(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134609
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】プロピレン重合用触媒、及び、プロピレン系重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 4/654 20060101AFI20240927BHJP
C08F 10/00 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C08F4/654
C08F10/00 510
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044882
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】596133485
【氏名又は名称】日本ポリプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】中山 浩二
【テーマコード(参考)】
4J128
【Fターム(参考)】
4J128AA02
4J128AB02
4J128AC05
4J128BA01B
4J128BA04A
4J128BB01B
4J128BB02A
4J128BC15A
4J128BC15B
4J128BC33
4J128BC34A
4J128CA20A
4J128CB43C
4J128CB44A
4J128DA02
4J128DB03A
4J128DB04A
4J128DB08A
4J128EA01
4J128EB04
4J128EC01
4J128FA09
4J128GA05
4J128GB01
(57)【要約】
【課題】高温での重合活性が著しく低下し、また温度に対して得られる重合体のMFRの変化幅を少なくすることができるプロピレン重合用触媒を提供することを目的とする。
【解決手段】下記の成分(a1)に、成分(a2)、(a3)及び(a4)を接触処理してなる固体触媒成分(A)、有機アルミニウム化合物(B)、及び下記一般式(1)で表される化合物(C)を含有する、プロピレン重合用触媒。
成分(a1):チタン、マグネシウム、ハロゲン、電子供与体を含有する固体成分
成分(a2):アルケニル基を有するシラン化合物
成分(a3):アルコキシシラン化合物[ただし、アルケニル基を有するシラン化合物とは異なる。]
成分(a4):有機アルミニウム化合物
R1C(O)OR2・・・式(1)
(式(1)中、R1およびR2は、それぞれ独立して、ヘテロ原子を含有していてもよい炭化水素基を表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の成分(a1)に、成分(a2)、(a3)及び(a4)を接触処理してなる固体触媒成分(A)、有機アルミニウム化合物(B)、及び下記一般式(1)で表される化合物(C)を含有する、プロピレン重合用触媒。
成分(a1):チタン、マグネシウム、ハロゲン、電子供与体を含有する固体成分
成分(a2):アルケニル基を有するシラン化合物
成分(a3):アルコキシシラン化合物[ただし、アルケニル基を有するシラン化合物とは異なる。]
成分(a4):有機アルミニウム化合物
式(1)
R1C(O)OR2
(式(1)中、R1およびR2は、それぞれ独立して、ヘテロ原子を含有していてもよい炭化水素基を表す。)
【請求項2】
前記化合物(C)の使用量が、前記有機アルミニウム化合物(B)に対するモル比(前記化合物(C)のモル数/有機アルミニウム化合物(B)のモル数)で、0.05~2.0である、請求項1に記載のプロピレン重合用触媒。
【請求項3】
前記成分(a2)が下記一般式(3)で表される化合物である、請求項1に記載のプロピレン重合用触媒。
式(3)
SiR6
nR7
4-n
(式(3)中、
R6は、アルケニル基を表す。
R7は、水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基を表す。
nは、1、2、3又は4であり、nが1又は2のとき、R7同士が連結された環状構造を形成してもよい。)
【請求項4】
前記成分(a3)が下記一般式(2)で表される化合物である、請求項1に記載のプロピレン重合用触媒。
式(2)
R3R4
mSi(OR5)n
(式(2)中、
R3はヘテロ原子を含有していてもよい炭化水素基を表す。
R4は水素原子、ハロゲン原子、又は、ヘテロ原子を含有していてもよい炭化水素基を表す。
R5は炭化水素基を表す。
mは0、1又は2であり,nは、1、2又は3であり,m+n=3を満たす。)
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のプロピレン重合用触媒の存在下、プロピレンを単独重合又は共重合する、プロピレン系重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレン重合用触媒、及び、当該プロピレン重合用触媒を用いたプロピレン系重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンに代表されるα-オレフィン重合体は、剛性や耐熱性などの各種の物性に優れ、成形加工性に富み、比較的安価に製造することが可能であり、環境問題の派生も少ないことなどから、基本的な産業用樹脂材料として広い用途に利用され、その需要は益々高くなっている。
このように各観点から、優れた性能と利点を備えるポリプロピレンなどのα-オレフィン重合体は、以前から主として、チーグラー・ナッタ触媒により、工業的に製造されている。
【0003】
このチーグラー・ナッタ触媒においては、先ず、マグネシウム化合物を触媒担持体として、チタン及びハロゲンを必須成分として含有する固体触媒成分を使用した触媒が開発されて、各種の担体の使用や、電子供与性化合物(内部及び外部ドナー成分)の使用、さらにはビニル基やアリル基のようなアルケニル基を有する特殊な構造のケイ素化合物を併用するなど、数多くの研究が進められ、非常に活性の高い触媒の開発がなされてきた(例えば、特許文献1~6)。
【0004】
このように触媒の活性が高まるほど、実際のポリオレフィン重合装置内では、重合期間中に過度な熱が発生し、温度がポリマー融点近くまで上昇すると、塊状、シート状のポリマー等が発生し、重合反応器の除熱、撹拌能力への負荷を高めたり、配管を閉塞させたり等の問題を引き起こし、生産性を落とすことがある。このような問題の解決方法として、重合時に添加物を用いることが知られている(特許文献7、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61-285203号公報
【特許文献2】特開昭62-11706号公報
【特許文献3】特開平3-234707号公報
【特許文献4】特開2006-169283号公報
【特許文献5】特開2007-106939号公報
【特許文献6】特開2003-292523号公報
【特許文献7】特表2012-500319号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Particuology 2010, 8, p.578-581
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献7や非特許文献1に開示されている技術では、高温での重合活性が低下したとしても、高温時に重合される重合体のMFRが大きく変化してしまうなど、安定した物性を有するポリオレフィンを生産することはできない。
高温での重合活性を低下させ、且つ、温度に対して得られる重合体の分子量(MFR)の変化幅を少なくすることができることなど、安定にポリオレフィンを生産する技術は、未だ実現されていなく、このような性能を持つ重合触媒の開発が強く望まれている。
【0008】
このような状況下、本発明の目的は、高温での重合活性が著しく低下し、また温度に対して得られる重合体の分子量(MFR)の変化幅を少なくすることができるプロピレン重合用触媒及びそれを用いたプロピレン系重合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本研究者らは、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、高温での重合活性が著しく低下し、また温度に対して得られる重合体の分子量(MFR)の変化幅を少なくすることができるプロピレン重合用触媒を見出した。
すなわち、本発明には、以下の態様が含まれる。
【0010】
<1> 下記の成分(a1)に、成分(a2)、(a3)及び(a4)を接触処理してなる固体触媒成分(A)、有機アルミニウム化合物(B)、及び下記一般式(1)で表される化合物(C)を含有する、プロピレン重合用触媒。
成分(a1):チタン、マグネシウム、ハロゲン、電子供与体を含有する固体成分
成分(a2):アルケニル基を有するシラン化合物
成分(a3):アルコキシシラン化合物[ただし、アルケニル基を有するシラン化合物とは異なる。]
成分(a4):有機アルミニウム化合物
式(1)
R1C(O)OR2
(式(1)中、R1およびR2は、それぞれ独立して、ヘテロ原子を含有していてもよい炭化水素基を表す。)
<2> 前記化合物(C)の使用量が、前記有機アルミニウム化合物(B)に対するモル比(前記化合物(C)のモル数/有機アルミニウム化合物(B)のモル数)で、0.05~2.0である、前記<1>に記載のプロピレン重合用触媒。
<3> 前記成分(a2)が下記一般式(3)で表される化合物である、前記<1>又は<2>に記載のプロピレン重合用触媒。
式(3)
SiR6
nR7
4-n
(式(3)中、
R6は、アルケニル基を表す。
R7は、水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基を表す。
nは、1、2、3又は4であり、nが1又は2のとき、R7同士が連結された環状構造を形成してもよい。)
<4> 前記成分(a3)が下記一般式(2)で表される化合物である、前記<1>~<3>のいずれか1項に記載のプロピレン重合用触媒。
式(2)
R3R4
mSi(OR5)n
(式(2)中、
R3はヘテロ原子を含有していてもよい炭化水素基を表す。
R4は水素原子、ハロゲン原子、又は、ヘテロ原子を含有していてもよい炭化水素基を表す。
R5は炭化水素基を表す。
