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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134616
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】交流回転機の制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/05 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
H02P21/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044890
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古川 晃
(72)【発明者】
【氏名】大黒 嵩浩
(72)【発明者】
【氏名】久野 雄也
(72)【発明者】
【氏名】秋田 健一
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505BB04
5H505CC04
5H505DD03
5H505EE30
5H505EE41
5H505EE49
5H505GG02
5H505GG04
5H505GG07
5H505HA09
5H505HA10
5H505HB01
5H505HB05
5H505JJ03
5H505JJ28
5H505KK05
5H505LL07
5H505LL22
5H505LL24
5H505LL41
5H505LL58
(57)【要約】
【課題】組間の相互インダクタンスを考慮して、力行運転時に母線電圧リプルを低減できると共に、回生運転時に発電効率を向上することができる交流回転機の制御装置を提供する。
【解決手段】回転速度が低速度範囲内になる速度領域において、力行運転時である場合、又は回生運転時であり、且つ相電流の振幅が判定振幅以下である、又は出力トルクの絶対値が判定トルク以下である場合に、3次高調波重畳変調を行い、回転速度が低速度範囲内になる速度領域において、回生運転時であり、且つ相電流の振幅が判定振幅より大きい、又は出力トルクの絶対値が判定トルクより大きい場合に、2相変調を行う交流回転機の制御装置。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2組のm相(mは2以上の自然数)の電機子巻線を有する交流回転機を、複数のスイッチング素子を有する電力変換器を介して制御する交流回転機の制御装置であって、
第1組のm相の前記電機子巻線に印加する第1組のm相の電圧指令値と、第2組のm相の前記電機子巻線に印加する第2組のm相の電圧指令値と、を演算し、前記第1組のm相の電圧指令値に、第1組用のオフセット電圧を重畳して、重畳後の第1組のm相の電圧指令値を演算し、前記第2組のm相の電圧指令値に、第2組用のオフセット電圧を重畳して、重畳後の第2組のm相の電圧指令値を演算する電圧指令値演算部と、
前記重畳後の第1組のm相の電圧指令値と搬送波信号とを比較し、比較結果に基づいて、第1組用の複数の前記スイッチング素子をオンオフし、前記重畳後の第2組のm相の電圧指令値と前記搬送波信号とを比較し、比較結果に基づいて、第2組用の複数の前記スイッチング素子をオンオフするスイッチング制御部と、を備え、
前記電圧指令値演算部は、前記交流回転機の回転速度が、0を含むように設定された低速度範囲内になる速度領域において、力行運転時である場合、又は回生運転時であり、且つ前記電機子巻線を流れる相電流の振幅が判定振幅以下である、又は前記交流回転機の出力トルクの絶対値が判定トルク以下である場合に、設定中心電圧を中心に、電気角の回転周波数の3倍の周波数で振動し、前記重畳後の第1組のm相の電圧指令値の最大値及び最小値の平均値が前記設定中心電圧に一致するような前記第1組用のオフセット電圧、及び同じ前記設定中心電圧を中心に、前記回転周波数の3倍の周波数で振動し、前記重畳後の第2組のm相の電圧指令値の最大値及び最小値の平均値が前記設定中心電圧に一致するような前記第2組用のオフセット電圧を演算する3次高調波重畳変調を行い、
前記交流回転機の回転速度が前記低速度範囲内になる速度領域において、回生運転時であり、且つ前記相電流の振幅が前記判定振幅より大きい、又は前記出力トルクの絶対値が前記判定トルクより大きい場合に、前記重畳後の第1組のm相の電圧指令値の最大値が前記搬送波信号の最大値に張り付く、又は前記重畳後の第1組のm相の電圧指令値の最小値が前記搬送波信号の最小値に張り付くような前記第1組用のオフセット電圧を演算すると共に、前記重畳後の第2組のm相の電圧指令値の最大値が前記搬送波信号の最大値に張り付く、又は前記重畳後の第2組のm相の電圧指令値の最小値が前記搬送波信号の最小値に張り付くような前記第2組用のオフセット電圧を演算する2相変調を行う交流回転機の制御装置。
【請求項2】
前記電圧指令値演算部は、前記交流回転機の回転速度が、前記低速度範囲外になる速度領域において、前記相電流の振幅が判定振幅以下である、又は前記出力トルクの絶対値が前記判定トルク以下である場合に、前記3次高調波重畳変調を行い、
前記交流回転機の回転速度が、前記低速度範囲外になる速度領域において、前記相電流の振幅が前記判定振幅より大きい、又は前記出力トルクの絶対値が前記判定トルクより大きい場合に、前記2相変調を行う請求項1に記載の交流回転機の制御装置。
【請求項3】
前記電圧指令値演算部は、回生運転時の前記相電流の振幅の最大値が、力行運転時の前記相電流の振幅の最大値よりも低くなる、又は回生運転時の前記出力トルクの絶対値の最大値が、前記力行運転時の出力トルクの絶対値の最大値よりも低くなるように、前記第1組のm相の電圧指令値及び前記第2組のm相の電圧指令値を演算する請求項1に記載の交流回転機の制御装置。
【請求項4】
前記電圧指令値演算部は、前記交流回転機の回転速度が前記低速度範囲内になる速度領域において、前記3次高調波重畳変調を行う場合は、前記設定中心電圧を、前記搬送波信号の振動中心値に一致させる請求項1に記載の交流回転機の制御装置。
【請求項5】
前記交流回転機は界磁巻線を有し、前記電力変換器は、界磁巻線用の前記スイッチング素子を有し、
前記交流回転機の制御装置は、界磁巻線用の前記スイッチング素子をオンオフして、前記界磁巻線に流れる界磁電流を制御する界磁電流制御部を更に備え、
前記界磁電流制御部は、前記交流回転機の回転速度が前記低速度範囲内になる速度領域における前記界磁電流の最大値を、前記交流回転機の回転速度が前記低速度範囲外になる速度領域における前記界磁電流の最大値よりも小さくする請求項1に記載の交流回転機の制御装置。
【請求項6】
前記界磁電流制御部は、前記交流回転機の回転速度が前記低速度範囲内になる速度領域における前記界磁電流の最大値を、前記第1組のm相の電圧指令値及び前記第2組のm相の電圧指令値の変調率に基づいて設定する請求項5に記載の交流回転機の制御装置。
【請求項7】
前記界磁電流制御部は、前記交流回転機の回転速度が前記低速度範囲内になる速度領域における前記界磁電流の最大値を、前記電力変換器に供給される直流電圧、及び前記交流回転機の回転速度に基づいて設定する請求項5に記載の交流回転機の制御装置。
【請求項8】
前記電圧指令値演算部は、前記交流回転機の回転速度が前記低速度範囲内になる速度領域における前記相電流の振幅の最大値を、前記交流回転機の回転速度が前記低速度範囲外になる速度領域における前記相電流の振幅の最大値よりも大きくする請求項5に記載の交流回転機の制御装置。
【請求項9】
前記低速度範囲は、前記交流回転機の回転速度が判定速度以下になる回転速度の範囲であり、
前記判定速度は、前記3次高調波重畳変調を行う場合に、前記電力変換器を直流電源に接続する母線に生じる電圧リプルが、前記2相変調を行う場合に前記母線に生じる電圧リプルよりも許容差以上小さくなる回転速度の範囲以上の回転速度に設定される請求項1から8のいずれか一項に記載の交流回転機の制御装置。
【請求項10】
前記低速度範囲は、前記交流回転機の回転速度の絶対値が判定速度以下になる回転速度の範囲であり、
前記判定速度は、前記3次高調波重畳変調を行う場合に、前記電力変換器を直流電源に接続する母線に生じる電圧リプルが、前記2相変調を行う場合に前記母線に生じる電圧リプルよりも許容差以上小さくなる回転速度の絶対値の範囲以上の回転速度に設定される請求項1から8のいずれか一項に記載の交流回転機の制御装置。
【請求項11】
前記低速度範囲は、前記交流回転機の回転速度又は前記交流回転機の回転速度の絶対値が、判定速度以下になる回転速度の範囲であり、
前記電圧指令値演算部は、前記判定速度を、前記電力変換器に供給される直流電圧に基づいて設定する請求項1から8のいずれか一項に記載の交流回転機の制御装置。
【請求項12】
前記電圧指令値演算部は、前記直流電圧が大きくなるに従って、前記判定速度を小さくする請求項11に記載の交流回転機の制御装置。
【請求項13】
前記判定振幅は、前記2相変調を行う場合のエネルギー変換効率と、前記3次高調波重畳変調を行う場合のエネルギー変換効率とが一致する相電流の振幅に対応して設定され、又は
前記判定トルクは、前記2相変調を行う場合のエネルギー変換効率と、前記3次高調波重畳変調を行う場合のエネルギー変換効率とが一致する出力トルクに対応して設定される請求項1から8のいずれか一項に記載の交流回転機の制御装置。
【請求項14】
前記判定振幅は、前記3次高調波重畳変調を行う場合の前記電力変換器の発熱量が、必要とされる連続運転が可能な発熱量になる相電流の振幅の範囲内の電流に設定され、又は、
前記判定トルクは、前記3次高調波重畳変調を行う場合の前記電力変換器の発熱量が、必要とされる連続運転が可能な発熱量になる出力トルクの範囲内の出力トルクに設定される請求項1から8のいずれか一項に記載の交流回転機の制御装置。
【請求項15】
前記電圧指令値演算部は、前記判定振幅又は前記判定トルクを、前記交流回転機の回転速度に基づいて設定する請求項1から8のいずれか一項に記載の交流回転機の制御装置。
【請求項16】
前記交流回転機の出力軸が動力伝達機構を介して車輪に連結された請求項1から8のいずれか一項に記載の交流回転機の制御装置。
【請求項17】
前記交流回転機の出力軸が動力伝達機構を介して車輪に連結された請求項9に記載の交流回転機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、交流回転機の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の電力変換器では、2組のインバータが同時に有効電圧ベクトルとなる状態を回避するため、3次高調波重畳による変調時には、第1組の搬送波信号と第2組の搬送波信号を90度ずらして、母線電流リプル及び母線電圧リプルを低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-96400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の制御方法を用いて、第1組及び第2組の電機子巻線の組間の相互インダクタンスを考慮すると、第1組の有効電圧ベクトル出力時に第2組の電流変化を招き、第2組の有効電圧ベクトル出力時に第1組の電流変化を招く。つまり、見かけ上は有効電圧ベクトル区間が増加した状況となるため、相電流リプルが大きくなり、母線電圧リプルが大きくなる。力行運転において、母線電圧リプルを低減する要求がある。よって、特許文献1の技術では、組間の相互インダクタンスを考慮すると、力行運転時に母線電圧リプルを十分に低減できない。一方、回生運転時には、母線電圧リプルを抑制しつつ、発電効率を向上させたい。
【0005】
そこで、本願は、組間の相互インダクタンスを考慮して、力行運転時に母線電圧リプルを低減できると共に、回生運転時に発電効率を向上することができる交流回転機の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願に係る交流回転機の制御装置は、
2組のm相(mは2以上の自然数)の電機子巻線を有する交流回転機を、複数のスイッチング素子を有する電力変換器を介して制御する交流回転機の制御装置であって、
