(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134619
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】バッテリの昇温装置
(51)【国際特許分類】
B60L 58/27 20190101AFI20240927BHJP
B60L 50/60 20190101ALI20240927BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20240927BHJP
B60L 7/14 20060101ALI20240927BHJP
F16H 57/04 20100101ALI20240927BHJP
【FI】
B60L58/27
B60L50/60
B60L15/20 K
B60L7/14
F16H57/04 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044897
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100122770
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 和弘
(72)【発明者】
【氏名】川尻 貴裕
【テーマコード(参考)】
3J063
5H125
【Fターム(参考)】
3J063AA04
3J063XH13
3J063XH23
3J063XJ03
5H125AA01
5H125AC12
5H125BC19
5H125BE05
5H125CB02
5H125CD09
5H125EE25
5H125EE44
5H125FF27
(57)【要約】
【課題】電動モータに電力を供給するバッテリの電力を利用することなく、すなわち、電費(燃費)を悪化させることなく、より効果的にバッテリを昇温することが可能なバッテリの昇温装置を提供する。
【解決手段】EV-CU60は、第1の変速段が選択され第1クラッチ22が締結されているときには、ブレーキペダルの踏み込み量に応じて、第2クラッチ23の締結力を調節することにより制動力を発生し、第2の変速段が選択され、第2クラッチ23が締結されているときには、第1クラッチ22の締結力を調節することにより制動力を発生する。第1クラッチ22又は第2クラッチ23の制動に伴う発熱により昇温されたオイルは保温性を有するオイルタンク26に貯留される。EV-CU60は、バッテリ80の温度が所定温度未満である場合に、第1開閉弁44を開弁し、オイルタンク26に貯留されているオイルを熱交換器40に供給してバッテリ80を昇温する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動力源である電動モータに電力を供給するバッテリと、
前記電動モータから入力されるトルクを変換して出力する変速機構、及び、締結することにより車輪を制動し得るクラッチを有する変速機と、
前記変速機の底部に設けられ、前記変速機構、及び、前記クラッチに供給するオイルを貯留するオイルパンと、
前記変速機内に配設され、前記オイルパンから前記変速機構によってかき上げられたオイルを貯留する保温性を有するオイルタンクと、
入口が前記オイルタンクと連通され、出口が前記オイルパンと連通され、前記バッテリとオイルとの間で熱交換を行う熱交換器と、
前記オイルタンクと前記熱交換器の入口とを連通する第1油路に介装され、該第1油路を開閉する第1開閉弁と、
前記バッテリの温度を検出する温度センサと、
前記クラッチの締結、解放、及び、前記第1開閉弁の開閉を制御するコントロールユニットと、を備え、
前記コントロールユニットは、ブレーキペダルの踏み込み量に応じて、前記クラッチの締結力を調節することにより制動力を発生するとともに、前記バッテリの温度が所定温度未満である場合に、前記第1開閉弁を開弁し、前記オイルタンクに貯留されているオイルを前記熱交換器に供給することを特徴とするバッテリの昇温装置。
【請求項2】
前記コントロールユニットは、制動時に、前記電動モータによる回生ブレーキの制動力を補うように、前記クラッチの締結力を調節して制動力を発生させることを特徴とする請求項1に記載のバッテリの昇温装置。
【請求項3】
前記クラッチは、少なくとも、第1の変速段を選択する第1クラッチと、第2の変速段を選択する第2クラッチと、を有し、
