(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134610
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】ヒーター装置
(51)【国際特許分類】
B60H 1/22 20060101AFI20240927BHJP
H05B 3/10 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
B60H1/22 611B
H05B3/10 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044883
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100081433
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 章夫
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 崇
【テーマコード(参考)】
3K092
3L211
【Fターム(参考)】
3K092PP15
3K092QA10
3K092SS32
3K092SS47
3K092VV40
3L211BA02
3L211GA49
(57)【要約】
【課題】赤外光等の熱線を投射して対象者の局所を部分的に温めることが可能であり、局所の位置が変化した場合でも熱線を追従照射することが可能なヒーター装置を提供する。
【解決手段】ヒーター装置1は、熱線を出射する熱源部21、及び熱源部21から出射される熱線を対象者の局所に向けて投射する投射光学部22を含むヒーター部2と、ヒーター部2を制御する制御部3とを備える。制御部3は、対象者の局所の位置を検出する位置検出部31と、検出した局所に向けて熱線が投射されるように投射手段を制御するヒーター制御部32を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱線を出射する熱源部と、この熱源部から出射される熱線を対象者の局所に向けて投射する投射手段を含むヒーター部と、前記ヒーター部を制御する制御部とを備えるヒーター装置であって、前記制御部は、前記対象者の局所の位置を検出する位置検出部と、検出した局所に向けて前記熱線が投射されるように前記投射手段を制御するヒーター制御部を備えることを特徴とするヒーター装置。
【請求項2】
前記熱源部は熱線として赤外光を発光する赤外光光源と、発光された赤外光を所要の光束径に収束させる光学器を備え、前記投射手段は収束された赤外光を異なる方向に向けて投射することが可能な投射光学部として構成される請求項1に記載のヒーター装置。
【請求項3】
前記位置検出部は、対象者の局所の二次元的位置または三次元的位置を検出する請求項1に記載のヒーター装置。
【請求項4】
前記位置検出部は、少なくとも対象者の局所を撮像する撮像装置と、撮像した局所の位置を検出する演算部を備える請求項3に記載のヒーター装置。
【請求項5】
前記投射光学部は、赤外光を二次元方向に偏向することが可能な可変光偏向器で構成される請求項3に記載のヒーター装置。
【請求項6】
前記投射光学部は、焦点距離を変化するとともに焦点方向を二次元方向に変化し、赤外光の焦点位置を三次元的に変化することが可能な可変焦点液晶レンズで構成される請求項3に記載のヒーター装置。
【請求項7】
前記ヒーター部と、前記制御部のヒーター制御部は1つのユニットとして一体に構成される請求項1に記載のヒーター装置。
【請求項8】
前記ヒーター部と、前記制御部は1つのユニットとして一体に構成される請求項1に記載のヒーター装置。
【請求項9】
自動車の車室内に配設されたヒーター装置であって、運転者の手を対象者の局所として検出する請求項1ないし8のいずれかに記載のヒーター装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は対象者の一部(局所)を温めるのに好適なヒーター装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に装備される暖房装置は、車室内に向けて温風を吹き出して、車室内の全体を暖める構成とされている。このように車室内の全体が暖められると、車室内にいる乗員、例えば運転者の頭部や手等が温められ、特に頭部が温められると眠気や注意散漫状態が誘発される。このことから、運転者の手や体の一部を局所的に温める装置を備えることが望ましい。特許文献1には、ダクトを通して赤外線を照射することにより、自動車の運転者の手や顔を部分的に温める技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術は、赤外線を照射するためのダクトをダッシュボード等の車体内に組み付けているため、組み付け作業が煩雑であるとともに、ダクトを組み込むためのスペースが必要であり、小型車両への適用が難しい。また、ダクトは車両に対して固定的に組み付けられるため、赤外線の照射方向が固定される。そのため、運転者の運転操作等における手の動きに合わせて赤外線の照射方向を追従させることはできず、運転者の手を局所的に温めることは難しい。赤外線の照射方向を変える構成も提案されているが、運転者の手の動きに追従されるものとはなっていない。