mは0、1又は2であり,nは、1、2又は3であり,m+n=3を満たす。)
<5> 前記<1>~<4>のいずれか1項に記載のプロピレン重合用触媒の存在下、プロピレンを単独重合又は共重合する、プロピレン系重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高温での重合活性が著しく低下し、また温度に対して得られる重合体の分子量(MFR)の変化幅を少なくすることができるプロピレン重合用触媒及びそれを用いたプロピレン系重合体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施例1~3及び比較例1について、重合温度に対して活性をプロットしたグラフを示す。
【
図2】
図2は、各実施例及び比較例について、重合温度に対してMFRをプロットしたグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のプロピレン重合用触媒、及び、プロピレン系重合体の製造方法について、項目毎に詳細に説明する。なお、本明細書において数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0014】
I.プロピレン重合用触媒
本発明のプロピレン重合用触媒は、下記の成分(a1)に、成分(a2)、(a3)及び(a4)を接触処理してなる固体触媒成分(A)、有機アルミニウム化合物(B)、及び下記一般式(1)で表される化合物(C)を含有する、プロピレン重合用触媒である。
成分(a1):チタン、マグネシウム、ハロゲン、電子供与体を含有する固体成分
成分(a2):アルケニル基を有するシラン化合物
成分(a3):アルコキシシラン化合物[ただし、アルケニル基を有するシラン化合物とは異なる。]
成分(a4):有機アルミニウム化合物
式(1)
R1C(O)OR2
(式(1)中、R1およびR2は、それぞれ独立して、ヘテロ原子を含有していてもよい炭化水素基を表す。)
【0015】
本発明のプロピレン重合用触媒の製造方法は、下記工程1及び工程2を含むものであってよい。
工程1:下記の成分(a1)、(a2)、(a3)及び(a4)を接触処理し、固体触媒成分(A)を得る工程。
成分(a1):チタン、マグネシウム、ハロゲン、電子供与体を含有する固体成分
成分(a2):アルケニル基を有するシラン化合物
成分(a3):アルコキシシラン化合物[ただし、アルケニル基を有するシラン化合物とは異なる。]
成分(a4):有機アルミニウム化合物
工程2:前記固体触媒成分(A)、有機アルミニウム化合物(B)及び下記一般式(1)で表される化合物(C)を混合し、プロピレン重合用触媒を調製する工程。
式(1)
R1C(O)OR2
(式(1)中、R1およびR2は、それぞれ独立して、ヘテロ原子を含有していてもよい炭化水素基を表す。)
【0016】
本発明においては、前記成分(a1)、(a2)、(a3)及び(a4)を接触処理し、固体触媒成分(A)を得て、当該固体触媒成分(A)、有機アルミニウム化合物(B)、及び前記一般式(1)で表される化合物(C)を含有するプロピレン重合用触媒であることにより、当該プロピレン重合用触媒を用いてプロピレン系重合体を製造すると、高温での重合活性が著しく低下し、また温度に対して得られる重合体の分子量(MFR)の変化幅を少なくすることができる。
本発明で用いられる一般式(1)で表される化合物(C)は、特定の温度以上で、有機アルミニウム(B)によって分解反応し、構造が小さいアルデヒド類またはケトン類が発生すると考えられる。高温時にはこれらの一般式(1)で表される化合物(C)の分解反応生成物が、活性種を被毒することによって、高温での重合活性を著しく低下することができると考えられる。また、本発明で用いられる固体触媒成分(A)は、前記成分(a1)、(a2)、(a3)及び(a4)を接触処理してなることから、有機アルミニウム化合物(B)、及び前記一般式(1)で表される化合物(C)の存在下で、高温でプロピレンを重合しても、固体触媒成分(A)を用いていない触媒から得られるプロピレン系重合体と比べてMFRの変化が小さくなることが見い出された。前記成分(a1)、(a2)、(a3)及び(a4)を接触処理してなる固体触媒成分(A)を用いた場合に、当該高温重合下でMFRの変化が小さくなることは従来知られていなかったことであり、本発明で見いだされた作用効果である。当該作用については未だ解明されていないが、以下のように考えている。前記アルケニル基を有するシラン化合物(a2)は、そのアルケニル基が、活性種(Ti)を保護し、活性種を安定化する。これにより、熱による活性種の変質を抑えられるため、高温時に重合してもMFRが変化することが抑制され、温度に対して得られる重合体の分子量(MFR)の変化幅を少なくすることができると推定される。
【0017】
1.固体触媒成分(A)
本発明に用いられる固体触媒成分(A)は、下記の成分(a1)に、成分(a2)、(a3)及び(a4)を接触処理してなるものである。
成分(a1):チタン、マグネシウム、ハロゲン、電子供与体を含有する固体成分
成分(a2):アルケニル基を有するシラン化合物
成分(a3):アルコキシシラン化合物[ただし、アルケニル基を有するシラン化合物とは異なる。]
成分(a4):有機アルミニウム化合物
【0018】
1-1.成分(a1)
本発明に係る成分(a1)は、チタン、マグネシウム、ハロゲン、電子供与体を含有する固体成分である。
【0019】
1-1-1.マグネシウム
本発明に係る固体成分(a1)に用いるマグネシウム源となるマグネシウム化合物としては、任意のものを用いることができる。その代表的な例としては、特開平3-234707号公報に開示されている化合物を挙げることができる。
一般的には、塩化マグネシウムに代表されるハロゲン化マグネシウム化合物類、ジエトキシマグネシウムに代表されるアルコキシマグネシウム化合物類、金属マグネシウム、酸化マグネシウムに代表されるオキシマグネシウム化合物類、水酸化マグネシウムに代表されるヒドロキシマグネシウム化合物類、ブチルマグネシウムクロライドに代表されるグリニャール化合物類、ブチルオクチルマグネシウムに代表される有機マグネシウム化合物類、炭酸マグネシウムやステアリン酸マグネシウムに代表される無機酸及び有機酸のマグネシウム塩化合物類、及びそれらの混合物や平均組成式がそれらの混合された式となる化合物(例えば、Mg(OEt)mCl2-m;0<m<2などの化合物)、などを用いることができる。
この中で特に好ましいのは、塩化マグネシウム、ジエトキシマグネシウム、金属マグネシウム、ブチルマグネシウムクロライドである。
【0020】
特に、大きな粒子を作製する場合には、触媒粒径を制御し易いジアルコキシマグネシウムを用いることが好ましい。ジアルコキシマグネシウムは、事前に製造されたものを用いるだけでなく、触媒製造工程の中で金属マグネシウムとハロゲンあるいはハロゲン含有金属化合物の存在下に、アルコールを反応させて得たものを用いることもできる。
さらに、本発明において、好適なジアルコキシマグネシウムは、顆粒状または粉末状であり、その形状は、不定形あるいは球状のものを使用し得る。例えば、球状のジアルコキシマグネシウムを使用した場合、より良好な粒子形状と狭い粒度分布を有する重合体粉末が得られ、重合操作時の生成重合体粉末の取扱い操作性が向上し、生成重合体粉末に含まれる微粉に起因する閉塞等の問題が解消される。
【0021】
上記の球状ジアルコキシマグネシウムは、必ずしも真球状である必要はなく、楕円形状あるいは馬鈴薯形状のものを用いることもできる。具体的に、その粒子の形状は、長軸径lと短軸径wとの比(l/w)が3以下であり、好ましくは1~2であり、より好ましくは1~1.5である。
また、上記ジアルコキシマグネシウムの平均粒径は、1μm~200μmのものが使用し得る。好ましくは5μm~150μmである。球状のジアルコキシマグネシウムの場合、その平均粒径は、1μm~100μm、好ましくは5μm~50μmであり、更に好ましくは10μm~40μmである。
また、その粒度については、微粉及び粗粉の少ない、粒度分布の狭いものを使用することが望ましい。具体的には、5μm以下の粒子が20%以下であり、好ましくは10%以下である。一方、100μm以上の粒子が10%以下であり、好ましくは5%以下である。
更に、その粒度分布をln(D90/D10)(ここで、D90は積算粒度で90%における粒径、D10は積算粒度で10%における粒径である。)で表すと、3以下であり 、好ましくは2以下である。
【0022】
上記の如き球状のジアルコキシマグネシウムの製造方法は、例えば、特開昭58-41832号公報、特開昭62-51633号公報、特開平3-74341号公報、特開平4-368391号公報、特開平8-73388号公報などに例示されている。
【0023】
1-1-2.チタン
本発明に係る固体成分(a1)で用いるチタン源となるチタン化合物としては、任意のものを用いることができる。代表的な例としては、特開平3-234707号公報に開示されている化合物を挙げることができる。
チタンの価数に関しては、4価、3価、2価、0価の任意の価数を持つチタン化合物を用いることができるが、好ましくは4価および3価のチタン化合物、更に好ましくは4価のチタン化合物を用いることが望ましい。
【0024】
4価のチタン化合物の具体例としては、四塩化チタンに代表されるハロゲン化チタン化合物類、テトラブトキシチタンに代表されるアルコキシチタン化合物類、テトラブトキシチタンダイマー(BuO)3Ti-O-Ti(OBu)3に代表されるTi-O-Ti結合を有するアルコキシチタンの縮合化合物類、ジシクロペンタジエニルチタニウムジクロライドに代表される有機金属チタン化合物類、などを挙げることができる。この中で、四塩化チタンとテトラブトキシチタンが特に好ましい。
【0025】
また、3価のチタン化合物の具体例としては、三塩化チタンに代表されるハロゲン化チタン化合物類を挙げることができる。三塩化チタンは、水素還元型、金属アルミニウム還元型、金属チタン還元型、有機アルミニウム還元型、など、公知の任意の方法で製造された化合物を用いることができる。
上記のチタン化合物類は、単独で用いるだけではなく、複数の化合物を併用することも可能である。また、上記チタン化合物類の混合物や平均組成式がそれらの混合された式となる化合物(例えば、Ti(OBu)mCl4-m;0<m<4などの化合物)、また、フタル酸エステル等のその他の化合物との錯化物(例えば、Ph(CO2Bu)2・TiCl4などの化合物)、などを用いることができる。