前記コントロールユニットは、前記第1の変速段が選択され、前記第1クラッチが締結されているときには、ブレーキペダルの踏み込み量に応じて、前記第2クラッチの締結力を調節することにより制動力を発生し、前記第2の変速段が選択され、前記第2クラッチが締結されているときには、ブレーキペダルの踏み込み量に応じて、前記第1クラッチの締結力を調節することにより制動力を発生することを特徴とする請求項2に記載のバッテリの昇温装置。
【請求項4】
前記クラッチは、前記変速機構の下流に配設されたデファレンシャルを構成するファイナルギヤの回転を制動するブレーキであり、
前記コントロールユニットは、ブレーキペダルの踏み込み量に応じて、前記ブレーキの締結力を調節することにより制動力を発生することを特徴とする請求項2に記載のバッテリの昇温装置。
【請求項5】
前記オイルタンクと前記オイルパンとを連通する第2油路に介装され、該第2油路を開閉する第2開閉弁をさらに備え、
前記コントロールユニットは、オイルの温度が第2所定温度未満の場合、及び、前記バッテリの温度が所定温度以上であり、かつ、オイルの温度が第3所定温度以上の場合に、前記第2開閉弁を開弁することを特徴とする請求項4に記載のバッテリの昇温装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の駆動力源である電動モータに電力を供給するバッテリの昇温装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電動モータを駆動力源とし、排気ガスを排出しない電気自動車(BEV)が実用化されている。このような電気自動車では、電動モータに電力を供給(又は、回生された電力を蓄電)するための高電圧バッテリ(以下、単に「バッテリ」ともいう)が搭載されている。
【0003】
ところで、バッテリは、低温になるほど、内部抵抗が増え、充放電特性が低下する傾向(特性)がある。そのため、例えば、外気温が低く、バッテリが冷えている状態では充電時間が長くなる。
【0004】
ここで、特許文献1には、バッテリの温度が基準温度よりも低く、かつバッテリの充電状態(SOC)が基準値よりも大きい場合に、昇圧コンバータを作動させてバッテリの昇温制御を実行する技術が開示されている。より詳細には、バッテリの昇温制御では、昇圧コンバータの昇圧動作と降圧動作とが交互に繰り返される。そのため、バッテリの充電と放電とが交互に繰り返されてバッテリに電流が流れることにより、バッテリでジュール熱が生じ、バッテリの温度が上昇する。すなわち、バッテリ自身の電気エネルギが熱エネルギに変換されてバッテリの温度が上昇する。
【0005】
そのため、バッテリの低温状態が解消され、バッテリの充電電力の受け入れ性を良好にすることができる。これにより、バッテリに充電する際、バッテリの充電状態(SOC)を早期に制御範囲内に復帰させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、特許文献1に記載されている技術によれば、バッテリを昇温してバッテリの充電時間を短縮することができる。しかしながら、特許文献1の技術では、バッテリの昇温にバッテリの電力(電気エネルギ)を使用するため、すなわち、バッテリ自身の電力を用いてバッテリの温度を上昇させるため、電費(HEV等では燃費)が悪化し、航続距離(走行可能距離)が短くなるという問題がある。
【0008】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、電動モータに電力を供給するバッテリの電力を利用することなく、すなわち、電費(燃費)を悪化させることなく、より効果的にバッテリを昇温することが可能なバッテリの昇温装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係るバッテリの昇温装置は、車両の駆動力源である電動モータに電力を供給するバッテリと、電動モータから入力されるトルクを変換して出力する変速機構、及び、締結することにより車輪を制動し得るクラッチを有する変速機と、変速機の底部に設けられ、変速機構、及び、クラッチに供給するオイルを貯留するオイルパンと、変速機内に配設され、オイルパンから変速機構によってかき上げられたオイルを貯留する保温性を有するオイルタンクと、入口がオイルタンクと連通され、出口がオイルパンと連通され、バッテリとオイルとの間で熱交換を行う熱交換器と、オイルタンクと熱交換器の入口とを連通する第1油路に介装され、該第1油路を開閉する第1開閉弁と、バッテリの温度を検出する温度センサと、クラッチの締結、解放、及び