【0005】
本発明の目的は、所望の位置に向けて赤外光等の熱線を投射して対象者の局所を部分的に温めることが可能なヒーター装置を提供する。本発明の他の目的は、温める対象となる局所の位置が変化した場合でも、これに追従して熱線を照射する位置を変化させることが可能なヒーター装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のヒーター装置は、熱線を出射する熱源部、及び熱源部から出射される熱線を対象者の局所に向けて投射する投射手段を含むヒーター部と、ヒーター部を制御する制御部とを備える。その上で、制御部は、対象者の局所の位置を検出する位置検出部と、検出した局所に向けて熱線が投射されるように投射手段を制御するヒーター制御部を備える。
【0007】
本発明において、熱源部は熱線として赤外光を発光する赤外光光源と、発光された赤外光を所要の光束径に収束させる光学器を備えることが好ましい。また、投射手段は収束された赤外光を異なる方向に向けて投射することが可能な投射光学部として構成されることが好ましい。
【0008】
本発明において、位置検出部は、対象者の局所の二次元的位置または三次元的位置を検出する構成とされる。例えば、位置検出部は、少なくとも対象者の局所を撮像する撮像装置と、撮像した局所の位置を検出する演算部を備える構成とされる。
【0009】
本発明において、投射光学部は、例えば、赤外光を二次元方向に偏向することが可能な可変光偏向器で構成される。あるいは、投射光学部は、焦点距離を変化するとともに焦点方向を二次元方向に変化し、赤外光の焦点位置を三次元的に変化することが可能な可変焦点液晶レンズで構成される。
【0010】
本発明において、例えば、ヒーター部と、制御部のヒーター制御部は1つのユニットとして一体に構成されることが好ましい。あるいは、ヒーター部と、制御部は1つのユニットとして一体に構成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のヒーター装置によれば、ヒーター部から出射される熱線を投射手段により対象者の局所に対して投射し、当該局所を部分的に温めることができる。また、対象者の局所が移動する場合にも、これに追従して局所を好適に温めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態1のヒーター装置を装備した自動車の運転席近傍の概略図。
【
図2】実施形態1のヒーター装置の一部を破断した模式的な斜視図。
【
図4】(a)は可変光偏向器の外観斜視図、(b)は可変光偏向器の内部構造の模式的な斜視図。
【
図5】実施形態1のヒーター装置のブロック構成図。
【
図6】(a)は実施形態2の可変焦点液晶レンズの外観図、(b)はそのB-B線断面図。
【
図7】実施形態2の可変焦点液晶レンズの分解斜視図。
【
図8】可変焦点液晶レンズによる遠赤外光の投射状態を示す模式図。
【
図9】実施形態3のヒーター装置の透視的な斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施形態1)
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は運転者の手を温めるヒーター装置として構成した実施形態1のヒーター装置を説明する図であり、当該ヒーター装置を装備した自動車の運転席近傍の概略図である。自動車の車室内のダッシュボードDBにヒーター装置1が配設されている。ここでは、ステアリングホイールSWの近傍でナビゲーション装置NAVの下側に設けられているダッシュボードDBのDINスペースに配設されている。
【0014】