【0026】
1-1-3.ハロゲン
本発明に係る固体成分(a1)で用いるハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、及びそれらの混合物を用いることができる。この中で塩素が特に好ましい。
ハロゲンは、上記のチタン化合物及び/又はマグネシウム化合物から供給されるのが一般的であるが、その他の化合物より供給することもできる。代表的な例としては、四塩化ケイ素に代表されるハロゲン化ケイ素化合物類、塩化アルミニウムに代表されるハロゲン化アルミニウム化合物類、1,2-ジクロロエタンやベンジルクロライドに代表されるハロゲン化有機化合物類、トリクロロボランに代表されるハロゲン化ボラン化合物類、五塩化リンに代表されるハロゲン化リン化合物類、六塩化タングステンに代表されるハロゲン化タングステン化合物類、五塩化モリブデンに代表されるハロゲン化モリブデン化合物類、などを挙げることができる。これらの化合物は、単独で用いるだけでなく、併用することも可能である。この中で、四塩化ケイ素が特に好ましい。
【0027】
1-1-4.電子供与体
本発明に係る固体成分(a1)で用いられる電子供与体の代表的な例としては、特開2004-124090号公報に開示されている化合物を挙げることができる。一般的には、有機酸及び無機酸並びにそれらの誘導体(エステル、酸無水物、酸ハライド、アミド)化合物、エーテル化合物、ケトン化合物、アルデヒド化合物、アルコール化合物、アミン化合物、などを用いることができ、有機酸及び無機酸並びにそれらの誘導体化合物、エーテル化合物、並びにケトン化合物からなる群より選ばれる1種類または2種類以上の混合物であってもよい。
【0028】
電子供与体として用いることのできる有機酸化合物としては、フタル酸に代表される芳香族多価カルボン酸化合物類、安息香酸に代表される芳香族カルボン酸化合物類、2-n-ブチル-マロン酸の様な2位に一つ又は二つの置換基を有するマロン酸や2-n-ブチル-コハク酸の様な2位に一つ又は二つの置換基若しくは2位と3位にそれぞれ一つ以上の置換基を有するコハク酸に代表される脂肪族多価カルボン酸化合物類、プロピオン酸に代表される脂肪族カルボン酸化合物類、ベンゼンスルホン酸やメタンスルホン酸に代表される芳香族及び脂肪族のスルホン酸化合物類、などを例示することができる。
これらのカルボン酸化合物類及びスルホン酸化合物類は、芳香族・脂肪族に関わらず、マレイン酸の様に、分子中の任意の場所に任意の数だけ不飽和結合を有しても良い。
【0029】
電子供与体として用いることのできる有機酸の誘導体化合物としては、上記有機酸のエステル(カルボン酸エステル化合物)、酸無水物、酸ハライド、アミド、などを例示することができる。
エステルの構成要素であるアルコールとしては、脂肪族及び芳香族アルコールを用いることができる。これらのアルコールの中でも、エチル基、ブチル基、イソブチル基、ヘプチル基、オクチル基、ドデシル基等の炭素数1~20の脂肪族の遊離基からなるアルコールが好ましい。更に好ましくは炭素数2~12の脂肪族の遊離基からなるアルコールが望ましい。また、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、等の脂環式の遊離基からなるアルコールを用いることもできる。
【0030】
酸ハライドの構成要素であるハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、等を用いることができる。中でも、塩素が最も好ましい。多価有機酸のポリハライドの場合は、複数のハロゲンが同一であっても異なっていても良い。
また、アミドの構成要素であるアミンとしては、脂肪族及び芳香族アミンを用いることができる。これらのアミンの中でも、アンモニア、エチルアミンやジブチルアミンに代表される脂肪族アミン、アニリンやベンジルアミンに代表される芳香族の遊離基を分子内に有するアミン、などを好ましい化合物として例示することができる。
【0031】
電子供与体として用いることのできる無機酸化合物としては、炭酸、リン酸、ケイ酸、硫酸、硝酸、などを例示することができる。
これらの無機酸の誘導体化合物としては、エステルを用いることが望ましい。テトラエトキシシラン(ケイ酸エチル)、テトラブトキシシラン(ケイ酸ブチル)、リン酸トリブチルなどを具体例として挙げることができる。
【0032】
電子供与体として用いることのできるエーテル化合物としては、ジブチルエーテルに代表される脂肪族エーテル化合物類、ジフェニルエーテルに代表される芳香族エーテル化合物類、2-イソプロピル-2-イソブチル-1,3-ジメトキシプロパンや2-イソプロピル-2-イソペンチル-1,3-ジメトキシプロパンの様な2位に一つ又は二つの置換基を有する1,3-ジメトキシプロパンに代表される脂肪族多価エーテル化合物類、9,9-ビス(メトキシメチル)フルオレン、に代表される芳香族の遊離基を分子内に有する多価エーテル化合物類などを例示することができる。
【0033】
電子供与体として用いることのできるケトン化合物としては、メチルエチルケトンに代表される脂肪族ケトン化合物類、アセトフェノンに代表される芳香族ケトン化合物類、2,2,4,6,6-ペンタメチル-3,5-ヘプタンジオンに代表される多価ケトン化合物類、などを例示することができる。
また、電子供与体として用いることのできるアルデヒド化合物としては、プロピオンアルデヒドに代表される脂肪族アルデヒド化合物類、ベンズアルデヒドに代表される芳香族アルデヒド化合物類、などを例示することができる。
さらに、電子供与体として用いることのできるアルコール化合物としては、ブタノールや2-エチルヘキサノールに代表される脂肪族アルコール化合物類、フェノール、クレゾールに代表されるフェノール誘導体化合物類、グリセリンや1,1’-ビ-2-ナフトールに代表される脂肪族若しくは芳香族の多価アルコール化合物類、などを例示することができる。
【0034】
また、電子供与体として用いることのできるアミン化合物としては、ジエチルアミンに代表される脂肪族アミン化合物類、2,2,6,6-テトラメチル-ピペリジンに代表される窒素含有脂環式化合物類、アニリンに代表される芳香族アミン化合物類、1,3-ビス(ジメチルアミノ)-2,2-ジメチルプロパンに代表される多価アミン化合物類、窒素原子含有芳香族化合物類、などを例示することができる。
【0035】
さらに、電子供与体として用いることのできる化合物として、上記の複数の官能基を同一分子内に含有する化合物を用いることもできる。その様な化合物の例として、酢酸-(2-エトキシエチル)や3-エトキシ-2-t-ブチルプロピオン酸エチルに代表されるアルコキシ基を分子内に有するカルボン酸エステル化合物類、2-ベンゾイル-安息香酸エチルに代表されるケトエステル化合物類、(1-t-ブチル-2-メトキシエチル)メチルケトンに代表されるケトエーテル化合物類、N,N-ジメチル-2,2-ジメチル-3-メトキシプロピルアミンに代表されるアミノエーテル化合物類、エポキシクロロプロパンに代表されるハロゲノエーテル化合物類などを挙げることができる。
【0036】
これらの電子供与体は、単独で用いるだけでなく、複数の化合物を併用することもできる。
これらの中で好ましいのは、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジイソブチル、フタル酸ジヘプチルに代表されるフタル酸ジエステル化合物、フタロイルジクロライドに代表されるフタル酸ジハライド化合物、2-n-ブチル-マロン酸ジエチルの様な2位に一つ又は二つの置換基を有するマロン酸エステル化合物、2-n-ブチル-コハク酸ジエチルの様な2位に一つ又は二つの置換基若しくは2位と3位にそれぞれ一つ以上の置換基を有するコハク酸エステル化合物、2-イソプロピル-2-イソブチル-1,3-ジメトキシプロパンや2-イソプロピル-2-イソペンチル-1,3-ジメトキシプロパンの様な2位に一つ又は二つの置換基を有する1,3-ジメトキシプロパンに代表される脂肪族多価エーテル化合物、9,9-ビス(メトキシメチル)フルオレンに代表される芳香族の遊離基を分子内に有する多価エーテル化合物、2,5-ジメチルフランや2,5-ジフェニルフランに代表される環状エーテル化合物などである。
これらの中で特に好ましいのは有機酸エステル化合物、酸ハライド化合物およびエーテル化合物であり、特に好ましいのはフタル酸ジエステル化合物およびフタル酸ジハライド化合物からなる群から選択されるものである。
本発明に用いる固体成分(a1)を構成する各成分の使用量の量比は、本発明の効果を損なわない範囲で任意のものでありうるが、一般的には、次の範囲内が好ましい。
【0037】
チタン化合物の使用量は、使用するマグネシウム化合物の使用量に対して、モル比(チタン化合物のモル数/マグネシウム化合物のモル数)で、好ましくは0.0001~1,000の範囲内であり、より好ましくは0.001~100の範囲であり、特に好ましくは0.01~50の範囲内が望ましい。
【0038】
マグネシウム化合物及びチタン化合物以外にハロゲン源となる化合物を使用する場合は、その使用量は、マグネシウム化合物及びチタン化合物の各々がハロゲンを含むか含まないかに関わらず、使用するマグネシウム化合物の使用量に対して、モル比(ハロゲン源となる化合物のモル数/マグネシウム化合物のモル数)で、好ましくは0.01~1,000の範囲内であり、特に好ましくは0.1~100の範囲内が望ましい。
【0039】
電子供与体の使用量は、使用するマグネシウム化合物(の量に対して、モル比(電子供与体のモル数/マグネシウム化合物のモル数)で、好ましくは0.001~10の範囲内であり、特に好ましくは0.01~5の範囲内が望ましい。
【0040】
本発明に係る固体成分(a1)は、上記の構成する各成分を上記の量比で接触して得られる。
各成分の接触条件は、酸素を存在させないことが必要であるものの、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の条件を用いることができる。一般的には、次の条件が好ましい。
接触温度は、-50℃~200℃程度、好ましくは0℃~150℃である。
接触方法としては、回転ボールミルや振動ミルなどによる機械的な方法、及び、不活性希釈剤の存在下に撹拌により接触させる方法、などを例示することができる。