、第1開閉弁の開閉を制御するコントロールユニットとを備え、コントロールユニットが、ブレーキペダルの踏み込み量に応じて、クラッチの締結力を調節することにより制動力を発生するとともに、バッテリの温度が所定温度未満である場合に、第1開閉弁を開弁し、オイルタンクに貯留されているオイルを熱交換器に供給することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電動モータに電力を供給するバッテリの電力を利用することなく、すなわち、電費(燃費)を悪化させることなく、より効果的にバッテリを昇温することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係るバッテリの昇温装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】変速機の構成を模式的に示した断面図である。
【
図3】回生ブレーキとクラッチで発生させる制動力との関係を説明するための図である。
【
図4】実施形態に係るバッテリの昇温装置の動作を説明するための表1(SOCが高く回生できない場合)である。
【
図5】実施形態に係るバッテリの昇温装置の動作を説明するための表2(SOCが低く回生可能な場合)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図中、同一又は相当部分には同一符号を用いることとする。また、各図において、同一要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0013】
まず、
図1及び
図2を併せて用いて、実施形態に係るバッテリの昇温装置1の構成について説明する。
図1は、バッテリの昇温装置1の構成を示すブロック図である。
図2は、変速機20の構成を模式的に示した断面図である。
【0014】
電動モータ(モータジェネレータ)10は、供給された電力を機械的動力に変換するモータとしての機能と、入力された機械的動力を電力に変換するジェネレータとしての機能とを兼ね備えた同期発電電動機(三相交流タイプの同期モータ)として構成されている。すなわち、電動モータ10は、車両駆動時には駆動トルクを発生するモータとして動作し、回生時にはジェネレータとして動作する。電動モータ10は、後述するEV-CU60によって制御される。
【0015】
電動モータ10は、インバータ70aを介してバッテリ80に接続されている。電動モータ10をモータとして機能させる場合、インバータ70aは、バッテリ80から供給される直流電力を交流電力に変換し、電動モータ10を駆動する。また、電動モータ10を発電機(ジェネレータ)として機能させる場合、インバータ70aは、電動モータ10で発電された交流電力を直流電力に変換してバッテリ80に充電する。
【0016】
すなわち、バッテリ80は、車両の駆動力源である電動モータ10に電力を供給、又は、回生された電力を蓄電する。バッテリ80は、例えば、略角柱状の複数のスタック(バッテリモジュール)を備えて構成されている。各スタックそれぞれは、複数のバッテリセルとセパレータとが交互に積層されて構成されている。各バッテリセルは、例えば、角形の外装缶に被覆された略矩形の角形バッテリが利用される。ここで、バッテリセルとしては、リチウムイオン電池が好適に用いられる。ただし、リチウムイオン電池に代えて、例えば、ニッケル水素電池などの充放電可能な二次電池等を用いることもできる。
【0017】
バッテリ80には、バッテリ80の温度を検出する温度センサ63が取付けられている。温度センサ63は、後述するEV-CU60に接続されており、バッテリ温度に応じた電気信号(電圧値)がEV-CU60で読み込まれる。なお、温度センサ63としては、例えば、温度によって抵抗値が変化するサーミスタが好適に用いられる。
【0018】
電動モータ10の出力軸には、電動モータ10からの駆動力を変換して出力する自動変速機(AT)20(以下、単に「変速機」もいう)が接続されている。自動変速機20としては、例えば、平行に配置された一対の軸それぞれに設けられたギヤ列の組み合わせを、複数のクラッチの締結・解放により選択的に切り替えて有限段数の変速段(本実施形態では2段)を得る平行二軸式の有段自動変速機を用いることができる。
【0019】