第1組のm相の前記電機子巻線に印加する第1組のm相の電圧指令値と、第2組のm相の前記電機子巻線に印加する第2組のm相の電圧指令値と、を演算し、前記第1組のm相の電圧指令値に、第1組用のオフセット電圧を重畳して、重畳後の第1組のm相の電圧指令値を演算し、前記第2組のm相の電圧指令値に、第2組用のオフセット電圧を重畳して、重畳後の第2組のm相の電圧指令値を演算する電圧指令値演算部と、
前記重畳後の第1組のm相の電圧指令値と搬送波信号とを比較し、比較結果に基づいて、第1組用の複数の前記スイッチング素子をオンオフし、前記重畳後の第2組のm相の電圧指令値と前記搬送波信号とを比較し、比較結果に基づいて、第2組用の複数の前記スイッチング素子をオンオフするスイッチング制御部と、を備え、
前記電圧指令値演算部は、前記交流回転機の回転速度が、0を含むように設定された低速度範囲内になる速度領域において、力行運転時である場合、又は回生運転時であり、且つ前記電機子巻線を流れる相電流の振幅が判定振幅以下である、又は前記交流回転機の出力トルクの絶対値が判定トルク以下である場合に、設定中心電圧を中心に、電気角の回転周波数の3倍の周波数で振動し、前記重畳後の第1組のm相の電圧指令値の最大値及び最小値の平均値が前記設定中心電圧に一致するような前記第1組用のオフセット電圧、及び同じ前記設定中心電圧を中心に、前記回転周波数の3倍の周波数で振動し、前記重畳後の第2組のm相の電圧指令値の最大値及び最小値の平均値が前記設定中心電圧に一致するような前記第2組用のオフセット電圧を演算する3次高調波重畳変調を行い、
前記交流回転機の回転速度が前記低速度範囲内になる速度領域において、回生運転時であり、且つ前記相電流の振幅が前記判定振幅より大きい、又は前記出力トルクの絶対値が前記判定トルクより大きい場合に、前記重畳後の第1組のm相の電圧指令値の最大値が前記搬送波信号の最大値に張り付く、又は前記重畳後の第1組のm相の電圧指令値の最小値が前記搬送波信号の最小値に張り付くような前記第1組用のオフセット電圧を演算すると共に、前記重畳後の第2組のm相の電圧指令値の最大値が前記搬送波信号の最大値に張り付く、又は前記重畳後の第2組のm相の電圧指令値の最小値が前記搬送波信号の最小値に張り付くような前記第2組用のオフセット電圧を演算する2相変調を行うものである。
【発明の効果】
【0007】
回転速度が比較的に低い状態では、変調方式にかかわらず、印加電圧の変化による相電流の変化が比較的に大きくなるため相電流リプルが大きくなりやすい。組間の相互インダクタンスを考慮すると、2相変調時の相電流リプルは、3次高調波重畳変調時の相電流リプルより大きくなる。力行運転時は、エネルギー変換効率が低下しても、より大きな出力トルクを得たい。回転速度が、0を含むように設定された低速度範囲内になる比較的に低い状態において、3次高調波重畳変調が行われるので、相電流リプルを低減することができる。回転速度が比較的に低い場合は、出力トルク及び回転速度に応じて、変調率は比較的に低い範囲を変化するが、変調率が0.5に近づいたとき、相電流リプルを考慮しない母線電圧リプルが最大値になる。このとき、出力トルクが大きい場合は、相電流リプルも比較的に大きくなる。この場合でも、3次高調波重畳変調が行われるので、相電流リプルの増加を抑制することができ、母線電圧リプルが、規格値を超えることを抑制できる。よって、回転速度が比較的に低い状態において、力行運転時に3次高調波重畳変調を行うことにより、出力トルクが増加されても、相電流リプルの増加を抑制し、母線電圧リプルの増加を抑制することができる。また、力行運転時に、変調方式の切り替えが行われないので、切り換えにより、相電流の乱れが生じ、出力トルクが変動することを抑制できる。
【0008】
回転速度が比較的に低く、回生運転時において、相電流の振幅が低く、出力トルクの絶対値が低い場合に、3次高調波重畳変調を行うことで、エネルギー変換効率を、2相変調を行う場合よりも高くすることができる。回転速度が比較的に低く、回生運転時において、相電流の振幅が高く、出力トルクの絶対値が高い場合に、2相変調を行うことで、エネルギー変換効率を、3次高調波重畳変調を行う場合よりも高くすることができる。従って、回転速度が比較的に低い状態において、回生運転時に、相電流の振幅又は出力トルクに基づいて、3次高調波重畳変調及び2相変調を切り替えることにより、スイッチング損失を抑制してエネルギー変換効率(発電効率)を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1に係る交流回転機、電力変換器、及び制御装置の概略構成図である。
図2】実施の形態1に係る組間の電機子巻線の位相差を説明する図である。
図3】実施の形態1に係る制御装置の概略ブロック図である。
図4】実施の形態1に係る制御装置のハードウェア構成図である。
図5】実施の形態1に係る第1組のスイッチング制御を説明するタイムチャートである。
図6】実施の形態1に係る第1組の8つの電圧ベクトルのオンオフパターンを説明する図である。
図7】実施の形態1に係る第1組の8つの電圧ベクトルの位相を説明する図である。
図8】実施の形態1に係る第2組のスイッチング制御を説明するタイムチャートである。
図9】実施の形態1に係る第2組の8つの電圧ベクトルのオンオフパターンを説明する図である。
図10】実施の形態1に係る第2組の8つの電圧ベクトルの位相を説明する図である。
図11】実施の形態1に係る第1組及び第2組の8つの電圧ベクトルの位相を説明する図である。
図12】実施の形態1に係る界磁巻線のスイッチング制御を説明するタイムチャートである。
図13】実施の形態1に係る3次高調波重畳変調を説明するタイムチャートである。
図14】実施の形態1に係る2相変調を説明するタイムチャートである。
図15】実施の形態1に係る相互インダクタンスの増加による相電流リプルの変化を説明する図である。
図16】実施の形態1に係る2相変調時の組間の電圧ベクトルの組合せ説明する図である。
図17】実施の形態1に係る3次高調波重畳変調時の組間の電圧ベクトルの組合せ説明する図である。
図18】実施の形態1に係る変調率と母線電流リプルとの関係とを説明する図である。
図19】実施の形態1に係る回転速度に応じた変調率の変化を説明する図である。
図20】実施の形態1に係る回生運転時の出力トルクと相電流の振幅との関係を説明する図である。
図21】実施の形態1に係る回生運転時の出力トルクと力率との関係を説明する図である。
図22】実施の形態1に係る回生運転時の出力トルクと発電電流との関係を説明する図である。
図23】実施の形態1に係る回転速度及び出力トルクの運転領域における各変調方式の設定を説明する図である。
図24】実施の形態1に係る直流電圧と相電流リプルとの関係を説明する図である。
図25】実施の形態1に係る回転速度と各変調方式の相電流リプルとの関係を説明する図である。
図26】実施の形態1に係る回転速度と各変調方式の母線電圧リプルとの関係と、低速度範囲の設定とを説明する図である。
図27】実施の形態1に係る直流電圧と判定速度との関係を説明する図である。
図28】実施の形態1に係るトルク又は相電流の振幅と、各変調方式のエネルギー変換効率との関係を説明する図である。
図29】実施の形態1に係るトルク又は相電流の振幅と、各変調方式の発熱量との関係を説明する図である。
図30】実施の形態1に係る回転速度と、判定電流又は判定トルクとの関係を説明する図である。
図31】実施の形態1に係る車両用駆動装置を説明する図である。
図32】実施の形態1に係る、交流回転機が双方向に回転する場合の、回転速度及び出力トルクの運転領域における各変調方式の設定を説明する図である。
図33】実施の形態2に係る界磁電流とロータの磁束との関係を説明する図である。
図34】実施の形態2に係る界磁電流と界磁巻線のインダクタンスとの関係を説明する図である。
図35】実施の形態2に係る界磁電流と界磁巻線の局所インダクタンスとの関係を説明する図である。
図36】実施の形態2に係る界磁電流と母線電流リプルとの関係を説明する図である。
図37】実施の形態2に係る回転速度と界磁電流の最大値との関係を説明する図である。
図38】実施の形態2に係る変調率と界磁電流の最大値との関係を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.実施の形態1
実施の形態1に係る交流回転機の制御装置30(以下、単に、制御装置30と称す)について図面を参照して説明する。図1は、本実施の形態に係る交流回転機1、電力変換器4、及び制御装置30の概略構成図である。
【0011】
1-1.交流回転機1
交流回転機1は、円筒状のステータ18と、ステータ18の径方向内側に配置されたロータ14と、を備えている。ステータ18に、2組のm相(mは2以上の自然数)の電機子巻線が巻装されている。ロータ14には、ロータ14に磁束を発生させる界磁巻線5が設けられている。ロータ14に、界磁巻線5と共に永久磁石が設けられてもよい。界磁巻線5は、ロータ14の外部に設けられてもよい。交流回転機1は、界磁巻線式の同期回転機とされている。本実施の形態では、m=3に設定されている。ステータ18には、第1組の3相の電機子巻線Cu1、Cv1、Cw1と、第2組の3相の電機子巻線Cu2、Cv2、Cw2とが設けられている。第1組の3相を、U1相、V1相、W1相とし、第2組の3相を、U2相、V2相、W2相とする。各組の3相の電機子巻線は、スター結線とされてもよいし、デルタ結線とされてもよい。
【0012】
本実施の形態では、図2に模式図を示すように、第1組の3相の電機子巻線Cu1、Cv1、Cw1の位置に対する第2組の3相の電機子巻線Cu2、Cv2、Cw2の位置の電気角での位相差Δθは、Δθ=-π/6(-30度)に設定されている。なお、電気角は、ロータ14の機械角にロータ14の極対数を乗算した角度になる。
【0013】
ロータ14には、ロータ14の回転角度(回転角度)を検出する回転センサ15が設けられている。回転センサ15の出力信号は、制御装置30に入力される。回転センサ15には、ホール素子、レゾルバ、又はエンコーダ等の各種のセンサが用いられる。回転センサ15が設けられず、後述する電流指令値に高調波成分を重畳することによって得られる電流情報等に基づいて、回転角度(磁極位置)を推定するように構成されてもよい(いわゆる、センサレス方式)。
【0014】
1-2.直流電源2
直流電源2は、電力変換器4に直流電圧Vdcを出力する。直流電源2として、バッテリー、DC-DCコンバータ、ダイオード整流器、PWM整流器等、直流電圧を出力する任意の機器が用いられる。直流電源2には、平滑コンデンサ3が並列接続されている。
【0015】
平滑コンデンサ3が、電力変換器4を直流電源2に接続する高電位側の母線7Pと低電位側の母線7Nとの間に接続されている。平滑コンデンサ3は、電力変換器4に供給される直流電圧Vdcの変動を抑制し、安定させる。ここでは細かく図示しないが、平滑コンデンサ3のコンデンサ容量C以外に等価直列抵抗Rc、リードインダクタンスLcが存在する。
【0016】
直流電源2から電力変換器4に供給される直流電圧Vdcを検出する電源電圧センサ13が備えられている。電源電圧センサ13は、高電位側の母線7Pと低電位側の母線7Nとの間に接続されている。電源電圧センサ13の出力信号は、制御装置30に入力される。
【0017】
1-3.電力変換器4
電力変換器4は、直流電源2と2組の3相の電機子巻線との間で電力変換を行う。また、電力変換器4は、直流電源2と界磁巻線5との間で電力変換を行う。電力変換器4は、直流電源2と第1組の3相の電機子巻線との間で電力変換を行う第1組用の電力変換器4a(第1組用のインバータ4aとも称す)と、直流電源2と第2組の3相の電機子巻線との間で電力変換を行う第2組用の電力変換器4b(第2組用のインバータ4bとも称す)と、直流電源2と界磁巻線5との間で電力変換を行う界磁巻線用の電力変換器4c(コンバータ4cとも称す)と、を有している。
【0018】