【0041】
固体成分(a1)の調製の際には、中間及び/又は最後に不活性溶媒で洗浄を行っても良い。
好ましい溶媒種としては、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素化合物、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素化合物、及び、1,2-ジクロロエチレンやクロロベンゼンなどのハロゲン含有炭化水素化合物、などを例示することができる。
【0042】
なお、本発明に係る固体成分(a1)の調製方法としては、任意の方法を用いることができるが、具体的には、下記の(i)~(vii)として説明する方法を例示することができる。ただし、本発明は、下記例示により何ら制限されるものではない。
【0043】
(i)共粉砕法
塩化マグネシウムに代表されるハロゲンを含有するマグネシウム化合物をチタン化合物と共粉砕することにより、マグネシウム化合物上にチタン化合物を担持する方法であり、電子供与体を同時に、又は、別工程で共粉砕しても良い。
機械的粉砕方法としては、回転ボールミルや振動ミル等の任意の粉砕機を用いることができる。溶媒を用いない乾式粉砕法だけでなく、不活性溶媒共存下で共粉砕する湿式粉砕法を用いることもできる。
【0044】
(ii)加熱処理法
塩化マグネシウムに代表されるハロゲンを含有するマグネシウム化合物とチタン化合物を不活性溶媒中で撹拌することにより接触処理を行い、マグネシウム化合物上にチタン化合物を担持する方法であり、電子供与体を同時に、又は、別工程で接触処理しても良い。
チタン化合物として四塩化チタンなどの液状の化合物を用いる場合は、不活性溶媒なしで接触処理することもできる。
また、必要に応じて、ハロゲン化ケイ素化合物等の任意成分を同時に、又は、別工程で接触させても良い。
接触温度に特に制限はないが、90℃~130℃程度の比較的高い温度で接触処理する方が好ましい場合が多い。
【0045】
(iii)溶解析出法
溶解析出法は、塩化マグネシウムに代表されるハロゲンを含有するマグネシウム化合物を電子供与体と接触させることにより溶解し、生じた溶解液と析出剤を接触させて析出反応を起こすことにより、粒子形成を行う方法である。
溶解に用いる電子供与体の例としては、アルコール化合物類、エポキシ化合物類、リン酸エステル化合物類、アルコキシ基を有するケイ素化合物類、アルコキシ基を有するチタン化合物類、エーテル化合物類などを挙げることができる。
また、析出剤の例としては、ハロゲン化チタン化合物類、ハロゲン化ケイ素化合物類、塩化水素、ハロゲン含有炭化水素化合物類、Si-H結合を有するシロキサン化合物類(ポリシロキサン化合物類を含む)、アルミニウム化合物類、などを例示することができる。
溶解液と析出剤の接触方法としては、溶解液に析出剤を添加しても良いし、析出剤に溶解液を添加しても良い。
溶解、析出のどちらの工程でも、チタン化合物を用いない場合は、析出反応により形成した粒子を更にチタン化合物と接触させることにより、マグネシウム化合物上にチタン化合物を担持する。
更に必要に応じて、上記の方法により形成した粒子をハロゲン化チタン化合物類やハロゲン化ケイ素化合物類などの任意成分と接触させても良く、電子供与体と接触させても良い。この際、電子供与体は、溶解に用いるものとは異なっていても良いし、同じであっても良い。
これらの任意成分の接触順序については、特に制限はなく、独立工程として接触させても良いし、溶解、析出、チタン化合物類との接触の際に一緒に接触させることもできる。
また、溶解、析出、任意成分との接触、のいずれの工程においても、不活性溶媒が存在しても良い。
【0046】
(iv)造粒法
造粒法は、溶解析出法と同様に、塩化マグネシウムに代表されるハロゲンを含有するマグネシウム化合物を電子供与体と接触させることにより溶解し、生じた溶解液を主に物理的な手法により造粒する方法である。溶解に用いる電子供与体の例は、溶解析出法の例に同じである。
造粒手法の例としては、高温の溶解液を低温の不活性溶媒中に滴下する方法、高温の気相部に向かって溶解液をノズルから噴き出して乾燥する方法、低温の気相部に向かって溶解液をノズルから噴き出して冷却する方法、などを挙げることができる。
造粒により形成した粒子をチタン化合物と接触させることにより、マグネシウム化合物上にチタン化合物を担持する。
更に、必要に応じて、ハロゲン化ケイ素化合物類、電子供与体、などの任意成分と接触させても良い。この際、電子供与体は溶解に用いるものとは異なっていても良いし、同じであっても良い。
これらの任意成分の接触順序については、特に制限はなく、独立工程として接触させても良いし、溶解やチタン化合物との接触の際に一緒に接触させることもできる。
また、溶解、チタン化合物類との接触、任意成分との接触、のいずれの工程においても、不活性溶媒が存在しても良い。
【0047】
(v)マグネシウム(Mg)化合物のハロゲン化法
マグネシウム(Mg)化合物のハロゲン化法は、ハロゲンを含有しないマグネシウム化合物に対して、ハロゲン化剤を接触させてハロゲン化する方法であり、電子供与体を同時に、又は、別工程で接触処理しても良い。
ハロゲンを含有しないマグネシウム化合物の例としては、ジアルコキシマグネシウム化合物類、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、脂肪酸のマグネシウム塩、などを挙げることができる。
ジアルコキシマグネシウム化合物類を用いる場合は、金属マグネシウムとアルコールとの反応により系中で調製したものを用いることもできる。この調製法を用いる場合は、出発原料であるハロゲンを含まないマグネシウム化合物の段階で造粒等により粒子形成を行うのが一般的である。
ハロゲン化剤の例としては、ハロゲン化チタン化合物類、ハロゲン化ケイ素化合物類、ハロゲン化リン化合物類、などを挙げることができる。
ハロゲン化剤として、ハロゲン化チタン化合物類を用いない場合は、ハロゲン化により形成したハロゲン含有マグネシウム化合物を更にチタン化合物と接触させることにより、マグネシウム化合物上にチタン化合物を担持する。
更に必要に応じて、上記の方法により形成した粒子をハロゲン化チタン化合物類やハロゲン化ケイ素化合物類などの任意成分と接触させても良く、電子供与体と接触させても良い。
これらの任意成分の接触順序については、特に制限はなく、独立工程として接触させても良いし、ハロゲンを含まないマグネシウム化合物のハロゲン化やチタン化合物類との接触の際に一緒に接触させることもできる。
また、ハロゲン化チタン化合物類との接触、任意成分との接触、のいずれの工程においても、不活性溶媒が存在しても良い。
【0048】
(vi)有機マグネシウム化合物からの析出法
ブチルマグネシウムクロライドに代表されるグリニャール試薬、ジアルキルマグネシウム化合物、などの有機マグネシウム化合物類の溶液に、析出剤を接触させる方法であり、電子供与体を同時に、又は、別工程で接触処理しても良い。
析出剤の例としては、チタン化合物類、ケイ素化合物類、塩化水素、などを挙げることができる。
析出剤として、チタン化合物を用いない場合は、析出反応により形成した粒子を更にチタン化合物と接触させることにより、マグネシウム化合物上にチタン化合物を担持する。
更に必要に応じて、上記の方法により形成した粒子をハロゲン化チタン化合物類やハロゲン化ケイ素化合物類などの任意成分と接触させても良く、電子供与体と接触させても良い。
これらの任意成分の接触順序については特に制限はなく、独立工程として接触させても良いし、析出やチタン化合物類との接触の際に一緒に接触させることもできる。
また、析出、チタン化合物類との接触、任意成分との接触、のいずれの工程においても、不活性溶媒が存在しても良い。
【0049】
(vii)含浸法
有機マグネシウム化合物類の溶液、又は、マグネシウム化合物を電子供与体で溶解した溶液を、無機化合物の担体、又は、有機化合物の担体に含浸させる方法である。
有機マグネシウム化合物類の例は、有機マグネシウム化合物からの析出法の例に同じである。マグネシウム化合物の溶解に用いるマグネシウム化合物は、ハロゲンを含んでいても含んでいなくても良く、電子供与体の例は、溶解析出法の例に同じである。
無機化合物の担体の例としては、シリカ、アルミナ、マグネシア、などを挙げることができる。
有機化合物の担体の例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、などを挙げることができる。
含浸処理後の担体粒子は、析出剤との化学反応や乾燥等の物理的処理によりマグネシウム化合物を析出させて固定化する。
析出剤の例は、溶解析出法の例に同じである。
析出剤としてチタン化合物を用いない場合は、こうして形成した粒子を更にチタン化合物と接触させることにより、マグネシウム化合物上にチタン化合物を担持する。更に必要に応じて、こうして形成した粒子をハロゲン化チタン化合物類やハロゲン化ケイ素化合物類などの任意成分と接触させても良く、電子供与体と接触させても良い。
これらの任意成分の接触順序については、特に制限はなく、独立工程として接触させても良いし、含浸、析出、乾燥、チタン化合物類との接触の際に一緒に接触させることもできる。また、含浸、析出、チタン化合物類との接触、任意成分との接触、のいずれの工程においても、不活性溶媒が存在しても良い。
【0050】
(viii)複合法
上記(i)~(vii)に記載した方法を組み合わせて、用いることもできる。組み合わせの例としては、「塩化マグネシウムを電子供与体と共粉砕した後にハロゲン化チタン化合物類と加熱処理する方法」、「塩化マグネシウム化合物を電子供与体と共粉砕した後に別の電子供与体を用いて溶解し、更に析出剤を用いて析出する方法」、「ジアルコキシマグネシウム化合物を電子供与体により溶解し、ハロゲン化チタン化合物類と接触させることにより析出させると同時にマグネシウム化合物をハロゲン化する方法」、「ジアルコキシマグネシウム化合物に二酸化炭素を接触させることにより、炭酸エステルマグネシウム化合物類を生成すると同時に溶解し、形成した溶解液をシリカに含浸させ、その後塩化水素と接触させることによりマグネシウム化合物をハロゲン化すると同時に析出固定化し、更にハロゲン化チタン化合物類と接触させることによりチタン化合物を担持する方法」、などを挙げることができる。
【0051】
1-1-5.固体成分(a1)の予備重合