より具体的には、自動変速機20は電動モータ10に駆動される入力軸211と、該入力軸211に平行に設けられ駆動輪に連結される出力軸212とを有している。入力軸211には第1速の駆動歯車211aが固定されており、第2速の駆動歯車212aが回転自在に取り付けられている。一方、出力軸212には第1速の従動歯車211bが回転自在に取り付けられており、第2速の従動歯車212bが固定されている。これらの駆動歯車211a、212aと従動歯車211b、212bとはそれぞれに噛み合って変速歯車列つまり変速段を形成する。
【0020】
出力軸212には、第1速の変速段を動力伝達状態と中立状態とに切り換える第1クラッチ22が装着されている。また、入力軸211には、第2速の変速段を動力伝達状態と中立状態とに切り換える第2クラッチ23が装着されている。第1クラッチ22を締結するとともに第2クラッチ23を解放することにより第1速に設定される。また、第2クラッチ23を締結するとともに第1クラッチ22を解放することにより第2速に設定される。すなわち、第1クラッチ22は第1の変速段(変速比)を選択する際に締結され、2クラッチは第2の変速段(変速比)を選択する際に締結される。このように、駆動歯車211a、212a、従動歯車211b、212b、第1クラッチ22、第2クラッチ23は、変速機構21として機能する。
【0021】
ここで、第1の変速段が選択され、第1クラッチ22が締結されているときに、第2クラッチ23の締結力を調節することにより、締結力に応じた制動力が発生する。そして、第2クラッチ23の制動に伴い発生する熱によりオイルがより(通常よりも)昇温される。同様に、第2の変速段が選択され、第2クラッチ23が締結されているときに、第1クラッチ22の締結力を調節することにより、締結力に応じた制動力が発生する。そして、第1クラッチ22の制動に伴い発生する熱によりオイルがより(通常よりも)昇温される。なお、第1クラッチ22、第2クラッチ23の締結、解放、すなわち締結力の調節は、後述するEV-CU60により制御される。
【0022】
変速機20の底部には、変速機構21を構成する駆動歯車211a、212a、従動歯車211b、212b、及び、第1クラッチ22、第2クラッチ23等に供給するオイル(潤滑油)を貯留するオイルパン25が設けられている。第1クラッチ22又は第2クラッチ23に供給されて昇温されたオイルは、一旦、オイルパン25に戻される。
【0023】
また、変速機20内には、オイルパン25から変速機構21(駆動歯車211a、212a、従動歯車211b、212b等)によってかき上げられたオイルを貯留するオイルタンク26が配設されている。オイルタンク26は、断熱性を有する素材からなり、又は、開口部以外が断熱性を有する素材で包まれており、保温性(保温機能)を有している。オイルタンク26は、オイルを数時間程度保温できる(すなわち、オイルパン25よりも長時間保温できる)ようになっている。よって、第1クラッチ22又は第2クラッチ23により昇温されたオイルはオイルタンク26で保温されて貯留される。なお、変速機20のオイル量は、オイルタンク26の容量分、通常の量よりも多く設定されている。
【0024】
オイルタンク26には、オイルタンク26と熱交換器40の入口とを連通する第1油路41が接続されている。第1油路41には、該第1油路41を開閉する第1開閉弁44が介装されている。第1開閉弁44が開弁されることにより、オイルタンク26に貯留されているオイルが熱交換器40に供給される。なお、なお、第1開閉弁44としては、例えば、電磁式のオン・オフ弁を用いることができる。また、第1開閉弁44は、後述するEV-CU60により駆動(開閉)される。
【0025】
ここで、第1油路41の第1開閉弁44の下流側には、オイルポンプ46が設けられている。オイルポンプ46は、オイルを昇圧して吐出する。吐出されたオイルは、熱交換器40に圧送される。なお、オイルポンプ46としては、例えば、電動式のトロコイドポンプ(内接ギヤポンプ)等が用いられる。
【0026】
熱交換器40は、入口がオイルタンク26と連通され、オイルタンク26から供給されるオイル(すなわち、昇温されて保温されているオイル)とバッテリ80との間で熱交換を行い、バッテリ80を昇温する。熱交換器40の出口は、第3油路43を介してオイルパン25と連通されている。よって、熱交換器40に送られたオイルは、熱交換器40において熱交換がなされた後(すなわち、バッテリ80を昇温した後)、第3油路43を通してオイルパン25に戻される。
【0027】