直流電源2と電力変換器4とを接続する共通の母線7を流れる母線電流Idcは、次式に示すように、直流電源2と第1組用のインバータ4aとを接続する母線部分を流れる第1組の母線電流Iinv1と、直流電源2と第2組用のインバータ4bとを接続する母線部分を流れる第2組の母線電流Iinv2と、直流電源2とコンバータ4cとを接続する母線部分を流れるコンバータの母線電流Icnvと、の合計になる。
【数1】
【0019】
母線電流Idcが負の場合は、電力変換器4から直流電源2に電流が供給され、回生運転状態になる。母線電流Idcが正の場合は、直流電源2から電力変換器4に電流が供給され、力行運転状態になる。なお、出力トルクの方向が回転方向と同じ方向である場合を、力行運転状態とし、出力トルクの方向が回転方向と反対方向である場合を、回生運転状態としてもよい。
【0020】
第1組用のインバータ4aは、直流電源2の高電位側に接続される高電位側のスイッチング素子SPと、直流電源2の低電位側に接続される低電位側のスイッチング素子SNと、が直列接続された直列回路を、第1組の3相各相の電機子巻線に対応して3セット設けている。各直列回路における2つのスイッチング素子の接続点が、第1組の対応する相の電機子巻線に接続される。第2組用のインバータ4bは、直流電源2の高電位側に接続される高電位側のスイッチング素子SPと、直流電源2の低電位側に接続される低電位側のスイッチング素子SNと、が直列接続された直列回路を、第2組の3相各相の電機子巻線に対応して3セット設けている。各直列回路における2つのスイッチング素子の接続点が、第2組の対応する相の電機子巻線に接続される。
【0021】
スイッチング素子には、ダイオードが逆並列接続されたIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、ダイオードが逆並列接続されたFET(Field Effect Transistor)、逆並列接続されたダイオードの機能を有するMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)、ダイオードが逆並列接続されたバイポーラトランジスタ等が用いられる。各スイッチング素子のゲート端子は、制御装置30に接続されている。各スイッチング素子は、制御装置30から出力される制御信号によりオン又はオフされる。
【0022】
第1組用の電機子電流センサ8aは、第1組の各相の電機子巻線Cu1、Cv1、Cw1に流れる電流を検出する電流検出回路である。第2組用の電機子電流センサ8bは、第2組の各相の電機子巻線Cu2、Cv2、Cw2に流れる電流を検出する電流検出回路である。本実施の形態では、各組の電機子電流センサ8a、8bは、各相のスイッチング素子の直列回路と電機子巻線とをつなぐ電線上に備えられている。各組用の各相の電機子電流センサ8a、8bの出力信号は、制御装置30に入力される。電機子電流センサは、ホール素子、シャント抵抗等の電流センサとされている。なお、電機子電流センサは、各組の各相のスイッチング素子の直列回路に直列接続されてもよい。或いは、各組の電機子電流センサ8a、8は、各組のインバータ4a、4bと直流電源2と接続する電線上に設けられ、各組について、公知の「母線1シャント方式」により、各相の電機子巻線の電流が検出されてもよい。
【0023】
コンバータ4cは、スイッチング素子を有し、直流電源2と界磁巻線5との間で電力変換を行う。本実施の形態では、コンバータ4cは、直流電源2の高電位側に接続される高電位側のスイッチング素子SPと直流電源2の低電位側に接続される低電位側のスイッチング素子SNとが直列接続された直列回路を2組設けたHブリッジ回路とされている。第1の直列回路における高電位側のスイッチング素子SP1と低電位側のスイッチング素子SN1との接続点が、界磁巻線5の一端に接続され、第2の直列回路における高電位側のスイッチング素子SP2と低電位側のスイッチング素子SN2との接続点が、界磁巻線5の他端に接続される。
【0024】
コンバータ4cのスイッチング素子には、ダイオードが逆並列接続されたIGBT、ダイオードが逆並列接続されたバイポーラトランジスタ、MOSFET等が用いられる。各スイッチング素子のゲート端子は、ゲート駆動回路等を介して、制御装置30に接続されている。よって、各スイッチング素子は、制御装置30から出力されるスイッチング信号によりオン又はオフされる。
【0025】
なお、第1の直列回路の低電位側のスイッチング素子SN1をダイオードに置き換えたり、第2の直列回路の高電位側のスイッチング素子SP2をダイオードに置き換えたりする等、コンバータ4cを他の構成としてもよい。
【0026】
界磁電流センサ6は、界磁巻線5を流れる電流である界磁電流Ifを検出する電流検出回路である。本実施の形態では、界磁電流センサ6は、界磁巻線5とコンバータ4cとをつなぐ電線上に設けられている。界磁電流センサ6は、界磁電流Ifを検出可能な他の個所に設けられてもよい。界磁電流センサ6の出力信号は、制御装置30に入力される。界磁電流センサ6は、ホール素子、シャント抵抗等の電流センサとされている。
【0027】
1-4.制御装置30
制御装置30は、電力変換器4を介して、交流回転機1を制御する。制御装置30は、図3に示すように、回転検出部31、電機子電流検出部32、電圧指令値演算部33、スイッチング制御部34、界磁電流検出部35、及び界磁電流制御部36等の機能部を備えている。制御装置30の各機能は、制御装置30が備えた処理回路により実現される。具体的には、制御装置30は、図4に示すように、処理回路として、CPU(Central Processing Unit)等の演算処理装置90(コンピュータ)、演算処理装置90とデータのやり取りする記憶装置91、演算処理装置90に外部の信号を入力する入力回路92、演算処理装置90から外部に信号を出力する出力回路93、及び外部装置とデータ通信を行う通信回路94等を備えている。
【0028】
演算処理装置90として、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、IC(Integrated Circuit)、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、各種の論理回路、及び各種の信号処理回路等が備えられてもよい。また、演算処理装置90として、同じ種類のもの又は異なる種類のものが複数備えられ、各処理が分担して実行されてもよい。記憶装置91として、演算処理装置90からデータを読み出し及び書き込みが可能に構成されたRAM(Random Access Memory)、及び演算処理装置90からデータを読み出し可能に構成されたROM(Read Only Memory)等が備えられている。入力回路92は、回転センサ15、電源電圧センサ13、各組用の電機子電流センサ8a、8b、界磁電流センサ6等の各種のセンサが接続され、これらセンサの出力信号を演算処理装置90に入力するA/D変換器等を備えている。出力回路93は、電力変換器4のスイッチング素子をオンオフ駆動するゲート駆動回路等の電気負荷が接続され、これら電気負荷に演算処理装置90から制御信号を出力する駆動回路等を備えている。通信回路94は、外部装置と通信を行う。
【0029】
そして、制御装置30が備える各制御部31~36等の各機能は、演算処理装置90が、ROM等の記憶装置91に記憶されたソフトウェア(プログラム)を実行し、記憶装置91、入力回路92、及び出力回路93等の制御装置30の他のハードウェアと協働することにより実現される。なお、各制御部31~36等が用いる判定速度ωth、判定振幅Ith、及び判定トルクTthなどの各種の設定データは、ソフトウェア(プログラム)の一部として、ROM等の記憶装置91に記憶されている。以下、制御装置30の各機能について詳細に説明する。
【0030】
<回転検出部31>
回転検出部31は、電気角でのロータの磁極位置θ(ロータの回転角度θ)及び回転速度ω(回転角速度)を検出する。本実施の形態では、回転検出部31は、回転センサ15の出力信号に基づいて、電気角での磁極位置θ(回転角度θ)及び回転速度ωを検出する。磁極位置は、ロータに設けられた磁石のN極の向きに設定される。本実施の形態では、磁極位置θ(回転角度θ)は、第1組のU1相の電機子巻線を基準にした、電気角での磁極(N極)の位置(角度)である。図2に示した第1組の電機子巻線と第2組の電機子巻線との位相差π/6(30度)から、第2組のU2相の電機子巻線を基準にした、電気角での磁極(N極)の位置(角度)は、θ-π/6になる。
【0031】
なお、回転検出部31は、電流指令値に高調波成分を重畳することによって得られる電流情報等に基づいて、回転センサを用いずに、回転角度(磁極位置)を推定するように構成されてもよい(いわゆる、センサレス方式)。
【0032】
<電機子電流検出部32>
電機子電流検出部32は、第1組用の電機子電流センサ8aの出力信号に基づいて、第1組の3相の電機子巻線に流れる相電流Ius1、Ivs1、Iws1を検出する。また、電機子電流検出部32は、第2組用の電機子電流センサ8bの出力信号に基づいて、第2組の3相の電機子巻線に流れる相電流Ius2、Ivs2、Iws2を検出する。なお、各組について、電機子電流センサが2相の相電流を検出するように構成され、残りの1相の相電流が、2相の相電流の検出値に基づいて演算されてもよい。
【0033】
<電圧指令値演算部33>
電圧指令値演算部33は、第1組の3相の電機子巻線に印加する第1組の3相の電圧指令値Vuo1、Vvo1、Vwo1と、第2組の3相の電機子巻線に印加する第2組のm相の電圧指令値Vuo2、Vvo2、Vwo2と、を演算する。電圧指令値演算部33は、第1組の3相の電圧指令値Vuo1、Vvo1、Vwo1に、第1組用のオフセット電圧Voff1を重畳して、重畳後の第1組の3相の電圧指令値Vuo*1、Vvo*1、Vwo*1を演算し、第2組の3相の電圧指令値Vuo2、Vvo2、Vwo2に、第2組用のオフセット電圧Voff2を重畳して、重畳後の第2組の3相の電圧指令値Vuo*2、Vvo*2、Vwo*2を演算する。オフセット電圧の重畳については後述する。
【0034】
各組の重畳前の3相の電圧指令値Vuo、Vvo、Vwoの演算には、公知の各種の方法が用いられる。電圧指令値演算部33は、外部の動作指令などに基づいて、各組の重畳前の3相の電圧指令値Vuo、Vvo、Vwoを演算する。外部の動作指令としては、トルク指令値又は回転速度指令値などが挙げられる。各組の重畳前の3相の電圧指令値Vuo、Vvo、Vwoは、互いに電気角で120度の位相差を有し、電気角での回転周期で振動する正弦波又は余弦波になる。本実施の形態では、各組の重畳前の3相の電圧指令値Vuo、Vvo、Vwoの振動中心値は、0である。なお、各組の重畳前の3相の電圧指令値Vuo、Vvo、Vwoの振動中心値は、直流電圧の半分値Vdc/2であってもよい。
【0035】
例えば、各組について、電圧指令値演算部33は、外部からの動作指令及び直流電圧Vdc及び回転速度ωに基づいて、d軸及びq軸の電流指令値Ido、Iqoを演算し、d軸及びq軸の電流指令値Ido、Iqoに基づいて、d軸及びq軸の電圧指令値Vdo、Vqoを演算し、d軸及びq軸の電圧指令値Vdo、Vqoを磁極位置θに基づいて、固定座標変換及び2相3相変換を行って、3相の電圧指令値Vuo、Vvo、Vwoに変換する。
【0036】
ここで、各組について、電圧指令値演算部33は、3相の相電流の検出値Ius、Ivs、Iwsを、磁極位置θに基づいて、3相2相変換及び回転座標変換を行って、d軸及びq軸の電流検出値Ids、Iqsに変換し、d軸及びq軸の電流検出値Ids、Iqsがd軸及びq軸の電流指令値Ido、Iqoに近づくように、d軸及びq軸の電圧指令値Vdo、Vqoを変化させるフィードバック制御を行ってもよい。或いは、電圧指令値演算部33は、相電流の検出値を用いず、d軸及びq軸の電流指令値Ido、Iqoに基づいて、交流回転機の電気的定数(インダクタンス、磁石による鎖交磁束、巻線抵抗など)を用い、d軸及びq軸の電流指令値Ido、Iqoを変化させるフィードフォワード制御を行ってもよい。
【0037】
<スイッチング制御部34>