図2はダッシュボードDBから取り外したヒーター装置1の一部を破断して模式的に示す斜視図である。このヒーター装置1は、遠赤外光を投射して運転者の手を温めるためのヒーター部2と、このヒーター部2から投射される遠赤外光の方向を制御するための制御部3とを備えている。これらヒーター部2と制御部3は1つのハウジング4に組み込まれた1つのユニットとして構成されている。また、ハウジング4の前面には運転者が操作可能な制御スイッチ30が配設されている。このヒーター装置1はコネクタ41等により自動車の車載電源に接続されて電源の供給を受け、さらには車両ECU(電子制御ユニット)等の制御機器に接続されて信号の送受が行われる。
【0015】
図3はヒーター部2の模式的な断面図である。ヒーター部2は熱源部21と投射光学部22を備えており、ハウジング4の前面に設けられた開口窓4aに臨んで配設されている。熱源部21は、赤外光ランプ(電球)23と、この赤外光ランプ23から出射された遠赤外光を反射する光反射ミラー24を備えている。赤外光ランプ23は給電されたときに点灯して所要の光強度の遠赤外光を発散状態で出射する。光反射ミラー24は放物面ミラーで構成されており、赤外光ランプ23から出射された遠赤外光を平行光束に近い状態で反射する。赤外光ランプ23は、所要の光強度が得られるのであれば半導体赤外発光素子で構成されてもよい。また、発光された赤外光の発散角が相対的に小さい場合には、光反射ミラー24を省略して遠赤外光をそのまま投射光学部22に入射させるように構成してもよい。
【0016】
投射光学部22は赤外光ランプ23から出射される遠赤外光の投射方向を、投射光学部22の光軸Lxに直交する面方向に二次元的に変化することが可能な可変光偏向器5で構成されている。この可変偏向器5は、一対のウェッジプリズム51,52がそれぞれ独立して光軸Lx回りに回転されるように構成され、これら一対のウェッジプリズム51,52の相対角度位置(光軸Lx回り方向の相対角度)の変化に応じて光の偏向方向を二次元的に変化制御する、いわゆるRisley光偏向器で構成されている。
【0017】
図4(a)は可変光偏向器5の外観斜視図であり、
図4(b)は内部構造の模式的な斜視図である。箱型のケース50内に一対のウェッジプリズム51,52が光軸Lx方向に並んで配設されており、当該ケース50を貫通するように開口された開口窓50aに臨んで配設されている。各ウェッジプリズム51,52はそれぞれ光軸方向の断面形状がテーパ状をしたプリズム511,521と、これらのプリズム511,521を支持した枠体512,522を備えており、熱源部21からの遠赤外光が両プリズム511,521を順序的に透過されるように構成されている。
【0018】
各ウェッジプリズム51,52にはそれぞれアクチュエータ53,54が連結されており、このアクチュエータ53,54により各ウェッジプリズム51,52が光軸Lx回りに回転駆動とされている。このアクチュエータ53,54は、各ウェッジプリズム51,52の枠体512,522の外周面に一体に形成されたリングギヤ531,541を備えており、各リングギヤ531,541は光軸Lxの回りに略180°の中心角で延長されている。なお、この中心角は後述するように遠赤外光を偏向する角度領域に相関するものであるので、遠赤外光を偏向する角度領域の広狭に応じて適宜の中心角に設定することが可能である。
【0019】
また、各リングギヤ531,541の周方向の一部、ここではウェッジプリズム51,52の上側位置には、それぞれケース50に支持された一対のモーター532,542が配設されており、これらモーター532,542の回転出力軸に固定されたピニオン533,543が各リングギヤ531,541に歯合されている。そして、モーター532,542が回転駆動されると、その回転力はピニオン533,543、リングギヤ531,541を介して枠体512,522に伝達され、各プリズム511,521の光軸回りの回転角度位置が変化されるようになっている。
【0020】
可変光偏向器5を透過される遠赤外光は、各ウェッジプリズム51,52においてそれぞれの回転角度位置に応じた方向に屈折されることにより光軸Lxに対して偏向されるので、遠赤外光は
図3に矢印実線、矢印鎖線で示すように、光軸Lxに直交する面に沿って二次元方向に偏向されることになる。なお、
図3のウェッジプリズム51において、鎖線は回転によりプリズム511の面角度が変化された状態を模式的に示している。
【0021】
図5はヒーター装置1のブロック構成図である。
図2と
図5において、前記制御部3は温める対象となる運転者の局所、ここでは運転者の手の位置を検出する位置検出部31と、位置検出部31で検出した運転者の手に向けて遠赤外光が好適に投射されるようにヒーター部2を制御するヒーター制御部32を備えている。位置検出部31は、少なくとも運転者の手を撮像することが可能な撮像装置33と、この撮像装置33で撮像した画像を画像解析して運転者の手の位置を演算する演算部34を備えている。
