔軟性、明瞭な意匠性を有していた。
【0150】
[実施例6]
実施例1の(c)非連続な樹脂部分B、樹脂部分Aを形成する工程において、非連続な樹脂部分Bのグラビアロールのメッシュを大きくして、非連続な樹脂部分Bの島の大きさを100μm×200μm~1100μm×1300μm程度から1500μm×1800μm~2500μm×2500μm程度、非連続な樹脂部分Bの長さbを0.20mmから2.20mmに変え、さらに、樹脂部分Aの長さaを6.60mmに変えたこと以外はは、実施例1と同様に人工皮革を得た。結果を表1に示す。得られた人工皮革は優れた意匠性を有していた。
【0151】
[実施例7]
実施例1の(c)非連続な樹脂部分B、樹脂部分Aを形成する工程において、DMF溶液-A1を、粘度を2500mPa・sに調整した天然樹脂(漆)に変え、さらに、樹脂部分Aの長さaを5.60mmに変えたこと以外は、実施例1と同様に人工皮革を得た。結果を表1に示す。得られた人工皮革は意匠性と耐摩耗性に優れ、かつ優れた柔軟性を有していた。
【0152】
【表1】
【0153】
[比較例1]
実施例1の(c)非連続な樹脂部分B、樹脂部分Aを形成する工程において、樹脂部分Aを一切塗布しなかったこと以外は、実施例1と同様に人工皮革を得た。結果を表2に示す。得られた人工皮革は優れた柔軟性を有しているものの、一般的なヌバック調の人工皮革と同等の耐摩耗性であり、また、樹脂部分Aがないので、意匠性に劣るものであった。
【0154】
[比較例2]
実施例1の(c)非連続な樹脂部分B、樹脂部分Aを形成する工程において、非連続な樹脂部分Bを一切塗布せず、樹脂部分Aのみをそのまま塗布し、樹脂部分Aの長さaを5.80mm、厚みTを80μmとしたこと以外は、実施例1と同様に人工皮革を得た。結果を表2に示す。得られた人工皮革は耐摩耗性、柔軟性に劣るものであり、加えて、樹脂部分Aが立毛間に入り込んでおり、意匠性に劣るものであった。
【0155】
[比較例3]
実施例1の(b)立毛シートを形成する工程において、表面に立毛を付与せず、立毛を有さない表面にDMF溶液-A1を塗布し、樹脂部分Aの長さaを5.60mm、厚みTを120μmとしたこと以外は、実施例1と同様に人工皮革を得た。結果を表2に示す。得られた人工皮革は、一定の柔軟性とある程度明瞭な意匠性は有していたものの、耐摩耗性に劣るものであった。
【0156】
[比較例4]
実施例1の(c)非連続な樹脂部分B、樹脂部分Aを形成する工程において、樹脂部分Bを染色された立毛シートの立毛を有する表面の全面に隙間なく塗布し、樹脂部分Aの厚みTを100μmとしたこと以外は、実施例1と同様に人工皮革を得た。結果を表2に示す。得られた人工皮革は、一定の柔軟性と明瞭な意匠性は有していたものの、耐摩耗性に劣るものであった。
【0157】
[比較例5]
実施例1の(c)非連続な樹脂部分B、樹脂部分Aを形成する工程において、DMF溶液-A1を、粘度を900mPa・sに調整したPUのDMF溶液(DMF溶液-A6)に変え、さらに、樹脂部分Aの長さaを8.30mm、厚みTを3μmとしたこと以外は、実施例1と同様に人工皮革を得た。結果を表2に示す。得られた人工皮革は耐摩耗性に劣り、かつ、樹脂部分Aが基材に浸み込み柔軟性に乏しいものであった。また、樹脂部分Aの樹脂充填率は測定できなかった。
【0158】
[比較例6]
実施例1の(c)非連続な樹脂部分B、樹脂部分Aを形成する工程において、DMF溶液-A1を、4200mPa・sに調整したPUのDMF溶液(DMF溶液-A7)に変え、さらに、樹脂部分Aの長さaを6.40mm、厚みTを250μmとしたこと以外は、実施例1と同様に人工皮革を得た。結果を表2に示す。得られた人工皮革は耐摩耗性に劣り、かつ樹脂部分Aに硬度があり柔軟性に乏しいものであった。
【0159】
【表2】
【0160】
表1に示すように、実施例1~7の人工皮革は、人工皮革を構成する樹脂部分Aと非連続な樹脂部分Bの大きさを特定の範囲とし、かつ、樹脂部分Aが立毛と接することで、明瞭な意匠と優れた耐摩耗性を達成し、さらに、人工皮革特有の柔らかい風合いを達成することができた。
【0161】
一方、表2に示すとおり、比較例1~6の人工皮革のように、樹脂部分Aと非連続な樹脂部分Bの長さの比(a/b)を満たさない構造や樹脂部分Aが立毛と接しない構造、樹脂部分Bを含まない構造などをとった場合には、厚みがなく明瞭でない意匠となり、耐摩耗性や人工皮革特有の風合いが損なわれ、タッチ感や外観品位に劣る人工皮革となった。
【符号の説明】
【0162】
1:人工皮革
2:基体部
3:立毛
4、12:非連続な樹脂部分B
5、22:樹脂部分A
11、21:立毛部
D:格子間隔
図1
図2
図3