また、オイルタンク26には、オイルタンク26とオイルパン25とを連通する第2油路42が接続されている。第2油路42には、該第2油路42を開閉する第2開閉弁45が介装されている。第2開閉弁45が閉弁されることにより、オイルタンク26に貯留されているオイルが直接的に(すなわち熱交換器40を通ることなく)オイルパン25に戻される。なお、第2開閉弁45としては、例えば、電磁式のオン・オフ弁を用いることができる。また、第2開閉弁45は、EV-CU60により駆動(開閉)される。
【0028】
変速機20の出力軸212の後端部には、ピニオンギヤとリングギヤとからなるファイナルギヤ27を含んで構成されるデファレンシャル28が接続されている。デファレンシャル28は、上述した複数の歯車対(変速機構21)と共に変速機ケースの中に組み込まれている。
【0029】
電動モータ10から出力された駆動力は、変速機20で変換された後、変速機20の出力軸212から、デファレンシャル(以下「デフ」ともいう)28、左右のドライブシャフト29L、29Rを介して車両の車輪(駆動輪)30L、30Rに伝達される。
【0030】
各車輪30L、30R(以下、すべての車輪30L、30Rを総称して車輪30ということもある)それぞれには、車輪30L、30Rを制動するブレーキ31L、31R(以下、すべてのブレーキ31L、31Rを総称してブレーキ31ということもある)が取り付けられている。また、各車輪30L、30Rそれぞれには、車輪回転速度を検出する車輪速センサ32L、32R(以下、すべての車輪速センサ32L、32Rを総称して車輪速センサ32ということもある)が取り付けられている。
【0031】
車輪速センサ32は、車輪30とともに回転するロータ(ギヤロータ、又は磁気ロータ)による磁界の変化を検出する非接触型センサであり、例えば、ロータ回転を磁気ピックアップやホール素子、MR素子などで検出する方式が好適に用いられる。なお、車輪速センサ32は、後述するEV-CU60に接続されている。なお、車輪速センサ32は、後述するVDCU50に接続してもよい。
【0032】
このように構成されているため、本実施形態に係る車両では、電動モータ10により車輪30L,30Rが駆動される。また、制動時などには、電動モータ10で回生することもできる。
【0033】
車両の駆動力源である電動モータ10の駆動、及び、変速機20の変速制御は、EV-CU60によって総合的に制御される。EV-CU60は、CAN(Controller Area Network)100を介して、車両の横滑りなどを抑制して走行安定性を向上させるビークルダイナミクス・コントロールユニット(以下「VDCU」という)50等と相互に通信可能に接続されている。なお、上述した変速機20の制御は、TCU(トランスミッション コントロール ユニット)を設け、該TCUで行う構成としてもよい。
【0034】
EV-CU60及びVDCU50は、演算を行うマイクロプロセッサ、該マイクロプロセッサに各処理を実行させるためのプログラム等を記憶するEEPROM、演算結果などの各種データを記憶するRAM、その記憶内容が保持されるバックアップRAM、及び、入出力I/F等を有して構成されている。
【0035】
VDCU50には、例えば、操舵角センサ36、前後加速度(前後G)センサ55、横加速度(横G)センサ56、ヨーレートセンサ57、及び、ブレーキスイッチ58などが接続されている。前後加速度センサ55は車両に作用する前後方向の加速度を検出し、横加速度センサ56は車両に作用する横方向の加速度を検出する。また、操舵角センサ36は、ピニオンシャフトの回転角を検出することにより、操舵輪である前輪30L、30Rの転舵角(すなわちステアリングホイール35の操舵角)を検出する。ヨーレートセンサ57は車両のヨーレートを検出する。
【0036】
VDCU50は、ブレーキペダルの操作量(踏み込み量)に応じてブレーキアクチュエータを駆動して車両を制動するとともに、車両挙動を各種センサ(例えば車輪速センサ32、操舵角センサ36、前後加速度センサ55、横加速度センサ56、ヨーレートセンサ57等)により検知し、自動加圧によるブレーキ制御とモータトルク制御とにより、横滑りを抑制し、旋回時の車両安定性を確保する。すなわち、VDCU50は、例えば、オーバースピードでコーナーに侵入した際や、急激なハンドル操作などによって車両姿勢(挙動)が乱れた際に、横滑りを防ぎ、優れた走行安定性を確保する。また、VDCU50は、EV-CU60からの車両(車輪30)の制動を要求する制動要求に応じてブレーキアクチュエータを駆動して車両(車輪30)を制動する。
【0037】