【0022】
撮像装置33は例えば対象者、ここでは運転者の少なくとも手を撮像することが可能なデジタルカメラで構成されている。この実施形態1では、撮像装置33はハウジング4には内装されておらず別体に構成されており、
図1に示した自動車のルームミラー(バックミラー)RMの一部に配設されている。この撮像装置33は、自動車のダッシュボードDBの一部に配設されてもよく、あるいは自動車に装備されているドライブレコーダやその他の運転支援に利用される撮像カメラを利用してもよい。
【0023】
前記演算部34は撮像装置33で撮像された画像を、公知の手法により画像解析して運転者の手を認識するとともに、所要の演算を行って認識した手の位置を検出する。この検出に際しては、演算部にAI(人工知能)の機能を持たせることが好ましい。検出する手の位置は、ヒーター装置1に対面する面上での二次元的な位置、あるいは三次元的な位置が含まれ、さらヒーター装置1から見たときの角度方向の位置(角度位置)が含まれる。また、運転者の左右両手が撮像された場合には、左右の両手についてそれぞれの手の位置を検出する。
【0024】
前記ヒーター制御部32は、位置検出部31で検出された運転者の手の位置に基づいてヒーター部2の熱源部21と投射光学部22を制御する。熱源部21の制御では、運転者が制御スイッチ30を操作して設定された温度となるように赤外光ランプ23の点灯時における遠赤外光の光強度を制御する。この場合、ヒーター制御部3に室温センサーを接続しておき、検出した室温に応じて遠赤外光の光強度を制御するようにしてもよい。
【0025】
ヒーター制御部32による投射光学部22の制御では、可変光偏向器5を制御する。すなわち、位置検出部31で検出した手の位置に基づいて可変光偏向器5の2つのアクチュエータ53,54を制御する。この制御では、前記したように、一対のモーター532,542をそれぞれ独立して回転制御することにより、一対のウェッジプリズム51,52の各回転角度位置が変化され、遠赤外光を光軸Lxに直交する面に沿って二次元方向に偏向制御することが可能とされている。また、運転者が制御スイッチ30を操作することにより可変光偏向器22を制御するようにしてもよい。
【0026】
例えば、運転者が制御スイッチ30を操作することにより、ヒーター装置1の主電源がオン・オフされ、さらには赤外光ランプ23が点灯されたときの遠赤外光の温度の設定が可能とされる。また、制御スイッチ30の操作により、可変光偏向器5における遠赤外光の投射方向の制御を自動・手動に切り替えることも可能とされている。
【0027】
以上の構成のヒーター装置1によれば、運転者が制御スイッチ30をオンすると、ヒーター制御部32により赤外光ランプ23が点灯され、遠赤外光が出射される。出射された遠赤外光は光反射ミラー24により反射されてミラー径に略等しい径寸法の平行な光束(光ビーム)とされ、可変光偏向器5に入射される。入射された遠赤外光は可変光偏向器5を透過されてハウジング4の開口窓4aを通して運転席の方向に向けて出射される。
【0028】
これと同時に、制御部3の位置検出部31は、撮像装置33で撮像した運転者の画像を演算部34において解析・演算処理して運転者の手の位置を検出する。ここでは、ヒーター装置1を基準にした運転者の手の角度位置(角度方向)を検出する。この角度位置はヒーター制御部32に入力される。ヒーター制御部32は、設定されている所要の制御アルゴリズムに基づいて、検出された手の角度位置に対応して可変光偏向器5のアクチュエータ53,54を制御する。すなわち、一対のモーター532,542の回転量を制御する。これらモーター532,542の回転により一対のウェッジプリズム51,52がそれぞれ所定角度位置に回転され、各ウェッジプリズム51,52の光軸回りの回転角度位置が個別に変化制御される。これにより、可変光偏向器5を透過される遠赤外光は光軸に直交する面に沿って二次元方向に偏向され、検出された運転者の手の角度位置に向けて投射される。
【0029】
運転者がステアリングホイールSWを操作しているとき、あるいは運転者の他の動作により運転者の手の位置が移動すると、撮像装置33で撮像した画像中における手の位置が移動され、演算部34で検出する手の位置が変化される。ヒーター制御部32は、手の位置の変化、ここでは角度位置の変化に基づき、アクチュエータ53,54をフィードバック制御する。これにより、一対のウェッジプリズム51,52の光軸回りの回転角度位置がそれぞれ変化制御され、可変光偏向器22により偏向される遠赤外光は運転者の手の位置変化に追従される。したがって、運転者の手は移動にかかわらず遠赤外光により温められる状態が継続される。
【0030】