本発明においては、前記固体成分(a1)が、助触媒としての有機アルミニウム化合物の存在下で重合モノマーを用いて予備重合処理されたものであってもよい。
予備重合における重合モノマーとしては、特開2004-124090号公報に開示された化合物等を用いることができ、具体的には、エチレン、プロピレン、後述する一般式(5)で表される炭素数4~22のα-オレフィン等が挙げられる。
固体成分(a1)と上記の重合モノマーとの反応条件は、本発明の効果を損なわない範囲で任意の条件を用いることができる。一般的には、以下の範囲内が好ましい。
固体成分(a1)1グラムあたりの基準で、上記重合モノマーの予備重合量は、0.001g~100gの範囲内であり、好ましくは0.1g~50g、更に好ましくは0.5g~10gの範囲内が望ましい。
予備重合時の反応温度は、-150℃~150℃、好ましくは0℃~100℃である。そして、予備重合時の反応温度は、本重合のときの重合温度よりも低くすることが望ましい。
反応は、一般的に撹拌下に行うことが好ましく、そのときヘキサン、ヘプタン等の不活性溶媒を存在させることもできる。
予備重合は、複数回行っても良く、この際用いる重合モノマーは、同一であっても異なっても良い。また、予備重合後にヘキサン、ヘプタン等の不活性溶媒で洗浄を行うこともできる。
有機アルミニウム化合物の材料及び使用量としては、後述する成分(a4)に関する記載と同様とすることができる。
【0052】
1-2.アルケニル基を有するシラン化合物(a2)
本発明に用いられるアルケニル基を有するシラン化合物(a2)としては、特開平2-34707号公報、特開2003-292522号公報、特開2006-169283号公報、及び特開2011-74360号公報に開示された化合物等を用いることができる。
【0053】
一般的には、下記一般式(3)で表される化合物を用いることが望ましいが、当該化合物に限定されるものではない。
式(3)
SiR6
nR7
4-n
(式(3)中、
R6は、アルケニル基を表す。
R7は、水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基を表す。
nは、1、2、3又は4であり、nが1又は2のとき、R7同士が連結された環状構造を形成してもよい。)
【0054】
R6は、アルケニル基を表し、ビニル基、アリル基、3-ブテニル基が好ましく、ビニル基、アリル基がより好ましく、ビニル基が更に好ましい。nが2以上の場合、複数あるR6は、同一であっても異なってもよい。
nは、1、2、または3であってよく、1、または2であってよい。
【0055】
R7は、水素原子、ハロゲン原子、またはアルキル基を表す。
R7として用いることができるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、などを例示することができる。
また、R7としてのアルキル基は、直鎖状アルキル基、分岐状アルキル基、またはシクロアルキル基であってよい。R7がアルキル基の場合、好ましくは炭素数1~20のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1~12のアルキル基である。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、i-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、テキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、などが、好適な例として挙げられる。
nが2以下の場合、複数あるR7は、同一であっても異なってもよい。また、nが1または2のとき、R7同士が連結された環状構造を形成してもよい。
R7は、ハロゲン原子、又は、アルキル基が好ましく、アルキル基がより好ましく、炭素数1~20のアルキル基が更に好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより更に好ましく、炭素数1~4のアルキル基が特に好ましい。
【0056】
アルケニル基を有するシラン化合物(a2)は、具体的には、ビニルシラン、メチルビニルシラン、ジメチルビニルシラン、トリメチルビニルシラン、トリクロロビニルシラン、ジクロロメチルビニルシラン、クロロジメチルビニルシラン、クロロメチルビニルシラン、トリエチルビニルシラン、クロロジエチルビニルシラン、ジクロロエチルビニルシラン、ジメチルエチルビニルシラン、ジエチルメチルビニルシラン、トリペンチルビニルシラン、トリフェニルビニルシラン、ジフェニルメチルビニルシラン、ジメチルフェニルビニルシラン、CH2=CH-Si(CH3)2(C6H4CH3)、(CH2=CH)(CH3)2Si-O-Si(CH3)2(CH=CH2)、ジビニルシラン、ジクロロジビニルシラン、ジメチルジビニルシラン、ジフェニルジビニルシラン、アリルトリメチルシラン、アリルトリエチルシラン、アリルトリビニルシラン、アリルメチルジビニルシラン、アリルジメチルビニルシラン、アリルメチルジクロロシラン、アリルトリクロロシラン、アリルトリブロモシラン、ジアリルジメチルシラン、ジアリルジエチルシラン、ジアリルジビニルシラン、ジアリルメチルビニルシラン、ジアリルメチルクロロシラン、ジアリルジクロロシラン、ジアリルジブロモシラン、トリアリルメチルシラン、トリアリルエチルシラン、トリアリルビニルシラン、トリアリルクロロシラン、トリアリルブロモシラン、テトラアリルシラン、ジ-3-ブテニルジメチルシラン、ジ-3-ブテニルシランジエチルシラン、ジ-3-ブテニルシランジビニルシラン、ジ-3-ブテニルシランメチルビニルシラン、ジ-3-ブテニルシランメチルクロロシラン、ジ-3-ブテニルシランジクロロシラン、トリ-3-ブテニルシランエチルシラン、トリ-3-ブテニルシランビニルシラン、トリ-3-ブテニルシランクロロシラン、トリ-3-ブテニルシランブロモシラン、テトラ-3-ブテニルシラン、1-メチル-1-ビニルシラシクロブタン、1-メチル-1-ビニルシラシクロペンタン、1-メチル-1-ビニルシラシクロヘキサン、1,1-ジビニルシラシクロペンタン、1,1-ジビニルシラシクロヘキサン、1-クロロ-1-ビニルシラシクロペンタン、1-クロロ-1-ビニルシラシクロへキサン、1-アリル-1-メチルシラシクロペンタン、1-アリル-1-メチルシラシクロへキサンなどを例示することができる。
これらの中でも、ビニル基を含む、ビニルシラン化合物が好ましく、とりわけトリメチルビニルシラン、トリクロロビニルシラン、ジメチルジビニルシラン、1-メチル-1-ビニルシラシクロペンタンが好ましい。
【0057】
アルケニル基を有するシラン化合物(a2)の使用量の量比は、本発明の効果を損なわない範囲で任意のものでありうるが、一般的には、次に示す範囲内が好ましい。
アルケニル基を有するシラン化合物(a2)の使用量は、固体成分(a1)を構成するチタン成分に対するモル比(アルケニル基を有するシラン化合物(a2)のモル数/固体成分(a1)中のチタン原子のモル数)で、好ましくは0.001~1,000の範囲内であり、より好ましくは0.01~100の範囲内である。
【0058】
アルケニル基を有するシラン化合物(a2)の役割については、次のように推測している。本発明で用いられるアルケニル基を有するシラン化合物(a2)は、通常、重合に使用するα-オフィンモノマーに比べて、立体障害が大きく、チーグラー・ナッタ触媒では、重合されない。しかし、電子供与性の非常に強い有機シリル基が存在するために、炭素-炭素二重結合部の電荷密度が非常に高く、活性点であるチタン原子へ配位または挿入すると考えられる。したがって、固体触媒成分(A)の調製に用いられる有機アルミ化合物によるチタン原子の過還元や不純物などによる活性点の失活を防ぐ効果が期待される。また、本発明においては、アルケニル基を有するシラン化合物(a2)は、そのアルケニル基が、活性種(Ti)を保護し、活性種を安定化する。これにより、熱による活性種の変質を抑えられるため、高温時に重合してもMFRが変化することが抑制され、温度に対して得られる重合体の分子量(MFR)の変化幅を少なくすることができると推定される。
なお、アルケニル基を有するシラン化合物は、そのアルケニル部位が、チタン原子に対し配位または挿入しており、反応物となっている。
【0059】
1-3.アルコキシシラン化合物(a3)
本発明において用いるアルコキシシラン化合物(A3)は、上記アルケニル基を有するシラン化合物(a2)とは異なる。
本発明においては、成分(a3)が下記一般式(2)で表されるケイ素化合物であってもよい。
式(2)
R3R4
mSi(OR5)n
(式(2)中、
R3はヘテロ原子を含有していてもよい炭化水素基を表す。
R4は水素原子、ハロゲン原子、又は、ヘテロ原子を含有していてもよい炭化水素基を表す。
R5は炭化水素基を表す。
mは0、1又は2であり、nは1、2又は3であり、m+n=3を満たす。)
【0060】
一般式(2)中、R3は、ヘテロ原子を含有していてもよい炭化水素基を表す。
R3が炭化水素基である場合、アルケニル基を除く炭化水素基である。
R3として用いることのできる炭化水素基は、一般に炭素数1~20、好ましくは炭素数3~10のものである。R3として用いることのできる炭化水素基の具体的な例としては、n-プロピル基に代表される直鎖状脂肪族炭化水素基、i-プロピル基やt-ブチル基に代表される分岐状脂肪族炭化水素基、シクロペンチル基やシクロヘキシル基に代表される脂環式炭化水素基、フェニル基に代表される芳香族炭化水素基、などを挙げることができる。より好ましくは、R3として分岐状脂肪族炭化水素基または脂環式炭化水素基を用いることが望ましく、とりわけ、i-プロピル基、i-ブチル基、t-ブチル基、テキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、などを用いることが望ましい。
また、R3が、ヘテロ原子を含有する、ヘテロ原子含有炭化水素基である場合は、ヘテロ原子が、窒素、酸素、硫黄、リンまたはケイ素から選ばれることが望ましく、とりわけ、窒素または酸素であることが望ましい。
R3のヘテロ原子含有炭化水素基の骨格構造としては、R3が炭化水素基である場合の例示から選ぶことが望ましい。とりわけ、N,N-ジエチルアミノ基、キノリノ基、イソキノリノ基、などが好ましい。
【0061】
また、式中、R4は、水素原子、ハロゲン原子、ヘテロ原子を含有していてもよい炭化水素基を表す。