スイッチング制御部34は、重畳後の第1組の3相の電圧指令値Vuo*1、Vvo*1、Vwo*1と搬送波信号CAとを比較し、比較結果に基づいて、第1組用のインバータ4aの複数のスイッチング素子をオンオフし、重畳後の第2組の3相の電圧指令値Vuo*2、Vvo*2、Vwo*2と搬送波信号CAとを比較し、比較結果に基づいて、第2組用のインバータ4bの複数のスイッチング素子をオンオフする。
【0038】
本実施の形態では、図5及び図8に示すように、搬送波信号CAは、PWM周期Tcで0を中心に直流電圧の半分値Vdc/2の振幅で振動する三角波とされている。三角波以外に鋸波等の任意の波形が用いられてもよい。第1組用の搬送波信号CAと、第2組用の搬送波信号CAとは、同じものが用いられる。すなわち、第1組用の搬送波信号CAの位相及び波形と、第2組用の搬送波信号CAの位相及び波形とが、一致する。なお、演算遅れなどによる、PWM周期Tcよりも十分小さいズレがあってもよい。
【0039】
図5は、Vuo*1>Vvo*1>Vwo*1になる場合の第1組のオンオフ挙動を示す。スイッチング制御部34は、各相について、搬送波信号CAが電圧指令値を下回った場合は、高電位側のスイッチング素子のスイッチング信号QP1をオン(本例では、1)して、高電位側のスイッチング素子をオンし、搬送波信号CAが電圧指令値を上回った場合は、高電位側のスイッチング素子のスイッチング信号QP1をオフ(本例では、0)して、高電位側のスイッチング素子をオフする。一方、スイッチング制御部34は、各相について、搬送波信号CAが電圧指令値を下回った場合は、低電位側のスイッチング素子のスイッチング信号QN1をオフ(本例では、0)して、低電位側のスイッチング素子をオフし、搬送波信号CAが電圧指令値を上回った場合は、低電位側のスイッチング素子のスイッチング信号QN1をオン(本例では、1)して、低電位側のスイッチング素子をオンする。なお、各相について、高電位側のスイッチング素子のオン期間と低電位側のスイッチング素子のオン期間との間には、高電位側及び低電位側のスイッチング素子の双方をオフにする短絡防止期間(デッドタイム)が設けられてもよい。
【0040】
図6に示すように、第1組の6つのスイッチング素子のオンオフパターンは8つある。図6において、「0」は、対応するスイッチング素子がオフであり、「1」は、対応するスイッチング素子がオンであることを示す。第1組の8つのオンオフパターンを、電圧ベクトルV0_1~V7_1と称す。
【0041】
電圧ベクトルV0_1及び電圧ベクトルV7_1では、第1組の3相の電機子巻線Cu1、Cv1、Cw1の端子が相互に接続され、電流が、第1組の3相の電機子巻線と第1組用のインバータ4aの間で還流し、直流電源2と第1組用のインバータ4aとの間を流れる第1組の母線電流Iinv1が0になる零ベクトルの状態になる。
【0042】
他の電圧ベクトルV1_1~V6_1では、第1組の母線電流Iinv1は、U1相、V1相、W1相の電機子巻線を流れる相電流Iu1、Iv1、Iw1のいずれかと等しくなる。これらの電圧ベクトルV1_1~V6_1では、直流電源2と第1組用のインバータ4aとの間を流れる第1組の母線電流Iinv1が0にならず、有効ベクトルの状態になる。
【0043】
第1組の8つの電圧ベクトルV0_1~V7_1の位相は、図7に示すようになる。
【0044】
図5の例では、時刻t1~t2及び時刻t8~t9においてV7_1になり、時刻t2~t3及び時刻t7からt8においてV2_1になり、時刻t3~t4及びt6~t7においてV1_1になり、時刻t4~t6においてV0_1になる。
【0045】
図8は、Vuo*2>Vvo*2>Vwo*2になる場合の第2組のオンオフ挙動を示す。第1組と同様に、スイッチング制御部34は、各相について、搬送波信号CAが電圧指令値を下回った場合は、高電位側のスイッチング素子のスイッチング信号QP2をオン(本例では、1)して、高電位側のスイッチング素子をオンし、搬送波信号CAが電圧指令値を上回った場合は、高電位側のスイッチング素子のスイッチング信号QP2をオフ(本例では、0)して、高電位側のスイッチング素子をオフする。一方、スイッチング制御部34は、各相について、搬送波信号CAが電圧指令値を下回った場合は、低電位側のスイッチング素子のスイッチング信号QN2をオフ(本例では、0)して、低電位側のスイッチング素子をオフし、搬送波信号CAが電圧指令値を上回った場合は、低電位側のスイッチング素子のスイッチング信号QN2をオン(本例では、1)して、低電位側のスイッチング素子をオンする。
【0046】
図9に示すように、第2組の6つのスイッチング素子のオンオフパターンは8つある。図9において、「0」は、対応するスイッチング素子がオフであり、「1」は、対応するスイッチング素子がオンであることを示す。第2組の8つのオンオフパターンを、電圧ベクトルV0_2~V7_2と称す。
【0047】
電圧ベクトルV0_2及び電圧ベクトルV7_2では、第2組の3相の電機子巻線Cu2、Cv2、Cw2の端子が相互に接続され、電流が、第2組の3相の電機子巻線と第2組用のインバータ4bの間で還流し、直流電源2と第2組用のインバータ4bとの間を流れる第2組の母線電流Iinv2が0になる零ベクトルの状態になる。
【0048】
他の電圧ベクトルV1_2~V6_2では、第2組の母線電流Iinv2は、U2相、V2相、W2相の電機子巻線を流れる相電流Iu2、Iv2、Iw2のいずれかと等しくなる。これらの電圧ベクトルV1_2~V6_2では、直流電源2と第2組用のインバータ4bとの間を流れる第2組の母線電流Iinv2が0にならず、有効ベクトルの状態になる。
【0049】
第2組の8つの電圧ベクトルV0_2~V7_2の位相は、図10に示すようになる。
【0050】
図8の例では、時刻t1~t2及び時刻t8~t9においてV7_2になり、時刻t2~t3及び時刻t7からt8においてV2_2になり、時刻t3~t4及びt6~t7においてV1_2になり、時刻t4~t6においてV0_2になる。
【0051】
図11に、第1組の8つの電圧ベクトルV0_1~V7_1の位相と第2組の8つの電圧ベクトルV0_2~V7_2の位相とを重ねて示す。本実施の形態では、U1相とU2相との位相差が、30度(π/6)であるので、第1組の電圧ベクトルと第2組の電圧ベクトルとの位相差が30度になっている。
【0052】
その結果、V1_2は、V1_1とV2_1に隣接し、V2_2は、V2_1とV3_1に隣接し、V3_2は、V3_1とV4_1に隣接し、V4_2は、V4_1とV5_1に隣接し、V5_2は、V5_1とV6_1に隣接し、V6_2は、V6_1とV1_1に隣接する。
【0053】
<界磁電流検出部35及び界磁電流制御部36>
界磁電流検出部35は、界磁電流センサ6の出力信号に基づいて、界磁巻線5に流れる界磁電流Ifsを検出する。
【0054】
界磁電流制御部36は、コンバータ4cのスイッチング素子をオンオフして、界磁巻線5に流れる界磁電流を制御する。
【0055】
本実施の形態では、界磁電流制御部36は、外部からの動作指令及び直流電圧Vdc及び回転速度ωに基づいて、界磁電流の指令値Ifoを演算し、界磁電流の指令値Ifoに基づいて界磁巻線の電圧指令値Vfoを演算する。本実施の形態では、界磁電流制御部36は、界磁電流の検出値Ifsが、界磁電流の指令値Ifoに近づくように、界磁巻線の電圧指令値Vfoを変化させるフィードバック制御を行う。なお、電流センサは必須では無く、フィードフォワード制御を行ってもよい。
【0056】
界磁電流制御部36は、界磁巻線の電圧指令値Vfoに基づいて、PWM制御によりコンバータ4cの複数のスイッチング素子をオンオフ制御する。
【0057】
例えば、図12に示すように、界磁電流制御部36は、界磁巻線の電圧指令値Vfoと、界磁巻線用のPWM周期Tcfで振動する界磁巻線用の搬送波信号Cfとを比較することにより、複数のスイッチング素子をオンオフ制御する。界磁巻線用の搬送波信号Cfは、界磁巻線用のPWM周期Tcfで0から直流電圧Vdcの間を振動する三角波とされている。
【0058】
界磁電流制御部36は、界磁巻線用の搬送波信号Cfが界磁巻線の電圧指令値Vfoを下回った場合は、第1組の高電位側のスイッチング素子SP1のスイッチング信号QP1をオン(本例では、1)し、第1組の低電位側のスイッチング素子SN1のスイッチング信号QN1をオフ(本例では、0)し、第2組の高電位側のスイッチング素子SP2のスイッチング信号QP2をオフ(0)し、第2組の低電位側のスイッチング素子SN2のスイッチング信号QN2をオン(1)する。
【0059】
一方、界磁電流制御部36は、界磁巻線用の搬送波信号Cfが界磁巻線の電圧指令値Vfoを上回った場合は、第1組の高電位側のスイッチング信号QP1をオフ(0)し、第1組の低電位側のスイッチング信号QN1をオン(1)し、第2組の高電位側のスイッチング信号QP2をオン(1)し、第2組の低電位側のスイッチング信号QN2をオフ(0)する。
【0060】
<オフセット電圧の重畳>
上述したように、電圧指令値演算部33は、第1組の3相の電圧指令値Vuo1、Vvo1、Vwo1に、第1組用のオフセット電圧Voff1を重畳して、重畳後の第1組の3相の電圧指令値Vuo*1、Vvo*1、Vwo*1を演算し、第2組の3相の電圧指令値Vuo2、Vvo2、Vwo2に、第2組用のオフセット電圧Voff2を重畳して、重畳後の第2組の3相の電圧指令値Vuo*2、Vvo*2、Vwo*2を演算する。
【0061】
本実施の形態では、次式に示すように、電圧指令値演算部33は、第1組の3相の電圧指令値Vuo1、Vvo1、Vwo1から、第1組用のオフセット電圧Voff1を減算して、重畳後の第1組の3相の電圧指令値Vuo*1、Vvo*1、Vwo*1を演算する。
【数2】
【0062】
また、次式に示すように、電圧指令値演算部33は、第2組の3相の電圧指令値Vuo2、Vvo2、Vwo2から、第2組用のオフセット電圧Voff2を減算して、重畳後の第2組の3相の電圧指令値Vuo*2、Vvo*2、Vwo*2を演算する。
【数3】
【0063】
本実施の形態では、電圧指令値演算部33は、3次高調波重畳変調又は2相変調により、第1組用のオフセット電圧Voff1及び第2組用のオフセット電圧Voff2を演算する。
【0064】
<3次高調波重畳変調>
3次高調波重畳変調を行う場合は、電圧指令値演算部33は、設定中心電圧αを中心に、電気角の回転周波数の3倍の周波数で振動し、重畳後の第1組の3相の電圧指令値Vuo*1、Vvo*1、Vwo*1の最大値及び最小値の平均値が設定中心電圧αに一致するような第1組用のオフセット電圧Voff1を演算する。また、電圧指令値演算部33は、同じ設定中心電圧αを中心に、電気角の回転周波数の3倍の周波数で振動し、重畳後の第2組の3相の電圧指令値Vuo*2、Vvo*2、Vwo*1の最大値及び最小値の平均値が設定中心電圧αに一致するような第2組用のオフセット電圧Voff2を演算する。
【0065】
本実施の形態では、次式に示すように、電圧指令値演算部33は、重畳前の第1組の3相の電圧指令値Vuo1、Vvo1、Vwo1の最大値Vmax1と最小値Vmin1との平均値から、設定中心電圧αを減算した値を、第1組用のオフセット電圧Voff1として演算する。ここで、MAX(a,b,c)は、a,b,cの内の最大値を出力する関数であり、MIN(a,b,c)は、a,b,cの内の最小値を出力する関数である。
【数4】
【0066】
図13に示すように、第1組用のオフセット電圧Voff1は、設定中心電圧α(図13では、α=0)を中心に、電気角の回転周波数の3倍の周波数で振動する三角波となる。
【0067】
次式に示すように、重畳後の第1組の3相の電圧指令値の最大値及び最小値の平均値は、設定中心電圧αに一致する。
【数5】
【0068】
また、次式に示すように、電圧指令値演算部33は、重畳前の第2組の3相の電圧指令値Vuo2、Vvo2、Vwo2の最大値Vmax2と最小値Vmin2との平均値から、設定中心電圧αを減算した値を、第2組用のオフセット電圧Voff2として演算する。第2組用のオフセット電圧Voff2の位相は、第1組用のオフセット電圧Voff1の位相に対して組間の電機子巻線の位相差Δθ(本例では、-π/6)だけずれる。
【数6】
【0069】