遠赤外光は光反射ミラー24により規定される光束径で出射されて運転者の手に投射されるので、遠赤外光が所要の光束径となるようにヒーター部21を設定しておくことにより、すなわち赤外光ランプ23の規格や光反射ミラー24の構成等を設定しておくことにより、運転者の手を局所的に温めることができ、運転者の頭やその他の部位を温めることはない。したがって、運転者の頭部が温められることによる眠気や注意散漫状態となることが未然に防止できる。
【0031】
このように、実施形態1のヒーター装置1は、ヒーター部2と制御部3で構成されており、ヒーター部2は赤外光ランプ23を含む熱源部21と、光偏向器5で構成される投射光学部22のみで構成されるので簡易な構成となる。また、制御部3の位置検出部31を構成する撮像装置33は、自動車に装備されている既存の撮像装置を利用することができるので、その場合には位置検出部31は実質的に演算部34を備えるのみでよく、小型のヒーター装置として構成できる。
【0032】
また、実施形態1のヒーター装置1は、投射光学部22としての可変光偏向器5は、それぞれ独立して回転される2つのウェッジプリズム51,52で構成されているので、遠赤外光の偏向方向、すなわち投射領域を広くとることができ、運転者の手がステアリングホイールSWの操作領域を外れた位置にまで移動された場合にも好適に温めることができる。なお、運転者の手の移動範囲が所要の領域に限定される場合、例えば、運転者の手がステアリングホイールの操作領域のような狭い領域に限定される場合には、可変光偏向器22は1つのウェッジプリズムを光軸回りに回転させる構成としてもよい。
【0033】
さらに、実施形態1のヒーター装置1は、位置検出部31において運転者の左右の手を検出したときには、ヒーター制御部32による投射光学部22としての可変光偏向器5を制御するにより、左右の手に対して経時的に交互に遠赤外光を投射するようにしてもよい。あるいは、運転者による制御スイッチ30の操作により、左右のいずれか一方の手に対してのみ遠赤外光を投射するようにしてもよい。
【0034】
図示は省略するが、実施形態1において、可変光偏向器5の光軸Lxに沿った前後方向のいずれか一方に集光レンズあるいは光発散レンズを配設しておくことにより、可変光偏向器5を透過された遠赤外光の光束径を適宜に調整し、遠赤外光により温める範囲を変化させることもできる。
【0035】
(実施形態2)
本発明の実施形態2のヒーター装置は、
図1に示した実施形態1のヒーター装置1のヒーター部2の投射光学部22が可変焦点液晶レンズで構成された構成である。この可変焦点液晶レンズは、レンズの焦点距離が変化できるとともに、レンズ焦点位置がレンズ焦点面上で二次元的に可変なレンズである。換言すれば、レンズの焦点位置が三次元的に変化できるレンズである。
【0036】
実施形態2のヒーター装置は、投射光学部22の構成を除けば他の構成は実施形態1と略共通しているので、これらの共通する構成についての説明は省略する。
図7(a)は投射光学部22を構成する可変焦点液晶レンズ6の概略外観図であり、
図7(b)はそのB-B線に沿う断面図である。また、
図8は可変焦点液晶レンズ6の分解図である。この可変焦点液晶レンズ6は実施形態1と略同様な構成のケース60内に内装されており、全体として円盤状の外形を有し、その中心が光軸Lxとされている。
【0037】
図7及び
図8において、可変焦点液晶レンズ6は、ガラス等の透光性のある3枚の円形をした第1ないし第3の透光板61,62,63が一方から他方に向けて所要間隔をおいて積層されている。第1透光板61の他方側の全面にITO等の透明電極からなる第1焦点距離制御電極64aが形成されている。また、この第1焦点距離制御電極64aと第2透光板62との間に円環スペーサ65が配設され、この円環スペーサ65で囲まれた領域に液晶が充填された液晶層66が構成されている。
【0038】
一方、第3透光板63の一方側の全面にITO等の透明電極からなる第2焦点距離制御電極64bが形成されている。また、第2透光板62の他方側の面には、円形をした中心領域を囲むようにして円周方向に4分割されたアルミニウム板等からなる第1ないし第4の4つの焦点位置制御電極67a~67dが形成されている。これら第2焦点距離制御電極64bと焦点位置制御電極67a~67dとの間には薄いガラス板からなる透光絶縁板68が配設され、各電極間の絶縁が図られている。
【0039】