VDCU50は、検出した操舵角、前後加速度、横加速度、ヨーレート、及び、制動情報(ブレーキング情報)等を、CAN100を介してEV-CU60に送信する。一方、VDCU50は、EV-CU60からの制動要求情報等を、CAN100を介して受信する。
【0038】
EV-CU60には、例えば、アクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサ61、電動モータ10の回転位置(回転数)を検出するレゾルバ62、及び、上述した車輪30の速度を検出する車輪速センサ32などを含む各種センサが接続されている。また、EV-CU60には、上述した、バッテリ80の温度を検出する温度センサ63が接続されている。さらに、EV-CU60には、オイルの温度(油温)を検出する油温センサ64が接続されており、オイルの温度(油温)に応じた電気信号(電圧値)がEV-CU60で読み込まれる。なお、油温センサ64としては、例えば、温度によって抵抗値が変化するサーミスタが好適に用いられる。
【0039】
また、EV-CU60は、CAN100を介して、VDCU50から、例えば、操舵角、前後加速度、横加速度、ヨーレート、及び、制動情報(ブレーキング情報)等の各種情報を受信する。
【0040】
EV-CU60は、取得したこれらの各種情報に基づいて、電動モータ10の駆動を総合的に制御する。EV-CU60は、例えば、アクセルペダル開度(運転者の要求駆動力)、車両の運転状態(車速等)、バッテリ80の充電状態(SOC)などに基づいて、電動モータ10の目標トルク(トルク指令値)を求めて出力する。また、上述したように、EV-CU60は、第1クラッチ22、第2クラッチ23の締結・解放(締結力の調節)、及び、第1開閉弁44、第2開閉弁45の開閉(開弁、閉弁)を制御する。すなわち、EV-CU60は、特許請求の範囲に記載のコントロールユニットとして機能する。
【0041】
パワーコントロールユニット(以下「PCU」という)70は、上記目標トルク(トルク指令値)に基づいて、インバータ70aを介して、電動モータ10を駆動する。ここで、インバータ70aは、バッテリ80の直流電力を三相交流の電力に変換して、電動モータ10に供給する。一方、インバータ70aは、回生時に、電動モータ10で発電した交流電圧を直流電圧に変換してバッテリ80を充電する。
【0042】
ところで、バッテリ80は、低温になるほど、内部抵抗が増え、充放電特性が低下する傾向(特性)がある。そのため、例えば、外気温が低く、バッテリ80が冷えている状態では充電時間が長くなる。また、高出力を出せなくなる。
【0043】
そこで、バッテリ80の昇温装置を構成するEV-CU60は、電動モータ10に電力を供給するバッテリ80の電力を利用することなく、すなわち電費を悪化させることなく、より効果的にバッテリ80を昇温する機能を有している。そのため、EV-CU60は、バッテリ80の電力を利用することなく、より効果的にバッテリ80を昇温するように、第1クラッチ22、第2クラッチ23の締結、解放(締結力の調節)、及び、第1開閉弁44、第2開閉弁45の開閉を制御する。EV-CU60では、EEPROMなどに記憶されているプログラムがマイクロプロセッサによって実行されることにより当該機能が実現される。
【0044】
ここで、バッテリの昇温装置1(EV-CU60)の動作を説明するための表1(SOCが高く回生できない場合)を
図4に示す。同様に、バッテリの昇温装置1(EV-CU60)の動作を説明するための表2(SOCが低く回生可能な場合)を
図5に示す。より具体的には、
図4及び
図5では、オイル暖機、オイル蓄熱、バッテリ暖機、変速機冷却(オイル冷却)の各状態(モード)における第1、第2クラッチ22、23の締結・解放動作、及び、第1、第2開閉弁45の開閉動作等を示した。そこで、続いて、
図4、
図5を併せて参照しつつ、バッテリの昇温装置1(EV-CU60)の動作について説明する。
【0045】
EV-CU60は、オイルの温度(油温)が第3所定温度未満の場合、すなわち、変速機20を冷却するためにオイルの温度を下げる必要がない場合に、ブレーキペダルの踏み込み量(ブレーキ操作量=制動要求量)に応じて、第1クラッチ22又は第2クラッチ23を締結(締結力を調節)して、制動力を発生させる(すなわち熱を発生させる)ことにより、オイルを昇温する。
【0046】