この3次高調波重畳変調の方式は、いわゆる、min-max法(疑似3次高調波重畳変調)と呼ばれる方式に、設定中心電圧αの減算を追加した方式である。よって、3次高調波重畳変調により、重畳後の各組の3相の電圧指令値の振幅を低減できると共に、重畳後の各組の3相の電圧指令値の振動中心値を、設定中心電圧αだけシフトできる。
【0070】
<2相変調>
2相変調を行う場合は、電圧指令値演算部33は、重畳後の第1組の1相の電圧指令値が搬送波信号の最大値CAmax又は最小値CAminに一致するような第1組用のオフセット電圧Voff1を演算すると共に、重畳後の第2組の1相の電圧指令値が搬送波信号の最大値CAmax又は最小値CAminに一致するような第2組用のオフセット電圧Voff2を演算する。本実施の形態では、各組の重畳前の3相の電圧指令値Vuo、Vvo、Vwoの振動中心値は0であるため、搬送波信号の振動中心値CAmidは0であり、搬送波信号の最大値CAmaxは、直流電圧の半分値Vdc/2であり、搬送波信号の最小値CAminは、直流電圧の半分値Vdc/2×-1である。なお、各組の重畳前の3相の電圧指令値Vuo、Vvo、Vwoの振動中心値が、直流電圧の半分値Vdc/2である場合は、搬送波信号の振動中心値CAmidは直流電圧の半分値Vdc/2になり、搬送波信号の最大値CAmaxは、直流電圧Vdcになり、搬送波信号の最小値CAminは、0になる。
【0071】
本実施の形態では、第1組について、次式に示すように、電圧指令値演算部33は、重畳前の第1組の3相の電圧指令値Vuo1、Vvo1、Vwo1の最大値Vmax1及び最小値Vmin1の平均値が、搬送波信号の振動中心値CAmid(本例では0)より大きい場合は、電圧指令値の最大値Vmax1に対応する相の重畳後の電圧指令値が搬送波信号の最大値CAmaxに張り付くように、電圧指令値の最大値Vmax1から搬送波信号の最大値CAmaxを減算した値を、第1組用のオフセット電圧Voff1として演算し、電圧指令値の最大値Vmax1及び最小値Vmin1の平均値が、搬送波信号の振動中心値CAmid(本例では0)より小さい場合は、電圧指令値の最小値Vmin1に対応する相の重畳後の電圧指令値が搬送波信号の最小値CAminに張り付くように、電圧指令値の最小値Vmin1から搬送波信号の最小値CAminを減算した値を、第1組用のオフセット電圧Voff1として演算する。
【数7】
【0072】
この場合は、図14に示すように、重畳前の第1組の3相の電圧指令値Vuo1、Vvo1、Vwo1内の最大値Vmax1又は最小値Vmin1に対応する1相の電圧指令値が、搬送波信号の最大値CAmax(本例では、Vdc/2)又は最小値CAmin(本例では、-Vdc/2)に張り付いている。
【0073】
第2組について、次式に示すように、電圧指令値演算部33は、重畳前の第2組の3相の電圧指令値Vuo2、Vvo2、Vwo2の最大値Vmax2及び最小値Vmin2の平均値が、搬送波信号の振動中心値CAmid(本例では0)より大きい場合は、電圧指令値の最大値Vmax2に対応する相の重畳後の電圧指令値が搬送波信号の最大値CAmaxに張り付くように、電圧指令値の最大値Vmax2から搬送波信号の最大値CAmaxを減算した値を、第2組用のオフセット電圧Voff2として演算し、電圧指令値の最大値Vmax2及び最小値Vmin2の平均値が、搬送波信号の振動中心値CAmid(本例では0)より小さい場合は、電圧指令値の最小値Vmin2に対応する相の重畳後の電圧指令値が搬送波信号の最小値CAminに張り付くように、電圧指令値の最小値Vmin2から搬送波信号の最小値CAminを減算した値を、第2組用のオフセット電圧Voff2として演算する。
【数8】
【0074】
<相電流リプルを低減するための組間の電圧ベクトルの組み合わせの理論説明>
以下で、変調方式の設定を検討するために、相電流リプルを低減するための組間の電圧ベクトルの組み合わせについて、理論的に説明する。
【0075】
第1組のd軸電圧をVd1とし、第1組のq軸電圧をVq1とし、第2組のd軸電圧をVd2とし、第2組のq軸電圧をVq2とすると、式(9)が成り立つ。
【数9】
【0076】
d軸の自己インダクタンスをLdとし、d軸の相互インダクタンスをMdとし、q軸の自己インダクタンスをLqとし、q軸の相互インダクタンスをMqとし、pを微分演算子とすると、回転速度が低いときの6相の相電流の微分値は式(10)で表すことができる。
【数10】
【0077】
自己インダクタンスに対する相互インダクタンスの比を表す結合係数をkとし、d軸及びq軸の相互インダクタンスMd、Mqを式(11)のように簡単化する。結合係数kが大きくなるに従って、組間の相互インダクタンスが大きくなり、相互インダクタンスを考慮した制御の必要性が高くなる。以下では、6相の相電流を、式(12)に対する比で表現する。
【数11】
【数12】
【0078】
電圧ベクトルV1_1とV0_2を出力するとき、6相の相電流の微分値の直流成分は式(13)で与えられる。このとき、第1組用のインバータ4a及び第2組用のインバータ4bに流入する母線電流の和(Iinv1+Iinv2)の微分値は、式(14)となる。
【数13】
【数14】
【0079】
電圧ベクトルV1_1とV1_2を出力するとき、6相の相電流の微分値の直流成分は、式(15)で与えられる。このとき、第1組用のインバータ4a及び第2組用のインバータ4bに流入する母線電流の和の微分値は式(16)となる。
【数15】
【数16】
【0080】
電圧ベクトルV1_1とV2_2を出力するとき、6相の相電流の微分値の直流成分は式(17)で与えられる。このとき、第1組用のインバータ4a及び第2組用のインバータ4bに流入する母線電流の和の微分値は式(18)となる。
【数17】
【数18】
【0081】
電圧ベクトルV1_1とV3_2を出力するとき、6相の相電流の微分値の直流成分は式(19)で与えられる。このとき、第1組用のインバータ4a及び第2組用のインバータ4bに流入する母線電流の和の微分値は式(20)となる。
【数19】
【数20】
【0082】
以上の導出式を用い、図15に、第1組の電圧ベクトルV1_1を出力する場合において、第2組の各電圧ベクトルV0_2、V1_2、V2_2、V3_2について、結合係数kと第1組用のインバータ4a及び第2組用のインバータ4bに流入する母線電流の和の微分値との関係を示す。なお、結合係数kは、自己インダクタンスに対する相互インダクタンスの比であり、結合係数kが大きくなるに従って、組間の相互インダクタンスが大きくなり、相互インダクタンスを考慮した制御の必要性が高くなる。
【0083】
結合係数kが大きい場合、すなわち、組間の相互インダクタンスが大きい場合には、零電圧ベクトルであるV0_2を出力するよりも、V1_1と隣接する30度の位相差のV1_2を出力することで、母線電流の変化(微分値)を小さくできる。V1_1と60度の位相差のV2_2を出力すると、零電圧ベクトルであるV0_2を出力するときの母線電流の変化(微分値)の2倍になる。一方、V1_1と120度の位相差のV3_2を出力すると、母線電流の変化(微分値)が大きくなる。母線電圧リプルは、母線電流の変化(微分値)と正の相関があるため、V1_1を出力する場合には、零電圧ベクトルV0_2又はV7_2、又はV1_1と隣接する電圧ベクトルV1_2又はV6_2を出力する方が、V1_1と位相差の大きいV2_2、V3_2、V4_2およびV5_2を出力するより母線電圧リプルを抑制できる。ここでは、V1_1との組み合わせについて示しているが、V2_1~V6_1についても同様の結果が得られる。
【0084】
以上より、本実施の形態のように組間の相互インダクタンスを無視できない交流回転機では、組間の位相差が小さい隣接した第1組の電圧ベクトルと第2組の電圧ベクトルを出力する、又は一方の組について零電圧ベクトルを出力することにより、第1組用のインバータ4a及び第2組用のインバータ4bに流入する相電流の変化による母線電流の変化を小さくし、母線電圧リプルを小さくできる。
【0085】
<2相変調の傾向>
上述したように、2相変調では、1相の電圧指令値が、搬送波信号のCAmax又は最小値CAminに設定され、1相のスイッチング素子のオンオフが停止される。よって、スイッチング損失を低減できる。
【0086】
2相変調を実行し、各組の3相の電圧指令値の変調率が0.6である場合に、各組のU相の電機子巻線Cuに対する各組の3相の電圧指令値の電圧ベクトルVの位相θvを、0度から60度まで変化させたときの、PWM周期Tcにおける各組の電圧ベクトルの設定は、図16のようになる。なお、図2に、第1組のU1相の電機子巻線Cu1に対する第1組の3相の電圧指令値の電圧ベクトルV1の位相θvを示している。交流回転機の特性変動がない場合は、基本的に、第1組のU1相の電機子巻線Cu1に対する第1組の3相の電圧指令値の電圧ベクトルV1の位相θvと、第2組のU2相の電機子巻線Cu2に対する第2組の3相の電圧指令値の電圧ベクトルV2の位相θvと、は同じになる。
【0087】
例えば、電圧ベクトルの位相θvが10度である場合には、PWM周期Tcにおいて、V7_1とV7_2の組合せ、V7_1とV6_2の組合せ、V2_1とV6_2の組合せ、V1_1とV6_2の組合せ、V1_1とV1_2の組合せが、順番に設定される。このうち、V2_1とV6_2の組合せでは、組間で90度の位相差がある電圧ベクトルの組合せになっており、相電流リプル及び母線電圧リプルが大きくなる。また、電圧ベクトルの位相θvが40度である場合には、V2_1とV7_2の組合せ、V1_1とV7_2の組合せ、V1_1とV2_2の組合せ、V1_1とV1_2の組合せ、V0_1とV1_2の組合せが、順番に設定される。このうち、V1_1とV2_2の組合せでは、組間で90度の位相差がある電圧ベクトルの組合せになっており、相電流リプル及び母線電圧リプルが大きくなる。したがって、どの電圧ベクトルの位相θvにおいても、組間で90度の位相差がある電圧ベクトルの組合せが設定される区間が存在するため、相電流リプル及び母線電圧リプルが大きくなりやすい。
【0088】
<3次高調波重畳変調の傾向>
上述したように、3次高調波重畳変調では、第1組の3相の電圧指令値の振動中心値及び第2組の3相の電圧指令値の振動中心値が、同じ設定中心電圧αだけシフトされる。よって、有効電圧ベクトルの区間を短くすることができる。
【0089】
3次高調波重畳変調を実行し、各組の3相の電圧指令値の変調率が0.6である場合に、各組のU相の電機子巻線Cuに対する各組の3相の電圧指令値の電圧ベクトルVの位相θvを、0度から60度まで変化させたときの、PWM周期Tcにおける各組の電圧ベクトルの設定は、図17のようになる。
【0090】
なお、変調率は、√2×(Vdo+Vqo0.5/Vdc、又は、√2×(Vuo+Vvo+Vwo0.5/Vdcで演算される値である。変調率が1より大きくなると、変調後の3相の電圧指令値が、搬送波信号の最大値から最小値の範囲を超過し、電圧飽和が生じ、過変調状態になる。
【0091】
例えば、電圧ベクトルの位相θvが10度である場合には、PWM周期Tcにおいて、V7_1とV7_2の組合せ、V7_1とV6_2の組合せ、V2_1とV6_2の組合せ、V1_1とV6_2の組合せ、V1_1とV1_2の組合せ、V0_1とV1_2の組合せ、V0_1とV0_2の組合せが、順番に設定される。このうち、V2_1とV6_2の組合せでは、組間で90度の位相差がある電圧ベクトルの組合せになっており、相電流リプル及び母線電圧リプルが大きくなる。また、電圧ベクトルの位相θvが40度である場合には、V7_1とV7_2の組合せ、V2_1とV7_2の組合せ、V2_1とV2_2の組合せ、V2_1とV1_2の組合せ、V1_1とV1_2の組合せ、V1_1とV0_2の組合せ、V0_1とV0_2の組合せが、順番に設定される。この場合は、双方の組が零電圧ベクトルである組合せ、一方の組が零電圧ベクトルである組合せ、及び組間の位相差が30度である組合せになっている。よって、組間で90度の位相差がある電圧ベクトルの組合せが設定されないため、相電流リプル及び母線電圧リプルが小さくなる。
【0092】
従って、3次高調波重畳変調では、組間の位相差が90度である組合せが設定されない電圧ベクトルの位相θvが存在するため、2相変調に比べて相電流リプル及び母線電圧リプルを低減できる。
【0093】