この可変焦点液晶レンズ6は、第1焦点距離制御電極64aと第2焦点距離制御電極64bとの間に印加する電圧(電界)V1を制御することにより、これらの電極間に形成されている液晶層66での液晶分子の配向が制御されて光屈折率が変化され、レンズの焦点距離が変化制御される。このような構成の液晶レンズにおける光屈折率の制御については既に知られているので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0040】
また、第1焦点距離制御電極64aに対する第1ないし第4の各焦点位置制御電極67a~67dのそれぞれに印加する電圧V2を個別に制御することにより、これら4つの焦点位置制御電極67a~67dにおいてそれぞれ形成される電界がレンズの平面方向に二次元的に変化され、液晶層66における液晶分子の配向分布に偏りが生じてレンズの屈折率が二次元的に偏った分布となる。これにより、可変焦点液晶レンズ6の焦点位置は光軸Lxから偏位された位置に制御されるようになる。なお、このような可変焦点液晶レンズは、例えばM.Ye, B.Wang, and Sato, Optics Communications,259(2006),710-722において報告されている。
【0041】
実施形態2のヒーター装置では、
図2に示した実施形態1と同様に、運転者が制御スイッチ30をオンすると、ヒーター部21の赤外光ランプ23が点灯されて遠赤外光が出射され、この遠赤外光は光反射ミラー24により反射されて略平行な光束となる。この遠赤外光は可変焦点液晶レンズ6を透過されて運転席の方向に向けて出射される。また、
図5に示したと同様に、制御部3の演算部34において、撮像装置33で撮像した運転者の画像を解析・演算処理して運転者の手の位置を検出する。この位置検出に際し、実施形態2では運転者の三次元位置、すなわち位置と角度方向の両方を検出する。そして、ヒーター制御部32は、検出された手の三次元位置に基づいて可変焦点液晶レンズ6の各電極に印加する電圧を制御し、この可変焦点液晶レンズ6による遠赤外光の投射方向及び集光位置を制御する。
【0042】
図8は可変焦点液晶レンズ6による遠赤外光の投射状態を示す模式図である。ヒーター制御部32は検出された運転者の手の三次元位置から得られる角度方向に基づいて第1ないし第4の焦点位置制御電極67a~67dのそれぞれに印加する電圧V2を個別に制御する。これにより可変焦点液晶レンズ6の焦点位置Fが二次元的(
図8のxy方向)に変化され、赤外光ランプ23から出射された遠赤外光は制御された焦点位置Fに向けて収束され、運転者の手に投射することが可能になる。
【0043】
また、ヒーター制御部32は、三次元位置から得られる運転者の手までの距離に基づいて第1及び第2の焦点距離制御電極64a,64bに印加する電圧V1を制御する。これにより可変焦点液晶レンズ6の焦点距離が変化され、赤外光ランプ23から出射されて平行光束とされている遠赤外光が集光されるまでの距離が制御される。すなわち、可変焦点液晶レンズ6の焦点位置が三次元的(
図8のxy方向及び光軸Lx方向)に変化される。したがって、遠赤外光が集光もしくは収束される位置において運転者の手に投射するように焦点距離を三次元的に制御することにより、当該運転者の手を部分的に温めるのに好適な遠赤外光を投射することが可能になる。
【0044】
このように、実施形態2のヒーター装置によれば、撮像装置33で撮像した運転者の画像から運転者の手の三次元位置を検出し、この三次元位置に基づいて可変焦点液晶レンズ6に印加する電圧を制御することにより、可変焦点液晶レンズ6の焦点距離を変化制御し、かつ焦点位置を二次元的に変化制御することができる。したがって、可変焦点液晶レンズ6の焦点位置は三次元的に変化制御され、可変焦点液晶レンズ6を透過される遠赤外光の集光位置も三次元的に制御されることになる。
【0045】
これにより、運転者のステアリングホイールでの運転操作、あるいは他の動作により運転者の手の位置が三次元方向に移動すると、演算部34で検出する手の位置も三次元的に変化されるが、これに基づく可変焦点液晶レンズ6の焦点距離と焦点位置の変化制御により、遠赤外光の集光位置は、運転者の手の三次元的な移動に追従して変化制御される。したがって、運転者の様々な動作によって運転者の手が広い領域にわたって移動する場合においても遠赤外光により手を温める状態が継続される。
【0046】
実施形態2においては、遠赤外光は光反射ミラーにより規定された光束径が可変焦点液晶レンズ6で収束されながら運転者の手に投射されるので、遠赤外光が運転者の手に投射される際に所要の光束径となるように可変焦点液晶レンズ6を制御することにより、運転者の手を部分的にかつ効率よく温めることができる。したがって、運転者の頭やその他の部位を温めることはなく、運転者の頭部が温められることによる眠気や注意散漫状態となることが未然に防止できる。
【0047】