R4として用いることのできるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、などを例示することができる。
また、R4が炭化水素基である場合、アルケニル基を除く炭化水素基である。
R4として用いることのできる炭化水素基は、一般に炭素数1~20、好ましくは炭素数1~10のものである。R4として用いることのできる炭化水素基の具体的な例としては、メチル基やエチル基に代表される直鎖状脂肪族炭化水素基、i-プロピル基やt-ブチル基に代表される分岐状脂肪族炭化水素基、シクロペンチル基やシクロヘキシル基に代表される脂環式炭化水素基、フェニル基に代表される芳香族炭化水素基、などを挙げることができる。中でも、メチル基、エチル基、プロピル基、i-プロピル基、i-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、テキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、などを用いることが望ましい。
また、R4が、ヘテロ原子を含有する、ヘテロ原子含有炭化水素基である場合は、R3がヘテロ原子含有炭化水素基である場合の例示から選ぶことが望ましい。とりわけ、N,N-ジエチルアミノ基、キノリノ基、イソキノリノ基、などが好ましい。
また、mの値に関わらず、R4は、R3と同一であっても異なっても良い。
【0062】
また、式中、R5は、炭化水素基を表す。R5として用いることのできる炭化水素基は、一般に炭素数1~20、好ましくは炭素数1~10、更に好ましくは炭素数1~5のものである。
R5として用いることのできる炭化水素基の具体的な例としては、メチル基やエチル基に代表される直鎖状脂肪族炭化水素基、i-プロピル基やt-ブチル基に代表される分岐状脂肪族炭化水素基、などを挙げることができる。中でも、メチル基とエチル基が最も好ましい。nの値が2以上である場合、複数存在するR5は、同一であっても異なっても良い。
【0063】
本発明で用いることのできるアルコキシシラン化合物(a3)の好ましい例としては、t-ブチルメチルジメトキシシラン、t-ブチルメチルジエトキシシラン、t-ブチルエチルジメトキシシラン、t-ブチル-n-プロピルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、シクロヘキシルエチルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、ジイソブチルジメトキシシラン、イソブチルイソプロピルジメトキシシラン、n-プロピルメチルジメトキシシラン、t-ブチルトリエトキシシラン、ビス(ジエチルアミノ)ジメトキシシラン、ジエチルアミノトリエトキシシランメトキシシラン、ビスパーヒドロイソキノリノジメトキシシランなどを挙げることができる。
これらのアルコキシシラン化合物は、単独で用いるだけでなく、複数の化合物を併用することもできる。
【0064】
アルコキシシラン化合物(a3)の使用量の量比は、本発明の効果を損なわない範囲で任意のものであり得るが、一般的には、次に示す範囲内が好ましい。
アルコキシシラン化合物(a3)の使用量は、固体成分(a1)を構成するチタン成分に対するモル比(アルコキシシラン化合物(a3)のモル数/固体成分(a1)中のチタン原子のモル数)で、好ましくは0.01~1,000の範囲内であり、特に好ましくは0.1~100の範囲内が望ましい。
【0065】
本発明で用いられるアルコキシシラン化合物(a3)は、活性点となり得るチタン原子の近傍に配位し、活性点の触媒活性やポリマーの規則性といった触媒性能を制御していると、考えられている。
【0066】
1-4.有機アルミニウム(a4)
本発明に用いられる有機アルミニウム化合物(a4)としては、特開2004-124090号公報に開示された化合物等を用いることができる。一般的には、下記一般式(4)で表される化合物を用いることが望ましい。
式(4)
R8
aAlXb(OR9)c
(一般式(4)中、R8は炭素数1~10の炭化水素基を表す。Xはハロゲン原子又は水素原子を表す。R9は炭化水素基またはAlによる架橋基を表す。aは1以上の実数、bは0以上2以下の実数、cは0以上2以下の実数、a+b+c=3である。)
【0067】
R8は炭素数1~10の炭化水素基であり、好ましくは炭素数1~8、より好ましくは炭素数1~6の炭化水素基である。R8の具体的な例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、などを挙げることができる。この中で、メチル基、エチル基、イソブチル基が最も好ましい。
Xは、ハロゲン原子又は水素原子である。Xとして用いることのできるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などを例示することができる。この中で、塩素が特に好ましい。
R9は、炭化水素基又はアルミニウム原子(Al)による架橋基である。R9が炭化水素基である場合には、R8の炭化水素基の例示と同じ群からR9を選択することができる。また、有機アルミニウム化合物(a4)として、メチルアルモキサンに代表されるアルモキサン化合物類を用いることも可能であり、その場合R9は、Alによる架橋基を表す。
【0068】
有機アルミニウム化合物(a4)として用いることのできる化合物の例としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリn-オクチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロライド、エチルアルミニウムクロライド、ジエチルアルミニウムエトキサイド、メチルアルモキサン、などを挙げることができる。
有機アルミニウム化合物(a4)としては、中でも、トリエチルアルミニウムとトリイソブチルアルミニウムが好ましい。
有機アルミニウム化合物(a4)は、単独の化合物を用いるだけでなく、複数の化合物を併用することもできる。
【0069】
有機アルミニウム化合物(a4)の使用量の量比は、本発明の効果を損なわない範囲で
任意のものでありうるが、一般的には、次に示す範囲内が好ましい。
有機アルミニウム化合物(a4)の使用量は、固体成分(a1)を構成するチタン成分に対するモル比(アルミニウム原子のモル数/固体成分(a1)中のチタン原子のモル数)で、好ましくは0.1~100の範囲内であり、特に好ましくは1~50の範囲内が望ましい。
【0070】
本発明で用いられる有機アルミニウム化合物(a4)は、固体触媒成分(A)中にアルコキシシラン化合物(a2)を効率よく担持させることを主目的として用いられる。したがって、予備重合時又は本重合時に、重合反応の助触媒として用いられる有機アルミニウム化合物とは、主目的が異なり、区別される。なお、有機アルミニウム(a4)は、ハロゲン及び電子供与体と反応し、反応物になっている。
【0071】
1-5.固体触媒成分(A)の調製方法(工程1)
本発明において、固体触媒成分(A)の製造方法は、固体成分(a1)に対して、アルケニル基を有するシラン化合物(a2)、アルコキシシラン化合物(a3)、及び有機アルミニウム化合物(a4)を所定の温度で接触処理することによって調製することができる。
本発明の製造方法においては、固体触媒成分(A)の調製の際に、接触処理は複数回行ってもよい。
接触処理を複数回行う場合は、アルケニル基を有するシラン化合物(a2)、アルコキシシラン化合物(a3)、及び有機アルミニウム化合物(a4)のいずれも、複数回の接触で用いる化合物が互いに同一であっても異なっても良い。
本発明に用いる固体触媒成分(A)は、上記の構成する各成分を上記の量比で接触して得られる。
また、先に各成分の使用量の範囲を示したが、これは1回当たりに接触させる使用量であり、2回目以降は、1回の使用量が前述した使用量の範囲内であれば、何回接触させても良い。
【0072】
固体触媒成分(A)の各構成成分の接触条件は、酸素を存在させないことが必要であるが、本発明の効果を損なわない範囲で任意の条件を用いることができる。一般的には、次の条件が好ましい。
接触方法としては、回転ボールミルや振動ミルなどによる機械的な方法、及び、不活性希釈剤の存在下に撹拌により接触させる方法、などを例示することができる。好ましくは、不活性希釈剤の存在下に撹拌により接触させる方法を用いることが望ましい。
【0073】
本発明における固体触媒成分(A)の製造方法において、接触処理の温度は10℃~60℃であればよく、好ましくは、10℃~50℃である。
固体触媒成分(A)の調製において、接触処理の温度を変えることで電子供与体、アルケニル基を有するシラン化合物(a2)、アルコキシシラン化合物(a3)の含量を制御することができる。
【0074】
接触処理において、固体成分(a1)、アルケニル基を有するシラン化合物(a2)、アルコキシシラン化合物(a3)、及び有機アルミニウム化合物(a4)の接触手順に関しては、任意の手順を用いることができる。具体的な例としては、下記の手順(i)~手順(iv)などが挙げられ、この中でも、手順(i)及び手順(ii)が好ましい。
手順(i):固体成分(a1)にアルケニル基を有するシラン化合物(a2)を接触させ、次いでアルコキシシラン化合物(A3)を接触させた後、有機アルミニウム化合物(A4)を接触させる方法。
手順(ii):固体成分(a1)にアルケニル基を有するシラン化合物(a2)及びアルコキシシラン化合物(a3)を接触させた後、有機アルミニウム化合物(a4)を接触させる方法。
手順(iii):固体成分(a1)にアルコキシシラン化合物(a3)を接触させ、次いでアルケニル基を有するシラン化合物(a2)を接触させた後、有機アルミニウム化合物(aA4)を接触させる方法。
手順(iv):全ての化合物を同時に接触させる方法。
【0075】
固体触媒成分(A)の調製の際には、中間及び/又は最後に不活性溶媒で洗浄を行っても良い。洗浄に用いる好ましい溶媒としては、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素化合物、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素化合物、及び、1,2-ジクロロエチレンやクロロベンゼンなどのハロゲン含有炭化水素化合物、などを例示することができる。
【0076】
1-6.固体触媒成分(A)の予備重合