より具体的には、EV-CU60は、第1の変速段(変速比)が選択され、第1クラッチ22が締結されているときには、ブレーキペダルの踏み込み量に応じて、第2クラッチ23の締結力(油圧)を調節することにより、締結力に応じた制動力を発生する。同様に、EV-CU60は、第2の変速段(変速比)が選択され、第2クラッチ23が締結されているときには、ブレーキペダルの踏み込み量に応じて、第1クラッチ22の締結力(油圧)を調節することにより、締結力に応じた制動力を発生する。これにより、オイルの温度を、例えば、100~120℃程度まで上昇させる。なお、通常の油温は例えば80℃程度である。
【0047】
その際に(制動時に)、EV-CU60は、
図3に示されるように、電動モータ10による回生ブレーキの制動力を考慮して、すなわち、ブレーキペダルの踏み込み量に応じて定まる要求制動力(目標制動力)に対して、回生ブレーキで不足する制動力を補うように、第1クラッチ22又は第2クラッチ23の締結力を調節する(すなわち制動力を発生させる)。そのため、回生動作(回生ブレーキ)が妨げられることなく、車両の運動エネルギが回生(回収)される。
【0048】
ただし、オイルの温度が第3所定値以上で第1クラッチ22又は第2クラッチ23での制動(発熱)ができず、かつ、バッテリ80の充電量(SOC)が充分に高く(すなわちバッテリ80に充電不能で)回生できないときには、EV-CU60は、車輪30に取り付けられたブレーキ31による制動力を増大する(すなわち、VDCU50に対する制動要求量を増やす)(
図4参照)。
【0049】
このようにして第1クラッチ22又は第2クラッチ23の制動に伴う発熱により昇温されたオイルは、オイルパン25から変速機構21によってかき上げられ、変速機20内に配設された保温性を有するオイルタンク26に貯留される。
【0050】
その後、EV-CU60は、(
図4、5に示されるように、)オイルの温度が第2所定温度以上であり、オイルタンク26にオイルが貯留されている状態において、バッテリ80の温度が所定温度未満である場合(所定のバッテリ昇温要求がある場合)に、第1開閉弁44を開弁し、オイルタンク26に貯留されているオイル(昇温され保温されているオイル)を熱交換器40に供給する。そして、オイルとバッテリ80との熱交換により、バッテリ80を昇温する。なお、上記所定温度には、適宜、ヒステリシスを設けることが好ましい。また、上述したように、熱交換器40の出口は第3油路43を介してオイルパン25につながれており、熱交換後のオイルはオイルパン25に戻される。
【0051】
一方、EV-CU60は、オイルの温度(油温)が第2所定温度未満の場合(すなわちオイル暖機時等)に、第1開閉弁44を閉弁するとともに、第2開閉弁45を開弁する。これにより、オイルの暖機が促進される。
【0052】
また、EV-CU60は、バッテリ80の温度が所定温度以上であり、オイルの温度が第3所定温度以上の場合(オイルの冷却が必要なとき)に、第1開閉弁44を閉弁するとともに、第2開閉弁45を開弁する。なお、この場合、熱交換によりオイルの温度を下げるオイルクーラ(図示省略)でオイルを冷却することが好ましい。これにより、オイルの温度が、例えば、100~120℃の範囲に制御される(すなわち、変速機20の構成部品やオイルがダメージを受けない温度範囲に制御される)。よって、変速機20の冷却が妨げられることなく、かつ、変速機20の構成部品やオイルの劣化が防止される。
【0053】
以上、詳細に説明したように、本実施形態によれば、第1の変速段が選択され、第1クラッチ22が締結されているときには、ブレーキペダルの踏み込み量(要求制動力)に応じて、第2クラッチ23の締結力(油圧)が調節されることにより、締結力に応じて制動力が発生され、第2の変速段が選択され、第2クラッチ23が締結されているときには、ブレーキペダルの踏み込み量に応じて、第1クラッチ22の締結力(油圧)が調節されることにより、締結力に応じて制動力が発生される。そのため、第1クラッチ22又は第2クラッチ23で発生する熱によりオイルがより昇温される。そして、第1クラッチ22又は第2クラッチ23の制動に伴う発熱により昇温されたオイルは、オイルパン25から変速機構21によってかき上げられ、変速機20内に配設された保温性を有するオイルタンク26に貯留される。すなわち、車両の運動エネルギを熱エネルギに変換して蓄えることができる。
【0054】