また、実施形態2のヒーター装置も、ヒーター部2と制御部3で構成されており、ヒーター部2は赤外光ランプ23を含む熱源部21と、投射光学部22としての可変焦点液晶レンズで構成されるのみであり、制御部3は撮像装置33を他装置のものを利用すればヒーター制御部32のみで構成できるので小型のヒーター装置として構成できる。
【0048】
さらに、実施形態2は、遠赤外光の投射制御に際しては、投射光学部22としての可変焦点液晶レンズ6に印加する電圧を制御する構成であるので、実施形態1の機械的なアクチュエータよりも制御の高速化が可能であり、運転者の手の移動に対して応答性の高い制御が可能になる。また、機械的なアクチュエータが不要となることから、さらなる構造の簡易化と小型化を図ることができる。
【0049】
なお、図示は省略するが、投射光学部の投射方向を変化制御する構成として、固定焦点レンズをレンズ光軸と直交する二次元方向に変位させるアクチュエータを備えた構成としてもよい。また、投射光学部の焦点距離を変化制御する構成として、複数のレンズを光軸方向に移動するズームレンズとして焦点距離を変化させるようにてもよい。
【0050】
(実施形態3)
図9は実施形態3のヒーター装置の内部を透視的に示した構成図である。このヒーター装置1Aは、基本的には
図2に示した実施形態1と略同じ構成であるが、制御部3の撮像装置33はハウジング4に内装されて1つのユニットとして構成されていることが相違している。この撮像装置33は、ハウジング4の前面に設けられた透孔窓4bを透してヒーター装置1Aの前方領域の撮像を行うように構成されている。また、制御部3のヒーター制御部32には通信部35が付設されており、この通信部35は温める対象者が保持するリモートコントローラや携帯電話機等の携帯端末Mとの間で所要の信号を送受することが可能とされている。
【0051】
実施形態3のヒーター装置1Aは、実施形態1と同様に自動車のダッシュボードに組み込んでもよく、あるいは、車室内の任意の場所に配設してもよい。配設されたヒーター装置1Aは、撮像装置33によりヒーター装置1Aの前方領域を撮像する。演算部35は撮像された対象者の手等の局所の位置を検出し、投射光学部22を制御する。投射光学部22は実施形態1の可変光偏向器5あるいは可変焦点液晶レンズ6で構成される。
【0052】
これにより、ヒーター装置1Aの前方領域に存在する対象者の局所を温めることが可能になる。したがって、ヒーター装置1Aの配設位置あるいは配設方向を適宜に設定することにより、運転者のみならず助手席の乗員、さらには後部座席の乗員を温めることも可能となる。さらには、自動車以外の家庭、職場、作業所等の種々の場所において対象者を温めることもできる。
【0053】
また、実施形態3のヒーター装置1Aは、制御部3に設けられた通信部35を利用して携帯端末Mの操作でヒーター装置1Aをオン・オフ制御することができる。さらに、この通信を利用して投射光学部22における遠赤外光の投射方向や投射位置(焦点位置)を手動制御することもできる。あるいは、ヒーター制御部32にAI機能を備えさせることにより、携帯端末Mを所持する対象者の手に向けて遠赤外光を投射するように構成することもできる。この場合には、対象者が撮像装置33の撮像領域を外れた位置に存在する場合でも温めることが可能になる。
【0054】
以上の実施形態では、熱線を出射する熱源部として赤外光ランプを用いているが、遠赤外光を出射する構成であれば他の構成であってもよい。また、さらに、本発明の熱源部は遠赤外光とは異なる熱線を出射する構成であってもよい。さらに、熱源部においては、所要の光束径の遠赤外光として出射することができるのであれば、ミラーに代えて集光レンズを採用してもよい。
【0055】
また、実施形態では、ヒーター部と、制御部の一部あるいは全部が1つのハウジングに一体的に構成されているが、ヒーター部のみが独立した構成とされてもよい。この場合には制御部の一部あるいは全部は自動車の車両ECUを利用して構成されるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0056】
1,1A ヒーター装置
2 ヒーター部
3 制御部
4 ハウジング
5 可変光偏向器(投射手段)
6 可変焦点液晶レンズ(投射手段)
21 熱源部
22 投射光学部(投射手段)
23 赤外光ランプ(熱源部)
24 光反射ミラー(光学器)
30 制御スイッチ
31 位置検出部
32 ヒーター制御部
33 撮像装置
34 演算部
51,52 ウェッジプリズム
53,54 アクチュエータ
61,62,63 透光板
64a,64b 焦点距離制御電極
66 液晶層
67a~67d 焦点位置制御電極