固体触媒成分(A)は、有機アルミニウム化合物(B)及び一般式(1)で表される化合物(C)と混合する前に、反応の助触媒としての有機アルミニウム化合物の存在下で重合モノマーを用いて予備重合されていてもよい。重合プロセスに先立って、予め少量のポリマーを触媒周囲に生成させることによって、触媒がより均一となり、微粉の発生量を抑えることができる。
【0077】
予備重合における重合モノマーとしては、特開2004-124090号公報に開示された化合物等を用いることができ、エチレン、プロピレン、後述する一般式(5)で表される炭素数4~22のα-オレフィン等が挙げられる。
固体触媒成分(A)として予備重合されたものを用いる場合には、その調製手順において、任意の手順で予備重合を行うことができる。例えば、固体成分(a1)を予備重合した後に、成分(a2)~(a4)を接触させることができる。更に、固体成分(a1)と成分(a2)~(a4)を接触させる際に、同時に予備重合を行ってもよい。
【0078】
固体触媒成分(A)と上記の重合モノマーとの反応条件は、本発明の効果を損なわない範囲で任意の条件を用いることができる。一般的には、以下の範囲内であってよい。
固体触媒成分(A)1gあたりの基準で、上記重合モノマーの予備重合量は、0.001g~100gの範囲内であり、好ましくは0.1g~50g、更に好ましくは0.5g~10gの範囲内であってよい。
予備重合時の反応温度は、-150℃~150℃、好ましくは0℃~100℃である。そして、予備重合時の反応温度は、本重合のときの重合温度よりも低くしてもよい。
反応は、一般的に撹拌下に行うことが好ましく、そのときヘキサン、ヘプタン等の不活性溶媒を存在させることもできる。
予備重合は、複数回行ってもよく、この際用いる重合モノマーは、同一であっても異なってもよい。また、予備重合後にヘキサン、ヘプタン等の不活性溶媒で洗浄を行うこともできる。
【0079】
2.有機アルミニウム化合物(B)
本発明において用いられる有機アルミニウム化合物(B)は、主に助触媒として作用し、さらに水その他の不純物を系内から除去するスカベンジャーとしても作用する。
本発明において用いることのできる有機アルミニウム化合物(B)としては、特開2004-124090号公報に開示された化合物等を用いることができる。
好ましくは、固体触媒成分(A)を調製する際の成分である有機アルミニウム化合物(a4)における例示と同じ群から選択することができる。
【0080】
有機アルミニウム化合物(B)は、固体触媒成分(A)を調製する際に用いることのできる有機アルミニウム化合物(a4)と、同一であっても異なっても良い。
有機アルミニウム化合物(B)は、単独の化合物を用いるだけでなく、複数の化合物を併用することもできる。
有機アルミニウム化合物(B)の使用量の量比は、本発明の効果を損なわない範囲で任意のものでありうるが、一般的には、次に示す範囲内が好ましい。
有機アルミニウム化合物(B)の使用量は、固体触媒成分(A)を構成するチタン成分に対するモル比(有機アルミニウム化合物(B)のモル数/固体触媒成分(A)中のチタン原子のモル数)で、好ましくは1~5,000の範囲内であり、特に好ましくは10~500の範囲内が望ましい。
【0081】
3.一般式(1)で表される化合物(C)
本発明においては、下記一般式(1)で表される化合物(C)を用いる。
式(1)
R1C(O)OR2
(式(1)中、R1およびR2は、それぞれ独立して、ヘテロ原子を含有していてもよい炭化水素基を表す。)
【0082】
一般式(1)中、R1およびR2は、それぞれ独立して、ヘテロ原子を含有していてもよい炭化水素基を表す。
R1およびR2として用いる炭化水素基は、炭素数1~30であってよく、炭素数1~20であってよく、炭素数2~15であってよい。R1およびR2として用いることのできる炭化水素基の具体的な例としては、n-プロピル基に代表される直鎖状脂肪族炭化水素基、i-プロピル基やt-ブチル基に代表される分岐状脂肪族炭化水素基、シクロペンチル基やシクロヘキシル基に代表される脂環式炭化水素基、フェニル基に代表される芳香族炭化水素基、などを挙げることができる。
また、R1およびR2が、ヘテロ原子を含有する炭化水素基である場合、ヘテロ原子が、ハロゲン、窒素、酸素、硫黄、リンまたはケイ素原子から選ばれることが望ましい。ヘテロ原子を含有する炭化水素基は、上記の炭化水素基の一部が窒素、酸素、硫黄、又はリン原子で置換されていてもよく、上記炭化水素基がヘテロ原子を置換基として含有していてもよい。ヘテロ原子を含有する置換基としては、例えば、-ORa(ここで、Raは炭素数1~30の炭化水素基)、-SRb(ここで、Rbは炭素数1~30の炭化水素基)、-N(Rc)2(ここで、Rcは炭素数1~30の炭化水素基)、-Si(Rd)4(ここで、Rdは炭素数1~30の炭化水素基)、ハロゲン原子等が挙げられる。Ra、Rb、Rc、及びRdにおける炭素数1~30の炭化水素基としては、上記で説明した炭化水素基と同様であってよい。
【0083】
R1としては、直鎖状脂肪族炭化水素基または芳香族炭化水素基を用いることが好ましい。
R1における、直鎖状脂肪族炭化水素基は、炭素数4~30であってよく、炭素数8~20であってよく、炭素数10~20であってよい。
R1としては、とりわけ、炭素数10~20の直鎖状脂肪族炭化水素基、フェニル基または4位に置換基を有するフェニル基などを用いることが好ましい。当該フェニル基の置換基としては、-ORa’(ここで、Ra’は炭素数1~6の炭化水素基)であってよく、中でも、炭素数1~6のアルコキシ基であってよく、炭素数1~4のアルコキシ基であってよく、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基,i-ブトキシ基、s-ブトキシ基、t-ブトキシ基、またはn-ペントキシ基等であってよい。
【0084】
R2としては、直鎖状脂肪族炭化水素基または分岐状脂肪族炭化水素基が好ましく、炭素数1~6の直鎖状脂肪族炭化水素基または分岐状脂肪族炭化水素基が好ましく、その一部にハロゲン原子が置換されていてもよい。
R2としては、とりわけ、メチル基、エチル基、プロピル基、i-プロピル基、ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基などを用いることが望ましい。
【0085】
本発明で用いることのできる一般式(1)で表される化合物(C)の好ましい例としては、ラウリン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ミリスチン酸2,2,2-トリフルオロエチル、安息香酸エチル、4-メチル安息香酸エチル、4-エトキシ安息香酸エチルなどを挙げることができる。
これらの一般式(1)で表される化合物(C)は、単独で用いるだけでなく、複数の化合物を併用することもできる。
【0086】
本発明における一般式(1)で表される化合物(C)の使用量は、固体触媒成分(A)中のチタン原子に対するモル比(前記一般式(1)で表される化合物(C)のモル数/固体触媒成分(A)中のチタン原子のモル数)で、100~100,000の範囲内であり、好ましくは500~50,000の範囲内であり、特に好ましくは1,000~30,000の範囲内である。
【0087】
本発明で用いられる一般式(1)で表される化合物(C)は、特定の温度以上で、有機アルミニウム(B)によって分解反応し、構造が小さいアルデヒド類またはケトン類が発生すると考えられる。高温時にはこれらの一般式(1)で表される化合物(C)の分解反応生成物が、活性種を被毒することによって、高温での重合活性を著しく低下することができると考えられる。
【0088】
4.プロピレン重合用触媒の調製方法
本発明のプロピレン重合用触媒は、前記固体触媒成分(A)、有機アルミニウム化合物(B)、及び一般式(1)で表される化合物(C)を含有すればよく、調製方法は特に限定されない。本発明のプロピレン重合用触媒は、前記固体触媒成分(A)、有機アルミニウム化合物(B)、及び一般式(1)で表される化合物(C)を混合することで調製することができる。
以下、有機アルミニウム化合物(B)を成分(B)、一般式(1)で表される化合物(C)を成分(C)という場合がある。
【0089】
前記固体触媒成分(A)、成分(B)および成分(C)の接触条件は、α-オレフィンの存在下で酸素を存在させないことが必要であるが、本発明の効果を損なわない範囲で任意の条件を用いることができる。一般的には、次の条件が好ましい。
具体的な例としては、下記の手順(i)~手順(ii)などが挙げられる。
手順(i):撹拌機能及び温度制御機能を有する装置内において、α-オレフィンの存在下で成分(B)および成分(C)を同時に接触させた後、固体触媒成分(A)を接触させる方法。
手順(ii):撹拌機能及び温度制御機能を有する装置内において、全ての化合物を同時に接触させる方法。接触温度は、後述するα-オレフィンの重合温度で例示する温度を挙げることができる。撹拌機能及び温度制御機能を有する装置は、従来公知の装置を採用することができる。
【0090】
II.α-オレフィン系重合体の製造方法
本発明のα-オレフィン系重合体の製造方法は、前記本発明のプロピレン重合用触媒の存在下、α-オレフィンを単独重合又は共重合することを特徴とする。
本発明のα-オレフィン系重合体の製造方法は、上記固体触媒成分(A)、上記成分(B)および上記成分(C)をα-オレフィンの存在下で接触させることにより行ってもよい。
上記固体触媒成分(A)、上記成分(B)および上記成分(C)をα-オレフィンの存在下で接触させることにより、プロピレン重合用触媒が得られる。そして、当該プロピレン重合用触媒の存在下、α-オレフィンの単独重合又は共重合を行うことによりα-オレフィン系重合体を製造する。
【0091】
1.α-オレフィン
本発明において用いられるα-オレフィンは、エチレン、プロピレン、下記一般式(5)で表される炭素数4~22のα-オレフィン、ジエン類、及びスチレン類などが挙げられ、少なくともプロピレンを含むものであってよい。
式(5)
R10-CH=CH2
(一般式(c)中、R10は、炭素数2~20の炭化水素基であり、分枝基を有してもよい。)
【0092】
炭素数4~22のα-オレフィンは、具体的には、ブテン-1、ペンテン-1、ヘキセ
-1、4-メチルペンテン-1などである。