また、3次高調波重畳変調では、PWM周期Tcにおいて、3つの零ベクトルの区間が設定され、2相変調では、PWM周期Tcにおいて、1つの零ベクトルの区間が設定される。よって、3次高調波重畳変調は、2相変調に比べて、相電流リプルを低減できる。
【0094】
また、3次高調波重畳変調において、設定中心電圧αを0に設定することで、重畳後の第1組及び第2組の第1組の3相の電圧指令値の振動中心値を、搬送波信号の振動中心値CAmid(本例では0)に一致させることができる。これにより、PWM周期Tcにおいて、3つの零ベクトルの区間を、より均等に配置することができるため、相電流リプルの低減効果を向上することができる。
【0095】
ここで、相電流リプルを考慮しない状態での変調率と母線電流リプルとの関係は、図18のようになる。母線電流の変化により母線電圧は変動することから、母線電流リプルが大きい場合には母線電圧リプルが大きくなる。変調率が0.5以下の領域では、母線電流リプルが単調増加しており、変調率が0.4~0.6の領域では、母線電流リプルが最大値付近になっており、相電流リプルによって母線電圧リプルが増加すると、母線電圧リプルが規格値の範囲を逸脱する可能性がある。
【0096】
図19に複数の等変調率曲線を示すように、回転速度ωが低い領域では、変調率は比較的に低い範囲を変化する。また、回転速度ωが低い領域では、変調方式にかかわらず、印加電圧の変化による相電流の変化が大きくなるため、相電流リプルも比較的に大きくなりやすい。
【0097】
<回生運転時の相電流の振幅及び出力トルクの制限>
図20から図22は、回生運転時における、出力トルクTと相電流の振幅との関係、出力トルクTと力率との関係、及び出力トルクTと発電電流との関係を示したものである。発電電流は、第1組及び第2組の合計の母線電流の絶対値(|Inv1+Inv2|)に相当する。横軸の出力トルクTは、ある回転速度において出力可能な回生トルクの絶対値の最大値を100%として表している。相電流の振幅及び力率は出力トルクTの絶対値の増加に対して単調増加するが、発電電流は、出力トルクTaにおいて極大値を持つ特性となる。出力トルクTの絶対値>Taでは、出力トルクTの絶対値は増加するものの、発電電流は増加しないため、力率の絶対値が0.5未満になる領域では回生のエネルギー変換効率が著しく低下する。よって、エネルギー変換効率が低下するまで、出力トルクTの絶対値を増加させない方がよい。一方、力行運転時は、動力性能を向上するために、力行のエネルギー変換効率が悪化しても、出力トルクTを増加させることが望まれる。回生運転時及び力行運転時の双方において、出力トルクTの絶対値が増加するに従って、相電流の振幅が増加する。
【0098】
なお、本願において、エネルギー変換効率は、出力トルクと回転速度を乗算した機械パワー(仕事率)と、直流電源と電力変換器との間で授受される電力との間のエネルギー変換効率である。回生のエネルギー変換効率は、機械パワーから発電電力への変換効率であり、力行のエネルギー変換効率は、消費電力から機械パワーへの変換効率である。
【0099】
よって、回転速度が低い領域では、回生運転時の相電流の振幅の最大値は、力行運転時の相電流の振幅の最大値より低く設定されればよく、回生運転時の出力トルクの絶対値の最大値は、力行運転時の出力トルクの絶対値の最大値より低く設定されればよい。
【0100】
本実施の形態では、電圧指令値演算部33は、回生運転時の相電流の振幅の最大値が、力行運転時の相電流の振幅の最大値よりも低くなる、又は回生運転時の出力トルクの絶対値の最大値が、力行運転時の出力トルクの絶対値の最大値よりも低くなるように、各組の3相の電圧指令値を演算する。回生運転時の出力トルクの絶対値の最大値は、図22の、発電電流が最大値になる出力トルクTaに対応して設定されればよい。回生運転時の相電流の振幅の最大値は、図20の出力トルクTaに対応する相電流の振幅に対応して設定されればよい。例えば、図23にハッチングで示している領域で動作する。
【0101】
例えば、各組について、電圧指令値演算部33は、回生運転時のトルク指令値の絶対値の最大値を、力行運転時のトルク指令値の絶対値の最大値よりも低くする。或いは、電圧指令値演算部33は、回生運転時のd軸及びq軸の電流指令値のベクトルの最大値を、力行運転時のd軸及びq軸の電流指令値のベクトルの最大値よりも低くする。すなわち、電圧指令値演算部33は、トルク指令値の絶対値の上限制限値、又はd軸及びq軸の電流指令値のベクトルの上限制限値を、回生運転時又は力行運転時に応じて変化させればよい。
【0102】
<低速度範囲及び力行運転時の変調方式>
回転速度が比較的に低い状態では、変調方式にかかわらず、印加電圧の変化による相電流の変化が比較的に大きくなるため相電流リプルが大きくなりやすい。また、組間の相互インダクタンスを考慮すると、2相変調時の相電流リプルは、3次高調波重畳変調時の相電流リプルより大きくなる。力行運転時は、力行のエネルギー変換効率が低下しても、より大きな出力トルクを得たい。
【0103】
そこで、図23に示すように、電圧指令値演算部33は、交流回転機の回転速度が、0を含むように設定された低速度範囲内になる速度領域において、交流回転機が力行運転時である場合に、3次高調波重畳変調を行う。
【0104】
この構成によれば、回転速度が、0を含むように設定された低速度範囲内になる比較的に低い状態において、3次高調波重畳変調が行われるので、相電流リプルを低減することができる。図19に示したように、回転速度が比較的に低い場合は、出力トルク及び回転速度に応じて、変調率は比較的に低い範囲を変化するが、変調率が0.5に近づいたとき、図18に示したように、相電流リプルを考慮しない母線電圧リプルが最大値になる。このとき、出力トルクが大きい場合は、相電流リプルも比較的に大きくなる。この場合でも、3次高調波重畳変調が行われるので、相電流リプルの増加を抑制し、母線電圧リプルの増加を抑制することができ、母線電圧リプルが、規格値を超えることを抑制できる。よって、回転速度が比較的に低い状態において、力行運転時に3次高調波重畳変調を行うことにより、出力トルクが増加されても、相電流リプルの増加を抑制し、母線電圧リプルの増加を抑制することができる。また、力行運転時に、変調方式の切り替えが行われないので、切り換えにより、相電流の乱れが生じ、出力トルクが変動することを抑制できる。
【0105】
電圧指令値演算部33は、交流回転機の回転速度が低速度範囲内になる速度領域において、3次高調波重畳変調を行う場合は、設定中心電圧αを、搬送波信号の振動中心値CAmid(本例では、0)に一致させてもよい。
【0106】
この構成によれば、上述したように、PWM周期Tcにおいて、3つの零ベクトルの区間を、より均等に配置することができるため、相電流リプルの低減効果を向上することができる。
【0107】
<低速度範囲の設定>
図24に示すように、ある回転速度において、直流電圧Vdcが大きくなるに従って、相電流リプルの最大値は大きくなる。図25に示すように、直流電圧Vdcの最大値において、回転速度ωが低い領域では、3次高調波重畳変調時の相電流リプルの最大値は、2相変調時の相電流リプルの最大値よりも小さくなるが、回転速度ωが大きくなるに従って、3次高調波重畳変調時の相電流リプルの最大値と2相変調時の相電流リプルの最大値と差が小さくなり、母線電圧リプルの最大値の差も小さくなる。よって、回転速度がある程度高くなると、3次高調波重畳変調及び2相変調のいずれを行っても、母線電圧リプルの最大値の差は有意でなくなり、2相変調を行うことにより、スイッチング損失の低減効果を得ることができる。
【0108】
そこで、低速度範囲は、交流回転機の回転速度が判定速度ωth以下になる回転速度の範囲に設定される。図26に示すように、判定速度ωthは、3次高調波重畳変調を行う場合に母線に生じる母線電圧リプルが、2相変調を行う場合に母線に生じる母線電圧リプルよりも許容差以上小さくなる回転速度の範囲以上の回転速度に設定される。ここで、母線電圧リプルは、各回転速度における母線電圧リプルの振幅の最大値であるとよい。
【0109】
この構成によれば、母線電圧リプルの差が許容差よりも大きくなる回転速度の領域では、3次高調波重畳変調を行って母線電圧リプルを低減することができ、母線電圧リプルの差が許容差よりも小さくなる回転速度の領域では、2相変調を行って、スイッチング損失を低減することができる。例えば、判定速度ωthは、許容差以上小さくなる回転速度の範囲の最大値に設定されるとよい。
【0110】
直流電圧Vdcが大きくなるに従って、母線電圧リプルの差が許容差になる回転速度は大きくなる。そこで、電圧指令値演算部33は、判定速度ωthを、直流電圧Vdcに基づいて設定してもよい。図27に示すように、電圧指令値演算部33は、直流電圧Vdcが大きくなるに従って、判定速度ωthを小さくする。この構成によれば、直流電圧Vdcが変化しても、母線電圧リプル及びスイッチング損失をバランスして低減することができる。
【0111】
<低速度範囲及び回生運転時の変調方式>
一方、図20から図22を用いて説明したように、回転速度が低い状態では、回生運転時は、回生のエネルギー変換効率が低下するまで、出力トルクの絶対値を増加させない。そのため、回生運転時の相電流の振幅の最大値は、力行運転時の相電流の振幅の最大値よりも低くされ、回生運転時の出力トルクの絶対値は、力行運転時の出力トルクの絶対値よりも低くされる。よって、回転速度が比較的に低い場合において、力行運転時よりも、変調率が低くなり、母線電圧リプルの最大値が低くなる。また、力行運転時よりも、出力トルクの絶対値が低くなり、相電流リプルが小さくなる。よって、回生運転時は、力行運転時よりも母線電圧リプルに余裕がある。よって、回生運転時は、エネルギー変換効率、電力変換器の発熱量などの他の観点から、変調方式を変化させればよい。
【0112】
図28に示すように、相電流の振幅及び出力トルクTの絶対値が比較的に低い場合は、3次高調波重畳変調の実行時のエネルギー変換効率は、2相変調の実行時よりも高くなる。一方、相電流の振幅及び出力トルクTの絶対値が比較的に高い場合は、2相変調の実行時のエネルギー変換効率は、3次高調波重畳変調の実行時よりも高くなる。また、図29に示すように、相電流の振幅及び出力トルクTの絶対値が比較的に低い場合は、3次高調波重畳変調の実行時の電力変換装置の発熱量は、2相変調の実行時よりも低くなる。一方、相電流の振幅及び出力トルクTの絶対値が比較的に高い場合は、2相変調の実行時の発熱量は、3次高調波重畳変調の実行時よりも低くなる。
【0113】
そこで、図23に示すように、電圧指令値演算部33は、交流回転機の回転速度が低速度範囲内になる速度領域において、交流回転機が回生運転時であり、且つ第1組及び第2組の3相の電機子巻線を流れる相電流の振幅が判定振幅Ith以下である、又は出力トルクの絶対値が判定トルクTth以下である場合に、3次高調波重畳変調を行う。
【0114】
この構成によれば、回転速度が比較的に低く、回生運転時において、相電流の振幅が低く、出力トルクの絶対値が低い場合に、3次高調波重畳変調を行うことで、相電流リプルによる鉄損を抑制し、エネルギー変換効率を、2相変調を行う場合よりも高くすることができ、電力変換装置の発熱量を、2相変調を行う場合よりも低くすることができる。
【0115】
例えば、相電流の振幅として、d軸及びq軸の電流指令値又は電流検出値の電流ベクトルの大きさが用いられればよい。出力トルクは、トルク指令値、又はd軸及びq軸の電流検出値及び回転速度ωに基づいて演算されたトルク推定値が用いられればよい。
【0116】
一方、電圧指令値演算部33は、交流回転機の回転速度が低速度範囲内になる速度領域において、交流回転機が回生運転時であり、且つ第1組及び第2組の3相の電機子巻線を流れる相電流の振幅が判定振幅Ithよりも大きい、又は出力トルクの絶対値が判定トルクTthよりも大きい場合に、2相変調を行う。
【0117】
この構成によれば、回転速度が比較的に低く、回生運転時において、相電流の振幅が高く、出力トルクの絶対値が高い場合に、2相変調を行うことで、スイッチング損失を抑制し、エネルギー変換効率を、3次高調波重畳変調を行う場合よりも高くすることができ、電力変換装置の発熱量を、3次高調波重畳変調を行う場合よりも低くすることができる。