その後、バッテリ80の温度が所定温度未満である場合に、第1開閉弁44が開弁され、オイルタンク26に貯留されているオイルが熱交換器40に供給されることにより、オイルとバッテリ80との間で熱交換が行われ、バッテリ80が昇温される。その結果、電動モータ10に電力を供給するバッテリ80の電力を利用することなく、すなわち、電費を悪化させることなく、より効果的にバッテリ80を昇温(調温)することが可能となる。さらに、その結果、バッテリ80の充電時間の短縮や、高出力を出すことが可能となる。
【0055】
本実施形態によれば、電動モータ10による回生ブレーキの制動力が考慮されて、すなわち、要求制動力(目標制動力)に対して回生ブレーキで不足する制動力を補うように、第1クラッチ22又は第2クラッチ23の締結力が調節される(すなわち制動力が発生される)。そのため、回生動作(回生ブレーキ)を妨げることなく、車両の運動エネルギを回生(回収)することができる。
【0056】
本実施形態によれば、オイルの温度(油温)が第2所定温度未満の場合(すなわちオイル暖機時等)に、第1開閉弁44が閉弁されるとともに、第2開閉弁45が開弁される。そのため、オイルの暖機を促進することができる。また、バッテリ80の温度が所定温度以上であり、かつ、オイルの温度が第3所定温度以上の場合(オイルの冷却が必要なとき)に、第1開閉弁44が閉弁されるとともに、第2開閉弁45が開弁される。そのため、変速機20の冷却を妨げることなく、かつ、オイルの劣化を防止することができる。
【0057】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、本発明を、1モータの電気自動車(BEV)に適用した場合を例にして説明したが、本発明は、例えば、2モータの電気自動車(BEV)や、ハイブリッド車(HEV、P-HEV)、燃料電池自動車(FCV)等にも適用することができる。
【0058】
また、上記実施形態では、本発明を2WD車に適用した場合を例にして説明したが、本発明は、例えばAWD車(全輪駆動車)にも適用することもできる。さらに、変速機20の形式や機構は上記実施形態(2段変速)には限られない。例えば、減速機(1段)や、3段以上の変速機を用いることもできる。
【0059】
また、第1クラッチ22又は第2クラッチ23を利用して制動力を発生させる構成に代えて、例えば、変速機構21の下流に配設されたデファレンシャル28のケースとファイナルギヤ27との間に、該ファイナルギヤ27の回転を制動するブレーキを設け、ブレーキペダルの踏み込み量(要求制動力)に応じて、該ブレーキの締結力を調節することにより、制動力を発生する構成としてもよい。このようにしても、上述した実施形態と同様に、バッテリ80の電力を利用することなく、すなわち、電費を悪化させることなく、より効果的にバッテリ80を昇温することができる。
【0060】
さらに、EV-CU60やVDCU50等のコントローラのシステム構成、及び、各コントローラの機能分担等は上記実施形態に限られない。例えば、上記実施形態では、車輪速センサ32をEV-CU60に接続したが、VDCU50に接続し、CAN100を介してEV-CU60に送信する構成としてもよい。さらに、上記実施形態では、EV-CU60、PCU70、VDCU50それぞれをCAN100で相互に通信可能に接続したが、システムの構成はこのような形態に限られることなく、機能的な要件やコスト等を考慮して、任意に変更(統合等)することができる。例えば、変速機20(第1クラッチ22、第2クラッチ23、第1開閉弁44、第2開閉弁45)を総合的に制御するTCU(トランスミッション コントロール ユニット)を設ける構成としてもよい。
【符号の説明】
【0061】
1 バッテリの昇温装置
10 電動モータ(モータジェネレータ)
20 変速機
21 変速機構
211 入力軸
212 出力軸
211a 駆動歯車
211b 従動歯車
212a 駆動歯車
212b 従動歯車
22 第1クラッチ
23 第2クラッチ
25 オイルパン
26 オイルタンク
27 ファイナルギヤ
28 デファレンシャル
29L、29R ドライブシャフト
30L、30R 車輪
31L、31R ブレーキ
32L、32R 車輪速センサ(車速センサ)
36 操舵角センサ
40 熱交換器
41 第1油路
42 第2油路
43 第3油路
44 第1開閉弁
45 第2開閉弁
46 オイルポンプ
50 VDCU
55 前後加速度センサ
56 横加速度センサ
57 ヨーレートセンサ
58 ブレーキスイッチ
60 EV-CU(コントロールユニット)
61 アクセル開度センサ
62 レゾルバ
63 温度センサ
64 油温センサ
70 PCU
70a インバータ
80 高電圧バッテリ(バッテリ)
100 CAN