本発明において重合に用いるα-オレフィンは、好ましくはプロピレンであり、プロピレンのみであってもよいし、プロピレンとエチレンの2種類の組み合わせであってもよいし、プロピレンと上記一般式(5)で表される炭素数4~22のα-オレフィンとの2種類以上の組み合わせであってもよい。
【0093】
2.α-オレフィンの重合処理
α-オレフィンの重合は、炭化水素溶媒を用いるスラリー重合、実質的に溶媒を用いない液相無溶媒重合または気相重合などを用いてもよい。スラリー重合の場合の重合溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンなどの炭化水素溶媒が用いられる。
採用される重合方法は、連続式重合、回分式重合又は多段式重合などいかなる方法でもよい。
重合温度は、通常30℃~200℃程度、好ましくは50℃~150℃であり、その時分子量調節剤として水素を用いてもよい。
【0094】
また、1段目にα-オレフィン、好ましくはプロピレンの単独重合をした後に、2段目にランダム共重合を行うブロック共重合も実施可能である。
共重合性モノマーは、ランダム共重合においては15質量%まで、ブロック共重合においては50質量%まで使用することができる。中でも、プロピレンの単独重合およびブロック共重合が好ましく、特にプロピレンの単独重合および1段目がプロピレンの単独重合であるブロック共重合が最も好ましい。
【0095】
3.プロピレン系重合体
本発明により重合されるプロピレン系重合体のインデックスについては、特に制限はなく、各種用途に合わせて、適宜調節することができる。
プロピレン系重合体のMFRは、0.01g/10分~10,000g/10分の範囲内であることが好ましく、特に好ましくは0.1g/10分~1,000g/10分の範囲内である。
【実施例0096】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
本発明における各物性値の測定方法を以下に示す。
【0097】
(1)チタン含量:試料を精確に秤量し、加水分解した上で比色法を用いて測定した。予備重合後の試料については、予備重合ポリマーを除いた重量を用いて含量を計算した。
(2)アルコキシシラン化合物含量:試料を精確に秤量し、メタノールで分解した。ガスクロマトグラフィーを用いて標準サンプルと比較する事により、得られたメタノール溶液中のケイ素化合物濃度を求めた。メタノール中のケイ素化合物濃度と試料の重量から、試料に含まれるケイ素化合物の含量を計算した。予備重合後の試料については、予備重合ポリマーを除いた重量を用いて含量を計算した。
(3)MFR:タカラ社製メルトインデクサーを用い、JIS-K6921に基づき、230℃、21.18Nの条件で評価した。
【0098】
以下の操作はすべて窒素雰囲気下で行った。
また、以下に示す略称はそれぞれ、次のとおりである。
Me:メチル、Et:エチル、i-Pr:イソプロピル
【0099】
(実施例1)
[固体触媒成分(A)の調製]
撹拌装置を備えた容量10Lのオートクレーブを充分に窒素で置換し、精製したトルエン2Lを導入した。ここに、室温で、Mg(OEt)2を200g、TiCl4を1L添加した。温度を90℃に上げて、フタル酸ジ-n-ブチルを50ml導入した。その後、温度を110℃に上げて3時間接触処理を行った。反応生成物を精製したトルエンで充分に洗浄した。
次いで、精製したトルエンを導入して全体の液量を2Lに調整した。室温でTiCl4を1L添加し、温度を110℃に上げて2時間接触処理を行った。反応生成物を精製したトルエンで充分に洗浄した。
更に、精製したn-ヘプタンを用いて、トルエンをn-ヘプタンで置換し、固体成分(a1)のスラリーを得た。このスラリーの一部をサンプリングして乾燥した。分析したところ、固体成分(a1)のTi含量は2.7重量%であった。
【0100】
次に、撹拌装置を備えた容量20Lのオートクレーブを充分に窒素で置換し、上記固体成分(a1)のスラリーを固体成分(a1)として100g導入した。精製したn-ヘプタンを導入して、固体成分(a1)の濃度が25g/Lとなる様に調整した。ここにSiCl4を50ml加え、90℃で1時間接触処理を行った。反応生成物を精製したn-ヘプタンで充分に洗浄した。
その後、精製したn-ヘプタンを導入して液レベルを4Lに調整した。ここに、成分(a2)としてジメチルジビニルシランを30ml、成分(a3)として(i-Pr)2Si(OMe)2を30ml、成分(a4)としてトリエチルアルミニウム(Et3Al)のn-ヘプタン希釈液をEt3Alとして80g添加し、40℃で2時間接触処理を行った。反応生成物を精製したn-ヘプタンで充分に洗浄し、得られたスラリーの一部をサンプリングして乾燥した。分析したところ、固体成分にはTiが1.2重量%、(i-Pr)2Si(OMe)2が8.8重量%含まれていた。
【0101】
[予備重合]
上記で得られた固体触媒成分を用いて、以下の手順により予備重合を行った。上記のスラリーに精製したn-ヘプタンを導入して、固体成分の濃度が20g/Lとなる様に調整した。スラリーを10℃に冷却した後、Et3Alのn-ヘプタン希釈液をEt3Alとして10g添加し、210gのプロピレンを4時間かけて供給した。プロピレンの供給が終わった後、更に30分間反応を継続した。
次いで、気相部を窒素で充分に置換し、反応生成物を精製したn-ヘプタンで充分に洗浄した。得られたスラリーをオートクレーブから抜き出し、真空乾燥を行って固体触媒成分(A)を得た。この固体触媒成分(A)は、固体成分1gあたり2.0gのポリプロピレンを含んでいた。分析したところ、この固体触媒成分(A)のポリプロピレンを除いた部分には、Tiが1.0重量%、(i-Pr)2Si(OMe)2が8.2重量%含まれていた。
【0102】
[プロピレンの重合]
撹拌及び温度制御装置を有する内容積2.4Lのステンレス鋼製オートクレーブを窒素雰囲気下で加熱乾燥し、室温まで冷却した。ここにヘプタンを1.0L導入し、次いで、有機アルミニウム化合物(B)としてEt3Alを400mg、及び水素を1150ml導入し、内部温度を70℃に合わせた。その後、プロピレンを0.70MPaまで導入し、さらに化合物(C)としてミリスチン酸イソプロピルを522mg、及び上記の固体触媒成分(A)を1.0mg圧入した。重合時の圧力が0.70MPaとなるように継続的にプロピレンを導入し重合を行った。1時間後にプロピレンの導入を停止し、エタノールを10ml圧入して重合を停止した。また、同様の操作方法にて、内部温度を100℃、120℃とし重合を実施した。この時、ヘプタン中の水素およびプロピレンの同一の濃度がとなるように、表1の条件で重合を行った。結果を表2に示す。
【0103】
【0104】
(実施例2)
化合物(C)のミリスチン酸イソプロピルを697mg使用した以外は実施例1と同様の方法でプロピレンの重合を行った。結果を表2に示す。
【0105】
(実施例3)
化合物(C)としてミリスチン酸イソプロピルの代わりに4-エトキシ安息香酸エチルを125mg使用した以外は実施例1と同様の方法プロピレンの重合を行った。結果を表2に示す。
【0106】
(比較例1)
実施例1において化合物(C)を使用しなかった以外は実施例1と同様の方法でプロピレンの重合を行った。結果を表2に示す。
【0107】
(比較例2)
[予備重合]
上記実施例1において得られた固体成分(a1)のスラリーを固体成分として100g用いて、以下の手順により予備重合を行った。上記のスラリーに精製したn-ヘプタンを導入して、固体成分の濃度が20g/Lとなる様に調整した。スラリーを10℃に冷却した後、Et3Alのn-ヘプタン希釈液をEt3Alとして10g添加し、210gのプロピレンを4時間かけて供給した。プロピレンの供給が終わった後、更に30分間反応を継続した。
次いで、気相部を窒素で充分に置換し、反応生成物を精製したn-ヘプタンで充分に洗浄した。得られたスラリーをオートクレーブから抜き出し、真空乾燥を行って固体触媒成分(Ac1)を得た。この固体触媒成分(Ac1)は、固体成分1gあたり2.0gのポリプロピレンを含んでいた。分析したところ、この固体触媒成分(Ac1)のポリプロピレンを除いた部分には、Tiが2.2重量%含まれていた。
[プロピレンの重合]
実施例1の固体触媒成分(A)の代わりに上記で得られた固体触媒成分(Ac1)を用いた以外は実施例1と同様の方法でプロピレンの重合を行った。結果を表2に示す。
【0108】
(比較例3)
比較例2において化合物(C)を使用しなかった以外は比較例2と同様の方法でプロピレンの重合を行った。結果を表2に示す。
【0109】
【0110】
図1に、実施例1~3及び比較例1について、重合温度に対して活性をプロットしたグラフを示す。
図2に、各実施例及び比較例について、重合温度に対してMFRをプロットしたグラフを示す。
【0111】
(実施例と比較例の説明)
表2から明らかなように、実施例及び比較例を対照検討すると、本発明の触媒は、高温での重合活性が著しく低下し、また温度に対して得られる重合体のMFRの変化幅を少なくすることができる。
具体的には、実施例1~3と比較例1を比較する(
図1)と、化合物(C)を含む触媒では、100℃および120℃での重合活性が大幅に低下していることがわかる。このように、化合物(C)を含む触媒では、局所的に重合温度が上昇した際に失活し、その結果、塊やファウリングの発生によるプラントの運転性能に影響を与え難いと考えられる。
また実施例1~3と比較例2、3を比較する(
図2)と、成分(a2)、(a3)および(a4)を接触処理してなる固体触媒成分(A1)を用いることにより、高温重合下でMFRの変化が小さいことがわかる。ここから、得られるポリマー物性への影響は少ないと考えられる。
従って、本発明の実施例の触媒は、高温での重合活性が著しく低下し、また高温重合下でプロピレン系重合体のMFRの変化幅を小さくできる触媒であり、比較例に比して優れた結果が得られていると言える。
なお、成分(a2)、(a3)および(a4)を接触処理してなる固体触媒成分(A1)を用いることにより、高温重合下でMFRの変化が小さくなることは従来知られていなかったことであり、本発明で明らかになった効果である。
本発明によれば、高温での重合活性が著しく低下し、また温度に対して得られる重合体の分子量(MFR)の変化幅を少なくすることができるプロピレン重合用触媒によって、塊やファウリングの発生によるプラントの運転性能に影響を抑制してプロピレン系重合体を製造することができ、得られるポリマー物性への影響も少なく、産業上、利用可能性が高いものである。