【0118】
<高速度範囲の変調方式>
回転速度が比較的に高い状態では、誘起電圧が大きくなるため、変調方式にかかわらず、印加電圧の変化による相電流の変化が比較的に小さくなるため、相電流リプルが小さくなる。図19に示したように、回転速度ωが比較的に高い場合は、出力トルクT及び回転速度ωに応じて、変調率は比較的に高い範囲を変化するが、変調率が0.5に近づいたとき、図18に示したように、相電流リプルを考慮しない母線電圧リプルが最大値になる。このとき、出力トルクTの絶対値が大きい場合は、出力トルクの絶対値が小さい場合よりも相電流リプルが大きくなるが、回転速度が比較的に低い状態よりも小さくなる。よって、力行運転時においても、回転速度が比較的に高い状態では、回転速度が比較的に低い状態よりも母線電圧リプルに余裕がある。よって、回生運転時の回転速度が比較的に低い状態と同様に、回転速度が比較的に高い状態では、エネルギー変換効率、電力変換器の発熱量などの他の観点から、変調方式を変化させればよい。
【0119】
そこで、図23に示すように、電圧指令値演算部33は、交流回転機の回転速度が低速度範囲外になる速度領域(高速度領域)において、第1組及び第2組の3相の電機子巻線を流れる相電流の振幅が判定振幅Ith以下である、又は出力トルクTの絶対値が判定トルクTth以下である場合に、3次高調波重畳変調を行う。
【0120】
この構成によれば、図28及び図29に示すように、力行運転時又は回生運転時に、回転速度が比較的に高い状態において、相電流の振幅が低く、出力トルクの絶対値が低い場合に、3次高調波重畳変調を行うことで、エネルギー変換効率を、2相変調を行う場合よりも高くすることができ、電力変換器の発熱量を、2相変調を行う場合よりも低くすることができる。
【0121】
一方、電圧指令値演算部33は、交流回転機の回転速度が低速度範囲外になる速度領域(高速度領域)において、第1組及び第2組の3相の電機子巻線を流れる相電流の振幅が判定振幅Ithよりも大きい、又は出力トルクTの絶対値が判定トルクTthよりも大きい場合に、2相変調を行う。
【0122】
この構成によれば、力行運転時又は回生運転時に、回転速度が比較的に高い状態において、相電流の振幅が高く、出力トルクTの絶対値が高い場合に、2相変調を行うことで、エネルギー変換効率を、3次高調波重畳変調を行う場合よりも高くすることができ、電力変換器の発熱量を、3次高調波重畳変調を行う場合よりも低くすることができる。
【0123】
<判定振幅Ith及び判定トルクTthの設定>
図28に示すように、相電流の振幅及び判定振幅Ithにより判定される場合は、判定振幅Ithは、2相変調を行う場合のエネルギー変換効率と、3次高調波重畳変調を行う場合のエネルギー変換効率とが一致する相電流の振幅に対応して設定される。出力トルクT及び判定トルクTthにより判定される場合は、判定トルクTthは、2相変調を行う場合のエネルギー変換効率と、3次高調波重畳変調を行う場合のエネルギー変換効率とが一致する出力トルクTに対応して設定される。
【0124】
この構成によれば、エネルギー変換効率が向上するように、3次高調波重畳変調と2相変調とを適切に切り替えることができる。例えば、判定振幅Ithは、2相変調を行う場合のエネルギー変換効率と、3次高調波重畳変調を行う場合のエネルギー変換効率とが一致する相電流の振幅に設定されるとよい。判定トルクTthは、2相変調を行う場合のエネルギー変換効率と、3次高調波重畳変調を行う場合のエネルギー変換効率とが一致する出力トルクTに設定されるとよい。
【0125】
或いは、図29に示すように、相電流の振幅及び判定振幅Ithにより判定される場合は、判定振幅Ithは、3次高調波重畳変調を行う場合の電力変換器の発熱量が、必要とされる連続運転が可能な発熱量になる相電流の振幅の範囲内の電流に設定されてもよい。出力トルクT及び判定トルクTthにより判定される場合は、判定トルクTthは、3次高調波重畳変調を行う場合の電力変換器の発熱量が、必要とされる連続運転が可能な発熱量になる出力トルクの範囲内の出力トルクTに設定されてもよい。ここで、必要とされる連続運転は、例えば、仕様上、必要とされる期間の連続運転である。
【0126】
この構成によれば、必要とされる連続運転が可能なように、3次高調波重畳変調と2相変調とを適切に切り替えることができる。
【0127】
電圧指令値演算部33は、判定振幅Ith又は判定トルクTthを、交流回転機の回転速度ωに基づいて設定してもよい。
【0128】
この構成によれば、交流回転機の回転速度ωに応じて変化する各変調時のエネルギー変換効率又は発熱量を考慮して、判定振幅Ith又は判定トルクTthを設定することができ、設定精度を向上することができる。図30に示すように、発熱量により設定する場合は、回転速度に応じて冷却効果が異なることを考慮して、電圧指令値演算部33は、回転速度が大きくなるに従って、判定振幅Ith又は判定トルクTthを大きくしてもよい。
【0129】
<交流回転機の回転方向>
本実施の形態では、基本的に、交流回転機は、一方向に回転する場合を想定している。交流回転機1の用途は、特に限定されるものではないが、例えば、交流回転機1が、車両用の交流回転機として用いられる場合を説明する。図31に示すように、車両用駆動装置100は、交流回転機の制御装置30と、交流回転機1と、電力変換器4と、交流回転機1の駆動力を車両の車輪103に伝達する動力伝達機構と、を備えている。車両用駆動装置100は、内燃機関102を備えており、交流回転機1は、プーリ及びベルト機構105を介して、内燃機関102のクランク軸に連結されている。交流回転機1の回転軸は、内燃機関102及び変速装置104を介して車輪103に連結される。交流回転機1は、電動機として機能し、内燃機関102の補機として、車輪103の駆動力源になると共に、発電機として機能し、内燃機関102の回転を利用して発電を行う。交流回転機1は、内燃機関102と変速装置104との間に設けられてもよいし、変速装置104内に設けられてもよい。また、内燃機関102が設けられなくてもよい。本実施の形態に係る交流回転機1が車両用駆動装置100に用いられることで、高頻度で実施される回生運転時のエネルギー変換効率を確保しつつ、力行運転時に、出力トルクを確保しつつ、母線電圧リプルが規格値を超えることを抑制すると共に、変調方式の切り替えにより生じた電流の乱れにより、出力トルクの変動が生じることを抑制でき、良好な車両の動力性能を得ることができる。
【0130】
交流回転機が、双方向に回転する場合は、低速度範囲の設定が変更されるとよい。例えば、図32に示すように、低速度範囲は、交流回転機の回転速度の絶対値が判定速度ωth以下になる回転速度の範囲に設定されるとよい。そして、判定速度ωthは、3次高調波重畳変調を行う場合に母線に生じる母線電圧リプルが、2相変調を行う場合に母線に生じる母線電圧リプルよりも許容差以上小さくなる回転速度の絶対値の範囲以上の回転速度に設定されればよい。この場合でも、上記の構成と同様の効果を得ることができる。
【0131】
2.実施の形態2
実施の形態2に係る制御装置30について図面を参照して説明する。上記の実施の形態1と同様の構成部分は説明を省略する。本実施の形態に係る交流回転機1、電力変換器4、及び制御装置30の基本的な構成は実施の形態1と同様である。実施の形態1では、第1組及び第2組用のインバータ4a、4bの母線電流を調整することで母線電圧リプルを低減したが、本実施の形態では、コンバータ4cも活用して母線電圧リプルを低減する。
【0132】
母線電流Idcは、式(1)のように表されるため、コンバータの母線電流Icnvのリプルを低減することで、母線電流リプル及び母線電圧リプルを低減できる。
【0133】
図33から図35は、界磁電流Ifとロータの磁束ψfとの関係、界磁電流Ifと界磁巻線のインダクタンスLfとの関係、及び界磁電流Ifと界磁巻線の局所インダクタンスdLfとの関係を示した図である。局所インダクタンスdLfは、ロータの磁束ψfを界磁電流Ifについて微分したものである。
【0134】
界磁電流Ifの増加に対して、磁束ψfは単調増加し、インダクタンスLfは単調減少し、局所インダクタンスdLfは単調減少している。出力トルクを大きくしたい場合には、磁束ψfを大きくするために、必要に応じて界磁電流Ifを大きくする。
【0135】
例えば、動作点A、動作点B、及び動作点Cの場合について比較説明する。動作点Bでは、動作点Aに対して磁束ψfが1.9倍になる一方で、磁気飽和によってインダクタンスLfが0.4倍になり、局所インダクタンスdLfが0.1倍になる。各動作点において、d軸電流が零であり、q軸電流が等しい場合には、動作点Bでは動作点Aの1.9倍の出力トルクを得られる。一方、図36に示すように、局所インダクタンスdLfの低下により、スイッチング素子SP1又はSP2がオンのときの電流変化、つまり界磁巻線用のPWM周期Tcfの母線電流リプルは、動作点Bでは動作点Aの10倍になる。
【0136】
動作点Cでは、動作点Aに対して磁束ψfが2倍になる一方で、磁気飽和によってインダクタンスLfが0.2倍になり、局所インダクタンスdLfが0.02倍になる。各動作点において、d軸電流が零であり、q軸電流が等しい場合には、動作点Bでは動作点Aの2倍の出力トルクを得られる。一方、局所インダクタンスdLfの低下により、PWM周期Tcfの母線電流リプルは、動作点Bでは動作点Aの50倍になる。
【0137】
つまり、界磁電流Ifが大きくなると、出力トルクTを向上できる反面、磁気飽和による局所インダクタンスdLfの低下により、スイッチング素子SP1がオンのときの正方向の電流変化、及びスイッチング素子SP2がオンのときの負方向の電流変化が増大する。動作点Bは、動作点Cに対して磁束ψfが5%低下するが、PWM周期Tcfの母線電流リプルを80%低減できる。
【0138】
実施の形態1で説明したように、回転速度が比較的に低い状態では、変調方式にかかわらず、電機子巻線の印加電圧の変化による相電流の変化が比較的に大きくなるため相電流リプルが大きくなり、母線電圧リプルが大きくなりやすい。実施の形態1で説明したように、低速度範囲内における力行運転時に3次高調波重畳変調を行うことによる相電流リプル及び母線電圧リプルの低減だけでなく、界磁電流による母線電圧リプルの低減を行うことが望まれる。
【0139】
そこで、界磁電流制御部36は、交流回転機の回転速度が、低速度範囲内になる速度領域における界磁電流の最大値を、交流回転機の回転速度が低速度範囲外になる速度領域における界磁巻線電流の最大値よりも小さくする。
【0140】
この構成によれば、電機子巻線の相電流による相電流リプルが大きくなり、母線電圧リプルが大きくなりやすい回転速度が比較的に低い状態において、界磁電流の最大値を比較的に小さくすることで、磁気飽和による局所インダクタンスdLfの低下を抑制し、界磁電流による母線電圧リプルを低減することができる。これにより、母線電圧リプルが、規格値を超えることを抑制できたり、母線電圧リプルの低減のために力行運転時に3次高調波重畳変調を行う低速度範囲を狭めたりすることができる。
【0141】
例えば、図37に示すように、界磁電流制御部36は、低速度範囲内の界磁電流の最大値を、低速度範囲外の界磁電流の最大値よりも低く設定すればよい。界磁電流制御部36は、界磁電流の最大値以下の範囲内で、界磁電流の指令値Ifoを演算する。なお、回転速度がωth以下の界磁電流の最大値は、回転速度に対して単調増加する形にしてもよい。
【0142】
また、界磁電流制御部36は、交流回転機の回転速度が低速度範囲内になる速度領域における界磁電流の最大値を、第1組の3相の電圧指令値及び第2組の3相の電圧指令値の変調率に基づいて設定する。
【0143】
図18に示したように、母線電圧リプルは、変調率に応じて変化する。よって、変調率に基づいて、適切に、出力トルクの低下を抑制しつつ、母線電圧リプルを低減することができる。
【0144】
例えば、図38に示すように、界磁電流制御部36は、第1組及び第2組の3相の電圧指令値の変調率が、中心値(本例では、0.5)から大きくなる又は小さくなるに従って、交流回転機の回転速度が低速度範囲内になる速度領域における界磁電流の最大値を、大きくすればよい。
【0145】
この構成によれば、母線電圧リプルが大きくなる変調率において界磁電流の最大値を減少させ、母線電圧リプルが小さくなる変調率において界磁電流の最大値を増加させることにより、出力トルクの低下を抑制しつつ、母線電圧リプルを低減することができる。すなわち、変調率に対する母線電圧リプルの特性の逆特性となるように、変調率に基づいて界磁電流の最大値が変化されればよい。
【0146】
変調率は、直流電圧に対する印加電圧の比であるから、変調率の代わりに直流電圧及び回転速度により表現することができる。よって、界磁電流制御部36は、交流回転機の回転速度が低速度範囲内になる速度領域における界磁電流の最大値を、電力変換器4に供給される直流電圧Vdc、及び交流回転機の回転速度ωに基づいて設定してもよい。
【0147】
出力トルクTは、第1組のd軸電流をId1とし、第1組のq軸電流をIq1とし、第2組のd軸電流をId2とし、第2組のq軸電流をIq2とし、第1組のd軸磁束をφd1とし、第1組のq軸磁束をφq1とし、第2組のd軸磁束をφd2とし、第2組のq軸磁束をφq2とし、極対数をPとすると、式(21)のように与えられる。
【数21】
【0148】
ここで、第1組のd軸磁束φd1および第2組のd軸磁束φd2は、式(22)に示すように、界磁巻線が生成するロータの磁束ψfに対して比例関係にある。
【数22】
【0149】
従って、低速度範囲において界磁電流の最大値を小さくしても、その分だけ第1組のq軸電流Iq1及び第2組のq軸電流Iq2を大きくすることで出力トルクを確保できる。
【0150】
そこで、電圧指令値演算部33は、交流回転機の回転速度が、低速度範囲内になる速度領域における相電流の振幅の最大値を、交流回転機の回転速度が低速度範囲外になる速度領域における相電流の振幅の最大値よりも大きくする。
【0151】
この構成によれば、低速度範囲において、相電流の振幅の最大値を大きくすることにより、界磁電流の最大値を小さくすることによる出力トルクの低下を補うことができる。
【0152】
<その他の実施の形態>
(1)上記の各実施の形態では、交流回転機は、動力伝達機構を介して車輪に連結された交流回転機である場合を例に説明した。しかし、交流回転機は、各種の装置の駆動力源に用いられてもよい。
【0153】
(2)上記の実施の形態1では、界磁巻線式の交流回転機を例に説明した。しかし、交流回転機は、永久磁石式の交流回転機とされてもよい。この場合でも、回転検出部31、電機子電流検出部32、電圧指令値演算部33、及びスイッチング制御部34の構成は、基本的に変化しないので、同様の効果を得ることができる。
【0154】
(3)上記の各実施の形態では、第1組の3相の電機子巻線と第2組の3相の電機子巻線との位相差が、電気角でπ/6(30度)である場合を例に説明した。しかし、組間の位相差は、π/6(30度)以外の位相差であってもよい。
【0155】
(4)上記の各実施の形態では、m=3である場合を例に説明した。しかし、mは、2以上の任意の自然数に設定されてもよい。
【0156】
<本願の諸態様のまとめ>
以下、本願の諸態様を付記としてまとめて記載する。
(付記1)
2組のm相(mは2以上の自然数)の電機子巻線を有する交流回転機を、複数のスイッチング素子を有する電力変換器を介して制御する交流回転機の制御装置であって、
第1組のm相の前記電機子巻線に印加する第1組のm相の電圧指令値と、第2組のm相の前記電機子巻線に印加する第2組のm相の電圧指令値と、を演算し、前記第1組のm相の電圧指令値に、第1組用のオフセット電圧を重畳して、重畳後の第1組のm相の電圧指令値を演算し、前記第2組のm相の電圧指令値に、第2組用のオフセット電圧を重畳して、重畳後の第2組のm相の電圧指令値を演算する電圧指令値演算部と、
前記重畳後の第1組のm相の電圧指令値と搬送波信号とを比較し、比較結果に基づいて、第1組用の複数の前記スイッチング素子をオンオフし、前記重畳後の第2組のm相の電圧指令値と前記搬送波信号とを比較し、比較結果に基づいて、第2組用の複数の前記スイッチング素子をオンオフするスイッチング制御部と、を備え、
前記電圧指令値演算部は、前記交流回転機の回転速度が、0を含むように設定された低速度範囲内になる速度領域において、力行運転時である場合、又は回生運転時であり、且つ前記電機子巻線を流れる相電流の振幅が判定振幅以下である、又は前記交流回転機の出力トルクの絶対値が判定トルク以下である場合に、設定中心電圧を中心に、電気角の回転周波数の3倍の周波数で振動し、前記重畳後の第1組のm相の電圧指令値の最大値及び最小値の平均値が前記設定中心電圧に一致するような前記第1組用のオフセット電圧、及び同じ前記設定中心電圧を中心に、前記回転周波数の3倍の周波数で振動し、前記重畳後の第2組のm相の電圧指令値の最大値及び最小値の平均値が前記設定中心電圧に一致するような前記第2組用のオフセット電圧を演算する3次高調波重畳変調を行い、
前記交流回転機の回転速度が前記低速度範囲内になる速度領域において、回生運転時であり、且つ前記相電流の振幅が前記判定振幅より大きい、又は前記出力トルクの絶対値が前記判定トルクより大きい場合に、前記重畳後の第1組のm相の電圧指令値の最大値が前記搬送波信号の最大値に張り付く、又は前記重畳後の第1組のm相の電圧指令値の最小値が前記搬送波信号の最小値に張り付くような前記第1組用のオフセット電圧を演算すると共に、前記重畳後の第2組のm相の電圧指令値の最大値が前記搬送波信号の最大値に張り付く、又は前記重畳後の第2組のm相の電圧指令値の最小値が前記搬送波信号の最小値に張り付くような前記第2組用のオフセット電圧を演算する2相変調を行う交流回転機の制御装置。
【0157】
(付記2)
前記電圧指令値演算部は、前記交流回転機の回転速度が、前記低速度範囲外になる速度領域において、前記相電流の振幅が判定振幅以下である、又は前記出力トルクの絶対値が前記判定トルク以下である場合に、前記3次高調波重畳変調を行い、
前記交流回転機の回転速度が、前記低速度範囲外になる速度領域において、前記相電流の振幅が前記判定振幅より大きい、又は前記出力トルクの絶対値が前記判定トルクより大きい場合に、前記2相変調を行う付記1に記載の交流回転機の制御装置。
【0158】
(付記3)
前記電圧指令値演算部は、回生運転時の前記相電流の振幅の最大値が、力行運転時の前記相電流の振幅の最大値よりも低くなる、又は回生運転時の前記出力トルクの絶対値の最大値が、前記力行運転時の出力トルクの絶対値の最大値よりも低くなるように、前記第1組のm相の電圧指令値及び前記第2組のm相の電圧指令値を演算する付記1又は2に記載の交流回転機の制御装置。
【0159】
(付記4)
前記電圧指令値演算部は、前記交流回転機の回転速度が前記低速度範囲内になる速度領域において、前記3次高調波重畳変調を行う場合は、前記設定中心電圧を、前記搬送波信号の振動中心値に一致させる付記1から3のいずれか一項に記載の交流回転機の制御装置。
【0160】
(付記5)
前記交流回転機は界磁巻線を有し、前記電力変換器は、界磁巻線用の前記スイッチング素子を有し、
前記交流回転機の制御装置は、界磁巻線用の前記スイッチング素子をオンオフして、前記界磁巻線に流れる界磁電流を制御する界磁電流制御部を更に備え、
前記界磁電流制御部は、前記交流回転機の回転速度が、前記低速度範囲内になる速度領域における前記界磁電流の最大値を、前記交流回転機の回転速度が前記低速度範囲外になる速度領域における前記界磁電流の最大値よりも小さくする付記1から5のいずれか一項に記載の交流回転機の制御装置。
【0161】
(付記6)
前記界磁電流制御部は、前記交流回転機の回転速度が前記低速度範囲内になる速度領域における前記界磁電流の最大値を、前記第1組のm相の電圧指令値及び前記第2組のm相の電圧指令値の変調率に基づいて設定する付記5に記載の交流回転機の制御装置。
【0162】
(付記7)
前記界磁電流制御部は、前記交流回転機の回転速度が前記低速度範囲内になる速度領域における前記界磁電流の最大値を、前記電力変換器に供給される直流電圧、及び前記交流回転機の回転速度に基づいて設定する付記5に記載の交流回転機の制御装置。
【0163】
(付記8)
前記電圧指令値演算部は、前記交流回転機の回転速度が、前記低速度範囲内になる速度領域における前記相電流の振幅の最大値を、前記交流回転機の回転速度が前記低速度範囲外になる速度領域における前記相電流の振幅の最大値よりも大きくする付記5に記載の交流回転機の制御装置。
【0164】
(付記9)
前記低速度範囲は、前記交流回転機の回転速度が判定速度以下になる回転速度の範囲であり、
前記判定速度は、前記3次高調波重畳変調を行う場合に、前記電力変換器を直流電源に接続する母線に生じる電圧リプルが、前記2相変調を行う場合に前記母線に生じる電圧リプルよりも許容差以上小さくなる回転速度の範囲以上の回転速度に設定される付記1から8のいずれか一項に記載の交流回転機の制御装置。
【0165】
(付記10)
前記低速度範囲は、前記交流回転機の回転速度の絶対値が判定速度以下になる回転速度の範囲であり、
前記判定速度は、前記3次高調波重畳変調を行う場合に、前記電力変換器を直流電源に接続する母線に生じる電圧リプルが、前記2相変調を行う場合に前記母線に生じる電圧リプルよりも許容差以上小さくなる回転速度の絶対値の範囲以上の回転速度に設定される付記1から8のいずれか一項に記載の交流回転機の制御装置。
【0166】
(付記11)
前記低速度範囲は、前記交流回転機の回転速度又は前記交流回転機の回転速度の絶対値が、判定速度以下になる回転速度の範囲であり、
前記電圧指令値演算部は、前記判定速度を、前記電力変換器に供給される直流電圧に基づいて設定する付記1から10のいずれか一項に記載の交流回転機の制御装置。
【0167】
(付記12)
前記電圧指令値演算部は、前記直流電圧が大きくなるに従って、前記判定速度を小さくする付記11に記載の交流回転機の制御装置。
【0168】
(付記13)
前記判定振幅は、前記2相変調を行う場合のエネルギー変換効率と、前記3次高調波重畳変調を行う場合のエネルギー変換効率とが一致する相電流の振幅に対応して設定され、又は
前記判定トルクは、前記2相変調を行う場合のエネルギー変換効率と、前記3次高調波重畳変調を行う場合のエネルギー変換効率とが一致する出力トルクに対応して設定される付記1から12のいずれか一項に記載の交流回転機の制御装置。
【0169】
(付記14)
前記判定振幅は、前記3次高調波重畳変調を行う場合の前記電力変換器の発熱量が、必要とされる連続運転が可能な発熱量になる相電流の振幅の範囲内の電流に設定され、又は、
前記判定トルクは、前記3次高調波重畳変調を行う場合の前記電力変換器の発熱量が、必要とされる連続運転が可能な発熱量になる出力トルクの範囲内の出力トルクに設定される付記1から12のいずれか一項に記載の交流回転機の制御装置。
【0170】
(付記15)
前記電圧指令値演算部は、前記判定振幅又は前記判定トルクを、前記交流回転機の回転速度に基づいて設定する付記1から14のいずれか一項に記載の交流回転機の制御装置。
【0171】
(付記16)
前記交流回転機の出力軸が動力伝達機構を介して車輪に連結された付記1から15のいずれか一項に記載の交流回転機の制御装置。
【0172】
本願は、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。従って、例示されていない無数の変形例が、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0173】
1:交流回転機、2:直流電源、4:電力変換器、5:界磁巻線、6:界磁電流センサ、7:母線、14:ロータ、18:ステータ、30:交流回転機の制御装置、31:回転検出部、32:電機子電流検出部、33:電圧指令値演算部、34:スイッチング制御部、35:界磁電流検出部、36:界磁電流制御部、CA:搬送波信号、CAmax:搬送波信号の最大値、CAmid:搬送波信号の振動中心値、CAmin:搬送波信号の最小値、Ith:判定振幅、T:出力トルク、Tth:判定トルク、Vdc:直流電圧、α:設定中心電圧、ω:回転速度、ωth:判定速度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37
図38